(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-17
(45)【発行日】2023-10-25
(54)【発明の名称】温度非依存弾性率を有するスキーブーツ
(51)【国際特許分類】
A43B 5/04 20060101AFI20231018BHJP
C08G 18/76 20060101ALI20231018BHJP
C08G 18/48 20060101ALI20231018BHJP
C08G 18/32 20060101ALI20231018BHJP
C08G 18/66 20060101ALI20231018BHJP
【FI】
A43B5/04 A
C08G18/76 057
C08G18/48 054
C08G18/32 006
C08G18/66 074
(21)【出願番号】P 2020568216
(86)(22)【出願日】2019-06-05
(86)【国際出願番号】 EP2019064694
(87)【国際公開番号】W WO2019234117
(87)【国際公開日】2019-12-12
【審査請求日】2022-05-27
(32)【優先日】2018-06-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】508020155
【氏名又は名称】ビーエーエスエフ ソシエタス・ヨーロピア
【氏名又は名称原語表記】BASF SE
【住所又は居所原語表記】Carl-Bosch-Strasse 38, 67056 Ludwigshafen am Rhein, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100134315
【氏名又は名称】永島 秀郎
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【氏名又は名称】上島 類
(74)【代理人】
【識別番号】100100354
【氏名又は名称】江藤 聡明
(74)【代理人】
【識別番号】100167106
【氏名又は名称】倉脇 明子
(74)【代理人】
【識別番号】100194135
【氏名又は名称】山口 修
(74)【代理人】
【識別番号】100206069
【氏名又は名称】稲垣 謙司
(72)【発明者】
【氏名】ヘンツェ,オリファー シュテッフェン
(72)【発明者】
【氏名】ブーヴィエ,デニス
(72)【発明者】
【氏名】ヴェタッハ,ヘンニンク
(72)【発明者】
【氏名】ラマーズ,フィン
【審査官】小森 勇
(56)【参考文献】
【文献】特開昭60-195116(JP,A)
【文献】特表平04-502780(JP,A)
【文献】国際公開第2015/064140(WO,A1)
【文献】特開2016-050300(JP,A)
【文献】特開2005-015643(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 18/00-18/87
A43B 5/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
スキー靴又はスキー靴の部品を製造する方法であって、以下の工程、
(i)MDIを含むイソシアネート組成物(IZ)とポリオール組成物(PZ)との反応によって得られた又は得ることができる熱可塑性ポリウレタン(TPU-1)を提供する工程であって、
前記ポリオール組成物(PZ)は、少なくとも1つのポリオール(P1)と鎖延長剤(KV1)とを含み、
前記ポリオール(P1)は、
1300~
1700g/molの範囲の平均分子量Mnを有するポリテトラヒドロフランから選択され、前記鎖延長剤(KV1)は、1,3-プロパンジオール
及び1,4-ブタンジオー
ルからなる群から選択される、工程;
(ii)前記熱可塑性ポリウレタン(TPU-1)からスキー靴又はスキー靴の部品を製造する工程、
を含む、方法。
【請求項2】
前記熱可塑性ポリウレタン(TPU-1)は、工程(ii)による射出成形によって処理される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記鎖延長剤(KV1)が1,4-ブタンジオールである、請求項1
又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記熱可塑性ポリウレタンは、0.40より大きい硬質相分率を有し、該硬質相分率は以下の式で定義され、
【数1】
該式は以下の定義:
M
KVx:鎖延長剤xのモル質量(g/mol)
m
KVx:鎖延長剤xの質量(g)
M
Iso:使用されるイソシアネートのモル質量(g/mol)
m
ges:全出発物質の総質量(g)
x:鎖延長剤の数
を有する、請求項1から
3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
請求項1から
4のいずれか1項に記載の方法によって得られた又は得ることができるスキー靴又はスキー靴の部品。
【請求項6】
前記熱可塑性ポリウレタンは、10kJ/m
2より大きいDIN EN ISO 179-1/1 eAによる-30℃におけるシャルピーのノッチ付き衝撃強度を有している、請求項
5に記載のスキー靴又はスキー靴の部品。
【請求項7】
スキー靴又はスキー靴の部品の製造のための、MDIを含むイソシアネート組成物(IZ)とポリオール組成物(PZ)との反応によって得られた又は得ることができる熱可塑性ポリウレタン(TPU-1)の使用であって、
前記ポリオール組成物(PZ)は、少なくとも1つのポリオール(P1)と鎖延長剤(KV1)とを含み、
前記ポリオール(P1)は、
1300~
1700g/molの範囲の平均分子量Mnを有するポリテトラヒドロフランから選択され、前記鎖延長剤(KV1)は、1,3-プロパンジオール
及び1,4-ブタンジオー
ルからなる群から選択される、熱可塑性ポリウレタン(TPU-1)の使用。
【請求項8】
前記鎖延長剤(KV1)が1,4-ブタンジオールである、請求項
7に記載の使用。
【請求項9】
前記熱可塑性ポリウレタンは、0.40より大きい硬質相分率を有し、該硬質相分率は以下の式で定義され、
【数2】
該式は以下の定義:
M
KVx:鎖延長剤xのモル質量(g/mol)
m
KVx:鎖延長剤xの質量(g)
M
Iso:使用されるイソシアネートのモル質量(g/mol)
m
ges:全出発物質の総質量(g)
x:鎖延長剤の数
を有する、請求項
7又は8に記載の使用。
【請求項10】
MDIを含むイソシアネート組成物(IZ)とポリオール組成物(PZ)との反応によって得られた又は得ることができる熱可塑性ポリウレタン(TPU-1)であって、
前記ポリオール組成物(PZ)は、少なくとも1つのポリオール(P1)と鎖延長剤(KV1)とを含み、
前記ポリオール(P1)は、1300~1700g/molの範囲の平均分子量Mnを有するポリテトラヒドロフランから選択され、前記鎖延長剤(KV1)は、1,3-プロパンジオール
及び1,4-ブタンジオー
ルからなる群から選択され、
前記熱可塑性ポリウレタンは、0.40より大きい硬質相分率を有し、
該硬質相分率は以下の式で定義され、
【数3】
該式は以下の定義:
M
KVx:鎖延長剤xのモル質量(g/mol)
m
KVx:鎖延長剤xの質量(g)
M
Iso:使用されるイソシアネートのモル質量(g/mol)
m
ges:全出発物質の総質量(g)
x:鎖延長剤の数
を有する、熱可塑性ポリウレタン(TPU-1)。
【請求項11】
前記鎖延長剤(KV1)が1,4-ブタンジオールである、請求項
10に記載の熱可塑性ポリウレタン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、MDIを含むイソシアネート組成物(IZ)とポリオール組成物(PZ)との反応によって得られた又は得ることができる熱可塑性ポリウレタン(TPU-1)に関し、ここでポリオール組成物(PZ)は、少なくとも1つのポリオール(P1)と鎖延長剤(KV1)とを含み、ポリオール(P1)は、1200~2000g/molの範囲の平均分子量Mnを有するポリテトラヒドロフランから選択され、鎖延長剤(KV1)は、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール及び1,6-ヘキサンジオールからなる群から選択される。本発明はさらに、このような熱可塑性ポリウレタンを基にした、スキー靴、好ましくはスキーブーツ、特に好ましくはスキーブーツのアウターシェル、及びスキー靴を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
射出成形による熱可塑性プラスチックからのスキー靴、例えばスキーブーツ、特にスキーブーツのアウターハードシェルの製造は公知である。
【0003】
従って、WO2007/118827A1は、分子量(Mw)が500~10000g/molのイソシアネート反応性化合物及び分子量が50~499g/molの鎖延長剤により、イソシアネートを変換することによって得ることができる熱可塑性ポリウレタンを基にしたスキー靴を開示しており、そこでは使用される鎖延長剤は、主鎖延長剤と1つ以上の共鎖延長剤を含む混合物である。
【0004】
スキーブーツの開発においては、特にスキーブーツの総質量を減らす必要がある。そのため、スキーブーツのアウターシェルの壁厚は、しばしば減らされる。
【0005】
このようなスキーブーツ、特にそのアウターシェルを製造するのに適した熱可塑性ポリウレタンの要求のプロファイルは複雑である。低温特性は非常に良好であるべきであり、すなわち、材料は使用温度で十分な柔軟性を示し破損又は剥離してはならない。材料はまた、薄い壁厚でもスキーブーツの十分な剛性を達成できるように、非常に高い剛性を有していなければならない。また、-30~20℃の温度範囲で剛性の変化が少ないことも有利であり、なぜなら、このことはスキーブーツの取り扱い特性を温度に依存しないようにするからである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
先行技術から知られている材料は、これらの要求の不十分な充足しか提供しない。従って、非常に高い剛性と優れた低温特性を兼ね備えたスキーブーツを製造するための熱可塑性ポリウレタンを開発することが本発明の目的である。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この目的は、本発明によって、MDIを含むイソシアネート組成物(IZ)とポリオール組成物(PZ)との反応によって得られた又は得ることができる熱可塑性ポリウレタン(TPU-1)により、達成され、
該ポリオール組成物(PZ)は、少なくとも1つのポリオール(P1)と鎖延長剤(KV1)とを含み、
該ポリオール(P1)は、1200~2000g/molの範囲の平均分子量Mnを有するポリテトラヒドロフランから選択され、鎖延長剤(KV1)は、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール及び1,6-ヘキサンジオールからなる群から選択される。
【0009】
驚くべきことに、使用されたイソシアネート成分とポリオール成分の組み合わせにより、スキーブーツの製造に特に適した特性プロファイルを有する熱可塑性ポリウレタンが提供されることが判明した。このように、該熱可塑性ポリウレタンは、良好な低温特性と、典型的には200MPaを超える弾性率を有する。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明によれば、MDIを含むイソシアネート組成物(IZ)を、少なくとも1つのポリオール(P1)と鎖延長剤(KV1)とを含むポリオール組成物(PZ)と反応させる。本発明の文脈において、ポリオール組成物(PZ)は、さらなるポリオール又はさらなる鎖延長剤を含んでもよい。イソシアネート成分(IZ)もまた、MDIに加えてイソシアネートをさらに含んでもよい。
【0011】
熱可塑性ポリウレタンは原理的に知られている。それらは典型的には、イソシアネートとイソシアネート反応性化合物と、任意に少なくとも1つの触媒及び/又は通例的な補助剤及び/又は添加剤の存在下で、任意に鎖延長剤とを反応させることによって製造される。イソシアネート、イソシアネート反応性化合物及び鎖延長剤はまた、個別的に又は集合的に、構成単位成分と呼ばれる。
【0012】
本発明によれば、ポリオール成分は、イソシアネート反応性化合物として少なくともポリオール(P1)を含む。本発明の文脈において、ポリオール(P1)は、1200~2000g/molの範囲の平均分子量Mnを有するポリテトラヒドロフランから選択され、好ましくは1300~1700g/molの範囲の平均分子量Mnを有するポリテトラヒドロフランから選択され、より好ましくは1400~1600g/molの範囲の平均分子量Mn、例えば1400~1500g/molの範囲の平均分子量Mnを有するポリテトラヒドロフランから選択される。
【0013】
驚くべきことに、本発明による組成物は、特にスキーブーツを製造するために使用するのに十分な硬度を示し、かつ、使用されるポリオールの分子量にもかかわらず、容易に着色可能であることが判明した。
【0014】
さらなる実施形態では、本発明は、したがって、上述されているような熱可塑性ポリウレタンを提供し、ここで、ポリオール(P1)は、1300~1700g/molの範囲の平均分子量Mnを有するポリテトラヒドロフランから選択される。
【0015】
しかしながら、本発明の文脈において、ポリオール成分はさらなるイソシアネート反応性化合物を含んでもよい。
【0016】
原則として使用され得るさらなるイソシアネート反応性化合物は、当技術分野の当業者に公知の全ての適切な化合物を含む。したがって、本発明の文脈において、任意の適切なジオール、例えばさらなるポリエーテルジオールを使用することが可能である。
【0017】
本発明の文脈において、鎖延長剤(KV1)は、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール及び1,6-ヘキサンジオールからなる群から選択される。本発明によれば、2つ以上の鎖延長剤、例えば1,4-ブタンジオールとさらなる鎖延長剤との混合物を使用することも可能である。本発明の文脈では、1つの鎖延長剤(KV1)のみを使用することが好ましい。
【0018】
本発明の文脈では、鎖延長剤として1,4-ブタンジオールを使用することが好ましい。したがって、さらなる実施形態では、本発明は、鎖延長剤(KV1)が1,4-ブタンジオールである、上述されているような熱可塑性ポリウレタンに関する。
【0019】
本発明の文脈では、MDIを含むイソシアネート組成物(IZ)は、熱可塑性ポリウレタン(TPU-1)の製造において使用される。
【0020】
本発明によれば、2,2’-、2,4’-及び/又は4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)を使用することができる。特に、4,4’-MDIのみを使用することが好ましい。
【0021】
したがって、さらなる実施形態において、本発明は、上述されているような組成物に関し、ここでは、熱可塑性ポリウレタンは4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)を基にしている。
【0022】
本発明によるスキー靴の熱可塑性ポリウレタンは、好ましくは0.4より大きい、特に好ましくは0.5より大きい硬質相分率を有する。したがって、さらなる実施形態では、本発明は、上述されているような熱可塑性ポリウレタンを提供し、ここで、熱可塑性ポリウレタンは、0.40より大きい硬質相分率を有し、該硬質相分率は、以下の式で定義される:
【数1】
【0023】
式は以下の定義を有する:
MKVx:鎖延長剤xのモル質量(g/mol)
mKVx:鎖延長剤xの質量(g)
MIso:使用されるイソシアネートのモル質量(g/mol)
mges:全出発物質の総質量(g)
x:鎖延長剤の数
【0024】
本発明による熱可塑性ポリウレタンは、好ましくは400~1100MPaの範囲、より好ましくは800~1050MPaの範囲、特に好ましくは900~1000MPaの範囲の弾性率を有する。
【0025】
本発明による熱可塑性ポリウレタンは、良好な低温特性を有する。これらは、例えば、-30℃でのシャルピーのノッチ付き衝撃強度によって特徴付けられる。
【0026】
別の実施形態では、本発明は、DIN EN ISO 179-1/1 eAによる-30℃におけるシャルピーのノッチ付き衝撃強度が10kJ/m2より大きい、好ましくは20kJ/m2より大きい、より好ましくは30kJ/m2より大きい熱可塑性ポリウレタン(TPU-1)にも関する。例えば、本発明の文脈では、熱可塑性ポリウレタンは、400MPaの弾性率と、-30℃における100kJ/m2の範囲内にあるノッチ付き衝撃強度を有してもよく、又は、1000MPaの弾性率で-30℃における約35kJ/m2のノッチ付き衝撃強度を有してもよい。同様に、本発明の文脈において、熱可塑性ポリウレタンが1000MPaの弾性率及び10~20kJ/m2のノッチ付き衝撃強度を有することも可能である。
【0027】
TPUの硬度を調整するために、構成単位成分は、比較的広いモル比の範囲内で変化させてよい。ポリオールの、使用される総鎖延長剤に対する有利なモル比は、例えば、1:1から1:15、好ましくは1:4から1:12、特に1:5から1:10、より好ましくは1:5から1:8であり、そこではTPUの硬度は、鎖延長剤の含有量の増加に伴って増加する。
【0028】
反応は、通常の指数、好ましくは950~1050の間の指数、特に好ましくは970~1010の間の指数、特に980~1000の間の指数、より好ましくは992~998の範囲内の指数で行うことができる。指数は、イソシアネート反応性基、すなわち活性水素に対する反応に使用される全イソシアネート基の比率として定義される。指数1000は、イソシアネート基1つにつき活性水素原子1つ、すなわちイソシアネート反応性官能基1つに相当する。1000を超える指数では、OH基よりも多いイソシアネート基が存在する。TPUは、公知の方法、例えば、反応性押出機若しくはベルト法を用いて「ワンショット」法若しくはプレポリマー法によって連続的に、又は、公知のプレポリマー法によって不連続的に製造されてよい。これらの方法では、反応させる成分は、反応の即時の開始と共に、連続的に又は同時に、互いに混合されてよい。押出機法では、構成単位成分並びに任意で触媒及び/又はさらなる補助物質及び添加物質を、個別に又は混合物として、例えば100℃~280℃、好ましくは140℃~250℃の温度で押出機に導入し、得られたTPUを押出し、冷却し、ペレット化する。
【0029】
熱可塑性ポリウレタンの製造のために使用される触媒及び助剤又は添加物質は、それ自体が当業者に知られている。
【0030】
好ましい実施形態では、特にジイソシアネートのNCO基と、イソシアネート反応性化合物のヒドロキシル基と、鎖延長剤との間の反応を促進させる触媒は、第3級アミン、特にトリエチルアミン、ジメチルシクロヘキシルアミン、N-メチルモルホリン、N,N’-ジメチルピペラジン、2-(ジメチルアミノエトキシ)エタノール、ジアザビシクロ[2.2.2]オクタンであり;他の好ましい実施形態においては、これらは、有機金属化合物、例えばチタン酸エステル、鉄化合物、好ましくは鉄(III)アセチルアセトネート、スズ化合物、好ましくはスズジアセテート、スズジオクトエート、スズジラウレート又は脂肪族カルボン酸のジアルキルスズ塩、好ましくはジブチルスズジアセテート、ジブチルスズジラウレート又はビスマス塩であり、該ビスマス塩において、ビスマスは好ましくは酸化状態2又は3、特に3である。カルボン酸の塩が好ましい。好ましくは使用されるカルボン酸は、6個~14個の炭素原子を有するカルボン酸、特に好ましくは8個~12個の炭素原子を有するカルボン酸である。適切なビスマス塩の例は、ネオデカン酸ビスマス(III)、2-エチルヘキサン酸ビスマス及びオクタン酸ビスマスである。
【0031】
触媒は、好ましくは、イソシアネート反応性化合物100質量部あたり0.0001~0.1質量部の量で使用される。スズ触媒、特にスズジオクトエートを使用することが好ましい。
【0032】
触媒に加えて、通常の補助剤を使用することも可能である。例としては、表面活性物質、充填剤、さらなる難燃剤、核剤、酸化安定剤、潤滑及び離型助剤、染料及び顔料、例えば加水分解、光、熱又は変色に抗する任意の安定剤、無機及び/又は有機の充填剤、強化剤並びに、可塑剤を含む。適切な補助物質及び/又は添加物質は、例えば、Vieweg及びHoechtlenによって編集された、Kunststoffhandbuch,第7章,Carl Hanser出版,Munich 1966年(103~113頁)に記載されている。
【0033】
熱可塑性ポリウレタンの製造方法は、例えば、EP0922552A1、DE10103424A1又はWO2006/072461A1に開示されている。製造は、典型的にはベルト装置又は反応性押出機で行われるが、実験室規模、例えば手動キャスティング法でも行われる。成分の物理的性質に応じて、これら成分はすべて互いに直接混合されるか、又は個々の成分が、例えばプレポリマーを提供するように予混合され及び/又は予反応され、その後初めて、重付加を受ける。さらなる実施形態では、まず、熱可塑性ポリウレタンが構成単位成分から、任意に触媒とともに、補助剤も任意に組み込まれたものから製造される。均質な分配は、好ましくは押出機、好ましくは二軸押出機で行われる。
【0034】
本発明による熱可塑性ポリウレタンを製造するために、構成単位成分を、好ましくは触媒及び任意に補助剤及び/又は添加剤の存在下で、典型的には、ジイソシアネートのNCO基と使用される成分のヒドロキシル基の総量との当量比が0.95から1.05:1、好ましくは0.98から1.00:1、より好ましくは0.992から0.998:1であるような量で、反応させる。
【0035】
好ましくは、本発明によって製造される熱可塑性ポリウレタンは、50000~200000ダルトンの範囲、好ましくは80000~120000ダルトンの範囲の平均分子量(Mw)を有する熱可塑性ポリウレタンである。熱可塑性ポリウレタンの平均分子量(Mw)の上限は、一般に、所望の特性のスペクトルと同様に加工性によって決定される。
【0036】
驚くべきことに、本発明による成分の組み合わせは、特にスキー靴又はスキー靴の部品の製造における使用に、最適化された特性プロファイルを有する本発明による組成物を生じることが判明した。特に、驚くべきことに、弾性率が温度による変化をほとんど受けないことが判明した。これは、スキーブーツが異なる温度で同じ剛性を示すので、有利である。
【0037】
さらなる態様では、本発明はしたがって、スキー靴又はスキー靴の部品を製造する方法にも関し、以下の工程を含む。
(i)MDIを含むイソシアネート組成物(IZ)とポリオール組成物(PZ)との反応によって得られた又は得ることができる熱可塑性ポリウレタン(TPU-1)を提供する工程であって、
前記ポリオール組成物(PZ)は、少なくとも1つのポリオール(P1)と鎖延長剤(KV1)とを含み、
前記ポリオール(P1)は、1200~2000g/molの範囲の平均分子量Mnを有するポリテトラヒドロフランから選択され、前記鎖延長剤(KV1)は、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール及び1,6-ヘキサンジオールからなる群から選択される、工程;
(ii)前記熱可塑性ポリウレタン(TPU-1)からスキー靴又はスキー靴の部品を製造する工程。
【0038】
工程(ii)の製造は、それ自体慣例的な方法を使用して、好ましくは射出成形によって、行われてよい。さらなる実施形態では、本発明はしたがって、熱可塑性ポリウレタン(TPU-1)が、工程(ii)による射出成形によって処理される、上述された方法にも関する。
【0039】
さらに、本発明はまた、スキー靴又はスキー靴の部品の製造のための、MDIを含むイソシアネート組成物(IZ)とポリオール組成物(PZ)との反応によって得られた又は得ることができる熱可塑性ポリウレタン(TPU-1)の使用にも関し、ここで該ポリオール組成物(PZ)は、少なくとも1つのポリオール(P1)と鎖延長剤(KV1)とを含み、該ポリオール(P1)は、1200~2000g/molの範囲の平均分子量Mnを有するポリテトラヒドロフランから選択され、該鎖延長剤(KV1)は、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール及び1,6-ヘキサンジオールからなる群から選択される。
【0040】
好ましい実施形態に関して、好ましく使用される成分に関する上記説明は、参照により本明細書に組み込まれる。
【0041】
本発明はさらに、上述の熱可塑性ポリウレタンを基にしたスキー靴、好ましくはスキーブーツ、特に好ましくはスキーブーツのアウターシェルに関する。さらに、本発明は、スキー靴、好ましくはスキーブーツ、特に好ましくはスキーブーツのアウターシェルの製造方法に関し、ここで、本発明による熱可塑性ポリウレタンは、スキー靴、好ましくはスキーブーツ、特に好ましくはスキーブーツのアウターシェルを得るように射出成形によって処理される。
【0042】
本発明による熱可塑性ポリウレタンは、スキー靴、好ましくはスキーブーツ、特に好ましくはスキーブーツのアウターシェル、スキーブーツのかかと、スキーブーツのシャフト用カフ、及び装飾要素の製造に使用される。慣例の射出成形方法を用いたこれらの製品の製造は公知である。
【0043】
さらなる態様では、本発明は、したがって、上述された方法によって得られた又は得ることができるスキー靴又はスキー靴の部品にも関する。好ましい実施形態に関して、上記の説明は、参照によりここに組み込まれる。
【0044】
本発明のさらなる実施形態は、特許請求の範囲及び実施例から明らかである。上記に列挙され、以下で解明される本発明による主題/方法、又は本発明による使用の特徴は、それぞれの場合に指定された組み合わせだけでなく、本発明の範囲から逸脱しない他の組み合わせでも使用することができることが理解されるであろう。したがって、例えば、好ましい特徴と特に好ましい特徴との組み合わせ、又は、さらに特徴づけられていない特徴と特に好ましい特徴等との組み合わせは、このようにして、この組み合わせが明示的に言及されていなくても、暗黙的に包含される。
【0045】
本発明の例示的な実施形態を以下に記述するが、本発明を限定することを意図するものではない。特に、本発明はまた、従属の参照に起因する実施形態、したがって、以下に指定される組み合わせも包含する。
【0046】
実施形態1.MDIを含むイソシアネート組成物(IZ)とポリオール組成物(PZ)との反応によって得られた又は得ることができる熱可塑性ポリウレタン(TPU-1)であって、
前記ポリオール組成物(PZ)は、少なくとも1つのポリオール(P1)と鎖延長剤(KV1)とを含み、
前記ポリオール(P1)は、1200~2000g/molの範囲の平均分子量Mnを有するポリテトラヒドロフランから選択され、前記鎖延長剤(KV1)は、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール及び1,6-ヘキサンジオールからなる群から選択される、熱可塑性ポリウレタン(TPU-1)。
【0047】
実施形態2.前記ポリオール(P1)が、1300~1700g/molの範囲の平均分子量Mnを有するポリテトラヒドロフランから選択される、実施形態1による熱可塑性ポリウレタン。
【0048】
実施形態3.前記鎖延長剤(KV1)が1,4-ブタンジオールである、実施形態1又は2による熱可塑性ポリウレタン。
【0049】
実施形態4.前記熱可塑性ポリウレタンは、0.40より大きい硬質相分率を有し、該硬質相分率は以下の式で定義され、
【数2】
該式は以下の定義:
M
KVx:鎖延長剤xのモル質量(g/mol)
m
KVx:鎖延長剤xの質量(g)
M
Iso:使用されるイソシアネートのモル質量(g/mol)
m
ges:全出発物質の総質量(g)
x:鎖延長剤の数
を有する、実施形態1~3のいずれかによる熱可塑性ポリウレタン。
【0050】
実施形態5.スキー靴又はスキー靴の部品を製造する方法であって、以下の工程、
(i)MDIを含むイソシアネート組成物(IZ)とポリオール組成物(PZ)との反応によって得られた又は得ることができる熱可塑性ポリウレタン(TPU-1)を提供する工程であって、
前記ポリオール組成物(PZ)は、少なくとも1つのポリオール(P1)と鎖延長剤(KV1)とを含み、
前記ポリオール(P1)は、1200~2000g/molの範囲の平均分子量Mnを有するポリテトラヒドロフランから選択され、前記鎖延長剤(KV1)は、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール及び1,6-ヘキサンジオールからなる群から選択される、工程;
(ii)前記熱可塑性ポリウレタン(TPU-1)からスキー靴又はスキー靴の部品を製造する工程、
を含む、方法。
【0051】
実施形態6.前記熱可塑性ポリウレタン(TPU-1)は、工程(ii)による射出成形によって処理される、実施形態5による方法。
【0052】
実施形態7.前記ポリオール(P1)が、1300~1700g/molの範囲の平均分子量Mnを有するポリテトラヒドロフランから選択される、実施形態5又は6による方法。
【0053】
実施形態8.前記鎖延長剤(KV1)が、1,4-ブタンジオールである、実施形態5~7のいずれかによる方法。
【0054】
実施形態9.前記熱可塑性ポリウレタンは、0.40より大きい硬質相分率を有し、該硬質相分率は以下の式で定義され、
【数3】
該式は以下の定義:
M
KVx:鎖延長剤xのモル質量(g/mol)
m
KVx:鎖延長剤xの質量(g)
M
Iso:使用されるイソシアネートのモル質量(g/mol)
m
ges:全出発物質の総質量(g)
x:鎖延長剤の数
を有する、実施形態5~8のいずれかによる方法。
【0055】
実施形態10.実施形態5~9のいずれかによる方法によって得られた又は得ることができるスキー靴又はスキー靴の部品。
【0056】
実施形態11.前記熱可塑性ポリウレタンは、10kJ/m2より大きいDIN EN ISO 179-1/1 eAによる-30℃におけるシャルピーのノッチ付き衝撃強度を有している、実施形態10によるスキー靴又はスキー靴の部品。
【0057】
実施形態12.スキー靴又はスキー靴の部品の製造のための、MDIを含むイソシアネート組成物(IZ)とポリオール組成物(PZ)との反応によって得られた又は得ることができる熱可塑性ポリウレタン(TPU-1)の使用であって、
前記ポリオール組成物(PZ)は、少なくとも1つのポリオール(P1)と鎖延長剤(KV1)とを含み、
前記ポリオール(P1)は、1200~2000g/molの範囲の平均分子量Mnを有するポリテトラヒドロフランから選択され、前記鎖延長剤(KV1)は、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール及び1,6-ヘキサンジオールからなる群から選択される、熱可塑性ポリウレタン(TPU-1)の使用。
【0058】
実施形態13.前記ポリオール(P1)は、1300~1700g/molの範囲の平均分子量Mnを有するポリテトラヒドロフランから選択される、実施形態12による使用。
【0059】
実施形態14.前記鎖延長剤(KV1)は、1,4-ブタンジオールである、実施形態12又は13による使用。
【0060】
実施形態15.前記熱可塑性ポリウレタンは0.40より大きい硬質相分率を有し、前記硬質相分率は以下の式で定義され、
【数4】
該式は以下の定義:
M
KVx:鎖延長剤xのモル質量(g/mol)
m
KVx:鎖延長剤xの質量(g)
M
Iso:使用されるイソシアネートのモル質量(g/mol)
m
ges:全出発物質の総質量(g)
x:鎖延長剤の数
を有する、実施形態12~14のいずれかによる使用。
【0061】
以下の実施例は、本発明を説明することを意図しており、決して本発明の主題を制限することを意図するものではない。
【実施例】
【0062】
1.実施例1-原材料
ポリPTHF(登録商標)1000:ポリテトラヒドロフラン1000、CAS番号:25190-06-1、BASF SE、67056 ルートヴィヒスハーフェン,ドイツ,中間体事業部。
【0063】
ポリPTHF(登録商標)2000:ポリテトラヒドロフラン2000、CAS番号:25190-06-1、BASF SE、67056 ルートヴィヒスハーフェン,ドイツ,中間体事業部。
【0064】
1,4-ブタンジオール:ブタン-1,4-ジオール、CAS番号:110-63-4、BASF SE、67056 ルートヴィヒスハーフェン,ドイツ,中間体事業部。
【0065】
ルプラナートMET:4,4’-メチレンジフェニルジイソシアネート、CAS番号:101-68-8、BASF SE、67056 ルートヴィヒスハーフェン,ドイツ。
【0066】
カラーマスターバッチ 1:Elastollan Konz 315 F(赤),BASF ポリウレタン GmbH,エラストグラン通り 60,49448 レムフェルデ
カラーマスターバッチ2:Elastollan Konz 530/1(青)、BASF ポリウレタン GmbH,エラストグラン通り 60,49448 レムフェルデ
【0067】
2.実施例2-材料の製造
材料A~Nを、12のバレルに分割された48Dスクリューを有するWerner and Pfleiderer StuttgartからのZSK58二軸スクリュー押出機を用いて製造した。ペレット化は、Gala(UWG)からの通常の水中ペレット化装置を使用して実施した。個々の材料の配合を表1にまとめた。
【0068】
ポリオール成分の平均モル質量が2000ダルトンより大きいTPU材料は製造できなかった。
【0069】
3.特性の決定
射出成形体の機械的特性を測定した。密度はDIN EN ISO 1183-1(A)に従って、硬度はDIN 53505に従って、引張強度、破断伸び及び弾性率はDIN EN ISO 527に従って、引裂伝播抵抗はDIN ISO 34-1,B(b)に従って、ノッチ付き衝撃強度はDIN EN ISO 179-1/1eAに従って、摩耗はDIN 53516に従って測定された。
【0070】
個々の材料の特性を表1にまとめる。
【0071】
4.低温でのノッチ付き衝撃強度
表1の本発明の実施例(EB)は、1400~1700の範囲の平均モル質量を有するPTHFを使用することで、低温での高い衝撃強度を持つ材料が得られることを示している。20℃でほぼ同一の剛性を有する材料と比較した。
【0072】
したがって、例えば、本発明の材料Jについては、-30℃で117kJ/m2のノッチ付き衝撃強度が測定され、一方、非発明の材料Kについては、-30℃で8kJ/m2のノッチ付き衝撃強度が決定された。
【0073】
同様に、本発明の材料A及びEを、例えば、非発明の材料Dと比較することができる。材料Aについては、120kJ/m2のノッチ付き衝撃強度が-30℃で測定され、一方、非発明の材料Dについては、9kJ/m2のノッチ付き衝撃強度が-30℃で決定された。材料Aについては、110kJ/m2のノッチ付き衝撃強度が-20℃で測定され、一方、非発明の材料Dについては、15kJ/m2のノッチ付き衝撃強度が-20℃で決定された。
【0074】
さらに、すべて53%の硬質相分率を有する実施例D~Iは、1400~1700の範囲の平均モル質量のPTHFを有する本発明の材料(E~I)の-30℃におけるノッチ付き衝撃強度が常に20kJ/m2より大きいことを示している。20℃における弾性率がはるかに低いにもかかわらず、非発明の実施例Dは、-30℃でのノッチ付き衝撃強度が20kJ/m2を著しく下回っている。
5.低温での硬化
表1の本発明の実施例(EB)は、1400~1700の範囲の平均モル質量を有するPTHFを使用することにより、低温では剛性(弾性率)が穏やかにしか増加しない材料が得られることを示している。20℃でほぼ同一の剛性を有する材料と比較した。
【0075】
このように、例えば、本発明の材料Jについては、180%の弾性率の増加は20℃から-30℃になる間に記録され、一方、非発明の材料Kについては、340%の増加が決定される。
【0076】
同様に、本発明の材料Aは、例えば、非発明の材料Dと比較することができる。本発明の材料Aについては、260%の弾性率の増加は20℃から-30℃になるまでの間に記録され、一方、非発明の材料Dについては、660%の弾性率の増加が決定される。
【0077】
【0078】
【表2】
n.d.-決定しなかった
(*)着色性の評価:
1-非常に良い
2-良い
3-十分
4-適切
5-不適切
【0079】
引用文献
WO2007/118827A1
Kunststoffhandbuch,第7章,Vieweg及びHoechtlen編集,Carl Hanser出版、Munich 1966年(103~113頁)
EP0922552A1
DE10103424A1
WO2006/072461A1