(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-13
(45)【発行日】2023-10-23
(54)【発明の名称】節類の製造方法
(51)【国際特許分類】
A23L 17/00 20160101AFI20231016BHJP
A23B 4/00 20060101ALI20231016BHJP
A23L 27/00 20160101ALI20231016BHJP
【FI】
A23L17/00 Z
A23B4/00 505Z
A23L27/00 D
(21)【出願番号】P 2017059398
(22)【出願日】2017-03-24
【審査請求日】2019-10-01
【審判番号】
【審判請求日】2022-04-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000226976
【氏名又は名称】日清食品ホールディングス株式会社
(72)【発明者】
【氏名】藤本 敏幸
(72)【発明者】
【氏名】高岡 敦司
【合議体】
【審判長】淺野 美奈
【審判官】磯貝 香苗
【審判官】植前 充司
(56)【参考文献】
【文献】特開平7-23702(JP,A)
【文献】特開平7-67523(JP,A)
【文献】特開平8-70762(JP,A)
【文献】特開昭49-7463(JP,A)
【文献】特開2004-208579(JP,A)
【文献】日本食品科学工業会誌,2000年,第47巻,第10号,745-751頁
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23B 4/00-5/22
A23L 13/00-17/00 17/10-17/50
23 27/00-27/40 27/60
Google
JSTplus/JMEDplus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも工程1~3を順に実施する節類の製造方法であって、
前記工程1は、細切れにしたかつお100重量部に対して、リパーゼを0.01~0.1重量部、
エンドペプチダーゼを0.005~0.05重量部、エキソペプチダーゼを0.005~0.05重量部加えてから塊状に成型する工程であり、
前記工程2は、塊状に成型したかつおの中心温度が50~70℃に到達するまで煮熟する工程であり、
前記工程3は、煮熟を停止し、かつおの中心温度を40~70℃で15分以上保持する工程であ
る、ことを特徴とする節類の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の方法で得られた節類から出汁を抽出し、該出汁を、塩化ナトリウムを 含む調味料に添加したことを特徴とする減塩調味料の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、節類の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
かつお節、さば節、まぐろ節等の節類は、核酸に由来する旨味成分(イノシン酸等、以下「核酸系旨味成分」という)を多く含んでいるため、出汁の材料として古来より広く製造されている。また、近年では、出汁に塩味増強効果があることが明らかとなってきており、減塩素材としても注目を集めている。節類には、製造工程の違いから脂質が多い「荒節」と脂質が少ない「枯節」が存在するが、脂質は酸化すると酸化臭が生じ、雑味の原因となるため、枯節の方が高品質だとされている。
【0003】
荒節から脂質を低減する手段としては、伝統的に「カビ付け」が用いられている。原料魚を煮熟、焙乾し得られた荒節には脂質が残存しているが、「カビ付け」と水分調整のための「日乾し」を繰り返し行うことで、カビから分泌された酵素(リパーゼ等)が脂質の酸化を抑制したり、脂質自体を分解するため、酸化臭の少ない枯節が得られる。さらに、カビはタンパク質分解酵素(プロテアーゼ、エキソペプチダーゼ等)も分泌するため、タンパク質に由来する旨味成分(グルタミン酸等、以下「アミノ酸系旨味成分」という)が増加する。したがって、枯節は、荒節と比較すると雑味が少なく、且つ旨味も強い出汁原料である。
【0004】
ところが、「カビ付け」による脂質の低減は、カビ付けと日乾しを繰り返し行う必要があるため、生産性が低く、製造に3~6ヶ月かかる。このため、市場に流通する節類のほとんどは荒節である。
【0005】
特許文献1には、生産性を高めるために、原料魚を煮熟した後、焙乾前に、リパーゼを含む酵素液に浸漬することで、節類中の脂質を低減する方法が開示されている(特許文献1)。ところが、脂質をリパーゼで分解させるためには、原料魚を酵素液に長時間浸漬する必要があり、浸漬中に旨味成分が流出してしまう。このため、特許文献1から得られる節類は、脂質は低いものの旨味成分が失われているため、枯節のように雑味が少なく、且つ旨味も強い出汁原料にはなり得なかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、旨味成分を損なうことなく、脂質の酸化に由来する酸化臭を抑制した節類の製造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、原料魚に予め酵素液を加え、その後の煮熟を最低限度に留めることで、旨味成分を損なうことなく、脂質の酸化臭を抑制することができることを見出した。
【0009】
より具体的には、(工程1)原料魚にリパーゼを加え、(工程2)原料魚の中心温度が50~70℃に到達するまで煮熟し、(工程3)煮熟を停止し、原料魚の中心温度を40~70℃で15分以上保持することにより本発明の課題を解決することができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明の完成により、旨味成分を損なうことなく、酸化臭を抑制した節類を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明は、節類の製造方法に関する。ここで、「節類」とは、かつお、さば、いわし等の魚肉を焙乾した食品の総称である。一般的に、「荒節」の水分含有量は25重量%以下、「枯節」の場合は20重量%以下であるが、本発明においては特に制限はない。
【0012】
次に、工程1について説明する。工程1は、原料魚にリパーゼを有する酵素液を加える工程である。煮熟前に酵素を加えて、煮熟工程で酵素反応を進める。
【0013】
原料魚には、特に制限はないが、かつお、さば、まぐろ等を用いることができる。原料魚の形態には特に限定はなく、3枚に卸した左右の身を背側・腹側に分けて、背節、腹節各2本、計4本に分けても良いし、3枚に卸した左右の身から2本に分けても良い。さらに、細切れにした原料魚を、改めて塊状に成形し直してもよい。あまり小さな塊状に成型すると、煮熟、焙乾等で水分が抜けた際に、身が小さくなりすぎる。このため、長さ20cm程度の塊状に成型することが好ましい。
【0014】
本発明においては、原料魚にリパーゼを加えることが必要である。リパーゼは代表的な脂質分解酵素であり、カビ付けにより分泌される酵素の一種でもある。従来はリパーゼ溶液に長時間漬込み、脂質そのものの量を減らすことで酸化臭を抑制する試みがなされていたが、この方法では旨味成分まで流出しまう。
【0015】
そこで、本発明では、リパーゼの酸化臭をマスキングする機能に着目している。リパーゼが脂質の酸化臭を抑制するメカニズムは明確ではないが、短時間の反応でも効果があるため、リパーゼ溶液に漬込む必要はなく、煮熟工程のみでも充分に酸化臭を抑えることが可能である。なお、リパーゼは、直接原料魚に加えても良いが、加工適性などの観点から水に溶いてから原料魚に加えることが好ましい。
【0016】
リパーゼは、原料魚100重量部に対して、0.01重量部以上加えることが好ましい。0.01重量部未満の場合には、煮熟後に酵素の活性が弱すぎるため酸化臭を充分に抑制することができない。一方、リパーゼを過剰に加えても効果が無いため、原料魚100重量部に対して、0.1重量部以上加える必要はない。
【0017】
本発明においては、リパーゼに加えて、プロテアーゼ(「エンドペプチダーゼ」ともいう)および/またはエキソペプチダーゼを加えることが好ましい。いずれもタンパク質分解酵素であるが、前者はタンパク質分子内のペプチド結合を加水分解して低分子のペプチド鎖に分解する酵素、後者はペプチドの末端部分から1つのアミノ酸を切り出す酵素である。
【0018】
ここで、アミノ酸とペプチド鎖について説明すると、アミノ酸は旨味が強く、後に残らない呈味(先味)であるのに対し、ペプチド鎖は、旨味が弱いもののコク味や濃厚感があり、より複雑な呈味を示す(後味)。したがって、アミノ酸とペプチド鎖が併存することにより、先味と後味を共に強化できる。
【0019】
本発明においては、プロテアーゼとエキソペプチダーゼを同時に加えることがより好ましい。両者を同時に用いることで、プロテアーゼはペプチド鎖の数を増加させ、エキソペプチダーゼは増加したペプチド鎖からも順次アミノ酸を切出す。このため、それぞれの酵素を単独で用いた場合より複雑な呈味を実現できる。
【0020】
プロテアーゼ及びエキソペプチダーゼは、原料魚100重量部に対して、それぞれ0.005重量部以上加えることが好ましい。添加量が少なすぎると、煮熟後に酵素の活性が弱くなりすぎて酵素反応が進まず、アミノ酸が充分に生成しない。さらに、プロテアーゼとエキソペプチダーゼの配合比率は8:2~2:8が好ましく、7:3~3:7がより好ましい。この範囲であれば、プロテアーゼとエキソペプチダーゼが相乗的に作用してアミノ酸やペプチド鎖を効率的に生成することができる。
【0021】
本発明においては、細切れした原料魚に、リパーゼと必要に応じてプロテアーゼおよび/またはエキソペプチダーゼとを加えて撹拌し、これを改めて塊状に成型することが好ましい。この工程を経ることで、魚肉と酵素が万遍なく混ざり合うため、以下の工程において酵素反応が速やかに進行する。
【0022】
次に、工程2について説明する。工程2は、原料魚の中心温度が50~70℃に到達するまで煮熟する工程である。煮熟を行うことで、魚の旨味成分であるイノシン酸の減少を防ぐと共に、原料魚に含まれるジメチルアミンやトリメチルアミンが溶出させて生臭さを抑えることができる。
【0023】
ここで、煮熟がイノシン酸の減少を防ぐメカニズムについて説明する。イノシン酸は魚が生きているうちは魚肉内には存在せず、魚が死ぬと筋肉中のATP(アデノシン三リン酸)分解酵素が活性化し、筋肉のエネルギー源であるATPを分解しはじめる。このATP分解過程のある一時期にイノシン酸が生成される。しかし、そのまま放置しておくとイノシン酸の分解がさらに進み、イノシン酸から異味成分のイノシンや臭気成分である尿素まで分解してしまう。このため、煮熟により、ATP分解酵素の活性を弱めて、イノシン酸の減少を防ぐ必要がある。
【0024】
なお、煮熟を行うと、ATP分解酵素と共にリパーゼ、プロテアーゼ及びエキソペプチダーゼの活性も弱まる。しかし、リパーゼに関しては脂質の酸化臭をマスキングできれば充分であり、短時間の反応でも効果あるため、リパーゼの活性が多少低下しても問題にならない。
【0025】
一方、プロテアーゼ及びエキソペプチダーゼについては、活性が弱まり過ぎるとアミノ酸やペプチド鎖が充分に生成されなくなってしまう。このため、至適温度が60℃以上のプロテアーゼ及びエキソペプチダーゼを用いることが好ましい。
【0026】
煮熟の方法には特に制限はないが、煮熟釜にお湯を張り、原料魚が特定の温度になるまで煮熟するのが一般的である。ジメチルアミン等を原料魚から取り除く必要があるため、スチームやマイクロ派による加熱は利用できない。
【0027】
本発明における煮熟温度は75~90℃が好ましく、80~87℃がより好ましい。一般的な煮熟温度は90~99℃であるが、温度が高すぎるとリパーゼなどの酵素が完全に失活してしまい脂質の酸化臭抑制という本発明の目的を達成できない。このため本発明では煮熟温度を90℃以下に抑える必要がある。一方、温度が低すぎると、タンパク質の凝固や、アミンの溶出が進まず煮熟の効果を得られないため、煮熟温度は70℃以上にする必要がある。
【0028】
本発明では、煮熟時における原料魚の中心温度が50~70℃となるように、煮熟条件を調整することが必要である。原料魚の中心温度が50℃未満の場合には、温度が低すぎるため酵素反応が充分に進まず、且つタンパク質が凝固しない。一方、原料魚の中心温度が70℃を超える場合には、酵素が失活してしまうため煮熟以後の工程で酵素反応が進まなくなってしまう。なお、煮熟中の酵素反応を進め、且つ酵素を失活させないという観点から、煮熟時における原料魚の中心温度は55~65℃がより好ましい。
【0029】
なお、本発明における原料魚の「中心」とは、厳密な意味での中心ではなく、原料魚表面から1cm以上内側にある部位を指すものとする。
【0030】
煮熟時間は、60分以下とすることが好ましい。煮熟時間が60分を超えると、酵素の失活や旨味成分の流出がし易くなり、節類の品質が低下する。なお、煮熟温度は、煮熟時における原料魚の中心温度、原料魚の大きさによって左右される。すなわち、煮熟温度が高い場合には、中心温度の上昇が早いため煮熟時間は短くてよいが、煮熟温度が低い場合には、中心温度の上昇が遅いため煮熟時間は長くなる。また、原料魚が大きい場合には、煮熟時間は長くなる傾向がある。
【0031】
原料魚から骨を除去する「骨抜き」は、煮熟後に実施するのが一般的である。煮熟前の骨抜きは、身が骨に結着しているため作業性が悪いが、煮熟後の骨抜きは、タンパクが凝固して身と骨の結着が弱まるため、作業性が良い。なお、原料魚を細切れにして使用する場合には、細切れにする前に骨抜きを行わないと、骨が除去できなくなってしまうため留意が必要である。
【0032】
次に、工程3について説明する。工程3は、煮熟を停止し、原料魚の中心温度を40~70℃で15分以上保持する工程(以下「熟成工程」という)である。本発明では、酵素の失活や旨味成分の流出を防ぐために煮熟時間に制限があるため、煮熟だけでは酵素反応が充分に進行しない。そこで、本発明では、煮熟後、酵素反応を進行させるための熟成工程が必要である。なお、煮熟停止後に湯中でそのまま熟成を行うと旨味成分が流出してしまうため、煮熟釜から取り出してから熟成を行う必要がある。
【0033】
熟成工程では、原料魚の中心温度を40~70℃で保持する必要がある。原料魚の中心温度を40~70℃で保持することで、酵素反応が進行し、脂質の分解と旨味成分の生成を促進することができる。なお、熟成中の酵素反応を進める観点から、原料魚の中心温度は55~65℃がより好ましい。
【0034】
熟成時間は、原料魚に含まれる脂質やタンパク質の量、熟成温度によって変動するが、少なくとも15分以上必要である。熟成時間が短すぎると酵素反応が完了せず、本発明が期待する節類を得ることができない。
【0035】
なお、本発明においては、工程3(熟成)を経た原料魚を「節」と呼び、熟成を経ていない原料魚とは区別するものとする。
【0036】
(後工程)
次に、蒸煮工程について説明する。蒸煮工程とは、節を100℃以上の蒸気で、20分以上加熱する工程である。節を100℃以上の蒸気で、20分以上加熱することで、殺菌すると共に、節中の酵素を失活させることができる。なお、以下に示す焙乾工程でも、殺菌等が実現できるため、蒸煮工程は節類の製造において必須の工程ではない。
【0037】
次に、焙乾工程について説明する。本発明における焙乾工程は、焙乾とあん蒸に分けられる。焙乾とは、煮熟工程又は蒸煮工程を経た節に、ナラ、クヌギ等を燃やして得られた燻煙で乾燥させる工程である。焙乾により、殺菌、フレーバー付与、及び燻煙中のフェノール物質による酸化防止等を実現できる。また、後述するあん蒸工程と組みわせることで、節内部まで乾燥させることができる。
【0038】
一方、あん蒸とは、焙乾後に温度を常温(10~40℃)まで冷却し、節内部の水分が表面に移行するまで休ませる工程である。焙乾工程では、焙乾とあん蒸を繰り返し実施することで、節の内部まで充分に乾燥させることができる。
【0039】
本発明では、上記の方法で得られた節類から出汁を抽出し、該出汁を、塩化ナトリウムを含む調味料に添加することで塩味の増強された減塩調味料を製造することができる。従来から旨味成分が塩味増強剤として機能することは良く知られているが、本発明で得られた節類には、イノシン酸の他にアミノ酸やペプチド鎖が多量に含まれているため、本発明で製造された節類の出汁は塩味増強剤として有用である。
【0040】
なお、出汁を抽出する工程と、該出汁を塩化ナトリウムを含む調味料に添加する工程はそれぞれ実施しても良いし、同時に実施してもよい。例えば、節類から出汁をとり、該出汁を醤油と混合して調味料を製造して良いし、節類を醤油で煮込んで出汁醤油を製造しても良い。
【実施例】
【0041】
以下に本発明の実施例を記載するが本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0042】
(前工程1:原料魚の調整)
重さおよそ4kgのカツオを3枚に卸し、さらに左右の身を背側・腹側に分け、骨抜きを行って原料魚を得た。
【0043】
(前工程2:酵素液の調整)
リパーゼ1重量部を水99重量部に加えてよく撹拌し、酵素液Xを得た。またリパーゼ1重量部、エキソペプチダーゼ0.5重量部およびプロテアーゼ0.5重量部を水98重量部に加えてよく撹拌し、酵素液Yを得た。
【0044】
(工程1)
原料魚(100重量部)の表面に、酵素液X(3重量部)を塗布して原料魚1を得た。同様に、酵素液Xを酵素液Yに変更して原料魚2を得た。
【0045】
一方、原料魚(100重量部)を細切れにし、これに酵素液X(3重量部)を加えてよく撹拌し、長さ20cm程度の塊状に成型して原料魚3を得た。酵素液Xを酵素液Yに変更し、更に酵素液Yの添加量を、原料魚100重量部当り3、1、10重量部に変更して、原料魚4、5、6を得た。
【0046】
【0047】
(実施例1)
原料魚1を煮熟釜(湯温85℃)に投入し、原料魚1の中心温度が57℃になるまで10分間煮熟した。次に、原料魚を煮熟釜から取り出し、60分間熟成した(工程3)。熟成中における原料魚の中心温度は55~60℃であった。次に、100℃で30分間蒸煮し、更に、節の水分含有量が15%以下になるまで、表2示す条件で焙乾、あん蒸を繰り返してかつお節1(実施例1)を得た。
【0048】
【0049】
表3の通り原料魚、煮熟条件、熟成条件、後工程を変更し、かつお節2~8(実施例2~8)を製造した。また、原料魚(細切れにせず、そのまま使用)に酵素液を加えなかったかつお節9(比較例1)、原料魚の中心温度70℃以上で熟成したかつお節10(比較例2)および熟成時間の短いかつお節11(比較例3)を製造し、比較対象とした。
【0050】
かつお節1~11について、かつお節の酸化臭、アミノ酸の増加率、節感について評価を行った。
【0051】
(酸化臭)
比較例1の酸化臭を基準に、熟練したパネラー10名で評価を行った。
○:比較例1と比較して、酸化臭が少なく風味が良いと評価したパネラーが7名以上
△:比較例1と比較して、酸化臭が少なく風味が良いと評価したパネラーが3名以上、6名以下
×:比較例1と比較して、酸化臭が少なく風味が良いと評価したパネラーが2名以下
【0052】
(アミノ酸増加率)
比較例1のアミノ酸総量を基準として、各実施例のアミノ酸増加率を評価した。
◎:アミノ酸総量が3倍以上に増加
○:アミノ酸総量が1.5倍以上、3倍未満
△:アミノ酸総量が1.1倍以上、1.5倍未満
×:アミノ酸総量が1.1倍未満
【0053】
(節感)
本発明では、魚らしい風味を有するかつお節を“節感”と称し、比較例1の節感を基準に、熟練したパネラー10名で評価を行った。なお、節感は、カビ付けを複数回行った本枯れ節では節感が弱く、カビ付けを行わない荒節(花かつお)では節感が強いという特徴がある。このため、節感の強弱は、かつお節の品質の良し悪しとは関連がなく、消費者のニーズに従って節感の調整を行えるかどうかが重要である。
強:比較例1と比較して節感が強い又は同等と感じたパネラーが6名以上
弱:比較例1と比較して節感が強い又は同等と感じたパネラーが5名以下
【0054】
【0055】
原料魚にリパーゼを配合した酵素液を加えることで、酸化臭を抑えることができた(比較例1と、実施例1~8を比較)。原料魚表面にリパーゼを塗布したかつお節よりも、細切れにした原料魚にリパーゼを加えて、改めて成形し直したかつお節の方が酸化臭を抑制することができた(実施例1と実施例3を比較)。
【0056】
原料魚にプロテアーゼ及びおよびエンドペプチダーゼを加えること、アミノ酸の総量が増加することが確認できる(比較例1、実施例1、実施例3と、実施例2、実施例4~8とを比較)。また、プロテアーゼ及びおよびエンドペプチダーゼの配合量としては、原料魚100重量部当り0.015重量部程度が好ましいことがわかる。
【0057】
プロテアーゼ及びおよびエンドペプチダーゼの配合量多い場合や、蒸煮工程を省いた場合には、アミノ酸の総量が増加する一方、節感が弱くなることが確認できた。かつお節の生産方法を使い分けることで、アミノ酸の総量と節感を用途に応じて適宜調整することができることがわかる。
【0058】
(塩味増強効果)
かつお節3(3量部)を濃口醤油(100重量部)に加え、灰汁を取り除きながら95℃で20分煮込んで出汁醤油を製造した。同様の方法で、かつお節4、9についても出汁醤油を製造した。
【0059】
出汁醤油をイオン交換水で20倍希釈し、熟練したパネラー10名による塩味評価を行った。この結果、かつお節3および4を使用した出汁醤油はかつお節9を使用した出汁醤油よりも塩味が強く、特にかつお節3を用いた出汁醤油は塩味増強の効果が顕著であった。