(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-17
(45)【発行日】2023-10-25
(54)【発明の名称】殺菌又は静菌用液状組成物
(51)【国際特許分類】
A01N 57/12 20060101AFI20231018BHJP
A01N 25/04 20060101ALI20231018BHJP
A01P 1/00 20060101ALI20231018BHJP
A01P 3/00 20060101ALI20231018BHJP
A23L 3/3517 20060101ALI20231018BHJP
A23L 3/3553 20060101ALI20231018BHJP
A61L 2/18 20060101ALI20231018BHJP
【FI】
A01N57/12 E
A01N25/04 101
A01P1/00
A01P3/00
A23L3/3517
A23L3/3553
A61L2/18
(21)【出願番号】P 2019506245
(86)(22)【出願日】2018-03-15
(86)【国際出願番号】 JP2018010106
(87)【国際公開番号】W WO2018168977
(87)【国際公開日】2018-09-20
【審査請求日】2020-10-06
【審判番号】
【審判請求日】2022-03-09
(31)【優先権主張番号】P 2017050771
(32)【優先日】2017-03-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000226998
【氏名又は名称】株式会社日清製粉グループ本社
(74)【代理人】
【識別番号】110000084
【氏名又は名称】弁理士法人アルガ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】奥田 治子
(72)【発明者】
【氏名】石田 亘
(72)【発明者】
【氏名】宮崎 俊之
【合議体】
【審判長】井上 典之
【審判官】阪野 誠司
【審判官】関 美祝
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-183105(JP,A)
【文献】特開平07-298862(JP,A)
【文献】特公昭46-031353(JP,B1)
【文献】特開2012-162480(JP,A)
【文献】特開平11-092306(JP,A)
【文献】特開2014-129372(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01N
JSTPlus(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
乳化剤とフィチン酸とを含み、かつpH3.5以下であ
り、該乳化剤がカプリル酸モノグリセリド及びカプリン酸モノグリセリドから選択される少なくとも1種である、
対象に付着させ乾燥させることで該対象に抗菌性を付与するための液状組成物。
【請求項2】
前記乳化剤の濃度が0.005質量%以上である、請求項
1記載の組成物。
【請求項3】
前記フィチン酸の濃度が0.005質量%以上である、請求項
1又は2記載の組成物。
【請求項4】
前記乳化剤と前記フィチン酸との質量比が1:0.005~1:200である、請求項1~
3のいずれか1項記載の組成物。
【請求項5】
さらにエタノールを含有する、請求項1~
4のいずれか1項記載の組成物。
【請求項6】
さらに水性溶媒を含有する、請求項1~
5のいずれか1項記載の組成物。
【請求項7】
対象の面積100cm
2あたり0.1~5.0mLの用量で使用される、請求項1~
6のいずれか1項記載の組成物。
【請求項8】
液状組成物を対象に噴霧もしくは塗布するか、又は該液状組成物に対象を浸漬させることにより、該液状組成物を該対象に付着させること、及び
該液状組成物が付着した対象を乾燥させること、
を含み、
該液状組成物が、乳化剤とフィチン酸とを含み、かつpH3.5以下であ
り、該乳化剤がカプリル酸モノグリセリド及びカプリン酸モノグリセリドから選択される少なくとも1種である、
対象への抗菌性付与方法。
【請求項9】
前記液状組成物における前記乳化剤の濃度が0.005質量%以上である、請求項
8記載の方法。
【請求項10】
前記液状組成物における前記フィチン酸の濃度が0.005質量%以上である、請求項
8又は9記載の方法。
【請求項11】
前記液状組成物における前記乳化剤と前記フィチン酸との質量比が1:0.005~1:200である、請求項
8~10のいずれか1項記載の方法。
【請求項12】
前記液状組成物がさらにエタノールを含有する、請求項
8~11のいずれか1項記載の方法。
【請求項13】
前記液状組成物がさらに水性溶媒を含有する、請求項
8~12のいずれか1項記載の方法。
【請求項14】
前記液状組成物が対象の面積100cm
2あたり0.1~5.0mLの用量で使用される、請求項
8~13のいずれか1項記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、殺菌又は静菌用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、食品製造においては、微生物の増殖による食品の腐敗や変質を防ぐための組成物が使用されている。特許文献1には、脂肪酸モノエステル、酸またはキレート化剤、食品グレードの界面活性剤及び媒体を含有する食品用殺菌剤組成物が記載されている。特許文献2には、フィチン酸及び乳化剤を含有する乳入り飲料用乳化安定剤が記載されている。特許文献3には、ホースラディッシュ由来の抗菌性物質と、有機酸又はその塩、アミノ酸、低級脂肪酸エステル、シュガーエステル、ビタミンB1エステル、重合リン酸塩、フィチン酸、エタノール等から選択される1種又は2種以上とを含有する食品用保存剤が記載されている。特許文献4には、エタノール、グルコン酸ナトリウム、カプリン酸、カプリル酸モノグリセリド及びカプリン酸モノグリセリド、pH調整剤、水を含有し、水溶液の酸度が0.1~0.9である殺菌剤組成物が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2005-296021号公報
【文献】特開2004-008057号公報
【文献】特開平6-153882号公報
【文献】特開2008-150366号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
食品、又はそれを取り扱う機器もしくはそれが存在する環境の殺菌又は静菌のための組成物においては、その殺菌又は静菌効果が重要であるだけでなく、安全性も無視できない。一方で、食品分野で微生物の増殖制御に従来使用されている組成物は、安全性の基準は満たすが、水溶性が低く均質な液状とすることが難しいため、機器等の洗浄や殺菌には使いづらいことが多い。したがって、均質な液状を呈し、高い殺菌又は静菌効果を有しながらも生体に対する安全性は高く、食品、又はそれを取り扱う機器もしくはそれが存在する環境の殺菌又は静菌に有用な組成物が求められている。
【0005】
さらに、食品を取り扱う機器においては、殺菌処理直後だけでなく、機器の使用中にわたって減菌された状態を維持することが望まれる。したがって、素材についた微生物を殺菌又は静菌した後、そのまま継続的に該素材における微生物の増殖を抑えることを可能にする組成物の開発は、非常に有用であると考えられる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、乳化剤とフィチン酸を含み、かつpHが3.5以下である液状組成物が、扱いやすく、また高い殺菌又は静菌作用を有することを見出した。さらに本発明者らは、当該液状組成物を素材に噴霧又は塗布することで、該素材における微生物の増殖を長時間にわたって抑制できることを見出した。
【0007】
したがって、本発明は、乳化剤とフィチン酸とを含み、かつpH3.5以下である、殺菌又は静菌用液状組成物を提供する。
また本発明は、乳化剤とフィチン酸とを含み、かつpH3.5以下である、対象への抗菌性付与用液状組成物を提供する。
【0008】
さらに本発明は、液状組成物を対象に噴霧もしくは塗布するか、又は該液状組成物に対象を浸漬させることを含み、
該液状組成物が、乳化剤とフィチン酸とを含み、かつpH3.5以下である、
殺菌又は静菌方法を提供する。
さらに本発明は、液状組成物を対象に噴霧もしくは塗布するか、又は該液状組成物に対象を浸漬させることを含み、
該液状組成物が、乳化剤とフィチン酸とを含み、かつpH3.5以下である、
対象への抗菌性付与方法を提供する。
【0009】
さらに本発明は、乳化剤とフィチン酸とを含み、かつpH3.5以下である液状組成物の、殺菌又は静菌のための使用を提供する。
さらに本発明は、乳化剤とフィチン酸とを含み、かつpH3.5以下である液状組成物の、対象への抗菌性付与のための使用を提供する。
【0010】
さらに本発明は、乳化剤とフィチン酸とを含み、かつpH3.5以下である液状組成物の、殺菌又は静菌用液状組成物の製造のための使用を提供する。
さらに本発明は、乳化剤とフィチン酸とを含み、かつpH3.5以下である液状組成物の、対象への抗菌性付与用液状組成物の製造のための使用を提供する。
【発明の効果】
【0011】
本発明の液状組成物は、液状であるため使用しやすく、また高い殺菌又は静菌効果を有しながらも生体に対する安全性が高い。また、本発明の液状組成物は、素材に適用すれば、該素材についた微生物を殺菌又は静菌することができ、さらに長時間にわたって該素材における微生物の増殖を継続的に抑えることができる。したがって、本発明は、恒常的に微生物増殖抑制が望まれる分野、例えば、食品の製造、加工、保存等の分野において有効である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明は、殺菌又は静菌用組成物を提供する。本発明の殺菌又は静菌用組成物は、乳化剤とフィチン酸とを含有する。
【0013】
本発明で使用される乳化剤としては、食品に使用可能な乳化剤、例えば、カプリル酸モノグリセリド、カプリン酸モノグリセリド等のグリセリン脂肪酸エステルが挙げられ、好ましくは、カプリル酸モノグリセリド及びカプリン酸モノグリセリドから選択される少なくとも1種である。これら食品用の乳化剤は、市販されている。例えば、カプリル酸モノグリセリドは、サンソフト(登録商標)700p-2(太陽化学株式会社)、ポエムM-100(理研ビタミン株式会社)など、カプリン酸モノグリセリドは、サンソフト(登録商標)760(太陽化学株式会社)、ポエムM-200(理研ビタミン株式会社)などの商品名で販売されている。
【0014】
本発明の組成物における乳化剤の濃度は、その種類によって変動はあり得るが、該組成物全量中、0.005質量%以上であるとよく、好ましくは0.01質量%以上、より好ましくは0.05質量%以上、さらに好ましくは0.1質量%以上、なお好ましくは0.15質量%以上である。乳化剤の濃度が低いと、本発明の組成物は充分な殺菌又は静菌特性を得られない。一方、本発明の組成物における乳化剤の濃度は、溶解性及び経済性の観点から、好ましくは10.0質量%以下、より好ましくは5.0質量%以下、さらに好ましくは2.0質量%以下、なお好ましくは1.0質量%以下である。
【0015】
フィチン酸は、従来、結着剤、酸味料等として食品等に適用されている。フィチン酸は、市販されており、例えばフィチン酸50%水溶液(IP6)(築野食品株式会社)などの商品名で販売されている。本発明の組成物におけるフィチン酸の濃度は、乳化剤の濃度によっても異なり得るが、該組成物全量中、0.005質量%以上であるとよく、好ましくは0.01質量%以上、より好ましくは0.05質量%以上、さらに好ましくは0.1質量%以上である。フィチン酸の濃度が低いと、本発明の組成物が充分な殺菌又は静菌特性を得られない。一方、本発明の組成物におけるフィチン酸の濃度は、好ましくは5質量%以下である。フィチン酸の濃度が高すぎると、本発明の組成物のpHが低くなり、金属の腐食など、本発明の組成物の適用環境に悪影響を及ぼすおそれがある。
【0016】
本発明の組成物において、乳化剤とフィチン酸との比率は、質量比で、好ましくは1:0.005~1:200、好ましくは1:0.1~1:200、より好ましくは1:0.1~1:40、さらに好ましくは1:0.3~1:40である。上記比率を外れると、本発明の組成物が、品質、コスト面で許容できないものになることがある。
【0017】
本発明の殺菌又は静菌用組成物に含まれる乳化剤及びフィチン酸は、いずれも食品添加物として許容されている物質である。したがって、本発明の組成物は、一般的な洗浄剤や殺菌剤と比べて人体に対する安全性が高い。したがって、本発明の組成物は、食品関連分野への適用、例えば、食品、又はそれを取り扱う機器もしくはそれが存在する環境の殺菌又は静菌に有用である。
【0018】
本発明の組成物は、乳化剤及びフィチン酸以外の他の成分、例えば、フィチン酸以外のリン酸(ウルトラリン酸、ポリリン酸、ピロリン酸、メタリン酸)、クエン酸、グルコン酸、フマル酸、マレイン酸、マロン酸、酒石酸、コハク酸、リンゴ酸、アジピン酸、塩酸等の有機酸及び無機酸、ならびにそれらの塩からなる群より選択される少なくとも1種、食品に使用可能なpH調整剤などを含有していてもよい。ただし、これらの他の成分の種類及び含有量は、本発明の組成物に必要な殺菌又は静菌特性が失われない範囲に制限される。好ましくは、本発明の組成物における当該他の成分の含有量は、5質量%以下である。
【0019】
本発明の組成物は、さらにアルコール類を含有していてもよい。本発明の組成物に使用されるアルコール類としては、例えばエタノールなどの食品に使用可能なアルコール類が挙げられる。アルコール類の添加により、乳化剤の溶解性が向上し、本発明の組成物が扱いやすくなる。本発明の組成物におけるアルコール類の含有量は、上述した乳化剤、フィチン酸及び他の成分の残部以下であればよく、好ましくは該乳化剤、フィチン酸及び他の成分の残部であり、より好ましくは、該組成物全量中20~60質量%である。
【0020】
あるいは、本発明の組成物は、さらに水性溶媒を含有していてもよい。好ましい水性溶媒としては、例えば水が挙げられる。本発明の組成物における該水性溶媒の含有量は、上述した乳化剤、フィチン酸及び他の成分の残部以下であればよく、好ましくは該乳化剤、フィチン酸、他の成分及びアルコール類の残部であり、さらに好ましくは20質量%以上である。
【0021】
本発明の組成物の一例は、上記水性溶媒に、乳化剤及びフィチン酸が溶解した液状組成物である。本発明の組成物の別の一例は、上記アルコール類に、乳化剤及びフィチン酸が溶解した液状組成物である。本発明の組成物の別の一例は、上記アルコール類と水性溶媒との混合溶媒に、乳化剤及びフィチン酸が溶解した液状組成物である。本発明の組成物の好ましい一例は、エタノール/水の混合溶媒に、乳化剤及びフィチン酸が溶解したエタノール水溶液である。該エタノール/水の混合溶媒としては、20~60質量%エタノール水溶液が好ましい。該アルコール類と水性溶媒との混合溶媒、又は該エタノール/水の混合溶媒の本発明の組成物における含有量は、上述した乳化剤、フィチン酸及び他の成分の残部であればよい。
【0022】
本発明の組成物のpHは、好ましくは3.5以下、より好ましくは3.0以下である。pHが高くなると、本発明の組成物が充分な殺菌又は静菌特性を得られないことがあり、他方、pHが低くなりすぎると、金属の腐食など、本発明の組成物の適用環境に悪影響を及ぼすおそれがある。本発明の組成物のpHの調整は、主にフィチン酸の添加によって行うことができるが、上述したフィチン酸以外の他の酸や、食品に使用可能なpH調整剤を用いてもよい。好ましくは、本発明の組成物は、フィチン酸以外の他の酸やpH調整剤を含有しない。
【0023】
好ましい本発明の組成物の例としては、乳化剤0.01質量%以上、フィチン酸0.005質量%以上を含有し、かつpH3.0以下である組成物が挙げられる。好ましい本発明の組成物の別の例としては、乳化剤0.15%以上、フィチン酸0.005質量%以上を含有し、かつpH3.5以下である組成物が挙げられる。好ましくは、本発明の組成物は20~60質量%のエタノールを含有する。
【0024】
本発明の組成物は、優れた殺菌又は静菌作用を有しており、各種物質の殺菌又は静菌に使用することができる。本明細書において、殺菌とは、微生物を死滅させること(但し完全な死滅に限られない)をいい、また静菌とは、微生物の増殖を抑制することをいう。したがって、本発明の殺菌又は静菌用組成物を適用された対象においては、微生物の増殖が抑制されるか、又は微生物の数が減少する。
【0025】
本発明の組成物により殺菌又は静菌される微生物の種類としては、特に限定されないが、例えば、Weissella属、Leuconostoc属等の乳酸菌、Klebsiella属、Enterobacter属等の大腸菌群、Candida属、Cryptococcus属等の酵母、Cladosporium属等のカビ、大腸菌(Escherichia coli)、サルモネラ菌(Salmonella enterica)、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)、緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)、リステリア菌(Listeria monocytogenes)、腸炎ビブリオ(Vibrio parahaemolyticus)、などが挙げられる。特に、乳酸菌等の耐酸性菌は、通常の微生物が生育を阻害される低pH領域でも生存するため従来除去又は増殖抑制しにくいものであったが、これらも本発明の組成物により殺菌又は静菌することができる。このように、本発明の組成物は、耐酸性菌等の従来除去しにくかった微生物種にも有効であるため、利用価値が高い。
【0026】
本発明の組成物は、各種素材の殺菌又は静菌に使用することができる。本発明の組成物の適用対象は、本発明の組成物との接触が許容されるものである限り、特に限定されない。本発明の組成物の適用対象の好ましい例としては、食品、食品を取り扱う機器、及び食品が存在する環境が挙げられる。該食品を取り扱う機器としては、製造、加工、流通、保存、調理等の過程で食品と接触する可能性のある機器、例えば、食品の製造もしくは加工工場の製造ラインの機器、食品の保存もしくは運搬用の容器、調理器具、調理台、作業者の手袋やエプロン、作業着、などが挙げられる。食品が存在する環境としては、食品を取り扱う環境、例えば食品の製造、加工、流通、保存、調理などが行われる環境、より詳細には、食品の製造もしくは加工工場、食品保管庫、調理場等の壁、床、天井、柱、ドア、窓、換気孔などが挙げられる。
【0027】
本発明の殺菌又は静菌用組成物による対象の殺菌又は静菌は、該本発明の組成物を該対象に接触させることによって行われ得る。本発明の殺菌又は静菌用組成物は、液状であるため、殺菌又は静菌すべき対象への適用が容易である。例えば、本発明の液状組成物は、殺菌又は静菌対象の物質(例えば食品など)中に混合されてもよい。また例えば、本発明の液状組成物を、殺菌又は静菌対象の物質に噴霧もしくは塗布するか、又は本発明の液状組成物に該対象の物質を浸漬させてもよい。好ましくは、本発明の液状組成物は、殺菌又は静菌すべき対象に対して噴霧又は塗布される。本発明の液状組成物と接触した対象は、殺菌又は静菌される。
【0028】
本発明の好ましい態様においては、殺菌又は静菌すべき対象に対して本発明の組成物を噴霧もしくは塗布するか、又は浸漬させることで、該本発明の組成物と該対象とを接触させる。さらに、該本発明の組成物と接触させた対象を乾燥させてもよい。乾燥の方法としては、静置による乾燥、風乾、乾燥機による乾燥などが挙げられるが、特に限定されない。該乾燥により、本発明の組成物に含まれる揮発性成分、例えば水性溶媒やエタノールは、揮発して該対象から除去される。該揮発性成分が除去された後でも、本発明の組成物を適用した対象においては、殺菌又は静菌作用が持続する。したがって、本態様において、本発明の組成物は、液体の状態で対象に対して殺菌又は静菌力を発揮するだけでなく、乾燥物状態でも、該対象における微生物の増殖を抑える。
【0029】
したがって、本発明の組成物の別の態様は、対象への抗菌性付与用液状組成物であり得る。本発明の組成物を、抗菌性を付与したい対象に噴霧、塗布、浸漬等により付着させることにより、該対象に抗菌性が付与される。必要に応じて又は好ましくは、さらに該本発明の組成物を付着させた対象を乾燥させる。本明細書において、対象の「抗菌性」とは、該対象の表面に付着又は内部に侵入した微生物を殺菌又は静菌することができるという、該対象の性質をいう。本態様は、恒常的に微生物増殖を防止したい環境、又はそこで使用される素材や機器、例えば、食品を取り扱う環境又はそこで使用される食品取り扱い用機器に対して、非常に有用である。
【0030】
本発明の組成物は、対象の殺菌又は静菌に用いる場合、及び対象への抗菌性付与に用いる場合のいずれにおいても、対象の面積100cm2あたり0.1~5.0mL程度の用量で使用されることが好ましく、対象の面積100cm2あたり0.5~1.0mL程度の用量で使用されることがより好ましい。好ましくは、この用量の組成物を、対象に対して、好ましくは噴霧又は塗布により、均等に付着させる。
【実施例】
【0031】
以下、実施例を挙げて、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例にのみ限定されるものではない。
【0032】
試験例1
〔液状組成物の調製〕
室温下で、乳化剤(カプリル酸モノグリセリド又はカプリン酸モノグリセリド)、エタノール及び滅菌済み精製水を1:2:2の割合で混合して溶液を調製し、これに各種有機酸、及び残余のエタノールと滅菌済み精製水を添加して、表1記載の液状組成物(溶液)を調製した。得られた液状組成物のpHを測定した。また、下記の手順で各液状組成物の殺菌又は静菌特性を評価した。
【0033】
〔殺菌又は静菌特性評価〕
(1)サンプル菌液の調製
対象菌には、4種の乳酸菌Weissella viridescens、Leuconostoc mesenteroides、Leuconostoc citreum、及びLeuconostoc pseudomesenteroidesを用いた。対象菌のシングルコロニーを、白金耳を用いて数コロニー釣菌し、TSB培地に植菌して30℃で20時間種培養したものを乳酸菌液(107cfu/mL)とした。得られた乳酸菌液を、滅菌済み精製水10mLに0.1mL混合し、さらにこれを10倍希釈した。4種の乳酸菌の10倍希釈液を等量混合してサンプル菌液を調製した。
【0034】
(2)液状組成物の適用及び菌数測定
塗布直後及び18時間後の液状組成物による静菌特性を調べた。
滅菌プラスチックシャーレを二群に分けた。一方の群では、各液状組成物を1.0mLずつ空のシャーレに入れ、コンラージ棒で均一に塗布し、次いでこれにサンプル菌液を1.0mL接種し、20秒間コンラージ棒で混合しながら塗り広げた(0h群)。もう一方の群では、各液状組成物を1.0mLずつ空のシャーレに入れ、コンラージ棒で均一に塗布した後、安全キャビネット内で18時間風乾し、水分とエタノールを完全に蒸発させた。これにサンプル菌液を1.0mL接種し、20秒間コンラージ棒で混合しながら塗り広げた(18h群)。初発菌数は105~106cfu/mLに調整した。
サンプル菌液を塗布したシャーレを、5分間静置後、シャーレ内の液体を採取し、MRS寒天培地を用いて菌数を測定した。
【0035】
(3)殺菌又は静菌特性評価
(2)で測定した菌数をもとに、下記評価基準にて各組成物(液体群及び乾燥群)の殺菌又は静菌特性を評価した。
A:初発の1/1000以下に菌数が減少
B:初発の1/100以下~1/1000超に菌数が減少
C:初発の1/10以下~1/100超に菌数が減少
D:菌数が初発の1/10よりも多い
【0036】
結果を表1に示す。フィチン酸を含む液状組成物は、塗布直後(0h群)及び塗布後時間が経過した場合(18h群)のいずれでも高い殺菌又は静菌作用を示したが、フィチン酸以外の酸を含む組成物は、塗布後時間が経過すると、殺菌又は静菌作用を示さなかった。
【0037】
【0038】
試験例2
試験例1と同様の手順で、但しフィチン酸の濃度を変えて、表2~3の液状組成物(溶液)を調製し、殺菌又は静菌特性を評価した。
【0039】
結果を表2~3に示す。フィチン酸の濃度が低くpHが3.5より高い組成物は、塗布後時間が経過すると、殺菌又は静菌作用を示さなかった。
【0040】
【0041】
【0042】
試験例3
試験例1と同様の手順で、但し乳化剤の濃度を変えて、表4~5の液状組成物(溶液)を調製し、殺菌又は静菌特性を評価した。
【0043】
結果を表4~5に示す。いずれの組成物も、塗布直後(0h群)だけでなく、塗布後時間が経過した場合(18h群)も殺菌又は静菌作用を維持していた。
【0044】
【0045】
【0046】
試験例4
様々な素材上における液状組成物の殺菌又は静菌作用を調べた。
試験例1と同様の手順で、液状組成物(カプリル酸モノグリセリド 0.15%、フィチン酸 0.40%、エタノール 40.00%、水 残余;単位は質量%;pH2.00)、及びサンプル菌液を調製した。
対象素材として、金属(ステンレス板)、ゴム(ゴム手袋)、プラスチック(番重ふた)を準備した。ステンレス板及び番重ふたは、10cm四方に切断して使用した。ゴム手袋は、10cm四方のプラスチック板に皺のないように伸ばして両面テープで貼り、余った部分はカットして使用した。
【0047】
菌数の測定は、各素材につき以下の手順で行った。各対象素材を3群に分けた。第一の群では、液状組成物0.5mLをコンラージ棒で対象素材の上に均一に塗布し、次いでサンプル菌液0.1mLを接種し、40秒間コンラージ棒で混合しながら塗り広げた(0h群)。残りの2群では、液状組成物0.5mL又は1.0mLを、コンラージ棒で対象素材の上に均一に塗布した後、安全キャビネット内で18時間風乾し、水分とエタノールを完全に蒸発させた。これにサンプル菌液1.0mLを接種し、40秒間コンラージ棒で混合しながら塗り広げた(18h群)。サンプル初発菌数は105~106cfu/mLに調整した。
サンプル菌液を塗布した対象素材を5分間静置後、無菌パウチに入れ、上から滅菌水10mLを加え、熱シールして上下に5回程度軽く振った。パウチを開封して中の液体を採取し、MRS寒天培地で菌数を測定し、試験例1と同様の基準で殺菌又は静菌特性を評価した。
【0048】
結果を表6に示す。本発明の組成物が、塗布直後(0h群)及び塗布後時間が経過した場合(18h群)のいずれにおいても、各種素材の殺菌又は静菌に有効であることが分かった。
【0049】