(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-17
(45)【発行日】2023-10-25
(54)【発明の名称】硬化性組成物ならびに硬化物およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
C08G 75/08 20060101AFI20231018BHJP
C08L 63/00 20060101ALI20231018BHJP
C07D 331/02 20060101ALN20231018BHJP
【FI】
C08G75/08
C08L63/00
C07D331/02
(21)【出願番号】P 2020001480
(22)【出願日】2020-01-08
【審査請求日】2022-07-14
(73)【特許権者】
【識別番号】519135633
【氏名又は名称】公立大学法人大阪
(73)【特許権者】
【識別番号】591147694
【氏名又は名称】大阪ガスケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100142594
【氏名又は名称】阪中 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100090686
【氏名又は名称】鍬田 充生
(72)【発明者】
【氏名】岡村 晴之
(72)【発明者】
【氏名】三ノ上 渓子
(72)【発明者】
【氏名】宮内 信輔
【審査官】宮内 弘剛
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-210358(JP,A)
【文献】国際公開第2014/208656(WO,A1)
【文献】特開2016-029162(JP,A)
【文献】特開2019-113590(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G
C08K
C08L
C07D 331/02
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表されるエピスルフィド化合物を含む硬化性成分および光塩基発生剤を含む硬化性組成物
であって、
前記硬化性成分が、他の硬化性成分をさらに含んでいてもよく、
前記他の硬化性成分が、下記式(1a)で表される化合物、下記式(1b)で表される化合物および汎用のエポキシ樹脂であり、
前記式(1a)で表される化合物および前記式(1b)で表される化合物の総量の割合が、エピスルフィド化合物全体の50モル%以下であり、
前記汎用のエポキシ樹脂の割合が、エピスルフィド化合物全体の30モル%以下であり、
前記光塩基発生剤が、光エネルギーの付与により第1級アミンを発生する化合物であり、かつ
前記光塩基発生剤の割合が、前記硬化性成分100質量部に対して1~50質量部である硬化性組成物。
【化1】
(式中、
環Z
1および環Z
2は、互いに同一でまたは異なって、アレーン環を示し、
R
1およびR
2は、互いに同一でまたは異なって、置換基を示し、m1およびm2は、互いに同一でまたは異なって、0以上の整数を示し、
A
1およびA
2は、互いに同一でまたは異なって、直鎖状または分岐鎖状アルキレン基を示し、n1およびn2は、互いに同一でまたは異なって、0以上の整数を示し、
R
3は、置換基を示し、kは、0~8の整数を示す)
【化2】
(式中、pは1以上の整数を示し、環Z
1
および環Z
2
、R
1
およびR
2
、m1およびm2、A
1
およびA
2
、n1およびn2、R
3
、kは前記式(1)に同じ)。
【請求項2】
前記式(1)において、環Z
1および環Z
2が縮合多環式アレーン環である請求項1記載の硬化性組成物。
【請求項3】
前記光塩基発生剤が、下記式(2)で表される化合物である請求項1
または2記載の硬化性組成物。
【化3】
(式中、
R
4およびR
5は、互いに同一でまたは異なって、炭化水素基を示し、
sは1~6の整数を示し、
Xは炭化水素基または2~6価の連結基を示す)
【請求項4】
前記式(2)において、sが2~4の整数である請求項
3記載の硬化性組成物。
【請求項5】
前記光塩基性発生剤の割合が、前記硬化性成分100質量部に対して3~30質量部である請求項1~
4のいずれか一項に記載の硬化性組成物。
【請求項6】
請求項1~
5のいずれか一項に記載の硬化性組成物を硬化させた硬化物。
【請求項7】
請求項1~
5のいずれか一項に記載の硬化性組成物に光エネルギーを付与した後、加熱して硬化させる硬化物の製造方法。
【請求項8】
前記光エネルギーが波長280nm以上の浅紫外線である請求項
7記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フルオレン骨格を有するエピスルフィド化合物および光塩基発生剤を含む硬化性組成物ならびに硬化物およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
エポキシ樹脂は、種々の硬化剤で硬化させることにより、機械的性質、耐水性、耐薬品性、耐熱性、電気的性質などに優れた硬化物を形成する。そのため、エポキシ樹脂は、接着剤、塗料、積層板、成形材料、注型材料などの幅広い分野に利用されている。従来、工業的に最も使用されているエポキシ樹脂として、ビスフェノールA型エポキシ樹脂などが知られているが、このようなエポキシ樹脂には、用途によっては、耐熱性が不十分な場合もあった。さらに、エポキシ樹脂は光学材料などにも利用されるが、近年の光学材料では、高度な光学特性が要求されるため、高屈折率なども要求される。そこで、このような要求を充足させるために、樹脂原料に9,9-ビスフェニルフルオレン骨格を導入するとともに、エポキシ化合物の代わりにエピスルフィド化合物を用いる試みも行われている。
【0003】
特開2013-124338号公報(特許文献1)には、9,9-ビス(縮合多環式アリール)フルオレン骨格を有するエピスルフィド化合物およびその硬化物が開示されている。この文献には、前記エピスルフィド化合物をエポキシ樹脂と混合することで、硬化剤との反応性を向上でき、硬化剤として、アミン系硬化剤、ポリアミノアミド系硬化剤、酸無水物系硬化剤、フェノール系硬化剤を利用して熱硬化できることが記載されている。
【0004】
特開2016-29162号公報(特許文献2)には、9,9-ビスアリールフルオレン骨格を有するエピスルフィド化合物およびアミン系硬化剤を含む硬化性組成物が開示されている。この文献には、少量のアミン系硬化剤を用いて熱硬化することにより、強度の高い硬化物を形成できることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2013-124338号公報
【文献】特開2016-29162号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1および2の硬化物でも、近年の光学材料では、高度な高屈折率および耐熱性が要求される用途もあり、特許文献1および2のいずれの硬化物でも、このような用途では十分ではなかった。さらに、特許文献1および2の硬化物は熱硬化物であるため、用途によっては取り扱い性が低下し、例えば、容易にパターニングするのは困難である。
【0007】
従って、本発明の目的は、硬化物の屈折率および耐熱性が高い硬化性組成物ならびに硬化物およびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、前記課題を達成するため鋭意検討した結果、フルオレン骨格を有するエピスルフィド化合物と光塩基発生剤とを組み合わせることにより、硬化物の屈折率および耐熱性を向上できることを見出し、本発明を完成した。
【0009】
すなわち、本発明の硬化性組成物は、下記式(1)で表されるエピスルフィド化合物を含む硬化性成分および光塩基発生剤を含む。
【0010】
【0011】
(式中、
環Z1および環Z2は、互いに同一でまたは異なって、アレーン環を示し、
R1およびR2は、互いに同一でまたは異なって、置換基を示し、m1およびm2は、互いに同一でまたは異なって、0以上の整数を示し、
A1およびA2は、互いに同一でまたは異なって、直鎖状または分岐鎖状アルキレン基を示し、n1およびn2は、互いに同一でまたは異なって、0以上の整数を示し、
R3は、置換基を示し、kは、0~8の整数を示す)
【0012】
前記式(1)において、環Z1および環Z2は縮合多環式アレーン環であってもよい。前記光塩基発生剤は、光エネルギーの付与により第1級アミンを発生する化合物であってもよい。
【0013】
前記光塩基発生剤は、下記式(2)で表される化合物であってもよい。
【0014】
【0015】
(式中、
R4およびR5は、互いに同一でまたは異なって、炭化水素基を示し、
sは1~6の整数を示し、
Xは炭化水素基または2~6価の連結基を示す)。
【0016】
前記式(2)において、sは2~4の整数であってもよい。前記光塩基性発生剤の割合は、前記硬化性成分100質量部に対して3~30質量部であってもよい。
【0017】
本発明には、前記硬化性組成物を硬化させた硬化物も含まれる。また、本発明には、前記硬化性組成物に光エネルギーを付与した後、加熱して硬化させる硬化物の製造方法も含まれる。前記光エネルギーは、波長280nm以上の浅紫外線であってもよい。
【0018】
なお、本明細書および特許請求の範囲において、置換基の炭素原子の数をC1、C6、C10などで示すことがある。例えば、「C1アルキル基」は炭素数が1のアルキル基を意味し、「C6-10アリール基」は炭素数が6~10のアリール基を意味する。
【発明の効果】
【0019】
本発明では、硬化性組成物がフルオレン骨格を有するエピスルフィド化合物および光塩基発生剤を含むため、硬化物の屈折率および耐熱性を向上できる。さらに、光エネルギーの付与によって硬化を制御できるため、取り扱い性に優れており、例えば、容易にパターニングできる。特に、特定のエピスルフィド化合物と光塩基発生剤との組み合わせにより、波長280nm以下の深紫外線(UV-C)を用いることなく、浅紫外線(UV-A)を用いて穏和な条件でパターンを形成して硬化できるため、照射エネルギーを低減でき、かつ成膜時の劣化も抑制できる。さらに、UV-C照射では、真空系が必要となり、照射時にオゾンも発生するため、排気も必要となるが、UV-A照射では、空気中で簡便に光照射できる。さらに、UV-A照射では、UV-C照射とは異なり、近年、環境負荷を抑制する観点から、使用が規制されている水銀を用いることなく、LED(発光ダイオード)ランプなどを用いて簡便に照射できる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の好ましい実施形態について説明するが、本発明はこれらの実施形態には限定されない。
【0021】
[硬化性成分]
前記硬化性成分は、前記式(1)で表されるエピスルフィド化合物を含む。前記式(1)において、環Z1および環Z2で表される芳香族炭化水素環(またはアレーン環)としては、ベンゼン環などの単環式芳香族炭化水素環(単環式アレーン環)、多環式芳香族炭化水素環(多環式アレーン環)に大別される。多環式芳香族炭化水素環としては、縮合多環式芳香族炭化水素環(縮合多環式アレーン環)、環集合芳香族炭化水素環(環集合アレーン環)などが挙げられる。
【0022】
縮合多環式アレーン環としては、縮合二環式アレーン環、縮合三環式アレーン環などの縮合二ないし四環式アレーン環などが挙げられる。縮合二環式アレーン環としては、ナフタレン環などの縮合二環式C10-16アレーン環などが挙げられる。縮合三環式アレーン環としては、アントラセン環、フェナントレン環などが挙げられる。
【0023】
環集合アレーン環としては、ビC6-12アレーン環などのビアレーン環、テルC6-12アレーン環などのテルアレーン環などが挙げられる。ビC6-12アレーン環としては、ビフェニル環;ビナフチル環;1-フェニルナフタレン環、2-フェニルナフタレン環などのフェニルナフタレン環などが挙げられる。テルC6-12アレーン環としては、テルフェニレン環などが挙げられる。
【0024】
これらの芳香族炭化水素環のうち、ベンゼン環、ナフタレン環、ビフェニル環などのC6-12アレーン環が好ましく、屈折率および耐熱性を向上できる点から、縮合多環式アレーン環がさらに好ましく、ナフタレン環が最も好ましい。環Z1と環Z2とは、異なる環であってもよいが、通常、同一の環である。
【0025】
前記式(1)において、R1およびR2で表される置換基としては、チオエポキシ基に対する非反応性の置換基であれば特に限定されないが、ハロゲン原子、炭化水素基、アルコキシ基、シクロアルキルオキシ基、アリールオキシ基、アラルキルオキシ基、アルキルチオ基、シクロアルキルチオ基、アリールチオ基、アラルキルチオ基、アシル基、ニトロ基、シアノ基などが挙げられる。
【0026】
前記ハロゲン原子には、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子が含まれる。前記炭化水素基としては、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アラルキル基などが挙げられる。アルキル基としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、s-ブチル基、イソブチル基、t-ブチル基などの直鎖状または分岐鎖状C1-10アルキル基、好ましくは直鎖状または分岐鎖状C1-6アルキル基、さらに好ましくは直鎖状または分岐鎖状C1-4アルキル基などが挙げられる。シクロアルキル基としては、シクロペンチル基、シクロヘキシル基などのC5-10シクロアルキル基などが挙げられる。アリール基としては、フェニル基、アルキルフェニル基、ビフェニリル基、ナフチル基などのC6-12アリール基などが挙げられる。アルキルフェニル基としては、メチルフェニル基(トリル基)、ジメチルフェニル基(キシリル基)などが挙げられる。アラルキル基としては、ベンジル基、フェネチル基などのC6-10アリール-C1-4アルキル基などが挙げられる。
【0027】
前記アルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、n-ブトキシ基、イソブトキシ基、t-ブトキシ基などの直鎖状または分岐鎖状C1-10アルコキシ基などが挙げられる。前記シクロアルキルオキシ基としては、シクロヘキシルオキシ基などのC5-10シクロアルキルオキシ基などが挙げられる。前記アリールオキシ基としては、フェノキシ基などのC6-10アリールオキシ基などが挙げられる。前記アラルキルオキシ基としては、ベンジルオキシ基などのC6-10アリール-C1-4アルキルオキシ基などが挙げられる。前記アルキルチオ基としては、メチルチオ基、エチルチオ基、プロピルチオ基、n-ブチルチオ基、t-ブチルチオ基などのC1-10アルキルチオ基などが挙げられる。前記シクロアルキルチオ基としては、シクロヘキシルチオ基などのC5-10シクロアルキルチオ基などが挙げられる。前記アリールチオ基としては、チオフェノキシ基(フェニルチオ基)などのC6-10アリールチオ基などが挙げられる。前記アラルキルチオ基としては、ベンジルチオ基などのC6-10アリール-C1-4アルキルチオ基などが例示できる。前記アシル基としては、アセチル基などのC1-6アシル基などが挙げられる。
【0028】
これらの置換基のうち、代表的には、ハロゲン原子;アルキル基、シクロアルキル基、アラルキル基などの炭化水素基;アルコキシ基;アシル基;ニトロ基;シアノ基などが挙げられる。好ましいR1およびR2としては、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アルコキシ基などが挙げられ、アルキル基としては、メチル基などの直鎖状または分岐鎖状C1-6アルキル基などが挙げられ、シクロアルキル基としては、シクロヘキシル基などのC5-8シクロアルキル基などが挙げられ、アリール基としては、フェニル基などのC6-14アリール基などが挙げられ、アルコキシ基としては、メトキシ基などの直鎖状または分岐鎖状C1-4アルコキシ基などが挙げられる。特に、アルキル基として、メチル基などの直鎖状または分岐鎖状C1-4アルキル基が挙げられる。置換基R1と置換基R2とは、異なる置換基であってもよいが、通常、同一の置換基である。
【0029】
R1およびR2の置換数m1およびm2は、0以上の整数であればよく、環Z1および環Z2の種類に応じて適宜選択でき、それぞれ、例えば0~8の整数であってもよく、好ましい置換数m1およびm2は、以下段階的に、0~4の整数、0~3の整数、0~2の整数、0または1であり、0が最も好ましい。置換数m1とm2とは、異なる置換数であってもよいが、通常、同一の置換数である。また、置換数m1およびm2が2以上である場合、2以上のR1またはR2の種類は、同一または異なっていてもよい。特に、m1およびm2が1である場合、環Z1および環Z2がベンゼン環、ナフタレン環またはビフェニル環、R1およびR2がメチル基であるのが好ましい。また、R1およびR2の置換位置は特に制限されず、環Z1および環Z2と、エーテル結合(-O-)およびフルオレン環との結合位置以外の位置に置換していればよい。
【0030】
前記式(1)において、アルキレン基A1およびA2としては、エチレン基、プロピレン基(1,2-プロパンジイル基)、トリメチレン基、1,2-ブタンジイル基、テトラメチレン基などの直鎖状または分岐鎖状C2-6アルキレン基などが挙げられる。これらのうち、直鎖状または分岐鎖状C2-4アルキレン基が好ましく、直鎖状または分岐鎖状C2-3アルキレン基がさらに好ましく、エチレン基が最も好ましい。
【0031】
オキシアルキレン基(OA1)およびオキシアルキレン基(OA2)の繰り返し数(付加モル数)n1およびn2は、それぞれ0以上の整数であればよく、例えば0~20であってもよく、好ましい繰り返し数n1およびn2は、以下段階的に、0~10、0~5、0~3、0~2、0~1の整数であり、最も好ましくは0である。n1+n2(合計)は、0~30程度の整数の範囲から選択でき、好ましい範囲としては、以下段階的に、0~20、0~10、0~5、0~4、0~2、0~1の整数であってもよく、最も好ましくは0である。また、n1とn2とは、同一であってもよく、異なっていてもよい。さらに、n1またはn2が2以上の場合、2以上のオキシアルキレン基(OA1)またはオキシアルキレン基(OA2)は、それぞれ同一または異なっていてもよい。また、オキシアルキレン基(OA1)とオキシアルキレン基(OA2)とは、互いに同一であってもよく、異なっていてもよい。
【0032】
なお、本明細書および特許請求の範囲において、「繰り返し数(付加モル数)」は、平均値(算術平均値、相加平均値)または平均付加モル数であってもよく、好ましい態様は、好ましい整数の範囲と同様である。
【0033】
前記式(1)において、チオエポキシ基含有基(エピスルフィド基含有基)の置換位置は特に制限されず、環Z1および環Z2の適当な位置に置換できる。例えば、環Z1および環Z2がベンゼン環であるとき、置換位置は、2~6位のいずれであってもよく、2位、3位、4位などが挙げられ、好ましくは3位、4位、最も好ましくは4位である。また、環Z1および環Z2がナフタレン環である場合には、置換位置は、ナフチル基の5~8位である場合が多く、例えば、フルオレン環に対してナフタレン環の1位または2位が置換し(1-ナフチルまたは2-ナフチルの関係で置換し)、この置換位置に対して、1,5位、1,6位、2,6位の関係が好ましく、2,6位の関係が最も好ましい。また、環Z1および環Z2がビフェニル環である場合、フルオレン環に結合したアレーン環またはこのアレーン環に隣接するアレーン環に置換していてもよい。例えば、ビフェニル環の3位または4位がフルオレン環の9位に結合していてもよく、ビフェニル環の3位がフルオレン環の9位に結合しているとき、チオエポキシ基含有基の置換位置は、2位、4~6位、および2’~6’位のいずれであってもよく、通常、4位、5位、6位、3’位、4’位であり、4位、6位、4’位が好ましく、6位が最も好ましい。
【0034】
前記式(1)において、R3で表される置換基としては、チオエポキシ基に対する非反応性の置換基であれば特に限定されないが、アルキル基やアリール基などの炭化水素基、シアノ基、ハロゲン原子などが挙げられる。アルキル基としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、t-ブチル基などの直鎖状または分岐鎖状C1-6アルキル基などが挙げられる。アリール基としては、フェニル基などのC6-10アリール基などが挙げられる。ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子などが挙げられる。これらの置換基は、単独でまたは二種以上組み合わせて使用できる。
【0035】
これらの置換基のうち、アルキル基、シアノ基、ハロゲン原子が好ましく、直鎖状または分岐鎖状C1-4アルキル基が特に好ましい。さらに、直鎖状または分岐鎖状C1-4アルキル基の中でも、直鎖状または分岐鎖状C1-3アルキル基が好ましく、メチル基などのC1-2アルキル基が特に好ましい。
【0036】
R3の置換数kは、0~8の整数であり、好ましい範囲としては、以下段階的に、0~6、0~4、0~2の整数であり、0が最も好ましい。なお、kが2以上の場合、それぞれのR3の種類は、互いに同一または異なっていてもよい。また、kが2以上である場合、同一のまたは異なるベンゼン環に置換する2以上のR3の種類は、互いに同一または異なっていてもよい。また、R3の置換位置は特に制限されず、例えば、フルオレン環の2位ないし7位のいずれであってもよく、通常、2位、3位および7位のいずれかである。
【0037】
代表的な前記式(1)で表されるエピスルフィド化合物には、9,9-ビス[(2,3-エピチオプロポキシ)フェニル]フルオレン類、9,9-ビス[(2,3-エピチオプロポキシ)(ポリ)アルコキシフェニル]フルオレン類、9,9-ビス[(2,3-エピチオプロポキシ)ナフチル]フルオレン類、9,9-ビス[(2,3-エピチオプロポキシ)(ポリ)アルコキシナフチル]フルオレン類などが挙げられる。
【0038】
9,9-ビス[(2,3-エピチオプロポキシ)フェニル]フルオレン類としては、9,9-ビス[4-(2,3-エピチオプロポキシ)フェニル]フルオレン(または9,9-ビス[4-(2,3-チオエポキシプロポキシ)フェニル]フルオレン、以下同じ);9,9-ビス[4-(2,3-エピチオプロポキシ)-3-メチルフェニル]フルオレン、9,9-ビス[4-(2,3-エピチオプロポキシ)-3,5-ジメチルフェニル]フルオレンなどの9,9-ビス[(2,3-エピチオプロポキシ)-モノまたはジアルキルフェニル]フルオレン;9,9-ビス[4-(2,3-エピチオプロポキシ)-3-フェニルフェニル]フルオレンなどの9,9-ビス[(2,3-エピチオプロポキシ)-アリールフェニル]フルオレンなどが挙げられる。
【0039】
9,9-ビス[(2,3-エピチオプロポキシ)(ポリ)アルコキシフェニル]フルオレン類としては、9,9-ビス{4-[2-(2,3-エピチオプロポキシ)エトキシ]フェニル}フルオレンなどの9,9-ビス[(2,3-エピチオプロポキシ)C2-4アルコキシフェニル]フルオレン;9,9-ビス{4-[2-(2,3-エピチオプロポキシ)エトキシ]-3-メチルフェニル}フルオレン、9,9-ビス{4-[2-(2,3-エピチオプロポキシ)エトキシ]-3,5-ジメチルフェニル}フルオレンなどの9,9-ビス[(2,3-エピチオプロポキシ)C2-4アルコキシ-モノまたはジアルキルフェニル]フルオレン;9,9-ビス{4-[2-(2,3-エピチオプロポキシ)エトキシ]-3-フェニルフェニル}フルオレンなどの9,9-ビス[(2,3-エピチオプロポキシ)C2-4アルコキシ-アリールフェニル]フルオレン(式(1)において、n1およびn2が1である化合物)、これらの化合物に対応し、式(1)において、n1およびn2の合計が2を超える化合物などが挙げられる。
【0040】
9,9-ビス[(2,3-エピチオプロポキシ)ナフチル]フルオレン類としては、9,9-ビス[6-(2,3-エピチオプロポキシ)-2-ナフチル}フルオレン、9,9-ビス[5-(2,3-エピチオプロポキシ)-1-ナフチル]フルオレンなどが挙げられる。
【0041】
9,9-ビス[(2,3-エピチオプロポキシ)(ポリ)アルコキシナフチル]フルオレン類としては、9,9-ビス{6-[2-(2,3-エピチオプロポキシ)エトキシ]-2-ナフチル}フルオレン、9,9-ビス{5-[2-(2,3-エピチオプロポキシ)エトキシ]-1-ナフチル}フルオレンなどの9,9-ビス[2-(2,3-エピチオプロポキシ)C2-4アルコキシナフチル]フルオレン(式(1)において、n1およびn2が1である化合物)、これらの化合物に対応し、式(1)において、n1およびn2の合計が2を超える化合物などが挙げられる。
【0042】
前記式(1)で表されるエピスルフィド化合物は、単独でまたは二種以上組み合わせて使用できる。これらのうち、屈折率および耐熱性を向上できる点から、9,9-ビス[(2,3-エピチオプロポキシ)ナフチル]フルオレン類が好ましい。
【0043】
前記式(1)で表されるエピスルフィド化合物は、慣用の方法、例えば、特開2013-124339号公報、特開2016-29162号公報に記載の方法などによって製造できる。
【0044】
硬化性成分は、前記式(1)で表されるエピスルフィド化合物に加えて、他の硬化性成分を含んでいてもよい。他の硬化性成分には、前記式(1)で表されるエピスルフィド化合物以外のエピスルフィド化合物(他のエピスルフィド化合物)や、汎用のエポキシ樹脂などが含まれる。
【0045】
他のエピスルフィド化合物は、前記式(1)で表されるエピスルフィド化合物の製造過程で混入するエピスルフィド化合物であってもよい。このようなエピスルフィド化合物としては、下記式(1a)で表されるエピスルフィド化合物(多量体エピスルフィド化合物)や下記式(1b)で表されるエピスルフィド化合物(単官能性エピスルフィド化合物)であってもよい。このような多量体エピスルフィド化合物や単官能性エピスルフィド化合物は、硬化性や硬化物の物性などを低下させる虞があるため、多量に含まれるのは好ましくないが、ハンドリング性の向上などの観点から微量であればむしろ含まれている方が好ましい場合もある。
【0046】
【0047】
(式中、pは1以上の整数を示し、環Z1および環Z2、R1およびR2、m1およびm2、A1およびA2、n1およびn2、R3、kは前記式(1)に同じ)。
【0048】
前記式(1a)において、pは、例えば1~10、好ましくは1~4、さらに好ましくは1~3、最も好ましくは1~2である。通常、式(1a)で表される化合物は、式(1a)において、pが1である化合物を少なくとも含んでいる。式(1a)で表される化合物全体に対して、式(1a)においてpが1である化合物の割合は、例えば40モル%以上、好ましくは50モル%以上、さらに好ましくは70モル%以上であり、好ましい範囲としては、以下段階的に、45~100モル%、55~99モル%、65~97モル%、75~95モル%である。
【0049】
式(1a)で表される化合物の割合は、エピスルフィド化合物全体の50モル%以下、好ましくは40モル%以下、さらに好ましくは30モル%以下であり、好ましい範囲としては、以下段階的に、1~45モル%、2~35モル%、3~25モル%である。
【0050】
式(1b)で表される化合物の割合は、エピスルフィド化合物全体の30モル%以下、好ましくは25モル%以下、さらに好ましくは20モル%以下であり、好ましい範囲としては、以下段階的に、0.5~25モル%、1~22モル%、2~18モル%である。
【0051】
また、式(1a)で表される化合物および式(1b)で表される化合物の総量の割合は、エピスルフィド化合物全体の50モル%以下、好ましくは40モル%以下、さらに好ましくは30モル%以下であり、好ましい範囲としては、以下段階的に、1~45モル%、2~35モル%、3~25モル%、4~20モル%、5~15モル%である。
【0052】
なお、式(1a)で表される化合物と式(1b)で表される化合物との割合(モル比)は、例えば、前者/後者=99/1~1/99程度の範囲から選択でき、好ましい範囲としては、以下段階的に、97/3~10/90、95/5~15/85、93/7~20/80、90/10~30/70、85/15~40/60である。
【0053】
本明細書および特許請求の範囲において、式(1a)および(1b)で表されるエピスルフィド化合物の割合は、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)による純度(面積比、面積%)を測定することにより求めることができる。
【0054】
なお、エピスルフィド化合物において、式(1a)で表される化合物や式(1b)で表される化合物の割合は、原料となるエポキシ化合物の製造条件などにより容易に調整することができる。また、式(1a)で表される化合物や式(1b)で表される化合物を別途調製し、式(1)で表される化合物と混合してエピスルフィド組成物を調製することもできる。
【0055】
汎用のエポキシ樹脂としては、グリシジルエーテル型エポキシ樹脂、グリシジルエステル型エポキシ樹脂、フルオレン骨格を有するエポキシ樹脂などが挙げられる。これらのうち、グリシジルエーテル型エポキシ樹脂が汎用される。グリシジルエーテル型エポキシ樹脂としては、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂などのビスフェノール型エポキシ樹脂;フェノールノボラック型エポキシ樹脂;クレゾールノボラック型エポキシ樹脂;ジシクロペンタジエン変性フェノール(またはクレゾール)ノボラック型エポキシ樹脂;ビフェニル型エポキシ樹脂;トリフェノールメタン型エポキシ樹脂などトリフェノールアルカン型エポキシ樹脂;フェノールアラルキル型エポキシ樹脂;キサンテン単位を含むエポキシ樹脂などの複素環型エポキシ樹脂;スチルベン型エポキシ樹脂;1,6-ビス(グリシジルオキシ)ナフタレン、ビス(2,7-ビス(グリシジルオキシ)ナフチル)アルカンなどの縮合環芳香族炭化水素変性エポキシ樹脂などが挙げられる。これらのエポキシ樹脂は、単独でまたは2種以上組み合わせてもよい。
【0056】
汎用のエポキシ樹脂の割合は、硬化性成分全体に対して、例えば30モル%以下、好ましくは20モル%以下、さらに好ましくは10モル%以下、より好ましくは5モル%以下であり、0.01~5モル%であってもよい。汎用のエポキシ樹脂の割合が多すぎると、硬化物の強度および屈折率が低下する虞がある。
【0057】
[光塩基発生剤]
光塩基発生剤(光塩基開始剤)は、光エネルギーが付与されると塩基を発生する化合物であればよいが、前記エピスルフィド化合物の硬化性を向上できる点から、アミンを発生する化合物(光アミン発生剤)が好ましく、第1級アミンを発生する化合物が特に好ましい。
【0058】
前記エピスルフィド化合物と光アミン発生剤とを組み合わせると、光エネルギーを付与されて発生したアミンを加熱することにより、アミンとエピスルフィドとの付加反応およびアミン触媒によるエピスルフィドの重合反応が進行して硬化物が生成すると推定できる。
【0059】
第1級アミンを発生する光塩基発生剤は、O置換オキシム骨格を有する化合物であってもよく、前記式(2)で表される化合物が好ましい。
【0060】
前記式(2)において、R4およびR5の炭化水素基としては、前記式(1)の置換基R1およびR2として例示された炭化水素基を利用できる。炭化水素基R4と炭化水素基R5とは、同一であってもよく、異なっていてもよい。R4およびR5としては、光塩基発生剤の開始剤としての機能を向上できる点から、R4およびR5の少なくとも一方が芳香族炭化水素基であるのが好ましく、芳香族炭化水素基と脂肪族炭化水素基との組み合わせが特に好ましい。
【0061】
芳香族炭化水素基としては、フェニル基、アルキルフェニル基、ビフェニリル基、ナフチル基などのC6-12アリール基などが挙げられる。これらの芳香族炭化水素基は、単独でまたは二種以上組み合わせて使用できる。これらのうち、屈折率および耐熱性を向上できる点から、縮合多環式アリール基が好ましく、ナフチル基がさらに好ましい。
【0062】
脂肪族炭化水素基としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、s-ブチル基、イソブチル基、t-ブチル基などの直鎖状または分岐鎖状C1-10アルキル基などが挙げられる。これらの脂肪族炭化水素基は、単独でまたは二種以上組み合わせて使用できる。これらのうち、光塩基発生剤の開始剤としての機能を向上できる点から、直鎖状または分岐鎖状C1-4アルキル基が好ましく、C1-2アルキル基がさらに好ましく、メチル基が最も好ましい。
【0063】
O置換オキシム骨格数を示すsは1~6程度の整数であればよいが、架橋強度を向上できる点から、2~6の整数であってもよく、諸特性のバランスに優れる点から、好ましくは2~5の整数、さらに好ましくは2~4の整数、より好ましくは3~4の整数、最も好ましくは3である。sが小さすぎると、硬化物の機械的特性が低下する虞がある。
【0064】
Xの炭化水素基としても、前記式(1)の置換基R1およびR2として例示された炭化水素基を利用できる。前記炭化水素基のうち、硬化物の屈折率および耐熱性を向上できる点から、アラルキル基が好ましい。アラルキル基としては、ベンジル基、フェネチル基、ナフチルメチル基、ナフチルエチル基などのC6-10アリール-C1-4アルキル基などが挙げられる。これらのアラルキル基のうち、フェニル-C1-2アルキル基が好ましく、ベンジル基が特に好ましい。
【0065】
Xにおける2価の連結基としては、アルキレン基、アリーレン基、エーテル基(エーテル結合)、チオエーテル基(スルフィド基)、スルホニル基などが挙げられる。2価の連結基は、これらの組み合わせであってもよい。
【0066】
アルキレン基としては、メチレン基、エチリデン基、エチレン基、イソプロピリデン基などのC1-4アルキレン基などが挙げられる。
【0067】
アリーレン基としては、1,3-フェニレン基、1,4-フェニレン基などのフェニレン基、1,5-ナフチレン基や2,6-ナフチレン基などのナフチレン基、4,4’-ビフェニレン基などのビフェニレン基、ビナフチレン基、ターフェニレン基、フェニルナフタレン-ジイル基などが挙げられる。これらのアリーレン基は、メチル基、エチル基などのC1-4アルキル基を置換基として有していてもよい。
【0068】
好ましい2価の連結基としては、屈折率および耐熱性を向上できる点から、フェニレン基などのアリーレン基を含む連結基である。
【0069】
Xが3~6価の連結基である光塩基発生剤は、屈折率および耐熱性を向上できる点から、下記式(2a)で表される化合物であってもよい。
【0070】
【0071】
(式中、
環Z3はアレーン環を示し、
X1は2価の連結基を示し、
s1は3~6の整数を示し、
R4およびR5は前記式(2)に同じ)。
【0072】
前記式(2a)において、環Z3のアレーン環としては、前記式(1)の環Z1およびZ2として例示されたアレーン環を利用できる。前記アレーン環のうち、ベンゼン環やナフタレン環などのC6-12アレーン環が好ましく、屈折率および耐熱性を向上でき、かつ開始剤としての機能も向上できる点から、ベンゼン環が特に好ましい。
【0073】
X1の2価の連結基としては、Xとして例示された2価の連結基を利用できる。X1の2価の連結基は、光塩基発生剤の諸特性を調整し易い点から、複数の連結基を組み合わせるのが好ましく、硬化物の屈折率および耐熱性を向上できる点から、アリーレン基を含む複数の連結基の組み合わせが特に好ましい。具体的な複数の連結基の組み合わせとしては、アルキレン基とエーテル結合とアリーレン基とアルキレン基との組み合わせが好ましく、メチレン基とエーテル結合とフェニレン基とメチレン基との組み合わせが特に好ましい。
【0074】
連結基X1が環Z3に置換する位置は、対称な位置に置換するのが好ましく、例えば、環Z3がベンゼン環であり、s1が3である場合、1,3,5位に置換するのが好ましい。
【0075】
O置換オキシム骨格数を示すs1は、sと同様に3が最も好ましい。
【0076】
光塩基性発生剤の割合は、前記硬化性成分100質量部に対して、例えば1~50質量部、好ましくは3~30質量部、さらに好ましくは4~20質量部、より好ましくは5~15質量部、最も好ましくは6~10質量部である。光塩基発生剤がO置換オキシム骨格を有する場合、O置換オキシム骨格の割合は、前記硬化性成分のエピスルフィド基100モルに対して、例えば0.5~30モル、好ましくは1~20モル、さらに好ましくは2~15モル、より好ましくは3~10モル、最も好ましくは4~7モルである。光塩基性発生剤の割合が少なすぎると、硬化物の架橋密度が低下する虞があり、逆に多すぎると、硬化物の屈折率および耐熱性が低下する虞がある。
【0077】
[溶媒]
本発明の硬化性組成物は、前記硬化性成分および光塩基発生剤に加えて、取り扱い性や塗工性を向上できる点から、溶媒を含んでいてもよい。溶媒としては、例えば、炭化水素類(ヘキサン、シクロヘキサン、トルエンなど);アルコール類(エタノール、プロパノールなど);エーテル類[ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン(THF)など];ケトン類[エチルメチルケトン(2-ブタノン)、シクロヘキサノンなど];エステル類(酢酸エチル、酢酸ブチルなど);ジオール類(エチレングリコール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコールなど);セロソルブ類[メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、エチレングリコールジメチルエーテル(ジメトキシエタン)、プロピレングリコールモノメチルエーテルなど];カルビトール類[カルビトール、ジエチレングリコールジメチルエーテル(ジグライム)、ジエチレングリコールメチルエチルエーテルなど];セロソルブアセテート類(プロピレングリコールメチルアセテートなど)などが挙げられる。
【0078】
これらの溶媒は、単独でまたは2種以上組み合わせて使用できる。これらの溶媒のうち、エーテル類、ケトン類、セロソルブ類、カルビトール類、セロソルブアセテート類などが好ましく、シクロヘキサノンなどのケトン類が特に好ましい。
【0079】
溶媒は、塗布に適した塗布液粘度が得られるように適量使用してもよい。代表的な溶媒の割合としては、硬化性成分100質量部に対して、例えば100~10000質量部、好ましくは200~3000質量部、さらに好ましくは300~2000質量部、最も好ましくは500~1500質量部である。
【0080】
[他の添加剤]
本発明の硬化性組成物は、前記硬化性成分および光塩基発生剤に加えて、他の添加剤をさらに含んでいてもよい。他の添加剤としては、硬化剤;重合開始剤;クマリン類、キノリン類、キノン類、フェノキサジン類、ピレン類、アミン類などの光増感剤;硬化促進剤;単官能性エピスルフィド化合物などの反応性希釈剤;着色剤;熱安定剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤などの安定剤;消泡剤;レベリング剤;増粘剤;分散剤;充填剤;帯電防止剤;滑剤;難燃剤;難燃助剤などが挙げられる。他の添加剤は、単独でまたは2種以上組み合わせて使用してもよい。他の添加剤の割合は、硬化性成分100質量部に対して、0.1~50質量部、好ましくは0.3~30質量部、さらに好ましくは0.5~20質量部である。
【0081】
硬化性組成物は、硬化性成分および光塩基発生剤、ならびに必要に応じて他の成分を配合し、必要に応じて溶媒または分散剤により、溶解、分散および混合などで均一に混合することによって調製してもよい。
【0082】
[硬化物およびその製造方法]
本発明では、前記硬化性組成物に光エネルギーを付与した後、加熱して硬化させる製造方法により硬化物(三次元的硬化物、硬化膜や硬化パターンなどの一次元または二次元的硬化物、点またはドット状硬化物など)を製造してもよい。
【0083】
硬化物(硬化膜、硬化パターンなど)は、前記硬化性組成物を基材上に塗布して塗膜を形成した後、光(例えば、可視光線)を照射(露光)した後、加熱することにより形成してもよい。そのため、硬化性組成物は、例えば、基材上での塗膜(薄膜)の製造などに使用してもよい。硬化性組成物を基材に塗布し、塗膜を製造する場合は、溶媒を含む硬化性組成物(硬化性成分、光塩基発生剤などを前記溶媒に溶解または分散させた溶液または分散液)を基材に塗布してもよい。
【0084】
塗布方法としては、例えば、フローコーティング法、スピンコーティング法、スプレーコーティング法、スクリーン印刷法、キャスト法、バーコーティング法、カーテンコーティング法、ロールコーティング法、グラビアコーティング法、ディッピング法、スリット法などが挙げられる。これらのうち、スピンコーティング法が好ましい。
【0085】
塗膜の厚みは、硬化物の用途に応じて、通常0.01μm~10mm程度の範囲から選択できる。フォトレジストの場合、塗膜の厚みは、通常0.05~10μm程度であり、好ましくは0.1~5μmである。プリント配線基板の場合、塗膜の厚みは、通常10μm~5mm程度であり、好ましくは100μm~1mmである。光学薄膜の場合、塗膜の厚みは、通常0.1~100μm程度であり、好ましくは0.3~50μmである。
【0086】
基板に塗布した硬化性組成物は、必要に応じて、乾燥処理を行ってもよい。乾燥処理は、公知の方法を用いて行うことができる。乾燥処理は、例えば、常圧下、加圧下または減圧下において行ってもよい。また、乾燥処理は、室温で行ってもよく、加熱手段(ホットプレート、オーブンなど)により加温して行ってもよい。
【0087】
光の波長は、光塩基発生剤の種類に応じて適宜選択でき、紫外光線であるのが好ましい。紫外光線の波長としては、10~380nmであればよく、例えば100~380nmであってもよいが、簡便性などの点から、好ましくは200~375nmであり、特に、簡便性が高く、環境的な負荷も小さい上に、硬化物の機械的特性も向上できる点から、波長280nm以上の浅紫外域が特に好ましく、好ましい範囲としては、以下段階的に、290~370nm、300~370nm、320~370nm、350~370nmであり、LED(発光ダイオード)ランプなどで照射できる365nmが特に好ましい。
【0088】
光の照射光量(露光量)は、塗膜の厚みや光の波長などに応じて、硬化性組成物の硬化が可能な範囲から選択でき、10mJ/cm2以上であってもよく、例えば100~100000mJ/cm2、好ましくは1000~50000mJ/cm2、さらに好ましくは3000~30000mJ/cm2、より好ましくは5000~20000mJ/cm2、最も好ましくは10000~15000mJ/cm2である。露光量が少なすぎると、塩基の発生量が低下して硬化物の架橋密度が低下する虞がある。
【0089】
光源としては、例えば、高圧水銀ランプ、重水素ランプ、ハロゲンランプ、メタルハライドランプ、キセノンランプ、LEDランプ、レーザー光(LEDレーザーなど)などが挙げられる。これらのうち、簡便に塩基を発生できる点から、LEDランプが好ましい。
【0090】
なお、光エネルギーの付与は、常圧下または加圧下において、空気中で行ってもよく、不活性ガス雰囲気中で行ってもよい。
【0091】
加熱温度としては、100℃以上であってもよく、例えば100~250℃、好ましくは150~230℃、さらに好ましくは180~220℃、最も好ましくは190~210℃である。加熱時間は、例えば、30秒以上であってもよく、例えば30秒~20分、好ましくは1~10分、さらに好ましくは3~8分、最も好ましくは4~6分である。加熱温度が低すぎたり、加熱時間が短すぎると、硬化物の架橋密度が低下する虞がある。
【0092】
硬化性組成物は、パターンや画像の形成(プリント配線板の製造など)に使用してもよい。プリント配線板を製造する場合は、基材上に硬化性組成物を塗布して塗膜を形成し、形成した塗膜を光照射(パターン露光)してもよい。パターン露光は、レーザー光の走査により行ってもよく、フォトマスクを介して光照射することにより行ってもよい。パターン露光により生成した非照射領域(未露光部)を、現像剤で現像(または溶解)して除去することによりパターンまたは画像を形成してもよい。現像剤としては、水、アルカリ水溶液、親水性溶媒(例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノールなどのアルコール類、アセトンなどのケトン類、ジオキサン、テトラヒドロフランなどのエーテル類、セロソルブ類、セロソルブアセテート類など)や、これらの混合液などが挙げられる。
【0093】
硬化性組成物をパターンや画像の形成に使用する場合、現像した後に加熱してもよく、加熱した後に現像してもよい。加熱した後に現像する場合は、加熱により硬化が進行しないように、加熱温度および加熱時間を調整する必要があり、例えば、前記範囲のうち、最も好ましい範囲で加熱処理してもよい。
【0094】
光学薄膜を形成する場合には、基材上に硬化性組成物の層を複数形成してもよい。また、基材上に他の機能層などを形成した後、その機能層の上に、硬化性組成物の層を形成してもよい。本発明の硬化性組成物は、透明性に優れ、高い屈折率を有し、光学的特性にも優れるため、特に、液晶ディスプレイなどの反射防止膜の高屈折率層、反射板などの光学薄膜に使用してもよい。
【0095】
基材の材質は、用途に応じて選択され、例えば、プリント配線基板や光学薄膜の場合には、シリコン、ガリウム砒素、窒化ガリウム、炭化シリコンなどの半導体;アルミニウム、銅などの金属;酸化ジルコニウム、酸化チタン、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)などのセラミック;ガラス、石英、フッ化マグネシウム、フッ化カルシウムなどの透明無機材料;ポリメチルメタクリレート、ポリメチルアクリレート、ポリスチレン、ポリカーボネートなどの透明樹脂などであってもよい。
【0096】
得られた硬化物は、架橋強度に優れており、テトラヒドロフラン(THF)による不溶化率は10%以上であってもよく、例えば10~100%、好ましくは20~99.9%、さらに好ましくは30~99%、最も好ましくは40~95%である。
【0097】
なお、本明細書および特許請求の範囲において、不溶化率は、後述する実施例に記載の方法のように、THF中に2分間浸漬する前後の膜厚比から算出できる。
【0098】
得られた硬化物は高い屈折率を有しており、温度25℃、波長589nmにおいて、1.65以上であってもよく、例えば1.66~1.8、好ましくは1.68~1.75、より好ましくは1.69~1.74、さらに好ましくは1.7~1.73、最も好ましくは1.71~1.72である。
【0099】
得られた硬化物のアッベ数は、温度20℃において、例えば10~30、好ましくは15~25、さらに好ましくは16~20、最も好ましくは17~19である。
【0100】
得られた硬化物は高い耐熱性を有しており、5%質量減少温度は、280℃以上であってもよく、例えば280~500℃、好ましくは290~400℃、さらに好ましくは295~350℃、最も好ましくは300~320℃である。
【0101】
なお、本明細書および特許請求の範囲において、屈折率、アッベ数および5%質量減少温度は、後述する実施例に記載の方法などにより測定できる。
【実施例】
【0102】
以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。また、各種評価方法および使用した原料を下記に示す。
【0103】
[評価方法]
(不溶化率)
実施例および比較例で得られた硬化物をテトラヒドロフラン(THF)中に20℃で2分間浸漬した後、1時間放置することにより乾燥し、浸漬前後における硬化物の平均厚み(乾燥後)の比(浸漬後/浸漬前)を不溶化率として算出した。なお、硬化物の平均厚みは、非接触型膜厚測定装置(ナノメトリクス・ジャパン(株)製「Nanospec/AFT M-3000」)を用いて9箇所で測定した厚みの相加平均により算出した。
【0104】
(5%質量減少温度)
熱重量測定-示差熱分析装置(TG-DTA((株)島津製作所製「DTG60」)を使用して、窒素雰囲気下、昇温速度10℃/分の条件下で、実施例および比較例で得られた硬化物の質量が5質量%減少した温度を測定した。
【0105】
(屈折率)
分光エリプソメーター(ジェー・エー・ウーラム・ジャパン(株)製「M-2000UI」)を使用して、温度25℃の条件下、実施例および比較例で得られた硬化物のD線(波長589nm)における屈折率nDを測定した。
【0106】
(アッベ数)
分光エリプソメーター(ジェー・エー・ウーラム・ジャパン(株)製「M-2000UI」)を用い、測定温度25℃で、波長486nm(F線)、589nm(d線)および656nm(C線)における実施例および比較例で得られた硬化物の各屈折率nF、ndおよびnCを測定し、下記式により算出した。
【0107】
(nd-1)/(nF-nC)。
【0108】
[原料]
(硬化性成分)
BNFS:下記式で表される2,2’-ビス[9H-フルオレン-9-イリデンビス(6,2-ナフチレンオキシメチレン)]チイラン、特開2013-124338号公報(特許文献1)の実施例1に準じて合成
【0109】
【0110】
BNFG:9,9-ビス(6-グリシジルオキシ-2-ナフチル)フルオレン、特開2012-102228号公報の合成例1に準じて合成
BNFO:9,9-ビス[6-(3-メチル-3-オキセタニル)メトキシ-2-ナフチル]フルオレン、特開2018-127410号公報の合成例1に準じて合成
AnO3:下記式で表される1,1’,1”-{O,O’,O”-[1,3,5-ベンゼントリイルトリス(メチレンオキシ-4,1-フェニレン(1-オキソ-2,1-エタンジイル))]}2-アセトナフトントリオキシムは既報(H. Okamura, T. Terakawa, K. Suyama, and M. Shirai, J. Photopolym. Sci. Technol., 19(2006) 85)に従い、合成した。
【0111】
【0112】
PaAnO:下記式で表されるO-(2-フェニルアセチル)2-アセトナフトンオキシムは既報(K. Ito, Y. Shigeru, Y. Kawata, K. Ito, and M. Tsunooka, Can. J. Chem., 73 (1995) 1924)に従い、合成した。
【0113】
【0114】
PMPS:ポリメチルフェニルシラン、大阪ガスケミカル(株)製「PMPS」、数平均分子量Mn=11000
PAG:7-(1,1-ジメチルエチル)-1,3-ジヒドロ-1,3-ジオキソ-2H-[1,4]ベンゾジチイノ[2,3-f]イソインドール-2-イルトリフラートは既報(H. Okamura, H. Naito, and M. Shirai, J. Photopolym. Sci. Technol., 21(2008) 285)に従い、合成した。
【0115】
[実施例1]
サンプル管に、BNFS:100質量部、AnO3:7.5質量部、シクロヘキサノン(溶媒)1000質量部を入れ、撹拌して均一に混合した。得られた混合液をシリコン基板上に2000rpm、20秒の条件でスピンコーター(ミカサ(株)製「1H-D3型」)でコートして、ホットプレートにて60℃で2分間プリベークして溶媒を除去し、膜厚0.4μmの薄膜を形成した。得られた薄膜に、LEDランプ(シーシーエス(株)製「HLDL-50UV365-FN」、23W、照射光量:10mW/cm2)を用いて365nmの紫外線を室温および空気下で12000mJ/cm2照射した後、200℃で5分間加熱し、硬化物を得た。
【0116】
[実施例2]
AnO3:7.5質量部の代わりに、PaAnO:6.25質量部を用いる以外は実施例1と同様にして硬化物を得た。
【0117】
[比較例1]
サンプル管に、BNFG:90質量部、BNFO:10質量部、PAG:5質量部、シクロヘキサノン(溶媒)1000質量部を入れ、撹拌して均一に混合した。得られた混合液をシリコン基板上に2000rpm、20秒の条件でスピンコーター(ミカサ(株)製「1H-D3型」)でコートして、ホットプレートにて60℃で2分間プリベークして溶媒を除去し、膜厚0.4μmの薄膜を形成した。得られた薄膜に、LEDレーザー(ボールセミコンダクター社製「BP300」、300mW、照射光量:48mW/cm2)を用いて405nmの可視光線を室温および空気下で1600mJ/cm2照射した後、150℃で5分間加熱し、硬化物を得た。
【0118】
[比較例2]
BNFG:90質量部、BNFO:10質量部の代わりに、BNFG:60質量部、BNFO:6.7質量部、PMPS:33質量部を用いる以外は比較例1と同様にして硬化物を得た。
【0119】
[比較例3]
サンプル管に、BNFS:100質量部、シクロヘキサノン(溶媒)1000質量部を入れ、撹拌した。得られた溶液をシリコン基板上に2000rpm、20秒の条件でスピンコーター(ミカサ(株)製「1H-D3型」)でコートして、ホットプレートにて60℃で2分間プリベークして溶媒を除去し、膜厚0.4μmの薄膜を形成した。得られた薄膜を200℃で5分間加熱し、硬化物を得た。
【0120】
[参考例1]
サンプル管に、BNFS:100質量部、シクロヘキサノン(溶媒)1000質量部を入れ、撹拌した。得られた溶液をシリコン基板上に2000rpm、20秒の条件でスピンコーター(ミカサ(株)製「1H-D3型」)でコートして、ホットプレートにて60℃で2分間プリベークして溶媒を除去し、膜厚0.4μmの薄膜を形成した。得られた薄膜に、高圧水銀灯(浜松ホトニクス(株)製「Photocure200」、200W、365nmの照射光量:12mW/cm2)を用いて紫外線を室温および空気下で照射した後、200℃で5分間加熱し、硬化物を得た。
【0121】
[参考例2]
AnO3:7.5質量部を使用しない以外は実施例1と同様にして硬化物を得た。
【0122】
実施例、比較例および参考例で得られた硬化物の評価結果を表1に示す。
【0123】
【0124】
表1の結果から明らかなように、実施例1および2の硬化物は、耐熱性および屈折率が高かった。一方、比較例3および参考例2では、硬化物は得られず、耐熱性および光学特性は測定できなかった。参考例1の硬化物は耐熱性および光学特性に優れていたが、高圧水銀灯を用いるため、簡便性や環境負荷の面から問題を残している。
【産業上の利用可能性】
【0125】
本発明の硬化性組成物およびその硬化物は、塗料、電線被覆材、電子機器の封止材及び絶縁材、プリント配線基板、保護膜、フォトレジスト、印刷製版材、インキ、接着剤、粘着材、光学薄膜(液晶ディスプレイなどの反射防止膜の高屈折率層、反射板など)などの用途に好適に利用できる。