(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-20
(45)【発行日】2023-10-30
(54)【発明の名称】発光装置、ファイバレーザ装置、統合発光装置、および発光素子の制御方法
(51)【国際特許分類】
H01S 5/062 20060101AFI20231023BHJP
H01S 3/067 20060101ALI20231023BHJP
H01S 3/0941 20060101ALI20231023BHJP
【FI】
H01S5/062
H01S3/067
H01S3/0941
(21)【出願番号】P 2020021863
(22)【出願日】2020-02-12
【審査請求日】2022-10-24
(31)【優先権主張番号】P 2019066694
(32)【優先日】2019-03-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005290
【氏名又は名称】古河電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】上村 和孝
(72)【発明者】
【氏名】山村 隆介
【審査官】右田 昌士
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-058504(JP,A)
【文献】実開平04-111296(JP,U)
【文献】特開2008-172867(JP,A)
【文献】特開昭62-173936(JP,A)
【文献】特開平02-214500(JP,A)
【文献】特開2012-079966(JP,A)
【文献】特開2017-054931(JP,A)
【文献】特開2006-085754(JP,A)
【文献】特開2000-358363(JP,A)
【文献】国際公開第2014/028951(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01S 5/00 - 5/50
H01S 3/00 - 3/30
H01L 33/00 - 33/64
H02M 3/00 - 3/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
発光素子と、
前記発光素子に電流を供給する直流電源と、
印加される制御電圧に応じて前記発光素子に流れる電流を制御するトランジスタと、
前記トランジスタに印加する前記制御電圧を設定する制御部と、
を備え、
前記制御部は、
設定された電流値の電流が前記発光素子に流れるように前記制御電圧を
設定し、
前記トランジスタの温度が所定の値以下となる様に、前記設定された電流値が第1電流値以上または前記第1電流値よりも小さい第2電流値以下の場合は、前記制御電圧を直流電圧に設定し、前記設定された電流値が前記第1電流値より小さく前記第2電流値より大きい場合は、前記制御電圧をパルス幅変調電
圧に設定することを特徴とする発光装置。
【請求項2】
発光素子と、
前記発光素子に電流を供給する直流電源と、
印加される制御電圧に応じて前記発光素子に流れる電流を制御するトランジスタと、
前記トランジスタに印加する前記制御電圧を設定する制御部と、
を備え、
前記制御部は、
設定された電流値の電流が前記発光素子に流れるように前記制御電圧を設定し、前記トランジスタの温度が所定の値以下となる様に、前記設定された電流値が第1電流値以上の場合は、前記制御電圧を直流電圧に設定し、前記設定された電流値が前記第1電流値より小さい場合は、前記制御電圧をパルス幅変調電圧に設定することを特徴とす
る発光装置。
【請求項3】
前記トランジスタのジャンクション温度を検出する温度センサを備え、
前記制御部は、前記制御電圧をパルス幅変調電圧に設定している状態において、前記
温度センサが検出した温度が第1温度より高い場合は、当該状態よりも前記パルス幅変調電圧の波高が高く、かつDutyが低くなるように前記制御電圧を変更する、
ことを特徴とする請求項1
または2に記載の発光装置。
【請求項4】
前記トランジスタのジャンクション温度を検出する温度センサを備え、
前記制御部は、前記制御電圧を直流電圧に設定している状態において、前記
温度センサが検出した温度が第1温度より高い場合は、前記制御電圧の設定をパルス幅変調電圧に切り換える
ことを特徴とする請求項
1または2に記載の発光装置。
【請求項5】
少なくとも2つ前記トランジスタを備え、前記制御部は、前記2つのトランジスタに印加する前記制御電圧を、互いに位相が逆のパルス幅変調された制御電圧に設定することを特徴とする請求項1~
4のいずれか一つに記載の発光装置。
【請求項6】
請求項1~
5のいずれか一つに記載の発光装置を備え、前記発光素子は光増幅ファイバの励起光源であることを特徴とするファイバレーザ装置。
【請求項7】
請求項1~
5のいずれか一つに記載された複数の発光装置と、
前記複数の発光装置の制御部のそれぞれに、前記制御電圧に関する指示信号を出力する統合制御部と、
を備え、
前記統合制御部は、前
記発光装置に対する光出力の要求値に応じて、前記制御部のそれぞれに、所定の条件にしたがった前記指示信号を出力することを特徴とする統合発光装置。
【請求項8】
前記所定の条件は、前記制御電圧がパルス幅変調電圧に設定される前記発光装置の数が前記発光装置の全数よりも少なくなる条件であることを特徴とする請求項
7に記載の統合発光装置。
【請求項9】
前記所定の条件は、前記制御電圧がゼロより大きい値に設定される前記発光装置における光変換効率の平均値が、前記発光装置の全部における光変換効率の平均値よりも高くなる条件であることを特徴とする請求項
7に記載の統合発光装置。
【請求項10】
前記複数の発光装置が出力した光が入力される光増幅ファイバを有することを特徴とする請求項
7~
9のいずれか一つに記載の統合発光装置。
【請求項11】
トランジスタに印加する制御電圧を設定する設定工程と、
前記制御電圧に応じ
て発光素子に流れる電流を制御する制御工程と、
を含み、前記設定工程は、
設定された電流値の電流が前記発光素子に流れるように前記制御電圧を
設定し、
前記トランジスタの温度が所定の値以下となる様に、前記設定された電流値が第1電流値以上または前記第1電流値よりも小さい第2電流値以下の場合は、前記制御電圧を直流電圧に設定し、前記設定された電流値が前記第1電流値より小さく前記第2電流値より大きい場合は、前記制御電圧をパルス幅変調電
圧に設定することを特徴とする発光素子の制御方法。
【請求項12】
トランジスタに印加する制御電圧を設定する設定工程と、
前記制御電圧に応じて発光素子に流れる電流を制御する制御工程と、
を含み、前記設定工程は、設定された電流値の電流が前記発光素子に流れるように前記制御電圧を設定し、前記トランジスタの温度が所定の値以下となる様に、前記設定された電流値が第1電流値以上の場合は、前記制御電圧を直流電圧に設定し、前記設定された電流値が前記第1電流値より小さい場合は、前記制御電圧をパルス幅変調電圧に設定することを特徴とする発光素子の制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発光装置、ファイバレーザ装置、統合発光装置、および発光素子の制御方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、発光素子として半導体レーザダイオードを備えた発光装置が開示されている(特許文献1参照)。この発光装置は、ファイバレーザ装置において励起光源として使用されている。発光素子に流す駆動電流は、スイッチング素子を制御することによって変更されている。スイッチング素子の制御としてはパルス幅変調(PWM)制御が用いられている。スイッチング素子はトランジスタでもよい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
トランジスタを本来の使われ方であるスイッチング動作、例えばPWM制御すると、トランジスタを流れる電流がパルス状になるので、トランジスタにおける電力損失が、DC電流のみで制御する場合よりも減り、トランジスタの発熱が抑制される場合がある。このパルス状電流は平滑回路を流れ、ある程度平滑化されて発光素子に供給される。しかしながら、PWM制御によりトランジスタを流れる電流は電流値の時間変化が急峻であるので、誘導起電圧が発生する。特に、電流値が大きい場合は発生する誘導起電圧が高くなり、トランジスタを劣化させるなどの悪影響を与える場合がある。
【0005】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、トランジスタの温度を許容程度に抑制するとともに、高い誘導起電圧の発生を抑制することができる発光装置、ファイバレーザ装置、統合発光装置、および発光素子の制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明の一態様に係る発光装置は、発光素子と、前記発光素子に電流を供給する直流電源と、印加される制御電圧に応じて前記発光素子に流れる電流を制御するトランジスタと、前記トランジスタに印加する前記制御電圧を設定する制御部と、を備え、前記制御部は、前記トランジスタの温度指標情報に基づいて、前記制御電圧を、パルス幅変調電圧または直流電圧に設定することを特徴とする。
【0007】
本発明の一態様に係る発光装置は、前記制御部は、設定された電流値の電流が前記発光素子に流れるように前記制御電圧を設定し、前記温度指標情報は、前記設定された電流値を含むことを特徴とする。
【0008】
本発明の一態様に係る発光装置は、前記制御部は、前記トランジスタの温度が所定の値以下となる様に、前記設定された電流値が第1電流値以上または前記第1電流値よりも小さい第2電流値以下の場合は、前記制御電圧を直流電圧に設定し、前記設定された電流値が前記第1電流値より小さく前記第2電流値より大きい場合は、前記制御電圧をパルス幅変調電圧に設定することを特徴とする。
【0009】
本発明の一態様に係る発光装置は、前記制御部は、前記トランジスタの温度が所定の値以下となる様に、前記設定された電流値が第1電流値以上の場合は、前記制御電圧を直流電圧に設定し、前記設定された電流値が前記第1電流値より小さい場合は、前記制御電圧をパルス幅変調電圧に設定することを特徴とする。
【0010】
本発明の一態様に係る発光装置は、前記トランジスタのジャンクション温度を検出する温度センサを備え、前記温度指標情報は、前記温度センサが検出した温度を含むことを特徴とする。
【0011】
本発明の一態様に係る発光装置は、前記制御部は、前記制御電圧をパルス幅変調電圧に設定している状態において、前記検出した温度が第1温度より高い場合は、当該状態よりも前記パルス幅変調電圧の波高値を現在値が高く、かつDutyが低くなるように前記制御電圧を変更する、ことを特徴とする。
【0012】
本発明の一態様に係る発光装置は、前記トランジスタのジャンクション温度を検出する温度センサを備え、前記温度指標情報は、前記温度センサが検出した温度を含み、前記制御部は、前記制御電圧を直流電圧に設定している状態において、前記検出した温度が第1温度より高い場合は、前記制御電圧の設定をパルス幅変調電圧に切り換えることを特徴とする。
【0013】
本発明の一態様に係る発光装置は、少なくとも2つ前記トランジスタを備え、前記制御部は、前記2つのトランジスタに印加する前記制御電圧を、互いに位相が逆のパルス幅変調された制御電圧に設定することを特徴とする。
【0014】
本発明の一態様に係るファイバレーザ装置は、前記発光装置を備え、前記複数の発光素子は光増幅ファイバの励起光源であることを特徴とする。
【0015】
本発明の一態様に係る統合発光装置は、複数の前記発光装置と、前記複数の発光装置の制御部のそれぞれに、前記制御電圧に関する指示信号を出力する統合制御部と、を備え、前記統合制御部は、前記統合発光装置に対する光出力の要求値に応じて、前記制御部のそれぞれに、所定の条件にしたがった前記指示信号を出力することを特徴とする。
【0016】
本発明の一態様に係る統合発光装置は、前記所定の条件は、前記制御電圧がパルス幅変調電圧に設定される前記発光装置の数が前記発光装置の全数よりも少なくなる条件であることを特徴とする。
【0017】
本発明の一態様に係る統合発光装置は、前記所定の条件は、前記制御電圧がゼロより大きい値に設定される前記発光装置における光変換効率の平均値が、前記発光装置の全部における光変換効率の平均値よりも高くなる条件であることを特徴とする。
【0018】
本発明の一態様に係る統合発光装置は、前記複数の発光装置が出力した光が入力される光増幅ファイバを有することを特徴とする。
【0019】
本発明の一態様に係る発光素子の制御方法は、トランジスタに印加する制御電圧を設定する設定工程と、前記制御電圧に応じて前記発光素子に流れる電流を制御する制御工程と、を含み、前記設定工程は、前記トランジスタの温度指標情報に基づいて、前記制御電圧を、パルス幅変調電圧または直流電圧に設定することを特徴とする。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、トランジスタの温度を許容程度に抑制するとともに、高い誘導起電圧の発生を抑制することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】
図1は、実施形態1に係る発光装置の模式的な構成図である。
【
図2】
図2は、トランジスタに流れる電流とジャンクション温度との関係の一例を示す図である。
【
図3】
図3は、制御電圧の設定について説明する図である。
【
図4】
図4は、トランジスタおよび発光部に流れる電流を説明する図である。
【
図5】
図5は、実施形態1におけるジャンクション温度の一例を示す図である。
【
図7】
図7は、比較形態に係る発光装置の特性の一例を示す図である。
【
図8】
図8は、実施形態1に係る発光装置の特性の一例を示す図である。
【
図9】
図9は、実施形態1に係る発光装置の特性の別の一例を示す図である。
【
図10】
図10は、実施形態2に係る発光装置の模式的な構成図である。
【
図12】
図12は、実施形態3に係る発光装置の模式的な構成図である。
【
図13】
図13は、実施形態4に係るファイバレーザ装置の模式的な構成図である。
【
図14】
図14は、実施形態5に係る、統合発光装置の一例であるファイバレーザ設備の模式的な構成図である。
【
図15】
図15は、LDの駆動電流と光出力および光変換効率との関係の一例を示す図である。
【
図16】
図16は、第1発光装置における第1電流値と第2発光装置における第2電流値との組み合わせに対する、第1発光装置および第2発光装置における光変換効率の平均値のマップを示す図である。
【
図17】
図17は、設定電流値の出力のための制御フローの一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下に、図面を参照して本発明の実施形態を詳細に説明する。なお、この実施形態によりこの発明が限定されるものではない。また、各図面において、同一又は対応する要素には適宜同一の符号を付し、重複説明を省略する。
【0023】
(実施形態1)
図1は、実施形態1に係る発光装置の模式的な構成図である。
図1(a)に示すように、発光装置10は、発光部1と、直流電源2と、トランジスタ3と、PWM信号発生器4と、制御部5と、電流センサ6と、コンデンサ7a、7dと、ダイオード7bと、コイル7cと、を備えている。
【0024】
発光部1は、1以上の発光素子を含んでおり、本実施形態では4つの発光素子が直列接続されて構成されている。発光素子は特に限定されないが、本実施形態では発光素子はLDであるとする。
【0025】
直流電源2は、発光部1の各発光素子に電流を供給するように接続された公知の直流電源である。
【0026】
トランジスタ3は、電界効果トランジスタ(FET)であり、本実施形態ではNMOS型のFETである。トランジスタ3は、直流電源2と発光部1との間に設けられており、発光部1と直列接続している。トランジスタ3は、ゲートに印加される制御電圧に応じてドレイン-ソース電流が変化する。これにより、トランジスタ3は、印加される制御電圧に応じて、発光部1に流れる電流を制御する制御工程を実行することができる。
【0027】
PWM信号発生器4は、トランジスタ3に制御電圧を印加する制御電圧信号Sgとして、パルス幅変調電圧である制御電圧信号(PWM制御電圧信号)または直流電圧である制御電圧信号(DC制御電圧信号)をトランジスタ3のゲートに出力するように構成されている。
【0028】
制御部5は、演算部と、記憶部とを備えている。演算部は、制御部5が実行する制御のための各種演算処理を行うものであり、たとえばCPU(Central Processing Unit)で構成される。記憶部は、演算部が演算処理を行うために使用する各種プログラムやデータ等が格納される、たとえばROM(Read Only Memory)で構成される部分と、演算部が演算処理を行う際の作業スペースや演算部の演算処理の結果等を記憶する等のために使用される、たとえばRAM(Random Access Memory)で構成される部分とを備えている。制御部5の制御機能は、演算部と記憶部の機能によりソフトウェア的に実現される。また、制御部5は適宜デジタル-アナログコンバータ(DAC)やアナログ-デジタルコンバータ(ADC)を備えていてもよい。
【0029】
制御部5は、PWM信号発生器4に制御信号SV、Sf、SDを出力し、PWM信号発生器4が出力する制御電圧信号Sgの特性を設定する設定工程を行う。
【0030】
制御電圧信号SgがPWM電圧信号である場合を
図1(b)に示す。Vは電圧の波高値である。tはパルス電圧のパルス幅である。Tはパルス電圧の繰り返し周期であり、fは繰り返し周波数である。PWM信号のDutyはt/Tで定義される。なお、t=Tの場合は、Dutyが100%となり、DC信号となる。制御部5がPWM信号発生器4に出力する制御信号SV、Sf、SDは、それぞれ波高値、繰り返し周期、Dutyを設定する信号である。PWM信号発生器4は、制御信号SV、Sf、SDに基づいて設定された波高値、繰り返し周期、Dutyの制御電圧信号Sgを出力する。制御信号SV、Sf、SDと、それによってトランジスタ3に流れる電流との関係は制御部5の記憶部に記憶されている。
【0031】
電流センサ6は、発光部1のカソード側に直列接続されている。電流センサ6は、センス抵抗を備えており、センス抵抗による電圧降下量をモニタ信号Smとして制御部5に出力する。制御部5は、入力されたモニタ信号Smに基づいて発光部1に流れる電流の電流値を検知する。制御部5は、検知される電流値が一定になるようにPWM信号発生器4に出力する制御信号SV、Sf、SDを制御するフィードバック制御を行う。
【0032】
コンデンサ7a、7dおよびダイオード7bは、発光部1と並列接続されており、コイル7cは、発光部1と直列接続されている。コンデンサ7a、7dおよびコイル7cは平滑回路を構成する。ダイオード7bはコイル7cに対する環流ダイオードとして機能する。
【0033】
(トランジスタの発熱について)
発光部1のLDは近年高出力化しており、これに伴い供給すべき電流が大きくなってきている。供給すべき電流が大きくなるにつれてトランジスタ3の発熱量も大きくなる。
【0034】
発光装置10において、直流電源2が印加する電圧をVpower、発光部1に流れる電流をIとすると、Vpowerは、たとえば、(発光部1の順方向電圧Vf(I))+(トランジスタ3のドレイン-ソース電圧Vds)+(電流センサ6による電圧降下)で表される。電流センサ6が抵抗値Rsのセンス抵抗で構成されている場合、以下の式(1)が成り立つ。
Vds=Vpower-Vf(I)-Rs×I (1)
また、トランジスタ3の消費電力をPとすると、Pは式(2)で表される。
P=I×Vds (2)
すると、トランジスタ3のジャンクション温度Tjは式(3)で表される。なお、Trはトランジスタ3のオン抵抗であり、Thsは、トランジスタ3のジャンクション温度に対するヒートシンクの寄与を表すパラメータである。
Tj=P×Tr+Ths
=I×Vds×Tr+Ths
=I×(Vpower-Vf(I)-Rs×I)×Tr
+Ths (3)
【0035】
また、発光部1おける消費電力Wは、式(4)で表される。このWは総光出力強度に対応する。
W=I×Vf(I) (4)
【0036】
ここで、発光部1に含まれるLDのI-V特性はリニアでは無いため、トランジスタ3におけるドレイン-ソース電圧VdsもIに対してリニアでは無い。その結果、LDのI-L特性やVpowerの条件によっては、電流に対してトランジスタ3の負荷が極大値を持つ場合がある。この場合、例えば
図2に示すように、電流Iを横軸としてトランジスタ3のジャンクション温度を縦軸とするグラフにおいて、ジャンクション温度が極大値を持つ。このような場合、Iを例えば0A~15Aの範囲で調整するとき、Iの最大値、すなわち発光部1が最大光出力となるIとトランジスタ3の負荷が最大となるIとがずれることとなる。また、
図2においてTlimはトランジスタ3のジャンクション温度の許容上限温度を示している。ジャンクション温度が極大値のときに許容上限温度を超えてしまうことがある。
【0037】
これに対して、発光装置10では、
図3に示すように、トランジスタ3のジャンクション温度に対してTlim以下の値である閾値Tthが所定の温度として設定されている。そして、Tthになる電流値のうち大きい方を第1電流値であるIHとし、小さい方を第2電流値であるILとして、IH、ILを一点鎖線で示す境界として、電流領域を領域A、B、Cに分割してトランジスタ3の制御を行なう。IH、ILは制御部5の記憶部に記憶されており、適宜呼び出して使用される。
【0038】
具体的には、制御部5は、外部から、発光部1に流すべき電流値の設定信号が入力され、その設定信号による電流値(設定電流値)をトランジスタ3の温度指標情報として、PWM信号発生器4に所定の値の制御信号SV、Sf、SDを出力し、制御電圧信号Sgを、PWM電圧またはDC電圧に設定する。
【0039】
図4(a)は、設定電流値が領域Aにある場合である。この場合、制御電圧信号SgはDC電圧とされる。その結果、トランジスタ3および発光部1に流れる電流は、実線で示すように設定電流値に相当する値のDC電流となるが、IL以下なのでジャンクション温度はTth以下となる。
【0040】
図4(b)は、設定電流値が領域Bにある場合である。この場合、制御電圧信号SgはPWM電圧とされる。その結果、トランジスタ3に流れる電流は、PWM電圧に応じてパルス幅がtaであり、Hi状態とLo状態とを繰り返す矩形パルス状の電流I1aとなる。この場合、発光部1に流れる電流は平滑化されて、設定電流値に相当する値の電流I2aのようになる。この場合、トランジスタ3に流れる電流はIL以下またはIH以上である。その結果、ジャンクション温度はTth以下となる。
【0041】
なお、
図4(b)に示すように、繰り返し周期を維持したままPWM電圧のパルス幅を広げると、トランジスタ3に流れる電流は、PWM電圧に応じてパルス幅がtaより大きいtbである矩形パルス状の電流I1bとなる。この場合、発光部1に流れる電流は平滑化されて、設定電流値に相当する値であり、かつ電流I1aよりも大きい電流I2bのようになる。この場合も、トランジスタ3に流れる電流はIL以下またはIH以上であるので、ジャンクション温度はTth以下となる。
【0042】
図4(c)は、設定電流値が領域Cにある場合である。この場合、制御電圧信号SgはDC電圧とされる。その結果、トランジスタ3および発光部1に流れる電流は、実線で示すように設定電流値に相当する値のDC電流となるが、IH以上なのでジャンクション温度はTth以下となる。
【0043】
その結果、発光装置10では、
図5に示すように、設定電流が領域A、領域Cにある場合、
図3、4と同様にジャンクション温度がTlim以下となる。また、設定電流が領域Bにある場合、発光部1に流れる電流を領域Bの電流値としながらも、トランジスタ3には
図4(b)に示すように、領域A、領域Cの値の電流が流れるようにすることができる。その結果、設定電流が領域Bにある場合でも、矢印で示すようにジャンクション温度をTlim以下とできる。これにより、トランジスタ3の温度をTlim以下に抑制することができる。
【0044】
また、設定電流が領域Cにある場合は電流値が大きいので、トランジスタ3をPWM制御すると高い誘導起電圧が発生する場合があるが、発光装置10ではDC制御するので、高い誘導起電圧の発生を抑制することができる。
【0045】
実施形態1における制御部5の制御例を制御例1として、
図6を参照して説明する。はじめに、制御部5は、設定信号が入力されると、その設定信号による電流値を取得する(ステップS101)。つづいて、制御部5は、取得した電流値を温度指標情報として、当該電流値が領域AまたはCであるかどうかを判定する(ステップS102)。取得した電流値が領域AまたはCである場合(ステップS102、Yes)、制御部5は設定された電流が発光部1に流れるようにDC制御電圧を設定してDC制御を実行し(ステップS103)、制御フローはステップS101に戻る。取得した電流値が領域AまたはCではない、すなわち領域Bの場合(ステップS102、No)、制御部5は設定された電流が発光部1に流れるようにPWM制御電圧を設定してPWM制御を実行し(ステップS104)、制御フローはステップS101に戻る。
【0046】
以上説明したように、実施形態1に係る発光装置10によれば、トランジスタ3の温度を許容程度に抑制するとともに、高い誘導起電圧の発生を抑制することができる。
【0047】
図7は、実施形態1に係る発光装置と同様の構成の比較形態に係る発光装置の特性の一例を示す図である。ただし、比較形態1では、
図7(a)に示すように、トランジスタ3への制御電圧信号は時間が0、t1、t2、t3、t4、t5、t6と経過するにつれてステップ状に増加するように制御しているが、PWM制御ではなくDC制御である。このような制御電圧の場合、発光部1に流れる電流は
図7(b)に示すように制御電圧の形状に応じてステップ状に増加する。その結果、トランジスタ3のジャンクション温度は、
図7(c)に示すように電流の変化に応じて
図2と同様に変化し、Tlimを超える場合がある。
【0048】
これに対して、
図8は、実施形態1に係る発光装置10の特性の一例を示す図である。
図8(a)に示すように、トランジスタ3への制御電圧信号は時間が0~t2、t4~t6では時間が経過するにつれてステップ状に増加するように制御している。一方、制御電圧信号は時間がt2~t3ではPWM制御電圧、t3~t4ではt2~t3のときと繰り返し周期およびDutyが同じで波高値が高いPWM制御信号であるように制御している。このような制御電圧の場合、発光部1に流れる電流は
図8(b)に示すように制御電圧の形状に応じてステップ状に増加するが、t2~t3、t3~t4ではPWM制御のためリップル状の電流となる。ここで、t2~t3、t3~t4では電流値はIL以上IH以下である。しかし、
図7(c)の場合とは異なり、トランジスタ3のジャンクション温度は、
図8(c)に示すようにTlimを超えないように変化する。
【0049】
さらに、
図9は、実施形態1に係る発光装置10の特性の別の一例を示す図である。
図9(a)に示すように、トランジスタ3への制御電圧信号は時間が0~t2、t4~t6では時間が経過するにつれてステップ状に増加するように制御している。一方、制御電圧信号は時間がt2~t3ではPWM制御電圧、t3~t4ではt2~t3のときと波高値が同じで繰り返し周期が短いPWM制御信号であるように制御している。このような制御電圧の場合、発光部1に流れる電流は
図9(b)に示すように制御電圧の形状に応じてステップ状に増加するが、t2~t3、t3~t4ではPWM制御のためリップル状の電流となる。ここで、t2~t3、t3~t4では電流値はIL以上IH以下である。この例でも、
図8(c)の場合と同様に、トランジスタ3のジャンクション温度は、
図9(c)に示すようにTlimを超えないように変化する。
【0050】
(実施形態2)
図10は、実施形態2に係る発光装置の模式的な構成図である。発光装置10Aは、
図1に示す発光装置10に温度センサ8を追加した構成を有する。
【0051】
温度センサ8は、たとえばサーミスタを備えており、温度に応じた電流をモニタ信号Smtとして制御部5に出力する。制御部5は、入力されたモニタ信号Smtに基づいてトランジスタ3のジャンクション温度を検知する。
【0052】
発光装置10Aでも、IH、ILを境界として、電流領域を領域A、B、Cに分割してトランジスタ3の制御を行なう。発光装置10Aでは、さらに、温度センサ8が検出した温度も制御に用いられる。
【0053】
制御部5は、設定電流値をトランジスタ3の温度指標情報に含まれる情報の一つとして、PWM信号発生器4に所定の値の制御信号SV、Sf、SDを出力し、制御電圧信号Sgを、PWM電圧またはDC電圧に設定する。さらに、制御部5は、温度センサ8が検出した温度を制御に用いる。
【0054】
たとえば、トランジスタ3は、個体差、経年劣化、周囲温度などの影響により、
図2に示すような流れる電流に対すジャンクション温度の特性曲線が異なったり変動したりする場合がある。そこで、発光装置10Aでは、温度センサ8が検出した温度も制御に用いることで、ジャンクション温度の特性曲線についての個体差による相違や経年劣化、周囲温度などによる変動が大きくても、トランジスタ3のジャンクション温度を許容程度に抑制することができる。
【0055】
温度センサ8が検出した温度を用いた制御は様々な態様にて行うことができる。
【0056】
たとえば、制御部5は、設定された電流値が領域Bであり、制御電圧をPWM電圧に設定している状態において、検出した温度が第1温度より高い場合は、PWM電圧の波高値が当該状態よりも高く、かつDutyが当該状態よりも低くなるように制御電圧を変更してもよい。第1温度はたとえばTlimである。検出した温度がTlimより高い場合はトランジスタ3のジャンクション温度を低下させる必要がある。そこで、波高値を現在値よりも高くすることで、PWM制御のHi状態では電流値を領域Cにおける領域Bからより離れた電流値とでき、かつPWM制御のLo状態では電流値を領域Aにおける領域Bからより離れた電流値とできる。さらに、波高値を高くすると発光部1に流れる電流が増加するので、Dutyを低く変更する。これによって発光部1に流れる電流の電流値を維持しながらトランジスタ3のジャンクション温度を低下させることができる。
【0057】
また、制御部5は、設定された電流値が領域AまたはCであり、制御電圧をDC電圧に設定している状態において、検出した温度が第1温度より高い場合は、制御電圧の設定をPWM電圧に切り換えてもよい。第1温度はたとえばTlimである。検出した温度がTlimより高い場合はトランジスタ3のジャンクション温度を低下させる必要がある。そこで、制御電圧の設定をPWM電圧に切り換えることによって、トランジスタ3のジャンクション温度を低下させることができる。この場合、当初は領域AまたはCに設定されていたが検出した温度が第1温度以上になるような設定電流値を領域Bに変更してもよい。このような変更は、制御部5の記憶部に記憶されているIHやILの値を更新することで実施できる。
【0058】
実施形態2における制御部5の制御例を制御例2として、
図11を参照して説明する。はじめに、制御部5は、設定信号が入力されると、その設定信号による電流値を取得する(ステップS201)。つづいて、制御部5は、取得した電流値を温度指標情報として、当該電流値が領域AまたはCであるかどうかを判定する(ステップS202)。取得した電流値が領域AまたはCである場合(ステップS202、Yes)、制御フローはステップS203に進む。ステップS203において、制御部5は、検出された温度が所定値(第1温度)以下であるかを判定する。所定値以下である場合(ステップS203、Yes)、制御部5は、設定された電流が発光部1に流れるようにDC制御電圧を設定してDC制御を実行し(ステップS204)、制御フローはステップS201に戻る。一方、取得した電流値が領域AまたはCではないすなわち領域Bの場合(ステップS202、No)および、検出された温度が所定値より高い場合(ステップS203、No)、制御部5は設定された電流が発光部1に流れるようにPWM制御電圧を設定してPWM制御を実行し(ステップS205)、制御フローはステップS201に戻る。
【0059】
以上説明したように、実施形態2に係る発光装置10によれば、トランジスタ3の温度を許容程度に抑制するとともに、高い誘導起電圧の発生を抑制することができる。さらに、トランジスタ3の個体差による相違や経年劣化、周囲温度などによる変動が大きくても、トランジスタ3のジャンクション温度を許容程度に抑制することができる。
【0060】
(実施形態3)
図12は、実施形態3に係る発光装置の模式的な構成図である。
図12(a)に示すように、発光装置10Bは、
図1に示す発光装置10にトランジスタ3B、ダイオード7Bbと、コイル7Bc、コンデンサ7Bdとを追加し、PWM信号発生器4をPWM信号発生器4Bに置き換えた構成を有する。
【0061】
トランジスタ3Bは、直流電源2と発光部1との間に設けられており、発光部1と直列接続している。また、トランジスタ3Bは、トランジスタ3と並列に接続されている。ダイオード7Bbは、発光部1と並列接続されている。また、ダイオード7Bbは、ダイオード7bと並列接続されている。コイル7Bcは、発光部1と直列接続されている。また、コイル7Bcは、コイル7cと並列接続されている。コンデンサ7Bdは、コンデンサ7dと並列接続されている。コイル7Bcは平滑回路を構成する。ダイオード7Bbはコイル7Bcに対する環流ダイオードとして機能する。
【0062】
PWM信号発生器4Bは、2つのトランジスタ3、3Bに印加する制御電圧を、
図12(b)に示すように互いに位相が逆のPWM制御電圧に設定する。その結果、PWM制御によって電流に発生するリップルが打ち消しあい、発光部1に流れる電流のリップルを
図13(b)に示すように抑制することができる。
【0063】
(実施形態4)
図13は、実施形態4に係るファイバレーザ装置の模式図である。ファイバレーザ装置1000は、レーザ加工用のファイバレーザ装置として構成されており、複数のファイバレーザ装置100と、光合波カプラ1001と、加工ヘッド1002とを備えている。
【0064】
ファイバレーザ装置100は、発光装置10と、光合波器であるTFB(Tapered Fiber Bundle)20と、ファイバブラッググレーティング(FBG)30と、光増幅ファイバ40と、FBG50と、TFB60とを備えている。
【0065】
発光装置10の発光部1は光増幅ファイバ40に対する励起光源であり、励起光を出力する。励起光の波長は例えば915nmである。励起光の強度は外部から入力された設定信号に基づく設定電流値に応じた値である。
【0066】
TFB20は、発光部1が出力する励起光を合波して出力する。FBG30は励起光を透過する。光増幅ファイバ40は、励起光の波長で光励起される光増幅媒体(たとえばイッテルビウムイオン)を含んでおり、FBG30を透過した励起光によって光励起され、蛍光を発する。蛍光のうち所定の波長の成分は、FBG30とFBG50とで構成される光共振器と光増幅ファイバ40との作用によってレーザ発振し、レーザ光(例えば、1.1μm波長帯のレーザ光)としてFBG50から出力される。光合波カプラ1001は、各ファイバレーザ装置100から出力されたレーザ光を合波し、デリバリファイバを介して加工ヘッド1002に出力する。加工ヘッド1002は合波されたレーザ光を加工対象に照射する。これによってレーザ加工が実行される。
【0067】
ファイバレーザ装置1000では、発光装置10のトランジスタ3の温度を許容程度に抑制するとともに、高い誘導起電圧の発生を抑制することができる。その結果、ファイバレーザ装置1000の信頼性が高くなる。
【0068】
(実施形態5)
図14は、実施形態5に係る、統合発光装置の一例であるファイバレーザ設備の模式図である。ファイバレーザ設備1000Aは、
図14に示すファイバレーザ装置1000の構成に統合制御部1010を追加した構成を備える。
【0069】
統合制御部1010は、各ファイバレーザ装置100に設定信号を出力する。設定信号は設定電流値の情報を含む信号である。設定信号は制御電圧に関する指示信号の一例である。
【0070】
統合制御部1010は、演算部1011と、記憶部1012と、入出力部1013とを備えている。演算部1011は、統合制御部1010が実行する制御のための各種演算処理を行うものであり、たとえばCPU(Central Processing Unit)で構成される。記憶部1012は、演算部1011が演算処理を行うために使用する各種プログラムやデータ等が格納される、たとえばROM(Read Only Memory)で構成される部分と、演算部が演算処理を行う際の作業スペースや演算部の演算処理の結果等を記憶する等のために使用される、たとえばRAM(Random Access Memory)で構成される部分とを備えている。統合制御部1010の制御機能は、演算部1011と記憶部1012との機能によりソフトウェア的に実現される。入出力部1013は各ファイバレーザ装置100への設定信号の出力や上位装置からの指示信号の入力の受付などを行うインターフェイス部である。なお、統合制御部1010は適宜DACやADCを備えていてもよい。なお、入出力部1013はマウスやキーボード等の操作機器と液晶ディスプレイ等の表示部とを備えていてもよい。
【0071】
統合制御部1010は、上位装置からの指示信号や操作機器からの入力操作などにより、ファイバレーザ設備1000Aに対する光出力の要求値が入力される。光出力の要求値とは、たとえば加工ヘッド1002から出力されるレーザ光のパワーに対する要求値である。
【0072】
統合制御部1010は、光出力の要求値に応じて、光出力の要求値が実現されるように、各ファイバレーザ装置100の制御部5のそれぞれに指示信号を出力する。すなわち、統合制御部1010は、要求値が実現されるために各ファイバレーザ装置100の発光部1に流すことが必要な設定電流値を実現するための指示信号を出力する。
【0073】
指示信号(設定電流値)は様々な所定の条件にしたがって決定することができる。たとえば、発光部1の光変換効率に関連する条件にしたがって決定することができる。光変換効率とは、発光部1に与えられ電力に対する、光に変換された電力の比である。
【0074】
図15は、LDに流れる電流である駆動電流と、LDの光出力および光変換効率との関係の一例を示す図である。曲線P、Q、Rは、夫々異なるLDについての光出力および光変換効率との関係を示す。LDは、駆動電流が増大するにしたがって光出力も増大するが、光変換効率についてはある駆動電流にて極大値をとるように変化する。
図15では、たとえば光変換効率が0.45であれば光変換効率が高いと考えられる。なお、曲線P,Q,Rで示される通り、LDの特性のばらつきによって、
図15に示す、駆動電流に対するLDの光出力および光変換効率を示す曲線の形状は、LD毎に異なり、したがって発光装置10毎で異なる。
【0075】
統合制御部1010は、たとえば光出力の要求値を実現するために、各発光装置10に対して等しい設定電流値を設定することもできるが、たとえば以下に説明するように、光変換効率が高くなるように決定してもよい。以下の説明では、簡単のために、ファイバレーザ装置100が2つである場合について説明する。2つのファイバレーザ装置100の発光装置をそれぞれ第1発光装置、第2発光装置と記載する。
【0076】
図16は、第1発光装置における設定電流値(第1電流値)と第2発光装置における設定電流値(第2電流値)との組み合わせに対する、第1発光装置および第2発光装置における光変換効率の平均値のマップを示す図である。図中、斜線を付した領域が、光変換効率の平均値が0.45以上の領域である。破線L1は第1発光装置および第2発光装置に対して等しい設定電流値を設定する場合である。一方、破線L2は、第1発光装置および第2発光装置が略等しい光出力となる設定電流値を設定する場合である。第1発光装置および第2発光装置に対して設定電流値を設定する場合には、たとえば、破線L2上で光変換効率の平均値が0.45以上となる条件にしたがうように、それぞれ異なる設定電流値を設定してもよい。または、破線L2上で光変換効率の平均値が最大となる条件にしたがうように、それぞれ異なる設定電流値を設定してもよい。また、
図16において、領域YX(Y,X=A,B,C)は、第1発光装置における設定電流値(第1電流値)と第2発光装置における設定電流値(第2電流値)が特定の値に各々設定された場合の発光装置の制御方法を示している。たとえば、X=A、Y=Aの領域は領域AAである。X=AまたはCの領域の場合、第1発光装置はDC制御により発光し、X=Bの領域の場合、第1発光装置はPWM制御により発光する。同様に、Y=AまたはCの領域の場合、第2発光装置はDC制御により発光し、Y=Bの領域の場合、第2発光装置はPWM制御により発光する。
【0077】
統合制御部1010は、制御電圧がパルス幅変調電圧に設定される、すなわち
図3における領域Bに設定電流値が設定される発光装置10の数が、発光装置10の全数よりも少なくなる条件で、設定電流値を設定することができる(第1条件)。複数の発光装置10により所定の光出力の要求値を実現する場合、発光装置10に流れる電流リップルを抑制する観点では、PWM制御を実施する発光装置10の数がより少ないほうが好ましい。なお、領域Bに設定電流値が設定される発光装置10の数が、発光装置10の全数の1/2よりも少なくなる条件とすることがより好ましく、発光装置10の全数の1/3よりも少なくなる条件とすることがより好ましい。
【0078】
図17は、統合制御部1010における設定電流値の出力のための制御フローの一例を示す図である。はじめに、ステップS301において、統合制御部1010は、たとえば上位の装置から、光出力の要求値を取得する。
【0079】
つづいて、ステップS302において、統合制御部1010は、領域Bに対応する設定電流値の発光装置10の数が少ない組み合わせを算出する。この算出は、たとえば、記憶部1012に格納されたデータテーブルを利用して行われる。このデータテーブルは、各発光装置10に含まれるLDについての、駆動電流に対する光変換効率や光出力や発熱量のデータを含む。演算部1011は記憶部1012に格納されたデータテーブルから必要なデータを読み出して演算を行う。
【0080】
この演算は、たとえば以下のように行われる。発光装置10がN個(Nは1より大きい整数。)ある場合、まず、光出力の要求値を実現しつつ全ての設定電流値を領域Bに対応しない設定電流値の組み合わせ(組み合わせ1)が存在するかを演算する。組み合わせ1が存在することが確認されたら演算は終了する。組み合わせ1が存在しないことが確認されたら、つぎに、光出力の要求値を実現しつつ1つの設定電流値のみを領域Bに対応する設定電流値とする組み合わせ(組み合わせ2)が存在するかを演算する。組み合わせ2が存在することが確認されたら演算は終了する。組み合わせ2が存在しないことが確認されたら、つぎに、光出力の要求値を実現しつつ2つの設定電流値のみを領域Bに対応する設定電流値とする組み合わせ(組み合わせ3)が存在するかを演算する。これを繰り返し、N-1個の発光装置10を領域Bに対応する設定電流値とする組み合わせが存在しないことが確認されたら、N個全ての発光装置10を領域Bに対応する設定電流値に設定する必要があるとして、演算は終了する。このように演算を繰り返すことによって、全ての発光装置10を領域Bに対応する設定電流値設定しなくとも光出力の要求値を実現できる組み合わせが存在する場合には、領域Bに対応する設定電流値の発光装置10の数が少ない組み合わせを算出することができる。
【0081】
つづいて、ステップS303において、統合制御部1010は、各発光装置10に設定電流値に対応する指示信号を出力する。その後フローは終了する。
【0082】
また、所定の条件は、制御電圧がゼロより大きい値に設定される発光装置10における光変換効率の平均値が所定の値、たとえば発光装置10の全部における光変換効率の平均値よりも高くなる条件(第2条件)でもよい。制御電圧がゼロより大きい値に設定される発光装置10とは、駆動電流を流す発光装置10を意味する。このような条件によって、発光装置10の全部に駆動電流を流すよりも、ファイバレーザ設備1000Aの全体としての光変換効率を高くすることができる。また、第1条件と第2条件とを組み合わせれば、光出力の要求値を実現し、誘導起電圧を抑制しつつ光変換効率を高くすることができる。より具体的にはたとえば、
図17に示す制御フローにおいて、ステップS302の前段、またはステップS302およびS303の間において、制御電圧がゼロより大きい値に設定される発光装置10における光変換効率の平均値が所定の値以上となる条件(第2条件の一例、条件A)を取得し、ステップS303において、ステップS302で算出された組み合わせおよび当該条件Aの両方を満たす各発光装置10の設定電流値に対応する指示信号を出力するようにしてもよい。このような場合、例えば夫々の光出力の要求値に対応付けて、条件Aを満たす設定電流値の組み合わせを記憶部1012に夫々記憶しておき、必要に応じて参照するようにしてもよい。
【0083】
その他の所定の条件としては、たとえば、発光装置10のうち、光変換効率の高い順に、その発光装置10で光変換効率が所定値以上または最大値になる設定電流値を順次設定してもよい。この場合も、光出力の要求値を実現しつつファイバレーザ設備1000Aの全体としての光変換効率を高くすることができる。
【0084】
なお、上記実施形態では、設定された電流値がIH以上またはIL以下の場合、すなわち領域Aまたは領域Cの場合は、制御電圧をDC電圧に設定し、設定された電流値がIHより小さくILより大きい領域Bの場合は、制御電圧をPWM電圧に設定している。しかし、設定された電流値がIH以上の領域Cの場合は、制御電圧をDC電圧に設定し、設定された電流値がIHより小さい領域AまたはBの場合は、制御電圧をPWM電圧に設定してもよい。このような制御を行ってもトランジスタの温度を許容程度に抑制するとともに、高い誘導起電圧の発生を抑制することができる。
【0085】
また、上記実施形態により本発明が限定されるものではない。上述した各構成要素を適宜組み合わせて構成したものも本発明に含まれる。たとえば、実施形態3に係る発光装置10Bに、実施形態2に係る発光装置10Aと同様に温度センサ8を追加して、たとえば
図11に示すような制御を行ってもよい。また、さらなる効果や変形例は、当業者によって容易に導き出すことができる。よって、本発明のより広範な態様は、上記の実施形態に限定されるものではなく、様々な変更が可能である。
【符号の説明】
【0086】
1 発光部
2 直流電源
3、3B トランジスタ
4、4B PWM信号発生器
5 制御部
6 電流センサ
7a コンデンサ
7b、7Bb ダイオード
7c、7Bc コイル
8 温度センサ
10、10A、10B 発光装置
20、60 TFB
30、50 FBG
40 光増幅ファイバ
100 ファイバレーザ装置
1000 ファイバレーザ
1001 光合波カプラ
1002 加工ヘッド
A、B、C 領域
I1a、I2a、I2b 電流
SD、SV、Sf 制御信号
Sg 制御電圧信号
Sm、Smt モニタ信号