(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-16
(45)【発行日】2023-10-24
(54)【発明の名称】低流動化泥土用の固化不溶化中性改質材及び当該改質材を用いた低流動化泥土改質工法
(51)【国際特許分類】
C09K 17/42 20060101AFI20231017BHJP
B09C 1/08 20060101ALI20231017BHJP
C02F 11/00 20060101ALI20231017BHJP
E21D 9/06 20060101ALI20231017BHJP
E21D 9/13 20060101ALI20231017BHJP
【FI】
C09K17/42 P ZAB
B09C1/08
C02F11/00 C
C02F11/00 101Z
E21D9/06 301L
E21D9/13 C
(21)【出願番号】P 2019213006
(22)【出願日】2019-11-26
【審査請求日】2022-08-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000183266
【氏名又は名称】住友大阪セメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100116687
【氏名又は名称】田村 爾
(74)【代理人】
【識別番号】100098383
【氏名又は名称】杉村 純子
(72)【発明者】
【氏名】林 慎太郎
(72)【発明者】
【氏名】國西 健史
(72)【発明者】
【氏名】下川 吉信
(72)【発明者】
【氏名】中村 丞吾
【審査官】柴田 啓二
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-015731(JP,A)
【文献】特開2013-170189(JP,A)
【文献】特開2019-177301(JP,A)
【文献】特開2016-193802(JP,A)
【文献】特開2019-056081(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K 17/00
B09C
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機高分子エマルジョンを主成分とする加泥材を含
みコーン指数が50~200kN/m
2
である低流動化させた泥土に用いる改質材であって、酸化カルシウム、酸化マグネシウム、硫酸第一鉄及び炭酸カルシウムを必須含有成分とし、酸化カルシウムを
5~15質量%、硫酸第一鉄を
3~20質量%、炭酸カルシウムを50質量%以上の割合で含有し、酸化カルシウム100質量部に対し、酸化マグネシウムを10~100質量部の割合で、更に硫酸第一鉄を
20~200質量部の割合で含有することを特徴とする、固化不溶化中性改質材。
【請求項2】
請求項1記載の固化不溶化中性改質材において、更に高分子凝集剤を、酸化カルシウム、酸化マグネシウム、硫酸第一鉄及び炭酸カルシウムの合量100質量部に対し、10質量部以下で含有することを特徴とする、固化不溶化中性改質材。
【請求項3】
請求項2記載の固化不溶化中性改質材において、高分子凝集剤は、ポリアクリルアミドを主成分とし、0.25%水溶液とした際の粘度が400mPa・s以上であることを特徴とする、固化不溶化中性改質材。
【請求項4】
請求項1乃至3いずれかの項記載の固化不溶化中性改質材は、粉末形態であることを特徴とする、固化不溶化中性改質材。
【請求項5】
請求項1乃至4いずれかの項記載の固化不溶化中性改質材において、加泥材の主成分である有機高分子エマルジョンは、ポリアクリルアミド系エマルジョンであることを特徴とする、固化不溶化中性改質材。
【請求項6】
請求項1乃至5いずれかの項記載の固化不溶化中性改質材を、有機高分子エマルジョンを主成分とする加泥材を含む低流動化泥土と混合して用いることを特徴とする、固化不溶化中性改質工法。
【請求項7】
請求項6記載の固化不溶化中性改質工法において、前記固化不溶化中性改質材を前記泥土と混合処理した処理土壌の材齢7日後の土壌のpHが5.8~8.6で砒素の溶出量が0.01mg/L以下でコーン指数が200kN/m
2以上とすること特徴とする、固化不溶化中性改質工法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低流動化泥土用の固化不溶化中性改質材及び当該改質材を用いた低流動化泥土改質工法に関し、特に高含水浚渫土やシールド発生土等の泥土を有機高分子エマルジョン型の加泥材や噴発防止剤等で低流動化させた土壌に対して添加することにより、砒素等の重金属等を不溶化、吸着することで溶出を低減させる性能、土壌pHを中性領域とする性能、締め固めた土壌のコーン指数等の強度向上性能である土壌改質性能を有する、低流動化泥土用の固化不溶化中性改質材及び当該改質材を用いた低流動化泥土改質工法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来は、浚渫土やシールド発生土等の泥土は高含水や起泡剤の影響で流動性が高いため、脱水乾燥等の処理を行い、所定の強度を有さなければ場外搬出が困難であった。
また、これらの泥土は自然由来の低濃度の砒素や鉛などの重金属等が溶出するものが多く存在しており、これらの土壌を盛土等に有効活用するには、所定の強度が出るよう改質するだけではなく、重金属等を溶出量基準値以下に不溶化することや、植生や水生生物への影響を低減するために改質土を中性領域に維持する必要がある。
【0003】
これらの浚渫土やシールド発生土等の高含水泥土について、短時間で取扱を向上させて低流動化させるために、一般的には、有機高分子を含むエマルジョンを主成分とする加泥材を添加して処理することがある。なお、「加泥材」は泥土改質材や噴発防止剤とも称されている(以下、「加泥材」と称す)。
加泥材により、高含水泥土を団粒化させてある程度の強度を有するように改質することは可能であるが、多量に添加すると水生生物への影響を与える場合があり、また公知の加泥材は重金属等を不溶化する性能は乏しく、強度発現のための固化性能や重金属等の不溶化については、さらに固化材や不溶化材を添加しなければならなかった。
【0004】
従来の固化材としては、セメント系固化材やMgO(酸化マグネシウム)系の固化材または生石灰や高炉スラグ系材料が知られているが、セメントや生石灰等は、土壌pHが強アルカリ性となる影響を及ぼすため降雨等により強アルカリ性の地下水が周辺環境へ流れ出てしまい、また、植生への影響が考えられ好ましくない。また重金属不溶化能力が低いため、中性領域では溶出していなかった重金属類が溶出する問題がある。
【0005】
また、従来の不溶化材としては、MgO系不溶化材、半焼成ドロマイト系不溶化材、鉄系不溶化材やアルミ系不溶化材が知られている。
しかし、MgO(酸化マグネシウム)系不溶化材は、改質後土壌のpHが10以上とアルカリ性が強く、不溶化土壌のpHが長期的に高い状態が続き、高pHの地下水が周辺環境へ流れ出てしまい、植生への影響が懸念されている。
半焼成ドロマイトはpHが9~10のアルカリ性であり、鉄系不溶化材は主に鉄塩の形態を有して酸性を呈し、アルミ系不溶化材にポリ塩化アルミニウムや硫酸アルミニウム等があり酸性を呈するものである。
【0006】
固化性能と不溶化性能を有する材料を用いた工法として、特開2017-051884号公報(特許文献1)には、(A)気泡シールド工法で発生する泥土に、アニオン性高分子凝集剤100質量部およびカチオン性高分子凝集剤0.05~50質量部を含む高分子凝集剤を添加して、該高分子凝集剤を添加した泥土について、粉砕および混合の処理を行ない、高分子凝集剤を含む泥土を得る凝集剤添加工程、および、(B)上記高分子凝集剤を含む泥土に、マグネシウム成分および金属硫酸塩と金属塩化物の中から選ばれる少なくとも1種からなる金属塩を含む固化不溶化材を添加して混合し、処理済みの泥土を形成させる固化不溶化材添加工程、を含むことを特徴とする気泡シールド工法で発生する泥土の処理方法が記載されている。
【0007】
また、特開2018-015731号公報(特許文献2)には、気泡シールド工法で発生する泥土に、カチオン性高分子凝集剤を添加することなく、アニオン性高分子凝集剤を添加して混合し、高分子凝集剤を含む泥土を得る凝集剤添加工程、および、上記高分子凝集剤を含む泥土に、固化作用を有するマグネシウム成分および/またはカルシウム成分、並びに、金属硫酸塩と金属塩化物の中から選ばれる少なくとも1種からなる金属塩を含む固化不溶化材を添加して、粉砕および混合の処理を行ない、処理済みの泥土を形成させる固化不溶化材添加工程を含む、気泡シールド工法で発生する泥土の処理方法であって、上記固化不溶化材添加工程における粉砕が、上記高分子凝集剤および固化不溶化材を含む泥土の50%通過質量百分率が7mm以下になるまで行なわれることを特徴とする気泡シールド工法で発生する泥土の処理方法が記載されている。
【0008】
更に、特開2019-177301号公報(特許文献3)には、CaCO3の含有量が0≦x≦75.5(質量%)でCaO(酸化カルシウム)の含有量が、2.3≦x≦75.5(質量%)である焼成ドロマイトと、還元剤とを、質量比9:1~1:9の割合で含有することを特徴とする、重金属等不溶化材が記載されている。
【0009】
上記従来の材料はアルカリ性のMgO系やCaO系の材料で土壌固化による強度向上や不溶化性能を向上させ、酸性の硫酸第一鉄や硫酸アルミニウム等と所定の配合比で組み合わせることで砒素等の重金属を不溶化し、さらに他の含有成分や助剤で固化性能を高めることで、土壌pHを中性領域とし固化不溶化性能を高めることを可能とするものである。
【0010】
しかし、これらの従来の不溶化固化材は、有機高分子を含むエマルジョンを主成分とする加泥材を添加して低流動化した泥土に対して添加すると、強度発現性能を阻害するという懸念がある。
これは、加泥材の主成分はポリアクリルアミド系のエマルジョンであり、水生毒性への影響を避けるために、主に負に帯電したアニオン性が支配的なものが使用されており、これらの有機高分子が泥土に含まれる正に帯電した土粒子に吸着して架橋化が進行し、土壌中の間隙水を取り込みながら団粒化することで、泥土を低流動化しているものである。このような状態で、多価陽イオン、特に三価の陽イオンが溶出する鉄系やアルミ系の水溶性材料を大量に添加すると、高分子と反応して電荷が中和されて架橋構造が乱され、高分子が抱えていた間隙水が流出し、土壌が再泥化し強度が低下するという問題を有している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【文献】特開2017-051884号公報
【文献】特開2018-015731号公報
【文献】特開2019-177301号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の目的は、上記課題を解決し、高含水や起泡剤の影響で流動性が高い浚渫土やシールド発生土等の泥土に有機高分子エマルジョンである加泥材を配合して低流動化させた低流動化泥土が、再泥化することなく、土壌から溶出する重金属等を不溶化することができ、処理土壌の強度を向上させて改質する固化性能とともに、改良土のpHを中性領域に改質することができる、新規な固化不溶化中性改質材を提供することである。
【0013】
また、本発明の他の目的は、高含水や起泡剤の影響で流動性が高い浚渫土やシールド発生土等の泥土に有機高分子エマルジョンである加泥材を配合して低流動化させた低流動化泥土に対して、上記本発明の固化不溶化中性改質材を適用して重金属等を不溶化するとともに、処理土壌の固化による強度向上及びpHを中性化するという土壌改質性能を発揮する、上記本発明の固化不溶化中性改質材を用いた固化不溶化中性改質工法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、特定の材料を必須含有材料とし、特定の配合割合で含むこと等により、上記課題が解決できることを見出し、本発明に到ったものである。
【0015】
(1)本発明の固化不溶化中性改質材は、有機高分子エマルジョンを主成分とする加泥材を含みコーン指数が50~200kN/m
2
である低流動化泥土に用いる改質材であって、酸化カルシウム、酸化マグネシウム、硫酸第一鉄及び炭酸カルシウムを必須含有成分とし、酸化カルシウムを5~15質量%、硫酸第一鉄を3~20質量%、炭酸カルシウムを50質量%以上の割合で含有し、酸化カルシウム100質量部に対し、酸化マグネシウムを10~100質量部の割合で、また硫酸第一鉄を20~200質量部の割合で含有することを特徴とする、固化不溶化中性改質材である。
【0016】
(2)上記(1)の固化不溶化中性改質材において、更に高分子凝集剤を、酸化カルシウム、酸化マグネシウム、硫酸第一鉄及び炭酸カルシウムの合量100質量部に対し、外割で10質量部以下で含有することを特徴とする。
(3)上記(2)記載の固化不溶化中性改質材において、高分子凝集剤は、ポリアクリルアミドを主成分とし、0.25%水溶液とした際の粘度が400mPa・s以上であることを特徴とする。
【0017】
(4)上記(1)~(3)いずれかに記載の固化不溶化中性改質材は、粉末形態であることを特徴とする。
(5)上記(1)~(4)いずれかに記載の固化不溶化中性改質材において、加泥材の主成分である有機高分子エマルジョンは、ポリアクリルアミド系エマルジョンであることを特徴とする。
【0018】
(6)本発明の固化不溶化中性改質工法は、上記(1)~(5)いずれかの項記載の固化不溶化中性改質材を、有機高分子エマルジョンを主成分とする加泥材を含む低流動化泥土と混合して用いることを特徴とする、固化不溶化中性改質工法である。
【0019】
(7)上記(6)記載の固化不溶化中性改質工法において、固化不溶化中性改質材を前記泥土と混合処理した処理土壌の材齢7日後の土壌のpHが5.8~8.6で砒素の溶出量が0.01mg/L以下でコーン指数が200kN/m2以上とすること特徴とする。
【0020】
なお、本発明において、「低流動化泥土」とは、高含水浚渫土やシールド発生土等の泥土に、有機高分子エマルジョン等の公知の加泥材を添加配合して泥土の流動性を低減させた土壌を意味し、具体的には国土交通省の「発生土利用基準について」に示される泥土のうち、コーン指数が約50~約200kN/m2となったものを意味するものである。
【発明の効果】
【0021】
本発明の固化不溶化中性改質材及び当該改質材を用いた固化不溶化中性改質工法は、有機高分子エマルジョンを主成分とする加泥材を泥土に添加して流動性を低減させた低流動化泥土に対して、土壌中の重金属等を効果的かつ長期的に不溶化することができ、再泥化することなく、処理土壌の固化による強度向上との土壌改質性能を有するとともに、処理土壌のpHを中性領域に保持することができる。したがって、高含水浚渫土やシールド発生土等の泥土を有効に上記改質処理することが可能となる。
なお、本発明において、「中性領域」とは、環境省の一律排水基準にて規定される中性領域であるpH5.8~8.6であることを意味するものである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明を以下の好適な形態により説明するが、これらに限定されるものではない。
本発明の固化不溶化中性改質材は、有機高分子エマルジョンを主成分とする加泥材を含む加泥材を含む低流動化泥土に用いる改質材であって、酸化カルシウム、酸化マグネシウム、硫酸第一鉄及び炭酸カルシウムを必須含有成分とし、酸化カルシウムを3~30質量%、硫酸第一鉄を1~20質量%、炭酸カルシウムを50質量%以上の割合で含有し、酸化カルシウム100質量部に対し、酸化マグネシウムを10~100質量部の割合で、更に硫酸第一鉄を10~200質量部の割合で含有する、固化不溶化中性改質材である。
【0023】
本発明の固化不溶化中性改質材は、浚渫度やシールド発生土等の高含水の泥土に加泥材を加えて流動化を低減させた低流動化泥土に適用するものである。
加泥材としては、公知の加泥材を用いることができ、例えば有機高分子エマルジョン型、例えばポリアクリルアミド系エマルジョンを主成分とする加泥材が一般的である。かかる加泥材の添加により高含水の泥土をある程度の強度に改質することは可能であるが、得られた低流動化泥土は、かかる低流動化泥土上をトラック等の重機で走行するにはまだ十分な強度ではない程度の強度であり、コーン指数が約50~約200kN/m2の低流動化した泥土であって、本発明の固化不溶化中性改質材を適用する対象となる土壌は、かかる低流動化泥土である。
かかる土壌に、本発明の固化不溶化中性改質材を適用することで、pHを中性領域に維持することが可能である等の上記効果を有するものである。
【0024】
本発明の固化不溶化中性改質材は、好ましくは粉末形態である。粉末形態とすることで、施工現場での取扱や施工性が容易となり、また、低流動化泥土と混合した際に、土壌中に分散する重金属等を効率的に吸着して不溶化することができる。
さらに、本発明の固化不溶化中性改質材を粉末形態とすることで、土壌中の水分と接触して水和物を析出させて土壌を団粒化しやすくなることにより土壌の強度を向上することができ、効率的に土壌を改質することが可能となる。
【0025】
ここで、重金属等としては、重金属やハロゲンを意味し、重金属としては、例えば、マンガン、クロム、銅、カドミウム、水銀、セレン、鉛、砒素、カドミウム等の1種若しくは2種以上のもので、かつ重金属単体及びその化合物が例示でき、またハロゲンとしてはフッ素、塩素等の単体及びその化合物が例示できる。さらにこれらに加え土壌汚染対策法に規定される第2種特定有害物質(環水大土発第1703313号:環境省)に含まれるホウ素単体及びその化合物を例示することができるが、これらの重金属やハロゲンに限定されるものではない。
【0026】
本発明においては、固化不溶化中性改質材の必須含有材料として、酸化カルシウム、酸化マグネシウム、硫酸第一鉄及び炭酸カルシウムを含有し、これらの各含有量を上記範囲内の量とすることで、重金属等を有効に不溶化することができるとともに、低流動化泥土について処理土の強度を向上させて固化性能を向上させることにより土壌を改質でき、処理土のpHを中性領域に保持する上記効果を同時に奏することが可能となる。
【0027】
本発明の固化不溶化中性改質材は、酸化カルシウム、酸化マグネシウム、硫酸第一鉄及び炭酸カルシウムを必須含有成分とするものである。
本発明の固化不溶化中性改質材に含まれる酸化カルシウムは、主に、低流動化泥土中の水分と反応して、発熱による水分蒸発や水和反応により含水比を低下させ、水和成分である水酸化カルシウムは空気中の二酸化炭素により炭酸化されて炭酸カルシウムに変化することで、早期にpHを中性領域にシフトさせる作用を有する。
【0028】
酸化カルシウムは、固化不溶化中性改質材中3~30質量%、好ましくは3~20質量%、より好ましくは5~15質量%で含有される。
上記範囲内であると、固化性能に優れ強度発現性が良好で、処理土壌のpHを材齢7日後に中性領域に改質することが可能となる。3質量%より少ないと、固化性能が劣り強度発現性が低下し、一方30質量%より多いと処理土壌のpHが強アルカリ性となり、材齢7日という短期間で処理土壌のpHを中性領域にすることが困難となる。
【0029】
また、本発明の固化不溶化中性改質材に含まれる酸化マグネシウムは、主に、低流動化泥土中の水分と反応して水酸化マグネシウムとなり、重金属等を吸着する不溶化作用を有する。
酸化マグネシウムは、固化不溶化中性改質材中に含まれる上記酸化カルシウム100質量部に対して、10~100質量部、好ましくは30~100質量部、より好ましくは30~50質量部で含有される。
【0030】
酸化マグネシウムの含量が酸化カルシウムの含量よりも多くならないような上記範囲内とすることで固化性能を保持しつつ、重金属等の不溶化性能に優れることが可能となる。
酸化カルシウム100質量部に対して10質量部より少ないと、重金属等の不溶化性能が十分ではなく、一方、100質量部より多いと処理土壌の固化性能やpH中性化に影響が及び好ましくない。
【0031】
更に、本発明の固化不溶化中性改質材には、硫酸第一鉄を必須材料として含む。
硫酸第一鉄を含有することにより、その高い還元作用によって、砒素や六価クロム等の重金属等に対して、水和により析出した水酸化鉄への砒素吸着や、難溶性である砒酸鉄等の析出による不溶化作用を有するとともに、酸性であるため、他の必須含有材料の配合比率を調整することで、本発明の固化不溶化中性改質材を用いて処理した土壌を中性領域に保持することを可能とする。
また、硫酸第一鉄は無機凝集剤としての効果があると推測され、土中の細粒分を電気的に凝集させて団粒化しやすくするため、本発明の固化不溶化中性改質材に含まれることによって、土壌を締め固めやすくする効果を有することも考えられる。
硫酸第一鉄酸の他に、例えば、硫酸アルミニウム等の酸性硫酸塩を代替材料として使用することも可能である。
【0032】
硫酸第一鉄は、固化不溶化中性改質材中に含まれる上記酸化カルシウム100質量部に対して、10~200質量部、好ましくは30~100質量部、より好ましくは30~50質量部で含有され、更に固化不溶化中性改質材中1~20質量%、好ましくは3~10質量%、より好ましくは5~10質量%で含有される。
前記含量範囲は、処理土壌の再泥化による強度変化が生じない条件下において、酸化カルシウムの強度発現性(固化性能)を妨げず、砒素等の重金属等を有効に不溶化できる含有範囲である。
1質量%未満であると、重金属等の不溶化性能及び処理土壌のpH中性化機能が低下し、20質量%を超えると、低流動化泥土中に含まれている加泥材との反応により加泥材が抱え込んでいた水分が放出され再泥化してしまい、強度が低下する。
【0033】
更に、本発明の固化不溶化中性改質材には炭酸カルシウムが必須成分として含まれ、炭酸-重炭酸緩衝作用によりpH緩衝作用を有し、処理土壌のpHが長期的に中性を維持することが可能となる。
炭酸カルシウムは、固化不溶化中性改質材中50質量%以上、好ましくは60質量%以上、より好ましくは70質量%以上で含有される。
上記範囲内であると、固化性能に優れ強度発現性が良好で、処理土壌のpHを材齢7日後に中性領域に改質することが可能となる。
【0034】
更に好ましくは、本発明の固化不溶化中性改質材に、高分子凝集剤を補助剤として含有することができる。補助剤としての高分子凝集剤は、土壌中の水分と反応し、土壌の団粒化を促進して土壌を締め固めやすくする。また、粘度が高いため鉄イオンと反応しても粘度が下がりにくいため、土壌の強度維持にもつながる。
当該高分子凝集剤の性状としては、冷水に溶けやすいこと、水溶液のpHが中性領域であること、種々の低流動化土壌に対応するために有効pH領域が中性領域をカバーすること、水に溶けると粘性が高くなることを備えるものが好ましく、好適な形態は、粉末もしくは最大粒径1mm以下の粒状であることが望ましい。
【0035】
高分子凝集材としては、土中の水分と反応して細粒分を凝集させて土壌を締め固めやすくする作用等を有する有機高分子凝集剤を好適に使用でき、当該有機高分子凝集剤の種類としてはアニオン系高分子凝集剤、ノニオン系高分子凝集剤、カチオン系高分子凝集剤及び両性高分子凝集剤からなる群より選ばれる少なくとも1種を好適に使用することができ、特に好適なものは溶液pHが中性であり粘度が高いアニオン系高分子凝集剤である。
【0036】
前記有機高分子凝集剤としては、ポリアクリルアミド、ポリアクリル酸エステル、ポリアミジン、ポリアクリル酸ソーダ、ポリエチレンオキサイド、アクリル酸ソーダ-アクリルアミド共重合体からなる群より選ばれる少なくとも1種を使用することができ、特により好適なものは、ポリアクリルアミド系で、同一水量に溶解させたときに水溶液粘度が高いものであり、例えば0.25%水溶液の粘度が400mPa・s以上となるものが望ましい。
【0037】
高分子凝集剤の含量は、処理土壌のpHを考慮した上で、酸化カルシウム、酸化マグネシウム、硫酸第一鉄及び炭酸カルシウムの合量100質量部に対し、外割で10質量部以下で含有することが好ましい。外割配合で10質量部を超えると、コストが高くなり経済的ではなく、過剰添加により土壌の改質性能が高くなりすぎて施工性が低下するリスクがある。さらに、土中への有機物の大量添加は環境的にも好ましくない。
【0038】
本発明の固化不溶化中性改質材は、上記酸化カルシウム、酸化マグネシウム、硫酸第一鉄及び炭酸カルシウムの必須含有材料を、上記割合で配合することで、また好適には更に高分子凝集剤を配合することで、環境庁告示46号(平成3年8月23日公布)に準拠した方法で調製した検液中の砒素等の重金属濃度をJIS K 0102『工場排水試験方法』に準拠して測定して0.01mg/L以下とし、当該検液のpHをJIS Z8802:2011「pH測定方法」に準拠して測定して中性領域(環境省の一律排水基準である(5.8~8.6))とすることができ、また再泥化することなくコーン指数を国土交通省の「発生土利用基準について」の土質区分基準の第4種建設発生土に規定される200kN/m2以上とすることが可能となる。
また、本発明の国内での固化不溶化中性改質材の上記効果に影響を与えない範囲で、上記材料以外にも、消石灰などのpH調整用の任意の材料や、スラグなどの土壌改質用の任意の補助材を添加しても良い。
【0039】
本発明の固化不溶化中性改質材は、上記酸化カルシウム、酸化マグネシウム、硫酸第一鉄及び炭酸カルシウムの必須含有材料、必要に応じて含有される高分子凝集剤を均一に混合することができれば、配合順序は問わず、一度に配合することもでき、また任意の方法を用いてこれらの材料を混合して調製することができる。
【0040】
このようにして調製された本発明の固化不溶化中性改質材は、加泥材で処理した低流動化泥土に対して添加して混合することで、土壌中の重金属等を効果的かつ長期的に不溶化することができ、再泥化することなく、処理土壌の固化による強度向上という土壌の改質性能を有するとともに、処理土壌のpHを中性領域に保持することができることとなるものである。
具体的には本発明の固化不溶化中性改質材を前記低流動化泥土と混合処理した処理土壌の材齢7日後の土壌溶出液のpHが5.8~8.6で、例えば砒素の溶出量が0.01mg/L以下、コーン指数が200kN/m2とすることが可能となる。
【0041】
また、本発明の固化不溶化中性改質工法は、本発明の固化不溶化中性改質材と低流動化泥土とを混合する工法であるが、その混合方法については特に限定されず、例えば、前記低流動化泥土の表層に本発明の固化不溶化中性改質材を散布し、表面改質混合性能を有する重機による改良や、土壌との混合設備など、従来の粉末不溶化材と同様の土壌混合設備を適用することができる。このように、本発明の固化不溶化中性改質工法を施工することで、土壌のpHを中性領域(5.8~8.6)とすることができる。
【0042】
また本発明の固化不溶化中性改質材は、粉末の形態が望ましく用いられ、また、低流動化土壌との混合装置としては、バックホウ、深層混合処理機、定置式ミキサー、パワーブレンダ等を用いて混合することが可能であり、処理土壌に対する重金属等汚染対策処理材の配合量は、土壌の含水率や、要求される処理土の固化強度等により変動し、任意に設計することができる。
【0043】
このように、本発明の固化不溶化中性改質材を、高含水や起泡剤の影響で流動性が高い浚渫土やシールド発生土等の泥土に加泥材を添加して、重金属等を含む低流動化泥土と接触させることにより、当該土壌中の加泥材に捕獲されていた間隙水が流出することなく、重金属等を不溶化するとともに、土壌の固化性能を向上させ、かつ処理土壌のpHを中性領域に保持することが可能となる。
例えば、土壌中の重金属等の溶出量は土壌汚染対策法に基づき測定した溶出量がすべて土壌溶出量基準以内となるとともに、環境庁告示46号(平成3年8月23日公布)に準拠した方法で調製した検液のpHは、例えば材齢7日後には、環境省の一律排水基準に規定される5.8~8.6の範囲となる環境基準を満足でき、更に、コーン指数は国土交通省の「発生土利用基準について」の土質区分基準の第4種建設発生土に規定される200kN/m2以上とすることが可能となり、トラック等での運搬等が可能となるように設計することができる。
【実施例】
【0044】
本発明を次の実施例及び比較例により説明する。
【0045】
(試験土壌)
砒素が溶出する下記表1に示す物性を有する泥土に、ポリアクリルアミド系エマルジョンを主成分とした加泥材を3kg/m3の量で添加し、ソイルミキサーにて低速で90秒混合し、次いでソイルミキサーの容器とパドルに付着した土壌を掻き落としたのち、再度低速で90秒混合して、試験土壌を調製した。
【0046】
泥土の含水比、湿潤密度、粒径が75μm未満の細粒分、砒素溶出量及び溶出液pHと、泥土(加泥材添加前)及び試験土壌(加泥材添加後)のコーン指数について、表1に示す。
なお、砒素の溶出量及びコーン指数は、下記試験例1及び試験例2に記載した方法に準拠して測定したものである。
【0047】
【0048】
(使用原材料)
固化不溶化中性改質材を調製するにあたり、以下の材料を用いた。
・酸化カルシウム:粉末(栃木県葛生産)
・酸化マグネシウム:微粉末(中国産)
・炭酸カルシウム:粉末(栃木県葛生産)
・硫酸第一鉄:硫酸第一鉄一水和物微粉末(中国産)
・高分子凝集剤:アニオン系高分子凝集剤(0.25%水溶液、粘度420mPa/s)
【0049】
(固化不溶化中性改質材)
上記各使用原材料を用いて、下記表2に示す配合割合で各原材料を配合混合して、各固化不溶化中性改質材を調製した。
なお、各原材料の混合順序は特に制限されないが、各原材料を同時に混合して、各固化不溶化中性改質材を調製した。
なお、表2中、高分子凝集剤は、酸化カルシウム、酸化マグネシウム、硫酸第一鉄及び炭酸カルシウムの合量に対して外割での配合割合を(質量%)を示す。
【0050】
【0051】
(試験例)
試験例1:改質試験(不溶化試験及び中性化確認試験)
上記表1の試験土壌1m3に対して、表2に示す各固化不溶化中性改質材50kgを添加し、ソイルミキサーにて低速で90秒練り混ぜた後、ソイルミキサーの容器とパドルに付着した土壌を掻き落とし、再度低速で90秒間練り混ぜて、各処理土壌を調製した。
各処理土壌を調製後、20℃で材齢7日まで密封養生した後、材齢7日の各処理土壌について、環境庁告示46号(平成3年8月23日公布)に準拠した方法で検液(溶出液)を作製し、当該溶出液(検液)のpHと、溶出液(検液)中の砒素の濃度をJIS K 0102『工場排水試験方法』に準拠して砒素溶出量とを測定した。
【0052】
なお、参考のために固化不溶化中性改質材を添加しない、表1の試験土壌についても同様にして、検液pH及び砒素溶出量を測定した。
その結果を上記表2に示す。
【0053】
試験例2:土壌の固化試験
上記表1の試験土壌1m3に対して、表2に示す各固化不溶化中性改質材50kgを添加し、ソイルミキサーにて低速で90秒練り混ぜた後、ソイルミキサーの容器とパドルに付着した土壌を掻き落とし、再度低速で90秒間練り混ぜて、処理土壌を調製した。
各処理土壌を調製し20℃で材齢7日まで密封養生した後、当該各処理土壌をJIS A 1210:2009「突固めによる土の締固め試験方法」に規定される10cmモールドに3層に分けて充填し、JIS A 1228「締固めた土のコーン指数試験方法」に準拠して材齢7日のコーン指数を測定した。
その結果を上記表2に示す。
【0054】
なお、砒素の溶出量は土壌汚染対策法に基づく土壌溶出量基準0.01mg/L以下であるものを合格とした。
また、溶出液検液pHは、環境省の一律排水基準にて規定される5.8~8.6の範囲となるものを中性領域として合格とした。
コーン指数は、国土交通省の「発生土利用基準について」の土質区分基準の第4種建設発生土に規定される200kN/m2以上であるものを合格とした。
【0055】
上記表2より、酸化カルシウム、酸化マグネシウム、硫酸第一鉄及び炭酸カルシウムを必須含有成分として、本発明の特定範囲内で含有する実施例(E1~E8)の固化不溶化中性改質材は、高含水の流動化泥土に加泥材を配合して低流動化させた土壌について、材齢7日の処理土壌中の砒素の溶出量がすべて土壌溶出量基準以内となるとともに、土壌溶出液のpHが一律排水基準範囲内となり、かつ材齢7日のコーン指数が200kN/m2以上となり、本発明の上記効果を有効に発現できるものであることが明らかとなった。
更に、高分子凝集剤(助剤)を特定の配合量範囲で中性改質材に含むことで、材齢7日の処理土壌中の砒素の溶出量がすべて土壌溶出量基準以内となるとともに、土壌溶出液のpHが一律排水基準範囲内となり、かつ材齢7日のコーン指数が200kN/m2以上となり、本発明の上記効果を、より有効に発現できるものであることが明らかとなった(E2~E6、E8)。
【0056】
比較例1の酸化カルシウムを含まず、酸化マグネシウムの含量が低い固化不溶化中性改質材C1については、砒素溶出量基準は満たされ土壌溶出液pHも中性領域であるが、コーン指数が試験土壌よりも低下してしまい、固化性能に劣る。
また、比較例2の酸化カルシウムを含まない固化不溶化中性改質材C2については、砒素溶出量基準は満たされ土壌溶出液pHも中性領域であり、試験土壌と比べてコーン指数は若干増加したが、コーン指数は200kN/m2未満であり、固化性能が十分ではない。
【0057】
比較例3の固化不溶化中性改質材C3は、固化性能は良好で砒素溶出量基準は満たすが、酸化カルシウムに対する酸化マグネシウムの含量が多いため、土壌溶出液のpHがアルカリ性となり、中性領域を逸脱した。
また、比較例4に示す硫酸第一鉄を含まず、酸化マグネシウムの含量が低い固化不溶化中性改質材C4については、固化性能は良好であるが、土壌溶出液pHがアルカリ性となり、また、砒素の溶出量が土壌溶出量基準を超過した。
【0058】
比較例5に示す固化不溶化中性改質材C5については、砒素溶出量基準は満たし、土壌溶出液pHも中性領域であるが、硫酸第一鉄の含量が多いため、コーン指数が原土より低下し固化性能が十分ではない。
比較例6の酸化カルシウム及び酸化マグネシウムを含まない固化不溶化中性改質材C6については、砒素溶出量基準は満たされ土壌溶出液pHも中性領域であるが、コーン指数が試験土壌よりも低下してしまい、固化性能に劣る。
【0059】
比較例7の固化不溶化中性改質材C7については、固化性能は良好で砒素溶出量基準は満たすが、酸化カルシウムの含量が多いため、土壌溶出液のpHがアルカリ性となった。
比較例8に示す固化不溶化中性改質材C8については、固化性能は良好であるが、硫酸第一鉄の含量が少ないため、土壌溶出液pHがアルカリ性となり、また、砒素の溶出量が土壌溶出量基準を超過した。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明の固化不溶化中性改質材及び当該改質材を用いた固化不溶化中性改質工法は、加泥材により低流動化処理した泥土に対し、含まれる重金属やハロゲンを効率よく不溶化できるとともに、処理土を中性領域付近に保持しながら土壌を固化して強度を向上することができるため、加泥材を含有する低流動化土壌に対して有効に利用することができ、例えば、トンネルやダム等の掘削工事や建設工事等によって大量に発生する高含水の流動性を有する泥土中の重金属等の処理に有効に適用することが可能となるとともに、改質土を有効利用しやすくすることが可能となる。