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特許7369323トリクロロシランの製造方法及び多結晶シリコンロッドの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-17
(45)【発行日】2023-10-25
(54)【発明の名称】トリクロロシランの製造方法及び多結晶シリコンロッドの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01B 33/107 20060101AFI20231018BHJP
【FI】
C01B33/107 Z
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2023507803
(86)(22)【出願日】2022-10-28
(86)【国際出願番号】 JP2022040486
(87)【国際公開番号】W WO2023074872
(87)【国際公開日】2023-05-04
【審査請求日】2023-02-03
(31)【優先権主張番号】P 2021178607
(32)【優先日】2021-11-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003182
【氏名又は名称】株式会社トクヤマ
(74)【代理人】
【識別番号】110001494
【氏名又は名称】前田・鈴木国際特許弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】阪井 純也
(72)【発明者】
【氏名】飯山 昭二
(72)【発明者】
【氏名】松村 邦彦
【審査官】青木 千歌子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/074268(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 33/107
C01B 33/035
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属シリコン、テトラクロロシラン、及び水素を含む混合ガスを反応させてトリクロロシランを生成せしめるトリクロロシランの製造方法において、
前記水素を含む混合ガスは、塩化水素を1~500モルppm、及び水素化シランを100~10000モルppm含み、
前記水素を含む混合ガスの塩化水素と水素化シランのモル比(水素化シラン/塩化水素)が1.0~100であり、
前記混合ガスを100~450℃で加熱した後、反応させることを特徴とするトリクロロシランの製造方法。
【請求項2】
前記混合ガスを100~450℃で少なくとも3秒保持した後、反応させる請求項1記載のトリクロロシランの製造方法。
【請求項3】
前記混合ガスにテトラクロロシランを混合し、次いでテトラクロロシランが混合された混合ガスを100~450℃で加熱する請求項1記載のトリクロロシランの製造方法。
【請求項4】
前記混合ガスが、金属シリコンに塩化水素を反応させてトリクロロシランを生成せしめたトリクロロシランを含む反応生成ガスから、該トリクロロシランを凝縮分離し、トリクロロシランが凝縮分離された後の排ガスを含む請求項1記載のトリクロロシランの製造方法。
【請求項5】
前記混合ガスが、金属シリコン、テトラクロロシラン、及び水素を反応させてトリクロロシランを生成せしめたトリクロロシランを含む反応生成ガスから、該トリクロロシランを凝縮分離し、トリクロロシランが凝縮分離された後の排ガスを含む請求項1記載のトリクロロシランの製造方法
【請求項6】
前記混合ガスが、トリクロロシラン、及び水素を反応させてポリシリコンを生成せしめた後の排ガスから、該トリクロロシランを凝縮分離し、トリクロロシランが凝縮分離された後の排ガスを含む請求項1記載のトリクロロシランの製造方法。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか一項に記載の製造方法によりトリクロロシランを含む反応生成ガスを得、次いで該反応生成ガスから、該トリクロロシランを凝縮分離するトリクロロシランの製造方法。
【請求項8】
ベルジャと底板とにより内部が密閉されてなり、
前記底板には、複数のシリコン芯線を保持するとともに該シリコン芯線に通電するための電極対が設けられてなり、
さらに前記ベルジャの内部空間にシリコン析出用原料ガスを供給するための、複数のガス供給ノズルが設けられた構造の反応炉を用い、
前記シリコン芯線に通電しながら、前記ガス供給ノズルからシリコン析出用原料ガスを噴出させることにより、前記シリコン芯線に多結晶シリコンを析出させる多結晶シリコンロッドの製造方法において、
前記シリコン析出用原料ガスに、請求項7記載の製造方法により得られたトリクロロシランを含む多結晶シリコンロッドの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トリクロロシランを製造する方法に関する。さらに詳しくは、トリクロロシランの製造方法において、排出される排ガスを有効に活用するトリクロロシランの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
トリクロロシラン(SiHCl3)は、ポリシリコン製造原料として有用な化合物であり、水素と共に、1000℃以上の高温で反応させることにより、主として下記式(1)、(2)の反応が起こり、高純度のポリシリコンが析出する。
【0003】
4SiHCl3→Si+3SiCl4+2H2(1)
SiHCl3+H2→Si+3HCl(2)
このようなトリクロロシランは、一般に、金属シリコンと塩化水素を反応させることにより製造される。例えば、特許文献1では、流動層式反応装置を用いて、金属シリコンと塩化水素とを鉄及びアルミニウム含有触媒の存在下反応させてトリクロロシランを製造する方法が開示されている。
【0004】
上記の製造方法では、下記式(3)の反応により、金属シリコンと塩化水素とからトリクロロシランが生成する。
【0005】
Si+3HCl→SiHCl3+H2(3)
一方、ポリシリコンを製造する際に副生するテトラクロロシラン(SiCl4)は、トリクロロシランに転化され、ポリシリコンの製造に再利用される。例えば、特許文献2では、金属シリコンとテトラクロロシラン及び水素を、銅シリサイド触媒の存在下、流動層で反応させるトリクロロシランの製造方法が開示されている。この製造方法では、下記反応式(4)により金属シリコンとテトラクロロシラン及び水素からトリクロロシランが生成する。
【0006】
3SiCl4+2H2+Si→4SiHCl3(4)
この製造方法は、前述したトリクロロシランの製造方法に比して高い反応温度を必要とし、さらに反応速度が遅く、生産コストが高いという欠点がある。このため、トリクロロシランの製造は、主として先の金属シリコンと塩化水素との反応により実施され、この式(4)の製造方法は、ポリシリコン製造に際して副生するテトラクロロシランの再利用のために、補助的に実施されている。
【0007】
ところで、金属シリコンに塩化水素を反応させることにより式(3)の反応によってトリクロロシランを製造する前記方法では、下記式(5)の副反応を生じ、テトラクロロシランが副生するほか、ジクロロシランも微量副生する。
【0008】
Si+4HCl→SiCl4+2H2(5)
従って、金属シリコンと塩化水素との反応によって生成したガスは、所定の温度以下に冷却してトリクロロシランを含むクロロシランの混合物を凝縮分離し、得られた凝縮液からトリクロロシランを蒸留によって分離回収し、回収されたトリクロロシランはポリシリコン製造用原料として使用される。また、蒸留によって分離されたテトラクロロシランは、主として、補助的に実施されている式(4)の反応によるトリクロロシランの製造プロセスに再利用される。
【0009】
また、反応生成ガスからクロロシランが凝縮分離された凝縮分離後の排ガスは、水素を主成分とするものであるが、未反応の塩化水素や凝縮分離されずに残った少量のクロロシランに加え、金属シリコンに不可避的不純物として含まれている微量のボロン等を含有している。このような不純物は、ポリシリコンの品質を低下するものであるため、ポリシリコン製造用原料として使用されるトリクロロシランでは、不純物の混入を極力抑制する必要がある。このため、不純物を含む上記の排ガスは、その一部は、この排ガスを生成する反応系にキャリアガスとして循環させるものの、そのほとんどは、適切な処理を経て廃棄されてきた。しかるに、トリクロロシランの生産量が増大するにつれて、クロロシランが分離された後、廃棄される排ガスの量も増加しており、このような排ガスの有効な再利用方法の確立が望まれてきた。
【0010】
一方、特許文献3には、金属ケイ素粒が充填された流動層反応器内に、金属ケイ素粒、塩化水素、テトラクロロシラン及び水素を供給し、この反応容器内で、金属シリコンと塩化水素とによるトリクロロシランの生成反応と、金属シリコン、テトラクロロシラン及び水素との反応によるトリクロロシランの生成反応とを同時に進行させるトリクロロシランの製造方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【文献】特許第3324922号
【文献】特許第3708648号
【文献】特開昭56-73617号公報
【文献】特開2011-168443号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
上記特許文献3で提案されているトリクロロシランの製造方法は、2つのトリクロロシラン生成反応が同一の反応容器内で同時に進行するため、一方の生成反応(金属シリコンと塩化水素とによる生成反応)で副生するテトラクロロシラン及び水素は、他方の反応でのトリクロロシランの生成反応に消費され、排ガスに含まれるテトラクロロシランの生成自体を極力抑制することができるという利点を有している。また、生成する排ガスを、この反応器に循環供給することもでき、多量に発生する排ガスの問題を有効に解決できる。
【0013】
しかしながら、上記の方法では、反応条件が異なる2つの反応を同時に進行させなければならないため、トリクロロシランへの転化率の低下等の不都合が避けられないという致命的な問題がある。
【0014】
例えば、金属シリコンと塩化水素との反応によりトリクロロシランを生成する前記式(3)の反応では、反応温度が高くなるほど、トリクロロシランへの転化率が低下する傾向にあり、その反応温度は250~400℃の範囲に設定されている。一方、テトラクロロシラン、金属シリコン及び水素の反応によりトリクロロシランを生成する反応では、適度な反応速度と選択率を確保するために、反応温度は400~700℃、好適には450~600℃の範囲に設定される。このことから理解されるように、同一の反応容器内で2つの反応を同時に進行する場合、反応温度を一方の反応に合わせれば、他方の反応での転化率の低下等を生じてしまうし、他方の反応に合わせれば、一方の反応での転化率の低下等を生じてしまう。結局、反応温度は、両反応の境界領域近辺(400℃程度)に設定されることとなるが、何れの反応についても最適範囲ではないため、両反応を最適条件で実施することができない。
【0015】
上記特許文献3における課題を解決する方法として、特許文献4では、金属シリコンに塩化水素を反応させてトリクロロシランを生成せしめる第1の製造プロセスと、金属シリコンにテトラクロロシラン及び水素を反応させてトリクロロシランを生成せしめる第2の製造プロセスとを、互いに独立したプロセスで含み、前記第1の製造プロセスにより得られたトリクロロシランを含む反応生成ガスから、該トリクロロシランを凝縮分離し、トリクロロシランが凝縮分離された後の排ガスを、水素源として第2の製造プロセスに供給することを特徴とするトリクロロシランの製造方法が提案されている。
【0016】
特許文献4で提案されているトリクロロシランの製造方法は、第1の製造プロセスで発生する水素を主成分とする排ガスを、格別の精製処理を行うことなく、そのまま、水素源として第2の製造プロセスに供給することができ、しかも、第2の製造プロセスも、格別の精製装置などを新たに付け加えることなく、従来通りに実施することが可能となるという利点を有している。
【0017】
しかしながら、特許文献4記載の方法で回収された水素を主成分とする排ガスを、第2の製造プロセス、すなわち、金属シリコンにテトラクロロシラン及び水素を反応させてトリクロロシランを生成せしめる際の水素源として用いた際に、当該反応に用いる製造装置内部にエロージョンや腐食割れが発生する場合があることが本発明者らの検討により判明した。特に、上記第2の製造プロセスを長期に亘り連続的に実施する際にエロージョンや腐食割れが顕著に発生することが判明し、上記排ガスを水素源として長期に亘り連続的に使用する観点でなお改善の余地があることが判明した。
【0018】
従って、本発明の目的は、トリクロロシランの製造時において、排出される水素を含む排ガスを、効果的に工業的に活用することが可能な方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明者らは、上記課題に対し鋭意検討を行った。最初に、上記製造装置内部のエロージョンや腐食割れが発生する要因について調査した。その結果、トリクロロシランを含む反応生成ガスから、該トリクロロシランを凝縮分離し、トリクロロシランが凝縮分離された後の排ガスは水素を主成分とするものの、微量の塩化水素を含有していることが判明した。そして、塩化水素を含むガスが上記反応温度に加熱された際に、製造装置内部にエロージョンや腐食割れを生じさせることが判明した。一方、水素、塩化水素に加えて水素化シランを含有した場合にはエロージョンや腐食割れが発生しにくいという知見も得た。
【0020】
これらの知見を元に、トリクロロシランが凝縮分離された後の排ガスを金属シリコンにテトラクロロシラン及び水素を反応させてトリクロロシランを生成せしめる際の水素源として用いる際の条件について検討をすすめた結果、当該水素源として用いる際のガス中に含有される塩化水素及び水素化シランの濃度を特定の範囲として、さらに、該ガスを反応に供する前に所定の温度で加熱することで、製造装置内部のエロージョンや腐食割れの発生を抑制できること、また当該ガスを長期に亘り連続的に使用することが可能であることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0021】
すなわち本発明は、金属シリコン、テトラクロロシラン、及び水素を含む混合ガスを反応させてトリクロロシランを生成せしめるトリクロロシランの製造方法において、前記水素を含む混合ガスは、塩化水素を1~500モルppm、及び水素化シランを100~10000モルppm含み、前記混合ガスを100~450℃で加熱した後、反応させることを特徴とするトリクロロシランの製造方法である。
【0022】
上記第一の本発明は、以下の態様を好適に採りうる。
(1)前記水素を含む混合ガスを100~450℃で少なくとも3秒保持した後、反応させること。
(2)前記水素を含む混合ガスとテトラクロロシランを混合し、次いで該テトラクロロシランが混合された混合ガスを100~450℃で加熱すること。
(3)前記水素を含む混合ガスが、金属シリコンに塩化水素を反応させてトリクロロシランを生成せしめたトリクロロシランを含む反応生成ガスから、該トリクロロシランを凝縮分離し、トリクロロシランが凝縮分離された後の排ガスを含むこと。
(4)前記水素を含む混合ガスが、金属シリコン、テトラクロロシラン、及び水素を反応させてトリクロロシランを生成せしめたトリクロロシランを含む反応生成ガスから、該トリクロロシランを凝縮分離し、トリクロロシランが凝縮分離された後の排ガスを含むこと。
(5)前記水素を含む混合ガスが、トリクロロシラン、及び水素を反応させてポリシリコンを生成せしめた後の排ガスから、該トリクロロシランを凝縮分離し、トリクロロシランが凝縮分離された後の排ガスを含むこと。
(6)本発明のいずれかの製造方法によりトリクロロシランを含む反応生成ガスを得、次いで該反応生成ガスから、該トリクロロシランを凝縮分離すること。
【0023】
第二の本発明は、ベルジャと底板とにより内部が密閉されてなり、前記底板には、複数のシリコン芯線を保持するとともに該シリコン芯線に通電するための電極対が設けられてなり、さらに前記ベルジャの内部空間にシリコン析出用原料ガスを供給するための、複数のガス供給ノズルが設けられた構造の反応炉を用い、前記シリコン芯線に通電しながら、前記ガス供給ノズルからシリコン析出用原料ガスを噴出させることにより、前記シリコン芯線に多結晶シリコンを析出させる多結晶シリコンロッドの製造方法において、前記シリコン析出用原料ガスに、前記(6)の方法により得られたトリクロロシランを含む多結晶シリコンロッドの製造方法である。
【発明の効果】
【0024】
本発明のトリクロロシランの製造方法によれば、トリクロロシランの製造におけるトリクロロシランを含む反応生成ガスよりトリクロロシランを分離した、水素を主成分する排ガスを、金属シリコンにテトラクロロシラン及び水素を反応させてトリクロロシランを生成せしめる際の水素源として用いることが可能である。特に当該反応における製造装置内部のエロージョンや腐食割れの発生を抑制できることから長期に亘り安定的に該排ガスを用いることが可能になる。
【0025】
このように、トリクロロシラン製造時の排ガスを有効に活用できることから、排ガスに含まれる水素以外の水素(新たに供給する水素)の使用量を大幅に低減し、その製造コストを大幅に低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】実施例に用いる混合ガスの組成を調製するため装置の一例を示す概略図である。
図2】実施例及び比較例における製造装置の構成の一例を示す概略図である
【発明を実施するための形態】
【0027】
本発明の製造方法は、トリクロロシランが凝縮分離された後の排ガスを金属シリコンにテトラクロロシラン及び水素を反応させてトリクロロシランを生成せしめる際の水素源として用いる際に、当該水素源として用いる際のガス中に含有される塩化水素及び水素化シランの濃度を特定の範囲として、さらに、該ガスを反応に供する前に100~450℃の温度で加熱することが特徴である。このような本発明の製造方法を採用することにより、上記排ガスを水素源として用いた場合に製造装置内部のエロージョンや腐食割れの発生を抑制できることから長期に亘り安定的にトリクロロシランを製造することが可能となる。本発明の製造方法により製造装置内部のエロージョンや腐食割れの発生を抑制できる理由について詳細は不明であるが、本発明者らは以下のとおり推測している。すなわち、トリクロロシランが凝縮分離された後の排ガスの主成分は水素ではあるが、微量の塩化水素を含有している。このため、金属シリコンにテトラクロロシラン及び水素を反応させるトリクロロシランの製造に、この排ガスを水素源として供する場合、当該製造における反応温度が高温(450~600℃)であることから、排ガス中の微量の塩化水素によって製造装置内部のエロージョンや腐食割れが発生するものと推測される。一方本発明の製造方法は、所定量の塩化水素及び水素化シランを含有する排ガスを所定の温度に加熱した後にトリクロロシランの製造に供する。この場合、排ガス中にジクロロシランやトリクロロシラン等の微量の水素化シランが含有されており、上記加熱によってこれらの水素化シランと塩化水素が反応し、排ガス中の塩化水素の含有量が低減されるものと推測される。従って、加熱後の排ガス中の塩化水素の含有量が低減されることとなり、当該排ガスをトリクロロシランの製造に供しても製造装置内部のエロージョンや腐食割れの発生を抑制でき、長期に亘り安定的にトリクロロシランを製造することができるものと推測される。
【0028】
本明細書においては特に断らない限り、数値A及びBについて「A~B」という表記は「A以上B以下」を意味するものとする。かかる表記において数値Bのみに単位を付した場合には、当該単位が数値Aにも適用されるものとする。以下、本発明のトリクロロシランの製造方法について詳述する。
【0029】
<トリクロロシランの製造方法>
本発明の製造方法では、金属シリコン、テトラクロロシラン、及び水素を含む混合ガスを反応させてトリクロロシランを製造する。このときのトリクロロシランの生成反応は、先に述べたように、下記式(4);
3SiCl4+2H2+Si→4SiHCl3(4)
で表される。
【0030】
<混合ガス>
本発明の製造方法では、上記トリクロロシランの製造に用いる水素源として、水素を主体とし、塩化水素を1~500モルppm、及び水素化シランを100~10000モルppm含む混合ガスを使用したことが特徴である。塩化水素及び水素化シランを上記範囲で含有する混合ガスを予め所定の温度の加熱した後に用いることで製造装置内部のエロージョンや腐食割れの発生を抑制できることから長期に亘り安定的にトリクロロシランを製造することが可能となる。
【0031】
上記混合ガスに含有される塩化水素の含有量は、製造装置内部のエロージョンや腐食割れの発生の観点から少ない方が好ましく、1~400モルppmの範囲であることが好ましく、1~200モルppmの範囲であることが特に好ましい。
【0032】
上記混合ガスに含有される水素化シランとは、分子中にSi-H結合を少なくとも1つ有するシランである。かかる水素化シランとして具体的には、SiH4、SiH3Cl、SiH2Cl2、SiHCl3、SiH3(CH3)、SiH2(CH32、SiH(CH33、SiH2Cl(CH3)、SiHCl2(CH3)、SiHCl(CH32、Si26、Si38等が挙げられる。これらの水素化シランは単独で含有していても良く、あるいは複数の水素化シランが混合されていても良い。後述するポリシリコン製造における排ガス、及びトリクロロシラン製造における排ガスを有効に活用できる観点から、上記水素化シランとして少なくともモノクロロシラン(SiH3Cl)、ジクロロシラン(SiH2Cl2)、及びトリクロロシラン(SiHCl3)から選択される少なくとも一種を含むことが好ましい。また、加熱により効率良く塩化水素の消費できる観点から水素化シランの含有量は100~2000モルppmの範囲であることが好ましく、100~1000モルppmの範囲であることが特に好ましい。
【0033】
また、同様の観点から、本発明の製造方法に用いる混合ガス中の塩化水素と水素化シランのモル比は、水素化シラン/塩化水素=1.0~100の範囲とすることが好ましく、1.1~30の範囲とすることがより好ましく、1.5~10の範囲とすることが特に好ましい。
【0034】
このような水素を主体とし塩化水素及び水素化シランを含む混合ガスとしては、
1.ポリシリコンを製造する際に副生するテトラクロロシランを含む排ガスよりテトラクロロシランを凝縮分離した後の排ガス
2.金属シリコンと塩化水素を反応させてトリクロロシランを製造し、トリクロロシランを凝縮分離した後の排ガス
3.金属シリコン、テトラクロロシラン、及び水素を反応させてトリクロロシランを製造、トリクロロシランを凝縮分離した後の排ガス
等が挙げられる。上記排ガスよりテトラクロロシランやトリクロロシランの凝縮分離を行う際のガスの冷却温度は、テトラクロロシランやトリクロロシランが凝縮する温度以下であれば良く、冷却装置の冷却能力等を勘案して適宜決定され、一般に、-10℃以下、特に-30℃以下に設定される。また、凝縮分離に際しての圧力も同様であり、通常、300kPaG以上、特には500kPaG以上に設定される。このようにテトラクロロシランやトリクロロシランが凝縮分離された後の排ガスは、通常95~99モル%の水素であり、100~6000モルppmの塩化水素、及び5000~50000モルppmの水素化シランを含有している。これらの排ガスは単独で本発明の水素として用いても良く、或いは混合して本発明の水素として用いても良い。また、これらの水素中の塩化水素及び水素化シランの含有量が上記範囲にない場合には、例えば塩化水素を含まない高純度水素をこれらの排ガスに混合する等により塩化水素及び水素化シランの含有量が上記範囲となるように適宜調製して用いれば良い。
【0035】
<テトラクロロシラン>
本発明の製造方法に用いるテトラクロロシランとしては、特に制限されるものではないが、特にトリクロロシランからポリシリコンの製造過程で副生するテトラクロロシランが使用され、また、前述した下記式(3);
Si+3HCl→SiHCl3+H2(3)
の反応により、金属シリコンと塩化水素とからトリクロロシランが生成した際に副生し、クロロシランを含む凝縮液での蒸留によりトリクロロシランから分離回収されたものや、前述した下記式(5);
Si+4HCl→SiCl4+2H2(5)
の反応により、金属シリコンと塩化水素とからトリクロロシランが生成した際に副生し、クロロシランを含む凝縮液での蒸留によりトリクロロシランから分離回収されたものも使用される。
【0036】
<金属シリコン>
本発明の製造方法に用いる金属シリコンとしては、冶金製金属シリコンや珪素鉄、或いはポリシリコン等の金属状態の珪素元素を含む固体物質で、公知のものが何ら制限なく使用される。また、それら金属珪素に含まれる鉄化合物等の不純物についても、その成分や含有量において特に制限はない。さらに、かかる金属シリコンも、平均粒径が100乃至300μm程度の微細な粉末の形態で使用される。
【0037】
<触媒>
さらに、本発明の製造方法に際しては、反応速度を速くし、効率よく且つ高い選択率でトリクロロシランを製造するという観点から、触媒を用いることが好ましい。かかる触媒としては、この反応系で従来から使用されているもの、例えば、銅粉、塩化銅、銅シリサイド等の銅系触媒が使用される。またこれらの触媒に、鉄成分、または鉄成分とアルミニウム成分とを併用することも可能である。かかる触媒は、銅換算で、金属シリコンに対して0.1~40重量%、特に0.2~20重量%の量で使用される。
【0038】
<製造装置>
本発明の製造方法を実施するための製造装置としては、公知の製造装置を使用することができる。例えば、固定床式反応装置、或いは流動床式反応装置等を反応装置として使用することができ、特に、反応種である金属シリコン、テトラクロロシラン及び水素を連続的に供給して、連続的にトリクロロシランを製造することが可能である点から、流動床式反応装置が好適に使用される。本発明の製造方法では、水素を所定の温度に加熱して後、上記反応装置に供給される。水素の加熱方法としては制限されず公知の方法を採用することができる。例えば、上記反応装置に接続する水素の供給配管を外部より加熱する手段を付設し、該加熱手段により供給配管を流通する水素を加熱する方法、あるいは水素の貯蔵タンクを設置し該貯蔵タンクを加熱する手段により貯蔵タンク内の水素を加熱した後、上記反応装置に水素を供給する方法や、上記反応器からの排出ガスと熱交換器で熱交換させて水素を加熱した後、上記反応器に水素を供給する方法等が挙げられる。
【0039】
<混合ガスの加熱>
本発明の製造方法では、金属シリコン、テトラクロロシラン、及び水素を反応させてトリクロロシランを製造する際に、水素源として上記混合ガスを用い、さらに、該混合ガスを100~450℃で加熱した後、反応させることが特徴である。前述したとおり、水素化シランおよび塩化水素を含む混合ガスを予め100~450℃に加熱した際に水素化シランと塩化水素が反応することで塩化水素の含有量が低減されているものと推測される。従って、水素化シランと塩化水素とを確実に反応させる観点から上記混合ガスを100~450℃の範囲で少なくとも3秒以上保持することが好ましく、特に5秒以上保持することが好ましく、7秒以上保持することが好ましい。また、100~450℃の範囲に上記混合ガスを保持させる時間の上限は、塩化水素の含有量が十分に低減させることができる時間であれば良く、製造条件や装置の能力等を勘案して適宜決定すれば良い。上記混合ガスの加熱中に水素化シランと塩化水素を確実に反応させる観点から、該混合ガスの100~450℃の範囲における加熱時間として具体的には、加熱温度が100~200℃の温度範囲では、1時間以上、200~300℃の温度範囲では、30秒以上、300~400℃の範囲では、10秒以上、400~450℃の温度範囲では 3秒以上であれば十分である。なお100~450℃の範囲に上記混合ガスを保持させる時間とは、該水素が、上記温度範囲である時間を示す。従って、100~450℃の範囲で該混合ガスを昇温させる場合には、昇温時間も上記保持時間に含まれる。従って100℃から450℃に昇温させながら加熱する場合は、当該温度範囲となる時間が3秒以上となるように昇温速度を適宜決定すればよいが、特に400~450℃の温度範囲が3秒以上となるようにすることが好ましい。
【0040】
本発明の製造方法では、金属シリコン、テトラクロロシラン、及び混合ガスを反応させる前に該混合ガスを100~450℃で加熱しておけばよく、金属シリコン、テトラクロロシラン、及び混合ガスの添加順序は特に制限されない。従って、上記混合ガスを100~450℃で加熱した後に、金属シリコン及びテトラクロロシランと接触させてもよいし、上記混合ガスとテトラクロロシランを混合して混合ガスを得、次いでテトラクロロシランが混合された混合ガスを100~450℃で加熱した後、混合ガスと金属シリコンを接触させても良い。金属シリコン、テトラクロロシラン、及び混合ガスを反応は、450℃を超える温度で行ってもよい。
【0041】
<トリクロロシランの製造条件>
本発明の製造方法では、上記のとおり水素を主体とし水素化シランおよび塩化水素を所定量含む混合ガスを上記温度で加熱した後に、金属シリコン及びテトラクロロシランと反応させる。各反応種の供給量は、反応装置の種類や能力等を勘案して適宜決定すれば良い。テトラクロロシランおよび水素の比は、テトラクロロシラン1モルに対して水素1~5モルが一般的であるが、テトラクロロシラン1モルに対して水素1~3モルの割合がより好ましい。また、その供給速度は、用いる反応装置の種類や大きさに応じて適宜の範囲に設定すればよく、例えば、流動床式反応装置を用いる場合、流動層が形成可能な流量となるような速度で供給される。さらに、テトラクロロシラン及び水素は反応に関与しない不活性ガス、例えば窒素ガス、アルゴンガス等により希釈して供給することもできる。
【0042】
本発明の製造方法における反応温度は、製造装置の材質や能力、用いる触媒等を勘案して適宜決定されるが、この反応温度は、一般に、400~700℃、特に450~600℃の範囲に設定される。
【0043】
本発明の製造方法で生成したガスは、生成したトリクロロシラン、未反応のテトラクロロシランや水素及び排ガス由来のシランや塩化水素を含んでいるが、この反応生成ガスは、適宜フィルターを通し、金属シリコン粒子などの固形物を除去した後、冷却による凝縮によりクロロシランを分離し、次いで凝縮液を蒸留に付することにより、生成したトリクロロシランを高純度で回収することができる。
【0044】
即ち、クロロシランの凝縮分離を行う際の反応生成ガスの冷却温度は、クロロシランが凝縮する温度以下であれば良く、冷却装置の冷却能力等を勘案して適宜決定され、一般に、-10℃以下、特に-30℃以下に設定される。また、凝縮分離に際しての圧力も同様であり、通常、300kPaG以上、特には500kPaG以上に設定され、冷却によるクロロシランの凝縮分離が行われる。
【0045】
凝縮して回収されたクロロシランは、生成したトリクロロシランに加えて、テトラクロロシランやジクロロシランを含み、これらは、蒸留によってトリクロロシランから分離さる。
【0046】
<トリクロロシランの利用>
上記本発明で製造されたトリクロロシランはポリシリコンを製造する工程における析出原料として使用される。即ち、反応炉の内部に、シリコン芯線を設け、通電によってシリコン芯線をシリコンの析出温度に加熱し、この状態で反応室内にトリクロロシランと還元ガスとからなるシリコン析出用原料ガスを供給し、化学気相析出法によりシリコン芯線上にシリコンを析出させる、所謂シーメンス法によるポリシリコン製造における原料ガスとして用いることができる。
【0047】
上記シーメンス法によるポリシリコンを製造としては、公知の製造装置を用いることができる。具体的には、ベルジャと底板とにより内部が密閉されてなり、前記底板には、複数のシリコン芯線を保持するとともに該シリコン芯線に通電するための電極対が設けられてなり、さらに前記ベルジャの内部空間にシリコン析出用原料ガスを供給するための、複数のガス供給ノズルが設けられた構造の反応炉が挙げられる。
【0048】
上記反応炉を用い、前記シリコン芯線に通電しながら、前記ガス供給ノズルから本発明の製造方法により製造されたトリクロロシランは含むシリコン析出用原料ガスを噴出させることにより、前記シリコン芯線に多結晶シリコンを析出させることで多結晶シリコンロッドの製造することができる。上記ポリシリコン製造における製造条件等は、公知の条件を特に制限無く用いることができる。
【実施例
【0049】
以下、本発明を実施例によりさらに説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0050】
(実施例1)
<混合ガスの調製>
実施例で用いる混合ガスは図1に示す組成調製装置を用いて製造した。図1に示される混合ガス調製装置は、ガスバブリング容器140、ガスバブリング容器140の冷却が可能な冷却装置150、ガスバブリング容器140に塩化水素を供給する塩化水素供給管120、及び水素化シラン供給管130が接続されている。ガスバブリング容器から排出されるガスはガス排出管160より排出される。水素ガス供給管110は、塩化水素供給管120及びガス排出管160に接続している。また、ガスバブリング容器140中の温度を測定する温度計(図示せず)、及びガス排出管160に圧力計(図示せず)が設置されている。
【0051】
ガスバブリング容器140中に、ジクロロシラン5重量%、トリクロロシラン85重量%、及びテトラクロロシラン10重量%の組成である水素化シラン液 約3kgを充填し、ガスバブリング容器140を-40℃に冷却した。
【0052】
上記水素化シラン液に、5モル%塩化水素含有水素0.1NL(ノルマルリットル)/分及び9.99モル%水素2.0NL/分の混合ガスを該水素化シラン液中の滞在時間が30秒となるようにバブリングした。バブリングによりガスバブリング容器より2.1NL/分の流速で排出されるガスを回収し、ガスクロマトグラフィーで分析した結果、塩化水素0.24モル%、ジクロロシラン0.029モル%、トリクロロシラン0.37モル%、及びテトラクロロシラン0.013モル%を含有する水素であった。
【0053】
ガスバブリング容器より排出される水素ガス(流速2.1NL/分)と、99.99モル%水素を(17NL/分)を混合し、得られた混合ガスを水素ガスタンクに貯蔵した。
【0054】
水素ガスタンクに貯蔵された水素ガスをガスクロマトグラフィーで分析した結果、水素99.71モル%、塩化水素270モルppm、水素化シラン458モルppm、テトラクロロシラン15モルppmであった。
【0055】
<混合ガスの加熱>
図2は実施例及び比較例における製造装置の構成の一例を示す概略図である。図2において製造装置は、水素ガスの組成調製を行う組成調整装置100、調製した水素ガスを貯蔵する水素ガスドラム200、水素ガスドラム200から送られた水素ガスとテトラクロロシランを混合する混合器300、混合後のガスを100~450℃に加熱するための予熱器400、及び加熱後の水素及びテトラクロロシランと金属シリコンを反応させる反応器500から構成される。図2では、予熱器400は3つの予熱器(第1予熱器410、第2予熱器420、第3予熱器430)から構成されている。水素ガスドラムには、図示しないガスを取り出す配管が設けられ、取り出されたガスはガスクロマトグラフィーのガスサンプラー(図示せず)に繋がれていており、該ドラム中のガスがオンライン分析される。
【0056】
水素ガスドラム200から送られた水素ガスを19NL/分で混合器300に供給し99.99モル%テトラクロロシランを7NL/分で供給し混合した。この混合ガスは、第1予熱器410に送られ、100℃まで加熱した。第1予熱器410からの混合ガスは、次いで第2予熱器420に送られ、450℃まで加熱した。第2予熱器での加熱時間は、加熱ゾーンの容積(リットル)をガス流量 (NL/分) で除することにより算出した結果、5.1秒であった。
【0057】
第2予熱器420からの混合ガスは、第3予熱器430に送られ 反応器の反応温度(500℃)まで加熱した。第3予熱器430の加熱ゾーンでガス温度が450~500℃になることが予想される部分には、材質がSUS304、及びSUS316のテストピースを設置した。テストピースは、長さ 約10mm、幅 約50mm、厚み 約2mm の板片とし、各材質で各10枚用意し、それぞれに 小穴を設け 針金を通して、配管内にぶら下げた。
【0058】
<金属ケイ素、テトラクロロシランと上記水素との反応>
反応器500は、内径25mmのステンレス製流動床式反応器を使用し、反応器内のガス分散板上に金属ケイ素(純度98%、不純物として 鉄、アルミニウム、炭素等を含む)240gと塩化銅粉15gを初期充填して、反応温度を500℃に設定し、圧力を 0.7MPa(ゲージ圧)とした。金属ケイ素紛は300g/hrの速度で流動層内に補給した。反応器からの排出ガスの温度は、500℃を維持するようにガスが通過する配管を保温した。上記の反応を500時間連続して行い、反応終了後に テストピースを取り出し、腐食速度を測定した。腐食速度は、反応前後の重量変化量を反応時間で除することにより算出した結果、SUS304、及びSUS316のいずれのテストピースも0.1mm/年未満であった。
【0059】
<実施例2、3及び比較例1>
表1に示す混合ガスを調製し、表1に示す条件で混合ガスの加熱を行った後、実施例1と同様にして、金属ケイ素、テトラクロロシランとの反応を行った。なお、実施例2はガスバブリング容器140を-20℃で冷却した例、実施例3は、ガスバブリング容器より排出される水素ガスと混合する99.99モル%水素の量を2倍とした例である。また、比較例1は、水素化シランを含まない例である。第2予熱器での保持時間、第3予熱器に設置したテストピースの腐食速度について表1に示す。
【0060】
【表1】
【符号の説明】
【0061】
100 組成調整装置
110 水素ガス供給管
120 塩化水素供給管
130 水素化シラン供給管
140 ガスバブリング容器
150 冷却装置
160 ガス排出管
200 水素ガスドラム
300 混合器
400 予熱器
410 第1予熱器
420 第2予熱器
430 第3予熱器
500 反応器
図1
図2