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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-19
(45)【発行日】2023-10-27
(54)【発明の名称】研磨パッド
(51)【国際特許分類】
   B24B 37/24 20120101AFI20231020BHJP
   H01L 21/304 20060101ALI20231020BHJP
   C08G 18/10 20060101ALI20231020BHJP
   C08G 18/00 20060101ALI20231020BHJP
   C08G 18/65 20060101ALI20231020BHJP
   C08G 101/00 20060101ALN20231020BHJP
【FI】
B24B37/24 E
B24B37/24 C
B24B37/24 A
H01L21/304 622F
C08G18/10
C08G18/00 F
C08G18/65
C08G101:00
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2020563359
(86)(22)【出願日】2019-12-25
(86)【国際出願番号】 JP2019050894
(87)【国際公開番号】W WO2020138198
(87)【国際公開日】2020-07-02
【審査請求日】2022-02-14
(31)【優先権主張番号】P 2018244075
(32)【優先日】2018-12-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001085
【氏名又は名称】株式会社クラレ
(74)【代理人】
【識別番号】110002620
【氏名又は名称】弁理士法人大谷特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】服部 和正
(72)【発明者】
【氏名】加藤 晋哉
(72)【発明者】
【氏名】岡本 知大
(72)【発明者】
【氏名】高岡 信夫
(72)【発明者】
【氏名】林 浩一
【審査官】小川 真
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/092630(WO,A1)
【文献】特開2017-013149(JP,A)
【文献】特開2012-071415(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0099439(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B24B 37/24
H01L 21/304
C08G 18/00、18/10
C08G 18/40
C08J 5/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
不織布に無孔質高分子弾性体と多孔質高分子弾性体とを含浸させた研磨パッドであり、前記多孔質高分子弾性体は熱可塑性ポリウレタンを含み、前記多孔質高分子弾性体の質量に対する前記無孔質高分子弾性体の質量の比が0.49以下であり、
前記無孔質高分子弾性体が、23℃及び50℃における貯蔵弾性率が1~40MPaであるポリウレタンであることを特徴とする、研磨パッド。
【請求項2】
前記多孔質高分子弾性体の平均孔面積が10~100μmである多孔構造を有する、請求項1に記載の研磨パッド。
【請求項3】
前記多孔質高分子弾性体に含まれる熱可塑性ポリウレタンを形成する高分子ジオールの凝固速度が0.1~1.5molである、請求項1又は2に記載の研磨パッド。
【請求項4】
前記多孔質高分子弾性体に含まれる熱可塑性ポリウレタンのD硬度が35~85である、請求項1~3のいずれかに記載の研磨パッド。
【請求項5】
前記不織布を構成する繊維がポリエステル繊維であり、その平均単繊維径が1~10μmである、請求項1~4のいずれかに記載の研磨パッド。
【請求項6】
前記多孔質高分子弾性体に含まれる熱可塑性ポリウレタンが、高分子ジオール、有機ジイソシアネート、及び鎖伸長剤を反応させて得られた熱可塑性ポリウレタンを含み、
前記高分子ジオールが、ポリ(エチレンアジペート)、ポリ(ブチレンアジペート)、ポリ(カプロラクトンジオール)、ポリ(3-メチル-1,5-ペンタメチレンアジペート)、ポリ(ヘキサメチレンアジペート)、ポリ(3-メチル-1,5-ペンタメチレンテレフタレート)、ポリ(ジエチレングリコールアジペート)、ポリ(ノナメチレンアジペート)、ポリ(2-メチル-1,8-オクタメチレンアジペート)、ポリ(2-メチル-1,8-オクタメチレン-co-ノナメチレンアジペート)、ポリ(エチレングリコール)、ポリ(ジエチレングリコール)、ポリ(テトラメチレングリコール)、ポリ(プロピレングリコール)からなる群より選ばれる少なくとも1種を含み、
前記有機ジイソシアネートが、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート、2,4-トリレンジイソシアネート、2,6-トリレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネートからなる群より選ばれる少なくとも1種を含み、
前記鎖伸長剤が、エチレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、シクロヘキサンジメタノールからなる群より選ばれる少なくとも1種を含む、請求項1~5のいずれかに記載の研磨パッド。
【請求項7】
前記研磨パッドの見掛け密度が0.50~0.90g/cmである、請求項1~6のいずれかに記載の研磨パッド。
【請求項8】
前記研磨パッドのC硬度が80以上である、請求項1~7のいずれかに記載の研磨パッド。
【請求項9】
極細繊維発生型繊維からなる不織布に水系の無孔質高分子弾性体を付与する工程、極細繊維発生型繊維を極細繊維化して極細繊維不織布とする工程、溶剤系の高分子弾性体を含浸湿式凝固し、前記多孔質高分子弾性体の質量に対する前記無孔質高分子弾性体の質量の比が、0.49以下となるように多孔質高分子弾性体を付与する工程を順次、行うことを特徴とし、
前記無孔質高分子弾性体が、23℃及び50℃における貯蔵弾性率が1~40MPaであるポリウレタンである研磨パッドの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体ウェハ、シリコンウェハ、半導体デバイス、液晶ディスプレイ、ハードディスク、ガラスレンズ、金属等を研磨するために有用な研磨パッドに関する。
【背景技術】
【0002】
集積回路を形成するための基材として使用される半導体ウェハの鏡面加工として、化学的機械的研磨(Chemica Mechanical Polishing;CMP)が知られている。CMPに用いられる研磨パッドとしては、不織布に湿式凝固させたポリウレタンを含浸付与させた不織布タイプのシートや、フィルムや繊維構造体の上層に湿式凝固させたポリウレタン樹脂を表面層に配した湿式ポリウレタン(PU)スポンジタイプのシートや、独立気泡構造を有するポリウレタン等の高分子弾性体の成形シートが用いられている。不織布タイプのシートや湿式PUスポンジタイプは圧縮変形しやすいために比較的柔らかく、一方、高分子弾性体の成形シートは剛性が高い。
【0003】
近年、半導体ウェハや半導体デバイスには、高集積化や多層配線化に伴い、より一層の高平坦化等の品質向上や低価格化の要求が増々高まっている。配線材料としては、従来のアルミニウム合金に替わって銅合金が、絶縁材料としては、従来のSiOに替わって低誘電率材料の利用が試みられている。このような材料の変化に伴い、研磨パッドに対しても、従来以上の平坦化を可能にし、ウェハ表面のスクラッチを低減し、研磨レートを高め、研磨での安定性を向上させ、長時間使用可能であること、等のさらなる高機能化が要求されている。また、シリコンウェハ、液晶ディスプレイ、ハードディスク、ガラスレンズ等においても、高集積化や高精度化が進められているために、研磨パッドに対しても、従来以上の平坦化を可能にし、表面のスクラッチを低減し、研磨レートを高め、研磨での安定性を向上させ、更には、長時間使用可能であること、等のさらなる高機能化が要求されている。
【0004】
成形シートの研磨パッドに用いられる発泡ポリウレタンは、一般に、2液硬化型ポリウレタンを用いて注型発泡硬化することによって製造されている(例えば、特許文献1~4を参照。)。しかしながら、これらの方法では反応・発泡の均一化が困難である上、得られる発泡ポリウレタンの高硬度化にも限界があることから、被研磨面の平坦性や平坦化効率等の研磨特性が変動しやすいこと、更には、発泡構造が独立孔であるために研磨工程において使用される研磨スラリーや研磨屑がその空隙に侵入して目詰まりしやすく、研磨レート(研磨速度)が低下したり、パッド寿命が短い等の問題があった。このようなことから、上述したような要求性能(更なる平坦化効率の向上、ウェハ表面のスクラッチ低減、研磨レート向上、研磨での安定性や研磨パッドの寿命の向上等)を充分に満足する発泡ポリウレタン製の成形シートを用いた研磨パッドは得られていない。
そのために、特に、銅配線や低誘電率材料等の傷が付き易い材料や界面の接着性が弱い材料等では、傷や界面剥離がいっそう起こりやすくなって、これらに対応できる新たな研磨パッドの開発が求められている。
【0005】
一方、不織布タイプの研磨パッドは一般に、繊維に起因した凹凸構造を表面に形成したり、不織布の構造に起因した空隙や連通孔構造を有する。そのため、研磨時のスラリーの液溜まり性(以下、スラリー保持性と言うこともある)が良く研磨レートを高めやすいことや、クッション性が良く柔軟でウェハとの接触性が良好なこと等の特徴を有しており、多様な研磨分野に用いられている。しかし従来の不織布タイプの研磨パッドでは、その空隙の多さや柔軟性のために平坦化する能力が充分でなく、また、研磨での安定性や研磨パッドの寿命等も充分ではなかった。そのために、高性能化に向けた様々な検討がなされている(例えば、特許文献6~14を参照。)。
しかしながら、何れの場合においても、以下のような課題があった。すなわち、(1)繊維の直径が数十μm程度と繊維に起因する研磨パッド表面の凹凸がウェハの段差に対して相対的に巨大なため、平坦性の向上に限界があることや繊維に砥粒が凝集した場合にスクラッチの原因となりやすい。また、極細繊維を用いた場合には、極細繊維からなるシートは非常に柔らかい特性を持つために硬度が不足する、又は非常に硬い高分子弾性体を用いて硬度を高めた場合には、高分子弾性体の硬さや脆さが原因となってウェハに傷が付きやすくなる。(2)不織布の繊維の密度が低いことから、繊維による表面の立毛数(凹凸構造の密度)が少なく、繊維を高分子弾性体と複合する効果が充分では無い。(3)シートの密度が低く空隙が多いことから、硬度の高いシートを得難いこと、及び不均質な数百μmオーダーの巨大な不織布空隙が表面に存在するため、平坦性の向上に限界の有ること、更には、研磨時に硬度等の性能が経時的に変化しやすく、研磨の安定性や研磨パッドの寿命に問題を抱えている。(4)高分子弾性体を完全に充填させて不織布の空隙を無くした場合には、繊維に起因した表面の凹凸形成や不織布構造の空隙や連通孔構造に起因した特徴が失われてしまう。
【0006】
このようなことから、市場からの要求性能(更なる、平坦化効率の向上、ウェハ表面のスクラッチ低減、研磨レート向上、研磨での安定性や研磨パッドの寿命の向上等)を充分に満足する不織布タイプの研磨パッドは未だ見出されていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2000-178374号公報
【文献】特開2000-248034号公報
【文献】特開2001-89548号公報
【文献】特開平11-322878号公報
【文献】特開2002-9026号公報
【文献】特開平11-99479号公報
【文献】特開2005-212055号公報
【文献】特開平3-234475号公報
【文献】特開平10-128797号公報
【文献】特開2004-311731号公報
【文献】特開平10-225864号公報
【文献】特表2005-518286号公報
【文献】特開2003-201676号公報
【文献】特開2005-334997号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、研磨安定性及び研磨対象物の平滑性に優れた研磨性能を有し、長時間研磨を続けても研磨性能の変化が小さい特徴を有する不織布タイプの研磨パッドにおいて、研磨レートの高い研磨パッドを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一局面は、不織布に無孔質高分子弾性体と多孔質高分子弾性体とを含浸させた研磨パッドであり、前記多孔質高分子弾性体は熱可塑性ポリウレタンを含み、前記多孔質高分子弾性体の質量に対する前記無孔質高分子弾性体の質量の比が0.49以下であることを特徴とする研磨パッドである。
【0010】
また、前記多孔質高分子弾性体の平均孔面積が10~100μmである多孔構造を有する研磨パッドが好ましい。さらに、前記多孔質高分子弾性体に含まれる熱可塑性ポリウレタンを形成する高分子ジオールの凝固速度が0.1~1.5molである研磨パッドが好ましく、前記多孔質高分子弾性体に含まれる熱可塑性ポリウレタンのD硬度が35~85である研磨パッドが好ましい。
【0011】
また、不織布を構成する繊維がポリエステル繊維であり、その平均単繊維径が1~10μmである研磨パッドが好ましい。
【0012】
このような構成によれば、研磨安定性及び研磨対象物の平滑性に優れた研磨性能を有し、長時間研磨を続けても研磨性能の変化が小さい特徴を有する不織布タイプの研磨パッドにおいて、研磨レートの高い研磨パッドが得られる。
【0013】
また、多孔質熱可塑性ポリウレタンが、高分子ジオール、有機ジイソシアネート、及び.鎖伸長剤を反応させて得られた熱可塑性ポリウレタンを含み、高分子ジオールが、ポリ(エチレンアジペート)、ポリ(ブチレンアジペート)、ポリ(カプロラクトンジオール)、ポリ(3-メチル-1,5-ペンタメチレンアジペート)、ポリ(ヘキサメチレンアジペート)、ポリ(3-メチル-1,5-ペンタメチレンテレフタレート)、ポリ(ジエチレングリコールアジペート)、ポリ(ノナメチレンアジペート)、ポリ(2-メチル-1,8-オクタメチレンアジペート)、ポリ(2-メチル-1,8-オクタメチレン-co-ノナメチレンアジペート)、ポリ(エチレングリコール)、ポリ(ジエチレングリコール)、ポリ(テトラメチレングリコール)、ポリ(プロピレングリコール)からなる群より選ばれる少なくとも1種を含み、有機ジイソシアネートが、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート、2,4-トリレンジイソシアネート、2,6-トリレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネートからなる群より選ばれる少なくとも1種を含み、鎖伸長剤が、エチレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、シクロヘキサンジメタノールからなる群より選ばれる少なくとも1種を含むことが好ましい。
【0014】
また、上記研磨パッドの見掛け密度は、0.50~0.90g/cmであることが好ましい。
【0015】
また、上記研磨パッドは、C硬度が80以上であることが好ましい。
【0016】
さらに、本発明は、極細繊維発生型繊維からなる不織布に水系の無孔質高分子弾性体を付与する工程、極細繊維発生型繊維を極細繊維化して極細繊維不織布とする工程、溶剤系の高分子弾性体を含浸湿式凝固し、前記多孔質高分子弾性体の質量に対する前記無孔質高分子弾性体の質量の比が、0.49以下となるように多孔質高分子弾性体を付与する工程を順次、行うことを特徴とする研磨パッドの製造方法である。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、不織布タイプの研磨パッドにおいて、研磨レートの高い研磨パッドが得られる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の研磨パッドの一実施形態について詳細に説明する。
【0019】
本実施形態の研磨パッドは、不織布に無孔質高分子弾性体と多孔質高分子弾性体とを含浸させた研磨パッドであり、前記多孔質高分子弾性体は熱可塑性ポリウレタンを含み、前記多孔質高分子弾性体の質量に対する前記無孔質高分子弾性体の質量の比が0.49以下であることを特徴とする研磨パッドである。
本発明においては、不織布に無孔質高分子弾性体と多孔質高分子弾性体とを含浸させ、更に前記多孔質高分子弾性体の質量に対する前記無孔質高分子弾性体の質量の比を0.49以下に調整しているため、長時間研磨を続けても研磨性能の変化が小さく、且つ研磨レートを高くすることが可能になる。
なお、本発明において、無孔質高分子弾性体とは実質的に孔がないもの、具体的には後述する平均孔面積の測定において10μm未満のものを指し、多孔質高分子弾性体とは、後述する平均孔面積の測定において10μm以上のものを指す。
【0020】
不織布は、ナイロン、ポリブチレンテレフタレート(PBT)やポリエチレンテレフタレート(PET)のようなポリエステル系樹脂を主成分とする繊維の不織布であれば特に限定なく用いられる。特には、不織布がポリエステル系繊維で形成されている場合には、研磨中に吸水しにくいために貯蔵弾性率E’が変動しにくく研磨効率が安定する。例えば、ナイロン繊維のような吸水性の高い繊維の場合には、研磨中に吸水率が高くなることにより、貯蔵弾性率E’が変動し、研磨パッドが変形しやすくなって研磨効率が低下しやすくなる。
【0021】
また、ポリエステル繊維の繊維径としては、平均単繊維径が1~10μmであることが好ましく、さらには、1.5~8.5μmであることがより好ましい。平均単繊維径が1μm以上であるとドレス時に繊維が切れにくくなるため好ましい。また、平均単繊維径が10μm以下であると研磨対象への負荷を低く抑えることができるため、スクラッチの発生を低減することができる。
また、上記平均単繊維径の極細繊維を得る方法としては、極細繊維発生型繊維から極細繊維化する公知の方法が用いられる。極細繊維発生型繊維は、環境対応の観点から特に水溶性高分子成分と水難溶性高分子成分から構成されていることが好ましい。この水溶性高分子成分とは、該成分が水溶液により抽出除去される成分を示し、水難溶性高分子成分とは、該成分が水溶液により抽出除去されにくい成分、すなわち、前述したナイロンで代表されるポリアミド系樹脂やポリエチレンテレフタレートで代表されるポリエステル系樹脂を示す。そして、水溶性高分子成分と水難溶性高分子成分からなる極細繊維発生型繊維は少なくとも1成分が水溶液による抽出処理で抽出除去されるものであれば、海島型複合繊維、混合紡糸型繊維などの多成分系複合繊維のいずれを使用してもよい。
なお、本発明で用いられる水溶性高分子成分としては、水溶液で抽出処理できるポリマーであれば、公知のポリマーが使用できるが、水溶液で溶解可能なポリビニルアルコール共重合体類(以下「PVA」と略することもある)を用いることが好ましい。PVAは容易に熱水で溶解除去が可能であり、水系溶剤で抽出除去する際の収縮挙動によって極細繊維成分の極細繊維発生型繊維に構造捲縮が発現し、不織布が嵩高く緻密なものとなる点、および抽出処理する際に極細繊維成分や高分子弾性体成分の分解反応が実質的に起こらないため極細繊維成分に用いる熱可塑性樹脂および高分子弾性体成分の限定が無い点、更には環境に配慮した点等から好適に用いられる。
【0022】
本実施形態の研磨パッドは、ポリエステル繊維の不織布に含浸付与された、無孔質高分子弾性体と、D硬度が35~85である多孔質熱可塑性ポリウレタンとを含むことが好ましい。
無孔質高分子弾性体は主として不織布の製造工程において形態安定性を保つために用いられる。また、D硬度が35~85である多孔質熱可塑性ポリウレタンは、研磨パッドの硬度を調整するとともに、微細な気泡を表層に付与することにより、CMP研磨の際に研磨スラリーの保持性を向上させることに寄与する。無孔質高分子弾性体は、例えば、不織布に無孔性の高分子弾性体のエマルジョンを含浸させ乾燥させることにより付与することができる。また、多孔質熱可塑性ポリウレタンは不織布に多孔性の熱可塑性ポリウレタンを形成する熱可塑性ポリウレタンの溶液を含浸させ、湿式凝固させることにより付与することができる。
【0023】
無孔質高分子弾性体の具体例としては、無孔質の高分子弾性体、例えば、ポリウレタン、アクリロニトリルエラストマー、オレフィンエラストマー、ポリエステルエラストマー、ポリアミドエラストマー、アクリルエラストマー等が挙げられる。これらの中では、ポリウレタンが好ましい。
【0024】
無孔質高分子弾性体は、水系の無孔質高分子弾性を用いることが好ましく、例えば無孔質のポリウレタンは、水系エマルジョンを用いて形成されることが好ましい。ポリウレタンの水系エマルジョンの具体例としては、例えば、ポリカーボネート系ポリウレタン、ポリエステル系ポリウレタン、ポリエーテル系ポリウレタン、ポリカーボネート/エーテル系ポリウレタンの水系エマルジョンが挙げられる。
【0025】
無孔質高分子弾性体としては、-10℃以下のガラス転移温度を有し、23℃及び50℃における貯蔵弾性率が好ましくは1~40MPa、より好ましくは1~35MPaであり、50℃で飽和吸水させたときの吸水率が0.2~5質量%のポリウレタンが好ましい。23℃及び50℃における貯蔵弾性率が前記下限値以上であると、研磨パッドが変形しにくくなり好ましい。また、貯蔵弾性率が前記上限値以下であると硬くなりすぎないためスクラッチの発生を抑制することができる。また、吸水率が低すぎる場合には、研磨時のスラリー保持量が少なくなって、研磨均一性が低下しやすくなる傾向がある。また、吸水率が高すぎる場合には、研磨中に硬度等の特性が変化しやすくなって研磨安定性が低下しやすくなる傾向がある。
【0026】
上記研磨パッドに含まれる多孔質高分子弾性体が、熱可塑性ポリウレタンの場合、熱可塑性ポリウレタンは、凝固速度が好ましくは0.1~1.5mol、より好ましくは0.3~1.2mol、更に好ましくは0.4~1.0mol、より更に好ましくは0.5~0.9molである高分子ジオールを用いることが好ましい。高分子ジオールの凝固速度を制御することで多孔質ポリウレタンの平均孔面積を10~100μm2に制御することができ、研磨スラリーの保持性を向上させることができ、研磨安定性に優れた研磨パッドが得られる。
なお、本発明において、高分子ジオールの凝固速度は、実施例に記載の方法により測定することができる。
また、多孔質熱可塑性ポリウレタンは、D硬度が好ましくは35~90、より好ましくは35~85、更に好ましくは35~80、より更に好ましくは40~80の熱可塑性ポリウレタンの多孔体であることが好ましい。
なお、本発明において、多孔質熱可塑性ポリウレタンのD硬度は、実施例に記載の方法により測定することができる。
多孔質熱可塑性ポリウレタンのD硬度は、好ましくは35~90である。これにより高い耐久性を維持できるとともに適度なパッド追従性を維持する。また、凝固速度が好ましくは0.1~1.5mol、より好ましくは0.6~1.0molである高分子ジオールからなりD硬度が好ましくは35~80である多孔質熱可塑性ポリウレタンは、研磨パッドの硬度を調整するとともに、微細な気泡を表層に付与することにより、研磨スラリーの保持性を向上させることに寄与する。それにより、研磨中に形成された気孔が消失しにくくなり、その結果、研磨パッドのスラリー保持力が向上して研磨レートが高くなる。熱可塑性ポリウレタンのD硬度が35以上である場合は、耐久性が向上し、形成された気泡が研磨中に溶融して消滅することが抑制される。それにより研磨パッドのスラリー保持力が向上して研磨レートが高くなる。またD硬度が90以下であると、研磨中の貯蔵弾性率が高くなりすぎることがなく、パッド追従性が良好になり、研磨レートが向上する。
【0027】
多孔質熱可塑性ポリウレタンを用いて形成する多孔構造の平均孔面積は10~100μmであることがスラリー保持力を向上させて研磨レートを高く維持することができる点から好ましい。この観点から、前記多孔構造の平均孔面積は、好ましくは15~90μm、より好ましくは20~90μm、更に好ましくは25~70μm、より更に好ましくは25~50μmである。平均孔面積が10μm以上であるとドレス時に研磨パッド表層の多孔構造が損傷しにくくなり、研磨中のスラリー保持量を維持することができるため研磨レートが低下せず、研磨均一性を維持しやすくなる。一方、100μm以下であると研磨屑が滞留しにくくなるためスクラッチ性が向上する。
なお、本発明において、平均孔面積は実施例に記載の方法により測定することができる。
【0028】
多孔質熱可塑性ポリウレタンを形成する熱可塑性ポリウレタン(以下、単に「ポリウレタン」とも称する場合もある。)について、詳しく説明する。ポリウレタンの製造方法は特に限定されず、例えば、高分子ジオール、有機ジイソシアネート及び鎖伸長剤を所定の比率で良溶媒中で反応させる方法や、実質的に溶剤の不存在下で溶融重合させる方法や、公知のウレタン化反応を利用したプレポリマー法又はワンショット法が用いられる。これらの中では、不織布に含浸して研磨パッドを製造の点から溶液重合させる方法が特に好ましく用いられる。溶液重合は、高分子ジオール、有機ジイソシアネート及び鎖伸長剤、及び必要に応じて配合される添加剤を所定の比率で配合し、反応槽を用いて一定量、反応させる方法である。
【0029】
ポリウレタンの重合の原料となる、高分子ジオール、有機ジイソシアネート及び鎖伸長剤について詳しく説明する。
【0030】
高分子ジオールの具体例としては、例えば、ポリ(エチレンアジペート)、ポリ(ブチレンアジペート)、ポリ(カプロラクトンジオール)、ポリ(3-メチル-1,5-ペンタメチレンアジペート)、ポリ(ヘキサメチレンアジペート)、ポリ(3-メチル-1,5-ペンタメチレンテレフタレート)、ポリ(ジエチレングリコールアジペート)、ポリ(ノナメチレンアジペート)、ポリ(2-メチル-1,8-オクタメチレンアジペート)、ポリ(2-メチル-1,8-オクタメチレン-co-ノナメチレンアジペート)、ポリ(エチレングリコール)、ポリ(ジエチレングリコール)、ポリ(テトラメチレングリコール)、ポリ(プロピレングリコール)からなる群より選ばれる少なくとも1種であり、これらの中でも、ポリ(ブチレンアジペート)、ポリ(カプロラクトンジオール)、ポリ(ヘキサメチレンアジペート)、ポリ(エチレングリコール)、ポリ(テトラメチレングリコール)が好ましい。さらにはポリ(カプロラクトンジオール)、ポリ(ヘキサメチレンアジペート)が多孔構造の形成の点で好ましい。
【0031】
有機ジイソシアネートとしては、通常の熱可塑性ポリウレタンの製造に従来から用いられている有機ジイソシアネートのいずれを使用してもよく、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート、2,4-トリレンジイソシアネート、2,6-トリレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネートからなる群より選ばれる少なくとも1種であり、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネートが、得られる研磨パッドの耐摩耗性等の点から好ましい。
【0032】
鎖伸長剤としては、通常のポリウレタンの製造に従来から使用されている鎖伸長剤のいずれを使用してもよい。鎖伸長剤としては、イソシアネート基と反応し得る活性水素原子を分子中に2個以上有する分子量300以下の低分子化合物を使用することが好ましく、エチレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、シクロヘキサンジメタノールからなる群より選ばれる少なくとも1種の鎖伸長剤を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0033】
本実施形態の研磨パッドは、不織布に含浸付与された無孔質高分子弾性体とD硬度が35~90である多孔質熱可塑性ポリウレタンとを含むことが好ましい。多孔質熱可塑性ポリウレタンの孔の形状は多孔構造であることがスラリーの保持性、目詰まり抑制の点で好ましい。
また、本実施形態の研磨パッドは、前記多孔質高分子弾性体の質量(多孔質熱可塑性ポリウレタンの質量)に対する無孔質高分子弾性体の質量の比が0.49以下である。前記多孔質高分子弾性体の質量(多孔質熱可塑性ポリウレタンの質量)に対する無孔質高分子弾性体の質量の比が0.49を超える場合は、研磨パッド中の多孔質熱可塑性ポリウレタンが少なくなり、研磨中のスラリー保持性が低下して研磨レートが低くなる。また、研磨パッドの硬度も低くなり、研磨均一性が低下する傾向にある。また、多孔質熱可塑性ポリウレタンの含有量に対する無孔質高分子弾性体の含有量の質量比の下限は0.30以上であることが、研磨パッドの高硬度化の点で好ましい。
これらの観点から前記多孔質高分子弾性体の質量に対する前記無孔質高分子弾性体の質量の比は、0.35以上であることが好ましく、0.38以上であることがより好ましく、そして、0.47以下であることが好ましく、0.46以下であることがより好ましい。
【0034】
本実施形態の研磨パッドは、見掛け密度が0.50~0.90g/cmであることが好ましい。見掛け密度の範囲が前記範囲内であると剛性及び連通孔の容積が適度になるために、スクラッチを抑制しながら高い研磨レートが得られる点から好ましい。この観点から、さらには0.55~0.85g/cmであることが好ましく、0.58~0.80g/cmであることがより好ましく、0.60~0.75g/cmであることが更に好ましい。見掛け密度が低すぎる場合には剛性が低くなることにより研磨レートが低くなる傾向があり、見掛け密度が高すぎる場合には多孔の容積が減少することにより研磨屑や研磨スラリーの砥粒が排出されにくくなって被研磨面に対するスクラッチの抑制効果が低下する傾向がある。
なお、本発明において、研磨パッドの見掛け密度は、実施例に記載の方法により測定することができる。
【0035】
本実施形態の研磨パッドのC硬度は80以上が好ましく、より好ましくは85以上であることが好ましい。パッド硬度が低すぎる場合には研磨パッドが柔らかくなりすぎて研磨レート及び平坦化性能が低下する。また、パッド硬度が高すぎる場合には硬くなりすぎて被研磨面への追従性が低下することにより、研磨レートが低下し、また、被研磨面にスクラッチが発生しやすくなる傾向があるため、研磨パッドのC硬度の上限は95以下が好ましい。
なお、本発明において、研磨パッドのC硬度は、実施例に記載の方法により測定することができる。
【0036】
また、本実施形態の研磨パッドの製造方法は、極細繊維発生型繊維からなる不織布に無孔質高分子弾性体を付与する工程、極細繊維発生型繊維を極細繊維化して極細繊維不織布とする工程、溶剤系の高分子弾性体を含浸、湿式凝固し、前記多孔質高分子弾性体の質量に対する前記無孔質高分子弾性体の質量の比が、0.49以下となるように多孔質高分子弾性体を付与する工程を順次、行うことを特徴とする研磨パッドの製造方法である。極細繊維発生型繊維からなる不織布に最初に無孔質高分子弾性体を多孔質高分子弾性体よりも少量付与することで低密度で次工程以降の形状維持が容易となり、更には多孔質熱可塑性ポリウレタンの含浸性が向上し、更には多孔構造の形成が容易となる。
【0037】
本実施形態の研磨パッドは、単層の研磨パッドとしても、研磨面に対して反対側の面にクッション性を付与するために、発泡構造又は無発泡構造を有するエラストマーシートやエラストマーを含浸させた不織布等からなる公知のクッション層を積層したような複層構造の研磨パッドとして用いてもよい。クッション層は、粘着剤や接着剤を用いてシートに積層される。
【0038】
研磨パッドの厚さは特に限定されないが、0.8~3.5mmであることが好ましく、1.0~3.0mmであることがより好ましく、1.2~2.5mmであることが研磨性能とパッド寿命の観点から好ましい。
研磨パッドを構成する不織布の質量をWaとし、無孔質高分子弾性体の質量をWbとし、多孔質高分子弾性体の質量をWcとした場合において、全研磨パッドの質量(Wa+Wb+Wc)に対する研磨パッドを構成する不織布の質量(Wa)の比は、0.600以上が好ましい。前記質量の比が0.600以上であると、研磨パッドの硬度を向上させることができる。この観点から前記質量の比は、0.630以上が好ましく、0.640以上がより好ましく、0.700以下が好ましい。
【0039】
また、研磨パッドの研磨面には、必要に応じて研削、レーザー加工、エンボス加工等により、水性スラリーを保持させるための溝や穴を形成することが好ましい。
【0040】
研磨パッドの研磨対象は特に制限されないが、例えば、シリコンウェハ等の半導体基板やガラス基板、半導体デバイスや液晶ディスプレイ等が挙げられる。研磨方法としては、化学機械研磨装置(CMP装置)と水性スラリーを用いた化学機械研磨法(CMP)が好ましく用いられる。CMPとしては、例えば、CMP装置の研磨定盤に研磨パッドを貼り付け、研磨面に水性スラリーを供給しながら、研磨パッドに被研磨物を押し当てながら加圧し、研磨定盤と被研磨物をともに回転させることにより被研磨物の表面を研磨する方法が挙げられる。なお、研磨前や研磨中には、必要に応じて、ダイヤモンドドレッサーやナイロンブラシ等のドレッサーを使用して研磨面をコンディショニングして整えることが好ましい。
【実施例
【0041】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって何ら限定されるものではない。
【0042】
はじめに、本実施例において用いた評価方法を以下にまとめて説明する。
【0043】
[ポリエステル繊維の不織布の質量比、無孔質高分子弾性体の質量比]
研磨パッドの製造工程における質量変化に基づき、ポリエステル繊維の不織布の質量(Wa)、含浸された無孔質高分子弾性体(無孔質ポリウレタン)の質量(Wb)、含浸された多孔性の熱可塑性ポリウレタンの質量(Wc)を求め、Wa/(Wa+Wb+Wc)の式から研磨パッド中のポリエステル繊維の不織布の質量比を求めた。また、Wb/Wcから、前記多孔質高分子弾性体の質量(多孔質熱可塑性ポリウレタンの質量)に対する無孔質高分子弾性体の質量の比を求めた。
【0044】
[高分子ジオールの凝固速度測定]
高分子ジオールをジメチルホルムアミド(DMF)に溶解して10質量%濃度DMF溶液を作製し、30℃に加温した。加温したDMF溶液にDMF10質量%濃度水溶液を滴下して白濁させた。白濁の始まった状態を始点、完全に白濁した状態を終点として始点、終点のDMF10質量%濃度水溶液の滴下量の和より算出した平均値(同様の操作を3回行った平均値)より凝固速度を求めた。
【0045】
[多孔質熱可塑性ポリウレタンの平均孔面積]
得られた研磨パッドの厚み方向の任意の断面を500倍の倍率で走査型顕微鏡(SEM)で撮影した。そして得られたSEM写真から熱可塑性ポリウレタンの多孔断面積を画像処理によって二値化し、平均孔面積を算出した。
【0046】
[硬度測定]
硬度測定はJIS K 7311:1995に準じて行った。具体的には熱プレス成形より得られた熱可塑性ポリウレタンシートを厚み6mm以上になるように積み重ねて測定した10点の平均値からD硬度を求め、研磨パッドを厚み6mm以上になるように積み重ねて測定した10点の平均値からC硬度を求めた。
【0047】
[単繊維直径]
研磨パッドの繊維を含む厚さ方向に垂直な断面を、走査型電子顕微鏡を用いて1000倍で観察し、測定結果を単繊維直径とした。
【0048】
[見掛け密度]
JIS K 7311:1995に準じて研磨パッドの見掛け密度を求めた。
【0049】
[研磨レート(研磨速度)]
得られた研磨パッドの研磨レートを次の方法により評価した。
得られた研磨パッドをCMP研磨装置((株)エム・エー・ティ製の「MAT-BC15」)に設置した。そして、プラテン回転数100rpm、ヘッド回転数99rpm、研磨圧力57kPaの条件で、研磨スラリーを200mL/分の割合で供給しながら直径4インチのベアシリコンウェハを10分間研磨した。なお、研磨スラリーとしては、(株)フジミインコーポレーテッド製「Glanzox1302」を20倍希釈に調製したものを用いた。その後、ベアシリコンウェハを交換して同様に研磨を繰り返し、計5枚のベアシリコンウェハを研磨した。そして、研磨した5枚のベアシリコンウェハの研磨前、研磨後の質量差より研磨レートを算出した。そして5枚のベアシリコンウェハの研磨レートの平均値を算出した。
【0050】
[実施例1]
島成分としてポリエチレンテレフタレート(PET)、海成分として水溶性熱可塑性ポリビニルアルコール(PVA)を含み、海成分/島成分の質量比25/75である島数25島の海島型複合繊維のストランドを265℃で溶融複合紡糸用口金から吐出し延伸して細化しながら冷却することにより海島型複合繊維を紡糸した。そして、連続的に捕集しプレスすることにより長繊維ウェブを得た。次に2枚の長繊維ウェブを重ね合わせ、両面に交互にニードルパンチ処理を行い長繊維ウェブ同士を絡合し三次元絡合体を得た。
次に、無孔質高分子弾性体として、ポリカーボネート系ポリウレタン(Tg:-27℃、貯蔵弾性率(23℃):32.6MPa、貯蔵弾性率(50℃):19.5MPa)の水系エマルジョンを三次元絡合体にディップニップすることで含浸付与し乾燥処理を行った。なお、この処理は本発明の製造方法における「極細繊維発生型繊維からなる不織布に水系の無孔質高分子弾性体を付与する工程」に該当する。
そして三次元絡合体を熱水中でディップニップすることにより海島型複合繊維から島成分の水溶性熱可塑性PVAを溶解除去させ、乾燥することにより、平均単繊維繊度0.05dtexの25束のPET繊維からなる不織布とその内部に無孔質ポリウレタンが付与された厚さ1.8mmのシートを得た。なお、この処理は本発明の製造方法における「極細繊維発生型繊維を極細繊維化して極細繊維不織布とする工程」に該当する。得られた不織布の平均単繊維径は3.0μmであった。
【0051】
[多孔質熱可塑性ポリウレタンの合成]
2Lのガラス製フラスコに高分子ジオールであるポリカプロラクトンジオール((株)ダイセル製のプラクセル210)を仕込み、80℃下で脱気した。脱気後、鎖伸長剤である1,4-ブタンジオール(東京化成工業(株)製)を仕込み、更にジメチルホルムアミド(富士フイルム和光純薬(株)製)を仕込み撹拌した。撹拌後、イソシアネートであるジフェニルメタンジイソシアネート(東ソー(株)製のMILLIONATE MT)を仕込みながら加温、撹拌して粘度上昇を確認しながら反応させた。液粘度が500mPa・sから1500mPa・sになるように逐次、ジフェニルメタンジイソシアネートを仕込み、撹拌した。液粘度測定後、常温下で冷却して熱可塑性ポリウレタンを得た。なお、表1に熱可塑性ポリウレタンの組成及び硬度を示している。
【0052】
[多孔質熱可塑性ポリウレタンの含浸付与]
得られたPET不織布と無孔質ポリウレタンとを含むシートを380mm×380mmに切り出した。そして切り出されたシートに、D硬度80の多孔質熱可塑性ポリウレタンを含浸付与した。なお、表1に、多孔質熱可塑性ポリウレタンの組成及び硬度を示している。
【0053】
含浸付与は、次のようにして行った。熱可塑性ポリウレタン濃度25%DMF溶液を30℃に加温した。その上に上記シートを10分間静置してDMF溶液を浸透させた。さらに5分間、DMF溶液中に沈下した。次にシートを取り出してガラス板上に乗せ、シート表面をドクターナイフでなぞるようにして付着したDMF溶液を取り除いた。裏面についても同様の操作を行った。
【0054】
次に、DMF溶液を浸透させた原反を30℃に維持したDMF濃度10%水溶液に浸漬し、30分間放置することにより、多孔質熱可塑性ポリウレタンを凝固させた。そして、多孔質熱可塑性ポリウレタンを凝固させて含浸付与させたシートを70~95℃の熱水に浸漬し、金属ロールで挟み、水を搾り出した後、再び熱水に浸漬させるようにして水洗した。そして、水洗された原反を熱風乾燥機(装置名:セーフティーオーブンSPH-202/エスペック株式会社)に入れ、100℃で40分間乾燥した。このようにして研磨パッドの原反(パッド原反中間体と称する)が得られた。なお、この処理は本発明の製造方法における「溶剤系の高分子弾性体を含浸湿式凝固し、前記多孔質高分子弾性体の質量に対する前記無孔質高分子弾性体の質量の比が、0.49以下となるように多孔質高分子弾性体を付与する工程」に該当する。
【0055】
[パッド原反中間体の平坦化及び溝加工]
パッド原反中間体の表面をサンドペーパー(番手#180)でバフィングして厚み斑を無くして平坦にすることにより研磨パッドを作製した。そして、被研磨面に粘着テープを貼った。そして、平坦化溝加工機により研磨パッドの研磨面に溝幅2.0mm、溝深さ0.5mm、ピッチ15mmの格子溝を形成した。そして、格子溝を形成した研磨パッドを直径370mmの円形に切り出した溝付研磨パッドを得た。そして、上記のような評価方法により評価した。結果を表1に示す。
【0056】
[実施例2]
実施例1の[多孔質熱可塑性ポリウレタンの合成]において、ポリカプロラクトンジオールをポリヘキサメチレンアジペートに変更したこと以外は実施例1と同様に溝付研磨パッドを製造し、実施例1と同様の方法で評価した。結果を表1に示す。
【0057】
【表1】
【0058】
[比較例1]
実施例1に記載した熱可塑性ポリウレタンと同様に、高分子ジオールとしてポリカプロラクトンジオール((株)ダイセル製のプラクセル210)、鎖伸長剤として1,4-ブタンジオール(東京化成工業(株)製)、イソシアネートとしてジフェニルメタンジイソシアネート(東ソー(株)製のMILLIONATE MT)を用いて製造した熱可塑性ポリウレタン、更には含浸付与において熱可塑性ポリウレタン濃度25%DMF溶液を用いて溝付研磨パッドを得た。そして、上記のような評価方法により評価した。結果を表1に示す。
【0059】
表1に示すとおり、実施例1の研磨パッドは無孔質高分子弾性体、多孔質高分子弾性体の各成分の質量比を制御すること、つまり、多孔質高分子弾性体を多くすることにより研磨速度が高くなる。一方、比較例1の場合は研磨パッドの多孔質高分子弾性体が少ないことにより研磨中に溝形状の損傷が発生し、研磨レートが低くなる。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明に係る研磨パッドは、例えば、各種半導体装置、ベアシリコン、MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)、SiC半導体等の製造プロセスの研磨に適応することができる。