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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-16
(45)【発行日】2023-10-24
(54)【発明の名称】動体視力向上用組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 36/82 20060101AFI20231017BHJP
   A23F 3/16 20060101ALI20231017BHJP
   A23L 33/105 20160101ALI20231017BHJP
   A61K 31/353 20060101ALI20231017BHJP
   A61P 27/10 20060101ALI20231017BHJP
   A61K 127/00 20060101ALN20231017BHJP
【FI】
A61K36/82
A23F3/16
A23L33/105
A61K31/353
A61P27/10
A61K127:00
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2019126523
(22)【出願日】2019-07-05
(65)【公開番号】P2021011449
(43)【公開日】2021-02-04
【審査請求日】2022-05-16
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】504176911
【氏名又は名称】国立大学法人大阪大学
(74)【代理人】
【識別番号】100077012
【弁理士】
【氏名又は名称】岩谷 龍
(72)【発明者】
【氏名】古川 貴久
(72)【発明者】
【氏名】杉田 祐子
【審査官】安孫子 由美
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/044964(WO,A1)
【文献】国際公開第2020/175579(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23
A61K
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/CABA/FSTA/AGRICOLA(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エピガロカテキンガレートを有効成分として含有する動体視力向上用組成物(ただし、ケンペロール配糖体をケンペロールアグリコンに変換するための酵素処理および/もしくは酸加水分解処理が施された茶葉抽出物または茶葉加工品を含むものを除く)
【請求項2】
動体視力向上が、動体速度識別能の向上である請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
飲食品である請求項1または2に記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、動体視力向上用組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
人の視覚は感覚の中でも外界情報の8割以上を担うといわれ、最も重要な感覚である。良い視覚を維持することは、超高齢化社会において極めて重要な課題である。特に最近は、高齢者ドライバーによる交通事故が急増していることも大きな社会問題になっている。一般的に、視力検査で測定するのは静止時視力であるが、自動車の運転や、スポーツ、ゲームなどを行っているときには、静止時視力と共に、動く対象を瞬時に追跡して見る視覚機能が必要であり、これは動体視力(動体視覚機能)と呼ばれる。人の動体視力は運転やスポーツ能力などに重要であるが、その機能低下や異常によって病気を引き起こすわけではないため、これまでほとんど研究されてこなかった。本発明者らは、網膜視覚研究を行う過程で、サルなどで用いられてきた動体視覚機能解析法を改良し、客観的かつ定量的にマウスの動体視力(空間識別能、時間識別能、コントラスト識別能)を測定できる技術を開発し(非特許文献1)、人の動体視力を亢進する物質の探索を行っている。
【0003】
我々の身近にある食品や飲料のうち、抹茶には多くの生理活性物質が含まれる。その中でも緑茶に多く含まれるカテキンは、神経保護作用を持つことが報告されている。また、緑茶をよく飲む人ほど、網膜への紫外線のダメージを受けにくいという報告もある(非特許文献2)。緑内障や他の眼の疾患についても緑茶の効果が報告されている。例えば、ラットにおいて網膜の保護作用があることから(非特許文献3)、緑茶による眼病予防も期待されている。こうした報告は、抹茶に多く含まれるカテキンの摂取が良好な視覚を保つ可能性を示唆しているが、視覚機能に対してカテキンがどのような影響を与えるのかについての報告はされていない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【文献】Sugita Y, Miura K, Araki F, Furukawa T, Kawano K. Contributions of retinal direction-selective ganglion cells to optokinetic responses in mice. Eur J Neurosci. 2013, 38(6): 2823-31.
【文献】Xu JY, Zheng XQ, Lu JL, Wu MY, Liang YR. Green tea polyphenols attenuating ultraviolet B-induced damage to human retinal pigment epithelial cells in vitro. Invest Ophthalmol Vis Sci 2010; 51: 6665-70.
【文献】Chu KO, Chan KP, Wang CC, Chu CY, Li WY, Choy KW, Roger MS, Pang CP. Green tea catechins and their oxidative protection in the rat eye. J Agric Food Chem 2010; 58: 1523-34.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、新規な動体視力向上用組成物および動体視力向上用医薬を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上記の課題を解決するために以下の各発明を包含する。
[1]茶葉または茶葉抽出物を有効成分として含有する動体視力向上用組成物。
[2]茶葉抽出物が、エピガロカテキンガレートを含む前記[1]に記載の組成物。
[3]動体視力向上が、動体速度識別能の向上である前記[1]または[2]に記載の組成物。
[4]飲食品である前記[1]~[3]のいずれかに記載の組成物。
[5]エピガロカテキンガレートを有効成分として含有する動体視力向上用医薬。
[6]動体視力向上が、動体速度識別能の向上である前記[5]に記載の組成物。
【発明の効果】
【0007】
本発明により、新規な動体視力向上用組成物および動体視力向上用医薬を提供することができる。本発明の組成物および医薬は、特に動体速度識別能を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】視運動性応答測定で使用した視覚刺激の説明図であり、上段は使用した垂直方向の正弦波縞の空間周波数と時間周波数の説明図、下段は1回の試行における刺激開始から刺激終了までの説明図である。
図2】視運動性応答測定で使用した装置の図である。
図3】実施例1の各群の視運動性応答の平均速度の大きさをガウス関数でフィットした結果を示す図であり、(A)はコントロール群、(B)は抹茶群、(C)は煎茶群、(D)は各マウスの最適時空間周波数のプロットである。
図4】実施例1の視運動性応答測定の結果を示す図であり、(A)は最適空間周波数[cycle/deg]、(B)は最適時間周波数[Hz]、(C)は反応の強さ[deg/s](1秒間にどのくらい動くのか)、(D)は最適速度 [deg/s]、(E)はゲインの結果である。
図5】実施例2のエピガロカテキンガレート投与前および投与後の視運動性応答の平均速度の大きさをガウス関数でフィットした結果を示す図であり、(A)はエピガロカテキンガレート投与前、(B)はエピガロカテキンガレート投与後、(C)は各マウスの最適時空間周波数のプロットである。
図6】実施例2の視運動性応答測定の結果を示す図であり、(A)は最適空間周波数[cycle/deg]、(B)は最適時間周波数[Hz]、(C)は反応の強さ[deg/s](1秒間にどのくらい動くのか)、(D)は最適速度 [deg/s]、(E)はゲインの結果である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明は、茶葉または茶葉抽出物を有効成分として含有する動体視力向上用組成物を提供する。茶葉はツバキ科の常緑樹であるチャノキ(Camellia sinensis)の葉を意味し、芽、茎を含むものであってもよい。茶葉は、生の茶葉でもよく、飲料用に処理を施したものでもよい。茶葉の処理には、不発酵、半発酵、高発酵があるが、いずれの処理を施したものでもよい。不発酵茶としては緑茶(煎茶、玉露、かぶせ茶、番茶、玉緑茶、抹茶、ほうじ茶、釜炒り茶、てん茶等)、半発酵茶としてはウーロン茶、包種茶、発酵茶としては紅茶、プーアール茶が挙げられる。茶葉は、細切して用いてもよく、粉末にして用いてもよい。本発明の組成物の有効成分である茶葉または茶葉抽出物は、緑茶の茶葉または緑茶の茶葉抽出物であることが好ましい。
【0010】
本発明の組成物が茶葉抽出物を有効成分とする場合、茶葉抽出物はエピガロカテキンガレートを含むことが好ましい。本発明者らは、エピガロカテキンガレートを単独でマウスに投与した場合でも、動体視力が向上することを確認している。
【0011】
茶葉抽出物は、茶葉を溶媒で抽出処理して得ることができ、従来公知の方法を採用可能である。茶葉は抽出前に粉砕処理を行ってもよい。抽出溶媒としては、水、親水性溶媒またはこれらの混合物が挙げられる。親水性溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、プロピルアルコール、イソプロピルアルコール等の低級アルコール、アセトン、メチルエチルケトン等の低級脂肪族ケトン、1,3-ブチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン等の多価アルコールを挙げることができる。抽出溶媒は、水またはエタノール水溶液であってもよく、水であってもよい。エタノール水溶液におけるエタノールの濃度は特に限定されないが、70重量%以下であってもよい。水で抽出する場合、抽出温度は60~100℃であってもよく、65~95℃であってもよく、70~80℃であってもよい。抽出時間は5~60分であってもよい。水と茶葉との重量比は、茶葉1に対し、茶葉乾燥重量の10倍以上の水を用いてもよく、茶葉乾燥重量の10倍~100倍量の水を用いてもよい。茶葉抽出物は、抽出処理後、ろ過、遠心分離等の処理により固形分を除去してもよい。さらに、濃縮、乾燥等の処理を行ってもよい。
【0012】
本発明の組成物は、動体視力を向上させる用途に使用することができる。動体視力とは、視線を外さずに動いている物体を持続して識別することができる視力であり、動体の速度の識別能(時間識別能)、動体の細かさの識別能(空間識別能)、動体のコントラストの識別能(コントラスト識別能)等が含まれる。本発明の組成物は、動体視力のなかでも動体速度識別能が向上し、さらに動体を追う目の速さ(反応の強さ)、最も識別しやすい動体の速度(最適速度)、目が動体を追随できる割合(ゲイン)が向上することが、本発明者らにより確認されている。
【0013】
本発明の組成物は、飲食品として好適に実施することができる。飲食品には、健康食品、機能性表示食品、特定保健用食品、病者用食品、栄養強化食品、サプリメント等が含まれる。飲食品の形態は特に限定されない。例えば、錠剤、顆粒剤、散剤、ドリンク剤等の形態;茶飲料、清涼飲料、炭酸飲料、栄養飲料、果実飲料、乳酸飲料等の飲料;飴、キャンディー、ガム、チョコレート、スナック菓子、ビスケット、ゼリー、ジャム、クリーム、焼き菓子、パン等の菓子およびパン類;かまぼこ、ハム、ソーセージ等の水産・畜産加工食品;加工乳、発酵乳等の乳製品;サラダ油、てんぷら油、マーガリン、マヨネーズ、ショートニング、ホイップクリーム、ドレッシング等の油脂および油脂加工食品;ソース、たれ等の調味料;カレー、シチュー、丼、お粥、雑炊等のレトルトパウチ食品;アイスクリーム、シャーベット、かき氷等の冷菓などを挙げることができる。
【0014】
本発明の組成物中の有効成分の含量は特に限定されず、0.01~99%(w/w)であってもよく、0.1~95%(w/w)であってもよい。
【0015】
本発明は、エピガロカテキンガレートを有効成分として含有する動体視力向上用医薬を提供する。エピガロカテキンガレートは、例えば、緑茶葉から抽出して精製することにより製造することができる(特開2001-97968等)。また、テアビゴ(登録商標、太陽化学株式会社)等の市販品を使用してもよい。
【0016】
本発明の医薬は、有効成分であるエピガロカテキンガレートに、薬学的に許容される担体または添加剤を適宜配合して製剤化することができる。具体的には錠剤、被覆錠剤、丸剤、散剤、顆粒剤、カプセル剤、液剤、懸濁剤、乳剤等の経口剤;注射剤、輸液、坐剤、軟膏、パッチ剤、経腸栄養剤等の非経口剤とすることができる。担体または添加剤の配合割合については、医薬品分野において通常採用されている範囲に基づいて適宜設定すればよい。配合できる担体または添加剤は特に制限されないが、例えば、水、生理食塩水、その他の水性溶媒、水性または油性基剤等の各種担体;賦形剤、結合剤、pH調整剤、崩壊剤、吸収促進剤、滑沢剤、着色剤、矯味剤、香料等の各種添加剤が挙げられる。
【0017】
錠剤、カプセル剤などに混和することができる添加剤としては、例えば、ゼラチン、コーンスターチ、トラガント、アラビアゴムのような結合剤、結晶性セルロースのような賦形剤、コーンスターチ、ゼラチン、アルギン酸などのような膨化剤、ステアリン酸マグネシウムのような潤滑剤、ショ糖、乳糖またはサッカリンのような甘味剤、ペパーミント、アカモノ油またはチェリーのような香味剤などが用いられる。調剤単位形態がカプセルである場合には、上記タイプの材料にさらに油脂のような液状担体を含有することができる。注射のための無菌組成物は通常の製剤手順(例えば有効成分を注射用水、天然植物油等の溶媒に溶解または懸濁させる等)に従って調製することができる。注射用の水性液としては、例えば、生理食塩水、ブドウ糖やその他の補助薬を含む等張液(例えば、D-ソルビトール、D-マンニトール、塩化ナトリウムなど)などが用いられ、適当な溶解補助剤、例えば、アルコール(例、エタノール)、ポリアルコール(例、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール)、非イオン性界面活性剤(例、ポリソルベート80TM、HCO-50)などと併用してもよい。油性液としては、例えば、ゴマ油、大豆油などが用いられ、溶解補助剤である安息香酸ベンジル、ベンジルアルコールなどと併用してもよい。また、緩衝剤(例えば、リン酸塩緩衝液、酢酸ナトリウム緩衝液)、無痛化剤(例えば、塩化ベンザルコニウム、塩酸プロカインなど)、安定剤(例えば、ヒト血清アルブミン、ポリエチレングリコールなど)、保存剤(例えば、ベンジルアルコール、フェノールなど)、酸化防止剤などと配合してもよい。
【0018】
本発明の医薬をヒトに投与する場合における、エピガロカテキンガレートの用量は、剤型や患者の年齢などに依存するが、1日当たり1mg~1,000mgの範囲内であってもよく、一日当たり10mg~500mgの範囲内であってもよい。
【0019】
本発明の医薬は、動体視力向上用医薬として有用である。本発明の医薬は、動体視力のなかでも動体速度識別能が向上し、さらに動体を追う目の速さ(反応の強さ)、最も識別しやすい動体の速度(最適速度)が向上することが、本発明者らにより確認されている。
【実施例
【0020】
以下、実施例により本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0021】
〔実施例1:抹茶、煎茶が視覚機能に与える影響〕
1.材料および方法
(1)実験動物
C57/BL6Jマウス(2か月齢、雄、体重20~30g)を使用した。マウスは室温20~26℃、湿度30~70%、12時間サイクルの暗明で維持された動物室で飼育した。通常の飼料には、マウス飼育繁殖用飼料ラボMRストック(日本農業工業株式会社)を与え、抹茶、煎茶を含んだ飼料にはラボMRストック(日本農業工業株式会社)を与えた。抹茶と煎茶は「ネスレ 抹茶と健康研究会」から提供を受けた。飼料および水は自由摂取とした。実験は大阪大学動物実験実施規程に沿って行った。
【0022】
(2)実験群
コントロール群(n=5):通常の飼料を1か月間与えた。
抹茶群(n=5):抹茶を2%含む飼料を1か月間与えた。
煎茶群(n=5):煎茶を2%含む飼料を1か月間与えた。
抹茶を含む飼料および抹茶を含む飼料を1か月間与えた後に視運動性応答を測定した。
【0023】
(3)視運動性応答測定
視覚刺激はMATLAB/Psychtoolbox(Brainard DH. The Psychophysics Toolbox. Spatial Vision. 1997; 10: 433-36.)により作成し、マウスの周り三面に設置したモニタに呈示した。視覚刺激は正弦波縞を用いた。正弦波縞刺激のパラメータを空間周波数と時間周波数を変えていき、時空間特性を調べた。空間周波数(SF:Spatial Frequency)は視覚刺激の刺激が動く時の縞の細かさ、時間周波数(TF:Temporal Frequency)は縞が動く速さである。空間周波数はSF=0.0313、0.0625、0.125、0.25、0.5 cycle/degreeの5種類、時間周波数はTF=0.1875、0.375、0.75、1.5、3、6、12、24 Hzの8種類で変化させた(図1参照)。
【0024】
各試行の最初に静止した縞刺激パターンがモニタに呈示された。静止パターンが333 ミリ秒間呈示された後、そのパターンが左方向あるいは右方向のいずれかに30秒間動いた。パターンが動いた後に、灰色の一様な画面に変り、試行が終了した。2秒後に次の試行が開始された。各試行刺激条件は62種類(31種類×2方向)の刺激条件の中からランダムに選ばれた(図1参照)。
【0025】
動く視覚刺激を呈示している間のマウスの右眼の眼球運動を計測した。マウスにはケタミン麻酔のもと、ヘッドホルダーを頭蓋骨に歯科用セメントで接着した。実験中、マウスの動きが最小限になるように、ヘッドホルダーをステンレス棒にネジで止めることにより頭部を固定し、胴体も小型ケースで固定した。赤外線ライトをマウスの右眼に照らし、マウスの体軸から60 degの位置にホットミラーを設置した(図2参照)。ホットミラーで反射したマウスの右眼の像を、赤外線を感知するカメラ(CCDカメラ)で5ミリ秒ごと記録した(サンプリングレート: 200Hz)。ホットミラーは赤外線を反射するが、可視光は通すので、マウスはホットミラーの後ろにあるモニタ上の視覚刺激をみることができる。
【0026】
眼の位置のデータは、マウスの眼の画像をソフトウェア(GetEye)で解析することで求めた。時々刻々のマウスの眼の画像から、瞳孔の重心の位置を計算する。その瞳孔重心位置をもとに眼の位置(視線の向き)を計算した。眼球位置のキャリブレーションは次のように行った。マウスの眼球のモデル(Remtulla S, Hallett PE. A schematic eye for the mouse, and comparisons with the rat. Vision Res 1985; 25: 21-31.)を実験中のマウスの眼球と同じ位置に置き、左右それぞれの方向に2 degずつ10 degまで回転したときの瞳孔重心の画像上の位置を記録した。このデータに基づいて、瞳孔重心の画像上の位置とマウスの眼の位置(視線の向き)の対応関係を求め、マウスの眼の位置を算出した。その後、眼の位置のデータを微分して眼球速度を計算した。試行ごとに刺激開始後30秒間の眼球速度の平均を測り、これを誘発された眼球運動反応の大きさとした。データ解析は、MATLAB(MathWorks,MA)を用いて行った。
【0027】
2.結果
図3に、各群の視運動性応答の平均速度の大きさをガウス関数でフィットしたものを示した。(A)はコントロール群、(B)は抹茶群、(C)は煎茶群である。縦軸は時間周波数、横軸は空間周波数に示す。各マウスの最適時空間周波数のプロットを右上(D)に示した。全ての実験群で空間周波数、時間周波数が低すぎても高すぎても反応は弱かった。コントロール群に比べ、抹茶群、煎茶群のマウスは最適時間周波数が高いことがわかった。それぞれ5匹のデータから最も良くフィットするガウス関数を求めた結果、コントロール群では、空間周波数0.157±0.03[cycle/deg]、時間周波数1.03±0.15 [Hz]のとき、最も大きい眼球運動反応が観測された。抹茶群では、空間周波数0.161±0.01 [cycle/deg]、時間周波数1.40±0.35 [Hz] が最適周波数であった。煎茶群では、空間周波数0.147±0.01 [cycle/deg]、時間周波数1.40±0.24[Hz]が最適周波数であった。この結果から、各群において、視運動性応答を誘発するのに最適な時空間周波数があることが示唆された。
【0028】
図4に、各群の(A)最適空間周波数[cycle/deg]、(B)最適時間周波数[Hz]、(C)反応の強さ[deg/s](1秒間にどのくらい動くのか)、(D)最適速度 [deg/s]、(E)ゲインの結果を示した。(A)は動体の細かさの識別能であり、(B)は動体の速さの識別能であり、(C)は動体を追う目の速さであり、(D)は最も識別しやすい動体の速度であり、(E)は目が動体を追随できる割合である。抹茶群、煎茶群では、コントロール群に比べて時間周波数が有意に高いことが示された。また、反応の強さ、最適速度、ゲインも有意に高く、早いスピードで動くものに対する反応が大きいことが明らかになった。
【0029】
〔実施例2:エピガロカテキンガレート(EGGC)が視覚機能に与える影響〕
1.材料および方法
5匹のC57/BL6Jマウス(2か月齢、雄、体重20~30g)を使用した。EGGC(ナカライテスク、製造元:長良サイエンス株式会社)を10mg/mlの濃度で生理食塩水に溶解し、EGCGを50mg/kgの用量で、4日間腹腔内投与した。EGGC投与前とEGGCを4日間投与した後に、実施例1と同じ方法で視運動性応答を測定した。
【0030】
2.結果
図5に、EGCG投与前とEGCG投与後の視運動性応答の平均速度の大きさをガウス関数でフィットしたものを示した。縦軸は時間周波数、横軸は空間周波数に示す。実施例1と同じように、EGCG投与前およびEGCG投与後のどちらも、空間周波数、時間周波数が低すぎても高すぎても反応は弱かった。各マウスの最適時空間周波数を右上に示した。EGCG投与前に比べ、EGCG投与後のマウスは最適時間周波数が高いことがわかった。それぞれ5匹のデータから最も良くフィットするガウス関数を求めた結果、EGCG投与前では、空間周波数0.16±0.01[cycle/deg]、時間周波数1.06±0.04 [Hz]のとき、最も大きい眼球運動反応が観測された。EGCG投与後では、空間周波数0.16±0.02 [cycle/deg]、時間周波数1.29±0.11 [Hz]が最適周波数であった。
【0031】
図6に、EGCG投与前後の(A)最適空間周波数[cycle/deg]、(B)最適時間周波数[Hz]、(C)反応の強さ[deg/s](1秒間にどのくらい動くのか)、(D)最適速度 [deg/s]、(E)ゲインの結果を示した。EGCG投与後では、EGCG投与前に比べて時間周波数が有意に高いことが示された。また、反応の強さ、最適速度も有意に高く、早いスピードで動くものに対する反応が大きいことが明らかになった。
【0032】
なお本発明は上述した各実施形態および実施例に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。また、本明細書中に記載された学術文献および特許文献の全てが、本明細書中において参考として援用される。
図1
図2
図3
図4
図5
図6