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  • 特許-ポリブタジエンゴムの製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-20
(45)【発行日】2023-10-30
(54)【発明の名称】ポリブタジエンゴムの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08C 19/25 20060101AFI20231023BHJP
   C08F 297/04 20060101ALI20231023BHJP
   C08L 15/00 20060101ALI20231023BHJP
   C08K 3/36 20060101ALI20231023BHJP
   B60C 1/00 20060101ALI20231023BHJP
【FI】
C08C19/25
C08F297/04
C08L15/00
C08K3/36
B60C1/00 Z
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2019104435
(22)【出願日】2019-06-04
(65)【公開番号】P2020196826
(43)【公開日】2020-12-10
【審査請求日】2022-05-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000229117
【氏名又は名称】日本ゼオン株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】317015928
【氏名又は名称】ZSエラストマー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000486
【氏名又は名称】弁理士法人とこしえ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】倉本 直明
(72)【発明者】
【氏名】庄司 政史
【審査官】尾立 信広
(56)【参考文献】
【文献】特開平01-069645(JP,A)
【文献】特開昭58-122907(JP,A)
【文献】特開2009-084413(JP,A)
【文献】特開平04-246401(JP,A)
【文献】特開2016-108453(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00-101/14
C08K 3/00-13/08
C08F 291/00-297/08
C08C 19/00-19/44
C08F 6/00-246/00
B60C 1/00-19/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
不活性溶媒中で、重合開始剤を用いて、1,3-ブタジエンを含む単量体を重合し、活性末端を有するポリブタジエン鎖を得る第1工程と、
前記活性末端を有するポリブタジエン鎖に、下記一般式(1)で表されるポリオルガノシロキサンを反応させる第2工程とを備えるポリブタジエンゴムの製造方法であって、
前記活性末端を有するポリブタジエン鎖のゲルパーミエーションクロマトグラフィにより検出されるピークトップ分子量(Mp1)が250,000~350,000であり、
前記ポリブタジエンゴムについて、ゲルパーミエーションクロマトグラフィによる分子量測定を行った場合に、前記ピークトップ分子量(Mp1)に対して、1.5倍以上2.5倍未満の範囲にピークトップ分子量(Mp2)を有するピーク部分の全溶出面積に対する面積比(X)と、2.5倍以上の範囲にピークトップ分子量(Mp3)を有するピーク部分の全溶出面積に対する面積比(Y)との比が、X:Y=75:25~55:45であるポリブタジエンゴムの製造方法。
【化9】
(一般式(1)中、R~Rは、炭素数1~6のアルキル基、または炭素数6~12のアリール基であり、これらは互いに同一であっても相違していてもよい。XおよびXは、炭素数1~6のアルキル基、炭素数6~12のアリール基、炭素数1~5のアルコキシ基、および、エポキシ基を含有する炭素数4~12の基からなる群より選ばれるいずれかの基であり、これらは互いに同一であっても相違していてもよい。X、エポキシ基を含有する炭素数4~12の基であり、複数あるXは、互いに同一であっても相違していてもよい。Xは、2~20のアルキレングリコールの繰返し単位を含有する基であり、Xが複数あるときは、それらは互いに同一であっても相違していてもよい。mは3120の整数、nは0~200の整数、kは0~200の整数であり、m+n+kは3以上である。)
【請求項2】
前記ポリブタジエンゴムのムーニー粘度(ML1+4,100℃)が60~90である請求項1に記載のポリブタジエンゴムの製造方法。
【請求項3】
前記第2工程で得られるポリオルガノシロキサンを反応させたポリブタジエン鎖に、さらに、下記一般式(2)で表される化合物を反応させる第3工程を備える請求項1または2に記載のポリブタジエンゴムの製造方法。
【化10】
(一般式(2)中、Rは、ヒドロカルビル基であり、Aは、活性末端を有するポリブタジエン鎖とポリオルガノシロキサンとの反応により生成した反応残基と反応しうる基であり、Aは、窒素原子を含有する基であり、pは0~2の整数、qは1~3の整数、rは1~3の整数、p+q+r=4である。)
【請求項4】
前記一般式(2)のAが、-OR10(R10は水素原子またはヒドロカルビル基)で表される基である請求項3に記載のポリブタジエンゴムの製造方法。
【請求項5】
前記一般式(2)のAが、活性水素原子を有する1級アミノ基および/または活性水素原子を有する2級アミノ基を含有する基である請求項3または4に記載のポリブタジエンゴムの製造方法。
【請求項6】
前記第1工程が、
不活性溶媒中で、イソプレン、またはイソプレンおよび芳香族ビニル化合物を含む単量体を、重合開始剤により重合し、イソプレン単量体単位80~100重量%、および芳香族ビニル単量体単位0~20重量%を含む活性末端を有する重合体ブロック(A)を形成させる工程と、
前記活性末端を有する重合体ブロック(A)と、1,3-ブタジエンを含む単量体と、を混合して重合反応を継続させ、1,3-ブタジエン単量体単位を95重量%以上含む活性末端を有する重合体ブロック(B)を、重合体ブロック(A)と一続きにして形成させることにより、活性末端を有するポリブタジエン鎖を得る工程とを備える請求項1~5のいずれかに記載のポリブタジエンゴムの製造方法。
【請求項7】
請求項1~6のいずれかに記載の製造方法により、ブタジエンゴムを得る工程と、前記ポリブタジエンゴムを15~50重量%の割合にて含有するゴム成分100重量部に対して、シリカ10~120重量部を混合する工程とを備えるゴム組成物の製造方法
【請求項8】
架橋剤をさらに添加する請求項に記載のゴム組成物の製造方法
【請求項9】
請求項に記載の製造方法によりゴム組成物を得て、得られた前記ゴム組成物を架橋するゴム架橋物の製造方法
【請求項10】
請求項に記載の製造方法によりゴム組成物を得て、得られた前記ゴム組成物を架橋することにより、該ゴム組成物のゴム架橋物を含むタイヤを製造するタイヤの製造方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリブタジエンゴムの製造方法に関し、より詳しくは、高温下におけるタッキネスが効果的に低減されており、かつ、低発熱性およびウエットグリップ性に優れたゴム架橋物を与えることのできるポリブタジエンゴムを製造するための方法に関する。また、本発明は、この製造方法により得られるポリブタジエンゴム、該ポリブタジエンゴムを含有するゴム組成物およびそのゴム架橋物にも関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車用のタイヤには、環境問題および資源問題から低燃費性が強く求められる。充填剤としてシリカを配合したゴム組成物の架橋物は、カーボンブラックを配合したゴム組成物の架橋物に比べて、低発熱性に優れるため、タイヤを構成した場合の転がり抵抗が小さくなる。そのため、シリカを配合したゴム組成物の架橋物を用いてタイヤを構成することにより、低燃費性に優れたタイヤを得ることができる。
【0003】
しかしその一方で、従来のゴムにシリカを配合しても、ゴムとシリカとの親和性が不十分であるため、シリカ同士が凝集しやすく、そのため、このことに起因して、架橋前のゴム組成物の加工性が悪く、また、これを架橋して得られるゴム架橋物の低発熱性が不十分となる。
【0004】
そこで、ゴムとシリカとの親和性を改良すべく、たとえば、特許文献1、特許文献2などに開示されるような種々のシランカップリング剤を、ゴム組成物に添加することが提案されている。しかしながら、シランカップリング剤を扱うには高度な加工技術が必要であり、また、シランカップリング剤が高価なことから配合量が多くなると、タイヤの製造コストが高くなるという問題がある。
【0005】
このような問題を解決するために、たとえば、特許文献3、特許文献4などに開示されるように、溶液重合法によりゴム重合体を得る際に、重合体鎖の活性末端に変性剤を反応させることにより、ゴム自体にシリカとの親和性を持たせる技術が検討されている。しかしながら、近年の自動車用のタイヤへの低燃費性およびウエットグリップ性への要求の高まりから、さらなる低発熱性およびウエットグリップ性の向上が望まれている。また、特許文献3、特許文献4の技術により得られるゴム重合体は、高温下でのタッキネス(粘着性)が高く、そのため、その製造時において、スチームストリッピングなどを経て、重合体溶液からゴム重合体を回収後、ゴム重合体中に残留した水分を乾燥する際に、高温下においてゴム重合体の粘着性が高くなってしまい、その結果、設備の壁や床面に付着したり、詰まりが発生したりして、乾燥が不安定になるという問題もあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2011-46640号公報
【文献】特開2012-17291号公報
【文献】特開2013-139504号公報
【文献】国際公開第2018/092716号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、このような実状に鑑みてなされたものであり、高温下におけるタッキネスが効果的に低減されており、かつ、低発熱性およびウエットグリップ性に優れたゴム架橋物を与えることができる、ポリブタジエンゴムを製造するための方法を提供することを目的とする。
【0008】
本発明者等は、上記目的を達成するために鋭意研究した結果、特定の分子鎖長を有する活性末端を有するポリブタジエン重合体鎖に、変性剤として、特定のポリオルガノシロキサンを反応させ、これにより、得られるポリブタジエンゴムを、分子量が特定の範囲にあるものとすることで、高温下におけるタッキネスを効果的に低減することができ、しかも、これを用いて得られるゴム架橋物が、低発熱性およびウエットグリップ性に優れたものであることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0009】
すなわち、本発明によれば、不活性溶媒中で、重合開始剤を用いて、1,3-ブタジエンを含む単量体を重合し、活性末端を有するポリブタジエン鎖を得る第1工程と、
前記活性末端を有するポリブタジエン鎖に、下記一般式(1)で表されるポリオルガノシロキサンを反応させる第2工程とを備えるポリブタジエンゴムの製造方法であって、
前記活性末端を有するポリブタジエン鎖のゲルパーミエーションクロマトグラフィにより検出されるピークトップ分子量(Mp1)が250,000~350,000であり、
前記ポリブタジエンゴムについて、ゲルパーミエーションクロマトグラフィによる分子量測定を行った場合に、前記ピークトップ分子量(Mp1)に対して、1.5倍以上2.5倍未満の範囲にピークトップ分子量(Mp2)を有するピーク部分の全溶出面積に対する面積比(X)と、2.5倍以上の範囲にピークトップ分子量(Mp3)を有するピーク部分の全溶出面積に対する面積比(Y)との比が、X:Y=75:25~55:45であるポリブタジエンゴムの製造方法が提供される。
【化1】
(一般式(1)中、R~Rは、炭素数1~6のアルキル基、または炭素数6~12のアリール基であり、これらは互いに同一であっても相違していてもよい。XおよびXは、炭素数1~6のアルキル基、炭素数6~12のアリール基、炭素数1~5のアルコキシ基、および、エポキシ基を含有する炭素数4~12の基からなる群より選ばれるいずれかの基であり、これらは互いに同一であっても相違していてもよい。Xは、炭素数1~5のアルコキシ基、またはエポキシ基を含有する炭素数4~12の基 であり、複数あるXは、互いに同一であっても相違していてもよい。Xは、2~20のアルキレングリコールの繰返し単位を含有する基であり、Xが複数あるときは、それらは互いに同一であっても相違していてもよい。mは3~200の整数、nは0~200の整数、kは0~200の整数であり、m+n+kは3以上である。)
【0010】
本発明の製造方法において、前記ポリブタジエンゴムのムーニー粘度(ML1+4,100℃)が60~90であることが好ましい。
本発明の製造方法は、前記第2工程で得られるポリオルガノシロキサンを反応させたポリブタジエン鎖に、さらに、下記一般式(2)で表される化合物を反応させる第3工程を備えることが好ましい。
【化2】
(一般式(2)中、Rは、ヒドロカルビル基であり、Aは、活性末端を有するポリブタジエン鎖とポリオルガノシロキサンとの反応により生成した反応残基と反応しうる基であり、Aは、窒素原子を含有する基であり、pは0~2の整数、qは1~3の整数、rは1~3の整数、p+q+r=4である。)
本発明の製造方法において、前記一般式(2)のAが、-OR10(R10は水素原子またはヒドロカルビル基)で表される基であることが好ましい。
本発明の製造方法において、前記第1工程が、不活性溶媒中で、イソプレン、またはイソプレンおよび芳香族ビニル化合物を含む単量体を、重合開始剤により重合し、イソプレン単量体単位80~100重量%、および芳香族ビニル単量体単位0~20重量%を含む活性末端を有する重合体ブロック(A)を形成させる工程と、前記活性末端を有する重合体ブロック(A)と、1,3-ブタジエンを含む単量体と、を混合して重合反応を継続させ、1,3-ブタジエン単量体単位を95重量%以上含む活性末端を有する重合体ブロック(B)を、重合体ブロック(A)と一続きにして形成させることにより、活性末端を有するポリブタジエン鎖を得る工程とを備えるものであることが好ましい。
【0011】
また、本発明によれば、上記の製造方法により得られるポリブタジエンゴムが提供される。
さらに、本発明によれば、上記ポリブタジエンゴムを15~50重量%の割合にて含有するゴム成分100重量部に対して、シリカ10~120重量部を含有してなるゴム組成物が提供される。
本発明のゴム組成物は、架橋剤をさらに含有してなるものであることが好ましい。
【0012】
また、本発明によれば、上記ゴム組成物を架橋してなるゴム架橋物、および該ゴム架橋物を含んでなるタイヤが提供される。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、高温下におけるタッキネスを効果的に低減され、かつ、低発熱性およびウエットグリップ性に優れたゴム架橋物を与えることができるポリブタジエンゴム、該ポリブタジエンゴムを含有するゴム組成物、該ゴム組成物を架橋してなり、低発熱性およびウエットグリップ性に優れたゴム架橋物、および該ゴム架橋物を含んでなるタイヤを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1図1は、本発明の製造方法により得られるポリブタジエンゴムについて、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ測定を行った際に得られるチャートの一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
<ポリブタジエンゴムの製造方法>
本発明のポリブタジエンゴムの製造方法は、不活性溶媒中で、重合開始剤を用いて、1,3-ブタジエンを含む単量体を重合し、活性末端を有するポリブタジエン鎖を得る第1工程と、
前記活性末端を有するポリブタジエン鎖に、後述するポリオルガノシロキサンを反応させる第2工程とを備え、
前記活性末端を有するポリブタジエン鎖のゲルパーミエーションクロマトグラフィにより検出されるピークトップ分子量(Mp1)が250,000~350,000であり、
前記ポリブタジエンゴムについて、ゲルパーミエーションクロマトグラフィによる分子量測定を行った場合に、前記ピークトップ分子量(Mp1)に対して、1.5倍以上2.5倍未満の範囲にピークトップ分子量(Mp2)を有するピーク部分の全溶出面積に対する面積比(X)と、2.5倍以上の範囲にピークトップ分子量(Mp3)を有するピーク部分の全溶出面積に対する面積比(Y)との比が、X:Y=75:25~55:45である。
【0016】
<第1工程>
本発明の製造方法の第1工程は、不活性溶媒中で、重合開始剤を用いて、1,3-ブタジエンを含む単量体を重合し、活性末端を有するポリブタジエン鎖を得る工程である。
【0017】
本発明の製造方法の第1工程においては、活性末端を有するポリブタジエン鎖を得るために用いる単量体として、1,3-ブタジエンを主として含むものを用いるものであり、通常、実質的に1,3-ブタジエンのみからなるものを用いるものである。すなわち、活性末端を有するポリブタジエン鎖を得るために用いる単量体中における、通常、1,3-ブタジエンの割合を100重量%とするものである。その一方で、本発明の作用効果を阻害しない範囲であれば、1,3-ブタジエン以外の単量体を使用してもよく、この場合における、活性末端を有するポリブタジエン鎖を得るために用いる単量体中における、1,3-ブタジエン以外の単量体の割合は、好ましくは5重量%以下、より好ましくは1重量%以下である。すなわち、活性末端を有するポリブタジエン鎖を得るために用いる単量体中における、1,3-ブタジエンの含有割合は、好ましくは95重量%以上、より好ましくは99重量%以上である。
【0018】
1,3-ブタジエン以外の単量体としては、1,3-ブタジエンと共重合可能な化合物であればよく、特に限定されないが、イソプレン、2,3-ジメチル-1,3-ブタジエン、2-フェニル-1,3-ブタジエン、1,3-ペンタジエン、2-メチル-1,3-ペンタジエン、1,3-ヘキサジエン、4,5-ジエチル-1,3-オクタジエン、3-ブチル-1,3-オクタジエンなどの共役ジエン化合物;スチレン、メチルスチレン、エチルスチレン、t-ブチルスチレン、α-メチルスチレン、α-メチル-p-メチルスチレン、クロルスチレン、ブロモスチレン、メトキシスチレン、ジメチルアミノメチルスチレン、ジメチルアミノエチルスチレン、ジエチルアミノメチルスチレン、ジエチルアミノエチルスチレン、シアノエチルスチレン、ビニルナフタレンなどの芳香族ビニル化合物;エチレン、プロピレン、1-ブテンなどの鎖状オレフィン化合物;シクロペンテン、2-ノルボルネンなどの環状オレフィン化合物;1,5-ヘキサジエン、1,6-ヘプタジエン、1,7-オクタジエン、ジシクロペンタジエン、5-エチリデン-2-ノルボルネンなどの非共役ジエン化合物;(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチルなどの(メタ)アクリル酸エステル;(メタ)アクリロニトリル、(メタ)アクリルアミドなどのその他の(メタ)アクリル酸誘導体;などが挙げられる。
【0019】
重合に用いる不活性溶媒としては、溶液重合において通常使用されるものであり、重合反応を阻害しないものであれば特に限定されない。不活性溶媒の具体例としては、ブタン、ペンタン、ヘキサン、ヘプタンなどの鎖状脂肪族炭化水素;シクロペンタン、シクロヘキサンなどの脂環式炭化水素;ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素;などが挙げられる。これらの不活性溶媒は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。不活性溶媒の使用量は、特に限定されないが、1,3-ブタジエンを含む単量体の濃度が、たとえば1~50重量%となる量であり、好ましくは10~40重量%となる量である。
【0020】
重合に用いる重合開始剤としては、1,3-ブタジエンを含む単量体を重合させて、活性末端を有するポリブタジエン鎖を与えることができるものであれば、特に限定されない。その具体例としては、有機アルカリ金属化合物、有機アルカリ土類金属化合物、およびランタン系列金属化合物などを主触媒とする重合開始剤を挙げることができる。有機アルカリ金属化合物としては、たとえば、n-ブチルリチウム、sec-ブチルリチウム、t-ブチルリチウム、ヘキシルリチウム、フェニルリチウム、スチルベンリチウムなどの有機モノリチウム化合物;ジリチオメタン、1,4-ジリチオブタン、1,4-ジリチオ-2-エチルシクロヘキサン、1,3,5-トリリチオベンゼン、1,3,5-トリス(リチオメチル)ベンゼンなどの有機多価リチウム化合物;ナトリウムナフタレンなどの有機ナトリウム化合物;カリウムナフタレンなどの有機カリウム化合物;などが挙げられる。また、有機アルカリ土類金属化合物としては、たとえば、ジ-n-ブチルマグネシウム、ジ-n-ヘキシルマグネシウム、ジエトキシカルシウム、ジ-t-ブトキシストロンチウム、ジエトキシバリウム、ジイソプロポキシバリウム、ジエチルメルカプトバリウム、ジ-t-ブトキシバリウム、ジフェノキシバリウム、ジエチルアミノバリウム、ジケチルバリウムなどが挙げられる。ランタン系列金属化合物を主触媒とする重合開始剤としては、たとえば、ランタン、セリウム、プラセオジム、ネオジム、サマリウム、ガドリニウムなどのランタン系列金属と、カルボン酸、およびリン含有有機酸などとからなるランタン系列金属の塩を主触媒とし、これと、アルキルアルミニウム化合物、有機アルミニウムハイドライド化合物、有機アルミニウムハライド化合物などの助触媒とからなる重合開始剤などが挙げられる。これらの重合開始剤の中でも、有機モノリチウム化合物、および有機多価リチウム化合物が好ましく用いられ、有機モノリチウム化合物がより好ましく用いられ、n-ブチルリチウムが特に好ましく用いられる。なお、有機アルカリ金属化合物は、予め、ジブチルアミン、ジヘキシルアミン、ジベンジルアミン、ピロリジン、ピペリジン、ヘキサメチレンイミン、およびヘプタメチレンイミンなどの2級アミン化合物と反応させて、有機アルカリ金属アミド化合物として使用してもよい。これらの重合開始剤は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0021】
有機アルカリ金属アミド化合物としては、たとえば、有機アルカリ金属化合物に、2級アミン化合物を反応させたものなどが挙げられ、なかでも、本発明の製造方法においては、下記一般式(3)で表される化合物を好適に用いることができる。
【化3】
【0022】
アルキル基としては、特に限定されないが、炭素数1~20のアルキル基が好ましく、炭素数1~10のアルキル基がより好ましい。このようなアルキル基としては、たとえば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、n-ペンチル基、n-ヘキシル基、n-ヘプチル基、n-オクチル基、n-デシル基などが挙げられる。
【0023】
シクロアルキル基としては、特に限定されないが、炭素数3~20のシクロアルキル基が好ましく、炭素数3~12のシクロアルキル基がより好ましい。このようなシクロアルキル基としては、たとえば、シクロプロピル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基、シクロドデシル基などが挙げられる。
【0024】
アリール基としては、特に限定されないが、炭素数6~12のアリール基が好ましく、炭素数6~10のアリール基がより好ましい。このようなアリール基としては、たとえば、フェニル基、1-ナフチル基、2-ナフチル基などが挙げられる。
【0025】
アラルキル基としては、特に限定されないが、炭素数7~13のアラルキル基が好ましく、炭素数7~9のアラルキル基がより好ましい。このようなアラルキル基としては、たとえば、ベンジル基、フェネチル基などが挙げられる。
【0026】
アミノ基の保護基としては、特に限定されず、アミノ基の保護基として作用する基であればよいが、たとえば、アルキルシリル基などが挙げられる。このようなアルキルシリル基としては、たとえば、トリメチルシリル基、トリエチルシリル基、トリフェニルシリル基、メチルジフェニルシリル基、エチルメチルフェニルシリル基、tert-ブチルジメチルシリル基などが挙げられる。
なお、R11、および/またはR12がアミノ基の保護基である場合には、アミノ基の保護基が外れることにより、得られるポリブタジエンゴムを形成する重合体鎖の一方の末端において、後述する一般式(5)におけるR13、および/またはR14が水素原子である構造を導入することができる。
【0027】
加水分解して水酸基を生じうる基としては、特に限定されず、たとえば、酸などの存在下で加水分解することで、水酸基を生成する基であればよいが、たとえば、アルコキシアルキル基、エポキシ基を含有する基などが挙げられる。
アルコキシアルキル基としては、メトキシメチル基、エトキシメチル基、エトキシエチル基、プロポキシメチル基、ブトキシメチル基、ブトキシエチル基、プロポキシエチル基などが挙げられる。
また、エポキシ基を含有する基としては、たとえば下記一般式(4)で表される基などが挙げられる。
-Z-Z-E (4)
一般式(4)中、Zは炭素数1~10のアルキレン基またはアルキルアリーレン基であり、Zはメチレン基、硫黄原子または酸素原子であり、Eはグリシジル基である。
【0028】
また、R11およびR12は互いに結合して、これらが結合する窒素原子とともに環構造を形成していてもよく、この場合における、R11およびR12と、これと結合する窒素原子とで形成される構造の具体例としては、アゼチジン環(R11およびR12が、プロピレン基)、ピロリジン環(R11およびR12が、ブチレン基)、ピペリジン環(R11およびR12が、ペンチレン基)、ヘキサメチレンイミン環(R11およびR12が、ヘキシレン基)などが挙げられる。
11およびR12が互いに結合して、これらが結合する窒素原子とともに環構造を形成する場合、環構造は、4~8員環構造であることが好ましい。
【0029】
また、一般式(3)中、Mはアルカリ金属原子であり、このようなアルカリ金属原子としては、リチウム原子、ナトリウム原子、カリウム原子などが挙げられるが、これらの中でも、重合活性の観点より、リチウム原子が好ましい。
【0030】
本発明の製造方法の第1工程において、重合開始剤として、一般式(3)で表される化合物を用いた場合、有機アルカリ金属アミド化合物を形成するアミン構造が、重合体鎖の重合開始末端に結合した状態で残存することとなる。そのため、重合開始剤として、一般式(3)で表される化合物を用いると、得られるポリブタジエンゴムを形成する重合体鎖の一方の末端に、下記一般式(5)で表される構造が導入される。
【化4】
【0031】
一般式(5)中、R13、R14は、それぞれ独立して、水素原子、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アラルキル基、アミノ基の保護基、または加水分解して水酸基を生じうる基を表し、R13およびR14は互いに結合して、これらが結合する窒素原子とともに環構造を形成してもよく、該環構造を形成する場合には、これらが結合する窒素原子に加えて、これらが結合する窒素原子以外のヘテロ原子とともに環構造を形成していてもよい。
【0032】
13、R14となりうるアルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アラルキル基、アミノ基の保護基、または加水分解して水酸基を生じうる基としては、一般式(3)におけるR11、R12と同じものを挙げることができ、また、R13およびR14は互いに結合して、これらが結合する窒素原子とともに環構造を形成する場合にも、一般式(3)におけるR11、R12と同じものとすることができる。
なお、R13、R14となりうる水素原子は、アミノ基の保護基が外れることにより、導入される。
【0033】
本発明の製造方法において、重合開始剤として、有機アルカリ金属アミド化合物を用いた場合、得られるポリブタジエンゴムを、一方の末端にアミン構造を有し、かつ、他方の末端に変性剤に由来する特定の構造を有するものとすることができる。その結果、このようなアミン構造の効果により、得られるポリブタジエンゴムを用いたゴム架橋物は、より低発熱性およびウエットグリップ性に優れたものとなる。
【0034】
重合開始剤としての有機アルカリ金属アミド化合物を重合系に添加する方法としては、特に限定されず、予め、有機アルカリ金属化合物に、2級アミン化合物を反応させて、有機アルカリ金属アミド化合物を得て、これを1,3-ブタジエンを含む単量体と混合して、重合反応を進行させる方法を採用することができる。あるいは、有機アルカリ金属化合物と、2級アミン化合物とを別々に重合系に添加し、これらを1,3-ブタジエンを含む単量体と混合することで、重合系において、有機アルカリ金属アミド化合物を生成させることで、重合反応を進行させる方法を採用してもよい。反応温度等の反応条件は、特に限定されるものではなく、たとえば、目的とする重合反応条件に従えばよい。
【0035】
2級アミン化合物の使用量は、目的とする重合開始剤の添加量に応じて決定すればよいが、有機アルカリ金属化合物1ミリモル当り、通常0.01~1.5ミリモル、好ましくは0.1~1.2ミリモル、より好ましくは0.5~1.0ミリモルの範囲である。
【0036】
重合開始剤の使用量は、目的とするポリブタジエン鎖の分子量に応じて決定すればよいが、単量体1000g当り、通常1~50ミリモル、好ましくは1.5~20ミリモル、より好ましくは2~15ミリモルの範囲である。
【0037】
重合温度は、通常-80~+150℃、好ましくは0~100℃、より好ましくは30~90℃の範囲である。重合様式としては、回分式、連続式などのいずれの様式をも採用できる。
【0038】
また、1,3-ブタジエンを含む単量体を重合するにあたり、得られるポリブタジエン鎖における1,3-ブタジエン単量体単位中のビニル結合含有量を調節するために、不活性有機溶媒に極性化合物を添加してもよい。極性化合物としては、たとえば、ジブチルエーテル、テトラヒドロフラン、2,2-ジ(テトラヒドロフリル)プロパンなどのエーテル化合物;テトラメチルエチレンジアミンなどの第三級アミン;アルカリ金属アルコキシド;ホスフィン化合物;などが挙げられる。これらのなかでも、エーテル化合物、および第三級アミンが好ましく、第三級アミンがより好ましく、テトラメチルエチレンジアミンが特に好ましい。これらの極性化合物は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。極性化合物の使用量は、目的とするビニル結合含有量に応じて決定すればよく、重合開始剤1モルに対して、好ましくは100モル以下、より好ましくは10モル以下である。極性化合物の使用量がこの範囲にあると、1,3-ブタジエン単量体単位中のビニル結合含有量の調節が容易であり、かつ重合開始剤の失活による不具合も発生し難い。
【0039】
本発明の製造方法の第1工程で得られる、活性末端を有するポリブタジエン鎖における1,3-ブタジエン単量体単位中のビニル結合含有量は、好ましくは1~90重量%、より好ましくは3~80重量%、特に好ましくは5~70重量%である。1,3-ブタジエン単量体単位中のビニル結合含有量を上記範囲内とすることにより、得られるゴム架橋物を低発熱性により優れたものとすることができる。
【0040】
本発明の製造方法の第1工程で得られる、活性末端を有するポリブタジエン鎖は、全単量体単位中、1,3-ブタジエン単量体単位が、好ましくは95重量%以上、より好ましくは99重量%以上、さらに好ましくは100重量%である。
【0041】
本発明の製造方法においては、第1工程で得られる、活性末端を有するポリブタジエン鎖の、ゲルパーミエーションクロマトグラフィにより検出されるピークトップ分子量(Mp1)を250,000~350,000の範囲とするものであり、ピークトップ分子量(Mp1)は、好ましくは260,000~340,000の範囲であり、より好ましくは280,000~320,000の範囲である。なお、ピークトップ分子量(Mp1)は、ポリスチレン換算の値にて測定することができる。ピークトップ分子量(Mp1)が、低すぎると、高温下におけるタッキネスの低減効果が得られなくなり、一方、高すぎると、シリカ等の補強剤を配合、混練した際における加工性に劣るものとなる。活性末端を有するポリブタジエン鎖のピークトップ分子量(Mp1)は、重合条件(たとえば、使用する重合開始剤の量など)を制御することで、調整することができる。
【0042】
本発明の製造方法の第1工程で得られる、活性末端を有するポリブタジエン鎖は、ピークトップ分子量(Mp1)が上記範囲にあればよく、重量平均分子量(Mw)は特に限定されないが、好ましくは200,000~400,000の範囲であり、より好ましくは230,000~380,000の範囲、さらに好ましくは250,000~350,000の範囲である。活性末端を有するポリブタジエン鎖の重量平均分子量(Mw)を上記範囲内とすることにより、得られるゴム架橋物を、低発熱性により優れたものとすることができる。
【0043】
また、本発明の製造方法の第1工程で得られる、活性末端を有するポリブタジエン鎖の重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比(Mw/Mn)で表わされる分子量分布も、特に限定されないが、好ましくは1.0~3.0であり、より好ましくは1.0~2.5である。活性末端を有するポリブタジエン鎖の分子量分布(Mw/Mn)が上記範囲内にあると、ポリブタジエンゴムの製造が容易となる。なお、重量平均分子量(Mw)および数平均分子量(Mn)は、ポリスチレン換算のゲルパーミエーションクロマトグラフィで測定される値として、求めることができる。
【0044】
また、本発明の製造方法においては、シリカ等の補強剤との親和性をより良好なものとするという観点より、第1工程を、次のような工程としてもよい。
すなわち、不活性溶媒中で、イソプレン、またはイソプレンおよび芳香族ビニル化合物を含む単量体を、重合開始剤により重合し、イソプレン単量体単位80~100重量%、および芳香族ビニル単量体単位0~20重量%を含む活性末端を有する重合体ブロック(A)を形成させる工程と、
前記活性末端を有する重合体ブロック(A)と、1,3-ブタジエンを含む単量体と、を混合して重合反応を継続させ、1,3-ブタジエン単量体単位を95重量%以上含む活性末端を有する重合体ブロック(B)を、重合体ブロック(A)と一続きにして形成させることにより、活性末端を有するポリブタジエン鎖を得る工程と、を備えるものとしてもよい。
【0045】
このような工程を採用することにより、第1工程により得られる活性末端を有するポリブタジエン鎖を、イソプレン単量体単位80~100重量%、および芳香族ビニル単量体単位0~20重量%を含む重合体ブロック(A)と、1,3-ブタジエン単量体単位を95重量%の割合で含む重合体ブロック(B)とが一続きにして形成されたものを含むものとすることができる。
以下、このような態様について説明する。
【0046】
[重合体ブロック(A)]
本発明の一態様に係るポリブタジエン鎖中の重合体ブロック(A)は、重合体ブロック(A)中、イソプレン単量体単位80~100重量%および芳香族ビニル単量体単位0~20重量%を含むものであればよいが、イソプレン単量体単位85~95重量%および芳香族ビニル単量体単位5~15重量%を含むものであることが好ましく、イソプレン単量体単位89~95重量%および芳香族ビニル単量体単位5~11重量%を含むものであることがより好ましい。イソプレン単量体単位と芳香族ビニル単量体単位との含有割合が上記範囲内にあると、ポリブタジエンゴムにシリカを配合した場合に、ポリブタジエンゴムとシリカとの親和性が良好となり、これを用いて得られるゴム架橋物の低発熱性をより向上させることができる。
【0047】
重合体ブロック(A)に含まれる芳香族ビニル単量体単位を構成するために用いられる芳香族ビニル化合物としては、上述した芳香族ビニル化合物と同じものを用いることができ、これらの中でもスチレンが好ましい。なお、これらの芳香族ビニル化合物は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0048】
重合体ブロック(A)は、イソプレン単量体単位のみ、またはイソプレン単量体単位および芳香族ビニル単量体単位からなるものであることが好ましいが、所望により、イソプレン単量体単位、またはイソプレン単量体単位および芳香族ビニル単量体単位に加えて、その他の単量体単位を含んでいてもよい。その他の単量体単位を構成するために用いられるその他の化合物としては、1,3-ブタジエン、2,3-ジメチル-1,3-ブタジエン、2-クロロ-1,3-ブタジエン、1,3-ペンタジエン、および1,3-ヘキサジエンなどのイソプレン以外の共役ジエン化合物;アクリロニトリル、およびメタクリロニトリルなどのα,β-不飽和ニトリル;アクリル酸、メタクリル酸、および無水マレイン酸などの不飽和力ルボン酸または酸無水物;メタクリル酸メチル、アクリル酸エチル、およびアクリル酸ブチルなどの不飽和カルボン酸エステル;1,5-ヘキサジエン、1,6-ヘプタジエン、1,7-オクタジエン、ジシクロペンタジエン、および5-エチリデン-2-ノルボルネンなどの非共役ジエン;などが挙げられる。これらの中でも、1,3-ブタジエンが好ましい。これらのその他の単量体は、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。重合体ブロック(A)中における、その他の単量体単位の含有割合は、20重量%以下であることが好ましく、10重量%以下であることがより好ましく、6重量%以下であることがさらに好ましい。
【0049】
本発明において、ポリブタジエン鎖中の重合体ブロック(A)は、不活性溶媒中、イソプレン、または、イソプレンおよび芳香族ビニル化合物を含む単量体を、重合開始剤により重合することにより形成される。形成された重合体ブロック(A)は、活性末端を有するものとなる。
【0050】
重合体ブロック(A)を形成するために、イソプレン、または、イソプレンおよび芳香族ビニル化合物を含む単量体の重合に用いられる不活性溶媒としては、上述した不活性溶媒と同じものを用いることができる。不活性溶媒の使用量は、単量体濃度が、好ましくは1~80重量%となる量であり、より好ましくは10~50重量%となる量である。
【0051】
重合体ブロック(A)を形成するために用いられる重合開始剤としては、イソプレン、または、イソプレンおよび芳香族ビニル化合物を含む単量体を重合させて、活性末端を有する重合体鎖を与えることができるものであれば、特に限定されない。その具体例としては、上述した重合開始剤と同じものを用いることができる。
【0052】
重合開始剤の使用量は、目的とする分子量に応じて決定すればよいが、イソプレン、または、イソプレンおよび芳香族ビニル化合物を含む単量体100g当り、好ましくは4~250ミリモル、より好ましくは6~200ミリモル、特に好ましくは10~70ミリモルの範囲である。
【0053】
イソプレン、または、イソプレンおよび芳香族ビニル化合物を含む単量体を重合する際における重合温度は、好ましくは-80~+150℃、より好ましくは0~100℃、さらに好ましくは20~90℃の範囲である。重合様式としては、回分式、連続式など、いずれの様式をも採用できる。また、結合様式としては、たとえば、ブロック状、テーパー状、およびランダム状などの種々の結合様式とすることができる。
【0054】
また、本発明の一態様に係る製造方法においては、重合体ブロック(A)におけるイソプレン単量体単位中のビニル結合含有量を調節するために、重合に際し、不活性溶媒に極性化合物を添加することが好ましい。極性化合物としては、上述した極性化合物と同じものを用いることができる。極性化合物の使用量は、目的とするビニル結合含有量に応じて決定すればよく、重合開始剤1モルに対して、0.01~30モルが好ましく、0.05~10モルがより好ましい。極性化合物の使用量が上記範囲内にあると、イソプレン単量体単位中のビニル結合含有量の調節が容易であり、しかも、重合開始剤の失活による不具合も発生し難い。また、上記範囲内で極性化合物の使用量を増加させることで、イソプレン単量体単位中のビニル結合含有量を増加させることができる。
【0055】
重合体ブロック(A)におけるイソプレン単量体単位中のビニル結合含有量は、5~90重量%が好ましく、5~80重量%がより好ましい。イソプレン単量体単位中のビニル結合含有量を上記範囲内とすることにより、得られるゴム架橋物の低発熱性をより向上させることができる。なお、本明細書中において、イソプレン単量体単位中のビニル結合含有量とは、イソプレン単量体単位中の、1,2-構造を有するイソプレン単量体単位および3,4-構造を有するイソプレン単量体単位の合計量の割合を指すものとする。
【0056】
重合体ブロック(A)の重量平均分子量(Mw)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィによって測定されるポリスチレン換算の値として、500~15,000であることが好ましく、1,000~12,000であることがより好ましく、1,500~10,000であることが特に好ましい。重合体ブロック(A)の重量平均分子量が上記範囲内にあると、得られるゴム架橋物の低発熱性をより向上させることができる。
【0057】
また、重合体ブロック(A)の重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比(Mw/Mn)で表わされる分子量分布は、1.0~1.5であることが好ましく、1.0~1.3であることがより好ましい。重合体ブロック(A)の分子量分布の値(Mw/Mn)が上記範囲内にあると、ポリブタジエンゴムの製造がより容易となる。なお、重量平均分子量(Mw)および数平均分子量(Mn)は、ポリスチレン換算のゲルパーミエーションクロマトグラフィで測定される値として、求めることができる。
【0058】
[重合体ブロック(B)]
本発明の一態様に係るポリブタジエン鎖中の重合体ブロック(B)は、重合体ブロック(B)中、1,3-ブタジエン単量体単位を95重量%以上含むものであればよいが、1,3-ブタジエン単量体単位を99重量%以上含むものであることが好ましく、1,3-ブタジエン単量体単位を100重量%の割合で含むものであることがより好ましい。
【0059】
重合体ブロック(B)は、1,3-ブタジエン単量体単位のみからなるものであることが好ましいが、本発明における本質的な特性を損なわない範囲において、所望により、1,3-ブタジエン単量体単位に加えて、その他の単量体単位を含んでいてもよい。その他の単量体単位を構成するために用いられるその他の単量体としては、上述した重合体ブロック(A)において例示された化合物(ただし、1,3-ブタジエンを除く)と同じものを用いることができる。また、重合体ブロック(B)においては、その他の単量体としてイソプレンを用いることもできる。重合体ブロック(B)中における、その他の単量体単位の含有割合は、5重量%以下であることが好ましく、1重量%以下であることがより好ましい。
【0060】
本発明の一態様において、ポリブタジエン鎖中の重合体ブロック(B)は、上述した活性末端を有する重合体ブロック(A)と、1,3-ブタジエンを含む単量体と、を混合して重合反応を継続させることにより、重合体ブロック(A)と一続きに形成される。形成された重合体ブロック(B)は、活性末端を有するものとなる。一方、重合体ブロック(A)からは、活性末端が消失する。
【0061】
重合体ブロック(B)を形成するために、重合体ブロック(A)と、1,3-ブタジエンを含む単量体との重合に用いられる不活性溶媒としては、特に限定されず、上述した不活性溶媒と同じものを用いることができる。
【0062】
重合体ブロック(B)を形成する際における、活性末端を有する重合体ブロック(A)の使用量は、目的とする分子量に応じて決定すればよいが、1,3-ブタジエンを含む単量体100g当り、好ましくは0.1~5ミリモル、より好ましくは0.15~2ミリモル、さらに好ましくは0.2~1.5ミリモルの範囲である。
【0063】
重合体ブロック(A)と1,3-ブタジエンを含む単量体との混合方法は、特に限定されず、1,3-ブタジエンを含む単量体の溶液中に活性末端を有する重合体ブロック(A)を加えてもよいし、活性末端を有する重合体ブロック(A)の溶液中に1,3-ブタジエンを含む単量体を加えてもよい。重合の制御の観点より、1,3-ブタジエンを含む単量体の溶液中に活性末端を有する重合体ブロック(A)を加える方法が好ましい。
【0064】
1,3-ブタジエンを含む単量体を重合する際における重合温度は、好ましくは-80~+150℃、より好ましくは0~100℃、さらに好ましくは20~90℃の範囲である。重合様式としては、回分式、連続式など、いずれの様式をも採用できる。
【0065】
また、本発明の一態様においては、重合体ブロック(B)における1,3-ブタジエン単量体単位中のビニル結合含有量を調節するために、重合体ブロック(A)におけるイソプレン単量体単位中のビニル結合含有量の調節時と同様に、重合に際し、不活性溶媒に極性化合物を添加することが好ましい。ただし、重合体ブロック(A)の調製時に、不活性溶媒に、重合体ブロック(B)における1,3-ブタジエン単量体単位中のビニル結合含有量を調節するのに十分な量の極性化合物を添加している場合は、新たに極性化合物を添加しなくてもよい。ビニル結合含有量を調節するために用いられる極性化合物としては、上述した極性化合物と同じものを用いることができる。極性化合物の使用量は、目的とするビニル結合含有量に応じて決定すればよく、初めの重合反応(1つ目の重合体ブロック(A)を形成するための重合反応)に使用した重合開始剤1モルに対して、好ましくは0.01~100モル、より好ましくは0.1~30mo1の範囲で調節すればよい。極性化合物の使用量がこの範囲にあると、1,3-ブタジエン単量体単位中のビニル結合含有量の調節が容易であり、かつ、重合開始剤の失活による不具合も発生し難い。
【0066】
重合体ブロック(B)における1,3-ブタジエン単量体単位中のビニル結合含有量は、好ましくは1~90重量%、より好ましくは3~80重量%、特に好ましくは5~70重量%である。重合体ブロック(B)における1,3-ブタジエン単量体単位中のビニル結合含有量を上記範囲内とすることにより、得られるゴム架橋物を低発熱性により優れたものとすることができる。
【0067】
このようにして、重合体ブロック(A)および重合体ブロック(B)を有する、活性末端を有するポリブタジエン鎖を得ることができる。本発明の一態様においては、活性末端を有するポリブタジエン鎖は、生産性の観点より、重合体ブロック(A)-重合体ブロック(B)で構成され、かつ、重合体ブロック(B)の末端が活性末端であることが好ましいが、重合体ブロック(A)を複数有するものであってもよいし、その他の重合体ブロックを有するものであってもよい。たとえば、重合体ブロック(A)-重合体ブロック(B)-重合体ブロック(A)などの、活性末端を有するポリブタジエン鎖が挙げられる。この場合には、重合体ブロック(B)に続いて形成された重合体ブロック(A)の末端に、活性末端が形成されることとなる。ポリブタジエン鎖の活性末端側に重合体ブロック(A)を形成させる場合、イソプレンの使用量は、初めの重合反応(1つ目の重合体ブロック(A)を形成するための重合反応)に使用した重合開始剤1モルに対して、10~100モルであることが好ましく、15~70モルであることがより好ましく、20~35モルであることが特に好ましい。
【0068】
本発明の一態様において得られる、活性末端を有するポリブタジエン鎖における重合体ブロック(A)と重合体ブロック(B)との重量比(重合体ブロック(A)、重合体ブロック(B)が複数存在する場合は、それぞれの合計重量を基準とした重量比)は、(重合体ブロック(A)の重量)/(重合体ブロック(B)の重量)で、0.001~0.1であることが好ましく、0.003~0.07であることがより好ましく、0.005~0.05であることが特に好ましい。重合体ブロック(A)と重合体ブロック(B)との重量比を上記範囲内とすることにより、得られるゴム架橋物を、ウエットグリップ性と低発熱性とのバランスが良好なものとすることができる。
【0069】
重合体ブロック(A)および重合体ブロック(B)を有する、活性末端を有するポリブタジエン鎖における、イソプレン単量体単位中および1,3-ブタジエン単量体単位中のビニル結合含有量は、上述した重合体ブロック(B)における1,3-ブタジエン単量体単位中のビニル結合含有量と同じ範囲にあることが好ましい。
【0070】
<第2工程>
本発明の製造方法の第2工程は、第1工程にて得られた活性末端を有するポリブタジエン鎖に、下記一般式(1)で表されるポリオルガノシロキサンを反応させる工程である。
【化5】
一般式(1)中、R~Rは、炭素数1~6のアルキル基、または炭素数6~12のアリール基であり、これらは互いに同一であっても相違していてもよい。XおよびXは、炭素数1~6のアルキル基、炭素数6~12のアリール基、炭素数1~5のアルコキシ基、および、エポキシ基を含有する炭素数4~12の基からなる群より選ばれるいずれかの基であり、これらは互いに同一であっても相違していてもよい。Xは、炭素数1~5のアルコキシ基、またはエポキシ基を含有する炭素数4~12の基 であり、複数あるXは、互いに同一であっても相違していてもよい。Xは、2~20のアルキレングリコールの繰返し単位を含有する基であり、Xが複数あるときは、それらは互いに同一であっても相違していてもよい。mは3~200の整数、nは0~200の整数、kは0~200の整数であり、m+n+kは3以上である。
【0071】
一般式(1)で表されるポリオルガノシロキサンにおいて、一般式(1)中のR~R、XおよびXを構成し得る炭素数1~6のアルキル基としては、たとえば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基およびシクロヘキシル基などが挙げられる。炭素数6~12のアリール基としては、たとえば、フェニル基およびメチルフェニル基などが挙げられる。これらの中でも、ポリオルガノシロキサン自体の製造の容易性の観点から、メチル基およびエチル基が好ましい。
【0072】
また、一般式(1)で表されるポリオルガノシロキサンにおいて、X、XおよびXを構成し得る炭素数1~5のアルコキシ基としては、たとえば、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基およびブトキシ基などが挙げられる。これらの中でも、ポリオルガノシロキサン自体の製造の容易性の観点から、メトキシ基およびエトキシ基が好ましい。
【0073】
さらに、一般式(1)で表されるポリオルガノシロキサンにおいて、X、XおよびXを構成し得るエポキシ基を含有する炭素数4~12の基としては、たとえば、下記一般式(6)で表される基が挙げられる。
-Z-Z-E (6)
一般式(6)中、Zは、炭素数1~10のアルキレン基、またはアルキルアリーレン基であり、Zはメチレン基、硫黄原子、または酸素原子であり、Eはエポキシ基を有する炭素数2~10の炭化水素基である。
【0074】
一般式(6)で表される基としては、Zが酸素原子であるものが好ましく、Zが酸素原子であり、かつ、Eがグリシジル基であるものがより好ましく、Zが炭素数1~3のアルキレン基であり、Zが酸素原子であり、かつ、Eがグリシジル基であるものが特に好ましい。
【0075】
また、一般式(1)で表されるポリオルガノシロキサンにおいて、XおよびXとしては、上記の中でも、エポキシ基を含有する炭素数4~12の基、または、炭素数1~6のアルキル基が好ましい。また、Xとしては、上記の中でも、エポキシ基を含有する炭素数4~12の基が好ましい。さらに、XおよびXが炭素数1~6のアルキル基であり、Xがエポキシ基を含有する炭素数4~12の基であることがより好ましい。
【0076】
また、一般式(1)で表されるポリオルガノシロキサンにおいて、X、すなわち2~20のアルキレングリコールの繰返し単位を含有する基としては、下記一般式(7)で表される基が好ましい。
【化6】
一般式(7)中、tは2~20の整数であり、Xは炭素数2~10のアルキレン基またはアルキルアリーレン基であり、R15は水素原子またはメチル基であり、Xは炭素数1~10のアルコキシ基またはアリールオキシ基である。これらの中でも、tが2~8の整数であり、Xが炭素数3のアルキレン基であり、R15が水素原子であり、かつ、Xがメトキシ基であるものが好ましい。
【0077】
一般式(1)で表されるポリオルガノシロキサンにおいて、mは3~200の整数、好ましくは20~150の整数、より好ましくは30~120の整数である。mが3以上であると、得られるポリブタジエンゴムのカップリング率が高くなり、その結果、ホットフロー性に優れる。また、mが200以下であると、一般式(1)で表されるポリオルガノシロキサン自体の製造がより容易になると共に、その粘度が高くなりすぎず、取り扱いもより容易となる。
【0078】
また、一般式(1)で表されるポリオルガノシロキサンにおいて、nは0~200の整数、好ましくは0~150の整数、より好ましくは0~120の整数である。kは0~200の整数、好ましくは0~150の整数、より好ましくは0~130の整数である。m、nおよびkの合計数は3以上であり、3~400であることが好ましく、20~300であることがより好ましく、30~250であることが特に好ましい。m、nおよびkの合計数が3以上であると、一般式(1)で表されるポリオルガノシロキサンと活性末端を有するポリブタジエン鎖との反応が進行し易く、さらに、m、nおよびkの合計数が400以下であると、一般式(1)で表されるポリオルガノシロキサン自体の製造が容易になると共に、その粘度が高くなりすぎず、取り扱いも容易となる。
【0079】
本発明の製造方法の第2工程においては、上述した第1工程にて得られた活性末端を有するポリブタジエン鎖の活性末端に、変性剤としてのポリオルガノシロキサンを反応させることにより、ポリブタジエン鎖に、シロキサンによる変性構造を導入するものである。なお、本発明の製造方法の第2工程により得られる、反応後のポリブタジエン鎖は、重合体鎖末端に、シロキサンによる変性構造が導入されたものを含むものであるが、これ以外にも、ポリオルガノシロキサンによる変性がされていない未変性のポリブタジエン鎖を含むものであってもよい。
【0080】
本発明の製造方法の第2工程における、ポリオルガノシロキサンの使用量は、上述した第1工程において重合に使用した重合開始剤1モルに対する、ポリオルガノシロキサン中に含まれるエポキシ基およびアルコキシ基の合計モル数の比が、好ましくは0.2~1.0モルとなる量、より好ましくは0.3~0.9モルとなる量、さらに好ましくは0.45~0.75モルとなる量である。ポリオルガノシロキサンの使用量をこのような範囲とすることにより、得られるポリブタジエンゴムの末端に、シロキサンによる変性構造を導入できることに加え、ポリオルガノシロキサンを起点としたカップリング反応(二量化反応や三量化反応、あるいは、さらなる多量化反応)を、適切に進行させることができる。
【0081】
ポリオルガノシロキサンと活性末端を有するポリブタジエン鎖とを反応させる方法は、特に限定されないが、これらを、それぞれが溶解可能な溶媒中で、混合する方法などが挙げられる。この際に用いる溶媒としては、上述した第1工程において用いる不活性溶媒として例示したものなどを用いることができる。また、この際においては、活性末端を有するポリブタジエン鎖を得るための重合に用いた重合溶液に、ポリオルガノシロキサンを添加する方法が簡便であり好ましい。また、この際においては、ポリオルガノシロキサンは、不活性溶媒に溶解して重合系内に添加することが好ましく、その溶液濃度は、1~50重量%の範囲とすることが好ましい。反応温度は、特に限定されないが、通常0~120℃であり、反応時間も特に限定されないが、通常1分~1時間である。
【0082】
活性末端を有するポリブタジエン鎖を含有する溶液に、ポリオルガノシロキサンを添加する時期は特に限定されないが、重合反応が完結しておらず、活性末端を有するポリブタジエン鎖を含有する溶液が単量体をも含有している状態、より具体的には、活性末端を有するポリブタジエン鎖を含有する溶液が、100ppm以上、より好ましくは300~50,000ppmの単量体を含有している状態で、この溶液にポリオルガノシロキサンを添加することが望ましい。ポリオルガノシロキサンの添加をこのように行なうことにより、活性末端を有するポリブタジエン鎖と重合系中に含まれる不純物などとの副反応を抑制して、反応を良好に制御することが可能となる。
【0083】
なお、本発明の製造方法の第2工程において、活性末端を有するポリブタジエン鎖に、一般式(1)で表されるポリオルガノシロキサンを反応させる前の状態のときに、本発明の効果を阻害しない範囲で、活性末端を有するポリブタジエン鎖の活性末端の一部を、従来から通常使用されているカップリング剤や変性剤などを重合系内に添加して、カップリングや変性を行ってもよい。この場合における、カップリング剤の使用量は、本発明の効果を阻害しないものとするという観点より、上述した第1工程において重合に使用した重合開始剤1モルに対して、0.05モル以下とすることが好ましく、カップリング剤については実質的に使用しないことが好ましい。
【0084】
<第3工程>
また、本発明の製造方法においては、上述した第2工程で得られるポリオルガノシロキサンを反応させたポリブタジエン鎖に、下記一般式(2)で表される化合物を反応させる第3工程をさらに設けてもよい。下記一般式(2)で表される化合物を反応させることにより、得られるゴム架橋物を低発熱性およびウエットグリップ性により優れたものとすることができる。
【化7】
一般式(2)中、Rは、ヒドロカルビル基であり、Aは、活性末端を有するポリブタジエン鎖とポリオルガノシロキサンとの反応により生成した反応残基と反応しうる基であり、Aは、窒素原子を含有する基であり、pは0~2の整数、qは1~3の整数、rは1~3の整数、p+q+r=4である。
【0085】
なお、本発明の製造方法の第3工程において用いる、ポリオルガノシロキサンを反応させたポリブタジエン鎖とは、上述した第2工程を経たものであればよく、そのため、このようなポリオルガノシロキサンを反応させたポリブタジエン鎖には、ポリオルガノシロキサンによる変性構造が導入された活性末端を有するポリブタジエン鎖を含んでいればよく、ポリオルガノシロキサンによる変性がされていない未変性の活性末端を有するポリブタジエン鎖をも含み得るものである。さらには、ポリオルガノシロキサンによる変性構造が導入された活性末端を有するポリブタジエン鎖の活性末端が加水分解され、活性末端が水酸基に変換された、シロキサンによる変性構造が導入されたポリブタジエン鎖をも含み得るものである。以下、第3工程の説明において、ポリオルガノシロキサンを反応させたポリブタジエン鎖を、適宜、「ポリブタジエン鎖」と略記する。
【0086】
一般式(2)で表される化合物において、一般式(2)中のRは、ヒドロカルビル基であり、たとえば、アルキル基、シクロアルキル基、アルケニル基、アリール基、アラルキル基などが挙げられるが、炭素数1~6のアルキル基であることが好ましい。炭素数1~6のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基などが挙げられ、これらのなかでも、メチル基、エチル基がより好ましい。
【0087】
一般式(2)で表される化合物において、一般式(2)中のAは、活性末端を有するポリブタジエン鎖とポリオルガノシロキサンとの反応により生成した反応残基(典型的には、-Oで表される基)と反応しうる基であり、-OR10(R10は水素原子またはヒドロカルビル基)で表される基であることが好ましい。R10を構成し得るヒドロカルビル基としては、たとえば、アルキル基、シクロアルキル基、アルケニル基、アリール基、アラルキル基などが挙げられるが、上記反応残基との反応性の観点より、炭素数1~6のアルキル基であることが好ましい。炭素数1~6のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基などが挙げられ、これらのなかでも、メチル基、エチル基がより好ましい。
【0088】
一般式(2)で表される化合物において、一般式(2)中のAは、窒素原子を含有する基であり、窒素原子を含有する基であれば特に限定されないが、窒素原子を有する有機基であることが好ましく、たとえば、3-アミノプロピル基、4-アミノブチル基、3-(2-アミノエチルアミノ)プロピル基、2-ジメチルアミノエチル基、3-ジメチルアミノプロピル基、3-ジエチルアミノプロピル基、3-ジプロピルアミノプロピル基、3-ジブチルアミノプロピル基、3-フェニルメチルアミノプロピル基、3-(4-メチルピペラジニル)プロピル基、N,N-ビス(トリメチルシリル)アミノプロピル基、N,N-ビス(トリエチルシリル)アミノプロピル基、N,N’,N’-トリス(トリメチルシリル)-N-(2-アミノエチル)-3-アミノプロピル基などが挙げられる。これらの中でも、得られるゴム架橋物の低発熱性およびウエットグリップ性をより向上させることができるという点より、3-アミノプロピル基、4-アミノブチル基、3-(2-アミノエチルアミノ)プロピル基などの、活性水素原子を有する1級アミノ基および/または活性水素原子を有する2級アミノ基を含有する基であることが好ましい。なお、「活性水素原子」とは、炭素原子以外の原子に結合した水素原子をいい、ポリメチレン鎖の炭素-水素結合よりも結合エネルギーが低いことが好ましい。
【0089】
一般式(2)で表される化合物において、pは0~2の整数、qは1~3の整数、rは1~3の整数、p+q+r=4である。活性末端を有するポリブタジエン鎖とポリオルガノシロキサンとの反応により生成した反応残基との反応性の観点より、好ましくは、pは0~1の整数、qは2~3の整数であり、rは1~2の整数であり、より好ましくは、p=0、q=3、r=1である。なお、pが2である場合において、一般式(2)で表される化合物1分子中に2個含まれるRで表される基は、同一のものであってもよいし、互いに異なるものであってもよい。同様に、qが2または3である場合において、一般式(2)で表される化合物1分子中に複数含まれるAで表される基は、同一のものであってもよいし、互いに異なるものであってもよく、rが2または3である場合において、一般式(2)で表される化合物1分子中に複数含まれるAで表される基は、同一のものであってもよいし、互いに異なるものであってもよい。
【0090】
一般式(2)で表される化合物の具体例としては、特に限定されないが、たとえば、一般式(2)中のAが、活性水素原子を有する1級アミノ基および/または活性水素原子を有する2級アミノ基を含有する基である化合物として、3-アミノプロピルジメチルメトキシシラン、3-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルジメチルエトキシシラン、3-アミノプロピルメチルジエトキシシラン、3-アミノプロピルトリエトキシシランなどのAとして、3-アミノプロピル基を有する化合物;4-アミノブチルジメチルメトキシシラン、4-アミノブチルメチルジメトキシシラン、4-アミノブチルトリメトキシシラン、4-アミノブチルジメチルエトキシシラン、4-アミノブチルメチルジエトキシシラン、4-アミノブチルトリエトキシシランなどのAとして、4-アミノブチル基を有する化合物;3-(2-アミノエチルアミノ)プロピルジメチルメトキシシラン、3-(2-アミノエチルアミノ)プロピルメチルジメトキシシラン、3-(2-アミノエチルアミノ)プロピルトリメトキシシラン、3-(2-アミノエチルアミノ)プロピルジメチルエトキシシラン、3-(2-アミノエチルアミノ)プロピルメチルジエトキシシラン、3-(2-アミノエチルアミノ)プロピルトリエトキシシランなどのAとして、3-(2-アミノエチルアミノ)プロピル基を有する化合物;などが挙げられる。
【0091】
また、一般式(2)中のAが、活性水素原子を有する1級アミノ基および/または活性水素原子を有する2級アミノ基を含有する基以外の基である化合物として、3-ジメチルアミノプロピルトリメトキシシラン、3-ジメチルアミノプロピルメチルジメトキシシラン、3-ジメチルアミノプロピルジメチルメトキシシラン、3-ジメチルアミノプロピルトリエトキシシラン、3-ジメチルアミノプロピルメチルジエトキシシラン、3-ジメチルアミノプロピルジメチルエトキシシランなどのAとして、3-ジメチルアミノプロピル基を有する化合物;3-ジエチルアミノプロピルトリメトキシシラン、3-ジエチルアミノプロピルメチルジメトキシシラン、3-ジエチルアミノプロピルジメチルメトキシシラン、3-ジエチルアミノプロピルトリエトキシシラン、3-ジエチルアミノプロピルメチルジエトキシシラン、3-ジエチルアミノプロピルジメチルエトキシシランなどのAとして、3-ジエチルアミノプロピル基を有する化合物;3-ジプロピルアミノプロピルトリメトキシシラン、3-ジプロピルアミノプロピルメチルジメトキシシラン、3-ジプロピルアミノプロピルジメチルメトキシシラン、3-ジプロピルアミノプロピルトリエトキシシラン、3-ジプロピルアミノプロピルメチルジエトキシシラン、3-ジプロピルアミノプロピルジメチルエトキシシランなどのAとして、3-ジプロピルアミノプロピル基を有する化合物;3-ジブチルアミノプロピルトリメトキシシラン、3-ジブチルアミノプロピルメチルジメトキシシラン、3-ジブチルアミノプロピルジメチルメトキシシラン、3-ジブチルアミノプロピルトリエトキシシラン、3-ジブチルアミノプロピルメチルジエトキシシラン、3-ジブチルアミノプロピルジメチルエトキシシランなどのAとして、3-ジブチルアミノプロピル基を有する化合物;3-フェニルメチルアミノプロピルトリメトキシシラン、3-フェニルメチルアミノプロピルメチルジメトキシシラン、3-フェニルメチルアミノプロピルジメチルメトキシシラン、3-フェニルメチルアミノプロピルトリエトキシシラン、3-フェニルメチルアミノプロピルメチルジエトキシシラン、3-フェニルメチルアミノプロピルジメチルエトキシシランなどのAとして、3-フェニルメチルアミノプロピル基を有する化合物;3-(4-メチルピペラジニル)プロピルトリメトキシシラン、3-(4-メチルピペラジニル)プロピルメチルジメトキシシラン、3-(4-メチルピペラジニル)プロピルジメチルメトキシシラン、3-(4-メチルピペラジニル)プロピルトリエトキシシラン、3-(4-メチルピペラジニル)プロピルメチルジエトキシシラン、3-(4-メチルピペラジニル)プロピルジメチルエトキシシランなどのAとして、3-(4-メチルピペラジニル)プロピル基を有する化合物;
【0092】
N,N-ビス(トリメチルシリル)アミノプロピルトリメトキシシラン、N,N-ビス(トリメチルシリル)アミノプロピルトリエトキシシラン、N,N-ビス(トリメチルシリル)アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N,N-ビス(トリメチルシリル)アミノプロピルメチルジエトキシシランなどのAとして、N,N-ビス(トリメチルシリル)アミノプロピル基を有する化合物;N,N-ビス(トリエチルシリル)アミノプロピルトリメトキシシラン、N,N-ビス(トリメチルシリル)アミノプロピルトリエトキシシラン、N,N-ビス(トリエチルシリル)アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N,N-ビス(トリエチルシリル)アミノプロピルメチルジエトキシシランなどのAとして、N,N-ビス(トリエチルシリル)アミノプロピル基を有する化合物;N,N’,N’-トリス(トリメチルシリル)-N-(2-アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、N,N’,N’-トリス(トリメチルシリル)-N-(2-アミノエチル)-3-アミノプロピルトリエトキシシラン、N,N’,N’-トリス(トリメチルシリル)-N-(2-アミノエチル)-3-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N,N’,N’-トリス(トリメチルシリル)-N-(2-アミノエチル)-3-アミノプロピルメチルジエトキシシランなどのAとして、N,N’,N’-トリス(トリメチルシリル)-N-(2-アミノエチル)-3-アミノプロピル基を有する化合物;などが挙げられる。
【0093】
一般式(2)で表される化合物の使用量は、特に限定されないが、第1工程で使用した重合開始剤1モルに対して、好ましくは0.1~5モルであり、より好ましくは0.2~2モル、さらに好ましくは0.4~1.5モルである。一般式(2)で表される化合物の使用量を上記範囲とすることにより、得られるゴム架橋物を、低発熱性とウエットグリップ性により優れたものとすることができる。
【0094】
ポリブタジエン鎖を含有する溶液に、一般式(2)で表される化合物を添加する時期は、上述した第2工程において一般式(1)で表されるポリオルガノシロキサンを添加した後であれば、特に限定されない。たとえば、上述した第2工程と同様に、重合反応が完結しておらず、ポリブタジエン鎖を含有する溶液が単量体をも含有している状態、より具体的には、ポリブタジエン鎖を含有する溶液が、100ppm以上、より好ましくは300~50,000ppmの単量体を含有している状態で、この溶液に一般式(2)で表される化合物を添加することができる。一般式(2)で表される化合物の添加をこのように行なうことにより、ポリブタジエン鎖と重合系中に含まれる不純物などとの副反応を抑制して、反応を良好に制御することが可能となる。あるいは、ポリブタジエン鎖を含有する溶液に、一般式(2)で表される化合物を添加する前、あるいは添加した後に、この溶液に、水やメタノールなどのアルコールを添加することで、一般式(1)で表されるポリオルガノシロキサンとの反応により形成された反応残基を加水分解し、水酸基に変換した状態にて、変性反応を行ってもよい。一般式(2)で表される化合物をポリブタジエン鎖を含有する溶液に添加する際、一般式(2)で表される化合物は不活性溶媒に溶解してから添加してもよいし、不活性溶媒に溶解せずに直接添加してもよい。反応温度、反応時間は、第1工程と同様である。
【0095】
そして、一般式(2)で表される化合物を反応させた後、必要に応じて、公知の重合停止剤などを添加して、反応系を失活させた後、所望により、フェノール系安定剤、リン系安定剤、イオウ系安定剤などの老化防止剤、クラム化剤、およびスケール防止剤などを反応溶液に添加し、その後、直接乾燥またはスチームストリッピングなどにより反応溶液から重合溶媒を分離して、ポリブタジエンゴムを回収する。なお、反応溶液から重合溶媒を分離する前に、重合溶液に伸展油を混合し、ポリブタジエンゴムを油展ゴムとして回収してもよい。
【0096】
ポリブタジエンゴムを油展ゴムとして回収する場合に用いる伸展油としては、たとえば、パラフィン系、芳香族系およびナフテン系の石油系軟化剤、植物系軟化剤、ならびに脂肪酸などが挙げられる。石油系軟化剤を用いる場合には、IP346の方法(英国のTHE INSTITUTE PETROLEUMの検査方法)により抽出される多環芳香族の含有量が3%未満であることが好ましい。伸展油を使用する場合、その使用量は、ポリブタジエンゴム100重量部に対して、好ましくは5~100重量部、より好ましくは10~60重量部、さらに好ましくは20~50重量部である。
【0097】
そして、本発明の製造方法においては、製造されるポリブタジエンゴムについて、ゲルパーミエーションクロマトグラフィによるポリスチレン換算での分子量測定を行った場合に、上記第1工程で得られたポリブタジエン鎖のピークトップ分子量(Mp1)に対し、1.5倍以上2.5倍未満の範囲にピークトップ分子量(Mp2)を有するピーク部分の全溶出面積に対する面積比(X)と、2.5倍以上の範囲にピークトップ分子量(Mp3)を有するピーク部分の全溶出面積に対する面積比(Y)とを特定の関係とするものである。すなわち、ピークトップ分子量(Mp2)を有するピーク部分の全溶出面積に対する面積比(X)と、ピークトップ分子量(Mp3)を有するピーク部分の全溶出面積に対する面積比(Y)との比を、X:Y=75:25~55:45の範囲とするものである。
【0098】
ここで、図1に、本発明の製造方法により得られるポリブタジエンゴムについて、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ測定を行った際に得られるチャートの一例を示す。図1に示すように、本発明の製造方法により得られるポリブタジエンゴムは、最も低分子量側に、ピークトップ分子量(Mp1’)を有するピークと、ピークトップ分子量(Mp1’)よりも、高分子量側に、ピークトップ分子量(Mp2)を有するピークと、ピークトップ分子量(Mp3)を有するピークとを有する。
【0099】
図1中、ピークトップ分子量(Mp1’)を有するピークは、主として、ポリオルガノシロキサンによるカップリングが行われていない重合体鎖に由来のピークであり、そのため、上記第1工程で得られたポリブタジエン鎖のピークトップ分子量(Mp1)のピークに相当する。また、ピークトップ分子量(Mp2)を有するピークは、主として、ポリオルガノシロキサンによるカップリングにより2量化した重合体鎖に由来のピークであり、ピークトップ分子量(Mp2)は、通常、上記第1工程で得られたポリブタジエン鎖のピークトップ分子量(Mp1)(すなわち、最も低分子量側のピークトップ分子量(Mp1’))に対し、1.5倍以上、2.5倍未満の範囲に現れる。さらに、ピークトップ分子量(Mp3)を有するピークは、主として、ポリオルガノシロキサンによるカップリングにより3量化、あるいはさらに多量化した重合体鎖に由来のピークであり、ピークトップ分子量(Mp3)は、通常、上記第1工程で得られたポリブタジエン鎖のピークトップ分子量(Mp1)(すなわち、最も低分子量側のピークトップ分子量(Mp1’))に対し、2.5倍以上の範囲に現れる。
【0100】
そして、本発明においては、上記第1工程で得られたポリブタジエン鎖のピークトップ分子量(Mp1)(すなわち、最も低分子量側のピークトップ分子量(Mp1’))を250,000~350,000の範囲とし、かつ、ピークトップ分子量(Mp2)を有するピーク部分の全溶出面積に対する面積比(X)と、ピークトップ分子量(Mp3)を有するピーク部分の全溶出面積に対する面積比(Y)との比を、X:Y=75:25~55:45の範囲とするものであり、これにより、得られるポリブタジエンゴムを、高温下におけるタッキネスが効果的に低減されたものとすることができ、しかも、これを用いて得られるゴム架橋物を、低発熱性およびウエットグリップ性に優れたものとすることができるものである。なお、ピークトップ分子量(Mp2)を有するピーク部分の全溶出面積に対する面積比(X)と、ピークトップ分子量(Mp3)を有するピーク部分の全溶出面積に対する面積比(Y)との比は、X:Y=75:25~55:45であり、好ましくはX:Y=73:27~58:42であり、より好ましくはX:Y=70:30~60:40である。ピークトップ分子量(Mp2)を有するピーク部分の全溶出面積に対する面積比(X)と、ピークトップ分子量(Mp3)を有するピーク部分の全溶出面積に対する面積比(Y)との比を上記範囲とする方法としては、特に限定されないが、重合条件(たとえば、重合温度など)や、第2工程における反応条件(たとえば、使用するポリオルガノシロキサンの量など)を制御することで、調整することができる。
【0101】
ピークトップ分子量(Mp2)を有するピーク部分の全溶出面積に対する面積比(X)は、たとえば、次の方法により算出することができる。すなわち、まず、図1に示す、ポリブタジエン鎖のピークトップ分子量(Mp1)(すなわち、最も低分子量側のピークトップ分子量(Mp1’))を有するピークと、ピークトップ分子量(Mp2)を有するピークとの間の極小点αから、ピークトップ分子量(Mp2)を有するピークと、ピークトップ分子量(Mp3)を有するピークとの間の極小点βまでの範囲に含まれる部分を、ピークトップ分子量(Mp2)を有するピーク部分の溶出面積として算出する。そして、算出したピークトップ分子量(Mp2)を有するピーク部分の溶出面積を、全溶出面積で除することにより、ピークトップ分子量(Mp2)を有するピーク部分の全溶出面積に対する面積比(X)を求めることができる。
【0102】
また、ピークトップ分子量(Mp3)を有するピーク部分の全溶出面積に対する面積比(Y)は、たとえば、次の方法により算出することができる。すなわち、まず、図1に示す、ピークトップ分子量(Mp2)を有するピークと、ピークトップ分子量(Mp3)を有するピークとの間の極小点βよりも高分子量側の範囲を、ピークトップ分子量(Mp3)を有するピーク部分の溶出面積として算出する。そして、算出したピークトップ分子量(Mp3)を有するピーク部分の溶出面積を、全溶出面積で除することにより、ピークトップ分子量(Mp3)を有するピーク部分の全溶出面積に対する面積比(Y)を求めることができる。
【0103】
なお、本発明の製造方法により得られるポリブタジエンゴムのカップリング率(すなわち、ピークトップ分子量(Mp2)を有するピーク部分の全溶出面積に対する面積比(X)と、ピークトップ分子量(Mp3)を有するピーク部分の全溶出面積に対する面積比(Y)との合計(単位は、面積%))は、特に限定されないが、好ましくは40~80面積%、より好ましくは45~75面積%、特に好ましくは50~70面積%である。カップリング率が上記範囲であると、ポリブタジエンゴムの、高温下におけるタッキネスをより低減することができる。
【0104】
また、本発明の製造方法により得られるポリブタジエンゴムの重量平均分子量(Mw)は、好ましくは300,000~2,000,000、より好ましくは400,000~1,000,000、特に好ましくは500,000~800,000である。ポリブタジエンゴムの重量平均分子量を上記範囲内とすることにより、ポリブタジエンゴムへのシリカの配合が容易となり、ゴム組成物の加工性をより高めることができ、さらには、得られるゴム架橋物の低発熱性およびウエットグリップ性をより高めることができる。
【0105】
本発明の製造方法により得られるポリブタジエンゴムの重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比(Mw/Mn)で表わされる分子量分布は、1.1~3.0であることが好ましく、1.2~2.5であることがより好ましく、1.2~2.2であることが特に好ましい。ポリブタジエンゴムの分子量分布(Mw/Mn)を上記範囲内とすることにより、得られるゴム架橋物の低発熱性およびウエットグリップ性をより向上させることができる。なお、重量平均分子量(Mw)および数平均分子量(Mn)は、ポリスチレン換算のゲルパーミエーションクロマトグラフィで測定される値として、求めることができる。
【0106】
また、本発明の製造方法により得られるポリブタジエンゴムのムーニー粘度(ML1+4,100℃)は、好ましくは60~90、より好ましくは62~88、特に好ましくは65~85である。なお、ポリブタジエンゴムを油展ゴムとする場合は、その油展ゴムのムーニー粘度を上記の範囲とすることが好ましい。
【0107】
このようにして本発明の製造方法により得られるポリブタジエンゴムは、充填剤および架橋剤などの配合剤を添加した上で、種々の用途に好適に用いることができる。特に、充填剤としてシリカを配合した場合に、低発熱性、およびウエットグリップ性に優れたゴム架橋物を与えることができるゴム組成物を与える。
【0108】
<ゴム組成物>
本発明のゴム組成物は、上述した本発明の製造方法により得られるポリブタジエンゴムを15~50重量%の割合で含有するゴム成分と、シリカとを含有し、ゴム成分100重量部に対する、シリカの含有量が10~120重量部である、ポリブタジエンゴムの組成物である。
【0109】
本発明で用いるシリカとしては、たとえば、乾式法ホワイトカーボン、湿式法ホワイトカーボン、コロイダルシリカ、沈降シリカなどが挙げられる。これらの中でも、含水ケイ酸を主成分とする湿式法ホワイトカーボンが好ましい。また、カーボンブラック表面にシリカを担持させたカーボン-シリカデュアル・フェイズ・フィラーを用いてもよい。これらのシリカは、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。用いるシリカの窒素吸着比表面積(ASTM D3037-81に準じBET法で測定される)は、好ましくは50~300m/g、より好ましくは80~220m/g、特に好ましくは100~170m/gである。また、シリカのpHは、pH5~10であることが好ましい。
【0110】
本発明のゴム組成物におけるシリカの配合量は、ゴム組成物中のゴム成分100重量部に対して、10~200重量部であり、好ましくは30~150重量部、より好ましくは50~100重量部である。シリカの配合量を上記範囲とすることにより、ゴム組成物の加工性が優れたものとなり、得られるゴム架橋物のウエットグリップ性および低発熱性をより向上させることができる。
【0111】
本発明のゴム組成物には、低発熱性をより向上させるという観点より、さらにシランカップリング剤を配合してもよい。シランカップリング剤としては、例えば、ビニルトリエトキシシラン、β-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、N-(β-アミノエチル)-γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-オクタノイルチオ-1-プロピル-トリエトキシシラン、ビス(3-(トリエトキシシリル)プロピル)ジスルフィド、ビス(3-(トリエトキシシリル)プロピル)テトラスルフィド、γ-トリメトキシシリルプロピルジメチルチオカルバミルテトラスルフィド、およびγ-トリメトキシシリルプロピルベンゾチアジルテトラスルフィドなどを挙げることができる。これらのシランカップリング剤は、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。シランカップリング剤の配合量は、シリカ100重量部に対して、好ましくは0.1~30重量部、より好ましくは1~15重量部である。
【0112】
また、本発明のゴム組成物には、さらに、ファーネスブラック、アセチレンブラック、サーマルブラック、チャンネルブラック、およびグラファイトなどのカーボンブラックを配合してもよい。これらのなかでも、ファーネスブラックが好ましい。これらのカーボンブラックは、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。カーボンブラックの配合量は、ゴム組成物中のゴム成分100重量部に対して、通常、120重量部以下である。
【0113】
なお、本発明の製造方法により得られるポリブタジエンゴムを含むゴム成分に、シリカを添加する方法としては特に限定されず、固形のゴム成分に対して添加して混練する方法(乾式混練法)やポリブタジエンゴムを含む溶液に対して添加して凝固・乾燥させる方法(湿式混練法)などを適用することができる。
【0114】
また、本発明のゴム組成物は、架橋剤をさらに含有していることが好ましい。架橋剤としては、例えば、硫黄、ハロゲン化硫黄、有機過酸化物、キノンジオキシム類、有機多価アミン化合物、メチロール基を有するアルキルフェノール樹脂などが挙げられる。これらの中でも、硫黄が好ましく使用される。架橋剤の配合量は、ゴム組成物中のゴム成分100重量部に対して、好ましくは0.1~15重量部、より好ましくは0.5~5重量部、特に好ましくは1~4重量部である。
【0115】
さらに、本発明のゴム組成物には、上記成分以外に、常法に従って、架橋促進剤、架橋活性化剤、老化防止剤、充填剤(上記シリカおよびカーボンブラックを除く)、活性剤、プロセス油、可塑剤、滑剤、粘着付与剤、相溶化剤などの配合剤をそれぞれ必要量配合できる。
【0116】
架橋剤として、硫黄または含硫黄化合物を用いる場合には、架橋促進剤および架橋活性化剤を併用することが好ましい。架橋促進剤としては、例えば、スルフェンアミド系架橋促進剤;グアニジン系架橋促進剤;チオウレア系架橋促進剤;チアゾール系架橋促進剤;チウラム系架橋促進剤;ジチオカルバミン酸系架橋促進剤;キサントゲン酸系架橋促進剤;などが挙げられる。これらのなかでも、スルフェンアミド系架橋促進剤を含むものが好ましい。これらの架橋促進剤は、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いられる。架橋促進剤の配合量は、ゴム組成物中のゴム成分100重量部に対して、好ましくは0.1~15重量部、より好ましくは0.5~5重量部、特に好ましくは1~4重量部である。
【0117】
架橋活性化剤としては、例えば、ステアリン酸などの高級脂肪酸;酸化亜鉛;などを挙げることができる。これらの架橋活性化剤は、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いられる。架橋活性化剤の配合量は、ゴム組成物中のゴム成分100重量部に対して、好ましくは0.05~20重量部、特に好ましくは0.5~15重量部である。
【0118】
また、本発明のゴム組成物には、上述した本発明の製造方法によって得られるポリブタジエンゴム以外のその他のゴムを配合してもよい。その他のゴムとしては、例えば、天然ゴム、ポリイソプレンゴム、乳化重合スチレン-ブタジエン共重合ゴム、溶液重合スチレン-ブタジエン共重合ゴム、ポリブタジエンゴム(高シス-BR、低シスBRであってもよい。また、1,2-ポリブタジエン重合体からなる結晶繊維を含むポリブタジエンゴムであってもよい)、スチレン-イソプレン共重合ゴム、ブタジエン-イソプレン共重合ゴム、スチレン-イソプレン-ブタジエン共重合ゴム、アクリロニトリル-ブタジエン共重合ゴム、アクリロニトリル-スチレン-ブタジエン共重合ゴムなどのうち、上述した本発明の製造方法によって得られるポリブタジエンゴム以外のものをいう。これらのなかでも、天然ゴム、ポリイソプレンゴム、ポリブタジエンゴム、溶液重合スチレン-ブタジエン共重合ゴムが好ましく、溶液重合スチレン-ブタジエン共重合ゴムが好ましい。また、低発熱性およびウエットグリップ性をより高めることができるという観点より、溶液重合スチレン-ブタジエン共重合ゴムの中でも、変性剤として、上記一般式(1)を用いた変性を行うことで得られる、溶液重合変性スチレン-ブタジエン共重合ゴムが特に好ましい。これらのゴムは、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0119】
本発明のゴム組成物において、本発明の製造方法により得られるポリブタジエンゴムは、ゴム組成物中のゴム成分の15~50重量%を占めることが好ましく、20~40重量%を占めることがより好ましく、25~35重量%を占めることがさらに好ましい。このような割合で、本発明の製造方法により得られるポリブタジエンゴムをゴム成分中に含めることにより、低発熱性とウエットグリップ性とが向上されたゴム架橋物を得ることができる。
【0120】
本発明のゴム組成物を得るためには、常法に従って各成分を混練すればよく、たとえば、架橋剤や架橋促進剤などの熱に不安定な成分を除く成分とポリブタジエンゴムとを混練後、その混練物に架橋剤や架橋促進剤などの熱に不安定な成分を混合して目的の組成物を得ることができる。熱に不安定な成分を除く成分とポリブタジエンゴムとの混練温度は、好ましくは80~200℃、より好ましくは120~180℃であり、その混練時間は、好ましくは30秒~30分である。また、その混練物と熱に不安定な成分との混合は、通常100℃以下、好ましくは80℃以下まで冷却した後に行われる。
【0121】
<ゴム架橋物>
本発明のゴム架橋物は、上述した本発明のゴム組成物を架橋してなるものである。
本発明のゴム架橋物は、本発明のゴム組成物を用い、たとえば、所望の形状に対応した成形機、たとえば、押出機、射出成形機、圧縮機、ロールなどにより成形を行い、加熱することにより架橋反応を行い、架橋物として形状を固定化することにより製造することができる。この場合においては、予め成形した後に架橋しても、成形と同時に架橋を行ってもよい。成形温度は、通常、10~200℃、好ましくは25~120℃である。架橋温度は、通常、100~200℃、好ましくは130~190℃であり、架橋時間は、通常、1分~24時間、好ましくは2分~12時間、特に好ましくは3分~6時間である。
【0122】
また、ゴム架橋物の形状、大きさなどによっては、表面が架橋していても内部まで十分に架橋していない場合があるので、さらに加熱して二次架橋を行ってもよい。
【0123】
加熱方法としては、プレス加熱、スチーム加熱、オーブン加熱、熱風加熱などのゴムの架橋に用いられる一般的な方法を適宜選択すればよい。
【0124】
このようにして得られる本発明のゴム架橋物は、上述した本発明の製造方法により得られるポリブタジエンゴムを用いて得られるものであるため、低発熱性およびウエットグリップ性に優れるものである。そして、本発明のゴム架橋物は、このような特性を活かし、たとえば、タイヤにおいて、キャップトレッド、ベーストレッド、カーカス、サイドウォール、ビード部などのタイヤ各部位の材料;ホース、ベルト、マット、防振ゴム、その他の各種工業用品の材料;樹脂の耐衝撃性改良剤;樹脂フィルム緩衝剤;靴底;ゴム靴;ゴルフボール;玩具;などの各種用途に用いることができる。特に、本発明のゴム架橋物は、オールシーズンタイヤ、高性能タイヤ、およびスタッドレスタイヤなどの各種タイヤにおいて、トレッド、カーカス、サイドウォール、およびビード部などのタイヤ各部位に好適に用いることができ、特に低発熱性に優れるので、低燃費タイヤのトレッド用として、特に好適に用いることができる。
【実施例
【0125】
以下、本発明を、さらに詳細な実施例に基づき説明するが、本発明は、これら実施例に限定されない。なお、以下において、「部」は、特に断りのない限り重量基準である。また、試験および評価は下記に従った。
【0126】
〔重量平均分子量、ピークトップ分子量、カップリング率〕
重量平均分子量、ピークトップ分子量、およびカップリング率は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)によりポリスチレン換算の分子量に基づくチャートを得て、得られたチャートに基づいて求めた。ゲルパーミエーションクロマトグラフィの具体的な測定条件は、以下のとおりとした。
測定器:高速液体クロマトグラフ(東ソー社製、商品名「HLC-8220」)
カラム:東ソー社製ポリスチレン系カラム、商品名「GMH-HR-H」を二本直列に連結した。
検出器:示差屈折計
溶離液:テトラヒドロフラン
カラム温度:40℃
なお、ピークトップ分子量については、分子量の最も小さいピークが示すピークトップ分子量(Mp1’)に対して、1.5倍以上2.5倍未満のピークトップ分子量(Mp2)を有するピーク部分の面積比(X)と、分子量の最も小さい重合体に由来するピークが示すピークトップ分子量(Mp1’)の2.5倍以上3.5倍未満のピークトップ分子量(Mp3)を有するピーク部分の面積比(Y)とを、上記した方法にしたがって、算出した。また、求めた面積比(X)と面積比(Y)との合計を、カップリング率(単位は、面積%)として求めた。また、GPC測定の結果、分子量の最も小さいピークが示すピークトップ分子量(Mp1’)は、ポリオルガノシロキサンを反応させる前の活性末端を有するポリブタジエン鎖のピークトップ分子量(Mp1)と、実質的に同じであったため、本実施例においては、分子量の最も小さいピークが示すピークトップ分子量(Mp1’)を、活性末端を有するポリブタジエン鎖のピークトップ分子量(Mp1)とした。
【0127】
〔芳香族ビニル単量体単位含有量、ビニル結合含有量〕
芳香族ビニル単量体単位含有量、およびビニル結合含有量は、H-NMRにより測定した。
【0128】
〔ポリブタジエンゴムのムーニー粘度(ML1+4,100℃)〕
JIS K6300に従い、ムーニー粘度計(島津製作所社製)を用いて測定した。
【0129】
〔タッキネス(ポリブタジエンゴムの粘着性)〕
RPA-2000(アルファテクノロジーズ社製)を用い、温度130℃、動的歪み10%、シェアレート30S-1における、せん断モードでの損失弾性率を測定することにより、タッキネスを評価した。この損失弾性率の値については、比較例1の測定値を100とする指数で示した。この指数が小さいほど、高温でのポリブタジエンゴムのタッキネスが低く、乾燥時の操業性が安定することを意味する。
【0130】
〔ゴム架橋物の低発熱性〕
ARES-G2(ティーエイインスツルメント社製)を用い、長さ50mm、幅12.7mm、厚さ2mmの試験片について、動的歪み2.5%、周波数10Hzの条件で30℃におけるtanδを測定することで、低発熱性を評価した。このtanδの値については、比較例7の測定値を100とする指数で示した。この指数が高いものほど、低発熱性に優れる。
【0131】
〔ゴム架橋物のウエットグリップ性〕
ARES-G2(ティーエイインスツルメント社製)を用い、長さ50mm、幅12.7mm、厚さ2mmの試験片について、動的歪み0.5%、周波数10Hzの条件で-100℃から20℃の範囲で4℃の間隔にて段階的に昇温させて、tanδピークの値を測定することで、ウエットグリップ性を評価した。このtanδのピーク値については、比較例7の測定値を100とする指数で示した。この指数が高いものほど、ウエットグリップ性に優れる。
【0132】
〔実施例1〕
攪拌機付きオートクレーブに、窒素雰囲気下、シクロヘキサン5670g、および1,3-ブタジエン700gを仕込んだ後、シクロヘキサンと1,3-ブタジエンとに含まれる重合を阻害する不純物の中和に必要な量のn-ブチルリチウムを添加し、さらに、n-ブチルリチウムを重合反応に用いる分として6.25mmolを加え、45℃で重合を開始した。重合を開始してから20分経過後、1,3-ブタジエン300gを30分間かけて連続的に添加した。重合反応中の最高温度は72℃であった。連続添加終了後、さらに10分間重合反応を継続し、重合転化率が95%から100%の範囲になったことを確認してから、重合溶液に、下記式(8)で表されるポリオルガノシロキサン(mとkの数値は平均値)3.78mmol(ポリオルガノシロキサン中に含まれるエポキシ基換算で、重合に使用したn-ブチルリチウムの0.6倍モルに相当する量)を20重量%キシレン溶液の状態で添加し、20分間反応させた。次いで、3-アミノプロピルトリメトキシシラン6.25mmol(重合に使用したn-ブチルリチウムと1倍モルに相当)を25重量%シクロヘキサン溶液の状態で添加し、15分間反応させた。その後、重合停止剤として、重合に使用したn-ブチルリチウムの2倍モルに相当する量のメタノールを添加して、ポリブタジエンゴムを含有する溶液を得た。
【化8】
【0133】
次いで、得られたポリブタジエンゴムを含有する溶液に、ゴム成分100部あたり、老化防止剤として2,4-ビス(n-オクチルチオメチル)-6-メチルフェノール0.3部を添加した。この溶液をスチームストリッピングにより溶媒を除去し、60℃で24時間真空乾燥して、固形状のポリブタジエンゴム(BR1)を得た。得られたポリブタジエンゴム(BR1)について、上記方法にしたがって、重量平均分子量、ピークトップ分子量(各ピークトップ分子量に対応するピークの面積比(X,Y))、カップリング率、ビニル結合含有量、ムーニー粘度、およびタッキネスの各測定を行った。結果を表1に示す。
【0134】
〔実施例2〕
3-アミノプロピルトリメトキシシランを添加しなかった以外は、実施例1と同様にして、ポリブタジエンゴム(BR2)を得て、同様に測定を行った。結果を表1に示す。
【0135】
〔実施例3〕
窒素置換された容量800mlのガラス製耐圧容器に、シクロヘキサン335.0g、およびテトラメチルエチレンジアミン0.80mmolを添加し、さらに、n-ブチルリチウム7.98mmolを添加した。次いで、イソプレン28.79g、およびスチレン2.33gをゆっくりと添加し、50℃の水浴中で120分間反応させることにより、活性末端を有する重合体ブロック(A)を得た。この重合体ブロック(A)の重量平均分子量(Mw)は6,680、分子量分布(Mw/Mn)は1.10、スチレン単量体単位含有量は7.5重量%、イソプレン単量体単位含有量は92.5重量%、ビニル結合含有量は7.7重量%であった。
【0136】
次いで、攪拌機付きオートクレーブに、窒素雰囲気下、シクロヘキサン5670g、1,3-ブタジエン700.0gを仕込んだ後、シクロヘキサンと1,3-ブタジエンとに含まれる重合を阻害する不純物の中和に必要な量のn-ブチルリチウムを添加し、さらに上記にて得られた活性末端を有する重合体ブロック(A)を全量加え、45℃で重合を開始した。重合を開始してから20分間経過後、1,3-ブタジエン300.0gを30分間かけて連続的に添加した。重合反応中の最高温度は72℃であった。連続添加終了後、さらに20分間重合反応を継続し、重合転化率が95%から100%の範囲になったことを確認してから、上記式(8)で表されるポリオルガノシロキサン(mとkの数値は平均値)3.78mmol(ポリオルガノシロキサン中に含まれるエポキシ基換算で、重合に使用したn-ブチルリチウムの0.6倍モルに相当する量))を20重量%キシレン溶液の状態で添加し、30分間反応させた。次いで、3-アミノプロピルトリメトキシシラン6.25mmol(重合に使用したn-ブチルリチウムと1倍モルに相当)を25重量%シクロヘキサン溶液の状態で添加し、30分間反応させた。その後、重合停止剤として、使用したn-ブチルリチウムの2倍モルに相当する量のメタノールを添加して、ポリブタジエンゴムを含有する溶液を得た。
【0137】
次いで、得られたポリブタジエンゴムを含有する溶液に、ゴム成分100部あたり、老化防止剤として2,4-ビス(n-オクチルチオメチル)-6-メチルフェノール0.3部を添加した。この溶液をスチームストリッピングにより溶媒を除去し、60℃で24時間真空乾燥して、固形状のポリブタジエンゴム(BR3)を得た。得られたポリブタジエンゴム(BR3)について、実施例1と同様に、各測定を行った。結果を表1に示す。
【0138】
〔比較例1〕
攪拌機付きオートクレーブに、窒素雰囲気下、シクロヘキサン5670g、および1,3-ブタジエン700gを仕込んだ後、シクロヘキサンと1,3-ブタジエンとに含まれる重合を阻害する不純物の中和に必要な量のn-ブチルリチウムを添加し、さらに、n-ブチルリチウムを重合反応に用いる分として8.33mmolを加え、50℃で重合を開始した。重合を開始してから20分経過後、1,3-ブタジエン300gを30分間かけて連続的に添加した。重合反応中の最高温度は72℃であった。連続添加終了後、さらに20分間重合反応を継続し、重合転化率が95%から100%の範囲になったことを確認してから、1,6-ビス(トリクロロシリル)ヘキサン0.333mmol(重合に使用したn-ブチルリチウムの0.04倍モルに相当)を40重量%シクロヘキサン溶液の状態で添加し、30分間反応させた。さらに、その後、重合溶液に、上記式(8)で表されるポリオルガノシロキサン(mとkの数値は平均値)2.92mmol(ポリオルガノシロキサン中に含まれるエポキシ基換算で、重合に使用したn-ブチルリチウムの0.35倍モルに相当する量)を20重量%キシレン溶液の状態で添加し、30分間反応させた。次いでテトラメトキシシラン8.33mmol(重合に使用したn-ブチルリチウムと1倍モルに相当)を25重量%シクロヘキサン溶液の状態で添加し、30分間反応させた。その後、重合停止剤として、使用したn-ブチルリチウムの2倍モルに相当する量のメタノールを添加して、ポリブタジエンゴムを含有する溶液を得た。
【0139】
次いで、得られたポリブタジエンゴムを含有する溶液に、ゴム成分100部あたり、老化防止剤として2,4-ビス(n-オクチルチオメチル)-6-メチルフェノール0.3部を添加した。この溶液をスチームストリッピングにより溶媒を除去し、60℃で24時間真空乾燥して、固形状のポリブタジエンゴム(BR4)を得た。得られたポリブタジエンゴム(BR4)について、実施例1と同様に、各測定を行った。結果を表1に示す。
【0140】
〔比較例2〕
攪拌機付きオートクレーブに、窒素雰囲気下、シクロヘキサン5670g、および1,3-ブタジエン700gを仕込んだ後、シクロヘキサンと1,3-ブタジエンとに含まれる重合を阻害する不純物の中和に必要な量のn-ブチルリチウムを添加し、さらに、n-ブチルリチウムを重合反応に用いる分として8.33mmolを加え、50℃で重合を開始した。重合を開始してから20分経過後、1,3-ブタジエン300gを30分間かけて連続的に添加した。重合反応中の最高温度は80℃であった。
連続添加終了後、さらに20分間重合反応を継続し、重合転化率が95%から100%の範囲になったことを確認してから、重合溶液に、上記式(8)で表されるポリオルガノシロキサン(mとkの数値は平均値)3.75mmol(ポリオルガノシロキサン中に含まれるエポキシ基換算で、重合に使用したn-ブチルリチウムの0.45倍モルに相当する量)を20重量%キシレン溶液の状態で添加し、30分間反応させた。次いで、3-(2-アミノエチルアミノ)プロピルトリメトキシシラン8.33mmol(重合に使用したn-ブチルリチウムと1倍モルに相当)を25重量%シクロヘキサン溶液の状態で添加し、30分間反応させた。その後、重合停止剤として、使用したn-ブチルリチウムの2倍モルに相当する量のメタノールを添加して、ポリブタジエンゴムを含有する溶液を得た。
【0141】
次いで、得られたポリブタジエンゴムを含有する溶液に、ゴム成分100部あたり、老化防止剤として2,4-ビス(n-オクチルチオメチル)-6-メチルフェノール0.3部を添加した。この溶液をスチームストリッピングにより溶媒を除去し、60℃で24時間真空乾燥して、固形状のポリブタジエンゴム(BR5)を得た。得られたポリブタジエンゴム(BR5)について、実施例1と同様に、各測定を行った。結果を表1に示す。
【0142】
〔比較例3〕
重合開始の温度を50℃とした以外は、実施例3と同様にして、ポリブタジエンゴム(BR6)を得た。なお、比較例3においては、重合反応中の最高温度は80℃であった。そして、得られたポリブタジエンゴム(BR6)について、実施例1と同様に、各測定を行った。結果を表1に示す。
【0143】
〔参考例1〕
攪拌機付きオートクレーブに、窒素雰囲気下、シクロヘキサン5670g、スチレン170g、1,3-ブタジエン430g、およびテトラメチルエチレンジアミン10.0mmolを仕込んだ後、シクロヘキサン、スチレン、および1,3-ブタジエンに含まれる重合を阻害する不純物の中和に必要な量のn-ブチルリチウムを添加した。その後、n-ブチルリチウムを重合反応に用いる分として5.6mmolを加え、40℃で重合を開始した。重合を開始してから10分経過後、スチレン40g、1,3-ブタジエン360gを60分間かけて連続的に添加した。重合反応中の最高温度は70℃であった。連続添加終了後、さらに10分間重合反応を継続し、重合転化率が95%から100%の範囲になったことを確認してから、少量の重合溶液をサンプリングした。サンプリングした少量の重合溶液は、過剰のメタノールを添加して反応停止した後、風乾して、重合体を取得し、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ分析の試料とした。サンプリングした重合体の重量平均分子量は248,000であった。
【0144】
少量の重合溶液をサンプリングした直後に、カップリング剤として四塩化錫を0.278mmolを20重量%シクロへキサン溶液の状態で加え、65℃で10分間反応させた。次いで、変性剤として、上記式(8)で表されるポリオルガノシロキサン0.024mmolを40重量%キシレン溶液の状態で添加し、65℃で20分間反応させた。その後、重合停止剤として、重合反応に使用したn-ブチルリチウムの2倍モルに相当する量のメタノールを添加して、変性スチレン-ブタジエンゴムを含有する溶液を得た。
【0145】
そして、得られた変性スチレン-ブタジエンゴムを含有する溶液に、ゴム成分100部あたり、老化防止剤として、2,4-ビス(n-オクチルチオメチル)-6-メチルフェノール0.2部を添加した。次いで、スチームストリッピングにより溶媒を除去し、固形状ゴムを回収し、ロールにかけて脱水し、さらに熱風乾燥機にて乾燥し、変性スチレン-ブタジエンゴムを得た。得られた変性スチレン-ブタジエンゴムの結合スチレン量、ブタジエン単位部分のビニル結合含有量、重量平均分子量、ガラス転移温度(Tg)、およびムーニー粘度(ML1+4,100℃)を測定した結果、結合スチレン量は21%、ブタジエン単位部分のビニル結合含有量は63%、重量平均分子量は449,000、ムーニー粘度(ML1+4,100℃)は62であった。
【0146】
〔実施例4〕
容量250mlのバンバリーミキサーを用いて、実施例1で得られたポリブタジエンゴム(BR1)30部と、参考例1で得られた変性スチレン-ブタジエンゴム70部とを30秒素練りし、次いでシリカ(商品名「ULTASIL 7000GR」、エボニック社製;BET比表面積=175m/g)53.3部、シランカップリング剤(ビス(3-(トリエトキシシリル)プロピル)ジスルフィド、商品名「Si75」、エボニック社製)6.4部、およびプロセスオイル(t‐DAE;JXTGエネルギー社製)30部を添加して、80℃を開始温度として1.5分間混練した。この混練物に、シリカ(商品名「ULTASIL 7000GR」、エボニック社製;BET比表面積=112m/g)26.6部、酸化亜鉛3部、ステアリン酸2部、および老化防止剤(商品名「ノクラック6C」、大内新興化学工業社製)2部を添加し、さらに2.5分間混練し、バンバリーミキサーからゴム混練物を排出させた。混練終了時のゴム混練物の温度は150℃であった。このゴム混練物を、室温まで冷却した後、再度バンバリーミキサー中で、3分間混練した後、バンバリーミキサーからゴム混練物を排出させた。次いで、50℃のオープンロールを用いて、得られたゴム混練物と、硫黄1.8部、および架橋促進剤(N-シクロヘキシル-2-ベンゾチアジルスルフェンアミド1.7部とジフェニルグアニジン1.7部との混合物)とを混練した後、シート状のゴム組成物を取り出した。
そして、得られたゴム組成物を、160℃で15分間プレス架橋して試験片を作製し、得られた試験片について、低燃費性およびウエットグリップ性の評価を行なった。結果を表2に示す。
【0147】
〔実施例5,6〕
実施例1で得られたポリブタジエンゴム(BR1)に代えて、実施例2,3で得られたポリブタジエンゴム(BR2)、およびポリブタジエンゴム(BR3)をそれぞれ使用した以外は、実施例4と同様にして、ゴム組成物およびゴム架橋物を得て、同様に評価を行った。結果を表2に示す。
【0148】
〔比較例4~6〕
実施例1で得られたポリブタジエンゴム(BR1)に代えて、比較例1~3で得られたポリブタジエンゴム(BR4)、ポリブタジエンゴム(BR5)、およびポリブタジエンゴム(BR6)をそれぞれ使用した以外は、実施例4と同様にして、ゴム組成物およびゴム架橋物を得て、同様に評価を行った。結果を表2に示す。
【0149】
〔比較例7〕
実施例1で得られたポリブタジエンゴム(BR1)に代えて、ポリブタジエンゴム(商品名「Nipol BR1220」、日本ゼオン社製、ポリオルガノシロキサンにより反応を行っていないポリブタジエンゴム)を使用した以外は、実施例4と同様にして、ゴム組成物およびゴム架橋物を得て、同様に評価を行った。結果を表2に示す。
【0150】
【表1】
【0151】
【表2】
【0152】
表1、表2の結果より、以下の点が確認できる。
すなわち、本発明のポリブタジエンゴムの製造方法により得られたポリブタジエンゴムは、タッキネスが低く、また、これを用いて得られるゴム架橋物は、低発熱性およびウエットグリップ性にも優れるものであった(実施例1~3、実施例4~6)。そのため、本発明のポリブタジエンゴムの製造方法により得られたポリブタジエンゴムは高温下でのゴム重合体の互着を有効に防止することができ、そして、本発明のポリブタジエンゴムを用いて得られるゴム組成物およびそのゴム架橋物は、低発熱性およびウエットグリップ性が良好であり、タイヤトレッドなどのタイヤ用途に好適に用いることができるものであるといえる。
これに対し、ピークトップ分子量(Mp2)を有するピーク部分の全溶出面積に対する面積比(X)と、2.5倍以上の範囲にピークトップ分子量(Mp3)を有するピーク部分の全溶出面積に対する面積比(Y)との比が、本発明で規定する範囲から外れるポリブタジエンゴム、およびポリオルガノシロキサンによる変性を行っていないポリブタジエンゴムは、ゴム架橋物とした場合における、低発熱性およびウエットグリップ性に劣るものであった(比較例1~3、比較例4~6)。また、比較例1,2で得られたポリブタジエンゴムは、タッキネスが高く、高温下でのゴム重合体の互着が起こりやすいものであった。
図1