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特許7367695荷電粒子ビーム描画装置、荷電粒子ビーム描画方法及びプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-16
(45)【発行日】2023-10-24
(54)【発明の名称】荷電粒子ビーム描画装置、荷電粒子ビーム描画方法及びプログラム
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/027 20060101AFI20231017BHJP
   G03F 7/20 20060101ALI20231017BHJP
   H01J 37/305 20060101ALI20231017BHJP
【FI】
H01L21/30 541D
G03F7/20 504
G03F7/20 521
H01J37/305 B
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2020555971
(86)(22)【出願日】2019-10-28
(86)【国際出願番号】 JP2019042111
(87)【国際公開番号】W WO2020095743
(87)【国際公開日】2020-05-14
【審査請求日】2022-05-17
(31)【優先権主張番号】P 2018211526
(32)【優先日】2018-11-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】504162958
【氏名又は名称】株式会社ニューフレアテクノロジー
(74)【代理人】
【識別番号】100086911
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100144967
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 隆之
(72)【発明者】
【氏名】野村 春之
(72)【発明者】
【氏名】中山田 憲昭
【審査官】今井 彰
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-133552(JP,A)
【文献】特開2011-108968(JP,A)
【文献】特開2011-040450(JP,A)
【文献】特開2011-033932(JP,A)
【文献】特開2009-260250(JP,A)
【文献】特開2010-250286(JP,A)
【文献】特開2014-183098(JP,A)
【文献】特開平03-082110(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/027、21/30
G03F 7/20-7/24、9/00-9/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
荷電粒子ビームを偏向器により偏向させてステージ上の基板にパターンを描画する荷電粒子ビーム描画装置であって、
前記荷電粒子ビームを放出する放出部と、
前記基板の描画領域をメッシュ状に仮想分割し、メッシュ領域毎の前記パターンの配置割合を示すパターン密度分布を算出するパターン密度分布算出部と、
前記パターン密度分布を用いてメッシュ領域毎のドーズ量を示すドーズ量分布を算出するドーズ量分布算出部と、
前記パターン密度分布及び前記ドーズ量分布を用いて、前記放出部から放出され、前記基板に照射される前記荷電粒子ビームの照射量分布を算出する照射量分布算出部と、
分布中心及びかぶり効果の影響半径の異なる複数のかぶり荷電粒子の分布関数の各々と、前記照射量分布とをそれぞれ畳み込み積分することで、複数のかぶり荷電粒子量分布を算出するかぶり荷電粒子量分布算出部と、
前記パターン密度分布、前記ドーズ量分布及び前記照射量分布を用いて、直接帯電による帯電量分布を算出し、前記複数のかぶり荷電粒子量分布を用いて、複数のかぶり帯電による帯電量分布を算出する帯電量分布算出部と、
前記直接帯電による帯電量分布及び前記複数のかぶり帯電による帯電量分布に基づく描画位置の位置ずれ量を算出する位置ずれ量算出部と、
前記位置ずれ量を用いて、照射位置を補正する補正部と、
補正された照射位置に荷電粒子ビームを照射する描画部と、
を備える荷電粒子ビーム描画装置。
【請求項2】
前記帯電量分布算出部は、描画後十分に時間が経過した後の帯電量を基準とする描画直後の帯電量である帯電減衰量と、帯電減衰時定数と、を用いて、前記直接帯電による帯電量分布及び前記複数のかぶり帯電による帯電量分布を算出することを含むことを特徴とする請求項1に記載の荷電粒子ビーム描画装置。
【請求項3】
前記複数のかぶり荷電粒子の分布関数は、第1の分布関数と第2の分布関数を含み、前記第1の分布関数の分布中心位置は、かぶり荷電粒子の設計上の分布中心であり、前記第2の分布関数の分布中心位置は、かぶり荷電粒子の設計上の分布中心からずれていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の荷電粒子ビーム描画装置。
【請求項4】
前記第2の分布関数は、前記直接帯電による帯電量分布及び前記複数のかぶり帯電による帯電量分布に基づいて前記分布中心位置及び前記かぶり効果の影響半径が更新されることを特徴とする請求項3に記載の荷電粒子ビーム描画装置。
【請求項5】
前記基板の上方に負の電位が印加された静電レンズが配置されることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の荷電粒子ビーム描画装置。
【請求項6】
荷電粒子ビームを偏向器により偏向させてステージ上の基板にパターンを描画する荷電粒子ビーム描画方法であって、
前記基板の描画領域をメッシュ状に仮想分割し、メッシュ領域毎の前記パターンの配置割合を示すパターン密度分布を算出する工程と、
前記パターン密度分布を用いてメッシュ領域毎のドーズ量を示すドーズ量分布を算出する工程と、
前記パターン密度分布及び前記ドーズ量分布を用いて、前記基板に照射される前記荷電粒子ビームの照射量分布を算出する工程と、
分布中心及びかぶり効果の影響半径の異なる複数のかぶり荷電粒子の分布関数の各々と、前記照射量分布とをそれぞれ畳み込み積分することで、複数のかぶり荷電粒子量分布を算出する工程と、
前記パターン密度分布、前記ドーズ量分布及び前記照射量分布を用いて、直接帯電による帯電量分布を算出し、前記複数のかぶり荷電粒子量分布を用いて、複数のかぶり帯電による帯電量分布を算出する工程と、
前記直接帯電による帯電量分布及び前記複数のかぶり帯電による帯電量分布に基づく描画位置の位置ずれ量を算出する工程と、
前記位置ずれ量を用いて、照射位置を補正する工程と、
補正された照射位置に荷電粒子ビームを照射する工程と、
を備える荷電粒子ビーム描画方法。
【請求項7】
前記直接帯電による帯電量分布及び前記複数のかぶり帯電による帯電量分布の算出には、描画後十分に時間が経過した後の帯電量を基準とする描画直後の帯電量である帯電減衰量と、帯電減衰時定数と、が用いられることを特徴とする請求項6に記載の荷電粒子ビーム描画方法。
【請求項8】
前記複数のかぶり荷電粒子の分布関数は第1の分布関数と第2の分布関数を含み、前記第1の分布関数の分布中心位置は、かぶり荷電粒子の設計上の分布中心であり、前記第2の分布関数の分布中心位置は、かぶり荷電粒子の設計上の分布中心からずれていることを特徴とする請求項6または請求項7に記載の荷電粒子ビーム描画方法。
【請求項9】
前記直接帯電による帯電量分布及び前記複数のかぶり帯電による帯電量分布に基づいて、前記第2の分布関数の分布中心位置及びかぶり効果の影響半径を更新することを特徴とする請求項8に記載の荷電粒子ビーム描画方法。
【請求項10】
前記基板上に配置される静電レンズに負の電位が印加される請求項6から請求項9のいずれか1項に記載の荷電粒子ビーム描画方法。
【請求項11】
荷電粒子ビームを偏向器により偏向させてパターンが描画される基板の描画領域をメッシュ状に仮想分割し、メッシュ領域毎の前記パターンの配置割合を示すパターン密度分布を算出する処理と、
前記パターン密度分布を用いてメッシュ領域毎のドーズ量を示すドーズ量分布を算出する処理と、
前記パターン密度分布及び前記ドーズ量分布を用いて、前記基板に照射される前記荷電粒子ビームの照射量分布を算出する処理と、
分布中心およびかぶり効果の影響半径の異なる複数のかぶり荷電粒子の分布関数の各々と、前記照射量分布とをそれぞれ畳み込み積分することで、複数のかぶり荷電粒子量分布を算出する処理と、
前記パターン密度分布、前記ドーズ量分布及び前記照射量分布を用いて、直接帯電による帯電量分布を算出し、前記複数のかぶり荷電粒子量分布を用いて、複数のかぶり帯電による帯電量分布を算出する処理と、
前記直接帯電による帯電量分布及び前記複数のかぶり帯電による帯電量分布に基づく描画位置の位置ずれ量を算出する処理と、
前記位置ずれ量を用いて、照射位置を補正する処理と、
補正された照射位置に荷電粒子ビームを照射する処理と、
をコンピュータに実行させるためのプログラム。
【請求項12】
前記直接帯電による帯電量分布及び前記複数のかぶり帯電による帯電量分布の算出には、描画後十分に時間が経過した後の帯電量を基準とする描画直後の帯電量である帯電減衰量と、帯電減衰時定数と、が用いられることを特徴とする請求項11に記載のプログラム。
【請求項13】
前記複数のかぶり荷電粒子の分布関数は第1の分布関数と第2の分布関数を含み、前記第1の分布関数の分布中心位置は、かぶり荷電粒子の設計上の分布中心であり、前記第2の分布関数の分布中心位置は、かぶり荷電粒子の設計上の分布中心からずれていることを特徴とする請求項11または請求項12に記載のプログラム。
【請求項14】
前記直接帯電による帯電量分布及び前記複数のかぶり帯電による帯電量分布に基づいて、前記第2の分布関数の分布中心位置及びかぶり効果の影響半径を更新することを特徴とする請求項13に記載のプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、荷電粒子ビーム描画装置、荷電粒子ビーム描画方法及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
LSIの高集積化に伴い、半導体デバイスに要求される回路線幅は年々微細化されてきている。半導体デバイスへ所望の回路パターンを形成するためには、縮小投影型露光装置を用いて、石英上に形成された高精度の原画パターン(マスク、或いは特にステッパやスキャナで用いられるものはレチクルともいう。)をウェーハ上に縮小転写する手法が採用されている。高精度の原画パターンは、電子ビーム描画装置によって描画され、所謂、電子ビームリソグラフィ技術が用いられている。
【0003】
マスク等の基板に電子ビームを照射する場合、過去に照射した電子ビームにより照射位置やその周囲が帯電し、照射位置がずれる。従来、このビーム照射位置ずれを無くす方法の1つとして、基板上に帯電防止膜(CDL:Charge Dissipation Layer)を形成して、基板表面の帯電を防止する方法が知られている。しかし、この帯電防止膜は、基本的に酸の特性を有しているため、基板上に化学増幅型レジストが塗布されている場合などにおいて相性が良くない。また、帯電防止膜を形成するために新たな設備を設ける必要があり、製造コストが更に増大してしまう。このため、帯電防止膜を用いることなく、帯電効果補正(CEC:Charging Effect Correction)を行うことが望まれている。
【0004】
帯電量分布を求めてビーム照射位置の補正量を算出する帯電効果補正の手法を用いた描画装置が提案されている(例えば、特許文献1,2参照)。しかし、従来の帯電効果補正では、一部の領域において、昨今要求される寸法精度に十分対応できないという問題が生じている。
【0005】
【文献】特開2009-260250号公報
【文献】特開2011-040450号公報
【文献】特開2018-133552号公報
【文献】特許第5617947号公報
【発明の概要】
【0006】
本発明は、帯電現象による位置ずれを補正する荷電粒子ビーム描画装置、荷電粒子ビーム描画方法及びプログラムを提供することを課題とする。
【0007】
本発明の一態様による荷電粒子ビーム描画装置は、荷電粒子ビームを偏向器により偏向させてステージ上の基板にパターンを描画する荷電粒子ビーム描画装置であって、前記基板の描画領域をメッシュ状に仮想分割し、メッシュ領域毎の前記パターンの配置割合を示すパターン密度分布を算出するパターン密度分布算出部と、前記パターン密度分布を用いてメッシュ領域毎のドーズ量を示すドーズ量分布を算出するドーズ量分布算出部と、前記パターン密度分布及び前記ドーズ量分布を用いて、前記放出部から放出され、前記基板に照射される前記荷電粒子ビームの照射量分布を算出する照射量分布算出部と、分布中心及びかぶり効果の影響半径の異なる複数のかぶり荷電粒子の分布関数の各々と、前記照射量分布とをそれぞれ畳み込み積分することで、複数のかぶり荷電粒子量分布を算出するかぶり荷電粒子量分布算出部と、前記パターン密度分布、前記ドーズ量分布及び前記照射量分布を用いて、直接帯電による帯電量分布を算出し、前記複数のかぶり荷電粒子量分布を用いて、複数のかぶり帯電による帯電量分布を算出する帯電量分布算出部と、前記直接帯電による帯電量分布及び前記複数のかぶり帯電による帯電量分布に基づく描画位置の位置ずれ量を算出する位置ずれ量算出部と、前記位置ずれ量を用いて、照射位置を補正する補正部と、補正された照射位置に荷電粒子ビームを照射する描画部と、を備えるものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、帯電現象による位置ずれを高精度に補正できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の実施形態に係る描画装置の概略図である。
図2】ステージ移動の様子を説明する図である。
図3図3a,図3bは分布中心がずれたかぶり電子を発生させると想定されるメカニズムを説明する図である。
図4図4a,図4bは分布中心がずれたかぶり電子を発生させると想定されるメカニズムを説明する図である。
図5図5a,図5bはかぶり電子のエネルギー毎のかぶり電子帯電の例を示す図である。
図6】同実施形態に係る描画方法を説明するフローチャートである。
図7】帯電量分布を一般化して記述した数式を示す図である。
図8】帯電量分布の一例を記述した数式を示す図である。
図9図9aは描画結果の一例を示す図であり、図9bは描画したパターンを示す図である。
図10図10aは比較例による描画結果の一例を示す図であり、図10bは同実施形態による描画結果の一例を示す図である。
図11図11aは比較例による描画位置の誤差を示すグラフであり、図11bは同実施形態による描画位置の誤差を示すグラフである。
図12】別の実施形態に係る描画方法を説明するフローチャートである。
図13図13a、図13bは評価パターンの例を示す図である。
図14図14a~図14cは、描画結果の例を示す図である。
図15図15a~図15cは、低エネルギーかぶり電子帯電量分布を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。実施の形態では、荷電粒子ビームの一例として、電子ビームを用いた構成について説明する。但し、荷電粒子ビームは電子ビームに限るものでなく、イオンビーム等でもよい。
【0011】
図1は、実施形態に係る描画装置の概略構成図である。図1に示す描画装置100は、描画部150及び制御部160を備えている。描画装置100は、電子ビーム描画装置の一例である。描画部150は、電子鏡筒1と描画室14を有している。電子鏡筒1内には、電子銃5、照明レンズ7、第1アパーチャ8、投影レンズ9、成形偏向器10、第2アパーチャ11、対物レンズ12、対物偏向器13、及び静電レンズ15が配置される。
【0012】
描画室14内には、XYステージ3が配置される。XYステージ3上には、描画対象となる基板2が配置される。基板2には、半導体製造の露光に用いるフォトマスクや半導体装置を形成する半導体ウェーハ等が含まれる。また、描画されるフォトマスクには、まだ何も描画されていないマスクブランクスが含まれる。描画される際には、基板上に、電子ビームにより感光するレジスト層が形成されている。XYステージ3上には、基板2が配置される位置とは異なる位置に、ステージ位置測定用のミラー4が配置される。
【0013】
制御部160は、制御計算機110,120、ステージ位置検出部45、ステージ制御部46、偏向制御回路130、メモリ142、磁気ディスク装置等の記憶装置21,140等を有している。偏向制御回路130は、成形偏向器10,対物偏向器13に接続される。
【0014】
制御計算機110は、描画制御部30、パターン密度分布算出部31、ドーズ量分布算出部32、照射量分布算出部33、かぶり電子量分布算出部34、帯電量分布算出部35、描画経過時間演算部36、累積時間演算部37、及び位置ずれ量分布算出部38の機能を有する。制御計算機110の各部は、電気回路、コンピュータ、プロセッサ、回路基板、量子回路、或いは、半導体装置等を含むハードウェアで構成されていてもよいし、ソフトウェアで構成されていてもよい。ソフトウェアで構成する場合には、その機能を実現するプログラムを記録媒体に収納し、プロセッサを備えたコンピュータに読み込ませて実行させてもよい。制御計算機110の各部の入力データや演算結果は、メモリ142に格納される。
【0015】
制御計算機120は、ショットデータ生成部41および位置ずれ補正部42の機能を有する。ショットデータ生成部41及び位置ずれ補正部42は、ソフトウェアで構成されてもよいし、ハードウェアで構成されてもよい。
【0016】
偏向制御回路130は、成形偏向器制御部43及び対物偏向器制御部44の機能を有する。成形偏向器制御部43及び対物偏向器制御部44は、ソフトウェアで構成されてもよいし、ハードウェアで構成されてもよい。
【0017】
記憶装置140には、描画される複数の図形パターンが定義される描画データ(レイアウトデータ)が格納される。
【0018】
電子銃5(放出部)から放出された電子ビーム6は、照明レンズ7により矩形の穴を持つ第1アパーチャ8全体を照明する。ここで、電子ビーム6をまず矩形に成形する。第1アパーチャ8を通過した第1アパーチャ像の電子ビーム6は、投影レンズ9により第2アパーチャ11上に投影される。第2アパーチャ11上での第1アパーチャ像の位置は、成形偏向器制御部43により制御された成形偏向器10によって偏向され、ビーム形状と寸法を変化させることができる(可変成形)。
【0019】
第2アパーチャ11を通過した第2アパーチャ像の電子ビーム6は、対物レンズ12により焦点を合わせ、対物偏向器制御部44に制御された例えば静電型の偏向器(対物偏向器13)により偏向され、移動可能に配置されたXYステージ3上の基板2の所望する位置に照射される。XYステージ3はステージ制御部46によって駆動制御される。XYステージ3の位置は、ステージ位置検出部45によって検出される。ステージ位置検出部45には、例えば、ミラー4にレーザを照射して、入射光と反射光との干渉に基づいて位置を測定するレーザ測長装置が含まれる。静電レンズ15は、基板2面の凹凸に対応して、動的に電子ビーム6の焦点位置を補正する(ダイナミックフォーカス)。
【0020】
図2は、ステージ移動の様子を説明するための図である。基板2に描画する場合、XYステージ3を例えばX方向に連続移動させる。描画領域が電子ビーム6の偏向可能幅で複数の短冊状のストライプ領域(SR)に仮想分割される。描画処理は、ストライプ領域単位で行われる。XYステージ3のX方向の移動は、例えば連続移動とし、同時に電子ビーム6のショット位置もステージ移動に追従させる。連続移動させることで描画時間を短縮させることができる。
【0021】
1つのストライプ領域を描画し終わったら、XYステージ3をY方向にステップ送りしてX方向(逆向き)に次のストライプ領域の描画動作を行う。各ストライプ領域の描画動作を蛇行させるように進めることでXYステージ3の移動時間を短縮することができる。
【0022】
描画装置100では、レイアウトデータ(描画データ)を処理するにあたり、描画領域を短冊状の複数のフレーム領域に仮想分割し、フレーム領域毎にデータ処理が行われる。多重露光を行わない場合、通常、フレーム領域とストライプ領域とが同じ領域となる。多重露光を行う場合は、多重度に応じてフレーム領域とストライプ領域とがずれることになる。このように、基板2の描画領域は、複数の描画単位領域となるフレーム領域(ストライプ領域)に仮想分割され、描画部150は、フレーム領域(ストライプ領域)毎に描画する。
【0023】
基板2のレジスト層に電子ビームが照射されると、レジスト帯電効果によりビーム照射位置がずれることが知られている。従来の帯電効果補正では、基板2に照射される電子ビームの照射量分布と、電子ビームが照射される照射域から非照射域に広がるかぶり電子の広がり分布に基づいてかぶり電子量分布を算出し、照射量分布及びかぶり電子量分布を用いて照射域の帯電量分布と非照射域の帯電量分布を算出していた。そして、照射域の帯電量分布と非照射域の帯電量分布から、基板2上での電子ビームの位置ずれ量分布を算出し、ビーム照射位置を補正していた。
【0024】
しかし、従来の帯電効果補正では、照射位置の補正が十分でなかった。本発明者らは、後述するように、かぶり電子のエネルギーによってかぶり電子分布の中心位置及びかぶり効果の影響半径が異なるというモデルに基づくことで、ビームの照射位置のずれを高精度に補正できることを見出した。
【0025】
図3aは本実施形態において複数の異なるかぶり電子分布が存在すると想定されるメカニズムを説明するための図である。図3aにおいて、基板2面は、グランド電位に保持される。一方、基板2の上方に配置される静電レンズ15には、負の電位が印加される。よって、基板2面から静電レンズ15の配置高さ面までの間には、基板2面から静電レンズ15に向けて(z方向に)電気力線が延びる電場が生じている。このような電場が誤差等により向きが傾いている場合、及び/又は、さらに漏れ電場が生じている場合、基板2上において左右(x方向)の位置で電位差が生じ、左右方向の電場が生じる。
【0026】
電子ビーム6(e)自体はエネルギーが高いので、この電場によって曲がらない。また、基板2及び描画室14天板で弾性的に散乱されて基板2に降り注ぐかぶり電子も、エネルギーが高いので、図3bに示すように、この電場で曲がらない。
【0027】
しかし、基板2へのビーム照射によって生成され、静電レンズによるz方向の電場によって基板2へ跳ね返される2次電子は、エネルギーが低いため、図4aに示すように、左右方向の電場の影響を受けて正電位側にずれる。その結果、図4bに示すように、かぶり電子Fの分布中心が、照射域Eの中心からずれる。
【0028】
そこで本発明者らは、このようなメカニズムを利用して、図5aに示すように、照射される電子ビーム(e)による直接帯電R1と、基板2及び描画室14天板での弾性散乱により基板2に降り注ぐ高エネルギーのかぶり電子帯電R2と、基板2へのビーム照射によって生成され静電レンズ15の電位によって跳ね返されるようにして基板2に降り注ぐ低エネルギーのかぶり電子帯電R3とを含む帯電モデルを用いることで、ビームの照射位置のずれを高精度に補正できることを見出した。
【0029】
また、基板2へのビーム照射によって生成される2次電子には、さまざまなエネルギーの電子が含まれると想定される。従って、かぶり電子のエネルギーによって軌道が異なり、基板の異なる位置にかぶり電子が到達すると考えられる。図5bは、かぶり電子のエネルギーの違いによって、異なるかぶり電子帯電R3_1~R3_3が発生する例を示している。
【0030】
本実施形態では、このようなモデルを考慮し、複数のかぶり電子量分布を用いて帯電効果補正を行う。
【0031】
図6は、本実施形態に係る描画方法を説明するフローチャートである。この描画方法は、パターン面積密度分布演算工程(ステップS100)と、ドーズ量分布算出工程(ステップS102)と、照射量分布算出工程(ステップS104)と、かぶり電子量分布算出工程(ステップS106)と、帯電量分布算出工程(ステップS108)と、位置ずれ量分布算出工程(ステップS110)と、偏向位置補正工程(ステップS112)と、描画工程(ステップS114)とを有する。
【0032】
パターン面積密度分布演算工程(ステップS100)では、パターン密度分布算出部31が、記憶装置140から描画データを読み出し、描画領域(或いはフレーム領域)を所定寸法(グリッド寸法)でメッシュ状に仮想分割し、メッシュ領域毎に、描画データに定義される図形パターンの配置割合を示すパターン面積密度ρ(x,y)を演算する。そして、メッシュ領域毎のパターン密度の分布ρ(x,y)を作成する。
【0033】
ドーズ量分布算出工程(ステップS102)では、ドーズ量分布算出部32が、パターン密度分布ρ(x,y)を用いて、メッシュ領域毎のドーズ量分布D(x,y)を算出する。ドーズ量の演算には、後方散乱電子による近接効果補正を行うと好適である。ドーズ量Dは、以下の式(1)で定義できる。
【0034】
(1) D=D×{(1+2×η)/(1+2×η×ρ)}
式(1)において、Dは基準ドーズ量であり、ηは後方散乱率である。
【0035】
基準ドーズ量D及び後方散乱率ηは、描画装置100のユーザにより設定される。後方散乱率ηは、電子ビーム6の加速電圧、基板2のレジスト膜厚や下地基板の種類、プロセス条件(例えば、PEB条件や現像条件)などを考慮して設定することができる。
【0036】
照射量分布算出工程(ステップS104)では、照射量分布算出部33が、パターン密度分布ρ(x,y)の各メッシュ値と、ドーズ量分布D(x,y)の対応メッシュ値とを乗算することによって、メッシュ領域毎の照射量分布E(x,y)(「照射強度分布」ともいう)を算出する。
【0037】
かぶり電子量分布算出工程(ステップS106)では、かぶり電子量分布算出部34(かぶり荷電粒子量分布演算部)が、かぶり電子の分布関数gと、ステップS104で算出された照射量分布E=ρDとを畳み込み積分することによって、かぶり電子量分布F(かぶり荷電粒子量分布)を算出する。
【0038】
本実施形態では、かぶり電子のエネルギーに応じた複数の分布関数g~gを用いる。そのため、かぶり電子のエネルギーに応じた複数のかぶり電子量分布F~Fが算出される。分布関数g~gは例えばガウス分布を用いることができる。基板2上に生じている電場の影響を受け、かぶり電子の基板2への到達位置がずれる。また、到達位置のずれ量は、かぶり電子のエネルギーによって異なる。従って、分布関数g~gは、それぞれ分布中心位置及びかぶり効果の影響半径が異なるものとなり得る。すなわちj番目の分布関数g(x、y)およびj番目のかぶり電子分布F(x、y)はそれぞれ以下の式で定義できる。
(2)g(x,y)
=(1/πσ )×exp[-{(x-Δx)+(y-Δy}/σ ]
(3)F(x、y)
=∫∫g(x-x’,y-y’)E(x’,y’)dx’dy’
式(2)において、Δx、Δyはj番目のかぶり電子分布の分布中心位置、σはj番目のかぶり電子の影響半径を表す定数である。
【0039】
帯電量分布算出工程(ステップS108)では、帯電量分布算出部35が、照射量分布Eと、かぶり電子量分布F~Fと、時間の経過に伴う帯電減衰量とを用いて、帯電量分布C(x,y)を算出する。
【0040】
まず、帯電部分を描画(照射)した後の経過時間tを算出する。描画経過時間演算部36が、基板2上の各位置について描画開始時刻(レイアウト先頭或いは先頭フレームの描画を開始する時刻)から実際に描画する時刻までの経過時間T1(x,y)を演算する。例えば、該当するフレーム領域(ストライプ領域)がi番目の第iフレーム領域である場合には、描画開始位置の描画を開始する描画開始時刻から1つ前の第i-1フレーム領域(ストライプ領域)までの各位置(x,y)を描画するまでの予想時間を経過時間T1(x,y)として演算する。
【0041】
続いて、累積時間演算部37が、既に描画が終了した描画単位領域(例えばフレーム領域、ストライプ領域)の描画にかかった描画時間を累積した累積時間T2を演算する。例えば、現在、該当するフレーム領域がi番目の第iフレーム領域である場合には、第1フレーム領域を描画するための時間T2(1)、第2フレーム領域を描画するための時間T2(2)、・・・第iフレーム領域を描画するための時間T2(i)までを累積加算した加算値を算出する。これにより、該当するフレーム領域までの累積時間T2を得ることができる。
【0042】
ここで、現在、処理を行なっている該当フレーム領域内を実際に描画する場合、1つ前のフレーム領域までは描画が既に完了しているので、1つ前までのフレーム領域内で電子ビーム6が照射された箇所は帯電部分となる。よって、該当フレーム領域の累積時間T2から帯電部分がある1つ前までのフレーム領域内の各位置(x,y)の描画経過時間T1(x,y)を差し引いた差分値(T2-T1)が帯電部分を描画した後の経過時間tとなる。
【0043】
帯電量分布C(x、y)を求めるための関数は、照射電子が寄与する直接帯電項と、かぶり電子が寄与するかぶり帯電項とを含む。かぶり電子のエネルギーに応じて複数のかぶり帯電項が含まれる。直接帯電項及び複数のかぶり帯電項は、それぞれ、経過時間が寄与する減衰項と、経過時間が寄与しない静的項を含む。それぞれの減衰項には、描画後十分に時間が経過した後の帯電量を基準とする描画直後の帯電量である帯電減衰量と、帯電減衰時定数と、が用いられる。
【0044】
かぶり電子のエネルギーによってレジストにトラップされ、レジスト帯電に寄与する確率、すなわちかぶり電子強度に対する帯電量は異なると考えられる。また。その減衰の時定数および減衰量も同様に異なると考えられる。そこでまず、帯電量分布C(x,y)を求めるための関数C(E,F,F,・・・,F,t)を仮定した。具体的には、照射電子が寄与する変数C(E,t)と、かぶり電子が寄与する変数CF1(F1,t)~CFn(F,t)に分離した。さらにそれぞれの変数を、経過時間が寄与する減衰項CET(t)、CFT1(t)~CFTn(t)、及び経過時間が寄与しない静的項CES(E)、CFS1(F)~CFSn(F)に分離した。関数C(E,F,F,・・・,F,t)は以下の式(4)で定義する。
(4) C(x,y)=C(E,F,F,・・・,F,t)
=C(E,t)+ΣFj(F,t)
=CES(E)+CET(t)+ΣFSj(F)+Σ Tj(t)
【0045】
また、変数CES(E)、CET(t)、CFSj(F)、CFTj(t)は以下の式(5)(6)(7)(8)で定義する。
(5) CES(E)=d+d×ρ+d×D+d×E
(6) CET(t)=κ(ρ)・exp{-t/λ(ρ)}
(7) CFSj(F)=f1,j×F+f2,j×F +f3,j×F
(8) CFTj(t)=κFj(ρ)・exp{-t/λFj(ρ)}
ここで、d、d、d、dは定数である。またf1,1、f2,1、f3,1、・・・、f1,n、f2,n、f3,nはそれぞれ値の異なりうる定数であり、かぶり電子強度Fの帯電への寄与がかぶり電子のエネルギーによって異なることを表現している。
【0046】
また、式(6)、(8)に用いられる、パターン面積密度ρに依存した帯電減衰量κ(ρ)、κFj(ρ)は、例えば、以下の式(9)、(10)で近似できる。ここでは、式(9)、(10)が2次関数となっているが、これに限るものではなく、さらに高次の関数でもよいし、低次の関数でもよい。
(9) κ(ρ)=κE0+κE1ρ+κE2ρ
(10)κFj(ρ)=κF0,j+κF1,jρ+κF2,jρ
ここで、κE0、κE1、κE2は定数である。またκF0,1、κF1,1、κF2 ,1、・・・、κF0,n、κF1,n、κF2,nはそれぞれ値の異なりうる定数であり、かぶり電子のエネルギーによって帯電減衰量が異なることを表現している。
【0047】
そして、式(4)に用いられる、パターン面積密度ρに依存した帯電減衰時定数λ(ρ)、λFj(ρ)は、例えば、次の式(11)、(12)で近似できる。ここでは、式(11)、(12)が2次関数となっているが、これに限るものではなく、さらに高次の関数でもよいし、低次の関数でもよい。
(11) λ(ρ)=λE+λEρ+λEρ
(12) λFj(ρ)=λF0,j+λF1,jρ+λF2,jρ
ここで、λE0、λE1、λE2は定数である。またλF0,1、λF1,1、λF2 ,1、・・・、λF0,n、λF1,n、λF2,nはそれぞれ値の異なりうる定数であり、かぶり電子のエネルギーによって帯電減衰時定数が異なることを表現している。すなわち、帯電量分布C(x,y)は図7に示すような式で定義できる。
【0048】
なお、各かぶり帯電項は、上述した特許文献1,2,3と同様に、さらに照射部、非照射部に項を分けてもよい。
【0049】
式(2)、(3)、(5)、(7)、(9)~(12)の各係数、Δx、Δx、・・・、Δx、Δy、Δy、・・・、Δy、d、d、d、d、f1,1、f2,1、f3,1、・・・、f1,n、f2,n、f3,n、κE0、κE1、κE2、κF0,1、κF1,1、κF2,1、・・・、κF0,n、κF1,n、κF2,n、λE0、λE1、λE2、λF0,1、λF1,1、λF2,1、・・・、λF0,n、λF1,n、λF2,nは、上述した特許文献1,2,3と同様に、実験結果及び/又はシミュレーション結果をフィッティング(近似)して求めればよい。これらの係数に関するデータは記憶装置21に格納されている。
【0050】
図5aに示すような高エネルギーかぶり電子による帯電と、低エネルギーかぶり電子による帯電とを考慮したモデルの場合は、帯電量分布を図8に示すような式で定義できる。ここで、高エネルギーかぶり電子による帯電は非照射部にのみ帯電し、低エネルギーかぶり電子による帯電は照射部および非照射部に帯電すると仮定した。
【0051】
位置ずれ量分布算出工程(ステップS110)では、位置ずれ量分布算出部38(位置ずれ量演算部)が、帯電量分布に基づく位置ずれ量を演算する。具体的には、位置ずれ量分布算出部38が、ステップS108で算出した帯電量分布に応答関数r(x,y)を畳み込み積分することにより、帯電量分布C(x,y)の各位置(x,y)の帯電量に起因した描画位置(x,y)の位置ずれ量Pを演算する。
【0052】
この帯電量分布C(x,y)を位置ずれ量分布P(x,y)に変換する応答関数r(x,y)を仮定する。ここでは、帯電量分布C(x,y)の各位置で示される帯電位置を(x’,y’)で表し、現在、データ処理を行なっている該当するフレーム領域(例えば、第iフレーム領域)のビーム照射位置を(x,y)で表す。ここで、ビームの位置ずれは、ビーム照射位置(x,y)から帯電位置(x’,y’)までの距離の関数として表すことができるため、応答関数をr(x-x’,y-y’)のように記述することができる。応答関数r(x-x’,y-y’)は、予め実験を行い、実験結果と適合するように予め求めておくか、上述した特許文献1,2と同様に数値計算によって予め求めておけばよい。以下、(x,y)は、現在、データ処理を行なっている該当するフレーム領域のビーム照射位置を示す。
【0053】
そして、位置ずれ量分布算出部38は、該当するフレーム領域の描画しようとする各位置(x,y)の位置ずれ量Pから位置ずれ量分布Pi(x,y)(或いは、位置ずれ量マップPi(x,y)ともいう)を作成する。演算された位置ずれ量マップPi(x,y)は、記憶装置21に格納されると共に、制御計算機120に出力される
【0054】
一方、制御計算機120内では、ショットデータ生成部41が、記憶装置140から描画データを読み出し、複数段のデータ変換処理を行って、描画装置100固有のフォーマットのショットデータを生成する。描画データに定義される図形パターンのサイズは、通常、描画装置100が1回のショットで形成できるショットサイズよりも大きい。そのため、描画装置100内では、描画装置100が1回のショットで形成可能なサイズになるように、各図形パターンを複数のショット図形に分割する(ショット分割)。そして、ショット図形毎に、図形種を示す図形コード、座標、及びサイズといったデータをショットデータとして定義する。
【0055】
偏向位置補正工程(ステップS112)(位置ずれ補正工程)では、位置ずれ補正部42が、ステップS110で算出した位置ずれ量を用いて、照射位置を補正する。ここでは、各位置のショットデータを補正する。具体的には、ショットデータの各位置(x,y)に位置ずれ量マップPi(x,y)が示す位置ずれ量を補正する補正値を加算する。補正値は、例えば、位置ずれ量マップPi(x,y)が示す位置ずれ量の正負の符号を逆にした値を用いると好適である。これにより、電子ビーム6が照射される場合に、その照射先の座標が補正されるので、対物偏向器13によって偏向される偏向位置が補正されることになる。ショットデータはショット順に並ぶようにデータファイルに定義される。
【0056】
描画工程(ステップS114)において、偏向制御回路130内では、ショット順に、成形偏向器制御部43が、ショット図形毎に、ショットデータに定義された図形種及びサイズから電子ビーム6を可変成形するための成形偏向器10の偏向量を演算する。また、対物偏向器制御部44が、当該ショット図形を照射する基板2上の位置に偏向するための対物偏向器13の偏向量を演算する。言い換えれば、対物偏向器制御部44(偏向量演算部)が、補正された照射位置に電子ビームを偏向する偏向量を演算する。そして、電子鏡筒1内に配置された対物偏向器13が、演算された偏向量に応じて電子ビームを偏向することで、補正された照射位置に電子ビームを照射する。これにより、描画部150は、基板2の帯電補正された位置にパターンを描画する。
【0057】
図9は本実施形態におけるビームの照射部およびその周辺の描画結果の一例を示す図である。図9aでは、図9bに示すように照射域IR上にパターン密度25%のパターンを描画後、照射域/非照射域にわたって一定のピッチでx方向(カラム方向)に41個、y方向(ロウ方向)に23個配置されたグリッド上に描画した位置測定用の十字パターンCPの、各グリッド上での設計位置からの位置ずれ量(位置誤差マップ)を示している。図9aでは、ビーム照射域およびその周辺域を合わせた領域の輪郭が矩形に浮き出て見えている。
【0058】
図10aは、従来の帯電補正の手法と同様にかぶり電子のエネルギーの違いを考慮せず、かぶり帯電項を1つのみ含む帯電量分布に基づいて照射位置を補正した場合の位置誤差マップの例を示す。図10aでは、照射域の左端の領域A及び右端の領域Bにおいて、補正残差が大きい領域があることが分かる。これはかぶり帯電項を1つのみ含む帯電量分布に基づく位置ずれの計算では、図5aにおける低エネルギーかぶり電子による帯電R3による位置ずれを再現できていないためだと考えらえる。図10bは、本実施形態による描画方法を用いて描画した場合の位置誤差マップの例を示す。図10aと比較して補正残差が改善されていることがわかる。
【0059】
図11a,図11bは、図10a,図10bの破線領域内の位置誤差を示すグラフである。カラム番号毎にロウ番号4~21のロウデータを平均化して位置誤差を計算した。かぶり電子のエネルギーの違いを考慮しない場合は領域A及びBに±2nm程度あった補正残差が、本実施形態による方法によって±1nm程度に低減できることが確認された。
【0060】
このように、本実施形態によれば、高エネルギーのかぶり電子による帯電量分布と、低エネルギーのかぶり電子による帯電量分布とを分けて計算し、位置ずれ量分布を求めるため、帯電現象に起因した位置ずれを高精度に補正できる。
【0061】
また、本実施形態では電子のエネルギーの違いによって複数のかぶり電子分布の存在を仮定したが、光学系の構造や装置の構造に起因して複数のかぶり電子分布が存在する場合にも本発明を適用できる。例えば、前述した高エネルギーかぶり電子のほかに、電子鏡筒1内で電子ビーム6の一部がアパーチャや鏡筒内で乱反射したのち電子ビーム6とは異なる軌道で描画室14内に降り注ぐかぶり電子が存在する場合や、描画室14天板付近に非対称な構造物があるため高エネルギーかぶり電子の一部が非対称に散乱され基板に降り注ぐかぶり電子が存在する場合などにも、本発明を適用できる。例えば、これらのかぶり電子に対応する分布関数を用いて、かぶり電子量分布を算出する。
【0062】
上記実施形態では、かぶり電子のエネルギーに応じた複数の分布関数g~gは、分布中心位置及びかぶり効果の影響半径が互いに異なるものの、(描画中)一定である例について説明したが、低エネルギーかぶり電子に対応する分布関数については、例えばフレーム領域単位で、分布中心位置及び影響半径を帯電量分布に基づいて新たに算出してもよい。
【0063】
低エネルギーかぶり電子は、対物レンズ12の漏れ磁場を受けて、サイクロトロン運動を行う。このサイクロトロン運動は、漏れ磁場と描画済み領域の帯電が作る電場とに基づく方向にドリフト(いわゆるEクロスBドリフト)する。そのため、低エネルギーかぶり電子に対応する分布関数については、帯電量分布(描画履歴によって算出される電場の大きさと方向)に基づいて分布中心位置及び影響半径を決定することが好ましい。高エネルギーかぶり電子は速度が速いためサイクロトロン運動はせず、描画済み領域の帯電が作る電場による偏向量も十分小さいので、高エネルギーかぶり電子に対応する分布関数は、分布中心位置を設計上の分布中心(ビームの照射位置)とすると共に、分布中心位置及び影響半径は一定とする。
【0064】
図12は、低エネルギーかぶり電子に対応する分布関数を更新しながら描画する方法を説明するフローチャートである。第iフレーム領域の描画データを読み出し、メッシュ領域毎のパターン面積密度を算出し、パターン密度分布ρ(x,y)を作成する(ステップS201、S202)。
【0065】
パターン密度分布ρ(x,y)を用いて、メッシュ領域毎のドーズ量分布D(x,y)を算出する(ステップS203)。パターン密度分布ρ(x,y)の各メッシュ値と、ドーズ量分布D(x,y)の対応メッシュ値とを乗算し、乗算結果に、第(i-1)フレーム領域の照射量分布Ei-1(x,y)を加算して、第iフレーム領域の照射量分布E(x,y)を算出する(ステップS204)。
【0066】
高エネルギーかぶり電子の分布関数gとρとを畳み込み積分し、演算結果に第(i-1)フレーム領域の高エネルギーかぶり電子量分布F i-1(x、y)を加算して、第iフレーム領域の高エネルギーかぶり電子量分布F (x、y)を算出する(ステップS205)。高エネルギーかぶり電子の分布関数gは、フローチャートで示した演算工程中は分布中心及び影響半径が一定である。
【0067】
既に算出している第(i-1)フレーム領域の帯電量分布Ci-1(x,y)に基づいて、低エネルギーかぶり電子の分布関数gの中心シフト量及び影響半径を更新する(ステップS206)。更新後の低エネルギーかぶり電子の分布関数gとρとを畳み込み積分し、演算結果に第(i-1)フレーム領域の低エネルギーかぶり電子量分布F i-1(x、y)を加算して、第iフレーム領域の低エネルギーかぶり電子量分布F (x、y)を算出する(ステップS207)。このように、低エネルギーかぶり電子の分布関数gは、フローチャートで示した演算工程中、更新されるものである。
【0068】
照射量分布Eを用いた直接帯電項C(E)、高エネルギーかぶり電子量分布F を用いた高エネルギーかぶり帯電項CF1(F )、低エネルギーかぶり電子量分布F を用いた低エネルギーかぶり帯電項CF2(F )を加算して、第iフレーム領域の帯電量分布C(x,y)を算出する(ステップS208)。
【0069】
帯電量分布C(x,y)から、第iフレーム領域の位置ずれ量分布を算出する(ステップS209)。算出した位置ずれ量を用いて、ビーム偏向位置を補正し、第iフレーム領域の描画を行う(ステップS210、S211)。全てのフレーム領域に対して、上述した処理を順に行う(ステップS201~S213)。
【0070】
このように、第iフレーム領域における位置ずれ量分布を作成する際は、第(i-1)フレーム領域まで描画が完了した状態での帯電量分布を用いて、低エネルギーかぶり電子に対応する分布関数の分布中心位置及び影響半径を決定(更新)する。そして、第iフレーム領域の処理における低エネルギーかぶり電子量分布は、更新後の分布関数を用いて算出する。
【0071】
分布関数の分布中心位置及び影響半径は、例えば、第(i-1)フレーム領域まで描画が完了した状態での帯電量分布を用いた、第iフレーム位置におけるxy平面方向の静電気力の強さ及び方向の計算結果から決定する。この静電気力に対する分布中心位置及び影響半径の関係は、例えば静電レンズの設計上の軸上z方向電場分布と対物レンズの設計上の軸上z方向磁場分布、及び帯電分布を用いて計算された静電気力の下で、軸上で発生した低エネルギー2次電子を軌道シミュレーションすることで決定する。または、静電レンズの設計上の軸上z方向電場分布と対物レンズの設計上の軸上z方向磁場分布、及びそれぞれ異なる方向及び強さを仮定したxy平面方向の静電気力の下で、低エネルギー2次電子の軌道シミュレーションすることで、描画位置におけるxy平面方向の静電気力に対応する分布位置中心および影響半径をあらかじめ求めておいてもよい。
【0072】
図13図15を用いて、低エネルギーかぶり電子に対応する分布関数の分布中心位置及び影響半径を更新することによる位置ずれ補正効果を説明する。まず、図13aに示すように、評価基板の中央部を除く各グリッド上に、十字の基準パターンP1を描画する。説明の便宜上、一部の基準パターンP1の図示を省略している。次に、図13bに示すように、評価基板の中央部に面積密度25%程度のテストパターンTPを描画する。続いて、各グリッド上の基準パターンP1の近傍に、L字状の評価パターンP2を描画する。
【0073】
そして、テストパターンTPを描画した領域の周縁のグリッドにおける、基準パターンP1を基準にした評価パターンP2の位置ずれ量を測定する。図14aは、従来の帯電補正の手法と同様に、かぶり電子のエネルギーの違いを考慮せず、かぶり帯電項を1つのみ含む帯電量分布に基づいて評価パターンP2の照射位置を補正した場合の位置ずれ量(位置誤差マップ)をベクトル図で示している。図14bは、高エネルギーかぶり電子に対応する分布関数及び低エネルギーかぶり電子に対応する分布関数の分布中心位置及び影響半径を一定として、評価パターンP2の照射位置を補正した場合の位置誤差マップを示す。図14cは、低エネルギーかぶり電子に対応する分布関数の分布中心位置及び影響半径を、帯電量分布によって更新しながら、評価パターンP2の照射位置を補正した場合の位置誤差マップを示す。図14a~14cにおいて、位置ずれ量の絶対値を表すベクトルの長さのスケールは共通である。
【0074】
図14a~14cの補正時に計算された低エネルギーかぶり電子帯電分布を図15a~15cに示す。図中の破線で囲んだ領域は図12bにおけるテストパターンTPの領域を表す。図15aでは、従来の帯電補正の手法と同様に、かぶり電子のエネルギーの違いを考慮せず、低エネルギーかぶり電子分布はゼロとしている。図15bでは、低エネルギーかぶり電子に対応する分布関数の分布中心位置及び影響半径を一定として帯電分布を計算したため、テストパターンTPの領域からずれた位置に、一定の低エネルギーかぶり電子帯電が計算されている。図15cでは、低エネルギーかぶり電子に対応する分布関数の分布中心位置及び影響半径を、帯電量分布によって更新しながら帯電分布を計算した。このとき、図2で示したように、描画を-Y方向から+Y方向に行ったため、例えば第iフレーム領域で発生する低エネルギーの2次電子は-Y側の描画済みの第(i-1)フレームまでの領域の帯電分布から+Y方向の静電気力を受けてその方向に偏向されるとともに、対物レンズの漏れ磁場の作用によって-X方向にEクロスBドリフトも行った後、基板に到達して低エネルギーかぶり電子となる。これらを考慮すると、低エネルギーかぶり電子帯電分布は、図15bのように、テストパターンTPの領域からずれるとともに、図15bとは異なり、X方向にはマイナス側、Y方向にはよりプラス側の帯電量が大きい、偏りを持った分布として計算される。図15a~15cにおいて、帯電量を表すグレースケールは任意目盛で表示している。
【0075】
図14a~14cから、図15bに示すように、高エネルギーのかぶり電子による帯電量分布と、低エネルギーのかぶり電子による帯電量分布とを分けて帯電量を計算することで、補正残差が改善されることがわかる。さらに、図15cに示すように、低エネルギーかぶり電子に対応する分布関数の分布中心位置及び影響半径を、帯電量分布によって更新することで、補正残差がさらに改善されることがわかる。
【0076】
帯電現象に起因した照射位置のずれは、電子ビーム描画装置に限るものではない。本発明は、電子ビーム等の荷電粒子ビームでパターンを検査する検査装置等、狙った位置に荷電粒子ビームを照射することで得られる結果を用いる荷電粒子ビーム装置に適応できる。
【0077】
本発明を特定の態様を用いて詳細に説明したが、本発明の意図と範囲を離れることなく様々な変更が可能であることは当業者に明らかである。
本出願は、2018年11月9日付で出願された日本特許出願2018-211526に基づいており、その全体が引用により援用される。
【符号の説明】
【0078】
1 電子鏡筒
2 基板
3 XYステージ
4 ミラー
5 電子銃
6 電子ビーム
7 照明レンズ
8 第1アパーチャ
9 投影レンズ
10 偏向器
11 第2アパーチャ
12 対物レンズ
13 偏向器
14 描画室
15 静電レンズ
21,140 記憶装置
30 描画制御部
31 パターン密度分布算出部
32 ドーズ量分布算出部
33 照射量分布算出部
34 かぶり電子量分布算出部
35 帯電量分布算出部
36 描画経過時間演算部
37 累積時間演算部
38 位置ずれ量分布算出部
41 ショットデータ生成部
42 位置ずれ補正部
43 成形偏向器制御部
44 対物偏向器制御部
45 ステージ位置検出部
46 ステージ制御部
100 描画装置
150 描画部
160 制御部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15