(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-16
(45)【発行日】2023-10-24
(54)【発明の名称】有機性廃棄物処理システム及び処理方法
(51)【国際特許分類】
B09B 3/65 20220101AFI20231017BHJP
C02F 11/04 20060101ALI20231017BHJP
B09B 101/70 20220101ALN20231017BHJP
【FI】
B09B3/65
C02F11/04 A
B09B101:70
(21)【出願番号】P 2019228444
(22)【出願日】2019-12-18
【審査請求日】2022-09-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000001063
【氏名又は名称】栗田工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086911
【氏名又は名称】重野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100144967
【氏名又は名称】重野 隆之
(72)【発明者】
【氏名】梅本 麻由
【審査官】森 健一
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-253870(JP,A)
【文献】特開2018-008204(JP,A)
【文献】特開2005-111338(JP,A)
【文献】特開2002-282897(JP,A)
【文献】特開2003-039052(JP,A)
【文献】特開2005-152851(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B09B 3/00
C02F 11/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機性廃棄物の処理システムを用いた有機性廃棄物の処理方法において、
該有機性廃棄物の処理システムは、
有機性廃棄物を受け入れる
複数の受入部と、
受入部からの有機性廃棄物が混合及び調質されて供給されるメタン発酵槽と、
受入部の有機性廃棄物、メタン発酵槽への供給物、及びメタン発酵槽の消化液につい
て、少なくとも有機性廃棄物の分解性
の測定
及び各有機性廃棄物の成分分析を行う測定部と、
測定部から測定結果が入力され、これに基づいて受入部からの有機性廃棄物の供給量を制御する管理装置と
を有
しており、
複数の有機性廃棄物発生元から有機性廃棄物を回収して対応する前記受入部に投入する有機性廃棄物の処理方法であって、
前記測定部では、各受入部からの有機性廃棄物について、COD又はカロリーと、有機性廃棄物の成分とを測定すると共に、
前記メタン発酵槽から採取した消化液と前記有機性廃棄物とを混合し、嫌気雰囲気下で、メタンガス発生量を経時的に測定して各有機性廃棄物の分解性を測定し、
メタンガス発生速度から各有機性廃棄物中のCODの分解速度を算出し、一次反応式にフィッティングさせ分解速度定数を求め、
上記有機性廃棄物分解性測定と同一方法により、標準原料の分解率及び分解速度定数を求め、前記有機性廃棄物の分解速度定数を標準原料の分解速度定数で補正し、
有機性廃棄物のCOD又はカロリー測定結果と、前記有機性廃棄物の分解性測定で得られたガス発生量の測定結果から、有機性廃棄物のCOD又はカロリー測定値とガス発生量との相関式を作成し、この相関式を用いることで有機性廃棄物のCOD又はカロリー成分含有量からガス発生量を予測し、
メタン発酵槽の稼働効率を最大とするように各受入部からの有機性廃棄物の供給量を制御する有機性廃棄物の処理方法。
【請求項2】
前記標準原料は、酢酸、ゼラチン、でんぷん又はサラダ油である請求項1の有機性廃棄物の処理方法。
【請求項3】
前記有機性廃棄物は、弁当製造工場、スーパーの総菜調理場、ファミリーレストランのセントラルキッチン、又はコンビニから排出される食品廃棄物である請求項1又は2の有機性廃棄物の処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、食品廃棄物等の有機性廃棄物を処理してメタンガスを発生させる有機性廃棄物処理システム及び処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
食品残渣物等の有機性廃棄物をメタン発酵菌の作用で嫌気性分解するメタン発酵処理は、廃棄物を大幅に減容化すると共に、メタンガスを含むバイオガスを生成させることができ、また、このバイオガスによって発電を行うことができるという優れた利点を有する。
【0003】
特許文献1には、古紙、生ごみ、家畜糞尿、し尿、汚泥等の有機性廃棄物を高いメタン発酵効率にて高負荷処理することにより、メタンガスを安定かつ効率的に回収することができる有機性廃棄物の乾式メタン発酵方法として、有機性廃棄物のC/N比が20~250となるように有機性廃棄物を調整する発酵処理方法が記載されている。
【0004】
特許文献2には、複数種類の有機性廃棄物を受け入れてメタン発酵処理するメタン発酵処理施設の運転方法において、生成するバイオガスの量及び組成が所定範囲となるように各有機性廃棄物の供給量、混合比、又は希釈率を制御することを特徴とするメタン発酵処理施設の運転方法が記載されている。
【0005】
また、特許文献2には、複数種類の有機性廃棄物を受け入れてメタン発酵処理するメタン発酵処理施設の運転方法において、メタン発酵槽の指標値(pH、アルカリ度及び有機酸濃度)が所定範囲となるように各有機性廃棄物の供給量又は混合比を制御することを特徴とするメタン発酵処理施設の運転方法が記載されている。
【0006】
メタン発酵処理においては、糖質、タンパク質、脂質などの有機物は、まず酸生成菌の働きにより、プロピオン酸、酪酸、乳酸、酢酸などの低級脂肪酸に分解され、次いで、炭素数が3以上の有機酸は酢酸生成菌により酢酸に分解される。そして、最後にメタン生成細菌により、この酢酸生成反応で生成した酢酸及び水素を利用して、メタン生成が行なわれる。
【0007】
このメタンを生成するモデルとして、国際水協会(International Water Association)による嫌気性消化モデル「ADM1(Anaerobic Digestion Model No.1)」が広く知られている。
【0008】
特許文献3には、ADM1に基づいてガス発生速度を予測し、予測値と実測値とを比較して消化槽内の状況を監視することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開2001-347247号公報
【文献】特開2019-130486号公報
【文献】特開2005-111338号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、効率よくメタン発酵反応を行うことができる有機性廃棄物の処理システム及び処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の有機性廃棄物処理システムは、有機性廃棄物を受け入れる受入部と、受入部からの有機性廃棄物が混合及び調質されて供給されるメタン発酵槽と、受入部の有機性廃棄物、メタン発酵槽への供給物、及びメタン発酵槽の消化液について測定を行い、少なくとも有機性廃棄物の分解性を測定する測定部と、測定部から測定結果が入力され、これに基づいて受入部からの有機性廃棄物の供給量を制御する管理装置とを有する。
【0012】
本発明の有機性廃棄物処理システムの一態様では、前記測定部は、さらに、各有機性廃棄物の成分分析を行う。
【0013】
本発明の有機性廃棄物処理システムの一態様では、複数の受入部を備える。
【0014】
本発明の有機性廃棄物処理方法は、かかる本発明の有機性廃棄物処理システムを用いて有機性廃棄物を処理する。
【0015】
本発明の有機性廃棄物処理方法の一態様では、複数の有機性廃棄物発生元から有機性廃棄物を回収して対応する前記受入部に投入する。
【0016】
本発明の有機性廃棄物処理方法の一態様では、メタン発酵槽の稼働効率を最大とするように各受入部からの有機性廃棄物の供給量を制御する。
【発明の効果】
【0017】
本発明によると、メタン発酵槽の状況に応じて適切に原料を供給して効率よくメタン発酵反応を行わせることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明の実施形態に係る有機性廃棄物処理システムの模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
【0020】
図1は、本発明の実施形態に係る有機性廃棄物処理システムの模式図である。本実施形態の有機性廃棄物処理システムは、食品廃棄物等を回収し、メタン発酵させてメタンガスを含むバイオガスを生成させ、生成したバイオガスを利用して発電するものである。
【0021】
なお、メタンガスを利用して発電を行う代りに、メタンガスを精製又は液化して燃料としたり、水素を製造する用途などに用いてもよいが、下記の実施形態では、発電を行う例について説明する。
【0022】
図1に示すように、弁当製造工場、スーパーの総菜調理場、ファミリーレストランのセントラルキッチン、コンビニなどの有機性廃棄物排出元A,B,Cで発生した食品等の有機性廃棄物は、有機性廃棄物運搬車1によってメタン発酵施設2に運搬される。
【0023】
この実施の形態では、有機性廃棄物発生元としてA,B,Cの3箇所が示されているが、複数であればよく、2又は4以上であってもよい。
【0024】
メタン発酵施設2では、搬入された有機性廃棄物は、計量装置(図示略)で計量された後、各有機性廃棄物発生元A,B,Cに対応する受入部としてのホッパー3A~3Cに投入される。本実施形態では、ホッパー3A~3Cは、有機性廃棄物発生元A,B,Cに対応する受入部として設置されているが、これに限定するものではなく、有機性廃棄物の主な種類、例えばタンパク質系(肉類)、炭水化物系(米類)、脂質(油)に対応する受入部としたり、有機性廃棄物の主な成分濃度範囲、例えば含水率またはCODCr濃度に応じた受入部とすることも可能である。
【0025】
各ホッパー3A~3C内の有機性廃棄物は、フィーダー4A~4Cを介して前処理部11に供給されて処理される。
【0026】
メタン発酵施設2には、前処理部11の後段側に、貯槽12、ポンプ13、メタン発酵槽14、汚泥脱水機15及び発電機16等が設置されている。
【0027】
前処理部11は各ホッパー3A~3Cから有機性廃棄物を受け入れ、破砕や選別(異物除去)、水分調整などの前処理を行う。前処理生成物は、好ましくは液又はスラリー状であり、配管を介して貯槽12に移送されて貯留される。貯槽12内の液又はスラリーは、ポンプ13を介してメタン発酵槽14に移送され、メタン発酵槽14内でメタン発酵処理が行われる。
【0028】
メタン発酵槽14内の発酵状況は、温度計、pH計、メタン濃度計、CO2計などのセンサで検出され、管理装置10に送信される。管理装置10は、メタン発酵状況に応じて各フィーダー4A~4Cを制御して各有機性廃棄物の投入量制御を行うと共に、ポンプ13を制御して貯槽12内の液又はスラリーのメタン発酵槽14への供給を制御する。また、管理装置10は、メタン発酵槽14に設けられた酸添加装置又はアルカリ添加装置(図示略)に作動信号を与え、酸又はアルカリをメタン発酵槽14に添加し、メタン発酵槽14内のpHを所定範囲に維持する。
【0029】
メタン発酵槽14は、貯槽12から供給される液ないしスラリーを、嫌気性反応により減量化すると共にバイオガスを発生させる。メタン発酵槽14は、嫌気性条件を維持するために密閉槽であり、熱の拡散を抑えるために断熱構造となっている。
【0030】
メタン発酵槽14の消化液は、脱水機15において圧搾脱水される。このとき、消化液には、無機凝集剤や高分子凝集剤等の薬品が添加されてもよい。脱水濾液は、前処理部11で再利用されたり、分離水処理設備(図示略)で処理されたりする。脱水処理後の脱水残渣(ケーキ)は、堆肥等に利用されてもよく、焼却処理されてもよい。
【0031】
発電機16はガスエンジン発電機であり、メタン発酵槽14で発生したバイオガスを用いて発電を行う。発電された電力は、売電システムを用いて売電されてもよい。
【0032】
メタン発酵槽14で生成するバイオガスの主成分はメタンガス及び二酸化炭素であり、微量の硫化水素が含まれる。そのため、発電機16にバイオガスを供給する前に、脱硫装置(図示略)により硫化水素が除去される。
【0033】
この実施の形態では、各ホッパー3A~3C、貯槽12及びメタン発酵槽14に、それぞれサンプリング部が設けられており、ホッパー3A~3C内の有機性廃棄物、貯槽12内の前処理液又はスラリー、及びメタン発酵槽14内の消化液の各サンプルを採取可能となっている。
【0034】
各サンプルは、定期的に採取され、測定部20に運ばれる。測定部20では、ホッパー3A~3Cからの有機性廃棄物については、COD(CODCr、以下、同様。)と、有機性廃棄物の成分(炭水化物、タンパク質、脂質、固形性不活性成分及び溶解性不活性成分)を測定する。(なお、CODの代りにカロリーを測定してもよいが、以下の説明ではCODを測定するものとする。)
【0035】
また、測定部20では、採取した有機性廃棄物及び前処理生成物について消化液を用いて分解性等の測定が行われる。これらの測定結果は管理装置10に入力される。
【0036】
管理装置10は、CPU(中央演算処理装置)や、フラッシュメモリ、ROM(Read-only Memory)、RAM(Random Access Memory)、ハードディスク等からなる記憶部を有したコンピュータである。記憶部は、管理プログラム、廃棄物データ、メタンガス発生量データ等を格納している。
【0037】
測定部における原料(有機性廃棄物)分解性等の測定方法及びそれに基づく、原料供給制御方法は次の通りである。
【0038】
[原料分解性の測定方法]
消化液と原料(有機性廃棄物)とを混合し、37℃、嫌気雰囲気下で、メタンガス発生量を経時的に測定する。
【0039】
メタンガス発生速度がメタン菌の自己消化速度に落ち着くまでメタンガス発生量を測定し、累積メタンガス発生量から原料の分解率を算出する。
【0040】
また、メタンガス発生速度から原料中のCODの分解速度を算出し、一次反応式にフィッティングさせ分解速度定数を求める。
【0041】
[消化液の性状評価]
上記原料分解性測定と同一方法により、標準原料(例えば、酢酸、ゼラチン、でんぷん、サラダ油など)の分解率及び分解速度定数を求め、消化液の性状を評価する。
【0042】
[原料分解性の補正方法]
採取したメタン発酵槽14内の消化液と、原料分解性試験で用いたものと同一の標準原料とを混合して、同様に分解速度定数を求める。投入予定原料の分解速度定数を標準原料の分解速度定数で補正する。
【0043】
[ガス発生量及び速度の予測方法]
各種原料の分解速度定数と原料成分測定結果より、回帰モデルを作成する。分解性測定試験を実施していない原料に関しても、原料成分を測定すれば、この測定値と該回帰モデルを用いて分解速度定数を予測することができる。
【0044】
ガス発生量に関しては、原料のCOD測定及び分解性測定試験で得られたガス発生量の結果から、相関式を作成する。この相関式を用いることで原料のCOD成分含有量からガス発生量を予測することが可能である。
【0045】
メタン発酵槽14のガス発生速度およびガス発生量は、投入原料の分解ポテンシャルに投入量を掛け合わせて算出する。
【0046】
[原料の投入制御方法]
メタン発酵槽を最大効率で稼働させるためのメタンガス発生量または速度となるよう、
各種原料の分解速度と投入量を足し合わせて、投入原料の種類、量及び頻度を決定する。
【0047】
受入原料とメタン発酵槽直前の前処理生成物の成分(COD、タンパク質、炭水化物、脂質、水分、灰分)とを測定し、原料投入計画とずれが生じている場合は、このずれを解消するように、各投入原料の供給量を算出し、フィーダー4A~4Cを制御する。
【0048】
以上のように、本発明は、メタン発酵槽のメタンガス発生等の運転状況のデータを収集し、メタン発酵槽における原料分解性(有機酸生成速度)とメタン生成菌活性(有機酸消費速度、特に酢酸消費速度)を算出し、メタン発酵槽への投入に適した分解性の原料を少なくとも1か所以上の排出元から選択し、収集し、これに基づいて原料投入を制御する。
【0049】
本発明は、バイオガス発生の安定化のために原料分解性とメタン生成菌活性が所定範囲の比率であることが重要との知見に基づくものである。
【0050】
上記実施の形態では、メタン発酵施設2は1個だけ示されているが、メタン発酵施設は複数でも良い。また、同一のメタン発酵施設内に複数のメタン発酵槽を有する場合でも、原料分解性またはメタン生成菌活性は各バイオガス発電施設の運転状況に応じて算出され、各排出元で各メタン発酵槽に対応する原料分解性を比較し、より適切なメタン発酵槽に原料を配送することで、各施設、各メタン発酵槽でガス発生速度、発生量の安定化が可能となる。
【符号の説明】
【0051】
2 メタン発酵施設
3A~3C ホッパー
4A~4C フィーダー
10 管理装置
11 前処理部
12 貯槽
13 ポンプ
14 メタン発酵槽
15 脱水機
16 発電機