(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-20
(45)【発行日】2023-10-30
(54)【発明の名称】光ファイバ母材用支持棒および光ファイバ母材の製造方法
(51)【国際特許分類】
C03B 37/018 20060101AFI20231023BHJP
【FI】
C03B37/018 A
C03B37/018 C
(21)【出願番号】P 2020021008
(22)【出願日】2020-02-10
【審査請求日】2022-09-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000005290
【氏名又は名称】古河電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100094112
【氏名又は名称】岡部 讓
(74)【代理人】
【識別番号】100106183
【氏名又は名称】吉澤 弘司
(74)【代理人】
【識別番号】100114915
【氏名又は名称】三村 治彦
(74)【代理人】
【識別番号】100125139
【氏名又は名称】岡部 洋
(72)【発明者】
【氏名】高橋 正
【審査官】酒井 英夫
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-073947(JP,A)
【文献】特開平06-298540(JP,A)
【文献】特開2013-220989(JP,A)
【文献】特開2004-115289(JP,A)
【文献】特開2001-247328(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03B 37/018,8/04,23/04-23/13
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コアおよび前記コアの外周に形成されたクラッドを有する光ファイバ母材を支持する光ファイバ母材用支持棒であって、
前記光ファイバ母材の一端に接合された端部と、
貫通孔が形成された側部と、
前記貫通孔に挿入され
た補強ピンと、
を備え
、
前記補強ピンの長さは前記貫通孔の長さを超えないことを特徴とする光ファイバ母材用支持棒。
【請求項2】
前記補強ピンの端部と前記光ファイバ母材用支持棒の前記側部とは連続した面を形成することを特徴とする請求項1に記載の光ファイバ母材用支持棒。
【請求項3】
前記光ファイバ母材用支持棒は石英から構成され、
前記補強ピンはセラミックスから構成されることを特徴とする請求項1
または2に記載の光ファイバ母材用支持棒。
【請求項4】
前記補強ピンはSi
3N
4から構成されることを特徴とする請求項
3に記載の光ファイバ母材用支持棒。
【請求項5】
前記貫通孔は円形をなし、
前記補強ピンは略円柱状をなすことを特徴とする請求項1乃至
4のいずれか1項に記載の光ファイバ母材用支持棒。
【請求項6】
光ファイバ母材用支持棒の側部に貫通孔を設ける工程と、
補強ピンを前記貫通孔に挿入する工程と、
コアおよび前記コアの外周に形成されたクラッドを有するコアロッドの一端に前記光ファイバ母材用支持棒の端部を接合する工程と、
前記貫通孔に前記補強ピンが挿入された前記光ファイバ母材用支持棒を把持する工程とを備え
、
前記補強ピンの長さは前記貫通孔の長さを超えないことを特徴とする光ファイバ母材の製造方法。
【請求項7】
前記光ファイバ母材用支持棒は石英から構成され、
前記補強ピンはセラミックスから構成されることを特徴とする請求項
6に記載の光ファイバ母材の製造方法。
【請求項8】
前記補強ピンはSi
3N
4から構成されることを特徴とする請求項
6または7に記載の光ファイバ母材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光ファイバ母材用支持棒および光ファイバ母材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
光ファイバの製造工程において、光ファイバ母材を支持するための支持棒が用いられている。特許文献1には、貫通孔が形成された支持棒と、貫通孔に挿入されたピンとが記載されている。ピンはチャックによって懸架され、光ファイバ母材は接地面に対して垂直に把持される。この状態において、光ファイバ母材は軸を中心に回転しながら、ガラス微粒子が光ファイバ母材に堆積される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
光ファイバ母材を垂直に把持した場合、熱に起因する上昇流により、光ファイバ母材の長手方向の軸におけるガラス微粒子の堆積が不均一となり得る。このため、ガラス微粒子の堆積工程においては、光ファイバ母材が接地面に対して水平に把持されることがある。一方、堆積工程の後のガラス化工程においては、加熱炉内において光ファイバ母材は垂直に把持されるのが一般的である。従って、工程毎に、光ファイバ母材は水平または垂直に把持される場合がある。
【0005】
特許文献1において、光ファイバ母材を接地面に対して水平に把持する場合、垂直把持のためのピンを貫通孔から取り除き、支持棒をチャックによって把持する必要がある。しかしながら、光ファイバ母材の大型化に伴い、支持棒の貫通孔近傍における強度が不十分となり、支持棒が破損し得るという課題が生じていた。
【0006】
本発明は、上記の課題に鑑みてなされたものであって、破損を回避することができる光ファイバ母材用支持棒および光ファイバ母材の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一観点によれば、コアおよび前記コアの外周に形成されたクラッドを有する光ファイバ母材を支持する光ファイバ母材用支持棒であって、前記光ファイバ母材の一端に接合された端部と、貫通孔が形成された側部と、前記貫通孔に挿入され、前記光ファイバ母材用支持棒の強度よりも大きい強度を有する補強ピンと、を備えることを特徴とする光ファイバ母材用支持棒が提供される。
【0008】
本発明の他の観点によれば、光ファイバ母材用支持棒の側部に貫通孔を設ける工程と、補強ピンを前記貫通孔に挿入する工程と、コアおよび前記コアの外周に形成されたクラッドを有する光コアロッドの一端に前記光ファイバ母材用支持棒の端部を接合する工程と、前記補強ピンが前記貫通孔に挿入された前記光ファイバ母材用支持棒を把持する工程とを備えることを特徴とする光ファイバ母材の製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、破損を回避可能な光ファイバ母材用支持棒および光ファイバ母材の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の一実施形態におけるコアロッドおよびハンドルの外観図である。
【
図2】本発明の一実施形態におけるコアロッドとハンドルとの接合方法を説明するための図である。
【
図3】本発明の一実施形態におけるハンドルの断面図である。
【
図4】本発明の一実施形態における光ファイバ母材の製造に用いる堆積装置の側面図である。
【
図5】本発明の一実施形態における光ファイバ母材の製造に用いる堆積装置の断面図である。
【
図6】本発明の一実施形態における光ファイバ母材の製造に用いる焼結装置の断面図である。
【
図7】本発明の一実施形態における光ファイバ母材の製造方法の工程図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照しながら本発明の一実施形態を説明する。
【0012】
図1は、本実施形態におけるコアロッドおよびハンドルの外観図である。コアロッド2は光ファイバ母材の出発材であって、石英ガラス等で形成される。コアロッド2は、コアと、コアの外周に形成されたクラッド層とを有するロッドを加熱延伸することによって形成され得る。コアロッド2は、コアロッド端部21,22、コアロッド側部23を有する円柱状をなしている。堆積工程において、コアロッド側部23の外周にはガラス微粒子が堆積され、光ファイバ母材が形成される。以下の説明において、コアロッド2およびハンドル1A、1Bを光ファイバ母材と称することもある。また、コアロッド2の仮想のコアロッド軸24が延在する方向をX方向、X方向に直交する2方向をY方向およびZ方向と称する。
【0013】
ハンドル1A,1Bは、コアロッド2と同様に石英等から構成され、コアロッド2の2つのコアロッド端部21,22をそれぞれ支持する光ファイバ母材用支持棒である。ハンドル1A,1Bは、ガラス微粒子を堆積する工程において、コアロッド2を把持するために用いられる。また、ガラス化の工程においてはハンドル1Bが取り除かれ、ハンドル1Aが把持部によって垂直に把持される。なお、ガラス化の工程において、ハンドル1Bはコアロッド2に接合されたままでもよい。
【0014】
ハンドル1Aは略円柱状をなし、ハンドル端部11A,12Aと、ハンドル側部13Aとを備える。ハンドル端部11Aはコアロッド端部21に接合され、ハンドル1Aの中心軸であるハンドル軸14Aはコアロッド軸24と略同一直線上に位置する。ハンドル側部13Aにおいて、ハンドル端部12Aの近傍の位置には円形の貫通孔15が形成されている。貫通孔15は、ハンドル軸14Aと直交する方向(Y方向)に形成されるとともに、ハンドル1Aの内部においてハンドル軸14Aと交差している。後述するように、コアロッド2が垂直に把持される場合には貫通孔15には石英のピンが挿入される。貫通孔15の直径は、石英のピンの十分な強度を確保するとともに、ハンドル1Aの強度を大きく損ねないように、適宜決定され得る。すなわち、貫通孔15の直径を大きくすることにより、貫通孔15に挿入されるピンの強度を高めることができる。一方、貫通孔15の直径が大きすぎると、貫通孔15の近傍におけるハンドル1Aの強度が低下し得る。このため、ピンとハンドル1Aのそれぞれの強度のトレードオフを考慮して、貫通孔15の直径が決定されことが好ましい。
【0015】
ハンドル1Bは、貫通孔が形成されていない点を除き、ハンドル1Aと同様に形成される。すなわち、ハンドル1Bは、ハンドル端部11B,12Bと、ハンドル側部13Bとを備え、ハンドル端部11Bはコアロッド端部22に接合される。ハンドル1Bの中心軸であるハンドル軸14Bは、コアロッド軸24およびハンドル軸14Aと略同一直線上に位置する。
【0016】
図2は、本実施形態におけるコアロッドとハンドルとの接合方法を説明するための図である。
図2(A)において、石英からなるハンドル1Aが用意され、ハンドル側部13Aに貫通孔15が形成される。
図2(B)において、ハンドル軸14Aとコアロッド軸24とが一致するように、ハンドル端部11Aがコアロッド端部21に接合される。ハンドル端部11Aとコアロッド端部21との溶接接合は、例えばバーナーを用いて行われてもよく、また、電気炉を用いて行われてもよい。
図2(C)において、石英からなるハンドル1Bが用意され、ハンドル軸14Bとコアロッド軸24とが一致するように、ハンドル端部11Bがコアロッド端部22に接合される。
【0017】
図2(D)において、補強ピン41が補強材として貫通孔15に挿入される。ここで、補強ピン41の強度は、ハンドル1Aの強度よりも大きいことが望ましい。補強ピン41の材質は、例えば、セラミックス等であり、具体的にはSi
3N
4であり得る。また、補強ピン41またはハンドル1Aの熱膨張係数の違いに起因する破損を防止するため、補強ピン41の熱膨張係数とハンドル1Aの熱膨張係数とは互いに近似した値を有することが望ましい。なお、補強ピン41の材質は、必ずしもセラミックス等に限定されない。補強ピン41の強度がハンドル1Aの強度と同等若しくは小さい場合であっても、ハンドル1Aの強度を補強可能である限り、補強ピン41の材質を問わない。例えば、補強ピン41は、ハンドル1Aと同じ材質である石英から構成されてもよい。
【0018】
図3は、本実施形態におけるハンドルの断面図であり、
図2のIII-III’線における断面図である。
図3(A)は貫通孔15に補強ピン41が挿入されていないハンドル1Aの断面図であり、
図3(B)は貫通孔15に補強ピン41が挿入されたハンドル1Aの断面図である。
【0019】
貫通孔15はハンドル軸14Aと直交する方向に延在する。貫通孔15がハンドル1Aに形成されることにより、貫通孔15の近傍のハンドル1Aの強度が小さくなり得る。本実施形態においては、貫通孔15に補強ピン41を挿入することにより、ハンドル1Aの強度の低下を防ぐことができる。
【0020】
補強ピン41は円柱状をなし、ピン端部411,412、ピン側部413を有する。補強ピン41の長さは、貫通孔15の長さを超えないことが望ましく、ハンドル1Aを十分に補強できるように貫通孔15の長さと略同等であることがより望ましい。補強ピン41の長さが、貫通孔15の長さを超える場合、貫通孔15からピン端部411,412が突出してしまう。突出したピン端部411,412は、後述する把持部(チャック)によって圧接され、補強ピン41が破損するおそれがある。このため、ピン端部411,412が貫通孔15から突出しないように、ピン端部411,412の角が研磨されることが好ましい。また、ピン端部411,412とハンドル側部13Aとが連続した面を形成するように、ピン端部411,412を曲面加工してもよい。
【0021】
補強ピン41の直径は、補強ピン41が貫通孔15に挿入可能となるように、貫通孔15の直径と同等若しくは小さいことが好ましい。さらには、ピン側部413と貫通孔15の内壁153との間に、大きな空隙が形成されないことが好ましい。補強ピン41と貫通孔15との間の空隙が大き過ぎる場合、補強ピン41がハンドル1Aを十分に補強することができない。一方、補強ピン41と貫通孔15との間の空隙が小さ過ぎる場合、補強ピン41の熱膨張によりハンドル1Aが破損し得る。そのため、適切な空隙がピン側部413と内壁153との間に形成されることが好ましい。
【0022】
図4は、本実施形態における光ファイバ母材の製造に用いる堆積装置の側面図である。
図5は、本実施形態における光ファイバ母材の製造に用いる堆積装置の断面図であり、
図4のV-V’線における堆積装置の断面図である。堆積装置5は、コアロッド2にクラッドを形成するガラス微粒子を堆積し、光ファイバ母材3を形成する装置である。ガラス微粒子を堆積する方法として、例えば、VAD(Vapor phase Axial Deposition)法、OVD(Outside Vapor Deposition)法等が用いられ得る。VAD法は、コアロッド2を垂直把持し、コアロッド2の下側の端部から上側の端部に向かって鉛直方向にガラス微粒子を堆積する方法である。OVD法は、コアロッド2を水平把持し、コアロッド側部23に水平方向にガラス微粒子を堆積する方法である。本実施形態における堆積装置5は、OVD法によりガラス微粒子を堆積することが可能である。
【0023】
堆積装置5は、基台51、支持部52A,52B、把持部53、応力付与部54、バーナー59を備える。基台51は、堆積装置5の土台となる部材であり、略直方体をなす。基台51は接地面に対して水平に設置される。基台51は、基台51の長手方向に延在するレール等を備え、支持部52Aまたは52B、バーナー59はレールに沿って移動可能である。平面視において、基台51の長手方向をX方向、基台51の短手方向をY方向とする。また、基台51の鉛直方向をZ方向とする。
【0024】
支持部52A,52Bは柱状をなし、互いに対向しながら、基台51の上部に設けられる。すなわち、支持部52Aは基台51の端部511に設けられ、支持部52Bは基台51の端部512に設けられている。支持部52A,52Bのうち、少なくともいずれかは基台51上に敷設されたレール上を移動可能である。また、支持部52A,52Bは、コアロッド2を回転駆動させる回転モータ、変速機等を備えている。
【0025】
把持部53、応力付与部54はチャックを構成し、支持部52A,52Bにそれぞれ設けられている。把持部53は、例えばSUSなどの金属または耐熱性のフッ素樹脂などから構成され、互いに近接または離隔可能な複数の爪531を備える。爪531は例えばSUSなどの金属から構成され、複数の爪531の中央にはハンドル側部13A、13Bを把持可能な把持穴532が形成される。応力付与部54は把持部53の周囲に設けられ、把持部53に応力を与えることが可能である。把持部53が応力付与部54から応力を受けると、複数の爪531は互いに近接し、把持穴542の径が縮小する。これにより、把持穴542に挿入されたハンドル側部13A,13Bは把持部53によって把持される。補強ピン41の長さは貫通孔15の長さを超えないため、補強ピン41の端部が把持部53によって圧接されることなく、補強ピン41の損傷を防ぐことができる。
【0026】
バーナー59は、コアロッド2にガラス微粒子を吹き付ける酸水素バーナーであり、基台51のコアロッド下方に設けられたレール上に設置されている。バーナー59はレール上を移動しながら、コアロッド軸24を中心に回転するコアロッド2にガラス微粒子を吹き付けることができる。バーナー59は、可燃性ガスを供給するノズル、助燃性ガスを供給するノズル、ガラス原料を供給するノズル等を備え得る。例えば、可燃性ガスは水素等であり、助燃性ガスは酸素等であり得る。また、ガラス原料は例えばSiCl4等であり得る。バーナー59は、火炎にガラス原料を投入し、火炎加水分解反応によりガラス微粒子を生成する。バーナー59は、コアロッド側部23に堆積するガラス微粒子の厚さに応じて、コアロッド軸24の鉛直方向におけるノズルの位置を調整することができる。このようにして、コアロッド2の外周に多孔質のガラス微粒子が堆積され光ファイバ母材3が形成される。
【0027】
ガラス微粒子の堆積によって、光ファイバ母材3の重量が増えるに従い、ハンドル1A,1Bにおける応力が増大する。ハンドル側部13Aの貫通孔15には補強ピン41が挿入されているため、ハンドル側部13Aの貫通孔15の近傍における強度を高めることができる。このため、ハンドル1Aの破壊を回避することが可能となる。
【0028】
図6は、本実施形態における光ファイバ母材の製造に用いる焼結装置の断面図である。焼結装置7は、光ファイバ母材3の焼結を行う装置である。焼結装置7は、炉心管71、吸気孔72、排気孔73、ヒータ74、上蓋75、把持部76、シャフト77を備える。
【0029】
炉心管71は、光ファイバ母材3を格納可能な円筒状の反応容器であり、透明石英ガラス等で構成され得る。吸気孔72は、炉心管71の底部711に設けられ、炉心管71内に脱水ガス、不活性ガス等を導入する。例えば、脱水ガスは塩素、塩化チオニル等であり、不活性ガスはアルゴン、ヘリウム等であり得る。排気孔73は、炉心管71の側部712の上方に設けられ、炉心管71に充填された脱水ガス、不活性ガス等を必要に応じて排気する。ヒータ74は、炉心管71の周囲に設けられ、光ファイバ母材3を加熱する。上蓋75は、炉心管71の上部に設けられ、炉心管71に光ファイバ母材3が格納された後に、炉心管71の上部を封止することができる。また、上蓋75には、ハンドル1Aを挿入可能な開口部751が形成される。
【0030】
把持部76は、上蓋75の上部に設けられ、石英等で形成され得るが、チタン、ニッケル等の金属で形成されてもよい。また、把持部76は上蓋75の下部に設けられてもよい。把持部76はU字型の断面形状をなし、把持部76の側部761には貫通孔762が形成されている。貫通孔762には垂直把持のためのピン42が挿入され、ハンドル1Aが把持部76によって垂直に懸架される。ピン42は略円柱状をなし、貫通孔15よりも長く、把持部76の2つの貫通孔762を貫通するのに十分な全長を有する。ピン42は塩素等の雰囲気に晒されることから、石英等で構成されることが好ましい。
【0031】
シャフト77は把持部76の上部763に設けられ、図示されていない駆動機構によって回転可能に構成されている。シャフト77が回転することにより、光ファイバ母材3は炉心管71の内部において回転しながら、ヒータ74によって加熱される。これにより、光ファイバ母材3の多孔質ガラスが焼結し、ガラス化される。
【0032】
図7は、本実施形態におけるガラス母材の製造方法の工程図である。まず、ルーター等により、貫通孔15がハンドル1Aに形成される(ステップS101)。次に、ハンドル軸14A,14Bとコアロッド軸24とが一致するように、ハンドル1A,1Bは、酸水素バーナー等によってコアロッド2に溶融接合される(ステップS102)。セラミックス等で構成された補強ピン41が貫通孔15に挿入される(ステップS103)。
【0033】
続いて、コアロッド2が堆積装置5に設置される(ステップS104)。ハンドル1A,1Bは堆積装置5の把持部53によってそれぞれ把持される。ここで、貫通孔15には補強ピン41が挿入されているが、補強ピン41の長さは貫通孔15の長さを超えない。このため、補強ピン41の端部は把持部53によって圧接されず、補強ピン41の損傷を防ぐことができる。
【0034】
堆積装置5は、コアロッド2を回転させながら、バーナー59によってガラス微粒子35をコアロッド側部23に堆積させる(ステップS105)。コアロッド2におけるガラス微粒子35の堆積量に応じて、ハンドル1A,1Bに印加される負荷が大きくなり得る。ハンドル1Aには補強ピン41が挿入されているため、ハンドル1Aの貫通孔15の近傍における強度を補強し、ハンドル1Aの破損を防ぐことが可能となる。
【0035】
ガラス微粒子が十分にコアロッド2に堆積されると、ハンドル1A,1Bが把持部53から取り外される。さらに、ハンドル1Bとコアロッド2との接合部分がバーナーまたは電気炉によって溶融され、ハンドル1Bがコアロッド2から分離される(ステップS107)。
【0036】
続いて、ハンドル1Aにおいて、補強ピン41と垂直把持用のピン42とが交換される(ステップS108)。すなわち、補強ピン41がハンドル1Aの貫通孔15から取り出され、石英からなるピン42が貫通孔15に挿入される。ピン42は、焼結装置7の把持部76によって把持され、光ファイバ母材3が炉心管71内部において垂直に設置される(ステップS109)。
【0037】
焼結装置7は光ファイバ母材3を加熱し、焼結を行う(ステップS110)。焼結装置7は、塩素等を吸気孔72から内部713に導入する。光ファイバ母材3は、炉心管71内において回転しながら、ヒータ74によって加熱される。これにより、光ファイバ母材に含まれる不純物等が取り除かれる。続いて、焼結装置7は、塩素(Cl2)を排気孔73から排出し、ヘリウム(He)を雰囲気ガスとして吸気孔72から内部713に導入する。光ファイバ母材3は、炉心管71内において回転しながら、ヒータ74によって所定の温度に加熱される。所定の温度は、例えば、摂氏1500度等であり得る。光ファイバ母材3の焼結が完了すると、ヘリウムが排気孔73から排出され、透明ガラス化された光ファイバ母材3は炉心管71から取り出される。後の工程において、透明ガラス化された光ファイバ母材3は、加熱され、線引きされることによって、光ファイバが形成される。
【0038】
以上に述べたように、本実施形態によれば、光ファイバ母材を水平に把持する場合において、ハンドルの強度よりも大きい強度の補強ピンを貫通孔に挿入することにより、ハンドルの強度を高め、ハンドルの破損を回避することが可能となる。一方、光ファイバ母材を垂直に把持する場合においては、石英のピンを貫通孔に挿入し、ピンを把持することが可能となる。
【0039】
なお、補強ピンを用いずに、以下に説明する第1~第3の方法によってハンドルの破損を回避することも考えられ得る。しかしながら、第1~第3の方法を用いた場合、ハンドルの破損以外の他の問題が生じ得る。
【0040】
第1の方法として、ハンドルの直径を大きくすることにより、ハンドルの強度を高めることが考えられる。また、第2の方法として、ハンドルの全長を長くし、把持部は貫通孔の設けられていない部分を把持することで、貫通孔近傍の破損を回避し得る。しかしながら、ハンドルの直径および全長を増大させると、ハンドルの製造コストが増大してしまう。本実施形態によれば、ハンドルの製造コストが増大することなく、ハンドルの破損を回避することが可能となる。第3の方法として、貫通孔の直径を小さくすることにより、ハンドルの破損を回避することも考えられる。しかしながら、貫通孔の直径を小さくすると、垂直把持のためのピンの直径も小さくなってしまい、ピンが変形および破損し易くなる。本実施形態によれば、貫通孔の直径を小さくすることなく、補強ピンによりハンドルの強度を高めることができるため、垂直把持のためのピンの変形および破損を回避することができる。すなわち、本実施形態においては、新たな課題を生じさせることなく、ハンドルの破損を回避することが可能となる。
【0041】
[実施例]
上述した補強ピン41をハンドル1Aの貫通孔15に挿入し、ハンドル1Aの破損の有無を調べた。実施例において用いられたコアロッド2の長さは4000mmであり、直径は50mmであった。石英からなるハンドル1A,1Bの長さは500mmであり、直径は70mmであった。ハンドル1Aに直径25mmの貫通孔15を形成し、Si3N4からなる補強ピン41を貫通孔15に挿入した。補強ピン41の長さは70mmであり、直径は24.9mmであった。堆積装置5において、SiCl4を可燃性ガスおよび助燃性ガスを用いてガラス微粒子がコアロッド2に堆積し、光ファイバ母材3が形成された。光ファイバ母材3の重量は220kgであったが、ハンドル1Aの破損は認められなかった。
【0042】
続いて、光ファイバ母材3から、貫通孔15が形成されていないハンドル1Bを火炎等によって分離し、石英からなるピン42を貫通孔15に挿入した。なお、ハンドル1Bは必ずしも光ファイバ母材3から分離されなくてもよい。ピン42を焼結装置7によって把持し、炉心管71内において光ファイバ母材3を摂氏1500度まで加熱した。ピン42の変形および破損が生じることなく、透明ガラス化した光ファイバ母材3を形成することができた。
【0043】
[比較例]
一方、比較例として、補強ピン41が貫通孔15に挿入せず、堆積装置5を用いてガラス微粒子をコアロッド2に堆積した。コアロッド2、ハンドル1A,1B、貫通孔15は、上述の実施例と同様に形成した。堆積装置5において、ガラス微粒子がコアロッド2に堆積し、光ファイバ母材3の重量が220kgを超えたとき、把持部53内においてハンドル1Aの貫通孔15の近傍が破損した。従って、補強ピン41を貫通孔15に挿入しない場合、貫通孔15の近傍においてハンドル1Aの強度が不十分となることが確認された。
【0044】
[変形例]
本発明は上述の実施形態および実施例に限定されず、様々な変形例において適用可能である。例えば、補強ピン41は、ハンドルの強度よりも大きな強度を有することが望ましい。また、補強ピン41の材質は、ハンドルの熱膨張率に近似の熱膨張率を有する限り、セラミックスに限定されない。また、貫通孔15は、ハンドル1A,1Bの両方に形成されてもよい。
【符号の説明】
【0045】
1A,1B ハンドル
2 コアロッド
3 光ファイバ母材
5 堆積装置
7 焼結装置
15 貫通孔
41 補強ピン
42 ピン
53 応力付与部
54 把持部
71 炉心管
76 把持部