(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-13
(45)【発行日】2023-10-23
(54)【発明の名称】複合グリーンシート、セラミック部材、複合グリーンシートの製造方法及びセラミック部材の製造方法
(51)【国際特許分類】
B28B 1/30 20060101AFI20231016BHJP
B28B 11/02 20060101ALI20231016BHJP
C04B 35/111 20060101ALI20231016BHJP
C04B 37/02 20060101ALI20231016BHJP
H05K 1/03 20060101ALI20231016BHJP
【FI】
B28B1/30 101
B28B11/02
C04B35/111
C04B37/02 C
H05K1/03 610D
H05K1/03 630G
(21)【出願番号】P 2019019124
(22)【出願日】2019-02-05
【審査請求日】2022-01-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000190688
【氏名又は名称】新光電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】堀内 道夫
(72)【発明者】
【氏名】峯村 知剛
【審査官】末松 佳記
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-186905(JP,A)
【文献】特開2003-249755(JP,A)
【文献】特開平07-211509(JP,A)
【文献】特開2006-130724(JP,A)
【文献】特開2006-269826(JP,A)
【文献】国際公開第91/001954(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2009/0117290(US,A1)
【文献】韓国公開特許第10-2007-0059484(KR,A)
【文献】韓国公開特許第10-2009-0002576(KR,A)
【文献】特開2005-096390(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B28B 1/00-1/54
B28B 11/00-19/00
C04B 35/00-35/84
C04B 37/00-37/04
C23C 14/00-14/58
H01C 7/00-7/22
H05K 1/03-1/05
H01L 21/683-21/687
H01G 4/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
グリーンシートと、
前記グリーンシート上に設けられ
た金属
箔と、
を有し、
前記金属
箔は、
前記グリーンシートに接する第1面と、
前記第1面とは反対側の第2面と、
を有し、
前記第2面は外部に露出しており、
前記金属
箔の融点は、焼成によって前記グリーンシートの相対密度が90%以上となる温度より低いことを特徴とする複合グリーンシート。
【請求項2】
前記金属
箔は、アルミニウム又はアルミニウム合金の
箔であることを特徴とする請求項1に記載の複合グリーンシート。
【請求項3】
前記アルミニウム合金は、Al-Cu系合金、Al-Zn-Mg系合金、Al-Zn-Mg-Cu系合金、Al-Si系合金、Al-Mg系合金、Al-Mg-Si系合金又はAl-Mn系合金であることを特徴とする請求項2に記載の複合グリーンシート。
【請求項4】
前記金属
箔は、銅又は銅合金の
箔であることを特徴とする請求項1に記載の複合グリーンシート。
【請求項5】
前記銅合金は、Cu-Ni系合金、Cu-Zn系合金、Cu-Zn-Ni系合金、Cu-Mn-Ni系合金又はCu-Sn系合金であることを特徴とする請求項4に記載の複合グリーンシート。
【請求項6】
前記グリーンシートを構成するセラミックのうち96質量%以上が酸化アルミニウムであることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載の複合グリーンシート。
【請求項7】
セラミックの焼結体と、
前記焼結体内に設けられた
金属の箔の溶融及び凝固により形成された導電部材と、
を有し、
前記金属は、アルミニウム又はアルミニウム合金であり、
前記焼結体に前記導電部材まで達する孔が形成されており、
前記焼結体の相対密度は90%以上であることを特徴とするセラミック部材。
【請求項8】
セラミックの焼結体と、
前記焼結体内に設けられた
金属の箔の溶融及び凝固により形成された導電部材と、
を有し、
前記金属は、銅又は銅合金であり、
前記焼結体に前記導電部材まで達する孔が形成されており、
前記焼結体の相対密度は90%以上であることを特徴とするセラミック部材。
【請求項9】
前記孔が形成された部分を除き、前記導電部材の全体が前記焼結体により覆われていることを特徴とする請求項
7又は8に記載のセラミック部材。
【請求項10】
前記セラミックのうち96質量%以上が酸化アルミニウムであることを特徴とする請求項7乃至
9のいずれか1項に記載のセラミック部材。
【請求項11】
セラミックの焼結体と、
前記焼結体内に設けられた金属の箔の溶融及び凝固により形成された導電部材と、
を有し、
前記金属は、アルミニウム又はアルミニウム合金であり、
前記セラミックのうち96質量%以上が酸化アルミニウムであ
り、
前記焼結体の相対密度は90%以上であることを特徴とするセラミック部材。
【請求項12】
セラミックの焼結体と、
前記焼結体内に設けられた金属の箔の溶融及び凝固により形成された導電部材と、
を有し、
前記金属は、銅又は銅合金であり、
前記セラミックのうち96質量%以上が酸化アルミニウムであり、
前記焼結体の相対密度は90%以上であることを特徴とするセラミック部材。
【請求項13】
金属
箔上にセラミックのスラリーを塗布する工程と、
前記スラリーを乾燥させてグリーンシートを形成する工程と、
を有し、
前記金属
箔の融点は、焼成によって前記グリーンシートの相対密度が90%以上となる温度より低いことを特徴とする複合グリーンシートの製造方法。
【請求項14】
請求項1乃至6のいずれか1項に記載の複合グリーンシートにおいて、前記金属
箔のパターニングを行う工程と、
前記複合グリーンシートの前記グリーンシートと第2のグリーンシートとで前記金属
箔を挟み込む工程と、
前記金属
箔の融点以上の温度で前記グリーンシート及び前記第2のグリーンシートの焼成を行ってセラミックの焼結体を得る工程と、
を有し、
前記第2のグリーンシートの前記金属
箔と接する面の一部に空隙が設けられていることを特徴とするセラミック部材の製造方法。
【請求項15】
前記焼成を酸化性雰囲気中で行うことを特徴とする請求項1
4に記載のセラミック部材の製造方法。
【請求項16】
前記焼成を大気雰囲気中で行うことを特徴とする請求項1
5に記載のセラミック部材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複合グリーンシート、セラミック部材、複合グリーンシートの製造方法及びセラミック部材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
静電チャック、配線基板及び圧電アクチュエータ等のセラミック部材の製造に、セラミックのグリーンシートを用いることがある。セラミック部材の製造においては、先ず、セラミックを焼成する温度より高い融点を有する金属の粉末をペースト化して、セラミックのグリーンシートの表面に塗布する。このようなグリーンシートを複数準備し、これらを互いに積層し、還元雰囲気中で焼成する。このようにして、セラミック部材を製造することができる。このような方法は、特許文献1~4等に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2007-294795号公報
【文献】特開2002-373862号公報
【文献】特開2002-43481号公報
【文献】特開2000-188453号公報
【文献】特開2016-141572号公報
【文献】特開2009-203097号公報
【文献】特開2008-47604号公報
【文献】特開2007-227477号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記のような方法で製造されるセラミック部材においては、金属粉末の焼結体から構成される導電部材の厚さにばらつきが生じやすい。
【0005】
本発明は、導電部材の厚さのばらつきを抑制することができる複合グリーンシート、セラミック部材、複合グリーンシートの製造方法及びセラミック部材の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一形態によれば、グリーンシートと、前記グリーンシート上に設けられた金属箔と、を有し、前記金属箔は、前記グリーンシートに接する第1面と、前記第1面とは反対側の第2面と、を有し、前記第2面は外部に露出しており、前記金属箔の融点は、焼成によって前記グリーンシートの相対密度が90%以上となる温度より低い複合グリーンシートが提供される。
【発明の効果】
【0007】
開示の技術によれば、導電部材の厚さのばらつきを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】第1の実施形態に係る複合グリーンシートを示す図である。
【
図2】第1の実施形態に係る複合グリーンシートの製造方法を示す図である。
【
図3】第2の実施形態に係るセラミック部材を示す図である。
【
図4】第2の実施形態に係るセラミック部材の製造方法を示す平面図(その1)である。
【
図5】第2の実施形態に係るセラミック部材の製造方法を示す平面図(その2)である。
【
図6】第2の実施形態に係るセラミック部材の製造方法を示す平面図(その3)である。
【
図7】第2の実施形態に係るセラミック部材の製造方法を示す断面図(その1)である。
【
図8】第2の実施形態に係るセラミック部材の製造方法を示す断面図(その2)である。
【
図9】第2の実施形態に関する実験でのセラミック部材の製造方法を示す平面図(その1)である。
【
図10】第2の実施形態に関する実験でのセラミック部材の製造方法を示す平面図(その2)である。
【
図11】第2の実施形態に関する実験でのセラミック部材の製造方法を示す断面図(その1)である。
【
図12】第2の実施形態に関する実験でのセラミック部材の製造方法を示す断面図(その2)である。
【
図13】第3の実施形態に係る静電チャックを示す断面図である。
【
図14】第4の実施形態に係るインダクタを示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、実施形態について添付の図面を参照しながら具体的に説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複した説明を省くことがある。
【0010】
(第1の実施形態)
先ず、第1の実施形態について説明する。第1の実施形態は複合グリーンシートに関する。
図1は、第1の実施形態に係る複合グリーンシートを示す図である。
図1(a)は平面図であり、
図1(b)は
図1(a)中のI-I線に沿った断面図である。
【0011】
図1(a)及び
図1(b)に示すように、第1の実施形態に係る複合グリーンシート30は、グリーンシート31と、グリーンシート31上に設けられたバルク状の金属膜32と、を有する。
【0012】
複合グリーンシート30がバルク状の金属膜32を含んでいるため、金属粉末のペーストを塗布せずに、複合グリーンシート30をセラミック部材の製造に用いることができる。金属粉末のペーストを用いる場合、ペーストを均一な厚さで塗布することは困難である。また、焼成中にペースト中の有機成分が除去されるため、導電部材の嵩は塗布されたペーストの嵩よりも小さくなる。これらの要因で金属粉末のペーストから構成した焼結金属からなる導電部材の厚さにばらつきが生じやすい。これに対し、厚さのばらつきが小さいバルク状の金属膜32は容易に入手できる。このため、複合グリーンシート30を用いることで、セラミック部材中の導電部材の厚さのばらつきを抑制することができる。
【0013】
また、焼結金属は焼成中に介在物を取り込むが、バルク状の金属膜32は溶融及び凝固の際に介在物を取り込みにくい。このため、複合グリーンシート30を用いることで、介在物の混入に伴う電気抵抗率の上昇及び熱伝導率の低減を避けることができる。
【0014】
更に、複合グリーンシート30は可撓性を有しており、また、容易に切断することができるため、種々の用途に用いることができ、汎用性が高い。
【0015】
複合グリーンシート30は、例えばドクターブレード法により製造することができる。ここで、ドクターブレード法による複合グリーンシート30の製造方法について説明する。
図2は、第1の実施形態に係る複合グリーンシート30の製造方法を示す図である。
【0016】
この製造方法では、フィルムロール51に金属膜32をキャリアフィルムとして巻き付けておき、フィルムロール51から金属膜32を巻き解きながらブレード52の下方を一定の速度で通過させる。ブレード52の、金属膜32の進行方向後方に側板53が設けられており、ブレード52と側板53との間にグリーンシート31の原料のスラリー50を供給する。スラリー50はブレード52と側板53との間の隙間から金属膜32上に塗布される。その後、金属膜32上に塗布されたスラリー50を乾燥機55により乾燥する。乾燥後のスラリー50がグリーンシート31となる。グリーンシート31は可撓性を備えており、排出側のロールに巻き取ることができる。スラリー50の乾燥は自然乾燥としてもよい。
【0017】
このようにして、複合グリーンシート30を製造することができる。複合グリーンシート30は、用途に応じた形状に切断してもよい。
【0018】
スラリー50の組成は限定されない。例えば、スラリー50は、セラミックの粉末、成形用有機成分及び有機溶剤を含む。セラミックの例として、例えば、アルミナ、タルク、珪石及び炭酸カルシウムが挙げられる。成形用有機成分は、例えば、ポリビニルブチラール等のバインダー成分、及びフタル酸ジブチル等の可塑剤成分等を含む。
【0019】
金属膜32の材料は限定されない。金属膜32の融点は、焼成によってグリーンシート31の相対密度が90%以上となる温度より低いことが好ましい。相対密度が90%以上となれば、十分なセラミックの焼結体が得られる。金属膜32の融点がこのような温度より低ければ、十分な焼結体を得る過程で、金属膜32の溶融及び凝固が生じる。このため、溶融金属が濡れ広がる範囲を制限しておくことで、所望の形状の導電材料を含むセラミック部材を製造することができる。
【0020】
金属膜32は、例えば、アルミニウム若しくはアルミニウム合金の箔又は銅若しくは銅合金の箔である。アルミニウム合金の例として、Al-Cu系合金、Al-Zn-Mg系合金、Al-Zn-Mg-Cu系合金、Al-Si系合金、Al-Mg系合金、Al-Mg-Si系合金及びAl-Mn系合金が挙げられる。銅合金の例として、Cu-Ni系合金、Cu-Zn系合金、Cu-Zn-Ni系合金、Cu-Mn-Ni系合金及びCu-Sn系合金が挙げられる。アルミニウム合金及び銅合金が用いられる場合、金属膜32は、例えば抵抗素子に用いることができる。
【0021】
(第2の実施形態)
次に、第2の実施形態について説明する。第2の実施形態はセラミック部材に関する。
図3は、第2の実施形態に係るセラミック部材を示す図である。
図3(a)は平面図であり、
図3(b)は
図3(a)中のI-I線に沿った断面図であり、
図3(c)は
図3(a)中のII-II線に沿った断面図である。
【0022】
図3(a)~
図3(c)に示すように、第2の実施形態に係るセラミック部材100は、セラミックの焼結体110と、焼結体110内に設けられたバルク状の金属の導電部材111と、を有する。焼結体110に、導電部材111に到達する孔102Aが形成されていてもよい。バルク状の金属は、例えば、アルミニウム、アルミニウム合金、銅又は銅合金である。
【0023】
このように構成されたセラミック部材100では、導電部材111の電気抵抗率を、タングステン又はモリブデンの粉末のペーストを用いて形成された導電部材の電気抵抗率よりも低くすることができる。また、導電部材111の熱伝導率を、タングステン又はモリブデンの粉末のペーストを用いて形成された導電部材の熱伝導率よりも高くすることができる。例えば、タングステンの電気抵抗率は52.8nΩmであり、熱伝導率は173W/(mK)であるのに対し、アルミニウムの電気抵抗率は28.2nΩmであり、熱伝導率は237W/(mK)である。また、銅の電気抵抗率は16.8nΩmであり、熱伝導率は401W/(mK)である。
【0024】
更に、後述の方法によれば、セラミック部材100は長時間の脱脂及び焼成を行わずに製造することができ、コストの増加を抑制することができる。
【0025】
焼結体110の相対密度は、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上である。焼結体110の相対密度が90%未満では、連続気孔が形成される確率が高くなり、導電部材111の材料のペネトレーションや気化損失が生じやすくなる。
【0026】
焼結体110は導電部材111の材料との化学的反応が進みにくい材料から構成されていることが好ましい。例えば、導電部材111にアルミニウム又はアルミニウム合金が用いられる場合、焼結体110は、96質量%以上の酸化アルミニウム(Al2O3)を含んでいることが好ましく、99質量%以上の酸化アルミニウムを含んでいることがより好ましい。酸化シリコン(SiO2)、酸化マグネシウム(MgO)及び酸化カルシウム(CaO)は、酸化アルミニウムよりも、アルミニウム又はアルミニウム合金と化学的反応が生じやすい。従って、酸化シリコン、酸化マグネシウム及び酸化カルシウムの総量は焼結体110の4質量%以下であることが好ましく、1質量%以下であることがより好ましい。
【0027】
銅又は銅合金は、アルミニウム又はアルミニウム合金と比べてセラミックと反応しにくい。このため、導電部材111に銅又は銅合金が用いられる場合、アルミニウム又はアルミニウム合金が用いられる場合と比べて、焼結体110が、酸化シリコン、酸化マグネシウム及び酸化カルシウムを多く含有していてもよい。
【0028】
次に、第2の実施形態に係るセラミック部材100の製造方法について説明する。
図4~
図6は、第2の実施形態に係るセラミック部材の製造方法を示す平面図であり、
図7~
図8は、第2の実施形態に係るセラミック部材の製造方法を示す断面図である。
図7~
図8は、
図4~
図6中のI-I線に沿った断面図に相当する。
【0029】
先ず、第1の実施形態に係る複合グリーンシート30を製造する。例えば、金属膜32としてアルミニウム又はアルミニウム合金の箔を用い、スラリー50のセラミックとしてアルミナを用いる。次いで、
図4(a)及び
図7(a)に示すように、複合グリーンシート30を、例えば4枚のセラミック部材100が取れる大きさ及び形状に打ち抜く。つまり、打ち抜き後の複合グリーンシート30は、セラミック部材100に対応する構造体が形成される4つの領域を有している。これらの領域は、後に切断線151に沿った切断により分割される。後述の第2のグリーンシート102及び第3のグリーンシート103についても同様である。その後、金属膜32の導電部材111を形成する領域上にマスクを形成し、金属膜32のエッチングを行う。続いて、マスクを除去する。これらの一連の処理により、グリーンシート31から第1のグリーンシート101が得られ、金属膜32から金属膜111Aが得られる。
【0030】
その後、
図4(b)及び
図7(b)に示すように、金属膜111Aに到達する孔102Aが形成された第2のグリーンシート102を第1のグリーンシート101上に設ける。
【0031】
続いて、
図5(a)及び
図7(c)に示すように、第3のグリーンシート103を第2のグリーンシート102上に設ける。第3のグリーンシート103により孔102Aが塞がれる。本実施形態では、第2のグリーンシート102と第3のグリーンシート103との積層体が、請求項における第2のグリーンシートの一例であり、孔102Aが空隙の一例である。この空隙が閉塞されるように複合グリーンシートのグリーンシート及び第2のグリーンシートが互いに積層される。
【0032】
次いで、
図5(b)及び
図8(a)に示すように、加熱及び加圧により第1のグリーンシート101、第2のグリーンシート102及び第3のグリーンシート103を一体化する。その後、焼成を行うことにより、焼結体110を得る。この焼成の際に、金属膜111Aが溶融、凝固して導電部材111が得られる。
【0033】
焼成によって第1のグリーンシート101、第2のグリーンシート102及び第3のグリーンシート103が略等方的に緻密化するため、焼結体110の体積は第1のグリーンシート101、第2のグリーンシート102及び第3のグリーンシート103の総体積よりも小さくなる。その一方で、導電部材111の体積はバルク状の金属膜111Aの体積と同等である。本実施形態では、第2のグリーンシート102に孔102Aが形成されており、金属膜111Aが溶融している間に、焼結体110の収縮が完了する。従って、溶融金属の一部が孔102Aに入り込んで凝固する。この結果、焼結体110の収縮に伴う内部応力の発生を避けることができる。
【0034】
焼成の後、
図6(a)及び
図8(b)に示すように、焼結体110の研削及び研磨を行うことで、孔102Aを露出させる。
【0035】
次いで、
図6(b)及び
図8(c)に示すように、切断線151に沿って焼結体110を切断し、個片化する。
【0036】
このようにして、第2の実施形態に係るセラミック部材100を製造することができる。
【0037】
この製造方法によれば、一体化した第1のグリーンシート101、第2のグリーンシート102及び第3のグリーンシート103の焼成の際に、金属膜111Aから導電部材111を得ることができる。つまり、長時間の脱脂及び焼成等の、導電部材111を得るための特別な処理は必要とされない。このため、製造コストの増加を抑制することができる。また、第2のグリーンシート102に孔102Aが形成されているため、焼成に伴うセラミックの体積収縮が生じても内部応力の発生を避けることができる。
【0038】
更に、従来の金属粉末のペーストを用いる方法では、導電部材に介在物が混入するが、この製造方法では、バルク状の金属膜111Aを用いることができるため、介在物の混入に伴う電気抵抗率の上昇及び熱伝導率の低減を避けることができる。
【0039】
金属膜111Aにアルミニウム又はアルミニウム合金の膜を用いる場合、第1のグリーンシート101、第2のグリーンシート102及び第3のグリーンシート103のそれぞれについて、グリーンシートを構成するセラミックのうち酸化アルミニウムの割合は、好ましくは96質量%以上であり、より好ましくは99質量%以上である。セラミックとアルミニウム又はアルミニウム合金との化学的反応を抑制するためである。
【0040】
銅又は銅合金は、アルミニウム又はアルミニウム合金と比べてセラミックと反応しにくい。このため、金属膜32に銅又は銅合金の膜を用いる場合、アルミニウム又はアルミニウム合金の膜を用いる場合と比べて、グリーンシートを構成するセラミックが、酸化シリコン、酸化マグネシウム及び酸化カルシウムを多く含有していてもよい。
【0041】
焼結体110を得る焼成の温度は金属膜111Aの融点以上であればよく、例えば700℃以上であることが好ましい。第1のグリーンシート101、第2のグリーンシート102及び第3のグリーンシート103の材料にもよるが、焼成温度は1300℃以上であることが好ましい。また、焼成温度が1600℃超では、溶融金属とセラミックとの間で化学的反応が生じやすくなる。このため、焼成温度は1600℃以下であることが好ましい。
【0042】
焼結体110を得る焼成の雰囲気は大気雰囲気等の酸化性雰囲気であることが好ましい。固体のアルミニウム又はアルミニウム合金の表面には不動態膜ともよばれる緻密な酸化膜が形成されている。ところが、アルミニウム又はアルミニウム合金が融点以上に加熱されると、アルミニウム又はアルミニウム合金の溶融に伴って酸化膜が破れ、真空雰囲気中又は還元性雰囲気中では、温度の上昇に伴って溶融金属の蒸発が進む。特に、1200℃以上では蒸気圧上昇が大きく、蒸発損失が大きい。これに対し、大気雰囲気等の酸化性雰囲気中では、酸化膜が破れても、速やかに新たな酸化膜が形成される。このため、アルミニウム又はアルミニウム合金の蒸発損失を抑制することができる。
【0043】
本実施形態では、このような酸化膜の破壊及び再形成は、主として金属膜111Aの孔102Aに露出する部分で生じ得る。酸化膜の破壊及び再形成が生じる範囲が広いほど金属の酸化損失が増加するが、本実施形態では、酸化膜の破壊及び再形成が生じる範囲が限定的であるため、アルミニウム又はアルミニウム合金の酸化損失を抑制することもできる。
【0044】
焼成を大気雰囲気で行うことで、第1のグリーンシート101、第2のグリーンシート102及び第3のグリーンシート103に含まれる有機成分を速やかに除去することができる。有機成分の除去により、残留カーボンのセラミック特性への影響を抑制することができる。また、大気雰囲気での焼成には、水素、窒素、アンモニア分解ガス等の雰囲気制御ガスが不要である。更に、大気雰囲気には、真空雰囲気及び還元性雰囲気よりも管理が容易であり、設備コストが低いという利点もある。
【0045】
第1のグリーンシート101、第2のグリーンシート102及び第3のグリーンシート103の積層体から得られるセラミック部材100の数は4に限定されない。例えば、第1のグリーンシート101、第2のグリーンシート102及び第3のグリーンシート103の積層体を切断せずに、1つのセラミック部材100を製造してもよい。
【0046】
最終製品のセラミック部材100において孔102Aが露出している必要はなく、セラミック部材100のユーザにて導電部材111との導通経路を形成するようにしてもよい。導電部材111との間の静電容量を用いた通信を行ってもよい。また、孔102Aが導電材料又はセラミック材料等により埋められていてもよい。
【0047】
ここで、本発明者らが行った第2の実施形態に関する実験について説明する。
図9~
図10は、第2の実施形態に関する実験でのセラミック部材の製造方法を示す平面図である。
図11~
図12は、第2の実施形態に関する実験でのセラミック部材の製造方法を示す断面図である。
図11~
図12は、
図9~
図10中のI-I線に沿った断面図に相当する。
【0048】
この実験では、先ず、複合グリーンシート30の製造方法に準じて、第1のグリーンシート1とその上のアルミニウム箔とを有する複合グリーンシートを製造した。アルミニウム箔の厚さは約12μmである。第1のグリーンシート1の原料のスラリーとしては、平均粒径が1μm以下のアルミナ粉末と、ポリビニルブチラールと、フタル酸ジブチルと、2-プロパノールと、酢酸エチルとをボールミルにて混合したスラリーを用いた。第1のグリーンシート1の厚さは約0.5mmである。次いで、アルミニウム箔の一部上にマスクを形成し、塩化第二鉄を主成分とするエッチング液を用いてアルミニウム箔のエッチングを行った。続いて、マスクを除去した。これらの一連の処理により、平面形状が30mm×10mmの矩形のアルミニウム箔11Aを第1のグリーンシート1上に残存させた。
【0049】
その後、
図9(b)及び
図11(b)に示すように、アルミニウム箔11Aに到達する孔2Aが2箇所に形成された第2のグリーンシート2を第1のグリーンシート1上に設けた。孔の直径は3mmである。
【0050】
続いて、
図10(a)及び
図11(c)に示すように、第3のグリーンシート3を第2のグリーンシート2上に設け、第3のグリーンシート3により孔2Aを塞いだ。
【0051】
次いで、
図12(a)に示すように、加熱及び加圧により第1のグリーンシート1、第2のグリーンシート2及び第3のグリーンシート3を一体化し、その後、大気雰囲気中で、約1500℃にて焼成を行うことにより、焼結体10を得た。この焼成の際に、アルミニウム箔11Aが溶融、凝固して導電部材11が得られた。
【0052】
続いて、
図10(b)及び
図12(b)に示すように、焼結体10の研削及び研磨を行うことで、孔2Aを露出させた。
【0053】
そして、接触抵抗を含む二端子式の簡易抵抗テスタを用いて、導電部材11の電気抵抗を測定した。導電部材11の電気抵抗は0.3mΩと十分に低かった。
【0054】
なお、アルミニウム箔のエッチング液の成分は限定されず、アルミニウム箔のエッチングに、種々のアルカリ系エッチング液又は酸系エッチング液を用いることができる。例えば、市販のアルミニウムエッチング液及び化学研磨液を用いることができる。アルミニウム合金、銅又は銅合金の箔を用いる場合のエッチング液の成分も限定されない。
【0055】
(第3の実施形態)
次に、第3の実施形態について説明する。第3の実施形態はセラミック部材を含む静電チャックに関する。
図13は、第3の実施形態に係る静電チャックを示す断面図である。
【0056】
図13に示すように、第3の実施形態に係る静電チャック200は、セラミックの焼結体210と、焼結体210内に設けられたバルク状の金属からなる静電電極220と、焼結体210内に設けられたバルク状の金属からなる静電電極230と、を有する。焼結体210の一方の面210Aに、静電電極220に到達する孔202Aと、静電電極230に到達する孔203Aと、が形成されている。孔202A内に静電電極220に接続されたビア導体221が設けられ、孔203A内に静電電極230に接続されたビア導体231が設けられている。バルク状の金属は、例えば、アルミニウム、アルミニウム合金、銅又は銅合金である。
【0057】
このように構成された静電チャック200では、ビア導体221及び231を通じて、静電電極220又は230の一方に正の電圧が印加され、他方に負の電圧が印加される。この結果、孔202A及び203Aが形成された面210Aとは反対側の面210Bが帯電し、この面210B上に半導体ウェハ等の対象物が吸着される。
【0058】
静電チャック200では、静電電極220及び230の電気抵抗率を、タングステン又はモリブデンの粉末のペーストを用いて形成された静電電極の電気抵抗率よりも低くすることができる。また、静電電極220及び230の熱伝導率を、タングステン又はモリブデンの粉末のペーストを用いて形成された導電部材の熱伝導率よりも高くすることができる。更に、静電電極220及び230の厚さのばらつきを抑制することができる。
【0059】
更に、セラミック部材100と同様に、静電チャック200は長時間の脱脂及び焼成を行わずに製造することができ、コストの増加を抑制することができる。
【0060】
焼結体210の相対密度は、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上である。焼結体210の相対密度が90%未満では、連続気孔が形成される確率が高くなり、静電電極220及び230の材料のペネトレーションや気化損失が生じやすくなる。
【0061】
焼結体210は静電電極220及び230を構成する金属との化学的反応が進みにくい材料から構成されていることが好ましい。例えば、静電電極220及び230にアルミニウム又はアルミニウム合金が用いられる場合、焼結体210は、96質量%以上の酸化アルミニウムを含んでいることが好ましく、99質量%以上の酸化アルミニウムを含んでいることがより好ましい。
【0062】
静電チャック200の製造に当たっては、例えば、セラミック部材100の製造方法に倣う方法により、孔202A及び203Aを露出させる焼結体210の研削及び研磨までの処理を行い、その後に、孔202A内にビア導体221を形成し、孔203A内にビア導体231を形成することができる。
【0063】
孔202A及び203Aのサイズによっては、セラミックの体積収縮で孔202A及び203Aに入り込んで凝固した金属をビア導体221及び231として用いることもできる。
【0064】
(第4の実施形態)
次に、第4の実施形態について説明する。第4の実施形態はセラミック部材を含むインダクタに関する。
図14は、第4の実施形態に係るインダクタを示す平面図である。
【0065】
図14に示すように、第4の実施形態に係るインダクタ300は、セラミックの焼結体310と、焼結体310内に設けられたバルク状の金属からなる導電部材311と、を有する。導電部材311の平面形状は螺旋状となっている。焼結体310の一方の面に、導電部材311の一端に到達する孔302Aと、導電部材311の他端に到達する孔302Bと、が形成されている。バルク状の金属は、例えば、アルミニウム、アルミニウム合金、銅又は銅合金である。
【0066】
このように構成されたインダクタ300は、孔302A及び302Bを通じて外部の回路に電気的に接続することができる。
【0067】
インダクタ300では、導電部材311の電気抵抗率を、タングステン又はモリブデンの粉末のペーストを用いて形成された静電電極の電気抵抗率よりも低くすることができる。また、導電部材311の熱伝導率を、タングステン又はモリブデンの粉末のペーストを用いて形成された導電部材の熱伝導率よりも高くすることができる。更に、導電部材311の厚さのばらつきを抑制することができる。
【0068】
更に、セラミック部材100と同様に、インダクタ300は長時間の脱脂及び焼成を行わずに製造することができ、コストの増加を抑制することができる。
【0069】
焼結体310の相対密度は、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上である。焼結体310の相対密度が90%未満では、連続気孔が形成される確率が高くなり、導電部材311の材料のペネトレーションや気化損失が生じやすくなる。
【0070】
焼結体310は導電部材311を構成する金属との化学的反応が進みにくい材料から構成されていることが好ましい。例えば、導電部材311にアルミニウム又はアルミニウム合金が用いられる場合、焼結体210は、96質量%以上の酸化アルミニウムを含んでいることが好ましく、99質量%以上の酸化アルミニウムを含んでいることがより好ましい。
【0071】
インダクタ300の製造に当たっては、例えば、セラミック部材100の製造方法に倣う方法により、孔302A及び302Bを露出させる焼結体310の研削及び研磨までの処理を行うことができる。
【0072】
以上、好ましい実施の形態等について詳説したが、上述した実施の形態等に制限されることはなく、特許請求の範囲に記載された範囲を逸脱することなく、上述した実施の形態等に種々の変形及び置換を加えることができる。
【0073】
例えば、第3の実施形態では、セラミック部材を静電チャックに応用し、第三の実施形態では、セラミック部材をインダクタに応用しているが、セラミック部材の用途は限定されない。例えば、セラミック部材をパワー半導体装置等の実装基板に用いてもよい。
【符号の説明】
【0074】
1、101 第1のグリーンシート
2、102 第2のグリーンシート
2A、102A 孔
3、103 第3のグリーンシート
10、110 焼結体
11、111 導電部材
11A アルミニウム箔
111A 金属膜
30 複合グリーンシート
31 グリーンシート
32 金属膜
50 スラリー
52 ブレード
55 乾燥機
200 静電チャック
300 インダクタ