IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 国立大学法人 東京大学の特許一覧

<>
  • 特許-膜タンパク質活性測定法 図1
  • 特許-膜タンパク質活性測定法 図2
  • 特許-膜タンパク質活性測定法 図3
  • 特許-膜タンパク質活性測定法 図4
  • 特許-膜タンパク質活性測定法 図5
  • 特許-膜タンパク質活性測定法 図6
  • 特許-膜タンパク質活性測定法 図7
  • 特許-膜タンパク質活性測定法 図8
  • 特許-膜タンパク質活性測定法 図9
  • 特許-膜タンパク質活性測定法 図10
  • 特許-膜タンパク質活性測定法 図11
  • 特許-膜タンパク質活性測定法 図12
  • 特許-膜タンパク質活性測定法 図13
  • 特許-膜タンパク質活性測定法 図14
  • 特許-膜タンパク質活性測定法 図15
  • 特許-膜タンパク質活性測定法 図16
  • 特許-膜タンパク質活性測定法 図17
  • 特許-膜タンパク質活性測定法 図18
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-16
(45)【発行日】2023-10-24
(54)【発明の名称】膜タンパク質活性測定法
(51)【国際特許分類】
   C12N 5/10 20060101AFI20231017BHJP
   C12N 1/15 20060101ALI20231017BHJP
   C12N 1/19 20060101ALI20231017BHJP
   C12N 1/21 20060101ALI20231017BHJP
   C12N 15/62 20060101ALI20231017BHJP
   C12N 15/57 20060101ALI20231017BHJP
   C12N 15/63 20060101ALI20231017BHJP
   C12Q 1/6897 20180101ALI20231017BHJP
   C12Q 1/02 20060101ALI20231017BHJP
   C12Q 1/66 20060101ALI20231017BHJP
   C07K 19/00 20060101ALI20231017BHJP
   C07K 14/46 20060101ALI20231017BHJP
   C07K 14/705 20060101ALI20231017BHJP
   C12N 9/48 20060101ALI20231017BHJP
   G01N 33/50 20060101ALI20231017BHJP
   G01N 33/68 20060101ALI20231017BHJP
【FI】
C12N5/10
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N15/62 Z
C12N15/57
C12N15/63 Z ZNA
C12Q1/6897 Z
C12Q1/02
C12Q1/66
C07K19/00
C07K14/46
C07K14/705
C12N9/48
G01N33/50 P
G01N33/68
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2019565957
(86)(22)【出願日】2019-07-26
(86)【国際出願番号】 JP2019029424
(87)【国際公開番号】W WO2020026979
(87)【国際公開日】2020-02-06
【審査請求日】2022-01-31
(31)【優先権主張番号】P 2018144171
(32)【優先日】2018-07-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100120134
【弁理士】
【氏名又は名称】大森 規雄
(74)【代理人】
【識別番号】100104282
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 康仁
(72)【発明者】
【氏名】池田 祐一
(72)【発明者】
【氏名】熊谷 英敏
【審査官】田中 晴絵
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第01/055726(WO,A1)
【文献】米国特許第06555325(US,B1)
【文献】国際公開第2015/128894(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00-15/90
C12Q 1/00-1/70
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
膜タンパク質を発現する細胞であって、
該膜タンパク質の活性化により発現が誘導される第1の遺伝子の転写調節領域に作動可能に連結された細胞膜アンカー型転写因子であってその細胞膜アンカー部分と転写因子部分との間にプロテアーゼによって切断されるリンカーを含む細胞膜アンカー型転写因子をコードする第1のヌクレオチド配列と、
該膜タンパク質の活性化により発現が誘導される第2の遺伝子の転写調節領域に作動可能に連結された、前記リンカーを切断するプロテアーゼをコードする第2のヌクレオチド配列と、
前記転写因子の作用により作動可能に連結された標識をコードするヌクレオチド配列と
を含む、細胞。
【請求項2】
前記膜タンパク質が、Gタンパク質共役型受容体(GPCR)、酵素連結型受容体、イオンチャネル連結型受容体、またはチャネルである、請求項1に記載の細胞。
【請求項3】
前記膜タンパク質が、Gタンパク質共役型受容体(GPCR)である、請求項2に記載の細胞。
【請求項4】
Gα12/13に属する第1のGαサブユニットのアミノ酸配列において、C末端のアミノ酸配列が該第1のGαサブユニットとは異なるGαサブユニットのアミノ酸配列に置き換えられているアミノ酸配列を有する、キメラGタンパク質αサブユニットをさらに含む、請求項3に記載の細胞。
【請求項5】
前記標識がルシフェラーゼである、請求項1~4のいずれか1項に記載の細胞。
【請求項6】
前記細胞がHeLa細胞又はHEK293T細胞である、請求項1~5のいずれか1項に記載の細胞。
【請求項7】
前記遺伝子は、ARC、CCL20、CTGF、DUSP5、EGR1、EGR2、EGR3、FOSB、NR4A1、NR4A3、CYR61およびFOSからなる群から選択される、請求項1~6のいずれか1項に記載の細胞。
【請求項8】
前記細胞がHeLa細胞又はHEK293T細胞であり、
前記膜タンパク質が、Gタンパク質共役型受容体(GPCR)、酵素連結型受容体、イオンチャネル連結型受容体、またはチャネルであり、
前記細胞がHeLa細胞のときは、前記第1の遺伝子がNR4A1、及び前記第2の遺伝子がCTGFであり、前記細胞がHEK293T細胞のときは、前記第1の遺伝子がFOS、及び前記第2の遺伝子がFOSBである、請求項7に記載の細胞。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか1項に記載の細胞を含む、被験化合物の膜タンパク質への作用を解析するためのキット。
【請求項10】
請求項1~8のいずれか1項に記載の細胞、または請求項9に記載のキットを用いることを特徴とする、被験化合物の膜タンパク質への作用の解析方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞内のシグナル伝達に影響を与える物質の探索またはスクリーニングに関する。本発明は、一部の態様において、物質による受容体の活性化を検出する方法、ならびに該方法において用いられる核酸、系、細胞、タンパク質、および組成物等に関する。
【背景技術】
【0002】
現在までに、多数の化合物が、製品(例えば、医薬品)として上市されているが、これらの大多数は生体内の何らかの分子(例えば、受容体、チャネル、トランスポーターまたは酵素など)を標的として作用する。例えば、医薬品の開発において、所与の標的分子に対して作用することが見出された化合物は、創薬シーズとして研究が進められる。医薬品開発における研究は莫大なコストを要するが、他方で、シーズが医薬品として用いられる割合は3万分の1とも言われ、非常に低い割合である。
【0003】
開発の失敗においては、化合物が意図された分子以外の分子に作用してしまうことによる予定外の効果が原因となる場合があり、潜在的な開発リスクのある化合物を早い段階で除外することは経済的に意義が大きい。そのためには、開発予定化合物の標的外分子に対する作用を網羅的に検証することが必要である。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明は、タンパク質(例えば、イオンチャネル、Gタンパク質共役型受容体(GPCR)、酵素連結型受容体、イオンチャネル連結型受容体などの膜タンパク質)の種々の異なる種類に対する相互作用因子を網羅的に測定することができる網羅的なアッセイを提供する。
【0005】
より詳細に述べると、本発明では、このようなタンパク質の活性化(例えば、リガンド、イオンによる刺激による)によって発現が変化する遺伝子の転写調節領域における変化を複数の因子を介在させて統合することによって、当該タンパク質の活性化を検出する系が提供される。それぞれの転写調節領域が有する「リガンド刺激前後での転写活性の刺激応答比」が相乗的に統合され、高感度なレポーターアッセイ系が構築され得る。
【0006】
ある局面において、本発明は、シグナル伝達を担うタンパク質の活性化により発現が誘導される第1~第Nの遺伝子の転写調節領域に作動可能に連結された第1~第Nの因子をコードする第1~第Nのヌクレオチド配列を含み、ここで、Nは2以上の整数である、遺伝子コンストラクトを提供する。1つの実施形態では、この遺伝子コンストラクトは、上記第1~第Nの因子の少なくとも1つによって発現が惹起されるように構成された標識をコードするヌクレオチド配列を含む遺伝子コンストラクトと組み合わせられ得る。それぞれの因子は、当該因子とは異なる上記第1~第Nの因子のうちの少なくとも1つの因子の活性を向上させるものであってよく、例えば、それぞれの因子は、他の因子の発現量を増加させるか、または他の因子によって触媒される反応の基質であるか、もしくは当該基質を生成する反応を触媒するものであってもよい。
【0007】
1つの実施形態では、因子のうちの1つとして、細胞膜アンカー型転写因子を用いることができる。加えて、因子のうちの1つとして、プロテアーゼを用いることができる。プロテアーゼは、細胞膜アンカー型転写因子を切断するように構成されてよく、これにより、転写因子が膜から分離して核内へと移動することを可能にする。さらに、上記転写因子によって発現が惹起される標識を用いることができる。標識は、当技術分野で用いられる標識を制限なく用いることができ、一例としては、ルシフェラーゼが挙げられる。これらのコンストラクトは、キットの形で提供されてもよい。
【0008】
別の局面において、本発明は、本明細書において記載されるコンストラクトを含む細胞を提供する。当該細胞は、被験化合物とシグナル伝達を担うタンパク質との相互作用による細胞内へのシグナル伝達の調査に用いることができる。このような細胞において、シグナル伝達を担うタンパク質を過剰発現させてよい。使用される細胞としては必要に応じて様々な種類の細胞を用いることができる。目的の膜タンパク質は外因性に遺伝子導入するので、原理的にはいかなる細胞種であっても使用可能である。
【0009】
本発明の細胞は、それぞれ異なるシグナル伝達を担うタンパク質を発現する複数の細胞を含むキット中で提供されてもよい。このようなキットは、被験化合物の複数の異なるシグナル伝達を担うタンパク質との相互作用を網羅的に解析するために有用である。
【0010】
一部の実施形態では、シグナル伝達を担うタンパク質として、膜タンパク質、例えば、受容体またはチャネルなどを用いることができる。好ましくは、シグナル伝達を担うタンパク質は、GPCRである。GPCRは、低分子物質を含む多彩なリガンドを認識することが特徴であり、現行医薬品の標的分子の約4割がGPCRとも言われている。化合物とGPCRとの相互作用、ならびにGPCRからのGタンパク質を介したシグナル伝達を調べることは化合物の応用において非常に重要である。
【0011】
別の局面において、本発明はまた、キメラGタンパク質、それをコードする核酸、それを発現する細胞、およびそれを用いる方法も提供する。本明細書において、キメラとなっているGタンパク質αサブユニット、およびそれを含むキメラGタンパク質が提供される。Gタンパク質の受容体への配向性はGαサブユニットのC末端のアミノ酸配列で決定されるため、キメラGタンパク質を用いることによって、あるGタンパク質と共役するGPCRの活性化を、異なるGタンパク質が活性化されたときに生じる細胞内シグナルを用いて検出することが可能になる。本発明では、あるG12/13のαサブユニットにおいて、C末端のアミノ酸配列が、異なるGタンパク質αサブユニットのアミノ酸配列に置き換えられているキメラGタンパク質αサブユニットが提供される。
【0012】
本発明で提供されるキメラGタンパク質は、本明細書に記載される被験化合物とシグナル伝達を担うタンパク質との相互作用を調査するための方法において使用することができる。本明細書に記載されるコンストラクトと、キメラGタンパク質(またはそれをコードするコンストラクト)とを組み合わせて用いることができる。例えば、上記コンストラクトを含む細胞において、キメラGタンパク質をさらに発現させることができ、G12/13以外のGタンパク質(例えば、Gs)と共役するGPCRからのシグナルを、G12/13からのシグナルと同じ検出系で検出することができる。
【0013】
別の局面において、本明細書において、ある細胞において、シグナル伝達を担うタンパク質の活性化により発現が誘導される遺伝子を同定する方法が開示される。当該方法は、シグナル伝達を担うタンパク質と被験化合物との相互作用を調査するためのものであり得る。この方法は、タンパク質を発現する細胞を、タンパク質の活性化因子と接触させた場合の細胞における遺伝子発現レベルを得る工程と、細胞を活性化因子と接触させなかった場合の細胞における遺伝子発現レベルを得る工程と、活性化因子と接触させなかった場合と比較して活性化因子と接触させた場合に発現が増加する遺伝子を候補遺伝子として選択する工程とを含んでよい。
【0014】
1つの実施形態において、発現が誘導される遺伝子の同定のために、タンパク質の発現の有無および活性化因子の有無による4群間の比較を行うことができ、タンパク質が発現している細胞を活性化因子と接触させた場合に発現が増加する遺伝子を候補遺伝子として選択することができる。
【0015】
例えば、本発明では、以下の項目において規定される発明が提供される:
(項目1) シグナル伝達を担うタンパク質への被験化合物の作用を調査するためのコンストラクトまたはコンストラクトの組合せであって、該コンストラクトまたはコンストラクトの組合せは、
該タンパク質の活性化により発現が誘導される第1~第Nの遺伝子の転写調節領域に作動可能に連結されたそれぞれ第1~第Nの因子をコードする第1~第Nのヌクレオチド配列を含み、ここで、Nは2以上の整数である、コンストラクトまたはコンストラクトの組合せ。
(項目2) 前記項目に記載のコンストラクトまたはコンストラクトの組合せと、
前記第1~第Nの因子の少なくとも1つによって発現が惹起されるように構成された標識をコードするヌクレオチド配列を含むコンストラクトと
を含む、コンストラクトまたはコンストラクトの組合せ。
(項目3) シグナル伝達を担うタンパク質への被験化合物の作用を調査するためのコンストラクトの組合せであって、
(1)第1の遺伝子の転写調節領域を酵素反応の基質(S)をコードするヌクレオチド配列に連結させた第1のコンストラクトと;
(2)第2の遺伝子の転写調節領域を酵素反応の酵素(E1)をコードするヌクレオチド配列に連結させたコンストラクトであって、ここで、SとE1との酵素反応により生産物P1が生成される、第2のコンストラクトと;
Nが3以上である場合に、3~Nの自然数であるnのそれぞれについて、
(n)第nの遺伝子の転写調節領域をP(n-2)を基質として生産物(P(n-1))を生成する酵素(E(n-1))をコードする遺伝子に連結させた第nのコンストラクトと;
(N+1)酵素反応の生産物P(N-1)によりレポーター遺伝子が活性化するように構成されたレポーター遺伝子コンストラクトと
を含み、第1~第NのN個の遺伝子のそれぞれは、該被験化合物による該タンパク質の刺激により発現が誘導され、ここで、Nは2以上の自然数であり、nは3~Nまでの自然数である、コンストラクトの組合せ。
(項目4) キメラGタンパク質αサブユニットであって、Gα12/13に属する第1のGαサブユニットのアミノ酸配列において、C末端のアミノ酸配列が該第1のGαサブユニットとは異なるGαサブユニットのアミノ酸配列に置き換えられているアミノ酸配列を有する、キメラGタンパク質αサブユニットをコードするコンストラクトをさらに含む、前記項目のいずれかに記載のコンストラクトまたはコンストラクトの組合せ。
(項目5) 前記項目のいずれかに記載のコンストラクトまたはコンストラクトの組合せを含む、シグナル伝達を担うタンパク質への被験化合物の作用を調査するためのキット。
(項目6)
前記コンストラクトを細胞に導入するための薬剤をさらに含む、前記項目のいずれかに記載のキット。
(項目7) 前記タンパク質の活性化により発現が誘導される第1~第Nの遺伝子を特定することを含む、前記項目のいずれかに記載のコンストラクト、コンストラクトの組合せまたはキットの製造方法。
(項目8) 前記項目のいずれかに記載のコンストラクトまたはコンストラクトの組合せを含む細胞。
(項目9) シグナル伝達を担うタンパク質を発現する細胞であって、
該タンパク質の活性化により発現が誘導される第1~第Nの遺伝子の転写調節領域に作動可能に連結されたそれぞれ第1~第Nの因子をコードする第1~第Nのヌクレオチド配列と、
該第1~第Nの因子の少なくとも1つによって発現が惹起されるように構成された標識をコードするヌクレオチド配列と
を含み、ここで、Nは2以上の整数である、細胞。
(項目10) シグナル伝達を担うタンパク質を発現する細胞であって、
(1)第1の遺伝子の転写調節領域を酵素反応の基質(S)をコードする遺伝子に連結させた第1のコンストラクトと;
(2)第2の遺伝子の転写調節領域を酵素反応の酵素(E1)をコードする遺伝子に連結させたコンストラクトであって、ここで、SとE1との酵素反応により生産物P1が生成される、第2のコンストラクトと;
Nが3以上である場合に、3~Nの自然数であるnのそれぞれについて、
(n)第nの遺伝子の転写調節領域をP(n-2)を基質として生産物(P(n-1))を生成する酵素(E(n-1))をコードする遺伝子に連結させた第nのコンストラクトと;
(N+1)酵素反応の生産物P(N-1)によりレポーター遺伝子が活性化するように構成されたレポーター遺伝子コンストラクトと
を含み、第1~第NのN個の遺伝子のそれぞれは、該タンパク質の活性化により発現が誘導され、ここで、Nは2以上の自然数であり、nは3~Nの自然数である、細胞。
(項目11) 膜タンパク質を発現する細胞であって、
該膜タンパク質の活性化により発現が誘導される第1の遺伝子の転写調節領域に作動可能に連結された第1の因子をコードする第1のヌクレオチド配列と、
該膜タンパク質の活性化により発現が誘導される第2の遺伝子の転写調節領域に作動可能に連結された第2の因子をコードする第2のヌクレオチド配列と、
該第1の因子によって発現が惹起されるように構成された標識をコードするヌクレオチド配列と
を含み、ここで、該第2の因子は、該第1の因子の標識の発現を惹起させる活性を惹起または促進するように構成されている、細胞。
(項目11-1) 前記第1の因子が、転写因子である、前記項目のいずれかに記載の細胞。
(項目11-2) 前記転写因子が、不活性化した状態で発現されるように構成されている、前記項目のいずれかに記載の細胞。
(項目11-3) 前記転写因子が、細胞膜アンカー型転写因子である、前記項目のいずれかに記載の細胞。
(項目11-4) 前記第2の因子が、前記転写因子を細胞膜から解離させる活性を有する、前記項目のいずれかに記載の細胞。
(項目11-5) 前記第2の因子が、プロテアーゼである、前記項目のいずれかに記載の細胞。
(項目11-6) 前記細胞膜アンカー型転写因子が、細胞膜アンカー部分と転写因子部分との間に、前記第2の因子によって切断される切断可能リンカーを含む、前記項目のいずれかに記載の細胞。
(項目11-7) 前記第2の因子が、細胞膜型因子である、前記項目のいずれかに記載の細胞。
(項目11-8) 前記膜タンパク質が、Gタンパク質共役受容体、酵素連結型受容体、イオンチャネル連結型受容体、チャネル、トランスポーターまたは細胞接着分子である、前記項目のいずれかに記載の細胞。
(項目12) 前記細胞は、HeLa細胞、HEK293細胞、CHO細胞、COS-1/7細胞、HL60細胞、K562細胞、Jurkat細胞、HepG2細胞、Saos-2細胞、F9細胞、C2C12細胞、PC12細胞、NIH/3T3細胞、U2OS細胞、Vero細胞、MDCK細胞、MEF細胞、U937細胞、C6細胞、Neuro2A細胞、SK-N-MC細胞、SK-N-SH細胞、HUVEC細胞、THP-1細胞、BW5147細胞、Ba/F3細胞、Y-1細胞、H295R細胞、MIN6細胞、NIT-1細胞およびMDA-MB435S細胞から選択される少なくとも1つを含む、前記項目のいずれかに記載の細胞。
(項目12A) 前記細胞がHeLa細胞又はHEK293T細胞である、前記項目のいずれかに記載の細胞。
(項目13) 前記遺伝子は、ARC、CCL20、CTGF、DUSP5、EGR1、EGR2、EGR3、FOSB、NR4A1、NR4A3、CYR61及びFOSからなる群から選択される、前記項目のいずれかに記載の細胞。
(項目13A) 前記第1の遺伝子が、NR4A1である、前記項目のいずれかに記載の細胞。
(項目13B) 前記第2の遺伝子が、CTGFである、前記項目のいずれかに記載の細胞。
(項目13C) 前記第1の遺伝子が、FOSである、前記項目のいずれかに記載の細胞。
(項目13D) 前記第2の遺伝子が、FOSBである、前記項目のいずれかに記載の細胞。
(項目14) 膜タンパク質を発現するHeLa細胞又はHEK293T細胞であって、
該膜タンパク質の活性化により発現が誘導される第1の遺伝子の転写調節領域に作動可能に連結された第1のヌクレオチド配列であって、細胞膜アンカー型転写因子をコードする、第1のヌクレオチド配列と、
該膜タンパク質の活性化により発現が誘導される第2の遺伝子の転写調節領域に作動可能に連結された第2のヌクレオチド配列であって、プロテアーゼをコードする、第2のヌクレオチド配列と、
該転写因子によって発現が惹起されるように構成されたルシフェラーゼをコードするヌクレオチド配列と
を含み、ここで、該膜タンパク質は、Gタンパク質共役型受容体(GPCR)、酵素連結型受容体、イオンチャネル連結型受容体、またはチャネルであり、該細胞膜アンカー型転写因子は、細胞膜アンカー部分と転写因子部分との間に、該プロテアーゼによって切断される切断可能リンカーを含み、該細胞がHeLa細胞のときは、該第1の遺伝子がNR4A1、及び該第2の遺伝子がCTGFであり、該細胞がHEK293T細胞のときは、該第1の遺伝子がFOS、及び該第2の遺伝子がFOSBである、細胞。
(項目15) キメラGタンパク質αサブユニットであって、Gα12/13に属する第1のGαサブユニットのアミノ酸配列において、C末端のアミノ酸配列が該第1のGαサブユニットとは異なるGαサブユニットのアミノ酸配列に置き換えられているアミノ酸配列を有する、キメラGタンパク質αサブユニットを含む、前記項目のいずれかに記載の細胞。
(項目16) それぞれ異なる膜タンパク質を発現する複数の細胞を含むキットであって、該複数の細胞の各々は、前記項目のいずれかに記載の細胞である、キット。
(項目17) 被験化合物の膜タンパク質への作用を網羅的に解析するための、前記項目のいずれかに記載のキット。
(項目18) 前記項目のいずれかに記載の細胞、または前記項目のいずれかに記載のキットを用いることを特徴とする、被験化合物の膜タンパク質への作用の解析方法。
(項目19) 前記項目のいずれかに記載の細胞の製造方法であって、
細胞に、前記膜タンパク質またはGPCRをトランスフェクトする工程と、
前記第1~第Nの遺伝子の遺伝子座に、各遺伝子の転写調節領域に作動可能に連結されるように前記第1~第Nのヌクレオチドを導入する工程と
を含む、方法。
(項目20) キメラGタンパク質αサブユニットであって、Gα12/13に属する第1のGαサブユニットのアミノ酸配列において、C末端のアミノ酸配列が、該第1のGαサブユニットとは異なるGαサブユニットのアミノ酸配列に置き換えられているアミノ酸配列を有する、キメラGタンパク質αサブユニット。
(項目21) 前記異なるGαは、Gαsである、前記項目に記載のキメラGタンパク質αサブユニット。
(項目22) 第1のGαサブユニットのアミノ酸配列において、C末端の約6アミノ酸が前記異なるGαサブユニットのアミノ酸配列に置き換えられているアミノ酸配列を有する、前記項目のいずれかに記載のキメラGタンパク質αサブユニット。
(項目23) 前記項目のいずれかに記載のキメラGタンパク質αサブユニットを含む、キメラGタンパク質。
(項目24) 前記項目のいずれかに記載のキメラGタンパク質と、該キメラGタンパク質と共役しているGタンパク質共役型受容体(GPCR)とを含む、複合体。
(項目25) 前記項目のいずれかに記載の複合体を含む、細胞。
(項目26) 前記項目のいずれかに記載のコンストラクトをさらに含む、前記項目のいずれかに記載の細胞。
(項目27) GPCRの機能分析に用いるための、前記項目のいずれかに記載の細胞を含む組成物。
(項目28) 細胞のGPCRの機能分析に用いるためのコンストラクトであって、該コンストラクトは、Gタンパク質サブユニットα12の少なくとも一部をコードするヌクレオチド配列と、置き換えられるGα12とは異なるGタンパク質αサブユニットの少なくとも一部をコードするヌクレオチド配列とを含み、Gα12のアミノ酸配列におけるC末端のアミノ酸配列が置き換えられるGα12とは異なるGタンパク質αサブユニットのアミノ酸配列に置き換えられているアミノ酸配列を有するキメラGタンパク質αサブユニットを発現するように構成されている、コンストラクト。
(項目29) シグナル伝達を担うタンパク質への被験化合物の作用を調査するために、ある細胞において、該タンパク質の活性化により発現が誘導される遺伝子を同定する方法であって、
該タンパク質を発現する該細胞を、該タンパク質の活性化因子と接触させた場合の該細胞における遺伝子発現レベルを得る工程と、
該細胞を該活性化因子と接触させなかった場合の該細胞における遺伝子発現レベルを得る工程と、
該活性化因子と接触させなかった場合と比較して該活性化因子と接触させた場合に発現が増加する遺伝子を候補遺伝子として選択する工程と
を含む、方法。
(項目30) ある細胞において、シグナル伝達を担うタンパク質の活性化により発現が誘導される遺伝子を同定する方法であって、
該タンパク質を発現する該細胞を、該タンパク質の活性化因子と接触させた場合の該細胞における遺伝子発現レベルを得る工程と、
該タンパク質を発現する該細胞を該活性化因子と接触させなかった場合の該細胞における遺伝子発現レベルを得る工程と、
該タンパク質を発現しない該細胞を、該活性化因子と接触させた場合の該細胞における遺伝子発現レベルを得る工程と、
該タンパク質を発現しない該細胞を、該活性化因子と接触させなかった場合の該細胞における遺伝子発現レベルを得る工程と、
該タンパク質を発現する該細胞を該タンパク質の活性化因子と接触させた場合に、他の場合と比較して発現が増加する遺伝子を候補遺伝子として選択する工程と
を含む、方法。
(項目31) 前記タンパク質は、Gタンパク質G12/13と特異的に共役するGPCRである、前記項目のいずれかに記載の方法。
(項目32) 前記細胞において、前記候補遺伝子の転写調節領域に作動可能に連結されるようにヌクレオチド配列を導入する工程をさらに含む、項目9~15のいずれか1項に記載の細胞を製造するための、前記項目のいずれかに記載の方法。
【発明の効果】
【0016】
本発明は、従来実現できていなかった、標的タンパク質の網羅的アッセイを可能にする。特に、標的タンパク質がGPCRである場合、「Gsに共役するGPCR」、「Gqに共役するGPCR」、「Giに共役するGPCR」、「G12/13に共役するGPCR」のいずれのタイプのGPCRにおいても、そのリガンド、アゴニストまたはアンタゴニストなどの調節因子を網羅的にアッセイすることが可能となった。本発明は、化合物のリガンド活性のスクリーニングにおいて、感度、S/N比、網羅性、および/またはコストについて既存の細胞ベースアッセイより優れるアッセイ系を提供することができる。特に、本発明は、GPCRについて、単一アッセイフォーマットで全GPCRをモニターすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1図1は、本発明のコンストラクトによるリガンド活性測定の機構を示す模式図である。細胞には、レポーター遺伝子(例えば、ルシフェラーゼ)と目的受容体の遺伝子が導入されている。膜アンカー型人工転写因子とプロテアーゼが受容体刺激によって発現誘導されるように構成されている。これは、膜アンカー型人工転写因子とプロテアーゼとを、受容体刺激により発現が誘導される遺伝子の転写調節領域に作動可能に連結したコンストラクトを外因性に細胞に導入することによって実現可能である。
図2図2は、転写調節領域下流に連結される因子として、細胞膜型転写因子とプロテアーゼを使用することで相乗的なシグナル増幅効果が得られることを示す概念実証実験の結果を示す図である。
図3図3は、異なる転写調節領域を有する複数のレポーターアッセイ構成遺伝子(NFAT-TMGVとSRF-TM3C)を外因性に一過性に動物細胞に導入することによって検出されたシグナルを示す。横軸はリガンド濃度を示し、縦軸は、各アッセイ系で出力される発光強度を示している。TMGV:膜アンカー型人工転写因子、TM3C:プロテアーゼ。
図4図4は、同一の転写調節領域を有する複数のレポーターアッセイ構成遺伝子(SRF-TMGVとSRF-TM3C)を外因性に一過性に動物細胞に導入することによって検出されたシグナルを示す。横軸はリガンド濃度を示し、縦軸は、各アッセイ系で出力される発光強度を示している。TMGV:膜アンカー型人工転写因子、TM3C:プロテアーゼ。
図5図5は、本発明のコンストラクトの構成の一例である。GPCRをリガンドで刺激した際に発現誘導のかかる遺伝子のリスト(HeLa細胞)より2つの異なる遺伝子座(NR4A1遺伝子座、CTGF遺伝子座)を選択し、2つのレポーターアッセイ系構成因子(細胞膜アンカー型人工転写因子、プロテアーゼ)をそれぞれの遺伝子座の3’UTRにノックインすることができる。
図6図6は、リガンド刺激により発現誘導のかかるNR4A1遺伝子及びCTGF遺伝子の3’UTRに、細胞膜アンカー型人工転写因子及びプロテアーゼをそれぞれノックインしたゲノム改変細胞におけるリガンド活性測定機構を示す。
図7図7は、リガンドによるG12/13と共役するGPCR(GPR55およびLPAR6)の活性化を、本発明のアッセイ系と、従来法とで検出した結果を示す図である。横軸はリガンド濃度を示し、縦軸は、各アッセイ系で出力される発光強度を示している。本発明のアッセイ系では、感度およびS/N比ともに圧倒的な改善(30倍以上)が示された。本発明により、G12/13と共役するGPCRの活性化をモニターできる鋭敏なアッセイ系が提供され得る。
図8図8は、発現誘導のかかる複数の遺伝子座を利用することにより、実際にシグナルの相乗的な増幅が生じることを示す図である。横軸はリガンド濃度を示し、縦軸は、各アッセイ系で出力される発光強度を示している。この結果は、図3に示される概念実証実験とも一致する。
図9図9は、本発明のアッセイ系によって、Gi/o系のGタンパク質と共役するGPCRの活性化と、Gq/11系のGタンパク質と共役するGPCRの活性化とがモニターできることを示す図である。横軸はリガンド濃度を示し、縦軸は、各アッセイ系で出力される発光強度を示している。従来は、Gi/oの活性化をモニターできる良いレポーター系がなかったが、本発明により、予想外にGi/oの活性化によるシグナルが検出された。
図10図10は、G12/sキメラGタンパク質を使用することで、本発明のアッセイ系によってGsと共役するGPCRの活性化も検出することができることを示す図である。黒丸は、従来Gsの活性化をモニターできると考えられていたcAMP response element(CRE)-レポーター系による結果を示しているが、β2アドレナリン受容体(Adrb2)およびアデノシン2A受容体(ADORA2A)について示されているように、CRE-レポーター系で全てのGsと共役するGPCRを評価できるわけではない。しかしながら、そのようなGsと共役するGPCRの活性化についても、本発明によって検出可能である。
図11図11は、本発明のアッセイ系によりhSSTR2の活性化を検出した結果を示す図である。左図はG12/iキメラタンパク質を用いていない場合の結果であり、右図では、キメラ存在下および非存在下での結果が示される。なお、左図と右図において、縦軸のスケールが約20倍程異なる。
図12図12は、本発明のアッセイ系によりhFlt3の活性化を検出した結果を示す図である。横軸はリガンド濃度を示し、縦軸は、各リガンド濃度で出力される発光強度を示している。
図13図13は、本発明のアッセイ系によりヒトEGF受容体の活性化を検出した結果を示す図である。横軸はリガンド濃度を示し、縦軸は、各リガンド濃度で出力される発光強度を示している。尚、本アッセイにおいては、細胞に内因性に発現しているヒトEGF受容体を利用している。
図14図14は、本発明において提供される、ある細胞においてあるタンパク質の活性化により発現が誘導される遺伝子の同定方法の一例を示す模式図である。例えば、HeLa細胞において、細胞内でG12/13が特異的に活性化された場合に誘導される遺伝子発現応答を次世代シークエンサーを用いてゲノムワイドで解析することができる。この場合、リガンド添加無し(左)またはリガンド添加有り(右)と、受容体過剰発現無し(上)および受容体過剰発現有り(下)の4群における遺伝子発現を測定することができる。受容体過剰発現有りかつリガンド添加有りの群(右下)で発現が誘導される遺伝子を、使用する遺伝子の候補とすることができる。HeLa細胞でG12/13が特異的に活性化された場合に約10倍以上の発現誘導がかかる候補遺伝子は、ゲノムワイド発現解析で(約22000遺伝子中)10遺伝子のみであった。
図15図15は、本発明のHEK293T細胞を使用して樹立したアッセイ系によって、G12/13と共役するGPCR(GPR55およびLPAR6)のリガンドによる活性化を検出した図である。横軸はリガンド濃度を示し、縦軸は、各アッセイ系で出力される発光強度を示している。
図16図16は、本発明のHEK293T細胞を使用して樹立したアッセイ系によって、Gs系のGタンパク質と共役するGPCR(Adrb2)のリガンドによる活性化と、Gq/11系のGタンパク質と共役するGPCR(HRH1)のリガンドによる活性化とを検出した図である。
図17図17は、本発明のHEK293T細胞を使用して樹立したアッセイ系においてGq/i1およびGq/i3キメラタンパク質を併用することで、Gi/o系のGタンパク質と共役するGPCR(OPRM1およびSSTR2)のリガンドによる活性化を検出した図である。
図18図18は、本発明のHEK293T細胞を使用して樹立したアッセイ系によって、受容体型チロシンキナーゼ(Flt3およびEGFR)のリガンドによる活性化を検出した図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明を最良の形態を示しながら説明する。本明細書の全体にわたり、単数形の表現は、特に言及しない限り、其の複数形の概念をも含むことが理解されるべきである。従って、単数形の冠詞(例えば、英語の場合は「a」、「an」、「the」など)は、特に言及しない限り、其の複数形の概念をも含むことが理解されるべきである。また、本明細書において使用される用語は、特に言及しない限り、当該分野で通常用いられる意味で用いられることが理解されるべきである。従って、他に定義されない限り、本明細書中で使用される全ての専門用語及び科学技術用語は、本発明の属する分野の当業者によって一般的に理解されるのと同じ意味を有する。矛盾する場合、本明細書(定義を含めて)が優先する。
【0019】
(1)概要
細胞膜に発現する膜タンパク質にリガンドが結合した後に、同じ時相において生じる複数の細胞内シグナル伝達経路の活性化、すなわちある膜タンパク質の活性化とその下流においてほぼ同時期に生じる複数の異なる遺伝子発現について考える。
【0020】
一般には、膜タンパク質にリガンドが結合することによって細胞内の遺伝子転写調節領域が活性化されて、その下流の遺伝子が発現し、それら遺伝子にコードされているタンパク質が生成される。このようにして発現誘導される遺伝子の中から、特にほぼ同時期に発現誘導される独立した複数の遺伝子(遺伝子1、遺伝子2、遺伝子3、さらに遺伝子Nといい、それら遺伝子の転写調節領域をそれぞれ転写調節領域1、転写調節領域2、転写調節領域3、さらに転写調節領域Nという)の存在に着目する。
【0021】
本発明においては、転写調節領域1の下流に、遺伝子1に代えて第1の目的遺伝子(第1の因子をコードする遺伝子)を連結したコンストラクト1を構築するとともに、転写調節領域2の下流に、遺伝子2に代えて第2の目的遺伝子(第2の因子をコードする遺伝子)を連結したコンストラクト2を構築し、これらのコンストラクトを細胞に導入する。
図1に示すように、タンパク質1を、プロテアーゼ切断領域を有する細胞膜アンカー型人工転写因子とし、タンパク質2をプロテアーゼとすると、リガンドが膜タンパク質(例えばGPCR)に結合することによりシグナル伝達が起こり、転写調節領域1が機能して細胞膜アンカー型人工転写因子が発現し、発現及び生成した当該転写因子は細胞膜に結合する。この段階では、この転写因子は細胞膜に結合したままなので不活性型である。
【0022】
次に、上記シグナル伝達により転写調節領域1の活性化と独立・並行しながら同時期に転写調節領域2が機能してタンパク質2(プロテアーゼ)が発現すると、プロテアーゼは、上記転写因子に連結されているプロテアーゼ切断領域に作用して転写因子を細胞膜から切り離す。細胞膜から切り離された転写因子は核内へ移行し活性型となる。
この活性型転写因子が結合する配列(人工転写因子結合配列)とレポーター遺伝子とを連結したコンストラクト(図1では「人工転写因子結合配列-ルシフェラーゼレポーター」)を作製して、これをコンストラクト1及びコンストラクト2とともに細胞に導入しておけば、上記の通り切り離された転写因子が人工転写因子結合配列に結合し、その下流のレポーター遺伝子が発現する。
【0023】
結局、リガンドの膜タンパク質への作用は、リガンドが膜タンパク質に結合することによって生じる複数のシグナル伝達経路の活性化度合いの積へと変換されるため、レポーター遺伝子が存在するコンストラクトにおけるレポーター遺伝子の発現を、発光等により検出すれば、相乗的に増幅された出力を得ることができる。従って、リガンドは被験化合物に相当するため、試験する化合物と膜タンパク質の組み合わせの目的に応じて、コンストラクトを適宜構築し、細胞に導入することにより、レポーター遺伝子の発現を指標として、当該被験化合物が膜タンパク質にどのように作用しているかを高い感度で調べることができる。
【0024】
本発明において、シグナル伝達経路に関与する遺伝子は、上記遺伝子1、遺伝子2の発現に限らず、第3番目、・・・、第N番目の遺伝子まで関与し得る。そこで本発明においては、被験化合物が上記の系にどのような影響を与えるかを調べるために、膜タンパク質の活性化により同じ時相で発現が誘導されるN個の遺伝子(第1~第Nの遺伝子)の転写調節領域に、第1~第Nの因子をコードするヌクレオチド配列(それぞれ第1~第Nのヌクレオチド配列)を、それぞれ作動可能に連結したコンストラクト、又はこれらの組合せを提供する。
【0025】
(2.定義)
以下に本明細書において特に使用される用語の定義及び/又は基本的技術内容を適宜説明する。
本明細書において、「シグナル伝達を担う」分子とは、その分子における変化が、他の分子における変化をもたらす任意の分子を指す。このような分子には、Gタンパク質共役型受容体などの受容体、イオンチャネル等を挙げることができるがこれらに限定されない。
【0026】
本明細書において、ある事象によってある遺伝子の「発現が誘導される」とは、当該事象が生じた場合の当該遺伝子の発現量と、当該事象が生じていない場合の遺伝子の発現量との間に、差異、好ましくは有意差が生じることをいう。
【0027】
本明細書において、「コンストラクト」とは、一定の構造を有する1つまたは複数の核酸を指し、好ましくは、天然に存在しないものを指す。明示的に特定されない場合、「コンストラクト」は、1つまたは複数のコンストラクトを指す。コンストラクトは、それ自体が単離されているものに限定されず、より長い核酸(例えば、ゲノムDNA)中に外来配列が挿入されている場合、当該外来配列を含んでいる天然に存在しない構造を有する部分を指す場合もある。
【0028】
本明細書において、「キメラ」とは、第1のタンパク質の全部または一部と、当該第1のタンパク質とは異なる第2のタンパク質の全部または一部とを含むポリペプチドを指す。本明細書におけるキメラとしては、第1のタンパク質の一部が、第2のタンパク質の対応する部分に置き換えられているものが挙げられる。
【0029】
本明細書において、用語「活性」は、当該分野で最も広い意味での分子の機能を指す。活性は、限定を意図するものではないが、概して、分子の生物学的機能、生化学的機能、物理的機能または化学的機能を含む。活性は、例えば、酵素活性、他の分子と相互作用する能力、および他の分子の機能を活性化するか、促進するか、安定化するか、阻害するか、抑制するか、または不安定化する能力、安定性、特定の細胞内位置に局在する能力を含む。
【0030】
本明細書において、「活性化」とは、概して、生体や生体物質がその機能を発揮するようになることをいい、タンパク質の活性化とは、そのタンパク質がなんらかの刺激または自然に(spontaneous)活性レベルを上昇させて、何らかの機能を発揮することをいう。活性化の結果、例えば、シグナル伝達が生じるなど種々の生体現象が生じる。
【0031】
本明細書において遺伝子、ポリヌクレオチド、ポリペプチドなどの「発現」とは、その遺伝子などがインビボで一定の作用を受けて、別の形態になることをいう。好ましくは、遺伝子、ポリヌクレオチドなどが、転写および翻訳されて、ポリペプチドの形態になることをいうが、転写されてmRNAが作製されることもまた発現の一態様である。したがって、本明細書において「発現産物」とは、このようなポリペプチドもしくはタンパク質、またはmRNAを含む。より好ましくは、そのようなポリペプチドの形態は、翻訳後プロセシングを受けたものであり得る。
【0032】
本明細書において「転写調節領域」としては、転写開始または転写効率を制御可能な配列であり、プロモーター、エンハンサー、応答配列、サイレンサーなどが挙げられる。
【0033】
本明細書において「標識」とは、目的となる分子または物質を他から識別するための存在(例えば、物質、エネルギー、電磁波あるいはある種の光信号などを発する物質など)をいう。本発明で用いられる標識としては、ルシフェラーゼ、緑色蛍光タンパク質(GFP)などの蛍光タンパク質、ベータガラクトシダーゼ、ベータラクタマーゼ、アルカリフォスファターゼ、ベータグルクロニダーゼなどを挙げることができるがこれらに限定されない。本発明では、このような標識を利用して、使用される検出手段に検出され得るように目的とする対象を改変することができる。そのような改変は、当該分野において公知であり、当業者は標識におよび目的とする対象に応じて適宜そのような方法を実施することができる。
【0034】
本明細書において「酵素」とは、広義に解され、任意の反応を触媒するタンパク質の総称であり、それ自体は変化または分解せずに生体内の化学変化を媒介または促進する。酵素と反応する物質を「基質」といい、本明細書では「基質」は最広義に解される。それぞれの酵素には、どのような物質を基質とし、それを何に変化させるかが決まっており、これを酵素の特異性という。本発明では、このような特異性を利用することができる。
【0035】
本明細書において「導入」とは、核酸などを細胞に入れることをいい、トランスフォーメーション、トランスフェクション、コンジュゲーション、プロトプラスト融合、エレクトロポレーション、粒子銃技術、リン酸カルシウム沈殿、アグロバクテリウム法、直接マイクロインジェクション等により実現することができる。
【0036】
本明細書において「転写因子」とは、転写を制御するために目的のゲノム遺伝子座または遺伝子と関連する特異的DNA配列と結合するタンパク質またはポリペプチドを指す。転写因子は、目的の遺伝子へのRNAポリメラーゼのリクルートを促進(アクチベーターとして)または遮断(リプレッサーとして)し得る。転写因子は、単独で、またはより大きいンパク質複合体の一部として、その機能を実行できる。転写因子によって使用される遺伝子調節の機構には、a)RNAポリメラーゼ結合の安定化または不安定化、b)ヒストンタンパク質のアセチル化または脱アセチル化、およびc)コアクチベーターまたはコリプレッサータンパク質のリクルートが含まれるがこれらに限定されない。さらに、転写因子は、基底転写、転写の増強、発生、細胞間シグナル伝達に対する応答、環境合図に対する応答、細胞周期制御および病理発生が含まれるがこれらに限定されない生物学的活性において役割を果たす。転写因子に関する情報に関して、その全体が参考として本明細書に援用されるLatchmanおよびDS (1997) Int. J. Biochem. Cell Biol. 29 (12): 1305~12;Lee TI、Young RA (2000) Annu. Rev. Genet. 34: 77~137ならびにMitchell PJ、Tjian R (1989) Science 245 (4916): 371~8に対して言及がなされる。細胞膜アンカー型転写因子は、細胞膜に局在する構造を付与した人工的な転写因子である。細胞膜アンカー型転写因子の取り得る構成の例としては、細胞膜タンパク質の細胞内ドメインに連結させる、パルミトイル化などの脂質修飾を介して細胞内側から細胞膜にアンカリングさせる、などが挙げられるが、これに限定されない。
【0037】
本明細書において、「細胞膜型」または「膜型」とは、細胞膜に局在化する任意の構造を含むか、またはかかる構造と連結されていることをいう。
【0038】
本明細書において「プロテアーゼ」とは、タンパク質分解酵素とも呼ばれ、タンパク質などのペプチド結合を加水分解する反応を触媒する酵素の総称である。
【0039】
本明細書において「膜タンパク質」とは、細胞膜の内部または外表面に存在するタンパク質をいう。膜タンパク質は、細胞膜に埋めこまれ,あるいはゆるく結合して存在する。
【0040】
本明細書において「遺伝子」とは、遺伝形質を規定する因子をいい、「遺伝子」は、「ポリヌクレオチド」、「オリゴヌクレオチド」および「核酸」をさすことがある。
【0041】
本明細書において「タンパク質」、「ポリペプチド」、「オリゴペプチド」および「ペプチド」は同じ意味で使用され、任意の長さのアミノ酸のポリマーをいう。このポリマーは、直鎖であっても分岐していてもよく、環状であってもよい。アミノ酸は、天然のものであっても非天然のものであってもよく、改変されたアミノ酸であってもよい。この用語はまた、複数のポリペプチド鎖の複合体へとアセンブルされたものを包含し得る。この用語はまた、天然または人工的に改変されたアミノ酸ポリマーも包含する。この定義にはまた、例えば、アミノ酸の1または2以上のアナログを含むポリペプチド(例えば、非天然アミノ酸などを含む)、ペプチド様化合物(例えば、ペプトイド)および当該分野において公知の他の改変が包含される。本発明の実施形態に係るポリペプチドが「特定のアミノ酸配列」を含むとき、そのアミノ酸配列中のいずれかのアミノ酸が化学修飾を受けていてもよい。また、そのアミノ酸配列中のいずれかのアミノ酸が塩、または溶媒和物を形成していてもよい。また、そのアミノ酸配列中のいずれかのアミノ酸がL型、またはD型であってもよい。それらのような場合でも、本発明の実施形態に係るタンパク質は、上記「特定のアミノ酸配列」を含むといえる。
【0042】
本明細書において「ポリヌクレオチド」、「オリゴヌクレオチド」および「核酸」は、本明細書において同じ意味で使用され、任意の長さのヌクレオチドのポリマーをいう。この用語はまた、「オリゴヌクレオチド誘導体」または「ポリヌクレオチド誘導体」を含む。「オリゴヌクレオチド誘導体」または「ポリヌクレオチド誘導体」とは、ヌクレオチドの誘導体を含むか、またはヌクレオチド間の結合が通常とは異なるオリゴヌクレオチドまたはポリヌクレオチドをいい、互換的に使用される。他にそうではないと示されなければ、特定の核酸配列はまた、明示的に示された配列と同様に、その保存的に改変された改変体(例えば、縮重コドン置換体)および相補配列を包含することが企図される。本明細書において「核酸」はまた、遺伝子、cDNA、mRNA、オリゴヌクレオチド、およびポリヌクレオチドと互換可能に使用される。本明細書において「ヌクレオチド」は、天然のものでも非天然のものでもよい。
【0043】
本明細書において遺伝子の「相同性」とは、2以上の遺伝子配列の、互いに対する同一性の程度をいい、一般に「相同性」を有するとは、同一性または類似性の程度が高いことをいう。本発明において用いられる任意のタンパク質、核酸や遺伝子は、具体的に言及される特定の配列の他その配列に対して相同性を有する配列を含むタンパク質、核酸や遺伝子であってもよく、例えば、本明細書に具体的に記載されるタンパク質をコードする核酸と相同性を有する核酸によってコードされてよい。2種類の遺伝子が相同性を有するか否かは、配列の直接の比較、または核酸の場合ストリンジェントな条件下でのハイブリダイゼーション法によって調べられ得る。2つの遺伝子配列を直接比較する場合、その遺伝子配列間でDNA配列が、代表的には少なくとも50%同一である場合、好ましくは少なくとも70%同一である場合、より好ましくは少なくとも80%、90%、95%、96%、97%、98%または99%同一である場合、それらの遺伝子は相同性を有する。
【0044】
本明細書において「機能的等価物」とは、対象となるもとの実体に対して、目的となる機能が同じであるが構造が異なる任意のものをいう。本発明において用いられる任意のタンパク質または核酸は、好ましくは、本明細書に具体的に記載されるタンパク質または核酸の機能的等価物であってよい。本発明の機能的等価物としては、アミノ酸配列において、1もしくは複数個のアミノ酸の挿入、置換もしくは欠失、またはその一方もしくは両末端への付加されたものを用いることができる。改変アミノ酸配列は、例えば1~30個、好ましくは1~20個、より好ましくは1~9個、さらに好ましくは1~5個、特に好ましくは1~2個のアミノ酸の挿入、置換、もしくは欠失、またはその一方もしくは両末端への付加がなされたものであることができる。1または複数個(好ましくは1もしくは数個または1、2、3、もしくは4個)の保存的置換を有するアミノ酸配列であってもよい。ここで「保存的置換」とは、タンパク質の機能を実質的に改変しないように、1または複数個のアミノ酸残基を、別の化学的に類似したアミノ酸残基で置換えることを意味する。このような置換を行うことができる機能的に類似のアミノ酸は、アミノ酸毎に当該分野において公知である。
【0045】
アミノ酸は、その一般に公知の3文字記号か、またはIUPAC-IUB Biochemical Nomenclature Commissionにより推奨される1文字記号のいずれかにより、本明細書中で言及され得る。ヌクレオチドも同様に、一般に認知された1文字コードにより言及され得る。本明細書では、アミノ酸配列および塩基配列の類似性、同一性および相同性の比較は、配列分析用ツールであるBLASTを用いてデフォルトパラメータを用いて算出される。同一性の検索は例えば、NCBIのBLAST2.2.28(2013.4.2発行)を用いて行うことができる。本明細書における同一性の値は通常は上記BLASTを用い、デフォルトの条件でアラインした際の値をいう。ただし、パラメータの変更により、より高い値が出る場合は、最も高い値を同一性の値とする。複数の領域で同一性が評価される場合はそのうちの最も高い値を同一性の値とする。類似性は、同一性に加え、類似のアミノ酸についても計算に入れた数値である。
【0046】
本発明の一実施形態において「数個」は、例えば、10、8、6、5、4、3、または2個であってもよく、それらいずれかの値以下であってもよい。1または数個のアミノ酸残基の欠失、付加、挿入、または他のアミノ酸による置換を受けたポリペプチドが、その生物学的活性を維持することは知られている(Mark et al., Proc Natl Acad Sci USA.1984 Sep;81(18): 5662-5666.、Zoller et al.,Nucleic Acids Res. 1982 Oct 25;10(20):6487-6500.、Wang et al., Science. 1984 Jun 29;224(4656):1431-1433.)。欠失等を導入した変異型タンパク質から、野生型と同様の活性のあるタンパク質を選択することは、FACS解析やELISA等の各種キャラクタリゼーションを行うことで可能である。
【0047】
本発明の一実施形態において「90%以上」は、例えば、90、95、96、97、98、99、または100%以上であってもよく、それらいずれか2つの値の範囲内であってもよい。上記「相同性」は、2つもしくは複数間のアミノ酸配列において相同なアミノ酸数の割合を、当該技術分野で公知の方法に従って算定してもよい。割合を算定する前には、比較するアミノ酸配列群のアミノ酸配列を整列させ、同一アミノ酸の割合を最大にするために必要である場合はアミノ酸配列の一部に間隙を導入する。整列のための方法、割合の算定方法、比較方法、およびそれらに関連するコンピュータプログラムは、当該技術分野で従来からよく知られている(例えば、BLAST、GENETYX等)。本明細書において「相同性」は、特に断りのない限りNCBIのBLASTによって測定された値で表すことができる。BLASTでアミノ酸配列を比較するときのアルゴリズムには、Blastpをデフォルト設定で使用できる。測定結果はPositivesまたはIdentitiesとして数値化される。
【0048】
本発明が、生体分子や物質(タンパク質、核酸など)に言及するとき、好ましくは、「精製された」ものであるか、「単離された」ものであり得る。本明細書において「精製された」物質または生物学的因子(例えば、核酸またはタンパク質など)とは、その物質または生物学的因子に天然に随伴する因子の少なくとも一部が除去されたものをいう。本明細書中で使用される用語「精製された」は、好ましくは少なくとも75重量%、より好ましくは少なくとも85重量%、よりさらに好ましくは少なくとも95重量%、そして最も好ましくは少なくとも98重量%の、同型の生物学的因子が存在することを意味する。本発明で用いられる物質または生物学的因子は、好ましくは「精製された」物質である。本明細書で使用される「単離された」物質または生物学的因子(例えば、核酸またはタンパク質など)とは、その物質または生物学的因子に天然に随伴する因子が実質的に除去されたものをいう。本明細書中で使用される用語「単離された」は、その目的に応じて変動するため、必ずしも純度で表示される必要はないが、必要な場合、好ましくは少なくとも75重量%、より好ましくは少なくとも85重量%、よりさらに好ましくは少なくとも95重量%、そして最も好ましくは少なくとも98重量%の、同型の生物学的因子が存在することを意味する。本発明で用いられる物質は、好ましくは「単離された」物質または生物学的因子である。
【0049】
本明細書において「フラグメント」とは、全長のポリペプチドまたはポリヌクレオチド(長さがn)に対して、1~n-1までの配列長さを有するポリペプチドまたはポリヌクレオチドをいう。本発明において、例えば、コンストラクトにおいて使用されるヌクレオチド配列は、別の因子のフラグメントであってもよい。あるいは、本発明において、キメラ分子が想定される場合、そのキメラ分子は、ある要素のフラグメントと別の要素のフラグメントの組合せであってもよい。フラグメントの長さは、その目的に応じて、適宜変更することができ、例えば、その長さの下限としては、ポリペプチドの場合、3、4、5、6、7、8、9、10、15、20、25、30、40、50およびそれ以上のアミノ酸が挙げられ、ここの具体的に列挙していない整数で表される長さ(例えば、11など)もまた、下限として適切であり得る。また、ポリヌクレオチドの場合、5、6、7、8、9、10、15、20、25、30、40、50、75、100およびそれ以上のヌクレオチドが挙げられ、ここの具体的に列挙していない整数で表される長さ(例えば、11など)もまた、下限として適切であり得る。
【0050】
本明細書において使用される「切断可能リンカー」は、プロテアーゼで切断される任意のリンカーであり、例えば、特定のアミノ酸配列を有することで特異的に切断されるものなども包含される。
【0051】
本明細書において、「約」とは、示される値の±10%の変動までが許容されることを指す。本明細書において「2つの値」の「範囲内」と明記した場合、その範囲には2つの値自体も含む。
【0052】
(3.シグナル伝達を担う分子)
本発明は、シグナル伝達を担う分子への化合物の作用を調査する手段を提供する。ここで、シグナル伝達を担う分子としては、当該分子の活性化によって下流にシグナルが伝達される分子であれば特段制限はされない。シグナル伝達を担う分子は、被験化合物が直接作用する分子(例えば、受容体そのもの)でもよく、また、被験化合物が作用した分子からのシグナル伝達によって活性化されて下流にシグナルを伝達する分子(例えば、受容体と共役しているタンパク質)でもよい。シグナル伝達を担う分子としては、下流で何らかの遺伝子の発現を誘導するものを用いることができる。シグナル伝達を担う分子としては、例えば、タンパク質、核酸、脂質、糖、またはこれらの複合体などが挙げられるが、好ましくは、シグナル伝達を担うタンパク質である。
【0053】
シグナル伝達を担う分子として、細胞外のリガンドによる刺激に応答して細胞内へとシグナルを伝達する膜タンパク質が挙げられる。膜タンパク質の例としては、受容体(GPCR、酵素連結型受容体、イオンチャネル連結型受容体など)、チャネル、トランスポーター、細胞接着分子が挙げられる。
【0054】
1つの実施形態では、シグナル伝達を担うタンパク質は、GPCR、またはGPCRと共役するGタンパク質である。GPCRは、ゲノム上に全部で約1000種類存在するとされており、そのうち、匂い受容体以外の受容体(生理活性物質を認識するもの)が約300種類あり、リガンド(受容体を活性化する物質)が未知な受容体(オーファン受容体)が約100種類ある。本発明の1つの実施形態では、GPCRは、匂い受容体ではないGPCRであり得る。
【0055】
GPCRは、それぞれ決まったGタンパク質と共役しており、GPCRの活性化がGタンパク質に伝えられることによって細胞内へのシグナル伝達が実現される。GPCRは特徴的な7回膜貫通型構造を有する受容体分子群であり、リガンドにより刺激された受容体はヘテロ三量体GTP結合タンパク質(Gタンパク質:α、β、γの3つのサブユニットから構成される)を介して細胞内へとシグナルを伝達する。Gタンパク質はαサブユニットの配列に基づき、Gs、Gi、GqおよびG12/13に大別され、GPCRはそれぞれ、「GsにカップルするGPCR」、「GqにカップルするGPCR」、「GiにカップルするGPCR」、「G12/13にカップルするGPCR」の4群に分類される。本明細書において、各群のGタンパク質は、単にGs、Gi、GqおよびG12/13と記載されることもある。加えて、マウスおよびラットとヒトのGPCRはアミノ酸レベルで相同性が高い(85%以上)が、しばしば人工リガンドによる活性化のされ方に大きな違いが観察されることがあり、リガンドのヒトGPCRへの作用を知りたい場合、ヒトGPCRを用いるのが好ましくあり得る。
【0056】
これらのGタンパク質は、それぞれ異なる様式で下流へとシグナルを伝達する。Gsのsは活性化(stimulation)に由来し、Gsは、膜酵素であるアデニル酸シクラーゼを活性化することにより後続するシグナル伝達カスケードを開始する。また、Gsは、ホスホリパーゼA2あるいはホスホリパーゼCなどを活性化して細胞内にシグナルを伝達する。活性化されたアデニル酸シクラーゼにより生成されたcAMPは、プロテインキナーゼAを活性化する。Giは、Gi/oとも称され、i/oは阻害(inhibitory)/その他(other)の頭文字を意味する。Giは、しばしばアデニル酸シクラーゼの活性を阻害するため、Gsに由来するシグナルを抑制する。加えて、Giは、βγサブユニットを介してホスファチジルイノシトール特異的ホスホリパーゼCβやホスホジエステラーゼを活性化するなど広範なシグナル伝達系に関与している。Gqは、ホスホリパーゼCβを活性化することによりシグナル伝達を行う。G12/13は、低分子量Gタンパク質であるRasやRhoを介したシグナル伝達系とクロストークする。
【0057】
GPCRは上市されている医薬品の約4割が標的としている受容体分子群とも言われ、化合物によるGPCRの活性化の観察には大きな意義がある。GPCR刺激によりGタンパク質が活性化すると細胞内のセカンドメッセンジャー量が変化するため、セカンドメッセンジャー量を測定することによりGPCRの活性化状態を評価する方法があるが、スクリーニング効率およびコストの点で問題がある。
【0058】
GPCRを含めた細胞膜受容体分子の活性化状態を評価する指標としては、評価したい受容体を動物細胞に過剰発現させ、その細胞をリガンドで刺激した際に惹起される様々な遺伝子発現の変化がしばしば利用される。リガンド刺激前後における遺伝子発現の変化量を定量する場合、その遺伝子により産生されるmRNAやタンパク質を直接測定するのは実験手技が煩雑で、多数の検体を取り扱うスクリーニングには不向きであるため、通常はそのかわりに外因性レポーター遺伝子プラスミドを用いたレポーターアッセイを施行する。
【0059】
レポーターアッセイは以下のようにして構築できる。
1)評価したい受容体を過剰発現させた細胞において、リガンド刺激前後でその発現量が有意に上昇する遺伝子群を同定する。
2)この遺伝子群から刺激応答比(リガンド刺激後の発現量/リガンド刺激前の発現量)の高い遺伝子をひとつ選択し、その遺伝子の転写調節領域を同定する。
3)同定された転写調節領域をクローニングし、その下流にレポーター遺伝子(例えば、ルシフェラーゼなど)を連結させた人工遺伝子(外因性レポーター遺伝子プラスミド)を作製する。
4)評価したい受容体を過剰発現させた細胞に、上記の人工遺伝子を外因性に遺伝子導入し、リガンド刺激前後の外因性レポーター遺伝子産物の活性を測定する。
【0060】
レポーターアッセイは、mRNAやタンパク質を実際に定量するのに比較して、圧倒的に簡便であるが、リガンド刺激前後で発現量が有意に上昇する遺伝子群が無い場合や、あっても刺激応答比が低い遺伝子群しか存在しない場合には、高感度のレポーターアッセイ系を構築するのは困難となる。
【0061】
そのため、GPCRの活性化状態(Gタンパク質の活性化状態)をモニターするにはレポーターアッセイで検出するのが最も簡便で効率的であるが、G12/13およびGi/oの活性化状態をモニターできる良いレポーター(発現変動遺伝子)が知られていなかった。レポーターアッセイで、G12/13の活性化またはGi/oの活性化をモニターするためにはレポーターアッセイにおける改善が必要だった。加えて、Gsの活性化は、例えば、CRE-レポーター系でモニターできるとされていたものの、一部のGsに共役するGPCRの活性化が、CRE-レポーター系で検出されなかったことが見出されており(図10を参照)、全てのGsに共役するGPCRをモニターできる系が必要であった。
【0062】
また、Gタンパク質は種類により下流へのシグナル伝達の様式が異なっており、上記のとおり統一したレポーターアッセイ系でモニターできないため、リガンドが未知のオーファンGPCRのリガンド探索が困難であった。
【0063】
本発明において、受容体のリガンド刺激後に発現が誘導される複数個の遺伝子群の転写調節領域を、酵素反応を介在させることにより機能的に連結し、それによって個々の転写調節領域が有する「リガンド刺激前後での転写活性の刺激応答比」を相乗的に統合した高感度なレポーターアッセイ系が提供される。本発明のアッセイ系を用いることにより、Gs、Gi、GqおよびG12/13の全ての種類のGタンパク質に共役する種々のGPCRを統一的にアッセイすることができる。
【0064】
なお、本発明で分析し得るGPCRは以下の1つまたは複数、好ましくは実質的にすべてのものでありうる。
【0065】
【表1-1】
【0066】
【表1-2】
【0067】
(4.検出系)
本発明では、タンパク質の活性化(例えば、リガンド、イオンによる刺激による)によって発現が変化する遺伝子の転写調節領域における変化を複数の因子を介在させて統合することによって、当該タンパク質の活性化を検出する系が提供される。
【0068】
1つの実施形態において、あるタンパク質の活性化により発現が誘導される第1~第Nの遺伝子の転写調節領域を、第1~第Nの因子をコードするヌクレオチド配列に作動可能に連結する(Nは2以上の任意の整数であり、以下必要に応じてこの意味で文字Nを使用する)。第1~第Nの因子のそれぞれは、当該因子とは異なる上記第1~第Nの因子のうちの少なくとも1つの因子の活性を向上させるものであってよく、例えば、それぞれの因子は、他の因子の発現量を増加させるか、または他の因子によって触媒される反応の基質であるか、もしくは当該基質を生成する反応を触媒するものであってもよい。
【0069】
ゲノム上の第1~第Nの遺伝子の遺伝子座へ第1~第Nの因子をコードする配列を組み込んでもよく、第1~第Nの遺伝子の転写調節領域と第1~第Nの因子をコードする配列とが作動可能に連結されている核酸分子を導入してもよい。
【0070】
さらに、本発明のアッセイ系には、第1~第Nの因子の少なくとも1つによって、発現が惹起される標識が含まれ得る。標識としては、その存在を簡便に検出できる分子を用いることができる。標識は、タンパク質であってよく、その場合、標識をコードする配列を含むコンストラクトを用いることができる。
【0071】
標識としては、例えば、ルシフェラーゼ、緑色蛍光タンパク質(GFP)、βグルクロニダーゼ、βガラクトシダーゼ、βラクタマーゼ、アルカリフォスファターゼが挙げられる。標識の発現の惹起は、因子による標識の転写の活性化によるものであってもよく、その他の因子のシグナルを増強する作用によってもよい。
【0072】
本発明の系の構築の1つの例としては、受容体のリガンド刺激後に発現が誘導される遺伝子がN個(遺伝子#1から遺伝子#N)あると仮定し、以下に示すn+1個のコンストラクトを構築することができる。
(1)「遺伝子#1の転写調節領域」を「酵素反応の基質(S)をコードする遺伝子」に作動可能に連結させた第1のコンストラクト
(2)「遺伝子#2の転写調節領域」を「酵素反応の酵素(E1)をコードする遺伝子」に作動可能に連結させた第2のコンストラクト
(3)「遺伝子#3の転写調節領域」を「SとE1の生産物P1を基質とする酵素(E2)をコードする遺伝子」に作動可能に連結させた第3のコンストラクト
(4)「遺伝子#4の転写調節領域」を「P1とE2の生産物P2を基質とする酵素(E3)をコードする遺伝子」に作動可能に連結させた第4のコンストラクト

(N)「遺伝子#Nの転写調節領域」を「P(n-3)とE(n-2)の生産物P(n-2)を基質とする酵素(E(n-1))をコードする遺伝子」に作動可能に連結させた第nのコンストラクト
(N+1)一連の酵素反応の最終生産物P(n-1)によりレポーター遺伝子が活性化するように設計されたレポーター遺伝子コンストラクト
【0073】
上記のn+1個のコンストラクトを外因性に細胞に同時に遺伝子導入するか、あるいはノックインによって細胞内で形成させることにより、異なるN個の転写調節領域が有する「リガンド刺激前後での転写活性の刺激応答比」を相乗的に統合した高感度なレポーターアッセイ系を構築できる。
【0074】
一般的な酵素反応式は、
酵素[E]+基質[S]→酵素基質複合体[ES]→酵素[E]+生産物[P]
([ ]は濃度を表す)
で表され、反応速度は[S]と[E]の積に比例する。このため、[S]と[E]が経過中一定であると仮定すると、反応開始から一定時間後の[P]も[S]と[E]の積に比例する。よって上記の一連の酵素反応で生産される最終生産物P(n-1)の濃度は、
[P(n-1)]=[S]×[E1]×[E2]×・・・×[E(n-1)]となり、最終的なレポーター遺伝子の刺激応答比は理論上、
(遺伝子#1の刺激応答比)×(遺伝子#2の刺激応答比)×(遺伝子#3の刺激応答比)×(遺伝子#4の刺激応答比)×・・・×(遺伝子#Nの刺激応答比)、すなわちN個の遺伝子がそれぞれ有する刺激応答比のすべてをかけあわせたものとなる(相乗的増幅)。但し、本想定は原理を非常に単純化したモデルであるため、実際の連鎖反応において各反応の[S]と[E]は一定ではない。
【0075】
このように酵素反応を介在させることで複数の遺伝子の転写制御領域を機能的に連結でき、それによりシグナル増幅効果が期待される。この効果を実現するために、転写調節領域下流に連結される因子の組み合わせの一例として細胞膜型転写因子およびプロテアーゼがある(図2)。図2は、細胞膜型転写因子を発現するプラスミドとプロテアーゼを発現するプラスミドの2つを用意し、それぞれを様々な量で外因性に遺伝子導入した(図2を参照)細胞群(細胞にはUAS-luciferaseレポーター遺伝子も外因性に導入してある)において測定されたルシフェラーゼ活性を示している。比較している2群間におけるルシフェラーゼ活性の比が倍数として記載されている。例えば、プロテアーゼ10細胞膜型転写因子1000を遺伝子導入した群とプロテアーゼ100細胞膜型転写因子10000を遺伝子導入した群のルシフェラーゼ活性を測定し比較した結果、プロテアーゼ100細胞膜型転写因子10000を遺伝子導入した群はプロテアーゼ10細胞膜型転写因子1000を遺伝子導入した群より約190倍高いルシフェラーゼ活性を示した。本実験は細胞膜型転写因子の量とプロテアーゼの量の積でルシフェラーゼ活性が規定されることを示すのが主目的であるため、細胞膜型転写因子およびプロテアーゼは構成的なプロモーターによりドライブされており、転写調節領域には連結されていない。
【0076】
また、上述のような1つの因子が1つの因子を活性化するような関係性に加えて、複数の因子が複合体を形成し、複合体になることにより他の因子または標識を活性化するような複数の因子も使用することができる。この場合は、反応の速度が比較的ゆっくりであることが望ましい。
【0077】
本発明において、上記のとおり、シグナル伝達を担う分子の活性化により発現が誘導される遺伝子の転写調節領域を用いることができる。細胞により、シグナル伝達を担う分子によって発現が誘導される遺伝子が異なる場合があり得るが、当業者は、本明細書に記載される方法によって適宜同定することができる。
【0078】
発現が誘導される遺伝子は、発現が誘導された場合に差が検出できるものを用いることができ、複数の遺伝子を組み合わせることで、それぞれの遺伝子単独では十分な感度の検出ができないものも使用可能である。発現が誘導される遺伝子として、発現が誘導された場合に、基底発現の少なくとも約1.1倍、約1.2倍、約1.5倍、約2倍、約5倍、約10倍、またはそれ超の発現量の増加が生じるものを用いることができる。好ましくは、約5~10倍程度またはそれ超の発現量の増加が生じる遺伝子が用いられる。本明細書において、4群間比較による発現変動遺伝子の同定が記載されているが、2群間で有意差が生じるものであっても、発現が誘導される遺伝子として用いることができる。
【0079】
遺伝子の発現量としては、定量的PCRにおけるサイクル数(例えば、Ct値)、マイクロアレイにおける蛍光強度、またはRNA-Seqにおけるリードカウント(当該遺伝子にマッピングされたリードカウント)等を使用することができ、当業者は適宜正規化して指標として用いることができる。例えば、RNA-Seqにより遺伝子発現量を測定する場合、リードカウントを、TMM、the median of the ratio、DEGES、FPKM(fragments per kilobase of exon per million reads mapped)またはRPKM(reads per kilobase of exon per million reads mapped)によって標準化した値を用いることができる。
【0080】
また、発現変動遺伝子の基底の発現量は遺伝子によって異なり、大きいものが好ましいが、例えば、RNA-Seq解析におけるFPKM値が約1以上程度であれば使用可能であると考えられる。より好ましくは、RNA-Seq解析におけるFPKM値が約5~10以上ある遺伝子である。なお、一般的にはFPKMが10で高発現、5で中発現、1で低発現とされる。
【0081】
また、発現が誘導される第1~第Nの遺伝子は、全て異なるものでなくともよい。すなわち、同一の遺伝子の転写調節領域に異なる因子を作動可能に連結してもよい。
【0082】
「異なる」2つ以上の遺伝子の転写調節領域を利用する場合には、一定の利点が存在する。2つ以上の因子を細胞のゲノムにノックインする場合、同一の場所にノックインするより、ゲノム上の異なる2カ所にノックインするほうが手技的に簡便で確実である。例えば、HeLa細胞は一般的には偽3倍体であると考えられているため、2つの因子をゲノム上の同一の場所にノックインしようとする場合、第1の因子をノックインした後に、残りの2つのアリルのどちらかに第2の因子をノックインする必要が生じる。同一遺伝子座を標的とする場合、(1)3つのアリル全てがノックイン可能であるか、(2)3つのアリル全てにおいて転写がオンであるか、は事前には判定不能であるため、ゲノム上の異なる2カ所にノックインするほうが成功の確率が高いと考えられる。
【0083】
また同一の領域を利用する場合、刺激に非依存的な揺らぎも増幅されるが、異なる領域を使うことでノイズの増幅を避けアッセイ精度の改善が期待される。これは、ハイスループット化が進み、マイクロ流路上のごく少数の細胞で測定するようになった場合などに大きな精度の差として現れ得る。
【0084】
1つの実施形態では、遺伝子として、ARC、CCL20、CTGF、DUSP5、EGR1、EGR2、EGR3、FOSB、NR4A1、NR4A3、CYR61及びFOSからなる群から選択される2つ以上の遺伝子の転写調節領域を用いることができる。さらなる実施形態では、細胞がHeLa細胞のときは、CTGFおよびNR4A1の転写調節領域を用いることができ、細胞がHEK293T細胞のときは、FOS及びFOSBの転写調節領域を用いることができる。
【0085】
例えば、細胞内(HeLa細胞)でG12/13が特異的に活性化された場合に誘導される遺伝子発現応答を、次世代シークエンサーを用いてゲノムワイドで解析したところ、約10倍以上の発現誘導がかかる候補遺伝子はゲノムワイド発現解析で(約22000遺伝子中)10遺伝子であった(下記表2-1に示す。)。
【0086】
【表2-1】
【0087】
この他、発現誘導がかかる遺伝子としては、例えば、ABHD13、ABL2、ACKR3、ACTG1、ADAMTS1、ADAMTS5、ADAP1、ADM、ADRB2、AEBP2、AEN、AHR、AKAP2、ALDH1B1、ALPK2、ANKRD1、ANKRD33B、AP1AR、ARC、AREG、ARHGAP23、ARHGAP28、ARHGAP32、ARHGDIB、ARID5B、ARL5B、ATF3、ATP2B1、ATXN7、BACH1、BCL10、BHLHE40、BIRC3、BMP2、BMPR1B、BTG2、C19orf71、C1QTNF1、C8orf4、C9orf72、CASZ1、CBX4、CCDC68、CCL20、CCNL1、CCNT1、CD83、CDC42EP2、CDC42SE1、CDH5、CDKN1A、CDKN2AIP、CEBPD、CHD1、CHD2、CITED2、CITED4、CMIP、CNN2、COQ10B、CPEB3、CPEB4、CRB1、CREM、CRISPLD2、CSRNP1、CSRP1、CTGF、CTTNBP2NL、CXCL2、CYR61、DAAM1、DAPP1、DAW1、DCUN1D3、DDAH1、DENND3、DKK1、DNAJB4、DNAJC6、DUSP1、DUSP16、DUSP4、DUSP5、DUSP8、EDN1、EDN2、EGLN1、EGR1、EGR2、EGR3、ELAVL2、ELF3、ELL、ELL2、ELMSAN1、EPAS1、EPGN、EPHA2、EPPK1、ERRFI1、ETS2、ETV3、F3、FAM60A、FAM86B3P、FAT4、FBLIM1、FBXO33、FBXO46、FGF2、FHL1、FHL2、FOSB、FOSL1、FOSL2、FOXC1、FOXC2、FRMD4B、FSTL3、GAB2、GADD45A、GADD45B、GATA6、GLI2、GPCPD1、GPRC5A、GRAMD3、HBEGF、HECA、HELZ2、HES4、HK2、HLA-H、HMGCS1、HRH1、HSPA2、ICAM1、IER2、IER3、IER5、IFFO2、IL32、IL6、IQCJ-SCHIP1、IRF2BP2、IRF2BPL、IRS2、ITGB8、ITPRIP、JAG1、JPH2、JUN、JUNB、JUND、KCNJ12、KCNK1、KDM6B、KIAA0355、KIAA0825、KIAA1217、KLF2、KLF4、KLF5、KLF6、KLF7、KLF9、KLHL29、KRT16、KRT17、KRT34、KRT80、LATS2、LDLR、LIFR、LIMA1、LINC00657、LOC100129550、LYPD3、MAFF、MAFK、MALAT1、MAMDC2、MAP2K3、MAP3K14、MAP3K8、MB21D2、MC1R、MCL1、MESDC1、MFAP5、MFSD2A、MITF、MMP12、MMP24、MN1、MPZL3、MTCL1、MXD1、MYADM、MYH9、NAB1、NAB2、NABP1、NAV2、NCEH1、NCOA7、NEDD9、NFIL3、NFKB2、NFKBIA、NFKBID、NFKBIE、NOCT、NR4A1、NR4A2、NR4A3、NT5DC3、NT5E、NTN4、NUAK2、NYAP2、OLR1、OTUD1、PANX1、PDE4D、PDP1、PER1、PER2、PFKFB3、PHLDA1、PHLDA3、PHLDB2、PIGA、PIM1、PLAUR、PLEKHG3、PLEKHO2、PMAIP1、PMP22、PPP1R15B、PPP1R3B、PPP1R3C、PPP2R3A、PPTC7、PRDM1、PRG2、PRRG1、PSD4、PTGER4、PTGS2、PTPRH、PXDC1、RAB20、RAB32、RAP1GAP2、RASAL2、RASD1、RASSF8、RC3H1、RCAN1、REL、RELB、RELT、RGS2、RHOB、RIMKLB、RND3、RNF19A、RNF19B、RNF217、ROR1、RP2、RUNX1、RUSC2、SAMD4A、SAV1、SCML1、SDC4、SERPINE1、SERTAD1、SFMBT2、SGK1、SGMS2、SH3RF1、SIK1、SIRT1、SLC19A2、SLC20A1、SLC25A16、SLC26A2、SLC2A13、SLC2A3、SLC30A7、SLC38A2、SLC7A11、SLFNL1、SLFNL1-AS1、SNRK、SOCS3、SOCS6、SOWAHC、SPRED2、SRF、SSC5D、STARD4、STEAP4、STK38L、STX11、TAGLN、TBX3、TGFBR1、TGFBR3、THBS1、TICAM1、TIPARP、TLE4、TM4SF1、TMEM158、TMEM160、TNFAIP3、TNFRSF10A、TNFRSF8、TNS4、TP53I11、TPM1、TPM4、TPPP、TRAF1、TRAF4、TRIB1、TRMT44、TSC22D1、TSC22D2、TUFT1、UBALD1、UGCG、USP2、USP36、USP53、VCL、VGLL3、VPS37B、WDR1、WDR37、WEE1、WWC2、YOD1、ZBTB10、ZBTB21、ZC3H12A、ZC3H12C、ZC3HAV1、ZFAND5、ZFP36、ZFP36L1、ZFP36L2、ZNF217、ZNF267、ZNF281、ZNF324、ZNF331、ZNF529、ZNF548、ZNF644、ZSWIM4、ZYXなどを挙げることができるがこれに限定されず、これらの遺伝子は、実施例Cに記載されるような活性を有することが本発明において示されており、これらは、1またはそれより多い遺伝子を用いることが可能である。
【0088】
また、細胞内(HEK293T細胞)でG12/13が特異的に活性化された場合に誘導される遺伝子発現応答を、次世代シークエンサーを用いてゲノムワイドで解析したところ、約10倍以上の発現誘導がかかる候補遺伝子はゲノムワイド発現解析で9遺伝子であった(下記表2-2に示す。)。
【0089】
【表2-2】
【0090】
さらに、本発明において発現誘導がかかる遺伝子としては、以下のものが挙げられる。
NR4A2, LOC100506747, NR4A1, EPPK1, JUN, AMOTL2, FLNA, ARC, IER2, JUNB(少なくともいずれかの実験で5倍以上の発現変動);ならびに
CNN2, DUSP1, MAFF, GPR3, TPM1, PTGS2, ATF3, G0S2, TRIB1, SNAI2, PDLIM7, NFKBIZ, TIMP3, FHL2, SPRY2, FOSL2, FERMT2, VCL, NUPR1, TPM4, GRASP, NKX2-5, TUFT1, ID1, FOSL1, MYADM, ACTB, LPP, KLF7, KLF6, ADAMTS1, BTG2, ACTG1, CSRNP1, WDR1, SRF, GEM, ZYX, NR2F1, LOC101928358, ITPRIP, FUT1, COL3A1, LIMA1, SLC8A1, JAG1, SLC6A9, PMAIP1, SLC2A10, PCK2, ZFP36L1, MAFB, CBX4, FZD10, ZBTB10, JDP2, ZNF214, RHOB, ID2, RND3, IRF2BPL, BMP2, SOX4, JUND, SLC1A4, PNRC1, SYBU(少なくともいずれかの実験で2倍以上の発現変動)
【0091】
本発明における因子としては、様々なものを使用することができるが、1つの好ましい例は、転写因子である。転写因子は、標識の発現または他の因子の発現を増大させるものであり得る。
【0092】
転写因子は、例えば、人工転写因子であってよい。人工転写因子の例としては、以下の表に記載されるようなものが挙げられ、各々右欄に示されるDNA配列に結合する。標識または他の因子を当該DNA配列に作動可能に連結することができる。
【0093】
【表3】
【0094】
本発明の実施形態において、転写因子は、不活性化した状態で発現されるように構成され得る。「不活性化」は、例えば、転写因子が、転写が行われる核内へと移動しないようになっているか、または、活性でない状態(例えば、脱リン酸化状態など)になっていることによって実現され得る。このような状態で転写因子を発現させることにより、第2の因子の発現との相乗的なシグナルの増強が期待できる。
【0095】
好ましくは、転写因子として、細胞膜アンカー型転写因子を用いることができる。細胞膜アンカー型転写因子は、細胞膜に局在化する任意の分子と転写因子とを連結したものであってよい。例えば、細胞膜に局在化する分子と転写因子とを、必要に応じて間にペプチドリンカーを含む融合タンパク質として発現させるものであってもよい。リンカーは、切断可能リンカーであってよく、例えば、後述のプロテアーゼにより特異的に切断される配列を有していてもよい。上記以外の細胞膜アンカー型転写因子の取り得る構成の例として、転写因子をパルミトイル化などの脂質修飾を介して細胞内側から細胞膜にアンカリングさせる、などが挙げられる。このように転写因子を細胞膜に局在化する分子に連結する、または転写因子の一部として細胞膜に局在化する部分を含めることによって、細胞膜アンカー型転写因子として利用することができる。
【0096】
本発明における因子として、上記の不活性化した状態で発現された転写因子を、活性な状態に変更する活性を有する因子を用いることができる。例えば、かかる因子は、転写因子を細胞膜から解離させる活性を有していてもよい。転写因子の構造に応じて、当業者は、適切な因子を選択して用いることができる。例えば、転写因子が、ペプチド性の切断可能リンカーを介して膜結合部分と連結している場合、プロテアーゼ(好ましくは、リンカー配列に特異的なプロテアーゼ)を用いることができる。
【0097】
本発明における因子として、プロテアーゼを用いることができる。プロテアーゼとしては、例えば、3C(HRV 3C プロテアーゼ、Prescission proteaseとも)、TEVプロテアーゼ(Tobacco Etch Virus Protease)、カスパーゼ3/7、エンテロキナーゼ、カスパーゼ8、PSA(prostate-specific antigen)またはカリクレイン関連ペプチダーゼ-3(KLK3)、SARS 3CL1(3C-like proteinase from SARS coronavirus)、第Xa因子プロテアーゼ、トロンビンが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0098】
本発明の1つの実施形態において、転写因子を活性な状態に変更する活性を有する因子(例えば、プロテアーゼ)は細胞膜型のものであってよい。かかる細胞膜型因子は、細胞膜に局在化する構造と連結するか、または細胞膜に局在化する構造を含んでよい。細胞膜型因子の構造としては、本明細書に記載される細胞膜アンカー型転写因子における、細胞膜に局在化する構造を同様に用いることができる。細胞膜型因子の取り得る構成の例として、因子(例えば、プロテアーゼ)を細胞膜タンパク質の細胞内ドメインに連結させる、あるいはパルミトイル化などの脂質修飾を介して細胞内側から細胞膜にアンカリングさせる、などが挙げられる。このように因子を細胞膜に局在化する分子に連結する、または因子の一部として細胞膜に局在化する部分を含めることによって、細胞膜型因子として利用することができる。かかる細胞膜型因子を利用することで、基質(細胞膜型転写因子)と酵素(細胞膜型プロテアーゼ)が同一細胞内コンパートメントに局在し効率よく反応が進行する。これにより基質と酵素の量が限定される条件下でもシグナルを感度よく検出できる効果が期待される。
【0099】
1つの例では、前述の発現誘導のかかる遺伝子リスト(HeLa細胞)より、2つの異なる遺伝子座(NR4A1 locus、CTGF locus)を選択することができる。またそれら遺伝子座の3’UTRに細胞膜アンカー型人工転写因子とプロテアーゼをノックインすることができる(図5)。図5に示されるようなコンストラクトを形成することによって、GPCR刺激で細胞膜アンカー型人工転写因子とプロテアーゼの発現が誘導されるようにゲノムが改変されたHeLa細胞が得られる(図6)。
また、本発明の別の態様において、細胞がHEK293Tの場合は、選択された2つの異なる遺伝子座(FOS locusおよびFOSB locus)の3’UTRに細胞膜型人工転写因子とプロテアーゼをノックインすることにより、HeLa細胞と同様の機能を持つインディケーター細胞を作成することができる。
【0100】
そのような細胞を用いて、以下のように被験化合物のリガンド活性を測定できる。
1.Luciferaseと目的GPCRの遺伝子をレポーター細胞に導入する。
2.GPCR刺激により膜アンカー型人工転写因子とプロテアーゼが発現誘導されるようにあらかじめアッセイに使用する細胞のゲノムは改変されている。
3.GPCR刺激で誘導された転写因子とプロテアーゼが相乗的にルシフェラーゼ発現を誘導する。
【0101】
(5.コンストラクト・キット)
1つの実施形態において、シグナル伝達を担うタンパク質への被験化合物の作用を調査するためのコンストラクトまたはコンストラクトの組合せが提供される。コンストラクトまたはコンストラクトの組合せは、シグナル伝達を担うタンパク質の活性化により発現が誘導される第1~第Nの遺伝子の転写調節領域に作動可能に連結されたそれぞれ第1~第Nの因子をコードする第1~第Nのヌクレオチド配列を含み得る。Nは2以上の整数である。このコンストラクトまたはコンストラクトの組合せと、上記第1~第Nの因子の少なくとも1つによって発現が惹起されるように構成された標識をコードするヌクレオチド配列を含むコンストラクトとを含む、コンストラクトの組合せも提供され得る。
【0102】
また、これらはキットとして提供されてもよい。1つの実施形態において、シグナル伝達を担うタンパク質への被験化合物の作用を調査するためのキットが提供され、キットは、上記コンストラクトまたは上記コンストラクトの組み合わせを含み得る。
【0103】
さらなる実施形態では、シグナル伝達を担うタンパク質への被験化合物の作用を調査するためのキットであって、複数の直列的に関連する因子を含むキットが提供され得る。例えば、キットは、
(1)第1の遺伝子の転写調節領域を酵素反応の基質(S)をコードするヌクレオチド配列に連結させた第1のコンストラクトと;
(2)第2の遺伝子の転写調節領域を酵素反応の酵素(E1)をコードするヌクレオチド配列に連結させたコンストラクトであって、ここで、SとE1との酵素反応により生産物P1が生成される、第2のコンストラクトと;
Nが3以上である場合に、3~Nの自然数であるnのそれぞれについて、
(n)第nの遺伝子の転写調節領域をP(n-2)を基質として生産物(P(n-1))を生成する酵素(E(n-1))をコードする遺伝子に連結させた第nのコンストラクトと;
(N+1)酵素反応の生産物P(N-1)によりレポーター遺伝子が活性化するように構成されたレポーター遺伝子コンストラクトと
を含み、第1~第NのN個の遺伝子のそれぞれは、該被験化合物による該タンパク質の刺激により発現が誘導され、ここで、Nは2以上の自然数であり、nは1~Nまでの自然数である、キットであり得る。キットには、本明細書に記載されるキメラGタンパク質αサブユニットをコードするコンストラクトがさらに含まれ得る。キットは、コンストラクトまたはコンストラクトの組合せを細胞に導入するため、あるいはコンストラクトまたはコンストラクトの組合せを細胞内で形成するための薬剤をさらに含んでもよい。上記タンパク質の活性化により発現が誘導される第1~第Nの遺伝子を特定することによって、上記コンストラクト、コンストラクトの組合せまたはキットを製造することができる。
【0104】
(6.細胞)
本発明において、本明細書に記載されるアッセイ系を組み込んだ細胞が提供される。細胞としては、例えば、HeLa細胞、HEK293細胞、CHO細胞、COS-1/7細胞、HL60細胞、K562細胞、Jurkat細胞、HepG2細胞、Saos-2細胞、F9細胞、C2C12細胞、PC12細胞、NIH/3T3細胞、U2OS細胞、Vero細胞、MDCK細胞、MEF細胞、U937細胞、C6細胞、Neuro2A細胞、SK-N-MC細胞、SK-N-SH細胞、HUVEC細胞、THP-1細胞、BW5147細胞、Ba/F3細胞、Y-1細胞、H295R細胞、MIN6細胞、NIT-1細胞およびMDA-MB435S細胞からなる群から選択される1または複数の細胞を使用することが可能である。
【0105】
本発明の細胞は、本明細書に記載されるアッセイ系に加えて、本明細書に記載されるキメラGタンパク質またはそれをコードする核酸を含んでよい。また、本発明の細胞は、所望のシグナル伝達を担う分子(またはシグナル伝達を担う分子を活性化させる分子、例えば、受容体)を過剰発現させたものであってよい。
【0106】
本発明の細胞は、本明細書に記載されるアッセイ系を構成する複数の核酸分子を導入することによって作製することができる。すなわち、当該細胞株においてシグナル伝達を担う分子の活性化によって発現が誘導される第1~第Nの遺伝子の転写調節領域に作動可能に連結された第1~第Nの因子をコードする核酸配列を含む、1つまたは複数の核酸分子を、細胞に導入することによって作製することができる。
【0107】
核酸の細胞への導入は、リポフェクション、ジーンガン、塩化カルシウム法、リン酸カルシウム沈殿、コンジュゲーション、プロトプラスト融合、エレクトロポレーション、 アグロバクテリウム法、ウイルス感染、直接マイクロインジェクションなどによって行うことができる。
【0108】
あるいは、第1~第Nの因子を内在性の第1~第Nの遺伝子の遺伝子座に組み込むことによって細胞内でコンストラクトを形成し、本発明の細胞を作製することができる。内在性遺伝子座への組み込みには、当技術分野で公知の技術を用いることができ、例えば、ゲノム編集技術を用いることができる。
【0109】
ゲノム編集技術としては、例えば、CRISPR-Cas9システム、ジンクフィンガーヌクレアーゼ、TALEN、PPRヌクレアーゼ、Homologous recombination(相同組み換え)、それらの改変法などを用いることができる。ゲノム編集について、当業者は、Curr Protoc Mol Biol (2012) Chapter 12: Unit 12.15、Nat Biotechnol (2012) 30: 460-465、Nucleic Acids Res (2011) 39: e82、特表2013-513389号公報、Nat Biotechnol (2002) 20: 135-141、Mol Cell (2008) 31: 294-301、Nat Methods (2011) 8: 67-69、Nat Biotechnol (2008) 26:695-701、特許第4968498号公報、特開2013-128413号公報等の情報を参照して適宜行うことができる。
【0110】
本発明においては、シグナル伝達を担うタンパク質を発現する細胞であって、上記タンパク質の活性化により発現が誘導される第1~第Nの遺伝子の転写調節領域に作動可能に連結されたそれぞれ第1~第Nの因子をコードする第1~第Nのヌクレオチド配列と、該第1~第Nの因子の少なくとも1つによって発現が惹起されるように構成された標識をコードするヌクレオチド配列とを含み、ここで、Nは2以上の整数である、細胞が提供される。
【0111】
細胞は、シグナル伝達を担うタンパク質を発現し、直線的に関連する複数の因子を含んでいてもよい。例えば、細胞は、
(1)第1の遺伝子の転写調節領域を酵素反応の基質(S)をコードする遺伝子に連結させた第1のコンストラクトと;
(2)第2の遺伝子の転写調節領域を酵素反応の酵素(E1)をコードする遺伝子に連結させたコンストラクトであって、ここで、SとE1との酵素反応により生産物P1が生成される、第2のコンストラクトと;
Nが3以上である場合に、3~Nの自然数であるnのそれぞれについて、
(n)第nの遺伝子の転写調節領域をP(n-2)を基質として生産物(P(n-1))を生成する酵素(E(n-1))をコードする遺伝子に連結させた第nのコンストラクトと;
(N+1)酵素反応の生産物P(N-1)によりレポーター遺伝子が活性化するように構成されたレポーター遺伝子コンストラクトと
を含み、第1~第NのN個の遺伝子のそれぞれは、該タンパク質の活性化により発現が誘導され、ここで、Nは2以上の自然数であり、nは1~Nの自然数である。
【0112】
1つの実施形態において、それぞれ異なる膜タンパク質を発現する複数の細胞を含むキットが提供され、複数の細胞の各々は、本明細書に記載される特徴を有している。キットは、被験化合物の膜タンパク質への作用を網羅的に解析するためのものであり得る。1つの実施形態では、本明細書に記載の細胞、または本明細書に記載のキットを用いることを特徴とする、被験化合物の膜タンパク質への作用の解析方法が提供される。
【0113】
本明細書に記載の細胞の製造方法として、細胞に、膜タンパク質またはGPCRをトランスフェクトする工程と、発現が誘導される第1~第Nの遺伝子の遺伝子座に、各遺伝子の転写調節領域に作動可能に連結されるように前記第1~第Nのヌクレオチドを導入する工程とを含む、方法が提供される。
【0114】
本発明の細胞は、膜タンパク質を発現する細胞であって、
該膜タンパク質の活性化により発現が誘導される第1の遺伝子の転写調節領域に作動可能に連結された第1のヌクレオチド配列であって、細胞膜アンカー型転写因子をコードする、ヌクレオチド配列と、
該膜タンパク質の活性化により発現が誘導される第2の遺伝子の転写調節領域に作動可能に連結された第2のヌクレオチド配列であって、プロテアーゼをコードする、ヌクレオチド配列と、
該転写因子によって発現が惹起されるように構成されたルシフェラーゼをコードするヌクレオチド配列と
を含み、ここで、該膜タンパク質は、Gタンパク質共役受容体、酵素連結型受容体、イオンチャネル連結型受容体、またはチャネルであり、該細胞膜アンカー型転写因子は、細胞膜アンカー部分と転写因子部分との間に、該プロテアーゼによって切断される切断可能リンカーを含む細胞である。
当該細胞としては、HeLa細胞又はHEK293T細胞が挙げられる。そして、細胞がHeLa細胞のときは、例えば、該第1の遺伝子はNR4A1であり、該第2の遺伝子はCTGFである。また、細胞がHEK293T細胞のときは、例えば、該第1の遺伝子はFOSであり、該第2の遺伝子はFOSBである。
【0115】
(7.キメラ)
別の局面において、本発明はまた、キメラGタンパク質、それをコードする核酸、それを発現する細胞、およびそれを用いる方法も提供する。本明細書において、キメラとなっているGタンパク質αサブユニット、およびそれを含むキメラGタンパク質が提供される。Gタンパク質の受容体への配向性はGαサブユニットのC末端のアミノ酸配列で決定されるため、キメラGタンパク質を用いることによって、あるGタンパク質と共役するGPCRの活性化を、異なるGタンパク質が活性化されたときに生じる細胞内シグナルを用いて検出することが可能になる。本発明では、あるG12/13のαサブユニットにおいて、C末端のアミノ酸配列が、異なるGタンパク質αサブユニットのアミノ酸配列に置き換えられているキメラGタンパク質αサブユニットが提供される。
【0116】
異なるGαサブユニットとしては、Gαs、GαiおよびGαqが挙げられるが、好ましくは、Gαsサブユニットである。キメラとして置き換える範囲は、G12/13のαサブユニットのC末端側の、約50アミノ酸以下、約40アミノ酸以下、約30アミノ酸以下、約20アミノ酸以下、または約10アミノ酸以下のアミノ酸であってよく、好ましくは6アミノ酸である。
【0117】
本発明で提供されるキメラGタンパク質は、本明細書に記載される被験化合物のシグナル伝達を担うタンパク質への作用を調査するための方法において使用することができる。本明細書に記載されるコンストラクトと、キメラGタンパク質(またはそれをコードするコンストラクト)とを組み合わせて用いることができる。例えば、上記コンストラクトを含む細胞において、キメラGタンパク質をさらに発現させることができ、G12/13以外のGタンパク質(例えば、Gs)と共役するGPCRからのシグナルを、G12/13からのシグナルと同じ検出系で検出することができる。
【0118】
1つの実施形態では、キメラGタンパク質は、配列番号6の配列、配列番号8の配列またはそれと少なくとも約90%の配列同一性を有する配列あるいはそのフラグメントを有するαサブユニットを含み得る。
【0119】
1つの実施形態は、キメラGタンパク質αサブユニットであって、Gα12/13に属する第1のGαサブユニットのアミノ酸配列において、C末端のアミノ酸配列が、該第1のGαサブユニットとは異なるGαサブユニットのアミノ酸配列に置き換えられているアミノ酸配列を有する、キメラGタンパク質αサブユニットである。異なるGαとして、Gαsを用いることができる。C末端の約6アミノ酸を異なるGαサブユニットのアミノ酸配列に置き換えることができる。これらのキメラGタンパク質αサブユニットを含む、キメラGタンパク質も提供される。キメラGタンパク質と該キメラGタンパク質と共役しているGPCRとを含む複合体、またはそれを含む細胞が提供される。細胞は、本明細書に記載されるコンストラクトをさらに含んでもよい。これらの細胞を、GPCRの機能分析に用いることができる。キメラGタンパク質は、それをコードするヌクレオチド配列を含むコンストラクトとしても提供可能である。
【0120】
(8.遺伝子同定)
また、他の局面において、本発明は、ある細胞において、シグナル伝達を担うタンパク質の活性化により発現が誘導される遺伝子を同定する方法を提供する。この方法で見いだされた活性化可能な遺伝子は、本発明のタンパク質の網羅的アッセイにおいて利用することができ、本発明のコンストラクトの一部として用いることができる。
【0121】
本発明のこの方法は、シグナル伝達を担うタンパク質と被験化合物との相互作用を調査するためのものであり得る。方法は、タンパク質を発現する細胞を、タンパク質の活性化因子と接触させた場合の細胞における遺伝子発現レベルを得る工程と、細胞を活性化因子と接触させなかった場合の細胞における遺伝子発現レベルを得る工程と、活性化因子と接触させなかった場合と比較して活性化因子と接触させた場合に発現が増加する遺伝子を候補遺伝子として選択する工程とを含んでよい。
【0122】
発現が誘導される遺伝子の同定について、タンパク質の発現の有無および活性化因子の有無による4群間の比較を行うことができ、タンパク質が発現している細胞を活性化因子と接触させた場合に発現が増加する遺伝子を候補遺伝子として選択することができる。
【0123】
1つの実施形態では、シグナル伝達を担う分子への被験化合物の作用を調査するために、ある細胞において、上記分子の活性化により発現が誘導される遺伝子を同定する方法が提供される。方法は、上記分子を発現する細胞を、上記分子の活性化因子と接触させた場合の細胞における遺伝子発現レベルを得る工程と、該細胞を該活性化因子と接触させなかった場合の該細胞における遺伝子発現レベルを得る工程とを含み得る。また、活性化因子と接触させなかった場合と比較して該活性化因子と接触させた場合に発現が増加する遺伝子を候補遺伝子として選択する工程を含み得る。
【0124】
1つの実施形態において、ある細胞において、シグナル伝達を担う分子の活性化により発現が誘導される遺伝子を同定する方法であって、4群間の比較を特徴とする方法が提供される。方法は、上記分子を発現する細胞を、上記分子の活性化因子と接触させた場合の細胞における遺伝子発現レベルを得る工程と、
上記分子を発現する細胞を活性化因子と接触させなかった場合の細胞における遺伝子発現レベルを得る工程と、
上記分子を発現しない細胞を、上記分子の活性化因子と接触させた場合の細胞における遺伝子発現レベルを得る工程と、
上記分子を発現しない細胞を、上記分子の活性化因子と接触させなかった場合の細胞における遺伝子発現レベルを得る工程とを含み得る。また、上記分子を発現する細胞を上記分子の活性化因子と接触させた場合に、他の場合と比較して発現が増加する遺伝子を候補遺伝子として選択する工程を含み得る。
【0125】
シグナル伝達を担う分子として、Gタンパク質G12/13と特異的に共役するGPCRを用い得る。この方法は、アッセイ用細胞の製造のためのものであってよく、上記細胞において、上記候補遺伝子の転写調節領域に作動可能に連結されるようにヌクレオチド配列を遺伝子座に組み込むことによって、細胞を製造することが可能である。
【0126】
遺伝子の発現の測定は、当技術分野で公知の任意の方法によって行うことができる。例えば、遺伝子の発現量を測定する技術としては、マイクロアレイ、RNA-Seq、定量的PCR等が挙げられる。好ましくは、RNA-Seqを採用することができる。シークエンシングの手法は、核酸試料の配列を決定することができる限り限定されず、当技術分野で公知の任意のものを利用することができるが、次世代シークエンシング(NGS)を用いることが好ましい。次世代シークエンシングとしては、パイロシーケンシング、合成によるシークエンシング(シークエンシングバイシンセシス)、ライゲーションによるシーケンシング、イオン半導体シーケンシングなどが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0127】
本発明の遺伝子同定方法は、例えば、「次世代シークエンサー:目的別アドバンスメソッド」(細胞工学別冊)、およびCold Spring Harb Protoc. 2015 Nov; 2015(11): 951-969.等の文献を参照して適宜実施することができる。
【0128】
(9.応用)
本発明は、網羅的に被験化合物の膜タンパク質への作用を調査するのに利用可能である。網羅的な調査は、意図されるある特定の標的への作用を調査するのみではなく、意図される標的とは異なる分子への作用、すなわちオフターゲット活性を検出するのに有用である。特定の標的への作用を調べることで、被験化合物の医薬等への有用性を調べることができるのに加え、オフターゲット活性の検出により、化合物の安全性試験または毒性試験を行うことができる。したがって、本発明は、創薬の支援に有用である。1つの利用法としては、標的となる受容体を活性化させる被験化合物の、標的となる受容体を含めた、1または複数の受容体への結合をスクリーニングすることができる。結合をスクリーニングできる受容体として、本明細書に挙げられるものを標的とすることができるが、例えば、GPCR(例えば、今まで活性化の検出が難しかったG12/13に共役するGPCR)を標的とすることができる。GPCRには味覚に関する受容体(例えば、苦味受容体)が含まれ、一例として、苦味受容体への作用を調べることで、被験化合物の呈味特性を調べることができる。また、網羅的なスクリーニングにより、リガンドが未知であるいわゆるオーファン受容体を標的とすることもできる。加えて、本明細書の実施例に示されるように、受容体型チロシンキナーゼの活性化を検出することも可能である。
【実施例
【0129】
<実施例A1:発現が誘導される複数の遺伝子の転写調節領域配列を用いるレポーター系>
[概要]
本実施例において、異なる転写調節領域を有する複数のレポーターアッセイ構成遺伝子を外因性に一過性に動物細胞に導入することでシグナルが増幅することを示す。より詳細には、異なる転写調節領域(本実験においてはNFAT(nuclear factor of activated T-cells)転写調節領とSRF(serum response factor)転写調節領域)を有する複数のレポーターアッセイ構成遺伝子を外因性に一過性に動物細胞に導入することでシグナルが増幅することを示す。
【0130】
[材料および方法]
GPCR群に属するアンジオテンシン1型受容体(hAgtr1)はそのリガンドであるアンジオテンシンIIにより活性化され、アッセイに使用する細胞種に依存せず(どの細胞種においてもほぼ共通して)、NFAT(nuclear factor of activated T-cells)転写調節領域やSRF(serum response factor)転写調節領域をもつ遺伝子の発現を上昇させることが既に知られている。そこで、これらの二つの転写調節領域に連結する因子として、以下に示す二つの人工遺伝子(TMGVとTM3C)を作成した。
【0131】
(1) 細胞膜型人工転写因子(TMGV:transmembrane Gal4VP64)の作成
ストップコドンを欠失させたヒトIL2受容体アルファ鎖(NM_000417)のC末端に、HRVプロテアーゼ3C認識切断配列(LEVLFQGP(配列番号1))を含むアミノ酸配列GSSSLEVLFQGPGSSS(配列番号2)をin-frameで連結し、そのC末端にさらに開始コドンを欠失させたGal4VP64(GV:人工転写因子)をin-frameで連結した。
【0132】
(2) 細胞膜型HRVプロテアーゼ3C(TM3C:transmembrane 3C)の作成
ストップコドンを欠失させたヒトIL2受容体アルファ鎖(NM_000417)のC末端に、GSリンカー配列(GGGGSGGGGSGGGGS(配列番号3))、開始コドンとストップコドンを共に欠失させたHRVプロテアーゼ3C(アミノ酸配列はヒト化されている)を順にin-frameで連結し、さらにそのC末端に当該膜タンパク質を不安定化させる目的でPEST配列を付加した。
【0133】
上記の(1)TMGV、(2)TM3Cを同時に細胞に遺伝子導入すると、IL2受容体の輸送システムに乗り両者とも細胞膜に移行する。両者が細胞膜上で会合すると(1)が基質(S)、(2)が酵素(E)として働き、細胞膜より人工転写因子GVが細胞質へとリリースされる。膜よりリリースされたGV(soluble GV:sGV)は、酵素反応の結果生じた生産物(P)と捉えることができる。すなわち、(1)TMGVおよび(2)TM3Cの細胞膜での濃度の積によって生産物(sGV)の量が規定される。生産されたsGVの量は、UAS配列にluciferaseを連結させたUAS-luciferaseというレポーター遺伝子(UASはsGV結合配列:sGVが結合することによりルシフェラーゼの発現が誘導される)を利用して定量化できる。
【0134】
よって、本実施例においては以下に記す3つの異なる組み合わせのプラスミドカクテルを用意した。
(1) hAgtr1+NFAT-TMGV+Constitutive-promotor(Cp)-TM3C+UAS-luciferase
(TMGVのみにリガンド刺激により発現誘導がかかる)
(2) hAgtr1+Cp-TMGV+SRF-TM3C+UAS-luciferase
(TM3Cのみリガンド刺激により発現誘導がかかる)
(3)hAgtr1+NFAT-TMGV+SRF-TM3C+UAS-luciferase
(TMGVとTM3Cの両者においてリガンド刺激により発現誘導がかかる)
【0135】
使用する細胞:HeLa細胞
【0136】
Day1:HeLa細胞を24000cells/wellの密度で96穴プレートに播種した。
【0137】
Day2:96穴プレートに播種してから24時間以内に1wellあたりDNA84.6ng(hAgtr1 60ng+TMGV 12ng+TM3C 0.6ng+UAS-luciferase 12ngからなるプラスミドカクテル)をリポフェクション法により遺伝子導入した。
【0138】
Day3:遺伝子導入24時間後に細胞をリガンドにより刺激した(アンジオテンシンII:100、10、0nMの濃度にて)。6時間刺激後、培養上清を捨て、luciferase用の基質を添加し、発光シグナルをプレートリーダーにて測定した。
【0139】
[結果]
結果は図3に示される。(3)において、(1)および(2)と比較してより良好なリガンド濃度依存的なシグナルが検出された。異なる転写調節領域を有する複数のレポーターアッセイ構成遺伝子を外因性に一過性に動物細胞に導入することでシグナルが増幅することが実証された。
【0140】
<実施例A2:同一の転写調節領域配列を有する複数のレポーターアッセイ構成遺伝子の使用>
[概要]
本実施例は、同一の転写調節領域(本実験においてはSRF(serum response factor) 転写調節領域)を有する複数のレポーターアッセイ構成遺伝子を外因性に一過性に動物細胞に導入することでシグナルが増幅することを示すことを目的とする。
【0141】
[材料および方法]
GPCR群に属するアンジオテンシン1型受容体(hAgtr1)はそのリガンドであるアンジオテンシンIIにより活性化され、アッセイに使用する細胞種に依存せず(どの細胞種においてもほぼ共通して)、SRF(serum response factor)転写調節領域をもつ遺伝子の発現を上昇させることが既に知られている。
【0142】
そこで、以下に示す3つの異なる組み合わせのプラスミドカクテルを用意した。
(1) hAgtr1+SRF-TMGV+Constitutive-promotor(Cp)-TM3C+UAS-luciferase
(TMGVのみリガンド刺激により発現誘導がかかる)
(2) hAgtr1+Cp-TMGV+SRF-TM3C+UAS-luciferase
(TM3Cのみリガンド刺激により発現誘導がかかる)
(3) hAgtr1+SRF-TMGV+SRF-TM3C+UAS-luciferase
(TMGVとTM3Cの両者においてリガンド刺激により発現誘導がかかる)
【0143】
使用する細胞:HeLa細胞
【0144】
Day1:HeLa細胞を24000cells/wellの密度で96穴プレートに播種した。
【0145】
Day2:96穴プレートに播種してから24時間以内に1wellあたりDNA84.6ng(hAgtr1 60ng+TMGV 12ng+TM3C 0.6ng+UAS-luciferase 12ngからなるプラスミドカクテル)をリポフェクション法により遺伝子導入した。
【0146】
Day3:遺伝子導入24時間後に細胞をリガンドにより刺激した(アンジオテンシンII:100、10、0nMの濃度にて)。6時間刺激後、培養上清を捨て、luciferase用の基質を添加し、発光シグナルをプレートリーダーにて測定した。
【0147】
[結果]
結果は図4に示される。(3)において、(1)および(2)と比較してより良好なリガンド濃度依存的なシグナルが検出された。同一の転写調節領域を有する複数のレポーターアッセイ構成遺伝子を外因性に一過性に動物細胞に導入することでシグナルが増幅することが実証された。
【0148】
<実施例A3:G12/13にカップルするGPCRを高感度に検定できる新規GPCRアッセイ系で使用するインディケーター細胞の樹立>
[概要]
G12/13タンパク質の活性化前後で高い応答比をもって反応する転写調節領域が現時点では明らかになっていないため、G12/13にカップルするGPCRを通常のレポーターアッセイ系によって評価することは困難である。そこで、前述の実施例での知見を利用して、G12/13にカップルするGPCRの評価を行うことができるかを検証した。
【0149】
[材料および方法]
リガンドにより刺激されたGPCRはヘテロ三量体GTP結合タンパク質(Gタンパク質:α、β、γの3つのサブユニットから構成される)を介して細胞内へとシグナルを伝達する。Gタンパク質はαサブユニットの配列に基づき、Gs、Gi、Gq、G12/13に大別され、GPCRはそれぞれ、「GsにカップルするGPCR」、「GqにカップルするGPCR」、「GiにカップルするGPCR」、「G12/13にカップルするGPCR」の4群に分類される。
【0150】
アッセイに使用する動物細胞種に依存せず「G12/13タンパク質の活性化前後で、高い応答比をもって反応する転写調節領域」が現時点では明らかになっていないため、「G12/13にカップルするGPCR」を通常のレポーターアッセイ系によって評価することは困難である。
【0151】
まず、「G12/13のみに特異的にカップルするGPCR」を過剰発現させたHeLa細胞を用意した。次にその過剰発現させたGPCRに対応するリガンドで細胞を刺激し(G12/13タンパク質を特異的に活性化)、リガンド刺激前後で発現誘導がかかる遺伝子群をリストアップした(候補遺伝子の同定については、後述の実施例Cも参照されたい)。「G12/13タンパク質の活性化前後で、高い応答比をもって反応する転写調節領域」が知られていないという事実と合致して、高い刺激応答比(30倍以上)をもって発現誘導がかかる遺伝子は同定できず、中等度の刺激応答比(5-10倍程度)をもって発現誘導がかかる遺伝子を数個認めるのみであった。
そこで10倍程度の中等度の刺激応答比を有する二つの遺伝子(遺伝子#1と遺伝子#2)に着目した。(遺伝子#1:NR4A1、遺伝子#2:CTGF)
【0152】
遺伝子の転写は、染色体の異なる場所に存在する複数の転写調節領域によって協調的に制御されることが多い。リガンド刺激前後で非常に高い刺激応答比をもって発現誘導がかかる遺伝子に着目できる場合には、その遺伝子の複数ある転写調節領域のうちの一つをクローニングし、それを基に人工レポーター遺伝子プラスミドを作製しても十分な刺激応答比をもつレポーターアッセイ系を構築できる可能性がある。しかし、本ケースのように、もともと中等度の刺激応答比しか持たない遺伝子に着目した場合には、その遺伝子の複数ある転写調節領域のうちの一つをクローニングし人工レポーター遺伝子プラスミドを作製しても十分な刺激応答比をもつレポーターアッセイ系を構築できない可能性がある。
【0153】
そこで本件においては、通常の手法を採用するかわりに、遺伝子#1と遺伝子#2の3’UTRに直接レポーターアッセイ系の構成要素(すなわちTMGVおよびTM3C)をノックインすることでレポーターシステムそのものを細胞の染色体に内在化する(細胞に内因化する)という逆転の発想を採用し、HeLa細胞に内因性に存在する遺伝子#1と遺伝子#2の転写制御機構の全てをあますところなく利用することで、TMGVおよびTM3Cの転写を制御するインディケーター細胞を樹立した(図5および図6)。
【0154】
上記インディケーター細胞の樹立にあたり、まず前述の2つのレポーターアッセイ系の構成要素のN末端側にIRES(internal ribosome entry site)配列を付加した遺伝子断片、すなわち、(1)IRES-TMGVおよび(2)IRES-TM3Cを作成した。
【0155】
この2つの遺伝子断片をゲノム編集技術を用いて、HeLa細胞ゲノム内の遺伝子#1と遺伝子#2の3’UTRにそれぞれノックインした。2つの異なるゲノム部位に上記の2つの遺伝子断片がノックインされた細胞をモノクローン化し、アッセイ系に供するインディケーター細胞とした(インディケーターHeLa細胞)。
【0156】
インディケーターHeLa細胞の作成手順
Suzuki K et al Nature 540:144-149,2016に記載されるゲノム編集手順を参考として、インディケーターHeLa細胞を以下のとおり作成した。
【0157】
(1)IRES-TMGV遺伝子断片をCRISPRでゲノムの標的部位(一番目の標的部位:遺伝子#1の3’UTR)にノックインするため、IRES-TMGVのN末端側にflox-Blastcidin耐性遺伝子カセット(あらかじめloxPでBlastcidin耐性遺伝子カセットの両脇が挟まれている)を連結し、その両端にさらにCRISPRがゲノム上で認識する核酸配列(一番目の標的部位用)と同一の配列を付加したプラスミドをpBlueScriptバックボーンで構築した。すなわち、下記のような核酸配列となる:
(CRISPR認識配列:一番目の標的部位用)-(flox-Blastcidinカセット)-(IRES-TMGV)-(CRISPR認識配列:一番目の標的部位用)
以後これをTMGV donor plasmid(DP-TMGV)と記す。
【0158】
(2)CRISPRを利用してゲノムの標的部位(一番目の標的部位)にDNA二本鎖切断(double-strand break:DSB)を引き起こすために必要なプラスミドをpX330-U6-Chimeric_BB-CBh-hSpCas9(Addgene #42230)を基にして構築した(pV330-1st target)。
【0159】
(3)HeLa細胞を6cm dishに5×10^5細胞播種し、播種翌日に“pV330-1st target 3μg+DP-TMGV 0.03μg”をリポフェクション法を用いて一過性に遺伝子導入した。
【0160】
(4)遺伝子導入翌日より、細胞培養液にBlastcidinを10μg/mlとなるように添加し、約二週間培養した。
【0161】
(5)Blastcidin存在下で増殖したHeLa細胞を限界希釈し、モノクローン化した。
【0162】
(6)モノクローン化されたそれぞれのクローンよりゲノムを回収し、標的部位(一番目の標的部位)に(flox-Blastcidinカセット)-(IRES-TMGV)遺伝子断片が挿入されているかどうかをgenomic PCR法にて確認した。
【0163】
(7)標的部位に(flox-Blastcidinカセット)-(IRES-TMGV)遺伝子断片が挿入されていたクローンにCre recombinaseを一過性に遺伝子導入し(細胞を6cm dishに5×10^5細胞播種し、播種翌日にiCre-IRES-puromycin発現プラスミド 3μgをリポフェクション)、遺伝子導入翌日より細胞培養液にpuromycinを10ug/mlとなるように添加し、三日間培養した。このステップによりゲノムからBlastcidinカセットが除去され、目的ゲノム部位(一番目の標的部位)にIRES-TMGVのみが挿入された状態となる。
【0164】
(8)このようにして樹立されたモノクローン群を以下の方法によりさらに選別した:G12/13に特異的にカップルするGPCRとしてGPR55が知られている。そこで、樹立されたそれぞれのクローンにGPR55発現プラスミド+TM3C発現プラスミド+UAS-luciferaseのプラスミドカクテルを遺伝子導入し(96穴プレートの1wellあたりそれぞれ60ng、10ng、30ngをリポフェクション)、遺伝子導入24時間後にGPR55のリガンドであるLPI(lysophosphatidylinositol:3uM、300nM、0nMの3濃度を使用)で細胞を6時間刺激した。刺激後、培養上清を捨て、luciferase用の基質を添加し、発光シグナルをプレートリーダーにて測定した。このアッセイにより、LPI刺激に最も鋭敏に反応するクローンを同定し、これ以降の実験に使用した(このクローンを今後N182と記す)。
【0165】
(9)IRES-TM3C遺伝子断片をCRISPRでゲノムの標的部位(二番目の標的部位:遺伝子#2の3’UTR)にノックインするため、IRES-TM3CのN末端側にflox-Neomycin耐性遺伝子カセット(あらかじめloxPでNeomycin耐性遺伝子カセットの両脇が挟まれている)を連結し、その両端にさらにCRISPRがゲノム上で認識する核酸配列(二番目の標的部位用)と同一の配列を付加したプラスミドをpBlueScriptバックボーンで構築した。すなわち、下記のような核酸配列となる:
(CRISPR認識配列:二番目の標的部位用)-(flox-Neomycinカセット)-(IRES-TM3C)-(CRISPR認識配列:二番目の標的部位用)
以後これをTM3C donor plasmid (DP-TM3C)と記す。
【0166】
(10)CRISPRを利用してゲノムの標的部位(二番目の標的部位)にDSBを引き起こすために必要なプラスミドをpX330-U6-Chimeric_BB-CBh-hSpCas9(Addgene #42230)を基にして構築した(pV330-2nd target)。
【0167】
(11)N182細胞を6cm dishに5x10^5細胞播種し、翌日に“pV330-2nd target 3ug+DP-TM3C 0.03ug”をリポフェクション法を用いて一過性に遺伝子導入した。
【0168】
(12)遺伝子導入翌日より、細胞培養液にG418を1mg/mlとなるように添加し、約二週間培養した。
【0169】
(13)G418存在下で増殖したN182細胞にCre recombinaseを一過性に遺伝子導入し(細胞を6cm dishに5x10^5細胞播種し、播種翌日にiCre-IRES-puromycin発現プラスミド 3ugをリポフェクション)、遺伝子導入翌日より細胞培養液にpuromycinを10ug/mlとなるように添加し、三日間培養した。このステップによりゲノムからNeomycinカセットが除去され、目的ゲノム部位(二番目の標的部位)にIRES-TM3Cのみが挿入された状態となる。
【0170】
(14)G418およびpuromycin存在下で増殖したN182細胞を限界希釈し、モノクローン化した。
【0171】
(15)モノクローン化されたそれぞれのクローンよりゲノムを回収し、標的部位(二番目の標的部位)にIRES-TM3C遺伝子断片が挿入されているかどうかを、genomic PCR法にて確認した。
【0172】
(16)標的部位にIRES-TM3C遺伝子断片が挿入されていたクローンを以下の方法によりさらに選別した:樹立されたそれぞれのクローンにGPR55発現プラスミド+UAS-luciferaseのプラスミドカクテルを遺伝子導入し(96穴プレートの1wellあたりそれぞれ60ng、30ngをリポフェクション)、遺伝子導入24時間後にGPR55のリガンドであるLPI(lysophosphatidylinositol:3uM、300nM、0nMの3濃度を使用)で細胞を6時間刺激した。刺激後、培養上清を捨て、luciferase用の基質を添加し、発光シグナルをプレートリーダーにて測定した。このアッセイにより、LPI刺激に最も鋭敏に反応するクローンを同定した(このクローンを今後NCP19と記す)。
【0173】
新規GPCRアッセイ系のアッセイプロトコール
使用するプラスミド
(1)評価したいGPCRを発現するプラスミド (GPCR発現プラスミド)
(2)UAS-luciferase(sGVによりluciferaseの発現が誘導される人工レポーター遺伝子)
【0174】
使用する細胞
NCP19(図6
【0175】
手順
Day1:NCP19細胞を24000cells/wellの密度で96穴プレートに播種する。
【0176】
Day2:96穴プレートに播種してから24時間以内に1wellあたりDNA90ng(GPCR 60ng+UAS-luciferase 30ngからなるプラスミドカクテル)をリポフェクション法により遺伝子導入する。
【0177】
Day3:遺伝子導入24時間後に細胞をリガンドにより刺激。6時間刺激後、培養上清を捨て、luciferase用の基質を添加し、発光シグナルをプレートリーダーにて測定する。
【0178】
GPCRとして、以下の受容体:GPR55(G12/13)、LPAR6(G12/13)、OPRM1(Gi/o)、SSTR2(Gi/o)、HRH1(Gq/11)、GPR119(Gs)、Adrb2(Gs)およびADORA2A(Gs)を用いた。
【0179】
[従来法]
GPR55およびLPAR6について、従来法での検出も試みた。詳細は以下のとおり。
使用する細胞:HeLa細胞(ATCCより購入)、HEK293T細胞
使用するプラスミド
(1)評価したいGPCRを発現するプラスミド(GPCR発現プラスミド)
本実験においてはGPR55およびLPAR6発現プラスミド
(2)SRF-luciferase
【0180】
Day1:HeLa細胞もしくはHEK293T細胞を24000cells/wellの密度で96穴プレートに播種した。
【0181】
Day2:96穴プレートに播種してから24時間以内に1wellあたりDNA90ng(GPCR 60ng+SRF-luciferase 30ngからなるプラスミドカクテル)をリポフェクション法により遺伝子導入した。
【0182】
Day3:遺伝子導入24時間後に細胞をリガンドにより刺激(刺激濃度は図7を参照)。6時間刺激後、培養上清を捨て、luciferase用の基質を添加し、発光シグナルをプレートリーダーにて測定した。
【0183】
これらについての結果は、図7中で「SRF-luc+HeLa(ATCC)」および「SRF-luc+HEK293T」として示される。
【0184】
また、GPR55およびLPAR6について、外因性プロテアーゼを用いたシグナル検出も行った。このアッセイ系は、プロテアーゼが、構成的なプロモーターでプロテアーゼを発現するプラスミドを介して外因性に導入されている点でNCP19細胞を利用したアッセイ系と異なっている。より詳細には以下のとおり。
使用する細胞:N182細胞(TMGVのみが既にゲノムにノックインされている細胞)
使用するプラスミド
(1)評価したいGPCRを発現するプラスミド(GPCR発現プラスミド)
本実験においてはGPR55およびLPAR6発現プラスミド
(2)TM3C発現プラスミド(プロテアーゼを構成的なプロモーターで発現するプラスミド)
(3)UAS-luciferase
【0185】
Day1:N182細胞を24000cells/wellの密度で96穴プレートに播種した。
【0186】
Day2:96穴プレートに播種してから24時間以内に1wellあたりDNA100ng(GPCR 60ng+TM3C 10ng+UAS-luciferase 30ngからなるプラスミドカクテル)をリポフェクション法により遺伝子導入した。
【0187】
Day3:遺伝子導入24時間後に細胞をリガンドにより刺激(刺激濃度は図8を参照)。6時間刺激後、培養上清を捨て、luciferase用の基質を添加し、発光シグナルをプレートリーダーにて測定した。
【0188】
これについての結果は、図8中で「細胞膜型人工転写因子(ノックイン)+プロテアーゼ(外来性)」として示される。
【0189】
また、GPR119(Gs)、Adrb2(Gs)およびADORA2A(Gs)について、従来Gsの活性化に用いられているCre-レポーター系を用いる検出も行った。詳細は、以下のとおり。
【0190】
使用する細胞:HeLa細胞
使用するプラスミド
(1)評価したいGPCRを発現するプラスミド (GPCR発現プラスミド)
本実験においてはGPR119、Adrb2およびADORA2A発現プラスミド
(2)CRE-luciferase
【0191】
Day1:HeLa細胞を24000cells/wellの密度で96穴プレートに播種した。
【0192】
Day2:96穴プレートに播種してから24時間以内に1wellあたりDNA90ng(GPCR 60ng+CRE-luciferase 30ngからなるプラスミドカクテル)をリポフェクション法により遺伝子導入した。
【0193】
Day3:遺伝子導入24時間後に細胞をリガンドにより刺激(刺激濃度は図10を参照)した。6時間刺激後、培養上清を捨て、luciferase用の基質を添加し、発光シグナルをプレートリーダーにて測定した。これについての結果は、図10にCRE-reporter(従来法)として示される。
【0194】
[結果]
各濃度のリガンドの添加により、各アッセイ系から得られたシグナル(発光強度・リガンド最低濃度時のシグナルからの変化倍率)を、図7図11に示す。上記アッセイプロトコールにより、リガンド濃度の増加に伴うシグナルの増大が観察された。
【0195】
[考察]
上記のアッセイプロトコールにより、「G12/13にカップルするGPCR」の活性化は問題なく評価できた(図7および8)。本アッセイ系の目的の1つであった「G12/13にカップルするGPCR」の高感度の評価が達成された。従来法では活性化が評価できていない(図7)。
【0196】
また、因子のうちの1つを遺伝子座にノックインしなかった場合(プロテアーゼを外因性とした場合)と比較して、リガンド濃度依存的なシグナルの増大がより大きくなっていた(図8)。これは、2つの因子のそれぞれがリガンド刺激の下流での転写調節の影響を受けるようにすることがシグナルの増大において重要であることを示唆している。
【0197】
さらに、同じアッセイプロトコールにより「GqにカップルするGPCR」、「GiにカップルするGPCR」も評価することが可能であった(図9および図11)。また、Gsに関しては、試験された3つのGsにカップルするGPCRの活性化について、従来法であるCRE-レポーターアッセイでは検出できなかったが、GPR119において、上記アッセイプロトコールによってシグナルが検出された(図10)。
【0198】
<実施例A4:受容体型チロシンキナーゼFlt3の活性化の検出>
[概要]
本実施例は、NCP19細胞を用いたアッセイ系により、GPCRだけでなく他の受容体の活性化状態をモニターできることを示すことを目的とする。本実施例ではGPCR以外の細胞膜受容体の一例として受容体型チロシンキナーゼファミリーに属するヒトFlt3(hFlt3)を実験対象とした。
【0199】
[材料および方法]
使用する細胞:NCP19
使用するプラスミド
(1) hFlt3を発現するプラスミド(hFlt3発現プラスミド)
(2) UAS-luciferase
【0200】
Day1:NCP19細胞を24000cells/wellの密度で96穴プレートに播種した。
【0201】
Day2:96穴プレートに播種してから24時間以内に1wellあたりDNA90ng (hFlt3 60ng+UAS-luciferase 30ngからなるプラスミドカクテル)をリポフェクション法により遺伝子導入した。
【0202】
Day3:遺伝子導入24時間後に細胞をリガンドにより刺激(Flt3-Ligand:30、3、0.3、0.03、0ng/mlの濃度にて)。6時間刺激後、培養上清を捨て、luciferase用の基質を添加し、発光シグナルをプレートリーダーにて測定した。
【0203】
[結果]
結果を、図12に示した。図12に示されるように、Flt3-Ligandの添加によるhFlt3の活性化がルシフェラーゼの発光として検出された。NR4A1およびCTGF遺伝子の転写調節領域にTMGVおよびTM3CがノックインされているNCP19細胞を用いたアッセイ系により、GPCRだけでなく他の受容体の活性化状態をモニターできることが示された。
【0204】
<実施例A5:ヒトEGF受容体の活性化の検出>
[概要]
本実施例は、NCP19細胞を用いたアッセイ系により、GPCRだけでなく他の受容体の活性化状態をモニターでうることを示すことを目的とする。本実施例ではGPCR以外の細胞膜受容体の一例として受容体型チロシンキナーゼファミリーに属するヒトEGF受容体を実験対象とした。尚、ヒトEGF受容体であるhEGFR、hErbB2、hErbB3はNCP19細胞に内在性に発現している。
【0205】
[材料および方法]
使用する細胞:NCP19
使用するプラスミド
UAS-luciferase
【0206】
Day1:NCP19細胞を24000cells/wellの密度で96穴プレートに播種した。
【0207】
Day2:96穴プレートに播種してから24時間以内に1wellあたりDNA30ng (UAS-luciferase 30ng)をリポフェクション法により遺伝子導入した。
【0208】
Day3:遺伝子導入24時間後に細胞をリガンドにより刺激した(EGF:10nM、1nM、0.1nM、0,01nM、0nMの濃度にて)。6時間刺激後、培養上清を捨て、luciferase用の基質を添加し、発光シグナルをプレートリーダーにて測定した。
【0209】
[結果]
結果を、図13に示した。図13に示されるように、EGFの添加によるEGF受容体の活性化がルシフェラーゼの発光として検出された。NR4A1およびCTGF遺伝子の転写調節領域にTMGVおよびTM3CがノックインされているNCP19細胞を用いたアッセイ系により、GPCRだけでなく他の受容体の活性化状態をモニターできることが示された。
【0210】
<実施例A6:GPCRの解析>
上記実施例に記載される方法に従って、以下のGPCRのいずれかを細胞に発現させる。上記実施例に記載される方法に従って、GPCRを発現させた細胞をリガンド刺激し、受容体の活性化状態をモニターする。
【0211】
【表4-1】
【0212】
【表4-2】
【0213】
<実施例B1:キメラGタンパク質>
[概要]
GsにカップルするGPCRの一部(Adrb2、ADORA2A)については、上記のアッセイプロトコールを用いた場合に活性化が検出されなかった(図10)。プロトコールの変更により、「GsにカップルするGPCR」の効率の良い評価を実現するため、以下の実験を行った。
【0214】
[材料および方法]
実施例A3のプロトコールにおいて、Day2を以下のとおり変更し、その他は同様にしてAdrb2およびADORA2A(Gs)の活性化の評価を行った。
【0215】
<変更点>
Day2:96穴プレートに播種してから24時間以内に1wellあたりDNA120ng(GPCR 60ng+UAS-luciferase 30ng+G12/s chimera 30ngからなるプラスミドカクテル)をリポフェクション法により遺伝子導入する。
【0216】
G12/sキメラ
Gタンパク質の受容体への配向性はGαサブユニットのC末端の数個のアミノ酸配列で決定される。よって、胴体部分はすべてGα12由来で、C末端最後の6アミノ酸のみGαs由来となるGα12/sキメラ(今後は単にG12/sキメラと呼ぶ)を作成した(下記アミノ酸配列を参照のこと)。このG12/sキメラは「GsにカップルするGPCR」とカップルすることが可能で、しかも野生型G12が活性化されたときに生じる細胞内シグナルと同じシグナルを細胞内に惹起することができる。
【0217】
キメラGタンパク質の作製については、Conklin BR et al Nature 363:274-276, 1993およびConklin BR et al Mol.Pharmacology 50:885-890, 1996等を参考とすることができる。
【0218】
このようなキメラを、高効率でG12/13タンパク質の活性化を評価することができる系と併せて利用することによって、Gsタンパク質と共役するGPCRの活性化を成功裡に評価することができる。G12/13タンパク質の活性化をGq経路に変換して評価する目的でGq/12キメラを構築したものが報告されているが、G12/13タンパク質の活性化を評価することが困難である場合には、G12/sキメラを同様の目的で使用することはできない。
【0219】
【化1】
【化2】
【化3】
【0220】
[結果]
本実施例のプロトコールを用いた場合、Adrb2およびADORA2Aのいずれについても、リガンド濃度依存的なシグナルの増大を検出することができた(図10)。
【0221】
[考察]
上記変更により、「GsにカップルするGPCR」の活性も効率よく評価することが可能であることが示される。また、この結果から、「どのGタンパク質にカップルするか不明のGPCR(オーファンGPCR)」を評価する際にも上記のように変更したプロトコールの使用が望ましいと考えられる。
【0222】
実施例Aの結果と併せて考慮すると、本発明のGPCRアッセイ系において、G12/13タンパク質が特異的に活性化された際に発現誘導がかかる2つの異なる遺伝子の3’UTRに上記の(1)IRES-TMGVおよび(2)IRES-TM3Cをノックインすることで樹立したレポーター細胞NCP19を使用したところ、予想どおり「G12/13にカップルするGPCR」を高感度に評価できただけでなく、「GsにカップルするGPCR」、「GqにカップルするGPCR」、「GiにカップルするGPCR」まで網羅的かつ高感度に評価できるという予想外の利点が判明した。
【0223】
<実施例B2:G12に基づくキメラGタンパク質>
[概要]
本実施例は、NCP19細胞を用いたアッセイ系において、G12/sキメラ以外のキメラGタンパク質も有用であることを示すことを目的とする。Giに共役する受容体として知られるヒトソマトスタチン2型受容体(hSSTR2)およびG12/iキメラを実験対象とした。
【0224】
[材料および方法]
使用する細胞:NCP19
使用するプラスミド
(1)hSSTR2を発現するプラスミド(hSSTR2発現プラスミド)
(2)UAS-luciferase
(3)G12/iキメラ蛋白質を発現するプラスミド(G12/i発現プラスミド)
【0225】
なお、ヒトGi1アミノ酸配列および本実施例で用いたキメラG12/iの配列は以下のとおりであった。
【0226】
【化4】
【化5】
【0227】
Day1:NCP19細胞を24000cells/wellの密度で96穴プレートに播種した。
【0228】
Day2:96穴プレートに播種してから24時間以内に1wellあたりDNA100ng(hSSTR2 50ng+UAS-luciferase 25ng+G12/i-chimera(またはmock) 25ng)からなるプラスミドカクテル)をリポフェクション法により遺伝子導入した。
【0229】
Day3:遺伝子導入24時間後に細胞をリガンド(ソマトスタチン)により刺激した(SST14:100、30、10、1、0.1、0nMの濃度にて)。6時間刺激後、培養上清を捨て、luciferase用の基質を添加し、発光シグナルをプレートリーダーにて測定した。
【0230】
[結果]
結果を図11に示した。G12/iキメラタンパク質なしでも活性は十分に検出できる(図11左)が、キメラ存在下では、その活性検出能が有意に改善される(図11右)。なお、左図と右図において、縦軸のスケールが約20倍程異なることに注意されたい。
【0231】
<実施例C:タンパク質が活性化された際に発現誘導がかかる遺伝子群の同定手順>
[概要]
本発明のアッセイ系の構築のための、使用する細胞において目的タンパク質の活性化によって発現が誘導される遺伝子の同定方法を実証する。
【0232】
[材料および方法]
Gタンパク質G12/13を特異的に活性化させるGPCRとしてGPR55およびLPAR6の2つの受容体が知られている。そこでHeLa細胞と、GPR55およびLPAR6とを用いて、以下のような7条件で実験を施行した。なお、LPIはGPR55のリガンド、LPA(Lysophosphatidic acid)はLPAR6のリガンド、としてそれぞれ機能することが既に知られている物質である。
条件1 HeLa細胞(野生型)
条件2 HeLa細胞(野生型)+mock+LPI10uM:1時間刺激
条件3 HeLa細胞(野生型)+GPR55+Vehicle:1時間刺激
条件4 HeLa細胞(野生型)+GPR55+LPI10uM:1時間刺激
条件5 HeLa細胞(野生型)+mock+LPA10uM:1時間刺激
条件6 HeLa細胞(野生型)+LPAR6+Vehicle:1時間刺激
条件7 HeLa細胞(野生型)+LPAR6+LPA10uM:1時間刺激
【0233】
上記条件7を例にとり、以下に実験手順を説明する(図14を参照)。
【0234】
Day1:HeLa細胞を6cm dishに5x10^5細胞播種
Day2:LPAR6を発現するプラスミド 2ugをリポフェクション法にてHeLa細胞に遺伝子導入
Day3:遺伝子導入より24時間経過後、細胞をLPA10uMにて1時間刺激。刺激後すぐに細胞よりtotal RNAを回収。
【0235】
実験はそれぞれの条件につき、triplicateで施行した。よって、サンプル数は全部で21サンプル(7x3=21)となった。
【0236】
上記実験手順にて回収された21個のtotal RNAサンプルを次世代シークエンサーを利用したRNA seq解析に供した。
実験(1):条件1、2、3および4の4群間で比較
実験(2):条件1、5、6および7の4群間で比較
【0237】
実験(1)においては条件4でのみ、実験(2)においては条件7でのみ、発現量が有意に上昇している遺伝子をリストアップした。
【0238】
RNA-Seq解析は、GeneWiz(日本)に委託して行った。シーケンシングに使用した次世代シークエンサーはIllumina HiSeq 4000であり、シークエンシングは150ペアエンドで行った。サンプルあたり2000~2600万PEリード(6~8GB)が得られた。
【0239】
TruSeq Stranded mRNA Library Prepキット(Illumina)をライブラリー調製に使用した。シーケンシングデータについては、アダプター配列をCutadapt(http://cutadapt.readthedocs.io/en/stable/)で除去し、低クオリティ塩基(Phredクオリティスコア<20)を有する3’末端をTrimmomatic(https://github.com/timflutre/trimmomatic)によってトリミングした。次に、すべてのサンプルが2×10を超える総リードカウントを有することを確認した。リードを、STAR ver2.5.2b(https://github.com/alexdobin/STAR)を用いてmm9参照配列にアライメントした。ユニークマッピング率>90%のサンプルは、その後の分析に使用可能であった。Cufflinksパッケージver2.2.1を用いて、遺伝子発現の定量化および示差的発現解析を行った(http://cole-trapnell-lab.github.io/cufflinks)。
【0240】
[結果]
この二つの実験において共通してリストアップされた遺伝子を目的の遺伝子群とした。
【0241】
当該遺伝子群を以下の表5に示す。
【0242】
【表5】
【0243】
さらにこの他、以下の遺伝子において発現変動が観察された:
THBS1、AREG、SLFNL1、SLFNL1-AS1、CDH5、NR4A2、CYR61およびCRISPLD2(少なくともいずれかの実験で10倍以上の発現変動);
FOSL1、TNFAIP3、EPPK1、NUAK2、CXCL2、KDM6B、PHLDA1、CSRNP1、TAGLN、PTGER4、JUN、ATF3、NCOA7、ADAMTS1、EDN1、ZC3H12C、PTGS2、DCUN1D3、ITPRIP、JUNB、SDC4、ERRFI1、SRF、MYADM、MMP12、MAFF、RCAN1、F3、IL6、LDLR、KRT34、EDN2、GADD45A、KRT17、TUFT1、MN1、DUSP4、KLF6、REL、ABL2、CITED2、MAFK、RND3、KLF2、TRIB1およびPHLDB2(いずれの実験でも5倍以上の発現変動);
RASD1、SOWAHC、DUSP8、OTUD1、ARL5B、ETV3、ZFP36、NAV2、ITGB8、SERPINE1、NOCT、ZBTB10、BMP2、TRAF1、EPHA2、IER2、TNS4、ELMSAN1、ADAMTS5、TSC22D2、ZNF281、BCL10、RNF217、BTG2、ELL2、KIAA1217、GPCPD1、NAB2、MCL1、TIPARP、EPGN、RIMKLB、IER5、C8orf4、ADM、KRT16、NFKBID、ZNF331、SERTAD1、PSD4、DAPP1(いずれかの実験で5倍以上の発現変動);ならびに
WEE1、TBX3、PMAIP1、ARID5B、BACH1、ZFP36L2、VGLL3、GATA6、AKAP2、PLAUR、TICAM1、JAG1、SLC7A11、FOXC2、HBEGF、GPRC5A、KCNJ12、STARD4、YOD1、RHOB、IRS2、SLC30A7、C19orf71、PPP1R15B、USP36、BHLHE40、LIFR、STK38L、LOC100129550、RUNX1、CEBPD、KLF7、KLF5、LATS2、HECA、PPP1R3B、GADD45B、BIRC3、NT5DC3、ATXN7、ZNF644、FOSL2、PER2、MAP3K14、NABP1、FGF2、NFKBIA、JUND、RC3H1、RUSC2、DUSP16、ELF3、NEDD9、FAM86B3P、CREM、IQCJ-SCHIP1、HK2、ZNF548、ZNF217、PER1、AHR、SLC2A13、PDP1、HRH1、PFKFB3、TPPP、JPH2、CPEB4、MB21D2、HLA-H、SLC38A2、FRMD4B、PTPRH、SSC5D、PLEKHO2、EGLN1、FOXC1、PDE4D、CPEB3、ZSWIM4、TGFBR1、PRG2、CCDC68、IER3、FBLIM1、RASSF8、USP2、PPTC7、CDC42EP2、ZFAND5、SGK1、TNFRSF8、LYPD3、CITED4、MYH9、SIK1、SGMS2、ZC3H12A、DUSP1、IRF2BPL、ZFP36L1、EPAS1、TMEM160、NCEH1、KLF9、TMEM158、NAB1、RNF19A、KCNK1、PRDM1、IRF2BP2、CHD1、MXD1、KIAA0355、ELL、PIGA、CNN2、ABHD13、MESDC1、SCML1、TGFBR3、DDAH1、ANKRD33B、MAP3K8、MAP2K3、SOCS6、MPZL3、UGCG、AEN、CDKN1A、C9orf72、CHD2、RNF19B、VCL、MFSD2A、RELT、HELZ2、ZNF529、ADAP1、RP2、FBXO46、ETS2、ANKRD1、NFKBIE、SH3RF1、SFMBT2、AEBP2、ZYX、HES4、CBX4、GLI2、SNRK、MTCL1、MITF、ARHGAP28、ELAVL2、PMP22、SOCS3、MALAT1、WDR37、SLC2A3、COQ10B、CCNL1、PXDC1、SLC26A2、PIM1、FAM60A、OLR1、STX11、ZBTB21、SPRED2、CTTNBP2NL、CCNT1、ZNF324、UBALD1、LIMA1、ACTG1、SLC19A2、PRRG1、TLE4、ICAM1、IFFO2、PLEKHG3、ARHGAP23、GAB2、NYAP2、DKK1、NT5E、DENND3、USP53、CD83、MC1R、PANX1、SLC20A1、KLF4、TNFRSF10A、SIRT1、DNAJB4、STEAP4、PHLDA3、FAT4、C1QTNF1、AP1AR、KRT80、ZC3HAV1、SAV1、ACKR3、TP53I11、CMIP、RGS2、CDKN2AIP、ADRB2、TSC22D1、TM4SF1、FBXO33、CSRP1、BMPR1B、RELB、NTN4、ATP2B1、CDC42SE1、ALDH1B1、TRMT44、ROR1、VPS37B、TRAF4、PPP2R3A、HSPA2、DAAM1、LINC00657、CASZ1、DAW1、ALPK2、GRAMD3、RAB20、MAMDC2、SAMD4A、RASAL2、WWC2、RAP1GAP2、DNAJC6、PPP1R3C、TPM4、KIAA0825、WDR1、NFKB2、FSTL3、ARHGAP32、NFIL3、ZNF267、HMGCS1、FHL2、TPM1、KLHL29、CRB1、SLC25A16、MFAP5、FHL1、MMP24、RAB32、IL32およびARHGDIB(いずれの実験でも2~5倍の発現変動)。
【0244】
これらの遺伝子についても、本明細書に記載される方法において、「発現が誘導される遺伝子」として使用し得る。
【0245】
[考察]
上述の手順によって、特定のタンパク質の活性化によって発現が誘導される遺伝子群を同定できることが示された。このような遺伝子群を用いて、本明細書に記載される複数因子を連結したレポーター系を構築することができる。
【0246】
実施例AおよびBにおいては、HeLa細胞を用いたが、タンパク質活性化により異なる発現調節が生じる細胞を用いる場合、本実施例の手順によって、発現が誘導される遺伝子群を同定してアッセイ系を構築することが可能である。
実際に、後述する実施例Eに示すように、本実施例の手順によってHEK293T細胞を使用して同様のアッセイ系を作製することに成功した。
【0247】
<実施例D1:細胞アレイ>
上述の実施例AおよびBに記載される手順に従い、それぞれが複数の異なる受容体を過剰発現する複数の細胞を提供する。複数のウェルを有するアレイにおいて、それぞれの細胞を各ウェル内で維持する。被験化合物をアレイ上にアプライすることによって、複数の受容体に対する被験化合物の作用の網羅的な調査を簡便に行うことができる。
【0248】
受容体としてはGPCRを用いることができ、実施例AおよびBに記載される細胞を用いることにより、受容体以外の部分の構成が同一である細胞を用いて、GsにカップルするGPCR、GqにカップルするGPCR、GiにカップルするGPCR、およびG12/13にカップルするGPCRの全てに対する被験化合物の作用を同時に調査することができる。
【0249】
<実施例D2:コンストラクト>
ある膜タンパク質によって発現が誘導される第1~第Nの遺伝子の転写調節領域の配列を用いて、第1~第Nの遺伝子の転写調節領域の配列をそれぞれ含む第1~第Nのコンストラクトを提供する。それぞれのコンストラクトは、特定の因子をコードする配列を、転写調節領域と作動可能に連結した状態で含む。それぞれの因子は、他の因子の活性を促進するものである。それぞれのコンストラクトは、一連の核酸分子上に存在してもよく、異なる核酸分子上に存在してもよい。
【0250】
第1~第Nのコンストラクトは、細胞を化合物スクリーニング用に改変するためのキット中で提供される。キットは、膜タンパク質を過剰発現させるためのコンストラクトを含み得る。キットは、因子のいずれかにより発現が惹起されるように構成されたレポーター遺伝子を含むコンストラクトを含み得る。
【0251】
<実施例D3:解析>
全ヒトGPCRに対応する細胞を含む実施例D1のアレイを用いて、被験化合物の全ヒトGPCR(匂い受容体を除く)に対する活性を調査する。アレイの各ウェルの反応から、被験化合物が、どのGPCRに対して活性を有するかを調べることができる。これにより、被験化合物が、いずれかのヒトGPCRに対してOff-Target活性を有するか、あるいはOff-Target活性がないことを確認することができる。これにより、例えば、臨床試験開始後に予想外の副作用で臨床試験が中止になるリスクを軽減出来る。また、ある活性が知られた化合物についても、全ヒトGPCRに対する活性を評価することで新規の活性を同定することができる。
【0252】
<実施例D4:1細胞アッセイによるハイスループットスクリーニング>
マイクロ流路ディスクあるいはその他の1細胞アッセイシステムを用い、各チェンバーに1個の細胞を培養する。多数の異なる受容体プラスミドを含む適当に低濃度なトランスフェクション試薬を用意し、これを多数のチェンバーの細胞に一気にアプライする。こうすることで、試薬に含まれる受容体群のサブセットを各細胞にトランスフェクトさせることができる(試薬に100種類の受容体プラスミドが含まれるとして、そのうち数種類が各々の細胞にトランスフェクトすることが想定される)。試薬中の受容体プラスミド濃度が低いので、各細胞にトランスフェクトされる受容体は確率論的に決まる。最後に単一の化合物あるいは複数の化合物の混合物を複数のチェンバーの細胞に一気にアプライする。洗浄し別の化合物をアプライすることを繰り返してもよい。反応があったチェンバーの細胞にシングルセルPCRを掛けることで、化合物に応答する受容体候補を効率よく絞りこむことができる。
【0253】
<実施例D5:細胞にストレスを与える化合物の探索>
本明細書で記載されているノックインレポーター細胞であるNCP19細胞は、様々な細胞膜受容体がそれらに対応するリガンドで刺激された際に惹起されるシグナルを感知できるだけでなく、細胞そのものがストレスを受けた際のストレス応答もモニターできるものと予想される。よって、細胞膜受容体などを外因性に遺伝子導入することなしに、NCP19細胞そのものに被検化合物を作用させることで、その化合物が細胞にストレス応答を誘導する化合物であるかを検討できるアッセイ系となりうる。
【0254】
<実施例D6:癌遺伝子(発癌性変異体)の探索>
本明細書の実施例A4およびA5で示すように、本明細書で記載されているノックインレポーター細胞であるNCP19細胞は、GPCRだけでなく、受容体型チロシンキナーゼがそのリガンドで活性化された際に生じる細胞内シグナル(増殖シグナル)も感知できる。このことはすなわち、遺伝子変異によって恒常的な活性化状態にある受容体型チロシンキナーゼ変異体(これらは多くの場合、細胞において癌遺伝子として機能する)をNCP19に一過性に外因性に遺伝子導入すれば、NCP19細胞におけるレポーター活性はリガンド刺激非依存的に高値を示す事が予想される。よって、NCP19細胞に様々な癌遺伝子候補変異体を一過性に導入し、それらの変異体それぞれが惹起するレポーター活性を調べれば、どの候補変異体分子がより強力な細胞増殖活性を有するかワンステップで検証することが可能となる。
【0255】
<実施例D7:苦味受容体>
上述の実施例AおよびBに記載される手順に従い、それぞれが複数の苦味受容体を過剰発現する複数の細胞を提供する。複数のウェルを有するアレイにおいて、それぞれの細胞を各ウェル内で維持する。被験化合物をアレイ上にアプライすることによって、被験化合物の苦味受容体への作用の網羅的な調査を簡便に行うことができる。
【0256】
<実施例D8:オーファン受容体>
上述の実施例AおよびBに記載される手順に従い、リガンド未知の受容体を過剰発現する細胞を提供する。複数のウェルを有するアレイにおいて、細胞を各ウェル内で維持する。複数の被験化合物をアレイ上にアプライすることによって、オーファン受容体を活性化させる化合物の網羅的なスクリーニングを簡便に行うことができる。
【0257】
<実施例E:異なる細胞でのアッセイ系の構築>
[概要]
HeLa細胞以外の細胞株を用いて、本発明のアッセイ系を構築し、被験化合物のスクリーニングを行うことができることを実証する。
【0258】
[材料および方法]
(発現変動遺伝子の同定)
HEK293T細胞において、Gタンパク質G12/13を特異的に活性化させるGPCR(GPR55もしくはLPAR6)と、当該GPCRのリガンドとして機能することが既に知られている物質を用いて実験を施行する。
条件1 HEK293T細胞(野生型)
条件2 HEK293T細胞(野生型)+mock+リガンド10uM:1時間刺激
条件3 HEK293T細胞(野生型)+GPCR+Vehicle:1時間刺激
条件4 HEK293T細胞(野生型)+GPCR+リガンド10uM:1時間刺激
【0259】
実施例Cに記載される条件に従い、total RNAサンプルを回収し、次世代シークエンサーを利用したRNA seq解析に供し、条件4でのみ発現量が有意に上昇している遺伝子をリストアップした。
リストアップされた遺伝子を目的の遺伝子群とした。当該遺伝子群を以下の表6に示す。
【0260】
【表6】
【0261】
さらにこの他、以下の遺伝子において発現変動が観察された:
NR4A2, LOC100506747, NR4A1, EPPK1, JUN, AMOTL2, FLNA, ARC, IER2, JUNB(少なくともいずれかの実験で5倍以上の発現変動);ならびに
CNN2, DUSP1, MAFF, GPR3, TPM1, PTGS2, ATF3, G0S2, TRIB1, SNAI2, PDLIM7, NFKBIZ, TIMP3, FHL2, SPRY2, FOSL2, FERMT2, VCL, NUPR1, TPM4, GRASP, NKX2-5, TUFT1, ID1, FOSL1, MYADM, ACTB, LPP, KLF7, KLF6, ADAMTS1, BTG2, ACTG1, CSRNP1, WDR1, SRF, GEM, ZYX, NR2F1, LOC101928358, ITPRIP, FUT1, COL3A1, LIMA1, SLC8A1, JAG1, SLC6A9, PMAIP1, SLC2A10, PCK2, ZFP36L1, MAFB, CBX4, FZD10, ZBTB10, JDP2, ZNF214, RHOB, ID2, RND3, IRF2BPL, BMP2, SOX4, JUND, SLC1A4, PNRC1, SYBU(少なくともいずれかの実験で2倍以上の発現変動)
【0262】
(インディケーター細胞の構築)
リストアップされた遺伝子から遺伝子#1としてFOS、遺伝子#2としてFOSBを選択した。
【0263】
実施例A3に記載される手順に従い、HEK293T細胞のFOSおよびFOSBの遺伝子座の3’UTRにTMGVおよびTM3Cをノックインした。
【0264】
(アッセイ性能の確認)
上記細胞にGPCR発現プラスミドおよびUAS-レポーター遺伝子のプラスミドを導入し、当該GPCRリガンドで細胞を刺激した。GPCRとして、以下の受容体:GPR55(G12/13), LPAR6(G12/13), Adrb2(Gs), HRH1(Gq/11), OPRM1(Gi/o), SSTR2(Gi/o)を用いた。また、上記細胞を使用して受容体型チロシンキナーゼ(Flt3およびEGFR)の活性化も測定した。
【0265】
[結果]
各濃度のリガンドの添加により、各アッセイ系から得られたシグナル(発光強度・リガンド最低濃度時のシグナルからの変化倍率)を図15-図18に示す。HeLa細胞で作製されたインディケーター細胞と同様に、HEK293T細胞で作製されたインディケーター細胞においても、検定した各受容体においてリガンド濃度の増加に伴うシグナルの増大が観察された。
[考察]
本実施例の結果より、本発明のインディケーター細胞は、実施例A3の方法により細胞株の種類によらず作製されうることが示された。
【0266】
<実施例F:異なる因子でのアッセイ系の構築>
細胞において、Gタンパク質G12/13の活性化により発現が増加する遺伝子#1および遺伝子#2の遺伝子座に、第1の因子および第2の因子をノックインする。
【0267】
例えば、第1の因子としてリン酸化されることで転写活性がオンになる転写因子、第2の因子として第1の因子をリン酸化するリン酸化酵素を使用できる。
【0268】
あるいは、第1の因子として人工不活性型転写因子、第2の因子としてプロテアーゼを使用できる:プロテアーゼにより人工不活性型転写因子の一部の構造が取り除かれることにより、転写因子内に存在する核移行シグナルが表層化し、核移行可能な活性型転写因子になる。もしくはプロテアーゼにより人工不活性型転写因子の一部の構造が取り除かれることにより、転写因子内に存在するDNA結合ドメインや転写活性化ドメインが作動可能となり活性型転写因子になる。
【0269】
(注釈)
以上のように、本発明の好ましい実施形態を用いて本発明を例示してきたが、上述の説明および実施例は、例示の目的のみに提供され、本発明を限定する目的で提供したのではない。従って、本発明は、本明細書に具体的に記載された実施形態にも実施例にも限定されず、請求の範囲によってのみその範囲が解釈されるべきであることが理解される。本明細書において引用した特許、特許出願および文献は、その内容自体が具体的に本明細書に記載されているのと同様にその内容が本明細書に対する参考として援用されるべきであることが理解される。
【産業上の利用可能性】
【0270】
本発明のアッセイ系は、生理活性を有する化合物のスクリーニングに利用可能である。本発明は、感度およびS/Nに関して改善された(1桁以上)G12/13に共役するGPCRに対する鋭敏なアッセイ系を提供できるだけでなく、単一アッセイフォーマット下で「Gsに共役するGPCR」、「Gqに共役するGPCR」、「Giに共役するGPCR」のモニタリングも可能にする。またGPCR以外の受容体群やチャネル群にも応用可能な万能性を有する。本発明により、生理活性を有する化合物の医薬品等への利用において、生理活性を有する化合物のオンターゲットスクリーニングだけでなく、被検化合物が予想外の受容体を活性化することにより惹起される副作用を早期(臨床試験前)に予測するオフターゲットスクリーニングにも利用可能である。
【配列表フリーテキスト】
【0271】
配列番号1:HRVプロテアーゼ3C認識切断配列
配列番号2:TMGV中のリンカー配列
配列番号3:GSリンカー配列
配列番号4:ヒトG12アミノ酸配列
配列番号5:ヒトGsアミノ酸配列
配列番号6:G12/sキメラアミノ酸配列
配列番号7:ヒトGi1アミノ酸配列
配列番号8:G12/i1キメラアミノ酸配列
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
【配列表】
0007367974000001.app