(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-20
(45)【発行日】2023-10-30
(54)【発明の名称】充電可能電池異常検出装置および充電可能電池異常検出方法
(51)【国際特許分類】
H01M 10/48 20060101AFI20231023BHJP
H02J 7/00 20060101ALI20231023BHJP
G01R 31/396 20190101ALI20231023BHJP
G01R 31/389 20190101ALI20231023BHJP
G01R 31/3835 20190101ALI20231023BHJP
【FI】
H01M10/48 P
H02J7/00 Y
G01R31/396
G01R31/389
G01R31/3835
(21)【出願番号】P 2022168294
(22)【出願日】2022-10-20
(62)【分割の表示】P 2019562091の分割
【原出願日】2018-12-26
【審査請求日】2022-11-07
(31)【優先権主張番号】P 2017250448
(32)【優先日】2017-12-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005290
【氏名又は名称】古河電気工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】391045897
【氏名又は名称】古河AS株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114292
【氏名又は名称】来間 清志
(74)【代理人】
【識別番号】100145713
【氏名又は名称】加藤 竜太
(72)【発明者】
【氏名】大野 丹
(72)【発明者】
【氏名】藤澤 季実子
【審査官】清水 祐樹
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-096752(JP,A)
【文献】特開平09-134741(JP,A)
【文献】特開2016-125932(JP,A)
【文献】特開2003-204627(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/42 - 10/48
H02J 7/00 - 7/12
H02J 7/34 - 7/36
B60L 1/00 - 3/12
B60L 7/00 - 13/00
B60L 15/00 - 58/40
G01R 31/36 - 31/396
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
充電可能電池の異常を検出する充電可能電池異常検出装置において、
前記充電可能電池の内部抵抗の値を算出する算出手段と、
その時点における前記充電可能電池の充電率SOCと、前記充電可能電池の基準充電率SOC0を比較することで、前記充電可能電池が充電中または放電中であることを判定する判定手段と、
前記判定手段によって前記充電可能電池が充電中と判定された場合に、前記算出手段によって算出された前記内部抵抗の値が増加しているときには、前記充電可能電池に異常が発生していると判断し、前記判定手段によって前記充電可能電池が放電中と判定された場合に、前記算出手段によって算出された前記内部抵抗の値が減少しているときには、前記充電可能電池に異常が発生していると判断する判断手段と、
前記判断手段による判断結果を提示する提示手段と、
を有することを特徴とする充電可能電池異常検出装置。
【請求項2】
前記判断手段は、前記判定手段によって前記充電可能電池が充電中と判定された場合に、前記内部抵抗の値が増加しているときには、前記充電可能電池が短絡していると判断することを特徴とする請求項1に記載の充電可能電池異常検出装置。
【請求項3】
前記判断手段は、前記判定手段によって前記充電可能電池が放電中と判定された場合に、前記内部抵抗の値が正常時よりも増加しているときには、前記充電可能電池が異常と判断することを特徴とする請求項1に記載の充電可能電池異常検出装置。
【請求項4】
前記判断手段は、前記判定手段によって前記充電可能電池が放電中と判定された場合に、前記内部抵抗の値が正常時よりも増加しているときであって、増加後に減少に転じる場合は転極と判断し、それ以外の場合は短絡と判断することを特徴とする請求項1に記載の充電可能電池異常検出装置。
【請求項5】
前記判断手段は、その時点における前記内部抵抗の値と、正常時である過去の所定の時点における前記内部抵抗の比または差を求め、当該比または差が所定の閾値を上回る場合には異常と判定することを特徴とする請求項3または4のいずれか1項に記載の充電可能電池異常検出装置。
【請求項6】
前記判断手段は、前記内部抵抗Rの所定の時間あたりの増加分ΔRを、充電率SOCの所定の時間あたりの変化量ΔSOC(<0)で除することで得られる値ΔR/ΔSOCが、正常時である過去の所定の時点における当該値(<0)よりも小さい場合には異常と判定することを特徴とする請求項3または4のいずれか1項に記載の充電可能電池異常検出装置。
【請求項7】
前記算出手段は、所定の時間内における電圧の変動値を、同じく所定の時間内における電流の変動値によって除することで前記内部抵抗の値を求めることを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1項に記載の充電可能電池異常検出装置。
【請求項8】
前記充電可能電池の電圧を検出する電圧検出手段を有し、
前記電圧検出手段によって前記充電可能電池を構成する1のセルに対応する電圧が降下したことを検出した場合には、前記判断手段は、前記充電可能電池に異常が発生していると判断することを特徴とする請求項1乃至7のいずれか1項に記載の充電可能電池異常検出装置。
【請求項9】
前記判断手段は、前記充電可能電池に異常が発生していると判断した時点以降のある時点における前記内部抵抗の値を、異常と判断した時点以降における前記内部抵抗の最大値で除算して得られる値が所定の閾値未満になった場合には異常が解消したと判断することを特徴とする請求項1乃至8のいずれか1項に記載の充電可能電池異常検出装置。
【請求項10】
前記判断手段は、前記充電可能電池に異常が発生していると判断した際の前記内部抵抗の値が増加した後に減少した場合には前記転極が解消したと判断することを特徴とする請求項
4に記載の充電可能電池異常検出装置。
【請求項11】
前記判断手段は、前記充電可能電池に異常が発生していると判断した後に、前記充電可能電池の電圧が所定の閾値以上増加した場合には異常が解消したと判断することを特徴とする請求項1乃至10のいずれか1項に記載の充電可能電池異常検出装置。
【請求項12】
充電可能電池の異常を検出する充電可能電池異常検出方法において、
前記充電可能電池の内部抵抗の値を算出する算出ステップと、
その時点における前記充電可能電池の充電率SOCと、前記充電可能電池の基準充電率SOC0を比較することで、前記充電可能電池が充電中または放電中であることを判定する判定ステップと、
前記判定ステップにおいて前記充電可能電池が充電中と判定された場合に、前記算出ステップにおいて算出された前記内部抵抗の値が増加しているときには、前記充電可能電池に異常が発生していると判断し、前記判定ステップにおいて前記充電可能電池が放電中と判定された場合に、前記算出ステップにおいて算出された前記内部抵抗の値が減少しているときには、前記充電可能電池に異常が発生していると判断する判断ステップと、
前記判断ステップにおける判断結果を提示する提示ステップと、
を有することを特徴とする充電可能電池異常検出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、充電可能電池異常検出装置および充電可能電池異常検出方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
充電可能電池の異常を検出する技術としては、例えば、特許文献1および特許文献2に開示される技術がある。
【0003】
特許文献1には、直列結線リチウム二次電池モジュール内の単電池の転極を事前に予測検知し、警報ランプによって特定すると共に、残された電池でもって継続してモジュールとしての使用を可能とした充電可能に関する技術が開示されている。
【0004】
特許文献2には、完成後の電池を2段階の定電流すなわち第1の放電電流Iaと、第2の放電電流Ib(Ib<Ia)とにより放電し、その際の電圧変化すなわち第1の放電電圧と第2の放電電圧との差を放電電流の差から内部抵抗成分として求めることで、電池の内部短絡を検出する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平06-89743号公報
【文献】特開2002-313435号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、特許文献1に開示された技術では、電池モジュールを構成する単電池(セル)の電圧を計測する必要がある。一般的に、電池モジュールは密封されていることから、単電池の電圧を測定することが困難であり、転極を検出することができないという問題点がある。
【0007】
また、特許文献2に開示された技術では、車両搭載時においては、負荷電流の制限が困難であるため、内部短絡を検出するタイミングが限られる。このため、短絡の発生から検知までの遅れが生じるという問題点がある。
【0008】
本発明は、以上のような状況に鑑みてなされたものであり、充電可能電池の異常を任意のタイミングで実施することが可能な充電可能電池異常検出装置および充電可能電池異常検出方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明は、充電可能電池の異常を検出する充電可能電池異常検出装置において、前記充電可能電池の内部抵抗の値を算出する算出手段と、前記充電可能電池が充電中または放電中であることを判定する判定手段と、前記判定手段によって前記充電可能電池が充電中または放電中と判定された場合に、前記算出手段によって算出された前記内部抵抗の値が、放電中に減少するか、または、充電中に増加するときは、前記充電可能電池に異常が発生していると判断する判断手段と、前記判断手段による判断結果を提示する提示手段と、を有することを特徴とする充電可能電池異常検出装置。
このような構成によれば、充電可能電池の異常を任意のタイミングで実施することが可能となる。
【0010】
また、本発明は、前記判断手段は、前記判定手段によって前記充電可能電池が充電中と判定された場合に、前記内部抵抗の値が増加しているときには、前記充電可能電池が短絡していると判断することを特徴とする。
このような構成によれば、短絡を任意のタイミングで簡易に検出することができる。
【0011】
また、本発明は、前記判断手段は、前記判定手段によって前記充電可能電池が放電中と判定された場合に、前記内部抵抗の値が正常時よりも増加しているときには、前記充電可能電池が異常と判断することを特徴とする。
このような構成によれば、通常の値との比較で異常を任意のタイミングで簡易に検出することができる。
【0012】
また、本発明は、前記判断手段は、前記判定手段によって前記充電可能電池が放電中と判定された場合に、前記内部抵抗の値が正常時よりも増加しているときであって、増加後に減少に転じる場合は転極と判断し、それ以外の場合は短絡と判断することを特徴とする。
このような構成によれば、転極および短絡を任意のタイミングで簡易に検出することができる。
【0013】
また、本発明は、前記判断手段は、その時点における前記内部抵抗の値と、正常時である過去の所定の時点における前記内部抵抗の比または差を求め、当該比または差が所定の閾値を上回る場合には異常と判定することを特徴とする。
このような構成によれば、内部抵抗値の比較によって異常を簡易に検出することができる。
【0014】
また、本発明は、前記判断手段は、前記内部抵抗Rの所定の時間あたりの増加分ΔRを、充電率SOCの所定の時間あたりの変化量ΔSOC(<0)で除することで得られる値ΔR/ΔSOCが、正常時である過去の所定の時点における当該値(<0)よりも小さい場合には異常と判定することを特徴とする。
このような構成によれば、内部抵抗と充電率との関係に基づいて異常を簡易に検出することができる。
【0015】
また、本発明は、前記算出手段は、所定の時間内における電圧の変動値を、同じく所定の時間内における電流の変動値によって除することで前記内部抵抗の値を求めることを特
徴とする。
このような構成によれば、内部抵抗を簡易に算出することができる。
【0016】
また、本発明は、前記充電可能電池の電圧を検出する電圧検出手段を有し、前記電圧検出手段によって前記充電可能電池を構成する1のセルに対応する電圧が降下したことを検出した場合には、前記判断手段は、前記充電可能電池に異常が発生していると判断することを特徴とする。
このような構成によれば、電圧も参照して、異常の有無をより正確に判断することができる。
【0017】
また、本発明は、前記判断手段は、前記充電可能電池に異常が発生していると判断した時点以降のある時点における前記内部抵抗の値を、異常と判断した時点以降における前記内部抵抗の最大値で除算して得られる値が所定の閾値未満になった場合には異常が解消したと判断することを特徴とする。
このような構成によれば、異常の発生だけでなく、解消についても判断することができる。
【0018】
また、本発明は、前記判断手段は、前記充電可能電池に異常が発生していると判断した際の前記内部抵抗の値が増加した後に減少した場合には転極が解消したと判定することを特徴とする。
このような構成によれば、転極の発生だけでなく、転極の解消も判断することができる。
【0019】
また、本発明は、前記判断手段は、前記充電可能電池に異常が発生していると判断した後に、前記充電可能電池の電圧が所定の閾値以上増加した場合には前記異常が解消したと判定することを特徴とする。
このような構成によれば、異常の発生だけでなく、解消についても判断することができる。
【0020】
また、本発明は、充電可能電池の異常を検出する充電可能電池異常検出方法において、前記充電可能電池の内部抵抗の値を算出する算出ステップと、前記充電可能電池が充電中または放電中であることを判定する判定ステップと、前記判定ステップにおいて前記充電可能電池が充電中または放電中と判定された場合に、前記算出ステップにおいて算出された前記内部抵抗の値が、放電中に減少するか、または、充電中に増加するときは、前記充電可能電池に異常が発生していると判断する判断ステップと、前記判断ステップにおける判断結果を提示する提示ステップと、を有することを特徴とする。
このような方法によれば、充電可能電池の異常を任意のタイミングで実施することが可能となる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、充電可能電池の異常の検出を任意のタイミングで実施することが可能な充電可能電池異常検出装置および充電可能電池異常検出方法を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】本発明の実施形態に係る充電可能電池異常検出装置の構成例を示す図である。
【
図2】
図1の制御部の詳細な構成例を示すブロック図である。
【
図4】転極が発生した場合の電圧と内部抵抗の時間的変化を示す図である。
【
図5】充電中に短絡が発生した場合の電圧と内部抵抗の時間的変化を示す図である。
【
図6】放電中に短絡が発生した場合の電圧と内部抵抗の時間的変化を示す図である。
【
図7】異常の種類、充電状態、および、内部抵抗の挙動の関係を示す図である。
【
図9】
図1に示す実施形態において実行される処理の一例を示すフローチャートである。
【
図10】
図9に示す内部抵抗R算出処理の一例を示すフローチャートである。
【
図11】
図9に示す充電中異常監視処理の一例を示すフローチャートである。
【
図12】
図9に示す放電中異常監視処理の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
次に、本発明の実施形態について説明する。
【0024】
(A)本発明の実施形態の構成の説明
図1は、本発明の実施形態に係る充電可能電池異常検出装置を有する車両の電源系統を示す図である。この図において、充電可能電池異常検出装置1は、制御部10、電圧センサ11、電流センサ12、および、温度センサ13を主要な構成要素としており、充電可能電池14の内部における異常の発生を検出する。なお、温度センサ13は含まない構成としてもよい。
【0025】
ここで、制御部10は、電圧センサ11、電流センサ12、および、温度センサ13からの出力を参照し、充電可能電池14の状態を検出するとともに、オルタネータ15の発電電圧を制御することで充電可能電池14の充電状態を制御する。なお、電圧センサ11、電流センサ12、および、温度センサ13は、制御部10に内蔵してもよいし、制御部10の外部に設けるようにしてもよい。電圧センサ11は、充電可能電池14の端子電圧を検出し、制御部10に通知する。電流センサ12は、充電可能電池14に流れる電流を検出し、制御部10に通知する。温度センサ13は、充電可能電池14の電解液または周囲の環境温度を検出し、制御部10に通知する。なお、制御部10がオルタネータ15の発電電圧を制御することで充電可能電池14の充電状態を制御するのではなく、例えば、図示しないECU(Electric Control Unit)が充電状態を制御するようにしてもよい。
【0026】
充電可能電池14は、電解液を有する充電可能電池、例えば、鉛蓄電池、ニッケルカドミウム電池、または、ニッケル水素電池等によって構成され、オルタネータ15によって充電され、スタータモータ17を駆動してエンジンを始動するとともに、負荷18に電力を供給する。なお、充電可能電池14は、複数のセルを直列接続して構成されている。オルタネータ15は、エンジン16によって駆動され、交流電力を発生して整流回路によって直流電力に変換し、充電可能電池14を充電する。オルタネータ15は、制御部10によって制御され、発電電圧を調整することが可能とされている。
【0027】
エンジン16は、例えば、ガソリンエンジンおよびディーゼルエンジン等のレシプロエンジンまたはロータリーエンジン等によって構成され、スタータモータ17によって始動され、トランスミッションを介して駆動輪を駆動し、車両に推進力を与えるとともに、オルタネータ15を駆動して電力を発生させる。スタータモータ17は、例えば、直流電動機によって構成され、充電可能電池14から供給される電力によって回転力を発生し、エンジン16を始動する。負荷18は、例えば、電動ステアリングモータ、デフォッガ、シートヒータ、イグニッションコイル、カーオーディオ、および、カーナビゲーション等によって構成され、充電可能電池14からの電力によって動作する。
【0028】
図2は、
図1に示す制御部10の詳細な構成例を示す図である。この図に示すように、制御部10は、CPU(Central Processing Unit)10a、ROM(Read Only Memory)10b、RAM(Random Access Memory)10c、通信部10d、I/F(Interface
)10e、および、バス10fを有している。ここで、CPU10aは、ROM10bに格納されているプログラム10baに基づいて各部を制御する。ROM10bは、半導体メモリ等によって構成され、CPU10aによって実行可能な命令群を含むプログラム10ba等を格納している。RAM10cは、半導体メモリ等によって構成され、プログラム10baを実行する際に生成されるデータや、後述するテーブル等のデータ10caを格納する。通信部10dは、上位の装置であるECU(Electronic Control Unit)等との間で通信を行い、検出した情報または制御情報を上位装置に通知する。I/F10eは、電圧センサ11、電流センサ12、および、温度センサ13から供給される信号をデジタル信号に変換して取り込むとともに、オルタネータ15、および、スタータモータ17等に駆動電流を供給してこれらを制御する。バス10fは、CPU10a、ROM10b、RAM10c、通信部10d、および、I/F10eを相互に接続し、これらの間で情報の授受を可能とするための信号線群である。なお、CPU10aの代わりに、DSP(Digital Signal Processor)、FPGA(Field Programmable Gate Array)、または、ASIC(Application Specified Integrated Circuit)を用いるようにしてもよい。
【0029】
(B)本発明の実施形態の動作の説明
つぎに、本発明の実施形態の動作について説明する。なお、以下では、本発明の実施形態の動作原理について説明した後、詳細な動作について説明する。
【0030】
まず、本発明の実施形態の動作原理について説明する。本発明の実施形態では、充電可能電池14の内部抵抗の変化に基づいて、充電可能電池14の異常である「転極」および「短絡」を検出する。
図3は前者である転極の発生原理を模式的に説明する図である。
図3は、6つのセルC1~C6からなる鉛蓄電池を模式的に示している。
図3(A)は転極が生じる直前の状態を示し、
図3(B)は転極が生じた直後の状態を示している。なお、セルC1~C6内に示すハッチングは、セルC1~C6のそれぞれの充電率を示している。また、鉛蓄電池の上部の突起はプラス(+)とマイナス(-)の接続端子を示している。さらに、セルC1~C6内に示すプラスとマイナスはセルC1~C6のそれぞれの極性を示している。
【0031】
図3(A)では、セルC4だけが充電率が低い状態となっており、それ以外は高い状態となっている。このような状態において、負荷への給電が継続されると、セルC4は充電率が略0%となる。そして、さらに放電が継続されると、隣接するセルから通じる電流によってセルC4は逆方向に充電される状態になる。その結果、
図3(B)に示すように、セルC4の極性は逆方向となるとともに、逆方向のハッチングで示すように充電率がマイナスの状態となる。
【0032】
すなわち、転極とは、充電可能電池14を構成する複数のセルのうちの少なくとも1つのセルが出力する電圧のプラスとマイナスが逆転する現象をいう。より詳細には、複数のセルを有する組バッテリーは、
図3に示すように、セルによって充電率が異なる場合があり、そのような場合、全体としては残容量があるにも拘わらず、終止電圧(それ以上放電するとセルへの悪影響が出るおそれが有る電圧)に達したセルが生じる。そのようなセルを使い続けると、他のセルから流れる電流によって逆方向に充電されるため、プラスとマイナスが逆転する転極が生じる。このような転極が生じたセルは、充放電時に発熱し、その熱によって周囲のセルを劣化させることから、全体として劣化が進行する。
【0033】
図4は、充電可能電池14に転極が発生した場合の電圧と内部抵抗の時間的な変化を示す図である。より詳細には、
図4は、6セルからなる鉛蓄電池において、負荷に電流を供給している際に、転極が発生した場合の電圧と内部抵抗の時間的変化を示す図である。
図4において、横軸は計測開始からの経過時間(s(秒))を示し、縦軸は充電可能電池の電圧(V)と、内部抵抗(mΩ)を示している。転極が生じる場合、所定のセルにおいて
、充電率が略0に接近することから電圧が低下する。また、電圧の低下に伴って電極板の不活物質(硫酸鉛)が増加することから内部抵抗が増加する。
【0034】
そして、
図4に示す経過時間T(s)において、転極が生じると、逆方向に充電されることから不活物質が増加から減少に転じ、内部抵抗が減少する。一方、電圧は、1セル分の電圧(約2V)が相殺されるので約10V程度となる。
【0035】
すなわち、充電可能電池において、転極が発生した場合には、内部抵抗が増加から減少に転じ、電圧が対応するセル分(
図4では1セル分)だけ減少する。
【0036】
本実施形態では、前述したような、電圧と内部抵抗の特徴的な変化に基づいて、充電可能電池14の転極の発生を検出する。
【0037】
一方、
図5は、充電中の充電可能電池14において短絡が発生した場合の電圧と内部抵抗の変化を示している。より詳細には、
図5は、6セルからなる鉛蓄電池を充電している際に、短絡が発生した場合の電圧と内部抵抗の時間的変化を示す図である。
図5において、横軸は計測開始からの経過時間(s(秒))を示し、縦軸は充電可能電池の電圧(V)と、内部抵抗(mΩ)を示している。例えば、所定のセル内において、不活物質である硫酸鉛が極板から剥落し、正負の極板を架橋した状態になったとする。このような場合に充電がされると、電気抵抗が高い不活物質が、充電によって電気抵抗が低い鉛に変化する。この結果、正負の極板が短絡してしまう。
【0038】
図5の例では、定電圧充電により、充電中であることから電圧は約14Vで一定である。一方、内部抵抗は、短絡の進行とともに増加する。
図4と比較すると、短絡の場合には、内部抵抗は増加から減少に転じることはない。なお、
図5の例では、定電圧充電であるので、定電流充電の場合には電圧が減少することが想定される。
【0039】
図6は、放電中の充電可能電池14において短絡が発生した場合の電圧と内部抵抗の変化を示している。より詳細には、
図6は、
図5と同様の6セルからなる鉛蓄電池を放電している際に、短絡が発生した場合の電圧と内部抵抗の時間的変化を示す図である。
図6において、横軸は計測開始からの経過時間(s(秒))を示し、縦軸は充電可能電池の電圧(V)と、内部抵抗(mΩ)を示している。例えば、所定のセル内において、例えば、衝撃等に起因して、極板を構成する鉛または二酸化鉛が極板から剥落し、正負の極板を架橋すると、正負の極板が短絡してしまう。
【0040】
図6の例では、放電中であることから電圧は減少傾向であり、短絡の進行とともに1セル分の電圧が消失することから約2V低下する。また、内部抵抗は、短絡の進行とともに増加する。なお、
図5の場合と同様に、短絡の場合には、
図4の場合のように、内部抵抗が増加から減少に転じることはない。
【0041】
図7は、充電可能電池14の異常の種類と、充放電状態と、内部抵抗の挙動の関係を示す図である。
図7に示すように、転極は、放電中に発生し、内部抵抗が増加した後に減少する挙動を示す。また、短絡は、充電中と放電中の双方で発生し、内部抵抗が増加し、減少する挙動は示さない。但し、充電可能電池14が正常である場合でも、放電中は内部抵抗が増加するが、短絡または転極が生じた場合には、内部抵抗の増加が正常時よりも大きい。
【0042】
本実施形態では、充電可能電池14の以上のような挙動に基づいて、充電可能電池14の異常を検出する。
【0043】
より詳細には、充電可能電池異常検出装置1は、正常時において、充電可能電池14の充電率および内部抵抗を測定し、これらを基準充電率SOC0および基準内部抵抗R0とする。なお、正常時とは、例えば、充電可能電池14を車両に搭載した時点、または、搭載から一定の期間(例えば、数時間または数日)が経過した時点をいう。もちろん、短絡または転極等の異常が生じていない時点であれば、これ以外の時点としてもよい。
【0044】
つぎに、充電可能電池異常検出装置1は、その時点の内部抵抗を算出する。
図8(A)は、充電可能電池14の電圧と電流の変化を示す図である。なお、
図8(A)において、横軸は測定開始からの経過時間(s)を示し、縦軸は電圧(V)および電流(A)を示している。
図8(B)は、
図8(A)の一部を拡大して示す図である。本実施形態では、例えば、1ms毎に変化電圧ΔVと、変化電流ΔIとを測定して、例えば、10秒間に亘って累積加算してΔVaとΔIaを求め、これらの値からΔVa/ΔIaによって内部抵抗R(=ΔVa/ΔIa)の値を算出する。
【0045】
つぎに、充電可能電池異常検出装置1は、その時点における充電率SOCを算出する。より詳細には、充電可能電池異常検出装置1は、エンジン16が停止されて所定の時間(例えば、数時間)が経過し、充電可能電池14の分極および成層化等が解消されて安定した状態において、充電可能電池14の電圧を測定し、これを開回路電圧OCVとする。開回路電圧OCVと、充電率SOCとの間には、一定の関係が存在することから、例えば、開回路電圧OCVと充電率SOCの関係を示すテーブルに格納されている情報を参照することで、安定時の充電率SOCを求めることができる。エンジン16が始動された後は、充電可能電池14に対して入出力される電流を累積加算し、得られた値をこのようにして求めた安定時のSOCに対して加算することで、その時点における充電率SOCを求めることができる。
【0046】
つぎに、充電可能電池異常検出装置1は、その時点の充電率SOCと、基準充電率SOC0を比較することで、充電可能電池14が充電中であるか、または、放電中であるかを判定することができる。
【0047】
充電可能電池14が充電中であると判定した場合、充電可能電池異常検出装置1は、内部抵抗Rが増加しているか否かを判定する。より詳細には、充電可能電池異常検出装置1は、その時点の内部抵抗Rの値と、基準内部抵抗R0との比(R/R0)を計算し、これらの比が所定の閾値Th1(Th1>1)よりも大きい場合(R/R0>Th1の場合)には内部抵抗が増加していると判定する。ところで、内部抵抗は、充電中は減少することが一般的である。このため、充電中において内部抵抗が増加する場合、異常であると判定することができる。また、その場合、
図7に示すように、短絡であると判定することができる。
【0048】
一方、充電可能電池14が放電中であると判定した場合、充電可能電池異常検出装置1は、内部抵抗Rが増加しているか否かを判定する。より詳細には、充電可能電池異常検出装置1は、その時点の内部抵抗Rの値と、基準内部抵抗R0との比(R/R0)を計算し、これらの比が所定の閾値Th2(Th2>1)よりも大きい場合(R/R0>Th2の場合)には内部抵抗が増加していると判定する。ところで、内部抵抗は、放電中は増加することが一般的であることから、放電中において内部抵抗が増加する場合、異常であると直ちに判定することはできない。そこで、閾値Th2としては、通常時における内部抵抗の増加よりも大きい所定の値を設定し、R/R0>Th2の場合には異常の発生の可能性があると判定する。そして、内部抵抗Rの値を所定の時間に亘って算出し、内部抵抗が増加した後に減少に転じた場合には、
図7に示す転極であると判定することができる。また、内部抵抗が増加して、減少に転じない場合には、短絡であると判定することができる。
【0049】
なお、異常の発生を検出した場合、充電可能電池異常検出装置1は、上位装置(例えば、ECU)に対して、異常が発生したことを通知するとともに、異常の内容として転極または短絡を通知することができる。
【0050】
以上に説明したように、本発明の実施形態によれば、充電可能電池14の内部抵抗の挙動が、通常の挙動(例えば、充電中は緩やかに減少し、放電中は緩やかに増加する挙動)とは異なることを検出することで、充電可能電池14の転極および短絡を検出することができる。
【0051】
また、本実施形態では、複数のセルを有する充電可能電池14の全体としての内部抵抗を算出し、この内部抵抗に基づいて異常を判定するようにした。このため、例えば、特許文献1のように、個々のセルを測定する必要がないことから、様々な種類の充電可能電池14の異常を簡易に検出することができる。また、本実施形態では、充電可能電池14の充放電中に異常を検出することができるので、例えば、特許文献2のように、異常検出が特定のタイミングに限定されることなく、任意のタイミングで異常を検出することができる。
【0052】
つぎに、
図9~
図12を参照して、
図1に示す実施形態において実行される処理の詳細について説明する。
【0053】
図9は、
図1に示す制御部10において実行される処理の詳細を説明するフローチャートである。
図9に示すフローチャートの処理が開始されると、以下のステップが実行される。
【0054】
ステップS10では、制御部10のCPU10aは、基準充電率SOC0を算出する。より詳細には、CPU10aは、充電可能電池14の分極および成層化等が解消されて安定した状態において、充電可能電池14の電圧を電圧センサ11によって測定し、これを開回路電圧OCVとする。そして、開回路電圧OCVと充電率SOCの関係を示す情報が格納されたテーブル(例えば、RAM10cのデータ10caに格納されているテーブル)に格納されている情報(または開回路電圧OCVと充電率SOCの関係を示す数式)を用いることで、安定時における充電率SOCを求めることができる。CPU10aは、充電可能電池14に対して入出力される電流を電流センサ12によって測定して累積加算し、このようにして求めた値をSOCに対して加算することで、その時点における充電率SOCを求めることができる。以上の方法によって、所定のタイミング(例えば、エンジン16を始動したタイミング)で、充電率SOCを求め、これを基準充電率SOC0とすることができる。なお、開回路電圧OCVは、充電可能電池14の電解液の温度によって変動することから、温度センサ13によって充電可能電池14の周囲温度を測定し、測定された周囲温度から電解液温度を推定し、開回路電圧OCVを推定した温度に基づいて補正するようにしてもよい。
【0055】
ステップS11では、CPU10aは、基準内部抵抗R0を算出する。より詳細には、CPU10aは、所定のタイミング(例えば、エンジン16を始動したタイミング)において、
図8を参照して説明したように、例えば、1ms毎に変化電圧ΔVと、変化電流ΔIとを測定して、例えば、10秒間に亘って累積加算してΔVaとΔIaを求め、これらの値からΔVa/ΔIaによって内部抵抗R(=ΔVa/ΔIa)の値を算出する。なお、1msおよび10秒は一例であって、これら以外の時間に設定してもよい。
【0056】
ステップS12では、CPU10aは、ステップS10で算出した基準充電率SOC0と、ステップS11で算出した基準内部抵抗R0とを、例えば、RAM10cに記憶する。
【0057】
ステップS13では、CPU10aは、その時点における内部抵抗Rを算出する処理を実行する。なお、ステップS13の処理の詳細は、
図10を参照して後述する。
【0058】
ステップS14では、CPU10aは、その時点における充電率SOCを算出する。より詳細には、安定時におけるOCVから、安定時における充電率SOCを求め、充電可能電池14に対して入出力される電流を電流センサ12によって測定して累積加算し、得られた値を前述した安定時のSOCに対して加算することで、その時点における充電率SOCを求めることができる。
【0059】
ステップS15では、CPU10aは、ステップS14で求めたその時点の充電率SOCとステップS10で求めた基準充電率SOC0を比較し、SOC<SOC0を満たすか否かを判定し、SOC<SOC0を満たす場合(ステップS15:Y)にはステップS17に進み、それ以外の場合(ステップS15:N)にはステップS16に進む。より詳細には、SOC<SOC0を満たす場合には、放電中であると判定できるので、その場合にはステップS17の放電中異常監視処理に進み、SOC≧SOC0を満たす場合には、充電中(またはSOCが変化しない状態)であると判定できるので、その場合にはステップS17の充電中異常監視処理に進む。なお、ステップS16の充電中異常監視処理と、ステップS17の放電中異常監視処理の詳細については、
図11および
図12を参照して後述する。
【0060】
ステップS18では、CPU10aは、処理を継続するか否かを判定し、処理を継続すると判定した場合(ステップS18:Y)にはステップS13に戻って前述の場合と同様の処理を繰り返し、それ以外の場合(ステップS18:N)には処理を終了する。
【0061】
つぎに、
図10を参照して、
図9のステップS13に示す「内部抵抗R算出処理」の詳細について説明する。
図10に示すフローチャートの処理が開始されると、以下のステップが実行される。
【0062】
ステップS30では、CPU10aは、電圧センサ11の出力を参照し、所定の時間内(例えば、10ms内)の変化電圧ΔVを測定する。
【0063】
ステップS31では、CPU10aは、ステップS30で測定した変化電圧ΔVを累積加算してΔVaとする。すなわち、ΔVa←ΔVa+ΔVを求める。
【0064】
ステップS32では、CPU10aは、電流センサ12の出力を参照し、所定の時間内(例えば、10ms内)の変化電流ΔIを測定する。
【0065】
ステップS33では、CPU10aは、ステップS32で測定した変化電流ΔIを累積加算してΔIaとする。すなわち、ΔIa←ΔIa+ΔIを求める。
【0066】
ステップS34では、CPU10aは、所定の時間が経過したか否かを判定し、所定の時間(例えば、10秒)が経過したと判定した場合(ステップS34:Y)にはステップS35に進み、それ以外の場合(ステップS34:N)にはステップS30に戻って前述の場合と同様の処理を繰り返す。
【0067】
ステップS35では、CPU10aは、R=ΔVa/ΔIaによって、内部抵抗Rの値を求める。そして、元の処理に復帰(リターン)する。
【0068】
以上の処理によれば、その時点における内部抵抗Rを求めることができる。
【0069】
つぎに、
図11を参照して、
図9のステップS16に示す「充電中異常監視処理」の詳細について説明する。
図11に示すフローチャートの処理が開始されると、以下のステップが実行される。
【0070】
ステップS50では、CPU10aは、ステップS13で算出した内部抵抗Rと、ステップS11で算出した基準内部抵抗R0とに基づいて、R/R0>Th1を満たすか否かを判定し、R/R0>Th1を満たすと判定した場合(ステップS50:Y)にはステップS51に進み、それ以外の場合(ステップS50:N)には元の処理に復帰(リターン)する。
【0071】
ステップS51では、CPU10aは、充電可能電池14を充電中において、内部抵抗Rが増加していることから、
図7に基づいて、充電可能電池14の極板が短絡している可能性があると判定する。
【0072】
ステップS52では、CPU10aは、通信部10dを介して、図示しない上位装置(例えば、ECU)に対して、短絡の可能性がある旨を通知する。
【0073】
以上の処理によれば、充電可能電池14を充電中おいて、内部抵抗が増加しているときは、短絡の可能性があると判定し、上位装置に通知することができる。
【0074】
つぎに、
図12を参照して、
図9のステップS17に示す「放電中異常監視処理」の詳細について説明する。
図12に示すフローチャートの処理が開始されると、以下のステップが実行される。
【0075】
ステップS70では、CPU10aは、ステップS13で算出した内部抵抗Rと、ステップS11で算出した基準内部抵抗R0とに基づいて、R/R0>Th2を満たすか否かを判定し、R/R0>Th2を満たすと判定した場合(ステップS70:Y)にはステップS71に進み、それ以外の場合(ステップS70:N)には元の処理に復帰(リターン)する。なお、ステップS70における閾値Th2は、ステップS50における閾値Th1と比較すると、Th2>Th1となるように設定することができる。すなわち、充電可能電池14を充電中は、内部抵抗が減少することが一般的であることから、少しでも増加している場合には異常と判断できる。一方、放電中は内部抵抗が増加することが一般的であるため、閾値Th2はそのような増加に比較して大きい値に設定する必要がある。なお、閾値Th2を、放電電流の大小に応じて変化させるようにしてもよい。すなわち、放電電流が大きい場合には閾値Th2として大きい値を採用し、放電電流が小さい場合には閾値Th2として小さい値を採用することができる。
【0076】
ステップS71では、CPU10aは、その時点における内部抵抗Rを算出する処理を実行する。なお、この処理は、
図10を参照して前述した処理と同様である。
【0077】
ステップS72では、CPU10aは、ステップS71で算出した内部抵抗Rを、例えば、RAM10cに時系列に応じて記憶する。
【0078】
ステップS73では、CPU10aは、所定の時間(例えば、1時間)が経過したか否かを判定し、所定の時間が経過したと判定した場合(ステップS73:Y)にはステップS74に進み、それ以外の場合(ステップS73:N)にはステップS71に戻って前述の場合と同様の処理を繰り返す。なお、時間の経過とともに、内部抵抗の変化を観察しておき、内部抵抗が増加後に減少した場合には、所定の時間が経過する前であっても、ステップS74に進むようにしてもよい。
【0079】
ステップS74では、CPU10aは、ステップS72においてRAM10cに時系列に応じて格納されている複数の内部抵抗Rの値を参照し、内部抵抗Rが増大後、減少しているか否かを判定し、増大後、減少していると判定した場合(ステップS74:Y)にはステップS75に進み、それ以外の場合(ステップS74:N)にはステップS76に進む。
【0080】
ステップS75では、CPU10aは、内部抵抗Rの値が増大後に減少していることから、
図7に基づいて、転極の可能性があると判断する。
【0081】
ステップS76では、CPU10aは、内部抵抗Rの値が増大後に減少していないことから、
図7に基づいて、短絡の可能性があると判断する。
【0082】
ステップS77では、CPU10aは、通信部10dを介して、上位装置に対して、転極または短絡の可能性がある旨を通知する。そして、元の処理に復帰(リターン)する。
【0083】
以上の処理によれば、充電可能電池14を放電中において、内部抵抗の挙動に基づいて、短絡または転極の可能性を判断することができる。
【0084】
(C)変形実施形態の説明
以上の実施形態は一例であって、本発明が上述したような場合のみに限定されるものでないことはいうまでもない。例えば、以上の実施形態では、内部抵抗Rは、
図9に示す処理によって求めるようにしたが、これ以外の方法によって内部抵抗Rの値を求めるようにしてもよい。例えば、負荷に電流が流れる場合の電圧と電流を求め、これらの電圧と電流から内部抵抗を求めるようにしてもよい。あるいは、充電可能電池14の等価回路を設定し、充電可能電池14の電圧と電流を測定し、これらの電圧と電流に基づいて等価回路を学習処理によって求めるようにしてもよい。
【0085】
また、充電可能電池14の放電中の異常については、ステップS70に示すように、R/R0>Th2に基づいて判断するようにした。しかしなから、放電中は、内部抵抗は増加することが一般的であることから、放電電流の値が大きい場合には、誤判定する可能性がある。そこで、放電電流に応じて閾値Th2を増減するようにしてもよい。例えば、放電電流と閾値Th2とを対応付けて格納するテーブルを準備し、放電電流に応じた閾値Th2をテーブルから取得するようにしてもよい。あるいは、充電率SOCの変化をΔSOCとし、内部抵抗Rの変化をΔRとするとき、ΔR/ΔSOCを求めて、この値と所定の閾値Th3(閾値Th2とは別の閾値)とを比較するようにしてもよい。すなわち、ΔR/ΔSOCが所定の閾値Th3(<0)より小さい場合に異常と判定してもよい。そのような方法によれば、充電電流の大小による影響を少なくすることができる。
【0086】
また、ステップS50およびステップS70では、R/R0と閾値Th1,Th2との大小関係に基づいて異常の有無を判定するようにしたが、RとR0の差分値と閾値との大小関係に基づいて、異常の有無を判定するようにしてもよい。
【0087】
また、以上の実施形態では、異常を検出した場合には上位装置であるECU(外部のプロセッサ)に通知するようにしたが、例えば、短絡を検出した場合にはその旨をECUに通知するとともにオルタネータ15から大電流が流れることを防止するために、充電を停止するようにしてもよい。また、短絡を検出した後は、エンジン16の再始動ができなくなる可能性が高いので、ECUがアイドリングストップの実行を停止したり、エンジン16の停止前に整備工場、ディーラー、または、ガソリンスタンド等に行くように促したりしてもよい。さらに、転極を検出した場合には、転極を解消するために、オルタネータ1
5を制御して、充電可能電池14を迅速に充電するようにしてもよい。
【0088】
また、以上の実施形態では、充電可能電池14の電解液の温度については考慮していないが、電解液の温度を温度センサ13によって推定し、推定した温度に基づいて標準状態の値に規格化するようにしてもよい。例えば、温度センサ13によって推定された電解液の温度が30℃である場合には、標準状態である25℃における値に、例えば、変換テーブル等を用いて規格化するようにしてもよい。
【0089】
また、以上の実施形態では、充電可能電池14の内部抵抗の変化に基づいて異常の有無を判断するようにしたが、内部抵抗に加えて、充電可能電池14の電圧も参照して判断するようにしてもよい。例えば、内部抵抗が変化した場合であって、所定の電圧降下(例えば、充電可能電池14を構成するセルに対応する電圧である2V程度の電圧降下)が生じた場合には、異常と判定するようにしてもよい。単セル分の電圧降下を生じたことを示す電圧閾値の求め方としては、例えば、開回路電圧を使用して求めることができる。直列に接続したセル数をn個とすると、単セル分の電圧が降下した電池の電圧は、開回路電圧×(n-1/n)と示すことができる。このような値に適度なマージンを付加した値を閾値と設定することができる。
【0090】
また、充電可能電池14に異常が発生していると判断した時点以降のある時点における内部抵抗の値Raを、異常と判定した時点以降の内部抵抗の最大値Rmaxで除算して得た値が、所定の閾値Th4未満となった場合(Ra/Rmax<Th4の場合)には、異常が解消したと判定するようにしてもよい。すなわち、振動等によって短絡が解消する場合、解消後における内部抵抗Raは、短絡が発生したと判定した時点以降の内部抵抗Rmaxよりも値が小さくなる。このため、Ra/Rmax<Th4を満たすか判定することで、短絡が解消したか否かを判定することができる。また、転極が解消した場合、転極解消過程において、転極発生と同様に内部抵抗値が増加した後に減少することから、増加した際のピークの抵抗値をRmaxとし、その後の内部抵抗の値をRaとすると、前述したRa/Rmax<Th4を満たすか判定することで、転極が解消したか否かを判定することができる。さらに、充電可能電池14に異常が発生していると判断した後に、充電可能電池14の電圧が所定の閾値(例えば、開回路電圧×(n-1/n))以上増加した場合には異常が解消したと判断するようにしてもよい。
【0091】
また、
図9~
図12に示すフローチャートは一例であって、本発明がこれらのフローチャートの処理のみに限定されるものではない。
【符号の説明】
【0092】
1 充電可能電池異常検出装置
10 制御部
10a CPU
10b ROM
10c RAM
10d 通信部
10e I/F
11 電圧センサ
12 電流センサ
13 温度センサ
14 充電可能電池
15 オルタネータ
16 エンジン
17 スタータモータ
18 負荷