(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-16
(45)【発行日】2023-10-24
(54)【発明の名称】薄膜の製造方法
(51)【国際特許分類】
C23C 16/18 20060101AFI20231017BHJP
H01L 21/205 20060101ALN20231017BHJP
【FI】
C23C16/18
H01L21/205
(21)【出願番号】P 2020550313
(86)(22)【出願日】2019-09-24
(86)【国際出願番号】 JP2019037274
(87)【国際公開番号】W WO2020071175
(87)【国際公開日】2020-04-09
【審査請求日】2022-09-12
(31)【優先権主張番号】P 2018189092
(32)【優先日】2018-10-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000387
【氏名又は名称】株式会社ADEKA
(74)【代理人】
【識別番号】100110423
【氏名又は名称】曾我 道治
(74)【代理人】
【識別番号】100111648
【氏名又は名称】梶並 順
(74)【代理人】
【識別番号】100122437
【氏名又は名称】大宅 一宏
(74)【代理人】
【識別番号】100209495
【氏名又は名称】佐藤 さおり
(72)【発明者】
【氏名】岡田 奈奈
(72)【発明者】
【氏名】吉野 智晴
(72)【発明者】
【氏名】山下 敦史
【審査官】▲高▼橋 真由
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第05149853(US,A)
【文献】韓国公開特許第10-2016-0082350(KR,A)
【文献】特開昭62-276832(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 16/00-16/56
H01L 21/205
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
原子層堆積法によって基体の表面にガリウム原子を含有する薄膜を製造する方法であって、
下記化合物No.16又は下記化合物No.25を含有する原子層堆積法用薄膜形成用原
料を気化させ
、前記基体の表面に堆積させ
て前駆体薄膜を形成する工程と、前記前駆体薄膜を反応性ガスと反応させる工程
とを含む薄膜の製造方法。
【化1】
【化2】
【請求項2】
前記反応性ガスが、水蒸気を含有するガスである請求項1に記載の薄膜の製造方法。
【請求項3】
前記ガリウム原子を含有する薄膜中の残留炭素含有量が3.0atom%以下である請求項1又は2に記載の薄膜の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特定の構造を有するガリウム化合物を含有してなる原子層堆積法用薄膜形成用原料、特定の構造を有するガリウム化合物を含有してなる薄膜形成用原料、これらの原料を用いたガリウム原子を含有する薄膜を形成する薄膜の製造方法および特定の構造を有する新規なガリウム化合物に関する。
【背景技術】
【0002】
錫元素を含む薄膜形成用材料は、特異的な電気特性を示し、種々の用途に応用されている。例えば半導体等の電子機器向け薄膜や、太陽電池又はLEDなどの光電子工学用途向けのフィルム等として使用されている。
【0003】
薄膜の製造法としては、例えばスパッタリング法、イオンプレーティング法、塗布熱分解法やゾルゲル法等のMOD法、CVD法等が挙げられる。これらの中でも、組成制御性及び段差被覆性に優れること、量産化に適すること、ハイブリッド集積が可能である等多くの長所を有しているので、原子層堆積法(ALD法という場合もある)が最適な製造プロセスである。
【0004】
CVD法及びALD法のような気相薄膜形成法に用いることができる材料は種々報告されているが、ALD法に適用可能な薄膜形成用原料は、ALDウィンドウと呼ばれる温度領域を有する必要があり、この温度領域が十分な広さであることが必要である。よって、CVD法に使用可能な薄膜形成用原料であっても、ALD法に適さない場合が多くあることは当該技術分野における技術常識である。
【0005】
ALD法用原料として用いられるガリウム化合物としては、特許文献1~4に、トリメチルガリウムやトリエチルガリウムのようなトリアルキルガリウム、トリス(ジメチルアミノ)ガリウムやトリス(ジエチルアミノ)ガリウムのようなトリス(ジアルキルアミノ)ガリウムが開示されている。
【0006】
【文献】特表2018-524808号公報 請求項7
【文献】特開2018-011067号公報 [0174]段落
【文献】特表2017-503079号公報 [0067]段落
【文献】特開2018-010936号公報 [0027]段落
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
原子層堆積法用薄膜形成原料には、熱安定性に優れ、反応性ガスと低い温度で反応し、生産性よく品質の良い薄膜を製造できることが求められている。なかでも、品質の良い薄膜を得ることができる原子層堆積法用薄膜形成原料が強く求められていた。
従来、特許文献1~4に開示されているトリメチルガリウムやトリエチルガリウムのようなトリアルキルガリウムを原子層堆積法用薄膜形成原料として用いて品質の良いガリウム原子含有薄膜を得るために、反応性ガスとしてオゾンガスを用いる方法が用いられてきた。これは、トリアルキルガリウムとオゾンガスとの反応性が高いことが理由であるが、オゾンガスは周辺の部材にも大きなダメージを与えてしまうことが問題となっていた。この問題に対応するためには、反応性に乏しく周辺部材への影響度が少ない水蒸気などの反応性ガスを用いることが考えられるが、トリアルキルガリウムを原子層堆積法用薄膜形成原料として用い、水蒸気を反応性ガスとして用いた場合には、得られる薄膜中に多量の残留炭素成分が混入してしまい、品質の良いガリウム原子含有膜を得ることができないことが問題だった。別の方法として、反応性ガスとして酸素を用い、さらにプラズマを作用させて薄膜を製造する方法も提案されているが、この場合においても、得られる薄膜中に多量の残留炭素成分が混入してしまうことが報告されている。
また、トリス(ジメチルアミノ)ガリウムやトリス(ジエチルアミノ)ガリウムのようなトリス(ジアルキルアミノ)ガリウムは、二量体を形成し、融点が高くなり、常温では固体となり、薄膜形成原料として好ましいものではない。
【0008】
従って、本発明の第1の目的は、水蒸気などの反応性ガスを用いた場合であっても、ALD法により品質の良いガリウム原子含有膜を得ることができる原子層堆積法用薄膜形成原料及びその原料を用いた薄膜の製造方法を提供することにある。
また、CVD法等の化合物を気化させて薄膜を形成する原料に適する化合物(プレカーサ)に求められる性質は、融点が低く液体の状態で輸送が可能であること、液体の粘度が低いこと、蒸気圧が大きく気化させやすいこと、熱安定性が高いことである。なかでも、ガリウム原子供給源となる薄膜形成用原料では、融点が低く、輸送性に優れる薄膜形成用原料が求められていた。
従って、本発明の第2の目的は、融点が低く、輸送性に優れた、特定の構造を有するガリウム化合物を含有してなる薄膜形成用原料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者等は、検討を重ねた結果、特定の構造を有するガリウム化合物を含有する薄膜形成原料が上記課題を解決し得ることを知見し、本発明を完成するに到った。
即ち、本発明は、下記一般式(1)で表されるガリウム化合物を含有する原子層堆積法用薄膜形成原料を提供するものである:
【0010】
【化1】
(式中、R
1~R
4は、それぞれ独立に炭素原子数1~5のアルキル基を表し、A
1は、炭素原子数1~5のアルカンジイル基を表す。)
【0011】
また、本発明は、下記一般式(2)で表されるガリウム化合物を含有してなる薄膜形成用原料を提供するものである:
【0012】
【化2】
(式中、R
5~R
8は、それぞれ独立に炭素原子数1~5のアルキル基を表し、A
2は、炭素原子数1~5のアルカンジイル基を表す。ただし、R
5~R
8の炭素原子数の和は、5以上である。)
【0013】
更に、本発明は、基体の表面にガリウム原子を含有する薄膜を製造する方法であって、上記原子層堆積法用薄膜形成原料または薄膜形成用原料を気化させることにより得られる前記化合物を含有する蒸気を処理雰囲気に導入し、該化合物を分解及び/又は化学反応させて前記基体の表面に堆積させる工程を含む薄膜の製造方法を提供するものである。
【0014】
また、本発明は、下記一般式(3)で表されるガリウム化合物を提供するものである:
【0015】
【化3】
(式中、R
9~R
12は、それぞれ独立に炭素原子数1~5のアルキル基を表す。)
【発明の効果】
【0016】
本発明の原子層堆積法用薄膜形成原料を用いることにより、水蒸気などの反応性ガスを用いた場合であっても、残留炭素が少なく品質の良いガリウム原子含有薄膜を製造することができる。また、本発明の薄膜形成用原料を用いることにより、その優れた輸送性から生産性よく薄膜を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明に係る薄膜の製造方法に用いられる化学気相成長用装置の一例を示す概略図である。
【
図2】本発明に係る薄膜の製造方法に用いられる化学気相成長用装置の別の例を示す概略図である。
【
図3】本発明に係る薄膜の製造方法に用いられる化学気相成長用装置の更に別の例を示す概略図である。
【
図4】本発明に係る薄膜の製造方法に用いられる化学気相成長用装置の更に別の例を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の原子層堆積法用薄膜形成用原料は、上記一般式(1)で表される化合物を含有してなるものである。
【0019】
上記一般式(1)において、R1~R4は、それぞれ独立に炭素原子数1~5のアルキル基を表す。
【0020】
上記一般式(1)において、R1~R4で表される炭素原子数1~5のアルキル基としては、例えば、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、第二ブチル、第三ブチル、イソブチル、n-ペンチル、第二ペンチル、第三ペンチル、イソペンチル、ネオペンチルが挙げられる。
【0021】
上記一般式(1)において、A1は、炭素原子数1~5のアルカンジイル基を表す。
【0022】
上記一般式(1)において、A1で表される炭素原子数1~5のアルカンジイル基としては、例えば、メチレン、エチレン、プロピレン、メチルエチレン、ブチレン、1-メチルプロピレン、2-メチルプロピレン、1,2-ジメチルプロピレン、1,3-ジメチルプロピレン、1-メチルブチレン、2-メチルブチレン、3-メチルブチレン、4-メチルブチレン等が挙げられる。
【0023】
上記一般式(1)において、R1~R4およびA1は、これらの組み合わせが、常温常圧下において液体状態となり、蒸気圧が大きくなるものが好ましい。具体的には、R1~R4が各々独立にメチルまたはエチルであるものは蒸気圧が高いことから好ましく、これらの中でもR1=R2であるものが特に好ましい。また、A1がエチレン、プロピレン、メチルエチレン、ブチレン、1-メチルプロピレン、2-メチルプロピレンであるものは水蒸気との反応性が良好であることから好ましく、なかでもプロピレン、1-メチルプロピレン、2-メチルプロピレンであるものはALDウィンドウが広いことから好ましく、2-メチルプロピレンが特に好ましい。R1~R4が各々独立にメチルまたはエチルであり、A1が2-メチルプロピレンであるものは、融点が低いことから特に好ましい。
【0024】
本発明の原子層堆積法用薄膜形成用原料に用いられる一般式(1)で表される化合物の好ましい具体例としては、例えば、下記化合物No.1~No.30が挙げられる。
尚、下記化学式中の「Me」はメチル基を表し、「Et」はエチル基を表す。
【0025】
【0026】
【0027】
【0028】
【0029】
【0030】
本発明の原子層堆積法用薄膜形成用原料に用いられる一般式(1)で表される化合物は、その製造方法により特に制限されることはなく、周知の合成方法で製造することができる。例えば、塩化ガリウムとハロゲン化ジアルキルアミンとをグリニャール反応させた後に、アルキルリチウムと反応させることで得ることができる。
【0031】
本発明の原子層堆積法用薄膜形成原料は、上記一般式(1)で表される化合物を含有するものであればよく、その組成は、目的とする薄膜の種類によって異なる。例えば、金属としてガリウムのみを含む薄膜を製造する場合、本発明の原子層堆積法用薄膜形成原料は、上記一般式(1)で表されるガリウム化合物以外の金属化合物及び半金属化合物を非含有である。一方、ガリウムと、ガリウム以外の金属及び/又は半金属とを含む薄膜を製造する場合、本発明の原子層堆積法用薄膜形成用原料は、上記一般式(1)で表される化合物に加えて、ガリウム以外の金属を含む化合物及び/又は半金属を含む化合物(以下、他のプレカーサともいう)を含有することもできる。本発明の原子層堆積法用薄膜形成原料は、後述するように、更に、有機溶剤及び/又は求核性試薬を含有してもよい。
【0032】
本発明の原子層堆積法用薄膜形成原料の形態は使用される原子層堆積法の輸送供給方法等の手法により適宜選択されるものである。
【0033】
上記の輸送供給方法としては、本発明の原子層堆積法用薄膜形成原料が貯蔵される容器(以下、単に「原料容器」と記載することもある)中で加熱及び/又は減圧することにより気化させて蒸気となし、必要に応じて用いられるアルゴン、窒素、ヘリウム等のキャリアガスと共に、該蒸気を基体が設置された成膜チャンバー内(以下、「堆積反応部」と記載することもある)へと導入する気体輸送法、本発明の原子層堆積法用薄膜形成原料を液体又は溶液の状態で気化室まで輸送し、気化室で加熱及び/又は減圧することにより気化させて蒸気となし、該蒸気を成膜チャンバー内へと導入する液体輸送法がある。気体輸送法の場合は、上記一般式(1)で表される化合物そのものを原子層堆積法用薄膜形成原料とすることができる。液体輸送法の場合は、上記一般式(1)で表される化合物そのもの又は該化合物を有機溶剤に溶かした溶液を原子層堆積法用薄膜形成原料とすることができる。これらの原子層堆積法用薄膜形成原料は、他のプレカーサ、求核性試薬等を更に含んでもよい。
【0034】
また、多成分系のALD法においては、原子層堆積法用薄膜形成原料を各成分独立で気化、供給する方法(以下、「シングルソース法」と記載することもある)と、多成分原料を予め所望の組成で混合した混合原料を気化、供給する方法(以下、「カクテルソース法」と記載することもある)がある。カクテルソース法の場合、上記一般式(1)で表される化合物と他のプレカーサとの混合物若しくは該混合物を有機溶剤に溶かした混合溶液を原子層堆積法用薄膜形成原料とすることができる。この混合物や混合溶液は、求核性試薬等を更に含んでいてもよい。
【0035】
上記の有機溶剤としては、特に制限を受けることはなく周知一般の有機溶剤を用いることができる。該有機溶剤としては、例えば、酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸メトキシエチル等の酢酸エステル類;テトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン、エチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、ジブチルエーテル、ジオキサン等のエーテル類;メチルブチルケトン、メチルイソブチルケトン、エチルブチルケトン、ジプロピルケトン、ジイソブチルケトン、メチルアミルケトン、シクロヘキサノン、メチルシクロヘキサノン等のケトン類;ヘキサン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、ジメチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン、ヘプタン、オクタン、トルエン、キシレン等の炭化水素類;1-シアノプロパン、1-シアノブタン、1-シアノヘキサン、シアノシクロヘキサン、シアノベンゼン、1,3-ジシアノプロパン、1,4-ジシアノブタン、1,6-ジシアノヘキサン、1,4-ジシアノシクロヘキサン、1,4-ジシアノベンゼン等のシアノ基を有する炭化水素類;ピリジン、ルチジン等が挙げられる。これらの有機溶剤は、溶質の溶解性、使用温度と沸点、引火点の関係等により、単独で用いてもよいし、又は二種類以上を混合して用いてもよい。
【0036】
また、多成分系のALD法の場合において、上記一般式(1)で表される化合物と共に用いられる他のプレカーサとしては、特に制限を受けず、原子層堆積法用薄膜形成原料に用いられている周知一般のプレカーサを用いることができる。
【0037】
上記の他のプレカーサとしては、アルコール化合物、グリコール化合物、β-ジケトン化合物、シクロペンタジエン化合物、有機アミン化合物等の有機配位子として用いられる化合物からなる群から選択される一種類又は二種類以上と珪素や金属との化合物が挙げられる。また、プレカーサの金属種としては、リチウム、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、チタニウム、ジルコニウム、ハフニウム、バナジウム、ニオブ、タンタル、クロム、モリブデン、タングステン、マンガン、鉄、ルテニウム、コバルト、ロジウム、イリジウム、ニッケル、パラジウム、白金、銅、銀、金、亜鉛、アルミニウム、インジウム、ゲルマニウム、スズ、鉛、アンチモン、ビスマス、スカンジウム、ルテニウム、イットリウム、ランタン、セリウム、プラセオジム、ネオジム、プロメチウム、サマリウム、ユウロピウム、ガドリニウム、テルビウム、ジスプロシウム、ホルミウム、エルビウム、ツリウム、イッテルビウム又はルテチウムが挙げられる。
【0038】
上記の他のプレカーサの有機配位子として用いられるアルコール化合物としては、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロピルアルコール、ブタノール、第2ブチルアルコール、イソブチルアルコール、第3ブチルアルコール、ペンチルアルコール、イソペンチルアルコール、第3ペンチルアルコール等のアルキルアルコール類;2-メトキシエタノール、2-エトキシエタノール、2-ブトキシエタノール、2-(2-メトキシエトキシ)エタノール、2-メトキシ-1-メチルエタノール、2-メトキシ-1,1-ジメチルエタノール、2-エトキシ-1,1-ジメチルエタノール、2-イソプロポキシ-1,1-ジメチルエタノール、2-ブトキシ-1,1-ジメチルエタノール、2-(2-メトキシエトキシ)-1,1-ジメチルエタノール、2-プロポキシ-1,1-ジエチルエタノール、2-s-ブトキシ-1,1-ジエチルエタノール、3-メトキシ-1,1-ジメチルプロパノール等のエーテルアルコール類;ジメチルアミノエタノール、エチルメチルアミノエタノール、ジエチルアミノエタノール、ジメチルアミノ-2-ペンタノール、エチルメチルアミノ-2-ペンタノール、ジメチルアミノ-2-メチル-2-ペンタノール、エチルメチルアミノ-2-メチル-2-ペンタノール、ジエチルアミノ-2-メチル-2-ペンタノール等のジアルキルアミノアルコール類等が挙げられる。
【0039】
上記の他のプレカーサの有機配位子として用いられるグリコール化合物としては、1,2-エタンジオール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、2,4-ヘキサンジオール、2,2-ジメチル-1,3-プロパンジオール、2,2-ジエチル-1,3-プロパンジオール、1,3-ブタンジオール、2,4-ブタンジオール、2,2-ジエチル-1,3-ブタンジオール、2-エチル-2-ブチル-1,3-プロパンジオール、2,4-ペンタンジオール、2-メチル-1,3-プロパンジオール、2-メチル-2,4-ペンタンジオール、2,4-ヘキサンジオール、2,4-ジメチル-2,4-ペンタンジオール等が挙げられる。
【0040】
また、β-ジケトン化合物としては、アセチルアセトン、ヘキサン-2,4-ジオン、5-メチルヘキサン-2,4-ジオン、ヘプタン-2,4-ジオン、2-メチルヘプタン-3,5-ジオン、5-メチルヘプタン-2,4-ジオン、6-メチルヘプタン-2,4-ジオン、2,2-ジメチルヘプタン-3,5-ジオン、2,6-ジメチルヘプタン-3,5-ジオン、2,2,6-トリメチルヘプタン-3,5-ジオン、2,2,6,6-テトラメチルヘプタン-3,5-ジオン、オクタン-2,4-ジオン、2,2,6-トリメチルオクタン-3,5-ジオン、2,6-ジメチルオクタン-3,5-ジオン、2,9-ジメチルノナン-4,6-ジオン、2-メチル-6-エチルデカン-3,5-ジオン、2,2-ジメチル-6-エチルデカン-3,5-ジオン等のアルキル置換β-ジケトン類;1,1,1-トリフルオロペンタン-2,4-ジオン、1,1,1-トリフルオロ-5,5-ジメチルヘキサン-2,4-ジオン、1,1,1,5,5,5-ヘキサフルオロペンタン-2,4-ジオン、1,3-ジパーフルオロヘキシルプロパン-1,3-ジオン等のフッ素置換アルキルβ-ジケトン類;1,1,5,5-テトラメチル-1-メトキシヘキサン-2,4-ジオン、2,2,6,6-テトラメチル-1-メトキシヘプタン-3,5-ジオン、2,2,6,6-テトラメチル-1-(2-メトキシエトキシ)ヘプタン-3,5-ジオン等のエーテル置換β-ジケトン類等が挙げられる。
【0041】
また、シクロペンタジエン化合物としては、シクロペンタジエン、メチルシクロペンタジエン、エチルシクロペンタジエン、プロピルシクロペンタジエン、イソプロピルシクロペンタジエン、ブチルシクロペンタジエン、第2ブチルシクロペンタジエン、イソブチルシクロペンタジエン、第3ブチルシクロペンタジエン、ジメチルシクロペンタジエン、テトラメチルシクロペンタジエン等が挙げられ、上記の有機配位子として用いられる有機アミン化合物としては、メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、イソプロピルアミン、ブチルアミン、第2ブチルアミン、第3ブチルアミン、イソブチルアミン、ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジプロピルアミン、ジイソプロピルアミン、エチルメチルアミン、プロピルメチルアミン、イソプロピルメチルアミン等が挙げられる。
【0042】
上記の他のプレカーサは、当該技術分野において公知のものであり、その製造方法も公知である。製造方法の一例を挙げれば、例えば、有機配位子としてアルコール化合物を用いた場合には、先に述べた金属の無機塩又はその水和物と、該アルコール化合物のアルカリ金属アルコキシドとを反応させることによって、プレカーサを製造することができる。ここで、金属の無機塩又はその水和物としては、金属のハロゲン化物、硝酸塩等を挙げることができ、アルカリ金属アルコキシドとしては、ナトリウムアルコキシド、リチウムアルコキシド、カリウムアルコキシド等を挙げることができる。
【0043】
シングルソース法の場合、上記の他のプレカーサとしては、上記一般式(1)で表される化合物と熱及び/又は酸化分解の挙動が類似している化合物が好ましい。カクテルソース法の場合、上記の他のプレカーサとしては、上記一般式(1)で表される化合物と熱及び/又は酸化分解の挙動が類似していることに加え、混合時に化学反応等による変質を起こさない化合物が好ましい。
【0044】
また、本発明の原子層堆積法用薄膜形成原料は、必要に応じて、上記一般式(1)で表される化合物及び他のプレカーサの安定性を向上させるため、求核性試薬を含有してもよい。該求核性試薬としては、グライム、ジグライム、トリグライム、テトラグライム等のエチレングリコールエーテル類、18-クラウン-6、ジシクロヘキシル-18-クラウン-6、24-クラウン-8、ジシクロヘキシル-24-クラウン-8、ジベンゾ-24-クラウン-8等のクラウンエーテル類、エチレンジアミン、N,N’-テトラメチルエチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ペンタエチレンヘキサミン、1,1,4,7,7-ペンタメチルジエチレントリアミン、1,1,4,7,10,10-ヘキサメチルトリエチレンテトラミン、トリエトキシトリエチレンアミン等のポリアミン類、サイクラム、サイクレン等の環状ポリアミン類、ピリジン、ピロリジン、ピペリジン、モルホリン、N-メチルピロリジン、N-メチルピペリジン、N-メチルモルホリン、テトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン、1,4-ジオキサン、オキサゾール、チアゾール、オキサチオラン等の複素環化合物類、アセト酢酸メチル、アセト酢酸エチル、アセト酢酸-2-メトキシエチル等のβ-ケトエステル類又はアセチルアセトン、2,4-ヘキサンジオン、2,4-ヘプタンジオン、3,5-ヘプタンジオン、ジピバロイルメタン等のβ-ジケトン類が挙げられる。これらの求核性試薬の使用量は、プレカーサ全体の量1モルに対して、0.1モル~10モルの範囲が好ましく、1モル~4モルの範囲がより好ましい。
【0045】
本発明の原子層堆積法用薄膜形成原料には、これを構成する成分以外の不純物金属元素分、不純物塩素などの不純物ハロゲン分、及び不純物有機分が極力含まれないようにする。不純物金属元素分は、元素毎では100ppb以下が好ましく、10ppb以下がより好ましく、総量では、1ppm以下が好ましく、100ppb以下がより好ましい。特に、LSIのゲート絶縁膜、ゲート膜、バリア層として用いる場合は、得られる薄膜の電気的特性に影響のあるアルカリ金属元素及びアルカリ土類金属元素の含有量を少なくすることが必要である。不純物ハロゲン分は、100ppm以下が好ましく、10ppm以下がより好ましく、1ppm以下が最も好ましい。不純物有機分は、総量で500ppm以下が好ましく、50ppm以下がより好ましく、10ppm以下が最も好ましい。また、水分は、原子層堆積法用薄膜形成原料中でのパーティクル発生や、薄膜形成中におけるパーティクル発生の原因となるので、プレカーサ、有機溶剤及び求核性試薬については、それぞれの水分の低減のために、使用の際にあらかじめできる限り水分を取り除いた方がよい。プレカーサ、有機溶剤及び求核性試薬それぞれの水分量は、10ppm以下が好ましく、1ppm以下がより好ましい。
【0046】
また、本発明の原子層堆積法用薄膜形成原料は、形成される薄膜のパーティクル汚染を低減又は防止するために、パーティクルが極力含まれないようにするのが好ましい。具体的には、液相での光散乱式液中粒子検出器によるパーティクル測定において、0.3μmより大きい粒子の数が液相1mL中に100個以下であることが好ましく、0.2μmより大きい粒子の数が液相1mL中に1000個以下であることがより好ましく、0.2μmより大きい粒子の数が液相1mL中に100個以下であることが最も好ましい。
【0047】
本発明の薄膜形成用原料は、上記一般式(2)で表される化合物を含有してなるものである。
【0048】
上記一般式(2)において、R5~R8は、それぞれ独立に炭素原子数1~5のアルキル基を表し、A2は、炭素原子数1~5のアルカンジイル基を表す。ただし、R5~R8およびA2の炭素原子数の和は8以上である。
【0049】
上記一般式(2)において、R5~R8で表される炭素原子数1~5のアルキル基としては、例えば、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、第二ブチル、第三ブチル、イソブチル、n-ペンチル、第二ペンチル、第三ペンチル、イソペンチル、ネオペンチルが挙げられる。
【0050】
上記一般式(2)において、A2で表される炭素原子数1~5のアルカンジイル基としては、例えば、メチレン、エチレン、プロピレン、メチルエチレン、ブチレン、1-メチルプロピレン、2-メチルプロピレン、1,2-ジメチルプロピレン、1,3-ジメチルプロピレン、1-メチルブチレン、2-メチルブチレン、3-メチルブチレン、4-メチルブチレン等が挙げられる。
【0051】
上記一般式(2)において、R5~R8およびA2は適用される薄膜の製造方法により適宜選択されるが、R5~R8およびA2の炭素原子数の和は8以上であることが必須である。R5~R8およびA2の炭素原子数の和が7未満であると、融点が著しく高くなるという問題点がある。
化合物を気化させる工程を有する薄膜の製造方法に用いる場合は、これらの組み合わせが、常温常圧下において液体状態となり、蒸気圧が大きくなるものが好ましい。具体的には、R5~R8が各々独立にメチルまたはエチルであるものは蒸気圧が高いことから好ましく、これらの中でもR5=R6であるものが特に好ましい。また、R5~R8およびA2の炭素原子数の和は、8~10の範囲であるものが好ましく、なかでもA2がプロピレン、2-メチルプロピレンであるものは融点が低く、輸送性が良好であることから好ましい。
【0052】
本発明の薄膜形成用原料に用いられる一般式(2)で表される化合物の好ましい具体例としては、例えば、上記化合物No.5、6、9、10、11、12、14~30が挙げられる。
【0053】
次に、本発明の薄膜形成用原料とは、上記一般式(2)で表される化合物を薄膜のプレカーサとしたものであり、その形態は、該薄膜形成用原料が適用される製造プロセスによって異なる。例えば、金属としてガリウムのみを含む薄膜を製造する場合、本発明の薄膜形成用原料は、上記一般式(2)で表される化合物以外の金属化合物及び半金属化合物を非含有である。一方、2種類以上の金属及び/又は半金属を含む薄膜を製造する場合、本発明の薄膜形成用原料は、上記一般式(2)で表される化合物に加えて、所望の金属を含む化合物及び/又は半金属を含む化合物(以下、「他のプレカーサ」と記載することもある)を含有することもできる。本発明の薄膜形成用原料は、後述するように、更に、有機溶剤及び/又は求核性試薬を含有してもよい。本発明の薄膜形成用原料は、上記説明のとおり、プレカーサである上記一般式(2)で表される化合物の物性がCVD法、ALD法に好適であるので、特に、化学気相成長用原料(以下、「CVD用原料」と記載することもある)として有用である。
【0054】
本発明の薄膜形成用原料が化学気相成長用原料である場合、その形態は使用されるCVD法の輸送供給方法等の手法により適宜選択されるものである。
【0055】
上記の輸送供給方法としては、CVD用原料を該原料が貯蔵される容器(以下、単に「原料容器」と記載することもある)中で加熱及び/又は減圧することにより気化させて蒸気となし、必要に応じて用いられるアルゴン、窒素、ヘリウム等のキャリアガスと共に、該蒸気を基体が設置された成膜チャンバー内(以下、「堆積反応部」と記載することもある)へと導入する気体輸送法、CVD用原料を液体又は溶液の状態で気化室まで輸送し、気化室で加熱及び/又は減圧することにより気化させて蒸気となし、該蒸気を成膜チャンバー内へと導入する液体輸送法がある。気体輸送法の場合は、上記一般式(2)で表される化合物そのものをCVD原料とすることができる。液体輸送法の場合は、上記一般式(2)で表される化合物そのもの又は該化合物を有機溶剤に溶かした溶液をCVD用原料とすることができる。これらのCVD原料は更に他のプレカーサや求核性試薬等を含んでいてもよい。
【0056】
また、多成分系のCVD法においては、CVD用原料を各成分独立で気化、供給する方法(以下、「シングルソース法」と記載することもある)と、多成分原料を予め所望の組成で混合した混合原料を気化、供給する方法(以下、「カクテルソース法」と記載することもある)がある。カクテルソース法の場合、上記一般式(2)で表される化合物と他のプレカーサとの混合物若しくは該混合物を有機溶剤に溶かした混合溶液をCVD用原料とすることができる。この混合物や混合溶液は更に求核性試薬等を含んでいてもよい。
【0057】
上記の有機溶剤としては、特に制限を受けることはなく周知一般の有機溶剤を用いることができる。該有機溶剤としては、例えば、酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸メトキシエチル等の酢酸エステル類;テトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン、エチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、ジブチルエーテル、ジオキサン等のエーテル類;メチルブチルケトン、メチルイソブチルケトン、エチルブチルケトン、ジプロピルケトン、ジイソブチルケトン、メチルアミルケトン、シクロヘキサノン、メチルシクロヘキサノン等のケトン類;ヘキサン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、ジメチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン、ヘプタン、オクタン、トルエン、キシレン等の炭化水素類;1-シアノプロパン、1-シアノブタン、1-シアノヘキサン、シアノシクロヘキサン、シアノベンゼン、1,3-ジシアノプロパン、1,4-ジシアノブタン、1,6-ジシアノヘキサン、1,4-ジシアノシクロヘキサン、1,4-ジシアノベンゼン等のシアノ基を有する炭化水素類;ピリジン、ルチジン等が挙げられ、これらは、溶質の溶解性、使用温度と沸点、引火点の関係等により、単独又は二種類以上の混合溶媒として用いられる。これらの有機溶剤を使用する場合、プレカーサを有機溶剤に溶かした溶液であるCVD用原料中におけるプレカーサ全体の量が0.01~2.0モル/リットル、特に0.05~1.0モル/リットルとなるようにするのが好ましい。プレカーサ全体の量とは、本発明の薄膜形成用原料が、上記一般式(2)で表される化合物以外の金属化合物及び半金属化合物を非含有である場合、上記一般式(2)で表される化合物の量であり、本発明の薄膜形成用原料が、上記一般式(2)で表される化合物に加えて他の金属を含む化合物及び/又は半金属を含む化合物を含有する場合、本発明のルテニウム化合物及び他のプレカーサの合計量である。
【0058】
また、多成分系のCVD法の場合において、上記一般式(2)で表される化合物と共に用いられる他のプレカーサとしては、特に制限を受けず、CVD用原料に用いられている周知一般のプレカーサを用いることができる。
【0059】
上記の他のプレカーサとしては、アルコール化合物、グリコール化合物、β-ジケトン化合物、シクロペンタジエン化合物、有機アミン化合物等の有機配位子として用いられる化合物からなる群から選択される一種類又は二種類以上と珪素や金属との化合物が挙げられる。また、プレカーサの金属種としては、リチウム、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、チタニウム、ジルコニウム、ハフニウム、バナジウム、ニオブ、タンタル、クロム、モリブデン、タングステン、マンガン、鉄、ルテニウム、コバルト、ロジウム、イリジウム、ニッケル、パラジウム、白金、銅、銀、金、亜鉛、アルミニウム、インジウム、ゲルマニウム、スズ、鉛、アンチモン、ビスマス、スカンジウム、イットリウム、ランタン、セリウム、プラセオジム、ネオジム、プロメチウム、サマリウム、ユウロピウム、ガドリニウム、テルビウム、ジスプロシウム、ホルミウム、エルビウム、ツリウム、イッテルビウムまたはルテチウムが挙げられる。
【0060】
上記の他のプレカーサの有機配位子として用いられるアルコール化合物としては、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロピルアルコール、ブタノール、第2ブチルアルコール、イソブチルアルコール、第3ブチルアルコール、ペンチルアルコール、イソペンチルアルコール、第3ペンチルアルコール等のアルキルアルコール類;2-メトキシエタノール、2-エトキシエタノール、2-ブトキシエタノール、2-(2-メトキシエトキシ)エタノール、2-メトキシ-1-メチルエタノール、2-メトキシ-1,1-ジメチルエタノール、2-エトキシ-1,1-ジメチルエタノール、2-イソプロポキシ-1,1-ジメチルエタノール、2-ブトキシ-1,1-ジメチルエタノール、2-(2-メトキシエトキシ)-1,1-ジメチルエタノール、2-プロポキシ-1,1-ジエチルエタノール、2-s-ブトキシ-1,1-ジエチルエタノール、3-メトキシ-1,1-ジメチルプロパノール等のエーテルアルコール類;ジメチルアミノエタノール、エチルメチルアミノエタノール、ジエチルアミノエタノール、ジメチルアミノー2-ペンタノール、エチルメチルアミノ-2―ペンタノール、ジメチルアミノー2-メチルー2―ペンタノール、エチルメチルアミノー2-メチルー2-ペンタノール、ジエチルアミノー2-メチルー2-ペンタノール等のジアルキルアミノアルコール類等が挙げられる。
【0061】
上記の他のプレカーサの有機配位子として用いられるグリコール化合物としては、1,2-エタンジオール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、2,4-ヘキサンジオール、2,2-ジメチル-1,3-プロパンジオール、2,2-ジエチル-1,3-プロパンジオール、1,3-ブタンジオール、2,4-ブタンジオール、2,2-ジエチル-1,3-ブタンジオール、2-エチル-2-ブチル-1,3-プロパンジオール、2,4-ペンタンジオール、2-メチル-1,3-プロパンジオール、2-メチル-2,4-ペンタンジオール、2,4-ヘキサンジオール、2,4-ジメチル-2,4-ペンタンジオール等が挙げられる。
【0062】
また、β-ジケトン化合物としては、アセチルアセトン、ヘキサン-2,4-ジオン、5-メチルヘキサン-2,4-ジオン、ヘプタン-2,4-ジオン、2-メチルヘプタン-3,5-ジオン、5-メチルヘプタン-2,4-ジオン、6-メチルヘプタン-2,4-ジオン、2,2-ジメチルヘプタン-3,5-ジオン、2,6-ジメチルヘプタン-3,5-ジオン、2,2,6-トリメチルヘプタン-3,5-ジオン、2,2,6,6-テトラメチルヘプタン-3,5-ジオン、オクタン-2,4-ジオン、2,2,6-トリメチルオクタン-3,5-ジオン、2,6-ジメチルオクタン-3,5-ジオン、2,9-ジメチルノナン-4,6-ジオン、2-メチル-6-エチルデカン-3,5-ジオン、2,2-ジメチル-6-エチルデカン-3,5-ジオン等のアルキル置換β-ジケトン類;1,1,1-トリフルオロペンタン-2,4-ジオン、1,1,1-トリフルオロ-5,5-ジメチルヘキサン-2,4-ジオン、1,1,1,5,5,5-ヘキサフルオロペンタン-2,4-ジオン、1,3-ジパーフルオロヘキシルプロパン-1,3-ジオン等のフッ素置換アルキルβ-ジケトン類;1,1,5,5-テトラメチル-1-メトキシヘキサン-2,4-ジオン、2,2,6,6-テトラメチル-1-メトキシヘプタン-3,5-ジオン、2,2,6,6-テトラメチル-1-(2-メトキシエトキシ)ヘプタン-3,5-ジオン等のエーテル置換β-ジケトン類等が挙げられる。
【0063】
また、シクロペンタジエン化合物としては、シクロペンタジエン、メチルシクロペンタジエン、エチルシクロペンタジエン、プロピルシクロペンタジエン、イソプロピルシクロペンタジエン、ブチルシクロペンタジエン、第2ブチルシクロペンタジエン、イソブチルシクロペンタジエン、第3ブチルシクロペンタジエン、ジメチルシクロペンタジエン、テトラメチルシクロペンタジエン等が挙げられ、上記の有機配位子として用いられる有機アミン化合物としては、メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、イソプロピルアミン、ブチルアミン、第2ブチルアミン、第3ブチルアミン、イソブチルアミン、ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジプロピルアミン、ジイソプロピルアミン、エチルメチルアミン、プロピルメチルアミン、イソプロピルメチルアミン等が挙げられる。
【0064】
上記の他のプレカーサは、当該技術分野において公知のものであり、その製造方法も公知である。製造方法の一例を挙げれば、例えば、有機配位子としてアルコール化合物を用いた場合には、先に述べた金属の無機塩又はその水和物と、該アルコール化合物のアルカリ金属アルコキシドとを反応させることによって、プレカーサを製造することができる。ここで、金属の無機塩又はその水和物としては、金属のハロゲン化物、硝酸塩等を挙げることができ、アルカリ金属アルコキシドとしては、ナトリウムアルコキシド、リチウムアルコキシド、カリウムアルコキシド等を挙げることができる。
【0065】
上記の他のプレカーサは、シングルソース法の場合は、上記一般式(2)で表される化合物と、熱及び/又は酸化分解の挙動が類似している化合物が好ましく、カクテルソース法の場合は、熱及び/又は酸化分解の挙動が類似していることに加え、混合時に化学反応等による変質を起こさないものが好ましい。
【0066】
また、本発明の薄膜形成用原料には、必要に応じて、本発明のルテニウム化合物及び他のプレカーサの安定性を付与するため、求核性試薬を含有してもよい。該求核性試薬としては、グライム、ジグライム、トリグライム、テトラグライム等のエチレングリコールエーテル類、18-クラウン-6、ジシクロヘキシル-18-クラウン-6、24-クラウン-8、ジシクロヘキシル-24-クラウン-8、ジベンゾ-24-クラウン-8等のクラウンエーテル類、エチレンジアミン、N,N’-テトラメチルエチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ペンタエチレンヘキサミン、1,1,4,7,7-ペンタメチルジエチレントリアミン、1,1,4,7,10,10-ヘキサメチルトリエチレンテトラミン、トリエトキシトリエチレンアミン等のポリアミン類、サイクラム、サイクレン等の環状ポリアミン類、ピリジン、ピロリジン、ピペリジン、モルホリン、N-メチルピロリジン、N-メチルピペリジン、N-メチルモルホリン、テトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン、1,4-ジオキサン、オキサゾール、チアゾール、オキサチオラン等の複素環化合物類、アセト酢酸メチル、アセト酢酸エチル、アセト酢酸-2-メトキシエチル等のβ-ケトエステル類又はアセチルアセトン、2,4-ヘキサンジオン、2,4-ヘプタンジオン、3,5-ヘプタンジオン、ジピバロイルメタン等のβ-ジケトン類が挙げられ、これら求核性試薬の使用量は、プレカーサ全体の量1モルに対して0.1モル~10モルの範囲が好ましく、より好ましくは1~4モルである。
【0067】
本発明の薄膜形成用原料には、これを構成する成分以外の不純物金属元素分、不純物塩素などの不純物ハロゲン分、及び不純物有機分が極力含まれないようにする。不純物金属元素分は、元素毎では100ppb以下が好ましく、10ppb以下がより好ましく、総量では、1ppm以下が好ましく、100ppb以下がより好ましい。特に、LSIのゲート絶縁膜、ゲート膜、バリア層として用いる場合は、得られる薄膜の電気的特性に影響のあるアルカリ金属元素及びアルカリ土類金属元素の含有量を少なくすることが必要である。不純物ハロゲン分は、100ppm以下が好ましく、10ppm以下がより好ましく、1ppm以下が最も好ましい。不純物有機分は、総量で500ppm以下が好ましく、50ppm以下がより好ましく、10ppm以下が最も好ましい。また、水分は、化学気相成長用原料中でのパーティクル発生や、薄膜形成中におけるパーティクル発生の原因となるので、プレカーサ、有機溶剤及び求核性試薬については、それぞれの水分の低減のために、使用の際にあらかじめできる限り水分を取り除いた方がよい。プレカーサ、有機溶剤及び求核性試薬それぞれの水分量は、10ppm以下が好ましく、1ppm以下がより好ましい。
【0068】
また、本発明の薄膜形成用原料は、形成される薄膜のパーティクル汚染を低減又は防止するために、パーティクルが極力含まれないようにするのが好ましい。具体的には、液相での光散乱式液中粒子検出器によるパーティクル測定において、0.3μmより大きい粒子の数が液相1mL中に100個以下であることが好ましく、0.2μmより大きい粒子の数が液相1mL中に1000個以下であることがより好ましく、0.2μmより大きい粒子の数が液相1mL中に100個以下であることが最も好ましい。
【0069】
本発明の薄膜の製造方法は、その原料として本発明の原子層堆積法用薄膜形成用原料を用いたALD法による薄膜の製造方法、および本発明の薄膜形成用原料を用いたCVD法による薄膜の製造方法である。
【0070】
本発明の薄膜の製造方法において、その原料として本発明の原子層堆積法用薄膜形成用原料を用いたALD法による薄膜の製造方法は、ALD法によって基体の表面にガリウム原子を含有する薄膜を製造する方法であって、上記原子層堆積法用薄膜形成原料を気化させ、基体の表面に堆積させて前駆体薄膜を形成する工程と、前駆体薄膜を反応性ガスと反応させて基体の表面にガリウム原子を含有する薄膜を形成する工程とを含むことを特徴とするものである。
【0071】
上記基体の材質としては、例えば、シリコン;窒化ケイ素、窒化チタン、窒化タンタル、酸化チタン、酸化ルテニウム、酸化ジルコニウム、酸化ハフニウム、酸化ランタン等のセラミックス;ガラス;金属コバルト等の金属が挙げられる。基体の形状としては、板状、球状、繊維状、鱗片状が挙げられる。基体表面は、平面であってもよく、トレンチ構造等の三次元構造となっていてもよい。
【0072】
また、上記原子層堆積法用薄膜形成原料を気化させることにより得られる蒸気を、基体が設置された成膜チャンバー内に導入する方法としては、前述した気体輸送法、液体輸送法、シングルソース法、カクテルソース法等が挙げられる。
【0073】
上記反応性ガスとしては、例えば、酸素、オゾン、二酸化窒素、一酸化窒素、水蒸気、過酸化水素、ギ酸、酢酸、無水酢酸等の酸化性ガス、水素等の還元性ガス、モノアルキルアミン、ジアルキルアミン、トリアルキルアミン、アルキレンジアミン等の有機アミン化合物、ヒドラジン、アンモニア等の窒化性ガスなどが挙げられる。これらの反応性ガスは、単独で用いてもよいし、又は二種類以上を混合して用いてもよい。これらの中でも、本発明の原子層堆積法用薄膜形成原料は、酸化性ガスと特異的に低い温度で反応する性質を有しており、特に水蒸気と良好に反応する。膜中の残留炭素が少なく品質の良い薄膜を生産性よく製造することができるという点で、反応性ガスとして水蒸気を含有するガスを用いることが好ましい。
【0074】
上記製造条件として、更に、原子層堆積法用薄膜形成原料を気化させて蒸気とする際の温度及び圧力が挙げられる。原子層堆積法用薄膜形成原料を気化させて蒸気とする工程は、原料容器内で行ってもよく、気化室内で行ってもよい。いずれの場合においても、本発明の原子層堆積法用薄膜形成原料は0℃~200℃で蒸発させることが好ましい。また、原料容器内又は気化室内で原子層堆積法用薄膜形成原料を気化させて蒸気とする場合に原料容器内の圧力及び気化室内の圧力はいずれも1Pa~10000Paであることが好ましい。
【0075】
また、本発明の薄膜の製造方法における製造条件としては特に限定されるものではないが、例えば、反応温度(基体温度)、反応圧力、堆積速度等が所望の薄膜の厚さや種類に応じて適宜決めることができる。反応温度については、本発明の原子層堆積法用薄膜形成原料が充分に反応する温度である100℃以上が好ましく、150℃~400℃がより好ましく、反応性ガスに合わせたALDウィンドウ内で使用される。膜厚は、所望の膜厚が得られるようにサイクルの回数でコントロールされる。
【0076】
以下では、上記ALD法の各工程について、酸化ガリウム薄膜を形成する場合を例に詳しく説明する。まず、原子層堆積法用薄膜形成原料の蒸気を成膜チャンバーに導入する(原料導入工程)。原子層堆積法用薄膜形成原料を蒸気とする際の好ましい温度及び圧力は、0℃~200℃、1Pa~10000Paの範囲内である。次に、成膜チャンバーに導入した蒸気を基体表面に堆積させることにより、基体表面に前駆体薄膜を形成する(前駆体薄膜形成工程)。このときに、基体を加熱するか、又は成膜チャンバーを加熱して、熱を加えてもよい。本工程が行われる際の基体温度は、室温~500℃が好ましく、150℃~400℃がより好ましい。本発明の原子層堆積法用薄膜形成原料と酸化性ガスとを組み合わせて使用した場合のALDウィンドウは概ね200℃~400℃の範囲である。本工程が行われる際の系(成膜チャンバー内)の圧力は1Pa~10000Paが好ましく、10Pa~1000Paがより好ましい。
【0077】
次に、未反応の原子層堆積法用薄膜形成原料の蒸気や副生したガスを成膜チャンバーから排気する(排気工程)。未反応の原子層堆積法用薄膜形成原料の蒸気や副生したガスは、成膜チャンバーから完全に排気されるのが理想的であるが、必ずしも完全に排気される必要はない。排気方法としては、窒素、ヘリウム、アルゴンなどの不活性ガスにより系内をパージする方法、系内を減圧することで排気する方法、これらを組み合わせた方法などが挙げられる。減圧する場合の減圧度は、0.01Pa~300Paが好ましく、0.01Pa~100Paがより好ましい。
【0078】
次に、成膜チャンバーに反応性ガスとして酸化性ガスを導入し、該酸化性ガスの作用又は該酸化性ガス及び熱の作用により、先の前駆体薄膜形成工程で形成された前駆体薄膜から酸化ガリウム薄膜を形成する(酸化ガリウム薄膜形成工程)。本工程において熱を作用させる場合の温度は、室温~500℃が好ましく、150℃~400℃がより好ましい。本発明の原子層堆積法用薄膜形成原料と酸化性ガスとを組み合わせて使用した場合のALDウィンドウは概ね200℃~400℃の範囲であるため、200℃~400℃の範囲で前駆体薄膜を酸化性ガスと反応させることが最も好ましい。本工程が行われる際の系(成膜チャンバー内)の圧力は1Pa~10000Paが好ましく、10Pa~1000Paがより好ましい。本発明の原子層堆積法用薄膜形成原料は、水蒸気などの酸化性ガスとの反応性が良好であり、残留炭素含有量が少ない高品質な酸化ガリウム含有薄膜を生産性よく製造することができる。
【0079】
本発明の薄膜の製造方法においては、上記の原料導入工程、前駆体薄膜形成工程、排気工程及び金属酸化物含有薄膜形成工程からなる一連の操作による薄膜堆積を1サイクルとし、このサイクルを必要な膜厚の薄膜が得られるまで複数回繰り返してもよい。この場合、1サイクル行った後、上記排気工程と同様にして、成膜チャンバーから未反応の反応性ガス(酸化ガリウム含有薄膜を形成する場合は酸化性ガス)及び副成したガスを排気した後、次の1サイクルを行うことが好ましい。
【0080】
また、本発明の薄膜の製造方法においては、プラズマ、光、電圧などのエネルギーを印加してもよく、触媒を用いてもよい。該エネルギーを印加する時期及び触媒を用いる時期は、特には限定されず、例えば、原料導入工程における原子層堆積法用薄膜形成原料の蒸気の導入時、前駆体薄膜形成工程又は酸化ガリウム含有薄膜形成工程における加熱時、排気工程における系内の排気時、酸化ガリウム含有薄膜形成工程における酸化性ガス導入時でもよく、上記の各工程の間でもよい。
【0081】
また、本発明の薄膜の製造方法においては、薄膜形成の後に、より良好な電気特性を得るために不活性雰囲気下、酸化性雰囲気下又は還元性雰囲気下でアニール処理を行ってもよく、段差埋め込みが必要な場合には、リフロー工程を設けてもよい。この場合の温度は、200℃~1000℃であり、250℃~500℃が好ましい。
【0082】
本発明の原子層堆積法用薄膜形成原料を用いて薄膜を製造する装置は、周知の原子層堆積法用装置を用いることができる。具体的な装置の例としては
図1のようなプレカーサをバブリング供給することのできる装置や、
図2のように気化室を有する装置が挙げられる。また、
図3及び
図4のように反応性ガスに対してプラズマ処理を行うことのできる装置が挙げられる。
図1~
図4のような枚葉式装置に限らず、バッチ炉を用いた多数枚同時処理可能な装置を用いることもできる。
【0083】
本発明の薄膜の製造方法は、その原料として本発明の原子層堆積法用薄膜形成用原料を用いたALD法による薄膜の製造方法、および本発明の薄膜形成用原料を用いたCVD法による薄膜の製造方法である。
【0084】
本発明の薄膜の製造方法において、その原料として本発明の薄膜形成用原料を用いたCVD法による薄膜の製造方法は、CVD法によって基体の表面にガリウム原子を含有する薄膜を製造する方法であって、本発明の薄膜形成用原料を気化させた蒸気、及び必要に応じて用いられる反応性ガスを、基体が設置された成膜チャンバー内(処理雰囲気)に導入し、次いで、プレカーサを基体上で分解及び/又は化学反応させて金属を含有する薄膜を基体表面に成長、堆積させるCVD法によるものである。原料の輸送供給方法、堆積方法、製造条件、製造装置等については、特に制限を受けるものではなく、周知一般の条件及び方法を用いることができる。
【0085】
上記の必要に応じて用いられる反応性ガスとしては、例えば、酸化性のものとしては酸素、オゾン、二酸化窒素、一酸化窒素、水蒸気、過酸化水素、ギ酸、酢酸、無水酢酸等が挙げられ、還元性のものとしては水素が挙げられ、また、窒化物を製造するものとしては、モノアルキルアミン、ジアルキルアミン、トリアルキルアミン、アルキレンジアミン等の有機アミン化合物、ヒドラジン、アンモニア等が挙げられ、これらは1種類又は2種類以上使用することができる。これらのなかでも、本発明の薄膜形成用原料はオゾンとの反応性が良好であることから、反応性ガスとして1種を用いる場合はオゾンを用いることが好ましく、反応性ガスとして2種類以上の混合ガスを用いる場合は少なくともオゾンを含むことが好ましい。
【0086】
また、上記の輸送供給方法としては、前述した気体輸送法、液体輸送法、シングルソース法、カクテルソース法等が挙げられる。
【0087】
また、上記の堆積方法としては、原料ガス又は原料ガスと反応性ガスを熱のみにより反応させ薄膜を堆積させる熱CVD、熱とプラズマを使用するプラズマCVD、熱と光を使用する光CVD、熱、光及びプラズマを使用する光プラズマCVD、CVDの堆積反応を素過程に分け、分子レベルで段階的に堆積を行うALDが挙げられ、ALDによる薄膜の製造については上述の通りである。
【0088】
上記基体の材質としては、例えば、シリコン;窒化ケイ素、窒化チタン、窒化タンタル、酸化チタン、酸化ルテニウム、酸化ジルコニウム、酸化ハフニウム、酸化ランタン等のセラミックス;ガラス;金属コバルト等の金属が挙げられる。基体の形状としては、板状、球状、繊維状、鱗片状が挙げられる。基体表面は、平面であってもよく、トレンチ構造等の三次元構造となっていてもよい。
【0089】
また、上記の製造条件としては、反応温度(基体温度)、反応圧力、堆積速度等が挙げられる。反応温度については、本発明の化合物が充分に反応する温度である100℃以上が好ましく、150℃~400℃がより好ましく、200℃~350℃が特に好ましい。また、反応圧力は、熱CVD又は光CVDの場合、10Pa~大気圧が好ましく、プラズマを使用する場合、10Pa~2000Paが好ましい。
また、堆積速度は、原料の供給条件(気化温度、気化圧力)、反応温度、反応圧力によりコントロールすることができる。堆積速度は、大きいと得られる薄膜の特性が悪化する場合があり、小さいと生産性に問題を生じる場合があるので、0.01nm/分~100nm/分が好ましく、1nm/分~50nm/分がより好ましい。
【0090】
上記の製造条件として更に、薄膜形成用原料を気化させて蒸気とする際の温度や圧力が挙げられる。薄膜形成用原料を気化させて蒸気とする工程は、原料容器内で行ってもよく、気化室内で行ってもよい。いずれの場合においても、本発明の薄膜形成用原料は0℃~150℃で蒸発させることが好ましい。また、原料容器内又は気化室内で薄膜形成用原料を気化させて蒸気とする場合に原料容器内の圧力及び気化室内の圧力はいずれも1Pa~10000Paであることが好ましい。
【0091】
本発明の薄膜形成用原料を用いて製造される薄膜は、他のプレカーサ、反応性ガス及び製造条件を適宜選択することにより、メタル、酸化物セラミックス、窒化物セラミックス、ガラス等の所望の種類の薄膜とすることができる。該薄膜は電気特性及び光学特性等を示すことが知られており、種々の用途に応用されている。例えば、金属ガリウム薄膜、酸化ガリウム薄膜、ガリウム含有複合酸化物薄膜、窒化ガリウム薄膜、ガリウム合金薄膜などが挙げられる。ガリウム合金としては、例えば、鉄ガリウム合金を挙げることができる。また、ガリウム含有複合酸化物としては、Tb3Ga5O12が挙げられる。これらの薄膜は、例えば半導体等の電子機器向け薄膜や、太陽電池又はLEDなどの光電子工学用途向けのフィルム等の製造に広く用いられている。
【0092】
本発明の化合物は、上記一般式(3)で表される化合物であり、融点が低く、ALD法に適用可能であることからALD法用原料として好適に使用することができる。
【0093】
上記一般式(3)において、R9~R12は、それぞれ独立に炭素原子数1~5のアルキル基を表す。
【0094】
上記一般式(3)において、R9~R12で表される炭素原子数1~5のアルキル基としては、例えば、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、第二ブチル、第三ブチル、イソブチル、n-ペンチル、第二ペンチル、第三ペンチル、イソペンチル、ネオペンチルが挙げられる。
【0095】
上記一般式(3)において、R9~R12は適用される薄膜の製造方法により適宜選択される。R9~R12が各々独立にメチルまたはエチルである化合物は、融点が低く、ALDウィンドウも広く、反応性ガスとして水蒸気を用いたALD法により製造した酸化ガリウム薄膜中の残留炭素成分が特異的に低く、非常に品質がよい薄膜を製造することができることから好ましい。なかでも、R9~R12が全てメチルであるものは特に好ましい。
【0096】
本発明の一般式(3)で表される化合物の好ましい具体例としては、例えば、上記化合物No.25~30が挙げられる。
【0097】
本発明の一般式(3)で表される化合物の製造方法は、その製造方法により特に制限されることはなく、周知の合成方法で製造することができる。例えば、塩化ガリウムとハロゲン化ジアルキルアミンとをグリニャール反応させた後に、アルキルリチウムと反応させることで得ることができる。
【実施例】
【0098】
以下、実施例、製造例、比較例及び評価例をもって本発明を更に詳細に説明する。しかしながら、本発明は以下の実施例等によって何ら制限を受けるものではない。なお、実施例2は、参考例とする。
[実施例1]化合物No.25の合成
反応フラスコに3-ジメチルアミノ-2-メチルプロピルクロライド塩酸塩102gと超純水216gと脱水ペンタン78.7gを加え混合した。得られた溶液に、室温下、25%水酸化ナトリウム水溶液107gを滴下し、1時間撹拌した。得られた反応溶液は分液漏斗を用いて有機相と水相を分離した後、脱水ペンタンを各50mL用いて水相から抽出を3回行った。得られた有機相を合わせ、これに硫酸マグネシウムを添加し、室温にて30分撹拌を行い、脱水乾燥を行った。濾過を行い、硫酸マグネシウムを分離した後、濾液をオイルバス60℃にて脱溶媒を実施した。得られた配位子はオイルバス60℃にて減圧下蒸留を行い、3-ジメチルアミノ-2-メチルプロピルクロライドを無色透明液体として70.8g得た。
反応フラスコに、リボン状マグネシウム1.65gを加え、アルゴン雰囲気下とした後、脱水THF43.1g、ジブロモエタン1.16gを添加しオイルバス60℃にて撹拌を行った。この混合溶液に、加熱下、3-ジメチルアミノ-2-メチルプロピルクロライド11.7gを滴下し、5時間加熱還流を行い、グリニャール試薬の調整を行った。別途用意した反応フラスコへ塩化ガリウム10.6g、脱水トルエン50.8gを加え、混合溶液が10℃以下となるまで氷冷下にて撹拌を行った。氷冷下にて、この反応溶液に、先述したグリニャール試薬を滴下し、滴下終了後、室温に戻し18時間撹拌を行った。得られた反応溶液を濾過した後、オイルバス100℃にて脱溶媒を行った。生成したガリウム錯体の入ったフラスコを蒸留装置へ接続し、オイルバス150℃、12Paにて蒸留精製を行いN,N-ジメチルアミノ-2-メチルプロピルガリウムジクロライドを白色固体として6.22g得た。
Ar雰囲気下、反応フラスコに上記で得たN,N-ジメチルアミノ-2-メチルプロピルガリウムジクロライド3.77g、脱水ペンタン11.6gを加え、10℃以下になるまで氷冷下撹拌を行った。氷冷下、この混合溶液へ、メチルリチウム(1.16Mジエチルエーテル溶液)26.1gを滴下し、滴下終了後室温へ戻し、24時間撹拌を行った。得られた反応溶液の濾過を行い、オイルバス60℃にて脱溶媒を行った。生成したガリウム錯体の入ったフラスコを蒸留精製装置へ接続し、オイルバス60℃、130Paにて蒸留精製を行い、無色透明液体を1.07g得た。
【0099】
(分析値)
(1)常圧TG-DTA
質量50%減少温度:119℃(760Torr、Ar流量:100ml/分、昇温10℃/分)
(2)1H-NMR(重ベンゼン)
-0.16ppm(6H,singlet)、0.53ppm(1H,d=7.98,triplet)、0.84ppm(1H,d=4.80,12.6,dublet)、0.93ppm(3H,d=6.00,dublet)、1.62-1.69ppm(1H,multiplet)、1.65ppm(2H,singlet)、1.67ppm(3H,singlet)、1.75ppm(3H,singlet)
(3)元素分析(理論値)
C:48.2%(48.05%)、H:9.8%(10.08%)、Ga:34.8%(34.87%)、N:7.1%(7.00%)
【0100】
[製造例1]化合物No.13の合成
反応フラスコに3-ジメチルアミノプロピルクロライド塩酸塩59.7gと超純水133gと脱水ペンタン59.3gを加え混合した。得られた溶液に、室温下、22%水酸化ナトリウム水溶液130gを滴下し、1.5時間撹拌した。得られた反応溶液は分液漏斗を用いて有機相と水相を分離した後、脱水ペンタンを各50mL用いて水相から抽出を3回行った。得られた有機相を合わせ、これに硫酸マグネシウムを添加し、室温にて30分撹拌を行い、脱水乾燥を行った。濾過を行い、硫酸マグネシウムを分離した後、濾液をオイルバス50℃にて脱溶媒を実施した。得られた配位子はオイルバス65℃にて減圧下蒸留を行い、3-ジメチルアミノプロピルクロライドを無色透明液体として40.2g得た。
反応フラスコに、リボン状マグネシウム6.62gを加え、アルゴン雰囲気下とした後、脱水THF55.7g、ジブロモエタン4.86gを添加しオイルバス80℃にて撹拌を行った。この混合溶液に、加熱下、3-ジメチルアミノプロピルクロライド27.2gを滴下し、14時間加熱還流を行い、グリニャール試薬の調整を行った。別途用意した反応フラスコへ塩化ガリウム38.9g、脱水トルエン235gを加え、混合溶液が10℃以下となるまで氷冷下にて撹拌を行った。氷冷下にて、この反応溶液に、先述したグリニャール試薬を滴下し、滴下終了後、室温に戻し21時間撹拌を行った。得られた反応溶液を濾過した後、オイルバス100℃にて脱溶媒を行った。生成したガリウム錯体の入ったフラスコを蒸留装置へ接続し、オイルバス130℃、9Paにて蒸留精製を行いN,N-ジメチルアミノプロピルガリウムジクロライドを白色固体として40.8g得た。
Ar雰囲気下、反応フラスコに上記で得たN,N-ジメチルアミノプロピルガリウムジクロライド4.14g、脱水ヘキサン14.8gを加え、10℃以下になるまで氷冷下撹拌を行った。氷冷下、この混合溶液へ、メチルリチウム(1.16Mジエチルエーテル溶液)31.2gを滴下し、滴下終了後室温へ戻し、22時間撹拌を行った。得られた反応溶液の濾過を行い、オイルバス80℃にて脱溶媒を行った。生成したガリウム錯体の入ったフラスコを蒸留精製装置へ接続し、オイルバス85℃、微減圧下にて蒸留精製を行い、白色固体を1.87g得た。
【0101】
(分析値)
(1)常圧TG-DTA
質量50%減少温度:116℃(760Torr、Ar流量:100ml/分、昇温10℃/分)
(2)1H-NMR(重ベンゼン)
-0.18ppm(6H,singlet)、0.54ppm(2H,d=7.20,triplet)、1.56-1.63ppm(2H,multiplet)、1.67ppm(6H,singlet)、1.79ppm(2H,d=5.60,triplet)
(3)元素分析(理論値)
C:45.%(45.21%)、H:9.8%(9.76%)、Ga:37.3%(37.50%)、N:7.2%(7.53%)
【0102】
[製造例2]化合物No.16の合成
Ar雰囲気下、反応フラスコに製造例1で得たN,N-ジメチルアミノプロピルガリウムジクロライド5.31g、脱水ヘキサン20.0gを加え、10℃以下になるまで氷冷下撹拌を行った。氷冷下、この混合溶液へ、エチルマグネシウムクロリド(1.05MTHF溶液)46.62gを滴下し、滴下終了後室温へ戻し、20時間撹拌を行った。得られた反応溶液の濾過を行い、オイルバス90℃にて脱溶媒を行った。生成したガリウム錯体の入ったフラスコを蒸留精製装置へ接続し、オイルバス95℃、75Paにて蒸留精製を行い、無色透明液体を3.78g得た。
【0103】
(分析値)
(1)常圧TG-DTA
質量50%減少温度:146℃(760Torr、Ar流量:100ml/分、昇温10℃/分)
(2)1H-NMR(重ベンゼン)
0.37-0.56ppm(6H,multiplet)、1.39ppm(6H,d=8.40,triplet)、1.56-1.63ppm(2H,multiplet)、1.73ppm(6H,singlet)、1.80ppm(2H,d=5.60,triplet)
(3)元素分析(理論値)
C:50.2%(50.51%)、H:10.5%(10.36%)、Ga:32.1%(32.58%)、N:6.8%(6.55%)
【0104】
[評価例1]ガリウム化合物の物性融点評価
実施例1、製造例1および製造例2で得られた化合物No.25、13および16並びに下記の比較化合物1(トリメチルガリウム)および比較化合物2[ガリウム(III)アセチルアセトナート]について、常圧25℃における状態を目視で観測した。25℃において固体であるものについては、融点測定を行った。これらの結果を表1に示す。
【0105】
【0106】
表1の結果より、化合物No.16、25および比較化合物1は常圧25℃の条件下で液体であることがわかった。また、化合物No.13は、常圧25℃の条件下では固体だったが、わずかな加温で液体になることがわかった。比較化合物2は融点が非常に高いことがわかった。
【0107】
[実施例2]酸化ガリウム薄膜の製造
化合物No.13を原子層堆積法用原料とし、
図1に示す装置を用いて以下の条件のALD法により、シリコンウエハ上に酸化ガリウム薄膜を製造した。得られた薄膜
の組成をX線光電子分光法によ
り確認したところ、得られた薄膜は酸化ガリウムであり、残留炭素含有量は6.2atom%だった。また、X線反射率法による膜厚測定を行い、その平均値を算出したところ、膜厚は平均26.4nmであり、1サイクル当たりに得られる膜厚は平均0.05nmであった。
【0108】
(条件)
基板:シリコンウェハ
反応温度(シリコンウエハ温度):200℃
反応性ガス:水蒸気
下記(1)~(4)からなる一連の工程を1サイクルとして、500サイクル繰り返した。
(1)原料容器温度:100℃、原料容器内圧力:100Paの条件で気化させた原子層堆積法用原料を成膜チャンバーに導入し、系圧力:100Paで0.1秒間堆積させる;
(2)15秒間のアルゴンパージにより、堆積しなかった原料を除去する;
(3)反応性ガスを成膜チャンバーに導入し、系圧力:100Paで10秒間反応させる;
(4)15秒間のアルゴンパージにより、未反応の第一の反応性ガス及び副生ガスを除去する。
【0109】
[実施例3]酸化ガリウム薄膜の製造
原子層堆積法用原料として化合物No.16を用いたこと以外は実施例2と同様の条件で酸化ガリウム薄膜を製造した。得られた薄膜の組成をX線光電子分光法により確認したところ、得られた薄膜は酸化ガリウムであり、残留炭素含有量は3.0atom%だった。また、X線反射率法による膜厚測定を行い、その平均値を算出したところ、膜厚は平均25.7nmであり、1サイクル当たりに得られる膜厚は平均0.05nmであった。
【0110】
[実施例4]酸化ガリウム薄膜の製造
原子層堆積法用原料として化合物No.25を用いたこと以外は実施例2と同様の条件で酸化ガリウム薄膜を製造した。得られた薄膜の組成をX線光電子分光法により確認したところ、得られた薄膜は酸化ガリウムであり、残留炭素含有量は1.0atom%よりも少なかった。また、X線反射率法による膜厚測定を行い、その平均値を算出したところ、膜厚は平均26.3nmであり、1サイクル当たりに得られる膜厚は平均0.05nmであった。
【0111】
[実施例5]酸化ガリウム薄膜の製造
反応性ガスとしてオゾンを用いたこと以外は実施例4と同様の条件で酸化ガリウム薄膜を製造した。得られた薄膜の組成をX線光電子分光法により確認したところ、得られた薄膜は酸化ガリウムであり、残留炭素含有量は1.0atom%よりも少なかった。また、X線反射率法による膜厚測定を行い、その平均値を算出したところ、膜厚は平均27.3nmであり、1サイクル当たりに得られる膜厚は平均0.05nmであった。
【0112】
[比較例3]酸化ガリウム薄膜の製造
原子層堆積法用原料として比較化合物1を用いたこと以外は実施例2と同様の条件で酸化ガリウム薄膜を製造した。得られた薄膜の組成をX線光電子分光法により確認したところ、得られた薄膜は酸化ガリウムであり、残留炭素含有量は20.0atom%だった。また、X線反射率法による膜厚測定を行い、その平均値を算出したところ、膜厚は平均10nmであり、1サイクル当たりに得られる膜厚は平均0.02nmであった。
【0113】
実施例2~5の結果より、いずれも残留炭素含有量が低く、品質の良い酸化ガリウム薄膜を製造することができたことがわかった。一方、比較例3で得られた薄膜は残留炭素含有量が非常に高く、品質が悪い酸化ガリウム薄膜が得られることがわかった。なかでも、実施例4および実施例5で得られた酸化ガリウム薄膜は、残留炭素含有量が特異的に低く、非常に品質のよい酸化ガリウム薄膜であることがわかった。また、比較例3と比べて実施例2~5の結果は1サイクル当たりに得られる膜厚が厚く、非常に生産性良く品質のよい薄膜を得ることができるということがわかった。