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特許7367927アリルエーテルおよびアリルシラン骨格を有する化合物及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-16
(45)【発行日】2023-10-24
(54)【発明の名称】アリルエーテルおよびアリルシラン骨格を有する化合物及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07F 7/08 20060101AFI20231017BHJP
   C07B 61/00 20060101ALN20231017BHJP
【FI】
C07F7/08 G CSP
C07B61/00 300
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2019194665
(22)【出願日】2019-10-25
(65)【公開番号】P2021066706
(43)【公開日】2021-04-30
【審査請求日】2022-08-02
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成26年度、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「有機ケイ素機能性化学品製造プロセス技術開発」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】399030060
【氏名又は名称】学校法人 関西大学
(73)【特許権者】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大洞 康嗣
(72)【発明者】
【氏名】鳥居 一幸
(72)【発明者】
【氏名】中島 裕美子
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 一彦
【審査官】松澤 優子
(56)【参考文献】
【文献】J.Org.Chem.,2015年,Vol.80,pp.2017-2023
【文献】Electrochimica Acta,1988年,Vol.33, No.11,pp.1635-1644
【文献】Tetrahedron,1997年,Vol.53, No.29,pp.9935-9964
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07F 7/08
C07B 61/00
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
パラジウム錯体及び/又はパラジウム塩並びに銅塩の存在下、1,3-ジエン、アルコール、及びジシランを酸素雰囲気下において反応させる二官能基化反応工程を含み、
前記アルコールが式(A)で表され、前記1,3-ジエンが式(B)で表され、前記ジシランが式(C)で表され、前記アリルエーテル及びアリルシラン骨格を有する化合物が式(D)で表される、アリルエーテル及びアリルシラン骨格を有する化合物の製造方法。
【化1】

上記式中、R は、炭素数2~30の炭化水素基、又は置換基を有する炭素数2~30の炭化水素基を表し、前記置換基は、重水素原子、炭素数1~4のアルキル基、炭素数3~4のシクロアルキル基、又は炭素数6~10の芳香族炭化水素基であり;R は、それぞれ独立して、水素原子、炭素数1~20の炭化水素基、又は置換基を有する炭素数1~20の炭化水素基を表し、前記置換基は、重水素原子、炭素数1~4のアルキル基、炭素数3~4のシクロアルキル基、又は炭素数6~10の芳香族炭化水素基であり;R は、それぞれ独立して、炭素数1~20の炭化水素基、置換基を有する炭素数1~20の炭化水素基、炭素数1~20のアルコキシ基、又は置換基を有する炭素数1~20のアルコキシ基を表し、前記置換基は、重水素原子、フッ素原子、炭素数1~4のアルキル基、炭素数3~4のシクロアルキル基、炭素数6~10の芳香族炭化水素基、又はアルコキシ基である。但し、2つのR が共に炭化水素基である場合、2つの炭化水素基が連結して環状構造を形成していてもよい。
【請求項2】
前記銅塩が、二価の銅の塩である、請求項に記載のアリルエーテル及びアリルシラン
骨格を有する化合物の製造方法。
【請求項3】
前記二官能基化反応工程において、1,4-ベンゾキノンを用いる、請求項1又は2に記載のアリルエーテル及びアリルシラン骨格を有する化合物の製造方法。
【請求項4】
前記パラジウム錯体が、ビス(ジベンジリデンアセトン)パラジウム(0)である、請求項1~のいずれか1項に記載のアリルエーテル及びアリルシラン骨格を有する化合物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アリルエーテルおよびアリルシラン骨格を有する化合物及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アリルエーテルやアリルシラン骨格を有する化合物は、医薬品や天然化合物、およびそれらの化合物の合成における重要な中間体として利用されている。例えば、アリルエーテル骨格を有する化合物としては、イソロイシン拮抗薬、抗HIV化合物が挙げられる。アリルシランは、海洋生物の代謝生成物の全合成に用いられる。したがって、同一分子内にアリルエーテルおよびアリルシラン骨格を有する化合物は幅広い応用が可能であると考えられる。そのような化合物の合成法としては、非特許文献1に記載の方法で3-ベンジル-1-プロペンを合成し、2つのホスフィン配位子を有する第一世代Grubbs触媒を用いて3-ベンジル-1-プロペンと3-トリメチルシリル-1-プロペンとをメタセシス反応させる方法が報告されている(非特許文献2参照)。非特許文献2はオレフィン交差メタセシス(CM)の選択性を検討しており、1,4-ブタンジオールと1,3-ジブロモプロペンとから、グリニャール試薬を用いて同一分子内にアリルエーテルおよびアリルシラン骨格を有する化合物を合成することも報告されている(非特許文献2参照。)。この反応は多段階の合成ステップを必要とするうえに、基質にハロゲンを使用しなければならず、副生成物に当量の塩を生じる。
【化1】
一方、本発明者らは、酸化的カップリングによりアリル位にシリル基を導入する方法を開発してきた(非特許文献3参照。)。また、パラジウム錯体及び/又はパラジウム塩並びに酸素ガスの存在下、1,3-ジエンと2級アミンとジシランを反応させることで、アリルアミンおよびアリルシラン骨格を有する化合物を簡便に合成することができる方法を開発してきた(特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2017-088507号公報
【非特許文献】
【0004】
【文献】P. V. Pham, K. Ashton and David W. C. MacMillan, Chem. Sci., 2011, 2, 1470.
【文献】A. K. Chatterjee, T.-L. Choi, D. P. Sanders, R. H. Grubbs, J. Am. Chem. Soc. 2003, 125, 11360.
【文献】S. Nakai, M. Matsui, Y. Shimizu, Y. Adachi, Y. Obora, J. Org. Chem., 2015, 80, 7317.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者らの検討によると、非特許文献3に開示された酸化的カップリングによりアリル位にシリル基を導入する方法は、3-(n-ブトキシ)-1-プロペンのようなアリルエーテル骨格を有する化合物には適用できないことがわかった。
また、非特許文献2に報告されている方法はアリルエーテルおよびアリルシラン骨格を有する化合物を生成するが、多置換アルケンの合成において反応が進行しにくく、基質が限定される、多段階の合成ステップが必要、副生成物にハロゲン塩を生じる等の課題がある。
上記に鑑み、本発明は、簡便かつ穏和な条件でアリルエーテルおよびアリルシラン骨格を有する有機化合物を製造する方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記の課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、通常はアルコールとジシランを基質として用いて反応させるとシリコーン(Si-O-Si)を形成するところ、パラジウム錯体及び/又はパラジウム塩並びに銅塩の存在下、1,3-ジエン、アルコール、及びジシランを酸素雰囲気下において反応させることにより、Si-Oを形成するのではなく、ケイ素置換基から離れた箇所に酸素原子を導入する方法を見出し、酸素置換基を有する新規有機ケイ素化合物の合成に成功し、本発明を完成させた。
本発明は、以下の具体的態様等を提供する。
[1] パラジウム錯体及び/又はパラジウム塩並びに銅塩の存在下、1,3-ジエン、アルコール、及びジシランを酸素雰囲気下において反応させる二官能基化反応工程を含む、アリルエーテル及びアリルシラン骨格を有する化合物の製造方法。
[2] 前記アルコールが式(A)で表され、前記1,3-ジエンが式(B)で表され、前記ジシランが式(C)で表され、前記アリルエーテル及びアリルシラン骨格を有する化合物が式(D)で表される、[1]記載のアリルエーテル及びアリルシラン骨格を有する化合物の製造方法。
【化2】
上記式中、Rは、炭素数2~30の置換若しくは無置換の炭化水素基を表し、Rは、それぞれ独立して、水素原子又は炭素数1~20の置換若しくは無置換の炭化水素基を表し、Rは、それぞれ独立して、炭素数1~20の置換若しくは無置換の炭化水素基、炭素数1~20の置換若しくは無置換のアルコキシ基、又は炭素数1~20の置換若しくは無置換のアシル基を表す。但し、2つのRが共に炭化水素基である場合、2つの炭化水素基が連結して環状構造を形成していてもよい。
[3] 前記銅塩が、二価の銅の塩である、[1]又は[2]に記載のアリルエーテル及びアリルシラン骨格を有する化合物の製造方法。
[4] 前記二官能基化反応工程において、1,4-ベンゾキノンを用いる、[1]~[3]のいずれかに記載のアリルエーテル及びアリルシラン骨格を有する化合物の製造方法。
[5] 前記パラジウム錯体が、ビス(ジベンジリデンアセトン)パラジウム(0)である、[1]~[4]のいずれかに記載のアリルエーテル及びアリルシラン骨格を有する化合物の製造方法。
[6] 式(D’)で表されるアリルエーテル及びアリルシラン骨格を有する化合物。
【化3】
上記式中、Rは、炭素数2~30の置換若しくは無置換の炭化水素基を表し、Rは、それぞれ独立して、炭素数1~20の置換若しくは無置換の炭化水素基を表し、Rは、それぞれ独立して、炭素数1~20の置換若しくは無置換の炭化水素基、炭素数1~20の置換若しくは無置換のアルコキシ基、又は炭素数1~20の置換若しくは無置換のアシル基を表す。但し、2つのRが連結して環状構造を形成していてもよい。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、これまで合成が困難であったアリルエーテルおよびアリルシラン骨格を有する化合物を簡便かつ穏和な条件で製造することができる。さらに、本発明によると、従来のメタセシス反応では困難であった四置換アルケンの合成が可能である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明の詳細を説明するに当たり、具体例を挙げて説明するが、本発明の趣旨を逸脱しない限り以下の内容に限定されるものではなく、適宜変更して実施することができる。
【0009】
1.アリルエーテル及びアリルシラン骨格を有する化合物の製造方法
本発明の一実施形態に係るアリルエーテル及びアリルシラン骨格を有する化合物の製造方法は、パラジウム錯体及び/又はパラジウム塩並びに銅塩の存在下、1,3-ジエン、アルコール、及びジシランを酸素雰囲気下において反応させる二官能基化反応工程(以下、「反応工程」と略す場合がある。)を含むことを特徴とする。具体的には、例えば、以下に示す反応が挙げられる。なお、「アリルエーテル及びアリルシラン骨格を有する化合物」とは、アリル基を共通とするアリルエーテル骨格(-O-C-C=C-)骨格及びアリルシラン骨格(-C=C-C-Si)を含んでいる有機化合物を意味し、その他の構造は特に限定されないものとする。
【0010】
【化4】
【0011】
一般的に、ジシランとアルコールは親和性が高いため、アルコールとジシランを反応に用いると通常はシリコーン(Si-O-Si)を形成し、シリルエーテルとなる。本発明者らは、パラジウム錯体及び/又はパラジウム塩並びに銅塩の存在下、1,3-ジエン、
ジシラン及びアルコールを遷移金属触媒が失活する酸素雰囲気で反応させると、アルコールをアルコキシ化剤として利用できることを見出し、ジシランとアルコールからSi-Oを形成するのではなくケイ素置換基から離れた箇所に酸素原子を導入する方法に想到し、酸素置換基を有する新規有機ケイ素化合物の合成に成功した。本発明の一実施形態に係るアリルエーテル及びアリルシラン骨格を有する化合物の製造方法は、1,3-ジエンに対するアルコールとジシランの付加を比較的穏和な条件下で、一段階で行うことができ、多段階の反応を必要とする従来法に比べて、アリルエーテルとアリルシリル骨格の両方を有する化合物を非常に効率良く製造することができる。また、ジシランを利用してシリル化を行うため、ハロゲン化シラン等を用いた場合に比べて、安全性の観点からも優れていると言え、環境調和型物質変換技術と言える。さらに、本反応では、従来のメタセシス反応では困難であった四置換アルケンの合成が可能である。
【0012】
本発明の一実施形態においては、パラジウム錯体及び/又はパラジウム塩並びに銅塩の存在下、式(A)で表されるアルコール、式(B)で表される1,3-ジエン、及び式(C)で表されるジシランを酸素雰囲気下において反応させる二官能基化反応工程を含むことが好ましい。
【0013】
【化5】
上記式中、Rは、炭素数2~30の置換若しくは無置換の炭化水素基を表し、Rは、それぞれ独立して、水素原子又は炭素数1~20の置換若しくは無置換の炭化水素基を表し、Rは、それぞれ独立して、炭素数1~20の置換若しくは無置換の炭化水素基、炭素数1~20の置換若しくは無置換のアルコキシ基、又は炭素数1~20の置換若しくは無置換のアシル基を表す。但し、2つのRが共に炭化水素基である場合、2つの炭化水素基が連結して環状構造を形成していてもよい。
以下、「アルコール」、「1,3-ジエン」、「ジシラン」、「パラジウム錯体」、「パラジウム塩」等について詳細に説明する。
【0014】
(アルコール)
本発明に用いられるアルコールの具体的種類は、特に限定されず、製造目的であるアリルエーテル及びアリルシラン骨格を有する化合物に応じて適宜選択されるべきである。好ましくは、式(A)で表されるアルコール(以下、「アルコール」と略す場合がある。)が挙げられる。
-OH (A)
上記式中、Rは、炭素数2~30の置換若しくは無置換の炭化水素基を表す。本明細書において、「炭化水素基」とは、直鎖状の飽和炭化水素基に限られず、炭素-炭素不飽和結合、分岐構造、環状構造のそれぞれを有していてもよいことを意味する。
の炭素数は、通常30以下、好ましくは24以下、より好ましくは20以下である。
で表される炭素数2~30の無置換の炭化水素基としては、エチル基、n-プロピル基、iso-プロピル基、n-ブチル基、sec-ブチル基、iso-ブチル基、tert-ブチル基、n-ペンチル基、iso-ペンチル基、ネオペンチル基、n-ヘキシル基、n-ヘプチル基、n-オクチル基、n-ノニル基、n-デシル基、n-ウンデシル基、n-ドデシル基、n-トリデシル基、n-テトラデシル基、n-ペンタデシル基、n-ヘキサデシル基、n-ヘプタデシル基、n-オクタデシル基、n-ノナデシル基、n-ド
コシル基等のアルキル基;シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等のシクロアルキル基;フェニル基、1-ナフチル基、2-ナフチル基、1-フェナントリル基、2-フェナントリル基、3-フェナントリル基、4-フェナントリル基、9-フェナントリル基、1-アントリル基、2-アントリル基、9-アントリル基、1-ピレニル基、2-ピレニル基、4-ピレニル基、1-トリフェニレニル基、2-トリフェニレニル基等の芳香族炭化水素基;等が挙げられる。
で表される炭化水素基が置換基を有する場合、前記置換基としては、重水素原子;メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、sec-ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基等の炭素数1~4のアルキル基;シクロプロピル基、シクロブチル基等の炭素数3~4のシクロアルキル基;フェニル基、1-ナフチル基、2-ナフチル基等の炭素数6~10の芳香族炭化水素基;フラニル基等の含酸素複素環基、チエニル基等の含硫黄複素環基、ピロリル基、ピリジル基等の含窒素複素環等の複素環基;等が挙げられる。したがって、Rで表される炭化水素基が置換基を有する場合、Rとしては、例えば、ベンジル基、フェネチル基、1-ナフチルメチル基、2-ナフチルメチル基等のアラルキル基;シクロヘキシルメチル基等のシクロアルキルアルキル基;フルフリル基等の含酸素複素環を有する炭化水素基;チエニルメチル基等の含硫黄複素環を有する炭化水素基;ピリジルメチル基等の含窒素複素環を有する炭化水素基等を好ましく挙げることができ、特に好ましくは、ベンジル基、1-ナフチルメチル基である。
なお、前記炭素数2~30の炭化水素基が置換基を有する場合、前記炭素数は、置換基の炭素数と炭化水素基の炭素数との合計の炭素数を意味する。
アルコールとしては、下記式で表されるものが挙げられる。
【化6】
【0015】
(1,3-ジエン)
本発明に用いられる1,3-ジエンの具体的種類は、特に限定されず、製造目的であるアリルエーテル及びアリルシラン骨格を有する化合物に応じて適宜選択されるべきである。好ましくは、式(B)で表される1,3-ジエン(以下、「ジエン」と略す場合がある。)が挙げられる。
【化7】
上記式中、Rは、それぞれ独立して、水素原子又は炭素数1~20の置換若しくは無置換の炭化水素基を表す。但し、2つのRが共に炭化水素基である場合、2つの炭化水素基が連結して環状構造を形成していてもよい。
が炭化水素基である場合の炭素数は、通常20以下、好ましくは15以下、より好ましくは12以下である。
で表される炭素数1~20の無置換の炭化水素基としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、iso-プロピル基、n-ブチル基、sec-ブチル基、iso-ブチル基、tert-ブチル基、n-ペンチル基、iso-ペンチル基、ネオペンチル基、n-ヘキシル基、n-ヘプチル基、n-オクチル基、n-ノニル基、n-デシル基、n-ウ
ンデシル基、n-ドデシル基、n-トリデシル基、n-テトラデシル基、n-ペンタデシル基、n-ヘキサデシル基、n-ヘプタデシル基、n-オクタデシル基、n-ノナデシル基、n-ドコシル基等のアルキル基;シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等のシクロアルキル基;フェニル基、1-ナフチル基、2-ナフチル基、1-ナフチル基、2-ナフチル基、1-フェナントリル基、2-フェナントリル基、3-フェナントリル基、4-フェナントリル基、9-フェナントリル基、1-アントリル基、2-アントリル基、9-アントリル基、1-ピレニル基、2-ピレニル基、4-ピレニル基、1-トリフェニレニル基、2-トリフェニレニル基等の芳香族炭化水素基;等が挙げられる。
で表される炭化水素基が置換基を有する場合、前記置換基としては、重水素原子;メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、sec-ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基等の炭素数1~4のアルキル基;シクロプロピル基、シクロブチル基等の炭素数3~4のシクロアルキル基;フェニル基、1-ナフチル基、2-ナフチル基等の炭素数6~10の芳香族炭化水素基;等が挙げられる。
なお、前記炭素数1~20の炭化水素基が置換基を有する場合、前記炭素数は、置換基の炭素数と炭化水素基の炭素数との合計の炭素数を意味する。また、2つのRが共に炭化水素基である場合、2つの炭化水素基が連結して環状構造を形成していてもよいが、その環状構造の炭素数は20以下となるものとする。
【0016】
1,3-ジエンとしては、下記式で表されるものが挙げられる。
【化8】
【0017】
ジエンの使用量(仕込量)は、アルコールに対して物質量換算で、通常0.1倍以上であり、通常20倍以下、好ましくは10倍以下、より好ましくは5倍以下、更に好ましくは4倍以下である。上記範囲内であると、より効率良くアリルエーテル及びアリルシラン骨格を有する化合物を製造することができる。
【0018】
(式(C)で表されるジシラン)
本発明に用いられるジシランの具体的種類は、特に限定されず、製造目的であるアリルエーテル及びアリルシラン骨格を有する化合物に応じて適宜選択されるべきである。好ましくは、式(C)で表されるジシラン(以下、「ジシラン」と略す場合がある。)が挙げられる。
【化9】
式(C)中、Rは、それぞれ独立して、炭素数1~20の置換若しくは無置換の炭化水素基、炭素数1~20の置換若しくは無置換のアルコキシ基、又は炭素数1~20の置換若しくは無置換のアシル基を表す。
の炭化水素基の炭素数は、通常20以下、好ましくは15以下、より好ましくは10以下である。
で表される炭素数1~20の無置換の炭化水素基としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、iso-プロピル基、n-ブチル基、sec-ブチル基、iso-ブチル基、tert-ブチル基、n-ペンチル基、iso-ペンチル基、ネオペンチル基、n-ヘキシル基、n-ヘプチル基、n-オクチル基、n-ノニル基、n-デシル基、n-ウンデシル基、n-ドデシル基、n-トリデシル基、n-テトラデシル基、n-ペンタデシル基、n-ヘキサデシル基、n-ヘプタデシル基、n-オクタデシル基、n-ノナデシル基、n-ドコシル基等のアルキル基;シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等のシクロアルキル基;フェニル基、1-ナフチル基、2-ナフチル基、1-フェナントリル基、2-フェナントリル基、3-フェナントリル基、4-フェナントリル基、9-フェナントリル基、1-アントリル基、2-アントリル基、9-アントリル基、1-ピレニル基、2-ピレニル基、4-ピレニル基、1-トリフェニレニル基、2-トリフェニレニル基等の芳香族炭化水素基;等が挙げられる。
のアルコキシ基の炭素数は、通常20以下、好ましくは15以下、より好ましくは10以下である。
で表される炭素数1~20の無置換のアルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、n-プロポキシ基、iso-プロポキシ基、n-ブトキシ基、sec-ブトキシ基、iso-ブトキシ基、tert-ブトキシ基、n-ペントキシ基、iso-ペントキシ基、ネオペントキシ基、n-ヘキソキシ基、n-ヘプトキシ基、n-オクトキシ基等が挙げられる。
のアシル基の炭素数は、通常20以下、好ましくは15以下、より好ましくは10以下である。
で表される炭素数1~20の無置換のアシル基としては、アセチル基、プロピオニル基、n-ブタノイル基、sec-ブタノイル基、n-ペンタノイル基、ピバロイル基、フェニルアセチル基、シクロヘキシルカルボニル基、ベンゾイル基、ナフトイル基等が挙げられる。
で表される炭化水素基、アルコキシ基又はアシル基が置換基を有する場合、前記置換基としては、重水素原子;フッ素原子;メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、sec-ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基等の炭素数1~4のアルキル基;シクロプロピル基、シクロブチル基等の炭素数3~4のシクロアルキル基;フェニル基、1-ナフチル基、2-ナフチル基等の炭素数6~10の芳香族炭化水素基;メトキシ基、エトキシ基、ブトキシ基等のアルコキシ基;アセチル基、ピバロイル基、ベンゾイル基等のアシル基;等が挙げられる。
なお、前記炭素数1~20の炭化水素基、アルコキシ基、又はアシル基が置換基を有する場合、前記炭素数は、置換基の炭素数と炭化水素基、アルコキシ基、又はアシル基の炭素数との合計の炭素数を意味する。Rは、炭化水素基を含むことが好ましく、ジシランの2つのケイ素原子に結合する3つのRの内、2つ以上が炭化水素基であることが好ましい。
ジシランとしては、下記式で表されるものが好ましく挙げられる。
【化10】
【0019】
ジシランの使用量(仕込量)は、アルコールに対して物質量換算で、通常0.1倍以上であり、通常20倍以下、好ましくは10倍以下、より好ましくは5倍以下、更に好ましくは4倍以下である。上記範囲内であると、より効率良くアリルエーテル及びアリルシラン骨格を有する化合物を製造することができる。
【0020】
(パラジウム錯体・パラジウム塩)
反応工程において、パラジウム錯体及び/又はパラジウム塩は触媒として働く。パラジウム錯体及びパラジウム塩(以下、「パラジウム錯体等」と略す場合がある。)におけるパラジウムの酸化数、配位子若しくは対イオンの具体的種類等は特に限定されず、目的に応じて適宜選択することができる。
パラジウムの酸化数は、通常0、+1、+2、+4、+6であるが、+2であることが好ましい。
配位子若しくは対イオン、又はこれらになり得る化合物としては、酢酸、2,4,6-トリメチル安息香酸(TMBA)、トリフルオロ酢酸(TFA)、ベンゾニトリル(PhCN)、ジベンジリデンアセトン(dba)、アセチルアセトン(acac)、塩化物アニオン(Cl)、臭化物アニオン(Br)等が挙げられる。
なお、反応工程において、パラジウム錯体等を反応器に直接投入するほか、パラジウム元素を含む前駆体と配位子若しくは対イオンとなり得る化合物を添加剤として投入して、反応器内で目的のパラジウム錯体等を形成させてもよい。例えば、酢酸パラジウム(II)と2,4,6-トリメチル安息香酸(TMBA)を反応させることによって、2,4,6-トリメチル安息香酸パラジウム(II)(Pd(TMBA))を形成することが挙げられる。
パラジウム元素を含んだ前駆体の種類としては、塩化パラジウム(II)(PdCl)、臭化パラジウム(II)(PdBr)、酢酸パラジウム(II)(Pd(CHCO)、トリフルオロ酢酸パラジウム(II)(Pd(CFCO)等が挙げられる。
パラジウム錯体等としては、酢酸パラジウム(II)(Pd(OAc))、2,4,6-トリメチル安息香酸パラジウム(II)(Pd(TMBA))、トリフルオロ酢酸パラジウム(II)(Pd(TFA))、ビス(ベンゾニトリル)ジクロロパラジウム(II)(PdCl(PhCN))、ビス(ジベンジリデンアセトン)パラジウム(
0)(Pd(dba))、アセチルアセトンパラジウム(II)(Pd(acac))等が挙げられる。上記のものであると、より効率良くアリルエーテル及びアリルシラン骨格を有する化合物を製造することができる。中でも、ビス(ジベンジリデンアセトン)パラジウム(0)(Pd(dba))が好ましい。
【0021】
パラジウム錯体等の使用量(仕込量)は、アルコールに対して物質量換算で、通常0.0001倍以上、好ましくは0.001倍以上、より好ましくは0.01倍以上であり、通常1倍以下、好ましくは0.5倍以下、より好ましくは0.2倍以下である。上記範囲内であると、より効率良くアリルエーテル及びアリルシラン骨格を有する化合物を製造することができる。パラジウム錯体等は1種を用いてもよいし、2種以上を用いてもよい。
【0022】
(銅塩)
反応工程において用いられる銅塩は特に限定されないが、CuI、CuCl、CuCl、CuBr、CuBr、CuSO、Cu(NO、Cu(BF4)2等が挙げられる。中でも、ハロゲン化銅が好ましく、CuCl、CuBr等の二価の銅塩を用いることがより好ましい。銅塩は1種を用いてもよいし、2種以上を用いてもよい。
【0023】
銅塩の使用量(仕込量)は、アルコールに対して物質量換算で、通常0.0001倍以上、好ましくは0.001倍以上、より好ましくは0.01倍以上であり、通常1倍以下、好ましくは0.5倍以下、より好ましくは0.2倍以下である。上記範囲内であると、より効率良くアリルエーテル及びアリルシラン骨格を有する化合物を製造することができる。
【0024】
(酸素ガス)
反応工程は、酸素雰囲気下で行われることを特徴とするが、本発明の効果を損なわない範囲で、不活性ガス等の酸素ガス以外のガスが存在していてもよい。また、反応工程は加圧下および減圧下のいずれの条件下で行われてもよく、通常0.01atm以上、好ましくは0.05atm以上、より好ましくは0.1atm以上であり、通常10atm以下、好ましくは5atm以下、より好ましくは2atm以下である。
【0025】
(溶媒)
反応工程は、通常溶媒を使用することが好ましい。また、溶媒の種類は特に限定されず、目的に応じて適宜選択することができるが、具体的にはヘキサン、ベンゼン、トルエン等の炭化水素系溶媒;ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン(THF)等のエーテル系溶媒;ジメチルアセトアミド(DMA)、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、N-メチルピロリドン(NMP)等の非プロトン性極性溶媒等が挙げられる。この中でもN,N-ジメチルホルムアミド(DMF)が特に好ましい。溶媒は1種を用いてもよいし、2種以上を用いてもよい。
上記のものであると、より効率良くアリルエーテル及びアリルシラン骨格を有する化合物を製造することができる。
【0026】
(添加剤)
反応工程において、銅の再酸化に寄与できる又はPd触媒の配位子となる添加剤を用いることが好ましい。そのような添加剤としては、ヒドロキノン、1,4-ベンゾキノン、メトキシベンゾキノン、2,5-ジ-tert-アミルベンゾキノン、2,3,5-トリメチル-1,4-ベンゾキノン、2,5-ジヒドロキシ-1,4-ベンゾキノン、テトラヒドロキシ-1,4-ベンゾキノン、アントラキノン、1,4-アントラセンジオン、2-エチルアントラキノンナフトキノン、2,3-ジクロロ-5,6-ジシアノ-p-ベンゾキノン等のキノン類;銀塩などの金属塩等が挙げられ、収率向上の観点から、1,4-ベンゾキノンを用いることが好ましい。添加剤は1種を用いてもよいし、2種以上を用い
てもよい。
上記の添加剤を用いることにより、より効率良くアリルエーテル及びアリルシラン骨格を有する化合物を製造することができる。
【0027】
(反応条件)
反応工程の反応温度は、通常25℃以上、好ましくは40℃以上、より好ましくは60℃以上であり、通常200℃以下、好ましくは150℃以下、より好ましくは100℃以下である。
反応工程の反応時間は、通常1時間以上、好ましくは3時間以上、より好ましくは6時間以上であり、通常120時間以下、好ましくは96時間以下、より好ましくは72時間以下である。
上記範囲内であると、より効率良くアリルエーテル及びアリルシラン骨格を有する化合物を製造することができる。
【0028】
(その他工程)
本実施形態に係るアリルエーテル及びアリルシラン骨格を有する化合物の製造方法においては、上記二官能基化工程の他、任意の工程を含んでいてもよい。任意の工程としては、アリルエーテル及びアリルシラン骨格を有する化合物の純度を高めるための精製工程が挙げられる。精製工程においては、ろ過、吸着、カラムクロマトグラフィー、蒸留等の有機合成分野で通常行われる精製方法を採用することができる。
【0029】
上述の本発明の一実施形態に係る製造方法によって製造されるアリルエーテル及びアリルシラン骨格を有する化合物は、アリルエーテル及びアリルシラン骨格の両方を有する化合物であれば、具体的種類は特に限定されないが、選択的にZ体を生成することができ、下記式(D)で表されるアリルエーテル及びアリルシラン骨格を有する化合物であることが好ましい。
【化11】
上記式中、Rは、炭素数2~30の置換若しくは無置換の炭化水素基を表し、Rは、それぞれ独立して、水素原子又は炭素数1~20の置換若しくは無置換の炭化水素基を表し、Rは、それぞれ独立して、炭素数1~20の置換若しくは無置換の炭化水素基、炭素数1~20の置換若しくは無置換のアルコキシ基、又は炭素数1~20の置換若しくは無置換のアシル基を表す。但し、2つのRが共に炭化水素基である場合、2つの炭化水素基が連結して環状構造を形成していてもよい。
【0030】
2.アリルエーテル及びアリルシラン骨格を有する化合物
本発明の製造方法によって式(D)で表されるアリルエーテル及びアリルシラン骨格を有する化合物を製造することができることを前述したが、下記式(D’)で表されるアリルエーテル及びアリルシラン骨格を有する化合物も本発明の一態様である。
【化12】
上記式中、Rは、炭素数2~30の置換若しくは無置換の炭化水素基を表し、R
、それぞれ独立して、炭素数1~20の置換若しくは無置換の炭化水素基を表し、Rは、それぞれ独立して、炭素数1~20の置換若しくは無置換の炭化水素基、炭素数1~20の置換若しくは無置換のアルコキシ基、又は炭素数1~20の置換若しくは無置換のアシル基を表す。但し、2つのRが連結して環状構造を形成していてもよい。
なお、R、R、Rについては、項目「1.アリルエーテル及びアリルシラン骨格を有する化合物の製造方法」において説明したものと同義である。
アリルエーテルおよびアリルシラン骨格を有する化合物は、例えば、下記式に示されるように、さらなる反応への応用が可能である。本発明の一実施形態に係るアリルエーテルおよびアリルシラン骨格を有する化合物は、医薬品、工業的化成品などの各種用途への応用が期待される。
【0031】
【化13】
【実施例
【0032】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。従って、本発明の範囲は以下に示す具体例により限定的に解釈されるべきものではない。
【0033】
(基質の量の検討)
[実験例1]
撹拌子を投入した30mLナスフラスコに、Pd(dba)(5mol%,0.0287g)、CuI(10mol%,0.0190g)を入れ、そこにN,N-ジメチルホルムアミド(DMF)(3mL)を加え、アルゴン置換した。その後、室温で30分間撹拌した。撹拌後、ヘキサメチルジシラン(3mmol,0.4g)、ベンジルアルコール(1mmol,0.108g)、2,3-ジメチル-1,3-ブタジエン(3mmol,0.246g)を加えた。環流管の上部に二方コック、さらに酸素ガスを入れたバルーンを取り付けて、系中を酸素雰囲気下にし、オイルバスで70℃(反応温度)に加熱して、撹拌しながら16時間(反応時間)反応させた。反応終了後、還流管内部を洗うようにクエンチ溶媒として、トルエン(10mL)を加えた。
内部基準法(内部基準物質:デカン)により基質の転化率、並びに生成物等の収率を算出(結果を表1に示す。)するとともに、NMR、GC-MS等で分析して生成物の定性を行った。結果、下記式4で表されるアリルエーテル及びアリルシラン骨格を有する化合物が生成していることを確認した。また、生成物の収率はベンジルアルコールを基準として算出した。
生成物のNMR測定結果を以下に示す。
1H-NMR (400MHz; CDCl3) δ: 7.38-7.37 (m, 5H), 7.30-7.27 (m, 5H), 4.49 (s, 2H), 3.94 (s, 2H), 1.78 (dd, J = 1.8, 0.9 Hz, 3H), 1.71 (dd, J = 1.7, 0.8 Hz, 3H), 1.62 (d, J = 0.9 Hz, 2H), 0.00 (s, 9H).
13C-NMR (100MHz; CDCl3) δ: 139.77 (C), 132.82 (C), 129.20 (CH), 128.79 (CH), 128.35 (CH), 123.07 (C), 72.76 (CH2), 71.89 (CH2), 26.48 (CH2), 22.60 (CH3), 17.54
(CH3), 0.00 (CH3).
GC-MS (EI) m/z (relative intensity) 262(1) [M]+, 73(100), 91(81), 82(73)
[実験例2、3]
1,3-ブタジエンの量を表1に示すとおりに変更した以外、実験例1と同様の方法により実験例2、3の反応を行った。結果を表1に示す。
【0034】
【化14】
【0035】
【表1】
【0036】
(基質の量の検討)
[実験例4、5]
2,3-ジメチル-1,3-ブタジエンの量を表2に示すとおりに変更した以外、実験例2と同様の方法により反応を行った。結果を、実験例2の結果と併せて表2に示す。
【0037】
【化15】
【0038】
【表2】
【0039】
(添加剤の検討)
[実験例6~8]
添加剤の種類をヨウ化銅(CuI)から表3に示すとおりに変更した以外、実験例2と同様の方法により反応を行った。結果を、実験例2の結果と併せて表3に示す。
【0040】
【化16】
【0041】
【表3】
上記結果から、一価のヨウ化銅、臭化銅、塩化銅よりも、二価の塩化銅を用いた場合に、より収率が向上することがわかる。
【0042】
(Pd触媒の検討)
[実験例9]
触媒の種類をパラジウム錯体Pd(dba)から表4に示すとおりに変更した以外、実験例6と同様の方法により実験例9の反応を行った。結果を、実験例6の結果と併せて表4に示す。
【0043】
【化17】
【0044】
【表4】
【0045】
(基質の量の検討)
[実験例10]
ヘキサメチルジシランの量を表5に示すとおりに変更した以外、実験例6と同様の方法
により実験例22の反応を行った。結果を、実験例6の結果と併せて表5に示す。
【0046】
【化18】
【0047】
【表5】
実験例6と実験例10とを比較すると、化合物4の収率にはほとんど変化はないが、基質のジシランが全て転化したことがわかる。
【0048】
(添加剤の検討)
[実験例11]
添加剤の種類を表6に示す通りに変更した以外、実験例10と同様の方法により実験例11の反応を行った。結果を、実験例10の結果と併せて表6に示す。
【0049】
【化19】
【0050】
【表6】
実験例10と11とを比較すると、塩化銅より臭化銅のほうが収率が高いことがわかる。
【0051】
(添加剤の検討)
[実験例12]
撹拌子を投入した30mLナスフラスコに、Pd(dba)(5mol%,0.02
87g)、CuCl(10mol%,0.0099g),1,4-ベンゾキノン(40mol%,0.0432g)を入れ、そこにN,N-ジメチルホルムアミド(DMF)(3mL)を加え、アルゴン置換した。その後、ナスフラスコをスターラ―を用いて室温で30分間撹拌した。撹拌後、ヘキサメチルジシラン(4mmol,0.586g)、ベンジルアルコール(1mmol,0.108g)、2,3-ジメチル-1,3-ブタジエン(3mmol,0.246g)加えた。環流管の上部に二方コック、さらに酸素ガスを入れたバルーンを取り付けて、系中を酸素雰囲気下にし、オイルバスで70℃(反応温度)に加熱して、撹拌しながら16時間(反応時間)反応させた。反応終了後、還流管内部を洗うようにクエンチ溶媒として、トルエン(10mL)を加えた。
内部基準法(内部基準物質:デカン)により基質の転化率、並びに生成物等の収率を算出(結果を表7に示す。)するとともに、NMR、GC-MS等で分析して生成物の定性を行った。結果、下記式4で表されるアリルエーテル及びアリルシラン骨格を有する化合物が生成していることを確認した。また、生成物の収率はベンジルアルコールを基準として算出した。
【0052】
[実験例13~17]
添加剤として銅塩の種類を表7に示す通りに変更した以外は、実験例12と同様の方法により反応を行った。結果を表7に示す。
【0053】
【化20】
【0054】
【表7】
上記の結果から、一価の銅塩より二価の銅塩を用いたほうが、高い収率が得られたことがわかる。特に、臭化銅(II)を用いた実験例15は88%もの収率を示した。
【0055】
(基質の量の検討)
[実験例18~21]
基質の1,3-ジエン及びジシランの量を表8に示す通りに変更した以外は、実験例15と同様の方法により反応を行った。結果を表8に示す。
【0056】
【化21】
【0057】
【表8】
実験例15、18~21から、アルコール:ジエン:ジシラン=1:3:4の場合と、アルコール:ジエン:ジシラン=1:5:4の場合で、顕著に高い収率を示した。転化率を考慮すると、実験例21より実験例15のアルコール:ジエン:ジシラン=1:3:4での反応が特に好ましいことがわかる。
【0058】
(添加剤の量の検討)
[実験例22~24]
ベンゾキノンの使用量を表9に示す通りに変更した以外は、実験例15と同様の方法により実験例22~24の反応を行った。結果を、実験例15の結果と併せて表9に示す。
【0059】
【化22】
【0060】
【表9】
実験例15と22~24との比較から、ベンゾキノンを用いることで、収率が向上することがわかる。
【0061】
(雰囲気の検討)
[実験例25、26]
雰囲気を表10に示す通りに変更した以外は、実験例15と同様の方法により実験例25、26の反応を行った。結果を、実験例15の結果と併せて表10に示す。
【0062】
【化23】
【0063】
【表10】
実験例15と実験例25から、大気雰囲気下でも本反応が進行しないことがわかる。また、実験例26との比較から、アルゴン雰囲気下でも本反応が進行しないことがわかる。
【0064】
(基質の検討)
[実験例27]
アルコールの種類を表11に示す通りに変更した以外、実験例11と同様の方法により実験例27の反応を行った。結果を、実験例11の結果と併せて表11に示す。
【0065】
【化24】
【0066】
【表11】
1-ナフチルメタノールを基質として、アリルエーテルおよびアリルシラン骨格を有する四置換アルケンを1ステップで簡便に合成出来ることが示された。
【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明によれば、これまで合成が困難であったアリルエーテルおよびアリルシラン骨格を有する化合物を簡便かつ穏和な条件で製造することができる。また、本発明は基質にハロゲンを使用しなくてもよいので、環境調和型のクリーンな反応であるといえる。さらに、本発明によると、従来のメタセシス反応では困難であった四置換アルケンの合成が可能であり、医薬品、工業的化成品などの各種用途に用いられ得るアリルシラン骨格を有する新規化合物が提供される。