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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-19
(45)【発行日】2023-10-27
(54)【発明の名称】ケーブル及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01B 7/18 20060101AFI20231020BHJP
   H01B 7/02 20060101ALI20231020BHJP
   H01B 7/04 20060101ALI20231020BHJP
【FI】
H01B7/18 H
H01B7/02 F
H01B7/04
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2022097822
(22)【出願日】2022-06-17
(65)【公開番号】P2023024282
(43)【公開日】2023-02-16
【審査請求日】2022-06-23
【審判番号】
【審判請求日】2023-03-10
(31)【優先権主張番号】P 2021129786
(32)【優先日】2021-08-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000005083
【氏名又は名称】株式会社プロテリアル
(72)【発明者】
【氏名】黄 得天
(72)【発明者】
【氏名】渡部 考信
(72)【発明者】
【氏名】小野 伸樹
(72)【発明者】
【氏名】山根 一貴
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼嶋 幹也
【合議体】
【審判長】山澤 宏
【審判官】篠塚 隆
【審判官】富澤 哲生
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-310664(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B7/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
導体、及び前記導体の周囲を覆う絶縁体を有する複数の電線と、
前記複数の電線を撚り合わせたケーブルコアの周囲を一括して覆うシースと、を備え、
前記絶縁体及び前記シースは、照射架橋樹脂組成物からなり、
前記シースの厚さが4mm以下であり、
前記ケーブルコアは、ケーブル周方向に隣り合う前記電線同士が互いに接触するように撚り合わせられており、
前記シース全体の架橋度が80%以上であり、前記電線同士が接触する接触位置よりもケーブル径方向の内側に位置する前記絶縁体の架橋度が80%以上90%未満であり、前記接触位置よりもケーブル径方向の外側に位置する前記絶縁体の架橋度が90%以上98%以下である
ケーブル。
【請求項2】
前記シースは、少なくともケーブル径方向において架橋度が異なり、
前記架橋度は、前記シースの中央の領域において最大であり、前記ケーブル径方向の内側、及び外側で小さくなる、
請求項に記載のケーブル。
【請求項3】
前記シースは、前記のケーブル径方向に沿った前記架橋度の最大となる位置が、前記シースをケーブル径方向において同じ厚さの3つの領域に等分割した際の中央の領域に含まれており、かつ、前記架橋度が最大となる位置から前記ケーブル径方向の内側、及び外側にかけて、前記架橋度が徐々に小さくなる、
請求項に記載のケーブル。
【請求項4】
前記ケーブルコアは、前記複数の電線と糸状の介在とを撚り合わせて構成されており、
前記ケーブルコアの周囲にらせん状に巻きつけられた押さえ巻きテープを備え、
前記シースは、前記押さえ巻きテープの周囲を覆うように設けられている、
請求項に記載のケーブル。
【請求項5】
導体の周囲を覆うように絶縁体を被覆し、前記絶縁体に電子線を照射して前記絶縁体を照射架橋して複数の電線を製造する電線製造工程と、
前記複数本の電線を、ケーブル周方向に隣り合う前記電線同士が互いに接触するように撚り合わせてケーブルコアを形成するケーブルコア形成工程と、
前記ケーブルコアの周囲を一括して覆うように厚さが4mm以下のシースを被覆し、前記シースに電子線を照射して前記シースを照射架橋するシース形成工程と、を備え、
前記電線製造工程では、前記絶縁体の架橋度が80%以上90%未満となるように照射架橋を行い、
前記シース形成工程では、前記シース全体の架橋度が80%以上となり、かつ、前記電線同士が接触する前記接触位置よりもケーブル径方向の外側に位置する前記絶縁体の架橋度が90%以上98%以下となるように照射架橋を行う、
ケーブルの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ケーブル及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、複数の電線を撚り合わせたケーブルコアの周囲を一括して覆うようにシースを設けた多心のケーブルが知られている。このようなケーブルとして、電線の絶縁体やシースが蒸気架橋によって架橋されたものがある。蒸気架橋タイプの絶縁樹脂としては、例えば、EPゴム(エチレンプロピレンゴム)等がある。
【0003】
なお、この出願の発明に関連する先行技術文献情報としては、特許文献1がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2005-310664号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、蒸気架橋では、高温・高圧の環境でシースを被覆する必要があるため、圧力によってケーブルコアを構成する電線が押し込まれ、絶縁体が潰れた状態となってしまう場合がある。この場合、ケーブルを繰り返し曲げたときに、絶縁体が潰れた部分に応力が集中して、ケーブルコアの断線が生じやすくなってしまう場合がある。
【0006】
また、従来用いている蒸気架橋タイプの絶縁樹脂では、耐熱温度が80℃程度(100℃未満)と低い。様々な使用環境に対応するためには、耐熱温度をより高くすることが求められる。
【0007】
さらにまた、蒸気架橋による架橋では、高温・高圧の環境が必要となるために、ケーブルの製造時に膨大なエネルギーが消費される。そのため、省エネルギー、省資源化に貢献しうる製品設計が可能なケーブルが要求されている。
【0008】
そこで、本発明は、繰り返し曲げた際の断線を抑制でき、耐熱温度に優れたケーブルを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上記課題を解決することを目的として、導体、及び前記導体の周囲を覆う絶縁体を有する複数の電線と、前記複数の電線を撚り合わせたケーブルコアの周囲を一括して覆うシースと、を備え、前記絶縁体及び前記シースは、照射架橋樹脂組成物からなり、前記シースの厚さが4mm以下であり、前記ケーブルコアは、ケーブル周方向に隣り合う前記電線同士が互いに接触するように撚り合わせられており、前記電線同士が接触する接触位置よりもケーブル径方向の内側に位置する前記絶縁体の架橋度が80%以上90%未満であり、前記接触位置よりもケーブル径方向の外側に位置する前記絶縁体の架橋度が90%以上である、ケーブルを提供する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、繰り返し曲げた際の断線を抑制でき、耐熱温度に優れたケーブル及びその製造方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の一実施の形態に係るケーブルを示す図であり、(a)は長手方向に垂直な断面を示す断面図、(b)はそのA部拡大図である。
図2図1(a)のB部拡大図及びシースの架橋度の分布を模式的に示す図である。
図3】ケーブルの製造方法を示すフロー図である。
図4】難燃性ポリエチレンにおけるデプスドーズ曲線を示す図である。
図5】本発明の一変形例に係るケーブルの長手方向に垂直な断面を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
[実施の形態]
以下、本発明の実施の形態を添付図面にしたがって説明する。
【0013】
図1は、本実施の形態に係るケーブルを示す図であり、(a)は長手方向に垂直な断面を示す断面図、(b)はそのA部拡大図である。
【0014】
図1(a),(b)に示すように、ケーブル1は、複数の電線2と、複数の電線2を撚り合わせたケーブルコア3の周囲を一括して覆うシース4と、を備えている。本実施の形態では、ケーブルコア3が3本の電線2を有している場合について説明する。
【0015】
電線2は、導体21と、導体21の周囲を覆う絶縁体22と、を有している。導体21は、複数本の金属素線を撚り合わせた撚線導体からなる。導体21に用いる金属素線としては、例えば、銅や銅合金からなるものを用いることができる。例えば、導体21を同心撚りにより構成した場合、ケーブル1を屈曲した際に金属素線同士が動くことができず断線が発生するおそれがあるため、導体21を集合撚りにより構成し、屈曲時に金属素線同士が互いに動けるようにすることが望ましい。
【0016】
絶縁体22は、後述する電子線照射により照射架橋された照射架橋樹脂組成物からなる。絶縁体22としては、ポリオレフィンを主成分(ベース樹脂)とする樹脂組成物を後述する照射架橋によって架橋した照射架橋ポリオレフィンからなる。照射架橋ポリオレフィンは、例えば、照射架橋された難燃性ポリエチレン(FRPE)からなるものを用いることができる。本実施の形態では、絶縁体22は、ケーブル中心Oに近い位置と、ケーブル中心Oから離れた位置とで、架橋度が異なっている。絶縁体22の架橋度についての詳細は、後述する。
【0017】
絶縁体22を充実押出により形成すると、絶縁体22を構成する樹脂が導体21の金属素線間に入り込んでしまい、絶縁体22に対して導体21が動くことができなくなり、耐屈曲性が低下してしまうおそれが生じる。そのため、絶縁体22は、チューブ押出により形成された横断面(ケーブル長手方向に対して垂直な断面)が円環状であり、導体21を構成する複数の金属素線間に入り込んでいない状態で設けられているとよい。また、絶縁体22の厚さは、1.0mm以上3.0mm以下である。本実施の形態では、絶縁体22を上述した照射架橋樹脂組成物で構成することで、絶縁体22の耐熱温度を高くする(例えば、125℃以上の耐熱温度とする)ことが可能になる。
【0018】
ケーブルコア3は、ケーブル周方向に隣り合う電線2同士が互いに接触するように撚り合わせられている。また、本実施の形態では、ケーブルコア3は、3本の電線2と、複数本の糸状の介在5とを撚り合わせて構成されている。介在5は、ケーブル1の外形を円形状に近づけるべく、電線2の周囲の隙間(図1では、ケーブル中心Oを含む3本の電線2同士で囲まれた領域および隣り合う電線2同士とシース4とで囲まれる領域)を埋めるように配置されている。本実施の形態では、介在5として、ジュートを用いた。ただし、介在5はジュートに限定されず、例えばスフ(ステープルファイバー)など、他の材質からなるものを用いてもよい。
【0019】
また、ケーブル1は、ケーブルコア3の周囲にらせん状に巻きつけられた押さえ巻きテープ6をさらに備えている。押さえ巻きテープ6は、ケーブルコア3の撚りがほどけないよう保持する役割を果たす。押さえ巻きテープ6としては、例えば、不織布テープや紙テープ等を用いることができる。本実施の形態では、押さえ巻きテープ6として、スフ(ステープルファイバー)からなる不織布テープ(スフテープ)を用いた。
【0020】
シース4は、押さえ巻きテープ6の周囲を覆うように設けられている。より具体的には、シース4は、チューブ押出により形成された横断面(ケーブル長手方向に対して垂直な断面)が円環状であり、隣り合う電線2同士の間に入り込んでいない状態で設けられている。シース4は、このような形状で設けられていることで、後述する所定の架橋度を有する絶縁体22やシース4を得ることができる。シース4は、後述する電子線照射により照射架橋された照射架橋樹脂組成物からなる。シース4としては、電線2の絶縁体22と同様に、例えば、照射架橋された難燃性ポリエチレン(FRPE)からなるものを用いることができる。特に、本実施の形態では、シース4が照射架橋された難燃性ポリエチレンで構成されることで、シース4の耐熱温度を高くする(例えば、125℃以上の耐熱温度にする)ことができ、かつ、シース4の脆化温度も低くする(例えば、―60℃以下の脆化温度にする)ことが可能になる。シース4の厚さは、1.5mm以上4.0mm以下である。シース4の架橋度の詳細については、後述する。
【0021】
(絶縁体22とシース4の架橋度の分布)
本実施の形態に係るケーブル1では、ケーブル周方向(ケーブル中心Oを軸とする円周に沿った方向)に隣り合う電線2同士が接触する接触位置よりもケーブル径方向(ケーブル中心Oを通るケーブル1の直径に沿った方向)の内側(ケーブル中心Oに向かう側)に位置する絶縁体22の架橋度が、接触位置よりもケーブル径方向の外側(ケーブル中心Oから遠ざかる側)に位置する絶縁体22の架橋度よりも小さい。より詳細には、図1(b)に示すように、任意の電線2と、当該電線2と隣り合う電線2との接触位置をa,bとし、絶縁体22のうちケーブル中心Oに最も近い位置(最もケーブル径方向の内側の位置)をc、ケーブル中心Oから最も遠い位置(最もケーブル径方向の外側の位置)をdとすると、絶縁体22は、位置aから位置cを通って位置bに至る領域(内側領域という)raと、位置aから位置dを通って位置bに至る領域(外側領域という)rbとに分けることができる。このうち内側領域raにおける架橋度が、外側領域rbにおける架橋度よりも小さくなっている。
【0022】
詳細は後述するが、ケーブル1を製造する際には、各電線2の絶縁体22に対して電子線を照射して照射架橋を行い、かつ、シース4を被覆した後にも、シース4に対して電子線を照射して照射架橋を行う。これは、電子線は導体21を透過しないため、絶縁体22とシース4とを一度の電子線照射により架橋することは困難なためである。そして、シース4を照射架橋する際、電子線が外側領域rbに位置する絶縁体22にも照射されてしまう。なお、導体21が存在するため、内側領域raには、シース4を照射架橋する際の電子線は到達しない。そのため、内側領域raにおける架橋度が、外側領域rbにおける架橋度よりも小さくなっている。
【0023】
外側領域rbにおける絶縁体22は、電子線の照射を2度うけることになるため、過度の架橋となって絶縁体22が劣化してしまわないように、各電線2の絶縁体22に対して電子線を照射して照射架橋を行う際には、絶縁体22としての性能を確保しつつも、架橋度が高くなり過ぎないように電子線照射の際の加速電圧を適宜に調整することが望まれる。
【0024】
より具体的には、接触位置a,bよりもケーブル径方向の内側(内側領域ra)に位置する絶縁体22の架橋度は、80%以上90%未満であるとよい。上述のように、内側領域raにはシース4を照射架橋する際の電子線は到達しないので、内側領域raの架橋度は、ほぼシース4の照射架橋前(絶縁体22に対して照射架橋を行った後)の架橋度と等しくなる。内側領域raの架橋度を80%以上とすることで、絶縁体22としての性能を十分に確保でき、内側領域raの架橋度を90%未満とすることで、シース4の照射架橋により外側領域rbの架橋度が高くなり過ぎ絶縁体22が劣化してしまうことを抑制可能になる。なお、架橋度は、ケーブル1から絶縁体22およびシース4を採取し、採取した絶縁体22およびシース4における所定位置でのゲル分率(例えば、内側領域raや外側領域rbのそれぞれの領域でのゲル分率、あるいは後述する領域r1,r2,r3のそれぞれの領域でのゲル分率)を、一般的なゲル分率を測定する方法(例えば、JIS C 3005 「4.25 架橋度」に準拠する測定方法)により測定することができる。
【0025】
接触位置よりもケーブル径方向の外側(外側領域rb)に位置する絶縁体22の架橋度は、内側領域raの架橋度よりも高く、90%以上となる。架橋度が高くなりすぎると絶縁体22が劣化してしまうので、外側領域rbの架橋度は、98%以下であることが望ましく、95%以下であることがより望ましい。なお、シース4を照射架橋する際の電子線は、押さえ巻きテープ6や介在5をほぼ減衰することなく透過するため、外側領域rbにおける絶縁体22の架橋度はほぼ均一になる。
【0026】
電線2を撚り合わせてケーブルコア3を形成する際には、電線2はケーブル中心Oに対して公転しつつ自転する。そのため、ケーブル1では、ケーブルコア3の撚りをほどいて電線2を取り出すと、上記の内側領域raに相当する架橋度が低い領域が、らせん状に形成されることになる。
【0027】
また、本実施の形態に係るケーブル1では、シース4は、少なくともケーブル径方向(すなわちシース4の厚さ方向)において架橋度が変化している。シース4のケーブル径方向に沿った架橋度の分布は、そのケーブル径方向(厚さ方向)の中央部で最も架橋度が高くなる分布となっている。
【0028】
より具体的には、図2に示すように、シース4のケーブル径方向に沿った架橋度の分布において、架橋度が最大となる位置Xが、シース4をケーブル径方向において同じ厚さ(D/3の厚さ)の3つの領域r1,r2,r3に等分割した際の中央の領域r2に含まれており、かつ、架橋度が最大となる位置Xからケーブル径方向の内側、及び外側にかけて、架橋度が徐々に小さくなっている。
【0029】
シース4における架橋度は、位置Xから、ケーブル径方向の内側端部(シース4の内表面)Y及びケーブル径方向の外側端部(シース4の外表面)Zにかけて徐々に小さくなるため、シース4においては、内側端部Yまたは外側端部Zにおける架橋度が最も小さくなる。ただし、架橋度が低すぎるとシース4としての性能が十分に得られなかったり、機械的強度が低下してしまったりするため、シース4全体の架橋度は80%以上であるとよい。
【0030】
本実施の形態に係るケーブル1では、電子線照射により照射架橋された照射架橋樹脂組成物からなる絶縁体22及びシース4が上述した架橋度を有することで、繰り返し曲げた際のケーブルコア3の断線を抑制でき、かつ、耐熱温度に優れたケーブル1とすることができる。
【0031】
ここで、ケーブル1の製造方法について説明する。図3は、ケーブル1の製造方法を示すフロー図である。図3に示すように、まず、ステップS1にて、電線2を製造する電線製造工程を行う。ステップS1の電線製造工程では、まず、ステップS11にて、複数本の金属素線を集合撚りして導体21を形成する。その後、ステップS12にて、導体21の周囲に、チューブ押出により絶縁体22を被覆する。その後、ステップS13にて、絶縁体22に電子線を照射して絶縁体22を照射架橋する。以上により、電線2が得られる。
【0032】
ステップS1にて電線2を製造した後、ステップS2にて、ケーブルコア形成工程を行う。ステップS2のケーブルコア形成工程では、複数本(ここでは3本)の電線2と介在5とを撚り合わせてケーブルコア3を形成する。その後、ステップS3にて、ケーブルコア3の周囲に押さえ巻きテープ6を螺旋状に巻きつけるテープ巻き工程を行う。
【0033】
その後、ステップS4にて、シース形成工程を行う。ステップS4のシース形成工程では、まず、ステップS41にて、押さえ巻きテープ6の周囲に、チューブ押出または挿入押出により、シース4を被覆する。その後、ステップS42にて、シース4に所定の放射線量の電子線を照射してシース4の全体(領域r1から領域r3まで)を照射架橋する。
【0034】
図4は、絶縁体22及びシース4に用いる照射架橋樹脂組成物の一例として、照射架橋された難燃性ポリエチレンにおけるデプスドーズ曲線を示している。図4のデプスドーズ曲線において、縦軸の「相対線量」は、電子線の放射線量の相対値を表している。また、横軸の「透過能力」は、絶縁体22やシース4の表面からの深さに対応しており、例えば、加速電圧を2.0MVとした場合には、表面からの深さが2~3mmの位置で最も電子線の放射線量が高くなり、架橋度が最も高くなることを表している。
【0035】
ステップS42では、図4のデプスドーズ曲線を参照し、シース4の厚さDに応じて、シース4の厚さDの略中心に相対線量のピークがくるように、加速電圧を0.5MV~3.0MVの範囲で調整して電子線照射を行う。本実施の形態では、1.0MV以上2.0MV以下の加速電圧で電子線照射することがより好ましい。これにより、シース4の厚さDの略中心の位置(すなわち中央の領域r2)で最も架橋度が高く、厚さの中心から離れるにしたがって架橋度が低下する図2に示したような架橋度の分布が形成されることになる。
【0036】
また、ステップS42では、ケーブル1をケーブル周方向に回転させつつ電子線照射を行う。このため、シース4は、ケーブル周方向においても架橋度が変化しており、ケーブル径方向のみならず、ケーブル周方向にも架橋度の分布を有している。ただし、安定してケーブル1を製造するという観点からは、ケーブル周方向の架橋度のばらつきについては、できるだけ小さいことが望ましいといえる。
【0037】
(実施の形態の作用及び効果)
以上説明したように、本実施の形態に係るケーブル1では、絶縁体22及びシース4は、上述した電子線照射により架橋された照射架橋樹脂組成物からなり、ケーブルコア3は、ケーブル周方向に隣り合う電線2同士が互いに接触するように撚り合わせられており、電線2同士が接触する接触位置a,bよりもケーブル径方向の内側(内側領域ra)に位置する絶縁体22の架橋度が、接触位置a,bよりもケーブル径方向の外側(外側領域rb)に位置する絶縁体22の架橋度よりも小さい。
【0038】
絶縁体22やシース4として照射架橋樹脂組成物を用いることで、従来の蒸気架橋のように、圧力により電線2の絶縁体22が潰れた状態となることが抑制され、繰り返し曲げた際に電線2が断線しにくくなる。また、絶縁体22やシース4として照射架橋ポリオレフィン等の照射架橋樹脂組成物を用いることで、EPゴムやクロロプレンゴム等を蒸気架橋させた絶縁樹脂組成物を用いた場合と比較して、耐熱温度を向上させることができ、例えば、125℃といった高い耐熱温度を実現できる。さらにまた、照射架橋を用いることで、蒸気架橋と比較してケーブル1の製造時にかかるエネルギーを大幅に抑えることができ、省エネルギー、省資源化に貢献できる。
【0039】
(変形例)
上記実施の形態では、3本の電線2を用いる場合について説明したが、図5に示すケーブル1aのように、4本の電線2を用いてもよく、ケーブルコア3に使用する電線2の本数は限定されない。また、上記実施の形態では、すべての電線2の外径が同じである場合について説明したが、外径が異なる電線2を含んでいてもよい。
【0040】
(実施の形態のまとめ)
次に、以上説明した実施の形態から把握される技術思想について、実施の形態における符号等を援用して記載する。ただし、以下の記載における各符号等は、特許請求の範囲における構成要素を実施の形態に具体的に示した部材等に限定するものではない。
【0041】
[1]導体(21)、及び前記導体(21)の周囲を覆う絶縁体(22)を有する複数の電線(2)と、前記複数の電線(2)を撚り合わせたケーブルコア(3)の周囲を一括して覆うシース(4)と、を備え、前記絶縁体(22)及び前記シース(4)は、照射架橋樹脂組成物からなり、前記ケーブルコア(3)は、ケーブル周方向に隣り合う前記電線(2)同士が互いに接触するように撚り合わせられており、前記電線(2)同士が接触する接触位置(a,b)よりもケーブル径方向の内側に位置する前記絶縁体(22)の架橋度が、前記接触位置(a,b)よりもケーブル径方向の外側に位置する前記絶縁体(22)の架橋度よりも小さい、ケーブル(1)。
【0042】
[2]前記接触位置(a,b)よりもケーブル径方向の内側に位置する前記絶縁体(22)の架橋度が、80%以上90%未満であり、前記接触位置(a,b)よりもケーブル径方向の外側に位置する前記絶縁体(22)の架橋度が、90%以上である、[1]に記載のケーブル(1)。
【0043】
[3]前記シース(4)は、少なくともケーブル径方向において架橋度が異なり、前記架橋度は、前記シース(4)の中央の領域において最大であり、前記ケーブル径方向の内側、及び外側で小さくなる、[1]または[2]に記載のケーブル(1)。
【0044】
[4]前記シース(4)は、前記のケーブル径方向に沿った前記架橋度の最大となる位置(X)が、前記シース(4)をケーブル径方向において同じ厚さの3つの領域(r1,r2,r3)に等分割した際の中央の領域(r2)に含まれており、かつ、前記架橋度が最大となる位置(X)から前記ケーブル径方向の内側、及び外側にかけて、前記架橋度が徐々に小さくなる、[3]に記載のケーブル(1)。
【0045】
[5]前記ケーブルコア(3)は、前記複数の電線(2)と糸状の介在(5)とを撚り合わせて構成されており、前記ケーブルコア(3)の周囲にらせん状に巻きつけられた押さえ巻きテープ(6)を備え、前記シース(4)は、前記押さえ巻きテープ(6)の周囲を覆うように設けられている、[1]乃至[4]の何れか1項に記載のケーブル(1)。
【0046】
以上、本発明の実施の形態を説明したが、上記に記載した実施の形態は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではない。また、実施の形態の中で説明した特徴の組合せの全てが発明の課題を解決するための手段に必須であるとは限らない点に留意すべきである。また、本発明は、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変形して実施することが可能である。
【符号の説明】
【0047】
1…ケーブル
2…電線
21…導体
22…絶縁体
3…ケーブルコア
4…シース
5…介在
6…押さえ巻きテープ
図1
図2
図3
図4
図5