(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-16
(45)【発行日】2023-10-24
(54)【発明の名称】撮像分解能を向上させた電子顕微鏡
(51)【国際特許分類】
H01J 37/16 20060101AFI20231017BHJP
H01J 37/153 20060101ALI20231017BHJP
H01J 37/26 20060101ALI20231017BHJP
【FI】
H01J37/16
H01J37/153 A
H01J37/26
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2019125665
(22)【出願日】2019-07-05
【審査請求日】2022-05-11
(32)【優先日】2018-07-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】501233536
【氏名又は名称】エフ イー アイ カンパニ
【氏名又は名称原語表記】FEI COMPANY
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(74)【代理人】
【識別番号】100091214
【氏名又は名称】大貫 進介
(72)【発明者】
【氏名】アレキサンデル ヘンストラ
(72)【発明者】
【氏名】プレウン ドナ
【審査官】鳥居 祐樹
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-241190(JP,A)
【文献】実開昭60-192358(JP,U)
【文献】米国特許第03634684(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01J 37/09
H01J 37/141
H01J 37/153
H01J 37/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子顕微鏡であって、
-試料を保持するための試料ホルダと、
-電子ビームを生成するためのソースと、
-前記試料を照射するように前記ビームを方向付けるための照明システムと、
-前記ビームが方向付けられる細長いビーム導管と、
-収差補正器として構成された多極レンズアセンブリと、
-前記照射に応答して前記試料から放出される放射線を検出するための検出器と、を備え、
前記ビーム導管の少なくとも長手方向部分が、少なくとも前記収差補正器を通って延在し、かつ複合構造を有し、前記複合構造が、
-電気絶縁材料の外管と、
-導電率σおよび厚さtを有し、σt<0.1Ω
-1である導電材料の内側表皮と、を有する、顕微鏡。
【請求項2】
電子顕微鏡であって、
-試料を保持するための試料ホルダと、
-電子ビームを生成するためのソースと、
-前記試料を照射するように前記ビームを方向付けるための照明システムと、
-前記ビームが方向付けられる細長いビーム導管と、
-収差補正器として構成された多極レンズアセンブリと、
-前記照射に応答して前記試料から放出される放射線を検出するための検出器と、を備え、
前記ビーム導管の少なくとも長手方向部分が、少なくとも前記収差補正器を通って延在し、かつ集合体複合材料からなり、前記集合体複合材料が、
-混合された電気絶縁材料および導電材料、を含み、
前記ビーム導管は、導電率σおよび壁厚t
wを有し、σt
w<0.1Ω
-1であることを特徴とする、顕微鏡。
【請求項3】
前記外管が、セラミック、ガラス質材料、石英、およびこれらの組み合わせを含む群から選択された少なくとも1つの材料を含む、請求項1に記載の顕微鏡。
【請求項4】
前記内側表皮が、酸化ルテニウム、硝酸チタン、およびこれらの組み合わせを含む群から選択された少なくとも1つの材料を含む、請求項1または3に記載の顕微鏡。
【請求項5】
前記電気絶縁材料は、セラミック材料である、請求項2に記載の顕微鏡。
【請求項6】
前記導電材料が、黒鉛、TiN、およびこれらの混合物を含む群から選択されている、請求項2または5に記載の顕微鏡。
【請求項7】
前記導電材料について、σt<0.01Ω
-1である、請求項1~6のいずれか一項に記載の顕微鏡。
【請求項8】
-前記試料を透過した電子を前記検出器に向けるための撮像システム、をさらに備え、
それによって、前記ビーム導管は、前記撮像システムを通って延在する、請求項1~7のいずれか一項に記載の顕微鏡。
【請求項9】
前記長手方向部分が、少なくとも前記試料ホルダと前記収差補正器との間に延在する、請求項1~8のいずれか一項に記載の顕微鏡。
【請求項10】
前記収差補正器が、球面収差および色収差のうちの少なくとも一方を補正するように構成されている、請求項9に記載の顕微鏡。
【請求項11】
-前記ビーム導管の外部にある磁気ヨークが、磁力線を前記ビームの直接近傍に伝導するように構成され、
-前記ビーム導管が、前記ヨーク内の穴を貫通し、
-前記穴が、前記ビーム導管の外径よりも大きい内径を有し、したがって、前記
穴の内面と前記ビーム導管の外面との間にギャップを作り出す、請求項1~10のいずれか一項に記載の顕微鏡。
【請求項12】
前記細長いビーム導管を通して前記ビームを方向付けることを特徴とする、請求項1~11のいずれか一項に記載の顕微鏡を使用する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子顕微鏡に関し、
-試料を保持するための試料ホルダと、
-電子ビームを生成するためのソースと、
-試料を照射するように当該ビームを方向付けるための照明システムと、
-ビームが方向付けられる細長いビーム導管と、
-収差補正器として構成された多極レンズアセンブリと、
-当該照射に応答して試料から放出される放射線を検出するための検出器と、を備える。
【0002】
本発明はまた、そのような電子顕微鏡を使用する方法に関する。
【背景技術】
【0003】
電子顕微鏡は、周知であり、微視的対象物を撮像するために、ますます重要になっている技術である。これまで、基本的な種類の電子顕微鏡は、透過電子顕微鏡(TEM)、走査電子顕微鏡(SEM)、および走査透過電子顕微鏡(STEM)のような、いくつかの周知の装置類に進化してきており、さらには、例えばイオンビームミリングまたはイオンビーム誘導蒸着(IBID)のような支援作用を可能にする「機械加工」集束イオンビーム(FIB)をさらに採用した、いわゆる「デュアルビーム」装置(例えば、FIB-SEM)のような様々な補助装置類に進化してきている。より具体的には、
-SEMにおいて、走査電子ビームによる試料の照射は、例えば、二次電子、後方散乱電子、X線およびカソードルミネセンス(赤外線、可視および/または紫外線光子)の形態で試料からの「補助」放射線の放出を引き起こし、次に、この放出される放射線の1つ以上の成分は、検出されて、画像蓄積の目的で使用される。
-TEMにおいては、試料を照射するために使用される電子ビームは、(この目的のために、概して、SEM試料の場合よりも薄くなる)試料を貫通するために十分に高いエネルギーとなるように選択され、次に、試料から放出される透過電子を使用して、画像を作り出すことができる。このようなTEMが走査モードで動作される(したがってSTEMになる)と、照射される電子ビームの走査運動中に当該画像が蓄積される。
-SEMもまた、例えば、比較的薄いサンプルおよび比較的高い入射ビームエネルギーを使用する場合などには、「透過モード」で使用することができる。そのようなツールは、しばしば「TSEM」(透過型SEM)と呼ばれ、それは典型的には、試料と後試料検出器との間に配設された比較的初歩的な撮像システム(例えば、単一レンズおよび偏向器)を有する。
【0004】
撮像、および(局所的な)表面改質(例えば、ミリング、エッチング、蒸着など)の実行に加えて、電子顕微鏡はまた、分光法の実行、回折図の検査などの他の機能を有し得ることに留意されたい。
【0005】
全ての場合において、電子顕微鏡(EM)は、少なくとも以下の構成要素を備える。
-例えば、WまたはLaB6電子源、ショットキー電子銃、または冷陰極電界放出電子銃(CFEG)などの電子源。
-ソースからの「素の」放射線ビームを操作し、集束させる、収差を緩和する、(ダイヤフラムで)トリミングする、フィルタリングするなどのように、一定の動作を放射線ビームに対して実行するのに役立つ照明システム/照明器。それは、一般的に1つ以上の(荷電粒子)レンズを備え、他の種類の(粒子)光学構成要素も備えることができる。所望される場合、照明器には、偏向器システムを設けることができ、偏向器システムは、調査中の試料にわたってその出射ビームに走査運動を実行させるために援用されることができる。
-試料ホルダであり、概して、位置決めシステムに接続されており、その上に調査中の試料を保持し、位置決め(例えば、変位、傾斜、回転)することができる。所望される場合、ビームに関して試料の走査運動をもたらすようにこのホルダを移動することができる。極低温試料を保持するように設計される場合、試料ホルダは、例えば適切に接続される極低温槽を使用して、当該試料を極低温に維持するための手段を備えることができる。
-検出器(照射された試料から放出される放射線を検出する)であり、本質的に単体とするか、または複合/分散させることができ、かつ検出されている放射線に応じて多くの異なる形態を採ることができる。例としては、フォトダイオード、CMOS検出器、CCD検出器、光起電力セル、X線検出器(シリコンドリフト検出器およびSi(Li)検出器のような)などを含む。概して、EMは、いくつかの異なる種類の検出器を含み得、検出器の選択は、異なる状況において呼び出すことができる。
透過型顕微鏡(例えば、(S)TEMまたはTSEMのような)の場合、EMはさらに以下を含む。
-撮像システムであり、本質的に、試料(平面)内を透過した荷電粒子を捉え、かつ検出器、撮像デバイス、分光装置(例えば、EELSデバイス:EELS=電子エネルギー損失分光器のような)などのような分析装置にそれらを向ける(集束させる)。上に言及した照明器の場合と同様に、撮像システムはまた、収差緩和、トリミング、フィルタリングなどのような他の機能を実行することもでき、撮像システムは、概して、1つ以上の荷電粒子レンズおよび/または他の種類の粒子光学構成要素を備える。
【0006】
顕微鏡を通るその軌道のかなりの部分にわたって、ビームは、(照明器および存在する場合は撮像システムの)光軸に近位の比較的小容積の排気されたエンクロージャを作り出す細長い(円筒形の)ビーム導管を通って伝搬する。
【0007】
様々な技術分野の中から、EMで得ることができる撮像分解能をさらに向上させることが、常に求められているが、この作業は自明なことではない。最先端のEMは、画像の劣化に大きく寄与する可能性がある非点収差、色収差、球面収差などの撮像収差を軽減するために収差補正器(典型的には、多重極(例えば、四重極、六重極および/または八重極)レンズ要素の群を含む)を採用している。しかしながら、そのような手の込んだ手段にもかかわらず、EM撮像品質は、例えば、高次収差、クーロン相互作用、真空レベルの変動、および漂遊場を含む様々な物理的効果によって依然として一般的に悪影響を受けている。最近発見された1つのそのような障害は、S.Uhlemannらによって、Physical Review Letters [PRL]111,pp.046101-046105,July 26,2013(American Physical Society)に記載されているように、ビーム経路に沿った「寄生」熱磁場ノイズによる電子ビーム妨害であり、この論文において、著者らはTEMで観測された磁場ノイズの熱力学的特性を実証し、この現象を削減するために、試みにおいて、「器具の導電性部分」を極低温(例えば、約77K)まで冷却するための対策を講じている。現象の規模は温度に比例するため、これらのノイズの影響を最小限に抑えるには、液体ヘリウム温度まで冷却する必要があると考えられる。
【発明の概要】
【0008】
本発明の目的は、これらの問題に別の方法で対処することである。より具体的には、本発明の目的は、上記の手の込んだ冷却手段に頼る必要なく、そのような磁場ノイズの影響に対処するEM設計を提供することである。
【0009】
第1のアプローチでは、これらおよび他の目的は、上記冒頭の段落に記載の電子顕微鏡において達成され、当該ビーム導管の少なくとも長手方向部分は、少なくとも当該収差補正器を通って延在し、
-電気絶縁材料の外管と、
-導電率σおよび厚さtを有し、σt<0.1Ω-1である導電材料の内側表皮と、を備える、複合構造を有することを特徴とする。
【0010】
本発明者らは、EMの「導電性部分」(磁気レンズの鉄心/ヨーク、ビーム導管などのような)の極低温冷却を必要とする解決策を非常に面倒であると考える。EMの粒子光学カラムはすでに、比較的嵩張った超高精度のサブコンポーネントがきつい公差内で互いに極めて近接して位置決めされており、余地がほとんどない密集した空間である。顕微鏡の大部分を極低温に冷却するために必要とされる比較的厄介な冷却要素/コイル/供給ラインのために、そのような構成において追加のスペースを作ることを試みることは、面倒な仕事となるであろう。したがって、本発明は、根本的に異なるアプローチをとる。上記の寄生磁場が、ビーム導管-伝統的には金属製(例えば、ステンレス鋼やチタン)のパイプでできている-の壁内のジョンソン-ナイキスト電流に主に起因すると認識し、本発明者らは、従来のビーム導管設計を、例えば、ジルコニア(ZrO2)またはアルミナ(Al2O3)のような耐久性のあるセラミックを含む電気絶縁管で置き換えることを決定した。そのような管の空間帯電を防ぐために、その内面は、比較的薄く/抵抗性である、金属フィルムのような導電材料の(接地された)表皮で覆われており、そのため、それ自体は寄生電流の著しい潜伏場所/源にはならない。このような構造は、導電性と金属壁の厚さを減らすことによって、ノイズスペクトルが低周波数から高周波数にいくらかシフトする可能性があるが、総雑音パワーは本質的に同じままであり、画像広がりに対してごくわずかの/最低限の正味の影響をもたらす、という議論をする、上述のPRLジャーナルの記事では不適格と思われる。しかしながら、本発明者らは、この議論には欠陥があることを示した:上述のスペクトルシフトが十分に大きい場合、ピークスペクトルパワーは、ジョンソン-ナイキスト場がもはや電子ビームに大きな影響を及ぼさない周波数領域に転換され得る。より具体的には、本発明のビーム導管のマイクロ波カットオフ周波数より高い周波数は、画像広がり/ぼけに実質的に寄与しない。
【0011】
上記の考察に基づいて、当業者は、本発明の複合ビーム導管の内側表皮が、(同時に)
-空間電荷(誘起された表面電荷、例えば(偽の)電子衝突によって引き起こされる)を効果的に除去するのに十分な厚さ/導電性であり、
-寄生電流自体の著しい潜伏場所となることを防ぐのに十分な薄さ/抵抗性である、べきであることを理解するであろう。
【0012】
これに関して、表皮(電気的)導電率σと表皮厚tとの積σtは、代表的な役割を果たすことができ、比較的小さい値のσtが一般的に好まれる傾向がある。例えば、かついくつかのガイダンスを提供するために、300kVで動作している(S)TEMにおいて、本発明者らは、値σT<0.1Ω-1が満足のゆく結果をもたらし、σt<0.01Ω-1でより良好な結果を有し、かつσt<0.001Ω-1でさらなる改善があることを見出した。σtの所与の値は、σおよびtの様々な異なる(しかし補完的な)値を個々に選ぶことによって実現することができるが、しかしながら、実際には、いくつかの実際的な制約を考慮に入れる必要があることを当業者は理解するであろう。例えば、以下のとおりである:
-比較的低い値のt(例えば、数nm未満)は、例えば、蒸着技術の選択、不連続性(島形成)などに関して、製造上の複雑さをもたらす可能性がある。
-比較的高い値のt(例えば、約100μmのオーダよりも大きい)は、適切なσ値が達成され得る候補材料のリストを厳しく削減する可能性がある。
【0013】
いくらかの手引きを提供するために、本発明者らは、様々な比較的普通の導電材料を使用して達成することができるσ値に対応する、約5~20μmの範囲のtを使用して、良好な結果を達成した。整理しておくために、以下のことに留意されたい:
-σ=1/ρ、ここでρは電気抵抗率であり、
-σt=1/Rs、ここでRsは表皮のシート抵抗であり、Rs=ρ/tである。
【0014】
本発明の複合ビーム導管に使用するのに適した材料に関して、以下の非限定的な例が手引きの目的で与えられる。
-外管は、例えば、セラミック、ガラス質材料、石英、およびこれらの組み合わせを含む群から選択された少なくとも1つの材料を含み得る。「セラミック」という用語は、前述のジルコニア(ZrO2)またはアルミナ(Al2O3)のようなエンジニアリングセラミックを含む。このような材料は、概して、耐久性があり、耐温度性があり(そしてそれ故に、真空焼き出しに耐えることができ)、ガス放出挙動に関して問題がなく、そして管状形状に作る(例えば、鋳造を使用して)のが比較的容易である。整理しておくために、従来のEMでは、ビーム導管は概して約6~8mmのオーダの内径を有するが、この値の範囲は限定的ではないことに留意されたい。
-内側表皮は、酸化ルテニウム、硝酸チタン、およびこれらの組み合わせを含む群から選択された少なくとも1つの材料を含む。これらの材料は、都合の良いσ値を有し、例えば、PE-CVD(プラズマ増強化学蒸着)、PE-ALD(プラズマ増強原子層蒸着)、およびPVD(物理層蒸着)のようなプロセスを使用して、比較的容易に外管の内面に蒸着することができる。この群は限定的ではない:原則として、とりわけ選択された表皮厚tに応じて、W、TiまたはPt(またはこれらの組み合わせ)などの金属もまた内側表皮に使用することができる。
【0015】
整理しておくために、本発明の文脈において言及されるように、「電気絶縁材料」という用語はまた、伝統的に半導体であると見なされ得る材料も含むことができることに留意されたい。例えば、SiCは、従来半導体として分類されているセラミック材料であるが、しかしながら、その電気抵抗率は、約106Ωcmであり、それは、約10-10Ωcmの抵抗率を有するアルミニウムよりも約1016倍低い導電性になる。比較により、石英、アルミナおよびジルコニアの電気抵抗率は、それぞれ約1016、1014、109Ωcmである。当業者は、電気絶縁体が、通常そのような材料中に比較的大きなバンドギャップが存在するために、(基本的に)(伝導)電子の自由輸送がない材料であることを理解するであろう。
【0016】
別の解決策では、本明細書で定義される電子顕微鏡は、当該ビーム導管の少なくとも長手方向部分が、少なくとも当該収差補正器を通って延在し、
-混合された電気絶縁材料および導電材料、を含む集合体複合材料からなり、
-当該ビーム導管は、導電率σおよび壁厚twを有し、σtw<0.1Ω-1である、ことを特徴とする。
【0017】
この第2の関連する手法では、ビーム導管は、混合された電気絶縁材料および導電材料を含む集合体複合材料からなる。そのようなアプローチは、上述したものと同様の洞察に基づいているが、それは、上述した別々の電気絶縁外管と電気絶縁内側表皮との「積層構造」が単一の「モノリシック」集合体複合構造に効果的に「変形」されるビーム導管アーキテクチャを使用してそうする。この変形構造の導電率は、通常の導電材料および絶縁材料の導電率の中間であり、機能的には「高体積抵抗率」材料と呼ぶことができる。それは同時に:
-導管壁内の寄生ジョンソン-ナイキスト電流のぼけ効果を軽減するための十分な絶縁性と、さらに
-内面に蓄積する傾向がある空間電荷を除去するための十分な導電性と、を有す。
【0018】
次のことを考えると、
-前述の積層構造の外管が、壁厚ttを有し、かつ
-現在の集合体構造におけるビーム導管が、壁厚twを有する、
そうすれば、この変形構造の特性を理解する一つの方法は、それを、上述の積層構造の「発展」であると考えることであり、そこで、
-ttは、0に減少し、
-tはtwまで増加し、その結果、前の「表皮」は自立壁となり、
-σは同時に/比例して減少する。
【0019】
この類推では、所与の値の積σt(上記および下記の考察を参照)に対して、次のようになる。
-tが、約102のオーダの係数で(twに)増加(例えば、約10ミクロンから約1mm)される場合、
-σは、約102の同じ係数で比例して減少する必要があり、それはσを、通常の導体と絶縁体との中間と見なすことができるレベルまで減少させる。
【0020】
前の段落で述べたような集合体複合構造の構成に関して、構成要素材料の適切な例には以下が含まれる。
-電気絶縁材料:例えば、SiCおよび/またはZrOなどのセラミック。
-導電材料:例えば、黒鉛および/またはTiN。
【0021】
そのような複合体を達成する1つの方法は、(例えば、粒子または繊維の形態の)導電材料を(例えば、未焼結セラミック材料の形態の)絶縁材料のマトリックスに混合することであり、あるいは、導電材料から始めて、その中に絶縁材料を混合することによってその導電性を「加減する」ことができる。問題の添加剤は、例えば、拡散またはイオン注入などのプロセスを使用して、または例えば顆粒の物理的混合によって、受容性バルク材料に含まれてもよい。当業者は、所与のバルク抵抗率を有する集合体複合物を達成するために混合されるべき異なる材料の相対量を決定することができ、および/または彼は予め製造された製品を購入することができる。例えば、本明細書で言及されるような集合体複合材料は、米国テキサス州ディケーターにあるPoco Graphite,Inc.,のような会社から市販されている。それらは、静電気放電の問題を軽減するのに適しているので、時には「ESD」材料と呼ばれる。そのような材料に時々使用される他の用語は、「エレクトロセラミックス」および「粒状金属」を含む。このような材料は、例えば、I.S.Beloborodovら、による、ジャーナル記事「Granular electronic systems」で考察されている。Rev.Mod.Phys.79,pp.469(April,2007):
https://journals.aps.org/rmp/abstract/10.1103/RevModPhys.79.469
【0022】
(いずれのアプローチにおいても)上述の本発明の複合ビーム管構造は、必ずしも顕微鏡内の(一次)ビーム経路の全長にわたって使用される必要はない(そのような全長展開はもちろん可能であるが)。実際には、本発明者らは以下のことを見出した。
-ビーム導管内の所与の位置における(磁場ノイズによる)誘起された画像広がりは、その位置における軸方向のビーム径に比例する傾向があり、したがって、
-ビーム経路のある部分は、他の部分よりも磁場ノイズの影響を受けやすく、本発明が最も有用なのはこれらの部分にある。
【0023】
ここに定義されているように:
-顕微鏡は、収差補正器として構成された多極レンズアセンブリを備え、
本発明の複合ビーム導管は、少なくともこの収差補正器を通って延在する。
【0024】
本明細書で言及される収差補正器の例は、球面収差(Cs)補正器、色収差(Cc)補正器、および複合型の球面-色(Cs-Cc)補正器を含み、これらはSEMおよび/またはTEMで使用され得る。例えば:
-SEMまたはSTEMでは、Cs補正器は、(試料の前の)照明システムに含めることができる。そのようなCs補正器は、しばしば(ビーム経路に沿って)約15cmのオーダの長さを有する。
-TEMでは、複合型のCs-Cc補正器は、撮像システムに含めることができ、それは、試料の下流に位置し、試料を透過した電子を(撮像、回折図および/またはスペクトル)検出器に向けるのに役立つ。そのようなCs-Cs補正器は、しばしば(ビーム経路に沿って)約45cmのオーダの長さを有するが、例えば、この長さの約2倍までのCs-Cc補正器もある。
【0025】
CsおよびCc補正器についてのさらなる情報は、例えば、次の参考文献から収集することができる。
-米国特許第5,084,622号、
-H.RoseおよびW.Wan、“Aberration correction in electron microscopy”,IEEE Proceedings of 2005 Particle Accelerator Conference,Knoxville,Tennessee,USA,pp.44-48(2005)。
【0026】
上述したような収差補正器が使用されるとき、本発明を利用することができるビーム経路の別の比較的敏感な部分は、試料平面(試料ホルダ)と収差補正器との間に延在する軌道である。これによるのは、
-例えばSTEMにおいて、補正器から試料平面への軌道(試料平面の上流)、
-例えばTEMにおいて、試料平面から補正器への軌道(試料平面の下流)、のいずれかまたは両方を意味する。
【0027】
さらに、静電偏向モジュール内/近くに位置付けされているビーム経路の部分に本発明を適用することは有利であり得る。当業者は、ビーム経路のどの部分が、本発明の複合ビーム導管の適用に(最も)値するかを決定することができ、それを(実質的に)一次ビーム経路全体に沿って展開することを決定してもよい。この後者のシナリオは、(少なくとも)顕微鏡の動作中に、ビーム導管全体が確実に高真空を維持しなければならないことに留意して、とりわけ、2つの異なる種類のビーム導管間の接合をする必要性を回避するという点で価値がある。
【0028】
本発明を使用して、両方の場合において50mradのビーム半開角に対して、例えば、300kVのビーム電圧で30pm、および60kVのビーム電圧で60pmの優れたSTEM画像解像度値を達成することができ、上述のPRLジャーナル記事に記載されているように、面倒な極低温冷却に頼る必要はない。従来のステンレス鋼ビーム導管に関して、本発明は、典型的にはジョンソン-ナイキストノイズによって引き起こされる画像広がりを約10~15のオーダの係数で減少させることを可能にする。
【0029】
上記の本発明の手段を補足するために、必ずしも上述のPRLジャーナルの記事に記載された極低温冷却に頼る必要なしに、ジョンソン-ナイキストノイズの有害な撮像効果をさらに低減するために取ることができる追加の手段がある。一つのこのような尺度は、磁力線をビームの直接近傍に導くために使用される1つ以上の磁気(例えば、鉄)ヨーク内の穴を広げることである。名目上、そのような穴は、ビーム軸にできるだけ近づくように、ビーム導管の外面を抱き込み/接触する。しかしながら、発明者らは、(内側)半径rの円筒形の穴に対して、ヨークが、1/r依存性に従ってジョンソン-ナイキストぼけに寄与し、その結果、穴を広げることが、そのようなぼけの影響を減らすであろうことに、気付いた。この様態で穴サイズを大きくすることは、穴の内面とビーム導管の外面との間に空の間隙が作り出されることを引き起こすが、そのような間隙は必ずしも重大な(最優先の)マイナス面を有するわけではない。
【0030】
完全を期すために、以下の先行技術文献を参照する。
【0031】
US3,787,696AおよびDE3010376A1は、走査および/または集束コイルに使用するためのライナーチューブを開示している。US3,634,684Aもまた、走査コイルにライナーチューブを使用している。ここで、ライナーチューブは、走査から生じる高周波磁束から生じる渦電流に対抗するために使用される。これらの文献は、収差補正器としての多極レンズアセンブリにおけるジョンソンノイズに対抗するためにこれらのライナーチューブの使用を示唆していない。
【0032】
JPH0322339Aは、導電性の内側表皮と電気的絶縁外管とを有する収差補正器を開示している。ここで、導電性の内側表皮は、所望の電圧をライナーチューブに印加し、試料を接地した状態に保つために必要とされる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
ここで、本発明は、例示的な実施形態および添付の(一定の比率ではない)概略図に基づいてより詳細に説明される。
【0034】
【
図1】は、本発明が実装されるEM(この場合は、(S)TEM)の一実施形態の縦断面立面図を描写する。
【
図3】は、異なるビーム電圧での、
図2Aに示されるような本発明の実施形態についての、σt(表皮導電率×表皮厚)のlog
10の関数としての(磁場ノイズによる、および従来のビーム導管と比較した)相対的な画像広がりのプロットである。
【
図4】は、
図2A/2Bに示された実施形態の代替の(しかし関連する)実施形態の拡大横断面図を示す。
【0035】
図面において、適切な場合、対応する部分は、対応する参照符号を使用して示される。
【発明を実施するための形態】
【0036】
実施形態1
図1(一定の比率ではない)は、本発明が実装されるEM Mの実施形態の非常に模式的な図であり、より具体的には、それは、TEM/STEMの実施形態を示す(ただし、本発明の文脈では、それは、例えばSEMでも同様に有効であり得る)。この図では、一般的なキャビネット/カバー2内に、模式的に図示された真空ポンプアセンブリV’によって排気することができる真空エンクロージャVがある。この真空エンクロージャV内では、電子源4は、電子-光軸B’に沿って伝搬し、(概して(局所的に)薄くされ/平坦化されている)試料Sの選択された部分上に電子を方向付け/集束させる働きをする、照明器システム(電子ビームコラム)6を横断する電子ビームBを生成する。また(とりわけ)ビームBの走査運動をもたらすために使用することができる偏向器8も図示されている。可能な所で、真空エンクロージャVは、軸B’を概して「抱き込み」、(少なくとも)照明器6を通る(例えば、直径約0.5cmのオーダの)比較的狭い細長いビーム導管B”の形態をとるが、(例えば、下記で考察する部品H、26、30、32、および34などの)特定の構造を収容するために必要な所では広げられている。
【0037】
試料Sは、位置決めデバイス/ステージAによって複数の自由度で位置決めすることができる試料ホルダHに保持されており、ステージAは、ホルダHが(取り外し可能に)固定されているクレードルA’を移動させ、例えば、試料ホルダHは、(とりわけ)XY平面(図示されたデカルト座標系を参照されたい)内で移動することができるフィンガを備えてもよく、Zに平行およびX/Yを中心に傾く運動も典型的には可能である。かかる移動は、試料Sの異なる部分が、軸線B’に沿って(Z方向に)進む電子ビームBによって照明/撮像/検査されることを可能にし、および/または走査する動きがビーム走査の代替として実行されることを可能にする。(しばしばそうであるように)試料Sが極低温試料である場合には、(模式的に図示された)温度制御アセンブリTを使用して、試料ホルダHを極低温に維持することができ、これは、例えば、ホルダHに熱的に接続され、寒剤槽に浸されている熱伝導性(例えば、金属製)芯、または、例えば、循環する寒剤を担持しているパイプシステムを含み得る。
【0038】
電子ビームBは、試料Sと相互作用して、(例えば)二次電子、後方散乱電子、X線、および光放射線(カソード発光)を含む様々な種類の「励起(stimulated)」放射線が試料Sから放出されるようになる。所望される場合、例えば、シンチレータ/光電子増倍管またはEDX(エネルギー分散型X線分光)モジュールを組み合わせた分析デバイス22の助けを借りて、これらの放射線の種類のうちの1つ以上を名目上検出することができ、このような場合には、SEMと基本的に同じ原理を使用して、画像を構築することができる。しかしながら、試料Sを横断(通過)し、試料から放射/放出され軸線B’に沿って(実質的には、一般的に、ある程度偏向/散乱しながら)伝搬し続ける電子を代替的に、または補足的に調査することができる。このような透過電子フラックスは、撮像システム(投影レンズ)24に入射し、撮像システム24は一般的に、多種多様な静電レンズ/磁気レンズ、偏向器、補正器(例えばスティグメータのような)などを備えている。通常の(非走査)TEMモードでは、この撮像システム24は、透過電子フラックスを蛍光スクリーン26に集束させることができ、蛍光スクリーン26は、所望される場合、それを軸B’の邪魔にならないように撤回/回収することができる。試料S(の一部)の画像または、回折図は、撮像システム24によってスクリーン26上に形成され、この画像は、エンクロージャV/キャビネット2の壁の適切な部分に位置する視認ポート28a、28bを通して視認され得る。スクリーン26の撤回機構は、例えば本質的に機械的および/また電気的な機構であり、ここには図示されていない。
【0039】
スクリーン26上の画像/回折図を視認することの代替として、代わりに、撮像システム24から出ていく電子フラックスの焦点深度が一般的に極めて深い(例えば、約1メートル)という事実を利用することができる。その結果、次のような、様々な他の種類の分析装置をスクリーン26の下流で使用することができる。
-TEMカメラ30。カメラ30において、電子フラックスは、静止画像または回折図を形成することができ、それは、コントローラ/プロセッサ20によって処理することができ、例えば、フラットパネルディスプレイのような表示デバイス(図示せず)に表示することができる。必要ではない場合、カメラ30は、(矢印30’で概略に示すように)撤回/回収させて、カメラを軸線B’から外れるようにすることができる。
-STEMカメラ32。カメラ32からの出力は、試料S上のビームBの(X、Y)走査位置の関数として記録することができ、X、Yの関数としてのカメラ32からの出力の「マップ(map)」である画像を構築することができる。カメラ32は、カメラ30に特徴的に存在する画素のマトリックスとは対照的に、例えば20mmの直径を有する単一の画素を含むことができる。さらに、カメラ32は、概して、カメラ30(例えば、102画像/秒)よりもはるかに高い取得レート(例えば、106ポイント/秒)を有する。この場合も同じく、必要でない場合、カメラ32は、(矢印32’で概略に示すように)撤回/回収させて、カメラを軸線B’から外れるようにすることができる(このような撤回は、例えば、ドーナツ形の環状暗視野カメラ32の場合には必要とされないが、このようなカメラでは、中心孔が、カメラが使用されていなかった場合にフラックスの通過を可能にする)。
-カメラ30または32を使用して撮像を行うことの代替として、例えばEELSモジュールとすることができる分光装置34を呼び出すこともできる。
【0040】
部品30、32、および34の順序/位置は厳密ではなく、多くの可能な変形が考えられることに留意されたい。例えば、分光装置34は、撮像システム24と一体化することもできる。
【0041】
コントローラ(コンピュータプロセッサ)20は、様々な図示される構成要素に、制御線(バス)20’を介して接続されることに留意されたい。このコントローラ20は、作用を同期させる、設定値を提供する、信号を処理する、計算を実行する、およびメッセージ/情報を表示デバイス(図示せず)に表示するといった様々な機能を提供することができる。言うまでもなく、(模式的に図示されている)コントローラ20は、キャビネット2の内側または外側に(部分的に)あってもよく、所望に応じて、単体構造または複合構造を有し得る。
【0042】
当業者であれば、エンクロージャVの内部を厳密な真空に保つ必要はないことを理解し、例えば、いわゆる「環境TEM/STEM」においては、所与のガスのバックグラウンド雰囲気が、エンクロージャV内に意図的に導入/維持される。
【0043】
顕微鏡Mは、1つ以上の収差補正器40を含むことができ、その各々は、球面収差(Cs)および/または色収差(Cc)を軽減するように構成された多極レンズアセンブリを備える。例えば、照明システム6内に図示された補正器40は、Cs補正器としてもよく、一方撮像システム24内の補正器40は、複合型のCs-Cc補正器としてもよい(上記参照)。
【0044】
伝統的に、ビーム導管B”は金属製パイプを含む。しかしながら、本発明の文脈において、この基本構造は、ビーム導管B”の(Z軸に沿った)長さの少なくとも一部にわたって修正されている。
図1のビーム導管B”の一部の拡大横断面図を示す
図2Aを参照すると、本発明によれば、ビーム導管B”の少なくとも(長手方向)部分は、
-(壁厚t
tの)電気絶縁材料の外管50と
-(厚さtの)導電材料の内側表皮52と、を備える、複合フォームを有することがわかる。
【0045】
環状の断面を有する外管50は、例えば、約5~10mmの外径と約4.5~9mmの内径を有し、例えば、セラミックまたはガラス質材料からなる。その内側(円筒形)表面50’上に、表皮52が、例えば約15μmの厚さtで提供/蒸着されており、TiNなどの材料を含む。使用中、内側表皮52は、電気的接地/アースに接続されている。この複合構造は、ビーム導管B”全体に使用されてもよいが、補正器40内および各補正器40と試料Sとの間などの、そのちょうど選択された位置に適用されてもよい。上記のように、そのような構造は、ジョンソン-ナイキスト磁場からビームBをシールドし、このためそのような磁場のぼけ効果を減少させる。
【0046】
図2Bは、
図2Aの状況の修正版を示しており、この場合、外管50と内側表皮52との間に空の間隙51が存在する。使用時には、間隙51は、表皮52の内部空間と(実質的に)同じ真空レベルまで排気され、そのため、表皮52を横切る半径方向の圧力差は(実質的に)なく、逆に、表皮52の内部が非真空圧力にある場合(例えば、製造、輸送、保守などの間)、間隙51も(実質的に)この同じ圧力に保持される。このようにして、表皮52は、比較的薄いにもかかわらず有効に自立することができ、-しかし、もちろん、例えば、放射状の支柱、または接続された四肢の形で、部品52と50の間に1つ以上の相互接続を提供することができ、したがって、例えば、スリーブまたはホースとしても説明することができる。図示された構造はまた、例えば、表皮52が比較的小さい値のσt、例えばσt<0.1または<0.01を有する場合、本発明の洞察を適用し/活用する。
【0047】
図2Aおよび2Bの両方における表皮52は、以下の点で「別個」であることに留意されたい。
-絶縁外管50に対し組成上異なる、および/または、
-
図2Bの場合、絶縁外管50から物理的に分離されている。
【0048】
実施形態2
本発明による、
図2Aに示すような複合ビーム導管構造は、様々な方法で製造することができる。例えば、以下のとおりである:
-LTCCなどの未焼結セラミック材料の平らなシートから始めることができる。これは最終的に(円筒形状に巻いた後に)外管50になる。
-このシートの平らな面上に、例えば、上述の技術PE-CVD、PE-ALDまたはPVDのうちの1つを使用して、導電性(ただし高抵抗の)フィルムが蒸着される。これは、最終的には表皮52になる。
-ここで、シートは、内側表面上に導電性フィルムを有する状態で円筒に巻かれ、これは適切なジグ/型の助けを借りてなされ得る。その後、それは等方圧加圧され、そして焼結され/焼かれる。
【0049】
代替アプローチでは、管50は、円筒形状に予備成形(例えば、鋳造または圧延)され、次いで表皮52がその内側表面上に蒸着される。
【0050】
実施形態3
ここで、本発明の特定の態様についての要約された数学的論文が与えられる。導電体(磁性および非磁性の両方の)は、抵抗器でよく知られているジョンソン-ナイキストノイズを引き起こす同じ熱流によって、低周波数でかなり変動する磁場を生成する。内側半径α、壁厚t≪α、および導電率σを有する非磁性体管を考える。1つの閾値周波数は表皮効果に関連しており、次式で与えられる。
【数1】
ここで
、μ
0は真空の透磁率である。ここで、平均半径α≫tおよびDC抵抗R
0=2π/(σt)を有する、厚さtの大きいプレート内のループ電流を考え、それによって変動磁場が、プレートからの距離αで測定される。この場合の周波数依存抵抗Rの妥当な近似は次のとおりである。
【数2】
電流変動は次の式で与えられる。
【数3】
と:
【数4】
【数5】
ここで自己インダクタンスL
ind
μ
0α、kはボルツマン定数、Tは温度である。したがって、次式を満たす第2の閾値周波数ν
indがある。
【数6】
と:
【数7】
t≪αに対して、
磁場の低周波変動の方程式は、次の形式である。
【数8】
【数9】
幾何学的因子C
geo<
0.2。チューブの場合、α=チューブ半径。これはスペクトル密度に拡張することができる。
【数10】
t≪αなので、式(3.7)は、次式で近似することができる。
【数11】
これは、次式に統合される。
【数12】
したがって、壁厚tおよび導電率σは式から外れる。σtが減少すると、低周波数でのスペクトル密度は減少するが、全ての雑音電力はより高い周波数に転送される。
【0051】
変動磁場によって引き起こされる偏向角を計算するために、横磁場の(管軸に沿った)いわゆる相関距離ξを知る必要がある。ジョンソン-ナイキスト電流を介して発生される場に対してξ=3α/2を使用することができる。いわゆる「凍結双極子」シナリオでは、周波数がv/2ξよりかなり低いと仮定すると、次式を得る。ここで、vは電子速度。
【数13】
長さLのチューブの場合、ここで
-U=加速電圧、
-U
r=相対論的電圧=U(1+Ue/2mc
2)、ここでeおよびmは、それぞれ電子の電荷および質量。
-A
n(z)は、B(z)の正規化自己相関関数、つまりA
n(0)=1。可能な自己相関関数は次のとおりである。
【数14】
および
【数15】
以下では後者の式を仮定する。
【0052】
3.1:「凍結していない双極子」
前述の「凍結双極子」閾値v/2ξより大きい周波数では、相関距離ξを横切っている間に電子は多数の周期で揺れ動く。これは、「凍結双極子」の場合と比較して正味の偏向角を大幅に減少させ、これは、(部分的に)黒体放射がTEMの画像広がりに大きく寄与しない理由を説明する。ジョンソン-ナイキスト電流にこれらの周波数を含めるために、異なる周波数間の相互相関なしに、光軸上の横方向磁場に対して任意に離散周波数の大きなセットを有する単純なモデルが使用される。軸方向電子は、次式を介して、ローレンツ力によって支配されていると今でも考えられている。
【数16】
ここで、γ
r=1+Ue/mc
2。磁場に対する相関関数は、周波数と共に変化することが許される、すなわちA
n(z)およびξは周波数に依存すると仮定される。そして、偏向角θについて次のことを示すことができる。
【数17】
ここでη=(e/2m)
1/2であり、指数因子は電子の揺れを説明する。式(3.12)は次のようになる。
【数18】
この式は次のことを示唆している。
【数19】
ここで、上限は、「凍結双極子」閾値とほぼ同じである。
【数20】
カットオフ周波数に関して:
【数21】
そして真空中の光速c。式(3.8)を使用すると、これは次式になる。
【数22】
これから、次の場合、熱磁場ノイズの大幅な低減が達成できることになる。
【数23】
この場合、式(3.1.6)は、次のように単純化される。
【数24】
すなわち、画像広がりは、式(3.1.7)によって与えられるレジームにおいて(σt)
1/2に従って単純に拡大縮小する。例えば、U
max=300kVの電子顕微鏡の特定の場合には、次のようになる。
【数25】
【0053】
実施形態4
図3は、300kV(黒線)および30kV(灰色線)のビーム(加速)電圧で、本発明の実施形態についての、Σ=log
10(σt)(表皮導電率×表皮厚)の関数としての(磁場ノイズによる)相対的な画像広がりΔのプロットである。本質において:
Δ=θ(σt)
inv/θ(σt)
ref
ここで、添字「inv」および「ref」は、それぞれ「発明」および「基準」を指す。従来のステンレス鋼ビーム導管が、縦軸に使用される基準である。
水平方向の破線(Δ=1)より下の点は、従来のビーム導管に関して改善を表す。改善は、Σ=-1(σt=0.1に対応)ですでに明白になっているが、より強い改善Σ=-2(σt=0.01に対応)があり、Σ=-3(σt=0.001に対応)でさらに大きな改善があることに留意されたい。
【0054】
実施形態5
図4は、
図2(Aおよび/またはB)に示された実施形態の代替(しかし関連する)実施形態の拡大横断面図を示す。ここでは、
図2の積層複合材料は、混合された電気絶縁材料および導電材料を含む集合体複合材料54によって置き換えられており、したがって
図2の表皮52の導電率σより低い導電率σを有する「ハイブリッド」材料を生成している。導管B”は、
図2の表皮厚tよりも大きい壁厚t
wを有する。上記の考察に則して、積σt
wは比較的小さく、例えば、<0.01Ω
-1、さらには<0.001Ω
-1である。