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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-19
(45)【発行日】2023-10-27
(54)【発明の名称】油中水中油型乳化油脂組成物
(51)【国際特許分類】
   A23D 7/005 20060101AFI20231020BHJP
   A23D 7/00 20060101ALI20231020BHJP
【FI】
A23D7/005
A23D7/00 504
A23D7/00 500
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019105202
(22)【出願日】2019-06-05
(65)【公開番号】P2020195351
(43)【公開日】2020-12-10
【審査請求日】2022-05-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000000387
【氏名又は名称】株式会社ADEKA
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】弁理士法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 茂夫
(72)【発明者】
【氏名】廣川 敏幸
【審査官】戸来 幸男
(56)【参考文献】
【文献】特開昭62-282543(JP,A)
【文献】特開平09-315955(JP,A)
【文献】日本食品工学会誌,2002年,vol.3, no.1,pp.1-7
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23D 7/00-7/06
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
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(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゲル化された内油相を有する油中水中油型乳化油脂組成物であって、
内油相が油脂ゲル化剤を含有し、20℃における貯蔵弾性率が20~2000Paのゲルであることを特徴とする、油中水中油型乳化油脂組成物。
【請求項2】
内油相の20℃における硬さが、5~1000g/cmであることを特徴とする、請求項1に記載の油中水中油型乳化油脂組成物。
【請求項3】
内油相を構成する油脂の20℃におけるSFCが0~30%であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の油中水中油型乳化油脂組成物。
【請求項4】
スプレッド用である、請求項1~3のいずれか1項に記載の油中水中油型乳化油脂組成物。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載の油中水中油型乳化油脂組成物の製造方法であって、内油相を、20℃における貯蔵弾性率が20~2000Paとなるようにゲル化する工程を含むことを特徴とする、油中水中油型乳化油脂組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、口溶けと風味の持続性が良好な、油中水中油型乳化油脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
パンに塗って使用したり、あるいはパンや菓子のフィリングとして使用する付けマーガリンなどに用いられる油脂組成物は、直接喫食され、また油脂組成物そのものの風味を味わうものである点で、ベーカリー生地に練り込んだり、あるいはフライの揚げ油等として使用する場合とは求められる特性が異なる。
【0003】
例えば、風味の面では、スプレッド用の油脂組成物は、油脂のコク味に加えて、水溶性や油溶性呈味成分を含有する場合は、その風味が十分に感じられることが必要である。そして、これらの風味は、スプレッド用の油脂組成物を口に入れたときから、嚥下する際まで長く穏やかに感じられることが必要である。したがって、スプレッド用の油脂組成物には風味の発現性と風味の持続性が要求される。また、物性の面では、フィリング作業時に溶解しない程度の耐熱性はもちろん、流通時に溶解せず、パンや菓子に含侵しない程度の耐熱性や保形性が求められる。
【0004】
これに対し、従来、スプレッド用の油脂組成物として、特に、内油相に液状油のような軟らかい油脂を使用する油中水中油型乳化油脂組成物が用いられてきた。これは、呈味成分を内油相と水相と外油相に分けて含有させることにより、油脂のコク味や風味を感じやすくなる他、内油相に液状油のような軟らかい油脂を用いることで、良好な口溶けを得ることができるためである。なお、当業者間では、油中水中油型乳化油脂組成物はO1/W/O2と表される場合があり、内油相はO1と表される場合があり、水相はWと表される場合があり、外油相はO2と表される場合がある。
【0005】
そして、油中水中油型乳化油脂組成物に関しては、例えば、特定の乳化剤を使用し、乳化状態の調整する方法(特許文献1、2参照)などが従来提案されてきた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2006-328254号公報
【文献】特開2003-213290号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
油中水中油型乳化油脂組成物の内油相に液状油のような軟らかい油脂を用いた場合、次のような問題があった。すなわち、液状油のような軟らかい油脂を用いて口溶けを良くすると、風味が持続しなくなるという問題があった。一般に口溶け性と風味持続性はトレードオフの関係にあり、具体的には、口溶け性を高めると急峻な風味発現となるため風味持続性が低下し、風味持続性を高めると口溶け性が悪化するという関係がある。このため、口溶け性と風味持続性を両立することが求められてきた。
【0008】
そしてこの問題点を解決するために、特許文献1、2のように乳化状態の調整を行ったとしても、口溶け性と風味持続性のバランスがとれた油中水中油型乳化油脂組成物を得られない場合があり、とりわけ口溶け性が低くなりやすかった。
【0009】
本願発明が解決しようとする課題は、内油相に液状油のような軟らかい油脂を用いた場合であっても、口溶け性と風味持続性とが両立された油中水中油型乳化油脂組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決すべく、本発明者らが油中水中油型乳化物のうち、特に内油相に着目し鋭意検討したところ、乳化状態の調整により口溶け性や風味持続性を改良する従来の方法とは全く異なり、油中水中油型乳化油脂組成物の内油相をゲル化し、内油相の物理的な性状を改質することにより、上記課題が解決されることを知見した。
【0011】
本発明は上記知見に基づいてなされたもので、ゲル化された内油相を有する油中水中油型乳化油脂組成物であって、内油相が油脂ゲル化剤を含有し、20℃における貯蔵弾性率が20~2000Paのゲルであることを特徴とする、油中水中油型乳化油脂組成物を提供するものである。本発明は、詳細には以下を提供する。
[1]ゲル化された内油相を有する油中水中油型乳化油脂組成物であって、
内油相が油脂ゲル化剤を含有し、20℃における貯蔵弾性率が20~2000Paのゲルであることを特徴とする、油中水中油型乳化油脂組成物。
[2]内油相の20℃における硬さが、5~1000g/cmであることを特徴とする、1に記載の油中水中油型乳化油脂組成物。
[3]内油相を構成する油脂の20℃におけるSFCが0~30%であることを特徴とする、1又は2に記載の油中水中油型乳化油脂組成物。
[4]スプレッド用である、1~3のいずれか1項に記載の油中水中油型乳化油脂組成物。
[5]1~4のいずれか1項に記載の油中水中油型乳化油脂組成物の製造方法であって、内油相を、20℃における貯蔵弾性率が20~2000Paとなるようにゲル化する工程を含むことを特徴とする、油中水中油型乳化油脂組成物の製造方法。
【発明の効果】
【0012】
本願発明によれば、内油相に液状油のような軟らかい油脂を用いた場合であっても、口溶け性(風味発現性)と風味持続性とを両立している油中水中油型乳化油脂組成物を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
[油中水中油型油脂組成物]
以下、本発明の油中水中油型乳化油脂組成物について詳述する。
【0014】
本発明品は、その乳化型が油中水中油型であることが必要であるが、本発明でいう油中水中油型には、O1/W/O2型の油中水中油型に加えて、油中油型(O/O型)を含むものとする。なお、O/O型の乳化形態とは、油中水中油型の乳化形態の一種であり、外油相中に、1つの内油相をもったO/W乳化物が多数存在する状態を指す(特開2004-267166号公報; 英国特許第614925号明細書)、第1頁左欄8~11行及び第2頁48~57行; 油脂 Vol.38,No.8(1985),第81~84頁; 渡辺隆夫著、「食品開発と界面活性剤-その基礎と応用-」株式会社光琳、平成2年3月10日発行、第119~122頁(この文献ではW/O/W型乳化の一種としてW/W型乳化が説明されている。))。
【0015】
<内油相>
はじめに、本発明の油中水中油型乳化油脂組成物の内油相について述べる。
以下、本発明の油中水中油型乳化油脂組成物の内油相を、単に「内油相」と記載する場合がある。
【0016】
(ゲル化、貯蔵弾性率、硬さ)
本発明の油中水中油型乳化油脂組成物は、内油相が、20℃における貯蔵弾性率が20~2000Paのゲル化である点に特徴を有する。このような油中水中油型乳化油脂組成物は、内油相を、20℃における貯蔵弾性率が20~2000Paとなるようにゲル化する工程を含む製造方法により得られる油中水中油型乳化油脂組成物でもある。
【0017】
内油相に用いる油脂の種類や、内油相に含有させる油脂ゲル化剤の種類によっても異なるが、口溶け性と風味持続性の観点から、内油相の20℃における貯蔵弾性率は20~2000Paであることが好ましい。内油相の20℃における貯蔵弾性率が2000Pa以下であることにより、本発明の油中水中油型乳化油脂組成物の硬さが硬くなりすぎず、油中水中油型乳化油脂組成物を喫食した際の食感が良好なものとなる。油中水中油型乳化油脂組成物がマーガリンである場合、より優れた口溶け性と風味持続性を発揮させるとの観点から、内油相の20℃における貯蔵弾性率は210~1500Paであることがより好ましく、240~1300Paであることがさらに好ましい。また、油中水中油型乳化油脂組成物がファットスプレッドである場合、より優れた口溶け性と風味持続性を発揮させるとの観点から、内油相の20℃における貯蔵弾性率は120~1500Paであることがより好ましく、130~150Paであることがさらに好ましい。
【0018】
内油相の貯蔵弾性率の値は、例えばThermoScientific社製の粘度・粘弾性測定装置(HAAKE MARS)によって、半径17.5mmの円盤型プランジャーを使用し、ギャップ1mm、サンプル量1mL、測定温度帯0~84℃の測定条件で、測定することにより得ることができる。
【0019】
ここで、ゲルの貯蔵弾性率とは、ゲルの内部に蓄えられた応力を保持する能力であり、動的挙動中におけるゲルの弾性を示す。また、ゲルとは、一般に、少量の固体状成分が多量の連続相である液体成分を吸収して一定限度の容積まで膨張し、弾性固体としての挙動を示すようになったものである。固体状成分がいわゆるゲル化剤として作用し、固体状成分が作る三次元的なネットワーク構造によって液体成分を包含することでゲルが構成される。
【0020】
本願発明においては、液状油(25℃で液体のもの)、又は溶解した油脂、すなわち液体状の油脂に、油脂をゲル化させる固体状成分として油脂ゲル化剤を添加・混合し、冷却したものをゲルとすることができる。なお、常温で固体の油脂を加熱溶融したものに、油脂ゲル化剤を添加・混合し、冷却した際に、油脂結晶が生じたことにより、固化しているものについても、本願においてはゲルとして扱うものとする。
【0021】
口溶け性と風味持続性をより高めるために、内油相の20℃における貯蔵弾性率を上記範囲とすることに加えて、本発明の内油相の20℃における硬さが5~1000g/cmであることが好ましい。油中水中油型乳化油脂組成物がマーガリンである場合、より優れた口溶け性と風味持続性を発揮させるとの観点から、内油相の20℃における硬さは20~1100g/cmであることがより好ましく、25~960g/cmであることがさらに好ましい。また、油中水中油型乳化油脂組成物がファットスプレッドである場合、より優れた口溶け性と風味持続性を発揮させるとの観点から、内油相の20℃における硬さは310~1000g/cmであることがより好ましく、340~400g/cmであることがさらに好ましい。
【0022】
内油相の50℃における硬さは、5~65g/cmであることが好ましく、20~40g/cmであることがより好ましい。
【0023】
内油相の硬さの値は、例えば不動工業社製レオメーターを用いて、φ10mmの円盤型プランジャーにより、サンプル進入速度20mm/分で最大応力を測定し、これをそのまま硬さとして得ることができる。
【0024】
(油脂の種類)
内油相に用いることのできる油脂の種類は食用であれば特に限定されないが、例えば、パーム油、パーム核油、ヤシ油、コーン油、綿実油、大豆油、菜種油、米油、ヒマワリ油、サフラワー油、オリーブ油、ピーナッツ油、胡麻油、牛脂、乳脂、豚脂、カカオ脂、魚油、鯨油等の各種植物油脂、動物油脂並びにこれらを水素添加、分別及びエステル交換から選択される一又は二以上の処理を施した加工油脂が挙げられる。本発明においては、これらの油脂を単独で用いることもでき、又は2種以上を組み合わせて油脂配合物として用いることもできる。なお、乳脂としてバターや発酵バターを使用する場合、内油相中の乳脂含量を計算する際は、バターや発酵バター中の純油分を用いて算出する。なお、本発明に関し、内油相を構成する油脂というときは、油脂を単独で用いる場合は当該油脂を指し、2種以上を組み合わせて油脂配合物として用いる場合は、油脂配合物を指す。
【0025】
内油相に用いる油脂の融点は、用いる油脂ゲル化剤のゲル化開始温度よりも低いことが好ましく、用いる油脂ゲル化剤によって一概に言えないが、55℃以下であることが好ましい。
【0026】
(SFC)
ここで、内油相の貯蔵弾性率や、好ましくは内油相の硬さについて、上記範囲を満たす観点から、内油相に用いる油脂の(2種以上を組み合わせて油脂配合物 として用いる場合は、油脂配合物としての)20℃におけるSFC(Solid Fat Content、固形脂肪含量)が0~35%であることが好ましく、0~30%であることがより好ましく、0.1~25%であることがより好ましい。20℃におけるSFCが上記範囲内である油脂を内油相に用いることで、内油相の、20℃における貯蔵弾性率や硬さを容易に上記範囲とすることができ、風味発現性や風味持続性が良好な油中水中油型乳化油脂組成物が得られやすくなる。
【0027】
SFCの値は、所定温度における油脂中の固体脂の含有量を示すもので、常法により測定することが可能であるが、本発明においては、AOCS official methodのcd16b-93に記載のパルスNMR(ダイレクト法)にて、測定対象となる試料のSFCを測定した後、測定値を油相量に換算した値を使用する。即ち、水相を含まない試料を測定した場合は、測定値がそのままSFCとなり、水相を含む試料を測定した場合は、測定値を油相量に換算した値がSFCとなる。(以下、SFCの測定について同様である。)
【0028】
(内油相の調製方法)
ここで、ゲル化された内油相を調製する方法について述べる。
本発明のゲル化された内油相は、液体状の油脂、すなわち液状油の場合はそのまま、常温で固体の場合は必要に応じ加温して液状とした油脂と、油脂ゲル化剤とを混合し、必要に応じ冷却することにより、調製することが可能である。
【0029】
具体的には、本発明のゲル化された内油相は、用いる油脂や油脂ゲル化剤の融点にもよるが、油脂と油脂ゲル化剤の混合物を50~80℃程度に加熱し、撹拌して均一に混合したのち、冷却することにより得られる。また、加熱した油脂に油脂ゲル化剤を添加し、撹拌して均一に混合したのち、冷却することにより得てもよい。さらに、後述する油中水中油型乳化油脂組成物の製造工程中、内油相を含む乳化物を調製した後に冷却することで、内油相をゲル化させてもよい。例えば、油脂ゲル化剤を含有した液体状の油脂を内油相として、水相と水中油型に乳化させた後、冷却してもよく、油脂ゲル化剤を含有した液体状の油脂を内油相として、水相と水中油型に乳化させた後、さらに外油相も加えて油中水中油型に乳化させた後に冷却してもよい。
【0030】
本発明の油中水中油型乳化油脂組成物の内油相をゲル化させる方法としては、油中水中油型乳化の安定化を図る観点から、油脂ゲル化剤を含有した液体状の油脂と水相とを水中油型に乳化させた後、さらに外油相も加えて油中水中油型に乳化させた後に冷却することが好ましい。なお、上記内油相をゲル化させる際の冷却は、徐冷による冷却を行ってもよく、急冷による冷却を行ってもよい。急冷する場合は0.5℃/秒以上の速度で冷却することが好ましく、1℃/秒以上の速度で冷却することがより好ましい。
【0031】
ここで、本発明の油中水中油型乳化油脂組成物の内油相に含有させる油脂ゲル化剤は、特に限定されず、油脂をゲル化させる能力を有する既存の公知物質を用いることができる。例えば、レシチン、グリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、プロピレングリコールモノエステル若しくはプロピレングリコールジエステル、ステロール類、ワックス類等が挙げられる。これらの油脂ゲル化剤は単独で含有させることができ、又は2種以上を組合せて用いることができる。尚、これらを含有する市販品を用いることも勿論できる。
【0032】
ここで、本願発明の油中水中油型乳化油脂組成物の内油相に用いる油脂ゲル化剤として、少量で効率よくゲル化させることができる点から、ポリグリセリン脂肪酸エステルを含有させることが好ましい。より好ましくはエステル化度が70%以上、平均重合度が10量体以上、脂肪酸組成における炭素数16~18の脂肪酸の割合が45%以上であるポリグリセリン脂肪酸エステルを用いることが好ましい。この条件を好ましく満たす市販品としては、例えば「TAISET AD」(太陽化学 社製)を用いることができる。
【0033】
本発明の油中水中油型乳化油脂組成物の内油相に含有させる油脂ゲル化剤の量は、内油相に用いられた油脂や油脂ゲル化剤の種類、ゲル化能によっても異なるため、20℃における貯蔵弾性率が上記範囲となるように適宜調整されるが、例えば内油相の油脂100質量部に対して0.3~3.5質量部含有させることが好ましく、0.8~3.2質量部含有させることがより好ましい。なお、油脂ゲル化剤を複数含有する場合には、それらの総量が上記範囲となるように含有させることが好ましい。
【0034】
ゲル化の状態を確認する方法としては、簡便な方法として、例えば油脂と油脂ゲル化剤の混合物をビーカー等の容器にとり、これを50~80℃に加熱し、撹拌混合した後冷却して得られたものを、容器を傾ける等して、その流動性等を目視で確認する方法が挙げられる。なお、上記のゲル化された内油相を得る方法のうち、内油相と水相とを水中油型に乳化した後に冷却する方法や、内油相と水相と外油相を油中水中油型に乳化した後に冷却する方法等の、内油相を含む乳化物を調製した後に冷却することで内油相をゲル化させる場合における、内油相のゲル化の確認については、上記方法で油脂がゲル化することを、油中水中油型乳化油脂組成物を製造する前に、別途、事前に確認することに加え、適宜、ゲルの貯蔵弾性率を測定し、20℃における貯蔵弾性率が20~2000Paとなるように、油脂ゲル化剤の種類の選択や内油相の油脂に対する添加量の調整を事前に行うことで足りる。なお、外油相に油脂ゲル化剤を加えると、得られる油中水中油型乳化物の口溶けが悪化し風味発現性が悪化する他、食感が硬く感じられる場合があるため、本発明においては油脂ゲル化剤を内油相に加えることにより内油相をゲル化する。
【0035】
本発明の油中水中油型乳化油脂組成物では、風味発現性や風味持続性を高める観点から、油脂ゲル化剤の存在する内油相に呈味成分を含有することが好ましい。連続相となる外油相に風味成分を含有させてもよいが、油脂ゲル化剤の存在する内油相に局在させることで、風味発現性や風味持続性が一層好ましく増す。該呈味成分は油溶性のものであればとくに制限されず使用することができ、例えば、乳脂、牛脂、豚脂、オリーブ油、ピーナッツ油などの特徴的な風味を有する食用油脂やそれらの風味を濃縮した風味油脂、ラー油やネギ油等のシーズニングオイル、油溶性香料などを挙げることができる。油溶性香料の例は、乳風味フレーバーである。
【0036】
<外油相>
次に、本発明の油中水中油型乳化油脂組成物の外油相について述べる。
本発明の油中水中油型乳化油脂組成物の外油相に用いられる油脂としては、食用であれば特に限定されないが、例えば、パーム油、パーム核油、ヤシ油、コーン油、綿実油、大豆油、菜種油、米油、ヒマワリ油、サフラワー油、オリーブ油、ピーナッツ油、胡麻油、牛脂、乳脂、豚脂、カカオ脂、魚油、鯨油等の各種植物油脂、動物油脂並びにこれらを水素添加、分別及びエステル交換から選択される一又は二以上の処理を施した加工油脂が挙げられる。本発明においては、これらの油脂を単独で用いることもでき、又は2種以上を組み合わせて油脂配合物として用いることもできる。なお、本発明に関し、外油相を構成する油脂というときは、油脂を単独で用いる場合は当該油脂を指し、2種以上を組み合わせて油脂配合物として用いる場合は、油脂配合物を指す。
【0037】
本発明の油中水中油型乳化油脂組成物では、これらの油脂を特に制限なく使用することが可能であるが、良好な口溶け性や風味発現性、風味持続性、良好なスプレッド性や保形性、耐熱性を有する油中水中油型乳化油脂組成物を得る観点から、外油相に用いる油脂(2種以上を組み合わせて油脂配合物として用いる場合は、油脂配合物としての)のSFCは、好ましくは20℃で5~50%、より好ましくは10~40%、さらに好ましくは10~30%とすることが好ましい。
【0038】
また、外油相に用いる油脂の(2種以上を組み合わせて油脂配合物として用いる場合は、油脂配合物としての)30℃のSFCは、好ましくは1~20%、より好ましくは2~17%、さらに好ましくは3~15%とすることが好ましい。
【0039】
また、良好な口溶け性や風味発現性、風味持続性、良好なスプレッド性や保形性、耐熱性を有する油中水中油型乳化油脂組成物を得る観点から、外油相に用いる油脂の(2種以上を組み合わせて油脂配合物として用いる場合は、油脂配合物としての)脂肪酸組成におけるラウリン酸の含量が20質量%以下であることが好ましく、15質量%以下であることがより好ましい。尚、外油相に用いる油脂の脂肪酸組成におけるラウリン酸の含量の下限は0質量%である。
【0040】
本発明の油中水中油型乳化油脂組成物中における油分含量は、特に制限されるものではないが、外油相と内油相を併せて、好ましくは30~90質量%、さらに好ましくは40~90質量%である。なお、該油分含量は、食用油脂含量に加え、油脂分を含有する原料中の純油分の合計量で算出するものとする。
【0041】
<水相>
次に、本発明の油中水中油型乳化油脂組成物の水相について述べる。
本発明の油中水中油型乳化油脂組成物の水分含量は、特に制限されるものではないが、好ましくは5~50質量%、より好ましくは10~40質量%、さらに好ましくは10~30質量%である。なお、該水分には、配合する水に加えて、水分を含有する原料中の純水分の合計量で算出するものとする。
【0042】
<内油相と水相と外油相との割合>
本発明の油中水中油型乳化油脂組成物においては、内油相と水相と外油相との割合は、乳化安定性が良好であり、また、油脂のコク味を感じやすくすることから、外油相の割合が好ましくは10%~90%、より好ましくは10%~85%とする。なお、本発明における内油相と水相と外油相との割合は、質量比率で、好ましくは1~20:10~40:50~90、さらに好ましくは1~15:10~30:60~90である。
【0043】
<リン脂質、モノグリセリド、その他>
ここで本発明の油中水中油型乳化油脂組成物は、外油相にリン脂質又はモノグリセリドを含有することが好ましく、水相にリン脂質を含有することが好ましい。
【0044】
(リン脂質)
本発明に使用するリン脂質は、特に限定されるものではなく、食品に使用できるリン脂質であればどのようなリン脂質でも構わない。上記リン脂質としては、例えば、ホスファチジルコリン、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルセリン、ホスファチジルイノシトール、ホスファチジルグリセロール、ホスファチジン酸等のジアシルグリセロリン脂質を使用することができ、さらに、これらのリン脂質に対し、ホスホリパーゼ等の酵素により酵素処理を行い、乳化力を向上させたリゾリン脂質や、リン脂質及び/又はリゾリン脂質を含有する食品素材を使用することもできる。本発明では、リン脂質としてこれらの中から選ばれた1種又は2種以上を用いることができる。上記リン脂質を外油相と水相の双方に含有させることで、得られる油中水中油型乳化油脂組成物が油性感の強い口溶けとなることが抑えられ、本発明の油中水中油型乳化油脂組成物の製造中に乳化が壊れて油中水型乳化物となってしまうことを抑制しやすい。
【0045】
ここで、外油相に含有させるリン脂質としては、上記リン脂質のうちの、リン脂質及び/又はリゾリン脂質を含有する食品素材を使用することが好ましく、とくに好ましくは、大豆レシチン、ナタネレシチン、卵黄レシチン、乳レシチン、コーンレシチン、サフラワーレシチン、卵黄油等の油溶性の食品素材や食品添加物が用いられる。
【0046】
また、水相に含有させるリン脂質としては水分散型のリン脂質を使用することが好ましい。水分散型のリン脂質としては、水溶液中でカゼインナトリウム等の高分子蛋白質と複合体を形成させた後濃縮あるいは粉末化した人工の脂質蛋白質複合体や、天然の脂質蛋白質複合体である、生体に存在するリン脂質と蛋白質の複合体(脂質二重膜)等を挙げることができるが、本発明では、昨今の天然物志向に合致すること及び風味が良好であること、さらには乳化安定性が良好であることから、天然の脂質蛋白質複合体を使用することが好ましい。なお、水分散型でないリン脂質を使用することも可能であるが、その場合は、使用するリン脂質の少なくとも10質量%、特に20質量%以上を水分散型として使用することが好ましい。その場合、まず水相に水分散型のリン脂質を分散させてから、水分散型でないリン脂質を分散させるとよい。
【0047】
本発明の油中水中油型乳化油脂組成物では、上述の理由から、水相に含有させるリン脂質は、リン脂質そのものよりも、リン脂質を含有する食品素材を用いることが好ましい。リン脂質を含有する食品素材としては、例えば、卵黄、大豆、及び牛乳、ヤギ乳、ヒツジ乳、人乳等の乳が挙げられる。本発明では、風味と食感の面から、乳由来のリン脂質を含有する食品素材を用いるのが好ましく、牛乳由来のリン脂質を含有する食品素材を用いるのがさらに好ましい。
【0048】
上記乳由来のリン脂質を含有する食品素材を使用する場合は、該食品素材は、固形分中のリン脂質の含有量が2質量%以上であることが好ましく、より好ましくは3質量%以上、さらに好ましくは4~40質量%である。
【0049】
また、上記のリン脂質を含有する食品素材は、液体状でも、粉末状でも、濃縮物でも構わない。但し、溶剤を用いて乳由来の固形分中のリン脂質の含有量が2質量%以上となるように濃縮した食品素材は、風味上の問題から、本発明においては用いないのが好ましい。
【0050】
上記の乳由来の固形分中のリン脂質の含有量が2質量%以上である食品素材としては、例えば、クリーム又はバターからバターオイルを製造する際に生じる水相成分が挙げられる。このクリーム又はバターからバターオイルを製造する際に生じる水相成分は、通常のクリームからバターを製造する際に生じるいわゆるバターミルクとは組成が大きく異なり、リン脂質を多量に含有しているという特徴がある。バターミルクは、その製法の違いによって大きく異なるが、乳由来の固形分中のリン脂質の含有量が、通常、0.5~1.5質量%程度であるのに対して、クリーム又はバターからバターオイルを製造する際に生じる水相成分は、乳由来の固形分中のリン脂質の含有量が、大凡、2~15質量%であり、多量のリン脂質を含有している。
【0051】
また、上記水相成分としては、乳由来の固形分中のリン脂質の含有量が2質量%以上であれば、クリーム又はバターからバターオイルを製造する際に生じる水相成分をそのまま用いてもよく、また噴霧乾燥、濃縮、冷凍等の処理を施したものを用いてもよい。ただし、乳由来のリン脂質は、高温加熱すると、その機能が低下するため、加温処理や濃縮処理中、あるいは殺菌等により加熱する際は、100℃未満であることが好ましく、60℃未満であることがさらに好ましい。
【0052】
ここで、本発明の油中水中油型乳化油脂組成物におけるリン脂質の含有量は、油相中に含有させたリン脂質の含有量も含め、組成物中で好ましくは0.05~1.5質量%、さらに好ましくは0.1~0.7質量%である。
【0053】
また、本発明の油中水中油型乳化油脂組成物において、リン脂質の、外油相の含有量と水相の含有量の質量比、すなわち外油相のリン脂質含量:水相のリン脂質含量は、好ましくは40:60~85:15であり、より好ましくは50:50~80:20である。外油相中のリン脂質含量比が40より小であると外油相と水相の乳化が不安定になり、耐熱保形性が悪化しやすいという問題があり、外油相中のリン脂質含量比が85より大であると口溶けが悪化する場合があることに加え、製造中に油中水中油型を維持することができず油中水型乳化物になってしまいやすい。
【0054】
(モノグリセリド)
本発明に使用するモノグリセリドとしては、例えばモノラウリン(炭素数12)、モノミリスチン(炭素数14)、モノミリストレイン(炭素数14)、モノパルミチン(炭素数16)、モノパルミトレイン(炭素数16)、モノステアリン(炭素数18)、モノオレイン(炭素数18)、モノリノレイン(炭素数18)、モノリノレニン(炭素数18)、モノアラキジン(炭素数20)、モノイコセン(炭素数20)、モノイコサジエン(炭素数20)、モノイコサトリエン(炭素数20)、モノアラキドン(炭素数20)、モノペヘン(炭素数22)、モノドコセン(炭素数22)、モノドコサヘキサエン(炭素数24)等、炭素数12~24の飽和又は不飽和の直鎖脂肪酸で構成されたモノグリセリドがあげられる。本発明においては、これらのモノグリセリドのうち、炭素数14~18の飽和又は不飽和の直鎖脂肪酸で構成されたものが好ましく用いられる。これらのモノグリセリドは単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0055】
ここで、本発明の油中水中油型乳化油脂組成物におけるモノグリセリドの含有量は、組成物中で好ましくは0.01~1.0質量%、さらに好ましくは0.01~0.5質量%である。なお、本発明の油中水中油型乳化油脂組成物が、ファットスプレッドのように油分量が少なく相対的に水分量が多い製品形態をとる場合においては、外油相にモノグリセリドを含有させることが好ましい。
【0056】
(その他の成分)
本発明の油中水中油型乳化油脂組成物に含有させることができるその他の成分としては、例えば、油脂ゲル化能を有しない乳化剤、増粘安定剤、糖類、酢酸、乳酸、グルコン酸等の酸味料、β―カロチン、カラメル、紅麹色素等の着色料、トコフェロール、茶抽出物等の酸化防止剤、小麦蛋白や大豆蛋白といった植物蛋白、卵及び各種卵加工品、デキストリン類、着香料、上記以外の乳や乳製品、調味料、pH調整剤、食品保存料、日持ち向上剤、酵素、有機塩、無機塩、果実、果汁、コーヒー、ナッツペースト、香辛料、カカオマス、ココアパウダー、穀類、豆類、野菜類、肉類、魚介類等の食品素材や食品添加物が挙げられる。
【0057】
上記増粘安定剤としては、グアーガム、ローカストビーンガム、カラギーナン、アラビアガム、アルギン酸類、ペクチン、キサンタンガム、プルラン、タマリンドシードガム、サイリウムシードガム、結晶セルロース、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、寒天、グルコマンナン、ゼラチン、澱粉、化工澱粉等が挙げられ、この中から選ばれた1種又は2種以上を用いることができるが、呈味阻害の可能性があるため、その含有量は0~0.1質量%とすることが好ましい。
【0058】
[製造方法]
次に、本発明の油中水中油型乳化油脂組成物の製造方法を、O/W/O型の油中水中油型乳化油脂組成物を例に挙げて説明する。本発明の油中水中油型乳化油脂組成物の製造方法は、内油相をゲル化させる点に特徴を有する。
【0059】
水に呈味素材や水溶性成分を添加・混合して水相を用意する。一方、必要に応じて加熱した、液体状の油脂に油脂ゲル化剤や好ましくは呈味素材、油溶性成分を添加し混合した油相1(内油相)、及び油脂に好ましくはリン脂質、油溶性成分を添加し混合した油相2(外油相)を用意する。
【0060】
次いで、上記水相と上記油相1とを混合し、乳化してO/W型乳化物を得る。次に、上記油相2中に、このO/W型乳化物を投入して、O/W/O型乳化物を得る。そして、該O/W/O型乳化物を殺菌処理するのが望ましい。殺菌方法は、タンクでのバッチ式でも、プレート型熱交換機や掻き取り式熱交換機を用いた連続式でも構わない。
【0061】
次に、該O/W/O型乳化物を冷却し、内油相のゲル化を行うと同時に、可塑化して、O/W/O型の乳化形態の本発明の油中水中油型乳化油脂組成物を得る。冷却、可塑化する機器としては、密閉型連続式チューブ冷却機、例えば、ボテーター、コンビネーター、パーフェクター等のマーガリン製造機やプレート型熱交換機等が挙げられ、また、開放型のダイアクーラーとコンプレクターの組み合わせ等が挙げられる。
【0062】
また、O/W/O型の乳化形態の本発明の油中水中油型乳化油脂組成物を製造する際のいずれかの製造工程で、窒素、空気等を含気させても、させなくても構わない。
【0063】
なお、油中水中油型の一種である、O/O型の乳化形態の油中水中油型乳化油脂組成物を製造する方法としては、例えば以下の4つの方法が挙げられる。
(1)油相1(内油相)、水相及び油相2(外油相)を乳化し、O/W/O型乳化物を製造し、次いで、該O/W/O型乳化物を冷却、可塑化、転相させて、O/O型の油中水中油型乳化油脂組成物を得る方法。
(2)水相と油相とを乳化してO/W型乳化物を得、次いで、該O/W型乳化物を冷却、可塑化、転相させて、O/O型の油中水中油型乳化油脂組成物を得る方法。
(3)水相と油相とを乳化してW/O型乳化物を得、次いで、該W/O型乳化物を転相させてO/W型乳化物とし、次いで、該O/W型乳化物を冷却、可塑化、転相させて、O/O型の油中水中油型乳化油脂組成物を得る方法。
(4)水相と油相とを乳化してW/O型乳化物を得、次いで、該W/O型乳化物を転相させてO/W/O型乳化物とし、次いで、該O/W/O型乳化物を冷却、可塑化、転相させて、O/O型の油中水中油型乳化油脂組成物を得る方法。
【0064】
上記O/O型の乳化形態の本発明の油中水中油型乳化油脂組成物を製造する際の製造機等は上記O/W/O型の油中水中油型乳化油脂組成物を製造する際の製造機等と同一のものを使用することができる。
【0065】
また、上記O/O型の乳化形態の本発明の油中水中油型乳化油脂組成物を製造する際のいずれかの製造工程で、窒素、空気等を含気させても、させなくても構わない。なお、上記のようにして得られた油中水中油型乳化油脂組成物の20℃における硬さは、良好な口溶け性や風味発現性、風味持続性、良好なスプレッド性や保形性、耐熱性の観点から、250~600g/cmであることが好ましく、420~550g/cmであることがより好ましい。
【0066】
[食品への応用]
本発明の油中水中油型乳化油脂組成物は、練込用、ロールイン用、フィリング用、サンド用、トッピング用、パンに塗る等に広く使用可能であるが、スプレッド性が良好であり、直接喫食した場合においては、口溶けが良好であり、且つ、口に入れたときに良好な油脂のコク味や呈味成分の風味の発現に優れており、また、風味が持続して感じられる。このため製菓・製パンの分野において、パンに塗って使用する用途をはじめ、ホールセールやリテールベーカリー分野でパンや菓子のフィリングとして使用する用途など、スプレッド用として特に好ましく用いられる。本発明に関し、スプレッド用というときは、パンに塗って使用する用途、パンや菓子のフィリングとして使用する用途を含む。
【0067】
本発明の油中水中油型乳化油脂組成物は、直接喫食され、また油脂組成物そのものの風味を味わう製品、具体的には、付けマーガリン(主としてパンに塗って使用するマーガリン)、ファットスプレッドとするのに適している。
【実施例
【0068】
以下、実施例をもとに本発明を詳述する。
【0069】
(製造例1:原料油脂配合物)
以下に示す油脂A~Cを、それぞれ60℃まで加熱し、溶解したものを、油脂A:油脂B:油脂C=30:6:64の質量比で混合し、油脂配合物を調製した。
【0070】
油脂A:パーム核油75質量部とパーム極度硬化油25質量部を、それぞれ溶解した状態で混合・撹拌した。この混合油脂に対して、常法に従い、ナトリウムメトキシドを用いて、ランダムエステル交換を行った後、常法に従い、精製を行って得られるエステル交換油脂。
【0071】
油脂B:パーム核油50質量部とパーム極度硬化油50質量部を、それぞれ溶解した状態で混合・撹拌した。この混合油脂に対して、常法に従い、ナトリウムメトキシドを用いて、ランダムエステル交換を行った後、常法に従い、精製を行って得られるエステル交換油脂。
【0072】
油脂C:液状油(菜種油)
【0073】
なお、油脂配合物の20℃におけるSFCは20.1%、30℃におけるSFCは9.2%であった。また、油脂配合物の脂肪酸残基組成におけるラウリン酸残基の含有量は11.7質量%であった。また、乳脂の20℃におけるSFCは15.9%、30℃におけるSFCは4.9%であった。さらに、液状油の20℃におけるSFCは0.3%、30℃におけるSFCは0.1%であった。
【0074】
(実施例1~11、比較例1~9)
表1に示す配合に従って、以下の手順で、油中水中油型乳化油脂組成物A~Tを調製した。その際には内油相を調製した段階で、その一部を100mLビーカーに30mL図りとり、5℃の冷蔵庫内で1時間静置した後、ビーカーを転倒させ、その状態を確認したところ、油脂ゲル化剤を含有しない油中水中油型乳化油脂組成物A、Bの内油相は流動性を有していた。一方、同様に油脂ゲル化剤を含有しない油中水中油型乳化油脂組成物M、O、Qについては、油脂の固化によるものか、流動性を有していなかった。油脂ゲル化剤を含有する油中水中油型乳化油脂組成物C~G、I、K、L、N、P、R~Tの内油相については、ゲル化し、流動性を有していなかった。一方、油脂ゲル化剤を含有する油中水油型乳化油脂組成物H、Jについては、流動性を有していた。
【0075】
内油相の貯蔵弾性率、及び硬さについては、上記の方法で測定を行った。
【0076】
<油中水中油型乳化油脂組成物A~Tの調製方法>
まず、内油相について、液状油、乳脂、油脂配合物のいずれかを、使用する油脂ゲル化剤の融点以上となるまで加熱した後に、油脂ゲル化剤を添加し、撹拌・溶解させた。これに香料を加えて、内油相とした。次に水相について、食塩及びクリームからバターオイルを製造する際に生じる水相成分の濃縮物を水に添加し、撹拌・溶解させ、水相とした。
次に外油相について、レシチン及び香料を油脂配合物に添加し、撹拌・溶解させ、外油相とした。
【0077】
得られた内油相と水相とを混合し、60~65℃で緩やかに撹拌した後、1次圧6.0MPa/2次圧10.0MPaの条件でホモジナイザーに通し、O/W乳化物を得た。
【0078】
得られたO/W乳化物を65℃に加温しておいた外油相中に投入して撹拌し、油中水中油型乳化された予備乳化物を得た。得られた予備乳化物を85℃で殺菌し、次いで50℃まで予備冷却した。予備冷却した予備乳化物をコンビネーターにて急冷可塑化して、油中水中油型乳化油脂組成物A~Tを得た。なお、製造された油中水中油型乳化油脂組成物A~Pはマーガリン、油中水中油型乳化油脂組成物Q~Tはファットスプレッドの規格の油分量、水分量であった。
【0079】
<風味の官能評価方法>
得られた油中水中油型乳化油脂組成物A~Tを12人の専門パネラーにより、風味持続性ならびに風味発現性について、それぞれ下記評価基準に従って官能評価した。なお、評価に参加したパネラーは、本評価に先立ち、事前にパネラー間で各点数に対応する官能の程度をすり合わせた。
【0080】
12人のパネラーの合計点を評価点数として、結果を下記のようにして表1に示した。なお、風味発現性の評価におけるコントロールとは、内油相に油脂ゲル化剤を含有しないものを指し、具体的には油中水中油型乳化油脂組成物A、M、O,Qを指す。風味発現性の評価の際は、内油相に用いた油脂毎に各コントロールと比較して試験を行った。
【0081】
46~60点:◎、31~45点:○、16~30点:△、0~15点:×
【0082】
・風味持続性
5点…トップからラストまで呈味が感じられる。
3点…トップからミドルにかけて呈味を感じるがラストの呈味が弱い。
1点…トップには呈味を感じるが、ミドルからラストにかけての呈味が弱い。
0点…トップには呈味を感じるが、すぐに消えてしまう。
【0083】
なお、トップの風味とはサンプルを口中に含んでからすぐ(2~3秒以内)の風味を意味する。
ミドルの風味とは、サンプルを口中に含んでから2~3秒以降から8~10秒にかけて、咀嚼中に感じられる風味を意味する。
ラストの風味とは、サンプルを口中に含んでから8~10秒以降の、咀嚼後、サンプルが消失又は嚥下されるまでの風味を意味する。
【0084】
・風味発現性
5点…コントロール同様に風味の発現が良好である。
3点…風味の発現がやや良好である。
1点…風味の発現がやや悪い。
0点…風味の発現が悪い。
【0085】
<スプレッド性評価方法>
得られた油中水中油型乳化油脂組成物A~Tについて、5℃の恒温槽に1晩保管したあと、バターナイフでパンに塗布する際のスプレッドしやすさを下記評価基準に従い4段階で評価し、12人のパネラーの合計点を評価点数として、結果を下記のようにして表1に示した。なお、評価に参加したパネラーは、本評価に先立ち、事前にパネラー間で各点数に対応する官能の程度をすり合わせた。
【0086】
46~60点:◎、31~45点:○、16~30点:△、0~15点:×
【0087】
・スプレッド性評価基準
5点…伸びがよく、大変良好である。
3点…やや硬いものの、良好である。
1点…伸びが悪く、やや不良である。
0点…スプレッドが困難であり、不良である
【0088】
【表1】
【0089】
<評価結果>
まず、マーガリンである油中水中油型乳化油脂組成物A~Pについて評価を行った。コントロールである油中水中油型乳化油脂組成物Aと、油中水中油型乳化油脂組成物Cとを比較すると、内油相がゲル化していることにより、風味の持続性が改良されることがわかった。また、油中水中油型乳化油脂組成物A~Cを比較すると、油中水中油型乳化油脂組成物の外油相又は内油相に対して単にゲル化剤を添加すればよいのではなく、選択的に内油相をゲル化させることによって、油中水中油型乳化油脂組成物の風味の持続性が得られることが分かった。
【0090】
また、油中水中油型乳化油脂組成物Hと油中水中油型乳化油脂組成物I、又は油中水中油型乳化油脂組成物Jと油中水中油型乳化油脂組成物Kをそれぞれ比較すると、油中水中油型乳化油脂組成物H、Jについては油脂ゲル化剤を含有しているが、風味持続性について改善がみられなかった。一方、油中水中油型乳化油脂組成物I、Kについては風味持続性について改善がみられた。この結果から、油中水中油型乳化油脂組成物の風味持続性の改善については、単に油脂ゲル化剤を内油相に含有させることで改善されるのではなく、一定の貯蔵弾性率を有するまで内油相をゲル化させることが重要であることが確認された。
【0091】
さらに、油中水中油型乳化油脂組成物A、C~Fをそれぞれ比較すると、貯蔵弾性率にみる内油相のゲル強度が高くなると風味の持続性が改良される傾向にあることが分かった。その一方で、過度にゲル強度を高めると、逆に風味の発現性を損ねてしまうことが分かった。
【0092】
また、油中水中油型乳化油脂組成物Mと油中水中油型乳化油脂組成物N、油中水中油型乳化油脂組成物Oと油中水中油型乳化油脂組成物Pをそれぞれ比較すると、内油相をゲル化することによる風味持続性の改善については、内油相に用いた油脂によらず、その効果を得ることができることが分かった。
【0093】
次に、ファットスプレッドである油中水中油型乳化油脂組成物Q~Tについて評価を行った。マーガリンの際と同様に、コントロールである油中水中油型乳化油脂組成物Qと、油中水中油型乳化油脂組成物Rとを比較すると、内油相がゲル化していることにより、風味の持続性が改良されることがわかった。
【0094】
ファットスプレッドであっても、内油相を一定の貯蔵弾性率を有するまでゲル化させることによる風味持続性の改善傾向はマーガリンと同様に得られることが分かった。