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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-16
(45)【発行日】2023-10-24
(54)【発明の名称】廃太陽光発電パネルの処理方法
(51)【国際特許分類】
   B09B 3/40 20220101AFI20231017BHJP
   B09B 3/30 20220101ALI20231017BHJP
   C22B 1/00 20060101ALI20231017BHJP
   C22B 7/00 20060101ALI20231017BHJP
   B09B 101/15 20220101ALN20231017BHJP
【FI】
B09B3/40 ZAB
B09B3/30
C22B1/00 601
C22B7/00 A
C22B7/00 C
C22B7/00 F
B09B101:15
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2021035756
(22)【出願日】2021-03-05
(65)【公開番号】P2022135749
(43)【公開日】2022-09-15
【審査請求日】2022-09-14
(73)【特許権者】
【識別番号】502362758
【氏名又は名称】JX金属株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】長須 貴之
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 義昭
(72)【発明者】
【氏名】竹内 智久
【審査官】松原 宜史
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-130318(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2020-0095749(KR,A)
【文献】国際公開第2019/151351(WO,A1)
【文献】特開2015-123418(JP,A)
【文献】特開2015-110201(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第102544239(CN,A)
【文献】特開2018-176002(JP,A)
【文献】特開2001-296509(JP,A)
【文献】国際公開第2015/098232(WO,A1)
【文献】特開2003-297248(JP,A)
【文献】特開2000-084531(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B09B 1/00- 5/00
C22B 1/00-61/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくともカバーガラスと、フレームと、太陽電池セルと、封止剤と、ケーブルとを有する廃太陽光発電パネルの処理方法であって、
前記フレームを分離する分離工程と、
前記フレーム以外の部材を焼却する焼却工程と、
前記焼却工程により得られる焼却品を非鉄製錬炉に添加する再利用工程
を含み、
前記再利用工程の前に、前記ケーブルを篩別により前記焼却品から分離する、廃太陽光発電パネルの処理方法。
【請求項2】
少なくともカバーガラスと、フレームと、太陽電池セルと、封止剤と、ケーブルとを有する廃太陽光発電パネルの処理方法であって、
前記フレームを分離する分離工程と、
前記フレーム以外の部材を焼却する焼却工程と、
前記焼却工程により得られる焼却品を非鉄製錬炉に添加する再利用工程
を含み、
前記焼却工程の前に前記ケーブルを分離し、前記焼却工程は前記フレーム及び前記ケーブル以外の部材を焼却する、廃太陽光発電パネルの処理方法。
【請求項3】
さらに、前記焼却工程の前に、前記フレームを除く部材を粉砕する粉砕工程を含む、請求項1又は2に記載の廃太陽光発電パネルの処理方法。
【請求項4】
前記焼却工程により、前記廃太陽光発電パネルの樹脂質量を前記焼却品の全体質量の10%以下とする、請求項1~3のいずれか1項に記載の廃太陽光発電パネルの処理方法。
【請求項5】
前記焼却工程は、格子状の仕切りによって、高さ方向において上段と下段の2段に分かれる加熱炉を使用して実施し、前記上段は焼却すべき物を収納し、前記下段は前記焼却品を回収する、請求項1、又は請求項1に従属する請求項3若しくは4に記載の廃太陽光発電パネルの処理方法。
【請求項6】
前記焼却工程は、格子状の仕切りによって、高さ方向において上段と下段の2段に分かれる加熱炉を使用して実施し、前記上段は焼却すべき物を収納するとともに、前記ケーブルを収容した耐熱性容器を収納し、前記下段は前記焼却品を回収し、前記ケーブルは前記耐熱性容器から回収される、請求項に記載の廃太陽光発電パネルの処理方法。
【請求項7】
前記分離工程において、前記カバーガラスを割ることにより前記フレームを他の部材から分離する、請求項1~のいずれか1項に記載の廃太陽光発電パネルの処理方法。
【請求項8】
前記再利用工程において、前記焼却品を珪酸鉱と混合した後に前記非鉄製錬炉に投入する、請求項1~のいずれか1項に記載の廃太陽光発電パネルの処理方法。
【請求項9】
前記非鉄製錬炉は自溶炉であり、前記再利用工程の前に、さらに前記焼却品に対して篩別を行い、異物を除去してから前記自溶炉に投入する、請求項1~のいずれか1項に記載の廃太陽光発電パネルの処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、廃太陽光発電パネルの処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
廃太陽光発電パネルを有効利用する方法としては、太陽光発電パネルに用いられているガラスを分離し、ガラスカレットとしてリサイクル利用することや、セル部分を分離し、セルの電極に用いられる銀や銅などの有価物を回収する方法が知られているが、ガラスとセルを混在させないよう分離して回収することが容易ではなく、大量に処理することが難しいという問題がある。また、セルに含まれる銀や銅については、処理の困難さによって、処理コストが回収できないことから埋め立て処理されるケースもある。
【0003】
また、近年、太陽光発電の普及に伴い、大量の太陽光発電パネルが製造され、使用されている。そのため、昨今では廃太陽光発電パネルの廃棄量は低いが、数十年後、使用寿命を迎える太陽光発電パネルの大量出現により、廃太陽光発電パネルの発生量が急激に増加すると予測される。上記廃太陽光発電パネルの処理の困難さとあいまって、深刻な産業廃棄物問題につながる懸念がある。そこで、廃太陽光発電パネルの効率的な処理方法が望まれている。
【0004】
太陽光発電パネルには、一般にフレーム(通常はアルミニウム製)と、カバーガラスと、バックシート(通常はポリフッ化ビニリデン等の樹脂)と、太陽電池セルと、太陽電池セルの表裏面を封止する封止剤(通常はEVA樹脂製)とを有し、さらに太陽電池セルから外部へ電力を供するためのケーブルなどを有する。これらの部材のうち、カバーガラスを分離して回収する技術(特許文献1:特開2018-176002号公報)や、太陽電池セルを取り出す技術(特許文献2:特開2015-071162号公報)などが存在する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2018-176002号公報
【文献】特開2015-071162号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載される方法ではカバーガラスを板状のまま取り出すことができ、特許文献2に記載される方法では、太陽電池セルを破壊せず獲得することができるが、これらの技術は、目的とする部材を破壊しない分、処理の手間がかかり、処理コストが高くなる。また、カバーガラスと太陽電池セルを同時に効率的に処理、回収し、有効利用する手段が提案されていない。
【0007】
本発明は上記問題点に鑑みなされたものであり、一実施形態において、廃太陽光発電パネルのカバーガラスと太陽電池セルを同時に有効に回収するためのフローを提案することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は鋭意検討の結果、廃太陽光発電パネルのカバーガラスと太陽電池セルを分別せずに回収して、非鉄製錬炉の溶剤として利用することで、上記課題を解決することができることを見いだした。本発明は上記知見に基づき完成されたものであり、以下に例示される。
【0009】
[1]
少なくともカバーガラスと、フレームと、太陽電池セルと、封止剤と、ケーブルとを有する廃太陽光発電パネルの処理方法であって、
前記フレームを分離する分離工程と、
前記フレーム以外の部材を焼却する焼却工程と、
前記焼却工程により得られる焼却品を非鉄製錬炉に添加する再利用工程
を含む、廃太陽光発電パネルの処理方法。
[2]
さらに、前記焼却工程の前に、前記フレームを除く部材を粉砕する粉砕工程を含む、[1]に記載の廃太陽光発電パネルの処理方法。
[3]
前記焼却工程により、前記廃太陽光発電パネルの樹脂質量を前記焼却品の全体質量の10%以下とする、[1]又は[2]に記載の廃太陽光発電パネルの処理方法。
[4]
前記再利用工程の前に、前記ケーブルを篩別により前記焼却品から分離する、[1]~[3]のいずれか1項に記載の廃太陽光発電パネルの処理方法。
[5]
前記焼却工程の前に前記ケーブルを分離し、前記焼却工程は前記フレーム及び前記ケーブル以外の部材を焼却する、[1]~[3]のいずれか1項に記載の廃太陽光発電パネルの処理方法。
[6]
前記焼却工程は、格子状の仕切りによって、高さ方向において上段と下段の2段に分かれる加熱炉を使用して実施し、前記上段は焼却すべき物を収納し、前記下段は前記焼却品を回収する、[1]~[4]のいずれか1項に記載の廃太陽光発電パネルの処理方法。
[7]
前記焼却工程は、格子状の仕切りによって、高さ方向において上段と下段の2段に分かれる加熱炉を使用して実施し、前記上段は焼却すべき物を収納するとともに、前記ケーブルを収容した耐熱性容器を収納し、前記下段は前記焼却品を回収し、前記ケーブルは前記耐熱性容器から回収される、[5]に記載の廃太陽光発電パネルの処理方法。
[8]
前記分離工程において、前記カバーガラスを割ることにより前記フレームを他の部材から分離する、[1]~[7]のいずれか1項に記載の廃太陽光発電パネルの処理方法。
[9]
前記再利用工程において、前記焼却品を珪酸鉱と混合した後に前記非鉄製錬炉に投入する、[1]~[8]のいずれか1項に記載の廃太陽光発電パネルの処理方法。
[10]
前記非鉄製錬炉は自溶炉であり、前記再利用工程の前に、さらに前記焼却品に対して篩別を行い、異物を除去してから前記自溶炉に投入する、[1]~[9]のいずれか1項に記載の廃太陽光発電パネルの処理方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、廃太陽光発電パネルのカバーガラスとフレームを同時に有効に回収することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
次に、本発明の実施形態について、詳細に説明する。本発明は以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、当業者の通常の知識に基づいて、適宜設計の変更、改良等が加えられることが理解されるべきである。
【0012】
(1.廃太陽光発電パネル)
廃太陽光発電パネルは、少なくともカバーガラスと、フレームと、太陽電池セルと、封止剤と、ケーブルとを有するものであれば、具体的な構成や素材が限定されない。フレームは、通常アルミニウム製であり、封止剤は、通常EVA樹脂などのプラスチック製であり、ケーブルは、通常絶縁材料に覆われる銅線である。一例として、廃太陽光発電パネルにおいて、カバーガラス、EVA封止剤、太陽電池セル、EVA封止剤、バックシートが順に積層されており、表側がカバーガラスで構成され、裏側がバックシートで構成されている。太陽電池セルには、外部に電力を出力するためのケーブルが設けられている。ほかにも、電気回路を形成するために、より多くのケーブルが含まれる場合がある。
【0013】
(2.分離工程)
本発明の一実施形態において、廃太陽光発電パネルからフレームを分離する分離工程が実施される。当該工程を実施する理由は以下のとおりである。
【0014】
太陽光発電パネルに類似する物の例として、特開2001-296509号公報には、液晶パネルを破砕することにより得られるガラス片を、非鉄製錬炉に投入する技術が開示されている。この処理方法では、液晶パネルに含まれる有機物を乾留または燃焼させた後、破砕機によって破砕し、所定の粒度(例えば最大5~10mm)に調整し、製錬炉で処理されている。
【0015】
廃太陽光発電パネルにも、前述のように、太陽電池セルを挟む形で、EVAなどのプラスチック製の封止剤が用いられている。そして、プラスチックのような有機物は非鉄製錬処理の副産物である硫酸の着色原料となるため、焼却する必要がある。しかしながら、廃太陽光発電パネルをそのままで焼却すると、フレームも含んだ状態で焼却炉へ投入する必要があり、特に大容量の大型パネルの場合、廃太陽光発電パネルを搬入できる大型の加熱炉が必要となるので、作業性、処理コストなどの面では好ましくない。
【0016】
そのため、焼却工程を実施する前に、フレームを他の部材から分離する分離工程を実施する。分離の具体的な方法は特に限定されないが、例えば特許文献1の方法で取り外すことも可能であり、あるいは、カバーガラスを割ることにより、フレームとその他の部材との接合部を折損させてフレームを分離することが可能である。カバーガラスを割る具体的な手段は特に限定されないが、典型的にはガラス面を機械で押して破る手段が挙げられる。後述のように、カバーガラスを非鉄製錬炉に投入することにより再利用するので、カバーガラスや太陽電池セルの破損を回避する必要はないからである。
【0017】
(3.焼却工程)
焼却工程において、フレームが分離された後の廃太陽光発電パネルの他の部材を焼却する。焼却の目的は、前工程で破砕した破砕物を非鉄製錬炉で処理する際に排ガス中に有機物の揮発物質が混入すると排ガスから副産物として回収する製品硫酸の品質悪化に影響することから、封止剤などの樹脂分を除去することであり、好ましくは、焼却工程により、廃太陽光発電パネルの樹脂質量を全体質量の10%以下とする。非鉄製錬炉での悪影響を極力抑制する観点から、焼却工程後の樹脂質量は焼却品の全体質量の8%以下であることがより好ましく、5%以下であることがさらにより好ましく、2%以下であることがさらにより好ましい。
【0018】
ケーブルに使用される銅線などの金属は有価金属であるため、焼却工程の前又は後に回収することが好ましい。本発明の一実施形態において、焼却工程の後、後述の再利用工程の前に、ケーブルを篩別により前記焼却品から分離することで回収する。また、本発明の別の一実施形態において、焼却工程の前にケーブルを予め分離し、ケーブルを他部材と一緒に焼却しない。
【0019】
焼却工程において使用される焼却炉の具体的構成は限定されず、定置炉の他、ロータリーキルン、ストーカー炉が挙げられる。一実施形態において、焼却工程は、格子状の仕切りによって、高さ方向において上段と下段の2段に分かれる加熱炉を使用して実施し、格子状の仕切りの上の上段は焼却すべき物を収納し、格子状の仕切りの下の下段は焼却品を回収することができる。上段においては、焼却すべきものを可燃性の袋内に収容してもよい。焼却炉としてこのような2段構造のものを使用することにより、焼却すべき物と焼却品との区別がしやすくなり、未燃の樹脂分を含む物が焼却品に混入することを抑制することができる。また、定置炉のようなバッチ式の炉を用いる場合、廃太陽光発電パネルを焼却するための専用炉としなくても廃太陽光発電パネル由来以外の焼却物とのコンタミネーションを防止することができ、その結果、焼却品の回収量の把握がしやすくなる。
【0020】
焼却工程の前にあらかじめケーブルを分離した場合、焼却工程において使用される焼却炉の具体的構成も限定されず、定置炉の他、ロータリーキルン、ストーカー炉が挙げられる。一実施形態においては、格子状の仕切りによって、高さ方向において上段と下段の2段に分かれる加熱炉を使用して実施し、格子状の仕切りの上の上段は焼却すべき物を収納するとともに、ケーブルを収容した耐熱性容器を収納し、格子状の仕切りの下の下段は焼却品を回収することができる。この場合、ケーブルは絶縁材料が除去された状態で、耐熱性容器から回収できる。
【0021】
焼却工程の条件は特に限定されないが、典型的には100~650℃の範囲内に保持して行われる。
【0022】
(4.粉砕工程)
焼却を効率的に行うため、あるいは作業上の利便性を高めるため、焼却工程の前に、フレーム以外の部材を粉砕する粉砕工程を行うことが好ましい。粉砕工程を、フレームを分離する上記分離工程の後に行ってもよく、粉砕工程の途中で解体した廃太陽光発電パネルからフレームを分離してもよい。すなわち、粉砕工程の途中に分離工程を行ってもよい。
【0023】
粉砕後の粉砕物の寸法制御は、使用する方法、設備の仕様により適宜合わせれば良い。
【0024】
(5.再利用工程)
焼却工程の後に得られる焼却品には、カバーガラス由来のガラス成分が多く含まれる。ガラスの成分は、典型的にはSiO2:50~65%、酸化マグネシウム:2~4%、酸化ナトリウム:10~16%であり、その他、酸化カルシウム、酸化アルミニウム等が含まれている。本発明の別の一実施形態において、焼却工程により得られる焼却品を非鉄製錬炉に添加する再利用工程が実施される。以下、銅を非鉄金属の一例として説明する。
【0025】
銅製錬炉では、銅精鉱を酸化反応させて銅品位65%程度の銅マットと、FeやSiが主成分のスラグを製造する自溶炉や、銅マットを酸化反応させて、銅品位99%程度の粗銅を製造する転炉などがある。自溶炉や転炉では酸化反応熱により原料を溶融状態にして保持し、銅マットとスラグ、または粗銅とスラグの2層に分離してそれぞれ回収するが、適切なスラグ組成にして溶融時の融点を下げる目的で溶剤が添加される。
【0026】
溶剤にはさまざまな種類があるが、SiO2を主成分とする珪酸鉱を用いるのが一般的である。珪酸鉱を溶剤として用いる場合、自溶炉や転炉では以下の反応が発生する。
自溶炉:CuFeS2+SiO2+O2→Cu2S・FeS+2FeO・SiO2+SO2
転炉:Cu2S・FeS+SiO2+O2→Cu+2FeO・SiO2+SO2
【0027】
前述のように、廃太陽光発電パネルカバーガラスにはSiO2が多く含まれるので、焼却工程により得られる焼却品を珪酸鉱の代わりとして用いることが可能である。また、太陽電池セルも同時に処理した場合、太陽電池セルに含まれる銀等の有価金属はマットや粗銅中に溶解する。そして、その粗銅を電解精製して電気銅を製造する際に電解殿物中に移行する。得られた電解殿物を公知の殿物処理技術を用いて処理することにより最終的に製品銀として精製して回収することが可能である。
【0028】
非鉄製錬炉が自溶炉である場合、溶剤は通常粉粒体として投入されるので、異物(例えば、廃太陽電池のバックシートや封止剤等の未燃残渣で数cm以上のもの)があると、自溶炉の原料装入部で詰まることがある。そのため、焼却品に対して篩別を行い、異物を除去してから自溶炉に投入することが好ましい。
【0029】
以上のように、廃太陽光発電パネルのカバーガラスは溶剤として非鉄製錬炉に添加することにより再利用され、太陽電池セルに含まれる銀等の有価物も回収できるので、廃太陽光発電パネルのカバーガラスと太陽電池セルを同時に有効に回収することができる。また、本発明の一部の実施形態によれば、ケーブルなどに含まれる有価金属やアルミフレームも効率的に回収することができ、これにより、廃棄物をゼロにすることも可能である。
【実施例
【0030】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0031】
(るつぼ試験)
廃太陽光発電パネルを手作業で解体し、カバーガラスを分離した。このカバーガラスの組成は表1に示される。また、通常の溶剤として使用される珪酸鉱の組成も表1に示す。このカバーガラスと珪酸鉱をディスクミルで粉砕した。
【0032】
【表1】
【0033】
また、表2に示される組成を有する銅精鉱を用意した。
【0034】
【表2】
【0035】
まず、加熱炉を1300℃までに昇温した。次に、Fe/SiO2が1.05となるように、銅精鉱と溶剤の割合を調整して混合し、るつぼに充填し、このるつぼを加熱炉に投入した。参考例では珪酸鉱のみを使用したのに対し、試験例では一部珪酸鉱をカバーガラスに置き換えた。
【0036】
【表3】
【0037】
次に、1L/minの速度で空気をるつぼに吹き込み、30分間保持した。その後、加熱炉からるつぼを取り出し、大気中で自然冷却した。結果として、参考例と試験例のいずれにおいても、金属銅を得ることができた。また、溶剤の一部をカバーガラスに置き換えた試験例については、カバーガラスが残存することなくスラグが生成されていたことから溶剤として機能したことを確認した。
【0038】
(実機試験)
廃太陽光発電パネルから分離したカバーガラスを用い、試験した。このカバーガラスの組成は表4に示される。
【0039】
【表4】
【0040】
このカバーガラスを、表5の割合で、珪酸鉱とともに、銅精鉱を酸化反応させる自溶炉に供給した。なお、供給量(t)は、1日の量を示す。
【0041】
【表5】
【0042】
各例の自溶炉の処理により得られるスラグのサンプルを採取し、スラグ中の銅品位を蛍光X線装置により測定し、従来例1の数値を1として、各例の相対値を評価した。結果を表6に示す。
【0043】
【表6】
【0044】
仮に、廃太陽光発電パネル由来のカバーガラスが溶剤として機能した場合、2FeO・SiO2が生成する反応が妨げられ、FeOが酸素で酸化されるので、相対的にマグネタイトの生成量が増加し、溶体の粘度が上昇する。溶体の粘度が上昇すれば、スラグ中のマット粒子の沈降が遅くなり、スラグ中のCuの品位が上昇する。ところが、実施例では、スラグ中のCuの品位の上昇が見受けられないことから、廃太陽光発電パネル由来のカバーガラスが溶剤として機能していることが確認された。
【0045】
このことより、廃太陽光発電パネルの処理方法として、分離、粉砕、焼却などの前処理によりカバーガラスを得られれば、溶剤として非鉄製錬炉に投入することが可能であることが分かった。