(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-13
(45)【発行日】2023-10-23
(54)【発明の名称】光走査装置
(51)【国際特許分類】
G02B 26/10 20060101AFI20231016BHJP
G02B 5/18 20060101ALI20231016BHJP
【FI】
G02B26/10 104Z
G02B5/18
(21)【出願番号】P 2021567713
(86)(22)【出願日】2020-12-25
(86)【国際出願番号】 JP2020048962
(87)【国際公開番号】W WO2021132646
(87)【国際公開日】2021-07-01
【審査請求日】2022-06-21
(31)【優先権主張番号】P 2019236320
(32)【優先日】2019-12-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】306037311
【氏名又は名称】富士フイルム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100152984
【氏名又は名称】伊東 秀明
(74)【代理人】
【識別番号】100148080
【氏名又は名称】三橋 史生
(72)【発明者】
【氏名】齊藤 之人
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 寛
【審査官】鈴木 俊光
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/189675(WO,A1)
【文献】特開2000-002847(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2008/0292358(US,A1)
【文献】特開2002-116314(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 26/08 - 26/12
G02B 5/18
G02B 5/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
光源と、
光偏向器と、回折素子と、を備えた光走査装置であって、
前記
回折素子は、
支持体と、
前記支持体に支持される、液晶組成物の硬化層である光学異方性層とを含み、
前記液晶組成物に含まれる液晶化合物の光学軸が、前記光学異方性層の面に平行であり、かつ、前記光学異方性層が、該光学異方性層の面内の少なくとも一方向に沿って配列された液晶配向パターンであって、前記液晶化合物の光学軸の向きが、連続的に回転変化した液晶配向パターンを有しており、
前記支持体が、以下の条件式(1)を満足することを特徴とする光走査装置。
(1)|dλ/(dt×λ0)-α|<2×10
-4
ここで、
λ0:25℃における光源の中心波長(nm)
dλ:温度上昇(室温25℃→65℃)による光源の中心波長の増分(nm)
dt:温度の増分(℃:室温25℃→65℃)
α:支持体の線膨張係数(1/℃)
【請求項2】
前記光学異方性層は、前記液晶化合物の前記光学軸の向きが0.1~5μmの周期で180°回転している、請求項1に記載の光走査装置。
【請求項3】
前記回折素子は、前記光学異方性層を複数
有する、請求項1または2に記載の光走査装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、LiDAR等に代表されるビームステアリング型3DセンシングデバイスおよびARグラスの表示等に用いられる光走査装置に関するものであり、特に半導体レーザビームを光源とし、液晶回折素子を用いた偏向素子を備えた光走査装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
光走査装置は、光源からの光束を光偏向素子で偏向させ、光走査を行なう。このような光走査装置においては、近年、精度上の要求とともに小型化の要求が強くなっている。そのために、光偏向素子に回折の原理を用いて光を偏向させる回折素子を用いることができる。例えば、特開平10-068903号公報記載の光走査装置は、DOE(Diffractive Optical Elements)の回折素子を用いている。また、回折素子の中でも液晶を用いた液晶回折素子はその厚さが薄いことや回折効率が高いという優れた性能から好適に用いることができる。
例えば、US2012188467に記載の光走査装置は液晶回折素子の光学系を用いている。
【0003】
一方で、光走査装置の光源として用いられる半導体レーザーは、温度上昇により発振波長が長波長側にシフトする特性を有する。変化の度合いは、40℃の上昇で+8nm程度である。ここで、回折素子による回折角度は波長によって変化する。そのため、光源の発振波長が変化すると、走査方向が変化してしまうという問題があった。
【0004】
温度変動に伴う走査方向の変化に対して、結像光学系、アナモフィックレンズ、またはコリメートレンズに回折光学素子を用いて補正することが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平10-068903号公報
【文献】US2012/188467号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
これらの文献に記載の方法を、液晶回折素子を用いる走査系に対して用いることは、光学系の補正に対して高精度の光学部品を用いないと補正が安定しないという点で困難であった。
【0007】
本発明はこのような事情に鑑みなされたもので、液晶回折素子の支持体の線膨張係数の特性を利用した所定の液晶回折素子を備えることにより、半導体レーザの温度変動に対応して走査方向が安定な光走査装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明は、以下の構成を有する。
(1) 光源と、光偏向素子を備えた光走査装置であって、
光偏向素子は、支持体と、液晶組成物の硬化層である光学異方性層とを含み、
液晶組成物に含まれる液晶化合物の光学軸が、光学異方性層の面に平行であり、かつ、光学異方性層が、光学異方性層の面内の少なくとも一方向に沿って配列された液晶配向パターンであって、液晶化合物の光学軸の向きが、連続的に回転変化した液晶配向パターンを有しており、
支持体が、以下の条件式(1)を満足することを特徴とする光走査装置。
(1)|dλ/(dt×λ0)-α|<2×10-4
ここで、
λ0:25℃における光源の中心波長(nm)
dλ:温度上昇(室温25℃→65℃)による光源の中心波長の増分(nm)
dt:温度の増分(℃:室温25℃→65℃)
α:支持体膨張の線膨張係数(1/℃)
(2) 光学異方性層は、液晶化合物の光学軸の向きが0.1~5μmの周期で180°回転している、(1)に記載の光走査装置。
(3) 光偏向素子に含まれる光学異方性層を複数する、(1)または(2)に記載の光走査装置。
(4) 光偏向素子は、支持体および光学異方性層とを有する回折素子と、光偏向器と、を有する(1)~(3)のいずれかに記載の光走査装置。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、液晶回折素子の支持体の線膨張係数の特性を利用した所定の液晶回折素子を備えることにより、半導体レーザの温度変動に対応して走査方向が安定な光走査装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の光走査装置の一例を概念的に示す図である。
【
図2】本発明の光走査装置の他の一例を概念的に示す図である。
【
図3】本発明の光走査装置の作用を説明するための概念図である。
【
図4】液晶回折素子の一例を概念的に示す図である。
【
図6】液晶回折素子の作用を説明するための概念図である。
【
図8】配向膜を露光する露光装置の一例を概念的に示す図である。
【
図9】配向膜を露光する露光装置の別の例を概念的に示す図である。
【
図10】本発明の光走査装置の別の例を概念的に示す図である。
【発明の実施の形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態1について図面を用いて説明する。
【0012】
ここで、
図1は本発明の実施形態1の光走査装置の基本構成を示す。
【0013】
本実施形態1に係る光走査装置は、半導体レーザよりなる光源151と、支持体131および支持体131の少なくとも一方の面に配置される液晶回折素子121で構成される回折素子161と、光源から射出された光束を偏向する光偏向器101とを備えている。回折素子161および光偏向器101は、本発明における光偏向素子に相当する。また、液晶回折素子121は、本発明における光学異方性層に相当する。
【0014】
図1に示す例は、光偏向器101として、MEMS(Micro Electro Mechanical Systems、微小機器電気システム)光偏向器を用いる光走査装置の一例である。
【0015】
液晶回折素子121は、液晶組成物の硬化層であり、液晶組成物に含まれる液晶化合物の光学軸が、液晶回折素子の主面に平行であり、かつ、液晶回折素子が、その面内の少なくとも一方向に沿って配列された液晶配向パターンであって、液晶化合物の光学軸の向きが、連続的に回転変化した液晶配向パターンを有している。液晶回折素子は、液晶配向パターンを有することで、入射した光を回折する。
後に詳述するが、液晶回折素子による光の回折角度は、液晶配向パターンにおいて、液晶化合物の光学軸の向きが、180°回転する1周期pの長さ(以下、単に「1周期p」ともいう)に依存し、1周期pが短いほど回折角度が大きくなる。
【0016】
図1に示すように、この光走査装置によれば、光源151から発せられたレーザビームは、光偏向器101によって回折素子161の方向に光の方向を偏向される。偏向された光が回折素子161のいずれかの場所に入射し、回折素子161によって光の偏向角を拡大するなど所望の方向に回折されることによって、光走査装置100として機能する。光偏向器101は制御器141によって回折素子に入射する偏向角を制御する。これ以外にも、図示されない反射ミラーや集光レンズや偏向子や位相差板などが光路中に適宜挿入されていてもよい。
【0017】
光走査装置100は、光源151が出射した光を光偏向器101によって所定の角度偏向する。光偏向器101による偏光角度は制御器141によって適宜変更され、光の進行方向が変えられ光を用いた走査を行う。
光偏向器101によって偏向された光は、回折素子161によって回折されて、例えば、図示例のように偏向角度を拡大される。従って、走査範囲が拡大される。
【0018】
図1において、光源に主に用いられるレーザビームの波長には温度依存性があり、一般に温度上昇により発振波長が長波長側にシフトする特性を有する。変化の度合いは、40℃の上昇で+8nm程度である。すなわち、940nmのレーザーを用いた場合に、光源の温度が40℃上昇すると、光源の発振波長は948nm程度になる。一方で、回折素子による回折角度は、光の波長によって変化する。この波長増分による偏向角度の影響を調べると、例えば回折素子に30°で入射したときの走査角度(回折素子から出射される光の角度)が60°の場合、温度上昇により波長増分したときには走査角度が60.4と変化してしまう。これを防ぐには、支持体の線膨張係数がある関係にある場合に有効であることを見出した。ここで液晶回折素子の屈折率温度依存性や膨張係数温度依存性が有効なのではなく、支持体の温度膨張が有効である点が本発明の特徴である。
【0019】
前述のとおり、液晶回折素子による光の回折角度は、液晶配向パターンの1周期pに依存する。そのため、温度上昇によって液晶回折素子が面方向に膨張すると、1周期pが長くなり、回折角度が小さくなる。そのため、光源の発振波長の増加による偏向角度の増加を、液晶回折素子の膨張による回折角度の減少で相殺して偏向角度を温度によらず一定にすることが考えられる。
ここで、液晶回折素子は液晶性化合物を重合して形成するがその厚さは数ミクロンから数十ミクロンである。一方で、液晶回折素子を少なくとも1面に有する支持体は数百ミクロン以上であり、また液晶性化合物の重合による液晶回折素子よりも弾性率が大きい。そのため、温度変動に伴って液晶回折素子および支持体が伸縮する場合には、液晶回折素子の伸縮は支持体によって規制されてしまい、液晶回折素子の状態は支持体の伸縮に主に支配される。
そのため、温度変動に伴う回折素子としての回折角度は液晶回折素子の熱特性そのものではなく、液晶回折素子が追随する支持体の熱特性に主に支配される。その結果、支持体の線膨張係数が下記の条件式(1)の関係のときに、光源の波長増分による影響を抑えることができることを見出した。
(1)|dλ/(dt×λ0)-α|<2×10-4
ここで、
λ0:25℃における光源の中心波長(nm)
dλ:温度上昇(室温25℃→65℃)による光源の中心波長の増分(nm)
dt:温度の増分(℃:室温25℃→65℃)
α:支持体の線膨張係数(1/℃)
【0020】
この条件式(1)は、走査角度のずれが0.3°未満になるように規定している。支持体がこの条件式(1)を満足することにより、温度変動による走査角度ずれを小さくすることができる。
【0021】
例えば、具体的な数値をあげて走査角度ずれについて述べる。
温度が室温(25℃)から40℃増えたときに、レーザーの中心波長が940nm→948nmになる場合、支持体の線膨張係数が小さい、例えばゼロの場合には、入射角30°に対する出射角は60°→60.4°になり、走査角度ずれは0.4°になる。支持体の線膨張係数がゼロの場合には、条件式(1)の左辺は約2.1×10-4となり、条件式(1)を満たさない。
これに対して、支持体の線膨張係数が50ppm/℃の場合には走査角度ずれは0.3°以下となり、線膨張係数が100ppm/℃の場合には走査角度ずれは0.2°以下となり、線膨張係数が200ppm/℃の場合には走査角度ずれは略0となる。これによって、温度変動に強い光走査装置を実現可能になる。支持体の線膨張係数が50ppm/℃の場合には、条件式(1)の左辺は約1.6×10-4となり、条件式(1)を満たす。支持体の線膨張係数が100ppm/℃の場合には、条件式(1)の左辺は約1.1×10-4となり、条件式(1)を満たす。支持体の線膨張係数が200ppm/℃の場合には、条件式(1)の左辺は約0.1×10-4となり、条件式(1)を満たす。
【0022】
ここで、
図1に示す例では、光偏向器101としてMEMS光偏向器を有する構成としたが、これに限定はされず、光偏向器101は、入射する光を所定の角度偏向し、偏向角度を変更できるものであればよい。例えば、
図2に示す例では、光偏向器101として液晶光位相変調素子を有してる。
図2においては、光走査装置100は、図中、光偏向器101の左側に配置される図示しない光源と、光偏向器101と、回折素子161と、制御器141と、を有する。
【0023】
液晶光位相変調素子は、液晶層に電圧を印加して液晶層内の液晶の配向を制御することで、入射する光の偏向方向を制御するものである。
【0024】
図3は、
図2に示す光走査装置100の作用を説明するための概念図である。
図3に示すように、液晶光位相変調素子101は、図示しない光源から出射された光を所定の角度だけ偏向する(実線の矢印参照)。液晶光位相変調素子101による偏光角度は、制御器141によって変更される。すなわち、
図3中破線の矢印で示すように、液晶光位相変調素子101による偏光角度は、制御器141によって適宜変更され光の進行方向が変えられる。これにより、光の進行方向が変えられ、光走査装置100は、光を用いた走査を行う。
【0025】
光偏向器101によって偏向された光は、回折素子161によって回折されて、例えば、図示例のように偏向角度を拡大される。従って、走査範囲が拡大される。
【0026】
ここで、
図3に示す例では、回折素子161の液晶回折素子120は、面内で液晶配向パターンの1周期が異なる領域(120a~120e)を有している。前述のとおり、液晶回折素子120においては、液晶配向パターンの1周期が小さいほど、回折角度が大きくなる。また、光走査装置100においては、出射光の偏向角度を大きくするために、光偏向器101による偏向の中心から外側(両端部)に向かって、漸次、液晶回折素子120の回折角度を大きくする。
このことは、
図3において、液晶回折素子120の領域である120a、120b、120cのそれぞれの1周期pをpa、pb、pcとすると、pa<pb<pc、の関係があることを意味する。同様に、120d、120eのそれぞれの1周期pをpd、peとすると、pe<pd<pcの関係があることを意味する。
【0027】
以下に構成要素について詳細に説明する。
[回折素子]
図4に、回折素子161の一例を概念的に示す。
図4は、回折素子161を、
図1~
図3と同方向に見た図であり、回折素子161の側面図である。回折素子161は、シート状のものであって、支持体131と、配向膜13と、光学異方性層(液晶回折素子)121と、を有する。
図示例では、液晶回折素子121は、光偏向器101が偏向した光を、光偏向素子による偏向方向に回折することにより、光偏向器101が偏向した光を、さらに偏向するものである。光走査装置100は、光偏向器101に、このような液晶回折素子121を組み合わせるにより、光偏向器101の最大偏向角θ
maxよりも遥かに大きい、最大の出射角度θ
maxoutの偏向角による光の偏向を可能にしている。
なお、液晶回折素子121のシート面方向をx-y方向、厚さ方向をz方向として定義している。
図4においては、図中横方向が液晶化合物由来の光学軸が一方向に向かって回転する方向(後述する軸A方向)であり、この方向をx方向とする。従って、y方向は、
図4の紙面と直交する方向になる。
【0028】
液晶回折素子121は、平面状であるが、液晶回折素子121は、平面状に制限はされず、曲面状でもよい。
【0029】
<支持体>
支持体131は、熱膨張率が所定の条件を満たし、配向膜および光学異方性層を支持できるものであれば、各種のシート状物(フィルム、板状物)が利用可能である。
支持体131としては、透明支持体が好ましく、ポリメチルメタクリレート等のポリアクリル系樹脂フィルム、セルローストリアセテート等のセルロース系樹脂フィルム、およびシクロオレフィンポリマー系フィルム等を挙げることができる。シクロオレフィンポリマー系フィルムとしては、例えば、JSR社製の商品名「アートン」、および、日本ゼオン社製の商品名「ゼオノア」等が例示される。
支持体131の線膨張係数は式(1)の関係になるものを選択するのが好適である。線膨張係数は材料固有の定数であるとともに、複数の材料を混合させたり積層構造にすることによって、その複合材として線膨張係数の値を調整することができる。
【0030】
また、支持体131の熱膨張方向に異方性がある場合には、回折素子の周期方向と平行または垂直にすることが望ましい。線膨張係数は支持体が延伸されている場合には延伸方向の線膨張係数が高いことがあり、その場合は延伸方向と回折素子の周期方向を平行にすることが望ましい。逆の場合には延伸方向と回折素子の周期方向を直交にすることが望ましい。
【0031】
<配向膜>
回折素子161において、支持体131の表面には配向膜13が形成される。
配向膜13は、光学異方性層121を形成する際に、液晶化合物20を、所定の液晶配向パターンに配向するための配向膜である。
【0032】
後述するが、回折素子161において、光学異方性層121は、液晶化合物20に由来する光学軸22の向きが、面内の一方向に沿って連続的に回転しながら変化している液晶配向パターンを有する。従って、配向膜13は、光学異方性層121が、この液晶配向パターンを形成できるように、形成される。
光学異方性層121においては、液晶配向パターンにおける、光学軸22の向きが連続的に回転しながら変化する一方向(後述する軸Aに沿う方向)において、光学軸22の向きが180°回転する長さを1周期(光学軸22の回転周期p)とする。本発明の光走査装置100において、光学異方性層121は、光偏向器101による偏向(偏向方位(偏向方向))の中心から外側に向かって、1周期が、漸次、短くなる。
また、液晶化合物20の光学軸の回転方向は、軸Aに沿う方向(矢印x方向)に向かって、光偏向器101による偏向の中心で逆転する。従って、配向膜13は、光学異方性層121が、この液晶配向パターンを形成できるように、形成される。
【0033】
配向膜13は、公知の各種のものが利用可能である。
配向膜13としては、例えば、ポリマーなどの有機化合物からなるラビング処理膜、無機化合物の斜方蒸着膜、マイクログルーブを有する膜、ならびに、ω-トリコサン酸、ジオクタデシルメチルアンモニウムクロライドおよびステアリル酸メチルなどの有機化合物のラングミュア・ブロジェット法によるLB(Langmuir-Blodgett:ラングミュア・ブロジェット)膜を累積させた膜、等があげられる。
【0034】
配向膜13としては、ポリマー層の表面をラビング処理して形成されたものが例示される。ラビング処理は、ポリマー層の表面を紙や布で一定方向に数回こすることにより実施される。配向膜に使用するポリマーの種類は、ポリイミド、ポリビニルアルコール、特開平9-152509号公報に記載された重合性基を有するポリマー、特開2005-97377号公報、特開2005-99228号公報、および、特開2005-128503号公報記載の配向膜等を好ましく使用することができる。
【0035】
なお、本発明で言う直交配向膜とは、重合性棒状液晶化合物の分子の長軸を、直交配向膜のラビング方向と実質的に直交するように配向させる配向膜を意味する。配向膜の厚さは配向機能を提供できれば厚い必要はなく、0.01~5μmであることが好ましく、0.05~2μmであることがさらに好ましい。
【0036】
配向膜13としては、光配向性の素材に偏光または非偏光を照射して配向膜とした、いわゆる光配向膜も利用可能である。すなわち、支持体131上に、光配光材料を塗布して光配向膜を作製してもよい。
偏光の照射は、光配向膜に対して、垂直方向または斜め方向から行うことができ、非偏光の照射は、光配向膜に対して、斜め方向から行うことができる。
【0037】
本発明に利用可能な光配向膜に用いられる光配向材料としては、例えば、特開2006-285197号公報、特開2007-76839号公報、特開2007-138138号公報、特開2007-94071号公報、特開2007-121721号公報、特開2007-140465号公報、特開2007-156439号公報、特開2007-133184号公報、特開2009-109831号公報、特許第3883848号、特許第4151746号に記載のアゾ化合物、特開2002-229039号公報に記載の芳香族エステル化合物、特開2002-265541号公報、特開2002-317013号公報に記載の光配向性単位を有するマレイミドおよび/またはアルケニル置換ナジイミド化合物、特許第4205195号、特許第4205198号に記載の光架橋性シラン誘導体、特表2003-520878号公報、特表2004-529220号公報、特許第4162850号に記載の光架橋性ポリイミド、ポリアミド、またはエステル、特開平9-118717号公報、特表平10-506420号公報、特表2003-505561号公報、WO2010/150748号公報、特開2013-177561号公報、ならびに、特開2014-12823号公報に記載の光二量化可能な化合物、特にシンナメート化合物、カルコン化合物およびクマリン化合物が好ましい例として挙げられる。特に好ましくは、アゾ化合物、光架橋性ポリイミド、ポリアミド、エステル、および、シンナメート化合物、カルコン化合物である。
本発明においては、光配向膜を用いるのが好ましい。
【0038】
光配向材料を支持体131上に塗布して乾燥させた後、配向膜を露光して配向パターンを形成する、配向膜の露光装置の模式図を
図8に示す。
露光装置50は、レーザ52を備えた光源54と、レーザ52からのレーザ光70を2つに分離する偏光ビームスプリッター56と、分離された2つの光線72A、72Bの光路上にそれぞれ配置されたミラー58A、58Bおよびλ/4板60A、60Bを備える。
なお、光源54は直線偏光P
0を出射する。λ/4板60Aは、直線偏光P
0を右円偏光P
Rに、λ/4板60Bは直線偏光P
0を左円偏光P
Lに変換する。
【0039】
配向パターンを形成される前の配向膜13を備えた支持体131が露光部に配置され、2つの光線72A、72Bを配向膜13上で交差させて干渉させ、その干渉光を配向膜13に照射して露光する。この際の干渉により、配向膜13に照射される光の偏光状態が干渉縞状に周期的に変化するものとなる。これによって、配向状態が周期的に変化する配向パターンが得られる。
露光装置50において、2つの光線72Aおよび72Bの交差角βを変化させることにより、配向パターンの周期を変化させることができる。すなわち、露光装置50においては、交差角βを調節することにより、液晶化合物20に由来する光学軸22が一方向に沿って連続的に回転する配向パターンにおいて、光学軸22が回転する1方向における、光学軸22が180°回転する1周期の長さ(回転周期p=周期p)を調節できる。
このように配向状態が周期的に変化した配向パターンを有する配向膜13上に、後述する光学異方性層121を形成することにより、この周期に応じた液晶配向パターンを備えた光学異方性層121を形成することができる。
また、λ/4板60Aおよびλ/4板60Bの光学軸を各々90°回転することにより、光学軸22の回転方向を逆にすることができる。
【0040】
また、配向膜13の露光には、
図9に概念的に示す露光装置80も、好適に利用される。
図9に示す露光装置80は、
図7に示すような、同心円状の液晶配向パターンを形成する場合にも用いられる露光装置である。
露光装置80は、レーザ82を備えた光源84と、レーザ82からのレーザ光MをS偏光MSとP偏光MPとに分割する偏光ビームスプリッター86と、P偏光MPの光路に配置されたミラー90AおよびS偏光MSの光路に配置されたミラー90Bと、S偏光MSの光路に配置されたレンズ92(凸レンズ)と、偏光ビームスプリッター94と、λ/4板96と、を有する。
【0041】
偏光ビームスプリッター86で分割されたP偏光MPは、ミラー90Aによって反射されて、偏光ビームスプリッター94に入射する。他方、偏光ビームスプリッター86で分割されたS偏光MSは、ミラー90Bによって反射され、レンズ92によって集光されて偏光ビームスプリッター94に入射する。
P偏光MPおよびS偏光MSは、偏光ビームスプリッター94で合波されて、λ/4板96によって偏光方向に応じた右円偏光および左円偏光となって、支持体131の上の配向膜13に入射する。
ここで、右円偏光と左円偏光との干渉により、配向膜13に照射される光の偏光状態が干渉縞状に周期的に変化するものとなる。同心円の内側から外側に向かうにしたがい、左円偏光と右円偏光の交差角が変化するため、内側から外側に向かってピッチが変化する露光パターンが得られる。これにより、配向膜13において、配向状態が周期的に変化する同心円状の配向パターンが得られる。
【0042】
この露光装置80において、液晶化合物20の光学軸22が一方向に沿って連続的に180°回転する1周期の長さ(回転周期p)は、レンズ92の屈折力(レンズ92のFナンバー)レンズ92の焦点距離、および、レンズ92と配向膜13との距離等を変化させることで、制御できる。
【0043】
また、レンズ92の屈折力(レンズ92のFナンバー)を調節することによって、光学軸22が連続的に回転する一方向において、光学軸22が180°回転する1周期の長さを変更できる。具体的には、平行光と干渉させる、レンズ92を透過した光の集光の程度によって、光学軸22が180°回転する1周期の長さ変えることができる。より具体的には、レンズ92の屈折力を弱くすると、平行光に近づくため、光学軸22が180°回転する1周期の長さは、内側から外側に向かって緩やかに短くなり、Fナンバーは大きくなる。逆に、レンズ92の屈折力を強めると、光学軸22が180°回転する1周期の長さは、内側から外側に向かって急に短くなり、Fナンバーは小さくなる。
【0044】
このように、光学軸22が連続的に回転する1方向において、光学軸22が180°回転する1周期(回転周期p)を変更する構成は、矢印X方向の一方向のみに液晶化合物20の光学軸22が連続的に回転して変化する構成でも、利用可能である。
例えば、光学軸22が180°回転する1周期を、矢印X方向に向かって、漸次、短くすることにより、集光するように光を透過する光学素子を得ることができる。また、液晶配向パターンにおいて、光学軸22が180°回転する方向を逆にすることにより、矢印X方向にのみ拡散するように光を透過する光学素子を得ることができる。なお、入射する円偏光の旋回方向を逆にすることでも、矢印のX方向にのみ拡散するように光を透過する光学素子を得ることができる。
【0045】
さらに、例えば透過光に光量分布を設けたい場合など、光学素子の用途によって、矢印X方向に向かって、光学軸22が180°回転する1周期を漸次、変更するのではなく、矢印X方向において、部分的に光学軸22が180°回転する1周期が異なる領域を有する構成も利用可能である。例えば、部分的に光学軸22が180°回転する1周期を変更する方法として、集光したレーザー光の偏光方向を任意に変えながら、光配向膜をスキャン露光してパターニングする方法等を利用することができる。
【0046】
なお、回折素子161において、配向膜13は、好ましい態様として設けられるものであり、必須の構成要件ではない。
例えば、支持体131をラビング処理する方法、支持体131をレーザ光等で加工する方法等によって、支持体131に配向パターンを形成することにより、光学異方性層121が、液晶化合物20に由来する光学軸22の向きが面内の少なくとも一方向に沿って連続的に回転しながら変化している液晶配向パターンを有する構成とすることも、可能である。
【0047】
<光学異方性層>
回折素子161において、配向膜13の表面には、液晶化合物20を含む液晶組成物の硬化層である光学異方性層(液晶回折素子)121を備えている。
光学異方性層121においては、液晶化合物の光学軸(遅相軸)が、光学異方性層の面内の少なくとも一方向に沿って配列された液晶パターンであって、液晶化合物20の光学軸22の向きが、一方向に向かって回転変化した液晶配向パターンを有する。
【0048】
本実施形態の液晶回折素子121は、波長λの光に対する光学異方性層121の厚さ方向(図中z方向)のリターデーションR(=Δn・d1)が、0.36λ~0.64λである。リターデーションRは0.4λ~0.6λが好ましく、0.45λ~0.55λがより好ましく、0.5λであることが特に好ましい。Δnは光学異方性層121の複屈折率、d1は厚さである。例えば、940nmの光を入射光として想定する場合には、940nmの光に対するリターデーションRが338~602nmの範囲であればよく、470nmであることが特に好ましい。
このようなリターデーションRを有するので、光学異方性層121は、一般的なλ/2板としての機能、すなわち、入射光の直交する直線偏光成分の間に180°(=π=λ/2)の位相差を与える機能を発現する。
【0049】
液晶回折素子121は、透過型の回折格子として機能する。回折格子として機能する原理について、
図4~
図6を参照して説明する。
なお、
図5は、光学異方性層121の概略平面図であり、すなわち、
図4を、図中上方からみた図である。
【0050】
図4および
図5に示すように、光学異方性層121においては、液晶化合物20が、一方向に連続的に光学軸22が回転変化した液晶配向パターンで固定化されている。図示例では、矢印x方向に一致する、
図5中の軸Aに沿った方向に、光学軸22が連続的に回転変化している。すなわち、光学軸22として定義される液晶化合物20の長軸(異常光の軸:ダイレクタ)の面内成分と、軸Aとが成す角度が、回転変化するように液晶化合物20が配向されている。
なお、
図5に示すように、光学異方性層121において、液晶化合物20の光学軸22の方向は、軸Aと直交する方向すなわち矢印y方向に配列される液晶化合物20では、一致している。光学異方性層121は、このy方向の液晶化合物20の光学軸22の方向が一致する領域毎に、上述のような一般的なλ/2板としての機能を発現する。
【0051】
光学軸22の向きが回転変化した液晶配向パターンとは、軸Aに沿って配列されている液晶化合物20の光学軸22と軸Aとのなす角度が、軸A方向の位置によって異なっており、軸Aに沿って光学軸22と軸Aとのなす角度がφからφ+180°あるいはφ-180°まで徐々に変化するように配向され固定化されたパターンである。
以下において、
図5に示すような、光学異方性層121において、液晶化合物20の光学軸22が光学異方性層121の面に平行であり、さらに、光学軸22の向きが一定である局所領域(単位領域)すなわち液晶化合物20が矢印y方向に配列される領域が、矢印y方向と直交するx方向に配列されており、かつ、矢印x方向に配列される複数の局所領域間において、光学軸22の向きが一方向(軸Aに沿う方向)に向かって連続的に回転変化するように配向されている液晶配向パターンを、水平回転配向と称する。
【0052】
なお、連続的に回転変化するとは、
図4および
図5に示す通り、30°刻みなどの一定の角度の領域が隣接して0°から180°(=0°)まで回転するものであってもよい。または、軸A方向に向かう光学軸22の角度変化は、一定の角度間隔ではなく、不均一な角度間隔で回転する物であってもよい。本発明においては、単位領域の光学軸22の向きの平均値が一定の割合で線形に変化していれば徐々に変化していることになる。ただし、軸A方向に隣接する、光学軸22が異なる傾きを有する単位領域同士における光学軸の傾きの変化は、45°以下とするのが好ましい。隣接する単位領域の傾きの変化は、より小さい方が好ましい。
【0053】
光学異方性層121において、軸A方向に向かって光学軸22と軸Aとがなす角度がφからφ+180°(元に戻る)まで変化する距離、すなわち、光学軸22が180°回転する周期を、回転周期(1周期)pとする。この回転周期pは、0.1~5μmであるのが好ましい。回転周期pが短いほど、光学異方性層121すなわち液晶回折素子121による回折角が大きくなる。従って、回転周期pは、液晶回折素子121への入射光の波長および所望の出射角に応じて定めればよい。
【0054】
回折素子161は、上述した光学異方性層121の構成により、入射光に対してλ/2の位相差を与える共に、入射角0°で入射した、すなわち垂直入射した入射光を出射角θ
2で出射させる。
すなわち、
図6に示すように、光学異方性層121の面に垂直に右円偏光P
Rの光L
1を入射させると、法線方向と角度θ
2をなす方向に左円偏光P
Lの光L
2が出射される。なお、光学異方性層121の面に垂直に光を入射するとは、言い換えれば、面の法線に沿って光を入射する、ということである。また、以下の説明では、光学異方性層121に入射する右円偏光P
Rの光L
1を『入射光L
1』ともいう。さらに、以下の説明では、光学異方性層から出射する左円偏光P
Lの光L
2を『出射光L
2』ともいう。
【0055】
回折素子161は、所定の波長の光を入射させる場合、光学異方性層121における回転周期pが小さいほど、回折角すなわち出射光L2の出射角が大きくなる。出射光L2の出射角とは、光学異方性層121の法線方向と出射光L2とが成す角度である。
【0056】
なお、液晶回折素子121は右円偏光と左円偏光とは回折する方位が異なるので、液晶回折素子121からの出射光L2の回折方向は、液晶回折素子121に入射する光の円偏光の状態を制御して入射する。すなわち、図示例のように、入射光が直線偏光の場合は、λ/4板を挿入して、左右どちらかの円偏光に変換してから入射することで、光の回折の方位をどちらかのみにすることができる。
【0057】
液晶回折素子(光学異方性層)121により回折作用を生じさせる光の波長λは、紫外から可視光、赤外、さらには、電磁波レベルであってもよい。
同一の回転周期pに対し、入射光の波長が大きいほど回折角が大きく、入射光の波長が小さいほど回折角が小さくなる。
なお、液晶化合物20としては、棒状液晶化合物および円盤状液晶化合物が利用可能である。
【0058】
図6に示すように、液晶回折素子121の表面の法線に沿って右円偏光P
Rの入射光L
1を入射させると、法線方向と角度θ
2をなす方向に左円偏光P
Lの出射光L
2が出射される。
一方、液晶回折素子121に左円偏光を入射光として入射させた場合には、入射光は光学異方性層121において右円偏光に変換されると共に
図6とは逆向き(図中左方向)に進行方向が変化される。
【0059】
上記説明では入射光を光学異方性層に対して垂直に入射する例を示したが、入射光が斜めになった場合も同様に透過回折の効果が得られる。
斜め入射の場合には、入射角θ1を考慮に入れて上記式(1)を満たすように、所望の回折角θ2を得られるように回転周期の設計をすればよい。
【0060】
上述したように、本発明の光走査装置100は、光偏向器101が偏向した光を、回折素子161(光学異方性層121)によって回折することで、光偏向器101の最大偏向角θmaxよりも遥かに大きい、最大の出射角度θmaxoutの偏向角による光の偏向を可能にしている。
【0061】
光学異方性層121による光の回折角は、液晶化合物20の光学軸22が180°回転する1周期すなわち回転周期pが短いほど、大きくなる。
【0062】
また、入射する円偏光の偏向方向(旋回方向)が同じ場合には、光学異方性層121による光の回折方向は、液晶化合物20の光学軸22の回転方向によって、逆になる。
すなわち、入射光L
1が右円偏光P
Rである場合に、出射面側から見て、光学軸22の回転方向が、
図4~
図6に示すように軸A方向(矢印x方向)に向かって時計回りである場合には、出射光L
2は、例えば、軸A方向に回折される。
これに対して、入射光L
1が右円偏光P
Rである場合に、出射面側から見て、光学軸22の回転方向が、軸A方向に向かって反時計回りである場合には、出射光L
2は、軸A方向(矢印の方向)とは逆方向に回折される。
【0063】
これに応じて、本発明の光走査装置100においては、光学異方性層121は、軸A方向に向かう液晶化合物20の光学軸22の回転周期pを、光偏向器101による偏向(偏向方位)の中心から外側に向かって、漸次、短くする。すなわち、光学異方性層121による光の回折角は、偏向方向の外側に向かうにしたがって、大きくなる。
加えて、本発明の光走査装置100においては、光学異方性層121は、軸A方向に向かう液晶化合物20の光学軸22の回転方向を、光偏向器101による偏向の中心において、逆転する。例えば、図示例であれば、軸A方向に向かって、軸A方向の上流側から、偏向方向の中心までは、軸A方向に向かう光学軸22の回転方向を反時計回りとし、偏向の中心で光学軸22の回転方向を逆転して、偏向の中心から軸A方向の下流に向かっては、軸A方向に向かう光学軸22の回転方向を時計回りとする。
本発明の光走査装置100は、このような構成を有することにより、光偏向器101の最大偏向角θmaxよりも遥かに大きい、最大の出射角度θmaxoutの偏向角による光の偏向を可能にしている。
【0064】
なお、光学軸22の回転方向を逆転するのは、通常、光学異方性層121における、軸A方向(矢印x方向)すなわち光学軸22が回転する一方向の中心である。すなわち、光走査装置100においては、通常、光偏向器101における偏向の中心と、光学異方性層121における軸A方向の中心とを、一致させる。
【0065】
なお、本発明において、回転周期pは、偏向の中心から外側に向かって、連続的に短くなってもよく、または、段階的に短くなってもよい。
【0066】
<光学異方性層の形成>
光学異方性層121は、一例として、液晶化合物を含む液晶組成物によって形成する。
光学異方性層121を形成するための、液晶化合物を含む液晶組成物は、液晶化合物の他に、レベリング剤、配向制御剤、重合開始剤および配向助剤などのその他の成分を含有していてもよい。支持体上に配向膜を形成し、その配向膜上に液晶組成物を塗布、硬化することにより、液晶組成物の硬化層からなる、所定の液晶配向パターンが固定化された光学異方性層を得ることができる。
次に、液晶組成物の各構成成分について詳述する。
【0067】
光学異方性層121は、棒状液晶化合物または円盤状液晶化合物を含む液晶組成物の硬化層からなり、棒状液晶化合物の光学軸または円盤状液晶化合物の光学軸が、上記のように配向された液晶配向パターンを有している。
支持体131上に配向膜を形成し、配向膜上に液晶組成物を塗布、硬化することにより、液晶組成物の硬化層からなる光学異方性層を得ることができる。なお、いわゆるλ/2板として機能するのは光学異方性層であるが、本発明は、支持体131および配向膜を一体的に備えた積層体がλ/2板として機能する態様を含む。
また、光学異方性層を形成するための液晶組成物は、棒状液晶化合物または円盤状液晶化合物を含有し、さらに、レベリング剤、配向制御剤、重合開始剤および配向助剤などのその他の成分を含有していてもよい。
【0068】
また、光学異方性層は、入射光の波長に対して広帯域であるのが望ましく、複屈折率が逆分散となる液晶材料を用いて構成されているのが好ましい。
さらに、液晶組成物に捩れ成分を付与することにより、また、異なる位相差層を積層することにより、入射光の波長に対して光学異方性層を実質的に広帯域にすることも好ましい。例えば、光学異方性層において、捩れ方向が異なる2層の液晶を積層することによって広帯域のパターン化されたλ/2板を実現する方法が特開2014-089476号公報等に示されており、本発明において好ましく使用することができる。
【0069】
―棒状液晶化合物―
棒状液晶化合物としては、アゾメチン類、アゾキシ類、シアノビフェニル類、シアノフェニルエステル類、安息香酸エステル類、シクロヘキサンカルボン酸フェニルエステル類、シアノフェニルシクロヘキサン類、シアノ置換フェニルピリミジン類、アルコキシ置換フェニルピリミジン類、フェニルジオキサン類、トラン類、および、アルケニルシクロヘキシルベンゾニトリル類が好ましく用いられる。以上のような低分子液晶性分子だけではなく、高分子液晶性分子も用いることができる。
【0070】
棒状液晶化合物を重合によって配向を固定することがより好ましく、重合性棒状液晶化合物としては、Makromol. Chem.,190巻、2255頁(1989年)、Advanced Materials 5巻、107頁(1993年)、米国特許4683327号明細書、同5622648号明細書、同5770107号明細書、国際公開第95/22586号、同95/24455号、同97/00600号、同98/23580号、同98/52905号、特開平1-272551号公報、同6-16616号公報、同7-110469号公報、同11-80081号公報、および、特願2001-64627号公報などに記載の化合物を用いることができる。さらに棒状液晶化合物としては、例えば、特表平11-513019号公報および特開2007-279688号公報に記載のものも好ましく用いることができる。
【0071】
―円盤状液晶化合物―
円盤状液晶化合物としては、例えば、特開2007-108732号公報および特開2010-244038号公報に記載のものを好ましく用いることができる。
なお、光学異方性層に円盤状液晶化合物を用いた場合には、光学異方性層において、液晶化合物20は厚さ方向に立ち上がっており、液晶化合物に由来する光学軸22は、円盤面に垂直な軸、いわゆる進相軸として定義される。
【0072】
光学異方性層121は、配向膜13上に液晶組成物を多層塗布することにより形成することができる。
多層塗布とは、配向膜の上に液晶組成物を塗布し、加熱し、さらに冷却した後に紫外線硬化を行って1層目の液晶固定化層を作製した後、2層目以降はその液晶固定化層に重ね塗りして塗布を行い、同様に加熱し、冷却後に紫外線硬化を行うことを繰り返すことをいう。光学異方性層121を上記のように多層塗布して形成することにより、光学異方性層121の総厚が厚くなった場合でも、配向膜13の配向方向を、光学異方性層121の下面から上面にわたって反映させることができる。
【0073】
図7は、液晶回折素子の設計変更例における光学異方性層の平面模式図である。
図7に示す光学異方性層122における液晶配向パターンは、上述した光学異方性層121における液晶配向パターンと異なる。
図7においては、光学軸22のみを示している。
図7の光学異方性層122は、光学軸22の向きが中心側から外側の多方向、例えば、軸A
1、A
2、A
3…に沿って徐々に回転して変化している液晶配向パターンを有している。
すなわち、
図7に示す光学異方性層122の液晶配向パターンは、放射状に光学軸22が回転する液晶配向パターンである。言い換えれば、
図7に示す光学異方性層122の液晶配向パターンは、光学軸の向きが連続的に回転しながら変化する一方向を、内側から外側に向かう同心円状に有する、同心円状のパターンである。
図7に示す液晶配向パターンによって、入射光は光学軸22の向きが異なる局所領域間では、異なる変化量で絶対位相が変化する。
図7に示すような放射状に光学軸が回転変化する液晶配向パターンを備えれば、入射した光を、発散光または集光光として透過させることができる。すなわち、光学異方性層121中の液晶配向パターンによって凹レンズまたは凸レンズとしての機能を実現できる。
【0074】
本発明の光走査装置の好ましい態様としては、
図7に示す光学異方性層122の凹レンズの機能を回折素子161に用いる。このときに、レンズの中心を光偏向器101の出射光の中心に合わせると、光偏向器101から出射した最大偏向角θ
maxの角度を最も効率的に光を広げることができる。
なお、液晶回折素子の分割領域(120a~120eに例示)の大きさは小さいほど滑らかに変化するので好ましいが、照射するレーザ光のビーム径によっては実用上問題ない程度に有限の値であってもよい。たとえば、10~数百μm程度であってもよい。
【0075】
以上の例では、液晶回折素子の液晶化合物は、厚さ方向には一方向を向いているが、本発明は、これに制限はされない。液晶回折素子を構成する光学異方性層は、厚さ方向に沿って伸びる螺旋軸に沿って捩れ配向した液晶化合物を有するものであってもよい。また、捻れ配向方向が異なる複数の液晶層の積層であってもよい。この場合、光の入射角度と波長に対する許容度が広くなる。
【0076】
図7に示す光学異方性層122の凹レンズの機能を回折素子161に用いることにより、中心から放射状に拡散するように、光を偏向させることができる。
例えば、本発明の光走査装置において、
図10に概念的に示すように、凹レンズとして機能する光学異方性層122を有する回折素子162と、光偏向器として、放射状に光を偏向する光偏向器102とを用いる。光偏向器102は、例えば、方位360°、極角0~35°で、光を偏向する。
これにより、
図10に示すように、光偏向器102で放射状に偏向した光Lを、液晶回折素子122によって回折させることで、偏向角すなわち光偏向器102による方位角を拡大して、広い範囲に放射状に光を偏向できる。
また、
図10に示すように、光走査装置は、集光素子としての集光レンズ110と、λ/4板111と、集光レンズ112と、を好適に有してもよい。集光レンズ110は、公知の集光レンズであって、液晶回折素子に入射する光を、若干、集光するものである。集光レンズ110を有することにより、光走査装置100(液晶回折素子122)から出射する光(光ビーム)を、適正な平行光にして、直進性を向上できる。
【0077】
なお、このように放射状に光を偏向する光偏向器102としては、一例として、2012-208352号公報に記載されるMEMS(Micro Electro Mechanical Systems、微小機器電気システム)光偏向器、特開2014-134642号公報に記載されるMEMS光偏向器、および、特開2015-22064号公報に記載されるMEMS光偏向器等、圧電アクチュエータ等を用いてミラー(鏡)を揺動させることにより、光を偏向(偏向走査)する、公知のMEMS光偏向器(MEMS(光)スキャナー、MEMS光偏向器、MEMSミラー、および、DMD(Digital MicromirrorDevice))等が例示される。また、本発明の光走査装置は、単純構造、単純駆動で、大きな角度偏向可能なため、軽量小型化が望まれる光をスキャンするあらゆる用途に応用が可能である。例えば、ビームスキャンを用いた描画装置、ビームスキャン型プロジェクションディスプレイ、ビームスキャン型ヘッドアップディスプレイ、ビームスキャン型ARグラス等である。この場合、可視光をはじめ広い波長域で光を光偏向させる装置として応用することができる。
【0078】
本発明の光走査装置において、光偏向器としては、上述したMEMS光偏向器、液晶光位相変調素子に制限はされず、ガルバノミラー、ポリゴンミラー、および、光フェーズドアレー偏向素子(光位相変調素子)等、公知の光偏向器が、各種、利用可能である。
中でも、機械的な可動部が小さく、かつ、機械的な可動部が少ないという点で、光偏向器としては、上述したMEMS光偏向素子および光フェーズドアレー偏向素子が、好適に利用される。
【実施例】
【0079】
以下、本発明の実施例について具体的に説明する。
【0080】
以下の比較例および実施例の光走査装置は、上記実施形態1に係るものである。
【0081】
[比較例1]
<液晶回折素子の作製>
支持体として、市販のガラス基板(コーニング社EAGLE)を用意した。この支持体の線膨張係数は3ppm/℃であった。
この支持体をプラズマ処理で表面処理し溶液塗布性を改良した後、下記の配向膜形成用塗布液をスピンコートした後、60℃のホットプレート上で60秒間乾燥し、配向膜を形成した。
【0082】
配向膜形成用塗布液
―――――――――――――――――――――――――――――――――
光配向用素材A 1.00質量部
水 16.00質量部
ブトキシエタノール 42.00質量部
プロピレングリコールモノメチルエーテル 42.00質量部
―――――――――――――――――――――――――――――――――
【0083】
【0084】
(配向膜の露光)
図9に示す露光装置を用いて配向膜を露光して、配向パターンを有する配向膜P-1を形成した。露光装置において、レーザとして波長(405nm)のレーザ光を出射するものを用いた。干渉光による露光量を100mJ/cm
2とした。
なお、レンズ(凸レンズ)の屈折力を調節して、その後の光学異方性層の形成時に、中心から外側に向かって、光学異方性層における液晶化合物の光学軸の回転の周期が、漸次、短くなるようにした。
【0085】
(光学異方性層の形成)
光学異方性層を形成する液晶組成物として、下記の組成物A-1を調製した。
組成物A-1
――――――――――――――――――――――――――――――――――
液晶化合物L-1 100.00質量部
重合開始剤(BASF製、Irgacure(登録商標)907)
3.00質量部
光増感剤(日本化薬社製、KAYACURE DETX-S)
1.00質量部
レベリング剤T-1 0.08質量部
メチルエチルケトン 313.00質量部
――――――――――――――――――――――――――――――――――
【0086】
【0087】
【0088】
光学異方性層は、組成物A-1を配向膜P-1上に多層塗布することにより形成した。多層塗布とは、先ず配向膜の上に1層目の組成物A-1を塗布、加熱、冷却後に紫外線硬化を行って液晶固定化層を作製した後、2層目以降はその液晶固定化層に重ね塗りして塗布を行い、同様に加熱、冷却後に紫外線硬化を行うことを繰り返すことを指す。多層塗布により形成することにより、光学異方性層の総厚が厚くなった時でも配向膜の配向方向が光学異方性層の下面から上面にわたって反映される。
【0089】
先ず1層目は、配向膜P-1上に組成物A-1を塗布して、塗膜をホットプレート上で70℃に加熱し、その後、25℃に冷却した後、窒素雰囲気下で高圧水銀灯を用いて波長365nmの紫外線を100mJ/cm2の照射量で塗膜に照射することにより、液晶化合物の配向を固定化した。この時の1層目の液晶固定化層の膜厚は0.2μmであった。
【0090】
2層目以降は、この液晶固定化層に重ね塗りして、上と同じ条件で加熱、冷却後に紫外線硬化を行って液晶固定化層を作製した。このようにして、総厚が所望の膜厚になるまで重ね塗りを繰り返して、光学異方性層を形成することで、支持体、配向膜、および、光学異方性層を有する、回折素子を作製した。
光学異方性層は、最終的に液晶のΔn940×厚さ(Re(940))が470nmになり、かつ、光学軸が回転する一方向において、中心から外側に向かって、光学異方性層における液晶化合物の光学軸の回転周期が、漸次、短くなっていること、および、中心で光学軸の回転方向が逆転していることを、偏光顕微鏡で確認した。
なお、この光学異方性層の液晶配向パターンにおいて、液晶化合物の光軸が180°回転する回転周期(1周期)は、中心部の回転周期が非常に大きく(回転周期の逆数が0)、中心から2.5mmの距離での回転周期が10.6μm、中心から5.0mmの距離での回転周期が5.3μmであり、中心から外方向に向かって、回転周期が、漸次、短くなる液晶配向パターンであった。
【0091】
光源のレーザーとして940nmの半導体レーザーを用意した。またレーザーの直線偏光を円偏光に変換して液晶回折素子に入射するために、λ/4板(円偏光板、Edmund社)を準備した。Δn
940×d(Re(940))は470nmであった。
また、特開2014-134642号公報に記載される方法でマイクロミラーデバイスを作製した。ミラー部の直径は4mm、偏向角度は±35°であった。
これらを
図1になるように構成し、光走査装置を作製した。この際に、レーザー光の偏光方位とλ/4板の面内遅相軸とを45°で交差させ、円偏光に変換されるようにした。また、光偏向器によって偏向した光の直進性を良くするために光源と光偏向器との間に集光レンズ(凸レンズ)を配置した。
その他、各光学部品の特性値は以下の通りである。
レーザー光の光径は3mm、集光レンズの焦点距離は35mm、集光レンズとMEMSの距離は16mm、MEMSと液晶回折素子の距離は7mmとした。
MEMSによる出射光の偏向角度の範囲は±35°であった。
液晶回折素子の直径は20mmである。液晶回折素子は、中心部の回転周期が非常に大きく(回転周期の逆数が0)で、半径5mmの位置での回転周期が4.8μm、半径10mmの位置での回転周期が2.6μmであり、中心から外方向に向かって、回転周期が、漸次、短くなる液晶配向パターンであった。
【0092】
光源の25℃における中心波長λ0は、940nmであり、40℃温度上昇した場合の中心波長の増分dλは、8nmである。
支持体の線膨張係数は3ppm/℃であるため、条件式(1)の左辺は、2.07×10-4となり、条件式(1)を満たさない。
【0093】
[実施例1]
比較例1の支持体を、PMMA(ポリメタクリル酸メチル樹脂)である、住化アクリル販売社製、テクノロイS001Gに変えた以外は比較例1と同じ条件で実施例1の液晶回折素子を作製し、光走査装置を作製した。なおPMMAの熱膨張係数は70ppm/℃であった。
実施例1の構成では、条件式(1)の左辺は、1.4×10-4となり、条件式(1)を満たす。
【0094】
[実施例2]
実施例1の支持体を、シクロオレフィンポリマー(COP)である、日本ゼオン社製、ZF-4に変えた以外は実施例1と同じ条件で実施例2の液晶回折素子を作製し、光走査装置を作製した。なおCOPの熱膨張係数は70ppm/℃であった。
実施例2の構成では、条件式(1)の左辺は、1.4×10-4となり、条件式(1)を満たす。
【0095】
[実施例3]
実施例1の支持体を、低密度ポリエチレンである、タマポリ社製、V-1に変えた以外は実施例1と同じ条件で実施例3の液晶回折素子を作製し、光走査装置を作製した。なお低密度ポリエチレンの熱膨張係数は180ppm/℃であった。
実施例3の構成では、条件式(1)の左辺は、0.3×10-4となり、条件式(1)を満たす。
【0096】
[評価]
マイクロミラーデバイスによる偏向角は回折素子への入射角-30°~+30°の範囲とし、回折素子に入射した光は、入射角-30~+30°の範囲から液晶回折素子で大きく拡大され、±60°の偏向角で光が出射されることを確認した。また、このデバイスの回折素子の線膨張係数を室温25°と65°における長さを測定することにより求めた値を下記表に示す。このデバイスの温度変動による影響を確認するため、入射角30°における出射角度60°の変化を温度を変えて評価した。
温度は室温25°と65°を比較した。
A:温度変動での角度変化が0.1°以内(許容)
B:温度変動での角度変化が0.1~0.3°(許容)
X:温度変動での角度変化が0.3°以上(不許容)
評価結果を下記表1に示す。
【0097】
【0098】
これにより、式1の値を満たすの場合に温度変動による影響が小さいことは明らかである。
【符号の説明】
【0099】
13 配向膜
50、80 露光装置
52、82 レーザ
54、84 光源
56、86、94 偏光ビームスプリッター
58A、58B、90A、90B ミラー
60A、60B、96 λ/4板
70 レーザ光
72A、72B 光線
92 レンズ
100 光走査装置
101、102 光偏向器
110 集光レンズ
111 λ/4板
120、121、122 液晶回折素子(光学異方性層)
120a~120e 領域
131 支持体
141 制御器
151 光源
161、162 回折素子
β 交差角
P0 直線偏光
PR 右円偏光
PL 左円偏光
M レーザ光
MS S偏光
MP P偏光