(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-18
(45)【発行日】2023-10-26
(54)【発明の名称】アルミニウム板状構造体を含む建築部材及び改修排水ドレン並びにそれらの製造方法
(51)【国際特許分類】
E04D 13/04 20060101AFI20231019BHJP
B23K 26/38 20140101ALI20231019BHJP
B23K 26/21 20140101ALI20231019BHJP
C22C 21/00 20060101ALI20231019BHJP
【FI】
E04D13/04 A
B23K26/38 A
B23K26/21 N
C22C21/00 N
(21)【出願番号】P 2019096270
(22)【出願日】2019-05-22
【審査請求日】2022-03-29
(73)【特許権者】
【識別番号】000002093
【氏名又は名称】住友化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106518
【氏名又は名称】松谷 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【氏名又は名称】山尾 憲人
(72)【発明者】
【氏名】永田 章
(72)【発明者】
【氏名】星河 浩介
(72)【発明者】
【氏名】久保 雄輝
【審査官】吉村 庄太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-017073(JP,A)
【文献】特開2017-080806(JP,A)
【文献】特開2017-018980(JP,A)
【文献】特開2007-247295(JP,A)
【文献】実開平05-035929(JP,U)
【文献】特開2018-030141(JP,A)
【文献】特開2015-059333(JP,A)
【文献】特開平04-214898(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04D 13/04
B23K 26/00-26/70
C22C 21/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウム板状構造体を含む建築部材であって、
前記アルミニウム板状構造体は、純度が99.99質量%以上であり、
前記アルミニウム板状構造体は、切断面と当該切断面に隣接する表面とを有し、
前記切断面の少なくとも一部について、下記(1)式で表わされる切断面近傍の加工硬化率が110%以下である、建築部材。
(前記表面と前記切断面との境界から0.3mm以内の位置で無作為に選択した前記表面上の4箇所のビッカース硬度の平均値)÷(前記境界から10.0mmの位置で無作為に選択した前記表面上の4箇所のビッカース硬度の平均値)×100 (1)
【請求項2】
前記下記(1)式で表わされる切断面近傍の加工硬化率が105%以下である、請求項1に記載の建築部材。
【請求項3】
前記アルミニウム板状構造体の板厚が、0.7mm以上1.5mm以下である、請求項1に記載の建築部材。
【請求項4】
前記純度が99.997質量%以上である請求項1~3のいずれか1項に記載の建築部材。
【請求項5】
前記アルミニウム板状構造体が調質処理材である請求項1~4のいずれか1項に記載の建築部材。
【請求項6】
前記切断面の全てについて、前記加工硬化率が105%以下である請求項1~5のいずれか1項に記載の建築部材。
【請求項7】
前記切断面の前記少なくとも一部が開口部を規定する請求項1~6のいずれか1項に記載の建築部材。
【請求項8】
前記アルミニウム板状構造体が、一辺200mm以上600mm以下の略四角形又は直径200mm以上600mm以下の略円形であり、且つ前記開口部が直径30mm以上200mm以下の略円形である請求項7に記載の建築部材。
【請求項9】
請求項7又は8に記載の建築部材である改修排水ドレンであって、前記開口部と流体連通するように中空管の一方の端部が前記アルミニウム板状構造体に固着されている改修排水ドレン。
【請求項10】
前記中空管であるアルミニウム中空管の一方の端部が前記アルミニウム板状構造体に溶接されている請求項9に記載の改修排水ドレン。
【請求項11】
アルミニウム板状構造体を含む建築部材の製造方法であって、
純度が99.99質量%以上であるアルミニウム圧延板を準備する工程と、
レーザー切断により前記アルミニウム圧延板の少なくとも一部を切断して前記アルミニウム板状構造体を得る切断加工工程と
を含む、建築部材の製造方法。
【請求項12】
前記純度が99.997質量%以上である請求項11に記載の建築部材の製造方法。
【請求項13】
前記アルミニウム圧延板又は前記アルミニウム板状構造体を、300℃以上600℃以下の温度で、1時間以上24時間以下保持する焼鈍工程を含む請求項11又は12に記載の建築部材の製造方法。
【請求項14】
前記切断加工工程において、前記アルミニウム圧延板の全ての切断をレーザー切断により行う請求項11~13のいずれか1項に記載の建築部材の製造方法。
【請求項15】
前記切断加工工程において、1つの前記アルミニウム圧延板から2つ以上の前記アルミニウム板状構造体を得る請求項11~14のいずれか1項に記載の建築部材の製造方法。
【請求項16】
前記切断加工工程において、レーザー切断により前記アルミニウム板状構造体に開口部を設ける請求項11~15のいずれか1項に記載の建築部材の製造方法。
【請求項17】
前記切断加工工程において、一辺200mm以上600mm以下の略四角形又は直径200mm以上600mm以下の略円形であり、且つ前記開口部が直径30mm以上200mm以下の略円形である前記アルミニウム板状構造体を得る請求項16に記載の建築部材の製造方法。
【請求項18】
請求項
16又は17に記載の建築部材である改修排水ドレンの製造方法であって、前記アルミニウム板状構造体に、前記開口部と流体連通するように中空管の一方の端部を固着する中空管固着工程を含む、改修排水ドレンの製造方法。
【請求項19】
前記中空管固着工程において、前記中空管としてアルミニウム中空管を用い、前記アルミニウム板状構造体と前記アルミニウム中空管の一方の端部とを溶接することにより、前記アルミニウム板状構造体に前記アルミニウム中空管の一方の端部を固着する請求項18に記載の改修排水ドレンの製造方法。
【請求項20】
前記溶接がレーザー溶接である請求項19に記載の改修排水ドレンの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルミニウム板状構造体を含む建築部材及び改修排水ドレン並びにそれらの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アルミニウムは、建築部材、例えば建築物を補修するための建築部材として広く用いられている。そのような建築部材として、例えば以下のような改修排水ドレンが挙げられる。
【0003】
屋上、陸屋根、廊下、バルコニー等(以下、「屋上等」と呼ぶことがある)の建物平坦部に降った雨水を集めて竪樋等に流すために、屋上等には通常、排水ドレンが設けられている。
【0004】
排水ドレンには、屋上等の下に設けられた竪樋等に雨水を流す縦引き排水用の排水ドレンと、屋上等の横に設けられた竪樋等に雨水を引込む横引き排水用の排水ドレンとがある。
【0005】
排水ドレンは通常、鋳鉄、ステンレス又はアルミニウム等の材質でできており、焼き付け塗装等の塗装が施されているものもあり、屋上等に種々の方法で固定されている。
【0006】
しかしながら、時間の経過とともに、排水ドレン自体が劣化したり、排水ドレンを屋上等に固定してある接触場所等が浸食を受けたりして、雨水が正常に竪桶等に流れなくなったり、排水ドレンの周辺が汚くなったり、また排水ドレンの腐食部等から漏水したりすることがある。
【0007】
このような劣化した排水ドレンや排水ドレン周辺を補修するために、例えば特許文献1に開示されているように、改修排水ドレンが広く用いられている。
図2に、改修排水ドレンの一例を示す。
図2に示すように、改修排水ドレン20は、板状構造体22の略中央部に穴が開けられており、その穴から板状構造体22の片面側に中空管24が伸びている。改修排水ドレン設置前の排水ドレン下地の概略断面図を
図3に、改修排水ドレンを設置した排水ドレン下地の概略断面図を
図4に示す。
図3に示すように、改修排水ドレン設置前の排水ドレン下地32には、例えば平坦部34及び窪み部36があり、排水口30を備える既設ドレン管38が配置されている。
図4に示すように、中空管24を、補修しようとする排水ドレンの既設ドレン管38に差し込み、板状構造体22をハンマー等で叩くことにより、板状構造体22を排水ドレン下地32の形状になじませ、密着させることで排水ドレンを補修できる。そのため、排水ドレン下地32の形状に合うように容易に変形し、且つ密着する(すなわち、下地追従性が高い)板状構造体22が必要である。
【0008】
このような板状構造体としてアルミニウムを用いた改修排水ドレンが用いられている。例えば特許文献2には、改修排水ドレンの板状構造体として、アルミニウム金属メッシュを含み、当該アルミニウム金属メッシュをゴムで被覆したものが開示されている。
【0009】
特許文献3には、改修排水ドレンの板状構造体として工業用純アルミニウムを用いるものが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】特開2014-101643号公報
【文献】特開2012-202048号公報
【文献】特開2015-59333号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
改修排水ドレンのような建築部材に用いるアルミニウム板状構造体は、アルミニウム圧延板にシャー切断やプレス加工等の外周切断加工を施し、プレス加工等により開口部を形成して作製されるが、通常、シャー切断やプレス加工等のように機械的な力を用いる方法で形成した切断面は、その近傍が加工硬化しており、切断面近傍の柔軟性が低下している。そのため、アルミニウム板状構造体を用いた建築部材を建築物の改修等に用いる際、建築物の形状に合わせて建築部材を変形させようとすると、切断面近傍が硬く変形させることが難しいことがあり、あるいは切断面近傍が破損することがある。
【0012】
本発明は、このような状況を鑑みてなされたものであり、その目的は、切断面近傍の加工硬化が小さいアルミニウム板状構造体を含む建築部材及び改修排水ドレン並びにそれらの製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の態様1は、
アルミニウム板状構造体を含む建築部材であって、
前記アルミニウム板状構造体は、Fe、Si及びCuを含み、純度が99.99質量%以上であり、
前記アルミニウム板状構造体は、切断部と当該切断面に隣接する表面とを有し、
前記切断面の少なくとも一部について、下記(1)式で表わされる切断面近傍の加工硬化率が110%以下である、建築部材である。
(前記表面と前記切断面との境界から0.3mm以内の位置で無作為に選択した前記表面上の4箇所のビッカース硬度の平均値)÷(前記境界から10.0mmの位置で無作為に選択した前記表面上の4箇所のビッカース硬度の平均値)×100 (1)
【0014】
本発明の態様2は、前記純度が99.997質量%以上である態様1に記載の建築部材である。
【0015】
本発明の態様3は、前記アルミニウム板状構造体が調質処理材である態様1又は2に記載の建築部材である。
【0016】
本発明の態様4は、前記切断面の全てについて、前記加工硬化率が110%以下である態様1~3のいずれかに記載の建築部材である。
【0017】
本発明の態様5は、前記切断面の前記少なくとも一部が開口部を規定する態様1~4のいずれかに記載の建築部材である。
【0018】
本発明の態様6は、前記アルミニウム板状構造体が、一辺200mm以上600mm以下の略四角形又は直径200mm以上600mm以下の略円形であり、且つ前記開口部が直径30mm以上200mm以下の略円形である態様5に記載の建築部材である。
【0019】
本発明の態様7は、態様5又は6に記載の建築部材である改修排水ドレンであって、前記開口部と流体連通するように中空管の一方の端部が前記アルミニウム板状構造体に固着されている改修排水ドレンである。
【0020】
本発明の態様8は、前記中空管であるアルミニウム中空管の一方の端部が前記アルミニウム板状構造体に溶接されている態様7に記載の改修排水ドレンである。
【0021】
本発明の態様9は、アルミニウム板状構造体を含む建築部材の製造方法であって、
純度が99.99質量%以上であるアルミニウム圧延板を準備する工程と、
レーザー切断により前記アルミニウム圧延板の少なくとも一部を切断して前記アルミニウム板状構造体を得る切断加工工程と
を含む、建築部材の製造方法である。
【0022】
本発明の態様10は、前記純度が99.997質量%以上である態様9に記載の建築部材の製造方法である。
【0023】
本発明の態様11は、前記アルミニウム圧延板又は前記アルミニウム板状構造体を、300℃以上600℃以下の温度で、1時間以上24時間以下保持する焼鈍工程を含む態様9又は10に記載の建築部材の製造方法である。
【0024】
本発明の態様12は、前記切断加工工程において、前記アルミニウム圧延板の全ての切断をレーザー切断により行う態様9~11のいずれかに記載の建築部材の製造方法である。
【0025】
本発明の態様13は、前記切断加工工程において、1つの前記アルミニウム圧延板から2つ以上の前記アルミニウム板状構造体を得る態様9~12のいずれか1項に記載の建築部材の製造方法。
【0026】
本発明の態様14は、前記切断加工工程において、レーザー切断により前記アルミニウム板状構造体に開口部を設ける態様9~13のいずれかに記載の建築部材の製造方法である。
【0027】
本発明の態様15は、前記切断加工工程において、一辺200mm以上600mm以下の略四角形又は直径200mm以上600mm以下の略円形であり、且つ前記開口部が直径30mm以上200mm以下の略円形である前記アルミニウム板状構造体を得る態様14に記載の建築部材の製造方法である。
【0028】
本発明の態様16は、態様9~15のいずれかに記載の建築部材である改修排水ドレンの製造方法であって、前記アルミニウム板状構造体に、前記開口部と流体連通するように中空管の一方の端部を固着する中空管固着工程を含む、改修排水ドレンの製造方法である。
【0029】
本発明の態様17は、前記中空管固着工程において、前記中空管としてアルミニウム中空管を用い、前記アルミニウム板状構造体と前記アルミニウム中空管の一方の端部とを溶接することにより、前記アルミニウム板状構造体に前記アルミニウム中空管の一方の端部を固着する態様16に記載の改修排水ドレンの製造方法である。
【0030】
本発明の態様18は、前記溶接がレーザー溶接である態様17に記載の改修排水ドレンの製造方法である。
【発明の効果】
【0031】
本発明により、切断面近傍の加工硬化が小さいアルミニウム板状構造体を含む建築部材及び改修排水ドレン並びにそれらの製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【
図1】
図1は、アルミニウム板状構造体の一例を示す概略的平面図である。
【
図2】
図2は、改修排水ドレンの一例を示す概略斜視図である。
【
図3】
図3は、排水ドレン下地の一例を示す概略断面図である。
【
図4】
図4は、改修排水ドレンの中空管が、排水ドレン管の内部まで差し込まれた状態の一例を示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
1.アルミニウム板状構造体を含む建築部材
本発明の実施形態に係る建築部材は、
アルミニウム板状構造体を含み、
純度が99.99質量%以上であり、
アルミニウム板状構造体は、切断部と当該切断面に隣接する表面とを有し、
切断面の少なくとも一部について、下記(1)式で表わされる切断面近傍の加工硬化率が110%以下である、建築部材である。
(上記表面と上記切断面との境界から0.3mm以内の位置で無作為に選択した上記表面上の4箇所のビッカース硬度の平均値)÷(当該境界から10.0mmの位置で無作為に選択した上記表面上の4箇所のビッカース硬度の平均値)×100 (1)
【0034】
本発明の実施形態に係る建築部材は、柔軟性に優れた高純度アルミニウムを用いることに加えて、レーザー切断を施してアルミニウム圧延板の少なくとも一部を切断してアルミニウム板状構造体を作製することにより、レーザー切断により形成した切断面近傍の加工硬化が低減されている。そのため、本発明の実施形態に係る建築部材は、変形加工を加えた際、切断面近傍が変形し易く、破損しにくい。以下、本発明の実施形態に係る建築部材として、改修排水ドレンを例にして、本発明の実施形態に係る建築部材をより具体的に説明する。
【0035】
従来、改修排水ドレンの板状構造体として工業用純アルミニウムを適用しているものが提案されている。しかし、このような工業用純アルミニウムは、ホール・エルー法等の電気分解法により製造されるため、通常は純度が99質量%程度であり、すなわち1質量%に近い不純物元素を含む。例えば、JIS規格の合金番号A1100の純度は99質量%程度、A1050の純度は99.5質量%程度である。
なお、純度を示す質量パーセント表記における先頭から連続する9の数の後にナインの頭文字であるNを付して、例えば純度99.99質量%を「4N」と記載し、「フォーナイン」と呼ぶことがある。純度4Nのアルミニウムを「4N-Al」と記載する場合がある。
【0036】
99質量%程度の純度の純アルミニウムは、通常1質量%程度の不純物元素を含んでいる。
【0037】
上述したように、劣化した排水ドレンを補修する際には、排水ドレン及びその周辺の形状に合わせて改修排水ドレンが隙間なく密接するように、改修排水ドレンを変形加工して使用する。99質量%程度の純度の工業用純アルミニウムは、不純物元素を多く含有するため強度が高く、ハンマー等での押叩きにて板材を下地に追従させることが困難である。さらに工業用純アルミニウムの中では強度が低い調質処理材を用いた場合でも、改修排水ドレンの材料として広く用いられている鉛と比較すると強度が高いために変形させにくく、また加工硬化により強度が上昇し易いため、十分に塑性変形させてドレン下地に追従させることが困難であった。そこで、低強度であり、塑性変形性が高く、且つ加工硬化しにくい素材が必要となることに着眼した。
【0038】
本発明者らは、鋭意検討した結果、99.99質量%以上の純度(4N以上)の高純度のアルミニウム材をアルミニウム板状構造体の素材として用いることが上述の課題を解決するために重要であることを見出した。
すなわち、本発明の実施形態に係る建築部材において、アルミニウム板状構造体は、純度が99.99質量%以上である。これにより、アルミニウム板状構造体の強度を抑制し、塑性変形を容易にし、且つ加工硬化による強度上昇を小さくすることができる。
【0039】
なお、高純度アルミニウムの純度については、高純度に精製したアルミニウムを用いて、不純物の進入を抑制して溶解鋳造を行い、一旦高純度のアルミニウム鋳塊を得ると、その後に均質加熱処理、圧延、面削および切削等の加工、ならびに加工後の熱処理等の工程を経ても純度は実質的に変化しないことが広く知られている。このため、アルミニウム板状構造体を製造する際、いずれかの工程において測定したアルミニウムの純度を最終的に得られるアルミニウム板状構造体の純度として用いてよいことが広く知られている。また、予め組成が分かっている原料を用い、不純物の侵入を抑制して溶解鋳造を行った場合も当該原料の組成を最終的に得られるアルミニウム板状構造体の純度として用いてよいことが広く知られている。
【0040】
また、高純度アルミニウムの不純物元素として、典型的な元素は、鉄(Fe)、ケイ素(Si)、銅(Cu)、マンガン(Mn)、マグネシウム(Mg)、チタン(Ti)、ホウ素(B)、クロム(Cr)、ガリウム(Ga)、ニッケル(Ni)、バナジウム(V)、亜鉛(Zn)及びジルコニウム(Zr)の13元素であることが知られている。これら13元素の中でも、特にFe、Cu及びSiの量が多いことが知られている。
そこで、Fe、Cu及びSiの合計の含有量を用いて、高純度アルミニウムの純度を求めてよい。すなわち、高純度アルミニウムの純度[質量%]を、(100-(Fe、Cu及びSiの合計の含有量[質量%])としてよい。例えば、Fe、Cu及びSiの合計の含有量が0.01質量%以下である場合の高純度アルミニウムの純度を、99.99%以上(4N以上)としてよい。
【0041】
上記13元素の含有量の測定には、測定精度を確保できる既知の分析方法を用いてよい。例えば、グロー放電質量分析(GD-MS)又は固体発光分光分析により求めてよい。
【0042】
本発明の実施形態に係る建築部材において、アルミニウム板状構造体は、純度が、好ましくは99.997質量%以上(4N7以上)、より好ましく99.999質量%以上(5N以上)、更に好ましくは99.9997質量%以上(5N7以上)、より更に好ましくは99.9999質量%以上(6N以上)である。不純物元素であるFe、Si及びCuの合計の含有量をより制限することにより、アルミニウム板状構造体の強度をより小さくし、塑性変形をより容易にし、加工硬化をより抑制することができる。そのため、例えば本発明に係る建築部材が改修排水ドレンである場合、その施工性をより向上することができる。
【0043】
アルミニウムの純度が高いほど、加工硬化による強度向上を抑制できるメカニズムは、明確ではないが、以下のように推測している。つまり、不純物濃度が高い一般的な金属の場合には、加工とともに転位と呼ばれる結晶欠陥が導入された際に、転位の移動が不純物元素で抑制されて(すなわち、ピン止めされて)蓄積し、転位が移動しにくくなる、つまり加工硬化していく。それに対し、アルミニウムの純度が99.99質量%以上になると、一般的な金属と比べて不純物元素が大幅に少ないため、転位の移動が不純物元素によって抑制される(ピン止めされる)効果が小さくなり、従って加工硬化が生じにくいと考えられる。
【0044】
また、本発明の実施形態に係る建築部材において、アルミニウム板状構造体は、純度が99.99質量%以上であるため、加工硬化による柔軟性の低下を抑制できることに加えて、優れた耐食性を有することができる。そのため、例えば本発明の実施形態に係る建築部材が改修排水ドレンである場合、長時間雨水に曝されても劣化しにくくなる。このような耐食性向上の効果は、純度をより高めることによって、より顕著に発揮できる。従って、耐食性の効果を得る観点からも、純度は、好ましくは99.997質量%以上、より好ましく99.999質量%以上、更に好ましくは99.9997質量%以上、より更に好ましくは99.9999質量%以上である。
【0045】
本発明の実施形態に係る建築部材において、アルミニウム板状構造体は、調質処理材であってよい。調質処理材とすることにより、製造時の圧延工程で導入された加工歪が緩和され柔軟性が向上する。そのため、例えば本発明の実施形態に係る建築部材が改修排水ドレンである場合、アルミニウム板状構造体が排水ドレンの補修部位の形状に合わせてより密着しやすくなり、改修排水ドレンの施工性をより向上することができる。
【0046】
上述のように、高純度アルミニウム材を用いると、アルミニウム板状構造体の柔軟性を確保することができる。しかし、高純度アルミニウムは破断強度が小さく破損しやすいため、高純度アルミニウム材を用いるだけでは、切断加工による加工硬化のわずかな影響により、切断面近傍が硬く変形させることが難しいことがあり、切断面近傍が破損することがある。そこで、本発明者らは、鋭意検討した結果、上記のように加工硬化による強度上昇が小さい高純度アルミニウム材を用いることに加えて、レーザー切断を施してアルミニウム板の少なくとも一部を切断してアルミニウム板状構造体を作製することにより、レーザー切断により形成した切断面近傍の加工硬化を低減することが上述の課題を解決するために重要であることを見出した。
すなわち、本発明の実施形態に係る建築部材において、アルミニウム板状構造体は、切断面と切断面に隣接する表面とを有し、切断面の少なくとも一部について、下記(1)式で表わされる切断面近傍の加工硬化率が110%以下である。
(上記表面と上記切断面との境界から0.3mm以内の位置で無作為に選択した上記表面上の4箇所のビッカース硬度の平均値)÷(当該境界から10.0mmの位置で無作為に選択した上記表面上の4箇所のビッカース硬度の平均値)×100 (1)
【0047】
アルミニウム板状構造体の表面において、上記境界(以下、「切断加工端部」と呼ぶことがある)から0.3mm以内の位置(以下、「切断面近傍」と呼ぶことがある)は切断による加工硬化の影響を受け易いため、切断により加工硬化した部分の硬度を示す代表的な位置として選択している。一方、アルミニウム板状構造体の表面において、切断加工端部から10.0mmの位置は切断による加工硬化の影響を受けていないため、加工硬化していない部分の硬度を示す代表的な位置として選択している。すなわち、上記(1)式で示される切断面近傍の加工硬化率は、切断による加工硬化の程度を示しており、低い程切断による加工硬化が小さい。
【0048】
本発明の実施形態に係る建築部材において、アルミニウム板状構造体の切断面は、アルミニウム板状構造体の表面方向の外周部の一部又は全部を規定してよく、またアルミニウム板状構造体の開口部を規定してよい。本発明の1つの実施形態において、アルミニウム板状構造体は、表面と、表面に隣接する切断面で規定される外周部及び開口部とを有する。
【0049】
切断面近傍の加工硬化率は、好ましくは108%以下、より好ましくは105%以下である。切断面近傍の加工硬化率をより低減することにより、切断面近傍の強度をより小さくし、塑性変形をより容易にし、切断面近傍の破損を生じにくくすることができる。そのため、例えば本発明に係る建築部材が改修排水ドレンである場合、その施工性をより向上することができる。
【0050】
ビッカース硬度は、JIS Z 2244:2009に従って測定される値であり、正四角錐のダイヤモンド圧子をアルミニウム板状構造体の表面に押し込み、その試験力を解除した後、当該表面に残った窪みの対角線長さから算出する。
JIS Z 2244:2009では、試験力によって硬さ記号を変えることが定められている。本発明の実施形態において、ビッカース硬度として、例えば試験力が0.01kgf(=0.0981N)のときのビッカース硬度HV0.01を用いてよい。
また、試験力は、他の測定条件を考慮して適切に選択してよい。例えばJIS Z2244:2009に記載のように、試験片(すなわち、アルミニウム板状構造体)の厚みが圧痕の対角線の長さの1.5倍以上となるように、試験片の厚みと試験力を選択してよい。試験力の好適な例として、アルミニウム板状構造体の厚みが300μm以上の場合は0.001~0.05kgf、アルミニウム板状構造体の厚みが300μm未満の場合は0.005~0.01kgfが挙げられる。試験力及び試験片の硬度により、圧痕サイズを調整することができる。
【0051】
本発明の実施形態に係る建築部材は、アルミニウム板状構造体の切断面の少なくとも一部について、すなわち、アルミニウム板状構造体の全ての切断面の一部について、切断面近傍の加工硬化率が110%以下であればよい。例えば切断面近傍の加工硬化率が110%以下である切断面は、アルミニウム板状構造体の外周部の一部又は全部を規定してよく、また開口部を規定してよい。開口部を規定する切断面近傍の加工硬化率が110%以下であると、例えば本発明の実施形態に係る建築部材が改修排水ドレンである場合、改修排水ドレンを施工する際に開口部近傍の塑性変形をし易くし、開口部近傍の破損を生じにくくすることができる。
【0052】
本発明の実施形態に係る建築部材において、切断面の全てについて、切断面近傍の加工硬化率が110%以下であることが好ましい。これにより、切断面近傍全てに亘って強度をより小さくし、塑性変形をより容易にし、切断面近傍の破損を生じにくくすることができる。
【0053】
本発明の実施形態に係る建築部材において、アルミニウム板状構造体の形状は、板状である限り特に限定されず、またアルミニウム板状構造体が開口部を有する場合、開口部の形状は特に限定されない。例えば、アルミニウム板状構造体は、建築部材の用途及び設計等に応じて、一辺200mm以上600mm以下の略四角形又は直径200mm以上600mm以下の略円形であってよく、且つ開口部が直径30mm以上200mm以下の略円形であってよい。このようなアルミニウム板状構造体を含む建築部材は、改修排水ドレンとして好適である。
【0054】
本発明の実施形態に係る建築部材において、アルミニウム板状構造体の板厚は、好ましくは0.3mm以上、より好ましくは0.5mm以上、更に好ましくは0.7mm以上である。これにより、例えば本発明の実施形態に係る建築部材が改修排水ドレンである場合、改修排水ドレンを施工する際、アルミニウム板状構造体がより破損しにくくなり、また雨水等による腐食による漏水がより生じにくくなる。
また、アルミニウム板状構造体の板厚は、好ましくは2.0mm以下、より好ましくは1.8mm以下、更に好ましくは1.5mm以下である。これにより、例えば本発明の実施形態に係る建築部材が改修排水ドレンである場合、アルミニウム板状構造体の柔軟性を確保することがより容易となり、改修排水ドレンの施工性を向上させることがより容易となる。
【0055】
2.改修排水ドレン
本発明の実施形態に係る改修排水ドレンは、本発明の実施形態に係る建築部材の一態様であり、アルミニウム板状構造体に設けられた開口部と流体連通するように中空管の一方の端部がアルミニウム板状構造体に固着されている。
【0056】
本発明の実施形態に係る改修排水ドレンは、アルミニウム板状構造体を補修部位の形状に合わせて変形加工した際、十分に塑性変形させ、補修部位の形状に合わせて容易に密着させることができ、且つ切断面近傍を塑性変形し易くし、切断面近傍の破損を生じにくくすることができる。
【0057】
中空管の材質は特に限定されず、中空管は、樹脂製であってよく、あるいは、螺旋状に巻かれた金属若しくは金属メッシュを樹脂で被覆してなるものであってよい。これらの中空管はフレキシブルであることが好ましく、その場合、例えば既設ドレン管が屈曲部を有していても、当該屈曲部の形状に合わせて中空管が容易に変形するため、中空管を既設ドレン管に挿入することがより容易となる。
中空管が樹脂製又は螺旋状に巻かれた金属若しくは金属メッシュを樹脂で被覆してなるものである場合、中空管の一方の端部は、例えば接着剤等によりアルミニウム板状構造体に固着されていてよい。
【0058】
また、中空管はアルミニウム中空管であってよい。アルミニウム中空管の化学成分組成はアルミニウム板状構造体と同一であってよく、あるいは異なってもよい。
い。中空管としてアルミニウム中空管を用いることにより、耐食性が向上し、長時間雨水に曝されても改修排水ドレンが劣化しにくくなる。
中空管がアルミニウム中空管である場合、アルミニウム中空管の一方の端部はアルミニウム板状構造体に溶接されていてよい。
【0059】
3.アルミニウム板状構造体を含む建築部材の製造方法
本発明の実施形態に係るアルミニウム板状構造体を含む建築部材の製造方法は、
純度が99.99質量%以上であるアルミニウム圧延板を準備する工程と、
レーザー切断によりアルミニウム圧延板の少なくとも一部を切断してアルミニウム板状構造体を得る切断加工工程とを含む。
以下、各工程について説明する。
【0060】
(1)アルミニウム圧延板を準備する工程
純度が99.99質量%以上であるアルミニウム圧延板を準備する。
【0061】
アルミニウム圧延板を準備する方法は特に限定されないが、例えば、
純度が99.99質量%以上であるアルミニウム材からなる圧延素材を作製する工程と、
圧延素材を圧延してアルミニウム圧延板を得る圧延工程と
を含む方法により、アルミニウム圧延板を準備してよい。
【0062】
(1-1)圧延素材を作製する工程
上述した組成を有するアルミニウム材からなる圧延素材は、例えば以下のような方法で得ることができる。すなわち、後述する精製方法により得られる高純度アルミニウムに対して、不純物の侵入を抑制しつつ溶解した溶湯から所定形状の鋳塊を作製する。その後、鋳塊を所定形状に切削加工することで圧延素材を得ることができる。なお、圧延素材の作成方法は上述の方法に限定されるものではなく、従来公知の方法(例えばダイキャスティング、押出等)を用いてもよい。また、圧延素材に熱処理を施す工程(均質化熱処理工程)が含まれていてもよい。
【0063】
高純度アルミニウムの精製方法として、例えば偏析法、三層電解法が挙げられる。
【0064】
偏析法は、アルミニウム溶湯の凝固の際の偏析現象を利用した純化法であり、複数の手法が実用化されている。偏析法の一つの形態としては、容器の中に溶湯アルミニウムを注ぎ、容器を回転させながら上部の溶融アルミニウムを加熱、撹拌しつつ底部より精製アルミニウムを凝固させる。偏析法により、純度99.99質量%以上の高純度アルミニウムを得ることができる。
【0065】
三層電解法は、Al-Cu合金層に比較的純度の低い純アルミニウム等(例えば純度99.9質量%のJIS-H2102の特1種程度のグレード)を投入し、溶融状態で陽極とし、その上に例えばフッ化アルミニウム及びフッ化バリウム等を含む電解浴を配置し、陰極に高純度のアルミニウムを析出させる方法である。
三層電解法では純度99.999質量%以上の高純度アルミニウムを得ることができる。またアルミニウム中のFeの濃度を比較的容易に10質量ppm(0.001質量%)以下に抑制することができる。
【0066】
高純度アルミニウムの精製方法の例として、偏析法及び三層電解法を説明したが、高純度アルミニウムの精製方法はこれらに限定されず、帯溶融精製法、超高真空溶解精製法等、既知の他の方法及びこれらの組み合わせでもよい。
【0067】
アルミニウム圧延板は、純度が、好ましくは99.997質量%以上、より好ましく99.999質量%以上、更に好ましくは99.9997質量%以上、より更に好ましくは99.9999質量%以上である。
【0068】
(1-2)アルミニウム圧延板を得る圧延工程
圧延工程は、得られた圧延素材を圧延する工程であり、例えば圧延加工率90%以上の圧延を施す工程である。ここでいう圧延加工率は、圧延素材の厚さ(つまり、圧延前の厚さ)から圧延により得られた最終板材の厚さを差し引いた値(つまり、圧延により減少した厚さ)を、圧延素材の厚さで除した値の百分率であって、次式:
圧延加工率(%)=[(圧延前の厚さ-圧延後の厚さ)÷圧延前の厚さ]×100
により算出される。例えば厚さ10mmの圧延素材を圧延して厚さ1mmの板材とすれば、圧延加工率は90%となる。
【0069】
圧延素材に圧延加工を複数回行って最終板厚とすることが好ましい。圧延加工率が大きいほど生産効率を高められる場合が多いため、圧延加工率は90%以上が望ましい。なお、圧延加工率は高い程好ましいため、上限は特に設けない。
【0070】
圧延方法は、冷間圧延、熱間圧延のどちらでもよい。熱間圧延と冷間圧延を組み合わせることもでき、例えば複数回行われる圧延加工のうち、初期は熱間圧延とし、後半を冷間圧延とするような形態をとることもできる。
【0071】
(2)切断加工工程
レーザー切断により、上述のようにして準備したアルミニウム圧延板の少なくとも一部を切断してアルミニウム板状構造体を得る。アルミニウム圧延板の少なくとも一部にレーザー切断を施してアルミニウム板状構造体を作製することにより、レーザー切断により形成した切断面近傍の加工硬化を低減することができる。すなわち、アルミニウム板状構造体は、レーザー切断により形成した切断面について、切断面近傍の加工硬化率が110%以下である。一方、シャー切断やプレス加工等のように機械的な力を用いる方法で形成した切断面は、その近傍が加工硬化しており、切断面近傍の加工硬化率が高い。
【0072】
アルミニウム圧延板の少なくとも一部にレーザー切断を施してアルミニウム板状構造体を作製する態様として、アルミニウム板状構造体の表面方向の外周部の一部又は全部、アルミニウム板状構造体の開口部をレーザー切断により形成することが挙げられる。レーザー切断により形成されない残りの外周部及び/又は開口部は、例えばプレス加工により形成してよい。
より具体的には、例えば以下の態様[a]~[f]が挙げられる。
[a]アルミニウム板状構造体の外周部の一部をレーザー切断により形成し、残りの外周部をプレス加工により形成する。
[b]アルミニウム板状構造体の外周部の一部をレーザー切断により形成し、残りの外周部及び開口部をプレス加工により形成する。
[c]アルミニウム板状構造体の外周部の一部及び開口部をレーザー切断により形成し、残りの外周部をプレス加工により形成する。
[d]アルミニウム板状構造体の外周部の全部をプレス加工により形成し、開口部をレーザー切断により形成する。
[e]アルミニウム板状構造体の外周部の全部をレーザー切断により形成し、開口部をプレス加工により形成する。
[f]アルミニウム板状構造体の外周部の全部及び開口部をレーザー切断により形成する、すなわち、アルミニウム圧延板の全ての切断をレーザー切断により行う。
【0073】
態様[f]は、切断面の全てについて、切断面近傍の加工硬化率が110%以下である建築部材を得ることができるため好ましい。更に、態様[f]は、工程短縮の観点から、レーザー切断によりアルミニウム板状構造体の外周及び開口部を一括して形成することができるため好ましい。
【0074】
切断加工工程において、一辺200mm以上600mm以下の略四角形又は直径200mm以上600mm以下の略円形であり、且つ開口部が直径30mm以上200mm以下の略円形であるアルミニウム板状構造体を得ることが好ましい。上記寸法の範囲内であれば、一般的なレーザー切断機での加工難度が低く、得られるアルミニウム板状構造体のハンドリング性も良好であるため好ましい。
【0075】
切断加工工程において、工程短縮の観点から、1つのアルミニウム圧延板から2つ以上のアルミニウム板状構造体を得ることが好ましい。
【0076】
また、レーザー切断は、プレス加工と比較して加工精度が高いため、寸法精度が高いアルミニウム板状構造体を得ることができる。
【0077】
(3)焼鈍工程
本発明の実施形態に係る建築部材の製造方法は、アルミニウム圧延板又はアルミニウム板状構造体を焼鈍する焼鈍工程を含んでよい。焼鈍工程は、切断工程前のアルミニウム圧延板に施してよく、あるいは、切断工程で未焼鈍のアルミニウム圧延板を切断して得られたアルミニウム板状構造体に施してもよい。焼鈍工程により、アルミニウム板状構造体を調質処理材とすることができる。
焼鈍温度を300℃以上とすることで、より優れた柔軟性を有するアルミニウム板状構造体を得ることができる。一方、その温度を600℃以下とすることで、焼鈍の際、アルミニウム圧延板同士又はアルミニウム板状構造体同士の貼り付きを抑制でき、外観品質の良好な建築部材が得られる。従って、焼鈍温度は、好ましくは300℃以上であり、好ましくは600℃以下である。
また、焼鈍時間を1時間以上とすることで、より柔軟性に優れた改修排水ドレン用板状構造体が得られる。焼鈍時間は長くしても特性上の問題は生じないが、コスト上の観点から24時間程度までで充分である。従って、焼鈍時間は、好ましくは1時間以上、より好ましくは3時間以上であり、好ましくは24時間以下、より好ましくは12時間以下である。
【0078】
4.改修排水ドレンの製造方法
本発明の実施形態に係る改修排水ドレンの製造方法は、本発明の実施形態に係る建築部材の製造方法の一態様であり、アルミニウム板状構造体に、開口部と流体連通するように中空管の一方の端部を固着する中空管固着工程を含む。
【0079】
中空管が上述のような樹脂製又は螺旋状に巻かれた金属若しくは金属メッシュを樹脂で被覆してなるものである場合、例えば接着剤等を用いて、中空管の一方の端部をアルミニウム板状構造体に固着してよい。
【0080】
また、中空管が上述のようなアルミニウム中空管である場合、アルミニウム中空管の一方の端部をアルミニウム板状構造体に接合(固着)する方法として、溶接、ろう付け等が挙げられる。溶接方法は特に限定されず、例えばTIG溶接、レーザー溶接、MIG溶接、アーク溶接等が挙げられる。溶接部の接合強度を高める観点からは、レーザー溶接が好ましい。また、溶接の際、必要に応じて、適切な組成を有する溶加材を用いてよい。
【実施例】
【0081】
以下、実施例を用いて本発明をより詳細に説明するが、本発明は実施例により何ら制限されるものではない。
【0082】
偏析法により純度99.99質量%の高純度アルミニウム(4N-Al)を準備した。三層電解法により、純度99.999質量%以上の高純度アルミニウム(5N-Al、6N-Al)を準備した。固体発光分析法により測定した当該高純度アルミニウムのFe、Si及びCuの合計の含有量は、0.01質量%(4N-Al)、0.001質量%(5N-Al)、0.0001質量%(6N-Al)であり、その他の不純物元素(Ti、Mn、Mg、Ga、Ni、V、Zn、Cr、B、Zr)の合計の含有量は、0.006質量%(4N-Al)、0.0008質量%(5N-Al)、0.0003質量%(6N-Al)であった。
上記高純度アルミニウムからなる圧延素材を準備し、圧延素材を厚さ20mmから室温で圧延し、厚さ0.8mmのアルミニウム圧延板を得た。アルミニウム圧延板を430℃で6時間焼鈍し、次いで、レーザー切断により、中央部に直径10mmの略円形の開口部を有する、実施例1~3のアルミニウム板状構造体A~C(縦60mm×横60mm×板厚0.8mm)を得た。
また、上記と同様にして工業用純アルミニウム(純度99.5質量%)製のアルミニウム圧延板を得た。アルミニウム圧延板を430℃で6時間焼鈍し、次いで、レーザー切断により、中央部に直径10mmの略円形の開口部を有する、比較例1のアルミニウム板状構造体D(縦60mm×横60mm×板厚0.8mm)を得た。
また、上記と同様にして工業用純アルミニウム(純度99.5質量%)及び高純度アルミニウム(4N-Al、5N-Al、6N-Al)製のアルミニウム圧延板を得た。アルミニウム圧延板を430℃で6時間焼鈍し、次いで、シャー切断による外周加工及びプレス加工による開口部形成により、中央部に直径10mmの略円形の開口部を有する、比較例2~5のアルミニウム板状構造体E~H(縦60mm×横60mm×板厚0.8mm)を得た。
【0083】
アルミニウム板状構造体A~Hについて、JIS Z 2244:2009に従い、試験力を0.01kgf(=0.0981N)として、開口部の切断加工端部から0.1mmの位置で無作為に選択した表面上の4箇所のビッカース硬度HV0.01を測定し、4箇所のビッカース硬度HV0.01の平均値を求めた。ビッカース硬度HV0.01の測定では、正四角錐のダイヤモンド圧子をアルミニウム板状構造体の表面に押し込み、その試験力を解除した後、表面に残ったくぼみの対角線長さからビッカース硬度HV0.01を算出した。同様の測定を、切断加工端部から0.3mm、0.5mm、1.0mm、3.0mm、5.0mm及び10.0mmの各位置についても行い、各位置についてビッカース硬度HV0.01の平均値を求めた。各位置のビッカース硬度HV0.01の平均値を表1に示す。
0.1mm~5.0mmの位置におけるビッカース硬度HV0.01の平均値を10.0mmの位置におけるビッカース硬度HV0.01の平均値でそれぞれ除することにより加工硬化率を求めた。加工硬化率を表2に示す。
【0084】
【0085】
【0086】
表1から分かるように、実施例1~3及び比較例3~5の4N-Al~6N-Alのアルミニウム板状構造体A~C及びF~Hは、切断加工端部からの距離が0.5mm以上の位置におけるビッカース硬度HV0.01の平均値が25.0未満であり、柔軟性が高かった。比較例1及び2の純度99.5質量%のアルミニウム板状構造体D及びEは、不純物元素の含有量が多いため強度が高く、切断加工端部からの距離が0.5mm以上の位置におけるビッカース硬度HV0.01の平均値が25.0以上であり、柔軟性が低かった。
表2から分かるように、レーザー切断により作製した実施例1~3及び比較例1のアルミニウム板状構造体A~Dは、開口部の切断加工端部から0.3mm以内の位置である切断部近傍の加工硬化率が110%以下と低かった。一方、プレス加工により作製した比較例2~5のアルミニウム板状構造体E~Hは、開口部の切断加工端部から0.3mm以内の位置である切断部近傍の加工硬化率が110%を超えて高かった。
【0087】
切断加工端部近傍の破断強度を評価するために、JIS Z 2247:2006「エリクセン試験方法」に従い、エリクセン値を得た。エリクセン試験では、アルミニウム板状構造体の開口部の直径より大きな直径を有する球状冶具を、開口部の切断加工端部の全周に接触するように配置し、球状冶具を開口部に向かって押し当てていき、切断加工端部に亀裂が発生するまでに球状冶具が移動した距離(エリクセン値)を測定する。従って、エリクセン値が高いほど、破断強度が高い。エリクセン値を表3に示す。
【0088】
【0089】
表3から分かるように、レーザー切断により作製した実施例1~3の高純度アルミニウム製アルミニウム板状構造体A~Cは、プレス加工により作製した比較例3~5の高純度アルミニウム製板状構造体F~Hと比較して、エリクセン値が高く、破断強度に優れていた。なお、比較例1~2の工業用純アルミニウム製アルミニウム板状構造体D~Eは、不純物元素の含有量が多いため強度が高く、亀裂の発生は見られなかった。
【0090】
また、レーザー切断及びプレス加工により得られるアルミニウム板状構造体の寸法精度を以下のようにして評価した。
【0091】
レーザー切断及びプレス加工共に、開口部を中心に有する四角形のアルミニウム板状構造体を得るため、以下の4つの目標寸法を設定した。なお、「辺と開口部との最短の直線距離」は、アルミニウム板状構造体の中心に開口部がどの程度の精度で位置するかを示す指標である。
(目標寸法1)
外周部:一辺300.00mm
開口部:直径52.50mm
辺と開口部との最短の直線距離:123.75mm
(目標寸法2)
外周部:一辺400.00mm
開口部:直径52.50mm
辺と開口部との最短の直線距離:173.75mm
(目標寸法3)
外周部:一辺300.00mm
開口部:直径45.00mm
辺と開口部との最短の直線距離:127.50mm
(目標寸法4)
外周部:一辺400.00mm
開口部:直径45.00mm
辺と開口部との最短の直線距離:177.50mm
【0092】
実施例2と同様にしてアルミニウム圧延板を得た後、レーザー切断により、目標寸法1で実施例4のアルミニウム板状構造体I、及び目標寸法2で実施例5のアルミニウム板状構造体Jを得た。
また、比較例4と同様にしてアルミニウム圧延板を得た後、シャー切断による外周加工及びプレス加工による開口部形成により、目標寸法3で比較例6のアルミニウム板状構造体K、及び目標寸法4で比較例7のアルミニウム板状構造体Lを得た。
【0093】
図1はアルミニウム板状構造体10の概略的平面図である。
図1中、xは外周部12の辺の長さ、yは開口部14の直径、zは外周部12の辺から開口部14までの最短の直線線距離である。x、y及びzの実測の長さと目標寸法との差の絶対値(以下、「ズレ量」と呼ぶことがある)を比較することにより、アルミニウム板状構造体10の寸法精度を評価することができる。
【0094】
アルミニウム板状構造体I~Lについて、4箇所のx及びz、並びに2箇所のyをそれぞれ測定して、x、y及びzの平均値をそれぞれ求めた。x、y及びzの平均値と目標寸法とのズレ量をそれぞれ求め、寸法精度を評価した。x、y及びzの平均値、並びにズレ量を表4に示す。
【0095】
【0096】
表4の結果から分かるように、レーザー切断により作製した実施例4及び5のアルミニウム板状構造体I及びJは、プレス加工により作製した比較例6及び7のアルミニウム板状構造体K及びLと比較してズレ量が小さく、寸法精度が高かった。
【符号の説明】
【0097】
10:アルミニウム板状構造体
12:外周部
14:開口部
20:改修排水ドレン
22:板状構造体
24:中空管
30:排水口
32:排水ドレン下地
34:排水ドレン下地平坦部
36:排水ドレン下地窪み部
38:既設ドレン管