(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-16
(45)【発行日】2023-10-24
(54)【発明の名称】環境制御装置
(51)【国際特許分類】
A61M 21/02 20060101AFI20231017BHJP
A61B 5/107 20060101ALI20231017BHJP
A61B 5/00 20060101ALI20231017BHJP
【FI】
A61M21/02 G
A61B5/107 300
A61B5/00 101R
(21)【出願番号】P 2019179913
(22)【出願日】2019-09-30
【審査請求日】2022-08-05
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成28年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、研究成果展開事業 センター・オブ・イノベーションプログラム『人間力活性化によるスーパー日本人の育成拠点』に係る委託研究開発、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】000002853
【氏名又は名称】ダイキン工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504176911
【氏名又は名称】国立大学法人大阪大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】坪井 千晶
(72)【発明者】
【氏名】橋本 哲
(72)【発明者】
【氏名】堀 翔太
(72)【発明者】
【氏名】加藤 隆史
【審査官】望月 寛
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-043189(JP,A)
【文献】特開2019-010437(JP,A)
【文献】特開2003-052731(JP,A)
【文献】特開平04-146746(JP,A)
【文献】特開平06-327653(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 21/02
A61B 5/107
A61B 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
就寝者の睡眠を妨げる症状の種類を判定する判定部(10)と、
前記判定部(10)で判定した前記症状の種類に応じて、該症状を抑制する刺激を前記就寝者に供給する供給部(20)とを備
え、
前記症状として、少なくともいびきを含み、
前記判定部(10)は、前記症状として、鼻づまりに由来するいびきと、喉の狭窄に由来するいびきとを判定することを特徴とする環境制御装置。
【請求項2】
請求項
1において、
前記供給部(20)は、前記判定部(10)が前記鼻づまりに由来するいびきを判定すると、温度及び湿度の少なくとも一方を調節した空気を前記就寝者に供給することを特徴とする環境制御装置。
【請求項3】
請求項
2において、
前記供給部(20)は、前記判定部(10)が前記鼻づまりに由来するいびきを判定すると、湿度を調節した空気を前記就寝者に供給することを特徴とする環境制御装置。
【請求項4】
請求項
1~
3のいずれか1つにおいて、
前記供給部(20)は、前記判定部(10)が前記鼻づまりに由来するいびきを判定すると、清浄した空気を前記就寝者に供給することを特徴とする環境制御装置。
【請求項5】
請求項
1~
4のいずれか1つにおいて、
前記供給部(20)は、前記判定部(10)が前記鼻づまりに由来するいびきを判定すると、血管収縮作用、抗炎症作用、免疫増強作用の少なくとも1つを有する第1機能成分を前記就寝者に供給することを特徴とする環境制御装置。
【請求項6】
請求項
1~
5のいずれか1つにおいて、
前記供給部(20)は、前記判定部(10)が前記喉の狭窄に由来するいびきを判定すると、前記就寝者の姿勢を側臥位にさせる気流を該就寝者に供給することを特徴とする環境制御装置。
【請求項7】
就寝者の睡眠を妨げる症状の種類を判定する判定部(10)と、
前記判定部(10)で判定した前記症状の種類に応じて、該症状を抑制する刺激を前記就寝者に供給する供給部(20)とを備え、
前記判定部(10)は、
前記就寝者から発する音を検出する音検出部(111)と、前記就寝者の姿勢を検出する姿勢検出部(112)をさらに有し、
前記音検出部(111)で検出した音と、前記姿勢検出部(112)で検出した姿勢とに基づいて、前記症状の種類を判定することを特徴とする環境制御装置。
【請求項8】
請求項
7において、
前記判定部(10)は、
前記姿勢検出部(112)で検出した姿勢が仰臥位から側臥位に変化したときに、前記就寝者のいびきが軽減する第1条件が成立すると、前記就寝者が喉の狭窄に由来するいびきを発していると判定し、
前記第1条件が成立しないと、前記就寝者が鼻づまりに由来するいびきを発していると判定することを特徴とする環境制御装置。
【請求項9】
請求項1~
8のいずれか1つにおいて、
前記症状として、少なくとも歯ぎしりを含み、
前記判定部(10)は、前記就寝者が歯ぎしりを発していることを判定することを特徴とする環境制御装置。
【請求項10】
請求項
9において、
前記供給部(20)は、前記判定部(10)により前記就寝者が歯ぎしりを発していることが判定されると、該歯ぎしりを抑制する刺激を前記就寝者に供給することを特徴とする環境制御装置。
【請求項11】
請求項
10において、
前記供給部(20)は、前記判定部(10)により前記就寝者が歯ぎしりを発していることが判定されると、リラックス作用を有する第2機能成分を前記就寝者に供給することを特徴とする環境制御装置。
【請求項12】
請求項
10又は
11において、
前記供給部(20)は、前記判定部(10)により前記就寝者が歯ぎしりを発していることが判定されると、1/fゆらぎの気流を前記就寝者に供給することを特徴とする環境制御装置。
【請求項13】
請求項1~
12のいずれか1つにおいて、
前記供給部(20)は、2種類以上の供給方法により前記就寝者に刺激を供給するように構成され、
前記就寝者に刺激を供給したときの前記供給方法の種類、及び、前記症状の抑制効果を学習データとして記憶する記憶部(30)をさらに備え、
前記供給部(20)は、前記記憶部(30)に記憶された学習データに基づいて前記供給方法を選択するように構成されることを特徴とする環境制御装置。
【請求項14】
請求項1~
13のいずれか1つにおいて、
前記供給部(20)は、予め用意しておいた複数の刺激の中から、前記症状に最も効果がある刺激を選択して、当該刺激を前記就寝者に供給し、当該刺激の供給後の所定時間内に前記症状の抑制効果が確認できなければ、前記複数の刺激の中から、前記症状に対して次に効果を奏する刺激を選択して、当該刺激を前記就寝者に供給することを特徴とする環境制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、環境制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
睡眠時にいびきや歯ぎしりなどの就寝者の睡眠を妨げる症状が生じると、睡眠中に中途覚醒が多く発生しやすくなるなど、睡眠の質が低下する原因となる場合がある。このため、いびきや歯ぎしりの予防方法や軽減方法が幾つか提案されている。
【0003】
従来方法として、例えば特許文献1には、いびき検出手段によって、いびきを検出し、いびきが検出されると、就寝者に対してランダム気流、1/f気流、芳香付き気流などを供給して、いびきを停止させる方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来方法においては、いびきの発生原因の違いを考慮したいびき防止が行われていないため、いびきを軽減又は停止させる効果の信頼性、ひいては、睡眠の質を向上させる効果の信頼性が低いという問題があった。
【0006】
本開示の目的は、就寝者の睡眠を妨げる症状を軽減させることにより、睡眠の質を向上させることにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の第1の態様は、就寝者の睡眠を妨げる症状の種類を判定する判定部(10)と、前記判定部(10)で判定した前記症状の種類に応じて、該症状を抑制する刺激を前記就寝者に供給する供給部(20)とを備えていることを特徴とする環境制御装置である。
【0008】
第1の態様では、判定部(10)により就寝者の睡眠を妨げる症状の種類を判定し、供給部(20)により、当該症状の種類に応じた刺激を就寝者に供給する。このため、睡眠を妨げる症状の発生原因の違いを考慮した当該症状の抑制が可能となるので、睡眠の質を向上させることができる。
【0009】
本開示の第2の態様は、第1の態様において、前記症状として、少なくともいびきを含み、前記判定部(10)は、鼻づまりに由来するいびきと、喉の狭窄に由来するいびきとを判定することを特徴とする環境制御装置である。
【0010】
第2の態様では、鼻づまりに由来するいびき、及び、喉の狭窄に由来するいびきのそれぞれに応じた刺激を選択することが可能となる。
【0011】
本開示の第3の態様は、第2の態様において、前記供給部(20)は、前記判定部(10)が前記鼻づまりに由来するいびきを判定すると、温度及び湿度の少なくとも一方を調節した空気を前記就寝者に供給することを特徴とする環境制御装置である。
【0012】
第3の態様では、鼻づまりに由来するいびきを抑制することができる。
【0013】
本開示の第4の態様は、第3態様において、前記供給部(20)は、前記判定部(10)が前記鼻づまりに由来するいびきを判定すると、湿度を調節した空気を前記就寝者に供給することを特徴とする環境制御装置である。
【0014】
第4の態様では、鼻づまりに由来するいびきを抑制することができる。
【0015】
本開示の第5の態様は、第2~4のいずれかの態様において、前記供給部(20)は、前記判定部(10)が前記鼻づまりに由来するいびきを判定すると、清浄した空気を前記就寝者に供給することを特徴とする環境制御装置である。
【0016】
第5の態様では、鼻づまりに由来するいびきを抑制することができる。
【0017】
本開示の第6の態様は、第2~5のいずれかの態様において、前記供給部(20)は、前記判定部(10)が前記鼻づまりに由来するいびきを判定すると、血管収縮作用、抗炎症作用、免疫増強作用の少なくとも1つを有する第1機能成分を前記就寝者に供給することを特徴とする環境制御装置である。
【0018】
第6の態様では、鼻づまりに由来するいびきを抑制することができる。
【0019】
本開示の第7の態様は、第2~6のいずれかの態様において、前記供給部(20)は、前記判定部(10)が前記喉の狭窄に由来するいびきを判定すると、前記就寝者の姿勢を側臥位にさせる気流を該就寝者に供給することを特徴とする環境制御装置である。
【0020】
第7の態様では、喉の狭窄に由来するいびきを抑制することができる。
【0021】
本開示の第8の態様は、第1~7のいずれかの態様において、前記判定部(10)は、前記就寝者から発する音を検出する音検出部(111)を有し、前記音検出部(111)で検出した音に基づいて前記症状の種類を判定することを特徴とする環境制御装置である。
【0022】
第8の態様では、就寝者から発する音に基づいて、就寝者の睡眠を妨げる症状の種類を判定することができる。
【0023】
本開示の第9の態様は、第8の態様において、前記判定部(10)は、前記就寝者の姿勢を検出する姿勢検出部(112)をさらに有し、前記音検出部(111)で検出した音と、前記姿勢検出部(112)で検出した姿勢とに基づいて、前記症状の種類を判定することを特徴とする環境制御装置である。
【0024】
第9の態様では、就寝者から発する音と、就寝者の姿勢とに基づいて、就寝者の睡眠を妨げる症状の種類を判定することができる。
【0025】
本開示の第10の態様は、第9の態様において、前記判定部(10)は、前記姿勢検出部(112)で検出した姿勢が仰臥位から側臥位に変化したときに、前記就寝者のいびきが軽減する第1条件が成立すると、前記就寝者が喉の狭窄に由来するいびきを発していると判定し、前記第1条件が成立しないと、前記就寝者が鼻づまりに由来するいびきを発していると判定することを特徴とする環境制御装置である。
【0026】
第10の態様では、鼻づまりに由来するいびきと、喉の狭窄に由来するいびきとを判定することができる。
【0027】
本開示の第11の態様は、第1~10のいずれかの態様において、前記症状として、少なくとも歯ぎしりを含み、前記判定部(10)は、前記就寝者が歯ぎしりを発していることを判定することを特徴とする環境制御装置である。
【0028】
第11の態様では、歯ぎしりに応じた刺激を選択することが可能となる。
【0029】
本開示の第12の態様は、第11の態様において、前記供給部(20)は、前記判定部(10)により前記就寝者が歯ぎしりを発していることが判定されると、該歯ぎしりを抑制する刺激を前記就寝者に供給することを特徴とする環境制御装置である。
【0030】
第12の態様では、判定部(10)により就寝者における歯ぎしりの発生が判定されると、供給部(20)により、歯ぎしりを抑制する刺激を就寝者に供給する。このため、歯ぎしりの抑制が可能となるので、睡眠の質を向上させることができる。
【0031】
本開示の第13の態様は、第12の態様において、前記供給部(20)は、前記判定部(10)により前記就寝者が歯ぎしりを発していることが判定されると、リラックス作用を有する第2機能成分を前記就寝者に供給することを特徴とする環境制御装置である。
【0032】
第13の態様では、歯ぎしりを抑制することができる。
【0033】
本開示の第14の態様は、第12又は13の態様において、前記供給部(20)は、前記判定部(10)により前記就寝者が歯ぎしりを発していることが判定されると、1/fゆらぎの気流を前記就寝者に供給することを特徴とする環境制御装置である。
【0034】
第14の態様では、歯ぎしりを抑制することができる。
【0035】
本開示の第15の態様は、第1~14のいずれかの態様において、前記供給部(20)は、2種類以上の供給方法により前記就寝者に刺激を供給するように構成され、前記就寝者に刺激を供給したときの前記供給方法の種類、及び、前記症状の抑制効果を学習データとして記憶する記憶部(30)をさらに備え、前記供給部(20)は、前記記憶部(30)に記憶された学習データに基づいて前記供給方法を選択するように構成されることを特徴とする環境制御装置である。
【0036】
第15の態様では、就寝者の個人差を考慮して、睡眠を妨げる症状(いびき、歯ぎしりなど)を抑制することが可能となる。
【0037】
本開示の第16の態様は、第1~15のいずれかの態様において、前記供給部(20)は、予め用意しておいた複数の刺激の中から、前記症状に最も効果がある刺激を選択して、当該刺激を前記就寝者に供給し、当該刺激の供給後の所定時間内に前記症状の抑制効果が確認できなければ、前記複数の刺激の中から、前記症状に対して次に効果を奏する刺激を選択して、当該刺激を前記就寝者に供給することを特徴とする環境制御装置である。
【0038】
第16の態様では、睡眠を妨げる症状の抑制効果を確認しながら、当該症状に対して効果の高い刺激を順次選択して就寝者に供給することができる。このため、刺激による症状抑制の信頼性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【
図1】
図1は、実施形態に係る環境制御装置の概略構成図である。
【
図2】
図2は、
図1に示す環境制御装置により、睡眠を妨げる症状を抑制する方法のフロー図である。
【
図3】
図3は、
図1に示す環境制御装置により、睡眠を妨げる症状の抑制効果を学習する様子の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0040】
以下、本開示の実施形態について図面を参照しながら説明する。尚、以下の実施形態は、本質的に好ましい例示であって、本発明、その適用物、或いはその用途の範囲を制限することを意図するものではない。
【0041】
《実施形態》
〈環境制御装置の構成〉
図1は、本実施形態の環境制御装置の概略構成図である。
【0042】
図1に示すように、環境制御装置(1)は、主として、判定部(10)と、供給部(20)とを備える。判定部(10)は、就寝者の睡眠を妨げる症状の種類を判定する。供給部(20)は、判定部(10)で判定した症状の種類に応じて、該症状を抑制する刺激を就寝者に供給する。
【0043】
睡眠を妨げる症状としては、少なくともいびきを含む。判定部(10)は、例えば、鼻づまりに由来するいびきと、喉の狭窄に由来するいびきとを判定する。尚、ここで判定する鼻づまりは、細菌、ウイルス、アレルゲン物質などの原因によって鼻粘膜が腫れることで生じるものを想定しており、この鼻づまりを軽減する対策として、鼻づまりの原因物質を除去、回避する方法や、鼻粘膜の腫れを抑制する方法が挙げられる。これらを踏まえて、本実施形態の場合、供給部(20)は、判定部(10)が鼻づまりに由来するいびきを判定すると、温度及び湿度の少なくとも一方、例えば湿度を調節した空気を就寝者に供給してもよい。或いは、供給部(20)は、判定部(10)が鼻づまりに由来するいびきを判定すると、清浄した空気を就寝者に供給してもよい。或いは、供給部(20)は、判定部(10)が鼻づまりに由来するいびきを判定すると、血管収縮作用、抗炎症作用、免疫増強作用の少なくとも1つを有する第1機能成分を就寝者に供給してもよい。或いは、供給部(20)は、判定部(10)が喉の狭窄に由来するいびきを判定すると、就寝者の姿勢を側臥位にさせる気流を該就寝者に供給してもよい。
【0044】
また、判定部(10)は、就寝者が歯ぎしりを発していることをさらに判定するように構成されていてもよい。この場合、供給部(20)は、判定部(10)により就寝者が歯ぎしりを発していることが判定されると、該歯ぎしりを抑制する刺激を就寝者に供給するように構成されていてもよい。具体的には、供給部(20)は、判定部(10)により就寝者が歯ぎしりを発していることが判定されると、例えば、リラックス作用を有する第2機能成分、及び/又は、1/fゆらぎの気流を就寝者に供給してもよい。
【0045】
本実施形態において、判定部(10)は、症状検知部(11)と、症状判定部(12)とから構成されていてもよい。症状検知部(11)は、例えば、就寝者から発する音を検出する音検出部(111)と、就寝者の姿勢を検出する姿勢検出部(112)とを有していてもよい。音検出部(111)は、例えば、スマートフォン若しくはエアコンのリモコン等であってもよいし、又は、就寝者が用いる枕等に設けられたマイクロフォンであってもよい。姿勢検出部(112)は、例えば、姿勢計測センサであってもよいし、又は、画像処理可能なイメージセンサであってもよい。症状判定部(12)は、音検出部(111)で検出した音、及び/又は、姿勢検出部(112)で検出した姿勢に基づいて、就寝者の睡眠を妨げる症状の種類、例えば、就寝者のいびきの種類、及び/又は、歯ぎしりの発生を判定する。
【0046】
例えば、判定部(10)は、姿勢検出部(112)で検出した姿勢が仰臥位から側臥位に変化したときに、就寝者のいびきが軽減する第1条件が成立すると、就寝者が喉の狭窄に由来するいびきを発していると判定し、当該第1条件が成立しないと、就寝者が鼻づまりに由来するいびきを発していると判定してもよい。
【0047】
本実施形態において、供給部(20)は、2種類以上の供給方法により就寝者に刺激を供給するように構成されていてもよい。また、環境制御装置(1)は、就寝者に刺激を供給したときの供給方法の種類(判定結果)、及び、睡眠を妨げる症状の抑制効果を学習データとして記憶する記憶部(30)をさらに備えていてもよい。この場合、供給部(20)は、記憶部(30)に記憶された学習データに基づいて、刺激の供給方法を選択する刺激選択部(21)と、刺激選択部(21)により選択された刺激を就寝者に付与する刺激付与部(22)とから構成されていてもよい。刺激付与部(22)としては、例えば、エアコン、空気清浄器、加湿器又はアロマ発生器等を用いてもよい。
【0048】
環境制御装置(1)が記憶部(30)を備える場合、環境制御装置(1)は、効果確認部(40)と、記憶データ修正部(学習部)(50)とをさらに備えていてもよい。効果確認部(40)は、音検出部(111)で検出した音、及び/又は、姿勢検出部(112)で検出した姿勢に基づいて、供給部(20)から就寝者に刺激が供給されてから所定時間内に症状(いびきや歯ぎしりなど)の抑制効果があるかどうか(いびきや歯ぎしりなどが軽減したかどうか)を確認する。学習部(50)は、効果確認部(40)により確認された症状の抑制効果に基づいて、記憶部(30)に記憶された学習データを修正する。これにより、いびきや歯ぎしりなどの症状が軽減される刺激条件が記憶部(30)に記憶されるため、新たにいびきや歯ぎしりなどが生じた場合に、記憶部(30)に記憶された情報に基づいて、いびきや歯ぎしりなどの症状を効果的に軽減できる刺激を就寝者に供給することが可能となる。学習部(50)は、例えばニューラル・ネットワーク等を用いた機械学習を実施するものであってもよい。
【0049】
尚、環境制御装置(1)は、マイクロコンピュータ等のコンピュータを備えており、当該コンピュータがプログラムを実行することによって、症状判定部(12)、刺激選択部(21)、効果確認部(40)及び学習部(50)の各機能が実施される。記憶部(30)は、コンピュータが読み取り可能なROM、光ディスク、ハードディスクドライブなどの記録媒体であってもよい。コンピュータは、通信回線等を経由して、症状検知部(11)及び刺激付与部(22)のそれぞれと送受信可能に構成されていてもよい。
【0050】
〈睡眠を妨げる症状の抑制方法〉
図2は、
図1に示す環境制御装置(1)により、いびき、歯ぎしりなどの症状を抑制する方法のフロー図である。
【0051】
まず、ステップS01において、就寝者がいびきや歯ぎしりなどの症状を生じているかどうかを検知するために、症状検知部(11)(音検出部(111)、姿勢検出部(112))を用いて、就寝者から発する音や就寝者の姿勢を検知する。
【0052】
次に、ステップS02において、ステップS01で検知した音や姿勢に基づいて、症状判定部(12)を用いて、症状(いびき、歯ぎしりなど)の有無を判定し、症状が無ければ、ステップS01に戻り、症状が有れば、ステップS03に進む。
【0053】
尚、いびきは、一般的に喉の狭窄又は鼻づまりによって、呼吸時に粘膜が振動して発生する。いびき音の周波数は、200Hz程度以下か500Hz周辺である場合が多い。喉の狭窄に由来するいびきの場合、仰臥位と比べて側臥位で軽減する傾向がある一方、鼻づまりに由来するいびきの場合、このような傾向は見られない。従って、ステップS01で就寝者が自発的に姿勢変化を生じない場合、就寝者の顔に冷風を供給するなどして、就寝者の姿勢を仰臥位から側臥位に変化させることにより、いびきの種類を判定してもよい。
【0054】
また、歯ぎしり音は、歯をこすり合わせることで発生する。歯ぎしりの多くは、12.5~20.5msecの間隔で連続して出現し、2000Hz以下の周波数領域と3000~6300Hzの周波数領域とにピークが存在する場合が多い。従って、いびき音と歯ぎしり音とは、互いに周波数帯域が異なるので、いびきと歯ぎしりとが同時に発生しても、それぞれの判別が可能である。
【0055】
次に、ステップS03において、ステップS02で判定された症状(いびき、歯ぎしりなど)の種類、及び、記憶部(30)に記憶された学習データに基づいて、刺激選択部(21)を用いて、就寝者に供給する刺激を選択する。続いて、ステップS04において、刺激付与部(22)を用いて、ステップS03で選択された刺激を就寝者に付与する。
【0056】
ステップS02で判定された症状が「鼻づまりに由来するいびき」である場合、例えば、以下のような刺激を選択してもよい。
・鼻腔に優しい温湿度(温度20~24℃程度、湿度55~60%程度)に調節された空気(例えばエアコンにより供給可能)
・アレルゲンやウィルス等が除去された清浄な空気(例えば空気清浄器により供給可能)
・血管収縮作用、抗炎症作用、免疫増強作用の少なくとも1つを有する第1機能成分(例えばペパーミント(メントール)、ユーカリ、ティートゥリー等:例えばアロマ発生器により供給可能)
尚、「清浄な空気」については、外気及び室内空気のそれぞれの清浄度を比べて、外気の清浄度が高ければ、エアコン等による換気により就寝者に供給してもよい。また、「第1機能成分」は、空気砲を用いて生成した渦輪状の気流にのせて、就寝者のみに供給してもよい。或いは、アロマ成分を含んだ壁材(例えばひのき)に対してエアコン気流を吹き付けてアロマ成分の拡散を促進することにより、「第1機能成分」を就寝者に供給してもよい。
【0057】
ステップS02で判定された症状が「喉の狭窄に由来するいびき」である場合、例えば、「就寝者の姿勢を側臥位にさせる気流」を刺激として選択してもよい。例えば、エアコンから冷風を就寝者の顔に供給することにより、就寝者が冷風を避けてエアコンの反対側に顔を向けることにより、就寝者の姿勢を側臥位にさせることができる。
【0058】
ステップS02で判定された症状が「歯ぎしり」である場合、例えば、以下のような刺激を選択してもよい。
・リラックス作用を有する第2機能成分(例えばラベンダー(リナロール)、カモミール、サンダルウッド、サイプレス、ネロリ等:例えばアロマ発生器により供給可能)
・1/fゆらぎの気流(例えばエアコンにより供給可能)
尚、「第2機能成分」は、空気砲を用いて生成した渦輪状の気流にのせて、就寝者のみに供給してもよい。或いは、アロマ成分を含んだ壁材(例えばひのき)に対してエアコン気流を吹き付けてアロマ成分の拡散を促進することにより、「第2機能成分」を就寝者に供給してもよい。
【0059】
次に、ステップS05において、音検出部(111)で検出した音、及び/又は、姿勢検出部(112)で検出した姿勢に基づいて、効果確認部(40)を用いて、ステップS04で就寝者に刺激を付与してから所定時間内にいびきや歯ぎしりなどの症状の抑制効果があるかどうかを確認する。続いて、ステップS06において、効果確認部(40)により確認された症状の抑制効果に基づいて、学習部(50)を用いて、記憶部(30)に記憶された学習データを修正した後、ステップS01に戻る。
【0060】
〈睡眠を妨げる症状の抑制効果の学習〉
図3は、
図1に示す環境制御装置(1)により、いびき、歯ぎしりなどの症状の抑制効果を学習する様子の一例を示す図である。尚、
図3において、各グラフの横軸は、刺激の種類(例示として刺激1~5)を示し、縦軸は、各刺激による症状の抑制効果値を示す。
【0061】
本実施形態の環境制御装置(1)で用いる学習データとは、「症状(いびき、歯ぎしりなど)の発生原因別に、複数の刺激による抑制効果を記憶した関係データ(以下、抑制効果学習データという)」である。
【0062】
「抑制効果学習データ」の作成においては、まず、「抑制効果学習データ」の初期値を準備する。具体的には、予め被験者試験を行い、症状の発生原因別に各刺激の抑制効果を調べ、得られた抑制効果の平均値を刺激毎に初期値として記憶する。初期値は、被験者の属性(年齢、性別等)毎に準備してもよい。
【0063】
図3では、「抑制効果学習データ」の初期値として、「刺激1」の値が最も高くなっている。
【0064】
続いて、実際の利用環境で環境制御装置(1)による環境制御を行いながら、「抑制効果学習データ」の学習値を更新する。具体的には、就寝者に供給された各刺激について、いびきや歯ぎしりなどの症状の抑制効果を確認し、確認結果に基づいて、各刺激の抑制効果値を修正する。例えば、抑制効果が無ければ、元の抑制効果値に係数0.9を乗算し、抑制効果が有れば、元の抑制効果値に係数1.1を乗算して、抑制効果値を修正する。
【0065】
図3では、初回の環境制御で「刺激1」が「効果無」であった場合に、「刺激1」の抑制効果値(初期値)に係数0.9を乗算した様子、及び、初回の環境制御で「刺激1」が「効果有」であった場合に、「刺激1」の抑制効果値(初期値)に係数1.1を乗算した様子をそれぞれ示している。
【0066】
初回の環境制御で「刺激1」が「効果無」であった場合、「刺激1」の抑制効果値(初期値)に係数0.9を乗算した結果、「抑制効果学習データ」の抑制効果値として、「刺激2」の値が最も高くなっている。
図3では、この新たな「抑制効果学習データ」を用いた2回目の環境制御で「刺激2」が「効果有」であった場合に、「刺激2」の抑制効果値に係数1.1を乗算した様子、及び、同2回目の環境制御で「刺激2」が「効果無」であった場合に、「刺激2」の抑制効果値に係数0.9を乗算した様子をそれぞれ示している。
【0067】
また、
図3では、「刺激1」の抑制効果値(初期値)に係数1.1を乗算した「抑制効果学習データ」を用いた2回目の環境制御で「刺激1」が「効果有」であった場合に、「刺激1」の抑制効果値に係数1.1を乗算した様子、及び、同2回目の環境制御で「刺激1」が「効果無」であった場合に、「刺激1」の抑制効果値に係数0.9を乗算した様子をそれぞれ示している。
【0068】
以上のような処理を繰り返すことによって、就寝者に最適な「抑制効果学習データ」を作成することができるので、いびきや歯ぎしりなどの症状を軽減するための環境制御の信頼性を向上させることができる。
【0069】
尚、刺激の抑制効果値の修正は、前述のように、係数を乗算する方法に限定されず、例えば、所定値を加減算する方法等、様々な方法により行うことができる。
【0070】
-実施形態の効果-
以上に説明した本実施形態の環境制御装置(1)によると、就寝者の睡眠を妨げる症状の種類を判定する判定部(10)と、判定部(10)で判定した症状の種類に応じて、該症状を抑制する刺激を就寝者に供給する供給部(20)とを備えている。このため、睡眠を妨げる症状の発生原因の違いを考慮した当該症状の抑制が可能となるので、睡眠の質を向上させることができる。
【0071】
また、本実施形態の環境制御装置(1)において、睡眠を妨げる症状として、少なくともいびきを含み、判定部(10)が、鼻づまりに由来するいびきと、喉の狭窄に由来するいびきとを判定すると、鼻づまりに由来するいびき、及び、喉の狭窄に由来するいびきのそれぞれに応じた刺激を選択することが可能となる。
【0072】
また、本実施形態の環境制御装置(1)において、判定部(10)が鼻づまりに由来するいびきを判定した場合、供給部(20)が、温度及び湿度の少なくとも一方、例えば湿度を調節した空気を就寝者に供給すると、鼻づまりに由来するいびきを抑制することができる。
【0073】
また、本実施形態の環境制御装置(1)において、判定部(10)が鼻づまりに由来するいびきを判定した場合、供給部(20)が、清浄した空気を就寝者に供給すると、鼻づまりに由来するいびきを抑制することができる。
【0074】
また、本実施形態の環境制御装置(1)において、判定部(10)が鼻づまりに由来するいびきを判定した場合、供給部(20)が、血管収縮作用、抗炎症作用、免疫増強作用の少なくとも1つを有する第1機能成分を就寝者に供給すると、鼻づまりに由来するいびきを抑制することができる。
【0075】
また、本実施形態の環境制御装置(1)において、判定部(10)が喉の狭窄に由来するいびきを判定した場合、供給部(20)が、就寝者の姿勢を側臥位にさせる気流を該就寝者に供給すると、喉の狭窄に由来するいびきを抑制することができる。
【0076】
また、本実施形態の環境制御装置(1)において、判定部(10)が、就寝者から発する音を検出する音検出部(111)を有し、音検出部(111)で検出した音に基づいて就寝者の睡眠を妨げる症状の種類を判定すると、就寝者から発する音に基づいて、就寝者の睡眠を妨げる症状の種類を判定することができる。
【0077】
また、本実施形態の環境制御装置(1)において、判定部(10)が、就寝者の姿勢を検出する姿勢検出部(112)をさらに有し、音検出部(111)で検出した音と、姿勢検出部(112)で検出した姿勢とに基づいて、就寝者の睡眠を妨げる症状の種類を判定すると、就寝者から発する音と、就寝者の姿勢とに基づいて、就寝者の睡眠を妨げる症状の種類を判定することができる。
【0078】
また、本実施形態の環境制御装置(1)において、判定部(10)は、姿勢検出部(112)で検出した姿勢が仰臥位から側臥位に変化したときに、就寝者のいびきが軽減する第1条件が成立すると、就寝者が喉の狭窄に由来するいびきを発していると判定し、第1条件が成立しないと、就寝者が鼻づまりに由来するいびきを発していると判定してもよい。このようにすると、鼻づまりに由来するいびきと、喉の狭窄に由来するいびきとを判定することができる。
【0079】
また、本実施形態の環境制御装置(1)において、睡眠を妨げる症状として、少なくとも歯ぎしりを含み、判定部(10)が、就寝者が歯ぎしりを発していることを判定すると、歯ぎしりに応じた刺激を選択することが可能となる。この場合、判定部(10)により就寝者が歯ぎしりを発していることが判定されると、供給部(20)が、該歯ぎしりを抑制する刺激を就寝者に供給すると、歯ぎしりの抑制が可能となるので、睡眠の質を向上させることができる。
【0080】
また、本実施形態の環境制御装置(1)において、判定部(10)により就寝者が歯ぎしりを発していることが判定された場合、供給部(20)が、リラックス作用を有する第2機能成分を就寝者に供給すると、歯ぎしりを抑制することができる。
【0081】
また、本実施形態の環境制御装置(1)において、判定部(10)により就寝者が歯ぎしりを発していることが判定された場合、供給部(20)が、1/fゆらぎの気流を就寝者に供給すると、歯ぎしりを抑制することができる。
【0082】
また、本実施形態の環境制御装置(1)において、供給部(20)は、2種類以上の供給方法により就寝者に刺激を供給するように構成されていてもよい。この場合、環境制御装置(1)は、就寝者に刺激を供給したときの供給方法の種類、及び、睡眠を妨げる症状の抑制効果を学習データとして記憶する記憶部(30)をさらに備え、供給部(20)は、記憶部(30)に記憶された学習データに基づいて供給方法を選択するように構成されていてもよい。このようにすると、就寝者の個人差を考慮して、睡眠を妨げる症状(いびき、歯ぎしりなど)を抑制することが可能となる。
【0083】
以上に説明したように、本実施形態の環境制御装置(1)によると、睡眠中のいびきや歯ぎしりなどの症状の発生の検知に加えて、環境中の音データ等から症状の発生原因(鼻づまりに由来するいびき、喉の狭窄に由来するいびきなど)を分析・判定する。これにより、当該判定結果に基づいて、予め用意しておいた複数の刺激の中から、発生原因に最も効果がある刺激を選択して、当該刺激を就寝者に対して所定時間(例えば数分程度)供給することが可能となる。また、環境制御装置(1)による制御において、刺激供給後の所定時間内に抑制効果があるか(いびきや歯ぎしりなどの症状が軽減したか)を確認するようにしておき、抑制効果が確認できなければ、次に効果を奏する刺激を順次選択して供給することによって、個人差に依存しにくい環境制御が可能となる。
【0084】
《その他の実施形態》
前記実施形態では、環境制御装置(1)は、就寝者の睡眠を妨げる症状の種類として、いびきの種類、及び、歯ぎしりの発生の両方を判定したが、これに代えて、いびきの種類、及び、歯ぎしりの発生のいずれか一方のみを判定してもよい。或いは、いびきの種類、及び/又は、歯ぎしりの発生に加えて、他の症状、例えば、睡眠時無呼吸症候群の発生等を判定してもよい。
【0085】
また、症状検知部(11)は、音検出部(111)及び姿勢検出部(112)を備えていたが、音検出部(111)のみを備えていてもよい。この場合、音検出部(111)で検出した音のみを用いて学習部(50)で機械学習を行い、いびきや歯ぎしりなどの症状を推定してもよい。或いは、症状検知部(11)は、音検出部(111)及び姿勢検出部(112)に加えて、就寝者の体温等の他の指標を検出する手段を備えていてもよい。
【0086】
以上、実施形態(その他の実施形態を含む)を説明したが、特許請求の範囲の趣旨及び範囲から逸脱することなく、形態や詳細の多様な変更が可能なことが理解されるであろう。また、以上の実施形態(その他の実施形態を含む)は、本開示の対象の機能を損なわない限り、適宜組み合わせたり、置換したりしてもよい。さらに、以上に述べた「第1」、「第2」、…という記載は、これらの記載が付与された語句を区別するために用いられており、その語句の数や順序までも限定するものではない。
【産業上の利用可能性】
【0087】
以上に説明したように、本開示は、環境制御装置について有用である。
【符号の説明】
【0088】
1 環境制御装置
10 判定部
11 症状検知部
111 音検出部
112 姿勢検出部
12 症状判定部
20 供給部
21 刺激選択部
22 刺激付与部
30 記憶部
40 効果確認部
50 学習部