(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-17
(45)【発行日】2023-10-25
(54)【発明の名称】3Dプリンター用粉末材料、三次元造形物及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
B29C 64/153 20170101AFI20231018BHJP
B33Y 10/00 20150101ALI20231018BHJP
B33Y 70/00 20200101ALI20231018BHJP
B33Y 80/00 20150101ALI20231018BHJP
C08G 2/18 20060101ALI20231018BHJP
C08L 59/04 20060101ALI20231018BHJP
【FI】
B29C64/153
B33Y10/00
B33Y70/00
B33Y80/00
C08G2/18
C08L59/04
(21)【出願番号】P 2023516768
(86)(22)【出願日】2022-11-08
(86)【国際出願番号】 JP2022041475
(87)【国際公開番号】W WO2023090195
(87)【国際公開日】2023-05-25
【審査請求日】2023-03-14
(31)【優先権主張番号】P 2021188547
(32)【優先日】2021-11-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】390006323
【氏名又は名称】ポリプラスチックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】玉岡 章宏
(72)【発明者】
【氏名】田口 吉昭
(72)【発明者】
【氏名】福手 恭之
【審査官】清水 研吾
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-193277(JP,A)
【文献】特開2020-2248(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2020/0199283(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂の粉末として、ポリアセタール共重合体樹脂粉末(I)
のみを含む、3Dプリンター用粉末材料(X)であって、
前記ポリアセタール共重合体樹脂の全構成単位(100質量%)に占めるコモノマー単位の割合が2.5質量%以上6.0質量%以下であり、
前記粉末(I)の平均粒径が30μm以上70μm以下であり、かつ温度190℃、荷重2.16kgで測定した前記粉末(I)のメルトフローレートが1.0g/10min以上8.0g/10min以下である、3Dプリンター用粉末材料(X)。
【請求項2】
前記粉末(I)の、示差走査熱量計で測定される融点Tm2と結晶化温度Tcとの差(Tm2-Tc)が、15℃以上40℃以下である、請求項1に記載の粉末材料(X)。
【請求項3】
前記粉末(I)の、示差走査熱量計で測定される結晶融解エンタルピーΔHmが、100J/g以上140J/g以下である、請求項1または2に記載の粉末材料(X)。
【請求項4】
前記粉末(I)の、体積基準累積頻度が90%となる粒径D90と、体積基準累積頻度が10%となる粒径D10との比(D90/D10)が、10以下である、請求項1または2に記載の粉末材料(X)。
【請求項5】
前記コモノマー単位が、炭素数2以上のオキシアルキレン単位である、請求項1または2に記載の粉末材料(X)。
【請求項6】
前記コモノマー単位が、オキシエチレン基、オキシプロピレン基、及びオキシテトラメチレン基から選択される少なくとも1つのオキシアルキレン単位である、請求項1または2に記載の粉末材料(X)。
【請求項7】
請求項1または2に記載の粉末材料(X)を、粉末焼結法3Dプリンターに供給することを含む、三次元造形物の製造方法。
【請求項8】
請求項1または2に記載の粉末材料(X)の焼結体を含む、三次元造形物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、3Dプリンター用粉末材料、三次元造形物及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
3Dプリンターは、金型や大規模な溶融装置を用いずに三次元の造形物を作製することができることから、近年急速に普及している。3Dプリンターによる造形方式としては、熱溶解積層法(FDM法)、光造形法(STL法)、粉末焼結法(SLS法)などが知られている。粉末焼結法は、粉末状の材料を用いて薄層を形成した後、前記薄層に高出力のレーザー光線や電子線を照射して焼結させる工程を繰り返すことにより、焼結させた層を順次積層させて造形する方法であり、他の造形方法よりも精密造形に適している。
【0003】
粉末焼結法3Dプリンターに使用可能な粉末材料としては、ポリアミド11、ポリアミド12、ポリプロピレン等が広く知られている。また、特許文献1、2には、選択的レーザー焼結法3Dプリンター用粉末材料として使用可能なポリアセタール粉末が記載されている。
【0004】
【文献】特開2020-002247号公報
【文献】特開2013-508199号公報
【発明の概要】
【0005】
しかしながら、従来の3Dプリンター用ポリアセタール粉末を用いて粉末焼結法により作成された三次元造形物は、反りやボイドが多く外観が悪いという問題がある。また、充填率が低いため、高密度かつ高強度の三次元造形物を得ることは難しい。
本発明は、外観に優れ、高密度かつ高強度の三次元造形物を作成可能な3Dプリンター用粉末材料、並びにそれを用いた三次元造形物及びその製造方法を提供することを目的とする。
【0006】
本願発明者らは鋭意検討した結果、一定量のコモノマーを含み、かつメルトフローレートが一定の範囲内にあるポリアセタール共重合体樹脂粉末を含む粉末材料であれば、上記の全ての課題を解決できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
すなわち、本発明は以下の態様を有する。
[1]ポリアセタール共重合体樹脂粉末(I)を含む、3Dプリンター用粉末材料(X)であって、前記ポリアセタール共重合体樹脂の全構成単位(100質量%)に占めるコモノマー単位の割合が1.0質量%以上6.0質量%以下であり、前記粉末(I)の平均粒径が30μm以上70μm以下であり、かつ温度190℃、荷重2.16kgで測定した前記粉末(I)のメルトフローレートが1.0g/10min以上8.0g/10min以下である、3Dプリンター用粉末材料(X)。
[2]前記粉末(I)の、示差走査熱量計で測定される融点Tm2と結晶化温度Tcとの差(Tm2-Tc)が、15℃以上40℃以下である、[1]に記載の粉末材料(X)。
[3]前記粉末(I)の、示差走査熱量計で測定される結晶融解エンタルピーΔHmが、100J/g以上140J/g以下である、[1]または[2]に記載の粉末材料(X)。
[4]前記粉末(I)の、体積基準累積頻度が90%となる粒径D90と、体積基準累積頻度が10%となる粒径D10との比(D90/D10)が、10以下である、[1]から[3]のいずれかに記載の粉末材料(X)。
[5]前記コモノマー単位が、炭素数2以上のオキシアルキレン単位である、[1]から[4]のいずれかに記載の粉末材料(X)。
[6]前記コモノマー単位が、オキシエチレン基、オキシプロピレン基、及びオキシテトラメチレン基から選択される少なくとも1つのオキシアルキレン単位である、[1]から[5]のいずれかに記載の粉末材料(X)。
[7][1]から[6]のいずれかに記載の粉末材料(X)を、粉末焼結法3Dプリンターに供給することを含む、三次元造形物の製造方法。
[8][1]から[6]のいずれかに記載の粉末材料(X)の焼結体を含む、三次元造形物。
【0007】
本発明によれば、外観に優れ、高密度かつ高強度の三次元造形物を作成可能な3Dプリンター用粉末材料、並びにそれを用いた三次元造形物及びその製造方法を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明の一実施形態について詳細に説明する。本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の効果を阻害しない範囲で適宜変更を加えて実施することができる。なお、本明細書において「~」の記載は、「以上以下」を意味する。また、「平均粒径」とは、レーザー回折/散乱式粒度分布測定法による体積基準の算術平均粒子径における、累積頻度が50%となる粒径D50を意味する。平均粒径は、例えば、レーザー回折/散乱式粒度分布測定装置(例えば、(株)堀場製作所製、製品名:LA-960)を用いて測定することができる。
【0009】
[3Dプリンター用粉末材料(X)]
本実施形態に係る3Dプリンター用粉末材料(X)(以下、「粉末材料(X)」と記載する)は、ポリアセタール共重合体樹脂粉末(I)を含み、前記ポリアセタール共重合体樹脂の全構成単位(100質量%)に占めるコモノマー単位の割合が1.0質量%以上6.0質量%以下であり、前記粉末(I)の平均粒径が30μm以上70μm以下であり、かつ温度190℃、荷重2.16kgで測定した前記粉末(I)のメルトフローレートが1.0g/10min以上8.0g/10min以下であることを特徴とする。粉末材料(X)は、外観に優れ、高密度かつ高強度の三次元造形物を作成することができる。
【0010】
<ポリアセタール共重合体樹脂粉末(I)>
粉末材料(X)は、ポリアセタール共重合体樹脂粉末(I)(以下、「粉末(I)」と記載する)を含む。粉末(I)は、ポリアセタール共重合体樹脂から構成されている。本実施形態に係るポリアセタール共重合体樹脂は、ポリアセタール共重合体樹脂の全構成単位(100質量%)に占めるコモノマー単位の割合が1.0質量%以上6.0質量%以下である。また粉末(I)は、平均粒径が30μm以上70μm以下であり、かつ温度190℃、荷重2.16kgで測定した前記粉末(I)のメルトフローレートが1.0g/10min以上8.0g/10min以下であることを特徴とする。
【0011】
(コモノマー単位)
本実施形態に係るポリアセタール共重合体樹脂は、主たる構成単位としてオキシメチレン単位(-CH2O-)を含み、さらに前記オキシメチレン単位以外のコモノマー単位を含む共重合体樹脂である。本明細書において、「主たる構成単位」とは、ポリアセタール共重合体樹脂を構成する全構成単位(100質量%)中に占める割合が50質量%以上、好ましくは70質量%以上のモノマー単位のことを指す。
ポリアセタール共重合体樹脂中のコモノマー単位の割合は、ポリアセタール共重合体樹脂の全構成単位(100質量%)に対して、1.0質量%以上6.0質量%以下であり、1.5質量%以上5.5質量%以下が好ましく、2.0質量%以上5.0質量%以下がより好ましく、2.5質量%以上4.5質量%以下が特に好ましい。粉末材料(X)が、平均粒径が30~70μmであり、コモノマー単位が前記範囲内の粉末(I)を含むことにより、反りやボイドが少なく、外観に優れる三次元造形物を作成できる。なお、ポリアセタール共重合体樹脂中のコモノマー単位の割合は、1H-NMR法により算出できる。例えば、粉末(I)を重水素化ヘキサフルオロイソプロパノールに濃度が5質量%となるように溶解させて、サンプルを作成する。このサンプルを1H-NMRで解析して、ポリアセタール共重合体樹脂の全モノマーのピークの積分率に対する、コモノマー単位(例えば、後述する炭素数2以上のオキシアルキレン単位)の積分率の割合を求める方法によって、算出できる。
【0012】
ポリアセタール共重合体樹脂に含まれるコモノマー単位は、1種類又は2種類以上であってもよい。
前記コモノマー単位は、炭素数2以上のオキシアルキレン単位であることが好ましい。コモノマー単位が炭素数2以上のオキシアルキレン単位であることにより、熱安定性が良好となりやすい。また、コモノマー単位は、オキシエチレン基、オキシプロピレン基、及びオキシテトラメチレン基から選択される少なくとも1つのオキシアルキレン単位であることがより好ましく、オキシエチレン基を含むことが特に好ましい。なお、コモノマー単位として、オキシエチレン単位を含む場合、全コモノマー単位(100質量%)に占めるオキシエチレン単位の割合は、90質量%以上100質量%以下が好ましく、95質量%以上100質量%以下がより好ましい。
また、ポリアセタール共重合体樹脂は、ランダム共重合体、ブロック共重合体、グラフト共重合体のいずれであってもよい。熱安定性の観点からは、ランダム共重合体が好ましい。
さらに、ポリアセタール共重合体樹脂の重合度、分岐度、及び架橋度は、上記のメルトフローレート(MFR)を満たす範囲内で適宜調整できる。
【0013】
(平均粒径)
粉末(I)の平均粒径は、30μm以上70μm以下であり、35μm以上65μm以下が好ましく、40μm以上60μm以下がより好ましい。平均粒径が30μm以上70μm以下であることにより、粉末焼結法3Dプリンターで造形する際に均一な薄層を形成することができる。また層間の密着強度を高めて強度及び耐熱性に優れる三次元造形物が得られる。なお、「平均粒径」の測定方法は、上述の通りである。
【0014】
粉末(I)の体積基準累積頻度が90%となる粒径D90と、体積基準累積頻度が10%となる粒径D10との比(D90/D10)は、10以下であることが好ましく、1以上8以下であることがより好ましく、2以上6以下であることがさらに好ましい。(D90/D10)が10以下であれば、造形物の反りを抑制しやすい。
1つの側面において、粉末(I)の粒径D90は、80μm以上110μm以下であってもよく、85μm以上105μm以下であってもよい。また、粉末(I)の粒径D10は、5μm以上35μm以下であってもよく、10μm以上30μm以下であってもよい。なお、粒径D90及び粒径D10は、上述の平均粒径と同じ方法で算出できる。
【0015】
(メルトフローレート(MFR))
粉末(I)の温度190℃、荷重2.16kgで測定したMFRは、1.0g/10min以上8.0g/10min以下であり、1.2g/10min以上7.0g/10min以下が好ましく、1.4g/10min以上6.0g/10min以下がより好ましい。MFRが前記範囲内であることにより、造形物の強度が良好となる。なお、粉末(I)のMFRは、温度190℃、荷重2.16kgの条件で、ISO 1133(条件D)に基づいて測定することができる。
【0016】
粉末焼結法により三次元造形物を作成する場合、粉末材料を積層させたのちレーザーを照射して焼結させる工程を繰り返す必要がある。高密度かつ高強度の三次元造形物を得るためには、粉末材料の充填率を向上させることが重要であるが、前述の通り、従来のポリアセタール粉末は充填率が低い。そのため、造形物の内部や表面に空隙(ボイド)が発生し、外観や強度が低下する。本願発明者らは、粉末焼結法における粉末材料の溶融と焼結の現象に着目して評価を行ったところ、(1)レーザー照射により粉末が容易に、かつ十分に溶融すること、(2)溶融直後に粉末が固化(焼結)しないこと、を満たす粉末材料であれば、ボイドが発生しにくく、かつ充填率が高く、高密度及び高強度の造形物が得られることを見出した。さらに本願発明者らは鋭意検討した結果、一定の平均粒径を有するポリアセタール共重合体樹脂粉末(I)を含み、ポリアセタール共重合体樹脂中のコモノマー量が多く、かつ粉末(I)のMFRが比較的低いことにより、上記(1)、(2)の現象を達成できることを見出した。
【0017】
(融点Tm2及び結晶化温度Tc)
本実施形態に係る粉末(I)は、示差走査熱量計で測定される融点Tm2と結晶化温度Tcとの差(Tm2-Tc)が、15℃以上40℃以下であることが好ましい。粉末(I)の(Tm2-Tc)が15℃以上40℃以下であれば、結晶化が遅くなることから、粉末材料(X)の溶融と焼結のバランスがより良好となり、反りやボイドの少ない三次元造形物が得られやすくなる。また、高充填率かつ高強度の三次元造形物が得られやすくなる。粉末(I)の(Tm2-Tc)は、20℃以上35℃以下がより好ましく、25℃以上30℃以下がさらに好ましい。
なお、融点Tm2は、JIS K-7121(1999)に基づいた方法により、粉末(I)を40℃から10℃/分の昇温速度で200℃まで加熱(1stRUN)後、200℃で5分間保持し、次いで10℃/分の降温速度で40℃まで冷却後、40℃で5分間保持し、再度40℃から10℃/分の昇温速度で200℃まで加熱(2ndRUN)した際に観測される2ndRUNの吸熱ピークにおけるピークトップの温度を指す。同様に、結晶化温度Tcは、JIS K-7121(1999)に基づいた方法により、粉末(I)を40℃から10℃/分の昇温速度で200℃まで加熱(1stRUN)後、200℃で5分間保持し、次いで10℃/分の降温速度で40℃まで冷却した際に観測される発熱ピークにおけるピークトップの温度を指す。
【0018】
1つの側面において、粉末(I)の融点Tm2は、160℃以上175℃以下であってもよく、162℃以上173℃以下であってもよい。また、本実施形態に係る粉末(I)は、MFRが1.0~8.0g/minであることから、結晶化温度Tcが低下しやすい傾向にある。1つの側面において、結晶化温度Tcは、130℃以上155℃以下であってもよく、135℃以上150℃以下であってもよい。
【0019】
(結晶化融解エンタルピーΔHm)
本実施形態に係る粉末(I)は、示差走査熱量計で測定される結晶融解エンタルピーΔHmが、100J/g以上140J/g以下であることが好ましい。本実施形態に係る粉末(I)は、コモノマー量が多いことから、ΔHmが比較的低い値となっている。ΔHmが100J/g以上140J/g以下であれば、粉末(I)が溶融しやすくなり、粒子間の融着が良好となりやすい。その結果、高強度の三次元造形物が得られやすくなる。ΔHmは、105J/g以上135J/g以下がより好ましく、110J/g以上130J/g以下がさらに好ましい。なお、結晶融解エンタルピーΔHmは、JIS K-7121(1999)に基づいた方法により、粉末(I)を40℃から10℃/分の昇温速度で200℃まで加熱(1stRUN)後、200℃で5分間保持し、次いで10℃/分の降温速度で40℃まで冷却後、40℃で5分間保持し、再度40℃から10℃/分の昇温速度で200℃まで加熱(2ndRUN)した際に観測される2ndRUNの吸熱ピークの面積値を指す。
【0020】
本実施形態に係るポリアセタール共重合体樹脂の重量平均分子量(Mw)は、本発明の効果を有する限り特に限定されず、MFRが1.0~8.0g/10minとなる範囲で適宜調整できる。1つの側面においては、ポリアセタール共重合体樹脂のMwは、10,000以上400,000以下であってもよい。Mwが前記範囲内であれば、造形物の強度が良好となりやすい。なお、Mwはサイズ排除クロマトグラフィー(SEC)で測定(ポリスチレン換算)することができる。
【0021】
<ポリアセタール共重合体樹脂粉末(I)の製造方法>
粉末(I)は、公知の重合法によってポリアセタール共重合体樹脂を得たのち、前記共重合体樹脂をさらに公知の方法で粉砕することによって製造できる。以下、粉末(I)の製造方法の1つの実施形態について説明する。
【0022】
(ポリアセタール共重合体樹脂の製造方法)
ポリアセタール共重合体樹脂は、主モノマーであるホルムアルデヒドの環状三量体又は四量体と、コモノマーとを含むモノマー混合物を、重合触媒や連鎖移動剤の存在下で重合することによって製造できる。なお本明細書において、「主モノマー」とは、ポリアセタール共重合体樹脂を構成する全モノマー(100質量%)に対して、50質量%以上含まれているモノマーを指す。また本明細書において「コモノマー」とは、主モノマーと共重合可能なモノマーであって、前述のコモノマー単位を構成可能なモノマーを指す。
主モノマーとしては、トリオキサンを含むことが好ましい。トリオキサンは、一般的には酸性触媒の存在下でホルムアルデヒド水溶液を反応させることによって得られ、これを蒸留等の方法で生成したものを用いることができる。なお、トリオキサンとしては、水、メタノール等の不純物量が少ないものを用いることが好ましい。
【0023】
コモノマーとしては、例えば、炭素数2以上のアルキレンオキシド、環状アセタール化合物等が挙げられる。
炭素数2以上のアルキレンオキシドとしては、例えば、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、1,2-ブチレンオキシド、2,3-ブチレンオキシド等が挙げられる。これらアルキレンオキシドは、1種単独で用いられてもよく、2種以上を併用してもよい。
環状アセタール化合物としては、例えば、1,3-ジオキソラン、プロピレングリコールホルマール、ジエチレングリコールホルマール、トリエチレングリコールホルマール、1,4-ブタンジオールホルマール、1,5-ペンタンジオールホルマール、1,6-ヘキサンジオールホルマール等が挙げられる。これら環状アセタール化合物は、1種単独で用いられてもよく、2種以上を併用してもよい。
上記のうち、コモノマーとしては、環状アセタール化合物を含むことが好ましく、1,3-ジオキソランを含むことがより好ましい。
【0024】
ポリアセタール共重合体樹脂中のコモノマーの割合は、ポリアセタール共重合体樹脂中のコモノマー単位の割合が1.0~6.0質量%となる範囲で適宜調整できる。1つの側面においては、ポリアセタール共重合体樹脂中のコモノマーの割合は、全モノマー(100質量%)に対して、1.0質量%以上6.0質量%以下であってもよく、1.5質量%以上5.5質量%以下であってもよく、2.0質量%以上5.0質量%以下であってもよく、または2.5質量%以上4.5質量%以下であってもよい。
【0025】
本実施形態において、ポリアセタール共重合体樹脂は、トリオキサン及びコモノマーを含むモノマー混合物を、必要に応じて適量の分子量調節剤を添加し、カチオン重合触媒を用いて塊状重合を行う等の方法によって製造できる。
【0026】
重合装置は特に限定されず、公知の装置を使用できる。また、バッチ式、連続式等、いずれの方法も採用できる。重合温度は65~135℃に保つことが好ましい。重合後の重合触媒の失活は、重合装置から回収した反応生成物、あるいは重合装置中の反応生成物に、塩基性化合物又はその水溶液等を加えて行うことができる。
【0027】
本実施形態で使用するカチオン重合触媒としては、四塩化鉛;四塩化スズ;四塩化チタン;三塩化アルミニウム;塩化亜鉛;三塩化バナジウム;三塩化アンチモン;五フッ化リン;五フッ化アンチモン;三フッ化ホウ素、三フッ化ホウ素ジエチルエーテラート、三フッ化ホウ素ジブチルエーテラート、三フッ化ホウ素ジオキサネート、三フッ化ホウ素アセチックアンハイドレート、三フッ化ホウ素トリエチルアミン錯化合物等の三フッ化ホウ素配位化合物;過塩素酸、アセチルパークロレート、t-ブチルパークロレート、ヒドロキシ酢酸、トリクロロ酢酸、トリフルオロ酢酸、p-トルエンスルホン酸等の無機酸及び有機酸;トリエチルオキソニウムテトラフルオロボレート、トリフェニルメチルヘキサフルオロアンチモネート、アリルジアゾニウムヘキサフルオロホスフェート、アリルジアゾニウムテトラフルオロボレート等の複合塩化合物;ジエチル亜鉛、トリエチルアルミニウム、ジエチルアルミニウムクロライド等のアルキル金属塩;ヘテロポリ酸;イソポリ酸等が挙げられる。その中でも特に三フッ化ホウ素、三フッ化ホウ素ジエチルエーテラート、三フッ化ホウ素ジブチルエーテラート、三フッ化ホウ素ジオキサネート、三フッ化ホウ素アセチックアンハイドレート、三フッ化ホウ素トリエチルアミン錯化合物等の三フッ化ホウ素配位化合物が好ましい。これらの触媒は有機溶剤等で予め希釈して用いることもできる。
【0028】
本実施形態で使用する分子量調節剤としては、線状ホルマール化合物が挙げられる。線状ホルマール化合物としては、例えば、メチラール、エチラール、ジブトキシメタン、ビス(メトキシメチル)エーテル、ビス(エトキシメチル)エーテル、ビス(ブトキシメチル)エーテル等が挙げられる。その中でも、メチラール、エチラール、及びジブトキシメタンからなる群より選択される少なくとも1つであることが好ましい。
【0029】
また、重合触媒を中和して失活するための塩基性化合物としては、アンモニア;トリエチルアミン、トリブチルアミン、トリエタノールアミン、トリブタノールアミン等のアミン類;アルカリ金属、アルカリ土類金属の水酸化物塩類;その他公知の触媒失活剤を用いることができる。また、重合反応終了後、反応生成物にこれらの水溶液を速やかに加え、失活させることが好ましい。かかる重合方法および失活方法の後、必要に応じて更に、洗浄、未反応モノマーの分離回収、乾燥等を従来公知の方法で行い、ポリアセタール共重合体樹脂を得ることができる。
【0030】
なお、必要に応じて、各種安定剤を配合して、ポリアセタール共重合体樹脂の不安定末端部の分解除去又は封止等の安定化処理を行うことができる。安定剤としては、従来公知の酸化防止剤、熱安定剤等が使用できる。例えば、ヒンダードフェノール系化合物、窒素含有化合物、アルカリ或いはアルカリ土類金属の水酸化物、無機塩、カルボン酸塩等を1種単独で、または2種以上を併用することができる。
【0031】
更に、本実施形態のポリアセタール共重合体樹脂の効果を阻害しない範囲で、必要に応じて、ポリアセタール共重合体樹脂に対する一般的な添加剤、例えば、染料、顔料等の着色剤、滑剤、結晶核剤、離型剤、帯電防止剤、界面活性剤、または有機高分子材料等を1種又は2種以上添加することができる。
【0032】
上記の製造方法で得られたポリアセタール共重合体樹脂を、ペレット、繊維、フィルム等に成形したものを、ジェットミル、ビーズミル、ハンマーミル、ボールミル、カッターミル、ピンミル、石臼型摩砕機等を用いた、乾式粉砕、湿式粉砕、冷凍粉砕により粉砕処理して、平均粒径が30μm以上70μm以下の粉末(I)を得ることができる。また、溶媒中にポリアセタール共重合体樹脂を溶解させた後にスプレードライする方法、溶媒中でエマルションを形成した後で貧溶媒に接触させる貧溶媒析出法、溶媒中でエマルションを形成した後で有機溶媒を乾燥除去する液中乾燥法等を用いることもできる。また、ポリアセタール共重合体樹脂にその他の熱可塑性樹脂(有機高分子材料)を配合する場合、ポリアセタール共重合体樹脂とその他の熱可塑性樹脂とを混ぜ合わせた後、その他の熱可塑性樹脂を溶媒で溶解除去して上記平均粒径を有する粉末(I)を得る方法も採用できる。また、ポリアセタール共重合体樹脂のオリゴマーを粉砕処理した後、固相重合して上記平均粒径を有する粉末(I)を得る方法も採用できる。
【0033】
粉末(I)の形状は、本発明の効果を有する限り特に限定されず、球状(略球状を含む)、紡錘状、不定形の粒子状、フィブリル状、繊維状等いずれの形態であってもよい。なお、充填性、及び粉体流動性の観点からは、球状(略球状を含む)、不定形の粒子状であることが好ましい。
【0034】
粉末材料(X)中の粉末(I)の割合は、粉末材料(X)の総質量に対して、50質量%以上であることが好ましく、70質量%以上であることがより好ましい。またその上限は特に限定されないが、100質量%であってもよく、95質量%以下としてもよい。すなわち、粉末材料(X)中の粉末(I)の割合は、粉末材料(X)の総質量に対して、50~100質量%であってもよく、50~95質量%であってもよい。また、70~100質量%であってもよく、70~95質量%であってもよい。
【0035】
粉末(I)は1種単独で用いられてもよく、2種以上を併用してもよい。2種以上の粉末(I)を併用する場合、粉末(I)の混合物が上記コモノマー量、平均粒径、及びMFRの値を満たすように、その配合割合を調整できる。
【0036】
粉末材料(X)には、粉末(I)以外の充填剤が含まれていてもよい。粉末(I)以外の充填剤(以下、「その他の充填剤」と記載する)としては、例えば、各種の繊維状、紛粒状、板状の無機及び有機の充填剤、ポリアセタール樹脂以外の熱可塑性樹脂(その他の熱可塑性樹脂)の粉末等が挙げられる。
【0037】
(その他の充填剤)
無機充填剤としては、例えば、平均粒径が500nm以下、好ましくは400nm以下の粉粒状充填剤、板状充填剤や、平均繊維長が100μm以下の繊維状充填剤等を挙げることができる。このような無機充填剤を含むことにより、粉末(I)の粉体流動性や分散性が向上しやすくなる。また、得られる三次元造形物の強度がより向上しやすい。一実施形態において、粉体流動性がより向上しやすくなる観点からは、粉粒状充填剤を含むことが好ましい。なお、無機充填剤の平均粒径は粉末(I)と同じ方法で測定することができる。また平均繊維長は、例えば、画像測定器(例えば、(株)ニコレ製、製品名:LUZEXFS)で繊維状充填剤の繊維長を測定し、その平均値として算出することができる。
【0038】
粉粒状充填剤としては、例えば、カーボンブラック、黒鉛、シリカ、石英粉末、ガラスビーズ、ガラスバルーン、ガラス粉、硅酸カルシウム、ケイ酸アルミニウム、カオリン、クレー、硅藻土、ウォラストナイト等の硅酸塩、酸化鉄、酸化チタン、酸化亜鉛、三酸化アンチモン、アルミナ等の金属の酸化物、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム等の金属の炭酸塩、硫酸カルシウム、硫酸バリウム等の金属の硫酸塩、その他フェライト、炭化ケイ素、窒化ケイ素、窒化硼素、各種金属粉末等が挙げられる。これら粉粒状充填剤は、1種単独で用いられてもよく、2種以上を併用してもよい。このうち、粉体流動性の観点からは、粉粒状充填剤はカーボンブラック、シリカであることが好ましい。また、粉粒状充填剤は表面処理剤で表面処理されていてもよい。表面処理剤としては、シラノール、ジメチルジシクロロシラン(ジメチルシリル)、ヘキサメチルジシラザン(トリメチルシリル)、オクチルシラン(オクチルシリル)、シリコーンオイル(ジメチルポリシロキサン)等が挙げられる。
【0039】
繊維状充填剤としては、例えば、ガラス繊維、ミルドガラスファイバー、カーボン繊維、カーボンナノチューブ、アスベスト繊維、シリカ繊維、シリカ・アルミナ繊維、アルミナ繊維、ジルコニア繊維、窒化硼素繊維、窒化珪素繊維、硼素繊維、チタン酸カリ繊維、ウォラストナイト等の珪酸塩の繊維、硫酸マグネシウム繊維、ホウ酸アルミニウム繊維、更にステンレス、アルミニウム、チタン、銅、真鍮等の金属の繊維状物等の無機質繊維状物質が挙げられる。なお、ポリアミド、フッ素樹脂、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂などの高融点有機質繊維状物質も使用することができる。これら繊維状充填剤は、1種単独で用いられてもよく、2種以上を併用してもよい。なお、粉体流動性の観点からは、繊維状充填剤はカーボンナノチューブであることが好ましい。また、繊維状充填剤は表面処理剤で表面処理されていてもよい。表面処理剤としては、シラノール、ジメチルジクロロシラン(ジメチルシリル)、ヘキサメチルジシラザン(トリメチルシリル)、オクチルシラン(オクチルシリル)、シリコーンオイル(ジメチルポリシロキサン)等が挙げられる。
【0040】
板状充填剤としては、マイカ、ガラスフレーク、タルク、各種の金属箔等が挙げられる。これら板状充填剤は、1種単独で用いられてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0041】
粉末材料(X)がその他の充填剤を含む場合、その含有量は、粉末(I)100質量部に対して、0~100質量部とすることができる。
【0042】
(その他の熱可塑性樹脂)
粉末材料(X)には、粉末(I)以外のその他の熱可塑性樹脂の粉末が含まれていてもよい。その他の熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリアミド樹脂等が挙げられる。これらは1種単独で用いられてもよく、2種以上を併用してもよい。
その他の熱可塑性樹脂は、平均粒径が10~70μmの粉末として、粉末材料(X)に配合されることが好ましい。なお、粉末材料(X)がその他の熱可塑性樹脂の粉末を含む場合、その配合量は、粉末(I)100質量部に対して、0~50質量部とすることができる。
【0043】
[3Dプリンター用粉末材料(X)の製造方法]
粉末材料(X)は、粉末(I)と必要に応じてその他添加剤とを、従来公知の方法で混合することによって製造できる。例えば、振とうによる混合方法、ボールミル等の粉砕を伴う混合方法、ヘンシェルミキサー等の攪拌翼による混合方法等を用いることができる。
【0044】
[三次元造形物]
本実施形態に係る三次元造形物は、上述した粉末(I)を含む粉末材料(X)を用いて形成される。すなわち本実施形態に係る三次元造形物は、粉末材料(X)の焼結体を含む。このような三次元造形物は、外観が良好であり、かつ高密度及び高強度を有する。1つの側面において、三次元造形物のISO178に準拠して測定した曲げ強度は、65MPa以上であることが好ましい。
【0045】
[三次元造形物の製造方法]
本実施形態に係る三次元造形物の製造方法は、粉末(I)を含む粉末材料(X)を粉末焼結法3Dプリンターに供給する工程を含む。その後、供給された粉末材料(X)を用いて三次元造形物を造形する(造形工程)。
【0046】
<造形工程>
粉末焼結法3Dプリンターによる造形工程では、供給された粉末材料(X)で薄層を形成し、前記薄層に造形対象物の断面形状に対応する形状にレーザー光を照射して、粉末材料(X)を焼結させる。この工程を順次繰り返すことによって、焼結された薄層が積層されて三次元造形物が製造される。粉末材料(X)で薄層を形成する条件、レーザー光の条件等は特に限定されず、使用する粉末焼結法3Dプリンターの設定に応じて、適宜調整可能である。本実施形態に係る粉末材料(X)は、上述の特徴ある粉末(I)を含むため、レーザー光の照射によって溶融しやすく、かつ溶融後の粉末がすぐには焼結しない(すなわち、溶融と焼結のバランスが良好である)という特徴を有している。そのため、空隙やボイドが少なく、外観に優れ、かつ高密度及び高強度の三次元造形物を得ることができる。
粉末焼結法3Dプリンターは、従来公知のものを用いることができ、例えば、(株)アスペクト製、製品名「ラファエロ(登録商標)II 300-HT」等を用いることができる。
【0047】
本発明のその他の実施形態は、上述の粉末(I)を含む粉末材料(X)の、3Dプリンターを用いて製造される三次元造形物の樹脂原料としての使用、もしくはその使用方法である。
【実施例】
【0048】
以下、実施例を示して本発明を詳細に説明するが、本発明は以下の記載によって限定されるものではない。
【0049】
[実施例1]
外側に熱媒(又は冷媒)を通すジャケットを備え、2つの円が一部重なる形状の断面を有するパドル付き回転軸とで構成される連続式混合反応機を用いて重合を行った。具体的には、パドル有する2本の回転軸をそれぞれ150rpmで回転させながら、トリオキサン及びコモノマー(1,3-ジオキソラン)を表1に示す割合で前記反応器に添加した。更に分子量調整剤としてメチラールを表1に示す割合で添加した。次に、触媒の三フッ化ホウ素ガスをトリオキサンに対して三フッ化ホウ素換算で0.005質量%となるように混合した触媒混合物を連続的に添加供給して、塊状重合を行った。重合終了後、反応機から排出された反応生成物を速やかに破砕機に通しながら、トリエチルアミンを0.1質量%含有する80℃の水溶液に加えて触媒を失活した。さらに、分離、洗浄、乾燥後、粗ポリアセタール共重合体を得た。
【0050】
次いで、この粗ポリアセタール共重合体100質量部に対して、トリエチルアミン5質量%水溶液を4質量部、ペンタエリスリチル-テトラキス〔3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕(酸化防止剤)を0.03質量部添加し、2軸押出機にて210℃で溶融混練し、粗ポリアセタール共重合体の不安定部分を除去した。上記の方法で得たポリアセタール共重合体100質量部に、更に安定剤としてペンタエリスリチル-テトラキス〔3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕を0.3質量部およびメラミン0.15質量部を添加し、2軸押出機にて210℃で溶融混練し、ペレット状のポリアセタール共重合体樹脂を得た。このポリアセタール共重合体樹脂の全モノマー(100質量%)に対するコモノマー量は5.9質量%であった。また、1H-NMR法により算出した、ポリアセタール共重合体樹脂の全構成単位(100質量%)に対するコモノマー単位の割合(オキシエチレン単位換算)は、3.5質量%であった。次に、得られたポリアセタール共重合体樹脂を、ジェットミルを用いて粉砕して、ポリアセタール共重合体樹脂粉末(I)を得た。得られた粉末(I)の平均粒径、粒径D90、粒径D10、D90/D10、MFR、融点Tm2、結晶化温度Tc及び結晶融解エンタルピーΔHmを以下の方法で測定した。結果を表1に示す。
得られた粉末(I)を表1に示す量で含む粉末材料(X)を調製した。その後、粉末材料(X)を粉末焼結法3Dプリンター((株)アスペクト製、製品名:ラファエロII 300-HT、レーザー種:CO2レーザー(10.6μm)、出力:12W)に供給し、三次元造形物として80mm×10mm×4mmの曲げ試験片を作成した。得られた三次元造形物の外観、真比重に対する密度の割合、曲げ強度を以下の条件で評価した。結果を表1に示す。
【0051】
<コモノマー単位>
得られた粉末(I)を重水素化ヘキサフルオロイソプロパノールに濃度が5質量%となるように溶解させて、サンプルを作成した。このサンプルを1H-NMR(Bruker社製、製品名:AvanceIII 400、磁場強度:400MHz、基準物質:テトラメチルシラン、温度:27℃、積算回数:128回)で解析して、ポリアセタール共重合体樹脂の全モノマーのピークの積分率に対する、コモノマー単位(オキシエチレン基)の積分率の割合を求めた。
【0052】
<平均粒径、粒径D90及び粒径D10>
レーザー回折/散乱式粒度分布測定装置((株)堀場製作所製、製品名:LA-960)を用い、分散溶媒としてアセトンを用いて、平均粒径(D50)、粒径D90、及び粒径D10を測定した。なお、各粒径は、体積基準の算術平均粒子径として算出した。
【0053】
<融点Tm2、結晶化温度Tc及び結晶融解エンタルピーΔHm>
示差走査熱量計(Parkin Elmer社製、製品名:DSC8500)を使用して、40℃から10℃/分の昇温速度で200℃まで加熱(1stRUN)後、200℃で5分間保持し、次いで10℃/分の降温速度で40℃まで冷却した際に観測される発熱ピークにおけるピークトップの温度を結晶化温度Tcとして測定した。また、吸熱ピークの面積値を結晶融解エンタルピーΔHmとして測定した。その後、40℃で5分間保持し、再度40℃から10℃/分の昇温速度で200℃まで加熱した際に観測される2ndRUNの吸熱ピークにおけるピークトップの温度を融点Tm2として測定した。
【0054】
<三次元造形物の外観>
得られた三次元造形物の反り、及びボイドを以下の評価基準に沿って評価し、「B」以上を合格とした。なお、三次元造形物の外観は目視で評価した。
(評価基準)
A:反りやボイドがない造形物が得られた。
B:反りやボイドが少ない造形物が得られた。
C:造形物は得られたが、反りやボイドが多かった。
D:造形物が得られなかった。
【0055】
<三次元造形物の真比重に対する密度の割合>
実施例1で得られた三次元造形物を用いて、電子比重計(アルファミラージュ社製、製品名:SD-200L)を使用して、JIS K7112に準拠して密度を測定し、ポリアセタール共重合体樹脂の真比重(1.41g/cm3)に対する密度の割合を算出した。また、以下の評価基準に沿って評価し、「B」以上を合格とした。
(評価基準)
A:真比重に対する密度が90%以上。
B:真比重に対する密度が80%以上90%未満。
C:真比重に対する密度が70%以上80%未満。
D:真比重に対する密度が70%未満。
【0056】
<曲げ強度>
実施例1で得られた三次元造形物を用いて、ISO 178に準拠し、曲げ強度を測定した。また、以下の評価基準に沿って評価し、「B」以上を合格とした。
(評価基準)
A:曲げ強度が70MPa以上。
B:曲げ強度が65MPa以上70MPa未満。
C:曲げ強度が60MPa以上65MPa未満。
D:曲げ強度が60MPa未満。
【0057】
[実施例2~3、及び比較例1、2]
トリオキサン、コモノマー(1,3-ジオキソラン)及びメチラールの仕込み量を表1の通りとした以外は、実施例1と同じ方法で粉末(I)を調製した。また、粉末(I)の平均粒径、粒径D90、粒径D10、D90/D10、MFR、融点Tm2、結晶化温度Tc及び結晶融解エンタルピーΔHmを実施例1と同じ方法で測定した。さらに、得られた粉末(I)を表1に示す量で含む粉末材料(X)を調製し、実施例1と同じ方法で三次元造形物を作成した。その後、得られた三次元造形物の外観、真比重に対する密度の割合、曲げ強度を実施例1と同じ条件で評価した。結果を表1に示す。なお表1中、実施例2~3及び比較例1~2のコモノマー単位の割合は、実施例1と同じく、オキシエチレン単位換算で算出した値である。また表中の「-」の記号は、三次元造形物が得られず、測定ができなかったことを意味する。
【0058】
[比較例3]
ポリアセタール共重合体樹脂をピンミル用いて凍結粉砕した以外は、実施例1と同じ方法で粉末(I)を調製した。また、粉末(I)の平均粒径、粒径D90、粒径D10、D90/D10、MFR、融点Tm2、結晶化温度Tc及び結晶融解エンタルピーΔHmを実施例1と同じ方法で測定した。さらに、得られた粉末(I)を表1に示す量で含む粉末材料(X)を調製し、実施例1と同じ方法で三次元造形物を作成した。その後、得られた三次元造形物の外観、真比重に対する密度の割合、曲げ強度を実施例1と同じ条件で評価した。結果を表1に示す。なお表1中、コモノマー単位の割合は、実施例1と同じく、オキシエチレン単位換算で算出した値である。
【0059】
[実施例4]
実施例1で調製した粉末(I)に、以下の無機充填剤を表1の通り配合して粉末材料(X)を調製した。また、実施例1と同じ方法で三次元造形物を作成した。その後、得られた三次元造形物の外観、真比重に対する密度の割合、曲げ強度を実施例1と同じ条件で評価した。結果を表1に示す。なお表1中、コモノマー単位の割合は、実施例1と同じく、オキシエチレン単位換算で算出した値である。
(無機充填剤)
粉粒状充填剤:シリカ(Evonik Industries社製のヒュームドシリカ、製品名:AEROSIL(登録商標)R972、ジメチルジクロロシラン表面処理、平均粒径16nm)。
【0060】
【0061】
表1に示す通り、本実施形態の構成を満たす実施例1~4の粉末材料は、外観が良好であり、真比重に対する密度の割合が高い三次元造形物を作成できた。また得られた三次元造形物は強度も高かった。一方、MFR(190℃、荷重2.16kg)が9.0g/10minの比較例1の粉末材料は、造形物に反りやボイドが多かった。また真比重に対する密度の割合が低く、曲げ強度も低かった。この理由はレーザー照射後の結晶化が速く、粒子間が十分に融着しないまま固化したためであると考えられる。コモノマーを含まないポリアセタール重合体樹脂から得られた比較例2の粉末材料は、造形物が得られなかった。この理由は粉末材料が十分に溶融せず、粒子間で融着しなかったためであると考えられる。さらに、平均粒径が200μmの比較例3の粉末材料は、造形物に反りやボイドが多かった。また真比重に対する密度の割合が低く、曲げ強度も低かった。これは粉末材料の平均粒径が大きく、粒子間に空隙が生じたためであると考えられる。
以上の結果より、本実施形態の粉末材料(X)は、外観に優れ、高密度かつ高強度の三次元造形物を作成可能であることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明に係る3Dプリンター用粉末材料は、外観に優れ、高密度かつ高強度の三次元造形物を作成可能である。このような粉末材料は、3Dプリンターを用いて製造される三次元造形物の樹脂原料として好適に用いることができる。