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特許7367497炭化ケイ素多結晶膜の成膜方法、および、炭化ケイ素多結晶基板の製造方法
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  • 特許-炭化ケイ素多結晶膜の成膜方法、および、炭化ケイ素多結晶基板の製造方法 図1
  • 特許-炭化ケイ素多結晶膜の成膜方法、および、炭化ケイ素多結晶基板の製造方法 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-16
(45)【発行日】2023-10-24
(54)【発明の名称】炭化ケイ素多結晶膜の成膜方法、および、炭化ケイ素多結晶基板の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C23C 16/32 20060101AFI20231017BHJP
   C30B 29/36 20060101ALI20231017BHJP
   C30B 33/06 20060101ALI20231017BHJP
【FI】
C23C16/32
C30B29/36 A
C30B33/06
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2019217433
(22)【出願日】2019-11-29
(65)【公開番号】P2021085092
(43)【公開日】2021-06-03
【審査請求日】2022-07-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100134832
【弁理士】
【氏名又は名称】瀧野 文雄
(74)【代理人】
【識別番号】100165308
【弁理士】
【氏名又は名称】津田 俊明
(74)【代理人】
【識別番号】100115048
【弁理士】
【氏名又は名称】福田 康弘
(74)【代理人】
【識別番号】100161001
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 篤司
(72)【発明者】
【氏名】北川 泰三
【審査官】今井 淳一
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-031527(JP,A)
【文献】特開2008-034780(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 16/32
C30B 29/36
C30B 33/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
化学的気相成長法により、窒素ガス、ケイ素系ガス、炭素系ガス、および、水素ガスのみを用いて、支持基板上に炭化ケイ素多結晶膜を成膜する成膜工程を含み、
前記成膜工程において用いられる、前記窒素ガスの窒素原子、前記ケイ素系ガスのケイ素原子、前記炭素系ガスの炭素原子、および、前記水素ガスの水素原子の原子数の比率が、N:Si:C:H=40:1:1:2~40:1:1:20の範囲内であり、かつ、前記水素ガスの流量が1slm~10slmの範囲内である、炭化ケイ素多結晶の面積割合が99.9%以上の炭化ケイ素多結晶膜の成膜方法。
【請求項2】
前記ケイ素系ガスが、四塩化ケイ素、トリクロロシラン、および、ジクロロシランからなる群から選択される少なくとも一つである、請求項1に記載の炭化ケイ素多結晶膜の成膜方法。
【請求項3】
前記炭素系ガスが、メタン、アセチレン、プロパンからなる群から選択される少なくとも一つである、請求項1または2に記載の炭化ケイ素多結晶膜の成膜方法。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載の炭化ケイ素多結晶膜の成膜方法により得られた、支持基板と炭化ケイ素多結晶膜との積層体から前記支持基板を除去して、炭化ケイ素多結晶基板を製造する、炭化ケイ素多結晶基板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭化ケイ素多結晶膜の成膜方法、および、炭化ケイ素多結晶基板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
炭化ケイ素は、ケイ素と炭素で構成される、化合物半導体材料である。炭化ケイ素は、絶縁破壊電界強度がケイ素の10倍で、バンドギャップがケイ素の3倍であり、半導体材料として優れている。さらに、デバイスの作製に必要なp型、n型の制御が広い範囲で可能であることなどから、ケイ素の限界を超えるパワーデバイス用材料として期待されている。
【0003】
しかしながら、炭化ケイ素半導体は、従来広く普及しているケイ素半導体と比較して、大面積の炭化ケイ素単結晶基板を得ることが難しく、製造工程も複雑である。これらの理由から、炭化ケイ素半導体は、ケイ素半導体と比較して大量生産が難しく、高価であった。
【0004】
これまでにも、炭化ケイ素半導体のコストを下げるために、様々な工夫が行われてきた。例えば、特許文献1には、炭化ケイ素基板の製造方法であって、少なくとも、マイクロパイプの密度が30個/cm以下の炭化ケイ素単結晶基板と炭化ケイ素多結晶基板を準備し、前記炭化ケイ素単結晶基板と前記炭化ケイ素多結晶基板とを貼り合わせる工程を行い、その後、単結晶基板を薄膜化する工程を行い、多結晶基板上に単結晶層を形成した基板(以下、「炭化ケイ素貼り合わせ基板」と記載することがある。)を製造することが記載されている。
【0005】
更に、特許文献1には、単結晶基板と多結晶基板とを貼り合わせる工程の前に、単結晶基板に水素イオン注入を行って水素イオン注入層を形成する工程を行い、単結晶基板と多結晶基板とを貼り合わせる工程の後、単結晶基板を薄膜化する工程の前に、350℃以下の温度で熱処理を行い、単結晶基板を薄膜化する工程を、水素イオン注入層にて機械的に剥離する工程とする炭化ケイ素基板の製造方法が記載されている。
【0006】
このような方法により、1つの炭化ケイ素単結晶インゴットからより多くの炭化ケイ素貼り合わせ基板が得られるようになった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2009-117533号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1の方法で製造された炭化ケイ素貼り合わせ基板の大部分が、多結晶基板であり、この多結晶基板内に空隙(隙間)が存在する場合、その後のデバイス製造工程において炭化ケイ素貼り合わせ基板に印加した電圧により流れる電流がこの空隙において大きな抵抗となり、デバイス作製後の検査工程等において所定の電気特性が得られないなどの問題が生じるため、多結晶基板には空隙が少ないことが求められる。
【0009】
ここで、化学的気相成長法(化学的気相蒸着法、CVD法)によって支持基板上に窒素ドーピングガスとともに、水素ガス、ケイ素系ガス、炭素系ガスを流通させ炭化ケイ素多結晶膜を成膜して炭化ケイ素多結晶基板を得る製造方法において、得られた炭化ケイ素多結晶基板に大きな抵抗の原因となる空隙が形成されてしまうことがある。このことから、このような炭化ケイ素多結晶基板と炭化ケイ素単結晶基板を貼り合わせて炭化ケイ素多結晶基板上に炭化ケイ素単結晶層を形成した炭化ケイ素貼り合わせ基板において、半導体プロセスへ適用できる品質が得られないことがあるという課題があった。
【0010】
従って、本発明は、上記のような問題点に着目し、空隙が少ない炭化ケイ素多結晶膜を成膜して、空隙が少ない炭化ケイ素多結晶基板を製造する、炭化ケイ素多結晶膜の成膜方法、および、炭化ケイ素多結晶基板の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の炭化ケイ素多結晶膜の成膜方法は、化学的気相成長法により、窒素ガス、ケイ素系ガス、炭素系ガス、および、水素ガスを用いて、支持基板上に炭化ケイ素多結晶膜を成膜する成膜工程を含み、前記成膜工程において用いられる、前記窒素ガスの窒素原子、前記ケイ素系ガスのケイ素原子、前記炭素系ガスの炭素原子、および、前記水素ガスの水素原子の原子数の比率が、N:Si:C:H=40:1:1:2~40:1:1:20の範囲内であり、かつ、前記水素ガスの流量が1slm~10slmの範囲内である。
【0012】
また、本発明の炭化ケイ素多結晶膜の成膜方法において、前記ケイ素系ガスが、四塩化ケイ素、トリクロロシラン、および、ジクロロシランからなる群から選択される少なくとも一つであってもよい。
【0013】
また、本発明の炭化ケイ素多結晶膜の成膜方法において、前記炭素系ガスが、メタン、アセチレン、プロパンからなる群から選択される少なくとも一つであってもよい。
【0014】
本発明の炭化ケイ素多結晶基板の製造方法は、本発明の炭化ケイ素多結晶膜の成膜方法により得られた、支持基板と炭化ケイ素多結晶膜との積層体から前記支持基板を除去して、炭化ケイ素多結晶基板を製造するものである。
【発明の効果】
【0015】
本発明の炭化ケイ素多結晶膜の成膜方法であれば、化学的気相成長法で得られる炭化ケイ素多結晶膜において、空隙の形成を抑制することができる。また、本発明の炭化ケイ素多結晶基板の製造方法において、本発明の炭化ケイ素多結晶膜の成膜方法により空隙の少ない炭化ケイ素多結晶膜を得て、炭化ケイ素多結晶基板を製造することにより、このようにして得られた炭化ケイ素多結晶基板と、炭化ケイ素単結晶基板とを貼り合せることで製造する炭化ケイ素貼り合わせ基板をデバイス製造に用いた場合に、所定の電気特性が得られない等の問題を抑制することができ、歩留まりやコストを改善させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の一実施形態にかかる炭化ケイ素多結晶膜の成膜方法、炭化ケイ素多結晶基板の製造方法において用いる成膜装置の一例を模式的に示す断面図である。
図2】本発明の一実施形態にかかる炭化ケイ素多結晶膜の成膜方法、炭化ケイ素多結晶基板の製造方法の各工程における、支持基板、炭化ケイ素多結晶膜、炭化ケイ素多結晶基板を模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の一実施形態にかかる炭化ケイ素多結晶膜の成膜方法、炭化ケイ素多結晶基板の製造方法について、図面を参照して説明する。本実施形態の炭化ケイ素多結晶膜の成膜方法、炭化ケイ素多結晶基板の製造方法は、化学的気相成長法により支持基板100上に成膜した炭化ケイ素多結晶膜200と支持基板100との積層体300から100支持基板を除去して、炭化ケイ素多結晶基板500を製造する方法に適用することができる。
【0018】
本実施形態の炭化ケイ素多結晶膜の成膜方法は、化学的気相成長法により、窒素ガス、ケイ素系ガス、炭素系ガス、および、水素ガスを用いて、支持基板100上に炭化ケイ素多結晶膜200を成膜する成膜工程を含む。
また、本実施形態の炭化ケイ素多結晶基板の製造方法は、支持基板100に炭化ケイ素多結晶膜200を成膜する成膜工程と、成膜工程により得られた、支持基板100と炭化ケイ素多結晶膜200との積層体300から支持基板100を除去する除去工程とを含む。
【0019】
次に、本実施形態の炭化ケイ素多結晶膜の成膜方法、炭化ケイ素多結晶基板の製造方法について、成膜工程、除去工程の順に説明する。
【0020】
(成膜工程)
成膜工程について、図面を参照して説明する。以下の説明は成膜工程の一例であり、問題のない範囲で温度、圧力等の各条件や、手順等を変更してもよい。
【0021】
成膜工程は、図2(A)に示す支持基板100に、化学的気相成長法により炭化ケイ素多結晶膜200を成膜する工程であり、例えば、以下に説明する成膜装置1000を用いて行うことができる。また、支持基板100としては、黒鉛製支持基板やケイ素製支持基板を用いることができる。
【0022】
成膜装置1000は、化学的気相成長法によって、支持基板100に炭化ケイ素多結晶膜200を成膜するために用いることができる。成膜装置1000は、成膜装置1000の外装となる筐体1100と、支持基板100に炭化ケイ素多結晶膜200を成膜させる成膜室1010と、成膜室1010より排出された原料ガスやキャリアガスを後述のガス排出口1030へ導入する排出ガス導入室1040と、排出ガス導入室1040を覆うボックス1050と、ボックス1050の外部より成膜室1010内を加温する、カーボン製のヒーター1060と、成膜室1010の下部に設けられ、成膜室1010に原料ガスやキャリアガスを導入するガス導入口1020と、ガス排出口1030と、支持基板100を保持する基板ホルダー1070を有する。また、基板ホルダー1070は、2つの柱1071と、支持基板100を水平に載置する、柱1071に設けられた載置部1072を有する。
【0023】
成膜工程の具体的な手順について説明する。まず、成膜室1010内に支持基板100を保持した状態で、排気ポンプを用いて減圧状態(例えば、20kPa程度)で、Ar等の不活性ガス雰囲気下で、成膜の反応温度(例えば、1000℃~1400℃程度)まで、ヒーター1060により支持基板100を加熱する。成膜の反応温度まで達したら、不活性ガスの供給を止めて、成膜室1010内に炭化ケイ素多結晶膜200の成分を含む原料ガスやキャリアガス、ドーピングガスを供給する。
【0024】
原料ガスとしては、炭化ケイ素多結晶膜200を成膜させることができれば、特に限定されず、一般的に炭化ケイ素多結晶膜の成膜に使用されるケイ素系ガス、炭素系ガスを用いることができる。例えば、ケイ素系ガスとしては、ジクロロシラン(SiHCl)、トリクロロシラン(SiHCl)、テトラクロロシラン(四塩化ケイ素、SiCl)などのエッチング作用があるClを含む塩素系Si原料含有ガス(クロライド系原料)を用いることができる。炭素系ガスとしては、例えば、メタン(CH)、アセチレン(C)、プロパン(C)等の炭化水素を用いることができる。
【0025】
また、キャリアガスとしては、炭化ケイ素多結晶膜200の成膜を阻害することなく、原料ガスを支持基板100へ展開することができ、熱伝導率に優れ、炭化ケイ素に対してエッチング作用がある水素(H)ガスを用いる。また、これら原料ガスおよびキャリアガスと同時に、不純物ドーピングガスとして、窒素(N)を同時に供給する。
【0026】
炭化ケイ素多結晶膜200を成膜させる際には、上記のガスを適宜混合して、または、個別に成膜室1010内に供給する。本実施形態の炭化ケイ素多結晶基板の製造方法においては、炭化ケイ素多結晶基板内の空隙の形成を抑制するために、窒素ガスの窒素原子、ケイ素系ガスのケイ素原子、炭素系ガスの炭素原子、および、水素ガスの水素原子の原子数の比率が、N:Si:C:H=40:1:1:2~40:1:1:20の範囲内であり、かつ、水素ガスの流量が1slm~10slmの範囲内とする。すなわち、ケイ素系ガスとして四塩化ケイ素(SiCl)、炭素系ガスとしてメタン(CH)を用いた場合には、窒素(N)ガスは20slm、四塩化ケイ素(SiCl)ガスは1slm、メタン(CH)ガスは1slm、水素(H)ガスは1slm~10slmとする。水素ガスの供給が少なすぎると、所望の成膜位置へ原料ガスを運ぶガス速度が遅くなることから、炭化ケイ素多結晶膜200の成膜速度が遅くなったり、炭化ケイ素多結晶膜200の膜厚が不均一になったりすることがある。すなわち、所望の成膜位置へ原料ガスを運ぶガス速度が遅くなり、炭化ケイ素多結晶膜200の成膜速度が遅くなることがある。また、所望の成膜位置へ原料ガスが至る途中で炭化ケイ素の形成が始まる可能性があり、これにより、膜厚が不均一になることがある。また、水素ガスの供給が多すぎると、ケイ素系ガスと水素ガスからSiClとHClが生成する反応が促進されて、気相中に炭化ケイ素の前駆体であるSiCl分子が増加して、炭化ケイ素の膜生成ではなく気相中における粒子生成が起こり、成膜中の炭化ケイ素多結晶膜上に積もることで空隙が形成されやすくなることが考えられる。また、所望の炭化ケイ素多結晶膜200の性状に応じて、上記条件内において、成膜工程の途中でガスの混合割合、供給量等の条件を変更してもよい。なお、ガス流量の単位「slm」は、standard liter/min、すなわち、標準状態(0℃、1気圧)に換算した1分間当たりの流量(L)を示す。
【0027】
支持基板100の表面や気相での化学反応により、加熱した支持基板100の炭化ケイ素多結晶膜200を成膜させることができる。これにより、図2(B)に示すように、支持基板100に炭化ケイ素多結晶膜200が成膜された、支持基板100と炭化ケイ素多結晶膜200との積層体300が得られる。その後、窒素ガス、ケイ素系ガス、炭素系ガス、水素ガスの供給、および、排気ポンプを停止して、次いでAr等の不活性ガスを成膜室1010内に供給ことで炉内を大気圧まで復圧させながら、室温まで冷却させる。以上のように形成された積層体300は、常温程度まで冷却されたのちに、除去工程に供される。
【0028】
(除去工程)
次に、成膜工程により得られた積層体300を、除去工程に供する。除去工程は、支持基板100と炭化ケイ素多結晶膜200との積層体300から支持基板100を除去する工程である。
【0029】
まず、積層体300において、支持基板100が露出していない場合には、支持基板100の外周端部110に積層した炭化ケイ素多結晶膜200の外周部200Aを、端面加工装置等を用いて、図2(B)の線Aの箇所で研削して、支持基板100の少なくとも一部を露出させて、支持基板100と炭化ケイ素多結晶膜200の本体部200Bとの積層体300Aを得る(図2(C))。支持基板100として黒鉛製の支持基板を用いた場合には、例えば、積層体300Aを数百度(例えば800℃~1000℃程度)に加熱して、支持基板100を燃焼させることにより支持基板100を除去することができる。燃焼時間は、例えば、100時間以上とすることができる。燃焼による支持基板100の除去工程は、例えば、二珪化モリブデン製のヒーターを備える燃焼炉等を用いることができる。積層体300Aを燃焼炉内に保持して、燃焼炉内にOや空気等の酸化性ガスを供給しながら、常圧または減圧状態で、ヒーターにより燃焼炉内を加熱する。加熱により、支持基板100のみが燃焼して、図2(D)に示すように、炭化ケイ素多結晶基板500が得られる。また、支持基板100としてケイ素製の支持基板を用いた場合には、硝フッ酸(硝酸とフッ化水素酸の混合酸)に浸漬して、支持基板100のみを溶解することで、支持基板100を除去することができる。これにより、支持基板100のみが溶解して、図2(D)に示すように、炭化ケイ素多結晶基板500が得られる。また、除去工程により得られた炭化ケイ素多結晶基板500について、必要に応じて、厚さや表面粗さの調整、また、平坦度を高める等のために、研削加工、研磨加工をさらに行ってもよい。
【0030】
(炭化ケイ素多結晶基板の評価)
本実施形態の炭化ケイ素多結晶基板の製造方法により得られた炭化ケイ素多結晶基板内の空隙は、例えば、以下の方法により評価することができる。すなわち、炭化ケイ素多結晶基板の厚さ方向と平行な断面を走査型電子顕微鏡(SEM)にて撮像し、撮影した画像において炭化ケイ素多結晶の成膜部分と空隙の面積をそれぞれ計測する。計測した面積を用いて、炭化ケイ素多結晶の成膜部分の面積/全体の面積×100(%)(以下、「炭化ケイ素多結晶の面積割合(%)」と記載することがある。)を算出する。空隙の少ない炭化ケイ素多結晶基板と判定するための炭化ケイ素多結晶の面積割合(%)の基準値を設定しておき、この炭化ケイ素多結晶の面積割合(%)が基準値以上であったとき、製造した炭化ケイ素多結晶基板の空隙が少ないと判断することができる。この基準値は、例えば、空隙が与える炭化ケイ素多結晶基板の抵抗値への影響を考慮して、99.9%とすることができる。
【0031】
本実施形態の炭化ケイ素多結晶膜の成膜方法であれば、化学的気相成長法で得られる炭化ケイ素多結晶膜200において、成膜工程におけるガス比率およびガス流量を最適化することができ、空隙の形成を抑制することができる。
【0032】
本実施形態の炭化ケイ素多結晶基板の製造方法であれば、本実施形態の炭化ケイ素多結晶膜の成膜方法により空隙の少ない炭化ケイ素多結晶膜200を得て、炭化ケイ素多結晶基板500を製造することにより、このようにして得られた炭化ケイ素多結晶基板500と、炭化ケイ素単結晶基板とを貼り合せることで製造する炭化ケイ素貼り合わせ基板をデバイス製造に用いた場合に、印加した電圧により流れる電流がこの空隙において大きな抵抗となり、所定の電気特性が得られない等の問題を抑制することができ、歩留まりやコストを改善させることができる。
【0033】
その他、本発明を実施するための最良の構成、方法などは、以上の記載で開示されているが、本発明は、これに限定されるものではない。すなわち、本発明は、主に特定の実施形態に関して特に説明されているが、本発明の技術的思想及び目的の範囲から逸脱することなく、以上述べた実施形態に対し、形状、材質、数量、その他の詳細な構成において、当業者が様々な変形を加えることができるものである。従って、上記に開示した形状、材質などを限定した記載は、本発明の理解を容易にするために例示的に記載したものであり、本発明を限定するものではないから、それらの形状、材質などの限定の一部、もしくは全部の限定を外した部材の名称での記載は、本発明に含まれるものである。
【実施例
【0034】
以下、本発明の実施例および比較例によって、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は、これらの実施例によって何ら限定されることはない。
【0035】
本実施例においては、成膜装置1000を用いて黒鉛製の支持基板に炭化ケイ素多結晶膜を成膜する成膜工程を行ったのち、支持基板の除去工程を行うことで炭化ケイ素多結晶基板を得た。
【0036】
(実施例1)
[炭化ケイ素多結晶基板の製造]
直径6インチ、厚み500μmの黒鉛製の支持基板を前述した実施形態の成膜装置1000の成膜室に保持して、成膜工程を行った。まず、成膜室1010内へArガスを流入させながら、成膜室1010内を不図示の排気ポンプにより20kPaに減圧した後、1400℃まで加熱して、1400℃に達したのちArガスの供給を停止した。原料ガスとして、SiCl、CHを用い、キャリアガスとしてHを用い、不純物ドーピングガスとしてNを用いた。炭化ケイ素多結晶膜の成膜におけるガスの流量は、窒素ガスを20slm、四塩化ケイ素ガスを1slm、メタンガスを1slm、水素ガスを1slmとした。すなわち、窒素ガスの窒素原子、四塩化ケイ素ガスのケイ素原子、メタンガスの炭素原子、および、水素ガスの水素原子の原子数の比率が、N:Si:C:H=40:1:1:2となるようにした。成膜室1010内に上記ガスを供給し、成膜室1010内の圧力を20kPaで維持しながら、10時間の成膜を実施した。以上により、支持基板と、厚さ600μmの炭化ケイ素多結晶膜との積層体を得た。その後、全てのガスの供給を停止し、Arガスを供給することで大気圧まで復圧させながら、成膜室1010内を室温まで冷却した。
【0037】
成膜工程により得られた積層体を支持基板の除去工程に供した。積層体の外周端面を全周に亘って研削して支持基板を露出させた後、大気雰囲気で、1000℃で積層体を加熱した。これにより、支持基板のみが燃焼して、炭化ケイ素多結晶基板を得た。
【0038】
[炭化ケイ素多結晶基板の評価]
次に、得られた炭化ケイ素多結晶基板の評価を行った。得られた炭化ケイ素多結晶基板の厚さ方向と平行な断面を走査型電子顕微鏡(SEM)にて撮像し、撮影した画像において炭化ケイ素多結晶の成膜部分と空隙の面積をそれぞれ計測した。計測した面積を用いて、炭化ケイ素多結晶の成膜部分の面積/全体の面積×100(%)を算出した。炭化ケイ素貼り合わせ基板をデバイス製造に用いた場合に、印加した電圧により流れる電流がこの空隙において大きな抵抗となり、所定の電気特性が得られない等の問題を十分に抑制するという観点から、空隙の少ない炭化ケイ素多結晶基板と判定するための炭化ケイ素多結晶の面積割合(%)の基準値を99.9%と設定した。この炭化ケイ素多結晶の面積割合(%)が99.9%以上であったとき、製造した炭化ケイ素多結晶基板の空隙が少ないと判断した。実施例1において得られた炭化ケイ素多結晶基板の評価したところ、炭化ケイ素多結晶の面積割合(%)は99.95%であった。
【0039】
(実施例2、実施例3、比較例1~比較例3)
成膜工程において、水素ガスの流量を種々変更したこと以外は実施例1と同様の方法により炭化ケイ素多結晶基板を製造して、得られた炭化ケイ素多結晶基板の評価を行った。水素ガスの流量、原子比、炭化ケイ素多結晶の面積割合(%)の結果を表1に示した。原子比は、窒素ガスの窒素原子、四塩化ケイ素ガスのケイ素原子、メタンガスの炭素原子、および、水素ガスの水素原子の原子数の比率を示した。
【0040】
【表1】
【0041】
本発明の例示的態様である実施例1~実施例3において、炭化ケイ素多結晶の面積割合(%)が99.9%以上の炭化ケイ素多結晶基板が得られたことが示された。一方、比較例においては、いずれの炭化ケイ素多結晶基板も炭化ケイ素多結晶の面積割合(%)が99.9%未満となった。よって、本発明の炭化ケイ素多結晶膜の成膜方法、炭化ケイ素多結晶基板の製造方法であれば、化学的気相成長法で得られる炭化ケイ素多結晶膜において、成膜工程におけるガス比率およびガス流量を最適化することができ、空隙の少ない炭化ケイ素多結晶膜を得て、炭化ケイ素多結晶基板における空隙の形成を抑制することができることが示された。
【符号の説明】
【0042】
100 支持基板
200 炭化ケイ素多結晶膜
300 積層体
500 炭化ケイ素多結晶基板
図1
図2