(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-18
(45)【発行日】2023-10-26
(54)【発明の名称】柑橘果皮由来ナノファイバー及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C08B 37/00 20060101AFI20231019BHJP
B82Y 5/00 20110101ALI20231019BHJP
A23L 29/206 20160101ALI20231019BHJP
A23L 33/105 20160101ALI20231019BHJP
A61K 8/9789 20170101ALI20231019BHJP
【FI】
C08B37/00 Q
B82Y5/00
A23L29/206
A23L33/105
A61K8/9789
(21)【出願番号】P 2019058636
(22)【出願日】2019-03-26
【審査請求日】2022-02-17
(31)【優先権主張番号】P 2018064675
(32)【優先日】2018-03-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】592134583
【氏名又は名称】愛媛県
(73)【特許権者】
【識別番号】503163804
【氏名又は名称】株式会社えひめ飲料
(73)【特許権者】
【識別番号】591197507
【氏名又は名称】愛媛製紙株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 貴士
(72)【発明者】
【氏名】熊谷 明夫
(72)【発明者】
【氏名】福田 直大
(72)【発明者】
【氏名】首藤 正彦
(72)【発明者】
【氏名】菅原 邦明
【審査官】中島 芳人
(56)【参考文献】
【文献】特表2002-526247(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0191612(US,A1)
【文献】米国特許第04831127(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08B 37/
A23L 29/、33/
A61K 8/
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
2~10 nm幅の柑橘類果皮のナノファイバーであって、
固形分濃度0.5~10質量%の水分散液としたときのチキソトロピックインデックスが2~10である、ナノファイバー。
【請求項2】
オーラプテン、ナリンギン、ナリルチン、ヘスペリジン、シネンセチン、ノビレチン、ヘプタメトキシフラボン、及びタンゲレチンからなる群から選択される少なくとも1種を更に含む、請求項1に記載のナノファイバー。
【請求項3】
前記柑橘類が、河内晩柑、温州みかん、ポンカン、清見、不知火、伊予柑、オレンジ、レモン、ライム、柚子、甘夏、八朔、文旦、グレープフルーツ、甘平、愛媛果試28号、なつみかん、せとか、カラ、はるみ、はれひめ、はるか、南津海、ネーブルオレンジ、天草、まりひめ、日向夏、タロッコ、ダイダイ、ひめのつき、アンコール、セミノール、カボス、モロ、じゃばら、たまみ、黄金柑、安政柑、天香、スダチ、キンカン、スィートスプリング、麗紅、マーコット、津之香、媛小春、シークワーサー、ひめあかり、西之香、三宝柑、サザンイエロー、あいおとめ、チャンドラポメロ、オレンジ日向、紀州みかん、早香、バンペイユ、ユコウ、福原オレンジ、オーラスター及び仏手柑からなる群から選択される少なくとも1種である、請求項1又は2に記載のナノファイバー。
【請求項4】
乾燥粉末状又は冷凍状態である、請求項1~3のいずれか一項に記載のナノファイバー。
【請求項5】
乾燥粉末状であり且つ吸水率が1000%以上である、請求項1~4のいずれか一項に記載のナノファイバー。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか一項に記載のナノファイバーを含む、食品又は化粧料組成物。
【請求項7】
前記食品又は化粧料組成物が、増粘剤、ゲル化剤、保形剤、乳化剤又は分散安定剤である、請求項6に記載の組成物。
【請求項8】
下記(1)及び(2)の工程を有する柑橘類果皮のナノファイバーの製造方法:
(1)柑橘類果皮をペースト状に粉砕処理する工程、
(2)工程(1)で得られた柑橘類果皮ペーストを、解繊処理する工程。
【請求項9】
前記工程(1)において、粉砕処理を高速剪断攪拌機により行う、請求項8に記載の製造方法。
【請求項10】
前記工程(2)において、解繊処理を石臼式摩砕機、高圧ホモジナイザー、リファイナー、2軸エクストルーダ、ウォータージェット法、水中カウンターコリジョン法、ビーズミル、ボールミル、又はマイクロフルイダイザーにより行う、請求項8又は9に記載の製造方法。
【請求項11】
前記工程(1)において、予め水に浸漬させた柑橘類果皮を使用する、請求項8~10のいずれか一項に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、柑橘類果皮のナノファイバー、該ナノファイバーを含む食品又は化粧料組成物、及び柑橘類果皮のナノファイバーの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
昨今、セルロースナノファイバーは、軽量で、鋼鉄の5倍以上の強度を有しているとの研究報告などから、植物資源から得られる高性能ナノファイバーとして、その製造と利用について多くの研究が行われている。それらの研究の多くは、針葉樹、広葉樹などの木材パルプ由来の木材繊維を用いるものがほとんどである。
【0003】
これらの木材繊維からセルロースナノファイバーの製造方法としては、摩砕機等の石臼式摩擦機を用いるグラインダー法、水中対向衝突法、高圧ホモジナイザー法等が存在するが、処理を何回も繰り返す必要がある。また、セルロース表面にカルボキシル基を選択的に導入するTEMPO酸化と呼ばれる化学処理による方法により、容易に4 nm程度に幅の揃ったセルロースナノファイバーが得られる方法が存在するが、本方法では、セルロース表面にカルボキシル基を導入する必要があり、化学変性していないセルロースナノファイバーを得ることはできない。
【0004】
特許文献1では、リグニンを全く含まない又は特定量のリグニンを含む植物由来の繊維集合体を液体物質中で攪拌することにより、幅10~50 nmの植物由来セルロースナノファイバーが効率的に得られることが報告されている。しかしながら、リグニンを除去する工程では、化学処理が必要とされる。
【0005】
また、特許文献2にはセルロースナノファイバーを食品に含有させることにより、強度や硬度を向上でき、コシなどの食感を改良できることが報告されており、当該発明で使用されるセルロースナノファイバーは特許文献3に記載の方法により製造することができる。
【0006】
特許文献3には、ミクロンオーダーの繊維を含まず、平均繊維径がナノメーターサイズで均一な繊維径を有する極小繊維の製造方法が報告されているが、当該製造方法は特殊なホモジナイザーを使用することを特徴とするものであり、ホモジナイズ処理は5~100回繰り返すことが開示されている。
【0007】
柑橘果皮には多くの食物繊維やポリメトキシフラボン等の様々な機能性成分が含まれることが知られている。しかしながら、柑橘搾汁工場で発生する柑橘果皮等の搾汁残渣の多くは圧搾後に家畜飼料や肥料として利用されているものの大部分は産業廃棄物として処分されているのが現状であり、その有効利用が望まれている。柑橘果皮は木材と異なり、食品の機能性を有しており、化学処理することなくナノファイバー化できれば木材とは別の用途展開の可能性がある。さらに、柑橘果皮から容易にナノファイバーを製造できればコスト削減も図れる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2010-216021号公報
【文献】特開2013-236585号公報
【文献】特開2011-26760号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、柑橘類の果皮を酵素や薬剤等で化学処理することなく、繊維幅をナノレベルまで効率的に解繊することができる柑橘類果皮のナノファイバーの製造方法、該製造方法により得ることができる柑橘類果皮のナノファイバー、及び該ナノファイバーを含む食品又は化粧料組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、柑橘類果皮をコミトロール処理した後に解繊処理を行うことで、果皮の持つ機能性を保持したまま、比較的容易にナノファイバーにまで解繊できるという知見を得た。さらに、このような方法により得ることができる柑橘類果皮のナノファイバーを果汁に添加することで果汁の分散性を向上させることができる上、冷凍又は乾燥しても粘度を回復することができること、更には乾燥粉末状である場合、吸水性にも優れることを見出した。
【0011】
本発明は、これら知見に基づき、更に検討を重ねて完成されたものであり、次の柑橘類果皮のナノファイバー、該ナノファイバーを含む食品又は化粧料組成物、及び柑橘類果皮のナノファイバーの製造方法を提供するものである。
【0012】
項1.2~10 nm幅の柑橘類果皮のナノファイバーであって、
固形分濃度0.5~10質量%の水分散液としたときのチキソトロピックインデックスが2~10である、ナノファイバー。
項2.オーラプテン、ナリンギン、ナリルチン、ヘスペリジン、シネンセチン、ノビレチン、ヘプタメトキシフラボン、及びタンゲレチンからなる群から選択される少なくとも1種を更に含む、項1に記載のナノファイバー。
項3.前記柑橘類が、河内晩柑、温州みかん、ポンカン、清見、不知火、伊予柑、オレンジ、レモン、ライム、柚子、甘夏、八朔、文旦、グレープフルーツ、甘平、愛媛果試28号、なつみかん、せとか、カラ、はるみ、はれひめ、はるか、南津海、ネーブルオレンジ、天草、まりひめ、日向夏、タロッコ、ダイダイ、ひめのつき、アンコール、セミノール、カボス、モロ、じゃばら、たまみ、黄金柑、安政柑、天香、スダチ、キンカン、スィートスプリング、麗紅、マーコット、津之香、媛小春、シークワーサー、ひめあかり、西之香、三宝柑、サザンイエロー、あいおとめ、チャンドラポメロ、オレンジ日向、紀州みかん、早香、バンペイユ、ユコウ、福原オレンジ、オーラスター及び仏手柑からなる群から選択される少なくとも1種である、項1又は2に記載のナノファイバー。
項4.乾燥粉末状又は冷凍状態である、項1~3のいずれか一項に記載のナノファイバー。
項5.乾燥粉末状であり且つ吸水率が1000%以上である、項1~4のいずれか一項に記載のナノファイバー。
項6.項1~5のいずれか一項に記載のナノファイバーを含む、食品又は化粧料組成物。
項7.増粘剤、ゲル化剤、保形剤、乳化剤又は分散安定剤である、項6に記載の組成物。
項8.下記(1)及び(2)の工程を有する柑橘類果皮のナノファイバーの製造方法:
(1)柑橘類果皮をペースト状に粉砕処理する工程、
(2)工程(1)で得られた柑橘類果皮ペーストを、解繊処理する工程。
項9.前記工程(1)において、粉砕処理を高速剪断攪拌機により行う、項8に記載の製造方法。
項10.前記工程(2)において、解繊処理を石臼式摩砕機、高圧ホモジナイザー、リファイナー、2軸エクストルーダ、ウォータージェット法、水中カウンターコリジョン法、ビーズミル、ボールミル、又はマイクロフルイダイザーにより行う、項8又は9に記載の製造方法。
項11.前記工程(1)において、予め水に浸漬させた柑橘類果皮を使用する、項8~10のいずれか一項に記載の製造方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明の柑橘類果皮のナノファイバーの製造方法によれば、酵素や薬剤等で化学処理することや複雑な製造工程を経ることなく、果皮の持つ機能性を保持したまま、効率的に繊維幅をナノレベルまで解繊することができる。
【0014】
さらに、本発明の柑橘類果皮のナノファイバーは、果汁に添加することで果汁の分散性を向上させることができ、更には乾燥粉末状である場合、高い吸水性を有している。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】実施例1におけるディスクミル6回処理後のSEM画像を示す写真である。
【
図2】実施例1におけるディスクミル処理回数毎の機能性成分濃度を示すグラフである。
【
図3】実施例2におけるディスクミル処理回数毎の粘度を示すグラフである(固形分5%)。
【
図4】実施例3におけるディスクミル処理回数毎の粘度を示すグラフである(固形分3%)。
【
図5】実施例4におけるディスクミル処理回数毎の粘度を示すグラフである(固形分3%)。
【
図6】実施例5における乾燥条件毎の粘度を示すグラフである(固形分5%)。
【
図7】実施例6における凍結条件毎の粘度を示すグラフである(固形分3%)。
【
図8】実施例7における高圧ホモジナイザー処理回数毎(75MPa)の粘度を示すグラフである(固形分3%)。
【
図9】実施例7における高圧ホモジナイザー処理回数毎(150MPa)の粘度を示すグラフである(固形分3%)。
【
図10】実施例7における河内晩柑果皮由来ナノファイバー(75MPa、1回処理)のAFM写真からの繊維幅の解析結果を示す図である。
【
図11】実施例8における河内晩柑果汁におけるナノファイバーの溶液安定性試験の結果を示す図である。左上:スギノマシン社製ビンフィス標準、右上:河内晩柑外果皮中果皮由来ナノファイバー、下:河内晩柑じょうのう膜由来ナノファイバー
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0017】
なお、本明細書において「含む(comprise)」とは、「本質的にからなる(essentially consist of)」という意味と、「のみからなる(consist of)」という意味をも包含する。
【0018】
本発明の柑橘類果皮のナノファイバーは、2~10 nm幅であって、固形分濃度0.5~10質量%の水分散液としたときのチキソトロピックインデックスが2~10であることを特徴とする。
【0019】
本発明における柑橘類としては、好ましくは河内晩柑、温州みかん、ポンカン、清見、不知火(デコポン(登録商標))、伊予柑、オレンジ、レモン、ライム、柚子、甘夏、八朔、文旦、グレープフルーツ、甘平、愛媛果試28号(紅まどんな(登録商標))、なつみかん、せとか、カラ、はるみ、はれひめ、はるか、南津海、ネーブルオレンジ、天草、まりひめ、日向夏、タロッコ、ダイダイ、ひめのつき、アンコール、セミノール、カボス、モロ、じゃばら、たまみ、黄金柑、安政柑、天香、スダチ、キンカン、スィートスプリング、麗紅、マーコット、津之香、媛小春、シークワーサー、ひめあかり、西之香、三宝柑、サザンイエロー、あいおとめ、チャンドラポメロ、オレンジ日向、紀州みかん、早香、バンペイユ、ユコウ、福原オレンジ、オーラスター及び仏手柑であり、より好ましくは河内晩柑、温州みかん、ポンカン及び伊予柑であり、特に好ましくは河内晩柑である。柑橘類は1種単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0020】
河内晩柑は、ザボン(Citrus maxima、Citrus grandis)の一種であり、文旦の血を引く自然雑種である。
【0021】
本発明における柑橘類果皮とは、外果皮(フラベド)、中果皮(アルベド)、じょうのう膜及び砂じょうのことであり、好ましくは外果皮、中果皮及びじょうのう膜である。柑橘果皮由来の機能性を活かす場合は外果皮及び中果皮が好ましく、分散性及び粘性を向上させたい場合はセルロース含有量が多いじょうのう膜が好ましい。また、それぞれの用途ごとに使い分けができるが、ミックスすることで様々な特徴を出すことができる。その他にも、柑橘果皮由来の色を活かす場合は外果皮が好ましい。
【0022】
柑橘類果皮としては、例えば、柑橘類を搾汁した後に得られるものを使用することができる。柑橘類の果皮としては、いずれの搾汁方法で得られたものでも制限無く使用でき、搾汁方法としては、例えば、インライン搾汁、ベルト搾汁、チョッパーパルパー搾汁などが挙げられる。インライン搾汁では、柑橘類は全果のまま1個ずつロアーカップに入り、果実の底に孔をあけ上部からアッパーカップで押さえ、果肉はストレーナーチューブに入り、オリフィスで圧搾されて搾汁される。チョッパーパルパー搾汁は、果皮を剥皮した後に搾汁することを特徴としているので、搾汁前に剥皮された果皮を使用することができる。
【0023】
柑橘類果皮としては、生の状態のもの、冷凍された状態のもの、乾燥された状態のもの、これらが切断された状態のものなどを使用することができる。柑橘類の果皮の乾燥方法としては、特に制限されず、例えば、天日乾燥、通風乾燥、強制乾燥、凍結乾燥などが挙げられる。柑橘類の果皮を切断する方法としては、食品分野において使用されている各種公知の切断又は破砕方法を使用することができる。
【0024】
柑橘類果皮のナノファイバーは、柑橘類果皮を解繊することにより得ることができる。本発明の柑橘類果皮のナノファイバーとしては、柑橘類果皮のセルロースナノファイバーが好ましい。本発明の柑橘類果皮のナノファイバーの製造方法としては、特に制限されず、公知の手法を使用することができ、好ましくは後述する方法である。
【0025】
本発明の柑橘類果皮のナノファイバーの繊維幅は、通常2~50 nm、好ましくは2~10 nm、より好ましくは2~5 nmである。
【0026】
チキソトロピックインデックス(以下、「TI値」と称することもある)は、回転速度6rpmで測定した際の粘度値を60rpmで測定した際の粘度値で割った粘度の比のことである。粘度値は、本発明の柑橘類果皮のナノファイバーを固形分濃度0.5~10質量%に調整した水溶液を、好ましくは20℃において、粘度計を用いて回転速度6rpm又は60rpmで(特に1分後に)測定したものである。粘度の測定は、例えば、JISK5101-6-2に従って実施することができる。本明細書中における固形分濃度の固形分には、単糖及び二糖の糖分は含まれない。粘度計としては、例えば、B型回転式粘度計(ブルックフィールド社製 DV-III Ultra)が挙げられる。TI値は、好ましくは4~10である。
【0027】
本発明の柑橘類果皮のナノファイバーは、固形分濃度5質量%の水分散液としたときの10rpmでの粘度が、通常5000mPa・S以上、好ましくは10000mPa・S以上、より好ましくは15000mPa・S以上である。粘度の測定条件は上記と同様である。
【0028】
本発明の柑橘類果皮のナノファイバーは、オーラプテン、ナリンギン、ナリルチン、ヘスペリジン、シネンセチン、ノビレチン、ヘプタメトキシフラボン、タンゲレチン、βクリプトキサンチン等の機能性成分を1種単独又は2種以上を含むことが望ましい。
【0029】
本発明の柑橘類果皮のナノファイバーの形態としては、特に制限されず、例えば、ペースト状、ゼリー状、溶液状、懸濁液状、乳濁液状、粉末状、顆粒状、固形状などが挙げられる。本発明の柑橘類果皮のナノファイバーを乾燥粉末状にすることもでき、この場合は再度液体を加えることで粘度を回復させることもできる。また、冷凍状態でも保存することができ、解凍してもある程度粘度を回復させることができる。
【0030】
本発明の柑橘類果皮のナノファイバーは、乾燥粉末状である場合、高い吸水性を有する。本発明の柑橘類果皮のナノファイバーの吸水率としては、好ましくは1000%以上、より好ましくは1500%以上、更に好ましくは2000%以上である。ここでの吸水率は、実施例に記載の方法により測定される値である。
【0031】
本発明の柑橘類果皮のナノファイバーは、ナノファイバーのみから構成される物だけではなく、前述する機能性成分、解繊処理後にナノファイバー化されずに残った繊維、ナノファイバーが凝集した物などを含む物も包含する意味である。
【0032】
本発明の食品又は化粧料組成物は、上記柑橘類果皮のナノファイバーを含むことを特徴とする。
【0033】
本発明の食品組成物としては、動物(ヒトを含む)が摂取できるあらゆる飲食品が含まれる。飲食品の種類は、特に限定されず、例えば、飲料類(お茶、ドリンクヨーグルト、ジュース、果汁入り飲料、清涼飲料水、牛乳、豆乳、コーヒー、スポーツ飲料、炭酸飲料、酒類等);菓子類(プリン、クラッカー、ビスケット、クッキー、ケーキ、ゼリー、キャンデー、チョコレート、チューインガム、アイスクリーム、焼き菓子、和菓子等);食品類(パン、乾パン、うどん、そば、ラーメン、パスタ、ハム、豆腐、こんにゃく、佃煮、餃子、コロッケ、サラダ、カレー、ジャム等);調味類(みそ、しょう油、ドレッシング、マヨネーズ、ソース、ふりかけ、スープの素等);乳製品(ヨーグルト、チーズ、バター等);水産練り製品(ちくわ、蒲鉾、じゃこてん等);米由来製品(米菓、餅等)などが挙げられる。
【0034】
本発明の食品組成物には、保健、健康維持、増進等を目的とする飲食品、例えば、健康食品、機能性食品、栄養補助食品、サプリメント、特定保健用食品、栄養機能食品、機能性表示食品なども包含される。
【0035】
本発明の食品組成物には、上記柑橘類果皮のナノファイバー以外にも、必要に応じて、ビタミン類、ミネラル類、フラボノイド類、キノン類、ポリフェノール類、甘味料、アミノ酸、核酸、必須脂肪酸、清涼剤、乳化剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、着色料、香料、安定化剤、防腐剤、光沢剤、徐放調整剤、界面活性剤、賦形剤、溶解剤、湿潤剤等の各種添加剤を配合することができる。
【0036】
本発明の化粧料組成物としては、動物(ヒトを含む)の皮膚、粘膜、体毛、頭髪、頭皮、爪、歯、顔皮、口唇等に適用されるあらゆる化粧品が含まれる。
【0037】
本発明の化粧料組成物の剤型は、水溶液系、可溶化系、乳化系、粉末系、油液系、ゲル系、軟膏系、エアゾール系、水-油2層系、水-油-粉末3層系等、幅広い剤型を採り得る。
【0038】
本発明の化粧料組成物の用途も任意であり、例えば、基礎化粧品であれば、化粧水、乳液、クリーム、エッセンス、ジェル、美容液、パック、マスク等が挙げられ、メークアップ化粧品であれば、ファンデーション、口紅、頬紅、アイライナー、アイシャドウ、マスカラ等が挙げられ、ネイル化粧料であれば、マニキュア、ベースコート、トップコート、除光液等が挙げられ、その他、洗顔料、(練又は液体)歯磨剤、マウスウォッシュ、マッサージ用剤、クレンジング用剤、シェービングクリーム、アフターシェーブローション、プレシェーブローション、ボディソープ、石けん、シャンプー、リンス、ヘアートリートメント、整髪料、ヘアートニック剤、育毛剤、制汗剤、入浴剤、日焼け止めクリーム等が挙げられる。
【0039】
本発明の化粧料組成物には、上記柑橘類果皮のナノファイバー以外に、通常化粧品に用いられる成分、例えば、美白剤、保湿剤、油性成分、酸化防止剤、紫外線吸収剤、界面活性剤、増粘剤、アルコール類、粉末成分、色材、水性成分、水、各種皮膚栄養剤等を必要に応じて適宜配合することができる。
【0040】
本発明の食品又は化粧料組成物に含まれる上記柑橘類果皮のナノファイバーの割合は、通常0.01~99質量%、好ましくは1~80質量%、より好ましくは10~70質量%である。
【0041】
本発明の食品又は化粧料組成物は、増粘作用、ゲル化作用、保形作用、又は分散安定作用を付与する添加剤、すなわち、増粘剤、ゲル化剤、保形剤、乳化剤又は分散安定剤としても使用することができる。
【0042】
本発明の柑橘類果皮のナノファイバーの製造方法は、下記(1)及び(2)の工程を有することを特徴とする。
(1)柑橘類果皮をペースト状に粉砕処理する工程、
(2)工程(1)で得られた柑橘類果皮ペーストを、解繊処理する工程。
【0043】
工程(1)で使用する柑橘類果皮としては、前述するものと同様である。粉砕処理の前には、柑橘類果皮に対して、洗浄、水切り、切断等の処理を行ってもよい。
【0044】
粉砕処理には、予め水に浸漬させた柑橘類果皮を使用することが好ましい。水に浸漬することで水溶性のペクチン等が溶出し、相対的にセルロースの含有量が高くなり、より粘度が高いナノファイバーを調製することが可能となる。また、にがみの成分も溶出させることができ、にがみを取ることもできる。
【0045】
また、柑橘類果皮の破砕処理には、ブランチングされた柑橘類果皮を使用することもできる。ブランチングでは、柑橘類果皮を通常50~100℃程度の湯に浸漬する。ブランチングの時間は、通常1~30分程度、好ましくは5~15分程度である。
【0046】
柑橘類果皮の粉砕処理には、水等の液体が混合された柑橘類果皮を使用することが好ましい。
【0047】
柑橘類果皮の粉砕処理の方法としては、柑橘類果皮をペースト状にすることができる限り特に制限されず、例えば、高速裁断攪拌機などを使用することが挙げられる。高速裁断攪拌機としては、例えば、コミトロール(登録商標)、パルパーフィニッシャー、電動ミル、コロイドミル、フードプロセッサー、ロータリーカッターミル、ミクロマイスターなどが挙げられる。粉砕処理の方法としては、コミトロールを使用することが好ましい。コミトロールを使用することで解繊処理の回数を大きく減らすことができる上、目詰まり無くスムーズに解繊処理を行うことが可能となる。コミトロールは、0.02~0.30 mmの目開きで行うことが好ましく、0.12~0.13 mmの目開きで行うことがより好ましい。このような粉砕処理を行うことで、解繊処理の回数を少なくしても、目的とするナノファイバーを調製することが可能となる。
【0048】
工程(1)では、更に殺菌処理、冷却処理などを行うことができる。
【0049】
工程(2)における解繊処理としては、特に制限されず、公知の手法を使用することができ、例えば、石臼式摩砕機(グラインダー、ディスクミル、摩砕機等)、高圧ホモジナイザー、リファイナー(ディスクリファイナー、コニカルリファイナー等)、2軸エクストルーダ、ウォータージェット法、水中カウンターコリジョン法、ビーズミル、ボールミル、マイクロフルイダイザーなどが挙げられる。解繊処理としては、好ましくは石臼式摩砕機、及び高圧ホモジナイザーであり、より好ましくは効率の面から高圧ホモジナイザーである。高圧ホモジナイザーの粉砕圧は、20~200MPaが好ましく、40~150MPaがより好ましく、50~100MPaが更に好ましい。解繊処理は、1種又は2種以上を組み合わせて行うことができる。
【0050】
解繊処理を行う際に使用する柑橘類果皮ペーストの固形分濃度は、好ましくは0.5~10質量%、より好ましくは1~5質量%である。
【0051】
本発明の柑橘類果皮のナノファイバーの製造方法によれば、酵素や薬剤等で化学処理することや複雑な製造工程を経ることなく、果皮の持つ機能性を保持したまま、効率的に繊維幅をナノレベルまで解繊することができる。
【0052】
さらに、本発明の柑橘類果皮のナノファイバーは、果汁に添加することで果汁の分散性を向上させることが可能であり、更には乾燥粉末状である場合、高い吸水性を有している。
【実施例】
【0053】
以下、本発明を更に詳しく説明するため実施例を挙げる。しかし、本発明はこれら実施例等になんら限定されるものではない。なお、実施例において果皮とは、特に断りがない限り外果皮及び中果皮のことを意味する。
【0054】
<実施例1>
河内晩柑の果皮400 gを120℃、10分で水熱処理し、ヘラで潰した後、以下の処理条件でナノファイバー化した。
【0055】
・ディスクミル条件
使用装置:増幸(株)社製、スーパーマスコロイダー(型番:MKCA6-2)
使用したディスク型:GC6-120
回転数:1800rpm
クリアランス条件:1回目300-400μm、2回目300μm、3回目250μm、4回目200μm、5回目200μm、6回目180μm
※クリアランスの設定方法は、上下ディスクがすれすれで接触した位置で目盛ダイアルを3に合わせ、この位置をクリアランス300μmと定義した。その位置からさらに目盛ダイアルを狭め、短い目盛を10μmとしてクリアランスの数値とした。
【0056】
・走査型電子顕微鏡(SEM)観察用サンプル準備方法
(i) 蒸留水で約1000倍希釈(固形分0.005%程度)した河内晩柑果皮ナノファイバーを0.1μmろ紙(ADVANTEC H010A025A)を用いてろ過した。
(ii) ろ過後、エタノールでろ紙を洗い、エタノールで満たしたシャーレに移し、さらにエタノールを捨て、シャーレを再度エタノールで満たした。
(iii) シャーレのエタノールを捨て、t-ブチルアルコールに置換する操作を5回実施した。
(iv) t-ブチルアルコール置換後、冷蔵庫に入れ凍結させた。
(v) 凍結後、シャーレを温め、ろ紙をメスで5 mm四方にカットし凍結乾燥用カップに移し、凍結乾燥を行った。
(vi) 凍結乾燥後のろ紙をSEM用のプレートに貼り、プレートごとオスミウム蒸着し、観察用試料とした。
【0057】
その結果、SEMの画像によりナノファイバー化できていることが確認できた(
図1)。機械処理毎にサンプルを分取し果皮由来の機能性成分を分析した結果、機械処理の行程中に機能性成分のロスはほとんどなく、機能性を保持していることが確認できた(
図2)。
【0058】
<実施例2>
河内晩柑の果皮を沸騰水中で10分処理後、フードプロセッサーで粗粉砕したもの約4.5 Lを、以下に示す処理条件で実施例1と同様にディスクミル処理を実施した。粘度測定時には水分が95%になるよう希釈した。
クリアランス条件:1回目250μm、2回目180μm、3回目150μm、4回目150μm
【0059】
その結果、表1に示す測定条件での粘度計(DV-III Ultra、ブルックフィールド社製:スピンドル、V-73)による測定により、処理する毎に果皮の解繊が進み粘度が増すことが確認できた(
図3)。
【0060】
【0061】
<実施例3>
河内晩柑の果皮を沸騰水中で10分処理した後、24時間水晒しし、フードプロセッサーで粗粉砕したもの約4.5 Lを以下に示す処理条件で実施例1と同様にディスクミル処理を実施した。粘度測定時には水分が97%になるよう希釈した。
クリアランス条件:1回目250μm、2回目180μm、3回目150μm、4回目150μm
【0062】
その結果、粘度計による測定により、処理する毎に果皮の解繊が進み粘度が増すことが確認でき(
図4)、固形分量が実施例2よりも少ない3%にもかかわらず、その粘度は同程度であった。これは、水晒しすることで水溶性のペクチン等が溶出し、相対的にセルロースの含量が高くなったためと考えられる。
【0063】
次に、果皮の水晒しによるセルロース等の組成の変化を把握するため構成糖及びガラクツロン酸の分析を実施した。
【0064】
(1)エタノール・トルエン抽出物の分析
丸底フラスコにエタノール・トルエン溶液(1:2)180 mlを入れ、円筒ろ紙に各サンプルを約1 g精秤し、6hソックスレー抽出器により、溶媒可溶成分を抽出させ、抽出前後のサンプルを精秤し、エタノール・トルエン抽出物量を算出した。抽出後の残渣はその後の構成糖及びガラクツロン酸の分析に使用した。
【0065】
(2)構成糖の分析
柑橘ナノファイバーペーストに含まれる構成糖はLaboratory analytical Procedure (Sluiter, A. et al., Technical report NREL/TP-510-42618 (2012))に準じて実施した。乾燥サンプル50 mgに600μLの72%硫酸溶液を加え、30℃で1時間撹拌した。その後、16.8 mLの蒸留水で希釈し、オートクレーブを用い、120℃で1時間、加水分解処理を行った。加水分解処理後、サンプルを炭酸カルシウムにて中和し、サンプル中に含まれる中性糖を、高速液体クロマトグラフ及び示差屈析率検出器により測定した。
【0066】
・高速液体クロマトグラフ測定条件
カラムオーブン温度:80℃、流速:0.6 mL/min、移動相:超純水
カラム:HPX-87P、300 mm×7.8 mm、Bio-Rad Laboratories Inc., USA
【0067】
(3)ガラクツロン酸の分析
柑橘ナノファイバーペースト中に含まれるポリガラクツロン酸であるペクチンを、ペクチナーゼ(from Aspergillus niger, Sigma-Aldrich Co. LLC, USA)により、モノマーであるガラクツロン酸に分解した。20 mgのサンプル、10 mgの酵素を、25 mLの酢酸緩衝液(pH 4.0)に添加し、50℃のインキュベーター内で、2日間撹拌した。酵素処理後、ガラクツロン酸は高速液体クロマトグラフ及び示差屈析率検出器により測定した。
【0068】
・高速液体クロマトグラフ測定条件
カラムオーブン温度:60℃、流速:0.6 mL/min、移動相:5 mM硫酸カラム:HPX-87H、300 mm×7.8 mm、Bio-Rad Laboratories Inc., USA
【0069】
なお、セルロース濃度については、グルコース濃度の結果に0.9を乗じて換算できる。
【0070】
表2に示すように、構成糖のグルコースから、水晒し無及び水晒し有の河内晩柑果皮ナノファイバーにはそれぞれ15%、22%程度セルロースが存在することが確認できた。水晒しすることにより、エタノール・トルエン抽出物が減少した分、相対的にセルロースが増えていることが確認できた。
【0071】
【0072】
<実施例4>
さらに、原料の前処理方法を検討する事で、機械処理のみによる効率的ナノ化処理技術を検討した。
【0073】
原料の柑橘果皮は果汁の搾汁時に搾汁機から排出された河内晩柑果皮を洗浄し、水切りした後、ダイサーを用いて約1 cm角にカットしたものを用いた。次に95℃10分間ブランチングし、加水による水冷却の後、水切りを行った。このダイスカットされた果皮に対し、同量の水を加え、0.12 mm目のコミトロール処理を行った後、殺菌・冷却を行い、河内晩柑果皮ペーストを製造した。このペースト試料4 Lについて、以下に示す処理条件で実施例1と同様にディスクミル処理を実施した。なお、粘度測定時には水分97%になるように希釈した。
クリアランス条件:1回目150μm
【0074】
その結果、粘度計による測定により、1回の処理のみで果皮の解繊が進み粘度が増すことが確認できた(
図5)。
【0075】
<実施例5>
河内晩柑の果皮を沸騰水中で10分処理後、フードプロセッサーで粗粉砕したものを、以下に示す処理条件で実施例1と同様にディスクミル処理を実施した。得られた3回処理ペーストを凍結乾燥(誘電フリーザー、-30℃)、棚乾燥60℃、又はドラムドライヤー(120℃)により乾燥させ、水分濃度95%になるよう再度溶液分散後、粘度を測定した。
クリアランス条件:1回目180μm、2回目150μm、3回目150μm
【0076】
その結果、粘度計による測定により、60℃棚乾燥では粘度が70%程度回復することが確認できた(
図6)。
【0077】
<実施例6>
河内晩柑の果皮を沸騰水中で10分処理後、22時間水に晒して、フードプロセッサーで粗粉砕したものを、実施例5同様にディスクミル処理を実施した。得られた3回処理のペーストを水分濃度97%に希釈した後、-20℃、-30℃、-80℃の各条件で凍結させ、解凍後粘度を測定した。
【0078】
その結果、粘度は50%以上回復しており、凍結温度が低いほど粘度の回復が大きい傾向になることが確認できた(
図7)。
【0079】
<実施例7>
実施例4で用いたペースト試料について、高圧ホモジナイザー(Panda PLUS 2000、GEAニロソアビ社製)により75MPaの圧力で3回及び150MPaの圧力で2回処理を実施した。粘度測定時には水分が97%になるよう希釈した。その結果、粘度計による測定により、処理回数が増えるほど粘度は増加し、処理圧力が高いほど粘度が高くなることが確認できた(
図8、9)。
【0080】
また、これらの処理毎の機能性成分を分析した結果、表3に示すとおり、ほとんどの機能性成分を保持していた。
【0081】
さらに、得られたサンプルを以下の方法で調製し、原子間力顕微鏡(JSPM-5200、JEOL社製、以下AFM)で観察した結果、
図10に示すとおりナノレベルまで解繊されており、その繊維幅は2~5 nm程度であった。これらの結果は、伊予柑、温州みかん、及びポンカンでも同様に確認でき、AFMでの観察を解析処理した20本の繊維の幅の平均を集計した結果、2~10 nmの幅の繊維が確認でき、表4に示すようにその平均幅は2~5 nm程度であった。また、河内晩柑じょうのう膜をフードプロセッサーを用いて粉砕した後、高圧ホモジナイザーにより75MPaの圧力で3回処理した場合にも表4に示すように各処理ともに平均3 nm前後の繊維が観察された。
【0082】
・ナノファイバー中のオーラプテン前処理方法
(1)凍結乾燥試料約0.1 gをプラスチック遠沈管(50 ml)に量りとり、アセトン15 mlを添加し、10分間超音波抽出した。
(2)5Cのろ紙を用いて濾過及びアセトン、エタノールで洗いこんだ。
(3)ロータリーエバポレーターで0.5 ml迄濃縮し、10 mlにメスアップした。
(4)メスアップした溶液を0.2μmのフィルターを通して分析用試料とした。
【0083】
・ナノファイバー中のフラバノン、ポリメトキシフラボン前処理方法
(1)凍結乾燥試料約0.05 gを計量し、抽出溶媒(MeOH:DMSO=1:1) 5 mlを添加し、ボルティックミキサーで混合後、10分間超音波抽出し1時間以上放置した。
(2)10000rpmで10分遠心分離後、上澄みを共栓付メスシリンダーに加えた。
(3)沈殿に抽出溶媒1 mlを加え、ボルティックミキサーで混合後、10分間超音波抽出した。
(4)10000rpmで10分遠心分離後、上澄みを(2)のビーカーに加え、沈澱に抽出溶媒1 mlを加え、再びボルティックミキサーで混合後、10分間超音波抽出した。
(5)10000rpmで10分遠心分離後、上澄みを(2)のビーカーにとり、上澄みを併せた抽出液に、溶媒濃度が10%(V/V)になるように蒸留水を加えた。
(6)メタノール3 ml,10%(V/V)メタノール6 mlで順次コンディショニングした固相抽出ディスク(ボンドエルート(C18, 500 mg))にサンプルを通液した。
(7)10%(V/V)メタノール15 mlで洗浄後、抽出溶媒5 mlで溶出後、5 mlメスフラスコで定容し、0.2μmのフィルターを通して、分析用試料とした。
【0084】
・分析条件
○LC/MSシステム:ACQUITY UPLC、Waters Q-TOF micro
○カラム:BEH C18 (1.7μm、2.1 mm×100 mm)
○カラム温度:40℃
○検出器:PDA
○移動相条件等
[オーラプテン] 流速:0.3 ml/min、10 mMギ酸アンモニウム含有水:メタノール=25:75
[ポリメトキシフラボン] 流速:0.25 ml/min、10 mMギ酸アンモニウム含有水:アセトニトリル=60:40
[フラバノン] 流速:0.25 ml/min
溶離液A アセトニトリル
溶離液B 10 mMギ酸アンモニウム含有水
グラジエント条件(溶離液A):80%(0→4分)、80→60%(4→5分)、60%(5→6分)、60→30%(6→7分)、30%(7→10分)、30→80%(10→10.5分)、80%(10.5→12分)
【0085】
・AFM観察前準備
・0.1%固形分の溶液となるよう希釈液を約10 ml準備した。
・上記溶液を更に10倍希釈し、2 ml用遠沈管に1.5 ml調製した。
・超音波条件100μAで30秒処理した。
・5 mm角程度に切断したシリコンウエハーを1%PEI(ポリエチレンイミン)に10分以上浸漬させ、超純水で水洗い後、N2ガスで水を飛ばし乾かした。シリコンウエハーをスピンコーターにセットし、超音波で処理した80μlの溶液を基盤の上に滴下し、1分間放置後、3000rpm、60秒でスピンコーターをスタートし、観察試料とした。
【0086】
【0087】
【0088】
<実施例8>
河内晩柑フィニッシャー果汁に以下の各ナノファイバーを固形分濃度0.6%になるように添加し、さらに10倍希釈した。この溶液を溶液安定性評価装置(TURBISCAN MA2000)を用い、2分毎、合計30分間測定した(光源:パルスLED 850 nm)。
(1)スギノマシン社製ビンフィス標準
(2)河内晩柑外果皮中果皮高圧ホモジナイザー処理ナノファイバー(150MPa 2パス)(3)河内晩柑じょうのう膜高圧ホモジナイザー処理ナノファイバー(75MPa 3パス)
【0089】
その結果、木材パルプ由来ビンフィス標準が最も早く凝集が始まったのに対し、河内晩柑外果皮中果皮由来のナノファイバーは若干凝集した一方、じょうのう膜由来のナノファイバーは全く凝集しなかった(
図11)。
【0090】
<実施例9>
各柑橘の果皮ペーストを高圧ホモジナイザーでナノ化処理した実施例7のサンプルを、B型回転式粘度計(ブルックフィールド社製 DV-III Ultra)を用い、6rpmで1分間スピンドルを回転させた直後の粘度測定、続いて60rpmで1分間スピンドルを回転させた直後の粘度測定を実施した。それぞれ1分後のデータを選択し、TI値を計算し、表5に示した。その結果、これらのTI値は7前後であり、大きなチキソトロピー性を有することが分かった。
【0091】
TI値の測定は、JISK5101-6-2 (顔料試験法-6部:流動性-第2節:回転粘度計法)に規定する方法で行い、次の計算式により算出した。
・TI値=6rpmにおける見掛けの粘度/60rpmにおける見掛けの粘度
【0092】
【0093】
<実施例10>
表6の試料1及び2は市販品を入手した。
【0094】
表6の試料3、4、6の調製:各柑橘果皮を沸騰水中で10分処理後(試料6は24時間水晒し)、フードプロセッサーで粗粉砕したものを、ディスクミル処理をクリアランス200μmで1回実施した。さらに高圧ホモジナイザーを用いて150MPaで2回処理した後、90℃で15分の条件で殺菌処理を実施し、凍結乾燥を実施後、フードプロセッサーで粗粉砕した。
【0095】
表6の試料5の調製:実施例4で用いたペースト試料を高圧ホモジナイザーを用いて150MPaの圧力で2回処理した後、90℃で15分の条件で殺菌処理を実施した後、凍結乾燥を実施し、フードプロセッサーで粗粉砕した。
【0096】
吸水率の測定方法:乾燥状態の試料1~6の各粉末1.00 gを50 mLチューブに入れ、40 g蒸留水を添加した後、室温で一晩放置した。このチューブを3000rpmで30分間遠心した後、上清を捨て、吸水後の粉末重量(粉末と粉末に吸収された水の合計重量)を測定した。吸水率は以下の式で算出した。
吸水率(%)=(吸水後の粉重量-吸水前の粉重量(1.00 g))/吸水前の粉重量(1.00 g)×100
【0097】
結果を表6に示した。各柑橘果皮乾燥粉末を用いて吸水率を測定した結果、柑橘由来ナノファイバーはいずれも1000%以上の吸水率を有していた。特に伊予柑と河内晩柑は2000%以上の吸水率であった。
【0098】