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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-17
(45)【発行日】2023-10-25
(54)【発明の名称】物理量測定装置
(51)【国際特許分類】
   G01D 3/02 20060101AFI20231018BHJP
   G01D 5/20 20060101ALI20231018BHJP
【FI】
G01D3/02 L
G01D5/20 K
G01D5/20 110F
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2020010916
(22)【出願日】2020-01-27
(65)【公開番号】P2021117116
(43)【公開日】2021-08-10
【審査請求日】2022-12-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000151494
【氏名又は名称】株式会社東京精密
(74)【代理人】
【識別番号】100083116
【弁理士】
【氏名又は名称】松浦 憲三
(74)【代理人】
【識別番号】100170069
【弁理士】
【氏名又は名称】大原 一樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128635
【弁理士】
【氏名又は名称】松村 潔
(74)【代理人】
【識別番号】100140992
【弁理士】
【氏名又は名称】松浦 憲政
(72)【発明者】
【氏名】高久 正和
【審査官】平野 真樹
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-133989(JP,A)
【文献】特開2005-345306(JP,A)
【文献】特開昭57-197697(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01D 3/00-3/10
G01D 5/00-5/252,5/39-5/62
G01B 7/00-7/34
G01R 33/00-33/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1振幅の交流信号を発生する交流信号源と、
前記交流信号源から発生される交流信号を入力し、測定対象物に対する物理量に応じた検出信号を出力するセンサ部と、
前記交流信号を入力し、ゼロ点設定用の第1ゲインにより前記交流信号を増幅し、かつゼロ点設定用の位相ずれを付与する補償部と、
前記センサ部の検出信号から前記補償部の出力信号を減算する第1減算部と、
第1整流回路及び第1増幅器を含む第1信号処理部であって、前記第1減算部から出力される差信号に対して整流及び第2ゲインによる増幅を行う第1信号処理部と、
前記補償部から出力される出力信号を整流する第2整流回路と、
前記第1振幅と前記第1ゲインとの積に比例した第1直流定電圧信号を発生する直流定電圧発生部と、
前記第2整流回路の出力信号から前記第1直流定電圧信号を減算する第2減算部と、
前記第2減算部から出力される差信号を第2ゲインで増幅する第2増幅器と、
前記第1増幅器の出力信号と前記第2増幅器の出力信号とを加算する加算部と、
を備えた物理量測定装置。
【請求項2】
前記第1信号処理部は、前記差信号を前記第1整流回路により整流し、前記整流した整流信号を前記第1増幅器により第2ゲインで増幅し、又は前記差信号を前記第1増幅器により第2ゲインで増幅し、前記増幅した信号を前記第1整流回路により整流する、
請求項1に記載の物理量測定装置。
【請求項3】
前記センサ部の出力信号は、前記交流信号と同じ周波数を有し、前記測定対象物に対する物理量に応じて振幅が変化し、かつ位相が変化する信号である、
請求項1又は2に記載の物理量測定装置。
【請求項4】
前記ゼロ点設定用の第1ゲインは、前記交流信号の第1振幅と前記測定対象物の物理量が予め設定した物理量の場合に前記センサ部から出力される検出信号の振幅との比であり、
前記ゼロ点設定用の位相ずれは、前記測定対象物の物理量が予め設定した物理量の場合に前記センサ部から出力される検出信号と前記交流信号との位相ずれである、
請求項3に記載の物理量測定装置。
【請求項5】
前記補償部は、前記第1ゲイン及び前記位相ずれに応じて選択された抵抗及びコンデンサを含む請求項4に記載の物理量測定装置。
【請求項6】
前記交流信号源は、
前記交流信号の周波数を有する基準信号を発生する発振器と、
前記基準信号を増幅し、前記交流信号を生成する可変増幅器と、
前記可変増幅器から出力される前記交流信号を整流し、前記交流信号の振幅を示す直流電圧信号を出力する第3整流回路と、
前記第1振幅に対応する第2直流定電圧信号を出力する直流定電圧源と、
前記第2直流定電圧信号と前記直流電圧信号との差電圧に基づいて前記差電圧をゼロにするように前記可変増幅器のゲインを調整するゲイン調整部と、
を備えた請求項1から5のいずれか1項に記載の物理量測定装置。
【請求項7】
前記直流定電圧発生部は、前記直流定電圧源から前記第2直流定電圧信号を入力し、前記第2直流定電圧信号を前記第1ゲインに比例した前記第1直流定電圧信号を発生する、
請求項6に記載の物理量測定装置。
【請求項8】
前記センサ部は、前記交流信号源から発生される交流信号が印加される検出コイルを有し、シングルエンド動作による前記検出信号を出力するセンサである、
請求項1から7のいずれか1項に記載の物理量測定装置。
【請求項9】
前記センサ部は、前記交流信号源から発生される交流信号が印加される一次コイルと、2つの二次コイルと、測定対象物に接触して移動する測定子に連結された磁気コアとを有し、前記測定子の変位に対応する前記検出信号を出力する差動トランス式の変位センサである、
請求項1から7のいずれか1項に記載の物理量測定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は物理量測定装置に係り、特に測定対象物との距離、変位、圧力等の測定対象物に対する物理量を測定する際に、任意に設定した測定点付近における分解能を向上させる技術に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、交流信号により励磁されるコイルを有するセンサでは、測定範囲全域に渡って測定値の分解能を向上させることは困難である。
【0003】
例えば、特許文献1に記載のLVDT(Linear Variable Differential Transformer)センサは、交流信号により励磁される一次コイルと、2つの二次コイルを有する差動トランス式による変位センサである。
【0004】
このLVDTセンサの回路には増幅器が導入され、増幅器の倍率(ゲイン)を調整することで、後段のA/D(Analog to Digital)コンバータの分解能を最大限に利用している。即ち、増幅器のゲインは、センサ出力の最大値が、A/Dコンバータの最大入力範囲に入るように調整される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2004-156459号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載の発明は、LVDTセンサの機械的基準点であるゼロ点(入力交流信号レベルが0Vの測定点)付近の「分解能」を向上させることが可能であるが、任意の測定点付近における「分解能」を向上させることができないという問題がある。
【0007】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたもので、任意に設定した測定点付近における分解能を向上させることができる物理量測定装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明の第1態様に係る物理量測定装置は、第1振幅の交流信号を発生する交流信号源と、交流信号源から発生される交流信号を入力し、測定対象物に対する物理量に応じた検出信号を出力するセンサ部と、交流信号を入力し、ゼロ点設定用の第1ゲインにより交流信号を増幅し、かつゼロ点設定用の位相ずれを付与する補償部と、センサ部の検出信号から補償部の出力信号を減算する第1減算部と、第1整流回路及び第1増幅器を含む第1信号処理部であって、第1減算部から出力される差信号に対して整流及び第2ゲインによる増幅を行う第1信号処理部と、補償部から出力される出力信号を整流する第2整流回路と、第1振幅と前記第1ゲインとの積に比例した第1直流定電圧信号を発生する直流定電圧発生部と、第2整流回路の出力信号から第1直流定電圧信号を減算する第2減算部と、第2減算部から出力される減算信号を第2ゲインで増幅する第2増幅器と、第1増幅器の出力信号と前記第2増幅器の出力信号とを加算する加算部と、を備える。
【0009】
本発明の第1態様によれば、センサ部の検出信号から、ゼロ点設定用の第1ゲインにより交流信号を増幅し、かつゼロ点設定用の位相ずれを付与する補償部の出力信号を減算する。これにより、センサ部から分解能を向上させたい任意の測定点(以下、「仮想ゼロ点」と称す)の検出信号が出力される場合、その検出信号から補償部の出力信号が減算された差信号は、ほぼ0レベルの信号になる。
【0010】
差信号は、その後、第1信号処理部により第2ゲインで増幅されるが、「仮想ゼロ点」ではほぼ0レベルの信号になるため、第2ゲインを大きくすることが可能であり、「仮想ゼロ点」付近の分解能を向上させることができる。また、温度等の影響により交流信号の増幅が変動する場合、センサ部の検出信号はそれに比例して変化するが、交流信号の振幅が変化しても「仮想ゼロ点」における差信号は常にゼロであり、「仮想ゼロ点」付近の測定精度の低減を抑制することができる。
【0011】
一方、第1信号処理部の出力信号に対して、補償部から出力される出力信号を第2整流回路で整流した後、第2ゲインで増幅する第2増幅器の出力信号を加算することで、「仮想ゼロ点」におけるセンサ部の出力信号に対して、補償部の出力信号の振幅、位相がずれていても、その影響がキャンセルされ、「仮想ゼロ点」付近の測定精度及び分解能には影響しないようにすることができる。
【0012】
また、第2増幅器から出力される出力信号は、直流定電圧発生部からの第1直流定電圧信号(交流信号の第1振幅を示す電圧信号と第1ゲインとの積に比例した第1直流定電圧信号)を第2ゲインで増幅した電圧信号が減算されているため、測定点が「仮想ゼロ点」の場合にゼロになり、これにより「ゼロ点」の設定が可能になる。
【0013】
本発明の第2態様に係る物理量測定装置は、第1態様において、第1信号処理部は、差信号を第1整流回路により整流し、整流した整流信号を第1増幅器により第2ゲインで増幅し、又は差信号を第1増幅器により第2ゲインで増幅し、増幅した信号を第1整流回路により整流することが好ましい。
【0014】
第1信号処理部は、減算部から出力される差信号を整流してから第2ゲインにより増幅してもよいし、減算部から出力される差信号を第2ゲインにより増幅してから整流してもよいが、前者の方が好ましい。第1増幅器に入力する信号をより小さくすることができるからである。
【0015】
本発明の第3態様に係る物理量測定装置は、第1態様又は第2態様において、センサ部の出力信号は、交流信号と同じ周波数を有し、測定対象物に対する物理量に応じて振幅が変化し、かつ位相が変化する信号である。
【0016】
本発明の第4態様に係る物理量測定装置は、第3態様において、ゼロ点設定用の第1ゲインは、交流信号の第1振幅と測定対象物の物理量が予め設定した物理量の場合にセンサ部から出力される検出信号の振幅との比であり、ゼロ点設定用の位相ずれは、測定対象物の物理量が予め設定した物理量の場合にセンサ部から出力される検出信号と交流信号との位相ずれであることが好ましい。
【0017】
本発明の第5態様に係る物理量測定装置は、第4態様において、補償部は、第1ゲイン及び位相ずれに応じて選択された抵抗及びコンデンサを含むことが好ましい。第1ゲイン及び位相ずれに応じて抵抗及びコンデンサを選択することで、「仮想ゼロ点」を設定することができる。
【0018】
本発明の第6態様に係る物理量測定装置は、第1態様から第5態様のいずれかにおいて、交流信号源は、交流信号の周波数を有する基準信号を発生する発振器と、基準信号を増幅し、交流信号を生成する可変増幅器と、可変増幅器から出力される交流信号を整流し、交流信号の振幅を示す直流電圧信号を出力する第3整流回路と、第1振幅に対応する第2直流定電圧信号を出力する直流定電圧源と、第2直流定電圧信号と直流電圧信号との差電圧に基づいて差電圧をゼロにするように可変増幅器のゲインを調整するゲイン調整部と、を備えることが好ましい。これにより、発振部から発振される交流信号の振幅を安定させることができ、交流信号の振幅の変動により、センサ出力がそれに比例して変動する不具合を防止することができる。
【0019】
本発明の第7態様に係る物理量測定装置は、第6態様において、直流定電圧発生部は、直流定電圧源から第2直流定電圧信号を入力し、第2直流定電圧信号を第1ゲインに比例した第1直流定電圧信号を発生することが好ましい。直流定電圧発生部は、交流信号の振幅を制御するための第2直流定電圧信号を増幅して、第1直流定電圧信号を発生させるため、交流信号の振幅と第1直流定電圧信号とを連動させることができ、更なる測定精度の向上(両信号の差異による誤差の低減)を図ることができる。
【0020】
本発明の第8態様に係る物理量測定装置は、第1態様から第7態様のいずれかにおいて、センサ部は、交流信号源から発生される交流信号が印加される検出コイルを有し、シングルエンド動作による検出信号を出力するセンサであることが好ましい。本発明は、特に検出信号自体にゼロ点を設定することできないシングルエンド動作するセンサ部に対して有効である。
【0021】
本発明の第9態様に係る物理量測定装置は、第1態様から第7態様のいずれかにおいて、センサ部は、交流信号源から発生される交流信号が印加される一次コイルと、2つの二次コイルと、測定対象物に接触して移動する測定子に連結された磁気コアとを有し、測定子の変位に対応する検出信号を出力する差動トランス式の変位センサであることが好ましい。差動トランス式の変位センサの場合、機械的基準点であるゼロ点で、センサ出力をゼロに調整することができるが、本発明は、機械的基準点であるゼロ点とは異なる任意の「仮想ゼロ点」の設定ができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、任意に設定した測定点(仮想ゼロ点)付近における分解能を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1図1は、本発明に係る物理量測定装置の実施形態を示す構成図である。
図2図2(A)は、図1に示したセンサ部の一例を示す模式図であり、図2(B)は、渦電流センサと測定対象物との位置関係を示す図である。
図3図3は、測定対象物との距離に応じて変化する検出信号を示す波形図である。
図4図4は、図1に示した複素補償回路の一例を示す回路図である。
図5図5は、物理量測定装置の各部から出力される信号の概要を示す波形図である。
図6図6は、図1に示した発振部及び直流定電圧発生部の好ましい実施形態を示す構成図である。
図7図7は、図1に示したセンサ部の他の例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、添付図面に従って本発明に係る物理量測定装置の好ましい実施形態について説明する。
【0025】
[物理量測定装置の構成]
図1は、本発明に係る物理量測定装置の実施形態を示す構成図である。
【0026】
本実施形態の物理量測定装置1は、交流信号源10、センサ部20、補償部として機能する複素補償回路30、第1減算部40、第1信号処理部50、第2信号処理部60、及び加算部90とから構成されている。
【0027】
交流信号源10は、振幅(第1振幅)Vの交流信号aを発振し、それぞれセンサ部20及び複素補償回路30に出力する。
【0028】
センサ部20は、交流信号源10から交流信号aを入力し、測定対象物に対する物理量に応じた検出信号bを出力する。
【0029】
<センサ部の一例>
図2(A)は、図1に示したセンサ部20の一例を示す模式図であり、図2(B)は、渦電流センサ20-1と測定対象物24との位置関係を示す図である。
【0030】
図2(A)に示すセンサ部は、渦電流センサ20-1であり、交流信号源10から交流信号aが印加される検出コイル22を有している。検出コイル22は、インピーダンス22Aと抵抗22Bの直列回路と見なすことができる。尚、図2において、22C、および22Dは、交流信号源10側から見た検出コイル22の付加インピーダンスである。
【0031】
検出コイル22には、交流信号源10から振幅Vの交流信号aが、付加インピーダンス22Cを通じて供給され、検出コイル22からは交番磁界が発生する。この交番磁界内に金属材料からなる測定対象物24があると、電磁誘導作用により測定対象物24の表面に磁束の通過と垂直方向の渦電流が流れ、検出コイル22のインピーダンス22Aが変化する。渦電流の大きさは、検出コイル22と測定対象物24との距離xに応じて変化する。
【0032】
この現象により渦電流センサ20-1は、測定対象物24との距離xに応じて振幅が変化する検出信号bを出力する。
【0033】
図3は、測定対象物24との距離xに応じて変化する検出信号を示す波形図である。
【0034】
渦電流センサ20-1から出力される検出信号は、図3に示すように測定対象物24との距離xに応じて振幅が変化し、かつ位相ずれが発生する。
【0035】
渦電流センサ20-1の検出感度を向上させる一例として、距離xが遠い程検出信号の振幅が大きくなる様に、22C、22Dを調整する方法が考えられる。この調整の場合においては、一般的には、距離xが遠い程、位相ずれ(位相進み)は大きくなる。
【0036】
なお、渦電流センサ20-1の検出感度を向上させる手段は別な手段でも構わず、距離xと検出信号の振幅との関係や、位相ずれの生じ方が別な挙動を示す場合においても、本明細記載の技術は、当然ながら有効である。
【0037】
ここで、検出コイル22に印加される交流信号aと渦電流センサ20-1の検出信号との複素的な比(以下、「センサゲイン」と称す)は、渦電流センサ20-1と測定対象物24との距離xにより決まる。尚、センサゲインの挙動のうち、距離xとは独立した挙動は、誤差要因とみなす。
【0038】
また、渦電流センサ20-1は、渦電流センサ20-1が出力する検出信号自体にゼロ点を設定することできないシングルエンド動作するセンサであり、交流信号aに対して、複素インピーダンス的な応答をする。
【0039】
図1に戻って、複素補償回路30は、交流信号源10から交流信号aを入力し、ゼロ点設定用の第1ゲインPにより交流信号aを増幅し、かつゼロ点設定用の位相ずれ(θ)を付与する(以下、入力された交流信号が実数倍され、かつその位相がずれた交流信号を出力することを『複素応答する』とも記述する)。
【0040】
即ち、複素補償回路30は、分解能を向上させたい任意の測定点(仮想ゼロ点)におけるセンサゲインを、ゼロ点設定用の第1ゲイン(P)とし、仮想ゼロ点における交流信号aに対する位相ずれを、ゼロ点設定用の位相ずれ(θ)とし、第1ゲイン(P)により交流信号aを増幅し、増幅した交流信号aに対して位相ずれ(θ)を付与する。
【0041】
これにより、複素補償回路30は、その出力信号c(図中のV)を、仮想ゼロ点におけるセンサ部20の検出信号bと一致させる。
【0042】
図4は、図1に示した複素補償回路30の一例を示す回路図である。
【0043】
図4に示すように、複素補償回路30は、インピーダンス素子(抵抗、コンデンサおよびインダクタ)31~34と、増幅素子(オペアンプ)35とより構成することができる。インピーダンス素子31~34は、第1ゲイン(P)及び位相ずれ(θ)に応じて適宜選択されたものが使用される。
【0044】
なお、インピーダンス素子31~34は、抵抗、コンデンサ、およびインダクタに限らず、複素補償回路30が複素応答するのであれば、これ以外の素子を用いても構わない。また、増幅素子35はオペアンプに限らず、複素補償回路30が複素応答するのであれば、これ以外の素子を用いても構わない。また、複素補償回路30の回路構成は、複素補償回路30が複素応答するのであれば、図4に示す回路以外の構成であっても構わない。
【0045】
具体的には、信号a,cにおける複素電圧信号をそれぞれVa、Vc、インピーダンス素子31~34の複素インピーダンスをそれぞれ、Z31~Z34とすると、この回路の複素増幅率Vc/Vaは、次式、
[数1]
Vc/Va={Z32・(Z33+Z34)}/{(Z31+Z32)・Z33}
となる。この右辺の絶対値がPに、偏角がθになるようにインピーダンス素子31~34を選べばよい。
【0046】
なお、複素電圧信号とは、交流信号源10と同じ周波数をもつ交流信号の電圧状態を1つの複素数値で表すものであり、その複素数値の絶対値は電圧信号の振幅と一致し、その複素数値の偏角は交流信号源10の信号からの進み位相であらわされる量である。
【0047】
また、各インピーダンス素子の複素インピーダンスは、交流信号源10と同じ周波数の電流を流した場合の複素インピーダンス値であることを前提とする。
【0048】
ここで、複素補償回路30から出力される出力信号cは、仮想ゼロ点におけるセンサ部20の検出信号bと完全に一致させる場合に限らず、若干ずれていてもよい。
【0049】
一般的に流通している安価な抵抗、コンデンサの定数は離散的であり、許容差も大きいため、厳密に入出力信号の位相差を作ることは困難である。
【0050】
また、入力信号に対して、出力信号の位相を常に一定に保つのは、下記の理由で容易ではない。
【0051】
(1) 一般的に流通している安価な抵抗、コンデンサは、周囲温度変化等によりその定数が変化してしまう。
【0052】
(2) 交流信号aの周波数が変化しても、入出力信号の振幅、位相の関係が変化してしまう。
【0053】
(3) 増幅素子や増幅回路の回路構成の性能(温度特性、直線性など)によっても、複素増幅率が変化してしまう。
【0054】
しかしながら、複素補償回路30から出力される出力信号cは、後述するように仮想ゼロ点におけるセンサ部20の検出信号bと完全に一致させなくてもよいため、複素補償回路30は、一般的に流通している安価な抵抗、コンデンサを適宜選択して構成することができし、回路30の様に簡易な回路構成を用いることができる。
る。
【0055】
図1に戻って、第1減算部40には、センサ部20から検出信号bが加えられ、複素補償回路30から出力信号cが加えられており、第1減算部40は、検出信号bから出力信号cを減算し、その差信号dを第1信号処理部50に出力する。
【0056】
尚、センサ部20から仮想ゼロ点における検出信号bが出力される場合、差信号d(図中のV)はゼロになる。複素補償回路30から出力される出力信号c(図中のV)は、仮想ゼロ点における検出信号bと一致するように生成されたものだからである。また、本例では、加減算等により信号レベルがゼロになるとは、ほぼゼロになる場合を含むものとする。
【0057】
第1信号処理部50は、第1整流回路52と第1増幅器54により構成されている。
【0058】
第1整流回路52は、第1減算部40から出力される差信号dを整流する。第1整流回路52は、線形応答する回路であることが好ましく、例えば、入力信号の極性(ゼロクロス点)によりスイッチング動作する同期整流回路が好ましい。差信号dは、「仮想ゼロ点」ではほぼ0レベルの信号になるため、「仮想ゼロ点」では整流信号eもほぼ0レベルの信号になる。
【0059】
第1増幅器54は、第1整流回路52から出力される整流信号eを第1増幅器54の第2ゲイン(A)により増幅する。整流信号eは、「仮想ゼロ点」ではほぼ0レベルの信号になるため、第2ゲイン(A)を大きくすることができ、「仮想ゼロ点」付近の分解能を向上させることができる。
【0060】
第2信号処理部60は、第2整流回路62、直流定電圧発生部64、第2減算部66、及び第2増幅器68から構成されている。
【0061】
第2整流回路62は第1整流回路52と、第2増幅器68は第1増幅器54と同じ構成の回路である。
【0062】
第2整流回路62は、複素補償回路30から出力される信号cを整流する。信号cのレベルは複素補償回路30の構成により決まるが、回路30に使用するインピーダンス素子や増幅素子、およびその回路構成の性能により厳密には理想値からの若干のずれが生じ、また若干の変動が生じる。
【0063】
直流定電圧発生部64は、複素補償回路30が理想的な信号出力をしたと仮定した場合の第1直流定電圧信号hを出力する様に構成する。なお、ここでいう「理想的な信号出力をしたと仮定した場合の定電圧信号」には、「理想的な信号出力をしたと仮定した場合の定電圧信号」とほぼ同じ定電圧信号も含むものとする。
【0064】
以上から、整流信号gは、直流定電圧発生部64から出力される第1直流定電圧信号hから若干ずれた信号となる。
【0065】
第2減算部66の正入力には整流信号gが、負入力には第1直流定電圧hが入力される。すなわち、第2減算部66の出力には、整流信号gから第1直流定電圧hを減じた差信号が出力される。
【0066】
前述のとおり、整流信号gは第1直流定電圧hから若干ずれた信号であるから、差信号hはほぼ0レベルの信号となる。
【0067】
第2増幅器68は、第2減算部66から出力される差信号iを第2ゲイン(A)により増幅する。差信号iはほぼ0レベルの信号であるため、第2ゲイン(A)を大きくすることができる。すなわち、第2信号処理部60のゲインは第1信号処理部50のゲインと共通のゲインとすることができる。
【0068】
第1信号処理部50の結果f、および第2信号処理部60の結果jは、それぞれ加算部90に入力される。すなわち、加算部の出力には、結果fと結果hとが加わった信号が信号kとして出力される。
【0069】
尚、本例の第1信号処理部50は、入力する差信号dを第1整流回路52により整流し、整流した整流信号eを第1増幅器54により第2ゲイン(A)で増幅するが、入力する差信号dを第1増幅器54により第2ゲイン(A)で増幅し、増幅した信号を第1整流回路52により整流してもよい。
【0070】
また、直流定電圧発生部64は、振幅Vを示す電圧信号、第1ゲイン(P)を使用して第1直流定電圧信号hを発生させることができるが、これに限らず、複素補償回路30が理想的な信号出力をしたと仮定した場合の出力信号を発生させるものであればよい。また、本例では、第1整流回路52及び第2整流回路62では、簡単のため入力信号の振幅と出力信号の直流電圧が等しくなることを前提に説明しているが、当然ながら、適切に各回路(直流定電圧発生部64)の感度を設定することにより、入力信号の振幅と出力信号の直流電圧とを等しくする必要はない。
【0071】
複素補償回路30の出力信号c(図中のV)を、整流すると、直流定電圧発生部64と同じ電圧信号になるため、第2減算部66から出力される差信号i、及びこれをA倍した信号j(図中のV)は、ゼロになる。但し、実際のVは、ゼロに保持されず、ゼロ近傍の値になる。例えば、複素補償回路30から出力される出力信号cの振幅(V×P)は、周囲温度の変化等に変動し得るが、この場合、その変動に相当する信号jが出力されることになる。
【0072】
加算部90は、第1信号処理部50から出力される出力信号fと第2信号処理部60から出力される出力信号jとを加算し、その加算結果を物理量測定装置1による測定信号kとして出力する。
【0073】
いま、複素補償回路30から出力される出力信号cに着目すると、この出力信号cは、一方の系統では、反転されて第1信号処理部50により整流、増幅され、他方の系統では、そのまま第2信号処理部60により整流、増幅された後、第1信号処理部50の出力信号と第2信号処理部60の出力信号とは結果的に加算されることになる。したがって、加算部90から出力される測定信号kには、出力信号cの影響はキャンセルされている。
【0074】
これにより、前述したように複素補償回路30から出力される出力信号cは、仮想ゼロ点におけるセンサ部20の検出信号bと完全に一致していなくてもよい。
【0075】
また、直流定電圧発生部64から出力される第1直流定電圧信号hは、仮想ゼロ点における測定信号kがゼロになるように作用する。
【0076】
以上から、物理量測定装置1のいずれの回路ポイントにおいても、第1増幅器54の第2ゲイン(A)を、従来の設定可能な最大ゲインよりも大きくしても、ダイナミックレンジ(アナログ信号の変動可能範囲)を超えることを避けることができ、また、第1増幅器54の第2ゲイン(A)を大きくすることで、仮想ゼロ点付近の分解能を向上させることができる。
【0077】
図5は、物理量測定装置1の各部から出力される信号の概要を示す波形図である。
【0078】
尚、図5において、図5(A)~図5(K)は、それぞれ図1中の信号a~kを示し、実線は、測定対象物24が仮想ゼロ点の距離にある場合を示し、点線は、測定対象物24が仮想ゼロ点の距離よりも遠い距離に位置する場合に関して示している。
【0079】
まず、仮想ゼロ点の場合の各部の信号の波形について説明する。
【0080】
図5(A)は、交流信号源10から発生される励磁用の交流信号aを示す波形図である。
【0081】
図5(B)の実線は、測定対象物24が仮想ゼロ点の距離にある場合のセンサ部20の検出信号bを示す。この場合、センサ部20の検出信号bは、交流信号aと比較して振幅が小さくなり、かつ位相がずれている。
【0082】
図5(C)は、複素補償回路30から出力される出力信号cを示す波形図である。複素補償回路30の出力信号cは、交流信号aに対するゲイン及び位相が調整されることで、図5(B)の実線の検出信号bと一致している。
【0083】
図5(D)は、第1減算部40から出力される差信号dを示す波形図である。図5(D)の実線で示す差信号dは、仮想ゼロ点における検出信号bと出力信号cとの差信号であるため、ゼロになっている。
【0084】
図5(E)及び(F)は、それぞれ差信号dを整流した第1整流回路52の出力信号e、及びこれを増幅した第1増幅器54の出力信号fを示す波形図である。図5(E)及び(F)の実線で示すように、ゼロの差信号dを整流した第1整流回路52の出力信号e、及びこれを増幅した第1増幅器54の出力信号fは、それぞれゼロである。
【0085】
図5(G)は、図5(C)に示した信号cを整流した第2整流回路62の出力信号gを示す波形図である。
【0086】
図5(H)は、直流定電圧発生部64から発生される第1直流定電圧信号hを示す波形図である。この第1直流定電圧信号hは、図5(G)に示した第2整流回路62の出力信号gと一致している。
【0087】
図5(I)は、第2減算部66から出力される差信号iを示す波形図である。第2減算部66は、複素補償回路30の出力信号(振幅Vを第1ゲイン(P)でP倍した信号)を整流した信号から、第1直流定電圧信号hを減算するため、その差信号iはゼロである。
【0088】
図5(J)は、図5(I)に示した信号iを第2ゲイン(A)で増幅した第2増幅器68の出力信号jを示す波形図である。ゼロである差信号iを増幅した信号であるから出力信号jはゼロである。
【0089】
図5(K)は、加算部90から出力される測定信号kを示す波形図である。仮想ゼロ点の場合、加算部90から出力される測定信号kは、図5(F)の実線で示す第1信号処理部50の出力信号fがゼロであり、かつ図5(J)に示す第2信号処理部60の出力信号jもゼロであるため、これらの加算結果を示す測定信号kもゼロである。
【0090】
即ち、測定対象物24が仮想ゼロ点の距離にある場合、測定信号kの信号レベルはゼロになる。
【0091】
次に、測定対象物24が仮想ゼロ点の距離よりも遠い距離に位置する場合について説明する。
【0092】
センサ部20が、図2に示した渦電流センサ20-1の場合、渦電流センサ20-1から出力される検出信号bは、測定対象物24との距離xに応じて振幅が変化し、かつ位相ずれが発生する。測定対象物24が仮想ゼロ点の距離よりも遠い距離に位置する場合、図5(B)の点線で示す検出信号bの振幅は、実線で示す仮想ゼロ点の距離の場合の振幅よりも大きくなり、かつ位相が進む。
【0093】
この検出信号bの変動に応じて第1減算部40から出力される差信号dが変動し、差信号dは、図5(D)の点線で示すようになる。
【0094】
図5(D)の点線で示した差信号dが整流された信号e、及び第2ゲイン(A)で増幅された信号fは、それぞれ図5(E)及び(F)の点線で示すようになる。
【0095】
図5(K)の点線で示す測定信号kは、図5(F)の点線で示す第1信号処理部50の出力信号fと図5(J)に示す第2信号処理部60の出力信号jとを加算した信号であるが、信号jはゼロであるため、測定信号kは、図5(F)の点線で示す第1整流回路52の出力信号fと同等の信号になる。
【0096】
即ち、測定信号kは、測定対象物24が仮想ゼロ点の距離から異なる距離に変動すると、その変動分に相当する検出信号bの変化量が、第1整流回路52により整流され、第1増幅器54によりA倍された測定信号kとして出力される。特に第1増幅器54には、検出信号bの仮想ゼロ点からの変動分を整流した信号eが入力するため、第1増幅器54での第2ゲイン(A)を大きくすることができ、これにより仮想ゼロ点付近の距離を測定する場合の測定信号kの分解能を向上させることができる。
【0097】
<交流信号源及び直流定電圧発生部の実施形態>
図6は、図1に示した交流信号源10及び直流定電圧発生部64の好ましい実施形態を示す構成図である。
【0098】
図6に示す交流信号源10は、発振器11、可変増幅器12、第3整流回路14、直流定電圧源15、減算部16、及びオペアンプ17から構成され、直流定電圧発生部64は、直流定電圧源15及び増幅器18から構成されている。
【0099】
発振器11は、交流信号の周波数を有する基準信号を発振し、オペアンプで構成される可変増幅器12の負入力に出力する。可変増幅器12は、基準信号を増幅して交流信号として出力するが、その負帰還回路にアナログフォトカプラ12Aが設けられている。アナログフォトカプラ12Aに流れる電流の大きさに応じて負帰還回路の抵抗が変化するため、可変増幅器12は、アナログフォトカプラ12Aに流れる電流の大きさに応じて、基準信号を増幅するゲインが変化し、可変増幅器として機能する。
【0100】
具体的には、アナログフォトカプラ12Aに流れる電流が大きくなると、負帰還回路の抵抗が小さくなり、可変増幅器12のゲインも小さくなり、逆にアナログフォトカプラ12Aに流れる電流が小さくなると、負帰還回路の抵抗が大きくなり、可変増幅器12のゲインも大きくなる。
【0101】
第3整流回路14には、可変増幅器12から出力される交流信号が加えられており、第3整流回路14は、入力する交流信号を整流し、整流した直流電圧信号を減算部16の負入力に出力する。本例の第3整流回路14は、入力する交流信号の振幅を示す直流電圧信号を出力するものとする。
【0102】
減算部16の正入力には、直流定電圧源15から電圧Vの直流定電圧信号(第2直流定電圧信号)が加えられている。電圧Vの第2直流定電圧信号は、可変増幅器12を介して発生させる交流信号の所望の振幅V(第1振幅)に対応して設定された、基準の電圧信号である。
【0103】
減算部16は、第2直流定電圧信号から第3整流回路14の出力信号(直流電圧信号)を減算する。減算された差電圧信号は、オペアンプ17の入力抵抗を介して負入力に加えられる。オペアンプ17は、入力する差電圧信号を反転増幅してアナログフォトカプラ12Aに出力する。尚、オペアンプ17の負帰還にはコンデンサが配置されており、オペアンプ17は積分回路(積分値×-1)として振る舞うため、V4に負の電圧が入力された場合には、オペアンプ17の出力は増大を続け、V4に正の電圧が入力された場合には、オペアンプ17の出力は減少を続ける。
【0104】
アナログフォトカプラ12Aに流れる電流は、オペアンプ17の出力電圧が低くなると小さくなり、可変増幅器12のゲインは大きくなり、オペアンプ17の出力電圧が高くなると大きくなり、可変増幅器12のゲインは小さくなる。
【0105】
したがって、減算部16及びオペアンプ17は、可変増幅器12のゲインを調整するゲイン調整部として機能し、第3整流回路14、減算部16及びオペアンプ17により構成される回路は、減算部16からの出力(V)が常にゼロとなるように可変増幅器12のゲインを調整するフィードバック回路として機能する。その結果、可変増幅器12から出力される交流信号の振幅は、直流定電圧源15の第2直流定電圧信号の電圧Vに維持される。
【0106】
図6に示す交流信号源10によれば、周囲温度等により発振器11から出力される基準信号の振幅が変動しても、振幅Vの交流信号を安定して出力することができる。
【0107】
また、直流定電圧発生部64を構成する増幅器18の増幅率Bは、複素補償回路30が理想的な信号出力をしたと仮定した場合の出力信号と同じ(もしくはほぼ同じ)信号を増幅器18が出力するように決める。具体的には、下記の様な値となるように増幅率Bを決める。
【0108】
B=P×A×cosθ
図6に示す交流信号源10及び直流定電圧発生部64は、それぞれ直流定電圧源15から出力される同じ電圧Vの第2直流定電圧信号を基準にして振幅Vの交流信号、及び第1直流定電圧信号(V×P×cosθ)を出力するため、これらの信号を使用して生成される測定信号は、より測定精度が高いものになる。
【0109】
<センサ部の他の例>
図7は、図1に示したセンサ部20の他の例を示す模式図である。
【0110】
図7に示すセンサ部は、差動トランス式の変位センサ20-2である。
【0111】
この差動トランス式の変位センサ20-2は、交流信号源10から発生される交流信号が印加される一次コイル25と、逆極で直列に接続された2つの二次コイル26A、26Bと、測定対象物に接触して移動する測定子27に連結された磁気コア28とを有し、測定子27の変位に対応する検出信号を出力する。
【0112】
差動トランス式の変位センサ20-2は、一次コイル25が交流信号により励磁されると、2つの二次コイル26A、26Bから、磁気コア28(測定子27)の位置に比例する差動出力信号が誘起され、検出信号として出力する。
【0113】
図7に示すように磁気コア28が2つの二次コイル26A、26Bの中心にある状態では、一次コイル25に対する2つの二次コイル26A、26Bの相互インダクタンスが等しく、2つの二次コイル26A、26Bの出力電圧も等しく、また位相は互いに180°異なるため、検出信号はゼロになる。
【0114】
したがって、差動トランス式の変位センサ20-2は、一般に検出信号がゼロになる点(即ち、測定子27が測定対象物に接触しない状態)がゼロ点として設定される。
【0115】
しかしながら、図1に示した物理量測定装置1のセンサ部として、差動トランス式の変位センサ20-2を使用すると、磁気コア28が2つの二次コイル26A、26Bの中心以外にある状態を、仮想ゼロ点として設定することができ、かつ仮想ゼロ点付近の分解能を向上させることができる。
【0116】
[その他]
本実施形態の物理量測定装置1の各部から出力される信号は、アナログ信号であるが、これに限らず、アナログ信号をA/Dコンバータによりデジタル信号に変換し、物理量測定装置の一部の処理をデジタル処理するようにしてもよい。例えば、第1信号処理部50及び第2信号処理部60の後段にそれぞれA/Dコンバータを配置し、これらのA/Dコンバータで2系統を同タイミングでサンプリングし、ソフトウェア又はハードウェアにより以降の信号処理をデジタル処理することができる。
【0117】
また、センサ部20は、渦電流センサ20-1、及び差動トランス式の変位センサ20-2に限らず、複素応答するセンサであれば、如何なるセンサでもよい。
【0118】
更に、本発明は上述した実施形態に限定されず、本発明の精神を逸脱しない範囲で種々の変形が可能であることは言うまでもない。
【符号の説明】
【0119】
1 物理量測定装置
10 交流信号源
11 発振器
12 可変増幅器
12A アナログフォトカプラ
14 第3整流回路
15 直流定電圧源
16 減算部
17、35 オペアンプ
18 増幅器
20 センサ部
20-1 渦電流センサ
20-2 変位センサ
22 検出コイル
22A インピーダンス
22B 抵抗
22C、22D 付加インピーダンス
24 測定対象物
25 一次コイル
26A 二次コイル
26B 二次コイル
27 測定子
28 磁気コア
30 複素補償回路
31~34 インピーダンス素子
40 第1減算部
50 第1信号処理部
52 第1整流回路
54 第1増幅器
60 第2信号処理部
62 第2整流回路
64 直流定電圧発生部
66 第2減算部
68 第2増幅器
90 加算部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7