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特許7368006リンゴ属植物及びリンゴ属植物の作出方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-16
(45)【発行日】2023-10-24
(54)【発明の名称】リンゴ属植物及びリンゴ属植物の作出方法
(51)【国際特許分類】
   A01H 6/74 20180101AFI20231017BHJP
   A01H 5/08 20180101ALI20231017BHJP
   A01H 5/10 20180101ALI20231017BHJP
   C12N 15/29 20060101ALI20231017BHJP
   C12N 15/56 20060101ALI20231017BHJP
【FI】
A01H6/74
A01H5/08
A01H5/10
C12N15/29 ZNA
C12N15/56
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2021202398
(22)【出願日】2021-12-14
(65)【公開番号】P2023087871
(43)【公開日】2023-06-26
【審査請求日】2022-09-27
(73)【特許権者】
【識別番号】501203344
【氏名又は名称】国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100211199
【弁理士】
【氏名又は名称】原田 さやか
(72)【発明者】
【氏名】森谷 茂樹
(72)【発明者】
【氏名】澤村 豊
(72)【発明者】
【氏名】清水 拓
(72)【発明者】
【氏名】岡田 和馬
【審査官】鳥居 敬司
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-080742(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2011/0191902(US,A1)
【文献】岡田和馬,最近の優良品種と今後の展開方向 リンゴにおける最近の優良品種と今後の展開方向,果実日本,日本,日本園芸農業協同組合連合会,2013年07月15日,第68巻第7号,pp.62-67
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00-15/90
A01H 5/00-5/12
A01H 6/00-6/88
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
カラムナー性を付与するカラムナー性対立遺伝子であって、配列番号1の塩基配列に対して95%以上の配列同一性を有するCDSを含むポリヌクレオチドからなる遺伝子と、
ポリガラクチュロネース(MdPG1)対立遺伝子であって、配列番号3の塩基配列に対して99.7%以上の配列同一性を有するCDSを含むポリヌクレオチドからなる遺伝子とを同一染色体上に有
通常樹形形質を付与するカラムナー性対立遺伝子の同一染色体上の上流配列と比較した場合に、前記カラムナー性を付与するカラムナー性対立遺伝子の同一染色体上の上流20kb以内に1000bp以上の連続する塩基配列が挿入されており、前記挿入された塩基配列がレトロトランスポゾンである、
リンゴ属植物。
【請求項2】
前記カラムナー性を付与するカラムナー性対立遺伝子が、配列番号1で示されるポリヌクレオチドからなる遺伝子である、請求項1に記載のリンゴ属植物。
【請求項3】
前記挿入された1000bp以上の連続する塩基配列が、配列番号12の配列に対して0%以上の配列同一性を有する配列中に存在する塩基配列である、請求項又はに記載のリンゴ属植物。
【請求項4】
前記MdPG1対立遺伝子が、配列番号3で示されるポリヌクレオチドからなる遺伝子である、請求項1~のいずれか一項に記載のリンゴ属植物。
【請求項5】
請求項1~のいずれか一項に記載のリンゴ属植物から得られた果実又は種子。
【請求項6】
通常樹形形質を付与するカラムナー性対立遺伝子と、ポリガラクチュロネース(MdPG1)対立遺伝子であって、配列番号3の塩基配列に対して99.7%以上の配列同一性を有するCDSを含むポリヌクレオチドからなる遺伝子とを同一染色体上に有し、これらの2遺伝子についてホモ接合型である第1の親植物体と、
カラムナー性を付与するカラムナー性対立遺伝子であって、配列番号1の塩基配列に対して95%以上の配列同一性を有するCDSを含むポリヌクレオチドからなる遺伝子と、MdPG1対立遺伝子であって、配列番号4の塩基配列に対して99.7%以上の配列同一性を有し、且つ配列番号3の塩基配列に対して99.5%以下の配列同一性を有するCDSを含むポリヌクレオチドからなる遺伝子とを同一染色体上に有し、且つ、相同染色体のもう一方の染色体において、通常樹形形質を付与するカラムナー性対立遺伝子と、MdPG1対立遺伝子であって、配列番号3の塩基配列に対して99.7%以上の配列同一性を有するCDSを含むポリヌクレオチドからなる遺伝子とを同一染色体上に有し、これらの2遺伝子についてヘテロ接合型である第2の親植物体とを交配する工程、並びに
交配により得られた後代植物から、カラムナー性を付与するカラムナー性対立遺伝子であって、配列番号1の塩基配列に対して95%以上の配列同一性を有するCDSを含むポリヌクレオチドからなる遺伝子と、
MdPG1対立遺伝子であって、配列番号3の塩基配列に対して99.7%以上の配列同一性を有するCDSを含むポリヌクレオチドからなる遺伝子とを同一染色体上に有する植物体を選抜する工程を含む、リンゴ属植物の作出方法。
【請求項7】
交配により得られた後代植物から、カラムナー性を付与するカラムナー性対立遺伝子であって、配列番号1の塩基配列に対して95%以上の配列同一性を有するCDSを含むポリヌクレオチドからなる遺伝子と、
ポリガラクチュロネース対立遺伝子であって、配列番号3の塩基配列に対して99.7%以上の配列同一性を有するCDSを含むポリヌクレオチドからなる遺伝子とを同一染色体上に有する植物体を選抜する工程において、
前記植物体が、相同染色体のもう一方の染色体において、通常樹形形質を付与するカラムナー性対立遺伝子と、
ポリガラクチュロネース対立遺伝子であって、配列番号3の塩基配列に対して99.7%以上の配列同一性を有するCDSを含むポリヌクレオチドからなる遺伝子とを同一染色体上に有するものである、請求項に記載の方法。
【請求項8】
請求項1~のいずれか一項に記載のリンゴ属植物を第1の親植物体として、第2の親植物体と交配する工程、並びに
交配により得られた後代植物から、カラムナー性を付与するカラムナー性対立遺伝子であって、配列番号1の塩基配列に対して95%以上の配列同一性を有するCDSを含むポリヌクレオチドからなる遺伝子と、
MdPG1対立遺伝子であって、配列番号3の塩基配列に対して99.7%以上の配列同一性を有するCDSを含むポリヌクレオチドからなる遺伝子とを同一染色体上に有する植物体を選抜する工程を含む、リンゴ属植物の作出方法。
【請求項9】
請求項のいずれか一項に記載の方法により得られリンゴ属植物。
【請求項10】
請求項に記載のリンゴ属植物から得られた果実又は種子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リンゴ属植物及びリンゴ属植物の作出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
円筒型の樹形を示すカラムナー(columnar)タイプリンゴは、枝が横に広がらずにしかも葉と葉の間(節間)の長さが比較的短く、樹体構造が単純でコンパクトなため、せん定及び収穫が容易にでき、省力的な栽培に適した性質である。この性質の原因遺伝子として、Co遺伝子が報告されている(非特許文献1)。
【0003】
また、リンゴの果実の日持ち性には、ポリガラクチュロネース(MdPG1)が主働因子として関与すること、3種類の対立遺伝子(MdPG1-1型、MdPG1-2型、MdPG1-3型)が存在することが知られている(非特許文献2)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【文献】Okada et al.,“Expression of a putative dioxygenase gene adjacent to an insertion mutation is involved in the short internodes of columnar apples (Malus × domestica)”,J Plant Res(2016)129:1109-1126
【文献】Costa et al.,“QTL dynamics for fruit firmness and softening around an ethylene-dependent polygalacturonase gene in apple(Malus×domestica Borkh.)”,Journal of Experimental Botany 61:3029-3039(2010)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
カラムナータイプ(カラムナー性)とリンゴの果実の日持ち性に関する研究は、これまで独立して進展しており、これまでに両者を関連づけた研究に関する報告はなかった。本研究者らは、これら2つの遺伝子の関連について新たに着目し、研究を進めたところ、カラムナー性を付与するカラムナー性対立遺伝子(Co)の近傍(約1cM)に、日持ち性に負の影響を与えるMdPG1-3型の対立遺伝子が存在し、これらが強く連鎖していて、負の連鎖関係が断ち切れない(リンケージドラッグ)という課題を新たに見出した。本発明は、この負の連鎖を断ち切り、カラムナー性を付与するカラムナー性対立遺伝子と良好な日持ち性を付与するMdPG1対立遺伝子を同一染色体上に併せ持つリンゴ属植物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決するため、鋭意研究の結果、カラムナー性と日持ち性の悪い形質との連鎖を断ち切ることに成功し、本発明を完成させるに至った。
【0007】
すなわち、本発明は、例えば、以下の形態を含む。
[1]
カラムナー性を付与するカラムナー性対立遺伝子であって、配列番号1の塩基配列に対して95%以上の配列同一性を有するコーディング配列(CDS)を含むポリヌクレオチドからなる遺伝子と、
ポリガラクチュロネース(MdPG1)対立遺伝子であって、配列番号3の塩基配列に対して99.7%以上の配列同一性を有するCDSを含むポリヌクレオチドからなる遺伝子と
を同一染色体上に有する、リンゴ属植物。
[2]
上記カラムナー性を付与するカラムナー性対立遺伝子が、配列番号1で示されるCDSを含むポリヌクレオチドからなる遺伝子である、[1]に記載のリンゴ属植物。
[3]
通常樹形形質を付与するカラムナー性対立遺伝子の同一染色体上の上流配列と比較した場合に、上記カラムナー性を付与するカラムナー性対立遺伝子の同一染色体上の上流20kb以内に1000bp以上の連続する塩基配列が挿入されている、[1]又は[2]に記載のリンゴ属植物。
[4]
上記挿入された塩基配列がレトロトランスポゾンである、[3]に記載のリンゴ属植物。
[5]
上記挿入された1000bp以上の連続する塩基配列が、配列番号12の配列に対して70%以上の配列相同性を有する配列中に存在する塩基配列である、[3]又は[4]に記載のリンゴ属植物。
[6]
上記MdPG1対立遺伝子が、配列番号3で示されるCDSを含むポリヌクレオチドからなる遺伝子である、[1]~[5]のいずれかに記載のリンゴ属植物。
[7]
[1]~[6]のいずれかに記載のリンゴ属植物から得られた果実又は種子。
[8]
通常樹形形質を付与するカラムナー性対立遺伝子と、ポリガラクチュロネース(MdPG1)対立遺伝子であって、配列番号3の塩基配列に対して99.7%以上の配列同一性を有するCDSを含むポリヌクレオチドからなる遺伝子とを同一染色体上に有し、これらの2遺伝子についてホモ接合型である第1の親植物体と、
カラムナー性を付与するカラムナー性対立遺伝子であって、配列番号1の塩基配列に対して95%以上の配列同一性を有するCDSを含むポリヌクレオチドからなる遺伝子と、MdPG1対立遺伝子であって、配列番号4の塩基配列に対して99.7%以上の配列同一性を有し、且つ配列番号3の塩基配列に対して99.5%以下の配列同一性を有するCDSを含むポリヌクレオチドからなる遺伝子とを同一染色体上に有し、且つ、相同染色体のもう一方の染色体において、通常樹形形質を付与するカラムナー性対立遺伝子と、MdPG1対立遺伝子であって、配列番号3の塩基配列に対して99.7%以上の配列同一性を有するCDSを含むポリヌクレオチドからなる遺伝子とを同一染色体上に有し、これらの2遺伝子についてヘテロ接合型である第2の親植物体とを交配する工程、並びに
交配により得られた後代植物から、カラムナー性を付与するカラムナー性対立遺伝子であって、配列番号1の塩基配列に対して95%以上の配列同一性を有するCDSを含むポリヌクレオチドからなる遺伝子と、
MdPG1対立遺伝子であって、配列番号3の塩基配列に対して99.7%以上の配列同一性を有するCDSを含むポリヌクレオチドからなる遺伝子とを同一染色体上に有する植物体を選抜する工程を含む、リンゴ属植物の作出方法。
[9]
交配により得られた後代植物から、カラムナー性を付与するカラムナー性対立遺伝子であって、配列番号1の塩基配列に対して95%以上の配列同一性を有するCDSを含むポリヌクレオチドからなる遺伝子と、
ポリガラクチュロネース対立遺伝子であって、配列番号3の塩基配列に対して99.7%以上の配列同一性を有するCDSを含むポリヌクレオチドからなる遺伝子とを同一染色体上に有する植物体を選抜する工程において、
上記植物体が、相同染色体のもう一方の染色体において、通常樹形形質を付与するカラムナー性対立遺伝子と、
ポリガラクチュロネース対立遺伝子であって、配列番号3の塩基配列に対して99.7%以上の配列同一性を有するCDSを含むポリヌクレオチドからなる遺伝子とを同一染色体上に有するものである、[8]に記載の方法。
[10]
[1]~[6]のいずれか一項に記載のリンゴ属植物を第1の親植物体として、第2の親植物体と交配する工程、並びに
交配により得られた後代植物から、カラムナー性を付与するカラムナー性対立遺伝子であって、配列番号1の塩基配列に対して95%以上の配列同一性を有するCDSを含むポリヌクレオチドからなる遺伝子と、
MdPG1対立遺伝子であって、配列番号3の塩基配列に対して99.7%以上の配列同一性を有するCDSを含むポリヌクレオチドからなる遺伝子とを同一染色体上に有する植物体を選抜する工程を含む、リンゴ属植物の作出方法。
[11]
[8]~[10]のいずれか一項に記載の方法により得られるリンゴ属植物。
[12]
[11]に記載のリンゴ属植物から得られた果実又は種子。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、カラムナー性を付与するカラムナー性対立遺伝子及び良好な日持ちを付与するポリガラクチュロネース(MdPG1)対立遺伝子の両方を同一染色体上に有するリンゴ属植物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、実施例における、目的個体の作出過程を示す。各個体における相同染色体(第10染色体)を示す。目的個体におけるMdPG1-2及びCoのハプロタイプは、世代を経ても解消しにくいため、育種(例えば、新品種Xの作出)に利用する価値が高いと考えられる。
図2図2は、実施例において実施した、MdDOX-CoとMdPG1のDNAマーカー検定を同時に行うためのPCRサイクルを示す。
図3図3は、DNAマーカーを利用した目的個体の選抜における、DNAマーカー検定のPCR産物のアガロースゲルによる電気泳動の様子の一例を示す。(a)一番左のレーンは100bpラダーマーカーである。Co特異的増幅がみられ、MdPG1-3特異的増幅がみられない個体(左から二番目のレーン)が選抜対象となる。(b)両端のレーンは100bpラダーマーカーである。矢印で示したレーン(2段目の左から4番目)にCoとPG1-3の連鎖が切れた個体(Co/co,MdPG1-2/2型)が見られる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明は、一実施形態として、カラムナー性を付与するカラムナー性対立遺伝子であって、配列番号1の塩基配列に対して95%以上の配列同一性を有するCDSを含むポリヌクレオチドからなる遺伝子と、
ポリガラクチュロネース(MdPG1)対立遺伝子であって、配列番号3の塩基配列に対して99.7%以上の配列同一性を有するCDSを含むポリヌクレオチドからなる遺伝子とを同一染色体上に有する、リンゴ属植物、を提供する。
【0011】
本明細書において、「対立遺伝子(アレル)」は、特段の限定がない限り、相同な遺伝子座を占める遺伝子に複数の種類がある場合にその個々の遺伝子を意味する。
【0012】
本明細書において、「植物」は、特段の限定がない限り、植物全体、植物細胞、植物プロトプラスト、植物カルス、又は植物の部分、例えば、胚、花粉、胚珠、配偶子、種子、葉、花、枝、果実、茎、根、葯等を含む。
【0013】
リンゴ属植物は、リンゴ属(Malus)に属する植物であれば、特に制限はない。リンゴ属植物としては、例えば、セイヨウリンゴ(Malus×domestica、Malus pumila)、エゾノコリンゴ(Malus baccata var.mandshurica)、カイドウズミ(Malus floribunda)、イヌリンゴ(ヒメリンゴ)(Malus prunifolia)、ワリンゴ(Malus asiatica)、マルバカイドウ(Malus prunifolia var.ringo)、ノカイドウ(Malus spontanea)、ハナカイドウ(Malus halliana)、ズミ(コリンゴ、コナシ)(Malus toringo)及びオオウラジロノキ(Malus tschonoskii)が挙げられる。リンゴ属植物は、良好な果実の日持ち性という本発明の効果が顕著に奏されるという観点から、果実が食用又は観賞用であるリンゴ属植物であることが好ましい。
【0014】
カラムナー性は、円筒形樹形の形質を意味し、省力栽培適性を付与する形質である。通常樹形の品種マッキントッシュ(McIntosh)における突然変異により生じたカラムナー性品種ウィジック(Wijcik)を起源とする特徴であり、カラムナー性原因遺伝子によるカラムナー性は1遺伝子支配の優性遺伝をする。本明細書において、カラムナー樹形品種にみられるカラムナー性の原因遺伝子をカラムナー性を付与するカラムナー性対立遺伝子(Co)、通常樹形品種にみられる対立遺伝子を通常樹形形質を付与するカラムナー性対立遺伝子(co)という。カラムナー性を付与するカラムナー性対立遺伝子(Co)は、MdDOX-Coと呼ばれることもある。
【0015】
カラムナー性を付与するカラムナー性対立遺伝子(Co)は、配列番号1の塩基配列に対して95%以上の配列同一性を有するCDSを含むポリヌクレオチドからなる遺伝子であってよい。また、カラムナー性を付与するカラムナー性対立遺伝子(Co)は、配列番号1の塩基配列に対して96%以上、97%以上、98%以上、99%以上、99.5%以上の配列同一性を有するCDSを含むポリヌクレオチドからなる遺伝子であってよく、配列番号1で示されるポリヌクレオチドからなる遺伝子であってもよい。また、カラムナー性を付与するカラムナー性対立遺伝子(Co)は、配列番号1の塩基配列又は配列番号1の塩基配列に対して1以上(例えば、2以上、3以上、4以上、5以上、1~5、1~4、1~3)のヌクレオチドが欠失しているCDSを含むポリヌクレオチドからなる遺伝子であってよく、配列番号1の塩基配列又は配列番号1の塩基配列に対して1以上のヌクレオチドが挿入されているCDSを含むポリヌクレオチドからなる遺伝子であってよく、配列番号1の塩基配列又は配列番号1の塩基配列に対して1以上のヌクレオチドが置換されているCDSを含むポリヌクレオチドからなる遺伝子であってよい。配列番号1の塩基配列は、カラムナー樹形品種‘Telamon(テラモン)’(Accession No.LC050645)由来のCo遺伝子のCDSである。
【0016】
また、カラムナー性を付与するカラムナー性対立遺伝子(Co)は、配列番号14の塩基配列に対して95%以上の配列同一性を有するポリヌクレオチドからなる遺伝子であってよい。また、カラムナー性を付与するカラムナー性対立遺伝子(Co)は、配列番号14の塩基配列に対して96%以上、97%以上、98%以上、99%以上、99.5%以上の配列同一性を有するポリヌクレオチドからなる遺伝子であってよく、配列番号14で示されるポリヌクレオチドからなる遺伝子であってもよい。また、カラムナー性を付与するカラムナー性対立遺伝子(Co)は、配列番号14の塩基配列又は配列番号14の塩基配列に対して1以上(例えば、2以上、3以上、4以上、5以上、1~5、1~4、1~3)のヌクレオチドが欠失しているポリヌクレオチドからなる遺伝子であってよく、配列番号14の塩基配列又は配列番号14の塩基配列に対して1以上のヌクレオチドが挿入されているポリヌクレオチドからなる遺伝子であってよく、配列番号14の塩基配列又は配列番号14の塩基配列に対して1以上のヌクレオチドが置換されているポリヌクレオチドからなる遺伝子であってよい。配列番号14の塩基配列は、カラムナー樹形品種‘Telamon(テラモン)’(Accession No.LC050645)由来のCo遺伝子(MdDOX-Co)の配列である。カラムナー性を付与するカラムナー性対立遺伝子(Co)はカラムナー樹形品種由来の遺伝子であってもよい。カラムナー樹形品種としては、例えば、ウィジック、テラモン、タスカン、トラジャン、メイポール、ゴールデン・センチネル、及びスカーレット・センチネル等が挙げられる。
【0017】
一方、通常樹形品種における対立遺伝子である通常樹形形質を付与するカラムナー性対立遺伝子(co)は、配列番号2の塩基配列に対して95%以上の配列同一性を有するCDSを含むポリヌクレオチドからなる遺伝子であってよい。また、通常樹形形質を付与するカラムナー性対立遺伝子(co)は、配列番号2の塩基配列に対して96%以上、97%以上、98%以上、99%以上、99.5%以上の配列同一性を有するCDSを含むポリヌクレオチドからなる遺伝子であってよく、配列番号2で示されるポリヌクレオチドからなる遺伝子であってもよい。配列番号2の塩基配列は、通常樹形品種‘Golden Delicious(ゴールデン・デリシャス)’(Malus×domestica)の倍加半数体GDDH13由来の遺伝子(GDDH13ゲノム v1.1における遺伝子番号MD10G1185400)のCDSである。通常樹形形質を付与するカラムナー性対立遺伝子(co)は通常樹形品種由来の遺伝子であってもよい。通常樹形品種としては、例えば、ふじ、つがる、王林、シナノスイート、シナノゴールド、もりのかがやき、錦秋、及びさんさ等が挙げられる。
【0018】
カラムナー性は、カラムナー性を付与するカラムナー性対立遺伝子(Co)の16kb上流にレトロトランスポゾンが挿入されたことにより、Coが異所発現するようになったことが関係していると考えられている(Okada et al.,J Plant Res(2016)129:1109-1126)。例えば、カラムナー性を付与するカラムナー性対立遺伝子(Co)を含む領域がクローニングされたBACクローンのプラスミド配列の公開情報Accession No.LC050646より抜粋した配列番号10に示す配列において、以下の配列が含まれている。ここで、MdDOX-Coは、カラムナー性を付与するカラムナー性対立遺伝子Coを意味する。
LC050646_partA(1..44315):トランスポゾンまでの塩基配列(配列番号11)
LC050646_partB(44316..52517):変異の原因となったレトロトランスポゾン(配列番号12)
LC050646_partC(52518..69146):レトロトランスポゾンとMdDOX-Co間の塩基配列(配列番号13)
LC050646_partD(69147..70777):MdDOX-Co(イントロンを含む)(配列番号14)
LC050646_partE(70778..171270):上記以下、最後までの配列(配列番号15)
MdDOX-Co上流の配列(partA+partB+partC)(配列番号16)
【0019】
本実施形態のリンゴ属植物において、通常樹形形質を付与するカラムナー性対立遺伝子coの同一染色体上の上流配列と比較した場合に、カラムナー性を付与するカラムナー性対立遺伝子の同一染色体上の上流20kb以内に1000bp以上の連続する塩基配列が挿入されていてもよい。
【0020】
上記挿入された連続する塩基配列はレトロトランスポゾンであってもよく、配列番号12の配列に対して50%以上の配列相同性を有する配列又はその一部を含むものであってもよく、配列番号12の配列に対して60%以上の配列相同性を有する配列又はその一部を含むものであってもよく、配列番号12の配列に対して70%以上の配列相同性を有する配列又はその一部を含むものであってもよく、配列番号12の配列に対して80%以上の配列相同性を有する配列又はその一部を含むものであってもよく、配列番号12の配列に対して85%以上の配列相同性を有する配列又はその一部を含むものであってもよく、配列番号12の配列に対して90%以上の配列相同性を有する配列又はその一部を含むものであってもよく、配列番号12の配列に対して95%以上の配列相同性を有する配列又はその一部を含むものであってもよく、配列番号12の配列に対して98%以上の配列相同性を有する配列又はその一部を含むものであってもよく、配列番号12の配列に対して99%以上の配列相同性を有する配列又はその一部を含むものであってもよく、配列番号12の配列又はその一部を含むものであってもよい。
【0021】
上記挿入された連続する塩基配列が、配列番号12の配列に対して50%以上の配列相同性を有する配列中に存在するものであってもよく、配列番号12の配列に対して60%以上の配列相同性を有する配列中に存在するものであってもよく、配列番号12の配列に対して70%以上の配列相同性を有する配列中に存在するものであってもよく、配列番号12の配列に対して80%以上の配列相同性を有する配列中に存在するものであってもよく、配列番号12の配列に対して85%以上の配列相同性を有する配列中に存在するものであってもよく、配列番号12の配列に対して90%以上の配列相同性を有する配列中に存在するものであってもよく、配列番号12の配列に対して95%以上の配列相同性を有する配列中に存在するものであってもよく、配列番号12の配列に対して98%以上の配列相同性を有する配列中に存在するものであってもよく、配列番号12の配列に対して99%以上の配列相同性を有する配列中に存在するものであってもよく、配列番号12の配列中に存在するものであってもよい。
【0022】
上記挿入された連続する塩基配列の塩基長は、1000bp~2000bpであってよく、1000bp以上、2000bp以上、3000bp以上、4000bp以上、5000bp以上、6000bp以上、7000bp以上、7500bp以上、又は8000bp以上であってよく、20000bp以下、15000bp以下、10000bp以下、9500bp以下、9000bp以下、8500bp以下、又は8300bp以下であってよく、8201bpであってもよい。
【0023】
上記塩基配列は、通常樹形形質を付与するカラムナー性対立遺伝子coの同一染色体上の上流配列と比較した場合に、カラムナー性を付与するカラムナー性対立遺伝子の同一染色体上の上流5kb~20kbのいずれかの位置に挿入されていてもよく、カラムナー性を付与するカラムナー性対立遺伝子の同一染色体上の上流20kb以内、19kb以内、18kb以内、17kb以内、16.8kb以内、16.7kb以内に挿入されていてもよく、5kb以降、7kb以降、9kb以降、11kb以降、13kb以降、14kb以降、15kb以降、16kb、16.2kb以降又は16.6kb以降に挿入されていてもよく、16.628kbの位置に挿入されていてもよい。また、上記塩基配列は、カラムナー性を付与するカラムナー性対立遺伝子の上流の配列番号13の配列に対応する配列の上流直後に挿入されていてもよい。
【0024】
本実施形態のリンゴ属植物において、カラムナー性を付与するカラムナー性対立遺伝子の上流の配列が、配列番号16に対して50%以上の配列相同性を有する配列又はその一部を含むものであってもよく、配列番号16に対して60%以上の配列相同性を有する配列又はその一部を含むものであってもよく、配列番号16に対して70%以上の配列相同性を有する配列又はその一部を含むものであってもよく、配列番号16に対して80%以上の配列相同性を有する配列又はその一部を含むものであってもよく、配列番号16の配列に対して85%以上の配列相同性を有する配列又はその一部を含むものであってもよく、配列番号16の配列に対して90%以上の配列相同性を有する配列又はその一部を含むものであってもよく、配列番号16の配列に対して95%以上の配列相同性を有する配列又はその一部を含むものであってもよく、配列番号16の配列に対して98%以上の配列相同性を有する配列又はその一部を含むものであってもよく、配列番号16の配列に対して99%以上の配列相同性を有する配列又はその一部を含むものであってもよく、配列番号16の配列又はその一部であってもよい。
【0025】
上記塩基配列の挿入により、根のみにおいて発現していたところが、カラムナー性遺伝子の異所発現が引き起こされるものであってよく、カラムナー性遺伝子の根以外における発現も引き起こされるものであってよく、カラムナー性遺伝子の地上部(葉、茎頂等)における発現が引き起こされるものであってよい。
【0026】
上記挿入された連続する塩基配列は、通常樹形形質を付与するカラムナー性対立遺伝子coの同一染色体上の対応する上流配列には存在しない。
【0027】
当業者であれば、カラムナー性を付与するカラムナー性対立遺伝子(Co)であるか、通常樹形形質を付与するカラムナー性対立遺伝子coであるかを周辺の配列から区別することもできる。区別する方法の詳細については後述する。
【0028】
本明細書において、「配列同一性」とは、当該技術分野において公知の数学的アルゴリズムを用いて2つのDNA塩基配列をアラインさせた場合の最適なアラインメントにおける、オーバーラップする全DNA塩基配列に対する同一塩基の割合(%)を意味する。アラインメントの作成及び配列同一性の算出には、例えば、EMBOSS Needle(EMBL-EBI提供 URL: https://www.ebi.ac.uk/Tools/psa/emboss_needle/)を用いることができる。
【0029】
果実の日持ち性の主働因子は、ポリガラクチュロネース(MdPG1)であり、3種類の対立遺伝子(MdPG1-1型、MdPG1-2型、MdPG1-3型)が存在する。そのうち、配列番号3で示されるポリペプチドからなるMdPG1-2型は、良好な日持ち性を付与する上で最も有用である。配列番号3の塩基配列は、‘Gala(ガラ)’(Malus domestica cv. Gala diploid v1.0)由来のポリガラクチュロネース(MdPG1)対立遺伝子(MdPG1-2型、Gala_diploid_v1.0 遺伝子番号Mdg_10B017700)のCDSである。一方、配列番号4で示されるポリペプチドからなるMdPG1-3型対立遺伝子は、細胞壁構成成分分解遺伝子であり、日持ち性に負の影響を与える。配列番号4の塩基配列は、‘Gala(ガラ)’(Malus domestica cv. Gala diploid v1.0)由来のポリガラクチュロネース(MdPG1)対立遺伝子(MdPG1-3型、Gala_diploid_v1.0 遺伝子番号Mdg_10A018270)のCDSである。
【0030】
本実施形態に係るリンゴ属植物は、カラムナー性を付与するカラムナー性対立遺伝子と同一染色体上に、ポリガラクチュロネース(MdPG1)対立遺伝子であって、配列番号3の塩基配列に対して99.7%以上の配列同一性を有するCDSを含むポリヌクレオチドからなる遺伝子を有してもよい。また、当該ポリガラクチュロネース(MdPG1)対立遺伝子は、配列番号3の塩基配列に対して99.8%%以上、99.9%以上の配列同一性を有するCDSを含むポリヌクレオチドからなる遺伝子であってよく、配列番号3で示されるCDSを含むポリヌクレオチドからなる遺伝子であってもよい。また、当該ポリガラクチュロネース(MdPG1)対立遺伝子は、配列番号3の塩基配列又は配列番号3の塩基配列に対して1以上(例えば、2以上、3以上、4以上、5以上、1~5、1~4、1~3)のヌクレオチドが欠失しているCDSを含むポリヌクレオチドからなる遺伝子であってよく、配列番号3の塩基配列又は配列番号3の塩基配列に対して1以上のヌクレオチドが挿入されているCDSを含むポリヌクレオチドからなる遺伝子であってよく、配列番号3の塩基配列又は配列番号3の塩基配列に対して1以上のヌクレオチドが置換されているCDSを含むポリヌクレオチドからなる遺伝子であってよい。当該ポリガラクチュロネース(MdPG1)対立遺伝子は、良好な日持ち性を有する品種由来の遺伝子であってもよい。良好な日持ち性を有する品種としては、例えば、千秋、きたろう、紅みのり、シナノスイート、シナノゴールド、及びスリムレッド等が挙げられる。
【0031】
相同染色体のもう一方の染色体に、ポリガラクチュロネース(MdPG1)対立遺伝子であって、配列番号3の塩基配列に対して99.7%以上の配列同一性を有するCDSを含むポリヌクレオチドからなる遺伝子とは異なる対立遺伝子が存在する場合、その対立遺伝子は、良好な日持ち性を有する品種由来の遺伝子であってもよく、それ以外の品種由来であってもよい。それ以外の品種としては、例えば、さんさ、ちなつ、デリシャス、きたかみ、及びレッドゴールド等が挙げられる。
【0032】
果実の日持ち性は、例えば、果実の粉質化の程度を基準として判断することができる。MdPG1-3型対立遺伝子をヘテロ接合型又はホモ接合型に有する品種(ヘテロ接合型:デリシャス、あかね等、ホモ接合型:さんさ等)をそれぞれの果実の成熟期(成熟期は品種毎に決まっており、8月上旬~11月中旬の間に分布)に収穫後、20℃及び湿度85%で4週間経過させたところ、高い粉質化程度を示したのに対して、MdPG1-2型対立遺伝子をホモ接合型に有する品種(千秋、シナノゴールド等)は、同期間が経過しても粉質化程度が低く(例えば、20%未満)保たれていたことが報告されている(Moriya et al.,The Horticulture Journal 86(2):159-170(2017))。したがって、例えば、収穫以降の特定期間経過後において、対象リンゴ属植物の粉質化の程度が所定の値よりも低い場合に、果実の日持ち性が良好であると判断することができる。収穫以降の特定期間経過後とは、例えば、収穫後に2週間、3週間、4週間、又は5週間経過後であってもよい。収穫以降の貯蔵条件としては、例えば、20℃~25℃で湿度80%~90%であってよく、20℃で湿度85%であってもよい。リンゴ属植物の粉質化の程度は、例えば、一定の形状に切り出した果肉片をショ糖溶液中で8時間振とうさせた後の重量の減少程度を求めることで数値化することができる。例えば、数値化した対象リンゴ属植物の粉質化の程度が、30%以下、20%以下、10%以下、又は5%以下である場合に、果実の日持ち性が良好であると判断することができる。粉質化の程度は、複数のリンゴ属植物の平均値を使用して算出してもよい。また、例えば、上記収穫以降の特定期間経過後において、数値化した対象リンゴ属植物の粉質化の程度が、官能で粉質化を知覚するとされる閾値である30%未満である場合に、果実の日持ち性が良好であると判断することもできる。
【0033】
カラムナー性を付与するカラムナー性対立遺伝子であって、配列番号1の塩基配列に対して95%以上の配列同一性を有するCDSを含むポリヌクレオチドからなる遺伝子と、ポリガラクチュロネース(MdPG1)対立遺伝子であって、配列番号3の塩基配列に対して99.7%以上の配列同一性を有するCDSを含むポリヌクレオチドからなる遺伝子が存在する染色体は、リンゴ属植物の第10染色体であってよい。
【0034】
また、カラムナー性を付与するカラムナー性対立遺伝子であって、配列番号1の塩基配列に対して95%以上の配列同一性を有するCDSを含むポリヌクレオチドからなる遺伝子とポリガラクチュロネース(MdPG1)対立遺伝子であって、配列番号3の塩基配列に対して99.7%以上の配列同一性を有するCDSを含むポリヌクレオチドからなる遺伝子は同一染色体上に存在するが、相同染色体のもう一方の染色体においても同様にこれらの遺伝子が同一染色体上に存在する、すなわち2遺伝子についてホモ接合型であってもよく、例えば、相同染色体のもう一方の染色体においては、カラムナー性を付与するカラムナー性対立遺伝子がホモ接合型であって、ポリヌクレオチドからなる遺伝子とポリガラクチュロネース(MdPG1)対立遺伝子がヘテロ接合型であってもよく、カラムナー性を付与するカラムナー性対立遺伝子がヘテロ型であって、ポリヌクレオチドからなる遺伝子とポリガラクチュロネース(MdPG1)対立遺伝子がホモ接合型であってもよい。ポリガラクチュロネース対立遺伝子がホモ接合型、すなわち、相同染色体のもう一方の染色体においても、ポリガラクチュロネース対立遺伝子であって、配列番号3の塩基配列に対して99.7%以上の配列同一性を有するCDSを含むポリヌクレオチドからなる遺伝子であると、カラムナー性及び良好な日持ち性を兼ね備えたリンゴ属植物を得られるため、好ましい。
【0035】
また、上述したように、通常樹形形質を付与するカラムナー性対立遺伝子coの同一染色体上の上流配列と比較した場合に、カラムナー性を付与するカラムナー性対立遺伝子の同一染色体上の上流20kb以内に1000bp以上の連続する塩基配列が挿入されている場合、当該塩基配列の挿入は、相同染色体のもう一方の染色体においても同様に存在してもよく、相同染色体のもう一方の染色体においては存在しなくてもよい。
【0036】
上述したリンゴ属植物におけるハプロタイプは、カラムナー性と良好な日持ち性が強く連鎖していることから、交配に使用した場合、後代植物においてでも容易にカラムナー性と良好な日持ち性を兼ね備えた個体を選抜可能であり、育種素材として利用価値が高いと考えられる。
【0037】
本発明は、一実施形態として、上述したリンゴ属植物から得られた果実又は種子も提供する。「リンゴ属植物から得られた果実」とは、上述したリンゴ属植物を受粉樹等の花粉を使用して受粉させた後、収穫した果実を意味し、「リンゴ属植物から得られた種子」とは、その果実内に含まれる種子を意味する。
【0038】
本発明は、一実施形態として、
上記通常樹形形質を付与するカラムナー性対立遺伝子と、ポリガラクチュロネース(MdPG1)対立遺伝子であって、配列番号3の塩基配列に対して99.7%以上の配列同一性を有するCDSを含むポリヌクレオチドからなる遺伝子とを同一染色体上に有し、これらの2遺伝子についてホモ接合型である第1の親植物体と、
カラムナー性を付与するカラムナー性対立遺伝子であって、配列番号1の塩基配列に対して95%以上の配列同一性を有するCDSを含むポリヌクレオチドからなる遺伝子と、MdPG1対立遺伝子であって、配列番号4の塩基配列に対して99.7%以上の配列同一性を有し、且つ配列番号3の塩基配列に対して99.5%以下の配列同一性を有するCDSを含むポリヌクレオチドからなる遺伝子とを同一染色体上に有し、且つ、相同染色体のもう一方の染色体において、上記通常樹形形質を付与するカラムナー性対立遺伝子と、MdPG1対立遺伝子であって、配列番号3の塩基配列に対して99.7%以上の配列同一性を有するCDSを含むポリヌクレオチドからなる遺伝子とを同一染色体上に有し、これらの2遺伝子についてヘテロ接合型である第2の親植物体とを交配する工程、並びに
交配により得られた後代植物から、カラムナー性を付与するカラムナー性対立遺伝子であって、配列番号1の塩基配列に対して95%以上の配列同一性を有するCDSを含むポリヌクレオチドからなる遺伝子と、
MdPG1対立遺伝子であって、配列番号3の塩基配列に対して99.7%以上の配列同一性を有するCDSを含むポリヌクレオチドからなる遺伝子とを同一染色体上に有する植物体を選抜する工程を含む、リンゴ属植物の作出方法も提供する。
【0039】
上記第1の親植物体と第2の親植物体を交配すると、染色体の組換えにより、交配後代植物に、上述したカラムナー性を付与するカラムナー性対立遺伝子であって、配列番号1の塩基配列に対して95%以上の配列同一性を有するCDSを含むポリヌクレオチドからなる遺伝子と、MdPG1対立遺伝子であって、配列番号3の塩基配列に対して99.7%以上の配列同一性を有するCDSを含むポリヌクレオチドからなる遺伝子とを同一染色体上に有するリンゴ属植物が含まれる。したがって、この方法により、上述したカラムナー性を付与するカラムナー性対立遺伝子であって、配列番号1の塩基配列に対して95%以上の配列同一性を有するCDSを含むポリヌクレオチドからなる遺伝子と、MdPG1対立遺伝子であって、配列番号3の塩基配列に対して99.7%以上の配列同一性を有するCDSを含むポリヌクレオチドからなる遺伝子とを同一染色体上に有するリンゴ属植物を得ることができる。
【0040】
本発明は、一実施形態として、上述したリンゴ属植物から得られた果実又は種子も提供する。「リンゴ属植物から得られた果実」とは、上述したリンゴ属植物を受粉樹等の花粉を使用して受粉させた後、収穫した果実を意味し、「リンゴ属植物から得られた種子」とは、その果実内に含まれる種子を意味する。受粉樹としては、例えば、ふじ、もりのかがやき、紅みのり、及び錦秋が挙げられる。
【0041】
なお、上述したように、配列番号3で示されるポリペプチドからなるMdPG1-2型対立遺伝子は、良好な日持ち性を付与する上で最も有用である。一方、配列番号4で示されるポリペプチドからなるMdPG1-3型対立遺伝子は、細胞壁構成成分分解遺伝子であり、日持ち性に負の影響を与える。
【0042】
交配により得られた後代植物から、カラムナー性を付与するカラムナー性対立遺伝子であって、配列番号1の塩基配列に対して95%以上の配列同一性を有するCDSを含むポリヌクレオチドからなる遺伝子と、ポリガラクチュロネース対立遺伝子であって、配列番号3の塩基配列に対して99.7%以上の配列同一性を有するCDSを含むポリヌクレオチドからなる遺伝子とを同一染色体上に有する植物体を選抜する工程において、選抜される植物体は、相同染色体のもう一方の染色体において、通常樹形形質を付与するカラムナー性対立遺伝子と、ポリガラクチュロネース対立遺伝子であって、配列番号3の塩基配列に対して99.7%以上の配列同一性を有するCDSを含むポリヌクレオチドからなる遺伝子とを同一染色体上に有するものであってもよい。また、選抜される植物体は、相同染色体のもう一方の染色体において、カラムナー性を付与するカラムナー性対立遺伝子であって、配列番号1の塩基配列に対して95%以上の配列同一性を有するCDSを含むポリヌクレオチドからなる遺伝子と、ポリガラクチュロネース対立遺伝子であって、配列番号3の塩基配列に対して99.7%以上の配列同一性を有するCDSを含むポリヌクレオチドからなる遺伝子とを同一染色体上に有するものであってもよい。選抜される植物体において、ポリガラクチュロネース対立遺伝子がホモ接合型、すなわち、相同染色体のもう一方の染色体においても、ポリガラクチュロネース対立遺伝子であって、配列番号3の塩基配列に対して99.7%以上の配列同一性を有するCDSを含むポリヌクレオチドからなる遺伝子であると、カラムナー性及び良好な日持ち性を兼ね備えたリンゴ属植物を得られやすくなるため、好ましい。
【0043】
本実施形態の方法における、カラムナー性を付与するカラムナー性対立遺伝子であって、配列番号1の塩基配列に対して95%以上の配列同一性を有するCDSを含むポリヌクレオチドからなる遺伝子と、MdPG1対立遺伝子であって、配列番号3の塩基配列に対して99.7%以上の配列同一性を有するCDSを含むポリヌクレオチドからなる遺伝子とを同一染色体上に有する植物体を選抜する工程は、カラムナー性を付与するカラムナー性対立遺伝子と、良好な日持ち性を付与するMdPG1対立遺伝子とを同一染色体上に有する植物体を選抜する工程に変更することもできる。
【0044】
第1の親植物体及び第2の親植物体は、交配、葯培養、遺伝子組換え技術等により作出した植物体(例えば、F雑種、F雑種)を用いてもよく、既に存在する品種の植物体を使用してもよい。例えば、第2の親植物体は、通常樹形形質を付与するカラムナー性対立遺伝子co及びMdPG1-2型対立遺伝子をホモ接合型に有する植物(シナノゴールド、秋映等)と、カラムナー性を付与するカラムナー性対立遺伝子(Co)及びMdPG1-3型対立遺伝子を同一染色体に有し、相同染色体のもう一方の染色体において通常樹形形質を付与するカラムナー性対立遺伝子co及びMdPG1-3型対立遺伝子を同一染色体に有する植物(例えば、タスカン、ウィジック等)とを交配した中から選抜により得たF雑種であってもよい。当業者であれば、通常用いる方法、例えば、後述する方法等により簡単に植物体の選抜をすることができる。
【0045】
第1の親植物体として使用できる既存の品種としては、例えば、シナノゴールド、秋映、千秋及びきたろう等が挙げられる。第2の親植物体として使用できる既存の品種としては、例えば、テラモン等が挙げられる。
【0046】
交配方法は特に限定されることなく、当業者が通常用いる方法により行うことができる。第1の親植物体を雄親、第2の親植物体を雌親として交配に使用してもよく、第2の親植物体を雄親、第1の親植物体を雌親として交配に使用してもよい。交配により得られた後代植物を、交配後代植物と表すこともできる。
【0047】
カラムナー性対立遺伝子座とMdPG1対立遺伝子座間の距離が近いため、組換えの生じる頻度は低いものの、第1の親植物体及び第2の親植物体の交配後代植物において、染色体の組換えにより、カラムナー性を付与するカラムナー性対立遺伝子であって、配列番号1の塩基配列に対して95%以上の配列同一性を有するCDSを含むポリヌクレオチドからなる遺伝子と、MdPG1対立遺伝子であって、配列番号3の塩基配列に対して99.7%以上の配列同一性を有するCDSを含むポリヌクレオチドからなる遺伝子とを同一染色体上に有する植物体が発生する。交配により得られた後代植物から、カラムナー性を付与するカラムナー性対立遺伝子であって、配列番号1の塩基配列に対して95%以上の配列同一性を有するCDSを含むポリヌクレオチドからなる遺伝子と、MdPG1対立遺伝子であって、配列番号3の塩基配列に対して99.7%以上の配列同一性を有するCDSを含むポリヌクレオチドからなる遺伝子とを同一染色体上に有する植物体を選抜する工程は、配列に基づく選抜及び形質による選抜等、当業者が通常用いる選抜方法により行うことができる。
【0048】
配列に基づく選抜の場合、例えば、遺伝子配列の違い又は遺伝子配列の周辺配列の違いを利用する方法が挙げられる。そのような方法としては、例えば、対応する配列を決定して配列を公知の配列と比較する方法、インデル又は一塩基多型(SNP)に基づく方法(例えば、PCR産物の比較)、及びいずれかの配列に特異的なプローブを用いてハイブリダイゼーションを行う方法等が挙げられる。
【0049】
カラムナー性を付与するカラムナー性対立遺伝子(Co)と通常樹形形質を付与するカラムナー性対立遺伝子coは、これらの遺伝子配列の違いや遺伝子配列の周辺配列の違いを利用して区別してもよい。例えば、これらの遺伝子の遺伝子配列の違い又は遺伝子配列の周辺配列の違いを利用するDNAマーカーを利用してもよい。カラムナー性を付与するカラムナー性対立遺伝子については、上述したように、カラムナー性を付与するカラムナー性対立遺伝子(Co)は、上流の配列が対立遺伝子coと大きく異なることから、上流配列の違い(例えば、レトロトランスポゾンの挿入の有無)を利用することで効果的に区別することができる。上流の配列の違いに基づき、カラムナー性を付与するカラムナー性対立遺伝子(Co)と通常樹形形質を付与するカラムナー性対立遺伝子coを区別するためのDNAマーカー(プライマー)としては、例えば、Okada et al.,Journal of Plant Research 129: 1109-1126(2016)に記載された、Co_Normal-F(GAATTCTAAACGCTATTGTCCTTGG:配列番号5)、Co_Normal-R(CTGAGAATGAGAGCTTTGAGAAGG:配列番号6)、Co_Columnar-R(GCTAGTTAATTCTCGCATCAGTCC:配列番号7)が挙げられる。これらのプライマーセットは、Co_Normal-Fがカラムナー性を付与するカラムナー性対立遺伝子(Co)上流のレトロトランスポゾン(8202bp)の上流に、Co_Normal-Rがカラムナー性を付与するカラムナー性対立遺伝子(Co)上流のレトロトランスポゾン(8202bp)を挟み込むように、Co_Columnar-Rはカラムナー性を付与するカラムナー性対立遺伝子(Co)上流のレトロトランスポゾン(8202bp)内に設計されている。したがって、これらのプライマーセットを用いてPCR法により図2に例示したサイクルで増幅した際、上流のレトロトランスポゾンの存在の有無により、PCR産物の長さが相違することから、カラムナー性を付与するカラムナー性対立遺伝子(Co)と通常樹形形質を付与するカラムナー性対立遺伝子coを区別することができる。レトロトランスポゾンが含まれる場合には、Co_Normal-FとCo_Columnar-Rで挟み込まれる120bp~135bp(約128bp)のPCR産物が得られ、レトロトランスポゾンが含まれない場合には、Co_Normal-FとCo_Normal-Rで挟み込まれる240bp~260bp(約251bp)のPCR産物が得られる。レトロトランスポゾンが含まれる場合、Co_Normal-FとCo_Normal-R間には8000bpを越える長さの塩基が存在するため、図2に例示したサイクルでPCRを行っても可視化される増幅産物は得られない。
【0050】
MdPG1対立遺伝子についても、例えば、良好な日持ち性を付与するMdPG1対立遺伝子と日持ち性に負の影響を与えるMdPG1対立遺伝子の遺伝子配列の違いや遺伝子配列の周辺配列の違いを利用して区別してもよい。例えば、これらの対立遺伝子の遺伝子配列の違い又は遺伝子配列の周辺配列の違いを利用するDNAマーカーを利用してもよい。良好な日持ち性を付与するMdPG1対立遺伝子(MdPG1-2型)と、日持ち性に負の影響を与えるMdPG1対立遺伝子(MdPG1-3型)は、遺伝子内の塩基配列の違い又は、下流配列の違いを利用することで効果的に区別することができる。遺伝子内の塩基配列の違いに基づき、良好な日持ち性を付与するMdPG1対立遺伝子(MdPG1-2型)と、日持ち性に負の影響を与えるMdPG1対立遺伝子(MdPG1-3型)を区別するためのDNAマーカー(プライマー)としては、例えば、Costa et al.,Journal of Experimental Botany 61:3029-3039(2010)に記載された、PG1_type3-F(Md-PG1for)(CGGACACCATAGAAGGTTTAAACG:配列番号8)とPG1_common-R(Md-PG1rev)(GGTTCAACCAAATTAAACGCT:配列番号9)が挙げられる。これらのプライマーセットは、MdPG1対立遺伝子の塩基配列の違いに基づき、MdPG1対立遺伝子がMdPG1-3型の場合に特異的な増幅が確認できるように設計されている。したがって、これらのプライマーセットを用いてPCR法により増幅した際、MdPG1対立遺伝子がMdPG1-3型の場合に特異的な増幅によるPCR産物がみられるため、そのPCR産物の有無により、MdPG1対立遺伝子がMdPG1-3型であるか否かを区別することができる。下流配列の違いに基づき、良好な日持ち性を付与するMdPG1対立遺伝子(MdPG1-2型)と、日持ち性に負の影響を与えるMdPG1対立遺伝子(MdPG1-3型)を区別するためのDNAマーカー(プライマー)としては、例えば、Longhi et al.,BMC Plant Biology 13:article number 37(2013)に記載された、Md-PG1SSR10kd-F(TTTCTTCCTTGGGTTTTTGG:配列番号17)とMd-PG1SSR10kd-R(ACTCGTGCGCCAGATAGC:配列番号18)が挙げられる。これらのプライマーセットは、MdPG1対立遺伝子の下流の配列の違いに基づき、MdPG1対立遺伝子がMdPG1-2型の場合に291bpの増幅が確認できるように設計されている。したがって、これらのプライマーセットを用いてPCR法により増幅した際、MdPG1対立遺伝子がMdPG1-2型の場合に291bpのPCR産物がみられるため、そのPCR産物の長さの判定により、MdPG1対立遺伝子がMdPG1-2型であるか否かを区別することができる。なお、MdPG1-3型の場合には、298bpのPCR産物がみられる。これらのPCR産物の増幅長の識別は、キャピラリー型シーケンサーを用いたフラグメント解析により行うことができる。
【0051】
カラムナー性を付与するカラムナー性対立遺伝子であって、配列番号1の塩基配列に対して95%以上の配列同一性を有するCDSを含むポリヌクレオチドからなる遺伝子と、MdPG1対立遺伝子であって、配列番号3の塩基配列に対して99.7%以上の配列同一性を有するポリヌクレオチドからなる遺伝子とを同一染色体上に有する植物体を選抜した後、選抜した植物体を用いてさらに交配をしてもよい。例えば、より優れた形質を有する交配後代植物を得るために、例えば、近親交配、戻し交配及び連続戻し交配等を行ってもよい。
【0052】
本発明は、一実施形態として、上述したリンゴ属植物から得られた果実又は種子も提供する。「リンゴ属植物から得られた果実」とは、上述したリンゴ属植物を受粉樹等の花粉を使用して受粉させた後、収穫した果実を意味し、「リンゴ属植物から得られた種子」とは、その果実内に含まれる種子を意味する。
【0053】
本作出方法における具体的な態様等は、上述した具体的な態様等を制限なく適用できる。
上述したリンゴ属植物におけるハプロタイプは、カラムナー性を付与する対立遺伝子と良好な日持ち性を付与する対立遺伝子が強く連鎖していることから、交配に使用した場合、後代植物においてでも容易にカラムナー性と良好な日持ち性を兼ね備えた個体を選抜可能であり、育種素材として利用価値が高いと考えられる。本明細書において、「連鎖」とは、同一染色体上にある2以上のそれぞれ別の形質を支配する遺伝子(対立遺伝子)が、高頻度で後代に伝わる現象を意味する。したがって、本発明は、一実施形態として、
上述したリンゴ属植物、すなわち、カラムナー性を付与するカラムナー性対立遺伝子であって、配列番号1の塩基配列に対して95%以上の配列同一性を有するCDSを含むポリヌクレオチドからなる遺伝子と、ポリガラクチュロネース(MdPG1)対立遺伝子であって、配列番号3の塩基配列に対して99.7%以上の配列同一性を有するCDSを含むポリヌクレオチドからなる遺伝子とを同一染色体上に有する、リンゴ属植物を第1の親植物体として、第2の親植物体と交配する工程、並びに
交配により得られた後代植物から、カラムナー性を付与するカラムナー性対立遺伝子であって、配列番号1の塩基配列に対して95%以上の配列同一性を有するCDSを含むポリヌクレオチドからなる遺伝子と、
MdPG1対立遺伝子であって、配列番号3の塩基配列に対して99.7%以上の配列同一性を有するCDSを含むポリヌクレオチドからなる遺伝子とを同一染色体上に有する植物体を選抜する工程を含む、方法も提供する。
【0054】
第1の親植物は、相同染色体のもう一方の染色体において、通常樹形形質を付与するカラムナー性対立遺伝子と、ポリガラクチュロネース対立遺伝子であって、配列番号3の塩基配列に対して99.7%以上の配列同一性を有するCDSを含むポリヌクレオチドからなる遺伝子とを同一染色体上に有するものであってもよい。また、第1の親植物は、相同染色体のもう一方の染色体において、カラムナー性を付与するカラムナー性対立遺伝子であって、配列番号1の塩基配列に対して95%以上の配列同一性を有するCDSを含むポリヌクレオチドからなる遺伝子と、ポリガラクチュロネース対立遺伝子であって、配列番号3の塩基配列に対して99.7%以上の配列同一性を有するCDSを含むポリヌクレオチドからなる遺伝子とを同一染色体上に有するものであってもよい。
【0055】
第2の親植物は、カラムナー性を付与するカラムナー性対立遺伝子であって、配列番号1の塩基配列に対して95%以上の配列同一性を有するCDSを含むポリヌクレオチドからなる遺伝子又は通常樹形形質を付与するカラムナー性対立遺伝子と、ポリガラクチュロネース(MdPG1)対立遺伝子であって、配列番号3の塩基配列に対して99.7%以上の配列同一性を有するCDSを含むポリヌクレオチドからなる遺伝子又はMdPG1対立遺伝子であって、配列番号4の塩基配列に対して99.7%以上の配列同一性を有し、且つ配列番号3の塩基配列に対して99.5%以下の配列同一性を有するCDSを含むポリヌクレオチドからなる遺伝子とを同一染色体上に有するリンゴ属植物であってよい。相同染色体のもう一方の染色体において、各遺伝子は、ホモ接合型であってもよく、ヘテロ接合型であってもよい。相同染色体のもう一方の染色体において、ポリガラクチュロネース対立遺伝子がホモ接合型、すなわち、相同染色体のもう一方の染色体においても、ポリガラクチュロネース対立遺伝子であって、配列番号3の塩基配列に対して99.7%以上の配列同一性を有するCDSを含むポリヌクレオチドからなる遺伝子であると、交配後代のリンゴ属植物として、カラムナー性及び良好な日持ち性を兼ね備えたリンゴ属植物を得られやすくなるため、好ましい。
【0056】
第2の親植物体は、交配、葯培養、遺伝子組換え技術等により作出した植物体を用いてもよく、既に存在する品種の植物体を使用してもよい。第2の親植物体として使用できる既存の品種としては、例えば、シナノゴールド、秋映、千秋、ふじ、及びつがる等が挙げられる。
【0057】
交配方法は特に限定されることなく、当業者が通常用いる方法により行うことができる。第1の親植物体を雄親、第2の親植物体を雌親として交配に使用してもよく、第2の親植物体を雄親、第1の親植物体を雌親として交配に使用してもよい。交配により得られた後代植物を、交配後代植物と表すこともできる。
【0058】
「交配により得られた後代植物から、カラムナー性を付与するカラムナー性対立遺伝子であって、配列番号1の塩基配列に対して95%以上の配列同一性を有するCDSを含むポリヌクレオチドからなる遺伝子と、
MdPG1対立遺伝子であって、配列番号3の塩基配列に対して99.7%以上の配列同一性を有するCDSを含むポリヌクレオチドからなる遺伝子とを同一染色体上に有する植物体を選抜する工程」については、上述した具体的な態様等を制限なく適用できる。
【0059】
選抜される植物体は、相同染色体のもう一方の染色体において、通常樹形形質を付与するカラムナー性対立遺伝子と、ポリガラクチュロネース対立遺伝子であって、配列番号3の塩基配列に対して99.7%以上の配列同一性を有するCDSを含むポリヌクレオチドからなる遺伝子とを同一染色体上に有するものであってもよい。また、選抜される植物体は、相同染色体のもう一方の染色体において、カラムナー性を付与するカラムナー性対立遺伝子であって、配列番号1の塩基配列に対して95%以上の配列同一性を有するCDSを含むポリヌクレオチドからなる遺伝子と、ポリガラクチュロネース対立遺伝子であって、配列番号3の塩基配列に対して99.7%以上の配列同一性を有するCDSを含むポリヌクレオチドからなる遺伝子とを同一染色体上に有するものであってもよい。選抜される植物体において、ポリガラクチュロネース対立遺伝子がホモ接合型、すなわち、相同染色体のもう一方の染色体においても、ポリガラクチュロネース対立遺伝子であって、配列番号3の塩基配列に対して99.7%以上の配列同一性を有するCDSを含むポリヌクレオチドからなる遺伝子であると、カラムナー性及び良好な日持ち性を兼ね備えたリンゴ属植物である可能性が高いため、好ましい。
【0060】
本発明は、一実施形態として、上述したリンゴ属植物から得られた果実又は種子も提供する。「リンゴ属植物から得られた果実」とは、上述したリンゴ属植物を受粉樹等の花粉を使用して受粉させた後、収穫した果実を意味し、「リンゴ属植物から得られた種子」とは、その果実内に含まれる種子を意味する。
【0061】
本作出方法における具体的な態様等は、上述した具体的な態様等を制限なく適用できる。
【実施例
【0062】
[材料及び方法]
(1)交配材料の作出及び評価
リンゴ‘秋映’にカラムナー個体5-13097(さんさ×8H-2-26)を交雑して得られた種子を播種して養成した交雑実生集団から、果実品質に優れた個体7-4151を選抜した。上記の2点の他に‘シナノゴールド’についても、後述するDNAマーカーによってカラムナー性を付与するカラムナー性対立遺伝子(MdDOX-Co)及びMdPG1についての遺伝子型検定を行った。
【0063】
図1に示すように、‘秋映’は日持ちが良好な品種であり、良好な日持ち性を付与するポリガラクチュロネース(MdPG1)対立遺伝子(図1のMdPG1-2)と、通常樹形品種におけるCoの対立遺伝子coを同一染色体上に持ち、2遺伝子についてホモ接合型である。‘5-13097’は日持ちが不良な選抜個体であり、日持ち性に負の影響を与えるポリガラクチュロネース(MdPG1)対立遺伝子(図1のMdPG1-3)と、カラムナー性を付与するカラムナー性対立遺伝子Coを同一染色体上に持ち、MdPG1対立遺伝子についてホモ接合型、カラムナー性を付与するカラムナー性対立遺伝子Coについてヘテロ接合型である。選抜された‘7-4151’は、日持ちが不良な選抜個体であり、日持ち性に負の影響を与えるポリガラクチュロネース(MdPG1)対立遺伝子(図1のMdPG1-3)とカラムナー性を付与するカラムナー性対立遺伝子Coを同一染色体上に持ち、相同染色体のもう一方の染色体において、良好な日持ち性を付与するポリガラクチュロネース(MdPG1)対立遺伝子と、通常樹形品種におけるCoの対立遺伝子coを同一染色体上に持ち、2遺伝子についてヘテロ接合型である。‘シナノゴールド’は、‘秋映’と同様に、良好な日持ち性を付与するポリガラクチュロネース(MdPG1)対立遺伝子(図1のMdPG1-2)と、通常樹形品種におけるCoの対立遺伝子coを同一染色体上に持ち、2遺伝子についてホモ接合型である。
【0064】
(2)交雑実生の獲得
‘シナノゴールド’1400花に対して7-4151の花粉を受粉した。得られた果実から種子を調製し、4℃に保存して休眠打破処理を行った。12月中旬から2月上旬にかけて、最低気温を16度に保ったガラス室内で播種を行った。播種はピートモスポットに行い、乾燥しないように適宜灌水を行って管理した。
【0065】
発芽後、最初の本葉が展葉した個体から葉片を採取し、DNAマーカー検定に利用した。サンプリング及びDNA抽出はMoriya et al.,Euphytica volume 213,Article number:78(2017)の方法で行い、5倍希釈液1μLをPCRのテンプレートとして利用した。
【0066】
(3)DNAマーカーによる遺伝子型検定
MdDOX-Coの検定にはOkada et al.,Journal of Plant Research 129: 1109-1126(2016)に記載のDNAマーカーを利用した。また、MdPG1の検定にはCosta et al.,Journal of Experimental Botany 61:3029-3039(2010)に記載のDNAマーカーを利用した。表1に使用したプライマー配列及びPCRミクスチャ中での各プライマーの最終濃度を示す。Taq酵素にはGo taq(登録商標)G2 Green Master Mix(プロメガ社)を用いた。PCRはタッチダウン法によって行った。MdDOX-CoとMdPG1のDNAマーカー検定を同時に行うためのPCRサイクルを図2に示す。
【0067】
【表1】
【0068】
PCR産物は2%アガロースゲルを用いた電気泳動で分離し、エチジウムブロマイドで染色後、紫外線で可視化して写真を撮影し、DNAマーカー多型の判定に利用した。
【0069】
[結果]
(1)交雑組み合わせの選定
DNAマーカーMd-PG1SSR10kdを用いた検定によって、7-4151の遺伝子型がMdDOX-Co/co、およびMdPG1-2/3であることを確認した。同様に、シナノゴールドの遺伝子型はMdDOX-co/co、およびMdPG1-2/2型であることを確認した。
【0070】
(2)交雑実生の獲得
7-4151の花粉が受粉された‘シナノゴールド’の果実を約1200果収穫した。種子を調製したところ、約11000粒が得られたので、全粒を播種した。
【0071】
播種した種子から、不発芽種子や、発芽したものの明らかな生育不良を示す個体を除いた9680個体についてDNAマーカー検定を行った。その結果、MdDOX-Co/co、およびMdPG1-2/2型を示す個体が57個体得られた。DNAマーカー検定のPCR産物のアガロースゲルによる電気泳動の様子の一例を図3(a)及び(b)に示す。
【0072】
作出したハプロタイプは、カラムナー性と良好な日持ち性が強く連鎖していることから、交配に使用した場合、後代植物においてでも容易にカラムナー性と良好な日持ち性を兼ね備えた個体を選抜可能であり、育種素材として利用価値が高いと考えられる。
図1
図2
図3
【配列表】
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