(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-20
(45)【発行日】2023-10-30
(54)【発明の名称】自動分析装置、自動分析方法
(51)【国際特許分類】
C12Q 1/06 20060101AFI20231023BHJP
G01N 33/48 20060101ALI20231023BHJP
C12M 1/34 20060101ALI20231023BHJP
【FI】
C12Q1/06
G01N33/48 B
C12M1/34 A
(21)【出願番号】P 2022522125
(86)(22)【出願日】2020-05-12
(86)【国際出願番号】 JP2020018899
(87)【国際公開番号】W WO2021229667
(87)【国際公開日】2021-11-18
【審査請求日】2022-10-07
(73)【特許権者】
【識別番号】501387839
【氏名又は名称】株式会社日立ハイテク
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】杉山 清隆
(72)【発明者】
【氏名】藤田 浩子
【審査官】平林 由利子
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-235076(JP,A)
【文献】特開2007-006709(JP,A)
【文献】特表2013-512685(JP,A)
【文献】特表2005-503803(JP,A)
【文献】国際公開第2019/097752(WO,A1)
【文献】特開平07-008292(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12Q 1/00- 3/00
G01N 33/00-33/46
C12M 1/00- 3/10
CAPLUS/WPIDS/MEDLINE/BIOSIS/EMBASE(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
細菌と不純物を含む試料を分析する自動分析方法であって、
前記不純物を破壊する物質を前記試料に対して導入するステップ、
前記物質を導入した前記試料内における前記不純物と前記細菌を互いに分離するステップ、
前記不純物と前記細菌を分離した前記試料から前記細菌を取り出すフィルタを用いて前記試料から前記細菌を取り出すステップ、
前記フィルタ上に残る前記不純物の量を表す数値と前記試料内の前記細菌の濃度との間の対応関係を記述した対応関係データを格納する記憶部から前記対応関係データを読み取るステップ、
前記試料から前記細菌を取り出した後に前記フィルタ上に残った前記不純物の量を表す数値を用いて前記対応関係データを参照することにより前記試料内の前記細菌の濃度を推定するステップ、
を有
し、
前記試料は、前記不純物として血球を含んでおり、
前記物質は、界面活性剤であり、
前記界面活性剤は、
親水性部分と疎水性部分を有し、前記疎水性部分が鎖状炭化水素である陰イオン性界面活性剤、
親水性部分と疎水性部分を有し、前記疎水性部分が環状炭化水素を有する界面活性剤、
のうち少なくともいずれか一方を含む
ことを特徴とする自動分析方法。
【請求項2】
前記フィルタは、前記試料をろ過することにより前記不純物と前記細菌を分離するろ過フィルタであり、
前記細菌の濃度を推定するステップにおいては、前記フィルタ上に残った前記不純物を染色せずに撮像することにより取得した画像を用いて、前記フィルタ上に残った前記不純物の量を検出し、
前記細菌の濃度を推定するステップにおいては、前記画像を用いて検出した前記不純物の量を用いて前記対応関係データを参照する
ことを特徴とする請求項1記載の自動分析方法。
【請求項3】
前記自動分析方法はさらに、前記画像としてRGB画像を撮像するステップを有し、
前記細菌の濃度を推定するステップにおいては、前記RGB画像をHSV色空間画像へ変換し、
前記細菌の濃度を推定するステップにおいては、前記フィルタ上に残った前記不純物の量を表す数値として、前記フィルタ上に残った前記不純物の前記HSV色空間画像上における彩度値を用いる
ことを特徴とする請求項
2記載の自動分析方法。
【請求項4】
前記自動分析方法はさらに、前記画像としてRGB画像を撮像するステップを有し、
前記細菌の濃度を推定するステップにおいては、前記RGB画像をHSV色空間画像へ変換し、
前記細菌の濃度を推定するステップにおいては、前記フィルタ上に残った前記不純物の量を表す数値として、前記フィルタ上に残った前記不純物の前記HSV色空間画像上における色相値、彩度値、および明度値によって表される特徴量を用いる
ことを特徴とする請求項
2記載の自動分析方法。
【請求項5】
前記細菌の濃度を推定するステップにおいては、前記不純物が有するRGB色成分のうち最も大きいものを少なくとも検出する光学センサから、前記不純物を検出した結果を取得し、
前記細菌の濃度を推定するステップにおいては、前記フィルタ上に残った前記不純物の量を表す数値として、前記フィルタ上に残った前記不純物を前記光学センサが検出した結果を用いる
ことを特徴とする請求項1記載の自動分析方法。
【請求項6】
前記フィルタは、前記試料をろ過することにより前記不純物と前記細菌をろ過するろ過フィルタであり、
前記自動分析方法はさらに、前記フィルタ上に残った前記不純物の量を検出するステップを有し、
前記細菌の濃度を推定するステップにおいては、前記フィルタ上に残った前記不純物の量を検出するステップにおいて検出した前記不純物の量とは別に、前記試料内の前記不純物の量を検出した別検出結果を取得し、
前記細菌の濃度を推定するステップにおいては、前記別検出結果を用いて、前記フィルタ上に残った前記不純物の量を検出するステップにおいて検出した前記不純物の量を補正し、その補正した前記不純物の量を用いて前記対応関係データを参照する
ことを特徴とする請求項1記載の自動分析方法。
【請求項7】
前記自動分析方法はさらに、薬剤に対する前記細菌の薬剤感受性検査を実施するステップを有し、
前記薬剤感受性検査を実施するステップにおいては、前記試料内の前記細菌の濃度を推定した後、前記試料内の前記細菌を培養することなく、前記試料内の前記細菌に対する薬剤感受性検査を実施する
ことを特徴とする請求項1記載の自動分析方法。
【請求項8】
前記自動分析方法はさらに、前記試料を希釈するステップを有し、
前記希釈するステップにおいては、前記試料内の前記細菌の濃度を推定した後、前記試料を希釈することにより、前記薬剤感受性検査を実施するために必要な前記細菌の濃度を有する検査試料を作成し、
前記薬剤感受性検査を実施するステップにおいては、前記希釈するステップにおいて作成した前記検査試料に対して、前記薬剤感受性検査を実施する
ことを特徴とする請求項
7記載の自動分析方法。
【請求項9】
前記薬剤感受性検査を実施するステップにおいては、35~37℃に保持したインキュベータ内に設置された試料の画像を撮像装置によって撮像し、
前記薬剤感受性検査を実施するステップにおいては、前記撮像装置が撮像した前記試料の画像を用いて前記細菌の増殖度を測定することにより、前記薬剤の最小発育阻止濃度を判定する
ことを特徴とする請求項
7記載の自動分析方法。
【請求項10】
前記フィルタのろ過孔径は1~40μmであり、前記フィルタの材料は疎水性材料である
ことを特徴とする請求項1記載の自動分析方法。
【請求項11】
前記試料は血液試料であり、前記不純物は少なくとも血液内の赤血球を含む
ことを特徴とする請求項1記載の自動分析方法。
【請求項12】
細菌と不純物を含む試料を分析する自動分析装置であって、
前記不純物を破壊する物質を導入した前記試料内における前記不純物と前記細菌を互いに分離する分離器、
前記不純物と前記細菌を分離した前記試料から前記細菌を取り出すフィルタ、
前記フィルタ上に残る前記不純物の量を表す数値と前記試料内の前記細菌の濃度との間の対応関係を記述した対応関係データを格納する記憶部、
前記試料から前記細菌を取り出した後に前記フィルタ上に残った前記不純物の量を表す数値を用いて前記対応関係データを参照することにより前記試料内の前記細菌の濃度を推定する演算部、
を備え
、
前記試料は、前記不純物として血球を含んでおり、
前記物質は、界面活性剤であり、
前記界面活性剤は、
親水性部分と疎水性部分を有し、前記疎水性部分が鎖状炭化水素である陰イオン性界面活性剤、
親水性部分と疎水性部分を有し、前記疎水性部分が環状炭化水素を有する界面活性剤、
のうち少なくともいずれか一方を含む
ことを特徴とする自動分析装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細菌と不純物を含む試料を分析する自動分析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
敗血症は致死率の高い感染症であり、診断およびそれに基づいた適切な治療を迅速に実施することが重要である。敗血症を判定する際には通常、血液培養検査が実施される。これは無菌試料である血液中に細菌が存在するかどうかを判定するものである。一般的にはその後塗抹検査を実施し、次に同定検査と感受性検査を実施する。同定検査は、血液培養陽性の試料を分離培養し、得られたコロニーに対して細菌の種類を特定する。感受性検査は、その細菌の抗菌薬に対する感受性を測定する。以上の一連の検査は、血液培養試験に1日、分離培養に1日、さらに感受性検査に1日要するので、全体で2~3日の検査時間を要する。すなわち、適切な抗菌薬が投与された治療が実施できているかどうか判明するまでには、現状2~3日を要する。従って、効果の無い抗菌薬が投与されていた場合には、敗血症の致死率は極めて高くなる。
【0003】
血液培養試験においては、敗血症の場合に含まれる10CFU/mL(CFU:コロニー形成単位)程度の極めて少ない細菌を培養ボトル中で増殖させる。一般的には8時間~1晩程度の培養を実施し、細菌の呼吸や発酵等によって生成されたガス成分等が検出可能なレベルになるまで細菌を増殖させる。血液培養が陽性となった培養ボトルの中には106~1010CFU/mLの細菌が含まれることが知られている。血液培養陽性時の細菌の濃度は患者の血液の状態や菌種、血液培養試験装置などによっても異なるので、このような幅広い範囲をとる。血液培養ボトル中の細菌以外の主要な成分は、血球成分や培地の他に、抗生物質を吸着するレジン、ビーズ、活性炭などが含まれる。これらのなかでも血液中に存在する赤血球や白血球の濃度は高く、それぞれ109個/mL、107個/mL程度であり、細菌の濃度と同等かそれ以上である。
【0004】
分離培養においては、血液培養陽性となった試料を寒天培地に塗布しコロニーを発育させる。コロニーの性状等から細菌の種類を予測しより確実に細菌種類を同定すること、コロニーから菌液を調製することにより、細菌以外の不純物がなく感受性検査に必要な細菌濃度(一般的には105~106CFU/mL)を有する試料を得ることができる。
【0005】
感受性検査においては、一般的には、細菌の含まれる菌液中に一定濃度の抗菌薬を導入し、抗菌薬の濃度に応じた細菌の増殖度合いを判定する。感受性検査の結果が変動してしまうので、菌液中の細菌濃度が一定となるよう事前に調整しておくことが重要である。感受性検査に関しては検査終了までの時間を迅速化する研究が現在進んでいる。現状のゴールデンスタンダードの方式は、濁度の変化により細菌の増殖度合いを測定するものであり、検査に1昼夜を要する。現在、レーザ光を用いて濁度変化をより迅速に判定する方法や、顕微鏡により個々の細菌の増殖度合いを迅速に判定する方法、ATP(Adenosine triphosphate)発光により細菌の増殖度合いを迅速に定量する方法、などが開発されつつあり、感受性検査に要する時間は数時間程度まで短縮される可能性がある。一方で菌液を調製するための前処理工程は、分離培養を1日間実施し、コロニーを液体中に希釈する方法が依然として用いられている。
【0006】
これに対し分離培養を実施せず、血液培養陽性試料から細菌以外の成分(例えば血球成分、培地に含まれる不純物など)を除去し、105~106CFU/mLのある一定濃度の菌液を作製することが短時間でできれば、感受性検査に要する時間はさらに1日短縮される。
【0007】
このような課題に対して、特許文献1は、2種類の異なる界面活性剤を用いることにより、細菌の生育には影響を与えず血球成分だけを選択的に破壊する手法を開示している。特許文献2は、血球細胞に対してプロテアーゼによる分解、低張液による膨張処理、および界面活性剤を用いて血球成分だけを選択的に破壊する手法を開示している。
【0008】
特許文献3は、メンブレンフィルタ上に捕捉した細菌を蛍光標識し、細菌の個数や濃度を検出する手法を開示している。この方法によると、細菌以外の夾雑物が含まれる場合であっても、細菌の濃度を計測することが可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開2014-235076号公報
【文献】WO2019/097752
【文献】特開2007-006709号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、特許文献1~2は、細菌の濃度を一定に調整する手段に関しては開示していない。例えば、一般的にコロニーから菌液を作成する際には濁度の値を元に菌液の濃度を調整することが可能である。しかし赤血球や白血球、血小板などの血球成分または血球中に多量に含まれるヘモグロビンなどの吸収波長は細菌の散乱光計測に用いられる波長帯と同じであるので、濁度による調整は困難である。
【0011】
特許文献3においては、蛍光標識用の染色試薬で細菌を処理する必要があり、処理中に試薬に暴露されることによって細菌の性状が変化し、感受性検査の結果に影響を及ぼす可能性がある。従ってこのような染色工程が必要な方法は、感受性検査向けには適用が難しい。また、試薬コストが高く蛍光励起による専用の高価な光学系が必要という課題もある。
【0012】
本発明はこのような状況を鑑みてなされたものであり、細菌と血球のような不純物が混在する試料から試料中の細菌濃度を推定し、試料を所望の細菌濃度に調整する技術を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明に係る自動分析装置は、細菌と不純物が混在する試料に対して前記不純物を破壊する物質を導入し、破壊された前記不純物と前記細菌を分離した上で前記細菌をフィルタによって取り出し、前記フィルタ上に残る前記不純物の量と前記試料内の前記細菌の濃度との間の対応関係データに従って、前記試料内の前記細菌の濃度を推定する。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係る自動分析装置によれば、細菌と不純物が混在する試料から試料中の細菌濃度を推定し、試料を所望の細菌濃度に調整することができる。この結果、感受性検査を正確に実施することができる。上記した以外の、課題、構成、および効果は、以下の実施形態の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】細菌を含む血液試料から血球を破壊して不純物を除去する一般的手順を示すフローチャートである。
【
図2】染色せずにろ過フィルタを撮像した画像の例である。
【
図3】フィルタ画像を処理することによって算出したフィルタの色情報と、フィルタを通過させた試料中の赤血球数との間の関係を示すグラフである。
【
図4】フィルタ画像を処理することによって算出したフィルタの色情報と、実際の血中細菌濃度との間の関係を示すグラフである。
【
図5】フィルタ画像より推定される血中細菌濃度を用いて細菌濃度調整を行う手順を説明するフローチャートである。
【
図6】実施形態2に係る自動分析装置100の構成図である。
【
図7】血液培養陽性試料から濁度計測により調整した細菌濃度に関する結果を示す。
【
図8】血液培養陽性試料から
図5に示した方法を用いて調整した細菌濃度に関する結果を示す。
【
図9】血液培養陽性試料およびコロニーから作成した試料の増殖度を示す。
【
図10】血液培養陽性試料およびコロニーから作成した試料の増殖度を示す。
【発明を実施するための形態】
【0016】
図1は、細菌を含む血液試料から血球を破壊して不純物を除去する一般的手順を示すフローチャートである。本発明の実施形態に先立ち、
図1に従って、血球試料から不純物を除去する一般的手順を説明する。その後、本発明の実施形態についての詳細を説明する。
【0017】
ステップS10において、血液試料に界面活性剤を加えて血球を破壊する。処理する血液量が多いほど、最終的に得られる細菌数も増えるので、より多い試料を前処理することが好ましいが、廃液も増えるので1サンプルにつき数mL~10 mL程度を前処理することが好ましい。界面活性剤は、(a)親水性および疎水性部分を有し疎水性部分が鎖状炭化水素である陰イオン性界面活性剤、または、(b)親水性および疎水性部分を有し疎水性部分が環状炭化水素を有する界面活性剤、または、(a)(b)の組み合わせが好ましい。具体的には前者は、ドデシル硫酸ナトリウム、ドデシル硫酸リチウム、およびN-ラウロイルサルコシンナトリウムが挙げられ、後者はサポニン、コール酸ナトリウム、デオキシコール酸ナトリウム、3-[(3-コラミドプロピル)ジメチルアンモニオ]-1プロパンスルホナート、3-[(3-コラミドプロピル)ジメチルアンモニオ]-2ヒドロキシ-1プロパンスルホナートが挙げられる。界面活性剤を加えた後、すぐに次のステップS11を実施しても構わないが、5~15分程度静置させ、反応が完了するのを待ってもよい。
【0018】
ステップS11において、界面活性剤により破壊され流出した血球内の成分、例えばヘモグロビン等を除去するために、遠心分離を実施し、その後、上清の除去と洗浄を実施する。本ステップでは、例えば2000Gで5~10分程度の遠心分離を実施することが好ましいが、界面活性剤により破壊されなかった細菌や血球成分と流出したヘモグロビン等を分離できればよく、遠心速度や遠心時間に関してはこの限りではない。洗浄は純水や生理食塩水などを用いて実施し、1回のみの洗浄でもよいし複数回でもよい。
【0019】
ステップS12においては、界面活性剤により破壊できなかった血球成分や培地中の不純物をさらに除去するために、フィルタにより試料をろ過する。フィルタのろ過孔径(メッシュ間隔)として細菌より大きいものを用いることにより、細菌を通過させ、細菌以外の不純物はフィルタで捕捉する。例えば、孔径1~40μmのフィルタを用いることが好ましい。不純物の量が多い場合には、ろ過孔径の大きなフィルタでろ過した後に、ろ過孔径の小さいフィルタでろ過するなど、複数回のろ過を行ってもよい。フィルタに細菌が捕捉されることを抑制するために、疎水性材料でできたフィルタを用いることが好ましい。以上のステップS10~S12により血液試料から細菌以外の不純物を除去し、細菌を抽出することが可能である。
【0020】
<実施形態1>
本発明の実施形態1では、細菌が含まれた血液試料から所望の値に調整された細菌濃度を有する試料を得る方法を示す。なお、本実施形態はあくまで一例であり、この構成に限定したものではない。大腸菌および黄色ブドウ球菌を含む血液試料を用いてS10~S12の前処理を実施した。血液試料は次の手順に従って作製した。薬剤吸着ビーズ入りの血液培養ボトルに、健常ボランティア由来の血液10mLおよび事前にコロニーから約150CFU/mLに濃度調整された菌液0.1mLを導入し、実際の敗血症患者と同等の血液を作製した。その後、試料を血液培養装置に導入および培養し、血液培養が陽性となったところで取り出し、実験に用いた。また、菌液を導入せずに培養した血中細菌濃度が0CFU/mLのネガティブコントロール相当の試料も作製し、適宜希釈することによって細菌濃度を変化させた。
【0021】
図2は、染色せずにろ過フィルタを撮像した画像の例である。ここでは血液試料中の大腸菌の濃度が10
6~10
9CFU/mLとなるようあらかじめ作成された血液試料を処理した結果を示す。破線で囲んだフィルタ領域20が注目すべき領域である。実際の血中細菌濃度が3.9×10
6CFU/mLの場合には、フィルタ外領域21と同じ色味を示す不純物が存在しない領域22が大部分を占めている。実際の血中細菌濃度が1×10
9CFU/mLの場合には赤みの強い不純物が存在する領域23が大部分を占めており、実際の血中細菌濃度が上昇するに従って赤みはより強くなる。
【0022】
図3は、血中細菌濃度が0CFU/mLのネガティブコントロールの血液試料と界面活性剤の混合溶液を用いてろ過を行った結果であり、ろ過に用いた試料中の赤血球量とフィルタ画像の赤みを比較した。なお、赤血球量は血球カウンタで算出した。赤みを定量評価するために以下の処理により算出した彩度値を用いた。フィルタ画像はカラー画像であり、一般にRGB色空間で表現される。撮像時の周囲の明るさなどの影響を低減するために、RGBからHSV(色相、彩度、明度)へ変換した。そしてより具体的には、フィルタ領域20内部の各ピクセルの彩度値の平均値をフィルタ画像の赤みとして算出した。
図3の結果より、フィルタを通過させた試料中の赤血球量とフィルタ画像の彩度値には正の相関関係があることが分かる。ネガティブコントロールの血液試料中には、赤血球の他にもヘモグロビンが付着した血小板やフィブリン、培地中の不純物が含まれるため、このような不純物がフィルタの赤みを強くさせていると考えられる。すなわち、フィルタ画像の彩度値から赤血球やその他の不純物量を検出することができる。
【0023】
試料中に含まれる赤血球などの不純物量に応じてフィルタの赤みが強くなることから、
図2の結果が得られた理由は次のように推定される。実際の血中細菌濃度に関わらず界面活性剤はある一定の濃度で加えており、実際の血中細菌濃度が低い場合には試料中のほとんどの血球が界面活性剤により破壊されるので、ステップS11においてほとんどの血球が除去されフィルタ上には不純物は残らない。一方、実際の血中細菌濃度が高くなると、細菌と赤血球の濃度は同程度となり、界面活性剤による血球破壊の作用を細菌自身が阻害する。これにより、ステップS11において完全には破壊されなかった赤血球量が増え、ステップS12のろ過工程において捕捉される。また、細菌がヘモグロビンやフィブリン、血小板と凝集し、赤みを示す不純物がステップS12のろ過工程において捕捉される場合も考えられる。実際の血中細菌濃度が上昇するに従ってろ過後のフィルタ領域20の赤みはより強くなる。従って、例えばフィルタの画像から、ろ過後にフィルタ上に残った不純物である例えば赤血球の量を算出することにより、フィルタを通過した細菌の濃度を知ることができる。
【0024】
図4は、フィルタ画像を処理することによって算出したフィルタの色情報と、実際の血中細菌濃度との間の関係を示すグラフである。フィルタの色情報を定量化するために、RGB色空間で示されるフィルタ画像をHSV(色相、彩度、明度)へ変換し、彩度の値を用いた。具体的には、フィルタ領域20内部の各ピクセルの彩度値の平均値を用いた。
図3は、大腸菌で繰り返し実験した結果および黄色ブドウ球菌の結果を併せて示す。実際の血中細菌濃度が10
6~10
9CFU/mLの範囲で血中細菌濃度とフィルタ画像の彩度値との間に正の相関関係がみられる。この血中細菌濃度とフィルタ画像の彩度値から検量線を取得すれば、ろ過後のフィルタ画像の彩度値の情報を元に菌数を推定することが可能である。この血中細菌濃度の範囲は、通常血液培養で陽性となる試料中の細菌濃度とほぼ同等であるため、様々な菌種および菌株に適用できる。
【0025】
処理に使用する界面活性剤の具体的な濃度に関しては、次の通りの範囲で規定できる。通常、血液中の赤血球の濃度は10
9個/mLのオーダーであり、仮に1mLの試料を前処理した場合には、試料中の赤血球数は10
9個である。ここで、
図3に示したフィルタの色味から推定可能な不純物例えば赤血球量の範囲は10
6~10
8個である。すなわちフィルタの色味から実際の細菌濃度を推定可能とするには、赤血球を1/1000~1/10となるまで破壊すればよい。すなわち、細菌を含む血液中の90~99.9%の赤血球を破壊可能な濃度の界面活性剤が必要である。
【0026】
なおここで示した界面活性剤濃度の範囲は、一例として1mLの試料を前処理した場合であり、処理する容量が増える場合には、それに応じて赤血球の破壊率が高くなるよう界面活性剤の濃度を増加させることが好ましい。例えば、10mLの試料を前処理した場合には、99~99.99%の赤血球を破壊可能な濃度の界面活性剤が必要であり、試料の処理量に応じて変わってよい。
【0027】
具体的には、細菌を含む血液中の99~99.99%の赤血球を破壊することが可能な界面活性剤の濃度は、親水性および疎水性部分を有し疎水性部分が鎖状炭化水素である陰イオン性界面活性剤であるドデシル硫酸ナトリウムを例に挙げると濃度が0.05重量%から0.5重量%の範囲である。他の界面活性剤、例えばドデシル硫酸リチウムやN-ラウロイルサルコシンナトリウムに関しても、所望の赤血球を破壊することができる界面活性剤の濃度であることが好ましい。
【0028】
またその他の界面活性剤として、親水性および疎水性部分を有し疎水性部分が環状炭化水素を有する界面活性剤である、例えばサポニン、コール酸ナトリウム、デオキシコール酸ナトリウム、3-[(3-コラミドプロピル)ジメチルアンモニオ]-1プロパンスルホナート、3-[(3-コラミドプロピル)ジメチルアンモニオ]-2ヒドロキシ-1プロパンスルホナートに関して、界面活性剤の種類を混合させても良い。
【0029】
実施形態1では、細菌を含む血液中の99~99.99%の赤血球を破壊できる、終濃度が0.05重量%から0.5重量%の範囲のドデシル硫酸ナトリウムなどの界面活性剤を用いて、2.7mLの血液試料を処理した。
【0030】
図5は、フィルタ画像より推定される血中細菌濃度を用いて細菌濃度調整を行う手順を説明するフローチャートである。ステップS10~S12までは
図1に示した工程と同じである。
【0031】
ステップS50において、フィルタを撮像し、フィルタ上に残った不純物の色を取得する。本フローチャートにおいては、フィルタ上に残った赤血球の色に基づき不純物量を推定するので、試料や不純物を染色する必要はない。
【0032】
ステップS51において、フィルタ上に残った不純物の色と実際の血中細菌濃度との間の対応関係を記述した対応関係データを読み出し、フィルタ画像から取得した色を用いてその対応関係データを参照することにより、推定された血中細菌濃度を算出する。具体的には、フィルタ上に残った不純物の色と実際の血中細菌濃度に関して、例えば片対数で示される検量線を取得し、検量線のデータより推定された血中細菌濃度を算出する。対応関係データは
図4において例示したものであり、あらかじめ作成して記憶装置に格納しておく。なお、対応関係データは、菌種や界面活性剤の種類に関わらず少なくとも1つあれば本発明の方法は適用できる。より正確に推定された血中細菌濃度を求める場合には、菌種ごとや耐性株例えばメチシリン耐性ブドウ球菌などの情報や界面活性剤の種類に応じて、対応関係データを保有しても問題ない。
【0033】
ステップS52において、S51で推定される血中細菌濃度を基準として、所望の細菌濃度を得るために試料を希釈する。例えば、S51において推定される血中細菌濃度が5×108CFU/mLであった際に、所望の細菌濃度が5×105CFU/mLであれば、1000倍希釈する。S51で推定される血中細菌濃度が所望の細菌濃度に達していない場合はステップS53に進み不良検体と判定することが好ましい。不良検体と判定された場合には、感受性検査に適した検体の作製が困難であるので、血液培養ボトルをさらに培養させ、菌を増殖させてからステップS10に戻る。あるいは分離培養を実施することにより得られたコロニーを用いて同定検査や感受性検査を実施してもよい。
【0034】
ステップS54において、作成された菌液を用いて同定検査や感受性検査を実施する。検査手法としてどのような方法を用いてもよい。例えば自動装置を用いた同定検査、遺伝子検査、微量液体希釈法による感受性検査、ディスク法による感受性検査、顕微鏡画像やレーザ散乱光計測などによる迅速感受性検査、などが挙げられる。
【0035】
<実施形態1:まとめ>
本実施形態1において、血球を破壊した後の試料をろ過フィルタによってフィルタリングし、フィルタ上に残った不純物の画像の色成分と実際の血中細菌濃度との間の対応関係データを参照することにより、推定される血中細菌濃度を算出する。これにより、分離培養を実施することなく、所望の細菌濃度を有する試料を作成することができる。従って、通常1昼夜程度を要する分離培養工程を例えば30分程度に短縮することができる。
【0036】
<実施形態2>
実施形態2では、細菌が含まれた血液試料から所望の値に調整された細菌濃度を有する試料を得るための自動分析装置に関して示す。なお、本実施形態はあくまで一例であり、この構成に限定したものではない。
【0037】
図6は、本発明の実施形態2に係る自動分析装置100の構成図である。自動分析装置100は、
図5で説明した前処理手順を自動的に実施する装置である。通常、血液培養ボトルはコンタミネーション等を防止するためにゴム栓が用いられており、ボトル内部は真空となっている。作業者は血液培養ボトルから注射針を用いて血液試料を取り出し、界面活性剤の入った容器にその血液試料を分注する。これによりS10が実施される。作業者が界面活性剤を導入することに代えて、試料に対して界面活性剤を自動的に導入する導入装置101を自動分析装置100の一部として備えることもできる。
【0038】
界面活性剤を導入した試料は、遠心分離器102に導入される。試料内の血球は界面活性剤によって破壊されている。遠心分離器102は、溶出したヘモグロビン等と、細菌および破壊できなかった血球などとを分離する。これによりS11のうち分離工程が実施される。
【0039】
遠心分離が終了した試料は洗浄部103に導入される。洗浄部103は試料の上清を除去し、例えば1mL程度の生理食塩水もしくは純水や培地等の洗浄液によって試料を洗浄する。洗浄用ピペット104は上清を吸引する。試料容器の底からある基準の高さまでを上清として扱って構わない。これによりS11のうち残部が実施される。より厳密には、液位置センサなどを設け、細菌や血球が固まってペレット状になっている部分と液体部分との間の界面を検知し、界面位置付近までを上清として扱うことが好ましい。
【0040】
洗浄が終了した試料はろ過フィルタ部105に導入される。ろ過フィルタ部105は、例えばディスポーザルのろ過フィルタおよび不純物をフィルタに捕捉するためのシリンジ等から構成される。ろ過フィルタ部105によってS12が実施される。場合によっては遠心分離器102を用いて試料をろ過しても構わない。
【0041】
カメラ106(不純物の量を検出するセンサに相当)は、ろ過フィルタ部105上に残った不純物を撮像する。記憶部107は
図4で説明した対応関係データを格納している。コンピュータ110(演算部)は、カメラ106が撮像したRGB画像をHSV色空間画像に変換した上で不純物領域の色成分(例えば彩度値)を検出し(S50)、その色を用いて対応関係データを参照することにより、推定された血中細菌濃度を算出する(S51)。
【0042】
ろ過された試料は希釈部108に導入される。希釈部108は、コンピュータ110が推測した血中細菌濃度に基づき、所望の細菌濃度となるように希釈倍率を調整する。希釈用ピペット109はその希釈倍率に従って、希釈液を導入する。これによりS52が実施される。
【0043】
コンピュータ110は、自動分析装置100が備える各部を制御することにより、以上の工程を自動的に実施する。コンピュータ110は入出力装置を備えており、作業者は細菌種類や所望の細菌濃度などをコンピュータ110に対して指示できることが好ましい。コンピュータ110は、入力された細菌種類に応じて参照する対応関係データを変え、所望の細菌濃度に応じて希釈部108による希釈倍率を変更することもできる。コンピュータ110が推測した血中細菌濃度値は、例えばディスプレイなどの出力装置に出力し、所望の細菌濃度以下の場合には不良検体であるフラグを表示しても良い(S53)。
【0044】
自動分析装置100は上記構成に加えて、感受性検査装置111を備えてもよい。コンピュータ110は、感受性検査装置111を制御することにより、感受性検査を自動的に実施する。これにより、S10からS54までに至る全工程を自動的に実施することができる。感受性検査の内容としては、実施形態1で説明したもののほか、後述する実施例において説明する最小発育阻止濃度などを測定することもできる。
【0045】
<実施形態3>
実施形態1~2で説明した、血液試料内の血中細菌濃度を調整する方法は、元の血液中に含まれる赤血球の量によってある程度の影響を受けると考えられる。ヒトの赤血球の濃度は、性別や健康状態によっても異なるが、3×109~6×109個/mL程度であり、細菌の濃度範囲106~1010個/mLと比較すると、その変動は極めて小さい。従って推定した血中細菌濃度の結果に対する影響は少ないと考えられる。ただし、別の血球分析等により事前に赤血球濃度やヘマトクリット値などのように不純物量の別検出結果が求められている場合には、その値を用いてステップS51の結果を補正することもできる。これによりさらに正確に推定された血中細菌濃度を算出できる。補正手順としては例えば以下のようなものが考えられる。
【0046】
(補正手順1)
図5の手順を作業者またはコンピュータ110が実施することによって推定した血中細菌濃度が異常値である(あらかじめ定めた許容範囲を逸脱している)場合、フィルタ画像を用いて推定する不純物量に代えて、別検出結果を用いる。すなわち別検出結果を用いて対応関係データを参照することにより、血中細菌濃度を推定する。
【0047】
(補正手順2)
図5の手順を作業者またはコンピュータ110が実施することによってフィルタ上の不純物量を1回以上推定し、さらに別検出結果も取得する。これら複数の不純物量のうち異常値を除いたものを平均することにより、最終的な不純物量を求める。その不純物量を用いて対応関係データを参照することにより、推定される血中細菌濃度を算出する。
【0048】
上記補正手順においては、不純物量を計測した別検出結果を用いて対応関係データを参照する。従って対応関係データは、その不純物量と実際の血中細菌濃度との間の対応関係を記述しておく必要がある。例えばフィルタ画像の彩度値とこれに対応する不純物量を対応関係データ内に併記することもできるし、彩度値と不純物量との間の変換式をあらかじめ定義しておいてその変換式を用いて別検出結果を彩度値に変換することもできる。すなわち対応関係データは、フィルタ上に残った不純物量を何らかの形式で表す値と、血液試料内の実際の血中細菌濃度との間の対応関係を記述すればよい。
【0049】
実施形態1~2においては、フィルタに残った赤血球を検出するためにフィルタ画像の彩度値を用いた。カメラ106の代わりに赤色に相当する特定波長の吸収や反射を検知する光センサを用いることもできる。すなわち、フィルタ上に残る不純物のRGB成分のうち最も大きいものを少なくとも検出することができる光学センサを用いることにより、カメラ106が撮像した画像の彩度値と同様の情報を得ることができる。この場合は対応関係データも彩度値に代えて、光学センサが計測する数値を記述する必要がある。あるいは色見本を元に人間が目視で不純物量を計測し、その計測結果に基づき対応関係データを参照してもよい。さらには色見本自体が不純物の色と血中細菌濃度との間の対応関係を記述してもよい。
【0050】
<実施例1>
本発明の実施例1では、本発明に係る前処理方法の優位性に関して、比較例とともに説明する。本実施例1では、濁度計測を用いた濃度調整と本発明による濃度調整で、感受性検査の推奨細菌濃度範囲に調整を行い比較した。濁度計測の場合には波長600nmの吸光度計測を用いた。本発明による濃度調整の場合には
図1に示した前処理方法を用いた。使用した細菌、界面活性剤の種類および濃度などは実施形態1と同じである。
【0051】
図7は、
図1に示した前処理方法により得られた菌液から、従来の細菌検査前処理において用いられる濁度計測により細菌濃度を調整した結果を示す。ハッチング領域は、米国臨床検査標準化機構によって定められた、感受性検査を実施する際の推奨細菌濃度範囲である。このハッチングの範囲は5×10
5CFU/mL(±60%)の領域であり、この中央値である5×10
5CFU/mLになるよう調整を試みた。具体的には、マクファーランド比濁法により、菌数濃度が1.5×10
8CFU/mLに相当するマクファーランド濁度0.5に調整した菌液を300倍希釈した。
【0052】
血液試料内の菌濃度が10
8CFU/mL以上ある場合には所望の濃度範囲付近に調整することが可能であるが、血液試料内の菌濃度が10
6~10
7CFU/mLの場合には、調整後の菌数は1~2桁低下してしまう。この理由は、ステップS11およびステップS12で除去できなかったヘモグロビンや培地中に含まれる微粒子等が散乱光増加に寄与することにより、細菌濃度が低いにも関わらず濁度の値が高くなるからである。従って、細菌濃度を過剰に見積ってしまうので、濁度計測を用いることによって細菌濃度を調整するのは困難である。このことは
図7のプロットが、推奨細菌濃度範囲を示すハッチング領域に全く収まっていないことからも明らかである。
【0053】
図8は、
図5に示した方法を用いて推定される血中細菌濃度から濃度調整を行った結果を示す。
図7と比較すると、血液試料内の実際の血中細菌菌濃度が10
6~10
7CFU/mLの場合であっても調整後の細菌濃度は低下せず、概ねハッチングの範囲に収まっている。また
図8は、同じ対応関係データに基づいて、大腸菌と黄色ブドウ球菌を前処理した結果を示す。
図8によれば、グラム陰性菌およびグラム陽性菌という性状の大きく異なる菌であっても、1つの対応関係データに基づいて、調整後の細菌濃度を一定範囲内に収めることが可能であることを示す。より正確に濃度を調整したい場合には、細菌種毎に対応関係データを保有しておき、細菌種に対応する対応関係データを参照することが好ましい。
【0054】
<実施例2>
本発明の実施例2では、大腸菌を用いて、血液培養陽性試料から本発明に係る前処理法により細菌濃度調整を行った例を示す。比較例として、1昼夜の分離培養によりコロニーから菌液を作成した場合の増殖度を用いる。血液培養陽性試料内の菌濃度は107~109CFU/mLまでの3種類の異なるものを用い、最終的な菌濃度が5×105CFU/mLとなるように調整した。コロニーから菌液を作成した場合にも、最終的な菌濃度が5×105CFU/mLとなるように濁度計測を用いて調整した。試料を96穴プレートに50μL分注し、2倍の濃さで調整したミューラーヒントン培地も50μL分注した。その後、96穴プレートを35~37℃のインキュベータの中に入れ、増殖の様子を明視野顕微鏡で観察した。増殖度に関しては、顕微鏡画像中の細菌と判定された領域の面積を増殖度の指標として用い、増殖度の経時変化を算出した。
【0055】
図9は、血液培養陽性試料およびコロニーから作成した試料の増殖度を示す。血液培養陽性_1と分離培養_1との間には、細菌増殖度が立ち上がる時間が約0.5時間の差があるものの、最終的な増殖度は概ね一致している。血液培養陽性_2と血液培養陽性_3についても同様である。このことは、血液培養陽性試料を前処理した場合であっても、コロニーから調整された細菌濃度と同程度に調整できており、かつ感受性検査にあたり細菌の発育に影響が無いことを示している。
【0056】
<実施例3>
本発明の実施例3では、実施例2の大腸菌を黄色ブドウ球菌に変更した場合の結果について説明する。
【0057】
図10は、血液培養陽性試料およびコロニーから作成した試料の増殖度を示す。実施例2と同様、血液培養陽性と分離培養との間で最終的な増殖度は一致している。従って実施例2と同様に、血液培養陽性試料を前処理した場合であっても、コロニーから調整された細菌濃度と同程度に調整できており、かつ感受性検査にあたり細菌の発育に影響が無いことを示している。
【0058】
<実施例4>
本発明の実施例4では、血液培養陽性試料およびコロニーから作成した試料の両者で薬剤感受性検査を実施した結果を示す。感受性検査においては、薬剤が細菌に抗菌作用を示す濃度のうち最も低い濃度(最小発育阻止濃度、Minimum Inhibitory Concentration:MIC)を測定する。ここでは、感受性検査には微量液体希釈法を用いた。菌液および異なる濃度の薬剤を混合し、培養した96穴プレートの各ウェルの18時間後の濁度を目視判定することによりMICを判定した。
【0059】
図11は、薬剤感受性検査を実施した結果を示す。
図10においては1例として、大腸菌に関してはセフェピム(CFPM)、セフォタキシム(CTX)、ゲンタマイシン(GM)、レボフロキサシン(LVFX)を作用させ、黄色ブドウ球菌に関してはエリスロマイシン(EM)、オキサシリン(MPIPC)、ペニシリンG(PCG)、バンコマイシン(VCM)を作用させた。
【0060】
いずれの場合においても、血液培養試料を前処理した場合のMICは、コロニーから作成した試料の場合のMICの±1管(倍または半分)の範囲内に収まっており、血液培養試料を前処理した試料からでも正しく感受性検査ができることを表している。
【0061】
図11においては微量液体希釈法を用いてMICを判定する例を示したが、
図8~
図9で得られているように顕微鏡画像を用いた迅速感受性検査によりMICを判定してもよいし、その他にレーザ光による迅速感受性検査を実施してもよい。
【0062】
<本発明の変形例について>
以上の実施形態において、フィルタ領域20の彩度値の平均値を用いて対応関係データを参照することを説明したが、平均値に代えて最大値または最頻値を用いてもよい。あるいは彩度値に代えて、色相/明度/彩度のうち少なくとも2つによって表される特徴量によって、フィルタ上に残った不純物量を表してもよい。
【0063】
以上の実施形態において、血液試料に含まれる血球を不純物として検出する例を説明したが、その他の細菌試料においても本発明を用いることができる。すなわち、フィルタ上に残った不純物を撮像することによって得られる画像情報と試料内の細菌濃度との間に対応関係がある試料であれば、本発明を用いることができる。不純物を破壊するために加える物質は、不純物の種類によって適宜変えればよい。
【符号の説明】
【0064】
100:自動分析装置
101:導入装置
102:遠心分離器
103:洗浄部
104:洗浄用ピペット
105:ろ過フィルタ部
106:カメラ
107:記憶部
108:希釈部
109:希釈用ピペット
110:コンピュータ