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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-19
(45)【発行日】2023-10-27
(54)【発明の名称】医薬組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 39/395 20060101AFI20231020BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20231020BHJP
【FI】
A61K39/395 T ZNA
A61P35/00 ZMD
【請求項の数】 1
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2021052571
(22)【出願日】2021-03-26
(62)【分割の表示】P 2019508989の分割
【原出願日】2018-10-19
(65)【公開番号】P2021152002
(43)【公開日】2021-09-30
【審査請求日】2021-10-18
(31)【優先権主張番号】62/574,297
(32)【優先日】2017-10-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】514099673
【氏名又は名称】エフ・ホフマン-ラ・ロシュ・アクチェンゲゼルシャフト
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】ウェンガー マイケル
(72)【発明者】
【氏名】モバシャー メルダッド
(72)【発明者】
【氏名】リン チン-ウー
【審査官】新熊 忠信
(56)【参考文献】
【文献】特表2011-506538(JP,A)
【文献】Advances in Therapy,2016年,Vol.34,p.324-356
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 39/00-39/44
A61K 45/00-45/08
A61K 9/00- 9/72
A61K 47/00-47/69
A61P 7/00
A61P 35/00
A61P 43/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
オビヌツズマブを含有するCD20陽性のB細胞性リンパ腫治療用医薬組成物であって、前記医薬組成物は、1回の投与あたりオビヌツズマブとして1000mgが点滴静注され、2回以上のサイクルにおいて、以下の(a)及び(b)の投与速度:
(a)初回サイクルおいて、オビヌツズマブの投与は50mg/時の投与速度で開始され、投与速度は30分毎に50mg/時ずつ上げられ、オビヌツズマブはその後最大400mg/時の投与速度で投与される
(b)初回サイクルおいてグレード3以上のインフュージョンリアクションが発現しなかった場合は、2回目以降のサイクルおいて、オビヌツズマブの投与は100mg/時の投与速度で30分間行われ、オビヌツズマブはその後最大900mg/時の投与速度で投与される
に従い投与される医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オビヌツズマブの投与速度に関する。
【技術背景】
【0002】
オビヌツズマブは、B細胞悪性腫瘍の治療に適応される、糖鎖改変II型抗CD20モノクローナル抗体である。オビヌツズマブは、より低い補体依存性細胞傷害性を示すにも関わらずより亢進された抗体依存性細胞傷害性と直接的なB細胞死とを示す点で、その先行体であるリツキシマブと異なる(非特許文献1-3、図1)。オビヌツズマブ又はリツキシマブの何れかと併用され、抗CD20抗体維持療法が続く化学療法を比較した第III相GALLIUM試験では、オビヌツズマブベースの免疫化学療法は、未治療の濾胞性リンパ腫(FL)を有する患者における無増悪生存期間において、臨床的に有意義な改善をもたらした(非特許文献4、5)。
第III相GADOLIN試験におけるオビヌツズマブ維持を続けて行うベンダムスチン+オビヌツズマブは、低悪性度B細胞非ホジキンリンパ腫(NHL)を有するリツキシマブ抵抗性患者における有効性をベンダムスチン単剤療法以上に改善した(非特許文献6)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【文献】Mossner E, Brunker P, Moser S, et al. Increasing the efficacy of CD20 antibody therapy through the engineering of a new type II anti-CD20 antibody with enhanced direct and immune effector cell-mediated B-cell cytotoxicity. Blood 2010;115:4393-402.
【文献】Herter S, Herting F, Mundigl O, et al. Preclinical activity of the type II CD20 antibody GA101 (obinutuzumab) compared with rituximab and ofatumumab in vitro and in xenograft models. Mol Cancer Ther 2013;12:2031-42.
【文献】Tobinai K, Klein C, Oya N, Fingerle-Rowson G. A review of obinutuzumab (GA101), a novel type II anti-CD20 monoclonal antibody, for the treatment of patients with B-cell malignancies. Adv Ther 2017;34:324-56.
【文献】Marcus R, Davies A, Ando K, et al. Obinutuzumab for the first-line treatment of follicular lymphoma. N Engl J Med 2017;377:1331-44.
【文献】Hiddemann W, Barbui AM, Canales Albendea MA, et al. Immunochemotherapy with obinutuzumab or rituximab in previously untreated folllicular lymphoma in the randomised phase III GALLIUM study: analysis by chemotherapy regimen. Hematol Oncol 2017;35:117-9.
【文献】Sehn LH, Chua N, Mayer J, et al. Obinutuzumab plus bendamustine versus bendamustine monotherapy in patients with rituximab-refractory indolent non-Hodgkin lymphoma (GADOLIN): a randomised, controlled, open-label, multicentre, phase 3 trial. Lancet Oncol 2016;17:1081-93.
【発明の概要】
【0004】
オビヌツズマブは、現在、静脈内(本明細書では「IV」と略記する)注入により投与される。長時間及び/又は頻繁なIV注入は、患者にとって負担且つ不便であり、並びに看護及び事務スタッフの作業負荷の増加を伴う長期の観察時間が必要となる。オビヌツズマブの通常のIV注入(本明細書では「RI」と略記する)は、約3-4時間かかり、注入時間の短縮が潜在的な利点を有すると考えることは、患者の利便性、並びに医療施設及びスタッフの時間の有効利用の観点から合理的である(図2)。
より短時間の注入(本明細書では「SDI」と略記する)の主な潜在的な欠点は、サイトカイン放出により媒介されるインフュージョン関連リアクション(IRRs)のリスクが増大する可能性にある。しかしながら関節リウマチ又はB細胞NHLを有する患者における試験は、リツキシマブの注入時間を少なくとも4時間から1.5-2時間に短縮することが可能であることを示しており、このことからリツキシマブの注入速度を高めることの推奨と、同様にオビヌツズマブを投与されている患者におけるSDIの調査に至っている。
【0005】
SDIは、CD20陽性進行性びまん性大細胞型B細胞リンパ腫(本明細書では「DLBCL」と略記する)を有する未治療患者80人における、シクロホスファミド、ドキソルビシン、ビンクリスチン及びプレドニゾロン(本明細書では「CHOP」と略記され、プレドニゾロンは、プレドニソンと交換可能である)化学療法と併用される、オビヌツズマブの第II相非盲検多施設単群試験であるGATHER試験でも調査された。GATHER試験で評価されたSDIの時間、120及び90分の両方が、グレード≧3のIRRを伴わない、良好な忍容性を示した。全体としてGATHER試験集団の4%は、アジア人種であり、薬物代謝経路に関与する遺伝子多型頻度の民族的差異は、薬物動態(本明細書では「PK」と略記する)に影響し得る酵素活性の変化に関連することが示唆されている。しかしながらオビヌツズマブを投与された様々な地域集団において得られたデータは、アジア人(中国人及び日本人を含む)及び非アジア人の患者におけるオビヌツズマブのPKに関連する差異を示さなかった。
【0006】
これらのコンセプトをさらに探求するため、第II相GATS試験(JO29737、JapicCTI-152 848)が行われ、CD20陽性B細胞NHLを有する未治療患者にSDIを用いて投与されたオビヌツズマブの忍容性、具体的にはIRRのグレードの程度が調査され、血清オビヌツズマブ濃度及びPK、並びにサイトカイン放出の時間経過が評価された(図3)。
【0007】
具体的には、本発明は以下に関する:
[1]オビヌツズマブを含有するCD20陽性のB細胞性リンパ腫治療用医薬組成物であって、前記医薬組成物は、1回の投与あたりオビヌツズマブとして1000 mgが点滴静注され、2回以上のサイクルで投与され、且つ、以下の(a)及び(b)の投与速度に従い投与される医薬組成物。
(a)初回サイクルの投与におけるオビヌツズマブの最大投与速度が、200 mg/時以上、好ましくは300 mg/時以上、より好ましくは400 mg/時以上である。
(b)2回目以降のサイクルの投与におけるオビヌツズマブの最大投与速度が、700 mg/時以上、好ましくは800 mg/時以上、より好ましくは900 mg/時以上で投与される。
[2]前記2回目以降のサイクルの1回の投与時間が、180分以内、好ましくは150分以内、より好ましくは120分以内、最も好ましくは90分以内である、[1]に記載の医薬組成物。
[3]前記初回サイクルにおいては3回、前記2回目以降のサイクルにおいては1回投与される、[1]又は[2]に記載の医薬組成物。
[4]前記初回サイクルの初回の投与では50 mg/時でオビヌツズマブの投与が開始され、前記初回サイクルの2回目以降の投与では100 mg/時でオビヌツズマブの投与が開始される、[3]に記載の医薬組成物。
[5]前記2回目以降のサイクルの投与速度が、オビヌツズマブ700 mg/時以上、好ましくはオビヌツズマブ800 mg/時以上、より好ましくはオビヌツズマブ900 mg/時まで上げられる、[1]~[4]のいずれか一項に記載の医薬組成物。
[6](b)において、以下の条件(c)から(e)の少なくとも1つに従い投与される、[1]~[5]のいずれか一項に記載の医薬組成物:
(c)前回までの3回の投与で、グレード(Grade)3以上のインフュージョンリアクション(infusion reaction)が発現しておらず、投与前の末梢血リンパ球数が5000/μL未満である場合は、投与が100mg/時で30分間行われる。その間にインフュージョンリアクションが認められない場合は、速度は900mg/時まで上げることができる。患者の状態により、速度は、例えばサイクル1での投与速度に、適宜減速され得る。
(d)グレード1/2のインフュージョンリアクションが発現した場合、投与中断前の半分の速度で投与を再開する。30分間インフュージョンリアクションが認めらなかった場合は、速度は、900mg/時まで上げることができる。
(e)グレード3のインフュージョンリアクションが発現した場合、投与は200mg/時以下として再開する。30分間インフュージョンリアクションが認められなかった場合は、速度は30分毎に50mg/時ずつ上げ、最大400mg/時まで上げることができる。
[7]前記初回サイクルは 1、8、15 日目に、前記2回目以降のサイクルは 1日目に投与される、[1]~[6]のいずれか一項に記載の医薬組成物。
[8]3週間を1サイクルとする、[1]~[7]のいずれか一項に記載の医薬組成物。
[9]一以上の他の抗悪性腫瘍剤と組合せて用いられ、前記医薬組成物が前記一以上の他の抗悪性腫瘍剤の投薬サイクルに合せて投与され、前記投薬サイクルが4週間を1サイクルとする、[1]~[7]のいずれか一項に記載の医薬組成物。
[10]前記他の抗悪性腫瘍剤が、CHOP、CVP、ベンダムスチン、フルダラビン、レナリドミド、抗PD-1抗体、及び抗PD-L1抗体から選択される一以上である、[9]に記載の医薬組成物。
[11]前記2回以上のサイクル後、オビヌツズマブを含有する単剤により2カ月毎に2年間維持療法が行われる、[1]~[10]のいずれか一項に記載の医薬組成物。
[12]前記オビヌツズマブの濃度が、10~40 mg/mL、好ましくは20~30 mg/mL、より好ましくは25 mg/mLである、[1]~[11]のいずれか一項に記載の医薬組成物。
[13]さらに添加物として、トレハロース水和物、L-ヒスチジン、L-ヒスチジン塩酸塩水和物、又はポリオキシエチレン(160)ポリオキシプロピレン(30)グリコールを含有する、[1]~[12]のいずれか一項に記載の医薬組成物。
[14]オビヌツズマブを含有するCD20陽性のB細胞性リンパ腫治療用医薬組成物の製造におけるオビヌツズマブの使用であって、前記医薬組成物は、1回の投与あたりオビヌツズマブとして1000 mgが点滴静注され、2回以上のサイクルにおいて以下の(a)及び(b)の投与速度に従い投与される使用。
(a)初回サイクルの投与におけるオビヌツズマブの最大投与速度が、200 mg/時以上、好ましくは300 mg/時以上、より好ましくは400 mg/時以上である。
(b)2回目以降のサイクルの投与におけるオビヌツズマブの最大投与速度が、700 mg/時以上、好ましくは800 mg/時以上、より好ましくは900 mg/時以上で投与される。
[15]オビヌツズマブを含有する医薬組成物により、CD20陽性のB細胞リンパ腫を治療するための方法であり、前記組成物は、1回の投与あたりオビヌツズマブとして1000 mgが点滴静注され、2回以上のサイクルにおいて以下の(a)及び(b)の投与速度に従い投与される方法。
(a)初回サイクルの投与におけるオビヌツズマブの最大投与速度が、200 mg/時以上、好ましくは300 mg/時以上、より好ましくは400 mg/時以上である。
(b)2回目以降のサイクルの投与におけるオビヌツズマブの最大投与速度が、700 mg/時以上、好ましくは800 mg/時以上、より好ましくは900 mg/時以上で投与される。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1はオビヌツズマブの特徴を示す。オビヌツズマブは、糖鎖改変II型抗CD20 mAbであり、リツキシマブより高い直接的細胞死誘導性及びADCC/ADCP活性を有する。ADCC、抗体依存性細胞介在性細胞傷害性;ADCP、抗体依存性細胞食作用。
図2図2は投与時間とIRRのリスクを示す。患者の重度の負担を考慮すると、SDIの実現は、オビヌツズマブの臨床的有用性を増加させるであろう。日本人患者におけるオビヌツズマブの安全性、忍容性、PK及び予備的な有効性を評価する第I相試験(JO21900試験)では、オビヌツズマブを投与された12人の患者全員が、サイクル1の1日目において、インフュージョン関連リアクション(IRR)を経験した。
図3図3はGATS試験の概要を示す。目的:日本人患者におけるより短時間の注入(SDI)の受容性を確認すること。対象集団:CD20陽性B細胞NHL(DLBCL、FL、MZL)を有する未治療患者。試験デザイン:第II相、多施設、非盲検、単群、G-CHOP×8サイクル。一次エンドポイント:サイクル2における≧グレード3のインフュージョン関連リアクションの発生率;オビヌツズマブの血清濃度及び薬物動態パラメーター;サイトカイン(TNFα、IFNγ、IL-6、IL-8、IL-10)の時間経過。対象患者数:36人(登録患者)。
図4図4はGATS試験の臨床デザインを示す。試験薬投与及びSDI選択基準は、G-CHOPの安全性及び有効性を評価したGATHER試験に基づいてデザインされ、SDIは、GATS試験により確認された。オビヌツズマブは、サイクル1の1日目に4時間15分、サイクル1の8日目及び15日目に3時間15分間、通常注入によりCHOPとともに投与された。患者がSDI選択基準(グレード≧3のインフュージョン関連リアクションのない、通常注入による少なくとも3回の連続投薬;プレSDI末梢リンパ球数<5000/μL)を満たしていれば、オビヌツズマブが、SDIにより、サイクル2から8まで投与された。
図5図5はGATS試験における、通常注入及びSDIの間の注入速度の比較を示す。
図6図6はGATS試験における患者の傾向を示す。
図7図7はGATS試験における患者の特徴を示す。
図8図8はGATS試験における安全性プロファイルを示す。グレード≧3のインフュージョン関連リアクションは、SDI移行患者において生じなかった。SDIにおける安全性プロファイルは、通常注入におけるそれと同等であった。
図9図9はGATS及びGATHER試験においてIRRを伴った患者の数を示す。GATS及びGATHER試験の間で、同様の傾向が認められた。
図10図10はGOYA試験における通常注入に対するGATS試験におけるSDIによる投与後の日本人患者におけるオビヌツズマブのPKを示す。GATS試験におけるSDI移行患者の血清オビヌツズマブ濃度は、GOYA試験における通常注入患者のそれと同様の時間経過で行った。
図11図11はGATS及びGATHER試験のSDI患者におけるオビヌツズマブのPKを示す。民族的差異は、血液サンプリングのタイミングがGATS及びGATHER試験の間で異なるが、個人差を考慮すると観察されなかった。SDIにおけるサイクル2直後の血清濃度は、サイクル8中のそれと同様であり、従ってPKは、サイクル2で定常状態に達し、SDIに影響されなかった。
図12図12はGATS試験におけるオビヌツズマブ投与後のIL-6放出を示す。サイトカイン上昇のピークは、サイクル1の1日目の注入中であり、注入後2-5時間で急速に減少した。SDI開始後に、明白な変化は見られなかった。同様の傾向は、TNFα、IFNγ、IL-8、及びIL-10で観察された。
図13図13はGATAS試験におけるDLBCL及びFLに対するオビヌツズマブの治療有効性を示す。
図14図14はGATS試験に基づくオビヌツズマブのSDIの忍容性を示す。グレード≧3のIRRは、SDI移行患者において発生しなかった。IRRは、通常注入ではサイクル1の1日目に最もよく発生したが、全てがグレード1又は2であった。3件のIRRが、SDIにおいてサイクル6、7、又は8で観察されたが、全てがグレード1に分類された。同様の傾向がGATHER試験で観察された。投与時間及び民族的差異は、オビヌツズマブのPKに何ら影響を及ぼさないようである。サイトカインの上昇は、初回のオビヌツズマブ注入の間観察されたが、注入終了時に直ちに減少した。総じて、オビヌツズマブのSDIは認容されることが示された。
【発明を実施するための形態】
【0009】
実施形態の説明
I.オビヌツズマブの用量と投与についての概要
本出願で、オビヌツズマブは、糖鎖改変型の遺伝子組換えヒト化抗CD20モノクローナル抗体であり、タイプII抗CD20抗体の特性を示し、449個のアミノ酸残基からなるH鎖2本及び219個のアミノ酸残基からなるL鎖2本で構成される糖タンパク質であり、分子量が約148,000~150,000である。具体的には、本書におけるオビヌツズマブは、医薬品一般的名称(JAN)において「オビヌツズマブ(遺伝子組換え)(Obinutuzumab(Genetical Recombination))」で特定されるもののほか、そのバイオシミラー製品やバイオベター製品をも包含する。
以下、オビヌツズマブを含有する医薬組成物を「本剤」と称する。
【0010】
[効能・効果]
・一実施形態として、本剤の「効能・効果」は以下が例示される。
・本剤の対象疾患としては、CD20陽性のB細胞性リンパ腫が挙げられる。すなわち、本剤は、オビヌツズマブを含有するCD20陽性のB細胞性リンパ腫治療用医薬組成物である。CD20陽性のB細胞性リンパ腫としては、たとえば、濾胞性リンパ腫、低悪性度リンパ腫、中悪性度リンパ腫、及び高悪性度リンパ腫が挙げられる。CD20陽性のB細胞性リンパ腫は、CD20陽性のB細胞性濾胞性リンパ腫が好ましい。
【0011】
[用法・用量]
・一実施形態として、本剤の「用法・用量」は以下が例示される。なお、以下に例示される投与速度を含む用法用量に関する許容性は、GATS試験により示された。
・通常、成人には、オビヌツズマブとして1回1000 mgを点滴静注する。
・導入療法は、3週間を1サイクルとし、初回サイクルは1、8、15日目に、2-8サイクルは1日目に投与する。併用する抗悪性腫瘍剤が4週間隔投与の場合には、4週間を1サイクルとし、初回サイクルは1、8、15日目に、2-6サイクルは1日目に投与する。
・24週間の導入療法後、本剤単独にて2カ月毎に2年間維持療法を行う。
・本剤は以下の投与速度で投与される。なお、Gradeの判定基準は、NCI-CTCAE ver. 4.03に従う。
【0012】
(初回投与時)
50 mg/時の速度で点滴静注を開始し、患者の状態を十分観察しながら、30分毎に50 mg/時ずつ上げて、最大400 mg/時まで上げることができる。
【0013】
(サイクル1の2回目以降)
前回の投与でGrade2以上のinfusion reactionが発現しなかった場合は、100 mg/時で投与を開始し、infusion reactionが認められない場合は、30分毎に100 mg/時ずつ最大400 mg/時まで上げることができる。
【0014】
(サイクル2以降)
前回までの3回の投与で、Grade3以上のinfusion reactionが発現しておらず、投与前の末梢血中リンパ球数が5000/μL 未満である場合は、100 mg/時で30分投与し、infusion reactionが認められない場合は、900 mg/時まで上げることができる。なお、患者の状態により、サイクル1での投与速度に戻す等、適宜減速すること。
・Infusion reactionが発現したときは以下のとおり対応する。
【0015】
(Grade2以下のinfusion reactionが発現した場合)
投与を中断するか投与速度を下げる。
【0016】
(Grade3のinfusion reactionが発現した場合)
投与を中断して適切な処置を行う。
投与を中断した場合は、infusion reactionが回復/軽快後、後述のとおり、投与速度を変更し再開する。
【0017】
(Grade4のinfusion reactionが発現した場合)
本剤の投与を直ちに中止し、適切な処置を行う。
【0018】
(Grade3のinfusion reactionが再発した場合及びGrade4のinfusion reactionが発現した場合)
本剤を再投与しない。
・Infusion reaction発現後、投与を中断し、再開する時の投与速度は以下のとおり対応する。
【0019】
(初回投与時及びサイクル1の2回目以降)
投与中断前の半分の速度で投与を再開する。30分間infusion reactionが認められなかった場合は、30分毎に50 mg/時ずつ上げ、最大400 mg/時まで上げることができる。
【0020】
(サイクル2以降でGrade1/2のinfusion reactionが発現した場合)
投与中断前の半分の速度で投与を再開する。30分間infusion reaction が認められなかった場合は、900 mg/時まで上げることができる。
【0021】
(サイクル2以降でGrade3のinfusion reactionが発現した場合)
200 mg/時以下として再開する。30分間infusion reaction が認められなかった場合は、30分毎に50 mg/時ずつ上げ、最大400 mg/時まで上げることができる。
【0022】
II.医薬組成物
本発明において、医薬組成物は、オビヌツズマブを含有する。一実施形態において、医薬組成物は、薬学的有効量のオビヌツズマブを含有する。オビヌツズマブは、II型抗CD20抗体の特徴を示し且つ449アミノ酸残基の2本の重鎖と219アミノ酸残基の2本の軽鎖とを含む糖タンパク質である、糖鎖改変、遺伝子組換え且つヒト化抗CD20モノクローナル抗体であり、約148,000-150,000の分子量を有する。具体的には、本出願におけるオビヌツズマブは、日本医薬品一般的名称(JAN)における「オビヌツズマブ(遺伝子組換え)」だけでなく、重鎖のアミノ酸配列が配列番号1で示され且つ軽鎖のアミノ酸配列が配列番号2で示されるバイオシミラー、及びそれらのアミノ酸配列に由来するそのバイオベター製品を含む。
【0023】
医薬組成物は、CD20陽性B細胞リンパ腫を治療するために用いられる。CD20陽性B細胞リンパ腫の例は、濾胞性リンパ腫、低悪性度リンパ腫、中悪性度リンパ腫及び高悪性度リンパ腫を含む。CD20陽性B細胞リンパ腫は、好ましくはCD20陽性B細胞濾胞性リンパ腫である。
【0024】
一実施形態において、点滴静注時の注入液としての医薬組成物中のオビヌツズマブの濃度は、通常10-40mg/mLである。別の実施形態において、濃度は20-30mg/mLである。別の実施形態において、濃度は25mg/mLである。好ましい実施形態において、濃度は20-30mg/mLである。より好ましい実施形態において、濃度は25mg/mLである。
【0025】
一実施形態において、医薬組成物は、トレハロース水和物、L-ヒスチジン、L-ヒスチジン塩酸塩水和物、又はポリオキシエチレン(160)ポリオキシプロピレン(30)グリコールから選択される少なくとも一つの添加剤をさらに含有し得る。好ましい実施形態において、医薬組成物は、添加剤として、トレハロース水和物、L-ヒスチジン、L-ヒスチジン塩酸塩水和物、及びポリオキシエチレン(160)ポリオキシプロピレン(30)グリコールを含有する。
【0026】
一実施形態において、医薬組成物は、2回以上のサイクルで投与される。サイクルの期間は、3-5週間内で、当業者により決定され得る。期間の例は、3週間又は4週間である。医薬組成物が単剤療法として投与される場合、期間は、好ましくは3週間である。医薬組成物が少なくとも1つの抗腫瘍剤と組み合わせて投与される場合、期間は、好ましくは4週間である。医薬組成物をこのような抗腫瘍剤と組み合わせる場合、医薬組成物の投与サイクルは、好ましくは、抗腫瘍剤の投薬サイクルと同期される。
【0027】
一実施形態において、医薬組成物の投与頻度は、通常、サイクル毎に1回以上である。頻度は、各サイクルで変更される。別の実施形態において、医薬組成物は、初回サイクルにおいて3回投与される。別の実施形態において、医薬組成物は、2回目以降のサイクルにおいて1サイクルに1回投与される。好ましい実施形態において、医薬組成物は、初回サイクルにおいて3回、且つ2回目以降のサイクルにおいて1サイクルに1回投与される。
【0028】
一実施形態において、サイクルにおける投与日は、当業者により調整される。別の実施形態において、投与日は、初回サイクルにおける1、8、及び15日目、及び2回目以降のサイクルにおける1日目である。
【0029】
一実施形態において、一投与あたりのオビヌツズマブの量は、1-2000mgの範囲内で、当業者により変更される。具体的な実施形態において、医薬組成物は、一投与あたり1000mgのオビヌツズマブで、点滴静注される。
【0030】
一実施形態において、医薬組成物は、2回以上のサイクルにおいて、以下の(a)及び(b)の投与速度に従い投与される。
(a)初回サイクルの投与におけるオビヌツズマブの最大投与速度が、200 mg/時以上、好ましくは300 mg/時以上、より好ましくは400 mg/時以上である。
(b)2回目以降のサイクルの投与におけるオビヌツズマブの最大投与速度が、700 mg/時以上、好ましくは800 mg/時以上、より好ましくは900 mg/時以上で投与される。
【0031】
上記(a)の別の実施形態において、初回サイクルにおける最大投与速度が、好ましくはオビヌツズマブの300 mg/時以上、より好ましくはオビヌツズマブの400 mg/時以上である。
【0032】
上記(b)の別の実施形態において、2回目以降のサイクルにおける最大投与速度が、オビヌツズマブの800 mg/時以上、より好ましくはオビヌツズマブの900 mg/時以上である。この実施形態において、2回目以降のサイクルにおける、投与あたりの時間は、好ましくは180分以内である。投与時間は、好ましくは150分以内、より好ましくは120分以内、最も好ましくは90分以内である。
【0033】
一実施形態において、初回サイクルにおける初回投与は、オビヌツズマブの50 mg/時の速度で開始される。初回サイクルにおける2回目以降の投与は、オビヌツズマブの100 mg/時の速度で開始される。
【0034】
一実施形態において、2回目以降のサイクルにおける投与速度は、オビヌツズマブ700 mg/時以上、好ましくは800 mg/時以上、より好ましくは900 mg/時まで上げられる。
【0035】
他の実施形態において、医薬組成物を抗腫瘍剤と組合せる場合、少なくとも1つの薬剤が既知の薬剤から適切に選択される。当該他の抗腫瘍剤は、CHOP、CVP、ベンダムスチン、フルダラビン、レナリドミド、抗PD-1抗体、及び抗PD-L1抗体から選択される少なくとも1つである。
【0036】
一実施形態において、オビヌツズマブによる維持単剤療法が、追加療法として行われる。維持単剤療法は、医薬組成物による治療後、2ヶ月毎に2年間行われ、この場合において当該治療は「導入療法」と呼称される。
【0037】
III.製造方法
オビヌツズマブは、WO2005/044859で示される既知の方法に従って、通常の技術者により製造され得る。医薬組成物は、通常の技術により、オビヌツズマブを他の原料と混合することによっても製造される。
【0038】
本発明は、CD20陽性B細胞リンパ腫を治療するための医薬組成物の製造におけるオビヌツズマブの使用をも提供する。医薬組成物は、「II.医薬組成物」の記載と同様の方法で投与される。
【0039】
IV.治療方法
本発明は、オビヌツズマブを含有する医薬組成物により、CD20陽性B細胞リンパ腫を治療するための方法をも提供する。本方法では、医薬組成物は、1回の投与あたりオビヌツズマブとして1000 mgが点滴静注され、2回以上のサイクルにおいて以下の(a)及び(b)の投与速度に従い投与される。
(a)初回サイクルの投与におけるオビヌツズマブの最大投与速度が、200 mg/時以上、好ましくは300 mg/時以上、より好ましくは400 mg/時以上である。
(b)2回目以降のサイクルの投与におけるオビヌツズマブの最大投与速度が、700 mg/時以上、好ましくは800 mg/時以上、より好ましくは900 mg/時以上で投与される。
【0040】
医薬組成物の使用方法は、「II.医薬組成物」の記載と同様である。
【0041】
オビヌツズマブの糖鎖改変が何らかの異常な免疫反応を引き起こす可能性を否定し得なかったことから、SDIがオビヌツズマブのヒトへの投与に適するかどうかは、本発明前に明らかになっていなかった。全体として、前記医薬組成物は、安全性且つ忍容性をもって投与され、且つ通常注入における長時間投与に苦しむ患者と医療関係者との治療負担を軽減し得ることが、GATS試験に基づいて見いだされた。
【実施例
【0042】
<GATS臨床試験の概要>
題目:日本人非ホジキンリンパ腫患者における、オビヌツズマブ(GA101)SDIの安全性及び忍容性
【0043】
背景:オビヌツズマブ(GA101、G)は、新規の抗CD20モノクローナル抗体である。Gベースの免疫化学療法は、濾胞性リンパ腫(FL)を有する患者(pts)における無増悪生存期間(PFS)において、臨床的に有意義な改善をもたらした(ASH2016、#6)。Gの通常注入(RI)は、約3-4時間かかる。投与時間を短縮することは、患者にとってより利便性があり得る。
【0044】
方法:GATS試験(JapicCTI-152848)は、未治療のCD20陽性非ホジキンリンパ腫を有する患者を含んだ。治療は、Gの8サイクル(C)及びC1-C6におけるCHOP(C1の8日目及び15日目に追加のGを伴う)からなった。SDIはC2から行われ、90分にわたりGが注入された。1次エンドポイントは、SDIの忍容性、薬物動態(PK)、及びサイトカイン放出であった。忍容性は、インフュージョン関連リアクション(IRR)の発生により評価した
【0045】
結果:36人の登録患者中、びまん性大細胞型B細胞リンパ腫を有する19人、FLを有する13人、及び他の組織学所見を有する3人を含む、35人の患者が治療された。全体として、17/35の患者(49%)がIRRを経験した。全てがグレード1/2であり、最も一般的には、C1の1日目(RI)に発生した。2人の患者は、逸脱又はAEのため、C3又はC4からSDIを開始した。SDIにおいて、3件のIRRが観察されたが、全てグレード1であった。C2直後の血清Gレベルは、C8中のそれに類似していた。このことは、PKがC2において定常に達し、投与の短時間化により影響されなかったことを示している。サイトカインの上昇は、初回のG投与注入中に観察されたが、注入終了時に直ちに減少した。
【0046】
結論:90分にわたるGのSDIは、日本人患者において許容された。PKと血清サイトカインプロファイルは、RI下のそれらと同等だった。
【0047】
<GATS臨床試験の詳細な説明>
試験デザインと治療
【0048】
これは、日本で行われた、第II相、多施設、非盲検、単群試験であった。適格な患者は、未治療の組織学的に確認されたCD20陽性B細胞NHL(DLBCL、FL又は辺縁帯リンパ腫);東海岸がん臨床試験グループパフォーマンスステータス0-2;登録日からの余命≧12ヶ月;左心室駆出率≧50%として定義される適正な心血管機能;ヘモグロビン≧9g/dL、絶対好中球数≧1.5×10細胞/L、末梢リンパ球<5.0×10細胞/L及び血小板数≧75×10細胞/Lとして定義される適正な臓器機能;血清ビリルビン、血清クレアチニン及びプロトロンビン時間、又は活性化部分トロンボプラスチン時間が部位特異的上限の≦1.5倍、且つ肝酵素が部位特異的上限の≦2.5倍、を有する、20歳以上であった。患者は、大手術を受けたり、免疫抑制療法、生ワクチン又は他の試験薬を登録前の4週間に受けたりしたことがないことを要求された;直近12週間内のモノクローナル抗体療法は許容されなかった。
【0049】
除外基準には、NHLについての先行治療(結節生検又は局所放射線照射を除く);原発性中枢神経系(CNS)リンパ腫、続発性CNS関連又は軟膜リンパ腫;本試験の結果に影響し得る重篤な感染、他の悪性腫瘍、又は自己免疫疾患の最近(≦4週間)の履歴;リンパ腫以外の症状のためのプレドニゾロン>30mg/日相当の進行中のコルチコステロイド治療;細胞傷害性剤又はリツキシマブ又は任意の他の抗CD20抗体の何らかの先行使用;B型肝炎表面(HBs)抗原、HBs抗体、B型肝炎コア(HBc)抗体、又はC型肝炎ウイルス(HCV)抗体に対する陽性試験;HIV又はヒトT細胞リンパ好性ウイルスI型及び非制御の糖尿病を含めた。明確にワクチン接種に帰するHBs抗体を有し、且つ抗体の状態を問わずB型肝炎ウイルスDNA陽性を検査しなかった患者は、HCV抗体陽性を試験されたがHCV RNA陰性の状態であった患者と同様、登録を許可された。試験は、施設内審査委員会により承認され、且つヘルシンキ宣言及び医薬品の臨床試験の実施に関する基準(Good Clinical Practic)に従って管理された。全ての患者が、書面によるインフォームドコンセントを与えた。
【0050】
治療は、サイクル1の1日目、8日目、及び15日目に1000mgIVとして投与されるオビヌツズマブ、並びにサイクル1-6の1日目に投与される標準的CHOPの、21日サイクルの8回で構成された(図4)。オビヌツズマブは、サイクル1にRIで(3-4時間)で投与され、次いでサイクル2からSDI基準を満たす患者において、90分のSDIで投与された(図5)。SDI基準は、RIの速度において患者の安全性を確認するためのものであり、サイクル1における3回のRIの何れにおいてもオビヌツズマブ治療との因果関係を有するグレード≧3のIRRを含めず、且つSDI開始前の末梢血リンパ球数<5.0×10細胞/Lを含めた。サイクル2の前にこれらの基準を満たさなかった患者は、続く任意のサイクルで基準を満たす場合にはRIからSDIに移行することもあり得た。
【0051】
標準的CHOPは、1日目のIVによるシクロホスファミド750mg/m、ドキソルビシン50mg/m、ビンクリスチン1.4mg/m、及び1-5日目の経口又はIVによるプレドニゾロン100mg/日で構成された。オビヌツズマブ及びCHOPが同日に投与されるようにスケジュールされた場合、プレドニゾロンがオビヌツズマブ注入に先立って投与された。患者の状態に合わせた用量の減量が許容された。
試験のエンドポイント
【0052】
検査の1次エンドポイントは、サイクル2でSDIを開始した患者におけるサイクル2におけるグレード≧3のIRRの発生、SDI後サイクル2の12日目までのオビヌツズマブの血清濃度及びPKパラメーター、並びに腫瘍壊死因子アルファ(TNFα)、インターフェロンガンマ(IFNγ)、及びインターロイキン6、8、及び10(IL6、IL8、及びIL10)についてのサイトカイン放出の時間経過であった。IRRは、オビヌツズマブに関連すると研究者により判定され、且つ注入の24時間又は24時間内にレポートされた有害事象(AE)として定義された。
【0053】
2次エンドポイントは、全ての他のAE(オビヌツズマブ療法との関係を問わない)、SDIの間にレポートされたIRR、治療終了時の腫瘍反応及び最良反応(フォローアップ中の任意の時点)を含めた。
【0054】
PK分析集団は、サイクル2でSDIによりオビヌツズマブを投与された全ての患者を含めた。各患者のついてのオビヌツズマブのPKパラメーターは、非コンパートメント解析(NCA;Phoenix WinNonlin(登録商標) version 6.4;Certara(登録商標) USA,Inc.)を用いて推定した。次のPKパラメーターが計算された:最大観察血清濃度(Cmax)、0日目から7日目までの血清濃度-時間曲線下面積(AUC0‐7)、排出半減期(t1/2)、及び0から最終測定時点までのAUC(AUClast)。
統計及び分析の方法
【0055】
サンプルサイズは、サイクル2におけるグレード≧3のIRRの発生が5%を超えるであろう真の確率の推定値に基づいた。用いた推定値に従い、1人の患者においてグレード≧3のIRRが存在したと仮定すると、30人の患者が募集された場合、IRRの確率が5%を超える可能性は2.2%となる。この数字は、20%の患者がSDIへの移行をすることができないと仮定すると36に上昇した。従ってサンプルサイズは、36人の患者に設定された。
【0056】
サイクル2におけるグレード≧3のIRRの発生率は、このような反応が発症した患者の数をSDI移行患者の数で割ることより取得された。グレード≧3の発生の確率は、ベイズ法に従い、GATHER試験のサイクル2におけるグレード≧3のIRRの発生を事前分布として用いて決定された。日本人及び非日本人患者の間で、注入速度を問わず、グレード≧3のIRRの発症の確率に差異は推定されなかった。我々は、グレード≧3のIRR発症の真の確率が≦5%であれば、SDIが適切に忍容されると推定した。
【0057】
算術平均、幾何平均、標準偏差、変動係数、中央値、最小及び最大を含む要約統計は、各研究訪問時のサイトカイン濃度について、サイクル2までのSDI移行患者からの血清サイトカイン濃度を用いて計算された。サイトカイン濃度の時間経過も評価された。同様の要約データが、サイクル2の12日目までのSDI移行患者における血清オビヌツズマブ濃度に基づくPKパラメーターについて生成された。NCAが用いられた。サイクル2の血清濃度は、サイクル8での投薬前後に得られた追加のサンプルと比較された。
患者集団
【0058】
全体として、36人の日本人患者が登録され、その内35人が治療された(安全性集団;図6);28人(80%)が治療の全8サイクルを完了した。3分の1の患者がサイクル2でSDIを開始し(SDI移行患者)、さらに2人の患者が続くサイクルでSDIを開始して(サイクル3で1人とサイクル4で1人)、全33人のSDI移行患者となった。2人の患者がSDI開始前に中止した。十分な治療強度が達成された;オビヌツズマブの中央値用量強度は100%だった。
【0059】
患者の中央値年齢は、66歳であり、試験集団の過半数は、60歳と70歳の間であった(図7)。約3分の2は男性であり、患者の大部分はDLBCL(54%)又はFL(37%)を有していた。5分の1(20%)の患者は、骨髄障害を有していた。
インフュージョン関連リアクション
【0060】
全体として、17/35の患者(安全性集団の49%)が計21件のIRRを経験した;全てグレード1又は2であり、且つ大半(18/21のIRR(86%))がサイクル1(RI使用)で発生した。SDIに関わるIRRは、サイクル2でのSDI移行患者に発生せず、従って事前分布としてのGATHER試験のデータを用いて推定される、サイクル2でのSDI移行患者におけるグレード≧3のIRRの真の確率が5%のレベルを超えるであろう確率を推定することは不可能だった。さらに無情報事前分布を用いて推定された、サイクル2でのSDI移行患者におけるグレード≧3のIRRの真の可能性が5%のレベルを超えるであろう可能性は、0.05%だった。サイクル6、7、及び8でのSDIの間にIRRを発症した2人の患者のレポートがあり、全てグレード1の重篤度だった(1人の患者がサイクル6で鼻咽頭炎を経験し、もう1人がサイクル7及び8で頭痛を、サイクル7で動悸を経験した)。
他の安全性及び忍容性エンドポイント
【0061】
AEは、35人の患者全てで観察された(図8)。全ての患者は、治療関連であると研究者に判定される、少なくとも1つのAEを有した。グレード≧3のAEは、30人(80%)の患者で観察され、29人(83%)の患者で治療関連と判定された。血液及びリンパ系障害(好中球減少症、白血球減少症及び血小板減少症)が、治療関連のグレード≧3のAEの中で最も頻繁にレポートされた。重篤なAEは、9人(26%)の患者でレポートされた。全てが治療関連と判定された。
【0062】
試験の間、死に至るAE(グレード5)はなかった。オビヌツズマブ治療は、AEのため、3人の患者で中断された:感染性類皮嚢胞、細気管支炎及び誤嚥性肺炎が各1例。誤嚥性肺炎は、治療関連ではなかった。オビヌツズマブ療法の用量減少や中断に至るAEは、3人の患者で発生し、一方何らかの試験薬の用量減少や中断に至るAEは、9人の患者で発生した。何らかの試験薬物治療の中断に至るAE(n=4)は、好中球減少症、蜂窩織炎、IRR、脳梗塞又は肺炎であった(各1)。何らかの試験薬物治療の用量減少(n=7)は、好中球減少症/好中球数の減少(n=4)、白血球減少症/白血球数減少(n=3)、血小板減少症/血小板の減少(n=3)、アラニンアミノトランスフェラーゼの上昇、アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼの上昇、末梢性ニューロパチー、末梢性感覚ニューロパチー、又はステロイド離脱症候群(各1)によるものであった。
薬物動態
【0063】
GATS試験におけるSDI移行患者の血清オビヌツズマブ濃度は、GOYA試験における通常注入の患者のそれと同様の時間経過に従った(図10)。
【0064】
サイクル8における平均血清オビヌツズマブ濃度は、17人の評価可能なSDI移行患者のサイクル2におけるそれと類似していた。このことは、定常状態のPKがサイクル2で達せられ、且つ注入の短時間化により影響されなかったことを示している。AUClast(AUC7day)の平均±標準偏差は、サイクル2で4770±898μg日/mL(対してGATHERのサイクル8では3590±1060μg日/mL)だった(図11)。t1/2の平均は、15.4±7.55日だった(17人の評価可能なSDI患者に基づく;対してGATHERでは23.0±15日目)。サイクル2の1日目のAUClast(AUC11day)値は、6790±1450μg日/mLであり、Cmaxは925±221μg/mLだった。
サイトカイン
【0065】
35人の患者(31人のSDI移行患者含む)全てについて、初回オビヌツズマブ注入の間サイトカイン上昇が観察されたが、続いて注入終了後2-5時間に直ちに減少した(図12はIL-6のケースを示す)。SDI開始後に、関連性のある変化は観察されなかった。初回のオビヌツズマブ注入後に、CD19陽性B細胞の急速な枯渇もまたみられた。数が<0.07×10細胞/Lに減少し、検査期間中このレベルに留まった。
有効性
【0066】
治療終了時のコンピュータートモグラフィーに基づく評価における全奏功率は、FL患者で77%(10/13)及びDLBCL患者で68%(13/19)であった(完全奏功及び部分奏功を含む、図13)。最良の全奏功は、それぞれ92%(12/13)及び79%(15/19)であった。完全奏効、CR、(陽電子放出トモグラフィースキャンなし)は、治療終了時にFLを有する患者13人中8人(62%)及びDLBCLを有する患者19人中11人(58%)で、最良完全奏功評価ではFLを有する患者13人中8人(62%)及びDLBCLを有する患者19人中12人(63%)で、得られた。
【0067】
本試験は、オビヌツズマブ+CHOP化学療法のSDIの、未治療CD20陽性B細胞NHLを有する患者における忍容性(特にIRRのレート)、PK、及びサイトカイン放出プロファイルを調査することを目的とした。オビヌツズマブ+CHOPに伴うIRRの大多数は、RIが用いられる、治療のサイクル1で観察された。どのグレードのIRRも、サイクル2中には観察されず、2人の患者のみが、続くサイクルで、SDIによるオビヌツズマブ療法の間にIRRを経験したが、全てグレード1であった。
【0068】
IRRの観測率(49%)は、他のRIにより投与されるオビヌツズマブのレポートと一致した。これは直接的な比較ではないが、SDIオビヌツズマブで治療された患者におおいて、IRRのリスクが上昇しないことを示唆する。1202人のFLを有する未治療患者における、オビヌツズマブベース対リツキシマブベースの免疫化学療法の第III相GALLIUM試験では、IRRは、最も一般的な、任意のグレードのAE(オビヌツズマブ化学療法治療患者の68%)及びグレード≧3のAE(オビヌツズマブ化学療法治療患者)であり、通常初回注入時に発生した。同様に、未治療のDLBCLを有する1418人の患者の第III相GOYA試験では、CHOPを伴うオビヌツズマブを投与された患者の45%(任意のグレード)及び10%(グレード≧3)にIRRが発生した。第Ib相GAUDI試験では、IRRは、オビヌツズマブ+CHOPを投与された患者28人中18人(64%)で発生した;この発生は本発明におけるより一般的であるが、IRRは、初回注入に主に限定され、且つ3-4のIRRは稀で、2人の患者(7%)にしか発生しなかった。IRRは、オビヌツズマブが単剤療法として試験されているB細胞悪性腫瘍を有する患者における試験でも顕著であり、反応の大半はグレード1又は2であった。注目すべきことに、オビヌツズマブ+CHOPを受けたDLBCLを有する、主に非アジア人である患者100人のGATHER試験では、120又は90分を超えてSDIを受けた患者において、グレード≧3のIRRは認められなかった。GATHERでみられたIRRのパターンは、GATSに類似し、ほとんど(77%)の反応がサイクル1中(RIが施された)に発生した(図9)。他の安全性及び忍容性の知見は、GATHER及びGATS集団の間で類似した。新規の安全性シグナルは、本試験で同定されなかった。
【0069】
PK及び血清サイトカインデータは、GATHER試験の結果と同等だった。SDI後のオビヌツズマブへの曝露は、本試験において、GATHERにおけるものと同程度であり、同様のAUC0-7及びt1/2値を示した。本試験においてサイクル2の1日目からレポートされたAUClast値(4770±885μg日/mL)も、Oguraらによりレポートされた、再発性又は難治性B細胞NHLを有する12人の日本人患者における用量決定第I相試験で、サイクル1の8日目にレポートされた、オビヌツズマブ800mgを投与された患者におけるAUClast値(4190±1190μg日/mL)又は1200mgを投与された患者におけるAUClast値(6540±1070μg日/mL)と同程度だった。
【0070】
初回注入の際に急速にピークに達し、その後ベースラインレベルに急速に減少し且つ安定化する、炎症性サイトカイン放出のパターンも、以前のレポートと同様であった。再発性低悪性度B細胞NHLを有する175人の患者の第II相GAUSS試験は、オビヌツズマブの初回注入の際に著しく上昇したが続く注入の際に何ら増加することなくベースラインに復帰する、IL-6、IL-8、IL-10、TNFα及びIFNγのピークサイトカインレベルを示した。同様のパターンは、再発性又は難治性CLLを有する33人の患者のコホートにおける第I/II相GAUGUIN試験でレポートされた。我々が注目することは、GAUGUINの著者が注目したように、炎症性サイトカインレベルのこれらの初期の上昇が、GATS及び言及された他の試験における初回治療サイクルの際のIRRのレポート率の増加と一致して生じることである。CD19陽性B細胞応答のパターンも、以前のレポートに類似していた。Oguraらは、注入後のほとんどの患者において1日目に最低点に達する、オビヌツズマブの初回注入後の急速な減少を示した。同様のB細胞の急速な枯渇は、CLLコホート及び低悪性度B細胞NHLコホートにおけるGAUGUINのサイクル1でレポートされた。
【0071】
DLBCLを有する患者における治療終了時の全奏効率及び完全奏功率(それぞれ68及び58%)は、SDIがDLBCLを有する患者にも用いられたGATHERで得られたそれら(それぞれ82及び55%)と同程度だった。比較のための、SDIを用いてオビヌツズマブで治療したFL患者における奏功率についての入手可能なデータは、まだない。
【0072】
本試験の限界は、患者集団が小規模なことにある;今回得られた結果は、日本人患者及びSDIによる治療進行中の日本人患者双方において、以前の知見と一致するようにみえるが、オビヌツズマブSDIの安全性を厳密に評価するためには、より大規模の試料が必要とされるであろう。我々は、GATS試験が、例えば患者がCHOPに加えてRIによりオビヌツズマブのサイクルの通常のフルセットを投与されるような対照群を欠くことにも、言及する。
【0073】
結論として、SDIにより投与されるオビヌツズマブは、今回の日本人患者コホートにおいて良好に忍容された(図14)。SDIに関連するIRRは、治療の第2サイクル(すなわち初回SDIサイクル)で観察されなかった;少数のIRRが後のサイクルでSDIに観察されたが、忍容され且つ制御され得るものだった。IRRのレートは、RIにより投与されるオビヌツズマブの他の試験からの知見と一致しており、オビヌツズマブがSDIで投与される際に、IRRのリスクが上昇しないことを示している。全体として、これらの知見は、オビヌツズマブがSDIにより安全に投与され得ることを示唆する。
<本発明の更なる実施態様>
[実施態様1]
オビヌツズマブを含有するCD20陽性のB細胞性リンパ腫治療用医薬組成物であって、前記医薬組成物は、1回の投与あたりオビヌツズマブとして1000 mgが点滴静注され、2回以上のサイクルで投与され、且つ、以下の(a)及び(b)の投与速度に従い投与される医薬組成物。
(a)初回サイクルの投与におけるオビヌツズマブの最大投与速度が、200 mg/時以上、好ましくは300 mg/時以上、より好ましくは400 mg/時以上である。
(b)2回目以降のサイクルの投与におけるオビヌツズマブの最大投与速度が、700 mg/時以上、好ましくは800 mg/時以上、より好ましくは900 mg/時以上で投与される。
[実施態様2]
前記2回目以降のサイクルの1回の投与時間が、180分以内、好ましくは150分以内、より好ましくは120分以内、最も好ましくは90分以内である、実施態様1に記載の医薬組成物。
[実施態様3]
前記初回サイクルにおいては3回、前記2回目以降のサイクルにおいては1回投与される、実施態様1又は2に記載の医薬組成物。
[実施態様4]
前記初回サイクルの初回の投与では50 mg/時でオビヌツズマブの投与が開始され、前記初回サイクルの2回目以降の投与では100 mg/時でオビヌツズマブの投与が開始される、実施態様3に記載の医薬組成物。
[実施態様5]
前記2回目以降のサイクルの投与速度が、オビヌツズマブ700 mg/時以上、好ましくはオビヌツズマブ800 mg/時以上、より好ましくはオビヌツズマブ900 mg/時まで上げられる、実施態様1~4のいずれか一に記載の医薬組成物。
[実施態様6]
(b)において、以下の条件(c)から(e)の少なくとも1つに従い投与される、実施態様1~5のいずれか一に記載の医薬組成物:
(c)前回までの3回の投与で、グレード3以上のインフュージョンリアクションが発現しておらず、投与前の末梢血リンパ球数が5000/μL未満である場合は、投与が100mg/時で30分間行われる。その間にインフュージョンリアクションが認められない場合は、速度は900mg/時まで上げることができる。患者の状態により、速度は、例えばサイクル1での投与速度に、適宜減速され得る。
(d)グレード1/2のインフュージョンリアクションが発現した場合、投与中断前の半分の速度で投与を再開する。30分間インフュージョンリアクションが認めらなかった場合は、速度は、900mg/時まで上げることができる。
(e)グレード3のインフュージョンリアクションが発現した場合、投与は200mg/時以下として再開する。30分間インフュージョンリアクションが認められなかった場合は、速度は30分毎に50mg/時ずつ上げ、最大400mg/時まで上げることができる。
[実施態様7]
前記初回サイクルは 1、8、15 日目に、前記2回目以降のサイクルは 1日目に投与される、実施態様1~6のいずれか一に記載の医薬組成物。
[実施態様8]
3週間を1サイクルとする、実施態様1~7のいずれか一に記載の医薬組成物。
[実施態様9]
一以上の他の抗悪性腫瘍剤と組合せて用いられ、前記医薬組成物が前記一以上の他の抗悪性腫瘍剤の投薬サイクルに合せて投与され、前記投薬サイクルが4週間を1サイクルとする、実施態様1~7のいずれか一に記載の医薬組成物。
[実施態様10]
前記他の抗悪性腫瘍剤が、CHOP、CVP、ベンダムスチン、フルダラビン、レナリドミド、抗PD-1抗体、及び抗PD-L1抗体から選択される一以上である、実施態様9に記載の医薬組成物。
[実施態様11]
前記2回以上のサイクル後、オビヌツズマブを含有する単剤により2カ月毎に2年間維持療法が行われる、実施態様1~10のいずれか一に記載の医薬組成物。
[実施態様12]
前記オビヌツズマブの濃度が、10~40 mg/mL、好ましくは20~30 mg/mL、より好ましくは25 mg/mLである、実施態様1~11のいずれか一に記載の医薬組成物。
[実施態様13]
さらに添加物として、トレハロース水和物、L-ヒスチジン、L-ヒスチジン塩酸塩水和物、又はポリオキシエチレン(160)ポリオキシプロピレン(30)グリコールを含有する、実施態様1~12のいずれか一に記載の医薬組成物。
[実施態様14]
オビヌツズマブを含有するCD20陽性のB細胞性リンパ腫治療用医薬組成物の製造におけるオビヌツズマブの使用であって、前記医薬組成物は、1回の投与あたりオビヌツズマブとして1000 mgが点滴静注され、2回以上のサイクルにおいて以下の(a)及び(b)の投与速度に従い投与される使用。
(a)初回サイクルの投与におけるオビヌツズマブの最大投与速度が、200 mg/時以上、好ましくは300 mg/時以上、より好ましくは400 mg/時以上である。
(b)2回目以降のサイクルの投与におけるオビヌツズマブの最大投与速度が、700 mg/時以上、好ましくは800 mg/時以上、より好ましくは900 mg/時以上で投与される。
[実施態様15]
オビヌツズマブを含有する医薬組成物により、CD20陽性のB細胞リンパ腫を治療するための方法であり、前記組成物は、1回の投与あたりオビヌツズマブとして1000 mgが点滴静注され、2回以上のサイクルにおいて以下の(a)及び(b)の投与速度に従い投与される方法。
(a)初回サイクルの投与におけるオビヌツズマブの最大投与速度が、200 mg/時以上、好ましくは300 mg/時以上、より好ましくは400 mg/時以上である。
(b)2回目以降のサイクルの投与におけるオビヌツズマブの最大投与速度が、700 mg/時以上、好ましくは800 mg/時以上、より好ましくは900 mg/時以上で投与される。
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【配列表】
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