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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-17
(45)【発行日】2023-10-25
(54)【発明の名称】研磨用組成物
(51)【国際特許分類】
   G11B 5/84 20060101AFI20231018BHJP
   C09K 3/14 20060101ALI20231018BHJP
   C09G 1/02 20060101ALI20231018BHJP
   B24B 37/00 20120101ALI20231018BHJP
【FI】
G11B5/84 A
C09K3/14 550Z
C09K3/14 550D
C09G1/02
B24B37/00 H
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2019179695
(22)【出願日】2019-09-30
(65)【公開番号】P2021057093
(43)【公開日】2021-04-08
【審査請求日】2022-08-02
(73)【特許権者】
【識別番号】000236702
【氏名又は名称】株式会社フジミインコーポレーテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100117606
【弁理士】
【氏名又は名称】安部 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100136423
【弁理士】
【氏名又は名称】大井 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100154449
【弁理士】
【氏名又は名称】谷 征史
(72)【発明者】
【氏名】松原 一喜
【審査官】中野 和彦
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-130663(JP,A)
【文献】特開2015-041391(JP,A)
【文献】国際公開第2017/221660(WO,A1)
【文献】特表2015-502417(JP,A)
【文献】特開2004-327614(JP,A)
【文献】特開2017-182849(JP,A)
【文献】特開2018-174009(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G11B 5/84
C09K 3/14
C09G 1/02
B24B 37/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁気ディスク基板研磨用組成物であって、
砥粒と、酸化剤としての過酸化水素と、水とを含み、
さらに、
(a)酸化促進剤を含むか、
(b)酸化助剤を含むか、あるいは
(c)酸化促進剤および酸化助剤を含み、
前記酸化促進剤は、過酸化水素とは異なる過酸化物であり、
前記酸化助剤は、還元剤および/または連鎖移動剤として機能する水溶性の化合物であり、
前記砥粒の平均アスペクト比は1.1以上2.50以下であり、
前記砥粒の、光透過式遠心沈降法により得られる重量基準の粒度分布に基づく累積99%粒子径(D 99 )は150nm以上500nm以下である、研磨用組成物。
【請求項2】
前記酸化促進剤は、過硫酸、過リン酸、過カルボン酸およびそれらの塩からなる群から選択される少なくとも1種を含む、請求項1に記載の研磨用組成物。
【請求項3】
前記酸化促進剤は過硫酸塩を含む、請求項1または2に記載の研磨用組成物。
【請求項4】
前記酸化助剤は、亜硫酸、亜リン酸、次亜リン酸、およびそれらの塩、亜硫酸水素塩、チオール系化合物、第2級アルコール類ならびにアミン類からなる群から選択される少なくとも1種を含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の研磨用組成物。
【請求項5】
前記酸化助剤は、亜硫酸塩および/または亜硫酸水素塩を含む、請求項1~4のいずれか一項に記載の研磨用組成物。
【請求項6】
前記酸化促進剤および前記酸化助剤を含む、請求項1~5のいずれか一項に記載の研磨用組成物。
【請求項7】
前記酸化剤の含有量A1[モル/L]に対する前記酸化促進剤および前記酸化助剤の合計量A4[モル/L]の比(A4/A1)は0.01以上1未満である、請求項1~6のいずれか一項に記載の研磨用組成物。
【請求項8】
前記酸化剤、前記酸化促進剤および前記酸化助剤の合計含有量は0.1~1.5モル/Lである、請求項1~7のいずれか一項に記載の研磨用組成物。
【請求項9】
前記砥粒としてシリカ粒子を含む、請求項1~8のいずれか一項に記載の研磨用組成物。
【請求項10】
酸をさらに含む、請求項1~9のいずれか一項に記載の研磨用組成物。
【請求項11】
pHが1.0~5.0の範囲内である、請求項1~10のいずれか一項に記載の研磨用組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、研磨用組成物に関し、詳しくは磁気ディスク基板研磨用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、高精度な表面が要求される磁気ディスク基板の製造プロセスには、研磨液を用いて該基板の原材料である研磨対象物を研磨する工程が含まれる。例えば、ニッケルリンめっきが施されたディスク基板(以下、Ni-P基板ともいう。)の製造においては、一般に、より研磨効率を重視した研磨(一次研磨)と、最終製品の表面精度に仕上げるために行う最終研磨(仕上げ研磨)とが行われている。磁気ディスク基板を研磨する用途で使用される研磨用組成物に関する技術文献として特許文献1が挙げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平4-275387号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
Ni-P基板等のディスク基板の研磨では、十分な研磨効率(すなわち加工力)を得ることを目的として、砥粒に加えて、酸化剤として過酸化水素が用いられる。例えば、特許文献1では、アルミナ砥粒含有研磨用組成物において、研磨促進剤として、硫酸アルミニウム等に加えて過酸化水素を含ませて、研磨速度の改善が検討されている。近年、より高品位の基板表面を実現する観点から、砥粒種や粒子径が制限される傾向があり、砥粒による加工性の改善は困難になりつつある。例えば、Ni-P基板等のディスク基板の一次研磨のように高い加工力が要求される研磨において、砥粒以外の組成設計で加工性を改善できれば有益である。
【0005】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたものであり、過酸化水素を用いる研磨において、加工性を改善し得る磁気ディスク研磨用組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本明細書によると、磁気ディスク基板研磨用組成物が提供される。この研磨用組成物は、砥粒と、酸化剤としての過酸化水素と、水とを含む。当該研磨用組成物は、さらに、(a)酸化促進剤を含むか、(b)酸化助剤を含むか、あるいは(c)酸化促進剤および酸化助剤を含む。そして、前記酸化促進剤は、過酸化水素とは異なる過酸化物である。前記酸化助剤は、還元剤および/または連鎖移動剤として機能する水溶性の化合物である。上記の構成によると、砥粒および過酸化水素を含む研磨用組成物に、過酸化水素とは異なる過酸化物を酸化促進剤として用いるか、あるいは、還元剤、連鎖移動剤として機能する酸化助剤を用いるか、あるいは両者を併用することで、研磨対象基板に対する酸化反応を促進し、加工性が改善される。
【0007】
いくつかの態様において、前記酸化促進剤(過酸化水素以外の過酸化物)は、過硫酸、過リン酸、過カルボン酸およびそれらの塩からなる群から選択される少なくとも1種を含む。上記特定種から選択される酸化促進剤を用いることにより、ここに開示される技術による加工性改善効果は好ましく発揮される。前記酸化促進剤は過硫酸塩を含むことが好ましい。
【0008】
いくつかの態様において、前記酸化助剤は、亜硫酸、亜リン酸、次亜リン酸、およびそれらの塩、亜硫酸水素塩、チオール系化合物、第2級アルコール類ならびにアミン類からなる群から選択される少なくとも1種を含む。上記特定種から選択される酸化助剤を用いることにより、ここに開示される技術による加工性改善効果は好ましく発揮される。前記酸化助剤は、亜硫酸塩および/または亜硫酸水素塩を含むことが好ましい。
【0009】
いくつかの好ましい態様に係る研磨用組成物は、前記酸化促進剤および前記酸化助剤を含む。酸化剤としての過酸化水素に加えて、酸化促進剤および前記酸化助剤を含むことで、より優れた加工性が実現される。
【0010】
いくつかの好ましい態様において、前記酸化剤の含有量A1[モル/L]に対する前記酸化促進剤および前記酸化助剤の合計量A4[モル/L]の比(A4/A1)は0.01以上1未満である。酸化促進剤の量A2[モル/L]および酸化助剤の量A3[モル/L]の合計量A4[モル/L]を、過酸化水素の量A1[モル/L]に対して適切な範囲に設定することにより、加工性に優れる研磨用組成物を好ましく調製することができる。
【0011】
いくつかの好ましい態様において、前記酸化剤、前記酸化促進剤および前記酸化助剤の合計含有量は0.1~1.5モル/Lである。酸化剤、酸化促進剤および酸化助剤の合計量を特定の範囲とすることにより、砥粒を用いる研磨において、加工性改善効果を効率よく発揮することができる。
【0012】
いくつかの態様に係る研磨用組成物は、前記砥粒としてシリカ粒子を含む。ここに開示される技術によると、アルミナ砥粒に比べて加工力が低くなりがちなシリカ砥粒を用いる組成で、加工性を改善することができる。
【0013】
いくつかの態様に係る研磨用組成物は酸をさらに含む。ここに開示される技術による加工性改善効果は、酸を含む組成で好ましく発揮される。
【0014】
いくつかの態様に係る研磨用組成物は、pHが1.0~5.0の範囲内である。上記酸性条件下で、酸化剤としての過酸化水素と、酸化促進剤および/または酸化助剤とを用いることにより、ここに開示される技術による加工性改善効果が好ましく発揮される。
【0015】
ここで開示される研磨用組成物は、磁気ディスク基板の研磨に用いられる。なかでも好ましい研磨対象物として、ニッケルリン基板(Ni-P基板)が挙げられる。ここに開示される研磨用組成物を上記磁気ディスク基板の研磨に用いることで高い加工力を好適に発揮することができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の好適な実施形態を説明する。なお、本明細書において特に言及している事項以外の事柄であって本発明の実施に必要な事柄は、当該分野における従来技術に基づく当業者の設計事項として把握され得る。本発明は、本明細書に開示されている内容と当該分野における技術常識とに基づいて実施することができる。
【0017】
<研磨用組成物>
(砥粒)
砥粒の材質や性状は、特に制限されない。例えば、砥粒は無機粒子、有機粒子および有機無機複合粒子のいずれかであり得る。無機粒子の具体例としては、シリカ粒子、アルミナ粒子、酸化セリウム粒子、酸化クロム粒子、二酸化チタン粒子、酸化ジルコニウム粒子、酸化マグネシウム粒子、二酸化マンガン粒子、酸化亜鉛粒子、ベンガラ粒子等の酸化物粒子;窒化ケイ素粒子、窒化ホウ素粒子等の窒化物粒子;炭化ケイ素粒子、炭化ホウ素粒子等の炭化物粒子;ダイヤモンド粒子;炭酸カルシウムや炭酸バリウム等の炭酸塩;等が挙げられる。上記アルミナ粒子としては、α-アルミナ、α-アルミナ以外の中間アルミナおよびこれらの複合物が挙げられる。中間アルミナとは、α-アルミナ以外のアルミナ粒子の総称であり、具体例としてはγ-アルミナ、δ-アルミナ、θ-アルミナ、η-アルミナ、κ-アルミナおよびこれらの複合物が挙げられる。有機粒子の具体例としては、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)粒子やポリ(メタ)アクリル酸粒子、ポリアクリロニトリル粒子等が挙げられる。ここで(メタ)アクリル酸とは、アクリル酸およびメタクリル酸を包括的に指す意味である。砥粒は、1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0018】
ここに開示される技術において使用し得る砥粒の好適例としてシリカ粒子が挙げられる。シリカ粒子は、シリカを主成分とする各種のシリカ粒子であり得る。ここでシリカを主成分とするシリカ粒子とは、該粒子の90重量%以上、例えば95重量%以上、典型的には98重量%以上がシリカである粒子をいう。使用し得るシリカ粒子の例としては、特に限定されず、コロイダルシリカ、凝結粒シリカ、沈降シリカ(沈殿シリカともいう。)、ケイ酸ソーダ法シリカ、アルコキシド法シリカ、フュームドシリカ、乾燥シリカ、爆発法シリカ等が挙げられる。さらに、上記シリカ粒子を原材料として得られたシリカ粒子を用いることもできる。そのようなシリカ粒子の例には、上記原材料のシリカ粒子(以下「原料シリカ」ともいう。)に、加温、乾燥、焼成等の熱処理、オートクレーブ処理等の加圧処理、解砕や粉砕等の機械的処理、表面改質等から選択される1または2以上の処理を適用して得られたシリカ粒子が含まれ得る。表面改質としては、例えば、官能基の導入、金属修飾等の化学的修飾が挙げられる。ここに開示される技術における砥粒は、このようなシリカ粒子の1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて含むものであり得る。
【0019】
シリカ粒子の好適例として、例えば、原料シリカに対して熱処理を施して得られたシリカ粒子(以下「熱処理シリカ」ともいう。)、具体的には加温されたシリカ粒子、乾燥されたシリカ粒子、焼成されたシリカ粒子等が挙げられる。ここで、加温されたシリカ粒子とは、典型的には、60℃以上110℃未満の環境下に一定時間以上、例えば15分以上、典型的には30分以上保持する処理を経て得られたシリカ粒子をいう。また、乾燥されたシリカ粒子とは、典型的には、110℃以上500℃未満、好ましくは300℃以上500℃未満の環境下に一定時間以上、例えば15分以上、典型的には30分以上保持する処理を経て得られたシリカ粒子をいう。そして、焼成されたシリカ粒子(以下「焼成シリカ」ともいう。)とは、典型的には500℃以上、好ましくは700℃以上、さらに好ましくは900℃以上の環境下に一定時間以上、例えば15分以上、典型的には30分以上保持する処理を経て得られたシリカ粒子をいう。上述したいずれかの原料シリカ、すなわち、沈降シリカ、ケイ酸ソーダ法シリカ、アルコキシド法シリカ、フュームドシリカ、乾燥シリカ、爆発法シリカ等を熱処理する過程を経て得られたシリカ粒子は、ここでいう熱処理シリカの概念に包含される典型例である。シリカ砥粒が熱処理シリカを含む場合、該シリカ砥粒に含まれる熱処理シリカは、1種であってもよく、製造条件および/または物性の異なる2種以上であってもよい。また、上記シリカ粒子は、1種または2種以上の熱処理シリカからなる構成であってもよく、熱処理シリカと、他のシリカ粒子すなわち熱処理されていないシリカ粒子とを組み合わせて含む構成であってもよい。
【0020】
シリカ粒子の他の好適例として、コロイダルシリカが挙げられる。なかでも、ケイ酸ソーダ法シリカやアルコキシド法シリカのように、水相での粒子成長を経て合成されたコロイダルシリカの使用が好ましい。この種のコロイダルシリカを含むシリカ砥粒によると、良好な面品質が好適に達成され得る。ここに開示されるシリカ砥粒がコロイダルシリカを含む場合、該シリカ砥粒に含まれるコロイダルシリカは、1種であってもよく、製造条件および/または物性の異なる2種以上であってもよい。また、上記シリカ砥粒は、1種または2種以上のコロイダルシリカからなる構成であってもよく、コロイダルシリカと、他のシリカ粒子すなわちコロイダルシリカ以外のシリカ粒子とを組み合わせて含む構成であってもよい。いくつかの態様では、研磨用組成物に含まれる砥粒が、コロイダルシリカを単独で含む。コロイダルシリカを単独で用いることにより、より良好な面品質が実現され得る。
【0021】
コロイダルシリカの粒子形状は特に限定されず、例えば球形であってもよく、非球形であってもよい。非球形の具体例としては、ピーナッツ形状、繭形状、突起付き形状、ラグビーボール形状等が挙げられる。ピーナッツ形状は、例えば落花生の殻の形状であり得る。突起付き形状は、例えば金平糖形状であり得る。
【0022】
ここに開示される技術は、研磨用組成物に含まれる砥粒が、熱処理シリカを単独で含むか、熱処理シリカと他のシリカ粒子とを組み合わせて含む態様でも実施することができる。いくつかの好ましい態様では、研磨用組成物に含まれるシリカ粒子は、コロイダルシリカと熱処理シリカとを組み合わせて含む。コロイダルシリカに加えて、熱処理シリカ粒子をさらに含むことによって、高い面品質を実現し、高い加工性を好ましく実現することができる。
【0023】
砥粒としてシリカ粒子を用いる態様において、研磨用組成物に含まれる固形分に占めるシリカ粒子の含有量は特に限定されない。上記シリカ粒子の含有量は、ここに開示される技術による効果をよりよく発揮する観点から、上記固形分全体の40重量%以上であることが好ましく、より好ましくは50重量%以上、さらに好ましくは60重量%以上、さらにより好ましくは80重量%以上、特に好ましくは90重量%以上、例えば99重量%以上である。なお、本明細書において研磨用組成物に含まれる固形分とは、結合水が除去されない程度の温度、例えば60℃で研磨用組成物から水分を蒸発させた後の残留分すなわち不揮発分をいう。
【0024】
ここに開示される研磨用組成物は、アルミナ粒子を実質的に含まない態様で好ましく実施され得る。アルミナ粒子としては、例えばα-アルミナ粒子が挙げられる。このような研磨用組成物によると、アルミナ粒子の使用に起因する品質低下が防止される。ここでいう品質低下としては、例えば、スクラッチや窪みの発生、アルミナの残留、砥粒の突き刺さり欠陥等が挙げられる。なお、本明細書においてアルミナ粒子を実質的に含まないとは、研磨用組成物に含まれる固形分全量のうちアルミナ粒子の割合が1重量%以下、より好ましくは0.5重量%以下、典型的には0.1重量%以下であることをいう。アルミナ粒子の割合が0重量%である研磨用組成物、すなわちアルミナ粒子を含まない研磨用組成物が特に好ましい。また、ここに開示される研磨用組成物は、α-アルミナ粒子を実質的に含まない態様で好ましく実施され得る。
【0025】
ここに開示される研磨用組成物は、シリカ粒子以外の粒子、すなわち非シリカ粒子を実質的に含まない態様でも好ましく実施され得る。ここで、非シリカ粒子を実質的に含まないとは、研磨用組成物に含まれる固形分全量のうち非シリカ粒子の割合が1重量%以下、より好ましくは0.5重量%以下、典型的には0.1重量%以下であることをいう。このような態様において、ここに開示される技術の適用効果が好適に発揮され得る。
【0026】
特に限定するものではないが、砥粒(例えばシリカ粒子)の平均アスペクト比は、例えば1.0以上であり得る。いくつかの態様において、平均アスペクト比は、例えば1.02以上であってよく、1.05以上でもよい。加工性向上の観点から、砥粒の平均アスペクト比は、好ましくは凡そ1.1以上(1.10以上)であり、凡そ1.11以上であってもよく、1.12以上でもよく、1.13以上でもよく、1.14以上でもよく、1.15以上でもよい。また、面品質を効率よく高めやすくする観点から、いくつかの態様において、上記平均アスペクト比は2.50以下であることが適当であり、2.0以下でもよく、1.70以下でもよい。ここに開示される技術は、砥粒の平均アスペクト比が1.50以下、さらには1.30以下(例えば1.20以下)である態様でも好適に実施され得る。ここで、砥粒の平均アスペクト比とは、該砥粒を構成する個々の粒子の長径/短径比の平均値、すなわち個数平均アスペクト比をいう。以下、特記しない場合、本明細書において平均アスペクト比とは、上記個数平均アスペクト比を意味するものとする。所定の平均アスペクト比を満たす砥粒は、使用する材料(例えばシリカ粒子)の選択や、異なる粒子形状を有する2種以上の砥粒粒子の混合等により調節することができる。
【0027】
本明細書において、砥粒の平均アスペクト比は次の方法で測定することができる。すなわち、SEM(Scanning Electron Microscope)を用いて、測定対象の砥粒に含まれる所定個数の粒子を、1視野内に50個以上の粒子を含むSEM画像で観察する。観察倍率は10000倍~50000倍とする。測定対象の粒子は、1種類の砥粒粒子でもよく、2種類以上の砥粒粒子の混合物でもよい。上記SEM画像中の砥粒粒子について、各々の粒子画像に外接する最小の長方形を描く。その長方形の長辺の長さを長径の値とし、短辺の長さを短径の値として、各粒子について長径の値を短径の値で除した値をアスペクト比として算出する。すなわち、各粒子のアスペクト比は、該粒子に外接する最小の長方形の長辺/短辺の比として求められる。上記所定個数の粒子のアスペクト比を算術平均することにより、個数平均アスペクト比を求めることができる。上記個数アスペクト比は、一般的な画像解析ソフトウエアを用いて求めることができる。
なお、上記所定個数、すなわち粒子毎のアスペクト比を算出する粒子の個数は、測定精度や再現性を高める観点から、1000個以上とすることが適当であり、1500個以上とすることが好ましい。上記所定個数の上限は特に制限されない。測定効率の観点から、上記所定個数は、例えば5000個以下であってよく、2500個以下でもよい。
【0028】
ここに開示される砥粒(例えばシリカ砥粒)の粒子径は特に限定されず、実用的な加工性を発揮し得る適当な粒子径が採用され得る。特に限定されるものではないが、例えば、光透過式遠心沈降法により得られる重量基準の粒度分布に基づく累積50%粒子径(D50)が凡そ50nm以上である砥粒を用いることができる。D50は、加工性向上の観点から、好ましくは凡そ60nm以上、より好ましくは凡そ70nm以上、さらに好ましくは凡そ80nm以上(例えば凡そ90nm以上)である。また、上記砥粒のD50は、表面品質の観点から、凡そ300nm以下が適当であり、好ましくは凡そ150nm以下であり、凡そ140nm以下であってもよく、凡そ130nm以下でもよく、凡そ120nm以下でもよく、凡そ110nm以下でもよい。砥粒のD50は、使用する材料(例えばシリカ粒子)の選択等により調節することができる。
【0029】
砥粒(例えばシリカ砥粒)の、光透過式遠心沈降法により得られる重量基準の粒度分布に基づく累積99%粒子径(D99)は特に限定されず、例えば、凡そ100nm以上とすることができる。加工性向上の観点から、D99は、好ましくは凡そ150nm以上、凡そ170nm以上であってもよく、凡そ190nm以上でもよく、200nm以上でもよく、220nm以上でもよく、240nm以上でもよい。上記砥粒のD99の上限は特に制限されない。スクラッチ低減の観点から、上記砥粒のD99は、例えば凡そ500nm以下であり、凡そ400nm以下が適当であり、好ましくは凡そ300nm以下であり、凡そ290nm以下であってもよく、凡そ285nm以下でもよく、凡そ280nm以下でもよく、凡そ275nm以下でもよい。
【0030】
砥粒のD99は、使用する材料(例えばシリカ粒子)の選択や、異なる粒度分布を有する2種以上の砥粒粒子の混合、粗大粒子の除去処理の実施等により調節することができる。
【0031】
なお、本明細書における砥粒のD50およびD99は、光透過式遠心沈降法により得られる重量基準の粒度分布から求めることができる。具体的には、上記重量基準の粒度分布において、小粒子径側からの累積が50%となる点の粒子径をD50とし、累積99%となる点に相当する粒子径をD99とする。上記光透過式遠心沈降法は、粒子サイズの違いによって生じる沈降速度差を利用し、砥粒中の各粒子を分級しながら粒子径を測定するため、スクラッチを形成し得る粗大な粒子を他の方法(例えばレーザー散乱法や動的光散乱法等)よりも正確に検出することが可能である。
上記光透過式遠心沈降法による粒度分布は、JIS Z 8823-2:2016に準拠した方法により得られる。上記粒度分布測定の具体的な手順は次のとおりである。まず、ディスク形セルの内部に、粒子を含まない透明な検査液(例えば、スクロース8~24重量%水溶液)を満たし、当該検査液を透過する光ビームをセルに照射する。そして、所定の回転数(例えば、24000rpm)でセルを回転させながら、回転軸と同軸の注入口からセル内に砥粒の分散液を注入する。これによって、分散液中の粒子が遠心方向の外側に向かって沈降し、該沈降する粒子によって光ビームが減衰する。そして、時間経過にともなう光ビームの減衰量の変化に基づいて砥粒の粒度分布を求める。なお、上記砥粒の粒度分布は、上記光ビームの減衰量の変化を粒度分布に変換するソフトウエアを用いて求めることができる。
【0032】
具体的な測定方法は以下のとおりである。砥粒をイオン交換水に分散させて測定用砥粒分散液を調製する。米国 CPS Instruments社製のディスク遠心式粒度分布測定装置「DC24000 UHR」を用い、JIS Z 8823-2に準拠して重量基準の粒度分布を求める。粒度分布の測定は、以下に示す条件により行うことができる。
セル内に導入する検査液:最小濃度8重量%、最大濃度24重量%のスクロース水溶液
セル内に導入する検査液の注入量:12mL
測定用砥粒分散液の砥粒濃度:2重量%
測定用砥粒分散液の注入量:0.1mL
ディスクの回転速度:24000rpm
測定範囲:0.025μm~1.0μm
後述の実施例においても同様の方法で砥粒のD50およびD99は測定される。
【0033】
研磨用組成物における砥粒(例えばシリカ粒子)の含有量は特に制限されないが、典型的には0.1重量%以上であり、0.5重量%以上であることが好ましく、1重量%以上であることがより好ましく、3重量%以上であることがさらに好ましく、5重量%以上であることが特に好ましい。上記含有量は、複数種類の砥粒を含む場合には、それらの合計含有量である。砥粒の含有量の増大によって、より高い加工性が得られる傾向がある。研磨後の基板の表面平滑性や研磨の安定性の観点から、上記含有量は、30重量%以下が適当であり、好ましくは25重量%以下、より好ましくは15重量%以下、さらに好ましくは10重量%以下である。
【0034】
(水)
ここに開示される研磨用組成物は、典型的には、上述のような砥粒の他に、該砥粒を分散させる水を含有する。水としては、イオン交換水、純水、超純水、蒸留水等を好ましく用いることができる。イオン交換水は、典型的には脱イオン水であり得る。
【0035】
ここに開示される研磨用組成物は、例えば、その固形分含量が0.5重量%~30.0重量%である形態で好ましく実施され得る。上記固形分含量が1.0重量%~20.0重量%である形態がより好ましい。研磨用組成物は、典型的にはスラリー状の組成物であり得る。
【0036】
(酸化剤)
ここに開示される研磨用組成物は、酸化剤として過酸化水素を含有する。ここに開示される技術は、過酸化水素による酸化反応を利用して高い加工力を実現し、さらに、酸化促進剤や酸化助剤を用いることにより、加工性を改善するものである。
【0037】
研磨組成物中の酸化剤の含有量は、特に限定されず、0.01モル/L以上が適当であり、研磨対象物を酸化する速度、ひいては加工性を考慮して、0.05モル/L以上であることが好ましく、より好ましくは0.1モル/L以上、さらに好ましくは0.15モル/L以上、特に好ましくは0.3モル/L以上である。また、研磨用組成物中の酸化剤の含有量は、面精度保持の観点から、1モル/L以下であることが好ましく、より好ましくは0.8モル/L以下、さらに好ましくは0.6モル/L以下である。
【0038】
(酸化促進剤)
いくつかの態様に係る研磨用組成物は、酸化促進剤を含むことによって特徴付けられる。ここに開示される技術において、酸化促進剤とは、過酸化水素とは異なる過酸化物である。なお、本明細書において「過酸化物」とは-O-O-結合を含む化合物をいう。砥粒および過酸化水素を含む研磨用組成物に、過酸化水素とは異なる過酸化物を酸化促進剤として含ませることにより、加工性が改善される。その理由としては、例えば以下のように考えられる。酸化促進剤である過酸化物は、自身が酸化剤として機能すると考えられるが、その酸化剤としての能力は、水への溶解性等の制限から、過酸化水素と比較すると顕著なものではないと考えられる(後述の実施例の比較例4参照)。しかし、酸化促進剤は、過酸化水素と併用することで高レベルの加工性を実現し得る。その作用としては、自身の分解(-O-O-結合の開裂)等によってフリーラジカルを生じ、このフリーラジカルが、酸化剤である過酸化水素の分解(ラジカル開裂)を触媒し、過酸化水素による酸化反応を促進することが考えられ、これによって、加工性向上に貢献していると考えられる。なお、上記のメカニズムは、実験結果に基づく本発明者らの考察であり、ここに開示される技術は、上記のメカニズムに限定して解釈されるものではない。
【0039】
酸化促進剤としては、過酸化水素以外の過酸化物の1種または2種以上を選択して用いることができる。そのような過酸化物は、有機過酸化物、無機過酸化物のいずれであってもよく、過酸化物系開示剤や過酸およびその塩のなかから適当なものが選択され得る。水溶性の過酸化物が好ましい。なお、本明細書において「水溶性」とは、常温(典型的には25℃)、常圧(典型的には1気圧)の条件下において所定の濃度(例えば研磨用組成物に添加される濃度)で水(例えば脱イオン水)に溶解する性質をいうものとする。酸化促進剤の例としては、ペルオキソ一硫酸、ペルオキソ一硫酸アンモニウム、ペルオキソ一硫酸金属塩、ペルオキソ二硫酸、ペルオキソ二硫酸アンモニウム、ペルオキソ二硫酸金属塩(ペルオキソ二硫酸カリウム、ペルオキソ二硫酸ナトリウム等)等の過硫酸およびその塩;ペルオキソリン酸(過リン酸)およびその塩;過ホウ酸およびその塩;過ギ酸、過酢酸、過安息香酸、過フタル酸等の過カルボン酸およびその塩;過炭酸;等が挙げられる。なかでも、過硫酸(塩)が好ましく、ペルオキソ二硫酸(塩)がより好ましい。
【0040】
酸化促進剤を使用する態様において、酸化剤の量A1[モル/L]に対する酸化促進剤の量A2[モル/L]の比(A2/A1)は、特に限定されず、目的とする加工性を実現し得る適切な比とすることができる。酸化促進剤の添加効果を得る観点から、比(A2/A1)は、0.001以上が適当であり、好ましくは0.005以上、より好ましくは0.01以上、さらに好ましくは0.03以上であり、0.05以上であってもよく、0.06以上でもよく、0.09以上(例えば0.1以上)でもよい。酸化作用を十分に発揮し得る過酸化水素量とする観点から、比(A2/A1)は1未満であることが適当であり、好ましくは0.5以下、より好ましくは0.3以下であり、0.1未満(例えば0.07未満)であってもよい。
【0041】
研磨組成物中における酸化促進剤の量は、特に限定されず、0.0001モル/L以上とすることができる。酸化促進剤の量が増大するほど加工性改善効果は向上する傾向がある。上記酸化促進剤の量は、0.0005モル/L以上であってもよく、0.001モル/L以上が適当であり、好ましくは0.003モル/L以上、より好ましくは0.005モル/L以上、さらに好ましくは0.01モル/L以上、特に好ましくは0.03モル/L以上である。例えば酸化助剤を使用しない態様においては、酸化促進剤の量を0.003モル/L以上とすることが好ましい。酸化促進剤の量の上限は、特に限定されず、1モル/L未満とすることが適当であり、酸化促進剤の溶解性や、過酸化水素との相互作用等との関係から、好ましくは0.3モル/L未満、より好ましくは0.1モル/L未満、さらに好ましくは0.08モル/L以下であり、0.05モル/L以下であってもよく、0.03モル/L未満でもよい。例えば、酸化促進剤と酸化助剤とを併用する態様においては、酸化促進剤の量が0.05モル/L以下であっても、優れた加工性を実現することができる。あるいは、ここに開示される技術が、酸化助剤を含む研磨用組成物を用いて実施される場合、研磨用組成物は、酸化促進剤を実質的に含まないものであり得る(含有量0.0001モル/L未満)。
【0042】
(酸化助剤)
いくつかの態様に係る研磨用組成物は、酸化助剤を含むことによって特徴付けられる。ここに開示される技術において、酸化助剤は、還元剤および/または連鎖移動剤として機能する水溶性の化合物である。より具体的には、いくつかの態様に係る酸化助剤は、還元性物質であり、過酸化水素や酸化促進剤に対して還元剤(電子供与体)として機能し得る化合物である。このような還元性を有する酸化助剤は、過酸化水素の分解を促進したり、加えて/あるいは、酸化促進剤を還元、分解(例えば、酸化促進剤の-O-O-を開裂)し、生成したフリーラジカルによる過酸化水素の分解を促進し、加工性向上に貢献するものと考えられる。他のいくつかの態様では、酸化助剤は、連鎖移動剤として機能し、系中に発生したラジカルが、基板に作用する前に消失する事象を低減させる(例えばラジカル同士の衝突による消失の低減)。そのため、系全体として、ラジカルをより有効に活用することができると考えられる。この作用に基づき、酸化助剤は、酸化反応を補助的に促進し、これによって加工性に貢献していることが考えられる。いくつかの態様において、酸化助剤は、還元剤および連鎖移動剤の両方に機能を発揮して、加工性向上に貢献していると考えられる。上記より、酸化助剤は、水溶性の還元剤および/または連鎖移動剤ということができる。酸化助剤は水溶性の連鎖移動剤であることが好ましい。なお、上記のメカニズムは、実験結果に基づく本発明者らの考察であり、ここに開示される技術は、上記のメカニズムに限定して解釈されるものではない。
【0043】
酸化助剤としては、研磨用組成物中で、還元剤や連鎖移動剤として機能し得る水溶性の化合物の1種または2種以上を選択して用いることができる。そのような酸化助剤は、亜硫酸、亜リン酸、次亜リン酸、それらの塩、亜硫酸水素塩、チオール系化合物、第2級アルコール類、アミン類から選択され得る。水への溶解度や入手容易性の観点から、亜硫酸(塩)や亜硫酸水素塩が好ましい。亜硫酸塩の具体的な例としては、亜硫酸ナトリウム、亜硫酸カリウム、亜硫酸第一鉄が挙げられ、亜硫酸水素塩の具体例としては、亜硫酸水素ナトリウム、亜硫酸水素カリウム、亜硫酸水素アンモニウム等が挙げられる。このうち、特に亜硫酸ナトリウム、亜硫酸カリウム、亜硫酸水素ナトリウム、亜硫酸水素カリウムが好ましい。
【0044】
酸化助剤を使用する態様において、酸化剤の量A1[モル/L]に対する酸化助剤の量A3[モル/L]の比(A3/A1)は、特に限定されず、目的とする加工性を実現し得る適切な比とすることができる。酸化助剤の添加効果を得る観点から、比(A3/A1)は、0.001以上が適当であり、好ましくは0.01以上、より好ましくは0.05以上、さらに好ましくは0.10以上、特に好ましくは0.15以上であり、0.20以上であってもよく、0.30以上でもよい。酸化作用を十分に発揮し得る過酸化水素量とする観点から、比(A3/A1)は1未満であることが適当であり、好ましくは0.8以下、より好ましくは0.6以下であり、0.5未満(例えば0.3未満)であってもよい。
【0045】
酸化促進剤と酸化助剤とを併用する態様において、酸化促進剤の量A2[モル/L]と酸化助剤の量A3との比(A3/A2)は、特に限定されず、酸化促進剤および酸化助剤の併用による加工性向上効果を実現し得る適切な比とすることができる。比(A3/A2)は0.1以上が適当であり、好ましくは1以上(例えば1超)、より好ましくは1.5以上、さらに好ましくは2以上、特に好ましくは2.5以上(例えば3以上)であり、3.5以上でもよい。比(A3/A2)は30以下であることが適当であり、好ましくは10以下、より好ましくは6以下であり、5以下(例えば4以下)であってもよい。
【0046】
研磨組成物中における酸化助剤の量は、特に限定されず、0.0001モル/L以上とすることができる。酸化助剤の量が増大するほど加工性改善効果は向上する傾向がある。上記酸化助剤の量は、0.001モル/L以上であってもよく、0.005モル/L以上が適当であり、好ましくは0.010モル/L以上、より好ましくは0.03モル/L以上、さらに好ましくは0.05モル/L以上、特に好ましくは0.1モル/L以上(例えば0.12モル/L以上)である。例えば酸化促進剤を使用しない態様においては、酸化助剤の量を0.010モル/L以上とすることが好ましい。酸化助剤の量の上限は、特に限定されず、1モル/L未満とすることが適当であり、酸化助剤の溶解性や、過酸化水素との相互作用等との関係から、好ましくは0.5モル/L以下、より好ましくは0.3モル/L以下、さらに好ましくは0.2モル/L以下であり、0.1モル/L未満であってもよく、0.08モル/L以下でもよい。例えば、酸化促進剤と酸化助剤とを併用する態様においては、酸化促進剤の量が0.1モル/L未満であっても、優れた加工性を実現することができる。あるいは、ここに開示される技術が、酸化促進剤を含む研磨用組成物を用いて実施される場合、研磨用組成物は、酸化助剤を実質的に含まないものであり得る(含有量0.0001モル/L未満)。
【0047】
ここに開示される技術(酸化促進剤を含み酸化助剤を含まない研磨用組成物を用いる態様、酸化促進剤を含まず酸化助剤を含む研磨用組成物を用いる態様、酸化促進剤と酸化助剤とを併用する態様を包含する。)において、酸化剤の含有量A1[モル/L]に対する酸化促進剤および酸化助剤の合計量A4[モル/L]の比(A4/A1)は、特に限定されず、目的とする加工性を実現し得る適切な比とすることができる。酸化促進剤および/または酸化助剤の添加効果を得る観点から、比(A4/A1)は、0.001以上が適当であり、好ましくは0.01以上、より好ましくは0.03以上、さらに好ましくは0.10以上、特に好ましくは0.15以上であり、0.20以上であってもよく、0.30以上でもよく、0.40以上でもよい。酸化作用を十分に発揮し得る過酸化水素量とする観点から、比(A4/A1)は1.5未満であることが適当であり、好ましくは1未満、より好ましくは0.8以下であり、0.6未満(例えば0.3未満)であってもよい。
【0048】
ここに開示される技術(酸化促進剤を含み酸化助剤を含まない研磨用組成物を用いる態様、酸化促進剤を含まず酸化助剤を含む研磨用組成物を用いる態様、酸化促進剤と酸化助剤とを併用する態様を包含する。)において、酸化剤、酸化促進剤および酸化助剤の合計含有量は、例えば0.01モル/L以上とすることができ、0.05モル/L以上とすることが適当である。加工性向上の観点から、上記合計含有量は、好ましくは0.1モル/L以上、より好ましくは0.3モル/L以上、さらに好ましくは0.4モル/L以上、特に好ましくは0.5モル/L以上(例えば0.6モル/L以上)である。上記合計含有量の上限は、特に限定されず、3モル/L以下が適当であり、面精度保持や添加効率等から、好ましくは1.5モル/L以下、より好ましくは1.2モル/L以下、さらに好ましくは1.0モル/L以下であり、0.8モル/L以下であってもよく、0.5モル/L未満でもよい。
【0049】
(酸)
ここに開示される研磨用組成物は、研磨促進剤として酸を含むことが好ましい。酸としては、無機酸および有機酸のいずれも使用可能である。有機酸としては、例えば、炭素原子数が1~18程度、典型的には1~10程度の有機カルボン酸、有機ホスホン酸、有機スルホン酸、アミノ酸等が挙げられる。酸は、1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0050】
無機酸の具体例としては、リン酸(オルトリン酸)、硝酸、硫酸、塩酸、ホウ酸、スルファミン酸、ホスフィン酸、ホスホン酸、ピロリン酸、トリポリリン酸、テトラポリリン酸、ヘキサメタリン酸、炭酸、フッ化水素酸、亜硫酸、チオ硫酸、塩素酸、過塩素酸、亜塩素酸、ヨウ化水素酸、過ヨウ素酸、ヨウ素酸、臭化水素酸、過臭素酸、臭素酸、クロム酸、亜硝酸等が挙げられる。
【0051】
有機酸の具体例としては、クエン酸、マレイン酸、リンゴ酸、グリコール酸、コハク酸、イタコン酸、マロン酸、イミノ二酢酸、グルコン酸、乳酸、マンデル酸、酒石酸、クロトン酸、ニコチン酸、酢酸、アジピン酸、ギ酸、シュウ酸、プロピオン酸、吉草酸、カプロン酸、カプリル酸、カプリン酸、シクロヘキサンカルボン酸、フェニル酢酸、安息香酸、クロトン酸、メタクリル酸、グルタル酸、フマル酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、グリコール酸、タルトロン酸、グリセリン酸、ヒドロキシ酪酸、ヒドロキシ酢酸、ヒドロキシ安息香酸、サリチル酸、イソクエン酸、メチレンコハク酸、没食子酸、アスコルビン酸、ニトロ酢酸、オキサロ酢酸、グリシン、アラニン、グルタミン酸、アスパラギン酸、バリン、ロイシン、イソロイシン、セリン、トレオニン、システイン、メチオニン、フェニルアラニン、トリプトファン、チロシン、プロリン、シスチン、グルタミン、アスパラギン、リシン、アルギニン、ピコリン酸、メチルアシッドホスフェート、エチルアシッドホスフェート、エチルグリコールアシッドホスフェート、イソプロピルアシッドホスフェート、フィチン酸、1-ヒドロキシエチリデン-1,1-ジホスホン酸、アミノトリ(メチレンホスホン酸)、エチレンジアミンテトラ(メチレンホスホン酸)、ジエチレントリアミンペンタ(メチレンホスホン酸)、エタン-1,1-ジホスホン酸、エタン-1,1,2-トリホスホン酸、エタン-1-ヒドロキシ-1,1-ジホスホン酸、エタンヒドロキシ-1,1,2-トリホスホン酸、エタン-1,2-ジカルボキシ-1,2-ジホスホン酸、メタンヒドロキシホスホン酸、2-ホスホノブタン-1,2-ジカルボン酸、1-ホスホノブタン-2,3,4-トリカルボン酸、α-メチルホスホノコハク酸、アミノポリ(メチレンホスホン酸)、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、アミノエタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸、2-ナフタレンスルホン酸等が挙げられる。
【0052】
研磨効率の観点から好ましい酸として、リン酸、ホスホン酸、マレイン酸、塩酸、硝酸、硫酸、スルファミン酸、フィチン酸、1-ヒドロキシエチリデン-1,1-ジホスホン酸、メタンスルホン酸等が例示される。なかでもリン酸、ホスホン酸、マレイン酸、塩酸、硝酸、硫酸が好ましい。
【0053】
酸は、該酸の塩の形態で用いられてもよい。塩の例としては、上述した無機酸や有機酸の、金属塩、アンモニウム塩、アルカノールアミン塩等が挙げられる。金属塩としては、例えば、リチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩が挙げられる。アンモニウム塩としては、例えば、テトラメチルアンモニウム塩、テトラエチルアンモニウム塩等の第四級アンモニウム塩が挙げられる。アルカノールアミン塩としては、例えば、モノエタノールアミン塩、ジエタノールアミン塩、トリエタノールアミン塩が挙げられる。
塩の具体例としては、リン酸三カリウム、リン酸水素二カリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸三ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム等のアルカリ金属リン酸塩およびアルカリ金属リン酸水素塩;上記で例示した有機酸のアルカリ金属塩;その他、グルタミン酸二酢酸のアルカリ金属塩、ジエチレントリアミン五酢酸のアルカリ金属塩、ヒドロキシエチルエチレンジアミン三酢酸のアルカリ金属塩、トリエチレンテトラミン六酢酸のアルカリ金属塩;等が挙げられる。これらのアルカリ金属塩におけるアルカリ金属は、例えば、リチウム、ナトリウム、カリウム等であり得る。
【0054】
ここに開示される研磨用組成物に含まれ得る塩としては、無機酸の塩、例えば、アルカリ金属塩やアンモニウム塩を好ましく採用し得る。例えば、塩化カリウム、塩化ナトリウム、塩化アンモニウム、硝酸カリウム、硝酸ナトリウム、硝酸アンモニウム、リン酸カリウム等を好ましく使用し得る。
【0055】
酸およびその塩は、1種を単独でまたは2種以上(例えば2種または3種)を組み合わせて用いることができる。いくつかの好ましい態様において、酸と、該酸とは異なる酸の塩とを組み合わせて用いることができる。上記酸は、好ましくは無機酸である。上記酸の塩は、好ましくは無機酸の塩である。
【0056】
研磨用組成物が酸を含む場合、研磨用組成物における酸のモル濃度(複数種類の酸を含む場合には、それらの合計モル濃度)は特に限定されず、例えば凡そ0.001モル/L以上とすることが適当であり、好ましくは凡そ0.01モル/L以上、より好ましくは凡そ0.05モル/L以上、さらに好ましくは0.07モル/L以上、特に好ましくは0.09モル/L以上である。いくつかの態様において、酸のモル濃度は、例えば0.1モル/L以上であってもよく、典型的には0.12モル/L以上であってもよい。酸のモル濃度の増大によって、より高い加工性が実現され得る。研磨後の面品質や研磨の安定性等の観点から、上記酸のモル濃度は、凡そ1.2モル/L以下が適当であり、好ましくは凡そ1モル/L以下、より好ましくは凡そ0.8モル/L以下、さらに好ましくは凡そ0.5モル/L以下であり、凡そ0.3モル/L以下(例えば0.2モル/L以下)であってもよい。
【0057】
(塩基性化合物)
研磨用組成物には、必要に応じて塩基性化合物を含有させることができる。ここで塩基性化合物とは、研磨用組成物に添加されることによって該組成物のpHを上昇させる機能を有する化合物を指す。塩基性化合物の例としては、アルカリ金属水酸化物、炭酸塩や炭酸水素塩、第四級アンモニウムまたはその塩、アンモニア、アミン、リン酸塩やリン酸水素塩、有機酸塩等が挙げられる。塩基性化合物は、1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0058】
アルカリ金属水酸化物の具体例としては、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム等が挙げられる。
炭酸塩や炭酸水素塩の具体例としては、炭酸水素アンモニウム、炭酸アンモニウム、炭酸水素カリウム、炭酸カリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム等が挙げられる。
第四級アンモニウムまたはその塩の具体例としては、水酸化テトラメチルアンモニウム、水酸化テトラエチルアンモニウム、水酸化テトラブチルアンモニウム等の水酸化第四級アンモニウム;このような水酸化第四級アンモニウムのアルカリ金属塩;等が挙げられる。上記アルカリ金属塩としては、例えばナトリウム塩、カリウム塩が挙げられる。
アミンの具体例としては、メチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、エチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、エチレンジアミン、モノエタノールアミン、N-(β-アミノエチル)エタノールアミン、ヘキサメチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、無水ピペラジン、ピペラジン六水和物、1-(2-アミノエチル)ピペラジン、N-メチルピペラジン、グアニジン、イミダゾールやトリアゾール等のアゾール類、等が挙げられる。
リン酸塩やリン酸水素塩の具体例としては、リン酸三カリウム、リン酸水素二カリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸三ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム等のアルカリ金属塩が挙げられる。
有機酸塩の具体例としては、クエン酸カリウム、シュウ酸カリウム、酒石酸カリウム、酒石酸カリウムナトリウム、酒石酸アンモニウム等が挙げられる。
【0059】
(その他の成分)
ここに開示される研磨用組成物は、本発明の効果が著しく妨げられない範囲で、界面活性剤、水溶性高分子、分散剤、キレート剤、防腐剤、防カビ剤等の、研磨用組成物に使用され得る公知の添加剤を、必要に応じてさらに含有してもよい。
【0060】
界面活性剤としては、特に限定されず、アニオン性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、両性界面活性剤のいずれも使用可能である。界面活性剤の使用により、研磨用組成物の分散安定性が向上し得る。界面活性剤は、1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。上記界面活性剤は、典型的には、分子量1×10未満の水溶性有機化合物であり得る。
アニオン性界面活性剤の具体例としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテル酢酸、ポリオキシエチレンアルキル硫酸エステル、アルキル硫酸エステル、ポリオキシエチレンアルキル硫酸、アルキル硫酸、アルキルベンゼンスルホン酸、ポリオキシエチレンスルホコハク酸、アルキルスルホコハク酸、アルキルナフタレンスルホン酸、アルキルジフェニルエーテルジスルホン酸、ポリアクリル酸、ラウリル硫酸ナトリウム、ラウリル硫酸アンモニウム、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル硫酸アンモニウム、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル硫酸ナトリウム、およびこれらの塩等が挙げられる。
アニオン性界面活性剤の他の具体例としては、ナフタレンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物、メチルナフタレンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物、アントラセンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物、ベンゼンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物等のポリアルキルアリールスルホン酸系化合物;メラミンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物等のメラミンホルマリン樹脂スルホン酸系化合物;リグニンスルホン酸、変成リグニンスルホン酸等のリグニンスルホン酸系化合物;アミノアリールスルホン酸-フェノール-ホルムアルデヒド縮合物等の芳香族アミノスルホン酸系化合物;その他、ポリイソプレンスルホン酸、ポリビニルスルホン酸、ポリアリルスルホン酸、ポリイソアミレンスルホン酸、ポリスチレンスルホン酸;およびこれらの塩等が挙げられる。塩としては、ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩が好ましい。
ノニオン性界面活性剤の具体例としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル、ソルビタン脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルアミン、アルキルアルカノールアミド等が挙げられる。
カチオン性界面活性剤の具体例としては、アルキルトリメチルアンモニウム塩、アルキルジメチルアンモニウム塩、アルキルベンジルジメチルアンモニウム塩、アルキルアミン塩等が挙げられる。
両性界面活性剤の具体例としては、アルキルベタイン型、脂肪酸アミドプロピルベタイン型、アルキルイミダゾール型、アミノ酸型、アルキルアミンオキシド型等が挙げられる。
【0061】
界面活性剤を含む態様の研磨用組成物では、界面活性剤の含有量を、例えば0.0005重量%以上とすることが適当である。上記含有量は、研磨後の表面の平滑性等の観点から、好ましくは0.001重量%以上、より好ましくは0.002重量%以上である。また、加工性等の観点から、上記含有量は、3.0重量%以下とすることが適当であり、好ましくは0.5重量%以下、例えば0.1重量%以下である。
【0062】
ここに開示される研磨用組成物には、水溶性高分子を含有させてもよい。水溶性高分子を含有させることにより、研磨後の面品質が向上し得る。水溶性高分子の例としては、ナフタレンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物、メチルナフタレンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物、アントラセンスルホン酸ホルムアルデヒド等のポリアルキルアリールスルホン酸系化合物;メラミンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物等のメラミンホルマリン樹脂スルホン酸系化合物;リグニンスルホン酸、変成リグニンスルホン酸等のリグニンスルホン酸系化合物;アミノアリールスルホン酸-フェノール-ホルムアルデヒド縮合物等の芳香族アミノスルホン酸系化合物;その他、ポリイソプレンスルホン酸、ポリビニルスルホン酸、ポリアリルスルホン酸、ポリイソアミレンスルホン酸、ポリスチレンスルホン酸塩、ポリアクリル酸塩、ポリ酢酸ビニル、ポリマレイン酸、ポリイタコン酸、ポリビニルアルコール、ポリグリセリン、ポリビニルピロリドン、イソプレンスルホン酸とアクリル酸の共重合体、ポリビニルピロリドンポリアクリル酸共重合体、ポリビニルピロリドン酢酸ビニル共重合体、ジアリルアミン塩酸塩二酸化硫黄共重合体、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースの塩、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、プルラン、キトサン、キトサン塩類等が挙げられる。水溶性高分子は、1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0063】
水溶性高分子を含む態様の研磨用組成物では、研磨用組成物中における該水溶性高分子の含有量を、例えば0.001重量%以上とすることが適当である。上記含有量は、複数の水溶性高分子を含む態様では、それらの合計含有量である。上記含有量は、研磨後の研磨対象物の表面平滑性等の観点から、好ましくは0.003重量%以上、より好ましくは0.005重量%以上、さらに好ましくは0.007重量%以上である。また、加工性等の観点から、上記含有量は、1.0重量%以下とすることが適当であり、好ましくは0.5重量%以下、例えば0.1重量%以下である。なお、ここに開示される技術は、研磨用組成物が水溶性高分子を実質的に含まない態様でも好ましく実施され得る。
【0064】
分散剤の例としては、ポリカルボン酸ナトリウム塩、ポリカルボン酸アンモニウム塩等のポリカルボン酸系分散剤;ナフタレンスルホン酸ナトリウム塩、ナフタレンスルホン酸アンモニウム塩等のナフタレンスルホン酸系分散剤;アルキルスルホン酸系分散剤;ポリリン酸系分散剤;ポリアルキレンポリアミン系分散剤;第四級アンモニウム系分散剤;アルキルポリアミン系分散剤;アルキレンオキサイド系分散剤;多価アルコールエステル系分散剤;等が挙げられる。分散剤は、1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0065】
キレート剤の例としては、アミノカルボン酸系キレート剤および有機ホスホン酸系キレート剤が挙げられる。アミノカルボン酸系キレート剤の例には、エチレンジアミン四酢酸、エチレンジアミン四酢酸ナトリウム、ニトリロ三酢酸、ニトリロ三酢酸ナトリウム、ニトリロ三酢酸アンモニウム、ヒドロキシエチルエチレンジアミン三酢酸、ヒドロキシエチルエチレンジアミン三酢酸ナトリウム、ジエチレントリアミン五酢酸、ジエチレントリアミン五酢酸ナトリウム、トリエチレンテトラミン六酢酸およびトリエチレンテトラミン六酢酸ナトリウムが含まれる。有機ホスホン酸系キレート剤の例には、2-アミノエチルホスホン酸、1-ヒドロキシエチリデン-1,1-ジホスホン酸、アミノトリ(メチレンホスホン酸)、エチレンジアミンテトラキス(メチレンホスホン酸)、ジエチレントリアミンペンタ(メチレンホスホン酸)、エタン-1,1-ジホスホン酸、エタン-1,1,2-トリホスホン酸、エタン-1-ヒドロキシ-1,1-ジホスホン酸、エタン-1-ヒドロキシ-1,1,2-トリホスホン酸、エタン-1,2-ジカルボキシ-1,2-ジホスホン酸、メタンヒドロキシホスホン酸、2-ホスホノブタン-1,2-ジカルボン酸、1-ホスホノブタン-2,3,4-トリカルボン酸およびα-メチルホスホノコハク酸が含まれる。これらのうち有機ホスホン酸系キレート剤がより好ましく、なかでも好ましいものとしてエチレンジアミンテトラキス(メチレンホスホン酸)およびジエチレントリアミンペンタ(メチレンホスホン酸)が挙げられる。特に好ましいキレート剤として、エチレンジアミンテトラキス(メチレンホスホン酸)が挙げられる。キレート剤は、1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0066】
防腐剤および防カビ剤の例としては、2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オン、5-クロロ-2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オン等のイソチアゾリン系防腐剤、パラオキシ安息香酸エステル類、フェノキシエタノール等が挙げられる。
【0067】
(pH)
ここに開示される研磨用組成物のpHは特に制限されない。研磨用組成物のpHは、例えば、12.0以下、典型的には0.5~12.0とすることができ、10.0以下、典型的には0.5~10.0としてもよい。加工性や面品質等の観点から、研磨用組成物のpHは、7.0以下、例えば0.5~7.0とすることができ、5.0以下、典型的には1.0~5.0とすることがより好ましく、4.0以下、例えば1.0~4.0とすることがさらに好ましい。研磨用組成物のpHは、例えば3.0以下、典型的には1.0~3.0、好ましくは1.0~2.0、より好ましくは1.0~1.8とすることができる。研磨液において上記pHが実現されるように、必要に応じて有機酸、無機酸、塩基性化合物等のpH調整剤を含有させることができる。上記pHは、例えば、ニッケルリン基板等の磁気ディスク基板の研磨用の研磨用組成物に好ましく適用され得る。特に一次研磨用の研磨用組成物に好ましく適用され得る。
【0068】
(研磨液)
ここに開示される研磨用組成物は、典型的には該研磨用組成物を含む研磨液の形態で研磨対象物に供給されて、該研磨対象物の研磨に用いられる。上記研磨液は、例えば、研磨用組成物を希釈して調製されたものであり得る。ここで希釈とは、典型的には水による希釈である。あるいは、研磨用組成物をそのまま研磨液として使用してもよい。すなわち、ここに開示される技術における研磨用組成物の概念には、研磨対象物に供給されて該研磨対象物の研磨に用いられる研磨液(ワーキングスラリー)と、希釈して研磨液として用いられる濃縮液との双方が包含される。このような濃縮液の形態の研磨用組成物は、製造、流通、保存等の際における利便性やコスト低減等の観点から有利である。濃縮倍率は、例えば1.5倍~50倍程度とすることができる。濃縮液の貯蔵安定性等の観点から、例えば2倍~20倍、典型的には2倍~10倍程度の濃縮倍率が適当である。
【0069】
(多剤型研磨用組成物)
なお、ここに開示される研磨用組成物は、一剤型であってもよいし、二剤型を始めとする多剤型であってもよい。例えば、該研磨用組成物の構成成分、典型的には、水以外の成分のうち一部の成分を含むパートAと、残りの成分を含むパートBとが混合されて研磨対象物の研磨に用いられるように構成されていてもよい。いくつかの好ましい態様に係る多剤型研磨用組成物は、砥粒を含むパートAと、砥粒以外の成分を含むパートBとから構成されている。砥粒を含むパートAは、さらに分散剤を含んでもよい。パートBに含まれる砥粒以外の成分としては、例えば、酸、水溶性高分子その他の添加剤が挙げられる。酸化促進剤や酸化助剤は、パートA、Bのいずれか、または両方に含まれ得る。通常、これらは、使用前は分けて保管されており、使用時に混合され得る。ここでいう使用時とは、典型的には研磨対象基板の研磨時であり得る。混合時には、例えば過酸化水素等の酸化剤がさらに混合され得る。例えば、上記酸化剤が水溶液の形態で供給される場合、当該水溶液は、多剤型研磨用組成物を構成するパートCとなり得る。
【0070】
ここに開示される研磨用組成物は、例えば、ニッケルリン基板、ガラス基板、カーボン製基板等の磁気ディスク基板の研磨に好ましく適用され得る。また、めっき材質として、基材ディスクの表面にニッケルリンめっき層以外の金属層または金属化合物層を備えたディスク基板であってもよい。なかでも、アルミニウム合金製の基材ディスク上にニッケルリンめっき層を有するニッケルリンめっき基板用の研磨用組成物として好適である。かかる用途では、ここに開示される技術を適用することが特に有意義である。
【0071】
ここに開示される研磨用組成物は、仕上げ研磨工程後において高精度な表面が要求される磁気ディスク基板の製造プロセスにおける予備研磨工程のように、高い研磨効率が要求される用途において特に有意義に使用され得る。仕上げ研磨工程の前工程として複数の予備研磨工程を有する場合は、いずれの予備研磨工程にも使用可能であり、これらの予備研磨工程において同一のまたは異なる研磨用組成物を用いることができる。ここに開示される研磨用組成物は、例えば、磁気ディスク基板の一次研磨工程すなわち最初のポリシング工程に用いられる研磨用組成物として好適である。なかでも、ニッケルリン基板の製造プロセスにおいて、ニッケルリンめっき後の最初の研磨工程すなわち一次研磨工程において好ましく使用され得る。
【0072】
ここに開示される研磨用組成物は、例えば、Schmitt Measurement System Inc.社製レーザースキャン式表面粗さ計「TMS-3000WRC」により測定される表面粗さが20Å~300Å程度の磁気ディスク基板を研磨して、該磁気ディスク基板を10Å以下の表面粗さに調整する用途に好適である。かかる用途では、ここに開示される技術を適用することが特に有意義である。ここでいう表面粗さとは、算術平均粗さ(Ra)のことをいう。
【0073】
<研磨方法>
ここに開示される研磨用組成物は、例えば以下の操作を含む態様で、磁気ディスク基板を研磨対象物とする研磨に好適に使用することができる。以下、ここに開示される研磨用組成物を用いて研磨対象物を研磨する方法の好適な態様につき説明する。以下では、研磨対象物を研磨対象基板ともいう。
すなわち、ここに開示されるいずれかの研磨用組成物を含む研磨液(ワーキングスラリー)を用意する。上記研磨液を用意することには、研磨用組成物に濃度調整やpH調整等の操作を加えて研磨液を調製することが含まれ得る。濃度調整としては、例えば希釈が挙げられる。あるいは、研磨用組成物をそのまま研磨液として使用してもよい。
【0074】
次いで、その研磨液を研磨対象物に供給し、常法により研磨する。例えば、一般的な研磨装置に研磨対象物をセットし、該研磨装置の研磨パッドを通じて上記研磨対象物の表面すなわち研磨対象面に研磨液を供給する。典型的には、上記研磨液を連続的に供給しつつ、研磨対象物の表面に研磨パッドを押しつけて両者を相対的に移動させる。上記移動は、例えば回転移動であり得る。このような研磨工程を経て研磨対象物の研磨が完了する。
【0075】
使用し得る研磨パッドは特に限定されない。例えば、硬質発泡ポリウレタンタイプ、不織布タイプ、スウェードタイプ等の研磨パッドを用いることができる。スウェードタイプは、バフパッドであってもよく、典型的には、表面をバフ加工していないノンバフ状態にある研磨パッド(いわゆるノンバフパッド)であってもよい。そのようなスウェードタイプの研磨パッド(典型的にはポリウレタン製研磨パッド)は、加工性に優れ、また基板表面の高品質化を実現しやすい。なお、ここに開示される技術で用いられる研磨パッドは砥粒を含まない。
【0076】
研磨工程に使用する研磨装置は、研磨対象物の両面を同時に研磨する両面研磨装置であってもよく、研磨対象物の片面のみを研磨する片面研磨装置であってもよい。上記研磨工程が予備研磨工程である場合、いくつかの態様において、該研磨工程を行う研磨装置として両面研磨装置を好ましく採用し得る。一次研磨工程の後に仕上げ研磨工程を行う場合、該仕上げ研磨工程を行う研磨装置としては、片面研磨装置を好ましく採用し得る。
【0077】
上述のような研磨工程は、磁気ディスク基板、例えばニッケルリン基板の製造プロセスの一部であり得る。したがって、この明細書によると、上記研磨工程を含む磁気ディスク基板の製造方法および研磨方法が提供される。
【0078】
ここに開示される研磨用組成物は、研磨対象物の予備研磨工程、例えば一次研磨工程に好ましく使用され得る。この明細書によると、上述したいずれかの研磨用組成物を用いて予備研磨を行う工程を含む、磁気ディスク基板の製造方法および研磨方法が提供される。上記方法は、ここに開示される研磨用組成物を研磨対象物に供給して該研磨対象物を研磨する工程(1)を含む。上記方法は、上記予備研磨工程の後に仕上げ研磨工程を含み得る。仕上げ研磨工程に使用する研磨用組成物は特に限定されない。したがって、この明細書により開示される事項には、ここに開示される砥粒を含む研磨用組成物で研磨対象物を研磨する工程(1)と、工程(1)で用いられる研磨用組成物とは異なる研磨用組成物で研磨対象物を研磨する工程(2)とをこの順で含む、磁気ディスク基板の製造方法および研磨方法が含まれる。かかる製造方法によると、磁気ディスク基板を効率よく製造することができる。
【実施例
【0079】
以下、本発明に関するいくつかの実施例を説明するが、本発明を実施例に示すものに限定することを意図したものではない。
【0080】
<実施例1>
砥粒としてのシリカ粒子と、酸としてのリン酸と、酸化剤としての過酸化水素水と、酸化促進剤としての過硫酸カリウム(ペルオキソ二硫酸カリウム)とを、脱イオン水とともに混合し、水酸化カリウムを用いてpHを調整し、本例に係る研磨用組成物を調製した。研磨用組成物における砥粒の含有量は7重量%、酸の含有量は0.14モル/L、酸化剤の含有量は0.365モル/L、酸化促進剤の含有量は0.019モル/Lとした。この研磨用組成物のpHは1.4であった。シリカ粒子としては、粒度分布およびアスペクト比が異なる複数種類のシリカ粒子を混合し、平均アスペクト比が1.16であり、光透過式遠心沈降法により得られた重量基準の粒度分布に基づく累積50%粒子径(D50)が103nm、累積99%粒子径(D99)が259nmのものを使用した。
【0081】
<実施例2~4>
酸、酸化剤および酸化促進剤の含有量を表1に示す内容に変更した他は実施例1と同様にして各例に係る研磨用組成物を調製した。
【0082】
<実施例5~6>
酸化促進剤を使用せず、酸化助剤としての亜硫酸水素カリウムを使用し、表1に示す濃度とした他は実施例1と同様にして各例に係る研磨用組成物を調製した。
【0083】
<実施例7~13および比較例1~5>
表1に示す組成およびpHとした他は実施例1と同様にして各例に係る研磨用組成物を調製した。
【0084】
[ディスクの研磨]
各例に係る研磨用組成物をそのまま研磨液に使用して、下記の条件で、研磨対象物の研磨を行った。研磨対象物としては、表面に無電解ニッケルリンめっき層を備えたハードディスク用アルミニウム基板を使用した。上記基板は、直径3.5インチ、外径約95mm、内径約25mmのドーナツ型、厚さは1.75mmであり、研磨前における表面粗さRaは130Åであった。なお、上記表面粗さRaは、Schmitt Measurement System Inc.社製レーザースキャン式表面粗さ計「TMS-3000WRC」により測定したニッケルリンめっき層の算術平均粗さである。
【0085】
(研磨条件)
研磨装置:日本エンギス社製の片面研磨装置、型式「EJ-380IN」(定盤外径:直径370mm)
研磨パッド:FILWEL社製のスウェードパッド(ベース層と表面層とを有し、表面層が発泡ポリウレタン製のパッド)
研磨対象基板の投入枚数:1枚(1枚/キャリア ×5回)
研磨対象基板(ディスク)の回転中心の位置:定盤中心から110mmの位置にディスク回転中心を設置。
研磨液の供給レート:9mL/分
研磨荷重:120g/cm
定盤回転数:60rpm
研磨時間:3分
【0086】
[加工性]
各例に係る研磨用組成物を用いて上記研磨条件で研磨対象基板を研磨し、加工性(研磨レート)を算出した。加工性は、次の計算式に基づいて求めた。
加工性[μm/min]=研磨による基板の重量減少量[g]/(基板の面積[cm]×ニッケルリンめっきの密度[g/cm]×研磨時間[min])×10
得られた値を、比較例1の加工性を100としたときの相対値に換算して表1の「加工性」の欄に示す。値が大きいほど加工性に優れる。
【0087】
【表1】
【0088】
表1に示されるように、砥粒とH22とを含み、さらに酸化促進剤としての過酸化物を含む実施例1~4では、酸化促進剤、酸化助剤非含有の比較例1と比べて、加工性が向上した。例えば、実施例2では、H22の使用量が少ないにもかかわらず、実施例1と同等以上の結果となった。この点について、酸化促進剤、酸化助剤非含有で、H22が比較例1よりも少なく実施例2と同量である比較例2では、加工性が比較例1よりも低下しており、実施例2の結果と対照的である。さらに、H22不使用の比較例3と4との対比から、H22不使用の場合、酸化促進剤としての過酸化物を使用しても、加工性はほとんど改善されなかった。これらの結果から、H22に加えて、さらに酸化促進剤としての過酸化物を添加することの作用効果の存在が理解される。
【0089】
また、砥粒とH22とを含み、さらに酸化助剤を含む実施例5~6においても、比較例1と比べて加工性が向上した。酸化助剤の作用に関しては、比較例3と5との対比から、H22を使用せず酸化助剤を使用した比較例5では、酸化助剤不使用の比較例3よりも加工性がさらに低下していることが注目される。この結果から、酸化助剤の還元性または連鎖移動作用は、H22が存在しなければ、酸化抑制など、加工性を抑制する方向に働くと推察される。
【0090】
さらに、酸化促進剤と酸化助剤とを併用した実施例では、より優れた加工性が確認された。具体的には、実施例7では、酸化促進剤および酸化助剤の合計量が0.01モル/Lと少量にもかかわらず、加工性改善効果が認められた。また、酸化促進剤と酸化助剤とを併用した実施例8,9について、実施例8では、酸化促進剤使用で酸化助剤不使用の実施例1と比べて、加工性改善効果が認められた。実施例9では、酸化促進剤不使用で酸化助剤を同量使用した実施例6と比べて加工性が改善した。また、実施例9と10との対比から、H22を増量しても、加工性改善効果は認められないことから、酸化促進剤、酸化助剤使用による加工性改善作用は、H22等の酸化剤増量による酸化作用とは異なると考えられる。なお、酸化促進剤、酸化助剤使用による効果は、酸量やpHを変化させても維持され得ることが実施例11~13の結果からわかる。
【0091】
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示にすぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。