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特許7368977難燃性ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-17
(45)【発行日】2023-10-25
(54)【発明の名称】難燃性ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
   C08L 67/03 20060101AFI20231018BHJP
   C08K 3/01 20180101ALI20231018BHJP
   C08K 3/10 20180101ALI20231018BHJP
   C08K 3/20 20060101ALI20231018BHJP
   C08K 3/24 20060101ALI20231018BHJP
   C08K 3/34 20060101ALI20231018BHJP
   C08K 5/16 20060101ALI20231018BHJP
   C08L 13/00 20060101ALI20231018BHJP
   C08L 23/08 20060101ALI20231018BHJP
   C08L 63/00 20060101ALI20231018BHJP
【FI】
C08L67/03
C08K3/01
C08K3/10
C08K3/20
C08K3/24
C08K3/34
C08K5/16
C08L13/00
C08L23/08
C08L63/00 C
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019140902
(22)【出願日】2019-07-31
(65)【公開番号】P2021024878
(43)【公開日】2021-02-22
【審査請求日】2022-02-04
(73)【特許権者】
【識別番号】390006323
【氏名又は名称】ポリプラスチックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】五島 一也
(72)【発明者】
【氏名】牛島 隆二
【審査官】古妻 泰一
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2007/007663(WO,A1)
【文献】特表2006-515035(JP,A)
【文献】日本難燃剤協会 会員各社商品紹介,2022年11月28日,https://www.frcj.jp/2015/company/company05.html
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 67/03
C08L 63/00
C08L 23/02
C08K 5/16
C08K 3/34
C08K 3/20
C08K 3/24
C08K 3/01
C08K 3/10
C08L 13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂100質量部と、
(B)トルエン、メチルイソブチルケトン、メチルエチルケトン、アセトンからなる群から選択される有機溶媒の含有量が50ppm以下であり、エポキシ当量が30,000g/eq以上であるハロゲン化エポキシ系難燃剤と、
(C)オレフィン系エラストマ、アクリル系コアシェル型エラストマ、直鎖状ポリオレフィン樹脂、及びこれらの組み合わせから選択される1種以上の耐トラッキング性向上用樹脂5~100質量部と、
(D)タルク、マイカ、無機金属化合物、及びこれらの組み合わせから選ばれる1種以上の耐トラッキング性向上用充填剤0~100質量部と、
(E)トリアジン化合物、ベンゾグアニン化合物、トリス(ヒドロキシアルキル)イソシアヌレートのテレフタル酸エステル化合物、アラントイン化合物、グリコールウリル化合物、及びこれらの組み合わせから選択される1種以上の窒素系化合物0~80質量部とを含有する難燃性ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物であって、
組成物全体におけるエポキシ基の総含有量が0.0155mol/kg以下であることを特徴とする、難燃性ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物。
【請求項2】
(B)ハロゲン化エポキシ系難燃剤の含有量が、(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂100質量部に対し、3~50質量部である、請求項1に記載の難燃性ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物。
【請求項3】
(B)ハロゲン化エポキシ系難燃剤が臭素化エポキシ系難燃剤である、請求項1または2に記載の難燃性ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物。
【請求項4】
五酸化アンチモン、三酸化アンチモン、アンチモン酸ナトリウムからなる群から選択される難燃助剤をさらに含有する、請求項1からのいずれか一項に記載の難燃性ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物。
【請求項5】
請求項1からのいずれか一項に記載の難燃性ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物を射出成形してなる成形品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、難燃性ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物、およびその成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリブチレンテレフタレート樹脂(PBT樹脂)は、機械的特性、電気的特性、耐熱性など各種特性に優れるため、エンジニアリングプラスチックとして自動車部品や電気・電子機器部品など種々の用途に広く利用されている。これらのうち、電気・電子機器部品用途では、トラッキング等による発火を防ぐため、使用される材料には難燃性が要求されている。ポリブチレンテレフタレート樹脂は、それ自体では難燃性が不足するため、難燃剤を添加した難燃性樹脂組成物として使用されている。
【0003】
このようなポリブチレンテレフタレート樹脂に添加される難燃剤の一種として、ハロゲン化エポキシ系難燃剤があり、特許文献1には、臭素化エポキシ化合物系難燃剤の製造方法が紹介されている。この製造方法は、芳香核含有アルコール類のジグリシジルエーテル、多価フェノール類のジ-もしくはポリグリシジルエーテル、芳香族二塩基酸のジグリシジルエステル、アルキルフェノール類のモノグリシジルエーテル、ヒドロキシ安息香酸のモノグリシジルエーテルエステル、p-アミノフェノールの(β-メチル)エピクロルヒドリン付加生成物、または芳香族ジ-もしくはポリアミン類などをベースとするポリグリシジルアミンなどの芳香族を有するエポキシ化合物、あるいはそれらの前駆体であるクロルヒドリン化合物に対して臭素添加による臭素化を行い、得られた臭素化ブロムヒドリン化合物または臭素化クロルヒドリン化合物を、アルカリ金属の水酸化物を用いて、脱臭化水素または脱塩化水素を経て閉環エポキシ化することを特徴としている。
【0004】
また特許文献2には、エンジニアリング熱可塑性プラスチック用の臭素化エポキシ化合物系難燃剤が紹介されている。この難燃剤の分子量は7,000~50,000ダルトンであり、エポキシ当量は10,000g/eqを超えることが好ましいとされている。
【0005】
さらに臭素化エポキシ化合物系難燃剤は、それ自体の反応により増粘しうることが知られており、溶融混練時の増粘によりスクリューへの付着物が生成し、その炭化物が成形品に混入することによる黒色異物(BS:Black Speck)の発生を抑制するため、分子量やエポキシ当量の範囲を調整するということがなされていた。例えば特許文献3では、エポキシ当量が600~1500g/eqのエポキシ化合物を用いることにより、ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物の成形品における黒色異物(炭化物)の発生を抑制できることが紹介されている。このような黒色異物(炭化物)は、成形品の外観を悪化させるのみならず、成形品表面の炭化による導電経路の生成を助長し、耐トラッキング性を低下させるおそれがあるため、これを抑制することが要求される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特公昭60-016952号
【文献】特許第5143419号
【文献】特許第6100983号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、難燃剤として、ハロゲン化芳香族エポキシ系難燃剤を含む難燃性ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物において、黒色異物(炭化物)の混入を抑制し、高い耐トラッキング性を有する難燃性ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物を得ることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記の課題を解決するための研究の過程において鋭意検討の結果、難燃剤としてハロゲン化芳香族エポキシ系難燃剤を用い、特定の耐トラッキング性向上用樹脂を含む難燃性ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物において、ハロゲン化エポキシ系難燃剤中の有機溶媒の含有量を一定量以下とし、かつ難燃性ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物全体におけるエポキシ基の総含有量を一定量以下とすることにより上記の課題を解決できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0009】
すなわち、本発明は以下の(1)~(6)に関する。
(1)(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂100質量部と、(B)トルエン、メチルイソブチルケトン、メチルエチルケトン、アセトンからなる群から選択される有機溶媒の含有量が50ppm以下であるハロゲン化エポキシ系難燃剤と、(C)オレフィン系エラストマ、アクリル系コアシェル型エラストマ、直鎖状ポリオレフィン樹脂、及びこれらの組み合わせから選択される1種以上の耐トラッキング性向上用樹脂5~100質量部と、(D)タルク、マイカ、無機金属化合物、及びこれらの組み合わせから選ばれる1種以上の耐トラッキング性向上用充填剤0~100質量部と、(E)トリアジン化合物、ベンゾグアニン化合物、トリス(ヒドロキシアルキル)イソシアヌレートのテレフタル酸エステル化合物、アラントイン化合物、グリコールウリル化合物、及びこれらの組み合わせから選択される1種以上の窒素系化合物0~80質量部とを含有する難燃性ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物であって、組成物全体におけるエポキシ基の総含有量が0.0155mol/kg以下であることを特徴とする、難燃性ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物。
(2)(B)ハロゲン化エポキシ系難燃剤のエポキシ当量が30,000g/eq以上である、(1)に記載の難燃性ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物。
(3)(B)ハロゲン化エポキシ系難燃剤の含有量が、ポリブチレンテレフタレート樹脂100質量部に対し、3~50質量部である、(1)または(2)に記載の難燃性ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物。
(4)(B)ハロゲン化エポキシ系難燃剤が臭素化エポキシ系難燃剤である、(1)から(3)のいずれかに記載の難燃性ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物。
(5)五酸化アンチモン、三酸化アンチモン、アンチモン酸ナトリウムからなる群から選択される難燃助剤をさらに含有する、(1)から(4)のいずれかに記載の難燃性ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物。
(6)(1)から(5)のいずれかに記載の難燃性ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物を射出成形してなる成形品。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、難燃剤としてハロゲン化エポキシ系難燃剤を用いるポリブチレンテレフタレート樹脂組成物において、当該難燃剤中の有機溶媒の含有量を一定量以下とし、かつ難燃性ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物全体におけるエポキシ基の総含有量を一定量以下とすることで、当該難燃性ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物を用いた成形品中への黒色異物(炭化物)の混入を抑制した、耐トラッキング性に優れる難燃性ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の一実施形態について詳細に説明する。本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の効果を阻害しない範囲で適宜変更を加えて実施することができる。
【0012】
[難燃性ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物]
以下、本実施形態の難燃性ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物の各成分の詳細を例を挙げて説明する。
【0013】
((A)ポリブチレンテレフタレート樹脂)
(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂(PBT樹脂)は、少なくともテレフタル酸又はそのエステル形成性誘導体(C1-6のアルキルエステルや酸ハロゲン化物等)を含むジカルボン酸成分と、少なくとも炭素原子数4のアルキレングリコール(1,4-ブタンジオール)又はそのエステル形成性誘導体(アセチル化物等)を含むグリコール成分とを重縮合して得られるポリブチレンテレフタレート樹脂である。本実施形態において、(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂はホモポリブチレンテレフタレート樹脂に限らず、ブチレンテレフタレート単位を60モル%以上含有する共重合体であってもよい。
【0014】
(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂の末端カルボキシル基量は、本発明の目的を阻害しない限り特に限定されないが、30meq/kg以下が好ましく、25meq/kg以下がより好ましい。
【0015】
(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂の固有粘度は本発明の目的を阻害しない範囲で特に制限されないが、0.60dL/g以上1.2dL/g以下であるのが好ましく、0.65dL/g以上0.9dL/g以下であるのがより好ましい。このような範囲の固有粘度のポリブチレンテレフタレート樹脂を用いる場合には、得られるポリブチレンテレフタレート樹脂組成物が特に成形性に優れたものとなる。また、異なる固有粘度を有するポリブチレンテレフタレート樹脂をブレンドして、固有粘度を調整することもできる。例えば、固有粘度1.0dL/gのポリブチレンテレフタレート樹脂と固有粘度0.7dL/gのポリブチレンテレフタレート樹脂とをブレンドすることにより、固有粘度0.9dL/gのポリブチレンテレフタレート樹脂を調製することができる。ポリブチレンテレフタレート樹脂の固有粘度は、例えば、o-クロロフェノール中で温度35℃の条件で測定することができる。
【0016】
(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂の調製において、コモノマー成分としてテレフタル酸以外の芳香族ジカルボン酸又はそのエステル形成性誘導体を用いる場合、例えば、イソフタル酸、フタル酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、4,4’-ジカルボキシジフェニルエーテル等のC8-14の芳香族ジカルボン酸;コハク酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸等のC4-16のアルカンジカルボン酸;シクロヘキサンジカルボン酸等のC5-10のシクロアルカンジカルボン酸;これらのジカルボン酸成分のエステル形成性誘導体(C1-6のアルキルエステル誘導体や酸ハロゲン化物等)を用いることができる。これらのジカルボン酸成分は、単独で又は2種以上を組み合わせて使用できる。
【0017】
これらのジカルボン酸成分の中では、イソフタル酸等のC8-12の芳香族ジカルボン酸、及び、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸等のC6-12のアルカンジカルボン酸がより好ましい。
【0018】
(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂の調製において、コモノマー成分として1,4-ブタンジオール以外のグリコール成分を用いる場合、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、トリメチレングリコール、1,3-ブチレングリコール、ヘキサメチレングリコール、ネオペンチルグリコール、1,3-オクタンジオール等のC2-10のアルキレングリコール;ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ジプロピレングリコール等のポリオキシアルキレングリコール;シクロヘキサンジメタノール、水素化ビスフェノールA等の脂環式ジオール;ビスフェノールA、4,4’-ジヒドロキシビフェニル等の芳香族ジオール;ビスフェノールAのエチレンオキサイド2モル付加体、ビスフェノールAのプロピレンオキサイド3モル付加体等の、ビスフェノールAのC2-4のアルキレンオキサイド付加体;又はこれらのグリコールのエステル形成性誘導体(アセチル化物等)を用いることができる。これらのグリコール成分は、単独で又は2種以上を組み合わせて使用できる。
【0019】
これらのグリコール成分の中では、エチレングリコール、トリメチレングリコール等のC2-6のアルキレングリコール、ジエチレングリコール等のポリオキシアルキレングリコール、又は、シクロヘキサンジメタノール等の脂環式ジオール等がより好ましい。
【0020】
ジカルボン酸成分及びグリコール成分の他に使用できるコモノマー成分としては、例えば、4-ヒドロキシ安息香酸、3-ヒドロキシ安息香酸、6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸、4-カルボキシ-4’-ヒドロキシビフェニル等の芳香族ヒドロキシカルボン酸;グリコール酸、ヒドロキシカプロン酸等の脂肪族ヒドロキシカルボン酸;プロピオラクトン、ブチロラクトン、バレロラクトン、カプロラクトン(ε-カプロラクトン等)等のC3-12ラクトン;これらのコモノマー成分のエステル形成性誘導体(C1-6のアルキルエステル誘導体、酸ハロゲン化物、アセチル化物等)が挙げられる。
【0021】
(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂の含有量は、樹脂組成物の全質量の10~90質量%であることが好ましく、20~80質量%であることがより好ましく、30~70質量%であることがさらに好ましい。
【0022】
((B)ハロゲン化エポキシ系難燃剤)
本発明のハロゲン化エポキシ系難燃剤に用いられるエポキシ化合物は、1分子中にエポキシ基を1つ以上含有している。エポキシ化合物としては、熱安定性と耐加水分解性を高める観点から、芳香族エポキシ化合物を用いることが好ましい。芳香族エポキシ化合物の例としては、ビフェニル型エポキシ化合物、ビスフェノールA型エポキシ化合物、フェノールノボラック型エポキシ化合物、クレゾールノボラック型エポキシ化合物などが挙げられる。 またエポキシ化合物として、2種以上の化合物を任意に組み合わせて使用することも可能である。
【0023】
上記のエポキシ化合物のエポキシ当量は30,000g/当量(g/eq)以上であることが好ましく、32,000g/eq以上であることがより好ましく、34,000g/eq以上であることがさらに好ましく、36,000g/eq以上であることがよりさらに好ましく、36,500g/eq以上であることが特に好ましい。エポキシ当量をこの範囲にすることにより、本発明の難燃性ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物から得られた成形品の外観を良好なものとすることができ、成形時の押出機や成形機のスクリューへの付着物の発生を抑制することができる。また、本発明の難燃性ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物から得られた成形品の機械的特性を良好な値とすることができる。
【0024】
また、本発明のハロゲン化エポキシ系難燃剤は、臭素化エポキシ系難燃剤であることが好ましい。
【0025】
上述した通り、本発明のハロゲン化エポキシ系難燃剤中のトルエン、メチルイソブチルケトン、メチルエチルケトン、アセトンからなる群から選択される有機溶媒の含有量は50ppm以下である。また、有機溶媒の含有量は40ppm以下であることが好ましく、30ppm以下であることがより好ましく、20ppm以下であることがさらに好ましく、10ppm以下であることがよりさらに好ましく、8ppm以下であることが特に好ましい。ハロゲン化エポキシ系難燃剤中の有機溶媒の含有量をこの範囲にすることにより、本発明の難燃性ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物から得られた成形品の外観を良好なものとすることができ、成形時の押出機や成形機のスクリューへの付着物の発生、ひいてはその炭化物の混入を抑制することができる。また、本発明の難燃性ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物から得られた成形品の機械的特性を良好な値とすることができる。
【0026】
(難燃性ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物全体におけるエポキシ基の総含有量)
上述した通り、本発明の難燃性ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物全体におけるエポキシ基の総含有量は、0.0155mol/kg以下である。また、組成物全体におけるエポキシ基の総含有量は、0.0150mol/kg以下であることが好ましく、0.0145mol/kg以下であることがより好ましく、0.0130mol/kg以下であることがよりさらに好ましく、0.0100mol/kg以下であることが特に好ましい。難燃性ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物全体におけるエポキシ基の総含有量をこの範囲にすることにより、本発明の難燃性ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物から得られた成形品の外観を良好なものとすることができ、成形時の押出機や成形機のスクリューへの付着物の発生、ひいてはその炭化物の混入を抑制することができる。また、本発明の難燃性ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物から得られた成形品の機械的特性を良好な値とすることができる。
【0027】
(難燃助剤)
本発明の難燃性ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物は、難燃助剤をさらに含有することが好ましい。難燃助剤としては特に限定されないが、五酸化アンチモン、三酸化アンチモン、アンチモン酸ナトリウムからなる群から選択される難燃助剤が好ましく、五酸化アンチモン、三酸化アンチモンがより好ましい。
【0028】
さらに、燃焼した樹脂が滴下することによる延焼を防ぐ目的で、ポリテトラフルオロエチレン等の滴下防止剤をあわせて使用することも好ましい。
【0029】
上記のハロゲン化エポキシ系難燃剤及び難燃助剤の樹脂に対する添加の範囲は、ポリブチレンテレフタレート樹脂100質量部に対して前記ハロゲン化エポキシ系難燃剤3~50質量部であることが好ましく、5~40質量部であることがより好ましく、10~30質量部であることがさらに好ましい。なお、エポキシ基の総含有量は、ハロゲン化エポキシ系難燃剤以外に、安定剤等として添加するエポキシ系化合物(エポキシ樹脂等)の含有量を考慮して決定すれば良い。また、難燃助剤は1~40質量部の範囲が好ましい。ハロゲン化エポキシ系難燃剤及び難燃助剤の添加量が過少であると十分な難燃性を付与することができず、過大であると成形品としての機械的特性を悪化させることがある。
【0030】
((C)耐トラッキング性向上用樹脂)
本発明の難燃性ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物には、耐トラッキング性を向上させるために、(C)耐トラッキング性向上用樹脂が補助的に添加される。
【0031】
(C)耐トラッキング性向上用樹脂としては、耐トラッキング性が高いのみならず、(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂との加工温度が近く、相溶性の良い樹脂を用いることができる。このような(C)耐トラッキング性向上用樹脂としては、オレフィン系エラストマ、アクリル系コアシェル型エラストマ、直鎖状ポリオレフィン樹脂、及びこれらの組み合わせを挙げることができる。
【0032】
オレフィン系エラストマとしては、例えば、エチレン-プロピレン共重合体(EP共重合体)、エチレン-ブテン共重合体、エチレン-オクテン共重合体、エチレン-プロピレン-ジエン共重合体(EPD共重合体)、エチレン-プロピレン-ブテン共重合体、エチレン-酢酸ビニル共重合体、EP共重合体およびEPD共重合体から選択された少なくとも一種の単位を含む共重合体、オレフィンと(メタ)アクリル系単量体との共重合体(エチレン-エチルアクリレート共重合体、エチレン-グリシジルメタクリレート共重合体等)などが含まれる。好ましいオレフィン系エラストマには、EP共重合体、EPD共重合体、オレフィンと(メタ)アクリル系単量体との共重合体が含まれ、特にエチレンエチルアクリレートが好ましい。これらのオレフィン系エラストマは単独でまたは二種以上組み合わせて使用することができる。
【0033】
アクリル系コアシェル型エラストマは、コア層がゴム成分(軟質成分)、シェル層が硬質成分で構成されるポリマーであり、コア層のゴム成分にアクリル系ゴムを用いるものである。コア層に用いるアクリル系ゴムは、ガラス転移温度(Tg)が0℃未満(例えば-10℃以下)であるのが好ましく、-20℃以下(例えば-180℃以上-25℃以下)であるのがより好ましく、-30℃以下(例えば-150℃以上-40℃以下)であるのが特に好ましい。
【0034】
ゴム成分として用いるアクリル系ゴムは、アルキルアクリレート等のアクリル系モノマーを主成分として重合して得られる重合体が好ましい。アクリル系ゴムのモノマーとして用いるアルキルアクリレートは、ブチルアクリレート等のアクリル酸のC1~C12のアルキルエステルが好ましく、アクリル酸のC~Cのアルキルエステルがより好ましい。
【0035】
アクリル系ゴムは、アクリル系モノマーの単独重合体でもよく、共重合体でもよい。アクリル系ゴムがアクリル系モノマーの共重合体である場合、アクリル系モノマー同士の共重合体でも、アクリル系モノマーと他の不飽和結合含有モノマーとの共重合体であってもよい。アクリル系ゴムが共重合体である場合、アクリル系ゴムは架橋性モノマーを共重合したものであってもよい。
【0036】
シェル層には、ビニル系重合体が好ましく用いられる。ビニル系重合体は、例えば、芳香族ビニル単量体、シアン化ビニル単量体、メタクリル酸エステル系単量体、及びアクリル酸エステル単量体の中から選ばれた少なくとも一種の単量体を重合あるいは共重合させて得られる。かかるアクリル系コアシェル型エラストマのコア層とシェル層は、グラフト共重合によって結合されていてもよい。このグラフト共重合化は、必要な場合には、コア層の重合時にシェル層と反応するグラフト交差剤を添加し、コア層に反応基を与えた後、シェル層を形成させることによって得られる。グラフト交差剤として、シリコーン系ゴムを使用する場合は、ビニル結合を有したオルガノシロキサンあるいはチオールを有したオルガノシロキサンが用いられ、好ましくはアクロキシシロキサン、メタクリロキシシロキサン、ビニルシロキサンが使用される。
【0037】
直鎖状ポリオレフィン樹脂としては、ポリエチレンやポリプロピレン等、実質的に側鎖を有しないポリオレフィン樹脂であって、ASTM D2857法で測定した粘度平均分子量が1万~100万であるものが好ましい。
【0038】
(C)耐トラッキング性向上用樹脂の添加量は、ポリブチレンテレフタレート樹脂100質量部に対し、5~100質量部であり、10~90質量部または20~80質量部であっても良い。ただし、難燃性の低い樹脂では、多量に添加することで組成物としての燃焼性を悪化させるおそれがあるため、耐トラッキング性向上用樹脂の含有量は、本発明の難燃性ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物全体に対し、40質量%以下であることが好ましく、30質量%以下であることがより好ましく、20質量%以下であることがさらに好ましい。
【0039】
((D)耐トラッキング性向上剤) 本発明の難燃性ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物には、耐トラッキング性をさらに向上させるために、(D)耐トラッキング性向上剤が補助的に添加される。
【0040】
(D)耐トラッキング性向上剤の具体例としては、タルク、マイカ、無機金属化合物が挙げられ、これらのいずれか、またはこれらのいずれかを組み合わせたものを用いることができる。
【0041】
タルクとしては、公知のものを使用することができ、好ましくは体積平均粒子径が1~10μmのタルク、または嵩比重が0.4~1.5の圧縮微粉タルクを用いることができる。
【0042】
マイカとしては、公知のものを使用することができ、好ましくは体積平均粒子径が10~60μmのマイカを用いることができる。
【0043】
無機金属化合物としては、無機酸(リン酸及びケイ酸以外の無機酸、例えば、炭酸、ホウ酸、スズ酸、タングステン酸、硫酸など)の金属塩、金属酸化物(酸化マグネシウム、酸化鉄、酸化チタン、酸化亜鉛、アルミナなど)、金属水酸化物(水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、水酸化ジルコニウム、アルミナ水和物(ベーマイト)など)、金属硫化物(硫化亜鉛、硫化モリブデン、硫化タングステンなど)等を挙げることができ、好ましいものとして、硫酸バリウム、硫化亜鉛、ホウ酸亜鉛、ホウ酸カルシウム、スズ酸亜鉛が挙げられる。
【0044】
これらの(D)耐トラッキング性向上剤は、無機化合物および/または有機化合物で表面処理(表面被覆)されていてもよく、表面処理に用いられる無機化合物としては、例えば、水酸化アルミニウム、アルミナ、シリカ、ジルコニア、水酸化ジルコニウム、ジルコニア水和物、酸化セリウム、酸化セリウム水和物、水酸化セリウム等のアルミニウム、ケイ素、ジルコニウム、セリウム等の無機酸化物、水酸化物が好ましく挙げられる。また、これらの無機化合物は水和物であってもよい。これらの中でも、水酸化アルミニウム、シリカが好ましく、シリカを用いる場合は、SiO・nHOで表されるシリカ水和物であることが特に好ましい。また、表面処理に用いられる有機化合物としては、特に限定されず、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、ジクロルヘキシルアミン等のアミン化合物など公知の化合物を用いることができる。
【0045】
(D)耐トラッキング性向上剤の添加量は、ポリブチレンテレフタレート樹脂100質量部に対し、0~100質量部であり、0~90質量部または0~80質量部であっても良い。
【0046】
((E)窒素系化合物)
本発明の難燃性ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物には、耐トラッキング性をさらに向上させるために、(E)窒素系化合物が補助的に添加される。
【0047】
(E)窒素系化合物としては、トリアジン化合物、ベンゾグアニン化合物、トリス(ヒドロキシアルキル)イソシアヌレートのテレフタル酸エステル化合物、アラントイン化合物、グリコールウリル化合物、及びこれらの組み合わせが挙げられる。
【0048】
トリアジン化合物の具体例としては、シアヌル酸、トリメチルシアヌレート、トリエチルシアヌレート、トリ(n-プロピル)シアヌレート、メチルシアヌレート、ジエチルシアヌレート、イソシアヌル酸、トリメチルイソシアヌネート、トリエチルイソシアヌレート、トリ(n-プロピル)イソシアヌレート、ジエチルイソシアヌネート、メチルイソシアヌレート、メラミン、メラミンシアヌレート、メラミンホスフェート化合物、ジメラミンホスフェート化合物、メラミンポリホスフェート化合物、ビスメラミンジンコホスフェート、ビスメラミンアルミノトリホスフェート、硫酸メラミン、アンメリド、アンメリン、ホルモグアナミン、グアニルメラミン、シアノメラミン、アリールグアナミン、メラム、メレム、メロンなどが挙げられる。
【0049】
(E)窒素系化合物の添加量は、ポリブチレンテレフタレート樹脂100質量部に対し、0~80質量部であり、0~70質量部または0~60質量部であっても良い。
【0050】
(充填剤) 本発明の組成物には必要に応じて充填剤が使用される。このような充填剤は、機械的強度、耐熱性、寸法安定性等の性能に優れた性質を得るためには配合することが好ましく、特に剛性を高める目的で有効である。これは目的に応じて繊維状、粉粒状又は板状の充填剤であり、(C)耐トラッキング性向上剤とは異なる化合物が用いられる。
【0051】
繊維状充填剤としては、円形断面ガラス繊維、扁平断面ガラス繊維、アスベスト繊維、カーボン繊維、シリカ繊維、シリカ・アルミナ繊維、ジルコニア繊維、チタン酸カリウム繊維、更にステンレス、アルミニウム、チタン、銅、真鍮等の金属の繊維状物などが挙げられる。なお、フッ素樹脂、アクリル樹脂などの高融点の有機質繊維状物質も使用することができる。
【0052】
粉粒状充填剤としては、ガラスビーズ、ガラス粉、石英粉末、カオリン、クレー、珪藻土、ウォラストナイト、その他、炭化珪素、窒化珪素、各種金属粉末等が挙げられる。
【0053】
また、板状無機充填剤としては、ガラスフレーク、各種金属箔等が挙げられる。
【0054】
充填剤の種類は特に限定されず、1種又は複数種以上の充填剤を添加することができる。特に、円形断面ガラス繊維、扁平断面ガラス繊維、チタン酸カリウム繊維、ウォラストナイトを使用することが好ましい。
【0055】
充填剤の添加量は特に規定されるものではないが、ポリブチレンテレフタレート樹脂100質量部に対して200質量部以下が好ましい。充填剤を過剰に添加した場合は成形性に劣り靭性の低下が見られる。
【0056】
(添加剤)
さらに本発明の組成物には、その目的に応じ、種々の所望の特性を付与するために、一般に熱可塑性樹脂等に添加される公知の物質を添加併用することができる。例えば酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤等の安定剤、帯電防止剤、滑剤、離型剤、染料や顔料等の着色剤、可塑剤、流動性向上剤、靱性向上剤、耐加水分解性向上剤、ハロゲン化エポキシ系難燃剤以外の難燃剤、耐トラッキング性向上用樹脂以外の樹脂等いずれも配合することが可能である。
【0057】
なお、意匠性等の要求から、本発明の組成物を着色して用いる場合、特に暗色系の着色においては、耐トラッキング性の観点から、着色剤としてはカーボンブラックではなく、黒色あるいは暗色系の有機染料や有機顔料を添加することが望ましい。
【0058】
また、ハロゲン化エポキシ系難燃剤以外の難燃剤としてリン系難燃剤を添加する場合は、有機ホスフィン酸金属塩、有機ジホスフィン酸金属塩、縮合リン酸エステル(レゾルシノールホスフェート類、ハイドロキノンホスフェート類、ビフェノールホスフェート類等)、ホスファゼン化合物(環状フェノキシホスファゼン、鎖状フェノキシホスファゼン、架橋フェノキシホスファゼン等)などを用いることができ、成形品からの浸み出しの観点からは、エチルホスフィン酸アルミニウム、ジエチルホスフィン酸アルミニウム、メチルエチルホスフィン酸アルミニウム、ジエチルホスフィン酸亜鉛などの有機ホスフィン酸金属塩が好ましい。また、ハロゲン化エポキシ系難燃剤以外の難燃剤としてハロゲン系難燃剤を添加する場合は、ハロゲン化ベンジルアクリレート系難燃剤、ハロゲン化フェノキシ系難燃剤、ハロゲン化ポリフェニレンエーテル系難燃剤、ハロゲン化スチレン系難燃剤、ハロゲン化フタルイミド系難燃剤、ハロゲン化ポリカーボネート系難燃剤等のハロゲン系難燃剤を挙げることができるが、耐トラッキング性を低下させないためには、これらハロゲン系難燃剤中に含まれる遊離臭素、遊離塩素、遊離硫黄の含有量がそれぞれ0.5質量%以下のものであることが好ましい。
【0059】
[難燃性ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物の製造方法]
本発明の難燃性ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物の形態は、粉粒体混合物であってもよいし、ペレット等の溶融混合物(溶融混練物)であってもよい。本発明の一実施形態のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物の製造方法は特に限定されるものではなく、当該技術分野で知られている設備及び方法を用いて製造することができる。例えば、必要な成分を混合し、1軸又は2軸の押出機又はその他の溶融混練装置を使用して混練し、成形用ペレットとして調製することができる。押出機又はその他の溶融混練装置は複数使用してもよい。また、全ての成分をホッパから同時に投入してもよいし、一部の成分はサイドフィード口から投入してもよい。
【0060】
また、本発明の難燃性ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物は、上述の溶融混練に供給する各成分(原料)の段階、及び/又は、成形品を成形する際のペレットの段階で、真空乾燥を行い(真空乾燥工程)水分を除去することが好ましい。真空乾燥には、一般的に用いられているエバポレーターや、オーブンなどを用いることができる。
【0061】
[難燃性ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物から得られた成形品]
本発明の難燃性ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物は、例えば、リレー、スイッチ、コネクタ、アクチュエータ、センサー、トランスボビン、端子台、カバー、スイッチ、ソケット、コイル、プラグ等の電気・電子部品、特に電源周り部品として好ましく使用できる。さらに、ECUボックス、コネクターボックス等の車載部品ケース・車載電装部品等の自動車部品の成形材料としても、好適に使用される。
【0062】
この難燃性ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物を用いて成形品を得る方法としては、特に限定はなく、公知の方法を採用することができる。例えば、難燃性ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物を押出機に投入して溶融混練してペレット化し、このペレットを所定の金型を装備した射出成形機に投入し、射出成形することで作製することができる。
【0063】
(実施例)
以下、実施例 により本発明を具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り以下の実施例に限定されるものではない。なお、特性評価は以下の方法により行った。
(1)難燃性
表1に示す成分、組成(質量部)でドライブレンドした材料を、30mmφのスクリューを有する2軸押出機((株)日本製鋼所製)に供給して260℃で溶融混練し、得られたポリブチレンテレフタレート樹脂組成物のペレットを、140℃で3時間乾燥させた後、シリンダー温度250℃、金型温度70℃にて射出成形し、UL94に準拠し、厚さ1/16インチの試験片を作製して燃焼性を評価した。結果を表1に示す。
(2)耐トラッキング性
表1に示す成分、組成(質量部)でドライブレンドした材料を、30mmφのスクリューを有する2軸押出機((株)日本製鋼所製)に供給して260℃で溶融混練し、得られたポリブチレンテレフタレート樹脂組成物について、UL746Aに準拠して、比較トラッキング指数(CTI)のPLC(Performance Level Category)等級を判定した。PLC等級が最高ランクの「0」である場合は「○」、そうでない場合は「×」と評価した。結果を表1に示す。
(3)スクリュー付着物
難燃性の評価と同様にして得たポリブチレンテレフタレート樹脂組成物のペレットを、140℃で3時間乾燥させた後、以下の手順で溶融混練し、黒色付着物の量を目視観察し、付着物の発生が著しいものを「×」、比較的少ないものを「○」、少ないものを「◎」とした。結果を表1に示す。
手順1:東洋精機社製ラボプラストミルを用いて、シリンダー温度275℃、スクリュー回転数20rpmにて、ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物を10分間押し出す。
手順2:シリンダー温度275℃のままスクリューを停止し、シリンダー内のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物を120分間滞留させる。
手順3:シリンダー温度275℃、スクリュー回転数21rpmとして、ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物にて10分間パージする。
手順4:シリンダー温度275℃、スクリュー回転数60rpmとして、ポリエチレン樹脂にて5分間パージする。
手順5:シリンダー温度200℃、スクリュー回転数60rpmとして、トーヨーカラー社製パージ材「リオクリン-Z」にて5分間パージする。
手順6:スクリューを引き抜き、綿ネルで軽く拭き、パージ材を除去した後、スクリューの黒色付着物の量を観察する。
(4)曲げ弾性率
難燃性の評価と同様にして得たポリブチレンテレフタレート樹脂組成物のペレットを、140℃で3時間乾燥させた後、シリンダー温度250℃、金型温度70℃にて、80mm×10mm×4mmの曲げ試験片を射出成形し、ISO178に準じて、加圧速度2.0mm/min、支点間距離64mmにて曲げ試験を行い、曲げ弾性率が10,000MPa以上のものを「○」、10,000MPa未満のものを「×」として評価した。結果を表1に示す。
【0064】

【表1】

【0065】
表1に記載の各成分の詳細は下記の通りである。
(A)PBT樹脂:ウィンテックポリマー株式会社製、末端カルボキシル基濃度20meq/kg、固有粘度0.7dL/gのポリブチレンテレフタレート樹脂
(B-1)臭素化エポキシ系難燃剤1:エポキシ当量36800g/eq、有機溶媒量5ppm、重量平均分子量約18000の臭素化エポキシ化合物
(B-2)臭素化エポキシ系難燃剤2:エポキシ当量43200g/eq、有機溶媒量0ppm、重量平均分子量約20000の臭素化エポキシ化合物
(B-3)臭素化エポキシ系難燃剤3:エポキシ当量28600g/eq、有機溶媒量60ppm、重量平均分子量約9000の臭素化エポキシ化合物
(B-4)臭素化エポキシ系難燃剤4:エポキシ当量19900g/eq、有機溶媒量4ppm、重量平均分子量約23000の臭素化エポキシ化合物
(B’-1)臭素化ポリアクリレート難燃剤:ICL JAPAN株式会社製、ペンタブロモベンジルポリアクリレート FR-1025(エポキシ当量0g/eq)
(C-1)耐トラッキング性向上用樹脂1:コア層がアクリル系ゴム、シェル層がビニル系重合体のアクリル系コアシェル型エラストマ(ローム・アンド・ハース・ジャパン社製、パラロイドEXL2314)
(C-2)耐トラッキング性向上用樹脂2:エチレン-グリシジルメタクリレート共重合体(オレフィン系エラストマ、住友化学工業社製、BONDFAST 7M)
(D)タルク:松村産業社製、クラウンタルクPP
(E)窒素系化合物:メラミンシアヌレート(BASF社製、Melapur MC50)
ガラス繊維:日本電気硝子社製、ECS03T-127(平均繊維径13μm、平均繊維長3mmの円形断面ガラス繊維)
三酸化アンチモン:日本精鉱社製、PATOX-M
滴下防止剤:ポリテトラフルオロエチレン
エポキシ樹脂(安定剤):三菱化学株式会社製、jER 1004K(エポキシ当量925g/eq)
【0066】
表1に示す通り、本願請求項1の構成を充足する実施例1~10の難燃性ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物から得られた成形品は、いずれも外観が優れており、成形時においてスクリューへの付着物は発生しなかった。またいずれの実施例も、優れた耐トラッキング性と曲げ弾性率を示していた。
【0067】
一方、ハロゲン化エポキシ系難燃剤中の有機溶媒の含有量が本願請求項1の範囲外である比較例4のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物から得られた成形品は、外観が優れておらず、成形時においてスクリューへの付着物が発生した。
【0068】
また、組成物全体におけるエポキシ基の総含有量が本願請求項1の範囲外である比較例2、3、5のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物から得られた成形品は、いずれも外観が優れておらず、成形時においてスクリューへの付着物が発生した。
【0069】
さらに、臭素化ポリアクリレート系難燃剤を用いた比較例1のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物から得られた成形品は、機械的特性(曲げ弾性率)が劣っていた。