(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-16
(45)【発行日】2023-10-24
(54)【発明の名称】パワーモジュール
(51)【国際特許分類】
H01L 25/07 20060101AFI20231017BHJP
H01L 25/18 20230101ALI20231017BHJP
H01L 21/56 20060101ALI20231017BHJP
H01L 23/29 20060101ALI20231017BHJP
H01L 23/31 20060101ALI20231017BHJP
H01L 23/12 20060101ALI20231017BHJP
【FI】
H01L25/04 C
H01L21/56 R
H01L23/30 R
H01L23/12 J
H01L23/36 A
(21)【出願番号】P 2019224597
(22)【出願日】2019-12-12
【審査請求日】2022-12-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000005083
【氏名又は名称】株式会社プロテリアル
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】小林 稔幸
(72)【発明者】
【氏名】難波 明博
(72)【発明者】
【氏名】妹尾 政宏
【審査官】庄司 一隆
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/064775(WO,A1)
【文献】特開2016-092261(JP,A)
【文献】特開2006-179538(JP,A)
【文献】国際公開第2017/119226(WO,A1)
【文献】特開2019-169666(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2020/0203241(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2019/0006255(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2021/0074647(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 25/07
H01L 21/56
H01L 23/29
H01L 23/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
パワーモジュールであって、
複数個のパワー半導体素子と、
電気絶縁層の一方の表面の上に第1入出力配線層が形成された第1入出力基板と、
電気絶縁層の一方の表面の上に第2入出力配線層が形成された第2入出力基板と、
電気絶縁材料からなり信号配線が内蔵形成された信号線内蔵基板と、を有し、
前記複数個のパワー半導体素子が搭載された前記信号線内蔵基板を前記第1入出力基板と前記第2入出力基板との間に配置して半導体素子ユニットが構成され、前記半導体素子ユニットが封止樹脂材で封止されており、
前記複数個のパワー半導体素子のそれぞれは、一方の面に信号電極と第1入出力電極が形成され、他方の面には第2入出力電極が形成されており、
前記第1入出力配線層は前記複数個のパワー半導体素子に対応して複数個の第1入出力端子部を備え、前記複数個の第1入出力端子部は、それぞれ前記第1入出力配線層と導通し、前記信号線内蔵基板に形成された複数個の入出力端子部貫通孔内にそれぞれ位置するように設けられており、
前記複数個のパワー半導体素子のそれぞれは、前記信号電極が前記信号配線と直接接続されており、前記第1入出力電極が前記複数個の第1入出力端子部の一つと直接接続されており、前記第2入出力電極が前記第2入出力配線層と直接接続されており、
前記信号線内蔵基板は、前記複数個の入出力端子部貫通孔の間に硬化前の前記封止樹脂材が流通可能な封止樹脂流通孔を有し、前記封止樹脂流通孔は前記封止樹脂材が充填されている、
ことを特徴とするパワーモジュール。
【請求項2】
請求項1に記載のパワーモジュールにおいて、
前記第1入出力配線層と前記第1入出力端子部とは同一の金属層で形成されている、
ことを特徴とするパワーモジュール。
【請求項3】
請求項1または2に記載のパワーモジュールにおいて、
前記信号線内蔵基板は、低温同時焼成セラミックスの多層回路基板であり、その表面に前記封止樹脂材と異なる樹脂材からなり前記封止樹脂材と前記信号線内蔵基板との密着性を向上させる密着性向上層を有している、
ことを特徴とするパワーモジュール。
【請求項4】
請求項3に記載のパワーモジュールにおいて、
前記封止樹脂材はエポキシ樹脂からなり、
前記異なる樹脂材はポリアミドイミド樹脂またはポリイミド樹脂からなる、
ことを特徴とするパワーモジュール。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4のいずれか一項に記載のパワーモジュールにおいて、
前記封止樹脂流通孔は、開孔の円相当径が1.0 mm以上で合計開孔面積が1.5 mm
2以上である、
ことを特徴とするパワーモジュール。
【請求項6】
請求項1乃至請求項5のいずれか一項に記載のパワーモジュールにおいて、
隣り合う前記第1入出力端子部の間の前記第1入出力配線層の厚さがその他の部分よりも薄い、
ことを特徴とするパワーモジュール。
【請求項7】
請求項1乃至請求項6のいずれか一項に記載のパワーモジュールにおいて、
前記第1入出力基板の前記電気絶縁層の他方の表面、および前記第2入出力基板の前記電気絶縁層の他方の表面は、前記封止樹脂材から露出している、
ことを特徴とするパワーモジュール。
【請求項8】
請求項1乃至請求項6のいずれか一項に記載のパワーモジュールにおいて、
前記第1入出力基板の前記電気絶縁層の他方の表面の上、および前記第2入出力基板の前記電気絶縁層の他方の表面の上に、伝熱金属層が更に形成されており、
前記伝熱金属層は、前記封止樹脂材から露出している、
ことを特徴とするパワーモジュール。
【請求項9】
請求項1乃至請求項8のいずれか一項に記載のパワーモジュールにおいて、
前記第1入出力電極と前記第1入出力端子部との直接接続、前記第2入出力電極と前記第2入出力配線層との直接接続、および前記信号電極と前記信号配線との直接接続は、それぞれ導電接合材を介してなされている、
ことを特徴とするパワーモジュール。
【請求項10】
請求項1乃至請求項9のいずれか一項に記載のパワーモジュールにおいて、
前記第1入出力基板および前記第2入出力基板は、前記電気絶縁層がセラミックスからなるセラミックス基板である、
ことを特徴とするパワーモジュール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体モジュールに関し、特に大電力の制御を行うパワーモジュールに関するものである。
【背景技術】
【0002】
産業機械や車両(例えば、自動車、鉄道車両)において、近年、省エネルギーや精密な運転制御の観点から動力源の電動化および電子制御化が急速に進展しており、それに伴って、該動力源の電力制御を担うパワーモジュールの重要性が非常に高まっている。
【0003】
パワーモジュールでは、大電力の制御を行うため、通常、複数個のパワー半導体素子が並列接続されており、各パワー半導体素子が同時/同調的に制御される。パワーモジュールに用いられる代表的なパワー半導体素子としては、例えば、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)、パワーMOSFET(Power Metal Oxide Semiconductor Field Effect Transistor)、MOSGTOサイリスタ(MOS Gate Turn-Off thyristor)などがある。これらパワー半導体素子は、信号電極に対して制御信号を入力することによって、出力される電力が制御される構成になっている。
【0004】
動力源の電力制御を担うパワーモジュールは、大電力を扱うことから、パワーモジュール内部における電気接合部の接続信頼性や回路の電気絶縁性の確保は最重要事項の一つであり、パワーモジュール内部は空隙が残存しないように樹脂材で封止されるのが一般的である。
【0005】
また、動力源の高出力化の観点から、パワーモジュールの制御電力の大電力化が求められている。制御電力の大電力化は、運転時と休止時との温度差の拡大を意味し、パワーモジュール内での熱応力や熱ひずみの増大につながる。そして、熱応力/熱ひずみによる電気接合部の疲労や封止樹脂材の剥離は、パワーモジュールの寿命を縮める要因となる。すなわち、パワーモジュールにおける熱応力/熱ひずみ対策(総称して熱対策と言う)は、重要な技術的課題のうちの一つである。
【0006】
一方、機械や装置の電子制御化の技術において、パワーモジュールを含む半導体装置の小型化も、最重要課題のうちの一つである。
【0007】
上記のような様々な技術的要求に対して、種々の研究開発が行われている。例えば、特許文献1(特開2006-179538)には、セラミックス絶縁基板の一方の面に配置した電極に、メタライズされたSi半導体チップ裏面をハンダ付けし、該セラミックス絶縁基板上の他方の面をベース基板にハンダ付けした半導体パワーモジュールにおいて、該半導体パワーモジュールが、前記Si半導体チップ表面と前記セラミックス絶縁基板の他の電極とを接続する接続導体と、前記Si半導体チップと前記セラミックス絶縁基板の一方の面とを被覆する第1の樹脂と、該第1の樹脂を被覆する第2の樹脂とによって、封止されていて、前記第1の樹脂のヤング率が前記第2の樹脂のヤング率より小さく、前記第2の樹脂は、ヤング率が3 GPa~20 GPaであって、その線膨張係数が10×10-6/℃~40×10-6/℃であるエポキシ系樹脂であって、前記第2の樹脂を、ポッティング若しくはトランスファモールドで封止したことを特徴とする半導体パワーモジュール、が開示されている。
【0008】
特許文献1によると、2つの異なった機能を有する樹脂の組合せにより、大型チップ、厳しいパワーサイクル、温度サイクル試験に対してもより耐えられる構造となり、ハンダの熱疲労寿命と耐湿性を同時に向上させ、かつ素子部の保護を兼ねた半導体パワーモジュールを提供することができる、とされている。
【0009】
特許文献2(特開2007-027261)には、セラミック基板に配線層が形成されてなる複数の配線セラミック基板と、少なくとも一つの上記配線層に搭載されたパワー半導体素子と、上記複数の配線セラミック基板および上記パワー半導体素子をモールドする封止樹脂と、上記複数の配線セラミック基板に接合された接合部材とを備えたことを特徴とするパワーモジュール、が開示されている。
【0010】
特許文献2によると、配線セラミック基板を複数個用いることにより、セラミック基板のクラックや封止樹脂の剥離が防止された、トランスファーモールド型のパワーモジュールを得ることができる、とされている。
【0011】
特許文献3(特開2017-152722)には、セラミック基板と、前記セラミック基板の表面上に配置された第1銅プレート層の第1パターンと、前記第1パターン上に配置された第1半導体デバイスと、前記第1パターン上に配置された第1柱状接続電極と、前記第1柱状接続電極に接続された出力端子と、前記第1半導体デバイス上に配置された第1柱状電極と、前記第1パターン上に前記第1半導体デバイスに隣接して配置された第1ダイオードと、前記第1ダイオード上に配置された第3柱状電極と、前記第1柱状電極上および前記第3柱状電極上に配置された第1上面板電極とを備え、前記出力端子の厚みは、前記第1半導体デバイスと、前記第1柱状電極と、前記第1上面板電極と、前記第1柱状電極を前記第1上面板電極に接合する半田層との厚みの和と略同じであることを特徴とするパワーモジュール半導体装置、が開示されている。
【0012】
特許文献3によると、薄型パワーモジュールの小型、軽量化可能なパワーモジュール半導体装置を提供することができる、とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【文献】特開2006-179538号公報
【文献】特開2007-027261号公報
【文献】特開2017-152722号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
前述したように、産業機械や車両の動力源の電動化および電子制御化が近年ますます進展しており、動力源の高出力化の要求からパワーモジュールの大電力化の要求も更に大きくなっている。パワーモジュールの大電力化は、運転時の発熱量の増大と直結することから、従来よりも効率的な熱対策が必要になる。加えて、パワーモジュールの小型化要求も強まる一方である。
【0015】
本発明者等は、熱対策のための冷却手段として、パワー半導体素子を両面から冷却する両面冷却方式の採用を前提条件とした。そして、両面冷却方式を阻害することなくパワーモジュールの小型化要求に対応するため、パワー半導体素子の信号電極に接続する信号配線の接続手段を変更することを考えた。具体的には、従来のリードフレームと信号電極とのボンディングワイヤ接続の代わりに、信号配線が内蔵形成された基板(以下、信号線内蔵基板と称する)を用いて、該信号配線と信号電極とを直接接続するという方針を立てた。
【0016】
パワーモジュールの小型化を実現する最適な構成を見出すべく種々の検討を行ったところ、樹脂封止が予想以上に難しいことが判明した。具体的には、信号線内蔵基板を用いることによって、従来のワイヤボンディング構造よりも封止樹脂材の充填が難しくなり、望まない空隙が残存し易くなるという新たな課題に直面した。空隙の残存は電気絶縁性の確保の上で課題となる。
【0017】
本発明は、上記のような課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、効率的な熱対策と、小型化とを実現し、さらに電気絶縁性の確保を実現するパワーモジュールを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明の一態様は、パワーモジュールであって、
複数個のパワー半導体素子と、
電気絶縁層の一方の表面の上に第1入出力配線層が形成された第1入出力基板と、
電気絶縁層の一方の表面の上に第2入出力配線層が形成された第2入出力基板と、
電気絶縁材料からなり信号配線が内蔵形成された信号線内蔵基板と、を有し、
前記複数個のパワー半導体素子が搭載された前記信号線内蔵基板を前記第1入出力基板と前記第2入出力基板との間に配置して半導体素子ユニットが構成され、前記半導体素子ユニットが封止樹脂材で封止されており、
前記複数個のパワー半導体素子のそれぞれは、一方の面に信号電極と第1入出力電極が形成され、他方の面には第2入出力電極が形成されており、
前記第1入出力配線層は前記複数個のパワー半導体素子に対応して複数個の第1入出力端子部を備え、前記複数個の第1入出力端子部は、それぞれ前記第1入出力配線層と導通し、前記信号線内蔵基板に形成された複数個の入出力端子部貫通孔内にそれぞれ位置するように設けられており、
前記複数個のパワー半導体素子のそれぞれは、前記信号電極が前記信号配線と直接接続されており、前記第1入出力電極が前記複数個の第1入出力端子部の一つと直接接続されており、前記第2入出力電極が前記第2入出力配線層と直接接続されており、
前記信号線内蔵基板は、前記複数個の入出力端子部貫通孔の間に硬化前の前記封止樹脂材が流通可能な封止樹脂流通孔を有し、前記封止樹脂流通孔は前記封止樹脂材が充填されている、
ことを特徴とするパワーモジュール、を提供するものである。
【0019】
本発明は、上述したパワーモジュールにおいて、以下のような改良や変更を加えることができる。
(i)前記第1入出力配線層と前記第1入出力端子部とは同一の金属層で形成されている。
(ii)前記信号線内蔵基板は、低温同時焼成セラミックスの多層回路基板であり、その表面に前記封止樹脂材と異なる樹脂材からなり前記封止樹脂材と前記信号線内蔵基板との密着性を向上させる密着性向上層を有している。
(iii)前記封止樹脂材はエポキシ樹脂からなり、前記異なる樹脂材はポリアミドイミド樹脂またはポリイミド樹脂からなる。
(iv)前記封止樹脂流通孔は、開孔の円相当径が1.0 mm以上で合計開孔面積が1.5 mm2以上である。
(v)隣り合う前記第1入出力端子部の間の前記第1入出力配線層の厚さが、その他の部分よりも薄い。
(vi)前記第1入出力基板の前記電気絶縁層の他方の表面、および前記第2入出力基板の前記電気絶縁層の他方の表面は、前記封止樹脂材から露出している。
(vii)前記第1入出力基板の前記電気絶縁層の他方の表面の上、および前記第2入出力基板の前記電気絶縁層の他方の表面の上に、伝熱金属層が更に形成されており、前記伝熱金属層は、前記封止樹脂材から露出している。
(viii)前記第1入出力電極と前記第1入出力端子部との直接接続、前記第2入出力電極と前記第2入出力配線層との直接接続、および前記信号電極と前記信号配線との直接接続は、それぞれ導電接合材を介してなされている。
(ix)前記第1入出力基板および前記第2入出力基板は、前記電気絶縁層がセラミックスからなるセラミックス基板である。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、効率的な熱対策と、小型化とを実現し、さらに電気絶縁性の確保を実現するパワーモジュールを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1A】本発明に係るパワーモジュールの一例を示す斜視模式図である。
【
図2】本発明で用いる信号線内蔵基板の一例を示す平面模式図である。
【
図3】本発明に係るパワーモジュールの他の一例を示す断面模式図である。
【
図4】本発明に係るパワーモジュールの更に他の一例を示す断面模式図である。
【
図5】本発明に係るパワーモジュールの更に他の一例を示す平面模式図である。
【
図6】本発明に係るパワーモジュールの更に他の一例を示す平面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明に係る実施形態について、図面を参照しながらより具体的に説明する。ただし、本発明はここで取り上げた実施形態に限定されることはなく、発明の技術的思想を逸脱しない範囲で、公知技術と適宜組み合わせたり公知技術に基づいて改良したりすることが可能である。また、同義の部材に同じ符号を付して、重複する説明を省略することがある。
【0023】
[第1実施形態]
図1Aは、本発明に係るパワーモジュールの一例を示す斜視模式図であり、
図1Bは、当該パワーモジュールの平面模式図(上面)であり、
図1Cは、当該パワーモジュールの断面模式図である。
【0024】
図1A~
図1Cに示したように、パワーモジュール100は、第1入出力基板110と、信号線内蔵基板130と、パワー半導体素子140と、第2入出力基板120との4部材を有し、それら4部材がその順に積層され封止樹脂材150で封止されている。言い換えると、本実施例では、パワー半導体素子140が搭載された信号線内蔵基板130を第1入出力基板110と第2入出力基板120との間に配置して半導体素子ユニットが構成され、半導体素子ユニットが封止樹脂材で封止されている。
図1A~
図1Cでは、1個の信号線内蔵基板130が2個のパワー半導体素子140を搭載するパワーモジュールの例を示している。なお、
図1Cにおいて、パワー半導体素子140は二つ図示されているが、符号引出線が混み合うためパワー半導体素子140の構成を説明するための符号141~144は図面右側のパワー半導体素子のみに示している。図面左側のパワー半導体素子も同様な構成(図面では左右対称の構成)を有する。また、信号線内蔵基板130には2個のパワー半導体素子のそれぞれに対応した構成(後述の信号配線132や入出力端子部貫通孔133など)が形成されているが、
図1Cにおいて、符号引出線が混み合うため信号線内蔵基板130の構成を説明するための符号131~133は図面左側のみに示している。信号線内蔵基板130の図面左側にも同様な構成(図面では左右対称の構成)を有する。
【0025】
詳細に見ると、第1入出力基板110は、電気絶縁層111の一方の表面の上に第1入出力配線層112が形成された基板であり、第1入出力配線層112には、第1入出力端子部113が形成されている。第1入出力端子部113は後述の入出力端子部貫通孔133内に位置するように第1入出力配線層112から突出している。また、第1入出力端子部113は信号線内蔵基板130の平面に対して直交するように形成されている。第1入出力端子部113の第1入出力配線層112から突出している部分の長さは信号線内蔵基板130の厚さよりも長くなるように形成されている。また、電気絶縁層111の反対の面には、伝熱金属層114が形成されている。なお、突出部である第1入出力端子部113を平面層に接合するかたちで第1入出力配線層112を構築してもよい。言い換えると、第1入出力配線層112が二層の金属層から構成されていてもよい。さらに、第1入出力端子部113は信号線内蔵基板130に形成された入出力端子部貫通孔133内にビア電極として構成しても良い。ただし、接触抵抗などを考慮すると、第1入出力端子部113は第1入出力配線層112と同一の金属層で形成するのが望ましい。
【0026】
伝熱金属層214,224は、第1入出力配線層112および第2入出力配線層122と同様の良導電体(熱伝導率の高い金属、例えば、Cu、Alなど)で形成されることが好ましい。伝熱金属層214,224を有することにより、電気絶縁層111,121を介して伝わった熱が速やかに伝熱金属層214,224の面内方向に広がるため、パワーモジュールの冷却効率をより高めることができる(すなわち、より効率的な熱対策となる)。
【0027】
信号線内蔵基板130は、電気絶縁材料131からなり信号配線132が内蔵形成された多層回路基板である。パワー半導体素子140は、半導体チップ144の一方の表面に第1入出力電極141と信号電極143とが形成されており、他方の表面に第2入出力電極142が形成されている。
【0028】
第1入出力配線層112の第1入出力端子部113は、信号線内蔵基板130を貫通して、パワー半導体素子140の第1入出力電極141と直接接続している。言い換えると、信号線内蔵基板130には、第1入出力端子部113が貫通するための入出力端子部貫通孔133が形成されている。なお、本明細書において「直接接続」とは、ボンディングワイヤを介在させずに接続することを意味し、例えば、導電接合材160などで第1入出力端子部113と第1入出力電極141を接続する場合を言う。信号線内蔵基板130の信号配線132は、パワー半導体素子140の信号電極143と直接接続している。そして、第2入出力基板120は、電気絶縁層121の一方の表面の上に第2入出力配線層122が形成された基板であり、パワー半導体素子140の第2入出力電極142と直接接続している。また、電気絶縁層121の第2入出力配線層122の反対面には伝熱金属層124が形成されている。
【0029】
パワーモジュール100の効率的な熱対策の観点から、第1入出力基板110および第2入出力基板120の表面(本実施形態では伝熱金属層114,124の表面)は、封止樹脂材150から露出していることが好ましい。
図1A~
図1Cに図示していないが、パワーモジュール100は、両面冷却方式を採用するため、伝熱金属層114,124の表面に冷却手段(例えば、放熱フィン、冷却チャネル)を当接することが好ましい。言い換えると、パワーモジュール100は、第1入出力基板110および第2入出力基板120の伝熱金属層114,124が最表面に露出していることから、両面冷却方式を採用し易いと共に、冷却手段の取り回し自由度が高いという利点もある。
【0030】
本発明者等の種々の検討から、パワーモジュール100の樹脂封止をトランスファーモールドで行う場合、
図1Cに示したような隣り合う第1入出力端子部113に挟まれる領域150a(第1入出力配線層112と第1入出力端子部113と信号線内蔵基板130とで囲まれる領域)、および隣り合うパワー半導体素子140に挟まれる領域150b(第2入出力配線層122とパワー半導体素子140と信号線内蔵基板130とで囲まれる領域)は、その他の領域に比して封止樹脂材の充填が難しい(望まない空隙が残存し易い)ことが判明している。
【0031】
そこで、本発明では、
図1Cおよび
図2に示すように、信号線内蔵基板130において、入出力端子部貫通孔133の間に硬化前の封止樹脂材150が流通可能な封止樹脂流通孔134を形成している。
図2は、本発明で用いる信号線内蔵基板の一例を示す平面模式図である。封止樹脂流通孔134を形成することにより、硬化前の封止樹脂材150が領域150aと領域150bとの間で流通可能/流通容易になり、望まない空隙の残存を防止することができる。
【0032】
封止樹脂流通孔134は、開孔の円相当径が1.0 mm以上(開孔が円の場合、曲率半径が0.5 mm以上)で、合計開孔面積が1.5 mm2以上であることが好ましい。後述の実施例で説明するように、開孔の円相当径が1.0 mmで、合計開孔面積が1.5 mm2である場合、封止樹脂材150のトランスファーモールドの際に望まない気泡が残存しないことを確認している。開孔の円相当径が1.0 mm未満になったり、合計開孔面積が1.5 mm2未満になったりすると、封止樹脂材150のトランスファーモールドの際に望まない気泡が残存する可能性がある。
【0033】
なお、
図2には、円形孔を2個形成した例を示したが、本発明はそれに限定されるものではない。例えば、開孔の曲率半径が0.5 mm以上で合計開孔面積が1.5 mm
2以上を満たす限り、円形孔が1個であってもよい。また、開孔の円相当径が1.0 mm以上で、合計開孔面積が1.5 mm
2以上を満たす限り、1個以上の楕円孔であってもよいし、1個以上のオーバル孔であってもよい。
【0034】
また、信号線内蔵基板130としては、パワーモジュール100における電気絶縁性の観点および耐熱性の観点から、良導電性金属(例えば、AgやCu)の配線を内蔵形成した多層回路基板を用いることが好ましく、特にAl2O3、SiO2、SrOを主成分とし、回路の金属と同時に焼成できるようにした低温同時焼成セラミックス基板(LTCC基板)を用いることが好ましい。
【0035】
本発明で用いる封止樹脂材150に特段の限定はなく、パワーモジュール100の使用環境(例えば、温度、湿度)を考慮して従前の樹脂材から適宜選定すればよい。例えば、ガラス転移温度が175℃以上のエポキシ樹脂(フェノールノボラック型、多官能型、ビフェニル型など)を好適に使用できる。当該ガラス転移温度は200℃以上がより好ましい。
【0036】
また、運転時と休止時との温度差に起因する熱応力/熱ひずみを抑制する観点から、樹脂に適当なフィラー(例えば、SiO2、Al2O3、AlN、BNなどのセラミックス粒子や、ゲルやゴムなどのエラストマー粒子)を混合して、封止樹脂材150の熱膨張係数を調整することは好ましい。調整する熱膨張係数としては、3~23 ppm/Kが好ましく、7~20 ppm/Kがより好ましい。
【0037】
ここで、信号線内蔵基板130としてLTCC基板を用いる場合、該LTCC基板とエポキシ樹脂の封止樹脂材150との密着性について考慮した方が良い。すなわち、LTCC基板とエポキシ樹脂の封止樹脂材150とは濡れ性があまり良くない(密着性があまり良くない)。
【0038】
そこで、信号線内蔵基板130としてLTCC基板を用いる場合は、信号線内蔵基板130の表面に樹脂からなる密着性向上層135を形成することが好ましい。密着性向上層135を構成する樹脂材としては、ポリアミドイミド樹脂またはポリイミド樹脂を好適に使用できる。密着性向上層135の形成方法に特段の限定はなく、従前の方法(例えば、当該樹脂の塗布、焼付け)を適宜利用すればよい。密着性向上層135を形成することにより、パワーモジュール100の熱応力/熱ひずみによって、LTCC基板と封止樹脂材150との界面で剥離を起こす可能性を低減することができる。
【0039】
本発明で用いる第1入出力基板110および第2入出力基板120に特段の限定はなく、パワーモジュール100の使用環境(例えば、温度、湿度)を考慮して従前の基板から適宜選定すればよい。例えば、電気絶縁層111,121がセラミックスからなるセラミックス基板を好適に用いることができる。電気絶縁層111,121としては、電気絶縁性および熱伝導性の観点から、Si3N4、AlN、Al2O3などを利用することが好ましい。
【0040】
前述したように、パワーモジュール100では、第1入出力配線層112の第1入出力端子部113と、パワー半導体素子140の第1入出力電極141とが直接接続しており、信号線内蔵基板130の信号配線132と、パワー半導体素子140の信号電極143とが直接接続しており、第2入出力基板120の第2入出力配線層122と、パワー半導体素子140の第2入出力電極142とが直接接続している。
【0041】
これらの直接接続は、接続安定性の観点から、それぞれ導電接合材160を介してなされることが好ましい。用いる導電接合材160に特段の限定はなく、パワーモジュール100の使用環境(例えば、温度、湿度)を考慮して従前の接合材から適宜選定すればよい。例えば、はんだ、金属ナノ粒子、導電性低融点ガラスなどを好適に利用することができる。
【0042】
[第2実施形態]
図3は、本発明に係るパワーモジュールの他の一例を示す断面模式図である。
図3に示したように、第2実施形態のパワーモジュール200は、第1入出力基板210および第2入出力基板220が、電気絶縁層111,121の他方の表面に(第1入出力配線層112、第2入出力配線層122の側と反対側の表面に)伝熱金属層を有していない点で第1実施形態のパワーモジュール100と異なり、他を同じとするものである。
【0043】
電気絶縁層111,121が封止樹脂材150から露出した構造となる。第1実施形態と同様に、電気絶縁層111,121の表面に冷却手段(例えば、放熱フィン、冷却チャネル)を当接させ、効率的に冷却を行うことが可能である。
【0044】
[第3実施形態]
図4は、本発明に係るパワーモジュールの更に他の一例を示す断面模式図である。
図4に示したように、第3実施形態のパワーモジュール300は、第1入出力基板310の第1入出力配線層312における隣り合う第1入出力端子部113の間の第1入出力配線層312の厚さが、その他の部分よりも薄くなっている点で第1実施形態のパワーモジュール100と異なり、他を同じとするものである。
【0045】
言い換えると、隣り合う第1入出力端子部113に挟まれる領域150c(第1入出力配線層312と第1入出力端子部113と信号線内蔵基板130とで囲まれる領域)が、第1実施形態の領域150a(
図1C参照)よりも大きく/広くなる。その結果、硬化前の封止樹脂材150の流入および流動が容易になり、望まない空隙の残存をより効率良く防止することができる。これは、電気絶縁性の確保や長期信頼性の向上に貢献する。
【0046】
[第4実施形態]
図5は、本発明に係るパワーモジュールの更に他の一例を示す平面模式図である。
図5に示したように、第4実施形態のパワーモジュール400は、1個の信号線内蔵基板430が4個のパワー半導体素子140を搭載している点で第1~第3実施形態のパワーモジュール100~300と異なり、他を同じとするものである。パワー半導体素子140の搭載数を増やすことにより、大電力化に対応しながら小型化に貢献することができる。
【0047】
[第5実施形態]
図6は、本発明に係るパワーモジュールの更に他の一例を示す平面模式図である。
図6に示したように、第5実施形態のパワーモジュール500は、4個のパワー半導体素子140を搭載した信号線内蔵基板430を2個併せて樹脂封止している点で第4実施形態のパワーモジュール400と異なり、他を同じとするものである。第5実施形態は、第4実施形態よりも更に大電力化および小型化に貢献することができる。
【実施例】
【0048】
以下、種々の実験により本発明をさらに具体的に説明する。ただし、本発明はこれらの実験に限定されるものではない。
【0049】
[実験1]
(実施例1のパワーモジュールの作製)
実施例1のパワーモジュールとして、第1実施形態に相当するパワーモジュールを作製した。パワー半導体素子としてSiC-MOSFETのチップを2個用意し、信号線内蔵基板として信号配線が内蔵形成されたLTCC基板を用意し、第1入出力基板および第2入出力基板としてSi3N4基板の一方の表面に銅よりなる第1入出力配線層および第2入出力配線層が形成されたセラミックス基板を用意した。LTCC基板は、入出力端子部貫通孔と封止樹脂流通孔とが予め形成されている。封止樹脂流通孔として円形孔が二つ形成されており、それぞれの円形孔の曲率半径は0.5 mm、合計開孔面積が約1.5 mm2である。
【0050】
まず、LTCC基板の表面に密着性向上層を形成した。ポリアミドイミド樹脂のN-メチル-2-ピロリドン溶液を用意し、入出力端子部をマスキングした後、該溶液にLTCC基板を浸漬した。浸漬したLTCC基板を溶液から取り出した後、焼付け(100℃で30分間保持し、引き続いて200℃で1時間保持)を行って、ポリアミドイミド樹脂からなる密着性向上層(厚さ3μm)を形成して信号線内蔵基板を作製した。
【0051】
第1入出力基板、信号線内蔵基板、パワー半導体素子、および第2入出力基板の順になるように各部材を積層し、第1入出力配線層の第1入出力端子部とパワー半導体素子の第1入出力電極との間、信号線内蔵基板の信号配線とパワー半導体素子の信号電極との間、パワー半導体素子の第2入出力電極と第2入出力基板の第2入出力配線層との間をそれぞれ無鉛はんだ(導電接合材)を用いて直接接合した。得られた4部材の接合体を半導体素子ユニットと称することにする。
【0052】
次に、得られた半導体素子ユニットに対して、トランスファーモールド装置を用いて樹脂封止を行った。封止樹脂材としてエポキシ樹脂(ガラス転移温度205℃、線膨張係数16 ppm/K、弾性率11 GPa)を用い、適当なモールド条件(金型温度180℃、モールド圧力6.9 MPa、モールド時間180秒)にてトランスファーモールドを行った。その後、封止樹脂材の加熱硬化(175℃で6時間保持)を行って、実施例1のパワーモジュールを完成させた。
【0053】
[実験2]
(実施例2のパワーモジュールの作製)
実施例2のパワーモジュールとして、第4実施形態に相当するパワーモジュールを作製した。パワー半導体素子としてSiC-MOSFETのチップを4個用意した。信号線内蔵基板では、隣り合う入出力端子部貫通孔の間、および4個の入出力端子部貫通孔に囲まれる中心位置に封止樹脂流通孔が形成されているLTCC基板を用意した。第1入出力基板としては、第3実施形態の特徴(隣り合う第1入出力端子部に挟まれる領域の第1入出力配線層の厚さがその他の領域よりも薄い(ここでは、半分の厚さにした)という特徴)を有するセラミックス基板を用意した。また、第2入出力基板としては、実験1と同様のセラミックス基板を用意した。
【0054】
その他の手順は実験1と同様にして、実施例2のパワーモジュールを完成させた。
【0055】
[実験3]
(比較例1~2のパワーモジュールの作製)
信号線内蔵基板として封止樹脂流通孔を有しないLTCC基板(入出力端子部貫通孔は形成されている)を用いた以外は、実験1~2と同様にして比較例1~2のパワーモジュールを作製した。
【0056】
[実験4]
(実施例1~2および比較例1~2における封止樹脂材の充填状態の確認)
実験1~3で作製した実施例1~2および比較例1~2のパワーモジュールを、ダイヤモンドソーを用いて切断し、封止樹脂材の充填状態(特に、隣り合う第1入出力端子部に挟まれる領域、
図1Cの領域150a、
図4の領域150cにおける封止樹脂材の充填状態)を顕微鏡観察した。その結果、実施例1~2のパワーモジュールでは、望まない空隙の残存はなく、完全充填されていることを確認した。一方、比較例1~2のパワーモジュールでは、隣り合う第1入出力端子部に挟まれる領域において、望まない空隙(気泡)の残存が確認された。
【0057】
上述した実施形態や実験例は、本発明の理解を助けるために説明したものであり、本発明は、記載した具体的な構成のみに限定されるものではない。例えば、実施形態の構成の一部を当業者の技術常識の構成に置き換えることが可能であり、また、実施形態の構成に当業者の技術常識の構成を加えることも可能である。すなわち、本発明は、本明細書の実施形態や実験例の構成の一部について、発明の技術的思想を逸脱しない範囲で、削除・他の構成に置換・他の構成の追加をすることが可能である。
【符号の説明】
【0058】
100,200,300,400,500…パワーモジュール、
110,210,310…第1入出力基板、111…電気絶縁層、
112,312…第1入出力配線層、113…第1入出力端子部、214…伝熱金属層、
120,220…第2入出力基板、121…電気絶縁層、
122…第2入出力配線層、224…伝熱金属層、
130,430…信号線内蔵基板、131…電気絶縁材料、132…信号配線、
133…入出力端子部貫通孔、134…封止樹脂流通孔、135…密着性向上層、
140…パワー半導体素子、
141…第1入出力電極、142…第2入出力電極、143…信号電極、144…半導体チップ、
150…封止樹脂材、
150a,150c…隣り合う第1入出力端子部に挟まれる領域、
150b…隣り合うパワー半導体素子に挟まれる領域、
160…導電接合材。