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特許7367693粉体成形用塩化ビニル樹脂組成物、塩化ビニル樹脂成形体および積層体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-16
(45)【発行日】2023-10-24
(54)【発明の名称】粉体成形用塩化ビニル樹脂組成物、塩化ビニル樹脂成形体および積層体
(51)【国際特許分類】
   C08L 27/06 20060101AFI20231017BHJP
   C08L 67/02 20060101ALI20231017BHJP
   C08K 5/12 20060101ALI20231017BHJP
   C08G 63/16 20060101ALI20231017BHJP
   B29C 41/18 20060101ALI20231017BHJP
   B32B 27/30 20060101ALI20231017BHJP
   B32B 27/40 20060101ALI20231017BHJP
   B32B 5/18 20060101ALI20231017BHJP
【FI】
C08L27/06
C08L67/02
C08K5/12
C08G63/16
B29C41/18
B32B27/30 101
B32B27/40
B32B5/18
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020553804
(86)(22)【出願日】2019-10-21
(86)【国際出願番号】 JP2019041386
(87)【国際公開番号】W WO2020090556
(87)【国際公開日】2020-05-07
【審査請求日】2022-09-26
(31)【優先権主張番号】P 2018205961
(32)【優先日】2018-10-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000229117
【氏名又は名称】日本ゼオン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100150360
【弁理士】
【氏名又は名称】寺嶋 勇太
(72)【発明者】
【氏名】藤原 崇倫
【審査官】渡辺 陽子
(56)【参考文献】
【文献】特開平08-337700(JP,A)
【文献】国際公開第2016/098343(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L、C08K、B29C41
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
塩化ビニル樹脂と、
トリメリット酸エステルと、
アジピン酸由来の構造単位および3-メチル-1,5-ペンタンジオール由来の構造単位を含有するポリエステルと、
を含み、
前記塩化ビニル樹脂100質量部当たり、前記トリメリット酸エステルおよび前記ポリエステルを合計で60質量部以上200質量部以下含み、
前記トリメリット酸エステルと前記ポリエステルとの合計含有量に対する前記ポリエステルの含有量の割合が、0.1質量%以上8質量%以下である、
粉体成形用塩化ビニル樹脂組成物。
【請求項2】
パウダースラッシュ成形に用いられる、請求項に記載の粉体成形用塩化ビニル樹脂組成物。
【請求項3】
請求項1または2に記載の粉体成形用塩化ビニル樹脂組成物を粉体成形してなる、塩化ビニル樹脂成形体。
【請求項4】
自動車内装部品の表皮用である、請求項に記載の塩化ビニル樹脂成形体。
【請求項5】
発泡ポリウレタン成形体と、請求項3または4に記載の塩化ビニル樹脂成形体とを有する、積層体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粉体成形用塩化ビニル樹脂組成物、塩化ビニル樹脂成形体および積層体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
塩化ビニル樹脂は、一般に、耐寒性、耐熱性、耐油性などの特性に優れているため、種々の用途に用いられている。
具体的には、例えば、自動車インスツルメントパネルおよびドアトリム等の自動車内装部品の形成には、塩化ビニル樹脂成形体からなる表皮や塩化ビニル樹脂成形体からなる表皮に発泡ポリウレタン等の発泡体を裏打ちしてなる積層体などの自動車内装材が用いられている。
【0003】
そして、自動車インスツルメントパネル等の自動車内装部品の表皮を構成する塩化ビニル樹脂成形体は、例えば、塩化ビニル樹脂と、可塑剤と、顔料等の添加剤とを含む塩化ビニル樹脂組成物をパウダースラッシュ成形などの既知の成形方法を用いて粉体成形することにより製造されている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
具体的には、例えば特許文献1では、塩化ビニル樹脂粒子と、トリメリット酸エステル系可塑剤と、フタロシアニンブルー、酸化チタンおよびカーボンの混合品よりなる顔料等の添加剤とを含む塩化ビニル樹脂組成物をパウダースラッシュ成形することにより、塩化ビニル樹脂成形体からなる表皮を製造している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平8-291243号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ここで、自動車内装部品の表皮等として用いられる塩化ビニル樹脂成形体は、フォギング性や耐熱収縮性に優れていることが求められている。
【0007】
しかし、上記従来の塩化ビニル樹脂組成物をパウダースラッシュ成形してなる塩化ビニル樹脂成形体は、耐熱収縮性に改善の余地があった。
【0008】
そこで、本発明は、フォギング性および耐熱収縮性に優れる塩化ビニル樹脂成形体を形成可能な粉体成形用塩化ビニル樹脂組成物を提供することを目的とする。
また、本発明は、フォギング性および耐熱収縮性に優れる塩化ビニル樹脂成形体および積層体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記課題を解決することを目的として鋭意検討を行った。そして、本発明者は、可塑剤としてトリメリット酸エステルと所定のポリエステルとを併用した塩化ビニル樹脂組成物を粉体成形すれば、フォギング性および耐熱収縮性の双方に優れる塩化ビニル樹脂成形体が得られることを見出し、本発明を完成させた。
【0010】
即ち、この発明は、上記課題を有利に解決することを目的とするものであり、本発明の粉体成形用塩化ビニル樹脂組成物は、塩化ビニル樹脂と、トリメリット酸エステルと、アジピン酸由来の構造単位および3-メチル-1,5-ペンタンジオール由来の構造単位を含有するポリエステルとを含むことを特徴とする。このように、トリメリット酸エステルと、アジピン酸由来の構造単位および3-メチル-1,5-ペンタンジオール由来の構造単位を含有するポリエステルとを含有させれば、粉体成形用塩化ビニル樹脂組成物を粉体成形してなる塩化ビニル樹脂成形体のフォギング性および耐熱収縮性を向上させることができる。
【0011】
ここで、本発明の粉体成形用塩化ビニル樹脂組成物は、前記塩化ビニル樹脂100質量部当たり、前記トリメリット酸エステルおよび前記ポリエステルを合計で30質量部以上200質量部以下含むことが好ましい。トリメリット酸エステルおよびポリエステルの合計含有量が上記範囲内であれば、塩化ビニル樹脂成形体のフォギング性および耐熱収縮性を向上させつつ、塩化ビニル樹脂成形体の低温での柔軟性を高めることができる。
【0012】
また、本発明の粉体成形用塩化ビニル樹脂組成物は、前記トリメリット酸エステルと前記ポリエステルとの合計含有量に対する前記ポリエステルの含有量の割合が、0.1質量%以上80質量%以下であることが好ましい。ポリエステルの含有量の割合を上記範囲内にすれば、塩化ビニル樹脂成形体のフォギング性と耐熱収縮性とを高いレベルで両立させつつ、塩化ビニル樹脂成形体の低温での柔軟性を高めることができる。
【0013】
そして、本発明の粉体成形用塩化ビニル樹脂組成物は、パウダースラッシュ成形に用いられることが好ましい。粉体成形用塩化ビニル樹脂組成物をパウダースラッシュ成形に用いれば、例えば、自動車インスツルメントパネル用表皮などの自動車内装材として良好に使用し得る塩化ビニル樹脂成形体がより容易に得られる。
【0014】
また、この発明は、上記課題を有利に解決することを目的とするものであり、本発明の塩化ビニル樹脂成形体は、上述した粉体成形用塩化ビニル樹脂組成物の何れかを粉体成形してなることを特徴とする。上述した粉体成形用塩化ビニル樹脂組成物を粉体成形してなる塩化ビニル樹脂成形体は、フォギング性および耐熱収縮性に優れている。
【0015】
そして、本発明の塩化ビニル樹脂成形体は、自動車内装部品の表皮用であることが好ましい。塩化ビニル樹脂成形体を自動車内装部品の表皮に使用すれば、熱収縮やフォギングが発生し難い自動車インスツルメントパネル等の自動車内装部品を製造し得るからである。
【0016】
更に、この発明は、上記課題を有利に解決することを目的とするものであり、本発明の積層体は、発泡ポリウレタン成形体と、上述した塩化ビニル樹脂成形体の何れかとを有することを特徴とする。発泡ポリウレタン成形体および上述した塩化ビニル樹脂成形体を有する積層体は、熱収縮やフォギングが発生し難い自動車インスツルメントパネル等の自動車内装部品の製造に用いられる自動車内装材として好適に使用できる。
【発明の効果】
【0017】
本発明の粉体成形用塩化ビニル樹脂組成物によれば、フォギング性および耐熱収縮性に優れる塩化ビニル樹脂成形体を形成することができる。
そして、本発明によれば、フォギング性および耐熱収縮性に優れる塩化ビニル樹脂成形体および積層体を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
本発明の粉体成形用塩化ビニル樹脂組成物は、例えば、本発明の塩化ビニル樹脂成形体を粉体成形する際に用いることができる。そして、本発明の粉体成形用塩化ビニル樹脂組成物を用いて粉体成形した塩化ビニル樹脂成形体は、例えば、自動車インスツルメントパネルおよびドアトリム等の自動車内装部品が備える表皮などの、自動車内装材として好適に用いることができる。
また、本発明の塩化ビニル樹脂成形体は、例えば、本発明の積層体を形成する際に用いることができる。そして、本発明の塩化ビニル樹脂成形体を用いて形成した積層体は、例えば、自動車インスツルメントパネルおよびドアトリム等の自動車内装部品を製造する際に用いる自動車内装材として好適に用いることができる。
【0019】
(粉体成形用塩化ビニル樹脂組成物)
本発明の粉体成形用塩化ビニル樹脂組成物は、(a)塩化ビニル樹脂と、(b)トリメリット酸エステルと、(c)所定の構造単位を含有するポリエステルとを含み、任意に、添加剤を更に含んでいてもよい。そして、本発明の粉体成形用塩化ビニル樹脂組成物は、少なくとも、上記(a)塩化ビニル樹脂と、(b)トリメリット酸エステルと、(c)所定の構造単位を含有するポリエステルとを含んでいるため、当該組成物を用いて、フォギング性および耐熱収縮性の双方に優れる塩化ビニル樹脂成形体を粉体成形することができる。従って、本発明の粉体成形用塩化ビニル樹脂組成物を使用すれば、例えば、フォギング性および耐熱収縮性に優れた自動車インスツルメントパネル用表皮およびドアトリム用表皮などの、自動車内装材として好適な塩化ビニル樹脂成形体を得ることができる。
なお、例えば、本発明の粉体成形用塩化ビニル樹脂組成物を用いて、自動車内装材として良好に使用し得る塩化ビニル樹脂成形体を容易に得る観点からは、本発明の粉体成形用塩化ビニル樹脂組成物は、パウダースラッシュ成形に用いられることが好ましい。
【0020】
<(a)塩化ビニル樹脂>
(a)塩化ビニル樹脂としては、通常、粒子状の塩化ビニル樹脂を用いる。そして、(a)塩化ビニル樹脂としては、例えば、1種類または2種類以上の塩化ビニル樹脂粒子を含有することができ、任意に、1種類または2種類以上の塩化ビニル樹脂微粒子を更に含有することができる。中でも、(a)塩化ビニル樹脂は、少なくとも塩化ビニル樹脂粒子を含有することが好ましく、塩化ビニル樹脂粒子および塩化ビニル樹脂微粒子を含有することがより好ましい。
そして、(a)塩化ビニル樹脂は、懸濁重合法、乳化重合法、溶液重合法、塊状重合法など、従来から知られているいずれの製造法によっても製造し得る。
なお、本明細書において、「樹脂粒子」とは、粒子径が30μm以上の粒子を指し、「樹脂微粒子」とは、粒子径が30μm未満の粒子を指す。
【0021】
また、(a)塩化ビニル樹脂としては、塩化ビニル単量体単位からなる単独重合体の他、塩化ビニル単量体単位を好ましくは50質量%以上、より好ましくは70質量%以上含有する塩化ビニル系共重合体が挙げられる。そして、塩化ビニル系共重合体を構成し得る、塩化ビニル単量体と共重合可能な単量体(共単量体)の具体例としては、例えば、国際公開第2016/098344号に記載のものを使用することができる。また、これらの成分は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0022】
<<塩化ビニル樹脂粒子>>
粉体成形用塩化ビニル樹脂組成物において、塩化ビニル樹脂粒子は、通常、マトリックス樹脂(基材)として機能する。なお、塩化ビニル樹脂粒子は、懸濁重合法により製造することが好ましい。
【0023】
[平均重合度]
そして、塩化ビニル樹脂粒子を構成する塩化ビニル樹脂の平均重合度は、800以上であることが好ましく、1000以上であることがより好ましく、5000以下であることが好ましく、3000以下であることがより好ましく、2800以下であることが更に好ましい。塩化ビニル樹脂粒子を構成する塩化ビニル樹脂の平均重合度が上記下限以上であれば、粉体成形用塩化ビニル樹脂組成物を用いて形成した塩化ビニル樹脂成形体の物理的強度を十分確保しつつ、例えば、引張特性、特には引張伸びをより良好にできるからである。そして、引張伸びが良好な塩化ビニル樹脂成形体は、例えば、エアバッグが膨張、展開した際に、破片が飛散することなく設計通りに割れる、延性に優れた自動車インスツルメントパネルの表皮などの自動車内装材として好適に用いることができる。また、塩化ビニル樹脂粒子を構成する塩化ビニル樹脂の平均重合度が上記上限以下であれば、粉体成形用塩化ビニル樹脂組成物の溶融性を向上させることができるからである。
なお、本発明において「平均重合度」は、JIS K6720-2に準拠して測定することができる。
【0024】
[平均粒子径]
また、塩化ビニル樹脂粒子の平均粒子径は、通常30μm以上であり、50μm以上が好ましく、100μm以上がより好ましく、500μm以下が好ましく、200μm以下がより好ましい。塩化ビニル樹脂粒子の平均粒子径が上記下限以上であれば、粉体成形用塩化ビニル樹脂組成物の粉体流動性がより向上するからである。また、塩化ビニル樹脂粒子の平均粒子径が上記上限以下であれば、粉体成形用塩化ビニル樹脂組成物の溶融性がより向上すると共に、当該組成物を用いて形成した塩化ビニル樹脂成形体の表面平滑性を向上できるからである。
なお、本発明において、「平均粒子径」は、JIS Z8825に準拠し、レーザー回折法により体積平均粒子径として測定することができる。
【0025】
[含有割合]
そして、(a)塩化ビニル樹脂中の塩化ビニル樹脂粒子の含有割合は、70質量%以上であることが好ましく、80質量%以上であることがより好ましく、100質量%とすることができ、95質量%以下であることが好ましく、90質量%以下であることがより好ましい。(a)塩化ビニル樹脂中の塩化ビニル樹脂粒子の含有割合が上記下限以上であれば、粉体成形用塩化ビニル樹脂組成物を用いて形成した塩化ビニル樹脂成形体の物理的強度を十分確保しつつ引張伸びを良好にできるからである。また、(a)塩化ビニル樹脂中の塩化ビニル樹脂粒子の含有割合が上記上限以下であれば、粉体成形用塩化ビニル樹脂組成物の粉体流動性が向上するからである。
【0026】
<<塩化ビニル樹脂微粒子>>
粉体成形用塩化ビニル樹脂組成物において、塩化ビニル樹脂微粒子は、通常、ダスティング剤(粉体流動性改良剤)として機能する。なお、塩化ビニル樹脂微粒子は、乳化重合法により製造することが好ましい。
【0027】
[平均重合度]
そして、塩化ビニル樹脂微粒子を構成する塩化ビニル樹脂の平均重合度は、500以上が好ましく、700以上がより好ましく、2000以下が好ましく、1800以下がより好ましい。ダスティング剤としての塩化ビニル樹脂微粒子を構成する塩化ビニル樹脂の平均重合度が上記下限以上であれば、粉体成形用塩化ビニル樹脂組成物の粉体流動性がより良好になると共に、当該組成物を用いて得られる成形体の引張伸びがより良好になるからである。また、塩化ビニル樹脂微粒子を構成する塩化ビニル樹脂の平均重合度が上記上限以下であれば、粉体成形用塩化ビニル樹脂組成物の溶融性が向上し、当該組成物を用いて形成した塩化ビニル樹脂成形体の表面平滑性が向上するからである。
【0028】
[平均粒子径]
また、塩化ビニル樹脂微粒子の平均粒子径は、通常30μm未満であり、10μm以下であることが好ましく、5μm以下であることがより好ましく、0.1μm以上であることが好ましく、1μm以上であることがより好ましい。塩化ビニル樹脂微粒子の平均粒子径が上記下限以上であれば、例えばダスティング剤としてのサイズを過度に小さくすることなく、粉体成形用塩化ビニル樹脂組成物の粉体流動性を更に良好にすることができるからである。また、塩化ビニル樹脂微粒子の平均粒子径が上記上限以下であれば、粉体成形用塩化ビニル樹脂組成物の溶融性がより高まり、形成される塩化ビニル樹脂成形体の表面平滑性を更に向上させることができるからである。
【0029】
[含有割合]
そして、(a)塩化ビニル樹脂中の塩化ビニル樹脂微粒子の含有割合は、0質量%であってもよいが、5質量%以上であることが好ましく、10質量%以上であることがより好ましく、30質量%以下であることが好ましく、20質量%以下であることがより好ましい。(a)塩化ビニル樹脂中の塩化ビニル樹脂微粒子の含有割合が上記下限以上であれば、粉体成形用塩化ビニル樹脂組成物の粉体流動性が更に向上するからである。また、(a)塩化ビニル樹脂中の塩化ビニル樹脂微粒子の含有割合が上記上限以下であれば、粉体成形用塩化ビニル樹脂組成物を用いて形成した塩化ビニル樹脂成形体の物理的強度をより高めることができるからである。
【0030】
<(b)トリメリット酸エステル>
粉体成形用塩化ビニル樹脂組成物が含有する(b)トリメリット酸エステルは、通常、可塑剤として機能する。そして、(b)トリメリット酸エステルは、好ましくは、トリメリット酸と一価アルコールとのエステル化合物である。
【0031】
上記一価アルコールの具体例としては、特に限定されることなく、1-ヘキサノール、1-ヘプタノール、1-オクタノール、2-エチルヘキサノール、1-ノナノール、1-デカノール、1-ウンデカノール、1-ドデカノール等の脂肪族アルコールが挙げられる。中でも、一価アルコールとしては、炭素数6~18の脂肪族アルコールが好ましく、炭素数6~18の直鎖脂肪族アルコールがより好ましい。
【0032】
中でも、上記(b)トリメリット酸エステルとしては、上述した一価アルコールによりトリメリット酸のカルボキシ基を実質的に全てエステル化したトリエステル化物が好ましい。トリエステル化物におけるアルコール残基部分は、同一のアルコール由来のものであってもよく、それぞれ異なるアルコール由来のものであってもよい。
上記(b)トリメリット酸エステルは、単一の化合物からなるものであってもよいし、異なる化合物の混合物であってもよい。
【0033】
好適な(b)トリメリット酸エステルの具体例は、トリメリット酸トリ-n-ヘキシル、トリメリット酸トリ-n-ヘプチル、トリメリット酸トリ-n-オクチル、トリメリット酸トリ-(2-エチルヘキシル)、トリメリット酸トリ-n-ノニル、トリメリット酸トリ-n-デシル、トリメリット酸トリイソデシル、トリメリット酸トリ-n-ウンデシル、トリメリット酸トリ-n-ドデシル、トリメリット酸トリアルキルエステル(炭素数が異なるアルキル基〔但し、炭素数は6~18である。〕を分子内に2種以上有するエステル)、トリメリット酸トリ-n-アルキルエステル(炭素数が異なるアルキル基〔但し、炭素数は6~18である。〕を分子内に2種以上有するエステル)、及びこれらの混合物等である。
より好ましい(b)トリメリット酸エステルの具体例は、トリメリット酸トリ-n-オクチル、トリメリット酸トリ-(2-エチルヘキシル)、トリメリット酸トリ-n-ノニル、トリメリット酸トリ-n-デシル、トリメリット酸トリ-n-アルキルエステル(炭素数が異なるアルキル基〔但し、炭素数は6~18である。〕を分子内に2種以上有するエステル)、及びこれらの混合物等である。
【0034】
上記(b)トリメリット酸エステルの含有量は、上記(a)塩化ビニル樹脂100質量部に対して、好ましくは30質量部以上200質量部以下であり、より好ましくは40質量部以上100質量部以下であり、更に好ましくは50質量部以上84質量部以下であり、最も好ましくは75質量部以上82質量部以下である。上記(b)トリメリット酸エステルの含有量が上記下限値以上であると、塩化ビニル樹脂成形体のフォギング性および低温での柔軟性が向上する。また、上記(b)トリメリット酸エステルが上記(a)塩化ビニル樹脂に良く吸収され、粉体成形用塩化ビニル樹脂組成物の粉体成形性が良好となる。更に、上記(b)トリメリット酸エステルの含有量が上記上限値以下であると、塩化ビニル樹脂成形体の耐熱収縮性が向上する。
なお、特にフォギング性および柔軟性をより重視する観点からは、上記(b)トリメリット酸エステルの含有量は、上記(a)塩化ビニル樹脂100質量部に対して、好ましくは30質量部以上200質量部以下であり、より好ましくは40質量部以上100質量部以下であり、更に好ましくは50質量部以上84質量部以下であり、特に好ましくは70質量部以上83質量部以下であり、最も好ましくは75質量部以上82質量部以下である。また、特に耐熱収縮をより重視する観点からは、上記(b)トリメリット酸エステルの含有量は、上記(a)塩化ビニル樹脂100質量部に対して、好ましくは30質量部以上200質量部以下であり、より好ましくは40質量部以上100質量部以下であり、更に好ましくは50質量部以上84質量部以下であり、特に好ましくは55質量部以上83質量部以下であり、最も好ましくは75質量部以上82質量部以下である。
【0035】
<(c)所定の構造単位を含有するポリエステル>
粉体成形用塩化ビニル樹脂組成物が含有する(c)所定の構造単位を含有するポリエステルは、通常、可塑剤として機能する。そして、(c)所定の構造単位を含有するポリエステルは、アジピン酸由来の構造単位と、3-メチル-1,5-ペンタンジオール由来の構造単位とを含有する。
なお、(c)所定の構造単位を含有するポリエステルは、アジピン酸由来の構造単位および3-メチル-1,5-ペンタンジオール由来の構造単位以外の構造単位を有していてもよいが、アジピン酸由来の構造単位および3-メチル-1,5-ペンタンジオール由来の構造単位の合計が、全構造単位の50質量%以上であることが好ましく、80質量%以上であることがより好ましい。また、(c)所定の構造単位を含有するポリエステルは、繰り返し単位としてアジピン酸由来の構造単位および3-メチル-1,5-ペンタンジオール由来の構造単位のみを有することが好ましい。
【0036】
ここで、上記(c)所定の構造単位を含有するポリエステルは、特に限定されることなく、アジピン酸と、3-メチル-1,5-ペンタンジオールとを縮合重合することにより得ることができる。なお、上述した縮合重合は、触媒の存在下で実施することができる。また、上述した縮合重合は、末端停止成分としてアルコールおよび/または一塩基酸を用いて実施することができる。更に、縮合重合により得られる生成物には、蒸留等の後処理を施してもよい。そして、上述した単量体、触媒および末端停止成分の使用量などの縮合重合の反応条件としては、公知の条件を採用することができる。
なお、上記(c)所定の構造単位を含有するポリエステルとしては、市販品を用いてもよい。
【0037】
縮合重合反応に用いる触媒としては、特に限定されることなく、例えば、ジブチル錫オキサイド、テトラアルキルチタネートなどが挙げられる。
【0038】
また、末端停止成分として使用し得るアルコールとしては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、イソブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、イソヘキサノール、ヘプタノール、イソヘプタノール、オクタノール、イソオクタノール、2-エチルヘキサノール、ノナノール、イソノナノール、デカノール、イソデカノール、ウンデカノール、イソウンデカノール、ドデカノール、トリデカノール、イソトリデカノール、テトラデカノール、ペンタデカノール、ヘキサデカノール、ヘプタデカノール、オクタデカノール、セロソルブ、カルビトール、フェノール、ノニルフェノール、ベンジルアルコールおよびそれらの混合物が挙げられる。
更に、末端停止成分として使用し得る一塩基酸としては、例えば、酢酸、プロピオン酸、酪酸、イソ酪酸、吉草酸、ピバル酸、カプロン酸、ヘプタン酸、カプリル酸、2-エチルヘキシル酸、ペラルゴン酸、カプリン酸、ウンデカン酸、ラウリン酸、トリデカン酸、ミリスチン酸、ペンタデカン酸、パルミチン酸、ヘプタデカン酸、ステアリン酸、安息香酸およびそれらの混合物が挙げられる。
中でも、末端停止成分としては、2-エチルヘキサノールが好ましい。
【0039】
そして、上記(c)所定の構造単位を含有するポリエステルは、数平均分子量が1000以上であることが好ましく、2000以上であることがより好ましく、10000以下であることが好ましく、7000以下であることがより好ましい。
なお、「数平均分子量」は、VPO(蒸気圧浸透圧)法にて測定することができる。
また、上記(c)所定の構造単位を含有するポリエステルは、酸価が1以下であることが好ましい。
更に、上記(c)所定の構造単位を含有するポリエステルは、水酸基価が30以下であることが好ましい。
【0040】
更に、上記(c)所定の構造単位を含有するポリエステルは、粘度が500mPa・s以上であることが好ましく、1000mPa・s以上であることがより好ましく、8000mPa・s以下であることが好ましく、5000mPa・s以下であることがより好ましい。
なお、「粘度」は、JIS Z8803に準拠し、温度23℃で測定することができる。
【0041】
上記(c)所定の構造単位を含有するポリエステルの含有量は、上記(a)塩化ビニル樹脂100質量部に対して、好ましくは0.1質量部以上100質量部以下であり、より好ましくは0.3質量部以上50質量部以下であり、更に好ましくは0.5質量部以上35質量部以下であり、最も好ましくは2質量部以上8質量部以下である。上記(c)所定の構造単位を含有するポリエステルの含有量が上記下限値以上であると、塩化ビニル樹脂成形体の耐熱収縮性が向上する。また、上記(c)所定の構造単位を含有するポリエステルの含有量が上記上限値以下であると、塩化ビニル樹脂成形体のフォギング性および低温での柔軟性が向上する。
なお、特にフォギング性および柔軟性をより重視する観点からは、上記(c)所定の構造単位を含有するポリエステルの含有量は、上記(a)塩化ビニル樹脂100質量部に対して、好ましくは0.1質量部以上100質量部以下であり、より好ましくは0.3質量部以上50質量部以下であり、更に好ましくは0.5質量部以上35質量部以下であり、特に好ましくは0.7質量部以上10質量部以下であり、最も好ましくは2質量部以上8質量部以下である。また、特に耐熱収縮をより重視する観点からは、上記(c)所定の構造単位を含有するポリエステルの含有量は、上記(a)塩化ビニル樹脂100質量部に対して、好ましくは0.1質量部以上100質量部以下であり、より好ましくは0.3質量部以上50質量部以下であり、更に好ましくは0.5質量部以上35質量部以下であり、特に好ましくは2質量部以上30質量部以下であり、最も好ましくは2質量部以上8質量部以下である。
【0042】
また、上記(b)トリメリット酸エステルと、上記(c)所定の構造単位を含有するポリエステルとの合計含有量は、上記(a)塩化ビニル樹脂100質量部当たり、30質量部以上であることが好ましく、60質量部以上であることがより好ましく、80質量部以上であることが更に好ましく、200質量部以下であることが好ましく、160質量部以下であることがより好ましく、140質量部以下であることが更に好ましい。上記(b)トリメリット酸エステルおよび(c)所定の構造単位を含有するポリエステルの合計含有量が上記下限値以上であれば、塩化ビニル樹脂成形体の低温での柔軟性を高めることができる。また、上記(b)トリメリット酸エステルおよび(c)所定の構造単位を含有するポリエステルの合計含有量が上記上限値以下であれば、フォギング性および耐熱収縮性を十分に向上させることができる。
【0043】
そして、上記(b)トリメリット酸エステルと、上記(c)所定の構造単位を含有するポリエステルとの合計含有量に対する上記(c)所定の構造単位を含有するポリエステルの含有量の割合(={(c)所定の構造単位を含有するポリエステルの含有量/((b)トリメリット酸エステルの含有量+(c)所定の構造単位を含有するポリエステルの含有量)}×100)は、0.1質量%以上であることが好ましく、0.5質量%以上であることがより好ましく、1質量%以上であることが更に好ましく、3質量%以上であることが特に好ましく、80質量%以下であることが好ましく、40質量%以下であることがより好ましく、10質量%以下であることが更に好ましく、8質量%以下であることが特に好ましい。上記(c)所定の構造単位を含有するポリエステルの含有量の割合が上記下限値以上であれば、塩化ビニル樹脂成形体の耐熱収縮性を十分に高めることができる。また、上記(c)所定の構造単位を含有するポリエステルの含有量の割合が上記上限値以下であれば、塩化ビニル樹脂成形体のフォギング性および低温での柔軟性を十分に高めることができる。
【0044】
<添加剤>
本発明の粉体成形用塩化ビニル樹脂組成物は、上述した成分以外に、各種添加剤を更に含有してもよい。添加剤としては、特に限定されることなく、上述した(b)トリメリット酸エステルおよび(c)所定の構造単位を含有するポリエステル以外に可塑剤として機能し得る成分(その他の可塑剤);滑剤;過塩素酸処理ハイドロタルサイト、ゼオライト、β-ジケトン、脂肪酸金属塩などの安定剤;離型剤;上記塩化ビニル樹脂微粒子以外のその他のダスティング剤;耐衝撃性改良剤;過塩素酸処理ハイドロタルサイト以外の過塩素酸化合物(過塩素酸ナトリウム、過塩素酸カリウム等);酸化防止剤;防カビ剤;難燃剤;帯電防止剤;充填剤;光安定剤;発泡剤;顔料;などが挙げられる。
【0045】
そして、本発明の粉体成形用塩化ビニル樹脂組成物が含み得る上述した添加剤としては、例えば、国際公開第2016/098344号に記載のものを使用することができ、その好適含有量も国際公開第2016/098344号の記載と同様とすることができる。
【0046】
<粉体成形用塩化ビニル樹脂組成物の調製方法>
本発明の粉体成形用塩化ビニル樹脂組成物は、上述した成分を混合して調製することができる。
ここで、上記(a)塩化ビニル樹脂と、(b)トリメリット酸エステルと、(c)所定の構造単位を含有するポリエステルと、必要に応じて更に配合される各種添加剤との混合方法としては、特に限定されることなく、例えば、ダスティング剤(塩化ビニル樹脂微粒子を含む)を除く成分をドライブレンドにより混合し、その後、ダスティング剤を添加、混合する方法が挙げられる。ここで、ドライブレンドには、ヘンシェルミキサーの使用が好ましい。また、ドライブレンド時の温度は、特に制限されることなく、50℃以上が好ましく、70℃以上がより好ましく、200℃以下が好ましい。
【0047】
<粉体成形用塩化ビニル樹脂組成物の用途>
そして、得られた粉体成形用塩化ビニル樹脂組成物は、粉体成形に用いることができ、パウダースラッシュ成形に好適に用いることができる。
【0048】
(塩化ビニル樹脂成形体)
本発明の塩化ビニル樹脂成形体は、上述した粉体成形用塩化ビニル樹脂組成物を、任意の粉体成形方法で粉体成形することにより得られることを特徴とする。そして、本発明の塩化ビニル樹脂成形体は、上述した粉体成形用塩化ビニル樹脂組成物を用いて形成されているため、通常、少なくとも、(a)塩化ビニル樹脂と、(b)トリメリット酸エステルと、(c)所定の構造単位を含有するポリエステルとを含んでおり、フォギング性および耐熱収縮性に優れている。
従って、本発明の塩化ビニル樹脂成形体は、熱収縮やフォギングの発生が良好に抑制された自動車インスツルメントパネルおよびドアトリム等の自動車内装部品の表皮を製造する際に好適に用いられる。
【0049】
<塩化ビニル樹脂成形体の形成方法>
ここで、パウダースラッシュ成形により塩化ビニル樹脂成形体を形成する場合、パウダースラッシュ成形時の金型温度は、特に制限されることなく、200℃以上とすることが好ましく、220℃以上とすることがより好ましく、300℃以下とすることが好ましく、280℃以下とすることがより好ましい。
【0050】
そして、塩化ビニル樹脂成形体を製造する際には、特に限定されることなく、例えば、以下の方法を用いることができる。即ち、上記温度範囲の金型に本発明の粉体成形用塩化ビニル樹脂組成物を振りかけて、5秒以上30秒以下の間放置した後、余剰の粉体成形用塩化ビニル樹脂組成物を振り落とし、さらに、任意の温度下、30秒以上3分以下の間放置する。その後、金型を10℃以上60℃以下に冷却し、得られた本発明の塩化ビニル樹脂成形体を金型から脱型する。そして、金型の形状をかたどったシート状の成形体を得る。
【0051】
(積層体)
本発明の積層体は、発泡ポリウレタン成形体と、上述した塩化ビニル樹脂成形体とを有する。なお、塩化ビニル樹脂成形体は、通常、積層体の一方の表面を構成する。
そして、本発明の積層体は、例えば、本発明の粉体成形用塩化ビニル樹脂組成物を用いて形成された塩化ビニル樹脂成形体を有しているため、フォギング性および耐熱収縮性に優れている。従って、本発明の積層体は、例えば、自動車インスツルメントパネルおよびドアトリム等の自動車内装部品を形成する自動車内装材として好適に用いられる。
【0052】
ここで、発泡ポリウレタン成形体と塩化ビニル樹脂成形体との積層方法は、特に限定されることなく、例えば、以下の方法を用いることができる。即ち、(1)発泡ポリウレタン成形体と、塩化ビニル樹脂成形体とを別途準備した後に、熱融着、熱接着、または、公知の接着剤などを用いることにより貼り合わせる方法;(2)塩化ビニル樹脂成形体上で発泡ポリウレタン成形体の原料となるイソシアネート類とポリオール類などとを反応させて重合を行うと共に、公知の方法によりポリウレタンの発泡を行うことにより、塩化ビニル樹脂成形体上に発泡ポリウレタン成形体を直接形成する方法;などが挙げられる。中でも、工程が簡素である点、および、種々の形状の積層体を得る場合においても塩化ビニル樹脂成形体と発泡ポリウレタン成形体とを強固に接着し易い点から、後者の方法(2)が好適である。
【実施例
【0053】
以下、本発明について実施例に基づき具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。なお、以下の説明において、量を表す「%」および「部」は、特に断らない限り、質量基準である。
そして、塩化ビニル樹脂成形体の耐熱収縮性、フォギング性および低温での柔軟性は、下記の方法で測定および評価した。
【0054】
<耐熱収縮性>
得られた積層体の塩化ビニル樹脂シート(寸法:200mm×300mm×1mm)に対し、四隅からシート中央に向かって約5cm内側の位置に十字の目印をつけた。そして、十字の中央を測定点として、4つの目印の位置を3次元測定機(株式会社ミツトヨ社製、BH504)で測定した。その結果、隣接する目印同士の間の長手方向に沿う距離の平均値は248mmであり、短手方向に沿う距離の平均値は149mmであった。
次に、積層体を温度120℃のギアオーブン内に静置し、400時間後に取り出して、再度3次元測定機(株式会社ミツトヨ社製、BH504)で測定点(十字の中央)の位置を測定した。その後、隣接する目印同士の間の長手方向に沿う距離の平均値を求めた。
そして、目印同士の間の長手方向に沿う距離の平均値を使用し、下記式:
熱収縮率={(ギアオーブン投入前の平均値-加熱後の平均値)/ギアオーブン投入前の平均値}×100%
を用いて熱収縮率を算出し、以下の基準に従って耐熱収縮性を評価した。熱収縮率が小さいほど、耐熱収縮性に優れていることを示す。
A:熱収縮率が0.3%以下
B:熱収縮率が0.3%超0.4%以下
C:熱収縮率が0.4%超0.5%以下
D:熱収縮率が0.5%超
<フォギング性>
得られた塩化ビニル樹脂成形シート(寸法:145mm×175mm×1mm)を直径80mmの円形に打ち抜き、ISO6452規格に準拠した装置を用いて、100℃に加熱した試験ビンの中に入れ、その上部開口部に20℃に冷却したガラス板をセットし、3時間のフォギング試験を実施した。試験終了後、23℃、湿度50%下で1時間静置したガラス板について、光沢度試験機(東京電色社製GP-60)を用いて、60°反射率を測定した。また、試験前のガラス板の60°反射率を予め測定しておき、下記式によりガラス板の光沢度保持率(%)を求めた。塩化ビニル樹脂成形シートは、光沢度保持率が高いほど、フォギング性に優れている。
光沢度保持率(%)=100×[(試験後のガラス板の光沢度)/(試験前のガラス板の光沢度)]
<柔軟性>
得られた塩化ビニル樹脂成形シート(寸法:145mm×175mm×1mm)を10mm×40mmの寸法で打ち抜き、JIS K7244-4に準拠して、周波数10Hz、測定温度範囲-90℃~+100℃、昇温速度2℃/分で損失弾性率のピークトップ温度を測定した。塩化ビニル樹脂成形シートは、当該ピークトップ温度が低いほど、低温での柔軟性が優れている。
【0055】
(製造例)
実施例および比較例で使用したポリエステルは、以下のようにして調製した。
<ポリエステルA>
多価カルボン酸としてのアジピン酸、多価アルコールとしての3-メチル-1,5-ペンタンジオール、及びストッパー(末端停止成分)としての2-エチルヘキサノールを反応容器に仕込み、触媒としてテトライソプロピルチタネートを加え、適宜溶剤を添加し、攪拌しながら昇温した。副生する水は常圧および減圧で除去し、最終的に220~230℃まで温度を上げて脱水縮合反応を完結させた。そして、末端が2-エチルヘキソキシ基からなるポリエステルA(粘度:3600mPa・s、数平均分子量:5300、酸価:0.32、水酸基価:14.5)を得た。
<ポリエステルB>
多価カルボン酸としてのアジピン酸、多価アルコールとしての1,3-ブタンジオール、及びストッパー(末端停止成分)としてのミリスチン酸とパルミチン酸との混合物を反応容器に仕込み、触媒としてテトライソプロピルチタネートを加え、適宜溶剤を添加し、攪拌しながら昇温した。副生する水は常圧および減圧で除去し、最終的に220~230℃まで温度を上げて脱水縮合反応を完結させた。そして、末端がテトラデカノイロキシ基およびヘキサデカノイロキシ基からなるポリエステルB(粘度:4400mPa・s、数平均分子量:4800、酸価:0.24、水酸基価:16.5)を得た。
【0056】
(実施例1)
<粉体成形用塩化ビニル樹脂組成物の調製>
表1に示す配合成分のうち、可塑剤(トリメリット酸エステル、ポリエステルAおよびエポキシ化大豆油)と、ダスティング剤である塩化ビニル樹脂微粒子とを除く成分をヘンシェルミキサーに入れて混合した。そして、混合物の温度が80℃に上昇した時点で上記可塑剤を全て添加し、ドライアップ(可塑剤が、塩化ビニル樹脂である塩化ビニル樹脂粒子に吸収されて、上記混合物がさらさらになった状態をいう。)させた。その後、ドライアップさせた混合物が温度70℃以下に冷却された時点でダスティング剤である塩化ビニル樹脂微粒子を添加し、粉体成形用塩化ビニル樹脂組成物を調製した。
<塩化ビニル樹脂成形体の形成>
以下のようにして、寸法が145mm×175mm×1mmの塩化ビニル樹脂成形シートおよび寸法が200mm×300mm×1mmの塩化ビニル樹脂成形シートをそれぞれ調製した。
具体的には、上述で得られた粉体成形用塩化ビニル樹脂組成物を、温度250℃に加熱したシボ付き金型に振りかけ、任意の時間放置して溶融させた後、余剰の粉体成形用塩化ビニル樹脂組成物を振り落とした。その後、当該粉体成形用塩化ビニル樹脂組成物を振りかけたシボ付き金型を、温度200℃に設定したオーブン内に静置し、静置から60秒経過した時点で当該シボ付き金型を冷却水で冷却した。金型温度が40℃まで冷却された時点で、塩化ビニル樹脂成形体としての塩化ビニル樹脂成形シートを金型から脱型した。
そして、得られた塩化ビニル樹脂成形シート(寸法:145mm×175mm×1mm)について、上述の方法に従って、フォギング性および低温での柔軟性を測定、評価した。結果を表1に示す。
<積層体の形成>
得られた塩化ビニル樹脂成形シート(寸法:200mm×300mm×1mm)を、200mm×300mm×10mmの金型の中に、シボ付き面を下にして敷いた。
別途、プロピレングリコールのPO(プロピレンオキサイド)・EO(エチレンオキサイド)ブロック付加物(水酸基価28、末端EO単位の含有量=10%、内部EO単位の含有量4%)を50部、グリセリンのPO・EOブロック付加物(水酸基価21、末端EO単位の含有量=14%)を50部、水を2.5部、トリエチレンジアミンのエチレングリコール溶液(東ソー社製、商品名「TEDA-L33」)を0.2部、トリエタノールアミンを1.2部、トリエチルアミンを0.5部、および整泡剤(信越化学工業製、商品名「F-122」)を0.5部混合して、ポリオール混合物を得た。また、得られたポリオール混合物とポリメチレンポリフェニレンポリイソシアネート(ポリメリックMDI)とを、インデックスが98になる比率で混合した混合液を調製した。そして、調製した混合液を、上述の通り金型内に敷かれた塩化ビニル樹脂成形シートの上に注いだ。その後、340mm×250mm×2mmのアルミニウム板を乗せ、その上から348mm×255mm×10mmのアルミニウム板で上記金型に蓋をして、金型を密閉した。金型を密閉してから5分間放置することにより、表皮としての塩化ビニル樹脂成形シート(厚さ:1mm)に、発泡ポリウレタン成形体(厚み:9mm、密度:0.18g/cm3)と厚み2mmのアルミニウム板とが裏打ちされた積層体が、形成された。
そして、形成された積層体を金型から取り出し、積層体における塩化ビニル樹脂シートについて、上述の方法に従って、耐熱収縮性を測定、評価した。結果を表1に示す。
【0057】
(実施例2~5)
トリメリット酸エステルおよびポリエステルAの使用量を表1に示すように変更した以外は実施例1と同様にして、ポリエステルA、粉体成形用塩化ビニル樹脂組成物、塩化ビニル樹脂成形体および積層体を作製した。そして、実施例1と同様にして測定および評価を行った。結果を表1に示す。
【0058】
(比較例1)
可塑剤としてトリメリット酸エステルおよびエポキシ化大豆油のみを表1に示す量で使用し、ポリエステルAを使用しなかった以外は実施例1と同様にして、粉体成形用塩化ビニル樹脂組成物、塩化ビニル樹脂成形体および積層体を作製した。そして、実施例1と同様にして測定および評価を行った。結果を表1に示す。
【0059】
(比較例2)
可塑剤としてポリエステルAおよびエポキシ化大豆油のみを表1に示す量で使用し、トリメリット酸エステルを使用しなかった以外は実施例1と同様にして、ポリエステルA、粉体成形用塩化ビニル樹脂組成物、塩化ビニル樹脂成形体および積層体を作製した。そして、実施例1と同様にして測定および評価を行った。結果を表1に示す。
【0060】
(比較例3)
可塑剤としてポリエステルBおよびエポキシ化大豆油のみを表1に示す量で使用し、トリメリット酸エステルおよびポリエステルAを使用しなかった以外は実施例1と同様にして、ポリエステルB、粉体成形用塩化ビニル樹脂組成物、塩化ビニル樹脂成形体および積層体を作製した。そして、実施例1と同様にして測定および評価を行った。結果を表1に示す。
【0061】
【表1】
【0062】
1)新第一塩ビ社製、製品名「ZEST(登録商標)1300S」(懸濁重合法で調製、平均重合度:1300、平均粒子径:113μm)
2)新第一塩ビ社製、製品名「ZEST PQLTX」(乳化重合法で調製、平均重合度:800、平均粒子径:1.8μm)
3)東ソー社製、製品名「リューロンペースト860」(乳化重合法で調製、平均重合度:1600、平均粒子径:2μm)
4)花王社製、製品名「トリメックスN-08」
5)ADEKA社製、製品名「アデカサイザー O-130S」
6)協和化学工業社製、製品名「アルカマイザー(登録商標)5」
7)水澤化学工業社製、製品名「MIZUKALIZER DS」
8)昭和電工社製、製品名「カレンズDK-1」
9)ADEKA社製、製品名「アデカスタブ SC-131」
10)堺化学工業社、製品名「SAKAI SZ2000」
11)ADEKA社製、製品名「アデカスタブ LS-12」
12)大日精化社製、製品名「DA PX 1720(A)ブラック」
【0063】
表1より、実施例1~5の粉体成形用塩化ビニル樹脂組成物によれば、フォギング性および耐熱収縮性に優れる塩化ビニル樹脂成形体が得られることが分かる。
また、表1より、所定のポリエステルを含まない比較例1では塩化ビニル樹脂成形体の耐熱収縮性が悪化し、トリメリット酸エステルを含まない比較例2では塩化ビニル樹脂成形体のフォギング性が低下することが分かる。更に、表1より所定の構造単位を含有しないポリエステルを用いた比較例3では、塩化ビニル樹脂成形体のフォギング性および柔軟性が低下することが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明の粉体成形用塩化ビニル樹脂組成物によれば、フォギング性および耐熱収縮性に優れる塩化ビニル樹脂成形体を形成することができる。
そして、本発明によれば、フォギング性および耐熱収縮性に優れる塩化ビニル樹脂成形体および積層体を提供することができる。