(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-17
(45)【発行日】2023-10-25
(54)【発明の名称】計測装置およびシステム
(51)【国際特許分類】
A61B 5/05 20210101AFI20231018BHJP
A61B 5/246 20210101ALI20231018BHJP
A61B 5/377 20210101ALI20231018BHJP
【FI】
A61B5/05
A61B5/246
A61B5/377
(21)【出願番号】P 2018051791
(22)【出願日】2018-03-19
【審査請求日】2020-11-16
【審判番号】
【審判請求日】2022-09-14
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成25年度 国立研究開発法人科学技術振興機構 センター・オブ・イノベーションプログラム『人間力活性化によるスーパー日本人の育成拠点』委託研究開発、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】000006747
【氏名又は名称】株式会社リコー
(73)【特許権者】
【識別番号】504160781
【氏名又は名称】国立大学法人金沢大学
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】池田 尊司
(72)【発明者】
【氏名】菊知 充
(72)【発明者】
【氏名】吉村 優子
(72)【発明者】
【氏名】森瀬 博史
(72)【発明者】
【氏名】工藤 究
(72)【発明者】
【氏名】三坂 好央
(72)【発明者】
【氏名】奥村 栄一
【合議体】
【審判長】加々美 一恵
【審判官】石井 哲
【審判官】伊藤 幸仙
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-64031(JP,A)
【文献】特開平11-56803(JP,A)
【文献】特開2018-4286(JP,A)
【文献】特開2017-148147(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/05- 5/0538
A61B 5/24- 5/398
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
刺激装置に対して、左右の聴覚野の位置と視覚野の位置との少なくとも3点の参照点が定義された脳形態データの参照点に応じ
て脳活動が誘発されるような複数の刺激を生成させる指示を行う刺激指示部と、
計測対象である被計測者の脳活動信号を計測するセンサから出力されるセンサ出力信号に基づいて前記複数の刺激による脳活動発現部位を推定する推定部と、
を備え、
前記参照点
の位置と前記推定部により推定された前記脳活動発現部位とを用いて
、前記脳形態データと前記脳活動信号に基づく脳の機能に関する脳機能情報との相対的な位置合わせ
をすることを特徴とする計測装置。
【請求項2】
前記刺激指示部は、前記複数の刺激に音刺激を含む、
ことを特徴とする請求項1に記載の計測装置。
【請求項3】
前記音刺激は、刺激の立ち上がり時間および立ち下り時間が100ミリ秒以下の可聴音である、
ことを特徴とする請求項2に記載の計測装置。
【請求項4】
前記推定部は、前記センサにおける一部のセンサを用いたダイポール法により、左右両半球における脳活動発現部位の推定を行う、
ことを特徴する請求項2または3に記載の計測装置。
【請求項5】
前記刺激指示部は、前記複数の刺激に自発運動刺激を含む、
ことを特徴とする請求項1に記載の計測装置。
【請求項6】
前記刺激指示部は、前記複数の刺激に電気刺激を含む、
ことを特徴とする請求項1に記載の計測装置。
【請求項7】
前記電気刺激は、刺激の立ち上がり時間および立ち下り時間が20ミリ秒以下の電気刺激である、
こと特徴とする請求項6に記載の計測装置。
【請求項8】
前記刺激指示部は、前記複数の刺激に光刺激を含む、
ことを特徴とする、請求項2ないし7の何れか一項に記載の計測装置。
【請求項9】
前記光刺激は、刺激の立ち上がり時間および立ち下り時間が100ミリ秒以下の可視光である、
こと特徴とする請求項8に記載の計測装置。
【請求項10】
前記刺激指示部は、前記複数の刺激として音刺激と光刺激とを含み、前記複数の刺激を生成させるための指示を同時に与える、
ことを特徴とする請求項1に記載の計測装置。
【請求項11】
前記推定部は、空間フィルタ法により脳活動発現部位の推定を行う、
ことを特徴する請求項10に記載の計測装置。
【請求項12】
複数の刺激を生成して出力する刺激装置と、
計測対象である被計測者の
脳活動信号を計測するセンサと、
請求項1ないし11の何れか一項に記載の計測装置と、
を備えることを特徴とするシステム。
【請求項13】
前記推定部により決定された少なくとも3点の脳活動発現部位を参照点とし、脳形態データと対応付ける、
ことを特徴とする請求項12に記載のシステム。
【請求項14】
前記脳形態データは、標準脳に基づく
ことを特徴とする請求項13に記載のシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、計測装置およびシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、脳磁計(Magnetoencephalograpy,MEG)、脳波(Electroencephalography,EEG)、近赤外分光法(near-infrared spectroscopy,NIRS)などの脳機能計測装置を用いた脳機能イメージング法においては、計測された信号が脳のどの部位から発せられた信号であるかを調べる脳機能マッピングが盛んに行われている。
【0003】
脳機能マッピングのためには、MRI(Magnetic Resonance Imaging)装置などで取得した脳形態データ(例えば、MRI画像)と、脳機能計測装置のセンサで取得した脳機能情報との相対的な位置合わせが必須である。
【0004】
特許文献1においては、脳活動信号の計測前に、計測対象である被計測者の頭部表面に数個の参照点を設置し、それらの位置情報から脳形態データと脳機能計測装置のセンサとの位置合わせを行う技術が開示されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来技術によれば、頭部表面の位置情報を用いて脳機能情報と脳形態データとを結びつけるため、参照点が計測中にずれてしまった場合などにおいて脳機能マッピングの精度が低下してしまうという問題があった。
【0006】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、脳機能マッピングの位置精度を向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明は、刺激装置に対して、左右の聴覚野の位置と視覚野の位置との少なくとも3点の参照点が定義された脳形態データの参照点に応じて脳活動が誘発されるような複数の刺激を生成させる指示を行う刺激指示部と、計測対象である被計測者の脳活動信号を計測するセンサから出力されるセンサ出力信号に基づいて前記複数の刺激による脳活動発現部位を推定する推定部と、を備え、前記参照点の位置と前記推定部により推定された前記脳活動発現部位とを用いて、前記脳形態データと前記脳活動信号に基づく脳の機能に関する脳機能情報との相対的な位置合わせをすることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、頭部表面の位置情報ではなく、被計測者の脳実質内の位置情報を用いて脳機能情報と脳形態データを結び付けるため、脳機能マッピングの位置精度を著しく向上させることができる、という効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、実施の形態にかかる生体機能計測解析システムのシステム構成の一例を示す図である。
【
図2】
図2は、生体機能計測解析装置のハードウェア構成の一例を示す図である。
【
図3】
図3は、生体機能計測解析装置の機能を説明する図である。
【
図4-1】
図4-1は、参照点決定処理の流れの一例を概略的に示すフローチャートである。
【
図4-2】
図4-2は、参照点決定処理の流れの一例を概略的に示すフローチャートである。
【
図4-3】
図4-3は、参照点決定処理の流れの一例を概略的に示すフローチャートである。
【
図4-4】
図4-4は、参照点決定処理の流れの一例を概略的に示すフローチャートである。
【
図4-5】
図4-5は、参照点決定処理の流れの一例を概略的に示すフローチャートである。
【
図5】
図5は、可聴音刺激の波形の一例を示す図である。
【
図6】
図6は、可視光刺激の波形の一例を示す図である。
【
図7】
図7は、電気刺激の波形の一例を示す図である。
【
図8】
図8は、光刺激および音刺激による脳活動発現部位の例を示す図である。
【
図9】
図9は、光刺激および自発運動刺激による脳活動発現部位の例を示す図である。
【
図10】
図10は、光刺激および電気刺激による脳活動発現部位の例を示す図である。
【
図11】
図11は、脳活動部位のダイポール推定手法の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に添付図面を参照して、計測装置およびシステムの実施の形態を詳細に説明する。
【0011】
図1は、実施の形態にかかる生体機能計測解析システム100のシステム構成の一例を示す図である。
【0012】
本実施の形態の生体機能計測解析システム100は、計測装置である生体機能計測解析装置200と、刺激装置300と、脳機能計測装置を構成する磁気センサ400と、生体画像計測装置500と、を有する。
【0013】
生体機能計測解析システム100では、刺激装置300により、被計測者Pに対して刺激を与え、脳の神経活動を誘発させ、磁気センサ400によって、神経活動から発生される磁場を検出する。磁気センサ400は、検出結果を生体機能計測解析装置200へ出力する。磁気センサ400から生体機能計測解析装置200に対して出力される信号を、センサ出力信号と呼ぶ。
【0014】
生体画像計測装置500は、計測対象である被計測者のMRI(Magnetic Resonance Imaging)画像を撮像するMRI装置である。
【0015】
生体機能計測解析装置200は、磁気センサ400からセンサ出力信号を取得し、取得した信号を解析した結果を、脳の機能(生体機能)に関する情報(脳機能情報)として出力する。
【0016】
以下に、生体機能計測解析装置200について、さらに説明する。
図2は、生体機能計測解析装置200のハードウェア構成の一例を示す図である。
【0017】
生体機能計測解析装置200は、それぞれバスBで相互に接続されている入力装置21、出力装置22、ドライブ装置23、補助記憶装置24、メモリ装置25、演算処理装置26及びインターフェース装置27を含む情報処理装置である。
【0018】
入力装置21は、各種の情報の入力を行うための装置であり、例えばキーボードやポインティングデバイス等により実現される。出力装置22は、各種の情報の出力を行うためものであり、例えばディスプレイ等により実現される。インターフェース装置27は、LANカード等を含み、ネットワークに接続する為に用いられる。
【0019】
生体機能計測解析プログラムは、生体機能計測解析装置200を制御する各種プログラムの少なくとも一部である。生体機能計測解析プログラムは例えば記憶媒体28の配布やネットワークからのダウンロード等によって提供される。生体機能計測解析プログラムを記録した記憶媒体28は、CD-ROM、フレキシブルディスク、光磁気ディスク等の様に情報を光学的、電気的或いは磁気的に記録する記憶媒体、ROM、フラッシュメモリ等の様に情報を電気的に記録する半導体メモリ等、様々なタイプの記憶媒体を用いることができる。
【0020】
また、生体機能計測解析プログラムは、生体機能計測解析プログラムを記録した記憶媒体28がドライブ装置23にセットされると、記憶媒体28からドライブ装置23を介して補助記憶装置24にインストールされる。ネットワークからダウンロードされた生体機能計測解析プログラムは、インターフェース装置27を介して補助記憶装置24にインストールされる。
【0021】
補助記憶装置24は、インストールされた生体機能計測解析プログラムを格納すると共に、必要なファイル、データ等を格納する。メモリ装置25は、生体機能計測解析装置200の起動時に補助記憶装置24から生体機能計測解析プログラムを読み出して格納する。そして、演算処理装置26はメモリ装置25に格納された生体機能計測解析プログラムに従って、後述するような各種処理を実現している。
【0022】
尚、刺激装置300は、生体機能計測解析装置200によって制御される。具体的には、刺激装置300は、生体機能計測解析装置200の制御に応じて、被計測者Pに与える刺激を生成して出力する。また、刺激装置300は、生体機能計測解析装置200の制御に応じて、被計測者Pから発せられる磁場等の信号をモニタする。
【0023】
刺激装置300は、例えば、ベルトに設けられた電極等であっても良い。この場合には、刺激装置300は、例えば、被計測者Pの腕等に装着され、電気信号あるいは機械的信号が電気刺激や自発運動刺激として被計測者Pに与えられることになる。
【0024】
また、刺激装置300は、例えば、表示装置や音声出力装置等であっても良い。この場合には、刺激装置300は、例えば、刺激装置300に表示された映像等を視覚刺激(光刺激)として被計測者Pに与え、刺激装置300から出力される音声等を聴覚刺激(音刺激)として被計測者Pに与えることになる。
【0025】
また、生体機能計測解析システム100では、被計測者Pの脳の神経活動から発せられる信号を磁気センサ400により検出するものとしたが、これに限定されない。生体機能計測解析システム100では、脳の神経活動から発せられる信号を検出するためのセンサを有していれば良く、且つ、被計測者Pの生体機能を正確に計測するため、低侵襲であるか、さらに好ましくは非侵襲であると良い。このようなセンサの例として磁気センサ以外に、脳波計測センサ(電位センサ)、光トポグラフィ(近赤外光センサ)などがある。
【0026】
また、本実施の形態の磁気センサ400は、これらセンサを複数種類含んでいても構わない。ただし、その場合、1つのセンサの動作が他のセンサによる計測に影響を与えないことが必要である。とくに、センサの1つとして磁気センサを用いる場合、生体と磁気センサが非接触であっても生体から発せられる信号を取得できるという特徴があるため、センサの装着状態が計測結果に影響を与えない。したがって、磁気センサ400は、本発明の実施例として好適である。
【0027】
次に、
図3を参照して、本実施の形態の生体機能計測解析装置200の機能について説明する。
図3は、生体機能計測解析装置200の機能を説明する図である。
【0028】
生体機能計測解析装置200は、参照点決定部210と、計測解析処理部220と、を有する。
【0029】
参照点決定部210と、計測解析処理部220とは、演算処理装置26が、補助記憶装置24やメモリ装置25等に格納された生体機能計測解析プログラムを読み出して実行することで実現される。
【0030】
計測解析処理部220は、刺激装置300に刺激を生成させ、この刺激と対応して磁気センサ400により検出されるセンサ出力信号の解析を行い、計測結果として出力する。センサ出力信号の解析には、信号波形の加算平均、加算平均波形を含む信号波形の解析、周波数フィルタを適用した信号波形の解析、信号源となる電流ダイポールの向きを含む脳磁場の解析、複数の信号源の間の関係性に関する解析が含まれ、これらの解析により抽出された脳活動信号に基づいて脳機能を計測する。計測目的とする脳機能とは、例えば、聴覚、視覚、体性感覚、嗅覚、味覚等の感覚機能、言語機能、注意機能などである。
【0031】
計測解析処理部220は、入力受付部221、刺激指示部223、センサ出力取得部224、解析部225、結果出力部226を有する。
【0032】
入力受付部221は、生体機能計測解析装置200に対する各種の情報の入力を受け付ける。具体的には、入力受付部221は、例えば、生体機能計測解析システム100において計測される脳の機能(生体機能)の解析を開始する操作を受け付ける。
【0033】
刺激指示部223は、入力受付部221において、脳の機能の解析を開始する操作が受け付けられると、刺激装置300に対して刺激を生成させるための指示を行う。
【0034】
センサ出力取得部224は、磁気センサ400から出力されるセンサ出力信号を取得する。具体的に、センサ出力取得部224は、磁気センサ400の出力端子等と接続されており、出力端子等から接続されるセンサ出力信号を取得する。
【0035】
解析部225は、センサ出力信号の解析を行う。
【0036】
結果出力部226は、解析部225による解析結果を、脳の機能の計測結果として出力する。
【0037】
生体機能計測解析装置200においては、生体画像計測装置500で取得した脳形態データ(MRI画像)と、脳機能計測装置を構成する磁気センサ400で取得した脳機能情報との相対的な位置合わせが必須である。
【0038】
そこで、参照点決定部210は、磁気センサ400による脳機能情報の計測に先立って、あるいは計測の後に、刺激装置300を制御して、刺激を被計測者Pに与え、脳実質内に設定された少なくとも3つの参照点(Fiducial Point:FP)における脳活動を誘発する。誘発された脳活動に基づく脳活動信号から、参照点を特定する。一方、生体画像計測装置500は、MRI画像上で計測者Pが参照点(Fiducial Point:FP)の座標を指定する。つまり、FPの位置をそれぞれの座標系で得ることができる。したがって、本発明によれば、脳実質内に設定された参照点を用いて位置合わせを行うため、脳機能情報の計測における位置精度を高めることができる。
【0039】
参照点決定部210は、入力受付部211、刺激指示部213、センサ出力取得部214、推定部216を有する。
【0040】
入力受付部211は、例えば、生体機能計測解析システム100において計測される脳の参照点の位置を決める処理を開始する操作を受け付ける。
【0041】
刺激指示部213は、入力受付部211において脳の参照点の位置を決める処理を開始する操作が受け付けられると、刺激装置300に対して刺激を生成させるための指示を行う。
【0042】
センサ出力取得部214は、磁気センサ400から出力されるセンサ出力信号を取得する。具体的に、センサ出力取得部214は、磁気センサ400の出力端子等と接続されており、出力端子等から接続されるセンサ出力信号を取得する。
【0043】
推定部216は、センサ出力取得部214で取得したセンサ出力信号に基づいて参照点となる脳実質内の部位を推定して出力する。なお、刺激指示部213は、同一の刺激を複数回提示するようにしてもよい。その場合、推定部216は、それらのデータの加算平均を取ることで刺激と無関係なセンサ信号(ノイズと称す)を低減し、刺激に反応した脳活動信号のみを取り出すことができる。
【0044】
次に、参照点を決定する参照点決定処理について例を挙げて説明する。
【0045】
ここで、
図4は、参照点決定処理の流れの一例を概略的に示すフローチャートである。
【0046】
図4に示すように、刺激指示部213は、まず、聴覚刺激(音刺激)を行う(ステップS1)。次いで、センサ出力取得部214は、磁気センサ400から出力されるセンサ出力信号を取得する(ステップS2)。そして、推定部216は、センサ出力取得部214で取得したセンサ出力信号に基づき、被計測者の左右の聴覚野の位置を推定する(ステップS3)。
【0047】
ここで、聴覚刺激(音刺激)は、サイン波、パルス波、ホワイトノイズなどの波形を持ち、背景雑音と明確に分離でき、不快感を与えない音量を最大音量とする可聴周波数帯域に収まるものとする。
【0048】
図5は、可聴音刺激の波形の一例を示す図である。
図5(a)および
図5(b)に示す波形によれば、音刺激は、刺激の立ち上がり時間および立ち下り時間が100ミリ秒以下の可聴音である。
【0049】
次に、刺激指示部213は、視覚刺激(光刺激)を行う(ステップS4)。次いで、センサ出力取得部214は、磁気センサ400から出力されるセンサ出力信号を取得する(ステップS5)。そして、推定部216は、センサ出力取得部214で取得したセンサ出力信号に基づき、被計測者の視覚野の位置を推定する(ステップS6)。
【0050】
ここで、視覚刺激(光刺激)は、可視光の範囲であれば色は問わず、視角1度以上の視野を覆うフラッシュ刺激として与える。また、視覚刺激(光刺激)は、図形パターンを反転させるものを連続して与えることもできる。
【0051】
図6は、可視光刺激の波形の一例を示す図である。
図6に示す波形によれば、光刺激は、刺激の立ち上がり時間および立ち下り時間が100ミリ秒以下の可視光である。
【0052】
なお、本実施の形態における参照点決定処理としては、各種の変形例が考えられる。
図4-2に示すように、ステップS2により取得されたデータを記憶装置に保存し、被計測者の左右の聴覚野の位置の推定(ステップS3)を被計測者の視覚野の位置の推定(ステップS6)と並行して実行してもよい。また、
図4-3に示すように、聴覚刺激による位置推定(ステップS1~S3)と視覚刺激による位置推定(ステップS4~S5)との実行順序を入れ替えてもよい。また、
図4-4および
図4-5に示すように、刺激指示部213は、聴覚刺激(音刺激)と視覚刺激(光刺激)とを同時に与えるようにしてもよい。これにより、処理の簡素化を図ることができる。
図4-4では、被計測者の左右の聴覚野の位置の推定(ステップS3)と被計測者の視覚野の位置の推定(ステップS6)とを並行して実行している。一方、
図4-5では、ステップS3において、被計測者の左右の聴覚野の位置の推定に加えて、被計測者の視覚野の位置の推定も行っている。
【0053】
なお、本実施の形態においては、刺激指示部213は、聴覚刺激(音刺激)と視覚刺激(光刺激)とを行うようにしたが、これに限るものではなく、電気刺激等を与えるものであってもよい。電気刺激は、神経を直接刺激するものであり、体性感覚野での脳活動を誘発する。電気刺激は、サイン波、パルス波、ホワイトノイズなどの波形を持ち、電流は100mAまでとする。
【0054】
図7は、電気刺激の波形の一例を示す図である。
図7に示す波形によれば、電気刺激は、刺激の立ち上がり時間および立ち下り時間が20ミリ秒以下の電気刺激である。
【0055】
また、聴覚刺激(音刺激)と視覚刺激(光刺激)、電気刺激以外に、自発運動刺激を用いることができる。この場合、刺激指示部213は、被験者に被験者自身の手を握る等の運動を行うように指示する内容の音声あるいは映像を提示する。被験者自身の運動が被験者の脳内の運動野での脳活動を誘発するため、運動野を推定することができる。
【0056】
同一刺激を複数回提示して加算平均をとる場合、ノイズに対して刺激に反応した脳活動信号が大きくなるような刺激を用いると、加算回数を減らし、短い時間に精度の高い位置合わせを行うことができるため望ましい。このような刺激として、例えば、被計測者の自発運動を刺激とし、運動野での脳活動信号を用いることができる。
【0057】
また、刺激指示部213は、刺激提示から脳活動信号発生までの時間(潜時)が短い刺激を用いると、一定時間内に実行可能な計測数を増やし、単位時間あたりの加算回数を増やすことができ、精度の高い位置合わせを行うことができる。このような刺激として、例えば、電気刺激を刺激とし、体性感覚野での脳活動信号を用いることができる。
【0058】
刺激指示部213による複数の刺激は、その刺激による脳活動発現部位が相互に離れた領域に位置するのが望ましい。それら脳活動発現部位を参照点としたときの位置合わせの精度が向上するためである。
【0059】
特に、少なくとも1つの刺激は、その刺激による脳活動発現部位が脳の左半球に現れ、これと同じもしくは別の少なくとも1つの刺激は、その刺激による脳活動発現部位が脳の右半球に現れると、脳の左右両半球にまたがる領域を用いて位置合わせを行うことができる。
【0060】
本実施の形態の刺激指示部213においては、両耳に聴覚刺激(音刺激)を与えれば、左右の聴覚野での脳活動信号を推定に用いることができるため好ましい。
【0061】
また、本実施の形態のように刺激の1つが視覚刺激(光刺激)である場合、脳の後端に位置する視覚野が脳活動発現部位となり、音刺激(聴覚野)、自発運動刺激(運動野)、電気刺激(体性感覚野)などの他の刺激と組み合わせると参照点が相互に離れた位置になるため刺激の1つを視覚刺激(光刺激)とすることは好ましい。
【0062】
図8は、光刺激および音刺激による脳活動発現部位の例を示す図である。
図8の例では、推定部216は、音刺激による脳活動発現部位である2点(
図8中のX)と、光刺激による脳活動発現部位である1点(
図8中のY)とを推定し、参照点とする。
【0063】
図9は、光刺激および自発運動刺激による脳活動発現部位の例を示す図である。
図9の例では、推定部216は、自発運動刺激による脳活動発現部位である2点(
図9中のX)と、光刺激による脳活動発現部位である1点(
図9中のY)とを推定し、参照点とする。
【0064】
図10は、光刺激および電気刺激による脳活動発現部位の例を示す図である。
図10の例では、推定部216は、電気刺激による脳活動発現部位である2点(
図10中のX)と、光刺激による脳活動発現部位である1点(
図10中のY)とを推定し、参照点とする。
【0065】
また、本実施の形態のように、聴覚刺激(音刺激)と視覚刺激(光刺激)とを組み合わせることで、脳の左・右・後の膨大部を捉えることができるため、位置合わせ精度を高めることができる。
【0066】
なお、自発運動刺激と視覚刺激(光刺激)とを組み合わせた場合には、聴覚刺激(音刺激)より少ない加算回数で位置合わせを行うことができる。
【0067】
また、電気刺激と視覚刺激(光刺激)とを組み合わせた場合には、聴覚刺激(音刺激)より短い施行時間で位置合わせを行うことができる。
【0068】
以上により、本実施の形態の参照点決定部210は、左右の聴覚野の位置と、視覚野の位置とを参照点とし、これら3点を脳形態データ(MRI画像)と対応付ける。
【0069】
ここで、計測解析処理部220の解析部225における脳活動部位の推定手法について簡単に説明する。脳活動部位の推定手法としては、例えばダイポール推定法や空間フィルタ法が挙げられる。本実施の形態の計測解析処理部220の解析部225は、磁気センサ400における一部のセンサを用いてダイポール推定法により、脳活動部位の推定を行う。
【0070】
ここで、
図11は脳活動部位のダイポール推定手法の一例を示す図である。
図11に示すように、この例では、被計測者に可聴音を与え、聴覚野(ヘッシェル回)における脳活動を誘発する場合において、磁気センサ400における一部のセンサを用いてダイポール推定法により、脳活動部位の推定を行う。
【0071】
可聴音の刺激では、被計測者の左右の脳半球の両側のヘッシェル回で脳活動が誘発されることが知られている。この場合、
図11(a)に示すように、まず、磁気センサ400における左半球側に位置する一部のセンサを用いて単一ダイポール推定を行う。その後、続けて、
図11(b)に示すように、磁気センサ400における右半球側に位置する一部のセンサを用いて、単一ダイポール推定を行う。これにより、両側のヘッシェル回での脳活動に対応する2個のダイポール位置を推定することができる。
【0072】
このような手続きをとることで、例えば、2個のダイポール位置を、左右脳半球のセンサをすべて用いて同時に推定する場合(
図11(c)参照)より精度高い位置推定が可能となる。この例では、95%以上のGOFを得ることができる。このように、左右の脳半球のそれぞれに脳活動発現部位が存在するような刺激を与えた場合、磁気センサ400における一部のセンサを用いたダイポール推定法により、脳活動部位の推定を行うことで、精度良く脳活動発現部位の位置を特定することができる。
【0073】
また、空間フィルタ法を用いて複数の脳部位の活動が同時に誘発された場合の信号源推定を行うこともできる。例えば、聴覚刺激(音刺激)と視覚刺激(光刺激)を与えた場合、左右の聴覚野と視覚野の3部位での脳活動が誘発される。このような場合、空間フィルタ法を用いることで精度良くそれぞれの脳活動部位を推定することが可能である。この場合の参照点決定処理の流れは、
図4-5に示したフローチャートのようになる。
【0074】
このように本実施の形態によれば、生体画像計測装置500で取得する脳形態データ(例えば、MRI画像)における少なくとも3点を特定できる刺激を被計測者に与え、得られた3つ以上の信号源の座標を脳形態データに適合させることで、脳機能計測装置を構成する磁気センサ400で脳機能情報を計測中の脳の位置を決定する。これにより、頭部表面の位置情報ではなく、被計測者の脳実質内の位置情報を用いて脳機能情報と脳形態データを結び付けるため、脳機能マッピングの位置精度を著しく向上させることができる。
【0075】
本発明における脳形態データは被験者本人のMRI画像でなくても良い。たとえば、他人の脳形態データ、あるいは、標準脳の脳形態データに設定された参照点が、参照点決定部210により決定された参照点と合致するように標準脳の脳形態データをアフィン変換したものを用いてもよい。
【符号の説明】
【0076】
100 システム
200 脳機能計測装置
300 刺激装置
213 刺激指示部
216 推定部
400 センサ
【先行技術文献】
【特許文献】
【0077】