(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-20
(45)【発行日】2023-10-30
(54)【発明の名称】被覆工具
(51)【国際特許分類】
B23B 27/14 20060101AFI20231023BHJP
B23C 5/16 20060101ALI20231023BHJP
C23C 16/34 20060101ALI20231023BHJP
【FI】
B23B27/14 A
B23C5/16
C23C16/34
(21)【出願番号】P 2021572718
(86)(22)【出願日】2021-01-18
(86)【国際出願番号】 JP2021001478
(87)【国際公開番号】W WO2021149636
(87)【国際公開日】2021-07-29
【審査請求日】2022-07-08
(31)【優先権主張番号】P 2020006885
(32)【優先日】2020-01-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006633
【氏名又は名称】京セラ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(74)【代理人】
【識別番号】110003029
【氏名又は名称】弁理士法人ブナ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】谷渕 栄仁
(72)【発明者】
【氏名】久保 隼人
(72)【発明者】
【氏名】霜垣 幸浩
(72)【発明者】
【氏名】百瀬 健
(72)【発明者】
【氏名】出浦 桃子
【審査官】亀田 貴志
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/122448(WO,A1)
【文献】特開平08-267306(JP,A)
【文献】特開2008-264975(JP,A)
【文献】特開2014-069297(JP,A)
【文献】国際公開第2018/124111(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23B 27/14
B23C 5/16
B23P 15/28
C23C 14/06
C23C 16/06
C23C 16/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基体と、該基体の上に位置する被覆膜とを有する被覆工具であって、
前記被覆工具は、第1面と、該第1面と隣り合う第2面と、前記第1面と前記第2面の稜線部の少なくとも一部に位置する切刃とを備え、
前記第1面はすくい面であり、前記第2面は逃げ面であり、
前記被覆膜は、TiとAlとNを含有するAlTiN膜を具備しており、
前記第1面において、前記切刃から0.1mmの位置におけるAl/(Al+Ti)を第1Al比とし、前記切刃から0.2mmの位置におけるAl/(Al+Ti)を第2Al比としたとき、前記第1Al比および前記第2Al比は、0.7以上であり、
前記第2Al比は前記第1Al比よりも大き
く、
前記第2面において、前記切刃から0.1mmの位置におけるAl/(Al+Ti)を第3Al比とし、前記切刃から0.2mmの位置におけるAl/(Al+Ti)を第4Al比としたとき、前記第3Al比および前記第4Al比は、0.7以上であり、
前記第4Al比は前記第3Al比よりも大きく、
前記第1Al比は、前記第3Al比よりも大きく、前記第2Al比は、前記第4Al比よりも大きい、被覆工具。
【請求項2】
前記第1Al比は、前記第4Al比よりも大きい、請求項1に記載の被覆工具。
【請求項3】
前記第2Al比および前記第4Al比は、0.95以下である、請求項1又は2に記載の被覆工具。
【請求項4】
前記基体における前記切刃に対応する部位にRホーニングが施され、
前記被覆膜における前記切刃に対応する部位に研磨加工が施された、請求項1~3のいずれかに記載の被覆工具。
【発明の詳細な説明】
【関連出願の相互参照】
【0001】
本出願は、2020年1月20日に出願された日本国特許出願2020-006885号の優先権を主張するものであり、この先の出願の開示全体を、ここに参照のために取り込む。
【技術分野】
【0002】
本開示は、被覆工具に関する。
【背景技術】
【0003】
被覆工具として、例えば、特開2013-158868号公報(特許文献1)に記載の表面被覆切削工具が知られている。特許文献1に記載の表面被覆切削工具(被覆工具)は、工具基体の表面にAlとCrの複合窒化物層からなる硬質被覆層が蒸着形成されている。硬質被覆層の蒸着形成は、物理蒸着(PVD)法の1種であるアークイオンプレーティング法で行われている。
【発明の概要】
【0004】
本開示の限定されない一例の被覆工具は、基体と、該基体の上に位置する被覆膜とを有している。前記被覆工具は、第1面と、該第1面と隣り合う第2面と、前記第1面と前記第2面の稜線部の少なくとも一部に位置する切刃とを備えている。前記被覆膜は、TiとAlとNを含有するAlTiN膜を具備している。そして、前記第1面において、前記切刃から0.1mmの位置におけるAl/(Al+Ti)を第1Al比とし、前記切刃から0.2mmの位置におけるAl/(Al+Ti)を第2Al比としたとき、前記第1Al比および前記第2Al比は、0.7以上であり、前記第2Al比は前記第1Al比よりも大きい。
【図面の簡単な説明】
【0005】
【
図1】本開示の限定されない実施形態の被覆工具を示す斜視図である。
【
図2】
図1に示す被覆工具におけるII-II断面を拡大した図である。
【
図3】
図2に示す被覆工具における切刃の周辺を拡大した図である。
【発明を実施するための形態】
【0006】
<被覆工具>
以下、本開示の限定されない実施形態の被覆工具について、図面を用いて詳細に説明する。但し、以下で参照する図は、説明の便宜上、実施形態を説明する上で必要な構成のみを簡略化して示したものである。したがって、被覆工具は、参照する図に示されていない任意の構成を備え得る。また、図中の構成の寸法は、実際の構成の寸法および寸法比率などを忠実に表したものではない。
【0007】
図1~
図3に例示されている被覆工具1は、被削材を切削加工するときに使用される切削工具(切削インサート)である。被覆工具1は、切削工具の他、例えば、摺動部品や金型などの耐摩部品、掘削工具、刃物などの工具、耐衝撃部品などにも適用できる。なお、被覆工具1の用途は、例示したものに限定されない。
【0008】
被覆工具1は、基体2と、基体2の上に位置する被覆膜3とを有していてもよい。
【0009】
基体2の材質としては、例えば、硬質合金、セラミックスおよび金属などが挙げられ得る。硬質合金としては、例えば、WC(炭化タングステン)と、所望により、WC以外の周期表第4、5、6族金属の炭化物、窒化物、炭窒化物の群から選ばれる少なくとも1種とからなる硬質相を、Co(コバルト)やNi(ニッケル)などの鉄属金属からなる結合相で結合させた超硬合金などが挙げられ得る。また、他の硬質合金として、Ti基サーメットなども挙げられ得る。セラミックスとしては、例えば、Si3N4(窒化珪素)、Al2O3(酸化アルミニウム)、ダイヤモンドおよびcBN(立方晶窒化ホウ素)などが挙げられ得る。金属としては、例えば、炭素鋼、高速度鋼および合金鋼などが挙げられ得る。なお、基体2の材質は、例示したものに限定されない。
【0010】
被覆膜3は、基体2の表面4の全面を覆ってもよく、また、一部のみを覆ってもよい。被覆膜3が基体2の表面4の一部のみを被覆しているときは、被覆膜3は、基体2の上の少なくとも一部に位置していると言うことができる。
【0011】
図1~
図3に例示されている被覆膜3は、化学蒸着(CVD)法で成膜されていてもよい。言い換えれば、
図1~
図3に例示されている被覆膜3は、CVD膜であってもよい。
【0012】
被覆膜3の厚みは、例えば、1~20μmに設定してもよい。被覆膜3の厚みは、例えば、走査型電子顕微鏡(SEM)などを用いた断面測定によって測定することができる。
【0013】
被覆工具1は、第1面5(上面)と、第1面5と隣り合う第2面6(側面)と、第1面5と第2面6の稜線部の少なくとも一部に位置する切刃7とを備えていてもよい。切刃7は、稜線部の一部に位置してもよく、また、稜線部の全部に位置してもよい。
【0014】
第1面5は、すくい面であってもよい。第1面5は、その全面がすくい面であってもよく、また、その一部がすくい面であってもよい。例えば、第1面5のうち切刃7に沿った領域が、すくい面であってもよい。
【0015】
第2面6は、逃げ面であってもよい。第2面6は、その全面が逃げ面であってもよく、また、その一部が逃げ面であってもよい。例えば、第2面6のうち切刃7に沿った領域が、逃げ面であってもよい。
【0016】
なお、
図1に例示されている被覆工具1は四角板形状であるが、被覆工具1の形状としてはこのような形状に限定されない。例えば、
図1に例示されている第1面5は四角形であるが、第1面5が四角形ではなく、三角形または六角形などであっても何ら問題ない。
【0017】
被覆工具1の大きさは、特に限定されない。例えば、
図1に例示されている被覆工具1では、第1面5の一辺の長さを1~20mm程度に設定できる。また、第1面5から第1面5の反対側に位置する面(下面)までの高さを5~20mm程度に設定できる。
【0018】
ここで、被覆膜3は、Ti(チタン)とAl(アルミニウム)とN(窒素)を含有するAlTiN(窒化チタンアルミニウム)膜を具備していてもよい。そして、被覆膜3は、
図3に示す限定されない一例のように、第1面5において、切刃7から0.1mmの位置P1におけるAl/(Al+Ti)を第1Al比とし、切刃7から0.2mmの位置P2におけるAl/(Al+Ti)を第2A
l比としたとき、第1Al比および第2Al比が、0.7以上であってもよい。さらに、第2Al比は、第1Al比よりも大きくてもよい。
【0019】
上述した構成によれば、切刃7に近い位置P1における部分では、相対的にAl量が少ないため、靭性に優れる。また、位置P1よりも切刃7から離れた位置P2における部分では、相対的にAl量が多いため、高硬度かつ耐酸化性が高い。それゆえ、これらの構成を有する被覆工具1は、寿命が長い。
【0020】
第2面6において、切刃7から0.1mmの位置P3におけるAl/(Al+Ti)を第3Al比とし、切刃7から0.2mmの位置P4におけるAl/(Al+Ti)を第4Al比としたとき、第3Al比および第4Al比は、0.7以上であってもよい。また、第4Al比は、第3Al比よりも大きくてもよい。これらの構成を満たすときは、第1面5に加えて第2面6においても第1面5と同様の効果が得られることから、被覆工具1の寿命がより長い。
【0021】
第1Al比は、第3Al比よりも大きくてもよい。また、第2Al比は、第4Al比よりも大きくてもよい。言い換えれば、第2Al比>第1Al比>第4Al比>第3Al比であってもよい。これらの構成を満たすときは、クレーター摩耗および逃げ面間摩耗の両方の抑制効果が得られ易い。
【0022】
第1Al比および第2Al比は、0.7以上0.95以下であってもよい。また、第3Al比および第4Al比は、0.7以上0.95以下であってもよい。第1Al比および第2Al比が、0.85以上0.95以下であり、第3Al比および第4Al比が、0.85以上0.95以下である場合には、被覆工具1の寿命がより長い。第1~第4Al比は、AlおよびTiの総和に対するAlの原子比での含有比率であってもよい。第1~第4Al比は、例えば、エネルギー分散型X線分析(EDS)分析法によって測定することができる。
【0023】
AlTiN膜の厚みは、例えば、1~20μmに設定してもよい。なお、被覆膜3は、AlTiN膜以外の他の膜を具備してもよい。
【0024】
<被覆工具の製造方法>
次に、本開示の限定されない実施形態の被覆工具の製造方法について、被覆工具1を製造する場合を例に挙げて説明する。
【0025】
基体2として、硬質合金からなる基体2を作製する場合を例に挙げて説明する。まず、焼成によって基体2を形成できる金属炭化物、窒化物、炭窒化物、酸化物などの無機物粉末に、金属粉末、カーボン粉末などを適宜添加して混合し、プレス成形、鋳込成形、押出成形、冷間静水圧プレス成形などの公知の成形方法によって所定の工具形状に成形してもよい。その後、得られた成形体を真空中または非酸化性雰囲気中で焼成することによって硬質合金からなる基体2を得てもよい。基体2の表面4には、研磨加工やホーニング加工を施してもよい。
【0026】
次に、得られた基体2の表面4にCVD法によって被覆膜3を成膜し、被覆工具1を得てもよい。AlTiN膜を具備する被覆膜3の成膜条件としては、例えば、混合ガスの組成として、TiCl4(四塩化チタン)ガスを0.05~0.5体積%、AlCl3(三塩化アルミニウム)ガスを0.2~2.0体積%、NH3(アンモニア)ガスを3~10体積%の比率で含み、残りがH2(水素)ガスからなる混合ガスを用い、成膜温度を700~900℃、圧力を1~10kPaとする条件などが挙げられる。
【0027】
ここで、成膜時における混合ガスの流速を一般的な流速よりも高くすると、被覆膜3(AlTiN膜)に組成差を発生させることができ、結果として上述した構成の被覆膜3が成膜され易い。例えば、成膜時における混合ガスの流速を、5~50m/sに設定してもよい。
【0028】
なお、得られた被覆工具1において、切刃7を含む領域に研磨加工を施してもよい。これにより、切刃7を含む領域が平滑になり、その結果、被削材の溶着が抑制され、切刃7の耐欠損性が向上する。
【0029】
以下、実施例を挙げて本開示を詳細に説明するが、本開示は以下の実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0030】
[試料No.1~7]
<被覆工具の作製>
まず、基体を作製した。具体的には、平均粒径1.2μmのWC粉末に対して、平均粒径1.5μmの金属Co粉末を6質量%、TiC(炭化チタン)粉末を2.0質量%、Cr3C2(炭化クロム)粉末を0.2質量%の比率で添加して混合し、プレス成形により切削工具形状(SEEN1203AFTN)に成形した。得られた成形体について、脱バインダ処理を施し、0.5~100Paの真空中、1400℃で1時間焼成して超硬合金からなる基体を作製した。さらに、作製した基体のすくい面(第1面)側にブラシ加工で刃先処理(Rホーニング)を施した。
【0031】
次に、得られた基体の上にCVD法により厚み1~20μmの被覆膜(AlTiN膜)を成膜し、表1に示す被覆工具を得た。なお、成膜条件は、表1に示すとおりである。被覆膜の厚みは、SEMによる断面測定で得た値である。なお、流速はV=(S/L)×(T’/P’)にて求める。Vは流速、Sは炉内の断面積(m2)、Lは流量、T’は製膜温度(K)/300K、P’は炉内圧力(kPa)/101.325kPaである。炉内の断面積はガス噴出口に対して垂直な面の断面積にて求める。炉内の断面積が位置によって変化する場合には、例えば、最大の断面積を炉内の断面積とするとよい。
【0032】
【0033】
<評価>
得られた被覆工具について、第1~第4Al比および断続切削試験を行った。各測定方法を以下に示すとともに、結果を表2に示す。
【0034】
(第1~第4Al比)
EDS分析法によって測定した。
【0035】
(断続切削試験:乾式フライス センターカット加工)
被削材 :クロムモリブデン鋼 (SCM440)
工具形状:SEEN1203AFTN
切削速度:300m/分
送り速度:0.20mm/rev
切り込み:2.0mm
評価項目:欠損に至るまでの時間(切削時間)
【0036】
【0037】
表2に示すとおり、第1Al比および第2Al比が0.7以上であり、第2Al比が第1Al比よりも大きい試料No.1~4は、長寿命であった。一方、第1Al比および第2Al比が0.7以上でないか、第2Al比が第1Al比よりも大きくない試料No.5~7は、短寿命であった。
【符号の説明】
【0038】
1・・・被覆工具
2・・・基体
3・・・被覆膜
4・・・表面
5・・・第1面
6・・・第2面
7・・・切刃
P1、P2、P3、P4・・・位置