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特許7367678板ガラスの製造装置、および板ガラスの製造装置に使用される成形部材
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  • 特許-板ガラスの製造装置、および板ガラスの製造装置に使用される成形部材 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-16
(45)【発行日】2023-10-24
(54)【発明の名称】板ガラスの製造装置、および板ガラスの製造装置に使用される成形部材
(51)【国際特許分類】
   C03B 17/06 20060101AFI20231017BHJP
【FI】
C03B17/06
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2020537394
(86)(22)【出願日】2019-07-23
(86)【国際出願番号】 JP2019028857
(87)【国際公開番号】W WO2020036045
(87)【国際公開日】2020-02-20
【審査請求日】2022-02-14
(31)【優先権主張番号】P 2018152489
(32)【優先日】2018-08-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】AGC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】中野 正徳
【審査官】酒井 英夫
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-124112(JP,A)
【文献】特開2006-256938(JP,A)
【文献】特開昭58-060633(JP,A)
【文献】特表2009-509896(JP,A)
【文献】特開2015-048278(JP,A)
【文献】特開2001-031435(JP,A)
【文献】特開2012-171836(JP,A)
【文献】国際公開第2011/007681(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03B 17/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
板ガラスを連続的に製造する製造装置であって、
溶融ガラスを成形して、ガラスリボンを形成する成形部材を有し、
前記成形部材は、黒鉛を含む支持部材で支持され、前記支持部材は、前記成形部材とともに囲いで囲まれ、
前記囲いで囲まれた空間は、100ppm以下の酸素濃度に調整され、
前記成形部材は、前記溶融ガラスと接触する少なくとも一部が黒鉛以外の材料で構成され
前記成形部材は、内部側面、該内部側面と対向する外部側面、内部底面、および前記内部底面と対向する外部底面を有し、前記内部側面および前記内部底面で囲まれた内部に溶融ガラスを収容し、
前記成形部材は、さらに、前記内部底面から前記外部底面まで貫通するスリットを有し、
前記支持部材は、前記成形部材の前記外部側面の少なくとも一部、および前記外部底面の少なくとも一部と接する、板ガラスの製造装置。
【請求項2】
前記空間には、不活性ガスまたは還元性ガスが供給される、請求項1に記載の板ガラスの製造装置。
【請求項3】
さらに、前記ガラスリボンを徐冷する徐冷手段を有する、請求項1または2に記載の板ガラスの製造装置。
【請求項4】
前記徐冷手段は、前記囲いで覆われている、請求項3に記載の板ガラスの製造装置。
【請求項5】
板ガラスを連続的に製造する製造装置用の成形部材であって、
当該成形部材は、黒鉛を含む支持部材で支持され、前記支持部材は、当該成形部材とともに囲いで囲まれ、
前記囲いで囲まれた空間は、100ppm以下の酸素濃度に調整され、
当該成形部材は、溶融ガラスと接触する少なくとも一部が黒鉛以外の材料で構成され
前記成形部材は、内部側面、該内部側面と対向する外部側面、内部底面、および前記内部底面と対向する外部底面を有し、前記内部側面および前記内部底面で囲まれた内部に溶融ガラスを収容し、
前記成形部材は、さらに、前記内部底面から前記外部底面まで貫通するスリットを有し、
前記支持部材は、前記成形部材の前記外部側面の少なくとも一部、および前記外部底面の少なくとも一部と接する、成形部材。
【請求項6】
板ガラスを連続的に製造する製造装置であって、
溶融ガラスを成形して、ガラスリボンを形成する成形部材を有し、
前記成形部材は、黒鉛で構成され、もしくは黒鉛で構成された部分を含み、前記成形部材は、囲いで囲まれ、
前記囲いで囲まれた空間は、100ppm以下の酸素濃度に調整され、
前記成形部材は、前記溶融ガラスと接触する少なくとも一部が黒鉛以外の材料で構成され、
前記成形部材は、長手方向に延伸する細長い形状を有し、前記長手方向に垂直な断面がくさび形状であり、
前記成形部材は、前記長手方向に延伸する芯棒を有し、該芯棒は、黒鉛で構成され、
前記芯棒は、直径をD とし、前記成形部材の高さをHとしたとき、D /H=0.5~0.8を満たす、板ガラスの製造装置。
【請求項7】
前記空間には、不活性ガスまたは還元性ガスが供給される、請求項6に記載の板ガラスの製造装置。
【請求項8】
さらに、前記ガラスリボンを徐冷する徐冷手段を有する、請求項6または7に記載の板ガラスの製造装置。
【請求項9】
前記徐冷手段は、前記囲いで覆われている、請求項8に記載の板ガラスの製造装置。
【請求項10】
板ガラスを連続的に製造する製造装置用の成形部材であって、
当該成形部材は、黒鉛で構成され、もしくは黒鉛で構成された部分を含み、当該成形部材は、囲いで囲まれ、
前記囲いで囲まれた空間は、100ppm以下の酸素濃度に調整され、
当該成形部材は、溶融ガラスと接触する少なくとも一部が黒鉛以外の材料で構成され、
前記成形部材は、長手方向に延伸する細長い形状を有し、前記長手方向に垂直な断面がくさび形状であり、
前記成形部材は、前記長手方向に延伸する芯棒を有し、該芯棒は、黒鉛で構成され、
前記芯棒は、直径をD とし、前記成形部材の高さをHとしたとき、D /H=0.5~0.8を満たす、成形部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、板ガラスの製造装置、および板ガラスの製造装置に使用される成形部材に関する。
【背景技術】
【0002】
板ガラスの連続製造方法の一種として、いわゆるフュージョン法が知られている(例えば特許文献1)。
【0003】
この方法では、ガラス原料を溶解することにより得られた溶融ガラスが、成形用の部材(以下、「成形部材」と称する)の上部に供給される。成形部材は、断面が下向きに尖った略くさび状となっており、溶融ガラスは、この成形部材の対向する2つの側面に沿って流下される。両側面に沿って流下する溶融ガラスは、成形部材の下側端部(「合流点」ともいう)で合流、一体化され、これによりガラスリボンが成形される。その後、このガラスリボンは、ローラなどの牽引部材により、徐冷されながら下向きに牽引され、所定の寸法で切断される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2016-028005号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
フュージョン法において、成形部材は、前記側面および合流点が水平軸方向に沿って延在する、細長い形状を有する。また、この水平軸方向の寸法(以下、「長手方向」と称する)は、板ガラスの幅方向に対応するため、製造される板ガラスの幅を大きくする必要がある場合、十分に長く構成する必要がある。
【0006】
このような構成上の制約および使用環境のため、成形部材を長時間使用すると、成形部材が高温クリープにより変形して、重力方向に撓んでしまうという問題が生じ得る。また、成形部材にこのような変形が生じると、製造される板ガラスの寸法精度が低下し、特に厚さが不均一になるという問題がある。
【0007】
従って、このようなクリープの問題を軽減することが可能な、板ガラスの連続製造装置用の成形部材が今もなお要望されている。
【0008】
本発明は、このような背景に鑑みなされたものであり、本発明では、クリープの問題が有意に軽減された、板ガラスの製造装置を提供することを目的とする。また、本発明では、そのような板ガラスの製造装置用の成形部材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明では、板ガラスを連続的に製造する製造装置であって、
溶融ガラスを成形して、ガラスリボンを形成する成形部材を有し、
前記成形部材は、
(i)黒鉛で構成され、もしくは黒鉛で構成された部分を含み、および/または
(ii)黒鉛を含む支持部材で支持され、
前記(i)の場合、前記成形部材は、囲いで囲まれ、前記(ii)の場合、前記支持部材は、前記成形部材とともに囲いで囲まれ、
前記囲いで囲まれた空間は、100ppm以下の酸素濃度に調整される、板ガラスの製造装置が提供される。
【0010】
また、本発明では、板ガラスを連続的に製造する製造装置用の成形部材であって、
当該成形部材は、
(i)黒鉛で構成され、もしくは黒鉛で構成された部分を含み、および/または
(ii)黒鉛を含む支持部材で支持され、
前記(i)の場合、当該成形部材は、囲いで囲まれ、前記(ii)の場合、前記支持部材は、当該成形部材とともに囲いで囲まれ、
前記囲いで囲まれた空間は、100ppm以下の酸素濃度に調整される、成形部材が提供される。
【発明の効果】
【0011】
本発明では、クリープの問題が有意に軽減された、板ガラスの製造装置を提供することができる。また、本発明では、そのような板ガラスの製造装置用の成形部材を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の一実施形態による板ガラスの製造装置の構成例を模式的に示した図である。
図2図1における成形部を拡大して示した側面図である。
図3図2に示した成形部材の長手方向に垂直な方向における断面およびその周辺部材を模式的に示した図である。
図4】本発明の一実施形態による別の板ガラスの製造装置の構成の一部を模式的に示した図である。
図5】本発明の一実施形態によるさらに別の板ガラスの製造装置の構成の一部を模式的に示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照して、本発明の一実施形態について説明する。
【0014】
(本発明の一実施形態による板ガラスの製造装置)
図1図3を参照して、本発明の一実施形態による板ガラスの製造装置について説明する。
【0015】
図1には、本発明の一実施形態による板ガラスの製造装置(以下、「第1の製造装置」と称する)100の構成を概略的に示す。第1の製造装置100では、フュージョン法により、板ガラスを連続的に製造することができる。
【0016】
図1に示すように、第1の製造装置100は、上流側から、溶解部110、成形部130、徐冷部180、および切断部190を有する。
【0017】
溶解部110は、第1の製造装置100において、ガラス原料を溶解し、溶融ガラスMGを形成する機能を有する場所である。成形部130は、溶解部110から供給される溶融ガラスMGを成形して、ガラスリボンGRを形成する機能を有する場所である。徐冷部180は、成形部130で形成されたガラスリボンGRを徐冷する機能を有する場所である。また、切断部190は、徐冷されたガラスリボンGRを切断する機能を有する場所である。
【0018】
なお、図1に示した第1の製造装置100において、各部分同士の境界は、単に便宜的なものであり、厳密なものではないことに留意する必要がある。例えば、溶融ガラスMGを成形部130に供給する配管等の部材は、溶解部110に属しても、成形部130に属しても良い。
【0019】
図1に示すように、溶解部110は、溶解炉112を有し、ここでガラス原料が溶解される。溶解炉112は、出口114を有し、該出口114から、溶融ガラスMGが排出される。なお、図1には、示されていないが、溶解部110は、さらに、溶融ガラスから気泡を除去する清澄部、および/または溶融ガラスを均一に混合する混合部などを有しても良い。
【0020】
溶解炉112の出口114から排出された溶融ガラスMGは、次に、入口120を介して、成形部130に導入される。成形部130は、フュージョン法により、溶融ガラスMGからガラスリボンGRを成形する成形部材132を有する。また、成形部130は、ローラを(図示されていない)を有しても良い。
【0021】
なお、成形部130の詳細については、後述する。
【0022】
成形部130で成形されたガラスリボンGRは、次に、徐冷部180に導入される。徐冷部180には、1組または2組以上の冷却ローラの組が設置される。
【0023】
例えば、図1に示した例では、徐冷部180は、2組の冷却ローラを有する。第1の冷却ローラ組は、2つの冷却ローラ182で構成され、および第2の冷却ローラ組は、別の2つの冷却ローラ184で構成される。ガラスリボンGRを挟んだ状態で、これらの冷却ローラ182、184を回転させることにより、ガラスリボンGRが下方に牽引される。また、冷却ローラ182、184は、それぞれ、所定の温度に制御されており、これにより、ガラスリボンGRを冷却することができる。
【0024】
その後、十分に徐冷されたガラスリボンGRは、切断部190に搬送される。切断部190には、カッターのような切断手段192が設けられており、これにより、ガラスリボンGRが所定の寸法に切断される。
【0025】
第1の製造装置100では、以上の工程により、板ガラス194を連続的に製造することができる。
【0026】
図2および図3には、第1の製造装置100の成形部130を拡大して示す。図2には、ガラスリボンGRを成形中の成形部材132を側方から見た際の模式的な側面図が示されている。また、図3には、図2に示した成形部材132の長手方向(X方向)に垂直な断面が模式的に示されている。なお、これらの図には、成形部材132の周囲に含まれる部材等も示されている。
【0027】
図2および図3に示すように、成形部材132は、断面略くさび状の形状を有する。
【0028】
より具体的には、成形部材132は、上面134と、相互に対向する第1の側面138aおよび第2の側面138bとを有する。
【0029】
上面134には、長手方向(X方向)に沿って、上側が開放された凹部136が形成されている。第1の側面138aは、第1の上側面140aと、第1の下側面142aとを有する。同様に、第2の側面138bは、第2の上側面140bと、第2の下側面142bとを有する。第1の上側面140aおよび第2の上側面140bは、いずれも、略長手軸方向(X方向)および略鉛直方向(Z方向)に延在しており、従ってXZ面と略平行に配置される。一方、第1の下側面142aおよび第2の下側面142bは、鉛直方向(Z方向)に対して傾斜しており、成形部材132の下側端部(辺)144で相互に交差するように配置される。
【0030】
第1の下側面142aの上部は、第1の上側面140aの下部と接続され、第2の下側面142bの上部は、第2の上側面140bの下部と接続されている。
【0031】
図2に示すように、成形部材132は、さらに、一組のキャップ部材146を有する。キャップ部材146は、成形部材132の長手方向(X方向)のそれぞれの端部近傍に設置される。キャップ部材146は、ガラスリボンGRが所定の幅内に収まるように、すなわち、ガラスリボンGRが所定の幅を超えて広がらないようにするためのストッパーとして使用される。
【0032】
また、成形部材132の周囲には、囲い150が設けられ、成形部材132は、この囲いにより、周囲が覆われる。すなわち、囲い150により、成形部材132の周囲に、空間152が形成される。ただし、図3から明確なように、囲い150は、ガラスリボンGRが徐冷部180に向かって排出される部分が除去されている。このため、成形部130で形成されたガラスリボンGRは、囲い150で妨げられることなく、徐冷部180に移動することができる。
【0033】
なお、図2および図3では、明確化のため、囲い150は、紙面手前側の面が除去された状態で表されている。
【0034】
第1の製造装置100の運転中、空間152は、酸素濃度が100ppm以下に制御される。また、これを可能にするため、囲い150の所与の位置には、ガス導入口154が設置される。ガス導入口154には、開閉バルブが設置されても良い。また、必要な場合、囲い150には、さらにガス排出口(図示されていない)が設けられても良い。
【0035】
ガス導入口154から所定の組成のガスを供給したり、ガス排出口からガスを排気させたりすることにより、空間152の酸素濃度を、前記所定の範囲に制御することができる。
【0036】
次に、成形部材132により、ガラスリボンGRが形成される過程について説明する。
【0037】
まず、囲い150の内部の空間152が、所定の酸素濃度に制御される。酸素濃度は、100ppm以下であり、50ppm以下であることが好ましい。例えば、囲い150のガス導入口154から不活性ガスまたは還元性ガスを供給することにより、空間152が所定の酸素濃度に調整されても良い。
【0038】
次に、前述のように、成形部130に、入口120を介して溶融ガラスMGが供給される。供給された溶融ガラスMGは、成形部材132の上面134に導入される。
【0039】
上面134には、前述のように凹部136が形成されており、ここに溶融ガラスMGを収容することができる。ただし、凹部136の収容容積を超える溶融ガラスMGが供給されると、余剰の溶融ガラスMGは、成形部材132の第1の側面138aおよび第2の側面138bに沿って溢れ、下方に流出する。
【0040】
これにより、成形部材132の第1の上側面140aに、第1の溶融ガラス部分160aが形成され、成形部材132の第2の上側面140bに、第2の溶融ガラス部分160bが形成される。
【0041】
その後、第1の溶融ガラス部分160aは、成形部材132の第1の下側面142aに沿って、さらに下方に流出する。同様に、第2の溶融ガラス部分160bは、成形部材132の第2の下側面142bに沿って、さらに下方に流出する。
【0042】
その結果、第1の溶融ガラス部分160aおよび第2の溶融ガラス部分160bは、下側端部144に至り、ここで一体化される。これにより、ガラスリボンGRが形成される。
【0043】
なお、その後、ガラスリボンGRは、前述のように、さらに鉛直方向に引き延ばされ、徐冷部180に供給される。
【0044】
ここで、従来の板ガラスの製造装置では、成形部材を長時間使用すると、成形部材が高温クリープにより変形して、重力方向(Z方向)に撓んでしまうという問題が生じ得る。成形部材にそのような撓みが生じると、成形部材の上面側から流出する溶融ガラスMGの量が、長手方向(X方向)に沿って不均一となり、製造される板ガラスの寸法精度、特に厚さ精度が低下するという問題が生じ得る。
【0045】
しかしながら、第1の製造装置100では、成形部材132は、黒鉛で構成されているという特徴を有する。
【0046】
黒鉛は、1000℃を超える高温において、比較的良好な耐クリープ特性を有する。従って、成形部材132を黒鉛で構成した場合、従来のようなクリープによる変形の問題を、有意に抑制することができる。
【0047】
ただし、黒鉛は、高温の酸素含有環境では、酸化が生じ易く、酸化が生じた場合、表面の平滑性が低下したり、表面が劣化したりする傾向にある。逆に言えば、これらの性質により、成形部材132における黒鉛の使用が回避されてきた事情がある。
【0048】
しかしながら、第1の製造装置100では、成形部130において、成形部材132は、囲い150で覆われており、内部の空間152は、酸素濃度が100ppm以下の「低酸素環境」に制御されている。従って、第1の製造装置100では、成形部材132に黒鉛を使用しても、成形部材132が酸化により劣化することを抑制することができる。
【0049】
その結果、第1の製造装置100では、成形部材132にクリープが生じ難く、成形部材132の変形や撓みを、有意に抑制することができる。
【0050】
また、これにより、第1の製造装置100では、長期間使用しても、製造される板ガラスの寸法を高精度に維持することが可能となる。
【0051】
さらに、黒鉛は、耐熱温度が2000℃以上であり、良好な耐熱性を有する。さらに、黒鉛は、熱衝撃性に強く、成形部材132の温度が急激に変化しても、破損し難い特徴を有する。さらに、黒鉛は、加工が容易であり、比較的容易に平滑な平面を得ることができるという特徴を有する。
【0052】
このような特徴により、黒鉛で構成された成形部材132は、例えば1200℃のような高温でも、長時間、安定に使用することができる。
【0053】
本発明における黒鉛で構成された部材は、黒鉛原料を冷間静水圧プレス成形、押出成形又はプレス成形して得られるものや、黒鉛繊維と樹脂等との複合原料を焼成炭化させたカーボン-カーボンコンポジット等が挙げられる。
【0054】
なお、ガラスの中には、黒鉛と接触させることが好ましくないものがある。そのような場合、成形部材132のうち、溶融ガラスMG(第1の溶融ガラス部分160a、第2の溶融ガラス部分160bを含む)、および/またはガラスリボンGRと接触する箇所は、ガラスと反応しない材料で被覆またはコーティングしても良い。
【0055】
ここで、成形部材132は、必ずしも全体が、黒鉛で構成される必要はない。すなわち、成形部材132の一部が、黒鉛で構成されても良い。換言すれば、黒鉛は、成形部材132の耐クリープ特性が改善されるような態様で、使用されれば良い。例えば、黒鉛は、成形部材132の耐クリープ特性が改善されるような位置に、および/または成形部材132の耐クリープ特性が改善されるような形状で、適用されても良い。
【0056】
この場合、概して、成形部材132全体に対する黒鉛が占める体積割合は、50%以上であり、60%以上であることが好ましく、70%以上であることがより好ましく、80%以上であることがさらに好ましい。
【0057】
例えば、黒鉛は、成形部材132において、長手方向(X方向)に沿って、一方の端部(またはその近傍)から他方の端部(またはその近傍)まで延在する芯棒として、成形部材132に適用されても良い。
【0058】
そのような黒鉛製の芯棒は、直径をDとし、成形部材132の高さ(上面134から下側端部144までの距離)をHとしたとき、D/H=0.5~0.8を満たしても良い。
【0059】
また、成形部材132の一部が黒鉛で構成される場合、前述の理由から、成形部材132において、溶融ガラスMG、および/またはガラスリボンGRと接触する部分は、黒鉛以外の材料で構成されても良い。あるいは、接触部分に、ガラスと反応しない材料による被覆またはコーティングを実施しても良い。
【0060】
また、これとは逆に、成形部材132において、上面134は、黒鉛で構成されても良い。前述のように、黒鉛で上面134を構成した場合、加工が比較的容易であるため、比較的平滑な上面134を形成することができる。従って、この場合、上面134から流出される溶融ガラスMGの分布を均一化することができ、最終的に得られる板ガラス194の寸法精度を高めることができる。
【0061】
なお、この場合、溶融ガラスMGと黒鉛とが接触することになる。しかしながら、短期間であれば、両者が接触しても、黒鉛由来成分が板ガラス194に混入する問題は、あまり顕著にはならないと考えられる。
【0062】
以上、図1図3を参照して、第1の製造装置100の構成および特徴について説明した。しかしながら、上記構成は、単なる一例であって、第1の製造装置100がその他の構成を有しても良いことは明らかである。
【0063】
例えば、図1図3に示した例では、第1の製造装置100において、徐冷部180の冷却ローラ182、184は、成形部材132を覆う囲い150よりも下流に設置される。しかしながら、徐冷部180の冷却ローラ182、184は、囲い150内に含まれても良い。換言すれば、囲い150内に、徐冷部180の少なくとも一部が含まれ、囲い150内でガラスリボンGRの徐冷の少なくとも一部が実施されても良い。
【0064】
例えば、徐冷部180の少なくとも一部が囲いに含まれる場合、囲い150から排出されるガラスリボンGRの粘度は、1013ポアズ以上であっても良い。この場合、ガラスリボンの徐冷が比較的行いやすいという利点が得られる。
【0065】
(本発明の一実施形態による別の板ガラスの製造装置)
前述の成形部材132を備える第1の製造装置100は、フュージョン法により、板ガラスを製造する装置である。しかしながら、本発明が適用可能な板ガラスの製造装置、特に成形部材は、これに限られない。本発明は、他の製造方法を利用する板ガラスの製造装置、および該製造装置に使用される成形部材にも適用することができる。
【0066】
そこで、次に、図4を参照して、本発明の一実施形態による別の板ガラスの製造装置について説明する。
【0067】
図4には、本発明の一実施形態による別の板ガラスの製造装置(以下、「第2の製造装置」と称する)200の一部を概略的に示す。第2の製造装置200は、いわゆるスリット成形法(ダウンドロー法)により、板ガラスを製造する装置である。
【0068】
図4に示すように、第2の製造装置200は、成形部230と、徐冷部280と、切断部(図示されていない)とを有する。
【0069】
なお、図4に示した例では、溶融ガラスMGを形成する溶解部は示されていないが、第2の製造装置200において、成形部230の上流に、溶解部が設けられても良い。あるいは、成形部230において、溶融ガラスMGが形成されても良い。この場合、溶解部は、省略される。
【0070】
成形部230には、成形部材232が設置される。成形部230には、さらに、ローラ(図示されていない)が設置されても良い。また、徐冷部280には、少なくとも一組の冷却ローラ282が設置される。
【0071】
成形部材232は、内部側面238、内部底面244、および外部底面245を有する。成形部材232は、内部側面238および内部底面244で区画される内部に、溶融ガラスMGを収容することができる。内部底面244から外部底面245には、両者を貫通するスリット247が形成される。
【0072】
なお、図4からは明確ではないが、成形部材232の各部分は、紙面と垂直な方向に延在している。従って、図4に示した成形部材232は、長手方向(X方向とする)に沿った、細長い形状を有する。
【0073】
成形部材232は、黒鉛で構成される。
【0074】
また、成形部材232の周囲には、囲い250が設けられ、成形部材232は、この囲い250により、周囲が覆われる。すなわち、囲い250により、成形部材232の周囲に、空間252が形成される。ただし、図4から明確なように、囲い250は、ガラスリボンGRが徐冷部280に向かって排出される部分が除去されている。このため、成形部230で形成されたガラスリボンGRは、囲い250で妨げられることなく、徐冷部280に移動することができる。
【0075】
第2の製造装置200の運転中、空間252は、酸素濃度が100ppm以下に制御される。また、これを可能にするため、囲い250の所与の位置には、ガス導入口254が設置される。ガス導入口254には、開閉バルブが設置されても良い。また、必要な場合、囲い250には、さらにガス排気口(図示されていない)が設けられても良い。
【0076】
ガス導入口254から所定の組成のガスを供給したり、ガス排気口からガスを排気させたりすることにより、空間252の酸素濃度を、前記範囲に制御することができる。
【0077】
このような第2の製造装置200を用いて、板ガラスを製造する場合、まず、溶解部(図示されていない)でガラス原料を溶解して、溶融ガラスMGが形成される。また、この溶融ガラスMGが、成形部230の成形部材232に供給される。
【0078】
あるいは、前述のように、溶解部が存在しない場合、成形部230の成形部材232において、ガラス原料から溶融ガラスMGが製造されても良い。
【0079】
次に、成形部材232に供給された、または成形部材232で製造された溶融ガラスMGは、成形部材232のスリット247を介して、下方に流出する。この際に、溶融ガラスMGは、形状(厚さ)が調整され、ガラスリボンGRとなる。
【0080】
その後、ガラスリボンGRは、成形部230に設けられたローラ(図示されていない)および冷却ローラ282により下方に牽引され、徐冷部280に供給される。徐冷部280では、ガラスリボンGRが所定の温度まで徐冷される。
【0081】
その後、徐冷されたガラスリボンGRは、切断部(図示されていない)に供給され、所定の寸法に切断される。これにより、板ガラスが製造される。
【0082】
第2の製造装置200において、成形部材232は、黒鉛で構成されている。従って、第2の製造装置200では、従来のようなクリープによる変形の問題を、有意に抑制することができる。
【0083】
また、第2の製造装置200では、成形部材232は、囲い250で覆われており、内部の空間252は、酸素濃度が100ppm以下の低酸素環境に制御されている。従って、第2の製造装置200では、成形部材232に黒鉛を使用しても、成形部材232が酸化により劣化することを抑制することができる。
【0084】
その結果、第2の製造装置200では、成形部材232にクリープが生じ難く、成形部材232の変形や撓みを、有意に抑制することができる。
【0085】
また、これにより、第2の製造装置200では、長期間使用しても、製造される板ガラスの寸法を高精度に維持することが可能となる。
【0086】
第2の製造装置200においても、成形部材232は、必ずしも全体が、黒鉛で構成される必要はない。すなわち、成形部材232の一部が、黒鉛で構成されても良い。例えば、黒鉛は、成形部材232の耐クリープ特性が改善されるような位置に、および/または成形部材232の耐クリープ特性が改善されるような形状で、適用されても良い。
【0087】
この場合、概して、成形部材232全体に対する黒鉛が占める体積割合は、50%以上であり、60%以上であることが好ましく、70%以上であることがより好ましく、80%以上であることがさらに好ましい。
【0088】
例えば、黒鉛は、成形部材232において、内部底面244~外部底面245を構成する底部材料として、適用されても良い。
【0089】
また、第1の製造装置100においても説明したように、成形部材232の一部が黒鉛で構成される場合、成形部材232において、溶融ガラスMGおよび/またはガラスリボンGRと接触する部分は、黒鉛以外の材料で構成されても良い。製造される板ガラスに、黒鉛由来成分が含まれることを防止するためである。
【0090】
あるいは、成形部材232において、スリット247を構成する部分は、黒鉛で構成されても良い。前述のように、黒鉛は、加工が比較的容易であるため、スリット247を構成する部分を黒鉛で構成した場合、比較的平滑なスリット247を形成することができる。従って、この場合、スリット247から流出される溶融ガラスMGの分布を均一化することができ、最終的に得られる板ガラスの寸法精度を高めることができる。
【0091】
なお、前述のように、溶融ガラスMGと黒鉛とが接触しても、接触の時間が短ければ、黒鉛由来成分が板ガラスに混入する問題は、あまり顕著にはならないと考えられる。
【0092】
第2の製造装置200においても、徐冷部280の冷却ローラ282は、成形部材232を覆う囲い250の内部に含まれても良い。換言すれば、囲い250内で、ガラスリボンGRの徐冷の少なくとも一部が実施されても良い。
【0093】
(本発明の一実施形態によるさらに別の板ガラスの製造装置)
次に、図5を参照して、本発明の一実施形態によるさらに別の板ガラスの製造装置について説明する。
【0094】
図5には、本発明の一実施形態によるさらに別の板ガラスの製造装置(以下、「第3の製造装置」と称する)300の一部を概略的に示す。第3の製造装置300は、いわゆるスリット成形法(ダウンドロー法)により、板ガラスを製造する装置である。
【0095】
図5に示すように、第3の製造装置300は、基本的に、前述の第2の製造装置200と同様の構成を有する。従って、第3の製造装置300において、第2の製造装置200に使用される部材と同様の部材には、図4に示した各部材の参照符号に100を加えた参照符号が付されている。例えば、第3の製造装置300は、成形部材332、囲い350、および一組の冷却ローラ382等を有する。
【0096】
ただし、第3の製造装置300は、さらに支持部材370を備える点で、第2の製造装置200とは異なっている。
【0097】
支持部材370は、成形部材332の下側に、成形部材332を支持するように設置されている。支持部材370は、成形部材332の外部側面339(の少なくとも一部)および外部底面345(の少なくとも一部)と接するようにして、設置される。
【0098】
支持部材370は、黒鉛で構成される。または、支持部材370は、黒鉛を含む。
【0099】
囲い350は、成形部材332および支持部材370の周囲に設置され、この囲い350により、成形部材332および支持部材370の周囲に、空間352が形成される。ただし、図5から明確なように、囲い350は、ガラスリボンGRが徐冷部380に向かって排出される部分が除去されている。このため、成形部330で形成されたガラスリボンGRは、囲い350で妨げられることなく、徐冷部380に移動することができる。
【0100】
第3の製造装置300の運転中、空間352は、酸素濃度が100ppm以下に制御される。
【0101】
このような第3の製造装置300を用いて、板ガラスを製造する方法は、基本的に前記第2の製造装置200の場合と同様である。従って、ここでは、詳細な説明を省略する。
【0102】
第3の製造装置300では、成形部材332は、黒鉛を含む支持部材370で支持されている。従って、第3の製造装置300においても、成形部材332がクリープにより変形するという問題を、有意に抑制することができる。
【0103】
また、第3の製造装置300では、支持部材370は、囲い350で覆われており、内部の空間352は、酸素濃度が100ppm以下の低酸素環境に制御されている。従って、第3の製造装置300では、支持部材370に黒鉛を使用しても、支持部材370が酸化により劣化することを抑制することができる。
【0104】
その結果、第3の製造装置300では、成形部材332にクリープが生じ難く、成形部材332の変形や撓みを、有意に抑制することができる。
【0105】
また、これにより、第3の製造装置300では、長期間使用しても、製造される板ガラスの寸法を高精度に維持することが可能となる。
【0106】
第3の製造装置300においても、徐冷部380の冷却ローラ382は、成形部材332を覆う囲い350の内部に含まれても良い。換言すれば、囲い350内で、ガラスリボンGRの徐冷工程の少なくとも一部が実施されても良い。
【0107】
以上、第1の製造装置100~第3の製造装置300を参照して、本発明の構成および特徴について説明した。
【0108】
しかしながら、これらは単なる一例であって、本発明は、その他の構成を有しても良いことは明らかである。
【0109】
例えば、第3の製造装置300において、成形部材332は、黒鉛を含む支持部材370で支持される。この構成において、さらに、成形部材332は、黒鉛で構成され、または黒鉛を含んでも良い。
【0110】
この他にも、各種組み合わせおよび/または変更が想定されることは、当業者には明らかである。
【0111】
本願は2018年8月13日に出願した日本国特許出願2018-152489号に基づく優先権を主張するものであり、同日本国出願の全内容を本願に参照により援用する。
【符号の説明】
【0112】
100 第1の製造装置
110 溶解部
112 溶解炉
114 出口
120 入口
130 成形部
132 成形部材
134 上面
136 凹部
138a 第1の側面
138b 第2の側面
140a 第1の上側面
140b 第2の上側面
142a 第1の下側面
142b 第2の下側面
144 下側端部
146 キャップ部材
150 囲い
152 空間
154 ガス導入口
160a 第1の溶融ガラス部分
160b 第2の溶融ガラス部分
180 徐冷部
182 冷却ローラ
184 冷却ローラ
190 切断部
192 切断手段
194 板ガラス
200 第2の製造装置
230 成形部
232 成形部材
238 内部側面
244 内部底面
245 外部底面
247 スリット
250 囲い
252 空間
254 ガス導入口
280 徐冷部
282 冷却ローラ
300 第3の製造装置
330 成形部
332 成形部材
338 内部側面
339 外部側面
344 内部底面
345 外部底面
347 スリット
350 囲い
352 空間
354 ガス導入口
370 支持部材
380 徐冷部
382 冷却ローラ
GR ガラスリボン
MG 溶融ガラス
図1
図2
図3
図4
図5