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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-19
(45)【発行日】2023-10-27
(54)【発明の名称】歩行型作業車両用の挟圧安全機構
(51)【国際特許分類】
   B62D 51/06 20060101AFI20231020BHJP
   B60K 23/00 20060101ALI20231020BHJP
【FI】
B62D51/06 111
B60K23/00 D
【請求項の数】 16
(21)【出願番号】P 2020018577
(22)【出願日】2020-02-06
(65)【公開番号】P2020128203
(43)【公開日】2020-08-27
【審査請求日】2022-09-28
(31)【優先権主張番号】P 2019021253
(32)【優先日】2019-02-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 平成30年9月11日,農業環境工学関連5学会2018年合同大会,愛媛大学 樽味キャンパス,国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構,歩行型作業車両用の挟圧安全機構につき公開
(73)【特許権者】
【識別番号】501203344
【氏名又は名称】国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構
(74)【代理人】
【識別番号】100105784
【弁理士】
【氏名又は名称】橘 和之
(72)【発明者】
【氏名】冨田 宗樹
(72)【発明者】
【氏名】梅野 覚
(72)【発明者】
【氏名】岡田 俊輔
(72)【発明者】
【氏名】松本 将大
(72)【発明者】
【氏名】積 栄
(72)【発明者】
【氏名】手島 司
(72)【発明者】
【氏名】皆川 啓子
(72)【発明者】
【氏名】菊池 豊
【審査官】福田 信成
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-088769(JP,A)
【文献】特開平10-053168(JP,A)
【文献】特開平11-091644(JP,A)
【文献】特開2002-127778(JP,A)
【文献】特開平05-131956(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 51/06
B60K 23/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体に備えられた動力源と、上記動力源から供給される動力により一対の車輪を駆動する駆動部と、上記動力源から上記駆動部への動力の伝達を遮断状態または伝達状態にするクラッチと、作業者が把持して操作するハンドル杆と、上記ハンドル杆の上方に配置され、上記作業者が上記ハンドル杆と共に把持して上記クラッチを操作するクラッチ杆とを備えた歩行型作業車両に適用される挟圧安全機構であって、
上記クラッチ杆は、上記ハンドル杆に対して、回転軸を介して、上記ハンドル杆に近づく規定回動方向およびその逆方向に回転可能に軸支されており、
上記クラッチ杆が上記クラッチを接続するときの正常な体勢である正常接続体勢である場合には上記回転軸の状態が正常状態に維持される一方、上記正常接続体勢から逸脱する程度に上記規定回動方向と上記規定回動方向以外の方向とを含む所定方向に上記クラッチ杆を移動させる荷重が上記クラッチ杆に付加された場合には、上記正常状態が変動するように構成され、
上記正常状態の変動に応じて、上記駆動部に対する上記動力の供給を停止させるように構成され、
上記クラッチ杆は、上記ハンドル杆に対して、上記回転軸および軸受を介して、回動可能に軸支されており、
上記軸受は、上記回転軸の先端部に嵌合可能であり、
上記クラッチ杆が上記正常接続体勢である場合には上記軸受と上記正常状態の上記回転軸との状態が、上記回転軸の先端部に上記軸受が嵌合した状態である所定状態に維持される一方、上記正常接続体勢から逸脱する程度に上記規定回動方向と上記規定回動方向以外の方向とを含む所定方向に上記クラッチ杆を移動させる荷重が上記クラッチ杆に付加された場合には、上記回転軸の先端部に上記軸受が嵌合した状態が解除されることによって上記所定状態が解除されるように構成され、
上記所定状態の解除に応じて、上記駆動部に対する上記動力の供給を停止させるように構成されている
ことを特徴とする歩行型作業車両用の挟圧安全機構。
【請求項2】
上記回転軸は、上記クラッチ杆に対して固定され、その先端に穴部を有し、
上記軸受は、上記ハンドル杆に対して固定され、上記穴部に挿入可能な挿入部を有し、
上記所定状態は、上記回転軸の上記穴部に上記軸受の上記挿入部が挿入された挿入状態であり、
上記正常接続体勢から逸脱させる荷重が上記クラッチ杆に付加された場合には、上記挿入状態が解除され、上記挿入状態の解除に応じて、上記軸受に対する上記回転軸の位置が変移し、上記回転軸の位置の変移に伴って、上記クラッチが切断されるように構成された
ことを特徴とする請求項に記載の歩行型作業車両用の挟圧安全機構。
【請求項3】
上記軸受の上記挿入部は、半球状であり、
上記軸受の上記挿入部は、付勢部材によって上記回転軸に近づく方向に付勢され、
上記正常接続体勢から逸脱させる荷重が上記クラッチ杆に付加された場合に、上記回転軸の上記穴部が、上記軸受の上記挿入部を上記付勢部材による付勢に抗して押し戻しながら半球状の上記挿入部の表面に摺動しつつ移動し、上記穴部から上記挿入部が抜けて上記挿入状態が解除されるように構成された
ことを特徴とする請求項に記載の歩行型作業車両用の挟圧安全機構。
【請求項4】
上記穴部の周囲に、上記穴部から上記挿入部が抜ける方向への移動を規制し、上記挿入部の抜けを防止する壁部材を設ける一方、
上記正常接続体勢から逸脱させる荷重が上記クラッチ杆に付加された場合に上記穴部に対して上記挿入部が移動する方向に設けた上記壁部材の高さを、当該方向ではない方向に設けた上記壁部材の高さよりも低くするか、当該方向には上記壁部材を設けないようにした
ことを特徴とする請求項に記載の歩行型作業車両用の挟圧安全機構。
【請求項5】
車体に備えられた動力源と、上記動力源から供給される動力により一対の車輪を駆動する駆動部と、上記動力源から上記駆動部への動力の伝達を遮断状態または伝達状態にするクラッチと、作業者が把持して操作するハンドル杆と、上記ハンドル杆の上方に配置され、上記作業者が上記ハンドル杆と共に把持して上記クラッチを操作するクラッチ杆とを備えた歩行型作業車両に適用される挟圧安全機構であって、
上記クラッチ杆は、上記ハンドル杆に対して、回転軸を介して、上記ハンドル杆に近づく規定回動方向およびその逆方向に回転可能に軸支されており、
上記クラッチ杆が上記クラッチを接続するときの正常な体勢である正常接続体勢である場合には上記回転軸の状態が正常状態に維持される一方、上記正常接続体勢から逸脱する程度に上記規定回動方向と上記規定回動方向以外の方向とを含む所定方向に上記クラッチ杆を移動させる荷重が上記クラッチ杆に付加された場合には、上記正常状態が変動するように構成され、
上記正常状態の変動に応じて、上記駆動部に対する上記動力の供給を停止させるように構成され、
上記回転軸を支持し、上記ハンドルに対して固定された弾性部材の回転軸支持部材を備え、上記正常接続体勢のときは上記回転軸支持部材に対して上記回転軸が正常な状態で支持された上記正常状態が維持され、
上記正常接続体勢から逸脱させる荷重が上記クラッチ杆に付加された場合に、上記回転軸支持部材が弾性変形することによって、上記回転軸支持部材を支点として上記回転軸が回動して上記正常状態が変動し、上記クラッチ杆が上記所定方向に対応する方向に移動し、上記クラッチ杆の移動に応じて上記クラッチ杆がスイッチを作動させ、上記動力源の動作を停止させるようにした
ことを特徴とする歩行型作業車両用の挟圧安全機構。
【請求項6】
上記スイッチは、操作子を有し、上記操作子の状態の変化に応じて作動状態となり、
上記クラッチ杆の上記所定方向に対応する方向への移動に応じて、上記クラッチ杆の移動に連動して移動する当接部が、上記操作子に当接して上記操作子の状態を変化させるようにした
ことを特徴とする請求項に記載の歩行型作業車両用の挟圧安全機構。
【請求項7】
上記ハンドル杆は、上記車体から車体後方に向かって延設される左右の縦方向ハンドル杆部と、当該左右の縦方向ハンドル杆部の間に横架された横方向ハンドル杆部とを有するループ式の構成であり、
上記クラッチ杆は、上記ハンドル杆の上記左右の縦方向ハンドル杆部に対して回転可能に支持され、その支持点から車体後方に向かって延設される左右の縦方向クラッチ杆部と、上記左右の縦方向クラッチ杆部の間に横架された横方向クラッチ杆部とを有するループ式の構成であり、
上記左右の縦方向クラッチ杆部のうち、一方の縦方向クラッチ杆部に第1の回転軸支持部材、上記第1の回転軸支持部材に支持された第1の回転軸および上記スイッチを設け、他方の縦方向クラッチ杆部に第2の回転軸支持部材および上記第2の回転軸支持部材に支持された第2の回転軸を設ける一方、上記スイッチを設けず、上記正常接続体勢から逸脱させる荷重が上記クラッチ杆に付加された場合には、上記一方の縦方向クラッチ杆部側の上記スイッチが作動するように構成し、
上記第1の回転軸支持部材よりも上記第2の回転軸支持部材を、弾性変形しにくい硬い弾性部材により構成した
ことを特徴とする請求項またはに記載の歩行型作業車両用の挟圧安全機構。
【請求項8】
上記クラッチ杆は、車体後方に向かって延設された左右の縦方向クラッチ杆部を備え、上記左右の縦方向クラッチ杆部のうち、一方の縦方向クラッチ杆部に第1の回転軸支持部材、上記第1の回転軸支持部材に支持された第1の回転軸および上記スイッチを設け、他方の縦方向クラッチ杆部に第2の回転軸支持部材および上記第2の回転軸支持部材に支持された第2の回転軸を設ける一方、上記スイッチを設けず、
上記他方の縦方向クラッチ杆部側において、上記クラッチ杆の移動と連動して移動する部材にクラッチワイヤーの端部を接続し、
上記クラッチ杆が上記正常接続体勢となったときに上記クラッチワイヤーが作用させる第1向きのテンションが上記第2の回転軸支持部材に支持された上記第2の回転軸に作用することを抑制する調整機構を設けた
ことを特徴とする請求項またはに記載の歩行型作業車両用の挟圧安全機構。
【請求項9】
上記回転軸支持部材について、上記規定回動方向に移動させる荷重が上記クラッチ杆に付加されて上記回転軸が移動したときに、その移動に対して加わる抵抗の強さと、上記所定方向に移動させる荷重が上記クラッチ杆に付加されて上記回軸が移動したときに、その移動に対して加わる抵抗の強さとを独立して調整可能とした
ことを特徴とする請求項からの何れか1項に記載の歩行型作業車両用の挟圧安全機構。
【請求項10】
車体に備えられた動力源と、上記動力源から供給される動力により一対の車輪を駆動する駆動部と、上記動力源から上記駆動部への動力の伝達を遮断状態または伝達状態にするクラッチと、作業者が把持して操作するハンドル杆と、上記ハンドル杆の上方に配置され、上記作業者が上記ハンドル杆と共に把持して上記クラッチを操作するクラッチ杆とを備えた歩行型作業車両に適用される挟圧安全機構であって、
上記クラッチ杆は、上記ハンドル杆に対して、回転軸を介して、上記ハンドル杆に近づく規定回動方向およびその逆方向に回転可能に軸支されており、
上記クラッチ杆が上記クラッチを接続するときの正常な体勢である正常接続体勢である場合には上記回転軸の状態が正常状態に維持される一方、上記正常接続体勢から逸脱する程度に上記規定回動方向と上記規定回動方向以外の方向とを含む所定方向に上記クラッチ杆を移動させる荷重が上記クラッチ杆に付加された場合には、上記正常状態が変動するように構成され、
上記正常状態の変動に応じて、上記駆動部に対する上記動力の供給を停止させるように構成され、
上記クラッチ杆は、車体後方に向かって延設された一対の縦方向クラッチ杆部を備え、上記一対の縦方向クラッチ杆部のそれぞれの回動の中心部に、弾性部材により構成された回転軸支持部材と、上記回転軸支持部材に支持された回転軸とを設け、
片方の縦方向クラッチ杆部側において、上記片方の縦方向クラッチ杆部の移動と連動して移動する部材にクラッチワイヤーの端部を接続し、
上記クラッチ杆が上記正常接続体勢となったときに上記クラッチワイヤーが作用させる第1向きのテンションが、上記片方の縦方向クラッチ杆部側の上記回転軸支持部材に支持された上記回転軸に作用することを抑制する調整機構を設けた
ことを特徴とする歩行型作業車両用の挟圧安全機構。
【請求項11】
上記調整機構は、上記クラッチ杆が上記規定回動方向に回動して上記正常接続体勢となる過程で、上記クラッチ杆の移動に応じて上記クラッチワイヤーの端部を上記第1向きとは逆の第2向きに引っ張り、かつ、上記クラッチワイヤーが作用させる第1向きのテンションの方向を上記第2向きに変換して上記回転軸に作用させる
ことを特徴とする請求項10に記載の歩行型作業用車両の挟圧安全機構。
【請求項12】
上記片方の縦方向クラッチ杆部は、上記片方の縦方向クラッチ杆部と一体的に構成されるか、または、上記片方の縦方向クラッチ杆部に接続された回転軸接続部材を備え、
上記回転軸接続部材は、上記回転軸に回動可能に軸支されると共に、ガイド用切欠きが形成され、
上記調整機構は、上記片方の縦方向クラッチ杆部の下方に配置された片方の縦方向ハンドル杆部に対して固定された回動部材軸と、上記回動部材軸に回動可能に軸支され、一方の端部に上記クラッチワイヤーの端部が接続され、他方の端部に上記ガイド用切欠きに挿通する挿通部が設けられた回動部材とを備え、
上記クラッチ杆が上記正常接続体勢へ向かって上記規定回動方向に回動すると、上記クラッチ杆の移動に応じて上記回転軸接続部材が移動し、上記回転軸接続部材の移動に伴う上記ガイド用切欠きの移動に応じて、上記挿通部が上記ガイド用切欠きに案内されて上記ガイド用切欠きの内面に対して上記第2向きに向かう力を作用させつつ摺動し、上記挿通部の摺動に応じて上記回動部材が上記回動部材軸を中心として回動して上記クラッチワイヤーの端部を上記第2向きに引っ張る
ことを特徴とする請求項11に記載の歩行型作業車両用の挟圧安全機構。
【請求項13】
上記ハンドル杆は、上記車体から車体後方に向かって延設される左右の縦方向ハンドル杆部と、当該左右の縦方向ハンドル杆部の間に横架された横方向ハンドル杆部とを有するループ式の構成であり、
上記一対の縦方向クラッチ杆部は、左右の縦方向クラッチ杆部と、上記左右の縦方向クラッチ杆部の間に横架された横方向クラッチ杆部とを有するループ式の構成であり、
上記左右の縦方向クラッチ杆部のうち、一方の縦方向クラッチ杆部に第1の回転軸支持部材、上記第1の回転軸支持部材に支持された第1の回転軸およびスイッチを設け、他方の縦方向クラッチ杆部に第2の回転軸支持部材、上記第2の回転軸支持部材に支持された第2の回転軸および上記調整機構を設ける一方、上記スイッチを設けず、
上記正常接続体勢から逸脱させる荷重が上記クラッチ杆に付加された場合には、上記第1の回転軸支持部材および上記第2の回転軸支持部材が弾性変形することによって上記第1の回転軸および上記第2の回転軸が移動して上記正常状態が変動し、上記第1の回転軸が上記スイッチを作動させて、上記動力源の動作が停止する構成とした
ことを特徴とする請求項10から12の何れか1項に記載の歩行型作業車両用の挟圧安全機構。
【請求項14】
上記第1の回転軸が正常状態のときは、上記第1の回転軸が上記スイッチのボタンを押圧する一方、上記第1の回転軸が正常状態から変動したときに、上記第1の回転軸による上記スイッチのボタンの押圧が解除されて、上記スイッチが作動する構成とした
ことを特徴とする請求項13に記載の歩行型作業用車両の挟圧安全機構。
【請求項15】
上記回転軸支持部材について、上記規定回動方向に移動させる荷重が上記クラッチ杆に付加されて上記回転軸が移動したときに、その移動に対して加わる抵抗の強さと、上記所定方向に移動させる荷重が上記クラッチ杆に付加されて上記回転軸が移動したときに、その移動に対して加わる抵抗の強さとを独立して調整可能とした
ことを特徴とする請求項10から14の何れか1項に記載の歩行型作業車両用の挟圧安全機構。
【請求項16】
上記所定方向は、上記規定回動方向のほか、上記ハンドル杆に対して上記クラッチ杆が相対的に前方に移動する方向を少なくとも含む
ことを特徴とする請求項1から15の何れか1項に記載の歩行型作業車両用の挟圧安全機構。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歩行型作業車両用の挟圧安全機構に関し、特に、車体後方に備えられたハンドル杆と共にクラッチ杆を作業者が把持して操作するようになされた歩行型作業車に適用して好適なものである。
【背景技術】
【0002】
従来、車体に備えられた動力源から動力を得て自動走行する車両に対し、車体後方に備えられたハンドル杆を把持した作業者が随行するようになされた歩行型作業車両が知られている。この種の歩行型作業車両には、ハンドル杆の近傍にクラッチ杆が備えられ、作業者がクラッチ杆を操作することにより、動力源から走行車輪への動力の伝達をオン/オフできるようになされたものが多い。例えば、作業者がハンドル杆と共にクラッチ杆を握ると伝達状態となり、クラッチ杆から手を放すと遮断状態となるように成されたデッドマンクラッチが広く用いられている。
【0003】
ハンドル杆には、左右に独立した2つの杆を手のひらでグリップ可能に構成したもの(2グリップ式という)と、左右の縦方向の杆部の間にも横方向の杆部を横架させてハンドルをループ状に構成したもの(ループ式という)とがある。ハンドル杆と共に把持するクラッチ杆は、2グリップ式またはループ式のハンドル杆の形状に合わせて構成されるのが通常である。すなわち、ハンドル杆が2グリップ式の場合は、クラッチ杆も左右の何れかで構成される。一方、ハンドル杆がループ式の場合は、クラッチ杆は左右に横架するバー形状として構成される。
【0004】
ところで、上述したデッドマンクラッチは、ハンドル杆と共に握ったクラッチ杆から手を放せば動力源からの伝達が切れるという安全機構である。しかしながら、歩行型作業車両を後進させているときに、作業者が背後の障害物と車両との間にクラッチ杆ごと挟まれ、挟まれた体によってクラッチ杆を戻すことができずに動力源からの伝達が切れない状態となってしまうことが起こり得る。歩行型作業車両を後進させる場合としては、例えば、方向転換(挟所での旋回・切り返し)、畝合わせ、車庫からの出し入れなどがある。
【0005】
これに対し、後進時における作業者の挟圧事故を防止することを目的とした安全装置が提案されている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1には、ハンドル杆がループ式の作業車両において、ハンドル杆の後端よりも後方へ突出させた挟圧杆と、デッドマンクラッチを「入」状態に保持する保持手段とを設けるとともに、挟圧杆を前後移動可能に構成し、挟圧杆の前方移動によって保持手段の保持を解除可能に構成した走行安全装置が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2005-88769号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に記載の停止操作レバー構造によれば、作業者が背後の障害物と車両との間に挟まれた状態になると、ハンドル杆の後端よりも後方へ突出した挟圧杆を作業者の身体が前方に押すことになるため、クラッチ杆から手を放さなくてもデッドマンクラッチの「入」状態を解除することが可能である。しかしながら、このようにデッドマンクラッチの保持状態を解除することができるのは、作業者が作業車両によってほぼ水平に前後方向に挟圧された場合に限られる。
【0008】
すなわち、特許文献1に記載の走行安全装置は、前方のテンション転輪と後方の駆動スプロケットとその下方の複数の接地転輪とにクローラベルトを巻き掛けたクローラ走行装置を備えた装軌式の作業車両に適用することを想定したものであり、左右に2輪のみを備えた歩行型作業車両に適用することは想定されていない。
【0009】
一方で、2輪の歩行型作業車両の場合、挟圧事故のときに車体が水平に前後方向に安定して移動するとは限らず、後進時に車両が障害物にぶつかったときの車体の姿勢や、走行車輪に加わる角速度や耕うん爪が地面から受ける跳ね上げの力などの各種の原因によって、様々な状態となり得る。従って、2輪の歩行型作業車両の場合、車体が水平に前後方向に安定して移動しない場合にも、挟圧が発生した可能性がある場合には車両の移動を停止できるようにする必要がある。しかしながら、特許文献1に記載の走行安全装置を2輪の歩行型作業車両用に適用しても、車体が水平に前後方向に安定して移動しない場合には、有効に挟圧の発生に応じて車両の駆動を停止することができない。
【0010】
本発明は、このような問題を解決するために成されたものであり、2輪の歩行型作業車両について、車体が水平に前後方向に安定して移動する場合以外の場合にも挟圧が発生した可能性がある場合には、車両の駆動を停止できるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記した課題を解決するために、本発明では、ハンドル杆の上方に配置されたクラッチ杆は、ハンドル杆に対して、回転軸を介して、ハンドル杆に近づく規定回動方向およびその逆方向に回転可能に軸支されている。そして、本発明では、クラッチ杆がクラッチを接続するときの正常な体勢である正常接続体勢である場合には、回転軸の状態が正常状態に維持される一方、正常接続体勢から逸脱する程度に規定回動方向と規定回動方向以外の方向とを含む所定方向にクラッチ杆を移動させる荷重がクラッチ杆に付加された場合には、正常状態が変動するように構成されており、更に、正常状態の変動に応じて、一対の車輪を駆動する駆動部に対する動力の供給が停止されるように構成されている。
【発明の効果】
【0012】
挟圧は、歩行型作業車両が後進している場合において、作業者が、クラッチ杆を解放できず、車両の後進しようとする状態が継続することで発生する。これは、ハンドル杆が持ち上がってしまい、車体と障害物に挟まれた作業者がクラッチ杆を解放できない状態となってしまったり、クラッチ杆がハンドル杆と作業者の体(または障害物)とで挟まれてしまったりすることが原因である。この場合、車体の姿勢にかかわらず、つまり、車体が前後方向に安定して移動してくるか否かにかかわらず、作業者や、障害物によってクラッチ杆に対して正常ではない荷重が加わることになる。この正常ではない荷重には、ハンドル杆に対してクラッチ杆が強く押し込まれることに起因して発生する「クラッチ杆を規定回動方向に過剰に移動させようとする荷重」だけでなく、クラッチ杆に正常ではない偏った荷重が加わったことに起因して発生する「クラッチ杆を規定回動方向ではない方向に過剰に移動させようとする荷重」が含まれる。
【0013】
このことを踏まえ、上記のように構成した本発明によれば、車両の状態にかかわらず、挟圧に起因して「規定回動方向への過剰な荷重」および「規定回動方向以外の方向への過剰な荷重」が発生した場合には、駆動部に対する動力の供給が停止される。このため、車体が水平に前後方向に安定して移動する場合以外の場合にも、挟圧が発生した可能性がある場合には、動力の供給を停止して車両の駆動を停止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】第1実施形態に係る挟圧安全機構が適用された歩行型作業車両の外観構成例を示す図である。
図2】歩行型作業車両を上方から見た平面図である。
図3】第1実施形態に係る左側挟圧安全機構を斜め後ろから見た図である。
図4】第1実施形態に係る左側挟圧安全機構を下から見た図である。
図5図4のA-A断面図である。
図6】壁部材の正面図および側面図である。
図7】ハンドル杆とクラッチ杆との関係を模式的に示す図である。
図8】第1実施形態に係る左側挟圧安全機構の斜視図である。
図9】第1実施形態に係る左側挟圧安全機構の斜視図である。
図10】第1実施形態に係る左側挟圧安全機構の斜視図である。
図11】第1実施形態に係る左側挟圧安全機構の斜視図である。
図12】第1実施形態に係る左側挟圧安全機構を下から見た図である。
図13】第1実施形態に係る左側挟圧安全機構の斜視図である。
図14】第2実施形態に係るハンドル杆およびクラッチ杆の斜視図である。
図15図14の位置P1付近の断面図である。
図16】第2実施形態に係る左側挟圧安全機構の断面図である。
図17】第2実施形態に係る右側挟圧安全機構の斜視図である。
図18】第2実施形態に係る右側挟圧安全機構を下から見た図である。
図19図18のB-B断面図である。
図20】第2実施形態に係る右側挟圧安全機構の側面図である。
図21】第2実施形態に係る右側挟圧安全機構の断面を正面から見た図である。
図22】右側回転軸接続部材の側面図である。
図23】第2実施形態に係る右側挟圧安全機構を上から見た図である。
図24】第2実施形態に係る右側挟圧安全機構の斜視図である。
図25】第2実施形態に係る右側挟圧安全機構を上から見た図である。
図26】第2実施形態の構造を単純化して示す図である。
図27】第3実施形態に係るハンドル杆およびクラッチ杆の斜視図である。
図28】第3実施形態に係る左側挟圧安全機構の斜視図である。
図29】第3実施形態に係る左側挟圧安全機構を後方から見た図である。
図30】第3実施形態に係る左側挟圧安全機構の側面図である。
図31】第3実施形態に係る左側挟圧安全機構の側面図である。
図32】第3実施形態に係る左側挟圧安全機構の側面図である。
図33】第3実施形態に係る左側回転軸支持部材およびこれに関連する部材を示す図である。
図34】第3実施形態に係る左側挟圧安全機構の側面図である。
図35】第3実施形態に係る左側挟圧安全機構の側面図である。
図36】第3実施形態に係る左側挟圧安全機構の斜視図である。
図37】第3実施形態に係る左側挟圧安全機構の側面図である。
図38】第3実施形態に係る右側挟圧安全機構の側面図である。
図39】第3実施形態に係る右側挟圧安全機構の側面図である。
図40】第3実施形態に係る右側挟圧安全機構の側面図である。
図41】第3実施形態に係る右側挟圧安全機構を下方から見た図である。
図42】第3実施形態に係る右側挟圧安全機構を下方から見た図である。
図43】第3実施形態に係る右側挟圧安全機構の側面図である。
図44】第3実施形態に係る右側挟圧安全機構の側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
<第1実施形態>
以下、本発明の第1実施形態を図面に基づいて説明する。図1は、本実施形態に係る挟圧安全機構1が適用された歩行型作業車両2の外観構成例を示す図である。図2は、歩行型作業車両2を上方から見た平面図である。ただし、図1図2は、歩行型作業車両2を単純化して表すものであり、特に、挟圧安全機構1に関連する部材については、後に詳述することを踏まえ非常に単純化している。
【0016】
図1に示すように、本実施形態に係る歩行型作業車両2は、車体3、走行車輪4、ハンドル杆5、クラッチ杆6、クラッチ7、ロータリ耕うん装置8(以下、単にロータリ8と略す)および挟圧安全機構1を備え、車体3に備えられたエンジン(内燃機関)等の動力源(図示せず)から動力を得て自動走行し、車体3の後方に備えたロータリ8で耕うん作業を行うようになされた農用車両である。
【0017】
走行車輪4は、車体3の両側に1輪ずつ設けられた一対の車輪であり、動力源からクラッチ7を介して車輪の駆動部に供給される動力により回転する。車体3には、動力源からの動力を得て走行車輪4を駆動する駆動部(図示せず)が備えられている。クラッチ7は、動力源と車輪の駆動部との間に接続されている。ロータリ8は、車体3の後方下部に備えられ、動力源からの動力を得て耕うん爪9が回転する。ロータリ8は、走行車輪4を中心に作業者がハンドル杆5を上下させることで昇降可能に構成されており、耕うん作業時は下方に降下させて、耕うん爪9を土中に貫入させた状態で使用する。なお、基本的には安全のため、歩行型作業車両2は、後進時は耕うん爪9が動作しない構造、または、耕うん爪9が動作しているときは後進できない構造になっている。
【0018】
ハンドル杆5は、車体3の後方に備えられ、これを作業者が把持して歩行型作業車両2を操作するようになされている。クラッチ杆6は、ハンドル杆5の上方に配置され、作業者がハンドル杆5と共に把持するようになされている。詳細は後述するが、クラッチ杆6は、ハンドル杆5に対して、回転軸10および軸受11を介してハンドル杆5に近づく規定回動方向KD1および規定回動方向KD1と逆の逆回動方向KD2(いずれも図1参照)に回転可能に軸支されている。クラッチ杆6は、クラッチワイヤー12を介してクラッチ7に接続されており、作業者がハンドル杆5と共にクラッチ杆6を握ると、クラッチワイヤー12が引っ張られてクラッチ7が接続し、動力源から駆動部へ動力が伝達される伝達状態となる。一方、作業者がクラッチ杆6から手を放すと、クラッチワイヤー12が元に戻ってクラッチ7が切断され、動力源から駆動部への動力の伝達が遮断される遮断状態となる。つまり、作業者は、クラッチ杆6を操作することによって駆動部の駆動/停止を制御できる。
【0019】
図2に示すように、ハンドル杆5は、車体3から車体後方に向かって延設される左右の縦方向ハンドル杆部14L,14Rと、当該左右の縦方向ハンドル杆部14L,14Rの間に横架された横方向ハンドル杆部15とを有するループ式の構成となっている。本実施形態では、左右の縦方向ハンドル杆部14L、14Rは所定の位置で内側に向かって屈曲しているが、このような形状は必須ではない。また、クラッチ杆6は、ハンドル杆5の左右の縦方向ハンドル杆部14L,14Rに対して左右の回転軸10によって回転可能に支持され、回転軸10から車体後方に向かって延設される左右の縦方向クラッチ杆部16L,16Rと、当該左右の縦方向クラッチ杆部16L,16Rの間に横架された横方向クラッチ杆部17とを有するループ式の構成となっている。横方向クラッチ杆部17は、横方向ハンドル杆部15のハンドル上方側で、横方向ハンドル杆部15に沿って延在している。
【0020】
本実施形態に係る歩行型作業車両2は、動作モードを変更することにより、前進のほか、後進させることができる。そして、作業者が歩行型作業車両2を後進させて使用している場合には、挟圧が発生する可能性がある。本実施形態において、挟圧とは、歩行型作業車両2が後進している場合に、作業者がハンドル杆5と壁等の障害物とで挟まれることをいう。挟圧が発生した場合に、歩行型作業車両2が後進しようとする状態が継続すると重大な事故となり得る。そして、本実施形態に係る挟圧安全機構1は、挟圧が発生した可能性がある場合に、歩行型作業車両2が後進しようとする状態を停止する機構である。挟圧安全機構1により、挟圧が発生した可能性がある場合には、歩行型作業車両2が後進しようとする状態が停止するため、重大な事故が発生することを未然に防止することができる。
【0021】
図2に示すように、挟圧安全機構1は、左の縦方向ハンドル杆部14L側に設けられた左側挟圧安全機構1Lと、右の縦方向ハンドル杆部14R側に設けられた右側挟圧安全機構1Rとを含んで構成されている。本実施形態では、左側挟圧安全機構1Lと、右側挟圧安全機構1Rとは、右側挟圧安全機構1Rがクラッチワイヤー12(クラッチワイヤー12に関連する部材を含む)を有していない点が相違する一方、他の部分については同様の構造である。以下、左側挟圧安全機構1Lについて、その構造および動作について詳述する。なお、以下の説明では、左の縦方向ハンドル杆部14Lに沿って車体3の前方側に向かう向きを「ハンドル前方」といい、後方側に向かう向きを「ハンドル後方」という。また、ハンドル前方に向かって左側に向かう向きを「ハンドル左方」といい、右側に向かう向きを「ハンドル右方」という。また、ハンドル前方に対して直交するように上側に向かう向きを「ハンドル上方」といい、下側に向かう向きを「ハンドル下方」という。
【0022】
図3は、左側挟圧安全機構1Lを斜め後ろから見た図(左側挟圧安全機構1Lを図2の矢印Y1が示す方向に向かって見た図)である。図4は、左側挟圧安全機構1Lをハンドル下方側からハンドル上方へ向かって見た図である。図5は、図4のA-A断面図である。図3図5はそれぞれ、クラッチ杆6の体勢が正常遮断体勢(後述)のときの左側挟圧安全機構1Lおよび関連する部材の様子を示している。ただし、図3では、図面の見やすさのため、後述する支持棒支持部材27および関連する部材の記載を省略している。また図4では、図面の見やすさのため、後述する支持棒支持部材27の一部を省略して図示している。
【0023】
図3図5に示すように、左の縦方向ハンドル杆部14Lの所定の位置には、板状の規制板19が取り付けられている。図3~5では、図の見やすさを考慮して、規制板19が左の縦方向ハンドル杆部14Lに取り付けられる構造を省略して描画しているが、規制板19は、実際には、図3~5で描画されたものよりもハンドル上方に延在しており、ネジ止め等の手段により左の縦方向ハンドル杆部14Lに対して強固に固定されている。
【0024】
図3に示すように、規制板19には、規制板19を貫通する規制孔21が形成されている。図3に示すように、規制孔21の底部は、「ハンドル前方-後方」方向に直線的に延びている。規制孔21のハンドル前方側には、略一定幅で「ハンドル前方-後方」方向に延在する幅狭部22が形成されており、ハンドル後方側には、ハンドル後方に向かうに従って、ハンドル上方側に向かって徐々に幅が広くなる幅広部23が形成されている。図3図5に示すように、規制板19の面のうち、左の縦方向ハンドル杆部14Lとは逆側に臨む面19aには、外側に向かって突出した板状の先端部位置規制板24が、規制孔21の底部に沿うように設けられている。
【0025】
規制板19は、軸受11を支持している。つまり、本実施形態では、軸受11は、ハンドル杆5に固定された規制板19を介して、ハンドル杆5に支持されている。図3図5に示すように、軸受11は、棒状の挿入部支持棒20と、この挿入部支持棒20の先端に設けられた挿入部26とを備えている。図3図5(特に、図4、5)に示すように、挿入部26は、基端部に形成された円柱状の部分と、ハンドル右方に向かうに従って断面積が小さくなっていく半球状の部分とを有する。
【0026】
軸受11の挿入部支持棒20は、規制板19に対して「ハンドル左方-右方」方向に移動可能な状態で支持されている。具体的には、図5に示すように、規制板19には、溶接や、接着等の手段で支持棒支持部材27が強固に取り付けられている。この支持棒支持部材27は、規制板19に固着された一対の立ち上がり部と、一対の立ち上がり部の先端部を接続し、規制板19の面に対して平行に延在する平行延在部28とを備えている。平行延在部28の適切な位置には貫通孔が形成されており、この貫通孔に貫通した状態で、円筒状の支持棒位置決め部材29が、平行延在部28に対してナット25によって固定されている。挿入部支持棒20は、平行延在部28に対して固定された支持棒位置決め部材29の内部空間を貫通している。挿入部支持棒20は、支持棒位置決め部材29によって「ハンドル左方-右方」方向以外の方向への動きが規制された状態で、この支持棒位置決め部材29により「ハンドル左方-右方」方向に移動可能な状態で支持されている。
【0027】
図3図5に示すように、挿入部支持棒20には、コイル状のバネ30(特許請求の範囲の「付勢部材」に相当)が巻き回されている。つまり、バネ30の内側の空間に、棒状の挿入部支持棒20が挿入された状態となっている。バネ30は、その基端部が、平行延在部28の面に当接すると共に、その先端部が挿入部26の底面に当接し、軸受11をハンドル右方(回転軸10に近づく向き)に向かって付勢する。
【0028】
図3図5に示すように、左の縦方向クラッチ杆部16Lは、左の縦方向ハンドル杆部14Lに沿って延在し、左の縦方向ハンドル杆部14Lに対向する面16aが形成された板状のクラッチレバー部32を有する。クラッチレバー部32の面16aにおいて、回転軸10(後述)よりもハンドル後方の位置には、支点部材31が取り付けられている。支点部材31は、クラッチレバー部32の面16aから、左の縦方向ハンドル杆部14L側に向かって突出して設けられた部材であり、左の縦方向ハンドル杆部14Lに対向する接触面31aが形成されている。
【0029】
左の縦方向クラッチ杆部16Lの端部には、回転軸接続部材33が設けられている。回転軸接続部材33は、ハンドル下方側に対応する向きに向かって延在する部分、および、当該部分からハンドル前方側へ向かって略直角に屈折し延在する部分を有する板状の部材である。回転軸接続部材33の先端部には、棒状の軸部材である回転軸10が取り付けられており、回転軸10によって回転軸接続部材33が支持されている。詳細には、回転軸接続部材33の先端部には、回転軸10が貫通する貫通孔が形成されており、この貫通孔に、回転軸接続部材33の面に対して垂直に延在するように回転軸10が貫通し、これにより、回転軸10が回転軸接続部材33を支持している。回転軸接続部材33は、回転軸10に対して回転可能状態で、回転軸10に支持されている。
【0030】
回転軸10は、規制板19の規制孔21を超えてハンドル左方に向かって延びている。回転軸10の先端部であって、規制孔21をハンドル左方に向かって超えた部位には、回転軸先端部34が設けられている。回転軸先端部34は、厚みのある回転軸台部材35を有し、この回転軸台部材35には、ハンドル右方に向かって凹んだ穴部36が形成されている(後述する図6(A)、図8図9図10図13参照)。回転軸台部材35のハンドル下方側の端部には切欠き部が形成され、この切欠き部によって直線状の切断面35aが形成されている。後述するように、正常接続体勢および正常遮断体勢において、回転軸台部材35は、その切断面35aが、先端部位置規制板24の上面と接触した状態で、先端部位置規制板24に載置される。また、回転軸台部材35のハンドル左方側の面であって、穴部36の外周よりも外側には、ハンドル左方側に向かって突出する壁部材38が設けられている。なお、回転軸台部材35と壁部材38とは強固に固着されている。本実施形態では、回転軸台部材35と壁部材38とは別部材で構成されているが、これらの部材を同一部材により一体的に構成してもよい。
【0031】
図6(A)は、先端部位置規制板24に回転軸台部材35が載置された状態(=後述する正常挿入状態)のときの壁部材38を正面から見た様子を説明に適した態様で模式的に示す図である。図6(B)は、壁部材38を側面視した様子を、図6(A)に対応させて模式的に示す図である。図6(A)、(B)で示すように、壁部材38は、高さがH1値である第1壁部39と、高さがH2値(<H1値)である第2壁部40とを有する。H2値は、H1値の半分よりも小さく、H1値の1/4程度の大きさである。図6(A)で示すように、第1壁部39は、穴部36の外周の外側の周のうち、穴部36の中心の点Oからハンドル上方に向かって延びる仮想的な半直線を定義したときに、点Oを中心として仮想的な半直線を反時計回りに90°程度回転させた範囲、および、時計回りに30°程度回転させた範囲に跨って設けられている。また、第2壁部40は、穴部36の外周の外側の周のうち、第1壁部39が設けられた範囲を避けた範囲であって、点Oを中心として仮想的な半直線を時計回りに30°程度回転させた位置から、時計回りに90°程度回転させた位置に跨って設けられている。図6(A)に示すように、壁部材38は、穴部36の中央を中心としてハンドル下方側の略半分の範囲には設けられていない。
【0032】
図4、5に示すように、回転軸接続部材33の面のうち、規制板19に対向する面と逆側の面には、クラッチワイヤー連結部材42を介してクラッチワイヤー12の端部が接続されている。クラッチワイヤー12は、左の縦方向ハンドル杆部14Lに沿って車体3に向かって延び、車体3内においてクラッチ7に接続されている。
【0033】
以上の構成の下、作業者が、クラッチ杆6を操作していない状態(クラッチ杆6に何ら力が加わっていない状態)のときは、ハンドル杆5に対するクラッチ杆6の体勢が正常遮断体勢となり、動力源から駆動部への動力の伝達が遮断された遮断状態となる。この正常遮断体勢から、作業者が、ハンドル杆5と共にクラッチ杆6を握ると、ハンドル杆5に対するクラッチ杆6の体勢が正常接続体勢となり、動力源から駆動部へ動力が伝達される伝達状態となる。以下、正常遮断体勢、および、正常接続体勢のときの要部の状態について詳細に説明する。なお、上述の通り、右側挟圧安全機構1Rは、所定の部位を除いて左側挟圧安全機構1Lと同様の構造であり、以下の説明では、右側挟圧安全機構1Rの各部材について、左側挟圧安全機構1Lの対応する部材と同じ名称および同じ符号を用いる。
【0034】
<正常遮断体勢>
まず、正常遮断体勢について説明する。上述の通り、図3図5は、クラッチ杆6の体勢が正常遮断体勢のときの左側挟圧安全機構1Lおよび関連する部材の様子を示している。本実施形態では、クラッチ杆6は、図示しない付勢部材によって、逆回動方向KD2に回動するように付勢されており、クラッチ杆6に対して何ら力が加わっていない状態では、回転軸10を軸として一定量だけ逆回動方向KD2に浮いた状態(図3、5参照)となる。
【0035】
図3に示すように、正常遮断体勢では、規制孔21の幅広部23のハンドル後方側の端部において、回転軸先端部34の回転軸台部材35が、その切断面35aが先端部位置規制板24の上面に接触した状態で、先端部位置規制板24に載置された状態となる。これにより、回転軸先端部34のハンドル下方への移動が規制される。更に、回転軸接続部材33が回転しても、回転軸10が規制板19に対して相対的に回転することが防止される。また、正常遮断体勢では、回転軸台部材35の裏面が規制板19の面19aに当接した状態となる。更に、正常遮断体勢では、軸受11の挿入部26が、回転軸10の穴部36に挿入された状態となる。その際、挿入部26は、バネ30によって穴部36に向かって付勢され、穴部36をハンドル右方へ向かって押圧する。これにより、回転軸先端部34が、規制板19と、軸受11の挿入部26とによって挟持された状態となる。また、図3図5で示すように、挿入部26の基端部の円柱状の部分の外周が、第1壁部39の内周に当接し、これにより、第1壁部39が設けられた向きへ向かう挿入部26の移動が規制される。すなわち、クラッチワイヤー12にかかるテンションにより挿入部26が移動するのが防止されている。
【0036】
本実施形態では、穴部36の掘り込みの形状は、円柱状であり、この円柱状の掘り込みに挿入部26の先端部が挿入される。そして、穴部36に挿入部26が嵌合した状態のときに、穴部36の最も外側の縁の全域に、挿入部26の所定位置の外周が接触した状態となり、挿入部26がバネ30によって付勢されている状況下では、穴部36から挿入部26が外れにくい状態となる。これにより、穴部36に挿入部26が嵌合した状態、および、挿入部26に対応する軸受11に穴部36に対応する回転軸10が支持された状態が適切に維持される。なお、穴部36の掘り込みを半球状とすることも可能である。この場合、穴部36の掘り込みの曲率を、挿入部26の先端の曲率よりも大きくすることにより、挿入部26を穴部36に嵌合したときに挿入部26の先端部が穴部36の最奥部まで達する状態となるため、穴部36に対して挿入部26がしっかり嵌合する。
【0037】
以上の構成により、規制板19に対する回転軸10の位置および姿勢が保持される。上述したように、右側挟圧安全機構1Rは、左側挟圧安全機構1Lと同様の構造であり、右側挟圧安全機構1Rにおいても、穴部36に対して挿入部26が付勢されつつ挿入された状態となる。これにより、左右の回転軸10のそれぞれについて、規制板19に対する位置および姿勢が保持され、左右の回転軸10によって、クラッチ杆6が安定的に支持(軸支)された状態となる。
【0038】
以下の説明では、軸受11の挿入部26が回転軸10の穴部36に正常に挿入された状態(図3図5の状態)を「正常挿入状態」という。正常挿入状態は、特許請求の範囲の「所定状態」、「挿入状態」に相当する。また、正常挿入状態のときの回転軸10の状態を「正常状態」という。後述するように、正常接続体勢のときも、軸受11および回転軸10の状態として正常挿入状態が維持される。換言すれば、回転軸10の状態として正常状態が維持される。この正常挿入状態では、回転軸10は軸受11によって安定的に支持されており、クラッチ杆6は、回転軸10を軸として正常遮断体勢と正常接続体勢との間で回動可能である。
【0039】
<正常接続体勢>
次に、正常接続体勢について説明する。ハンドル杆5とクラッチ杆6との状態が正常遮断体勢のときに、作業者がハンドル杆5と共にクラッチ杆6を握ると、クラッチ杆6は、回転軸10を軸として、規定回動方向KD1に回動する。その際、左側挟圧安全機構1Lおよび右側挟圧安全機構1Rのそれぞれにおいて、バネ30や、壁部材38、先端部位置規制板24等の機能により、軸受11の挿入部26が回転軸10の穴部36に正常に挿入された状態が維持される。
【0040】
クラッチ杆6の規定回動方向KD1への回動が進むと、左側挟圧安全機構1Lおよび右側挟圧安全機構1Rのそれぞれにおいて、支点部材31の接触面31aがハンドル杆5に当接し、クラッチ7を接続することを意図した通常の力でクラッチ杆6を握っても、それ以上はクラッチ杆6が回動しない状態(回動しにくい状態)となる。この状態が正常接続体勢である。クラッチ杆6の体勢が正常接続体勢となると、クラッチワイヤー12がハンドル後方に向かって引っ張られてクラッチ7が接続し、動力源から駆動部へ動力が伝達される伝達状態となる。
【0041】
さて、上述の通り、歩行型作業車両2が後進しているときに、挟圧が発生する場合がある。なお、挟圧が発生する直前は、クラッチ杆6の体勢は正常接続体勢であり、歩行型作業車両2は、後進している状態である。ここで、本実施形態に係る歩行型作業車両2は、一対の走行車輪4で走行する二輪車であり、一対の走行車輪4の車軸を中心として車体3が回動可能であるため、地面に対する車体3の姿勢が安定しているわけではなく、その姿勢が様々に変化する。従って、挟圧が発生したときの車体3の姿勢も一定ではなく、後進時に作業者が障害物にぶつかったときの車体の姿勢や、走行車輪4に加わる角速度や耕うん爪9が地面から受ける跳ね上げの力等の種々の要因によって様々に変化する。
【0042】
挟圧が発生した際に、仮に、歩行者がクラッチ杆6から手を離し、これに応じてクラッチ杆6の体勢が正常遮断体勢となった場合は、クラッチ7が切断され、車両の後進しようとする状態が停止するため、問題はない。しかしながら、挟圧の発生時に、作業者がクラッチ杆6から手を離せない、または、クラッチ杆6から手を離しても、クラッチ杆6の体勢が正常遮断体勢に移行しない場合がある。例えば、ハンドル杆5が持ち上がってしまい、車体3と障害物に挟まれた作業者がクラッチ杆6から手を離せない状態となってしまった場合であり、また、例えば、クラッチ杆6がハンドル杆5と作業者の体(または障害物)とで挟まれてしまった場合である。
【0043】
このような場合、歩行型作業車両2の後進しようとする状態は継続するため、車体3の姿勢にかかわらず、作業者または障害物によってクラッチ杆6に対して正常ではない荷重が加わることになる。クラッチ杆6に対して正常ではない荷重が加わるときの具体的な1つのケースは、正常接続体勢にあるクラッチ杆6に対して、規定回動方向KD1に回動させようとする過剰な荷重が加わるケース(以下、「ケースC1」とする)である。過剰な荷重とは、正常接続体勢を維持するのに必要な荷重を超えた荷重であって、正常接続体勢を逸脱させるような荷重のことである。これは、例えば、車体3の姿勢にかかわらず、ハンドル杆5と作業者(または障害物)とによってクラッチ杆6が挟まれた状態で車両の後進しようとする状態が継続した場合に発生し得る。
【0044】
また、具体的な他のケースは、ハンドル杆5に対してクラッチ杆6を相対的にハンドル前方に移動させる過剰な荷重が、正常接続体勢にあるクラッチ杆6に対して加わるケース(以下、「ケースC2」とする)である。これは、例えば、歩行者の一部(または障害物)がクラッチ杆6に接触し、クラッチ杆6に対して、歩行型作業車両2の後進しようとする力に抗してクラッチ杆6を押し戻す荷重が加わる場合に発生し得る。図7(A)は、ハンドル杆5とクラッチ杆6とを模式的に示す図である。ハンドル杆5に対してクラッチ杆6が相対的にハンドル前方に移動する状態は、図7(A)の矢印X1で示すように、クラッチ杆6が全体的にハンドル前方に移動する場合のほか、矢印X2で示すように、ハンドル前方に対して右に傾いた状態または傾きつつ移動する場合や、矢印X3で示すように、ハンドル前方に対して左に傾いた状態または傾きつつ移動する場合を含む。
【0045】
以上のことを踏まえ、本実施形態に係る挟圧安全機構1は、ケースC1およびケースC2のいずれの場合にも、挟圧が発生した可能性があるものとして、歩行型作業車両2の駆動部に対する動力の伝達を停止させ、車両のそれ以上の後進しようとする状態を停止する。以下、ケースC1およびケースC2のそれぞれのケースについて、左側挟圧安全機構1Lの動作を中心として、挟圧安全機構1の動作を説明する。
【0046】
<ケースC1>
まず、ケースC1の場合の挟圧安全機構1(主に、左側挟圧安全機構1L)の動作について説明する。図8図10は、ケースC1の場合の左側挟圧安全機構1Lの動作の説明に利用する図である。図8は、左側挟圧安全機構1Lをハンドル後方側からハンドル前方に向かってややハンドル右方へ傾いた状態で見た図であり、図9図10はそれぞれ、左側挟圧安全機構1Lを図3と略同じ方向から見た図である。図8図10はそれぞれ、挟圧が発生し、クラッチ杆6に対して、クラッチ杆6を規定回動方向KD1に回動させる過剰な荷重が加わった後の左側挟圧安全機構1Lの様子を示しており、図8図9図10の順番で、時間が経過している。
【0047】
図8図9に示すように、正常接続体勢のクラッチ杆6に対して、クラッチ杆6を規定回動方向KD1に回動させる過剰な荷重が加わった場合、てこの原理により支点部材31を支点として、クラッチレバー部32の支点部材31よりもハンドル前方の部位が、ハンドル上方へ向かって移動する。これに応じて、支点部材31よりもハンドル前方に設けられている回転軸接続部材33がハンドル上方へ向かって移動する(図8図9の矢印Y2参照)。回転軸接続部材33のハンドル上方への移動に伴って、回転軸接続部材33に取り付けられた回転軸10もハンドル上方へ向かって移動する。
【0048】
回転軸10のハンドル上方への移動に際し、まず、回転軸10をハンドル上方へ移動させようとする荷重が回転軸接続部材33を介して回転軸10に作用する。これに応じて、回転軸先端部34の穴部36が、バネ30による付勢に抗して軸受11の挿入部26を押し戻しながら、半球状の挿入部26の表面に摺動しつつハンドル上方へ向かって移動する。上述したように、壁部材38は、穴部36の中央を中心としてハンドル下方側の一定の範囲には設けられていないため、壁部材38が設けられていない範囲を挿入部26が通過するように、穴部36の移動が行われることになる。このため、穴部36の移動(換言すれば、穴部36に対する挿入部26の相対的な移動)が壁部材38によって阻害されない。また、正常挿入状態のときに、正常状態の回転軸10は、規制孔21の幅広部23に位置しており、クラッチ杆6に対して過剰な荷重が加わったときに、回転軸10のハンドル上方へ向かう移動が規制孔21によって規制されることはない。穴部36の移動に応じて、穴部36から挿入部26が抜け、正常挿入状態が解除され、回転軸10の正常状態が変動する。
【0049】
なお、ハンドル杆5が正常に操作されているときには、穴部36からの挿入部26の「抜け」が発生せず、一方、正常接続体勢のクラッチ杆6に対して、クラッチ杆6を規定回動方向KD1に回動させる過剰な荷重が加わった場合には、上述した態様で「抜け」が発生するように、事前のテストやシミュレーションの下、適切な付勢力のバネ30が採用される。
【0050】
穴部36から挿入部26が抜けた後、穴部36のハンドル上方への移動(=回転軸10のハンドル上方への移動)が更に進むと、軸受11の挿入部26が穴部36の外周の縁に乗り上げた状態(図8の状態)を経て、規制孔21の内周に回転軸10が当接した状態(図9の状態)となる。図9の状態となると、回転軸10のそれ以上のハンドル上方への移動が規制される。この状態では軸受11の挿入部26は、回転軸10の回転軸先端部34から外れた位置に位置し、バネ30の付勢力が回転軸10に対してほとんど働かず、従って、バネ30の付勢力に由来する「回転軸10(および回転軸10が接続された回転軸接続部材33)を、現在の位置に留めようとする力」が回転軸10に対してほとんど働かなくなる。
【0051】
回転軸接続部材33には、当部材をハンドル前方へ移動させようとするクラッチワイヤー12のテンションが作用しており、図9の状態となると、クラッチワイヤー12のテンションにより、今度は、回転軸接続部材33(および回転軸接続部材33に接続された回転軸10)がハンドル前方へ向かう移動を開始する。図9の矢印Y3は、回転軸10が規制孔21内で移動するときの経路を示す矢印である。上述したように、規制孔21の、ハンドル前方側の略半分の範囲には、略一定幅でハンドル前方に延在する幅狭部22が形成されており、回転軸10は、回転軸台部材35の裏面が規制板19の面19aに接触しつつ、幅狭部22に案内されながら、ハンドル前方へ向かって移動する。回転軸接続部材33のハンドル前方への移動が進むと、回転軸10が規制孔21の内周に当接した状態(図10の状態)となる。図10の状態となると、回転軸10のそれ以上のハンドル前方への移動が規制される。
【0052】
図10の状態では、回転軸接続部材33にクラッチワイヤー連結部材42を介して接続されたクラッチワイヤー12の端部がハンドル杆5に対して相対的にハンドル前方へ移動した状態となり、引っ張られていたクラッチワイヤー12が元に戻り、クラッチ7が切断される。これにより駆動部の駆動が停止し、歩行型作業車両2の後進しようとする状態が停止する。以上のようにして、クラッチ杆6に対して、クラッチ杆6を規定回動方向KD1に移動させる過剰な荷重が加わった場合、正常挿入状態が解除されると共に回転軸10の正常状態が変動し、正常挿入状態の解除(回転軸10の正常状態の変動)に応じて、軸受11に対する回転軸10の位置が変移し、回転軸10の変移に伴ってクラッチ7が切断され、駆動部の駆動が停止する。
【0053】
なお、クラッチ杆6に過剰な荷重が付加されたタイミングから、図10の状態となるタイミングまでの時間は非常に短く、クラッチ杆6に過剰な荷重が付加されると即座にクラッチ7が切断されて、歩行型作業車両2の後進しようとする状態が停止する。また、クラッチ杆6に過剰な荷重が付加された場合、右側挟圧安全機構1Rについても正常挿入状態が解除されると共に回転軸10の正常状態が変動し、図10の状態となる。
【0054】
<ケースC2>
次に、ケースC2の場合の挟圧安全機構1(主に、左側挟圧安全機構1L)の動作について説明する。なお、挟圧の発生に応じてクラッチ杆6がハンドル前方に移動するときの態様としては、図7(A)の矢印X1で示す態様のみならず、矢印X2や、矢印X3で示す態様もある。矢印X2の場合は、回転軸10に対して、回転軸10をハンドル前方(より正確には、ハンドル前方に向かう成分を含む向き)へ移動させようとする荷重が作用する点で矢印X1の場合と共通しており、左側挟圧安全機構1Lは、以下で説明する動作と同様の態様で動作する。矢印X3の場合については、後述する。
【0055】
図11図13は、ケースC2の場合の左側挟圧安全機構1Lの動作の説明に利用する図である。図11は、左側挟圧安全機構1Lをハンドル後方側からハンドル前方に向かってややハンドル右方に傾いた状態で見た図である。図12は、左側挟圧安全機構1Lをハンドル下方側からハンドル上方へ向かって見た図である。図13は、左側挟圧安全機構1Lをハンドル左方側からハンドル右方へ向かって見た図である。また、以下のケースC2の説明では、図10を援用する。図10図13はそれぞれ、挟圧が発生し、クラッチ杆6に対して、クラッチ杆6をハンドル前方へ移動させる過剰な荷重が加わった後の左側挟圧安全機構1Lの様子を示しており、図11図12図13図10の順番で、時間が経過している。
【0056】
正常接続体勢のクラッチ杆6に対して、クラッチ杆6をハンドル前方に移動させる過剰な荷重が加わった場合、クラッチ杆6のハンドル前方への移動に伴って、回転軸接続部材33がハンドル前方へ向かって移動する。回転軸接続部材33のハンドル前方への移動に伴って、回転軸接続部材33に取り付けられた回転軸10もハンドル前方へ向かって移動する。
【0057】
回転軸10のハンドル前方への移動に際し、まず、回転軸10をハンドル前方へ移動させようとする荷重が回転軸接続部材33を介して回転軸10に作用する。これに応じて、回転軸先端部34の穴部36が、バネ30による付勢に抗して軸受11の挿入部26を押し戻しながら、半球状の挿入部26の表面に摺動しつつハンドル前方へ向かって移動する。上述したように、正常挿入状態のときに、穴部36に挿入された挿入部26のハンドル後方側には、第2壁部40が存在するため、穴部36(回転軸先端部34)のハンドル前方へ向かう移動に応じて、挿入部26は、第2壁部40が存在する範囲を通過することになる。そして、第2壁部40は、第1壁部39と比較して、その高さが低いため、穴部36の移動(換言すれば、穴部36に対する挿入部26の相対的な移動)が第2壁部40によって、限定的にしか阻害されない。
【0058】
なお、第2壁部40は、クラッチ杆6の体勢が正常接続体勢のときに、回転軸接続部材33がクラッチワイヤー12によって引っ張られることによって発生し得る挿入部26の「抜け」を防止することを目的として設けられたものである。従って、第2壁部40の高さは、クラッチ杆6の体勢が正常接続体勢のときは挿入部26の「抜け」が適切に防止される一方、クラッチ杆6に対して、クラッチ杆6をハンドル前方へ移動させる過剰な荷重が加わった場合には、挿入部26の「抜け」が不必要に阻害されないよう、事前のテストやシミュレーションの下、適切に設計されている。穴部36の移動に応じて、穴部36から挿入部26が抜け、正常挿入状態が解除され、回転軸10の正常状態が変動する。
【0059】
穴部36から挿入部26が抜けた後、穴部36のハンドル前方への移動(=回転軸10のハンドル前方への移動)が更に進むと、軸受11の挿入部26が穴部36の外周の縁に乗り上げた状態(図12の状態)を経て、回転軸先端部34と挿入部26とが「ハンドル前方-後方」方向で完全にズレた状態(図13の状態)となる。この状態ではバネ30の付勢力が回転軸10に対して働かなくなる。
【0060】
その後、クラッチワイヤー12のテンションにより、回転軸接続部材33(および回転軸接続部材33に接続された回転軸10)がハンドル前方へ更に移動し、回転軸10が規制孔21の内周に当接した状態(図10の状態)となり、引っ張られていたクラッチワイヤー12が元に戻り、クラッチ7が切断される。以上のようにして、クラッチ杆6に対して、クラッチ杆6をハンドル前方に移動させる過剰な荷重が加わった場合、正常挿入状態が解除され、正常挿入状態の解除に応じて、軸受11に対する回転軸10の位置が変移し(回転軸10の正常状態が変動し)、回転軸10の変移に伴ってクラッチ7が切断され、駆動部の駆動が停止する。
【0061】
なお、図7(A)の矢印X3の場合は、上記で説明した左側挟圧安全機構1Lと同様の動きにより、右側挟圧安全機構1Rの正常挿入状態が解除される。その後、挟圧に起因してクラッチ杆6に元々作用していた荷重、および、クラッチワイヤー12のテンションによりクラッチ杆6が全体的に前方に移動し、左側挟圧安全機構1Lの正常挿入状態が解除され、クラッチ7が切断される。
【0062】
<第2実施形態>
次に、第2実施形態について説明する。なお、第2実施形態の説明において、第1実施形態と同一の要素については、第1実施形態と同一の符号を付し、その詳細な説明を省略する。また、第2実施形態に係る挟圧安全機構1Aが適用される歩行型作業車両2Aの構成は、挟圧安全機構1Aに関連する部分を除いて第1実施形態と同じであるため、歩行型作業車両2Aの構成に関しては、適宜、図1、2を利用する。
【0063】
図14は、歩行型作業車両2Aにおけるハンドル杆5Aおよびクラッチ杆6Aの部分を後上方より見た斜視図である。本実施形態では、ハンドル前方、ハンドル後方、ハンドル左方、ハンドル右方、ハンドル上方、ハンドル下方を第1実施形態と同様に定義する。図14に示すように、歩行型作業車両2Aは、第1実施形態と同様、ハンドル杆5Aと、このハンドル杆5Aの上方に配置されたクラッチ杆6Aとを備えている。ハンドル杆5Aは、車体から車体後方に向かって延設される左の縦方向ハンドル杆部14ALと、右の縦方向ハンドル杆部14ARと、これらハンドル杆部の間に横架された横方向ハンドル杆部15Aとを有するループ式の構成である。また、クラッチ杆6Aは、左の縦方向クラッチ杆部16ALと、右の縦方向クラッチ杆部16ARと、これらクラッチ杆部の間に横架された横方向クラッチ杆部17Aとを有するループ式の構成である。図14に示すように、挟圧安全機構1Aは、左の縦方向ハンドル杆部14AL側に設けられた左側挟圧安全機構1ALと、右の縦方向ハンドル杆部14AR側に設けられた右側挟圧安全機構1ARとを含んで構成されている。
【0064】
図15図16は、左側挟圧安全機構1ALの説明に利用する図である。図15は、図14の位置P1付近の断面を、ハンドル後方側からハンドル前方へ向かって見た斜視図である。なお、図15では、左側回転軸接続部材50(後述)については簡略化して描画している。図16は、図15に描画された部材について、左側回転軸支持部材51(後述)の「ハンドル上方-下方」方向における略中央が切断されるように、「ハンドル上方-下方」方向に対して垂直な面で切断した断面図を、ハンドル下方側からハンドル上方に向かって見た図である。
【0065】
図15に示すように、左の縦方向ハンドル杆部14ALの所定の位置には、板状の左側回転軸支持部固定部材52が、一方の面52aがハンドル右方に臨み、他方の面がハンドル左方に臨むように取り付けられている。具体的には、図15に示すように、左側回転軸支持部固定部材52の上端部が、「ハンドル前方-後方」方向に離間して配置されたボルトおよびナットによって左の縦方向ハンドル杆部14ALに強固に固定されている。
【0066】
図15図16に示すように、左側回転軸支持部固定部材52のハンドル右方側の面52aにおいて、左の縦方向ハンドル杆部14ALよりもハンドル下方には、回転軸支持部位置決め部材53が取り付けられており、この回転軸支持部位置決め部材53によって左側回転軸支持部材51が面52aに対して固定されている。回転軸支持部位置決め部材53は、一対のフランジ部と、一対のフランジ部から立ち上がった一対の立ち上がり部と、一対の立ち上がり部を接続する接続部56とを有しており、一対のフランジ部がそれぞれ、ボルトおよびナットにより左側回転軸支持部固定部材52に対して強固に固定されている。
【0067】
左側回転軸支持部材51(特許請求の範囲の「第2の回転軸支持部材」に相当)は、円柱状の部材であり、弾性を有する弾性部材(本実施形態では、ゴム部材)により構成されている。特に、左側回転軸支持部材51は、右側回転軸支持部材58(特許請求の範囲の「第1の回転軸支持部材」に相当。詳しくは後述)を構成するゴム部材よりも、弾性変形しにくい硬いゴム部材によって構成されている。図15図16に示すように、左側回転軸支持部材51は、一方の端部の面が左側回転軸支持部固定部材52の面52aに接触し、他方の端部の面が回転軸支持部位置決め部材53の接続部56の裏側の面に接触した状態で、左側回転軸支持部固定部材52に固定されている。
【0068】
図16に示すように、左側回転軸支持部材51のハンドル右方側には、左側回転軸支持部材51と同軸上に、円柱状の空間である第1空間57が形成されている。左側回転軸支持部材51において、第1空間57のハンドル左方には、第1空間57と同軸上の円柱状の空間であって、第1空間57と連通し、第1空間57よりも径が小さい第2空間55が形成されている。
【0069】
図16に示すように、回転軸支持部位置決め部材53の接続部56において、第1空間57に対応する位置には、接続部56を貫通する接続部貫通孔59が形成されている。また、左側回転軸支持部固定部材52において、第2空間55に対応する位置には、左側板貫通孔60が形成されている。そして、棒状の左側回転軸61(特許請求の範囲の「第2の回転軸」に相当)が、接続部貫通孔59、第1空間57、第2空間55および左側板貫通孔60を通って、接続部56、左側回転軸支持部材51および左側回転軸支持部固定部材52を「ハンドル左方-右方」方向に貫通している。
【0070】
図16に示すように、第2空間55の径は、左側回転軸61の径よりも僅かに小さく、第2空間55において、左側回転軸61の外周は、弾性を有する左側回転軸支持部材51に形成された第2空間55の内周と密着し、これにより、ゴム部材の左側回転軸支持部材51によって左側回転軸61が支持されている。また、第1空間57では、左側回転軸に第1ナット62が螺合しており、左側回転軸61のハンドル左方側の端部には、カラー63を介して第2ナット64が螺合している。左側回転軸61は、第1ナット62、および、第2ナット64によって位置決めされるカラー63によって、左側回転軸支持部材51に対する「ハンドル左方-右方」方向への移動が規制され、左側回転軸支持部材51に対して固定されている。クラッチ杆6Aが正常接続体勢および正常遮断体勢のときは、左側回転軸61は、左側回転軸支持部材51によって「ハンドル左方-右方」に延びた正常状態が維持される。
【0071】
図16に示すように、左側回転軸61に荷重が加わっていない状態では、左側回転軸61の外周と、接続部貫通孔59の内周との間に遊び(隙間)が形成される。また、左側板貫通孔60の内周の大きさは、カラー63の外周の大きさよりも十分に大きい。このような構造のため、左側回転軸61のハンドル右方側の端部に対して、左側回転軸61を所定方向に移動させるような荷重が外部から付加された場合、左側回転軸支持部材51の弾性変形の範囲内、および、接続部貫通孔59によって左側回転軸61の移動が規制される範囲内で、左側回転軸支持部材51が弾性変形することによって左側回転軸支持部材51を支点として左側回転軸61が回動することが許容されて、左側回転軸支持部材51の弾性によって押し戻す力を受けつつ、左側回転軸61の端部の位置が所定方向に向かって変移する。当該変移に応じて、左側回転軸61の正常状態が変動する。
【0072】
図14図16(特に、図14)に示すように、左の縦方向クラッチ杆部16ALのハンドル前方側の端部には、板状の左側回転軸接続部材50が、ハンドル下方側に向かって延在して設けられている。この左側回転軸接続部材50には、左側回転軸61が貫通する左側回転軸貫通孔66(図16)が形成されており、この左側回転軸貫通孔66を左側回転軸61が貫通している。図16に示すように、左側回転軸貫通孔66の内周は、左側回転軸61の外周よりも大きく形成されており、当該内周と当該外周との間に遊び(隙間)が形成されている。図15図16に示すように、左側回転軸61のハンドル右方側の先端には、左側回転軸接続部材50の抜け落ちを防止するための抜け防止用部65が設けられている。
【0073】
図14に示すように、左側回転軸接続部材50のハンドル右方側の面には、クラッチワイヤー連結部材68を介してクラッチワイヤー67の端部が接続されている。第1実施形態と同様、ハンドル杆5Aとクラッチ杆6Aとの状態が正常接続体勢のときはクラッチワイヤー67が引っ張られてクラッチ7が接続し、正常遮断体勢のときはクラッチワイヤー67が元に戻ってクラッチ7が切断される。
【0074】
図17図18図19図20(A)、図21(A)は、右側挟圧安全機構1ARの説明に利用する図である。図17は、右側挟圧安全機構1ARを図14の矢印Y4が示す向きに向かって見た斜視図である。図18は、右側挟圧安全機構1ARをハンドル下方側からハンドル上方に向かって見た図である。図19は、図18のB-B断面図である。図20(A)は、右側挟圧安全機構1ARをハンドル左方側からハンドル右方に向かって見た図である。図21(A)は、図14の位置P2付近の断面を、ハンドル前方側からハンドル後方に向かって見た図である。なお、図20(B)、図21(B)は、後の説明で使用する。また、図19図20図21の各図では、案内板70(後述)の描画を省略している。
【0075】
図17に示すように、右の縦方向ハンドル杆部14ARの所定の位置には、板状の右側支持部固定部材71が、一方の面がハンドル右方に臨み、他方の面71aがハンドル左方に臨むように取り付けられている。具体的には、図17、その他の図に示すように、右側支持部固定部材71の上端部が、「ハンドル前方-後方」方向に離間して配置されたボルトおよびナットによって右の縦方向ハンドル杆部14ARに強固に固定されている。
【0076】
図18図19図21(A)に示すように、右側支持部固定部材71の外側の面には、内部が空洞(図19参照)の略円錐台形状の右側回転軸支持部材58(特許請求の範囲の「第1の回転軸支持部材」に相当)が取り付けられている。右側回転軸支持部材58は、その底面が平板状の台部材に固着されており、その台部材が右側支持部固定部材71に対して、2つのボルトおよびナットによって固定されている。つまり、右側回転軸支持部材58は、右側支持部固定部材71に対して固定されている。右側回転軸支持部材58は、弾性を有する弾性部材(本実施形態では、ゴム部材)により構成されている。特に、右側回転軸支持部材58は、上述した左側回転軸支持部材51を構成するゴム部材よりも、弾性変形し易い、左側回転軸支持部材51との比較で柔らかいゴム部材によって構成されている。
【0077】
図17図18図20(A)、図21(A)(特に、図19図21(A))に示すように、右側回転軸支持部材58の中心軸には、棒状の右側回転軸72(特許請求の範囲の「第1の回転軸」に相当)が挿入されており、右側回転軸支持部材58により右側回転軸72が支持されている。具体的には、右側支持部固定部材71の右側回転軸支持部材58の中心軸に対応する部位には、右側支持部固定部材71を貫通する右側板貫通孔73(図19)が形成されており、この右側板貫通孔73を介して右側回転軸支持部材58の内部の空洞が露出している。右側回転軸72は、右側板貫通孔73および右側回転軸支持部材58の内部の空洞を通って、右側支持部固定部材71および右側回転軸支持部材58を「ハンドル左方-右方」方向に貫通している。右側回転軸72について、右側回転軸支持部材58からハンドル右方へ向かって突き出た部分には、ナット58aが螺合され、右側回転軸支持部材58に対して右側回転軸72が固定されている。図19に示すように、右側板貫通孔73の内周は、右側回転軸72の外周よりも十分に大きい。また、図19において、符号58bは、ゴム部材と一体となって右側回転軸支持部材58を形成する金属製の金属部であり、図19に示すように、右側回転軸72は、金属部58bの中央部に形成された貫通孔を貫通してハンドル右方へ向かって突き出ており、この突き出た部分にナット58aが螺合されている。クラッチ杆6Aが正常接続体勢および正常遮断体勢のときは、右側回転軸72は、右側回転軸支持部材58によって「ハンドル左方-右方」に延びた正常状態が維持される。
【0078】
このような構造のため、右側回転軸72のハンドル左方側の端部に対して、右側回転軸72を所定方向に移動させるような荷重が外部から付加された場合、右側回転軸支持部材58の弾性変形の範囲内で、右側回転軸支持部材58が弾性変形することによって右側回転軸支持部材58を支点として右側回転軸72が回動することが許容されて、右側回転軸支持部材58の弾性によって押し戻す力を受けつつ、右側回転軸72の端部の位置が所定方向に向かって変移する。当該変移に応じて、右側回転軸72の正常状態が変動する。
【0079】
図17図18図19図20(A)、図21(A)(特に、図18図19)に示すように、右の縦方向ハンドル杆部14ARの所定の位置には、ハンドル左方に向かって延在する部分と、当該部分からハンドル後方に向かって屈曲しハンドル後方に向かって延在する部分とを有する板状のスイッチ支持部材74が、接着や溶接等により固定されている。スイッチ支持部材74のハンドル左方側の端部には、ハンドル下方に向かって延在する棒状の2個の仲介部材75が「ハンドル前方-後方」に離間して設けられている。この2個の仲介部材75を介して、スイッチ支持部材74にスイッチ76が取り付けられている。
【0080】
スイッチ76は、仲介部材75に支持されたスイッチ基端部77と、このスイッチ基端部77からハンドル右方に向かって突出したスイッチレバー78(特許請求の範囲の「操作子」に相当)とを有する。スイッチ76は、リミットスイッチであり、スイッチレバー78はスイッチ基端部77を中心部として、一定の範囲内で任意の回動方向に回動する。スイッチレバー78の形状は、スイッチ基端部77からハンドル右方へ向かって一定距離は同じ径であり、一定距離を過ぎると徐々に径が小さくなる先細りの形状である。
【0081】
スイッチレバー78に対して何ら荷重が加わっていない状態(図17、18、19、20(A)、21(A)の状態)のときは、スイッチ76はオフ状態となる。一方、スイッチレバー78に対して、スイッチレバー78を移動させる荷重が加わった場合において、スイッチレバー78が、スイッチ基端部77を中心部として任意の回動方向に一定量以上回動した場合、スイッチ76はオン状態(作動状態)となる。スイッチ76がオン状態となると、動力源の動作が停止し、動力源から駆動部への動力の供給が停止し、これに伴って駆動部の駆動が停止する。例えば、スイッチ76がオン状態となると、動力源に電力を供給する電力供給装置による動力源への電力供給が停止される。また、例えば、歩行型作業車両2Aがエンジン式の動力源を持つ場合は、スイッチ76がオン状態となるとスパークプラグへの電力供給が遮断される。なお、各図において、スイッチ76からの信号を出力する信号線については図示を省略している。
【0082】
図17図18図20(A)、図21(A)に示すように、右の縦方向クラッチ杆部16ARのハンドル前方側の端部には、右側回転軸接続部材80が設けられている。右側回転軸接続部材80は、右の縦方向クラッチ杆部16ARのハンドル左方側において、ハンドル下方に向かって延在する下方延在部81と、この下方延在部81からハンドル前方に向かって屈曲し、ハンドル前方に向かって延在する前方延在部82とを有する。前方延在部82の先端部には、右側回転軸72が貫通する右側回転軸貫通孔83(後述する図24参照)が形成されており、この右側回転軸貫通孔83を右側回転軸72が貫通している。右側回転軸貫通孔83の内周は、右側回転軸72の外周よりも大きく形成されており、当該内周と当該外周との間に遊び(隙間)が形成されている。右側回転軸72のハンドル左方側の先端には、右側回転軸接続部材80の抜け防止用の抜け防止用部材72aが設けられている。
【0083】
右側回転軸接続部材80の前方延在部82において、右側回転軸貫通孔83よりも前方には、当接部85(クラッチ杆6Aの移動に連動して移動する当接部85)が形成されている。図22は、当接部85を説明するため、クラッチ杆6Aの体勢が正常接続体勢のときの右側回転軸接続部材80をハンドル左方側からハンドル右方に向かって見た図である。図22では、第1当接部86および第2当接部87(いずれも後述)の位置に対応する位置におけるスイッチレバー78の位置を明示している。
【0084】
当接部85について詳述すると、図22に示すように、当接部85は、スイッチレバー78よりもハンドル後方において、スイッチレバー78に対向する面(前方延在部82の厚み)を有し、スイッチレバー78のハンドル後方側の領域に延在する第1当接部86を有する。また、当接部85は、スイッチレバー78よりもハンドル下方において、スイッチレバー78に対向する面(前方延在部82の厚み)を有し、スイッチレバー78のハンドル下方側の領域に延在する第2当接部87を有する。第2当接部87は、ハンドル前方に向かうに従って僅かにハンドル上方に向かうように傾いている。
【0085】
図22に示すように、クラッチ杆6Aの体勢が正常接続体勢のときは(正常遮断体勢のときも同様)、当接部85はスイッチレバー78に接触しないものの、第1当接部86がスイッチレバー78に近い位置でスイッチレバー78のハンドル後方側の領域に延在した状態となり、また、第2当接部87がスイッチレバー78に近い位置でスイッチレバー78のハンドル下方側の領域に延在した状態となる。これにより、スイッチレバー78のハンドル後方からハンドル下方に至る範囲に当接部85が延在した状態となる。なお、第1当接部86は、右側回転軸72の軸芯を中心とする円弧を描いているため、正常接続体勢/正常遮断体勢間を揺動しても、第1当接部86がスイッチレバー78に当接することは無い。
【0086】
図17図18に示すように、右側回転軸接続部材80の下方延在部81のハンドル後方には、案内板70が設けられている。なお、図20(A)、図21(A)ではこの案内板70の図示を省略している。案内板70について詳述すると、右側支持部固定部材71のハンドル左方側の面71aにおいて、下方延在部81よりもハンドル後方には、ハンドル上方に一方の面が臨み、ハンドル下方に他方の面が臨む平板状の案内板70が、ハンドル左方に向かって延在するように設けられている。案内板70は、その基端が接着、溶接等により右側支持部固定部材71の面71aに固定されている。
【0087】
図18に示すように、案内板70の先端部には、ハンドル後方に向かうに従って徐々に幅が狭くなるように、案内板70のハンドル前方側の側面からハンドル後方側へ向かって切り欠いて形成された案内溝88が形成されている。クラッチ杆6Aの体勢が正常接続体勢のときは、下方延在部81のハンドル後方側の側部が、この案内溝88の最深部に当接するか僅かに離間した場所に位置するように、案内溝88に入り込んだ状態となる。この状態のとき、下方延在部81は、「ハンドル前方-後方」方向に対して傾かず、当該方向に対して真っ直ぐに延在した状態である。
【0088】
さて、上述したように、挟圧が発生した場合、正常接続体勢にあるクラッチ杆6Aに対して、クラッチ杆6Aを規定回動方向KD1に回動させようとする過剰な荷重が加わるケースと、正常接続体勢にあるクラッチ杆6Aに対して、クラッチ杆6Aをハンドル杆5Aに対して相対的に前方に移動させようとする過剰な荷重が加わるケースがある。
【0089】
ここで、クラッチ杆6Aを前方に移動させようとする過剰な荷重が、クラッチ杆6Aに加わるケースを考える。本実施形態では、上述したように、クラッチ杆6Aは、ゴム部材により構成された左側回転軸支持部材51に支持された左側回転軸61、および、ゴム部材により構成された右側回転軸支持部材58に支持された右側回転軸72によって軸支されている。そして、左側回転軸支持部材51を構成するゴム部材の方が、右側回転軸支持部材58を構成するゴム部材よりも、弾性変形しにくく硬い。
【0090】
このような構造のため、挟圧の発生に応じて、クラッチ杆6Aに対してハンドル前方へ移動させる荷重が加わった場合、基本的には、クラッチ杆6Aは、図7(B)に示すように、ハンドル前方に対して左側に傾きつつ移動することになる。すなわち、左側回転軸支持部材51は、右側回転軸支持部材58と比較して弾性変形しにくいため、左側回転軸61と右側回転軸72との双方に同程度の荷重が加わった場合には、右側回転軸72の方が移動量(回転軸支持部材を中心部とする回動量)が大きくなり、クラッチ杆6Aは、全体として、左側回転軸61を中心部として回動するように移動するからである。なお、図7(B)は説明の明確化のため、クラッチ杆6Aを実際よりも傾けている。図7(C)についても同様である。
【0091】
このため、左側回転軸支持部材51および右側回転軸支持部材58の弾性力を同じとした場合と比較して、クラッチ杆6Aに対してハンドル前方へ移動させる荷重が加わったときに、右側回転軸接続部材80の「ハンドル前方に向かう成分を含む向き」への変移量を効果的に大きくできる。クラッチ杆6Aに対してハンドル前方へ移動させようとする荷重が加わったときに、左側回転軸61および右側回転軸72が均等の回動量で回動するのではなく、右側回転軸72の方が偏って大きく回動するからである。このことは、後に明らかとなるように、クラッチ杆6Aに対してハンドル前方へ移動させる過剰な荷重が付加されたときに、スイッチ76を的確に動作させることに寄与する。
【0092】
ただし、挟圧の発生時に、クラッチ杆6Aの横方向クラッチ杆部17Aの左端部に対して非常に偏った荷重が加わる可能性もある。例えば、図14の位置P3で示す位置に対して、荷重が加わるような場合である。このような場合には、クラッチ杆6Aは、図7(C)に示すように、ハンドル前方に対して右に傾きつつ、右側回転軸支持部材58を中心部として回動するように移動する。この場合、右側回転軸接続部材80の「ハンドル前方に向かう成分を含む向き」への変移量は、限定的である。本実施形態に係る挟圧安全機構1Aは、図7(B)となるケース、および、図7(C)となるケースの双方について、挟圧が発生した可能性があるものとして、駆動部の駆動を停止する。
【0093】
以下、クラッチ杆6Aを規定回動方向KD1に回動させようとする過剰な荷重が加わるケース(ケースC3とする)、図7(B)の状態となるケース(ケースC4とする)、および、図7(C)の状態となるケース(ケースC5とする)のそれぞれについて、本実施形態に係る挟圧安全機構1Aの動作を説明する。
【0094】
<ケースC3>
まず、ケースC3について説明する。図20(B)は、図20(A)の状態(正常接続体勢)から、クラッチ杆6Aに対して、クラッチ杆6Aを規定回動方向KD1に回動させようとする過剰な荷重が加わった後の様子を示す図である。図21(B)は、図21(A)の状態(正常接続体勢)から、クラッチ杆6Aに対して、クラッチ杆6Aを規定回動方向KD1に回動させようとする過剰な荷重が加わった後の様子を示す図である。ここで、右の縦方向クラッチ杆部16ARの右の縦方向ハンドル杆部14ARに対向する面において、右側回転軸72によりハンドル後方の位置には、右の縦方向ハンドル杆部14ARに向かって突出した右側支点部材90が設けられている。このため、クラッチ杆6Aに対して規定回動方向KD1に回動させようとする過剰な荷重が加わった場合、てこの原理により右側支点部材90を支点として、クラッチレバー部91の右側支点部材90よりもハンドル前方の部位が、ハンドル上方へ向かって移動する。これに応じて、右側支点部材90よりもハンドル前方に設けられている右側回転軸接続部材80がハンドル上方へ向かって移動する(図20(B)、21(B)参照)。
【0095】
右側回転軸接続部材80がハンドル上方へ向かって移動すると、右側回転軸貫通孔83を介して右側回転軸72のハンドル左方側の端部が上方へ向かって引っ張られ、当該端部が上方へ向かって移動する。上述したように、右側回転軸支持部材58は、弾性を有するゴム部材によって構成されているため、右側回転軸72のハンドル左方側の端部に対して上方へ向かう荷重が作用すると、右側回転軸支持部材58が弾性変形し、右側回転軸72は、正常状態から変動し、右側回転軸支持部材58との接続部を中心として回動するようにして、その端部が上方へ向かって移動する。
【0096】
本実施形態では、右側回転軸支持部材58の弾性力は、通常使用時にクラッチ杆6Aに加わる荷重では、ほとんど弾性変形せず、右側回転軸支持部材58に対する右側回転軸72の状態をほとんど変移させずに正常状態を維持し、一方、挟圧の可能性があるような過剰な荷重がクラッチ杆6Aに対して加わり、右側回転軸72に対して、当軸を押し上げるような荷重が加わったときには、荷重の作用に応じて、右側回転軸支持部材58に対する右側回転軸72の状態を変移させて正常状態が変動するような弾性力とされる。なお、右側回転軸支持部材58の弾性力とは、ゴム部材の素材としての弾性力だけではなく、右側回転軸支持部材58の形状や、右側回転軸72との接続部の態様、その他の要素を考慮して、外部からの荷重に抗して右側回転軸72を現在の位置に留めようとする力のことを意味する。左側回転軸支持部材51についても同様である。
【0097】
右側回転軸72のハンドル左方側の端部の上方への移動が進むと、右側回転軸接続部材80の第2当接部87がスイッチレバー78の先端部に対してハンドル下方側から当接する。更に当該端部の上方への移動が進むと、スイッチレバー78の先端部が第2当接部87に押し上げられていく。そして、一定量以上、スイッチレバー78が押し上げられると、オフ状態のスイッチ76がオン状態となり、駆動部の駆動が停止する。
【0098】
以上のように、ケースC3では、正常接続体勢のときにクラッチ杆6Aに規定回動方向KD1に向かう過剰な荷重が付加された場合、右側回転軸支持部材58が弾性変形し、右側回転軸支持部材58を支点として右側回転軸72の先端部が上方へ向かって移動し、この移動に伴って右側回転軸72に支持されたクラッチ杆6Aが移動し、クラッチ杆6Aの移動に応じてクラッチ杆6Aがスイッチ76に当接して当スイッチを作動させ、動力源の動作を停止させる。なお、クラッチ杆6Aに過度の荷重が付加されたタイミングから、スイッチ76がオン状態となるタイミングまでの時間は非常に短い。
【0099】
<ケースC4>
次に、ケースC4について説明する。上述の通り、ケースC4は、挟圧の発生に応じて、図7(B)に示すように、クラッチ杆6Aがハンドル左方に傾きつつ、ハンドル前方側に移動するケースである。図23は、ケースC4において、クラッチ杆6Aに対して前方へ移動させる過剰な荷重が付加された後の右側挟圧安全機構1ARをハンドル上方側からハンドル下方へ向かって見た図である。図23では、右の縦方向クラッチ杆部16ARがハンドル前方に向かってほぼ真っ直ぐに移動した場合の様子を示している。ケースC4では、右の縦方向クラッチ杆部16ARは、ハンドル左方に傾きつつハンドル前方側へ移動することになるが、上述の通り、移動方向にはハンドル前方へ向かう成分が多く含まれ、ハンドル前方への移動量が十分に大きい。このため、ケースC4では、過剰な荷重が付加された場合、各部材は図23と同様の状態となり、かつ、右側挟圧安全機構1ARは、以下で説明する動作と同様の動作をする。
【0100】
ケースC4において、クラッチ杆6Aに対してクラッチ杆6Aをハンドル前方に移動させようとする過剰な荷重が加わった場合、クラッチ杆6Aの移動に応じて、右側回転軸接続部材80がハンドル前方(より正確には、ハンドル前方へ向かう成分を多く含む向き。以下でも、単にハンドル前方と表現する)へ向かって移動する。上述したように、右側回転軸支持部材58は、弾性を有するゴム部材によって構成されているため、右側回転軸接続部材80に対してハンドル前方へ向かう荷重が作用すると、右側回転軸支持部材58が弾性変形し、右側回転軸72は、右側回転軸支持部材58を中心部として回動するようにして、その端部がハンドル前方へ向かって移動し、正常状態から変動する。
【0101】
右側回転軸接続部材80のハンドル前方への移動が進むと、右側回転軸接続部材80の第1当接部86がスイッチレバー78の先端部に対してハンドル後方側から当接する。更に右側回転軸接続部材80の前方への移動が進むと、スイッチレバー78の先端部がハンドル前方へ向かって押されていく。そして、一定量以上、スイッチレバー78が押されると、オフ状態のスイッチ76がオン状態(図23の状態)となり、駆動部の駆動が停止する。
【0102】
なお、上述したように、本実施形態では、右側回転軸支持部材58の弾性力と左側回転軸支持部材51の弾性力との差に起因して、クラッチ杆6Aに前方へ移動させる荷重が加わったときに、右側回転軸接続部材80がハンドル前方(ハンドル前方の成分を多く含む向き)に移動しやすい構造となっている。つまり、右側回転軸支持部材58と左側回転軸支持部材51とを同じ弾性力とした場合と比較して、クラッチ杆6Aに対して同じ荷重を加えたときの右側回転軸接続部材80の移動量が大きい。このような構成のため、挟圧が発生したときに的確にスイッチ76をオフ状態からオン状態にすることができる。
【0103】
<ケースC5>
次に、ケースC5について説明する。上述の通り、ケースC5は、挟圧の発生に応じて、図7(C)に示すように、クラッチ杆6Aがハンドル右方に傾きつつ、ハンドル前方側に移動するケースである。このケースC5の場合、右側回転軸接続部材80はハンドル前方へ向かう成分を含む方向には限定的にしか移動しない一方、クラッチ杆6Aがハンドル前方に向かって右側に傾くことに起因した動きをする。
【0104】
図24は、ケースC5において、クラッチ杆6Aに対して過剰な荷重が付加された後の右側挟圧安全機構1ARを図17と略同じ方向から見た図である。図25は、ケースC5において、クラッチ杆6Aに対して過度の荷重が付加された後の右側挟圧安全機構1ARをハンドル上方側からハンドル下方へ向かって見た図である。上述したように、右側回転軸接続部材80の下方延在部81のハンドル後方には案内板70が設けられており、正常接続体勢においては、下方延在部81のハンドル後方側の側部が、案内板70に形成された案内溝88の最深部に当接するか僅かに離間した場所に位置している。
【0105】
クラッチ杆6Aをハンドル前方に向かって右側に傾かせる荷重が、クラッチ杆6Aに付加された場合、右側回転軸接続部材80の下方延在部81のハンドル後方側の側部は、図25の矢印Y5で示すように、ハンドル左方側へ向かって移動しようとする(矢印Y5が示す向きに移動させようとする力が作用する)。すると、図25の矢印Y6に示すように、下方延在部81のハンドル後方側の側部が案内溝88の内側に摺動しつつ、図25の矢印Y6で示す向きに移動する。
【0106】
下方延在部81のハンドル後方側の側部の矢印Y6が示す向きへの摺動に伴って、右側回転軸接続部材80が全体的に図25の矢印Y7が示す向きに向かって移動する。矢印Y7が示す向きは、ハンドル前方へ向かう成分を多く含む向きである。上述したように、右側回転軸支持部材58は、弾性を有するゴム部材によって構成されているため、右側回転軸接続部材80に対して矢印Y7が示す向きへ向かう荷重が作用すると、右側回転軸支持部材58が弾性変形し、右側回転軸72は、右側回転軸支持部材58との接続部を中心として回動するようにして、その端部がハンドル前方へ向かって移動し、正常状態が変動する。
【0107】
矢印Y7が示す向きへの右側回転軸接続部材80の移動に応じて、第1当接部86がスイッチレバー78の先端部に対してハンドル後方側から当接する。更に右側回転軸接続部材80の前方への移動が進むと、スイッチレバー78の先端部がハンドル前方へ向かって押されていく。そして、一定量以上、スイッチレバー78が押されると、オフ状態のスイッチ76がオン状態(図24、25の状態)となり、駆動部の駆動が停止する。以上のようにして、本実施形態に係る右側挟圧安全機構1ARは、ケースC5の場合にも、挟圧の発生の可能性に応じて、駆動部の駆動を停止する。
【0108】
<第3実施形態>
次に、第3実施形態について説明する。ここで、上述した第2実施形態では、左側挟圧安全機構1ALに関し、弾性部材により構成された左側回転軸支持部材51により左側回転軸61が支持されていた。また第2実施形態では、この左側回転軸61に、クラッチ杆6Aと連動して動く左側回転軸接続部材50が支持されていた。この左側回転軸接続部材50には、クラッチワイヤー連結部材68が取り付けられており、クラッチ杆6Aが正常接続体勢となると、クラッチワイヤー67が引っ張られてクラッチ7が接続する構成であった。このような構造では、以下の改善点がある。
【0109】
図26は、説明の便宜のため、第2実施形態の上述した構造を単純化して示す図である。図26の各図において、符号1Xは弾性部材により構成された回転軸支持部材を、符号2Xは回転軸支持部材1Xに支持された回転軸を、符号3Xは回転軸2Xに支持された接続部材を、符号4Xは接続部材3Xと一体的に構成されたクラッチ杆を、符号5Xは接続部材3Xに取り付けられたクラッチワイヤー連結部材を、符号6Xはクラッチワイヤー連結部材5Xに接続するクラッチワイヤーをそれぞれ示している。図26(A)のクラッチ杆4Xは、正常遮断体勢であり、図26(B)のクラッチ杆4Xは正常接続体勢である。
【0110】
図26(B)で示すように、クラッチ杆4Xが正常接続体勢となると、回転軸2Xに対するクラッチワイヤー連結部材5Xの相対的な位置が変移し、クラッチワイヤー6Xが引っ張られた状態となる。このとき、クラッチワイヤー6Xには強いテンションが加わり、これに起因して、クラッチワイヤー連結部材5Xには、図中で矢印YJ1が示す向きに引っ張るテンションが加わる。以下の説明では、クラッチワイヤー(本例では、クラッチワイヤー6X。第3実施形態ではクラッチワイヤー103)が引っ張られ、クラッチワイヤーにテンションが加わることによって、クラッチワイヤーがその端部に作用させるテンションの向きを「第1向きYJ1」という。
【0111】
クラッチワイヤー6Xが作用させる第1向きYJ1のテンションに起因して、接続部材3Xに対して第1向きYJ1へ移動させようとする力が加わり、更に接続部材3Xを支持する回転軸2Xに対しても、その先端部を第1向きYJ1へ移動させようとするテンションが加わる。そして、正常接続体勢のときに回転軸2Xに加わる第1向きYJ1の力に起因して、正常接続体勢となると回転軸2Xの先端部が、第1向きYJ1に少しだけ移動する場合がある。ここで、回転軸2Xは、クラッチ杆4Xの回動の支軸として機能するものであり、正常接続体勢と正常遮断体勢との間でクラッチ杆4Xが正常に移動している間は、その姿勢が変化しないことが望まれる。クラッチ杆4Xの移動に応じて、支軸たる回転軸2Xが移動してしまうと、クラッチ杆4Xが支軸を中心として回動するだけでなく、回転軸2Xの第1向きYJ1側への移動に伴って全体的に第1向きYJ1に向かって移動してしまい、このことがクラッチ杆4Xの操作性に悪影響を与える可能性があるからである。つまり、図26の構造では、正常接続体勢のときに発生する回転軸2Xの先端部の移動が操作性に悪影響を与える可能性があり、この点で改善の余地がある。
【0112】
これを踏まえ、本実施形態では、挟圧安全機構100に調整機構101を設け、この調整機構101により、クラッチ杆6Bが正常接続体勢となったときにクラッチワイヤー103が作用させる第1向きYJ1のテンションが、左側回転軸104(特許請求の範囲の「第2の回転軸」に相当)に作用することが抑制されるようにしている(後に明らかとなる通り、本実施形態では、第1向きYJ1と反対の向きが左側回転軸104に作用するようにしている)。以下、本実施形態に係る挟圧安全機構100について詳述する。ただし、以下の説明において第1実施形態と同一の要素については、第1実施形態と同一の符号を付し、その詳細な説明を省略する。また、第3実施形態に係る挟圧安全機構100が適用される歩行型作業車両2Bの構成は、挟圧安全機構100に関連する部分を除いて基本的に第1実施形態と同じであるため、歩行型作業車両2B本体の構成に関しては、適宜、図1、2を援用する。
【0113】
図27は、歩行型作業車両2Bにおけるハンドル杆5Bおよびクラッチ杆6Bの部分を後上方より見た斜視図である。図27では、左右の支点部材140(図43、44)の図示を省略している。このことは、図28~32、34~38、40~42についても同様である。なお、左右の支点部材140は、第1実施形態の左右の支点部材31と同様の機能を有する部材であり、後に図43を用いてその機能について説明する。図27においてクラッチ杆6Bは、正常遮断体勢である。本実施形態では、ハンドル前方、ハンドル後方、ハンドル左方、ハンドル右方、ハンドル上方、ハンドル下方を第1実施形態と同様に定義する。
【0114】
図27に示すように、歩行型作業車両2Bは、第1、2実施形態と同様、ハンドル杆5Bと、このハンドル杆5Bの上方に配置されたクラッチ杆6Bとを備えている。ハンドル杆5Bは、車体から車体後方に向かって延設される左の縦方向ハンドル杆部14BLと、右の縦方向ハンドル杆部14BRと、これらハンドル杆部の間に横架された横方向ハンドル杆部15Bとを有するループ式の構成である。また、クラッチ杆6Bは、左の縦方向クラッチ杆部16BLと、右の縦方向クラッチ杆部16BRと、これらクラッチ杆部の間に横架された横方向クラッチ杆部17Bとを有するループ式の構成である。図27に示すように、挟圧安全機構100は、左の縦方向クラッチ杆部16BL側に設けられた左側挟圧安全機構108Lと、右の縦方向クラッチ杆部16BR側に設けられた右側挟圧安全機構108Rとを含んで構成されている。
【0115】
図28~32は、左側挟圧安全機構108Lの説明に利用する図である。図28は、左側挟圧安全機構108Lをハンドル後方のややハンドル右方側から見た図である。図29は、左側挟圧安全機構108Lをハンドル後方側からハンドル前方に向かって見た図である。図30は、左側挟圧安全機構108Lをハンドル左方側からハンドル右方に向かって見た図である。図31は、左側挟圧安全機構108Lをハンドル右方側からハンドル左方に向かって見た図である。図32は、図31について、左側回転軸接続部材110(後述)を透明化して表した図である。図28~32では、クラッチ杆6Bは正常遮断体勢である。
【0116】
図28~32に示すように、左の縦方向クラッチ杆部16BLの先端部には、連結部材111が固定されており、この連結部材111には、ハンドル後方側から見たときにU字状(特に図29参照)の左側回転軸接続部材110(特許請求の範囲の「回転軸接続部材」に相当)が接続されている。左側回転軸接続部材110は、連結部材111に連結された部分と、この部分から下方に垂れ下がった板状の第1下方延在部112と、この第1下方延在部112のハンドル左方側の対向する場所に位置し、下方に垂れ下がった板状の第2下方延在部113とを備えている。第1下方延在部112と第2下方延在部113との間には間隙が形成されており、この間隙に左側回転軸支持部材114(特許請求の範囲の「第2の回転軸支持部材」に相当。詳細は後述)が配置される。なお、本実施形態では、左側回転軸接続部材110を左の縦方向クラッチ杆部16BLとは別部材として構成しているが、左側回転軸接続部材110と、左の縦方向クラッチ杆部16BLとを一体的に構成してもよい。
【0117】
左の縦方向ハンドル杆部14BLには、左側立ち上がり部材115が固定されており、この左側立ち上がり部材115により、左の縦方向ハンドル杆部14BLからハンドル右方に離間した位置で左側収容部材116が支持されている(特に、図28、29、32参照)。左側収容部材116は、第1下方延在部112と第2下方延在部113との間隙に位置した状態で左側立ち上がり部材115に支持されている。
【0118】
左側収容部材116は、ハンドル右方側の面およびハンドル左方側の面が開口し、「ハンドル左方-右方」に幅をもった枠体であり、その内部に左側回転軸支持部材114が収容されている(特に、図31、32参照)。この左側回転軸支持部材114は、左側回転軸104を支持する。図33(A)は、図32について左側収容部材116、左側回転軸支持部材114および左側回転軸104を抜き出して示す図である。図33(B)は、(A)のC-C断面図である。左側回転軸支持部材114は弾性を有する弾性部材(本実施形態では、ゴム部材)により構成されている。特に、左側回転軸支持部材114は、右側回転軸支持部材118(後述)を構成するゴム部材よりも弾性変形しにくい、より硬いゴム部材によって構成されている。
【0119】
図33(A)に示すように、左側回転軸支持部材114は、ハンドル上方に向かって、左側下層弾性部材119と左側中層弾性部材120と左側上層弾性部材121との3層のゴム部材により構成されている。図33(A)、(B)に示すように、左側回転軸104は、左側収容部材116のハンドル後方かつハンドル下方の隅部において、左側収容部材116を「ハンドル左方-右方」方向に貫通した状態で、左側収容部材116内に挿入される。左側回転軸104は、左側下層弾性部材119のハンドル後方側の側面、左側中層弾性部材120のハンドル下方側の下面の一部、及び、左側収容部材116の内面に接触しつつ、各面に囲まれ、左側下層弾性部材119および左側中層弾性部材120によって左側収容部材116の内面に押し付けられる。このため、左側回転軸104に何ら力が加わっていない状態では、左側回転軸104は、左側回転軸支持部材114に支持され、「ハンドル左方-右方」方向に延びた正常状態が維持される。
【0120】
一方、左側回転軸104の露出した部分に対して、ハンドル前方に向かう強い力が加わった場合、左側回転軸104は、正常状態から変動し、左側下層弾性部材119を撓ませつつ、左側下層弾性部材119により加わる力に抗してハンドル前方に向かって移動する。同様に、左側回転軸104の露出した部分に対して、ハンドル上方に向かう強い力が加わった場合、左側回転軸104は、左側中層弾性部材120を撓ませつつ、左側中層弾性部材120により加わる力に抗してハンドル上方に向かって移動する。一方、左側回転軸104は、左側収容部材116の内面に動きが規制されて、ハンドル下方側、および、ハンドル後方側(ハンドル下方とハンドル後方との間に含まれる向きを含む)には移動しない。
【0121】
本実施形態では、左側回転軸支持部材114および関連する部材をこのような構成とすることにより、左側回転軸支持部材114がハンドル前方に移動するときは、主に左側下層弾性部材119がこの移動に抵抗するようにし、左側回転軸支持部材114がハンドル上方に移動するときは、主に左側中層弾性部材120がこの移動に抵抗するようにしている。このため、左側下層弾性部材119および左側中層弾性部材120の硬さ、弾性力(当然、左側上層弾性部材121の硬さ、弾性力を加味してもよい)を独立して調整することにより、左側回転軸104のハンドル上方への移動に対する抵抗の強さ(移動のしにくさ)、および、ハンドル前方への移動に対する抵抗の強さ(移動のしにくさ)を独立して調整することができる。このことによる効果は後に説明する。
【0122】
左側回転軸支持部材114に支持された左側回転軸104のハンドル右方側の端部は、第1下方延在部112の上下方向の略中央部に形成された第1接続部材貫通孔122(図28、31)に挿通される。また、左側回転軸104のハンドル左方側の端部は、第2下方延在部113の上下方向の略中央部に形成された第2接続部材貫通孔123(後述する図37)に挿通される。これにより、左側回転軸104を介して、左側回転軸接続部材110に連結されたクラッチ杆6Bが、ハンドル杆5Bに対して回転可能に軸支された状態となる。
【0123】
第1下方延在部112において、第1接続部材貫通孔122の正常遮断体勢におけるハンドル下方には、正常遮断体勢における「ハンドル上方-下方」に沿って延在し、第1下方延在部112を貫通する第1ガイド用切欠き124(特許請求の範囲の「ガイド用切欠き」に相当)が形成されている。第2下方延在部113において、第1ガイド用切欠き124に対応する位置には、同様の形状の第2ガイド用切欠き125(特許請求の範囲の「ガイド用切欠き」に相当)が形成されている。
【0124】
左側収容部材116の下面には、一対の第1軸支持部材126と第2軸支持部材127とが固定されている。第1軸支持部材126と第2軸支持部材127とは、間隙が形成された状態で対向し、左側回転軸接続部材110のハンドル後方で、「ハンドル左方-右方」方向に伸びる回動部材軸128を支持する。第1軸支持部材126および第2軸支持部材127は、左側収容部材116に対して動かない状態で固定されているため、左の縦方向ハンドル杆部14BL(ハンドル杆5B)に対する回動部材軸128の相対的な位置は固定され、クラッチ杆6Bの状態に関わらず、左の縦方向ハンドル杆部14BLに対する回動部材軸128の相対的な位置は同じである。
【0125】
回動部材軸128には、回動部材129が回動可能な状態で軸支されている。回動部材129は、細く延びる板状の部材であり、中央部に対して一方の端部である回動部材上方側端部130に偏った位置で折り曲がっている。なお、回動部材129の形状は、クラッチワイヤー接続部材132(後述)と挿通部136(後述)との位置関係を適切にし、クラッチ杆6Bが正常遮断体勢から正常接続体勢へと回動する過程で、その回動量に対するクラッチワイヤー103が引っ張られる量が適切となるように、設計される。回動部材129の折り曲がった部分に貫通孔が形成されており、この貫通孔に回動部材軸128が挿通されており、これにより回動部材129は回動部材軸128に軸支されている。回動部材軸128には、回動部材軸128における回動部材129の「ハンドル左方-右方」方向への移動を規制する規制部材131(図28、29参照)が挿通されており、回動部材129の回動部材軸128における「ハンドル左方-右方」方向への移動が規制されている。
【0126】
回動部材上方側端部130は、回動部材129の両端のうち、クラッチ杆6Bが正常遮断体勢のときに、ハンドル上方側に位置する端部である。回動部材上方側端部130には、「ハンドル左方-右方」方向に伸びる棒状のクラッチワイヤー接続部材132の一方の端部が接続されている。クラッチワイヤー接続部材132の他方の端部は、左側回転軸接続部材110のハンドル後方において、第2下方延在部113をハンドル左方側に超えた場所に位置しており、この他方の端部には、クラッチワイヤー103のワイヤー端部133が接続されている。
【0127】
回動部材129の両端のうち、回動部材上方側端部130と反対側の端部である回動部材下方側端部135には、「ハンドル左方-右方」方向に伸びる棒状の挿通部136が貫通した状態で固定されており、回動部材下方側端部135において、回動部材129により挿通部136が支持されている。挿通部136は、そのハンドル右方側の端部が、第1下方延在部112に形成された第1ガイド用切欠き124を通って当該切欠きをハンドル右方側に超え、かつ、そのハンドル左方側の端部が、第2下方延在部113に形成された第2ガイド用切欠き125を通って当該切欠きハンドル左方側に超えた状態で「ハンドル左方-右方」方向に延在している(特に図28、29参照)。
【0128】
以上の構造の下、回動部材軸128、この回動部材軸128に軸支された回動部材129、および、これら部材に付随する部材が調整機構101として機能する。そして、クラッチ杆6Bが正常遮断体勢から正常接続体勢へと移行すると、調整機構101の機能により、各部材が以下の態様で動作し、以下の機能を発揮する。
【0129】
図34は、正常遮断体勢から正常接続体勢へと移行している途中の状態の左側挟圧安全機構108Lを示す図であり、図35は、正常接続体勢の左側挟圧安全機構108Lを示す図である。図34および図35は共に、図32に対応しており、正常遮断体勢から正常接続体勢へと向かって図32図34図35の順番で時間が経過している。また図36および図37は共に正常接続体勢のときの左側挟圧安全機構108Lを示す図であり、図36図28に対応し、図37図30に対応する。
【0130】
図34に示すように、クラッチ杆6Bが正常遮断体勢から正常接続体勢へ向かって、規定回動方向KD1へ回動すると、クラッチ杆6Bに固定的に接続された左側回転軸接続部材110もクラッチ杆6Bと連動して動き、左側回転軸接続部材110は左側回転軸104を中心として規定回動方向KD1に回動する。左側回転軸接続部材110を構成する第1下方延在部112に着目し、第1下方延在部112が左側回転軸104を中心として規定回動方向KD1に回動すると、第1ガイド用切欠き124も、その下端部138とその上端部139とを結ぶ仮想線上に左側回転軸104(厳密には左側回転軸104よりも若干ハンドル前方側の部位)が位置した状態を維持しつつ、その下端部138が上端部139よりも半径が大きな弧を描くように姿勢を変化させながら回動する。第2ガイド用切欠き125についても同様である。
【0131】
図34に示すように、第1ガイド用切欠き124および第2ガイド用切欠き125の回動(移動)に応じて、第1ガイド用切欠き124のハンドル後方側の内面137(図32、34、35、37)が、挿通部136に当接し、徐々に挿通部136を押し上げていく。これに応じて、挿通部136が第1ガイド用切欠き124および第2ガイド用切欠き125に案内されてこれら切欠きの内面137に対して第2向きYJ2(後述)に向かう力を作用させつつ摺動し、この挿通部136の摺動に応じて回動部材129が回動部材軸128を中心として規定回動方向KD1に向かって回動する。
【0132】
回動部材129の回動に応じて、回動部材上方側端部130に接続されたクラッチワイヤー接続部材132、および、このクラッチワイヤー接続部材132に接続されたワイヤー端部133が、ハンドル後方の成分を含む向きに移動し、これによりクラッチワイヤー103が引っ張られていく。以下、ワイヤー端部133が引っ張られる向きを「第2向きYJ2」(図34、35、37)という。第2向きYJ2は、第1向きYJ1(図34、35、37)の反対の向きである。ワイヤー端部133が第2向きYJ2に引っ張られると、その反力として第1向きYJ1にテンションが働く。図35~37で示すように、クラッチ杆6Bが正常接続体勢となると、クラッチワイヤー103が十分に引っ張られた状態となり、クラッチ7が接続する。
【0133】
以上の通り、本実施形態の構成によれば、クラッチ杆6Bが正常遮断体勢から正常接続体勢へ移行する過程で、クラッチ杆6Bの移動に応じて、クラッチワイヤー103を徐々に引っ張って、クラッチ杆6Bが正常接続体勢となったときにクラッチ7を接続することができる。その上で、本実施形態の構成によれば、以下の効果を奏する。
【0134】
クラッチ杆6Bが正常遮断体勢から正常接続体勢へ移行する過程で、クラッチワイヤー103が引っ張られていくと、当該ワイヤーを第2向きYJ2に引っ張る力の反力として、クラッチワイヤー103がワイヤー端部133を第1向きYJ1に引っ張る力が生じる。この力は、クラッチ杆6Bが正常接続体勢へ近づけば近づくほど、強くなる。図26(A)、(B)を用いて説明した構造では、この力が、間接的に回転軸2Xに作用し、正常接続体勢において回転軸2Xを少しだけ移動させる要因となっていた。
【0135】
一方、本実施形態では、正常遮断体勢から正常接続体勢へ向かうクラッチ杆6Bの移動に応じて、左側回転軸接続部材110(第1下方延在部112および第2下方延在部113)の姿勢が上述した態様で変移すると、挿通部136が、第1ガイド用切欠き124および第2ガイド用切欠き125の下端部138から上端部139に向かって、各切欠きの内面137に摺動しながら移動しつつ、第2向きYJ2へ向かう力を内面137に作用させる。この結果、左側回転軸104には、クラッチワイヤー103に起因した第1向きYJ1へ移動させようとする力が加わらず、逆に、第2向きYJ2へ向かう力が作用する。上述したように、左側回転軸104は、左側収容部材116により、ハンドル後方(第2向きYJ2に対応する向き)へ向かう移動が規制されるため、左側回転軸104に対して第2向きYJ2へ向かう力が作用しても、左側回転軸104は移動しない。このため、正常遮断体勢から正常接続体勢へ向かうクラッチ杆6Bの移動中、クラッチワイヤー103に起因した位置の変動が発生しない。
【0136】
図38~42は、右側挟圧安全機構108Rの説明に利用する図である。図38は、右側挟圧安全機構108Rをハンドル右方側からハンドル左方へ向かって見た図である。図39は、図38において、右の縦方向ハンドル杆部14BRの一部を抜き取り、要部を見やすくした図である。図40は、右側挟圧安全機構108Rをハンドル左方側からハンドル右方へ向かって見た図である。図41は、右側挟圧安全機構108Rをハンドル下方のややハンドル右方側から見た図である。図42は、右側挟圧安全機構108Rをハンドル下方側からハンドル上方へ向かって見た図である。図38~42では、クラッチ杆6Bは正常接続体勢である。
【0137】
図38~42に示すように、右の縦方向ハンドル杆部14BRには、右側立ち上がり部材141が固定されており、この右側立ち上がり部材141により、右の縦方向ハンドル杆部14BRからハンドル左方に離間した位置で右側収容部材142が支持されている。右側収容部材142は、ハンドル右方側の面およびハンドル左方側の面が開口し、「ハンドル左方-右方」方向に幅をもった枠体であり、その内部に右側回転軸支持部材118(特許請求の範囲の「第1の回転軸支持部材」に相当)が収容される。
【0138】
右側収容部材142内において、ハンドル後方およびハンドル下方の隅部には、右側回転軸143(特許請求の範囲の「第1の回転軸」に相当)が「ハンドル左方-右方」方向に延在した状態で挿入されている。右側回転軸143は、そのハンドル右方側が、右側回転軸支持部材118のハンドル右方側の面をハンドル右方側に超えて延在している。また、右側回転軸143は、そのハンドル左方側が、右側回転軸支持部材118のハンドル左方側の面をハンドル左方側に超えて延在している。
【0139】
右側回転軸支持部材118は、右側下層弾性部材144、右側中層弾性部材145および右側上層弾性部材146により構成される。右側回転軸143は、右側下層弾性部材144のハンドル後方側の側面および右側中層弾性部材145のハンドル下方側の下面の一部により、右側収容部材142の内面に押し付けられた状態で支持される。このため、右側回転軸143に何ら力が加わっていない状態では、右側回転軸143は、「ハンドル左方-右方」方向に延びた正常状態が維持される。このような構成のため、左側回転軸支持部材114と同様、右側下層弾性部材144および右側中層弾性部材145の硬さ、弾性力(当然、右側上層弾性部材146の硬さ、弾性力を加味してもよい)を独立して調整することにより、右側回転軸143のハンドル上方への移動に対する抵抗の強さ(移動のしにくさ)、および、ハンドル前方への移動に対する抵抗の強さ(移動のしにくさ)を独立して調整することができる。
【0140】
図38~42に示すように、右の縦方向クラッチ杆部16BRの先端部には、右側回転軸接続部材148が接続されている。右側回転軸接続部材148は、右の縦方向クラッチ杆部16BRの先端部に固着された部分と、この部分から、ハンドル下方に垂れ下がった板状の右側下方延在部149とを有している。この右側下方延在部149においてハンドル右方側の面には、孔が形成されており、この穴に右側回転軸143のハンドル右方側の端部が入り込むことによって、右側下方延在部149およびこの右側下方延在部149に接続されたクラッチ杆6Bが右側回転軸143に支持されている。
【0141】
右側立ち上がり部材141のハンドル右方側の面において、右側収容部材142よりもハンドル後方側には、スイッチ150が取り付けられている。スイッチ150は、押下式のボタン151を備えている。スイッチ150は、ボタン151が押下されているときはオフ状態であり、ボタン151が押下されていないときにオン状態となる。スイッチ150がオン状態となると、動力源の動作が停止し、動力源から駆動部への動力の供給が停止し、これに伴って駆動部の駆動が停止する。スイッチ150がオン状態となったときに駆動部の駆動を停止させる方法の例は第1、2実施形態で説明した通りである。
【0142】
図39、41、42で示すように、スイッチ150のボタン151は、スイッチ150の筐体のハンドル前方側の側面であって、右側回転軸143が配置された位置に対応する位置に設けられている。そして、正常接続体勢においては、右側回転軸143のハンドル右方側の端部により、スイッチ150のボタン151が押圧され、スイッチ150がオフ状態とされる。正常遮断体勢においても、また、正常接続体勢と正常遮断体勢との間の状態においても、右側回転軸143の状態はほとんど変化せず、「ハンドル左方-右方」方向に延びた正常状態が維持される。換言すれば、このような正常状態が維持されるように、右側回転軸支持部材118を含む関連部材が適切に設計されている。このため、クラッチ杆6Bが正常遮断体勢と正常接続体勢との間にある限り、スイッチ150のボタン151が押圧された状態が維持され、スイッチ150はオフ状態となる。
【0143】
図43および図44はそれぞれ、異なる状態の右側挟圧安全機構108Rを示す図であり、それぞれ図39に対応する。上述したように、挟圧が発生した場合、正常接続体勢にあるクラッチ杆6Bに対して、クラッチ杆を規定回動方向KD1に回動させようとする過剰な荷重が加わるケースと、正常接続体勢にあるクラッチ杆6Bに対して、クラッチ杆6Bを前方に移動させようとする過剰な荷重が加わるケースがある。
【0144】
図43を参照し、クラッチ杆を規定回動方向KD1に回動させようとする過剰な荷重が加わると、支点部材140を支点として、右の縦方向クラッチ杆部16BRの先端部がハンドル上方に向かって移動する。この移動に伴って、右側回転軸接続部材148が全体としてハンドル上方に向かって移動し、右側回転軸接続部材148に接続された右側回転軸143の状態が正常状態から変動し、右側回転軸143はハンドル上方に向かって移動する。この結果、図43に示すように、右側中層弾性部材145の抗力に反し、右側中層弾性部材145を撓ませて、右側回転軸143がハンドル上方に向かって移動する。すると、スイッチ150のボタン151が右側回転軸143の押圧から解放され、スイッチ150がオン状態となり、駆動部の駆動が停止する。
【0145】
また、図44を参照し、正常接続体勢にあるクラッチ杆6Bに対して、クラッチ杆6Bをハンドル杆5Bに対して相対的にハンドル前方に移動させようとする過剰な荷重が加わると、クラッチ杆6Bがハンドル杆5Bに対して相対的にハンドル前方に移動する。この移動に伴って、右側回転軸接続部材148が全体としてハンドル前方に向かって移動し、右側回転軸接続部材148に接続された右側回転軸143の状態が正常状態から変動し、右側回転軸143はハンドル前方に向かって移動する。この結果、図44に示すように、右側下層弾性部材144の抗力に反し、右側下層弾性部材144を撓ませて、右側回転軸143がハンドル前方に向かって移動する。すると、スイッチ150のボタン151が右側回転軸143の押圧から解放され、スイッチ150がオン状態となり、駆動部の駆動が停止する。
【0146】
ここで、上述したように左側回転軸支持部材114を構成する左側下層弾性部材119、左側中層弾性部材120および左側上層弾性部材121、および、右側回転軸支持部材118を構成する右側下層弾性部材144、右側中層弾性部材145および右側上層弾性部材146は、その硬さ、弾性力を独立して調整することができる。これを踏まえ、クラッチ杆6Bに過剰な荷重が加わったときにスイッチ150のボタン151が右側回転軸143の押圧から解放されるようにするという観点の下で行われるテストやシミュレーションに基づいて、各部材は、適切なものが採用される。単純な一例として、本実施形態の構成によれば、右側回転軸支持部材118の右側下層弾性部材144を、右側中層弾性部材145よりも硬く、弾性変形しにくいものとする、といったことが可能である。ただし、左側回転軸支持部材114を構成する左側下層弾性部材119は、右側回転軸支持部材118を構成する右側下層弾性部材144よりも固く、弾性変形しにくいものとされる。更に左側回転軸支持部材114を構成する左側中層弾性部材120は、右側回転軸支持部材118を構成する右側中層弾性部材145よりも固く、弾性変形しにくいものとされる。このことによる効果は第2実施形態で述べた通りである。
【0147】
なお、第2実施形態について、本実施形態を応用して、本実施形態に係る調整機構101のように、クラッチ杆6Aが正常接続体勢となったときにクラッチワイヤー67が作用させる第1向きのテンションが、左側回転軸支持部材51(第2の回転軸支持部材)に支持された左側回転軸61(第2の回転軸)に作用することを抑制する調整機構を設けるようにしてもよい。
【0148】
また、第2実施形態について、本実施形態を応用して、左側回転軸支持部材51および右側回転軸支持部材58について、規定回動方向KD1に移動させる荷重がクラッチ杆6Aに付加されて左側回転軸61および右側回転軸72が移動したときに、その移動に対して加わる抵抗の強さと、ハンドル前方に移動させる荷重がクラッチ杆6Aに付加されて左側回転軸61および右側回転軸72が移動したときに、その移動に対して加わる抵抗の強さとを独立して調整可能としてもよい。
【0149】
また、調整機構101の具体的構造は、本実施形態で例示した構造に限られず、クラッチ杆6Bが正常接続体勢となったときにクラッチワイヤー103が作用させる第1向きのテンションが、左側回転軸支持部材114に支持された左側回転軸104に作用することを抑制するような機構であればよい。
【0150】
以上、発明の実施形態を3つ説明したが、上記各実施形態は、何れも本発明を実施するにあたっての具体化の一例を示したものに過ぎず、これによって本発明の技術的範囲が限定的に解釈されてはならないものである。すなわち、本発明はその要旨、またはその主要な特徴から逸脱することなく、様々な形で実施することができる。
【0151】
例えば、上記実施形態では、ハンドル杆5が車体3の後方に向けて取り付けられた歩行型作業車両2を例示して説明したが、本発明はこれに限定されない。一例として、ハンドル杆をその根元部分を中心として回動させることによって、ハンドル杆の取付方向を前後に切り替え可能に構成された歩行型作業車両や、ハンドル杆の取付方向が図1とは反対に、車体の前方に向けて取り付けられた歩行型作業車両にも本発明を適用可能である。
【0152】
また、例えば、第2実施形態において、スイッチ76の構造は例示したものに限られない。すなわち、クラッチ杆6Aへの過剰な荷重に応じた右側回転軸接続部材80の移動により、当接部85が当接し、オン状態となるような構造であればよい。同様に、第3実施形態についてもスイッチ150の具体的構造は例示したものに限られない。
【0153】
なお、クラッチ杆6に対して正常ではない荷重が加わった場合に駆動部の駆動が停止する構成は、第1、第2、第3実施形態で示した構成に限らず、駆動部に対する動力の供給が停止され駆動部が停止する構成であればよい。例えば、第1実施形態では、クラッチ杆6に対して正常ではない荷重が加わった場合に、クラッチワイヤー12が動作してクラッチ7が切断され、動力源から駆動部への動力の伝達が遮断されることによって、駆動部の駆動が停止する構成であった。しかしながら、駆動部の駆動が停止する構成は、この構成に限らず、所定の手段により駆動部に対する動力の供給が停止され駆動部が停止する構成であればよい。一例として、クラッチワイヤー12の動作に応じて、所定のスイッチがオンされ、動力源の動作が停止する構成としてもよい。その際、クラッチ7の切断と、動力源の動作の停止が同時に行われるようにしてもよい。
【0154】
また例えば、第2実施形態では、クラッチ杆6Aに対して正常ではない荷重が加わった場合に、スイッチ76がオン状態となり、動力源の動作が停止し、これに伴って駆動部の駆動が停止する構成であった。しかしながら、駆動部の駆動が停止する構成は、この構成に限らず、所定の手段により駆動部に対する動力の供給が停止され駆動部が停止する構成であればよい。一例として、図示を省略したクラッチワイヤー67の途中に電磁ソレノイドを接続し、スイッチ76の作動に応じて電磁ソレノイドが作動してクラッチが遮断状態となるようにし、これにより、駆動部の駆動が停止する構成としてもよい。この場合に、クラッチの切断と、動力源の動作の停止が同時に行われるようにしてもよい。なお、第2実施形態において、クラッチが遮断状態となるようにすれば、挟圧安全機構1Aにより歩行型作業車両2Aの移動が停止した後も、走行車輪4を自由に回動させることができるため、歩行型作業車両2Aと障害物との間からの作業者の離脱が容易である。以上のことは、スイッチ150を有する第3実施形態についても同様である。
【0155】
また例えば、第2実施形態では、右側回転軸接続部材80の移動に応じて、右側回転軸接続部材80がスイッチ76のスイッチレバー78に当接し、スイッチ76をオン状態とする構成であった。この点に関し、正常接続体勢のときに、右側回転軸接続部材80が常にスイッチ76に当接するようにし、この状態のときはスイッチ76が作動しない構成とし、正常接続体勢から逸脱させる荷重がクラッチ杆6Aに付加され、右側回転軸支持部材58が弾性変形したときに、右側回転軸接続部材80の当接が解除され、この状態となったときにスイッチ76が作動する構成としてもよい。
【符号の説明】
【0156】
1、1A、100 挟圧安全機構
2、2A、2B 歩行型作業車両
3 車体
5、5A、5B ハンドル杆
6、6A、6B クラッチ杆
7 クラッチ
10 回転軸
11 軸受
14L、14AL、14BL 左の縦方向ハンドル杆部
14R、14AR、14BR 右の縦方向ハンドル杆部
15、15A、15B 横方向ハンドル杆部
16L、16AL、16BL 左の縦方向クラッチ杆部
16R、16AR、16BR 右の縦方向クラッチ杆部
17、17A、17B 横方向クラッチ杆部
26 挿入部
30 バネ(付勢部材)
36 穴部
38 壁部材
51、114 左側回転軸支持部材(第2の回転軸支持部材)
58、118 右側回転軸支持部材(第1の回転軸支持部材)
61、104 左側回転軸(第2の回転軸)
67、103 クラッチワイヤー
72、143 右側回転軸(第1の回転軸)
76、150 スイッチ
78 スイッチレバー(操作子)
85 当接部
101 調整機構
110 左側回転軸接続部材
124 第1ガイド用切欠き
125 第2ガイド用切欠き
128 回動部材軸
129 回動部材
136 挿通部
151 ボタン
図1
図2
図3
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