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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-16
(45)【発行日】2023-10-24
(54)【発明の名称】ナノダイヤモンド組成物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01B 32/28 20170101AFI20231017BHJP
   C10M 103/02 20060101ALI20231017BHJP
   C10M 125/02 20060101ALI20231017BHJP
   C10M 169/04 20060101ALI20231017BHJP
【FI】
C01B32/28
C10M103/02 Z
C10M125/02
C10M169/04
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2019083346
(22)【出願日】2019-04-24
(65)【公開番号】P2020180017
(43)【公開日】2020-11-05
【審査請求日】2022-01-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000004455
【氏名又は名称】株式会社レゾナック
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】近藤 邦夫
(72)【発明者】
【氏名】門田 隆二
【審査官】磯部 香
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2010/0029518(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第102086421(CN,A)
【文献】米国特許出願公開第2011/0172132(US,A1)
【文献】特開2008-179738(JP,A)
【文献】特開2017-128482(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 32/28
C10M 103/02
C10M 125/02
C10M 169/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基油とナノダイヤモンドとを混合し、前記基油と前記ナノダイヤモンドを含むナノダイヤモンド分散体を得る分散工程と、
前記ナノダイヤモンド分散体への加熱及び放射線照射の少なくとも一方を行う変性工程と、
を含み、
前記変性工程において、前記ナノダイヤモンド分散体の加熱を、80℃以上200℃以下で行うナノダイヤモンド組成物の製造方法。
【請求項2】
前記ナノダイヤモンド分散体を得る分散工程において、反応性成分を混合する請求項1に記載のナノダイヤモンド組成物の製造方法。
【請求項3】
前記ナノダイヤモンド組成物から、前記反応性成分を除去する工程を含む請求項2に記載のナノダイヤモンド組成物の製造方法。
【請求項4】
前記ナノダイヤモンド分散体の変性工程において、加熱と放射線照射を同時に行う請求項1~請求項3のいずれか1項に記載のナノダイヤモンド組成物の製造方法。
【請求項5】
前記ナノダイヤモンド分散体の変性工程において、前記ナノダイヤモンド分散体中の酸素分子濃度を10質量ppm以下とする請求項1~請求項のいずれか1項に記載のナノダイヤモンド組成物の製造方法。
【請求項6】
前記ナノダイヤモンド分散体の変性工程において、前記ナノダイヤモンド分散体の放射線照射を、ナノダイヤモンド分散体1mLあたりに照射するエネルギー量が、1~100Jで行う請求項1~請求項のいずれか1項に記載のナノダイヤモンド組成物の製造方法
【請求項7】
前記ナノダイヤモンド分散体を得る分散工程と、前記ナノダイヤモンド分散体の変性工程の間に、前記ナノダイヤモンドの解砕工程を含む、請求項1~請求項のいずれか1項に記載のナノダイヤモンド組成物の製造方法。
【請求項8】
前記ナノダイヤモンド分散体を得る分散工程及び前記ナノダイヤモンド分散体の変性工程の少なくとも一方の工程を、前記ナノダイヤモンドを解砕しながら行う請求項1~請求項のいずれか1項に記載のナノダイヤモンド組成物の製造方法。
【請求項9】
前記ナノダイヤモンド分散体及び前記ナノダイヤモンド組成物の少なくとも一方から、粗粒成分を除去する工程を含む請求項1~請求項のいずれか1項に記載のナノダイヤモンド組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はナノダイヤモンド(以下、「ND」と言うことがある。)組成物とその製造法に関する。このND組成物は、潤滑油添加剤、CMP(Chemical Mechanical Polishing :化学機械研磨)向け研磨剤、燃料電池向け耐腐食性電極メッキ材料、切削工具などの高硬度表面コ-ティング層形成材料、高耐電圧材料、高耐熱・高熱伝導材料など、工学応用分野で利用できる。
【背景技術】
【0002】
NDは、爆轟法や高温高圧法によって製造される。爆轟法は、トリニトロトルエン及びヘキソーゲンを爆轟させることにより、ナノサイズのダイヤモンドを得る方法である。この方法で得られるNDは、水や極性有機溶媒への溶解性は高いが、油や低極性有機溶媒への溶解性が低いという問題がある。そのため、NDの用途開発はさほど進んでいない。
このため、水や有機溶媒に対する溶解性を向上させる目的で、NDの表面を化学修飾する試みがなされている。
特許文献1では、ポリエチレングリコール構造を含む分子でND表面を修飾することで、水や極性有機溶媒への溶解性が向上することが報告されている
特許文献2では、カチオン極性基を含む分子でND表面を修飾することで、ND粒子同士が静電反発により分離し凝集しにくくなることが報告されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2010-202458号公報
【文献】特開2017-128482号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1や特許文献2に記載された方法では、導入される結合基が極性を有するために、例えば、鉱油のような非水系の低極性な液体への溶解性は十分ではなかった。そのためNDは潤滑剤として用いられるが、液体への溶解性が不十分であると粗粒が含まれるため、NDを添加することによって却って潤滑性が低下することがあった。また、NDを有機合成によって修飾する場合、NDを修飾する化合物は有機合成に適用できる官能基含有化合物に限定され、またその官能基を有する化合物を合成しなければならないという問題があった。
【0005】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、事前に修飾する化合物を合成することなく極性及び低極性いずれの基油に対しても溶解性に優れた高溶解性のND組成物と、その製造法を提供し、その結果得られたND組成物の耐摩耗性を向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
[1]基油とナノダイヤモンドとを混合し、前記基油と前記ナノダイヤモンドを含むナノダイヤモンド分散体を得る分散工程と、前記ナノダイヤモンド分散体への加熱及び放射線照射の少なくとも一方を行う変性工程と、を含むナノダイヤモンド組成物の製造方法。
[2]前記ナノダイヤモンド分散体を得る分散工程において、反応性成分を混合する[1]に記載のナノダイヤモンド組成物の製造方法。
[3]前記ナノダイヤモンド分散体の変性工程において、加熱と放射線照射を同時に行う[1]または[2]に記載のナノダイヤモンド組成物の製造方法。
[4]前記ナノダイヤモンド分散体の変性工程において、前記ナノダイヤモンド分散体中の酸素分子濃度を10質量ppm以下とする[1]~[3]に記載のナノダイヤモンド組成物の製造方法。
[5]前記ナノダイヤモンド分散体の変性工程で、前記ナノダイヤモンド分散体の加熱を、60℃以上200℃以下で行う[1]~[4]のいずれかに記載のナノダイヤモンド組成物の製造方法。
[6]前記ナノダイヤモンド分散体の変性工程で、前記ナノダイヤモンド分散体の放射線照射を、ナノダイヤモンド分散体1mLあたりに照射するエネルギー量が、1~100Jで行う[1]~[5]のいずれかに記載のナノダイヤモンド組成物の製造方法。
[7]前記ナノダイヤモンド分散体を得る分散工程と、前記ナノダイヤモンド分散体の変性工程の間に、前記ナノダイヤモンドの解砕工程を含む、[1]~[6]のいずれかに記載のナノダイヤモンド組成物の製造方法。
[8]前記ナノダイヤモンド分散体を得る分散工程及び前記ナノダイヤモンド分散体の変性工程の少なくとも一方の工程を、前記ナノダイヤモンドを解砕しながら行う[1]~[7]のいずれか1項に記載のナノダイヤモンド組成物の製造方法。
[9]前記ナノダイヤモンド分散体及び前記ナノダイヤモンド組成物の少なくとも一方から、粗粒成分を除去する工程を含む[1]~[8]のいずれかに記載のナノダイヤモンド組成物の製造方法。
[10]前記ナノダイヤモンド組成物から、前記反応性成分を除去する工程を含む[2]~[9]のいずれかに記載のナノダイヤモンド組成物の製造方法。
[11]基油、ナノダイヤモンド、ナノダイヤモンド付加体、を含むナノダイヤモンド組成物。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、基油への溶解性に優れた高溶解性のND組成物と、その製造法を提供し、その結果得られたND組成物の耐摩耗性を向上させることができる。NDを基油に溶解させる場合、事前にNDを修飾する化合物を合成した上で、NDに反応させる工程が不要になり、溶解させたい基油にNDを混合し、熱処理及び放射線照射の少なくとも一方を行うだけで、十分に溶解させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明を適用したND組成物及びその製造方法の実施の形態について説明する。
なお、本実施の形態は、発明の趣旨をより良く理解させるために具体的に説明するものであり、特に指定のない限り、本発明を限定するものではない。
【0009】
[ND組成物]
本実施形態のND組成物は、基油と、NDと、を含み、後述する本実施形態のND組成物の製造方法において、少なくとも基油と、NDとを含む混合物(「ND分散体」という)を熱処理及び放射線照射の少なくとも一方を行うことで得られる。ND分散体は、さらに反応性成分を含んでもよい。
なお、本明細書において、「分散」とは、溶液中でチンダル現象(溶液に光を通したときに、光の入射方向より斜めより見ると光の通路が見える現象)が確認できる状態を指す。この状態では、目視で液体は濁って見え、NDの粒子が凝集し、光の波長(300ナノメートル)以上の大きさで、溶液中に存在していると考えられる。
一方「溶解」とは、溶液中でチンダル現象は確認できない状態を指す。溶液は目視で濁りがなく見える。この状態では、NDは300ナノメートル未満の大きさで、溶液中に存在していると考えられる。
【0010】
(基油)
本実施形態のND組成物に含まれる基油とは、通常、潤滑油において添加剤などを混入する前の油のことであり、特に限定されるものではない。潤滑油の基油として広く使用されている鉱油及び合成油が好適に用いられる。
潤滑油として用いられる鉱油は、一般的に、内部に含まれる炭素―炭素二重結合を水素添加により飽和して、飽和炭化水素に変換したものである。このような鉱油としては、パラフィン系基油、ナフテン系基油等が挙げられる。
合成油としては、合成炭化水素油、エーテル油、エステル油等が挙げられる。具体的には、ポリα-オレフィン、ジエステル、ポリアルキレングリコール、ポリアルファオレフィン、ポリアルキルビニールエーテル、ポリブテン、イソパラフィン、オレフィンコポリマー、アルキルベンゼン、アルキルナフタレン、ジイソデシルアジペート、モノエステル、二塩基酸エステル、三塩基酸エステル、ポリオールエステル(トリメチロールプロパンカプリレート、トリメチロールプロパンペラルゴネート、ペンタエリスリトール2-エチルヘキサノエート、ペンタエリスリトールペラルゴネート等)、ジアルキルジフェニルエーテル、アルキルジフェニルサルファイド、ポリフェニルエーテル、シリコーン潤滑油(ジメチルシリコーン等)、パーフルオロポリエーテル、1,2,4-トリメチルベンゼン等が好適に用いられる。これらの中でも、ポリα-オレフィン、ジエステル、ポリオールエステル、ポリアルキレングリコール、ポリアルキルビニールエーテル、1,2,4-トリメチルベンゼンがより好適に用いられる。
これらの鉱油や合成油は、1種を単独で用いてもよく、これらの中から選ばれる2種以上を任意の割合で混合して用いてもよい。
基油は、後述する変性工程において、変性処理を行うことにより、基油を構成する分子の化学結合が開裂(以下、“結合開裂”)し、その結果、化学反応性に富むラジカルが発生し、このラジカルがNDに付加反応して、ND付加体を形成すると考えられる。基油は、変性処理によって、炭素-炭素結合やシリコーンのケイ素-酸素結合が切れたり、水酸基から水素が引き抜かれることによって、ラジカルが発生する。すなわちND分散体の変性処理を行うことにより、NDより、基油への親和性の高いND付加体となる。ND付加体とは、変性処理することにより基油や後述する反応性成分由来の基がNDに付加した化合物を指す。NDは凝集しやすく、通常は、基油との親和性が低いため基油に混合しても凝集したままか、あるいは更に大きな凝集粒子になるが、変性処理することで基油への親和性が向上したND付加体が形成され、NDの基油への分散性が向上すると考えられる。そのためND組成物は、NDの凝集体ではなく、ND付加体を高分散させ、溶解した状態で含んでいるため、基油の耐摩耗性や低摩擦性を向上することができる。
【0011】
(ナノダイヤモンド:ND)
ナノダイヤモンドとは、ナノマテリアルの一種で粒子状のダイヤモンドである。ナノダイヤモンドは一次粒子の粒径が2ナノメートル以上、20ナノメートル以下であることが好ましく、4ナノメートル以上、15ナノメートル以下であることがより好ましい。NDは、例えば、爆轟法により製造したナノダイヤモンドを用いることができる。爆轟法は、TNT(トリニトロトルエン)とトリメチレントリニトロアミンとを密閉容器内で反応(爆発)させる方法である。ここで、ナノダイヤモンドの一次粒子の数平均粒径は、固体であれば、粒子の大きさに応じて透過型電子顕微鏡(TEM)あるいは走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて観察した画像を解析することによって求められる。またナノダイヤモンドが液体中に分散している場合は、動的レーザー散乱法を用いて重量粒度分布から重量平均粒子径を測定する。液体中に分散していても、乾燥させて固体のナノダイヤモンドにしてから、TEMやSEMで測定しても良い。
NDは、水や極性有機溶媒への溶解性を高めるために、例えば、特許文献1で開示されるNDのように表面にアミン結合(-NH-)、エーテル結合(-O-)、カルボキシル結合(-COO-)、フェニル基(-PH)、チオエーテル結合(-S-)などを介して、ポリグリセリル基などを導入したNDを用いてもよい。これらの表面修飾したNDを、本実施形態におけるND組成物とすることで、基油への溶解性が向上し、耐摩耗性及び低摩擦性を向上することができる。
【0012】
(反応性成分)
ND分散体には、またNDの溶解性を向上させる目的で反応性成分を添加してもよい。NDの基油への親和性が高くない場合、後述する第一工程でNDが凝集するのを防ぐ目的で、反応性成分を添加し、反応性成分中にNDを分散させることができる、その結果基油中にNDが凝集せず分散させることができるため、その後の工程を効率よく進めることができる。反応性成分は、NDの溶解性を向上させるために、NDとの親和性が高く、更に基油とも親和性が高いものが好ましい。また更に後述する変性処理で、ラジカルを発生させNDに付加する化合物であることが好ましい。NDは基油だけでなく反応性成分とも化学結合することにより、更にNDの基油への溶解性が向上する。
反応性成分は、ラジカル発生しやすい化合物で、かつ基油への溶解性の点で基油と親和性が高い化合物であることが好ましく、また、約200℃以下でNDに化学結合する化合物であることが好ましい。
また反応性成分として、用途に適した別の種類の基油を用いても構わない。
【0013】
反応性成分としては、例えば、基油に該当しない、パラフィン、オレフィン、ナフテン、芳香族等の炭化水素、アルコール、ポリエーテル、ポリエステル等の骨格を有する化合物が好ましい。
また、反応性成分は、約200℃以下でNDに化学結合させるという点では、例えば、側鎖や環を有する飽和炭化水素、ジエン、芳香族等の不飽和炭化水素、環を複数有する芳香族、アルキル側鎖を有する芳香族、エーテル結合を有する化合物、エステル結合を有する化合物、リン酸エステル結合を有する化合物、ジスルフィド結合を有する化合物、フェノール水酸を有する化合物及びシリコーンが好ましい。
【0014】
このような反応性成分としては、具体的には、直鎖または分岐した炭化水素(例えば、ヘキサン、デカン、シクロヘキサン、イソブタン、デカリン等)、不飽和2重結合を有する炭化水素(例えば、ヘキサセン、ペンタセン、シクロヘキセン、デセン、テレピン油、テルペン誘導体、α-オレフィン等)、アルキルを有する芳香族炭化水素(例えば、ドデシルベンゼン、ヘキサベンゼン、エチルベンゼン、トリメチルベンゼン、テトラメチルベンゼン、クメン、メチルナフタレン、アントラセン、ブタセン、ヘキサセンなどの多環芳香環の炭化水素等)、アルコール(例えば、エタノール、ブタノール、ヘキサノール、デカノール)、エーテル結合を有する化合物(例えば、プロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、トリプロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリエチレングリコール、テトラヒロドフラン等)、エステル基を有する化合物(例えば、酢酸エチル、酢酸オクチル等)、γ-ブチロラクトンや脂肪(脂肪酸グリセリンエステル)、リン酸エステル結合を有する化合物(例えば、リン酸トリクレジル(TCP)、リン酸トリフェニル(TPP)、2,6-ジ-tert-ブチルフェノール(DTP)等)、ジスルフィド結合を有する化合物(例えば、ジベンジルジサルファイド(DBDS)、ジ-p-トリルジスルフィド(DTDS)等)、フェノール水酸を有する化合物(例えば、3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシトルエン(BHT)、ブチルヒドロキシアニソール(BHA)、2,6-ブチルフェノール(DTP)、ビス(3、5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)メタン(BDBA)、2,4,6-トリブチルフェノール(TBP)等)、ジアゾ化合物、シリコーン、等が挙げられ、さらに、これらの組み合わせが挙げられる。
上記のうち、特にアルコール、ポリエーテル、グリコールは、NDの溶解性が高いため、好ましい。
反応性成分を混合する場合、NDの質量に対して、10~10000倍量の反応性成分混合することが好ましく、30~5000倍量混合することがより好ましく、更に50~1000倍量混合することがより好ましい。
【0015】
これらの反応性成分がNDに付加する場合は、上述した基油と同様、後述する変性処理を行うことにより、反応性成分を構成する分子の化学結合が開裂(以下、“結合開裂”)し、その結果、化学反応性に富むラジカルが発生し、このラジカルがNDに付加反応して、ND付加体を形成すると考えられる。
ND分散体の変性処理を行うことにより、NDより基油への親和性の高いND付加体となり、その結果、基油への溶解性が向上すると考えられる。
反応性成分がNDに付加したND付加体では、NDの表面に上記の反応性成分の分子(基)が存在する。したがって、ND付加体は、その表面に存在する反応性成分より得られる基により、基油との親和性に優れる。よって、ND組成物がND付加体を含むことにより、基油の耐摩耗性及び低摩擦性を向上することができる。
【0016】
本実施形態のND組成物は、後述するND組成物の製造方法により製造されるND組成物である。
【0017】
本実施形態のND組成物は、潤滑油、潤滑グリース、作動油、加工油等の各種用途に使用することができる。
【0018】
[ND組成物の製造方法]
本実施形態のND組成物の製造方法は、基油とNDとを混合し、NDの溶解成分を基油中に溶解し、基油とNDの混合物を得る分散工程(以下、「第一工程」ともいう。)と、ND分散体への熱処理及び放射線照射の少なくとも一方を行う変性工程(以下、「第二工程」ともいう。)と、を含む。
さらに、本実施形態のND組成物の製造方法は、第一工程以降に、混合物に含まれる粗粒成分を除去する工程(以下、「第三工程」ともいう。)を含んでもよい。第一工程にて、NDと基油の混合物であるND分散体を得る。第一工程後のND分散体は、第二工程を経て、ND付加体を形成し、このND付加体を含んだND組成物を得る。
さらに、本実施形態のND組成物の製造方法は、第二工程の後に、ND組成物に残存した反応性物質を除去する工程(以下、「第四工程」ともいう。)を含んでもよい。
【0019】
以下、本実施形態のND組成物の製造方法を詳細に説明する。
(第一工程)
原料のNDと基油を混合させる。必要に応じて、反応性成分の混合も行う。反応性成分は、NDと混合してから基油に混合しても良く、NDと基油を混合したものに加えても良く、NDと基油と同時に加えても良い。これらのうち、反応性成分はNDと混合してから基油に添加するのが好ましい。
原料のNDの仕込み量は、例えば、最終的に調製したいND組成物のND濃度を考慮して、計算上、基油に対して所望のNDの濃度が得られるND量の1.0倍~100倍、より好ましくは1.0倍~20倍とする。1.0倍以上であれば、所望のNDの濃度を満たすことができる。また100倍以下であれば、粗粒成分を除去する第三工程において、例えばろ過の途中で濾過速度の低下が生じにくく、実施時間を比較的短くできる。さらに、過剰量のNDを添加することが避けられるため、NDの原料コスト上昇を抑制できる。
【0020】
前記ND分散体は、NDの濃度が1質量ppm(0.0001質量%)以上10000質量ppm(1.0質量%)であることが好ましく、1質量ppm(0.0005質量%)以上1000質量ppm(0.1質量%)であることがより好ましく、1質量ppm(0.001質量%)以上100質量ppm(0.001質量%)であることがさらに好ましい。NDの濃度が上記範囲であれば、NDの添加による、効果を長期間維持することができる。また、ND組成物の使用時におけるNDの劣化等による、NDの濃度の低下を補うことができる。
【0021】
原料のNDと、必要に応じて反応性成分を基油に投入したら、必要に応じて攪拌機等の分散手段を用いて、室温付近で1時間~48時間の分散処理を施す。このときの分散処理は、NDを基油中にできるだけ分散させるのが目的である。
【0022】
原料NDは、その表面層が、配位的に不飽和な原子の割合が大きいので、隣接粒子の表面原子間で作用し得るファンデルワールス力の総和が大きくて凝集しやすい。通常、数百ナノナノメートルから数ミクロンの大きさに凝集している。第一工程で得られたND分散体を、第二工程で効率よく変性処理するために、NDの凝集体を解砕することが好ましい。この解砕処理は、第一工程の前から第二工程を実施するまでの間のいずれの段階で行っても良く、複数の工程で複数回行っても良い。第一工程の前や第二工程の前に解砕処理を行うと、第二工程での変性処理効果が得やすいという利点がある。また第一工程及び/または第二工程実施時に同時に行うと、上述した効果とともに、工程数を減らせる利点がある。
NDを解砕するための解砕手段としては、例えば、超音波分散装置、ホモジナイザー、ボールミル、ビーズミル、三本ロール、ニーダー等が挙げられる。特に、凝集体を解砕する能力を備えるミクロビーズ法が好ましい。ビーズミルを用いることで、原料NDは、100ナノメートル以下の凝集体にまで解砕することができる。
【0023】
(第二工程)
第一工程で得たND分散体を第二工程の変性工程で変性処理し、ND組成物を得る。
第二工程では、ND分散体を変性処理することにより、基油及び/または反応性成分を開裂させ、NDに化学結合させて、ND付加体を形成する。そのため、変性処理後に得られるND組成物におけるNDの濃度は、変性処理前のND分散体におけるNDの濃度よりも低くなる。言い換えれば、変性処理後により、ND付加体が形成されるので、NDは消費され、その濃度は、変性処理前よりも低くなる。
【0024】
第二工程では、変性処理としては、ND分散体を加熱する、放射線照射する、あるいは加熱と放射線照射を同時に行う方法が挙げられる。加熱は、ND分散体を収納した容器を加熱することで行うことができる。放射線照射は、放射線を発する光源を、ND分散体を収納した容器の内部に配置、あるいは容器の外部に配置し、それぞれ放射線をND分散体に照射させることで行うことができる。後者の場合は、容器は放射線が透過する材質である必要がある。また、放射線照射の際に、容器を加熱することで、熱と放射性照射を同時に行うことができる。
【0025】
変性処理を加熱で行う場合、ND分散体の加熱温度は、基油や反応性成分が蒸発してND分散体の重量が減少しすぎない温度が好ましい。ただし、この温度を超えても、蒸発成分を冷却管等で回収し、基油に戻す操作を行う場合、あるいは、圧力容器内で圧力をかけて蒸発を抑えた状態で熱処理する場合には、ND分散体の加熱温度をND分散体や反応性成分が蒸発する温度よりも高くすることができる。ND分散体の加熱温度が高い程、ND分散体に含まれる基油や反応性成分の結合開裂が速く進行するために、加熱時間を短くすることができる。
またND分散体の変性は、加熱温度を60℃以上にすると、より効果的に結合開裂が進行するため好ましい。工業的にND組成物を製造する場合には、ND分散体の加熱温度は、100℃以上であることがより好ましく、120℃以上であることがさらに好ましい。具体的には混合物の加熱温度は、60℃以上200℃以下であることが好ましく、80℃以上180℃以下であることがより好ましく、100℃以上150℃以下であることがさらに好ましい。この温度範囲であれば、加熱温度が高温で、ND分散体の成分が蒸発したり、ND分散体の結合開裂する基油以外の基油成分が熱分解することで、基油が劣化・変質することを抑制し、更に変性処理も短時間で行うことができる。
また、ND分散体が室温で固体の場合は、加熱により溶融状態とすることが好ましく、加熱温度は溶融温度より高くすることが好ましい。
【0026】
変性処理は、ND分散体に放射線を照射することによっても行うことができる。放射線照射で用いる放射線は、その波長に相当するエネルギー(光子エネルギー)が、基油を基油や反応性成分の結合開裂に要するエネルギーよりも大きいことが好ましい。つまり、宇宙線(光波長1pm未満)、ガンマ線(光波長1pm以上100pm未満)、レントゲン線(光波長100pm以上10nm未満)、紫外線(光波長10nm以上400nm未満)が好ましい。
放射線照射の光子エネルギーは、結合開裂のエネルギーを極度に超え、結合開裂が過剰に進行し、ND付加体以外の成分も生成する可能性が低いことが好ましい。このため放射線照射は一定の範囲の光波長(光子エネルギー)を含んでいるのが良い。具体的には、紫外線(光波長100nm以上450nm未満)が好ましく、より好ましくは、450ナノメートル以下190ナノメートル以上、さらにより好ましく、410ナノメートル以下240ナノメートル以上である。
紫外線照射に用いる光源としては、通常の低圧水銀ランプ、UVオゾンランプ、紫外LED、エキシマランプ、キセノンランプなど用いることができる。
放射線照射の波長は、結合開裂を適度に引き起こし、かつ結合開裂の過剰な進行を抑制するために、適正な範囲で行うことが好ましい。
【0027】
放射線照射の線源照射量は、照射エネルギーとしても規定できる。つまり、あらかじめ光度計を用いて、放射線照射の照射光のエネルギー密度(mW/cm2)を測定しておき、次に照射時間(秒)を規定することにより、照射する放射線照射の光照射エネルギー(J/cm2)を決定する。
具体的なエネルギー量は、ND分散体1mLあたりに照射するエネルギー量は、1~100Jが好ましく、1~50Jがより好ましく、更に2~20Jがより好ましい。
【0028】
上記、加熱と放射照射とは同時に行うこともできる。それぞれ加熱と放射線照射とを独立で行う場合と比較して、処理時間の短縮や、照射エネルギーの低減、あるいは加熱温度を低下させることができる。
【0029】
第一工程で得られたND分散体は、通常第一工程で大気に曝されるため、内部の酸素分子濃度が大気中の酸素と平衡状態になっている。そのため、第二工程は、変性処理を行う際に、ND分散体中の酸素分子濃度を、大気中に放置した状態よりも低下させる操作を含むことが好ましい。酸素分子濃度を低下させることにより、ND付加体が効率よく生成することができる。
混合物中の酸素分子濃度は、10質量ppm以下が好ましく、5質量ppm以下がより好ましく、1質量ppm以下がさらに好ましい。その後、酸素分子濃度を低下させたND分散体を、再び大気に触れさせることなく、熱処理すると良い。
【0030】
酸素分子濃度を低下させた状態で変性処理を行う好ましい方法としては、例えば、下記の3つ方法が挙げられる。
第一の方法を説明する。
気密可能なステンレス等の金属製容器、あるいはガラス等の光透過性のある容器の内部に、第一工程で得られたND分散体を収容する。
次いで、窒素ガスやアルゴンガス等の不活性ガスで容器内を置換するか、あるいは、さらに容器内のND分散体を不活性ガスでバブリングすることにより、ND分散体を不活性ガスと平衡状態にする。
次いで、容器を密閉する。その後、容器を加熱、容器内部に放射線照射、あるいは加熱と放射線照射とを同時に行うことにより、ND分散体を変性処理することができる。
第一の方法では、ND分散体と不活性ガスの平衡状態を保ったまま容器を加熱、放射線照射、あるいは加熱と放射線照射を同時に行うことにより、ND分散体の変性処理を、低酸素雰囲気下で行うことができる。
【0031】
第二の方法を説明する。
気密可能なステンレス等の金属製容器、あるいはガラス等の光透過性のある容器の内部に、第一工程で得たND分散体を収容した後、容器を密閉する。
次いで、容器を減圧して、ND分散体中の酸素分子濃度を低下させる。
次いで、ND分散体中の酸素分子濃度を低下させた状態を保ったまま容器を加熱、容器内部に放射線照射、あるいは加熱と放射線照射とを同時に行うことにより、ND分散体を変性処理することができる。
第二の方法では、ND分散体中の酸素分子濃度を低下させた状態を保ったまま、減圧下で容器を加熱、容器内部に放射線照射、あるいは加熱と放射線照射とを同時に行うことにより、ND分散体の変性処理を、低酸素雰囲気下で行う。
【0032】
第三の方法を説明する。
気密可能なステンレス等の金属製容器、あるいはガラス等の光透過性のある容器の内部に、第一工程で得たND分散体を収容した後、容器を密閉する。
次いで、容器を減圧して、ND分散体中の酸素分子濃度を低下させる。
次いで、窒素ガス等の不活性ガスで容器内を置換するか、あるいは、さらに容器内のND分散体を不活性ガスでバブリングすることにより、ND分散体を不活性ガスと平衡状態にする。
次いで、ND分散体と不活性ガスの平衡状態を保ったまま容器を加熱、容器内部に放射線照射、あるいは加熱と放射線照射とを同時に行うことにより、ND分散体を変性処理することができる。
第三の方法では、ND分散体と不活性ガスの平衡状態を保ったまま容器を加熱、容器内部に放射線照射、あるいは加熱と放射線照射とを同時に行うことにより、ND分散体の変性処理を低酸素雰囲気下で行う。
【0033】
ND分散体中の酸素分子濃度を低くすると、変性処理を行った場合、結合開裂で生成するラジカルが酸素と反応して過酸化物となることを抑制でき、ND分散体の変性処理を効率よく進行させることができる。また、この結果、発生する過酸化物が少なければ、ND分散体が、着色したり、基油の粘度が上昇あるいは低下したり、揮発成分が増えて揮発性が増すなどして、最終的に得られるND組成物の特性を低下させることも抑制できるため好ましい。
【0034】
なお、ND分散体が10分以上大気に触れると、ND分散体中の酸素分子濃度が、大気との平衡状態の濃度に近くなる。このようなND分散体から酸素を低減させた状態で、第二工程の変性処理をすると、ND分散体の構成成分の酸化に起因する劣化が生じにくく、ND組成物の耐熱性が低下する可能性も低くなる。すなわち、ND分散体中の酸素分子濃度が低い程、基油の熱劣化が抑制され、ND組成物の耐熱性が低下しない。ND分散体中の酸素の濃度は、大気中の酸素分子濃度よりも低いことが好ましく、大気中の酸素分子濃度の10分の1以下であることがより好ましい。具体的には、ND分散体中の酸素分子濃度を、10質量ppm以下とすることが好ましく、5質量ppm以下とすることがより好ましく、1質量ppm以下とすることがさらに好ましい。
ND分散体中の酸素分子濃度は、溶存酸素計を用いて測定することができる。なお、酸素分子濃度が低い場合には、工業的には、酸素分子濃度を正確に測定することが難しいため、製造条件を調整することにより、ND分散体中の酸素分子濃度を所定の範囲とする。
変性処理は分散処理を併用することが好ましい。例えば、撹拌機、超音波分散装置、ホモジナイザー、ボールミル、ビーズミル等が挙げられる。
(第三工程)
第一工程や第二工程で得られたND分散体やND組成物には、粗粒成分として、原料のND由来の不純物、NDの凝集物、未溶解のND、基油の不純物、製造過程で混入した粒子(コンタミネーション等)等が含まれる場合がある。そのため、これらの粗粒成分が含まれたND組成物をそのまま用いると、一定以上の大きさのものは、ND組成物と接触している摺動部等が摩耗する等の不具合が生じることがある。そこで、第一工程や第二工程の後に、粗粒成分を除去する第三工程を設けることができる。具体的には、第一工程で得たND分散体あるいは第二工程で得たND組成物をろ過する第三工程を行ってもよい。一定以上の大きさは用途によって異なるが、通常0.1μm以上の大きさの粒子は除去することが好ましい。その場合、例えば0.1μmの濾紙を使用することで除去することができる。
第三工程としては、例えば、(1)メンブランフィルターを用いた除去工程、(2)遠心分離器を用いた除去工程、(3)メンブランフィルターと遠心分離器を組み合わせて用いる除去工程等が挙げられる。これらの除去工程の中でも、濾過時間の点から、少量のND組成物を得る場合は(1)メンブランフィルターを用いた除去工程が好ましく、大量のND組成物を得る場合は(2)遠心分離器を用いた除去工程が好ましい。
【0035】
(第四工程)
第四工程は、ND組成物に含まれる反応性成分を除去する工程である。第三工程の後に、第一工程で混合した反応性成分を除去するのが主な目的になる。反応性成分を除去する方法としては、例えば、加熱または減圧下で加熱して反応性成分を蒸発させる方法等が挙げられる。
第四工程は、第三工程に連続して行うことができる。例えば、第三工程の第一~第三方法では、変性処理を終えた後に、真空ポンプ等を用いて、容器の圧力を減圧することで、ND組成物に含まれる反応性成分を除去することができる。
このとき、ND組成物中の揮発性成分も除去することができる。
【0036】
[ND組成物]
ND組成物を潤滑油として使用する場合、例えば、鉱油系潤滑油、PAO系潤滑油、PVE系潤滑油、POE系潤滑油、シリコン系潤滑油、フッ素系潤滑油の用途で使用することができる。ND組成物をそのままあるいは、一般的に用いられる添加剤を加えて使用できる。また、本実施形態の方法で作製したND組成物を、ND組成物で用いた基油と同じ、あるいは他の種類の基油、あるいは潤滑油組成物に配合することができる。後者は、前者に比べて少量のND組成物を、通常用いている基油や潤滑油に添加して用いることができるため、簡易な製造方法となり好ましい。これらの得られた潤滑油は、耐摩耗性及び低摩擦性を向上することができる。
【0037】
本実施形態の潤滑油組成物の製造方法によれば、耐摩耗性及び低摩擦性に優れる潤滑油組成物が得られる。
【0038】
以上、本発明の好ましい実施の形態について詳述したが、本発明は特定の実施の形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲内に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
【実施例
【0039】
[実施例1]
(ND組成物の調製)
<第一工程>
基油として、鉱油(出光興産製、ダイアナフレシアN28)100g、反応性成分としてヘキサノール(東京化成製)40g、NDとして、ND30(トーメイダイヤ株式会社製、体積平均粒子径30nmのナノダイヤモンド)0.05gとを樹脂製の250mlサンプル容器に入れ、さらに、これに解砕ボールとして、30ミクロンのジルコニアビーズを100g加えて、サンプル容器を毎分60回転で24時間ボールミル解砕を行った。次にジルコニアビーズを取り除いて、ND分散体を得た。
【0040】
<第二工程>
前記ND分散体14gを蓋の部分に2つのガス注入口を取り付けた容量25mlの石英ガラス製の容器内に移し、容器の内部を、ガス注入口の一方から窒素ガスを流し、もう一方から容器内のガスを排気するようにして、30分間放置した後に、窒素ガス注入を中止して、密栓した。この状態で、容器を140℃のオイルバスにつけて8時間放置して加熱した。
ここで、ND分散体に溶存する酸素分子濃度を次の手順で測定した。まず、あらかじめ、n-ドデカン(和光純薬工業株式会社製)100mLを250mLビーカーに取り出し、ここに10分間空気でバブリングした。
次に、溶存酸素計(製品名:B-506、飯島電子工業株式会社製)を用いてこの溶液の酸素分子濃度を基準(飽和度100%)に設定した。
次に、上記第二工程で窒素ガスを流通させる前と後のND分散体の酸素分子濃度を各々測定した。その結果、窒素ガスを流す前は、酸素分子濃度は110%、流した後は7%であった。
次に、n-ドデカンの空気中での飽和酸素分子濃度を73質量ppmとし、この数値と先のND分散体の測定結果の110%及び7%とから、ND分散体の溶存酸素分子濃度を80質量ppmと5ppmとそれぞれ算出した。
【0041】
<第四工程>
オイルバスで8時間放置した後、容器を室温まで冷却し、その後第四工程として、容器のガス注入口の一方に真空ポンプを接続して、容器内部を減圧状態にした。この状態で1時間放置し、容器内部のヘキサノールを除去した。容器内部から高粘性の液体を取り出し、ND組成物を得ることができた。得られたND組成物の質量は、10gであり、未反応のヘキサノールが除去された、基油およびNDやND付加体が残存した状態であった。
得られたND組成物は、チンダル現象は観察されず、また目視で濁りはなく、透明であった。すなわちNDが溶解したと言える。
【0042】
(耐摩耗性及び摩擦性の測定)
第四工程で得られたND組成物について、摩擦摩耗試験機(Anton Paar社製、製品名「ボールオンディスクトライボメーター」)を用いて、耐摩耗性を評価した。
摩擦摩耗試験機を構成する基板及びボールの材質を、高炭素クロム軸受鋼鋼材であるSUJ2とした。なお、ボールは直径が6mm、基板は15cm角を用いた。
まず、基板の一主面に得られたND組成物約1gを塗布した。
次に、ND組成物を介して、基板の一主面上にて、ボールが同心円状の軌道(直径約10cmの円状)を描くように、ボールを摺動させた。基板の一主面上におけるボールの速度を10mm/秒、ボールによる基板の一主面に対する荷重を30Nとした。基板の一主面上におけるボールの摺動距離が積算100mに到達した時点で、ボールを装置より取り出し、ボールの基板との接触面を、光学顕微鏡で観察し、表面のすり減りを、すり減り面の円の最大直径をD(μm)とした。ここで最大直径Dを摩耗係数と定義した。つまり、最大直径Dの数字が小さいほど、摩耗が抑制されており、組成物の特性として好ましい状態である。通常、円形にすり減るが、楕円を帯びる場合がある。その場合は、最大径になる部分を最大直径Dとした。なお、この測定は25±2℃の環境下で行った。
得られたND組成物の摩耗係数を表1に示した。
【0043】
[実施例2]
実施例1で、ND分散体を熱処理する工程で、窒素ガスの代わりに、体積濃度2%酸素ガスを含む窒素ガスを用いたこと以外は、実施例1の操作でND組成物を得た。ガス置換後のND分散体の酸素分子濃度は10%(実施例1と同様に換算した溶存酸素分子濃度は、9質量ppm)であった。また、得られたND組成物は、チンダル現象は観察されず、また目視で濁りはなく、透明な液体であった。
得られたND組成物の耐摩耗性を表1に示す。
【0044】
[実施例3]
実施例1で、ND分散体を熱処理する工程で、窒素ガスの代わりに空気を用いたこと以外は、実施例1と同様の手順でND組成物を得た。空気流通後のND分散体の酸素分子濃度は80%であった。また、得られたND組成物は、チンダル現象は観察されず、また目視で濁りはなく、透明な液体であった。得られたND組成物の耐摩耗性を表1に示す。
【0045】
[比較例1]
比較として、ND分散体にNDを添加しなかったこと、加熱工程を省いたこと以外は実施例1と同様の手順でND組成物を得た。得られたND組成物は、チンダル現象は観察されず、また目視で濁りはなかった。
ND組成物の耐摩耗性を表1に示す。
【0046】
[比較例2]
比較として、ND分散体にNDを添加しなかったこと以外は実施例1の操作でND組成物を得た。得られたND組成物は、チンダル現象は観察されず、また目視で濁りはなかった。
ND組成物の耐摩耗性を表1に示す。
【0047】
[比較例3]
比較として、ND分散体の加熱を省いたこと以外は実施例1の操作でND組成物を得た。得られたND組成物は、チンダル現象が観察され、また目視で僅かに濁りがあった。
ND組成物の耐摩耗性を表1に示す。
【0048】
実施例1~3と、比較例1及び比較例3とを比較すると、耐摩耗性では前者が後者を上回った。つまり、ND分散体に加熱を行ったことにより、得られたND組成物の耐摩耗性が改善された。
実施例3、実施例2、実施例1を比較すると、この順序で耐摩耗性が向上している。つまり、熱処理を行う際の、ND分散体の酸素分子濃度を低下させるほど、得られたND組成物の耐摩耗性が改善された。
比較例3と実施例1とを比較すると、比較例3では、NDが基油である鉱油と親和性が悪く、分散性が低いために、得られたND組成物でチンダル現象が観察され、また濁りが見られた。NDが凝集していることが原因と考えられる。また耐摩耗性もND無添加の比較例1に対してほとんど向上が見られなかった。これに対して、実施例1では、NDは加熱により、NDと鉱油との親和性が向上し、このために、得られたND組成物では、NDが鉱油に分散し、濁りが確認されなかった。また耐摩耗性も向上し、NDを添加した効果が確認された。
比較例2と実施例1を比較すると、NDを添加しなかった比較例2に対し、NDを添加した実施例1は、耐摩耗性が向上し、本発明の方法でNDを添加した効果を確認することができた。
【0049】
[実施例4]
実施例1で、第二工程で加熱を行う代わりに、石英ガラス容器外部より放射線照射として紫外線照射を2回行ったことを除いては、実施例1の操作でND組成物を得た。得られたND組成物は、チンダル現象は観察されず、また目視で濁りはなかった。
紫外線照射は、紫外照射装置(サンエイテック製、オムニキュアS2000)を用い、フィルターを250-450nmとし、照射範囲2cm、出力を1W/cmに設定し、照射タイマーを50秒に設定し、1回の照射で100Jのエネルギーを照射することができる。つまり、2回の照射により、ND分散体に200Jの紫外線を照射した。
ND組成物の耐摩耗性を表1に示す。
【0050】
[実施例5]
実施例4で、紫外線照射を4回行ったことを除いては、実施例4と同様の操作でND組成物を得た。得られたND組成物は、チンダル現象は観察されず、また目視で濁りはなかった。
ND組成物の耐摩耗性を表1に示す。
【0051】
[実施例6]
実施例で、紫外線照射を8回行ったことを除いては、実施例4の操作でND組成物を得た。得られたND組成物は、チンダル現象は観察されず、また目視で濁りはなかった。
ND組成物の耐摩耗性を表1に示す。
【0052】
実施例4~6と、比較例3とを比較すると、耐摩耗性では前者が後者を上回った。つまり、ND分散体に放射線を照射したことにより、得られたND組成物の耐摩耗性が改善された。実施例4~6では、NDが放射線照射により、NDと鉱油との親和性が向上し、その結果得られたND組成物では、NDが鉱油に分散し、濁りが確認されなかったため、耐摩耗性が向上したと考えられる。
【0053】
[実施例7]
実施例1で、加熱しながら、実施例5と同様にして紫外線照射を4回行ったことを除いては、実施例1の操作でND組成物を得た。得られたND組成物は、チンダル現象は観察されず、また目視で濁りはなかった。
ND組成物の耐摩耗性を表1に示す。
実施例7と、実施例1と7とを比較すると、耐摩耗性では前者が後者を上回った。つまり、ND分散体に加熱と放射線照射とを同時に行うことにより、加熱と放射線照射のいずれか一方を行った場合よりも、得られたND組成物の耐摩耗性がやや改善された。
【0054】
[実施例8~12]
実施例1で、容器をステンレス製の耐圧容器としたこと、加熱温度を表1に記載の60℃~200℃としたこと、を除いては、実施例1の操作でND組成物を得た。得られたND組成物は、各実施例においてチンダル現象は観察されず、また目視で濁りはなかった。
ND組成物の耐摩耗性を表1に示す。
【0055】
実施例8~12と比較例3とを比較すると、60℃から200℃の範囲の加熱により、耐摩耗性が改善された。
実施例8~12、および実施例1から、加熱温度100℃と140℃のND組成物で最も耐摩耗性が改善された。次いで、加熱温度80℃と180℃のND組成物で耐摩耗性が改善された。次いで、加熱温度60℃と200℃のND組成物で耐摩耗性が改善された。
【0056】
[実施例13]
実施例1で、得られたND組成物10gを、PAO(ポリ-α-オレフィン、製品名:SpectraSyn(登録商標)、EXXONMOBIL社製))40gに撹拌子を用いて攪拌しながら添加して、希釈ND組成物を得た。得られた希釈ND組成物は、チンダル現象は観察されず、また目視で濁りはなかった。
希釈ND組成物の耐摩耗性を表1に示す。
【0057】
[比較例4]
比較として、実施例1のND分散体の加熱を省いた比較例3で得られたND組成物を使用したこと以外は実施例13と同様の操作で希釈ND組成物を得た。得られた希釈ND組成物は、チンダル現象が観察され、また目視で僅かに濁りがあった。
希釈ND組成物の耐摩耗性を表1に示す。
実施例13と、比較例4とを比較すると、基油を鉱油としたND組成物をPAOに添加して希釈ND組成物を得た場合においても、加熱を行うことによって得られた希釈ND組成物の耐摩耗性が改善されることが確認された。
【0058】
[実施例14]
実施例1で、基油としてPOE(ポリオールエステル型)であるポリオールエステル(POE-A、ユニスター(登録商標)H-334R、日油株式会社製)を100gとし、反応性成分としてジエチレングリコール(東京化成製)を40gとしたことを除いては、実施例1の操作でND組成物を得た。得られたND組成物は、チンダル現象は観察されず、また目視で濁りはなかった。
第四工程を経て、得られたND組成物の質量は、10gであり、溶剤が除去された、基油およびNDが残存した状態であった。
ND組成物のチンダル現象と濁り及び耐摩耗性を表1に示す。
【0059】
[実施例15]
実施例14で、加熱の代わりに、実施例5で行った紫外線照射を4回行ったことを除いては、実施例14と同様の操作でND組成物を得た。得られたND組成物は、チンダル現象は観察されず、また目視で濁りはなかった。
第四工程を経て、得られたND組成物の質量は、10gであり、溶剤が除去された、基油およびNDが残存した状態であった。
ND組成物のチンダル現象と濁り及び耐摩耗性を表1に示す。
【0060】
[比較例5]
比較として、ND分散体の加熱を省いたこと以外は実施例14の操作でND組成物を得た。得られたND組成物は、チンダル現象が観察され、また目視で僅かに濁りがあった。
ND組成物のチンダル現象と濁り及び耐摩耗性を表1に示す。
実施例14と15と、比較例5とを比較すると、ポリオールエステル型を基油とするND分散体においても、加熱あるいは放射線を照射したことにより、得られたND組成物の耐摩耗性が改善された。
【0061】
[実施例16]
実施例1で、ND分散体の作製で反応性成分を用いなかったことと、ボールミル解砕を行わなかったこと、および窒素による酸素除去を行わず大気雰囲気でND分散体の加熱を行ったこと、を除いては、実施例1の操作と同様にしたND組成物を得た。
ND組成物のチンダル現象と濁り及び耐摩耗性を表1に示す。
【0062】
[実施例17]
実施例4で、ND分散体の作製で反応性成分を用いなかったこと、解砕ボールを用いたボールミル解砕を行わなかったこと、窒素による酸素除去を行わず大気雰囲気でND分散体の加熱を行ったこと、を除いては、実施例4と同様の操作でND組成物を得た。
ND組成物のチンダル現象と濁り及び耐摩耗性を表1に示す。
【0063】
[比較例6]
比較として、ND分散体の加熱を省いたこと以外は実施例16の操作でND組成物を得た。
ND組成物のチンダル現象と濁り及び耐摩耗性を表1に示す。
実施例16及び実施例17と比較例6とを比較すると、加熱や放射線照射をしたことにより、得られたND組成物の耐摩耗性が改善されることが確認された。
【0064】
[実施例18]
実施例1で、ND分散体の作製で解砕ボールを用いたボールミル解砕を行わなかったこと、窒素ガスによる酸素除去を行わず大気雰囲気でND分散体の加熱を行ったこと、を除いては、実施例1の操作でND組成物を得た。
ND組成物のチンダル現象と濁り及び耐摩耗性を表1に示す
【0065】
[比較例7]
比較として、ND分散体の加熱を省いたこと以外は実施例18の操作でND組成物を得た。
ND組成物のチンダル現象と濁り及び耐摩耗性を表1に示す。
【0066】
実施例18と比較例7とを比較すると、加熱をしたことにより、得られたND組成物の耐摩耗性が改善された。
【0067】
[実施例19]
実施例1で、ND分散体の作製で反応性成分を用いなかったこと、窒素ガスによる酸素除去を行わず大気雰囲気でND分散体の加熱を行ったこと、を除いては、実施例1の操作でND組成物を得た。
ND組成物のチンダル現象と濁り及び耐摩耗性を表1に示す
【0068】
[比較例8]
比較として、ND分散体の加熱を省いたこと以外は実施例19の操作でND組成物を得た。
ND組成物のチンダル現象と濁り及び耐摩耗性を表1に示す。
【0069】
実施例19と比較例8とを比較すると、加熱をしたことにより、得られたND組成物の耐摩耗性が改善された。
【0070】
[実施例20]
実施例17で、第一工程において、解砕処理を行わず鉱油を攪拌子で約200rpmで攪拌しながらNDを添加し、その後実施例1と同様のボールミルによる解砕処理を行ったことを除いては、実施例17の操作でND組成物を得た。
ND組成物のチンダル現象と濁り及び耐摩耗性を表1に示す
実施例17と実施例20の結果から、解砕処理を第一工程の後行っても耐摩耗性が向上することが確認された。
【0071】
[実施例21]
実施例1で、第二工程と第四工程との間に、第三工程として、0.1ミクロンのメンブランフィルターでろ過し、ND組成物を得たことを除いては、実施例1の操作でND組成物を得た。
ND組成物のチンダル現象と濁り及び耐摩耗性を表1に示す
実施例21と実施例1の結果から、第三工程を設けることで、耐摩耗性が向上することが確認された。
【0072】
【表1】