(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-19
(45)【発行日】2023-10-27
(54)【発明の名称】塗工性に優れる組成物
(51)【国際特許分類】
C08F 290/06 20060101AFI20231020BHJP
C09D 163/10 20060101ALI20231020BHJP
C09D 175/14 20060101ALI20231020BHJP
C09D 7/20 20180101ALI20231020BHJP
【FI】
C08F290/06
C09D163/10
C09D175/14
C09D7/20
(21)【出願番号】P 2020563132
(86)(22)【出願日】2019-12-18
(86)【国際出願番号】 JP2019049583
(87)【国際公開番号】W WO2020137737
(87)【国際公開日】2020-07-02
【審査請求日】2022-07-06
(31)【優先権主張番号】P 2018243279
(32)【優先日】2018-12-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001085
【氏名又は名称】株式会社クラレ
(74)【代理人】
【識別番号】110002620
【氏名又は名称】弁理士法人大谷特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】老田 一生
(72)【発明者】
【氏名】野口 大樹
(72)【発明者】
【氏名】福本 隆司
【審査官】中村 英司
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-010168(JP,A)
【文献】特開2012-097199(JP,A)
【文献】国際公開第2019/208353(WO,A1)
【文献】欧州特許出願公開第1589054(EP,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 220/00- 220/70
C08F 290/00- 290/14
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(II);
[化2]
[式中、R5は水素原子またはメチル基を表す。]
で表される化合物(化合物(a))、および、下記一般式(I);
[化1]
[一般式(I)中、R1およびR2はそれぞれ独立して、水素原子、炭素数1~6のアルキル基、炭素数2~6のアルケニル基、アリール基およびアラルキル基からなる群より選ばれるいずれかを表し、R3は、炭素数1~6のアルキル基、炭素数2~6のアルケニル基、アリール基およびアラルキル基からなる群より選ばれるいずれかを表し、R4は、(メタ)アクリロイル基、スチリル基および炭素数2~6のアルケニル基からなる群より選ばれるいずれかを表す。nは1~5の任意の整数を表す。]で表される化合物(化合物(A))以外の分子中に2つ以上の重合性官能基を有する化合物(多官能性化合物(B))を含み、
該化合物(a)と多官能性化合物(B)との質量比((a)/(B))が30/70~50/50であ
り、
前記多官能性化合物(B)がウレタン(メタ)アクリレート及びエポキシ(メタ)アクリレートから選択される少なくとも1種、である組成物。
【請求項2】
重合開始剤をさらに含む、
請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記化合物(a)と多官能性化合物(B)との合計量が、前記組成物中80質量%以上である、
請求項1または2のいずれかに記載の組成物。
【請求項4】
請求項1~
3のいずれかに記載の組成物を含む塗料。
【請求項5】
請求項1~
3のいずれかに記載の組成物を硬化してなる硬化物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塗料などに適した組成物およびそれが硬化してなる硬化物に関する。
【背景技術】
【0002】
活性エネルギー線硬化性樹脂組成物は、熱硬化性樹脂や2液硬化型塗料と比較して、低温かつ短時間で硬化できるため、塗料用途を中心に検討されている。
【0003】
活性エネルギー線硬化性樹脂組成物に用いられる多官能性化合物として、ウレタン(メタ)アクリレートやエポキシ(メタ)アクリレートが挙げられる。これらの多官能性化合物を用いることにより、耐擦傷性、密着性、耐溶剤性、耐薬品性、カール性、耐屈曲性、耐薬品性に優れた硬化膜が得られる。しかしながら、従来の活性エネルギー線硬化性樹脂組成物は、多官能性化合物に含まれるウレタン結合や水酸基などによる分子間相互作用のため、粘度が高くなり、塗工時に溶剤で希釈する必要があった。そのため、従来の活性エネルギー線硬化性組成物は、塗工の作業性や塗工膜の生産性が悪い。また、塗工に適した粘度に調整するために、活性エネルギー線硬化性組成物を有機溶剤で希釈して使用した場合、空気下での塗工や硬化において、環境や人体への悪影響の懸念がある(特許文献1~4)。
【0004】
前記の問題を解決するために、有機溶剤の使用量を低減した活性エネルギー線硬化性樹脂組成物が報告されている(特許文献5~7)。しかしながら、有機溶剤の使用量を低減したこれらの活性エネルギー線硬化性樹脂組成物は、塗工の作業性は改善されているが、塗膜の硬化速度や、光学特性、硬度、密着性といった硬化後の塗膜性能がいまだ満足のいくものではなく、検討の余地があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2004-35599号公報
【文献】特開2007-313872号公報
【文献】特表2018-501348号公報
【文献】特開平8-165269号公報
【文献】特開2001-200025号公報
【文献】特開2004-67775号公報
【文献】特開2014-141654号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで本発明は、塗工に適した粘度および十分な硬化速度を有する組成物、およびそれが硬化してなる塗膜性能に優れた硬化物を提供することを目的とする。
【0007】
本発明者らは、上記の目的を達成すべく鋭意検討を行った結果、分子内に不飽和二重結合を有する特定の多官能性化合物と、それ以外の多官能性化合物とを特定の割合で併用すると、塗工に適した粘度および十分な硬化速度を有する組成物が得られ、当該組成物を硬化してなる硬化物は、光学特性、密着性および硬度に優れていて、塗膜性能に優れることを見出し、当該知見に基づいてさらに検討を重ねて本発明を完成させた。
【課題を解決するための手段】
【0008】
すなわち、本発明は下記[1]~[9]を提供する。
[1]下記一般式(I);
【0009】
【0010】
[一般式(I)中、R1およびR2はそれぞれ独立して、水素原子、炭素数1~6のアルキル基、炭素数2~6のアルケニル基、アリール基およびアラルキル基からなる群より選ばれるいずれかを表し、R3は、炭素数1~6のアルキル基、炭素数2~6のアルケニル基、アリール基およびアラルキル基からなる群より選ばれるいずれかを表し、R4は、(メタ)アクリロイル基、スチリル基および炭素数2~6のアルケニル基からなる群より選ばれるいずれかを表す。nは1~5の任意の整数を表す。]で表される化合物(化合物(A))、および、化合物(A)以外の分子中に2つ以上の重合性官能基を有する化合物(多官能性化合物(B))を含み、該化合物(A)と多官能性化合物(B)との質量比((A)/(B))が30/70~50/50である、組成物。
[2]前記化合物(A)における一般式(1)中のR
1
およびR
2
が水素原子であり、R
3
がメチル基であり、nが1~4であり、R
4
が(メタ)アクリロイル基またはスチリル基である、[1]に記載の組成物。
[3]前記多官能性化合物(B)中の重合性官能基が、(メタ)アクリロイル基である、[1]または[2]に記載の組成物。
[4]前記多官能性化合物(B)がウレタン(メタ)アクリレート及びエポキシ(メタ)アクリレートから選択される少なくとも1種、である、[1]~[3]のいずれかに記載の組成物。
[5]化合物(A)が下記一般式(II);
【0011】
【0012】
[式中、R5は水素原子またはメチル基を表す。]
で表される、[1]~[4]のいずれかに記載の組成物。
[6]重合開始剤をさらに含む、[1]~[5]のいずれかに記載の組成物。
[7]前記化合物(A)と多官能性化合物(B)との合計量が、前記組成物中80質量%以上である、[1]~[6]のいずれかに記載の組成物。
[8][1]~[7]のいずれかに記載の組成物を含む塗料。
[9][1]~[7]のいずれかに記載の組成物を硬化してなる硬化物。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、塗工に適した粘度および十分な硬化速度を有する組成物、およびそれが硬化してなる塗膜性能に優れた硬化物が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0014】
[組成物]
本発明の組成物は、上記一般式(I)で表される化合物(A)、および、多官能性化合物(B)を含み、化合物(A)と多官能性化合物(B)との質量比((A)/(B))が30/70~50/50である。これにより、塗工に適した粘度および十分な硬化速度を有する組成物となる。
【0015】
・化合物(A)
本発明において使用される化合物(A)は、下記一般式(I)で表される化合物である。
【0016】
【0017】
一般式(I)中、R1およびR2はそれぞれ独立して、水素原子、炭素数1~6のアルキル基、炭素数2~6のアルケニル基、アリール基およびアラルキル基からなる群より選ばれるいずれかを表し、R3は、炭素数1~6のアルキル基、炭素数2~6のアルケニル基、アリール基およびアラルキル基からなる群より選ばれるいずれかを表し、R4は、(メタ)アクリロイル基、スチリル基および炭素数2~6のアルケニル基からなる群より選ばれるいずれかを表す。nは1~5の任意の整数を表す。
【0018】
R1、R2およびR3が表す炭素数1~6のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、n-ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、n-ヘキシル基、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基などが挙げられる。
【0019】
R1、R2およびR3が表す炭素数2~6のアルケニル基としては、例えば、ビニル基、アリル基、プロペニル基、イソプロペニル基、ブテニル基、イソブテニル基、ペンテニル基、ヘキセニル基(cis-3-ヘキセニル基等)、シクロヘキセニル基などが挙げられる。
【0020】
R1、R2およびR3が表すアリール基としては、例えば、フェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基などが挙げられる。
【0021】
R1、R2およびR3が表すアラルキル基としては、例えば、ベンジル基、2-フェニルエチル基、2-ナフチルエチル基、ジフェニルメチル基などが挙げられる。
【0022】
R1およびR2は、それぞれ、水素原子、炭素数1~6のアルキル基および炭素数2~6のアルケニル基からなる群より選ばれるいずれかであることが好ましく、水素原子または炭素数1~6のアルキル基であることがより好ましく、水素原子または炭素数1~4のアルキル基であることがさらに好ましく、水素原子またはメチル基であることが特に好ましい。中でも、R1およびR2がともに水素原子であることが好ましい。
【0023】
またR3は、炭素数1~6のアルキル基および炭素数2~6のアルケニル基からなる群より選ばれるいずれかであることが好ましく、炭素数1~6のアルキル基であることがより好ましく、炭素数1~4のアルキル基であることがさらに好ましく、メチル基であることが特に好ましい。
【0024】
R4は、(メタ)アクリロイル基、スチリル基および炭素数2~6のアルケニル基からなる群より選ばれるいずれかを表す。なお、本明細書において「(メタ)アクリロイル基」とは、アクリロイル基とメタアクリロイル基のどちらでもよいことを示す。また、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリレート、及び(メタ)アクリロイルオキシ基についても同様に扱うものとする。
【0025】
R4が表す炭素数2~6のアルケニル基としては、例えば、ビニル基、アリル基、プロペニル基、イソプロペニル基、ブテニル基、イソブテニル基、ペンテニル基、ヘキセニル基(cis-3-ヘキセニル基等)、シクロヘキセニル基などが挙げられ、炭素数2~5のアルケニル基が好ましい。
【0026】
これらの中でも、R4は、重合性基として効果的に機能することができ本発明の効果がより顕著に奏されることなどから、(メタ)アクリロイル基またはスチリル基であることが好ましく、(メタ)アクリロイル基であることがより好ましい。
【0027】
一般式(I)中、nは1~5の任意の整数を表す。当該nは1~4の任意の整数であることが好ましく、1または2であることがより好ましく、1であることがさらに好ましい。一般式(I)の化合物は、複数の重合性官能基を有しているので、重合により硬化可能であり、また、分子間相互作用の影響が低く抑えられているので、粘度が高くなり難い特徴がある。
【0028】
化合物(A)の具体例としては、例えば、下記の化合物などが挙げられる。
【0029】
【0030】
化合物(A)は、原料の入手容易性などの観点から、下記一般式(II)で表される化合物であることが好ましい。
【0031】
【0032】
一般式(II)中、R5は水素原子またはメチル基を表す。
【0033】
化合物(A)の製造方法に特に制限はなく、公知の方法を単独で、または適宜組み合わせて応用することにより製造することができる。例えば、下記(A-1)で表される化合物を製造する場合、塩基などのエステル交換反応触媒下、対応するアルコールである3-メチル-3-ブテン-1-オールに対してメタクリル酸メチルを反応させることにより製造することができる。
【0034】
【0035】
本発明の組成物において、化合物(A)は、1種のみ含まれていてもよいし、2種以上含まれていてもよい。
【0036】
・多官能性化合物(B)
本発明の組成物は、上記の化合物(A)の他、多官能性化合物(B)をさらに含む。ここで、多官能性化合物(B)とは、化合物(A)以外の重合性の多官能性化合物のことであり、分子中に2つ以上の重合性官能基を有する化合物(但し、化合物(A)を除く)を意味する。当該重合性官能基としては、例えば、(メタ)アクリロイル基、ビニル基等のラジカル重合性官能基や、エポキシ基等のカチオン重合性官能基などが挙げられ、多官能性化合物(B)は、分子内に1つ以上(好ましくは2つ以上)のラジカル重合性官能基を有する化合物であることが好ましい。
【0037】
多官能性化合物(B)の具体例としては、例えば、分子内に1つ以上(好ましくは2つ以上)の(メタ)アクリロイルオキシ基を有する多価(メタ)アクリル酸エステル、不飽和ポリエステル樹脂などが挙げられ、これらの中でも、分子内に1つ以上(好ましくは2つ以上)の(メタ)アクリロイルオキシ基を有する多価(メタ)アクリル酸エステルが好ましく、ウレタン(メタ)アクリレート及びエポキシ(メタ)アクリレートが、得られる組成物の硬化速度および硬化後の塗膜性能などの観点から特に好ましい。本発明の組成物において、多官能性化合物(B)は、1種のみ含まれていてもよいし、2種以上含まれていてもよい。
【0038】
ウレタン(メタ)アクリレートとしては、例えば、多価アルコール化合物と、アルコール基に対してイソシアネート基が当量を超える量の多価イソシアネート化合物と、により合成されるイソシアネート基残存ポリマーに水酸基含有(メタ)アクリル酸エステルを付加させたものなどが挙げられる。
【0039】
多価アルコールとしては、例えば、エチレングリコール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、ネオペンチルグリコール、水添ビスフェノールA、水添ビスフェノールFなどが挙げられる。
【0040】
多価イソシアネートとしては、例えば、トリメチレンジイソシアネート、テトラメチレンジイソシアネート、ペンタメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、1,2-プロピレンジイソシアネート、1,2-ブチレンジイソシアネート、2,3-ブチレンジイソシアネート、1,3-ブチレンジイソシアネート、2,2,4-または2,4,4-トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、リジンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネートなどが挙げられる。これらの中でも、硬化性に優れるヘキサメチレンジイソシアネートが好ましい。
【0041】
ウレタン(メタ)アクリレートとしては、多価イソシアネートとしてヘキサメチレンジイソシアネートと、水酸基含有(メタ)アクリル酸エステルとしてペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレートとを反応させて得られるウレタン(メタ)アクリレートが好ましい。
【0042】
エポキシ(メタ)アクリレートとしては、例えば、ビスフェノールA型のエポキシ樹脂末端に(メタ)アクリル酸を付加させたものなど、エポキシ樹脂に(メタ)アクリル酸を付加させたものなどが挙げられる。
【0043】
不飽和ポリエステル樹脂としては、例えば、プロピレングリコール-(無水フタル酸/無水マレイン酸)共重合ポリエステル、エチレングリコール-(無水フタル酸/無水マレイン酸)共重合ポリエステルなど、多価アルコールと(α,β-不飽和多塩基酸類/多塩基酸類)の共重合ポリエステルが挙げられ、これらの共重合ポリエステルは、単独で用いても良いが、スチレン等のラジカル重合性単量体と併用してもよい。また、これらの共重ポリエステルは、さらにアリルグリシジルエーテル等の不飽和アルコールのグリシジル化合物を共重合成分の1つとして使用してもよい。
【0044】
本発明の組成物中における化合物(A)と多官能性化合物(B)との質量比((A)/(B))は、30/70~50/50であり、組成物の粘度、硬化速度および硬化後の塗膜性能などの観点から、35/65~45/55であることが好ましい。質量比((A)/(B))が30/70未満であると、組成物の溶液粘度が高くなり塗工性が低下する。一方、質量比((A)/(B))が50/50よりも大きいと、組成物の硬化速度が低下し、硬化後の塗膜性能も低下する傾向にある。
【0045】
本発明の組成物中における化合物(A)と多官能性化合物(B)の合計の含有量に特に制限はないが、本発明の効果がより顕著に奏されることなどから、本発明の組成物の質量に基づいて、5質量%以上であることが好ましく、10質量%以上であることがより好ましく、50質量%以上であることがさらに好ましく、80質量%以上であることが特に好ましく、90質量%以上であることが最も好ましい。
【0046】
・重合開始剤
本発明の組成物は硬化性をより向上させることなどから、重合開始剤をさらに含むことが好ましい。当該重合開始剤の種類に特に制限はなく、使用される多官能性化合物(B)の種類などに応じて適宜選択することができる。具体的には、ラジカル重合開始剤、カチオン重合開始剤、アニオン重合開始剤などを用いることができ、本発明の効果がより顕著に奏されることなどからラジカル重合開始剤が好ましい。ラジカル重合開始剤としては、例えば、熱でラジカルを発生する熱ラジカル重合開始剤、光でラジカルを発生する光ラジカル重合開始剤などが挙げられる。
【0047】
具体的な重合開始剤としては、例えば、ベンゾイルペルオキシド等のジアシルペルオキシド系;t-ブチルペルオキシベンゾエート等のペルオキシエステル系;クメンヒドロペルオキシド等のヒドロペルオキシド系;ジクミルペルオキシド等のジアルキルペルオキシド系;メチルエチルケトンペルオキシド、アセチルアセトンペルオキシド等のケトンペルオキシド系;ペルオキシケタール系;アルキルペルエステル系;ペルカーボネート系などの有機過酸化物などが挙げられる。
【0048】
またラジカル重合開始剤としては、市販品を用いることもできる。例えば、イルガキュア(登録商標、以下同じ)651、イルガキュア184、イルガキュア2959、イルガキュア127、イルガキュア907、イルガキュア369、イルガキュア379、イルガキュア819、イルガキュア784、イルガキュアOXE01、イルガキュアOXE02、イルガキュア754(以上、BASF社製)などが挙げられる。これらは、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0049】
本発明の組成物中における重合開始剤の含有量に特に制限はないが、本発明の効果がより顕著に奏されることなどから、本発明の組成物の質量に基づいて、0.001質量%以上であることが好ましく、0.01質量%以上であることがより好ましく、0.1質量%以上であることがさらに好ましく、1質量%以上であることが特に好ましく、また、10質量%以下であることが好ましく、5質量%以下であることがより好ましい。
【0050】
・他の成分
本発明の組成物は、必要に応じて、他の樹脂、希釈剤、有機溶媒、顔料、染料、充填剤、紫外線吸収剤、増粘剤、低収縮化剤、老化防止剤、可塑剤、骨材、難燃剤、安定剤、繊維強化材、酸化防止剤、レベリング剤、たれ止め剤など、上記した化合物(A)、多官能性化合物(B)および重合開始剤以外の他の成分をさらに含んでいてもよい。
【0051】
他の樹脂としては、例えば、ビニルエステル樹脂、フッ素樹脂、ポリアミド樹脂(ポリアミド66等)、ポリカーボネート樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリ(メタ)アクリルアミド樹脂などが挙げられる。希釈剤としては、例えば、スチレン、(メタ)アクリル酸エステルなどが挙げられ、重合性の観点から、(メタ)アクリル酸エステルが好ましい。顔料としては、例えば、酸化チタン、ベンガラ、アニリンブラック、カーボンブラック、シアニンブルー、クロムイエローなどが挙げられる。充填剤としては、例えば、タルク、マイカ、カオリン、炭酸カルシウム、クレーなどが挙げられる。
【0052】
[組成物の製造方法]
本発明の組成物の製造方法に特に制限はなく、上記した化合物(A)、多官能性化合物(B)、および必要に応じて、重合開始剤、他の成分を混合することにより製造することができる。
【0053】
上記化合物(A)と多官能性化合物(B)との質量比((A)/(B))を調整したり、本発明の効果を損なわない範囲で希釈剤や有機溶剤を添加したりすることにより、本発明の組成物の粘度を所望の範囲に調整することができる。基材に塗工する際の塗工性などの観点から、本発明の組成物の粘度(25℃)は、120mPa・s以下であることが好ましい。なお当該粘度は、実施例において後述する方法により測定することができる。
【0054】
[硬化方法]
本発明の組成物を硬化させる方法に特に制限はなく、使用される多官能性化合物(B)や重合開始剤の種類などに応じて適宜選択することができる。例えば、本発明の組成物が光ラジカル重合開始剤を含む場合は、活性エネルギー線を照射して硬化させる方法が挙げられ、また熱ラジカル重合開始剤を含む場合は、加熱して硬化させる方法が挙げられる。
また、両者を含む場合に活性エネルギー線を照射した後に加熱してもよい。用途等にもよるが本発明の効果がより顕著に奏されることなどから、活性エネルギー線を照射して硬化させる方法が好ましい。
【0055】
基材上に塗工された組成物を硬化させる際に使用する活性エネルギー線としては、遠紫外線、紫外線、近紫外線、赤外線等の光線、X線、γ線等の電磁波の他、電子線、プロトン線、中性子線等が利用できるが、硬化速度、照射装置の入手のし易さ、価格等から紫外線照射による硬化が有利である。なお、電子線照射を行う場合は、光ラジカル重合開始剤を用いなくても硬化し得る。
【0056】
組成物の硬化において、紫外線等の活性エネルギー線を照射して硬化させる方法を適用する場合、活性エネルギー線を塗膜の未硬化分や硬化後のタックが無くなるまで照射させればよい。未硬化分およびタックが無くなるまでの活性エネルギー線の照射量(積算照射量)が1,500mJ/cm2以下であれば、硬化速度が大きく、生産に適している。
【0057】
[組成物の用途]
本発明の組成物の用途に特に制限はなく、例えば、塗料、接着剤、インク、コーティング剤、紫外線硬化型インクジェットインクなどの用途に好ましく用いることができる。これらの中でも、本発明の組成物は、塗工に適した粘度を有し、空気雰囲気下等の酸素の存在下においても重合硬化反応を十分に進行させることができて十分な硬化速度を有し、さらに硬化後の塗膜性能(光学特性、密着性、硬度など)にも優れることなどから、塗料として用いることが特に好ましい。
【実施例】
【0058】
以下に本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により何ら限定されるものではない。
【0059】
以下の実施例および比較例で用いた各種材料を以下に示す。
・3-メチル-1-メタクリロイルオキシ-3-ブテン(A-1):株式会社クラレ製、純度99%
・3-メチル-1-アクリロイルオキシ-3-ブテン(A-2):株式会社クラレ製、純度98%
・1,6-ヘキサンジオール ジアクリレート(A-3):「ライトアクリレート1.6HX-A」(共栄社化学株式会社製)
・トリプロピレングリコール ジアクリレート(A-4):「APG-200」(新中村化学工業株式会社製)
・ポリエチレングリコール(平均重合度:4) ジアクリレート(A-5):A-200(新中村化学工業株式会社製)
・ウレタンアクリレート(UA):国際公開第2014/061539号の比較例6に記載された方法に準じ、ヘキサメチレンジイソシアネート三量体「デュラネートTPA-100」(旭化成株式会社製)とペンタエリスリトールトリアクリレートとから合成した。
・エポキシメタクリレート(EMA):「BAEM-100」(ケーエスエム株式会社製)
・重合開始剤:1-ヒドロキシシクロヘキサン-1-イルフェニルケトン「イルガキュア184」(BASF社製)
【0060】
以下の実施例および比較例において採用された各評価方法を以下に示す。
【0061】
〔粘度〕
溶液粘度が100mPa・s以上の場合はRE型粘度計(東機産業株式会社製、「RE85U」)を用い、100mPa・sより小さい場合はTV-20型粘度計(東機産業株式会社製、「TVE-20H」)を用いて、25℃における溶液粘度を測定した。
【0062】
〔硬化速度〕
小型UVコンベア(株式会社オーク製作所製、「QRM-2288-Wc」)を用い、光源としてメタルハライドランプ(SMX-3000/E-FS)により紫外線を照射し、指触にて未硬化分およびタックが無くなるまで照射回数を繰り返し、照射に要した積算照射量を硬化速度とした。ここで、1回の紫外線照射量は500mJ/cm2であった。積算照射量の値が小さいほど、硬化速度が大きいことを示す。
【0063】
〔膜厚〕
「DIGIMATIC Micrometer MDE-25PJ」(株式会社ミツトヨ製)を用いて膜厚を測定した。
【0064】
〔透過率およびヘイズ〕
ヘイズメーター「NDH5000」(日本電色工業社製)を用いて、JIS K7361-1およびJIS K7136に準拠して透過率およびヘイズを測定した。
【0065】
〔密着性〕
JIS K5600-5-6に準拠して碁盤目試験(100マスカット)を実施し、剥離後に残っていたマスの数を密着性の指標とした。なお、100の場合は、剥離しなかったことを表す。
【0066】
〔鉛筆硬度〕
JIS K5600-5-4に準拠し、三菱鉛筆uniを用いて角度45°、荷重750gの条件で測定した。
【0067】
[実施例1]
3-メチル-1-メタクリロイルオキシ-3-ブテン(A-1)40質量部、ウレタンアクリレート(UA)60質量部、および、重合開始剤3質量部を配合した光硬化性樹脂組成物を調製した。これを、アプリケーターを用いて乾燥膜厚が5μmになるように、ポリエチレンテレフタレート(東洋紡株式会社製、「コスモシャインA4100」)上に塗布し、塗膜を作製した。続いて、80℃条件で1分間脱溶媒後、小型UVコンベア(株式会社オーク製作所製、「QRM-2288-Wc」)を用い、光源としてメタルハライド
ランプにより積算照射量になるまで紫外線を照射した。得られた硬化物を上記の各評価方法にしたがって評価した。結果を表1に示した。
【0068】
[実施例2]
3-メチル-1-メタクリロイルオキシ-3-ブテン(A-1)の代わりに、3-メチル-1-アクリロイルオキシ-3-ブテン(A-2)を用いたこと以外は実施例1と同様にして光硬化性樹脂組成物を調製し、実施例1と同様にして各評価を行った。結果を表1に示した。
【0069】
[実施例3]
ウレタンアクリレート(UA)の代わりに、エポキシメタクリレート(EMA)を用いたこと以外は実施例1と同様にして光硬化性樹脂組成物を調製し、実施例1と同様にして各評価を行った。結果を表1に示した。
【0070】
[実施例4]
3-メチル-1-メタクリロイルオキシ-3-ブテン(A-1)の代わりに、3-メチル-1-アクリロイルオキシ-3-ブテン(A-2)を用い、ウレタンアクリレート(UA)の代わりに、エポキシメタクリレート(EMA)を用いたこと以外は実施例1と同様にして光硬化性樹脂組成物を調製し、実施例1と同様にして各評価を行った。結果を表1に示した。
【0071】
[比較例1]
3-メチル-1-メタクリロイルオキシ-3-ブテン(A-1)の代わりに、1,6-ヘキサンジオール ジアクリレート(A-3)を用いたこと以外は実施例1と同様にして光硬化性樹脂組成物を調製し、実施例1と同様にして各評価を行った。結果を表1に示した。
【0072】
[比較例2]
3-メチル-1-メタクリロイルオキシ-3-ブテン(A-1)の代わりに、トリプロピレングリコール ジアクリレート(A-4)を用いたこと以外は実施例1と同様にして光硬化性樹脂組成物を調製し、実施例1と同様にして各評価を行った。結果を表1に示した。
【0073】
[比較例3]
3-メチル-1-メタクリロイルオキシ-3-ブテン(A-1)の代わりに、ポリエチレングリコール ジアクリレート(A-5)を用いたこと以外は実施例1と同様にして光硬化性樹脂組成物を調製し、実施例1と同様にして各評価を行った。結果を表1に示した。
【0074】
[比較例4]
3-メチル-1-メタクリロイルオキシ-3-ブテン(A-1)10質量部、ウレタンアクリレート(UA)90質量部、および、重合開始剤3質量部を配合した光硬化性樹脂組成物を調製した。この光硬化性樹脂組成物を用いて実施例1と同様にして各評価を行った。結果を表1に示した。
【0075】
[比較例5]
3-メチル-1-メタクリロイルオキシ-3-ブテン(A-1)60質量部、ウレタンアクリレート(UA)40質量部、および、重合開始剤3質量部を配合した光硬化性樹脂組成物を調製した。この光硬化性樹脂組成物を用いて実施例1と同様にして各評価を行った。結果を表1に示した。
【0076】
【0077】
表1に示すように、実施例1~4の光硬化性樹脂組成物は、適度な粘度を有しつつ、硬化速度が良好であり、また得られる硬化物は、光学特性、密着性および硬度に優れていて、硬化後の塗膜性能も良好であることが分かる。したがって、本発明の組成物は、特に塗料として使用した場合などにおいて、塗工・硬化の作業性と硬化後の塗膜性能とを両立させることができる。一方、比較例1~4の光硬化性樹脂組成物は、塗工の作業性や塗工膜の生産性が悪い。また、比較例5の光硬化性樹脂組成物は、硬化速度が遅く実用的でない。