(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-18
(45)【発行日】2023-10-26
(54)【発明の名称】加工方法及び加工装置
(51)【国際特許分類】
B24B 47/22 20060101AFI20231019BHJP
B24B 7/04 20060101ALI20231019BHJP
B24B 49/14 20060101ALI20231019BHJP
H01L 21/304 20060101ALI20231019BHJP
B24B 49/02 20060101ALN20231019BHJP
【FI】
B24B47/22
B24B7/04 A
B24B49/14
H01L21/304 631
B24B49/02 Z
(21)【出願番号】P 2020035306
(22)【出願日】2020-03-02
【審査請求日】2022-12-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000219967
【氏名又は名称】東京エレクトロン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100096389
【氏名又は名称】金本 哲男
(74)【代理人】
【識別番号】100101557
【氏名又は名称】萩原 康司
(74)【代理人】
【識別番号】100167634
【氏名又は名称】扇田 尚紀
(74)【代理人】
【識別番号】100187849
【氏名又は名称】齊藤 隆史
(74)【代理人】
【識別番号】100212059
【氏名又は名称】三根 卓也
(72)【発明者】
【氏名】福永 信貴
(72)【発明者】
【氏名】池上 和哉
【審査官】城野 祐希
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-104952(JP,A)
【文献】特開2011-136398(JP,A)
【文献】特開2010-029973(JP,A)
【文献】特開平11-188621(JP,A)
【文献】特開平02-274459(JP,A)
【文献】特開平03-104545(JP,A)
【文献】特開2019-093517(JP,A)
【文献】米国特許第06872662(US,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B24B 47/22
B24B 7/04
B24B 49/14
H01L 21/304
B24B 49/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部温度が所望の処理温度から外れた加工装置における基板の加工方法であって、
前記加工装置の内部温度を計測することと、
計測された内部温度に基づいて、基板を保持する保持部と基板を研削する研削部との相対的な傾きを調整することと、
調整された前記傾きで基板を保持した状態で、当該基板を研削することと、を含み、
前記傾きは、予め取得された前記加工装置の内部温度と基板の仕上厚み分布との相関関係に基づいて決定される、加工方法。
【請求項2】
研削後の基板の仕上厚み分布を測定することと、
測定された基板の仕上厚み分布に基づいて前記相関関係の補正を行うことと、を含む、請求項1に記載の加工方法。
【請求項3】
前記相関関係に基づく前記傾きの調整は、
前記加工装置における前記基板の加工処理の開始時において、測定された前記内部温度が前記所望の処理温度よりも低い場合であって、
前記加工装置の内部温度が前記所望の処理温度に達するまでの間に行われる、請求項1または2に記載の加工方法。
【請求項4】
前記相関関係に基づく前記傾きの調整は、前記加工装置の内部温度が前記所望の処理温度に到達した後には行わない、請求項3に記載の加工方法。
【請求項5】
基板の加工装置であって、
基板を保持する保持部と、
当該保持部に保持された基板を研削する研削部と、
前記加工装置の内部温度を計測する温度計測部と、
前記保持部と前記研削部の相対的な傾きを調整する傾き調整部と、
基板の加工処理を制御する制御部と、を備え、
前記制御部には、
前記加工装置の内部温度と基板の仕上厚み分布との相関関係が予め記憶され、
前記加工装置の内部温度が所望の処理温度から外れている場合において、
前記温度計測部により計測された内部温度に基づいて、前記保持部と前記研削部との相対的な傾きを調整し、
調整された前記傾きで基板を保持した状態で当該基板を研削するように、前記傾き調整部と前記研削部の動作を制御する、加工装置。
【請求項6】
基板の仕上厚み分布を測定する厚み分布測定部を備え、
前記制御部は、
前記厚み分布測定部により研削後の基板の仕上厚み分布を測定し、
測定された基板の仕上厚み分布に基づいて前記相関関係の補正を行う、請求項5に記載の加工装置。
【請求項7】
前記制御部は、
前記相関関係に基づく前記保持部と前記研削部との相対的な傾きの調整を、
前記研削部による前記基板の研削の開始時において、測定された前記内部温度が前記所望の処理温度よりも低い場合であって、
加工装置の内部温度が前記所望の処理温度に達するまでの間に行うように、前記傾き調整部の動作を制御する、請求項5または6に記載の加工装置。
【請求項8】
前記制御部は、
加工装置の内部温度が前記所望の処理温度に到達した後には、前記相関関係に基づく前記傾きの調整を行わないように、前記傾き調整部の動作を制御する、請求項7に記載の加工装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、加工方法及び加工装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、被加工物を保持するチャックテーブルと、該チャックテーブルを支持する支持部と、該支持部の温度上昇値を計測する温度上昇計測手段と、被加工物の加工手段と、を備える加工装置が開示されている。特許文献1に記載の加工装置では、加工処理時において計測された支持部の温度上昇値と、予め記憶された高さ位置変化量データと、に基づいて支持部を上下方向に駆動し、チャックテーブルと加工手段を常に平行に保持することを図っている。
【0003】
また特許文献2には、ウェハを保持する保持手段と、ウェハを研削する研削手段と、昇降手段により前記保持手段を前記研削手段に対して傾斜可能な傾斜手段と、前記昇降手段の温度を計測する温度計測手段と、を備えるウェハの研削装置が開示されている。特許文献2に記載の研削装置では、研削前後の前記昇降手段の計測温度に応じて前記昇降手段の熱変形量を演算し、該熱変形量をキャンセルするように前記昇降手段の伸縮量を補正することを図っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2011-136398号公報
【文献】特開2017-104952号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本開示にかかる技術は、内部温度が所望の処理温度から外れた加工装置において処理される基板の平坦度を向上させる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一態様は、内部温度が所望の処理温度から外れた加工装置における基板の加工方法であって、前記加工装置の内部温度を計測することと、計測された内部温度に基づいて、基板を保持する保持部と基板を研削する研削部との相対的な傾きを調整することと、調整された前記傾きで基板を保持した状態で、当該基板を研削することと、を含み、前記傾きは、予め取得された前記加工装置の内部温度と基板の仕上厚み分布との相関関係に基づいて決定される。
【発明の効果】
【0007】
本開示によれば、内部温度が所望の処理温度から外れた加工装置において処理される基板の平坦度を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】加工装置の構成の一例を模式的に示す平面図である
【
図2】各研削ユニット及びチャックの構成の一例を示す側面図である。
【
図3】加工装置の内部温度とウェハの仕上げ形状との相関を示すグラフである。
【
図4】温度調節時における研削処理の工程の一例を示すフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
近年、半導体デバイスの製造工程においては、表面に複数の電子回路等のデバイスが形成された半導体ウェハ(以下、「ウェハ」という。)に対し、当該ウェハの裏面を研削して、ウェハを薄化することが行われている。
【0010】
ウェハの裏面の研削は、当該ウェハの表面を保持部により保持した状態で当該保持部を回転させ、かかる状態でウェハの裏面に研削砥石を当接させることにより行われる。
【0011】
ここで本発明者らが鋭意検討したところ、ウェハの研削を行う加工装置(研削装置)の内部温度が所望の処理温度から外れ、安定していない場合(例えば、加工装置のウォームアップ時)、加工装置の内部温度の変化に応じてウェハの仕上げ形状が変化することを見出した。より具体的には、例えば加工装置のウォームアップ等に伴って内部温度が変化した場合、研削砥石と保持部との相対的な傾き(平行度)が、例えば加工装置の熱変形等により変化し、これにより、ウェハの仕上げ形状が変化することを見出した。換言すれば、加工装置の内部温度が安定していない場合、研削砥石と保持部との相対的な傾きを一定に制御した場合であっても、ウェハを所望の形状及び平坦度(TTV:Total Thickness Variation)にすることができない。
【0012】
なお、以下の説明において「加工装置のウォームアップ時」とは、例えば加工装置の電源を切状態から入状態にした直後において、加工装置の内部温度が低い状態から所望の処理温度(通常処理時の温度が安定した状態)へ上昇するまでの間のことをいう。また例えば、電源が入状態であっても、加工装置が待機状態にあることにより内部温度が低下し、当該内部温度が低下した状態から所望の処理温度へ上昇するまでの間を、同様に「加工装置のウォームアップ時」という。換言すれば、「加工装置のウォームアップ時」とは、加工装置の内部温度が所望の処理温度から外れた場合において、内部温度を当該所望の処理温度まで上昇させる場合のことをいう。
【0013】
一方、加工装置の内部温度が安定している場合、ウェハの仕上げ形状はほぼ変化しない。換言すれば、装置の温度が安定している場合、研削砥石と保持部との相対的な傾きを一定に制御することで、ウェハを所望の仕上げ形状及び平坦度にすることができる。
【0014】
特許文献1及び特許文献2に記載の装置は、処理中の加工熱や摩擦熱等、装置の温度変化が比較的に小さい場合に、「傾き調整部」の温度変化に応じて、研削砥石と保持部の相対的な傾きを調整するものであり、ウォームアップ等、装置の温度変化が大きい場合には適切に研削砥石と保持部との相対的な傾きを調整できないおそれがある。したがって、従来の加工装置による加工方法には改善の余地がある。
【0015】
本開示にかかる技術は、研削処理後の基板の平坦度、特に、加工装置の温度調節時おいて処理される基板の平坦度を適切に向上させる。以下、本実施形態にかかる加工装置、及び加工方法ついて、図面を参照しながら説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する要素においては、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0016】
本実施形態にかかる後述の加工装置1では、基板としてのウェハWを薄化する。ウェハWは、例えばシリコンウェハや化合物半導体ウェハなどの半導体ウェハである。ウェハWの表面(以下、「表面Wa」という。)にはデバイスが形成されている。そして、ウェハWの裏面(以下、「裏面Wb」という。)に対して研削などの処理が行われ、当該ウェハWが薄化される。
【0017】
図1に示すように加工装置1は、搬入出ステーション2と処理ステーション3を一体に接続した構成を有している。搬入出ステーション2では、例えば外部との間で複数のウェハWを収容可能なカセットCが搬入出される。処理ステーション3は図示しないカバー体により覆われて構成されており、当該カバー体の内部においてウェハWに対して所望の処理を施す各種処理装置を備えている。
【0018】
搬入出ステーション2には、カセット載置台10が設けられている。図示の例では、カセット載置台10には、複数、例えば4つのカセットCをX軸方向に一列に載置自在になっている。なお、カセット載置台10に載置されるカセットCの個数は本実施形態に限定されず、任意に決定することができる。
【0019】
搬入出ステーション2には、カセット載置台10のY軸正方向側において、当該カセット載置台10に隣接してウェハ搬送領域20が設けられている。ウェハ搬送領域20には、X軸方向に延伸する搬送路21上を移動自在に構成されたウェハ搬送装置22が設けられている。
【0020】
ウェハ搬送装置22は、研削処理前後のウェハWを保持して搬送する、搬送フォーク23を有している。搬送フォーク23は、その先端が2本に分岐し、ウェハWを吸着保持する。また、搬送フォーク23は、水平方向、鉛直方向、水平軸回り及び鉛直軸周りに移動自在に構成されている。なお、ウェハ搬送装置22の構成は本実施形態に限定されず、任意の構成を取り得る。そして、ウェハ搬送装置22は、カセット載置台10のカセットC、アライメントユニット50、及び第1の洗浄ユニット60に対して、ウェハWを搬送可能に構成されている。
【0021】
処理ステーション3では、ウェハWに対して研削や洗浄などの加工処理が行われる。処理ステーション3は、ウェハWの搬送を行う搬送ユニット30、ウェハWの研削処理を行う研削ユニット40、研削処理前のウェハWの水平方向の向きを調節するアライメントユニット50、研削処理後のウェハWの裏面Wbをスピン洗浄する第1の洗浄ユニット60、及び、研削処理後のウェハWの表面Waを洗浄する第2の洗浄ユニット70を有している。
【0022】
搬送ユニット30は、複数、例えば3つのアーム31を備えた多関節型のロボットである。3つのアーム31は、それぞれが旋回自在に構成されている。先端のアーム31には、ウェハWを吸着保持する搬送パッド32が取り付けられている。また、基端のアーム31は、アーム31を鉛直方向に昇降させる昇降機構33に取り付けられている。なお、搬送ユニット30の構成は本実施形態に限定されず、任意の構成を取り得る。そして、搬送ユニット30は、研削ユニット40の後述の受渡位置A0、アライメントユニット50、第1の洗浄ユニット60、及び第2の洗浄ユニット70に対して、ウェハWを搬送可能に構成されている。
【0023】
研削ユニット40には、回転テーブル41が設けられている。回転テーブル41上には、ウェハWを吸着保持する保持部としてのチャック42が4つ設けられている。4つのチャック42は、回転テーブル41が回転することにより、受渡位置A0及び加工位置A1~A3に移動可能になっている。また、4つのチャック42はそれぞれ、後述の回転機構44によって鉛直軸回りに回転可能に構成されている。
【0024】
受渡位置A0では、搬送ユニット30によるウェハWの受け渡しが行われる。加工位置A1には粗研削ユニット80が配置され、ウェハWを粗研削する。加工位置A2には中研削ユニット90が配置され、ウェハWを中研削する。加工位置A3には仕上研削ユニット100が配置され、ウェハWを仕上研削する。
【0025】
チャック42には例えばポーラスチャックが用いられ、ウェハWの表面Waを吸着保持する。チャック42の表面、すなわちウェハWの保持面は、側面視において中央部が端部に比べて突出した凸形状を有している。なお、この中央部の突出は微小であるため、図示においてはチャック42の凸形状を省略している。
【0026】
図2に示すように、チャック42はチャックベース43に保持されている。チャックベース43には、チャック42及びチャックベース43を回転させる回転機構44と、チャック42及びチャックベース43の水平方向からの傾きを調整する傾き調整機構45とが設けられてる。
【0027】
回転機構44は、チャック42を回転させる回転軸110と、チャック42を回転させる際の回転駆動を付与する駆動部120と、駆動部120による回転駆動を回転軸110に伝達する駆動伝達部130とを有している。回転軸110は、チャックベース43の下面中央部に固定して設けられている。また、回転軸110は、支持台111に回転自在に支持されている。この回転軸110を中心に、チャック42が回転する。
【0028】
駆動部120は、回転軸110と独立して設けられている。駆動部120は、駆動軸121と、駆動軸121を回転させるモータ122とを有している。
【0029】
駆動伝達部130は、回転軸110に設けられた従動プーリ131と、駆動軸121に設けられた駆動プーリ132と、従動プーリ131と駆動プーリ132に巻回されたベルト133とを有している。駆動部120による回転駆動は、駆動プーリ132、ベルト133、従動プーリ131を介して、回転軸110に伝達される。
【0030】
なお、回転機構44の構成はこれに限定されず、チャック42を回転させることができれば、任意に選択することができる。
【0031】
傾き調整部としての傾き調整機構45は、チャックベース43の下面に設けられた1本の固定軸140と、複数、例えば2本の昇降軸141、141を有している。各昇降軸141はモータ122によって伸縮自在に構成され、チャックベース43を昇降させる。この傾き調整機構45によって、チャックベース43の外周部の一端部(固定軸140に対応する位置)を基点に、他端部を昇降軸141によって鉛直方向に昇降させることで、チャック42及びチャックベース43を傾斜させることができる。そしてこれにより、加工位置A1~A3の各種研削ユニットとチャック42との相対的な傾き、すなわち、各種研削ユニットが備える研削砥石に対するチャック42(及び保持されるウェハWの裏面Wb)の傾きを調整することができる。
【0032】
なお、傾き調整機構45の構成はこれに限定されず、研削砥石に対するウェハWの相対的な角度(平行度)を調整することができれば、任意に選択することができる。
【0033】
粗研削ユニット80は、下面に環状の粗研削砥石を備える粗研削ホイール81、当該粗研削ホイール81を支持するマウント82、当該マウント82を介して粗研削ホイール81を回転させるスピンドル83、及び、例えばモータ(図示せず)を内蔵する駆動部84を有している。また粗研削ユニット80は、
図2に示す支柱85に沿って鉛直方向及び水平方向に移動可能に構成されている。そして、粗研削ユニット80では、チャック42に保持されたウェハWの裏面Wbと環状の粗研削砥石の円弧の一部を当接させた状態で、チャック42と粗研削ホイール81をそれぞれ回転させることによって、ウェハWの裏面Wbを粗研削する。
【0034】
中研削ユニット90は粗研削ユニット80と同様の構成を有している。すなわち中研削ユニット90は、環状の中研削砥石を備える中研削ホイール91、マウント92、スピンドル93、駆動部94、及び支柱95を有している。なお、中研削砥石の砥粒の粒度は、粗研削砥石の砥粒の粒度より小さい。
【0035】
仕上研削ユニット100は粗研削ユニット80及び中研削ユニット90と同様の構成を有している。すなわち仕上研削ユニット100は、環状の仕上研削砥石を備える仕上研削ホイール101、マウント102、スピンドル103、駆動部104、及び支柱105を有している。なお、仕上研削砥石の砥粒の粒度は、中研削砥石の砥粒の粒度より小さい。
【0036】
なお、本実施形態では、粗研削ユニット80、中研削ユニット90、及び仕上研削ユニット100が、本開示における研削部を構成している。
【0037】
図1に示すように処理ステーション3には、仕上研削ユニット100による研削処理後のウェハWの厚みを計測する、厚み分布測定部としての厚み測定機構150が設けられている。厚み測定機構150は、例えば加工位置A3又は受渡位置A0に設けられる。厚み測定機構150は、例えば非接触式のセンサ(図示せず)と、演算部(図示せず)を有している。そして厚み測定機構150では、センサによる複数点の測定結果(ウェハWの厚み)からウェハWの厚み分布を取得し、当該ウェハWのTTVデータを算出する。
【0038】
また、
図1に示すように加工装置1には、ウェハWの加工時における加工装置1の内部温度、具体的には前述のように図示しないカバー体により覆われた処理ステーション3の内部温度を計測するための温度計測部としての温度計測機構160が設けられている。温度計測機構160は、加工装置1(処理ステーション3)の内部温度を計測することができれば、任意の構成及び配置をとることができるが、例えばチャック42の下部等、研削ユニット40周辺の温度を測定することが望ましい。
【0039】
以上の加工装置1には、制御部170が設けられている。制御部170は、例えばCPUやメモリ等を備えたコンピュータであり、プログラム格納部(図示せず)を有している。プログラム格納部には、加工装置1におけるウェハWの加工処理を制御するプログラムが格納されている。なお、上記プログラムは、コンピュータに読み取り可能な記憶媒体Hに記録されていたものであって、当該記憶媒体Hから制御部170にインストールされたものであってもよい。
【0040】
次に、以上のように構成された加工装置1を用いて行われる加工方法について説明する。
【0041】
先ず、ウェハWを複数収納したカセットCが、搬入出ステーション2のカセット載置台10に載置される。次に、ウェハ搬送装置22の搬送フォーク23によりカセットC内からウェハWが取り出され、処理ステーション3のアライメントユニット50に搬送される。アライメントユニット50では、ウェハWに形成されたノッチ部(図示せず)の位置を調節することで、ウェハWの水平方向の向きが調節される。
【0042】
水平方向の向きが調節されたウェハWは、次に、搬送ユニット30によりアライメントユニット50から搬送され、受渡位置A0のチャック42に受け渡される。続いて、回転テーブル41を回転させて、チャック42に保持されたウェハWを加工位置A1~A3に順次移動させる。
【0043】
加工位置A1では、粗研削ユニット80によってウェハWの裏面Wbを粗研削する。加工位置A2では、中研削ユニット90によってウェハWの裏面Wbを中研削する。さらに加工位置A3では、仕上研削ユニット100によってウェハWの裏面Wbを仕上研削する。
【0044】
次に回転テーブル41を回転させて、チャック42を受渡位置A0に移動させる。続いてウェハWは、搬送ユニット30により受渡位置A0から第2の洗浄ユニット70に搬送され、搬送パッド32に保持された状態でウェハWの表面Waが洗浄、及び、乾燥される。
【0045】
次にウェハWは、搬送ユニット30により第2の洗浄ユニット70から第1の洗浄ユニット60に搬送され、洗浄液ノズル(図示せず)を用いて、ウェハWの裏面Wbが洗浄される。
【0046】
その後、すべての処理が施されたウェハWは、ウェハ搬送装置22の搬送フォーク23によってカセット載置台10のカセットCに搬送される。こうして、加工装置1における一連の加工処理が終了する。
【0047】
次に、加工装置1の温度調節方法の一例として、加工装置1のウォームアップ方法について説明する。ウォームアップは、例えば加工装置1のスタートアップ時や待機状態からの復帰時において、当該加工装置1の内部温度を所望の処理温度まで上昇させて安定させる処理である。なお、ウォームアップ時における加工装置1の内部温度は、例えばウェハWの加工に伴って発生する加工熱や摩擦熱、チャック42や各種研削ユニットの動作に伴って発生する駆動熱、等の種々の要因により上昇する。
【0048】
ここで、上述したように、加工装置1のウォームアップ時において内部温度が安定していない場合、当該加工装置1の内部温度の変化に伴ってウェハWの仕上げ形状が変化し、所望の仕上げ形状及び平坦度を得ることができない。一方、加工装置1のウォームアップが終了し、加工装置1の内部温度が安定している場合、ウェハWの仕上げ形状はほぼ変化せず、所望の仕上げ形状及び平坦度を得ることができる。
【0049】
そこで本発明者らが鋭意検討を行ったところ、加工装置1のウォームアップ時において、当該加工装置1の内部温度と、ウェハWの仕上げ形状との間に相関関係があることを知見した。すなわち、当該相関関係に基づいて保持部としてのチャック42と各種研削ユニットが備える研削砥石との相対的な傾きを制御することにより、加工装置1のウォームアップ時においてもウェハWを所望の仕上げ形状及び平坦度に加工し、平坦度を向上できることを見出した。
【0050】
具体的に本発明者らは、加工装置1において、ウェハWの実際の研削条件(研削開始時の内部温度やウェハWの研削量、処理枚数等)と同様の研削条件により複数のダミーウェハの研削処理を行い、当該ダミーウェハの仕上げ形状、及び加工装置1の内部温度のプロットを行った。すなわち、研削ユニット40によりダミーウェハの粗研削、中研削、及び仕上研削を順次行い、仕上研削処理後のダミーウェハの仕上げ形状としての面内厚み分布を厚み測定機構150により測定するとともに、この時の加工装置1の内部温度を温度計測機構160により計測した。なお、かかる複数のダミーウェハの研削処理にあたっては、チャック42と各種研削ユニットとの相対的な傾きの変更は行わない。
【0051】
図3は、複数のダミーウェハの研削処理により得られた加工装置1の内部温度とダミーウェハの仕上げ形状との相関関係を示すグラフである。
図3において、横軸は処理されるダミーウェハの数(処理枚数)を示し、第1縦軸はダミーウェハの仕上げ形状のTTVを示し、第2縦軸は加工装置1の内部温度を示している。なお、
図3の第1縦軸に示すTTVとは、ダミーウェハWdの仕上げ形状の面内複数点で特定される厚みのバラつきを表すものである。すなわち、測定されるTTVが小さいほど、ダミーウェハの仕上げ形状における厚みが、面内で均一であることを示している。
【0052】
図3を参照すると、上述のように加工装置1の内部温度とダミーウェハWdの仕上げ形状との間には相関関係があることがわかる。具体的には、ウォームアップ時においてダミーウェハWdの処理を重なるにつれて内部温度が上昇し、これに伴って、チャック42と各種研削ユニットとの相対的な傾きを変更しない場合であっても、ダミーウェハWdの仕上げ形状のTTVが変化することがわかる。
【0053】
ここで、かかる内部温度と仕上げ形状との相関関係は、上述のようにウェハWの実際の研削条件と同様の研削条件によりダミーウェハWdを研削することにより取得されたものである。換言すれば、ウェハWの実際の研削においても、かかる加工装置1の内部温度とウェハWの仕上げ形状との相関関係が、適切に再現されると考えられる。
【0054】
そこで本実施形態にかかる加工装置1のウォームアップ時における研削処理においては、
図3に示した内部温度と仕上げ形状との相関関係に基づいて、保持部としてのチャック42と各種研削ユニットが備える研削砥石との相対的な傾きの調整を行う。
【0055】
具体的には、ウォームアップ時の加工装置1におけるウェハWの研削処理に際しては、先ず、加工装置1の内部温度を計測する(
図4のステップS1)。
【0056】
次に、計測された内部温度に基づいて、
図3に示した相関関係からウェハWの仕上げ形状のV成分を予測する(
図4のステップS2)。
【0057】
続いて、予測されたTTVが小さくなるように、すなわち仕上げ厚みが大きくなると判断される位置の研削量を増やし、厚みが小さくなると判断される位置の研削量を減らすことによりウェハWの面内厚みが均一となるように、チャック42と研削砥石の相対的な傾きを調節する(
図4のステップS3)。すなわち、相関関係に基づいて、チャック42と各種研削ユニットの相対的な傾きを調節し、これにより研削ユニット40におけるウェハWの研削量を調節する。
【0058】
そして、調節された傾きでウェハWを保持した状態で各種研削処理を行う(
図4のステップS4)。
【0059】
以上の実施形態によれば、加工装置1におけるウェハWの研削処理に際して、予め取得された加工装置1の内部温度とダミーウェハWdの仕上げ形状との相関関係に基づいて、ウェハWを保持するチャック42とウェハWの研削を行う研削ユニットとの相対的な傾きの調整を行うため、ウェハWの平坦度を適切に向上させることができる。
【0060】
またここで、加工装置1の内部温度とダミーウェハWdの仕上げ形状との相関関係は、ウェハWの実際の研削条件と同様の研削条件によりダミーウェハWdを研削することにより取得されるため、ウェハWの実際の研削においても適切に内部温度と仕上げ形状との相関関係が再現される。すなわち、より適切にウェハWの平坦度を向上させることができる。
【0061】
ここで、従来の加工装置においては、加工装置の内部温度が安定しない場合にはウェハWを所望の仕上げ形状及び平坦度に加工できなかったため、内部温度が安定した後、すなわちウォームアップが終了した後にウェハWの研削処理が開始される場合があった。すなわち、加工装置のウォームアップ時においてはウェハWの処理が行われなかったため、ウォームアップに時間をかけると加工装置のダウンタイムが長くなり、ウェハWの加工処理のスループットが低下するおそれがあった。
【0062】
一方、本実施形態によれば、加工装置1の内部温度に基づいてチャック42と研削ユニットとの相対的な傾きが調整され、これにより、加工装置1のウォームアップ時においても適切にウェハWを所望の仕上げ形状及び平坦度に加工することができる。換言すれば、加工装置1の内部温度が安定しない場合であってもウェハWの加工処理を適切に行うことができ、すなわちウォームアップ処理を行う必要がなくなるため、加工処理のスループットを向上することができる。
【0063】
なお、以上の実施形態によれば、ウェハWの研削処理に際して、予めダミーウェハWdを研削処理することにより取得された相関関係に基づいてチャック42と研削ユニットとの相対的な傾きの調整を行ったが、当該相関関係は、ウェハWの研削処理に基づいて更に補正が行われてもよい。すなわち、研削処理後のウェハWの仕上げ厚み分布を厚み測定機構150により測定し、測定されたTTVデータに基づいて相関関係を逐次補正してもよい。このようにウェハWのTTVデータに基づいて相関関係の補正を行うことにより、以降のウェハWの研削処理においては、更に適切に平坦度を向上させることができる。
【0064】
なお、以上の実施形態における加工装置1の内部温度に基づくチャック42と研削ユニットとの相対的な傾きの調整は、加工装置1の温度調節が終了し、加工装置1の内部温度が安定した後においては行われなくてもよい。かかる場合、処理が行われる一のウェハWよりも前に処理が行われた他のウェハWの研削処理結果(TTVデータ)を、一のウェハWの研削処理にフィードバックすることにより、一のウェハWの平坦度を向上できる。
【0065】
なお、以上の実施形態では加工装置1の温度調節制御として、加工装置1をウォームアップ制御する場合を例に説明を行ったが、本開示に係る技術は、加工装置1の内部温度が安定しない場合に、任意の適用することができる。
【0066】
以上の実施形態では、加工装置1においてウェハWを研削して薄化する場合を例に説明を行ったが、これに限定されない。例えば、第1のウェハと第2のウェハとが接合された重合ウェハにおいて、第1のウェハを研削して薄化する場合にも、本実施形態は適用できる。
【0067】
今回開示された実施形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。上記の実施形態は、添付の請求の範囲及びその主旨を逸脱することなく、様々な形態で省略、置換、変更されてもよい。
【符号の説明】
【0068】
1 加工装置
42 チャック
80 粗研削ユニット
90 中研削ユニット
100 仕上研削ユニット
W ウェハ