(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-17
(45)【発行日】2023-10-25
(54)【発明の名称】研磨用組成物および磁気ディスク基板製造方法
(51)【国際特許分類】
G11B 5/84 20060101AFI20231018BHJP
C09K 3/14 20060101ALI20231018BHJP
C09G 1/02 20060101ALI20231018BHJP
B24B 37/00 20120101ALI20231018BHJP
【FI】
G11B5/84 A
C09K3/14 550D
C09K3/14 550Z
C09G1/02
B24B37/00 H
(21)【出願番号】P 2019180876
(22)【出願日】2019-09-30
【審査請求日】2022-08-02
(73)【特許権者】
【識別番号】000236702
【氏名又は名称】株式会社フジミインコーポレーテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100117606
【氏名又は名称】安部 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100136423
【氏名又は名称】大井 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100154449
【氏名又は名称】谷 征史
(74)【代理人】
【識別番号】100174159
【氏名又は名称】梅原 めぐみ
(72)【発明者】
【氏名】大山 貴治
(72)【発明者】
【氏名】松原 一喜
【審査官】中野 和彦
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-055758(JP,A)
【文献】特開2017-179333(JP,A)
【文献】特表2019-513297(JP,A)
【文献】特開2017-179137(JP,A)
【文献】国際公開第2018/168206(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G11B 5/84
C09K 3/14
C09G 1/02
B24B 37/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ニッケルリンめっきが施された磁気ディスク基板の研磨に用いられる研磨用組成物であって、
シリカ粒子と、酸と、酸化剤と、水溶性高分子と、水とを含み、
前記水溶性高分子として、アニオン性官能基を有する第1の水溶性高分子と、
該第1の水溶性高分子とは異なる水溶性高分子でありカチオン性官能基を有する第2の水溶性高分子とを含む、研磨用組成物。
【請求項2】
前記第2の水溶性高分子として、アリルアミン重合体を含む、請求項1に記載の研磨用組成物。
【請求項3】
前記第1の水溶性高分子として、スルホン酸系重合体を含む、請求項1または2に記載の研磨用組成物。
【請求項4】
前記第2の水溶性高分子の含有量は、10ppm以下である、請求項1から3のいずれか一項に記載の研磨用組成物。
【請求項5】
pHが4.0以下である、請求項1から4のいずれか一項に記載の研磨用組成物。
【請求項6】
前記シリカ粒子はコロイダルシリカである、請求項1から5のいずれか一項に記載の研磨用組成物。
【請求項7】
前記シリカ粒子の平均一次粒子径が1nm以上50nm以下である、請求項1から6のいずれか一項に記載の研磨用組成物。
【請求項8】
ニッケルリンめっきが施された磁気ディスク基板を、請求項1から7のいずれか一項に記載の研磨用組成物を用いて研磨する工程を含む、磁気ディスク基板製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、研磨用組成物および該研磨用組成物を用いた磁気ディスク基板製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、高精度な表面が要求される基板の製造プロセスには、研磨液を用いて該基板の原材料である研磨対象物を研磨する工程が含まれる。例えば、ニッケルリンめっきが施された磁気ディスク基板(以下、Ni-P基板ともいう。)の製造においては、一般に、より研磨効率を重視した研磨(一次研磨)と、最終製品の表面精度に仕上げるために行う最終研磨(仕上げ研磨)とが行われている。磁気ディスク基板を研磨する用途で使用される研磨用組成物に関する技術文献として特許文献1および2が挙げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2000-273445号公報
【文献】特開2012-142064号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年の磁気ディスクドライブの高記録密度化等の要求により、磁気ディスク基板を研磨する用途で使用される研磨用組成物には、当該研磨用組成物を用いて磁気ディスク基板を研磨したときに磁気ディスク基板の表面に発生する欠陥(例えばスクラッチ)を低減させる性能が要求されている。一方で、欠陥低減性能を向上させるために、研磨用組成物に添加剤を加えると、研磨効率が低下することがある。
【0005】
本発明は、かかる事情に鑑みてなされたものであって、Ni-P基板の研磨に用いられて、実用的な研磨速度を維持しながら、優れたスクラッチ低減性能を有する研磨用組成物を提供することを目的とする。関連する他の目的は、そのような研磨用組成物を用いて高品位の表面を有するNi-P基板を効率的に製造する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明によると、ニッケルリンめっきが施された磁気ディスク基板(Ni-P基板)の研磨に用いられる研磨用組成物が提供される。この研磨用組成物は、シリカ粒子と、酸と、酸化剤と、水溶性高分子と、水とを含む。ここで上記研磨用組成物は、上記水溶性高分子として、アニオン性官能基を有する第1の水溶性高分子と、カチオン性官能基を有する第2の水溶性高分子とを含む。かかる構成によると、Ni-P基板の研磨に用いられて、実用的な研磨速度を維持しながら、優れたスクラッチ低減性能を有する研磨用組成物が実現し得る。
【0007】
好ましい一態様に係る研磨用組成物は、上記第2の水溶性高分子として、アリルアミン重合体を含む。かかる構成によると、Ni-P基板の研磨に用いられて、実用的な研磨速度を維持しながら、優れたスクラッチ低減性能を有する研磨用組成物が実現し得る。
【0008】
ここに開示される好ましい一態様に係る研磨用組成物は、上記第1の水溶性高分子として、スルホン酸系重合体を含む。かかる構成によると、Ni-P基板の研磨に用いられて、実用的な研磨速度を維持しながら、優れたスクラッチ低減性能を有する研磨用組成物が実現し得る。
【0009】
ここに開示される好ましい一態様に係る研磨用組成物は、上記第2の水溶性高分子の含有量が10ppm以下である。かかる構成によると、実用的な研磨速度を維持しながら、優れたスクラッチ低減性能を有する研磨用組成物が実現し得る。
【0010】
好ましい一態様に係る研磨用組成物は、pHが4.0以下である。かかるpH環境下において、上記第1の水溶性高分子と上記第2の水溶性高分子とが併用されて、より優れたスクラッチ低減性能を発揮し得る。
【0011】
好ましい一態様において、上記シリカ粒子はコロイダルシリカである。かかるシリカ粒子を含む研磨用組成物において、ここに開示される技術を適用すると、スクラッチ低減性能が向上したものとなりやすい。
【0012】
上記シリカ粒子としては、平均一次粒子径が1nm以上50nm以下のものを好ましく採用し得る。シリカ粒子として平均一次粒子径が上記範囲であるものを含む研磨用組成物は、研磨後に高い表面品位が要求される研磨工程においても好ましく使用され得る。このような研磨工程に使用され得る研磨用組成物において、ここに開示される技術を適用することは特に有意義である。
【0013】
また、この明細書によると、磁気ディスク基板の製造方法が提供される。その製造方法は、ここに開示されるいずれかの研磨用組成物を用いてニッケルリンめっきが施された磁気ディスク基板を研磨する工程を含む。かかる製造方法によると、スクラッチが少ない高品位な表面を有する磁気ディスク基板(Ni-P基板)を効率よく製造し得る。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の好適な実施形態を説明する。なお、本明細書において特に言及している事項以外の事柄であって本発明の実施に必要な事柄は、当該分野における従来技術に基づく当業者の設計事項として把握され得る。本発明は、本明細書に開示されている内容と当該分野における技術常識とに基づいて実施することができる。
【0015】
<研磨用組成物>
ここに開示される研磨用組成物は、ニッケルリンめっきが施された磁気ディスク基板(以下、Ni-P基板ともいう)の研磨(好ましくは仕上げ研磨)に用いられる研磨用組成物であって、砥粒としてのシリカ粒子と、酸と、酸化剤と、水溶性高分子と、水とを含む。
【0016】
(砥粒)
ここに開示される研磨用組成物は、砥粒を含有する。砥粒は、Ni-P基板の表面を機械的に研磨する働きを有する。砥粒の平均一次粒子径は特に限定されない。好ましい一態様において、BET法により測定される砥粒の平均一次粒子径は1nm以上である。平均一次粒子径の増大によって、より高い研磨速度が実現され得る。研磨効率等の観点から、上記平均一次粒子径は、好ましくは3nm以上、より好ましくは5nm以上、さらに好ましくは10nm以上、特に好ましくは15nm以上である。また、より面精度の高い表面を得るという観点から、上記平均一次粒子径は、好ましくは50nm以下、より好ましくは45nm以下、さらに好ましくは40nm以下、特に好ましくは35nm以下である。いくつかの態様において、上記平均一次粒子径は、例えば30nm以下としてもよく、典型的には25nm以下(例えば20nm以下)としてもよい。
【0017】
なお、ここに開示される技術において、砥粒の平均一次粒子径は、BET法に基づいて求められる平均粒子径をいう。例えば、砥粒がシリカ砥粒(すなわちシリカ粒子からなる砥粒)の場合、シリカ砥粒の平均一次粒子径は、BET法により測定される比表面積S(m2/g)から、D1(nm)=(6000/2.2)/Sの式により算出され得る。この式における2.2はシリカの比重の値である。比表面積の測定は、例えば、マイクロメリテックス社製の表面積測定装置、商品名「Flow Sorb II 2300」を用いて行うことができる。
【0018】
特に限定するものではないが、砥粒の個数基準の累積粒度分布における粒子全体の平均アスペクト比は、原理上1以上であり、その下限値は特に限定されないが、例えば1.03以上、典型的には1.08以上であってもよい。また、面精度を効率よく高めやすくする観点から、いくつかの態様において、粒子全体の平均アスペクト比は、通常、1.30以下であることが適当である。粒子全体の平均アスペクト比の低減によって、砥粒が転がり移動しやすくなるため加工が安定し、スクラッチがより好ましく低減され得る。粒子全体の平均アスペクト比は、好ましくは1.28以下、より好ましくは1.25以下(例えば1.2以下)である。ここで、砥粒の平均アスペクト比とは、該砥粒を構成する個々の粒子の長径/短径比の平均値、すなわち個数平均アスペクト比をいう。以下、特記しない場合、本明細書において平均アスペクト比とは、上記個数平均アスペクト比を意味するものとする。
【0019】
また、砥粒の小径側からの累積粒度分布における累積0~5%のD0-5粒子の平均アスペクト比は、原理上1以上であり、その下限値は特に限定されないが、例えば1.05以上、典型的には1.08以上であってもよい。ここでD0-5粒子とは、砥粒の個数基準の累積粒度分布(小径側からの累積個数分布)において、小径側からの累積が0~5%の範囲内に該当する粒子径を有する粒子のことをいう。上記累積個数分布は、典型的には、横軸を粒子径とし、縦軸を累積個数(%)とするグラフにおいて、累積0%および粒子径の小径側の端(左下)から右上に延びて、累積100%および粒子径の大径側の端(右上)に到達する曲線によって表される。D0-5粒子は、小径側から個数基準で5%を占める小径粒子である。スクラッチをより良く低減する等の観点から、いくつかの態様において、D0-5粒子の平均アスペクト比は、通常1.25以下であることが適当である。一般的に球形のシリカであっても小径側には形状が球形から歪んだ異形粒子を含むことがあり、小径の異形粒子が球形粒子に対する楔(くさび)の役割を果たすことで、球形粒子であっても局所的に砥粒が転がりにくくなり、研磨後の表面にスクラッチが生じやすくなる。D0-5粒子の平均アスペクト比の低減によって、上記楔となり得る小径の粒子がより球形に近い形状となる。球形度の高い小径粒子は、研磨時において上記楔になりにくいため、局所的に砥粒が転がりにくくなる事象が生じにくくなるため、スクラッチがより好ましく低減され得る。D0-5粒子の平均アスペクト比は、好ましくは1.24以下、より好ましくは1.23以下、さらに好ましくは1.22以下である。
【0020】
砥粒の個数平均アスペクト比は、例えば次の方法で測定される。すなわち、透過型電子顕微鏡(Transmission Electron Microscope:TEM、日立ハイテクノロジーズ社製STEM HD-2700)を用いて、測定対象の砥粒(1種類の砥粒粒子であってもよく、2種類以上の砥粒粒子の混合物であってもよい。)に含まれるTEMにて観察可能な1000個以上の粒子を、1視野内に100個程度観察可能な倍率(例えば200000倍~400000倍)で撮影し、TEM画像を取得する。そして、各粒子画像に外接する最小の長方形について、その長辺の長さ(長径の値)を短辺の長さ(短径の値)で除した値を各粒子の長径/短径比(アスペクト比)として算出する。また、各粒子の画像から各粒子の面積を算出し、算出された面積と同一の面積を有する理想円(真円)の直径を各粒子の粒子径として算出する。すなわち、測定対象とする砥粒の累積粒度分布は、当該砥粒を構成する個々の粒子について上記算出された粒子径を横軸に、累積個数(%)を縦軸にプロットすることにより求められる。そして、上記所定個数の粒子のアスペクト比から、小径側からの上記累積粒度分布における所定の累積範囲の粒子の個数平均アスペクト比を算術平均することにより、全粒子の平均アスペクト比を求めることができる。上記各アスペクト比は、マウンテック社製画像解析ソフトウエアMacViewを用いて求めることができる。
【0021】
ここに開示される研磨用組成物は、砥粒としてシリカ粒子を含む。ここに開示される研磨用組成物に含まれるシリカ粒子は、シリカを主成分とする各種のシリカ粒子であり得る。ここで、シリカを主成分とするシリカ粒子とは、該粒子の90重量%以上、通常は95重量%以上、典型的には98重量%以上がシリカである粒子をいう。使用し得るシリカ粒子の例としては、特に限定されないが、コロイダルシリカ(例えば、ケイ酸ソーダ法シリカ、アルコキシド法シリカ等)、フュームドシリカ、沈降シリカ等が挙げられる。表面改質としては、例えば、官能基の導入、金属修飾等の化学的修飾が挙げられる。ここに開示される技術における砥粒は、このようなシリカ粒子の1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて含むものであり得る。
【0022】
ここに開示される技術におけるシリカ砥粒の構成成分として使用し得るシリカ粒子の一好適例として、コロイダルシリカが挙げられる。なかでも、ケイ酸ソーダ法シリカやアルコキシド法シリカのように、水相での粒子成長を経て合成されたコロイダルシリカの使用が好ましい。この種のコロイダルシリカを含むシリカ砥粒によると、高い研磨速度と良好な面精度とが好適に達成され得る。ここに開示されるシリカ砥粒がコロイダルシリカを含む場合、該シリカ砥粒に含まれるコロイダルシリカは、1種であってもよく、製造条件および/または物性の異なる2種以上であってもよい。また、上記シリカ砥粒は、1種または2種以上のコロイダルシリカからなる構成であってもよく、コロイダルシリカと、他のシリカ粒子すなわちコロイダルシリカ以外のシリカ粒子とを組み合わせて含む構成であってもよい。好ましい一態様では、研磨用組成物に含まれる砥粒が、コロイダルシリカを単独で含む。コロイダルシリカを単独で用いることにより、高い研磨速度を保ちつつ、より良好な面精度(例えばスクラッチ数の低減された表面)が実現され得る。
【0023】
コロイダルシリカの粒子形状は特に限定されず、例えば球形であってもよく、非球形であってもよい。ここに開示される研磨用組成物をNi-P基板の仕上げ研磨工程に使用する場合は、球形に近い形状が好ましい。
【0024】
ここに開示される研磨用組成物において、該研磨用組成物に含まれる固形分に占めるシリカ粒子の含有量は、特に限定されない。上記シリカ粒子の含有量は、本発明による効果を発揮しやすくする観点から、上記固形分全体の40重量%以上であることが好ましく、より好ましくは50重量%以上、さらに好ましくは60重量%以上、さらにより好ましくは80重量%以上、特に好ましくは90重量%以上、例えば99重量%以上である。なお、本明細書において研磨用組成物に含まれる固形分とは、結合水が除去されない程度の温度、例えば60℃で研磨用組成物から水分を蒸発させた後の残留分すなわち不揮発分をいう。
【0025】
ここに開示される研磨用組成物は、アルミナ粒子を実質的に含まない態様で好ましく実施され得る。アルミナ粒子としては、例えばα-アルミナ粒子が挙げられる。かかる研磨用組成物によると、アルミナ粒子の使用に起因する品質低下が防止される。ここでいう品質低下としては、例えば、スクラッチや窪みの発生、アルミナの残留、砥粒の突き刺さり欠陥等が挙げられる。なお、本明細書において、所定の砥粒、例えばアルミナ粒子を実質的に含まないとは、研磨用組成物に含まれる固形分全量のうち当該砥粒の割合が1重量%以下、より好ましくは0.5重量%以下、典型的には0.1重量%以下であることをいう。アルミナ粒子の割合が0重量%である研磨用組成物、すなわちアルミナ粒子を含まない研磨用組成物が特に好ましい。また、ここに開示される研磨用組成物は、α-アルミナ粒子を実質的に含まない態様で好ましく実施され得る。
【0026】
ここに開示される研磨用組成物は、シリカ粒子以外の粒子、すなわち非シリカ粒子を実質的に含まない態様で好ましく実施され得る。ここで、非シリカ粒子を実質的に含まないとは、研磨用組成物に含まれる固形分全量のうち非シリカ粒子の割合が1重量%以下、より好ましくは0.5重量%以下、典型的には0.1重量%以下であることをいう。このような態様において、ここに開示される技術の適用効果が好適に発揮され得る。
【0027】
ここに開示される研磨用組成物は、砥粒として実質的にシリカ粒子のみを含む。ここで、実質的にシリカ粒子のみを含むとは、研磨用組成物に含まれる固形分全量のうちシリカ粒子の割合が99重量%以上、より好ましくは99.5重量%以上、さらに好ましくは99.9重量%以上であることをいう。このような態様において、ここに開示される技術の適用効果が好適にここに開示される技術の適用効果が好適に発揮され得る。
【0028】
研磨用組成物における砥粒の含有量は特に制限されないが、典型的には0.1重量%以上であり、0.5重量%以上であることが好ましく、1重量%以上であることがより好ましく、3重量%以上であることがさらに好ましい。上記含有量は、複数種類の砥粒を含む場合には、それらの合計含有量である。砥粒の含有量の増大によって、より高い研磨速度が実現される傾向にある。研磨後の基板の表面平滑性や砥粒の分散安定性の観点から、通常、上記含有量は、25重量%以下が適当であり、好ましくは20重量%以下、より好ましくは15重量%以下、さらに好ましくは10重量%以下、例えば8重量%以下である。
【0029】
(水溶性高分子)
ここに開示される技術において、研磨用組成物は、水溶性高分子を含む。水溶性高分子は、研磨中のNi-P基板を保護し、欠陥の発生を抑制する機能を発揮し得る。ここでいう水溶性高分子は、典型的には重量平均分子量(Mw)が500以上、好ましくは1000以上の化合物である。水溶性高分子は、単独重合体でもよく、共重合体でもよい。ここに開示される技術において、研磨用組成物は、アニオン性官能基を有する第1の水溶性高分子と、カチオン性官能基を有する第2の水溶性高分子とを含む。かかる構成によると、優れたスクラッチ低減性能を有する研磨用組成物が実現しやすい。
【0030】
上記第1の水溶性高分子と、上記第2の水溶性高分子とを組み合わせて用いることにより、スクラッチ低減性能が向上する理由については、例えば次のように考えられるが、下記の説明により限定されるものではない。即ち、アニオン性官能基を有する第1の水溶性高分子と、カチオン性官能基を有する第2の水溶性高分子とは、両者が共存する環境において鞠状の複合体を形成し得る。かかる複合体は、シリカ粒子と研磨対象物(Ni-P基板)の間に作用することでシリカ粒子の凝集物などの粗大粒子によって発生する局所的な圧力集中を緩和し、研磨により発生する基板表面のスクラッチが低減され得る。
【0031】
(第1の水溶性高分子)
ここに開示される技術において使用される第1の水溶性高分子は、アニオン性官能基を有する水溶性高分子である。第1の水溶性高分子は、後述する第2の水溶性高分子と組み合わせて用いられて、研磨後のスクラッチ発生を低減させる働きをする。
【0032】
好適な一態様において、第1の水溶性高分子は、該第1の水溶性高分子を構成する繰り返し単位として、アニオン性官能基を有する繰り返し単位を少なくとも一種類含む重合体である。第1の水溶性高分子は、好ましくはアニオン性ポリマーであり得る。
【0033】
ここに開示される技術に用いられる第1の水溶性高分子の一好適例として、スルホン酸系重合体が挙げられる。ここに開示される研磨用組成物に含まれる第1の水溶性高分子のうちスルホン酸系重合体の割合は、例えば50重量%以上100重量%以下であってよく、好ましくは70重量%以上100重量%以下、より好ましくは90重量%以上100重量%以下であり、95重量%以上100重量%以下でもよく、99重量%以上100重量%以下でもよい。第1の水溶性高分子として、一種または二種以上のスルホン酸系重合体のみを使用してもよい。
【0034】
ここで、スルホン酸系重合体とは、該スルホン酸系重合体を構成する繰返し単位として、スルホン酸基を有する繰返し単位Xを少なくとも一種類含む重合体をいう。繰返し単位Xは、一分子中に少なくとも一つのスルホン酸基を有する単量体(モノマー)に由来する繰返し単位であり得る。スルホン酸基を有する単量体としては、スチレンスルホン酸、イソプレンスルホン酸、ビニルスルホン酸、アリルスルホン酸、イソアミレンスルホン酸、2-(メタ)アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸、メタリルスルホン酸等が挙げられる。スルホン酸系重合体は、上記繰返し単位Xを2種類以上含んでいてもよい。スルホン酸系重合体は、スルホン酸基を有しない繰返し単位をさらに含んでいてもよい。スルホン酸基を有しない繰返し単位は、スルホン酸以外のアニオン性官能基を有する繰返し単位であってもよく、アニオン性官能基を有しない繰返し単位であってもよい。
【0035】
スルホン酸以外のアニオン性官能基を有する繰返し単位の一例として、カルボキシ基を有する繰返し単位Yが挙げられる。繰返し単位Yは、例えば、(メタ)アクリル酸に由来する繰返し単位であり得る。ここで「(メタ)アクリル酸」とは、アクリル酸およびメタクリル酸の一方または両方を包含する概念である。ここに開示される研磨用組成物は、スルホン酸系重合体として、(メタ)アクリル酸に由来するカルボキシ基含有繰返し単位Yと繰返し単位Xとを含む(メタ)アクリル酸/スルホン酸共重合体を含んでいてもよい。上記(メタ)アクリル酸/スルホン酸共重合体の例としては、(メタ)アクリル酸/イソプレンスルホン酸共重合体、(メタ)アクリル酸/2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸共重合体、(メタ)アクリル酸/イソプレンスルホン酸/2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸共重合体等が挙げられる。(メタ)アクリル酸/スルホン酸共重合体は、スルホン酸基を有さず、かつ(メタ)アクリル酸単量体由来ではない繰返し単位をさらに含んでいてもよい。
【0036】
スルホン酸系重合体の他の例としては、ナフタレンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物、メチルナフタレンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物、アントラセンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物等のポリアルキルアリールスルホン酸系化合物;メラミンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物等のメラミンホルマリン樹脂スルホン酸系化合物;リグニンスルホン酸、変成リグニンスルホン酸等のリグニンスルホン酸系化合物;アミノアリールスルホン酸-フェノール-ホルムアルデヒド縮合物等の芳香族アミノスルホン酸系化合物;等が挙げられる。
【0037】
いくつかの態様において、カルボキシ基を有する繰返し単位Yを含まないスルホン酸系重合体を好ましく採用し得る。繰返し単位Y不含有のスルホン酸系重合体と第2の水溶性高分子とを組み合わせて含む研磨用組成物によると、研磨による欠陥(典型的にはスクラッチ)の発生が抑制されやすい。繰返し単位Y不含有のスルホン酸系重合体は、スルホン酸基およびカルボキシ基を有しない繰返し単位(例えば、アニオン性官能基を有しない繰返し単位)をさらに含んでいてもよい。
【0038】
スルホン酸系重合体の一好適例として、該重合体の分子構造に含まれる全繰返し単位のモル数に占めるスルホン酸基含有繰返し単位Xのモル数の割合(モル比)が95%以上である重合体が挙げられる。例えば、実質的に繰返し単位Xからなるスルホン酸系重合体を第1の水溶性高分子として使用し得る。かかるスルホン酸系重合体において、上記繰返し単位Xのモル比は、例えば98%以上であってよく、99.5%以上でもよく、99.9%以上でもよい。ここに開示される研磨用組成物のいくつかの態様において、上記第1の水溶性高分子として、繰返し単位Xのモル比が100%であるスルホン酸系重合体、すなわちスルホン酸基を有する繰返し単位Xのみからなるスルホン酸系重合体を好ましく採用し得る。そのようなスルホン酸系重合体の例として、ここに開示されるスルホン酸基含有単量体のいずれか1種からなる単独重合体や、2種以上のスルホン酸基含有単量体からなる共重合体が挙げられる。上記単独重合体の例として、ポリスチレンスルホン酸、ポリイソプレンスルホン酸、ポリビニルスルホン酸、ポリアリルスルホン酸、ポリイソアミレンスルホン酸等が例示される。なかでもポリスチレンスルホン酸、すなわちスチレンスルホン酸の単独重合体(ホモポリマー)が好ましい。
【0039】
スルホン酸系重合体は、中和された塩の形態で用いられてもよい。中和された塩としては、Na、K等のアルカリ金属塩、アンモニウム塩、アルキルアンモニウム塩等が挙げられる。欠陥低減の観点から、Na塩以外の塩(例えばカリウム塩)の形態、Na塩を陽イオン交換した形態、または未中和の形態のスルホン酸系重合体を採用してもよい。
【0040】
スルホン酸系重合体のMwは、例えば500以上であってよく、1000以上でもよく、2000以上でもよい。基板表面の保護性を高めて欠陥の発生を抑制する観点から、いくつかの態様において、スルホン酸系重合体のMwは、好ましくは3000以上、より好ましくは5000以上であり、7000以上でもよく、9000以上でもよい。スルホン酸系重合体のMwの上限は特に制限されないが、例えば150万以下であってよく、100万以下でもよく、50万以下でもよく、30万以下でもよく、20万以下でもよく、10万以下でもよく、7万以下でもよく、5万以下でもよく、3万以下でもよい。なお、第1の水溶性高分子(好ましくはスルホン酸共重合体)のMwとしては、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)により求められる重量平均分子量(水系、ポリエチレングリコール換算)を採用することができる。
【0041】
上記第1の水溶性高分子は、一種を単独でまたは二種以上を組み合わせて用いることができる。
【0042】
研磨用組成物における第1の水溶性高分子(好ましくは、スルホン酸系重合体)の含有量は、特に限定されない。上記第1の水溶性高分子の含有量(二種以上の第1の水溶性高分子を用いる場合は、その合計含有量)は、例えば0.0001重量%以上であり得る。後述する第2の水溶性高分子と好適に複合体を形成して、スクラッチ低減能を向上させる観点から、上記含有量は、好ましくは0.0005重量%以上、より好ましくは0.001重量%以上であり、0.002重量%以上でもよく、0.003重量%以上でもよく、0.005重量%以上でもよい。また、研磨中における基板の保護性と研磨後の基板からの洗浄除去性とを好適に両立しやすくする観点から、第1の水溶性高分子の含有量は、通常、0.2重量%以下とすることが適当であり、好ましくは0.15重量%以下、例えば0.1重量%以下であり、0.07重量%以下でもよく、0.05重量%以下でもよい。
【0043】
(第2の水溶性高分子)
ここに開示される技術において、研磨用組成物は水溶性高分子として、カチオン性官能基を有する第2の水溶性高分子を含む。ここに開示される技術において、第2の水溶性高分子は、第1の水溶性高分子と組み合わせて用いられて、Ni-P基板の研磨における欠陥(典型的にはスクラッチ)発生を抑制する働きを有する。
【0044】
好適な一態様において、第2の水溶性高分子は、該第2の水溶性高分子を構成する繰り返し単位として、カチオン性官能基を有する繰り返し単位を少なくとも一種類含む重合体である。第2の水溶性高分子は、好ましくはカチオン性ポリマーであり得る。
【0045】
ここに開示される技術に用いられる第2の水溶性高分子の一好適例として、アリルアミン重合体が挙げられる。ここで、本明細書において「アリルアミン重合体」とは、アリル基を有するアミン化合物(以下、アリルアミン類ともいう。)に由来する構成単位を有する重合体をいう。第1の水溶性高分子と合わせて、上記アリルアミン重合体を含む研磨用組成物によると、研磨後の研磨対象面のスクラッチが低減しやすい。
【0046】
上記アリルアミン重合体は、単独重合体であってもよいし、共重合体であってもよい。上記アリルアミン類は、第一級アミンであってもよく、第二級アミンであってもよく、第三級アミンであってもよく、第四級アンモニウムカチオンであってもよい。また、上記アリルアミン類が有するアリル基の数は特に限定されない。例えば、上記アリルアミン類が有するアリル基の数は1であってもよく、2であってもよく、3であってもよい。
【0047】
ここに開示される技術の好ましい一態様において、上記アリルアミン重合体は、1つのアリル基を有するアミン化合物(以下、「モノアリルアミン類」ともいう。)に由来する構成単位を有する重合体である。
【0048】
ここに開示される技術の好ましい一態様において、上記モノアリルアミン類に由来する構成単位は、下記一般式(1)または(2)で表される構成単位である。
【0049】
【0050】
上記一般式(1)において、R1およびR2はいずれも水素原子、または、一部が置換基で置換されていてもよい炭化水素基を示す。スクラッチ低減性能向上の観点から、上記一般式(1)において、R1およびR2は、それぞれ、水素原子または炭素数1~4のアルキル基であることが好ましく、より好ましくは水素原子、メチル基またはエチル基であり、さらに好ましくは水素原子またはメチル基である。好ましい一態様において、R1およびR2はいずれも水素原子である。好ましい他の一態様において、R1およびR2のうちの一方は水素原子であり、他方はメチル基である。好ましい他の一態様において、R1およびR2はいずれもメチル基である。
【0051】
上記一般式(1)で表される構成単位は、塩の形態であってもよい。上記塩の例としては、塩酸塩、臭化水素酸塩、酢酸塩、硫酸塩、硝酸塩、亜硫酸塩、リン酸塩、アミド硫酸塩、メタンスルホン酸塩等が挙げられる。
【0052】
【0053】
上記一般式(2)において、R3、R4およびR5はいずれも水素原子、または、一部が置換基で置換されていてもよい炭化水素基を示し、Xは一価の陰イオンをそれぞれ示す。スクラッチ低減性能向上の観点から、上記一般式(2)において、R3、R4およびR5は、それぞれ、水素原子または炭素数1~4のアルキル基であることが好ましく、より好ましくは水素原子、メチル基またはエチル基であり、さらに好ましくは水素原子またはメチル基である。好ましい一態様において、R3、R4およびR5はいずれも水素原子である。好ましい他の一態様において、R3、R4およびR5のうちの少なくとも一つは水素原子であり、少なくとも一つはメチル基である。好ましい他の一態様において、R3、R4およびR5はいずれもメチル基である。
【0054】
ここに開示される技術の好ましい他の一態様において、上記アリルアミン重合体は、2つのアリル基を有するアミン化合物(以下、「ジアリルアミン類」ともいう。)に由来する構成単位を有する重合体である。
【0055】
ここに開示される技術の好ましい一態様において、上記ジアリルアミン類に由来する構成単位は、下記一般式(3)、(4)、(5)または(6)で表される構成単位である。
【0056】
【0057】
【0058】
上記一般式(3)および(4)において、R6は水素原子、または、一部が置換基で置換されていてもよい炭化水素基を示す。スクラッチ低減性能向上の観点から、上記一般式(3)および(4)において、R6は、水素原子または炭素数1~4のアルキル基であることが好ましく、より好ましくは水素原子、メチル基またはエチル基であり、さらに好ましくは水素原子またはメチル基である。
【0059】
上記一般式(3)および(4)で表される構成単位は、塩の形態であってもよい。上記塩の例としては、塩酸塩、臭化水素酸塩、酢酸塩、硫酸塩、硝酸塩、亜硫酸塩、リン酸塩、アミド硫酸塩、メタンスルホン酸塩等が挙げられる。
【0060】
【0061】
【0062】
上記一般式(5)および(6)において、R7およびR8はいずれも水素原子、または、一部が置換基で置換されていてもよい炭化水素基を示し、Xは一価の陰イオンをそれぞれ示す。スクラッチ低減性能向上の観点から、上記一般式(5)または(6)において、R7およびR8は、それぞれ、水素原子または炭素数1~4のアルキル基であることが好ましく、より好ましくは水素原子、メチル基またはエチル基であり、さらに好ましくは水素原子またはメチル基である。好ましい一態様において、R7およびR8はいずれも水素原子である。好ましい他の一態様において、R7およびR8のうちの少なくとも一方は水素原子であり、他方はメチル基である。好ましい他の一態様において、R7およびR8はいずれもメチル基である。
【0063】
ここに開示されるアリルアミン重合体は、上記一般式(1)、(3)および(4)で表される構成単位から選ばれる一種の構成単位を単独でまたは二種以上の構成単位を組み合わせて有することが好ましい。なかでも、スクラッチ低減性能向上の観点から、上記アリルアミン重合体は、上記一般式(1)および(3)で表される構成単位から選ばれる一種の構成単位を単独でまたは二種以上の構成単位を組み合わせて有することがより好ましい。
【0064】
上記アリルアミン重合体の全構成単位中における上記一般式(1)、(3)および(4)で表される構成単位の合計割合は、特に限定されない。スクラッチ低減性能向上の観点から、上記割合は、20モル%以上であることが好ましく、より好ましくは30モル%以上、さらに好ましくは40モル%以上(例えば50モル%超)である。上記アリルアミン重合体の全構成単位中における上記一般式(1)、(3)および(4)で表される構成単位の合計割合の上限値は、特に限定されない。上記割合は、原理的に100モル%以下であり、95モル%以下であってもよく、90モル%以下であってもよい。
【0065】
ここに開示される技術の好ましい一態様において、上記アリルアミン重合体は、上記一般式(1)で表される構成単位から選ばれる一種の構成単位を単独で有する単独重合体(以下、モノアリルアミン単独重合体ともいう。)である。モノアリルアミン単独重合体の好適例としては、上記一般式(1)のR1およびR2がいずれも水素原子である構成単位を含むモノアリルアミン単独重合体が挙げられる。好ましい他の一態様において、上記アリルアミン重合体は、上記一般式(3)および(4)で表される構成単位から選ばれる一種の構成単位を単独で有する単独重合体(以下、ジアリルアミン単独重合体ともいう。)である。ジアリルアミン単独重合体の好適例としては、上記一般式(3)のR6が水素原子である構成単位を含むジアリルアミン単独重合体が挙げられる。
【0066】
好ましい他の一態様において、上記アリルアミン重合体は、上記一般式(1)で表される構成単位から選ばれる二種以上の構成単位を有する共重合体である。このような共重合体の具体例としては、モノアリルアミン/ジメチルアリルアミン共重合体等が挙げられる。
【0067】
上記アリルアミン重合体は、上記一般式(1)~(6)以外の構成単位を有していてもよい。その他の構成単位は、特に限定されない。その他の構成単位の例としては、二酸化硫黄由来の構成単位、エチレン性不飽和カルボン酸化合物由来の構成単位、エチレン性不飽和スルホン酸化合物由来の構成単位、アクリルアミド化合物由来の構成単位、トリアリルアミン類由来の構成単位等が挙げられる。あるいは、その他の構成単位の例として、上記一般式(1)~(6)で表される構成単位におけるアミン構造の一部を、尿素化またはカルボニル化した構成単位等が挙げられる。
【0068】
上記エチレン性不飽和カルボン酸化合物の例としては、アクリル酸、3-ブテン酸、メタクリル酸、マレイン酸等が挙げられる。
【0069】
上記エチレン性不飽和スルホン酸化合物としては、スチレンスルホン酸、α-メチルスチレンスルホン酸、ビニルトルエンスルホン酸、ビニルナフタレンスルホン酸、ビニルベンジルスルホン酸、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸、アクリロイルオキシエチルスルホン酸、メタクロイルオキシプロピルスルホン酸等が挙げられる。
【0070】
上記アクリルアミド化合物としては、アクリルアミド、N-メチルアクリルアミド、N-(ヒドロキシメチル)アクリルアミド、N,N-ジメチルアクリルアミド、N-エチルアクリルアミド、N,N-ジエチルアクリルアミド、N-(イソプロピル)アクリルアミド等が挙げられる。
【0071】
ここに開示される技術の好ましい一態様において、上記アリルアミン重合体は、上記一般式(1)で表される構成単位から選ばれる一種の構成単位と、上記その他の構成単位とを有する共重合体である。このような共重合体の全構成単位中における上記一般式(1)で表される構成単位の合計割合は、特に限定されない。スクラッチ低減性能向上の観点から、上記割合は、20モル%以上であることが好ましく、より好ましくは30モル%以上、さらに好ましくは40モル%以上(例えば50モル%超)である。上記割合は、原理的に100モル%以下であり、95モル%以下であってもよく、90モル%以下であってもよい。
【0072】
好ましい他の一態様において、上記一般式(3)で表される構成単位から選ばれる一種の構成単位と、上記その他の構成単位とを有する共重合体である。このような共重合体の全構成単位中における上記一般式(3)で表される構成単位の合計割合は、特に限定されない。スクラッチ低減性能向上の観点から、上記割合は、20モル%以上であることが好ましく、より好ましくは30モル%以上、さらに好ましくは40モル%以上(例えば50モル%超)である。上記割合は、原理的に100モル%以下であり、95モル%以下であってもよく、90モル%以下であってもよい。
【0073】
上記その他の構成単位を有するアリルアミン重合体の非限定的な例としては、モノアリルアミン/マレイン酸共重合体、モノアリルアミン/ジアリルアミン共重合体、モノアリルアミン/ジメチルアリルアミン共重合体、モノアリルアミン-部分メトキシカルボニル化アリルアミン重合体、モノアリルアミン-部分メチルカルボニル化アリルアミン重合体、モノアリルアミン-部分尿素化アリルアミン重合体、ジアリルアミン塩/二酸化硫黄共重合体、ジアリルアミン塩/アクリルアミド共重合体等が挙げられる。なかでも、スクラッチ低減性能向上の観点から、モノアリルアミン-ジメチルアリルアミン共重合体、モノアリルアミン/マレイン酸共重合体、モノアリルアミン-部分メトキシカルボニル化アリルアミン重合体、ジアリルアミン塩/二酸化硫黄共重合体が好ましい。
【0074】
上記アリルアミン重合体の重量平均分子量(Mw)は特に限定されない。スクラッチ低減性能向上の観点から、上記アリルアミン重合体のMwは、好ましくは500以上であり、より好ましくは800以上である。さらに好ましい一態様において、上記Mwは、例えば950以上であり、さらには1500以上であってもよく、1900以上でもよい。実用的な研磨速度の維持の観点からは、上記アリルアミン重合体のMwは凡そ50000以下とすることができ、20000以下が適当である。上記Mwは、例えば16000以下であってもよく、10000以下でもよく、6000以下でもよい。
【0075】
なお、本明細書において、第2の水溶性高分子(好ましくはアリルアミン重合体)のMwとしては、GPCに基づく値(水系、ポリエチレングリコール換算)を採用することができる。GPC測定の例としては、日立L-6000型高速液体クロマトグラフを用い、以下の測定条件でMwを求めることができる。
[GPC測定条件]
サンプル濃度:溶離液で0.5g/100mLに調整
カラム:ショーデックスアサヒパックGS-220HQとGS-620HQを直列に接続して使用。
検出器:ショーデックスRI-101 示差屈折率検出器
溶離液:0.4mol/L塩化ナトリウム水溶液
流速:1.0mL/分
測定温度:30℃
サンプル注入量:20μL
【0076】
上記第2の水溶性高分子は、一種を単独でまたは二種以上を組み合わせて用いることができる。
【0077】
ここに開示する技術において、研磨用組成物における第2の水溶性高分子(例えば、アリルアミン重合体)の含有量は特に限定されない。研磨用組成物における第2の水溶性高分子(例えば、アリルアミン重合体)の含有量(二種以上の第2の水溶性高分子を用いる場合は、その合計含有量)は、例えば500ppm以下であってよく、300ppm以下でもよく、150ppm以下でもよく、95ppm以下でもよく、75ppm以下でもよく、50ppm以下でもよく、35ppm以下でもよい。研磨用組成物における第2の水溶性高分子の含有量が所定の上限値以下であると、シリカ粒子の分散性が向上して研磨後の欠陥が低減され得る。かかる観点から、ここに開示される技術の好ましい一態様において、上記第2の水溶性高分子の含有量は、例えば28ppm以下であってよく、25ppm以下でもよく、20ppm以下でもよく、15ppm以下でもよい。より好ましい一態様において、研磨用組成物における第2の水溶性高分子の含有量は、10ppm以下(即ち、0.001重量%以下)であり得る。かかる含有量で第2の水溶性高分子を含む研磨用組成物によると、Ni-P基板の研磨に用いられて、実用的な研磨維持を維持しながら、優れたスクラッチ低減性能が発揮されやすい。上記研磨用組成物における上記第2の水溶性高分子の含有量は、8ppm以下であることがより好ましく、さらに好ましくは7ppm以下(例えば6ppm以下)である。スクラッチ低減性能を好適に発揮させる観点から、上記研磨用組成物における上記第2の水溶性高分子の含有量は、0.05ppm以上であることが好ましく、より好ましくは0.1ppm以上、さらに好ましくは0.5ppm以上である。
【0078】
第1の水溶性高分子と第2の水溶性高分子との含有量比は、特に限定されない。第1の水溶性高分子と第2の水溶性高分子とが好適に複合体を形成して、スクラッチ低減に寄与する観点から、研磨用組成物における第1の水溶性高分子の含有量P1[重量%]と第2の水溶性高分子の含有量P2[重量%]の比(P1/P2)は、通常1以上であることが適切であり、好ましくは2以上であり、より好ましくは5以上であり、さらに好ましくは7以上(例えば8以上)である。また、第1の水溶性高分子と第2の水溶性高分子との含有量比(P1/P2)は、通常500以下であることが適切であり、好ましくは300以下であり、より好ましくは200以下であり、さらに好ましくは150以下(例えば140以下)である。
【0079】
ここに開示される技術において、研磨用組成物は、第1の水溶性高分子および第2の水溶性高分子以外の他の水溶性高分子を含んでもよい。上記他の水溶性高分子は、非イオン性ポリマーであり得る。ここに開示される技術の好ましい一態様において、スクラッチ低減性能向上の観点から、研磨用組成物は上記他の水溶性高分子を含まない。
【0080】
(水)
ここに開示される研磨用組成物は、水を含む。水としては、イオン交換水、純水、超純水、蒸留水等を好ましく用いることができる。上記イオン交換水は、脱イオン水であり得る。
【0081】
(酸)
ここに開示される研磨用組成物は、酸を含む。酸は、Ni-P基板を化学的に研磨する働きをする。酸としては、無機酸および有機酸のいずれも使用可能である。酸は、1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0082】
無機酸の具体例としては、リン酸(オルトリン酸)、硝酸、硫酸、塩酸、ホウ酸、スルファミン酸、ホスフィン酸、ホスホン酸、ピロリン酸、トリポリリン酸、テトラポリリン酸、ヘキサメタリン酸、炭酸、フッ化水素酸、亜硫酸、チオ硫酸、塩素酸、過塩素酸、亜塩素酸、ヨウ化水素酸、過ヨウ素酸、ヨウ素酸、臭化水素酸、過臭素酸、臭素酸、クロム酸、亜硝酸等が挙げられる。
【0083】
有機酸の例としては、有機カルボン酸、有機ホスホン酸、有機スルホン、アミノ酸等が挙げられる。これらの有機酸に含まれる炭素原子数は、典型的には1~18程度であり、例えば1~10程度であることが好ましい。
有機酸の具体例としては、マロン酸、クエン酸、イソクエン酸、1,2,4-ブタントリカルボン酸、マレイン酸、リンゴ酸、グリコール酸、コハク酸、イタコン酸、イミノ二酢酸、グルコン酸、乳酸、マンデル酸、酒石酸、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、アジピン酸、シュウ酸、吉草酸、エナント酸、カプロン酸、カプリル酸、ペラルゴン酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、マルガリン酸、ステアリン酸、シクロヘキサンカルボン酸、フェニル酢酸、安息香酸、クロトン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、リシノレン酸、メタクリル酸、グルタル酸、フマル酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、タルトロン酸、グリセリン酸、ヒドロキシ酪酸、ヒドロキシ酢酸、ヒドロキシ安息香酸、サリチル酸、メチレンコハク酸、没食子酸、アスコルビン酸、ニトロ酢酸、オキサロ酢酸、クロロ酢酸、ジクロロ酢酸、トリクロロ酢酸、ニコチン酸やピコリン酸等のピリジンカルボン酸、等の有機カルボン酸;メチルアシッドホスフェート、エチルアシッドホスフェート、エチルグリコールアシッドホスフェート、イソプロピルアシッドホスフェート、フィチン酸、1-ヒドロキシエチリデン-1,1-ジホスホン酸、アミノトリ(メチレンホスホン酸)、エチレンジアミンテトラ(メチレンホスホン酸)、ジエチレントリアミンペンタ(メチレンホスホン酸)、エタン-1,1-ジホスホン酸、エタン-1,1,2-トリホスホン酸、エタン-1-ヒドロキシ-1,1-ジホスホン酸、エタンヒドロキシ-1,1,2-トリホスホン酸、エタン-1,2-ジカルボキシ-1,2-ジホスホン酸、メタンヒドロキシホスホン酸、2-ホスホノブタン-1,2-ジカルボン酸、1-ホスホノブタン-2,3,4-トリカルボン酸、α-メチルホスホノコハク酸、アミノポリ(メチレンホスホン酸)等の有機ホスホン酸;エタンスルホン酸、アミノエタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸、2-ナフタレンスルホン酸、スルホコハク酸、10-カンファースルホン酸、タウリン等の有機スルホン酸;グリシン、アラニン、グルタミン酸、アスパラギン酸、バリン、ロイシン、イソロイシン、セリン、トレオニン、システイン、メチオニン、フェニルアラニン、トリプトファン、チロシン、プロリン、シスチン、グルタミン、アスパラギン、リシン、アルギニン等のアミノ酸;等が挙げられる。
【0084】
研磨効率の観点から好ましい酸として、リン酸、ホスホン酸、マロン酸、クエン酸、マレイン酸、塩酸、硝酸、硫酸、スルファミン酸、フィチン酸、1-ヒドロキシエチリデン-1,1-ジホスホン酸等が例示される。なかでも好ましい酸として、リン酸、ホスホン酸、マロン酸、クエン酸、マレイン酸が挙げられる。
【0085】
ここに開示される研磨用組成物は、上述したいずれかの酸の塩をさらに含み得る。これにより、良好な欠陥低減効果が安定して発揮される傾向にある。塩の例としては、上述した無機酸や有機酸の、金属塩、アンモニウム塩、アルカノールアミン塩等が挙げられる。金属塩としては、例えば、リチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩が挙げられる。アンモニウム塩としては、例えば、テトラメチルアンモニウム塩、テトラエチルアンモニウム塩等の第四級アンモニウム塩が挙げられる。アルカノールアミン塩としては、例えば、モノエタノールアミン塩、ジエタノールアミン塩、トリエタノールアミン塩が挙げられる。
【0086】
ここに開示される研磨用組成物に含有させ得る塩の具体例としては、リン酸三カリウム、リン酸水素二カリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸三ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム等のアルカリ金属リン酸塩およびアルカリ金属リン酸水素塩;上記で例示した有機酸のアルカリ金属塩;その他、グルタミン酸二酢酸のアルカリ金属塩、ジエチレントリアミン五酢酸のアルカリ金属塩、ヒドロキシエチルエチレンジアミン三酢酸のアルカリ金属塩、トリエチレンテトラミン六酢酸のアルカリ金属塩;等が挙げられる。これらのアルカリ金属塩におけるアルカリ金属は、例えば、リチウム、ナトリウム、カリウム等であり得る。
【0087】
いくつかの態様において、上記塩として、無機酸のアルカリ金属塩やアンモニウム塩等の無機酸塩を好ましく採用し得る。例えば、上述したアルカリ金属リン酸塩やアルカリ金属リン酸水素塩の他、塩化カリウム、塩化ナトリウム、塩化アンモニウム、硝酸カリウム、硝酸ナトリウム、硝酸アンモニウム等を好ましく使用し得る。なかでも好ましい例として、アルカリ金属リン酸塩およびアルカリ金属リン酸水素塩が挙げられる。アルカリ金属リン酸水素塩が特に好ましい。
【0088】
研磨用組成物における酸の含有量は特に限定されない。酸の含有量は、通常、0.1重量%以上が適当であり、0.5重量%以上が好ましく、0.8重量%以上がより好ましく、例えば1.2重量%以上である。酸の含有量が少なすぎると、研磨速度が不足しやすくなり、実用上好ましくない場合がある。酸の含有量は、通常、15重量%以下が適当であり、10重量%以下が好ましく、5重量%以下がより好ましく、例えば3重量%以下である。酸の含有量が多すぎると、研磨対象物の面精度が低下しやすくなり、実用上好ましくない場合がある。
【0089】
(酸化剤)
ここに開示される研磨用組成物は、酸化剤を含有する。酸化剤の例としては、過酸化物、硝酸またはその塩、過ヨウ素酸またはその塩、ペルオキソ酸またはその塩、過マンガン酸またはその塩、クロム酸またはその塩、酸素酸またはその塩、金属塩類、硫酸類等が挙げられるが、これらに限定されない。酸化剤は、1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。酸化剤の具体例としては、過酸化水素、過酸化ナトリウム、過酸化バリウム、硝酸、硝酸鉄、硝酸アルミニウム、硝酸アンモニウム、ペルオキソ一硫酸、ペルオキソ一硫酸アンモニウム、ペルオキソ一硫酸金属塩、ペルオキソ二硫酸、ペルオキソ二硫酸アンモニウム、ペルオキソ二硫酸金属塩、ペルオキソリン酸、ペルオキソ硫酸、ペルオキソホウ酸ナトリウム、過ギ酸、過酢酸、過安息香酸、過フタル酸、次亜臭素酸、次亜ヨウ素酸、塩素酸、臭素酸、ヨウ素酸、過ヨウ素酸、過塩素酸、次亜塩素酸、次亜塩素酸ナトリウム、次亜塩素酸カルシウム、過マンガン酸カリウム、クロム酸金属塩、重クロム酸金属塩、塩化鉄、硫酸鉄、クエン酸鉄、硫酸アンモニウム鉄等が挙げられる。好ましい酸化剤として、過酸化水素、硝酸鉄、過ヨウ素酸、ペルオキソ一硫酸、ペルオキソ二硫酸および硝酸が例示される。少なくとも過酸化水素を含むことが好ましく、過酸化水素からなることがより好ましい。
【0090】
研磨用組成物における酸化剤の含有量は、有効成分量基準で0.01重量%以上であることが好ましく、より好ましくは0.05重量%以上、さらに好ましくは0.1重量%以上であり、0.2重量%以上でもよく、0.3重量%以上でもよい。酸化剤の含有量が少なすぎると、研磨効率が低下し、実用上好ましくない場合がある。また、研磨用組成物における酸化剤の含有量は、有効成分量基準で5重量%以下であることが好ましく、より好ましくは1重量%以下である。酸化剤の含有量が多すぎると、研磨対象物の面精度が低下しやすくなり、実用上好ましくない場合がある。
【0091】
(塩基性化合物)
研磨用組成物には、pH調整等の目的で、必要に応じて塩基性化合物を含有させることができる。ここで塩基性化合物とは、研磨用組成物に添加されることによって該組成物のpHを上昇させる機能を有する化合物を指す。塩基性化合物の例としては、水酸化カリウムや水酸化ナトリウム等のアルカリ金属水酸化物、水酸化第四級アンモニウム等の第四級アンモニウム化合物、アンモニア、アミン等が挙げられる。塩基性化合物は、1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0092】
(その他の成分)
ここに開示される研磨用組成物は、本発明の効果が著しく妨げられない範囲で、界面活性剤、キレート剤、防腐剤、防カビ剤等の、研磨用組成物(例えば、Ni-P基板等のような磁気ディスク基板用の研磨用組成物)に使用され得る公知の添加剤を、必要に応じてさらに含有してもよい。例えば、防腐剤および防カビ剤の例としては、2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オン、5-クロロ-2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オン等のイソチアゾリン系防腐剤、パラオキシ安息香酸エステル類、フェノキシエタノール等が挙げられるが、これらに制限されない。
【0093】
(pH)
ここに開示される研磨用組成物のpHは、特に限定されないが、4.0以下であることが好ましい。研磨効率等の観点から、研磨用組成物のpHは、好ましくは3.7以下、より好ましくは3.5以下であり、3.2以下でもよく、3.0以下でもよく、2.5以下でもよく、2.2以下でもよい。また、研磨用組成物のpHは、通常、1.0より高くすることが適当であり、研磨後の基板表面の荒れを抑制する観点から、好ましくは1.2以上、より好ましくは1.5以上(例えば1.5超)であり、1.7以上でもよい。ここに開示される技術は、研磨用組成物のpHが例えば1.5以上3.7以下である態様で好ましく実施され得る。上述したpHは、Ni-P基板の仕上げ研磨用の研磨用組成物において特に好ましく適用され得る。
【0094】
なお、ここに開示される技術において、研磨用組成物のpHは、pHメーターを用いて3点校正した後で、ガラス電極を測定対象の組成物に入れて測定することにより把握することができる。標準液は、例えば、シュウ酸塩pH標準液:pH1.68(25℃)、フタル酸塩pH標準液:pH4.01(25℃)、中性リン酸塩pH標準液:pH6.86(25℃)、炭酸塩pH標準液:pH10.01(25℃)である。
【0095】
<濃縮液>
ここに開示される研磨用組成物は、研磨対象物(例えば磁気ディスク基板)に供給される前には濃縮された形態(すなわち、研磨液の濃縮液の形態)であってもよい。このように濃縮された形態の研磨用組成物(濃縮液)は、製造、流通、保存等の際における利便性やコスト低減等の観点から有利である。濃縮倍率は、例えば、体積換算で1.5倍~20倍程度とすることができる。濃縮液の貯蔵安定性等の観点から、通常は2倍~10倍程度の濃縮倍率が適当である。かかる濃縮液は、所望のタイミングで希釈して研磨用組成物(研磨液)を調製し、その研磨液を研磨対象物に供給する態様で使用することができる。上記希釈は、典型的には、上記濃縮液に水を加えて混合することにより行うことができる。
【0096】
<多剤型研磨用組成物>
ここに開示される研磨用組成物は、一剤型であってもよいし、二剤型を始めとする多剤型であってもよい。例えば、該研磨用組成物の構成成分(典型的には、水以外の成分)のうち一部の成分を含むパートAと、残りの成分を含むパートBとが混合されて研磨対象物の研磨に用いられるように構成されていてもよい。好ましい一態様に係る多剤型研磨用組成物は、砥粒を含むパートA(典型的には、該砥粒の分散媒をさらに含む分散液)と、砥粒以外の成分の少なくとも一部(例えば、酸、水溶性高分子等)を含むパートBとを含んで構成されている。通常、これらは、使用前は分けて保管されており、使用時に混合して一液の研磨用組成物が調製され得る。混合時には、例えば過酸化水素等の酸化剤や、希釈用の水等がさらに混合され得る。
【0097】
ここに開示される技術において、第1の水溶性高分子と第2の水溶性高分子は、複合化によるスクラッチ低減性能の観点から、研磨用組成物が研磨に供されるよりも所定期間前に、混合されていることが好ましい。好ましい一態様において、研磨用組成物は多剤型研磨用組成物であって、砥粒を含むパートAと、第1の水溶性高分子と第2の水溶性高分子と酸とを含むパートBとを含んで構成される。
【0098】
<研磨プロセス>
ここに開示される研磨用組成物は、例えば以下の操作を含む態様で、研磨対象物(ここではNi-P基板)の研磨に好適に使用することができる。以下、ここに開示される研磨用組成物を用いて研磨対象物を研磨する方法の好適な一態様につき説明する。
すなわち、ここに開示されるいずれかの研磨用組成物を含む研磨液(ワーキングスラリー)を用意する。上記研磨液を用意することには、研磨用組成物に濃度調整(例えば希釈)やpH調整等の操作を加えて研磨液を調製することが含まれ得る。あるいは、研磨用組成物をそのまま研磨液として使用してもよい。
【0099】
次いで、その研磨液を研磨対象物に供給し、常法により研磨する。例えば、一般的な研磨装置に研磨対象物をセットし、該研磨装置の研磨パッドを通じて上記研磨対象物の表面(研磨対象面)に研磨液を供給する。典型的には、上記研磨液を連続的に供給しつつ、研磨対象物の表面に研磨パッドを押しつけて両者を相対的に移動(例えば回転移動)させる。
【0100】
その後、研磨対象物をアルカリ性洗浄液で洗浄するアルカリ洗浄工程を実施する。アルカリ洗浄工程は、典型的には、研磨対象物の少なくとも研磨対象面にアルカリ性洗浄液を接触させることを含む。例えば、研磨対象物をアルカリ性洗浄液に浸漬することにより、研磨対象面にアルカリ性洗浄液を接触させることができる。上記アルカリ性洗浄液に浸漬した研磨対象物に超音波を付与する超音波処理を行ってもよい。上記超音波の付与に加えて、あるいは上記超音波の付与に代えて、ポリビニルアルコール製スポンジ、不織布、ナイロンブラシ等を用いるスクラブ洗浄を行ってもよい。
【0101】
アルカリ洗浄工程に使用するアルカリ性洗浄液のpHは、例えば7.5以上であってよく、洗浄性向上の観点から、好ましくは8.0以上であり、より好ましくはpH8.5以上、例えば8.8以上である。また、洗浄による基板表面の荒れを防ぐ観点から、上記アルカリ性洗浄液のpHは、通常、11以下が適当であり、10以下が好ましく、9.5以下がより好ましい。アルカリ性洗浄液としては、上述した塩基性化合物の一種または二種以上を含む水溶液を用いることができる。なかでもアルカリ金属水酸化物の水溶液が好ましく、例えば水酸化カリウム水溶液を好ましく使用し得る。アルカリ洗浄工程は、市販のアルカリ洗浄液を用いて行ってもよい。
【0102】
なお、研磨液を用いて行う研磨の終了後、アルカリ洗浄工程に移行する前に、研磨対象物を非アルカリ性のリンス液で洗浄してもよい。リンス液としては、純水やイオン交換水等の水や、酸性水溶液(例えば、研磨液から砥粒を除いた組成の水溶液)を用いることができる。
【0103】
<用途>
ここに開示される研磨用組成物は、ニッケルリンめっきが施された磁気ディスク基板(Ni-P基板の研磨に用いられて、該Ni-P基板の表面の欠陥数を効果的に低減し得る。上記Ni-P基板は、典型的には、基材の表面にニッケルリンめっき層を有する磁気ディスク基板である。上記基材の材質は、例えば、アルミニウム合金、ガラス、ガラス状カーボン等であり得る。ここに開示される研磨用組成物は、例えば、アルミニウム合金製の基材上にニッケルリンめっき層を有するNi-P基板の研磨に好ましく用いられ得る。
この明細書によると、ここに開示される研磨用組成物を用いた研磨工程と、該研磨工程後に行われるアルカリ洗浄工程と、を備えるNi-P基板の製造方法および該方法により製造されたNi-P基板が提供され得る。
【0104】
ここに開示される研磨用組成物は、Ni-P基板表面の欠陥を高度に低減し得ることから、Ni-P基板のファイナルポリシング工程(仕上げ研磨工程)に特に好ましく使用され得る。この明細書によると、ここに開示される研磨用組成物を用いたファイナルポリシング工程と、該ファイナルポリシング工程後に行われるアルカリ洗浄工程と、を備えるNi-P基板の製造方法および該方法により製造されたNi-P基板が提供され得る。なお、ファイナルポリシングとは、目的物の製造プロセスにおける最後のポリシング工程(すなわち、その工程の後にはさらなるポリシングを行わない工程)を指す。
【0105】
ここに開示される研磨用組成物は、ファイナルポリシングよりも上流のポリシング工程に用いられてもよい。ここで、ファイナルポリシングよりも上流のポリシング工程とは、粗研磨工程と最終研磨工程との間の予備研磨工程を指す。予備研磨工程は、典型的には少なくとも1次ポリシング工程を含み、さらに2次、3次・・・等のポリシング工程を含み得る。上記研磨用組成物は、いずれのポリシング工程にも使用可能であり、これらのポリシング工程において同一のまたは異なる研磨用組成物を用いることができる。ここに開示される研磨用組成物は、例えば、ファイナルポリシングの直前に行われるポリシング工程に用いられてもよい。
【0106】
ここに開示される研磨用組成物は、例えば、上流の工程により表面粗さ20Å以下に調整されたNi-P基板の研磨に好ましく用いられ得る。ここで表面粗さとは、Schmitt Measurement System社製レーザースキャン式表面粗さ計「TMS-3000WRC」により測定される表面粗さ(算術平均粗さ(Ra))という。表面粗さ10Å以下に調整されたNi-P基板の研磨への適用が特に好ましい。これにより、高品位の表面を有するNi-P基板を生産性よく製造し得る。
【実施例】
【0107】
以下、本発明に関するいくつかの実施例を説明するが、本発明をかかる実施例に示すものに限定することを意図したものではない。
【0108】
なお、以下の実施例では第2の水溶性高分子として以下の化合物を使用した。
モノアリルアミン重合体:モノアリルアミン(第一級アミン)の単独重合体。
モノアリルアミン・ジメチルアリルアミン共重合体:モノアリルアミン(第一級アミン)とジメチルアリルアミン(第三級アミン)との共重合体。
モノアリルアミン・マレイン酸共重合体:モノアリルアミン(第一級アミン)とマレイン酸の共重合体。
ジアリルアミン重合体:ジアリルアミン(第二級アミン)の単独重合体。
【0109】
<研磨用組成物の調製>
(実施例1)
砥粒(5重量%)、酸(1.5重量%)、第1の水溶性高分子(0.008重量%)、第2の水溶性高分子(0.6ppm)、過酸化水素(0.4重量%)および脱イオン水を含み、水酸化カリウムでpH2.0に調整された研磨用組成物を調製した。砥粒としては、平均一次粒子径18nmのコロイダルシリカを使用した。酸としては、リン酸(オルトリン酸)を用いた。第1の水溶性高分子としては、Mw10000のポリスチレンスルホン酸ナトリウム(PSS-Na)を使用した。第2の水溶性高分子としては、Mw1600のモノアリルアミン重合体を使用した。
【0110】
(実施例2~10)
第2の水溶性高分子の種類と、そのMwおよび含有量を表1に示す通りとした以外は実施例1と同様にして、本例の研磨用組成物を調製した。
【0111】
(比較例1)
第2の水溶性高分子を用いなかったこと以外は実施例1と同様にして、本例の研磨用組成物を調製した。
【0112】
(比較例2)
第1の水溶性高分子を用いなかったこと以外は実施例1と同様にして、本例の研磨用組成物を調製した。
【0113】
(比較例3)
第1の水溶性高分子を用いなかったこと以外は実施例10と同様にして、本例の研磨用組成物を調製した。
【0114】
<Ni-P基板の研磨>
各例に係る研磨用組成物をそのまま研磨液に使用して、下記の条件で研磨対象物の研磨を行った。研磨対象物としては、表面に無電解ニッケルリンめっき層を備えたハードディスク用アルミニウム基板を、Schmitt Measurement System社製レーザースキャン式表面粗さ計「TMS-3000WRC」により測定される表面粗さ(算術平均粗さ(Ra))の値が6Åとなるように予備研磨したものを使用した。上記研磨対象物の直径は3.5インチ(外径約95mm、内径約25mmのドーナツ型)、厚さは1.27mmであった。
【0115】
(研磨条件)
研磨装置:スピードファム社製の両面研磨機の両面研磨機、型式「9B-5P」
研磨パッド:スウェードノンバフタイプ
研磨対象基板の投入枚数:10枚((2枚/キャリア)×5キャリア×1バッチ))
研磨液の供給レート:130mL/分
研磨荷重:120g/cm2
下定盤回転数:20rpm
研磨時間:5分
【0116】
<洗浄>
研磨後のNi-P基板を純水に浸漬して周波数170kHzで超音波処理を行い、続いてアルカリ性洗浄液(スピードファム(株)から入手可能な洗浄液「CSC-102B」を体積基準で200倍に希釈したもの)に浸漬し、周波数170kHzの超音波を付与しながらポリビニルアルコール製スポンジによるスクラブ洗浄を行った。次いで上記基板を純水に浸漬して周波数950kHzで超音波処理を行った後、イソプロピルアルコール雰囲気中に引き上げて乾燥させた。
【0117】
<研磨速度>
各例に係る研磨用組成物により研磨し、洗浄を行って得られた基板の中から計6枚(3枚/1バッチ)を無作為に選択し、各基板の研磨による基板の重量減少量を測定することにより研磨速度を算出し、これを平均することにより各例の研磨速度とした。具体的には、研磨速度は、次の計算式に基づいて求めた。
研磨速度[μm/分]=研磨による基板の重量減少量[g]/(基板の片面面積[cm2]×ニッケルリンめっきの密度[g/cm3]×研磨時間[分])×104
ここで、基板の片面面積は66cm2、ニッケルリンめっきの密度は7.9g/cm3として計算した。得られた値を、比較例1の値を100とする相対値に換算して、表1の「研磨速度」の欄に示した。
【0118】
<スクラッチ評価>
各例に係る研磨用組成物により研磨し、洗浄を行って得られた基板の中から計5枚を無作為に選択し、各基板の両面にあるスクラッチを下記条件で検出した。5枚(計10面)のスクラッチ数の合計を10で除して基板片面あたりのスクラッチ数(本/面)を算出した。このようにして求めたスクラッチ数を、比較例1のスクラッチ数を100とする相対値に換算して表1の「スクラッチ」の欄に示した。
【0119】
(スクラッチ検出条件)
測定装置:ケーエルエー・テンコール株式会社製 Candela OSA7100
Spindle speed:10000rpm
測定範囲:17000-47000μm
Step size:4μm
Encoder multiplier:×16
検出チャンネル:P‐Sc channel
【0120】
【0121】
表1に示されるように、アニオン性官能基を有する第1の水溶性高分子と、カチオン性官能基を有する第2の水溶性高分子とを組み合わせて使用した実施例1~10の研磨用組成物によると、第1の水溶性高分子のみを用いた比較例1の研磨用組成物と比較して、研磨速度は維持されながら、顕著なスクラッチ低減性能を示すことが確かめられた。また、実施例1~10の研磨用組成物は、第2の水溶性高分子のみを用いた比較例2および3の研磨用組成物と比較して、研磨速度は維持されながら、顕著なスクラッチ低減性能を示すことが確かめられた。
【0122】
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示にすぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。