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特許7371302セルロース繊維強化樹脂複合体、セルロース繊維強化樹脂複合体の製造方法、及びセルロース繊維強化樹脂成形体
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  • 特許-セルロース繊維強化樹脂複合体、セルロース繊維強化樹脂複合体の製造方法、及びセルロース繊維強化樹脂成形体 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-20
(45)【発行日】2023-10-30
(54)【発明の名称】セルロース繊維強化樹脂複合体、セルロース繊維強化樹脂複合体の製造方法、及びセルロース繊維強化樹脂成形体
(51)【国際特許分類】
   C08L 23/10 20060101AFI20231023BHJP
   C08F 8/42 20060101ALI20231023BHJP
   C08J 5/04 20060101ALI20231023BHJP
   C08L 1/02 20060101ALI20231023BHJP
   C08L 23/26 20060101ALI20231023BHJP
【FI】
C08L23/10
C08F8/42
C08J5/04 CES
C08L1/02
C08L23/26
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2023539138
(86)(22)【出願日】2023-03-28
(86)【国際出願番号】 JP2023012647
【審査請求日】2023-07-12
(31)【優先権主張番号】P 2022054017
(32)【優先日】2022-03-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000005290
【氏名又は名称】古河電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002631
【氏名又は名称】弁理士法人イイダアンドパートナーズ
(74)【代理人】
【識別番号】100076439
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 敏三
(74)【代理人】
【識別番号】100161469
【弁理士】
【氏名又は名称】赤羽 修一
(74)【代理人】
【識別番号】100198328
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 幸恵
(72)【発明者】
【氏名】金 宰慶
(72)【発明者】
【氏名】木下 裕貴
(72)【発明者】
【氏名】伊倉 幸広
(72)【発明者】
【氏名】中島 康雄
(72)【発明者】
【氏名】須山 健一
【審査官】堀内 建吾
(56)【参考文献】
【文献】特開平03-072543(JP,A)
【文献】国際公開第2018/180469(WO,A1)
【文献】国際公開第2022/014539(WO,A1)
【文献】国際公開第2008/053817(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 23/10
C08F 8/42
C08J 5/04
C08L 1/02
C08L 23/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリオレフィン樹脂とアルコキシシラン変性ポリプロピレン樹脂とを含有する熱可塑性樹脂100質量部に対してセルロース繊維を101~400質量部含有し、
平面視観察において、前記セルロース繊維の凝集体の総面積が1.00mm/cm以下である、セルロース繊維強化樹脂複合体。
【請求項2】
前記アルコキシシラン変性ポリプロピレン樹脂が、エチレン性不飽和基を含有する基とアルコキシシリル基とを有するシランカップリング剤によるポリプロピレン樹脂のグラフト変性物である、請求項1に記載のセルロース繊維強化樹脂複合体。
【請求項3】
前記セルロース繊維強化樹脂複合体中、前記アルコキシシラン変性ポリプロピレン樹脂の含有量が0.1~20質量%である、請求項1又は2に記載のセルロース繊維強化樹脂複合体。
【請求項4】
前記セルロース繊維が未変性のセルロース繊維である、請求項1~3のいずれか1項に記載のセルロース繊維強化樹脂複合体。
【請求項5】
前記セルロース繊維が、植物由来のセルロース繊維である、請求項1~4のいずれか1項に記載のセルロース繊維強化樹脂複合体。
【請求項6】
前記ポリオレフィン樹脂がポリプロピレン樹脂を含む、請求項1~5のいずれか1項に記載のセルロース繊維強化樹脂複合体。
【請求項7】
前記セルロース繊維強化樹脂複合体の曲げ強度が、前記ポリオレフィン樹脂の曲げ強度より高い、請求項1~6のいずれか1項に記載のセルロース繊維強化樹脂複合体。
【請求項8】
前記のセルロース繊維の凝集体の総面積が0.15~0.90mm/cmである、請求項1~7のいずれか1項に記載のセルロース繊維強化樹脂複合体。
【請求項9】
前記セルロース繊維の含有量が前記熱可塑性樹脂100質量部に対して101質量部以上110質量部未満であり、前記のセルロース繊維の凝集体の総面積が0.15~0.80mm/cmであり、[前記セルロース繊維の含有量]/[前記アルコキシシラン変性ポリプロピレン樹脂の含有量]=5~55である、請求項1~7のいずれか1項に記載のセルロース繊維強化樹脂複合体。
【請求項10】
前記セルロース繊維の含有量が前記熱可塑性樹脂100質量部に対して110質量部以上130質量部未満であり、前記のセルロース繊維の凝集体の総面積が0.15~0.80mm/cmであり、[前記セルロース繊維の含有量]/[前記アルコキシシラン変性ポリプロピレン樹脂の含有量]=5~55である、請求項1~7のいずれか1項に記載のセルロース繊維強化樹脂複合体。
【請求項11】
前記セルロース繊維の含有量が前記熱可塑性樹脂100質量部に対して130質量部以上150質量部未満であり、前記のセルロース繊維の凝集体の総面積が0.15~0.80mm/cmであり、[前記セルロース繊維の含有量]/[前記アルコキシシラン変性ポリプロピレン樹脂の含有量]=5~55である、請求項1~7のいずれか1項に記載のセルロース繊維強化樹脂複合体。
【請求項12】
前記セルロース繊維の含有量が前記熱可塑性樹脂100質量部に対して150質量部以上200質量部未満であり、前記のセルロース繊維の凝集体の総面積が0.20~1.00mm/cmであり、[前記セルロース繊維の含有量]/[前記アルコキシシラン変性ポリプロピレン樹脂の含有量]=6~20である、請求項1~7のいずれか1項に記載のセルロース繊維強化樹脂複合体。
【請求項13】
前記セルロース繊維の含有量が前記熱可塑性樹脂100質量部に対して200質量部以上280質量部未満であり、前記のセルロース繊維の凝集体の総面積が0.20~1.00mm/cmであり、[前記セルロース繊維の含有量]/[前記アルコキシシラン変性ポリプロピレン樹脂の含有量]=6~20である、請求項1~7のいずれか1項に記載のセルロース繊維強化樹脂複合体。
【請求項14】
請求項1~13のいずれか1項に記載のセルロース繊維強化樹脂複合体を用いたセルロース繊維強化樹脂成形体。
【請求項15】
記熱可塑性樹脂と前記セルロース繊維とを水の存在下で溶融混合する工程を含む、請求項1~13のいずれか1項に記載のセルロース繊維強化樹脂複合体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セルロース繊維強化樹脂複合体、セルロース繊維強化樹脂複合体の製造方法、及びセルロース繊維強化樹脂成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
セルロース繊維は、すべての植物に含まれる無尽蔵ともいうべき天然資源であり、また、軽量でありながら高強度であることから、樹脂と複合化して自動車部品や構造材への適用が検討されている。
しかし、セルロース繊維強化樹脂の実用化にあたっては、親水性の高いセルロース繊維と、ポリオレフィン樹脂のような疎水性の高い樹脂との一体性を十分に高める必要があり、セルロース繊維による樹脂の強化(補強)作用の向上には制約がある。
そこで、セルロース繊維による強化作用を高めるために、相溶化剤を添加し、セルロース繊維と疎水性樹脂との界面の密着性を向上させることが提案されている。
例えば、特許文献1は、ポリプロピレン樹脂、アルコキシシラン変性ポリプロピレン樹脂、及びセルロース繊維を含むセルロース繊維強化樹脂複合体を開示している。この樹脂複合体によれば、高温高湿環境下において、機械強度の劣化を生じにくいとされる。
【0003】
持続可能な社会の実現に向けて、昨今は脱プラスチックの機運が世界的に高まっており、プラスチックの使用量を極力削減し、環境負荷の低減を実現する素材として、木質材料としてセルロース繊維を多量に含む樹脂複合体が注目されている。
セルロース繊維強化樹脂複合体については、従来は、樹脂に少量のセルロース繊維を分散させた樹脂複合体(樹脂組成物)を中心に検討がなされてきた。しかし、環境負荷低減(カーボンニュートラル)の観点から、プラスチックをできる限り木質材料に置き換えすることが試みられるようになってきた。すなわち、セルロース繊維を多量に(例えば、樹脂複合体の50質量%以上)含有する樹脂複合体の創出が望まれており、その実現に向けて検討がなされるようになってきた。
例えば、特許文献2は、セルロースファイバーと合成樹脂との合計100質量部中に、セルロースファイバーを50~85質量部含有する樹脂複合体を開示している。この樹脂複合体によれば、安定かつ自由に着色できる表面を形成できるとされる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開第2022/014539号
【文献】特開2020-158751号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者らが、樹脂と多量のセルロース繊維とを含むセルロース繊維強化樹脂複合体を、相溶化剤を配合して製造する方法について検討したところ、一般に汎用されている相溶化剤を用いた場合に得られるセルロース繊維強化樹脂複合体の機械強度の向上には制約があること、また、特定の相溶化剤によりセルロース繊維強化樹脂複合体の機械強度を所望のレベルへと高めることができても、この樹脂複合体は見た目でセルロース繊維の凝集物をはっきりと認識できるものとなることがわかってきた。セルロース繊維強化樹脂複合体におけるセルロース繊維の凝集物の顕在化は、種々の成形体の材料として適用する場合に、美観の観点から適用範囲が制限されることが懸念される。特許文献1においても凝集体の生成に起因する外観不良について検討しているが、最大径3mmといった比較的大きな凝集体の抑制を検討しているに留まる。
【0006】
本発明は、機械強度に優れ、かつ、外観にも優れ、種々の成形体の材料として好適なセルロース繊維強化樹脂複合体及びその製造方法、並びに、このセルロース繊維強化樹脂複合体を用いたセルロース繊維強化樹脂成形体を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、熱可塑性樹脂及び多量のセルロース繊維を含有するセルロース繊維強化樹脂複合体について、上記技術課題を解決すべく検討したところ、アルコキシシラン変性ポリプロピレン樹脂を相溶化剤として適用した上で、水の存在下で溶融混合することにより、得られるセルロース繊維強化樹脂複合体の機械強度を効果的に高めることができること、さらに、このセルロース繊維の凝集体の形成も効果的に抑えられ、外観に優れたものとできることを見出した。本発明は、これらの知見に基づきさらに検討を重ね、完成されるに至ったものである。
【0008】
すなわち、本発明の上記課題は、以下の手段によって解決された。
〔1〕
ポリオレフィン樹脂とアルコキシシラン変性ポリプロピレン樹脂とを含有する熱可塑性樹脂100質量部に対してセルロース繊維を101~400質量部含有し、
平面視観察において、前記セルロース繊維の凝集体の総面積が1.00mm/cm以下である、セルロース繊維強化樹脂複合体。
〔2〕
前記アルコキシシラン変性ポリプロピレン樹脂が、エチレン性不飽和基を含有する基とアルコキシシリル基とを有するシランカップリング剤によるポリプロピレン樹脂のグラフト変性物である、〔1〕に記載のセルロース繊維強化樹脂複合体。
〔3〕
前記セルロース繊維強化樹脂複合体中、前記アルコキシシラン変性ポリプロピレン樹脂の含有量が0.1~20質量%である、〔1〕又は〔2〕に記載のセルロース繊維強化樹脂複合体。
〔4〕
前記セルロース繊維が未変性のセルロース繊維である、〔1〕~〔3〕のいずれか1項に記載のセルロース繊維強化樹脂複合体。
〔5〕
前記セルロース繊維が、植物由来のセルロース繊維である、〔1〕~〔4〕のいずれか1項に記載のセルロース繊維強化樹脂複合体。
〔6〕
前記ポリオレフィン樹脂がポリプロピレン樹脂を含む、〔1〕~〔5〕のいずれか1項に記載のセルロース繊維強化樹脂複合体。
〔7〕
前記セルロース繊維強化樹脂複合体の曲げ強度が、前記ポリオレフィン樹脂の曲げ強度より高い、〔1〕~〔6〕のいずれか1項に記載のセルロース繊維強化樹脂複合体。
〔8〕
前記のセルロース繊維の凝集体の総面積が0.15~0.90mm/cmである、〔1〕~〔7〕のいずれか1項に記載のセルロース繊維強化樹脂複合体。
〔9〕
前記セルロース繊維の含有量が前記熱可塑性樹脂100質量部に対して101質量部以上110質量部未満であり、前記のセルロース繊維の凝集体の総面積が0.15~0.80mm/cmであり、[前記セルロース繊維の含有量]/[前記アルコキシシラン変性ポリプロピレン樹脂の含有量]=5~55である、〔1〕~〔7〕のいずれか1項に記載のセルロース繊維強化樹脂複合体。
〔10〕
前記セルロース繊維の含有量が前記熱可塑性樹脂100質量部に対して110質量部以上130質量部未満であり、前記のセルロース繊維の凝集体の総面積が0.15~0.80mm/cmであり、[前記セルロース繊維の含有量]/[前記アルコキシシラン変性ポリプロピレン樹脂の含有量]=5~55である、〔1〕~〔7〕のいずれか1項に記載のセルロース繊維強化樹脂複合体。
〔11〕
前記セルロース繊維の含有量が前記熱可塑性樹脂100質量部に対して130質量部以上150質量部未満であり、前記のセルロース繊維の凝集体の総面積が0.15~0.80mm/cmであり、[前記セルロース繊維の含有量]/[前記アルコキシシラン変性ポリプロピレン樹脂の含有量]=5~55である、〔1〕~〔7〕のいずれか1項に記載のセルロース繊維強化樹脂複合体。
〔12〕
前記セルロース繊維の含有量が前記熱可塑性樹脂100質量部に対して150質量部以上200質量部未満であり、前記のセルロース繊維の凝集体の総面積が0.20~1.00mm/cmであり、[前記セルロース繊維の含有量]/[前記アルコキシシラン変性ポリプロピレン樹脂の含有量]=6~20である、〔1〕~〔7〕のいずれか1項に記載のセルロース繊維強化樹脂複合体。
〔13〕
前記セルロース繊維の含有量が前記熱可塑性樹脂100質量部に対して200質量部以上280質量部未満であり、前記のセルロース繊維の凝集体の総面積が0.20~1.00mm/cmであり、[前記セルロース繊維の含有量]/[前記アルコキシシラン変性ポリプロピレン樹脂の含有量]=6~20である、〔1〕~〔7〕のいずれか1項に記載のセルロース繊維強化樹脂複合体。
〔14〕
〔1〕~〔13〕のいずれか1項に記載のセルロース繊維強化樹脂複合体を用いたセルロース繊維強化樹脂成形体。
〔15〕
前記熱可塑性樹脂と前記セルロース繊維とを水の存在下で溶融混合する工程を含む、〔1〕~〔13〕のいずれか1項に記載のセルロース繊維強化樹脂複合体の製造方法。
【0009】
本発明の説明において「~」とは、その前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む意味で使用される。
【発明の効果】
【0010】
本発明のセルロース繊維強化樹脂複合体及びセルロース繊維強化樹脂成形体は、機械強度に優れ、かつ、外観にも優れ、種々の成形体の材料として好適である。本発明のセルロース繊維強化樹脂複合体の製造方法は、上記セルロース繊維強化樹脂複合体を製造するのに好適な方法である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】輝度のしきい値の一例を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
〔セルロース繊維強化樹脂複合体〕
本発明のセルロース繊維強化樹脂複合体(以下、「本発明の樹脂複合体」とも称す。)は、熱可塑性樹脂としてポリオレフィン樹脂とアルコキシシラン変性ポリプロピレン樹脂とを含有し、この熱可塑性樹脂100質量部に対してセルロース繊維を101~400質量部含有する。本発明の樹脂複合体は、その平面視観察において、セルロース繊維の凝集体の総面積が1.00mm/cm以下である。本発明の樹脂複合体は、アルコキシシラン変性ポリプロピレン樹脂を用いたことにより、後述のように、セルロース繊維の強化作用を効率よく引き出すことができ、また、外観にも優れる。
【0013】
本発明のセルロース繊維強化樹脂複合体は、少なくとも一部のアルコキシシラン変性ポリプロピレン樹脂とセルロース繊維との縮合物を含有している。より具体的には、本発明の樹脂複合体は、アルコキシシラン変性ポリプロピレン樹脂が有するアルコキシシリル基とセルロース繊維の水酸基との脱アルコール縮合反応による縮合物、及び/又は、アルコキシシラン変性ポリプロピレン樹脂が有するアルコキシシリル基の加水分解により生じるシラノール基とセルロース繊維の水酸基等との脱水縮合による縮合物を含有する。このため、アルコキシシラン変性ポリプロピレン樹脂とセルロース繊維との界面の密着性を十分に高めることができ、結果、樹脂複合体中においてセルロース繊維の強化作用を効果的に引き出すことができる。さらに、本発明のセルロース繊維強化樹脂複合体はアルコキシシリル基/シラノール基同士の脱アルコール/脱水縮合反応による縮合物を含有していてもよい。この場合は、アルコキシシラン変性ポリプロピレン樹脂とセルロース繊維との反応点を介したネットワークを形成することができる。本発明のセルロース繊維強化樹脂複合体は、脱アルコール/脱水縮合反応を生じていないアルコキシシラン変性ポリプロピレン樹脂や、脱アルコール/脱水縮合反応を生じていないセルロース繊維を含有していてもよい。さらに、上記アルコキシシリル基/シラノール基とセルロース繊維とは、脱アルコール/脱水縮合反応に加え、水素結合等で結合していてもよい。
【0014】
本発明の樹脂複合体は、平面視観察において、セルロース繊維の凝集体の総面積が1.00mm/cm以下である。このように、本発明の樹脂複合体は、セルロース繊維の凝集体の形成が大幅に抑制されており、樹脂成形体とした際に外観に優れる。
上記のセルロース繊維の凝集体の総面積は、0.90mm/cm以下が好ましく、0.80mm/cm以下がより好ましく、0.75mm/cm以下がさらに好ましく、0.70mm/cm以下がさらに好ましい。また、この総面積は0.60mm/cm以下であってもよく、0.50mm/cm以下であってもよく、0.40mm/cm以下であってもよく、0.30mm/cm以下であってもよく、0.20mm/cm以下であってもよく、0.10mm/cm以下であってもよく、0.08mm/cm以下であってもよく、0.05mm/cm以下であってもよく、0.03mm/cm以下であってもよい。凝集体は形成されないことが好ましいため、凝集体の総面積の下限は特に限定されないが、通常は0.01mm/cm以上であり、0.10mm以上が実際的である。
上記のセルロース繊維の凝集体の総面積は、好ましくは0.10~1.00mm/cm、より好ましくは0.15~0.90mm/cm、さらに好ましくは0.20~0.80mm/cm、さらに好ましくは0.20~0.70mm/cm、さらに好ましくは0.20~0.60mm/cm、さらに好ましくは0.20~0.55mm/cmである。
セルロース繊維の凝集体の総面積は、実施例に記載の方法で測定することができる。
セルロース繊維の凝集体の総面積は、本発明の樹脂複合体の製造方法において、熱可塑性樹脂とセルロース繊維との溶融混合を、水の存在下で行うことにより、上記範囲に制御することができる。本発明の樹脂複合体の製造方法については後述する。
【0015】
セルロース繊維の凝集体は、平面視観察において、平均円相当径が0.5mm以下であることが好ましく、0.3mm以下であることがより好ましく、0.29mm以下であることがより好ましく、0.25mm以下であることがさらに好ましく、0.23mm以下であることがさらに好ましい。平均円相当径は、実施例に記載の方法で測定することができる。
【0016】
本発明の樹脂複合体は、本発明の樹脂複合体を構成するポリオレフィン樹脂と同じポリオレフィン樹脂単体に比較して、曲げ強度が高められていることが好ましい。本発明の樹脂複合体の曲げ強度は、本発明の樹脂複合体を構成するポリオレフィン樹脂と同じポリオレフィン樹脂単体の曲げ強度の1.2倍以上であることが好ましく、1.3倍以上であることがより好ましく、1.4倍以上であることがさらに好ましく、1.5倍以上であることが特に好ましい。
曲げ強度は、JIS K7171:2022に準拠して測定される。
また、本発明の樹脂複合体は、本発明の樹脂複合体を構成するポリオレフィン樹脂と同じポリオレフィン樹脂単体に比較して、引張強度が高められていることが好ましい。本発明の樹脂複合体の引張強度は、本発明の樹脂複合体を構成するポリオレフィン樹脂と同じポリオレフィン樹脂単体の引張強度の1.1倍以上であることが好ましく、1.2倍以上であることがより好ましく、1.3倍以上であることがさらに好ましく、1.5倍以上であることが特に好ましい。
引張強度は、JIS K7171:2014に準拠して測定される。
ここで、「本発明の樹脂複合体を構成するポリオレフィン樹脂と同じポリオレフィン樹脂単体」とは、本発明の樹脂複合体を構成するポリオレフィン樹脂(後述するポリオレフィン樹脂A)をいい、アルコキシシラン変性ポリプロピレン樹脂やセルロース繊維は含まない意味である。複合体が複数種のポリオレフィン樹脂Aをブレンドして含有する場合は、当該ブレンド樹脂を意味する。
「本発明の樹脂複合体を構成するポリオレフィン樹脂と同じポリオレフィン樹脂単体の曲げ強度」及び「本発明の樹脂複合体を構成するポリオレフィン樹脂と同じポリオレフィン樹脂単体の引張強度」とは、本発明の樹脂複合体を構成するポリオレフィン樹脂のみを用い、水を用いない以外は本発明の樹脂複合体と同じ溶融混合条件を経て調製した試験片を用いて測定した、曲げ強度及び引張強度である。
【0017】
以下、本発明のセルロース繊維強化樹脂複合体の構成成分、及び当該樹脂複合体の調製時に使用する材料について説明する。
【0018】
(熱可塑性樹脂)
本発明の樹脂複合体は、熱可塑性樹脂として、ポリオレフィン樹脂及びアルコキシシラン変性ポリプロピレン樹脂を含有する。本発明において、上記ポリオレフィン樹脂をベース樹脂とも称す。
【0019】
-ポリオレフィン樹脂-
ポリオレフィン樹脂(以下、ポリオレフィン樹脂Aとも称す。)としては、特に限定されず、オレフィン単独重合体でもよく、オレフィン共重合体でもよい。また、オレフィンと、オレフィン以外のモノマーとの共重合体でもよい。ポリオレフィン樹脂は、ポリマー構造中に、好ましくはプロピレン成分及び/又はエチレン成分を含むことが好ましい。ポリオレフィン樹脂は、ポリプロピレン樹脂及び/又はポリエチレン樹脂を含むことがより好ましく、ポリプロピレン樹脂を含むことがさらに好ましく、さらに好ましくはポリプロピレン樹脂である。本発明において「ポリプロピレン樹脂」という場合、プロピレン成分を含むポリオレフィンを意味し、プロピレンの単独重合体のほか、例えば、エチレン-プロピレン共重合体(ランダムコポリマーやブロックコポリマー)を包含する意味である。
ポリオレフィン樹脂として、1種類のポリオレフィン樹脂を用いても、2種類以上のポリオレフィン樹脂を用いてもよい。
ポリオレフィン樹脂は、融点が比較的低いものが多く、溶融混合時にセルロース繊維の劣化を抑制できる点で好ましい。
ベース樹脂として用いるポリオレフィン樹脂は、温度230℃、荷重2.16kgにおけるメルトフローレート(MFR)が、1~100g/10minであることが好ましく、10~50g/10minであることが好ましい。MFRはJIS K7210-1:2014に準じて測定することができる。
【0020】
-アルコキシシラン変性ポリプロピレン樹脂-
アルコキシシラン変性ポリプロピレン樹脂は、ベース樹脂とセルロース繊維との相溶化剤として作用する。
アルコキシシラン変性ポリプロピレン樹脂は、アルコキシシリル基をその主鎖中又はその末端に有するポリプロピレン樹脂が好ましい。アルコキシシラン変性ポリプロピレン樹脂は、ポリプロピレン樹脂を、アルコキシシリル基を有するシランカップリング剤(アルコキシシラン化合物)で変性することで調製されたものであってもよい。すなわち、アルコキシシラン変性ポリプロピレン樹脂は、アルコキシシリル基を有するシランカップリング剤が、ポリプロピレン樹脂にグラフト化反応したものとできる。アルコキシシラン変性ポリプロピレン樹脂は、後述する、エチレン性不飽和基を含有する基とアルコキシシリル基とを有するシランカップリング剤によるポリプロピレン樹脂のグラフト変性物であることが好ましい。
アルコキシシラン変性ポリプロピレン樹脂は、常法により合成でき、市販品を使用してもよい。
【0021】
上記アルコキシシラン変性ポリプロピレン樹脂の調製に用いるポリプロピレン樹脂原料としては、上述のポリオレフィン樹脂Aにおけるポリプロピレン樹脂を用いることができる。
アルコキシシラン変性ポリプロピレン樹脂の調製に用いるポリプロピレン樹脂は、温度230℃、荷重2.16kgにおけるメルトフローレート(MFR)が、1~50g/10minであることが好ましく、1~20g/10minであることが好ましい。アルコキシシラン変性ポリプロピレン樹脂の調製に用いるポリプロピレン樹脂のメルトフローレートはベース樹脂のメルトフローレートよりも小さいことが好ましい。
【0022】
上記アルコキシシラン変性ポリプロピレン樹脂の調製に用いるシランカップリング剤は、グラフト化のための官能基を有するアルコキシシラン化合物が好ましい。シランカップリング剤としては、有機過酸化物の分解により生じたラジカルの存在下で、ポリプロピレン樹脂にグラフト化反応しうる部位(基又は原子)と、アルコキシシリル基とを有するものを使用することができる。ポリプロピレン樹脂にグラフト化反応しうる部位としては、エチレン性不飽和基を含有する基が挙げられる。エチレン性不飽和基を含有する基としては、特に限定されないが、例えば、ビニル基、アリル基、(メタ)アクリロイルオキシ基、(メタ)アクリロイルオキシアルキレン基、p-スチリル基等が挙げられる。アルコキシシリル基としては、トリアルコキシシリル基、ジアルコキシシリル基、モノアルコキシシリル基のいずれの形態でもよく、トリアルコキシシラン化合物を用いることが好ましい。アルコキシシリル基のアルコキシ基は、炭素原子数1~6が好ましく、メトキシ基、エトキシ基がより好ましい。シランカップリング剤は、エチレン性不飽和基を含有する基とアルコキシシリル基とを有するものが好ましい。シランカップリング剤は、1種類を用いても、2種類以上を用いてもよい。
上記シランカップリング剤の具体例としては、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリブトキシシラン、ビニルジメトキシエトキシシラン、ビニルジメトキシブトキシシラン、ビニルジエトキシブトキシシラン、アリルトリメトキシシラン、アリルトリエトキシシラン、ビニルトリアセトキシシラン、トリメトキシ(4-ビニルフェニル)シラン等のビニルシラン化合物、(メタ)アクリル酸3-(トリメトキシシリル)プロピル、(メタ)アクリル酸3-(メチルジメトキシシリル)プロピル、(メタ)アクリル酸3-(メチルジエトキシシリル)プロピル、(メタ)アクリル酸3-(トリエトキシシリル)プロピル、(メタ)アクリル酸3-(メトキシジメチルシリル)プロピル等の(メタ)アクリルシラン化合物等が挙げられる。
中でも、ビニルトリメトキシシラン又は(メタ)アクリル酸(トリメトキシシリル)アルキルが特に好ましく、(メタ)アクリル酸(トリメトキシシリル)アルキル及びビニルトリメトキシシランの少なくとも1種を用いることができる。(メタ)アクリル酸(トリメトキシシリル)アルキルのアルキル基は、炭素原子数1~10が好ましく、1~6がより好ましく、2~4がさらに好ましく、プロピルが特に好ましい。引張強度を高める観点からは、メタクリル酸3-(トリメトキシシリル)プロピルを用いることが好ましい。
【0023】
上記アルコキシシラン変性ポリプロピレン樹脂の調製に用いる有機過酸化物は、少なくとも熱分解によりラジカルを発生する化合物を用いることができる。このラジカルがポリプロピレン樹脂ないしシランカップリング剤から水素原子を引き抜き、シランカップリング剤とポリプロピレン樹脂とのラジカル反応(グラフト化反応、付加反応)を生起させ、アルコキシシラン変性ポリプロピレン樹脂を生じる。
有機過酸化物としては、ラジカル重合反応に通常用いられるものを広く用いることができる。例えば、ベンゾイルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド(DCP)、2,5-ジメチル-2,5-ジ-(tert-ブチルパーオキシ)ヘキサン又は2,5-ジメチル-2,5-ジ-(tert-ブチルペルオキシ)ヘキシン-3が好ましい。有機過酸化物は、1種類を用いても、2種類以上を用いてもよい。
有機過酸化物の分解温度は、80~195℃が好ましく、125~180℃が特に好ましい。本発明において、有機過酸化物の分解温度とは、単一組成の有機過酸化物を加熱したとき、1分間のうちある一定の温度又は温度域でそれ自身が2種類以上の化合物に分解して濃度(質量)が半分となる温度(1分間半減期温度)を意味する。具体的には、DSC法等の熱分析により求めることができる。
【0024】
アルコキシシラン変性ポリプロピレン樹脂の調製において、ポリプロピレン樹脂に対するシランカップリング剤のグラフト化率は、本発明の効果を損なわない範囲であれば特に限定されない。アルコキシシラン変性ポリプロピレン樹脂におけるシランカップリング剤のグラフト化率は、例えば、0.1~20質量%であることが好ましく、1~5質量%であることがより好ましく、2~5質量%であることが特に好ましい。グラフト化率とは、ポリプロピレン100質量部(100%)に対するグラフト構造の部数(%)を意味する。
グラフト化率は、有機過酸化物の種類又は含有量、原料とするポリプロピレン樹脂やシランカップリング剤の種類や使用量等によって、所定の範囲に設定できる。
グラフト化率は、熱キシレン中で加熱溶解させたアルコキシシラン変性ポリプロピレン樹脂を、アセトン中に滴下し再沈殿することで未反応のモノマー成分を除去し、このようにして再沈殿精製したアルコキシシラン変性ポリプロピレン樹脂に対してFT-IRを測定すると、ポリプロピレン由来のピークとグラフト構造由来のピークの強度比により、ポリプロピレン100質量%にグラフトしたグラフト構造を質量%換算で算出することができる。FT-IRにおいてアルコキシシリル基由来のピークとしては、1100cm-1付近にSi-O非対称伸縮振動由来のピーク、803cm-1付近にSi-O変角振動由来のピーク、1193cm-1にSi-C伸縮振動由来のピークを検出することができる。
【0025】
上記アルコキシシラン変性ポリプロピレン樹脂の好ましい形態は、その調製に用いるシランカップリング剤の種類の観点から、ビニルシラン化合物を用いて調製されたアルコキシシラン変性ポリプロピレン樹脂の態様(第一態様)と、(メタ)アクリルシラン化合物を用いて調製されたアルコキシシラン変性ポリプロピレン樹脂の態様(第二態様)とに区別することができる。
【0026】
アルコキシシラン変性ポリプロピレン樹脂は、その主鎖に、ビニル基を有する反応助剤がさらにグラフト化したものであってもよい。この形態は、第一態様及び第二態様のアルコキシシラン変性ポリプロピレン樹脂のいずれにも採用することができるが、第二態様のアルコキシシラン変性ポリプロピレン樹脂の場合に好ましい。
ビニル基を有する反応助剤としては、ビニル基を有し、かつラジカルの共鳴安定化効果がある置換基を有する化合物(上記シランカップリング剤に相当するものを除く)であれば特に限定されない。ここで化合物とは、その構造中に繰り返し単位を有する主鎖を有する形態を含まない意味である。
ビニル基を有する反応助剤のQ値は特に限定されず、0.010以上とでき、0.49~5.00であることが好ましく、0.54~5.00であることがより好ましく、0.54~4.38であることがより好ましく、0.8~4.38であることがより好ましく、0.96~4.38であることがより好ましい。ここでQ値とは、2種類のモノマーによるラジカル共重合反応における、モノマーの共鳴効果に関するパラメータをいう。本発明において、各反応助剤の具体的なQ値は、「プラスチック素材辞典」Q-e値(https://www.plastics-material.com/q-e%e5%80%a4/)等の文献の記載に基づくものである。Q値の、ラジカル重合反応における意義については、大津隆行、モノマーの構造と反応性 経験的パラメータとラジカル重合反応性、有機合成化学、第28巻第12号、p.1183-1196、1970を参照することができる。この文献には、Q値が大きい共役モノマーはモノマーとして高反応性であるがそのラジカルは低反応性であること、Q値の小さい非共役モノマーはモノマーとして低反応性であるがそのラジカルは高反応性であることが記載されている。また、Q値はスチレンを基準1.0としてスチレンとのラジカル共重合反応における生長反応の反応速度定数から計算できることなどが記載されている。この文献に記載の方法を参照して、上記「プラスチック素材辞典」等の文献にQ値の記載のない化合物のQ値を求めることができる。
以下に、ビニル基を有する反応助剤の具体例を、そのQ値と共に記載する。一部の反応助剤についてはQ値を記載していない。
ビニル基を有する反応助剤としては、具体的には、スチレン化合物、ビニルピリジン化合物、アクリロニトリル(Q値:0.48)、(メタ)アクリル酸エステル化合物、(メタ)アクリルアミド化合物、脂肪酸ビニルエステル等を使用することができる。
スチレン化合物としては、スチレン(Q値:1.00)、2-メチルスチレン、3-メチルスチレン(Q値:1.57)、4-メチルスチレン(Q値:1.10)、α-メチルスチレン(Q値:0.97)等が挙げられる。
ビニルピリジン化合物としては、4-ビニルピリジン(Q値:2.47)等が挙げられる。
(メタ)アクリル酸エステル化合物としては、メタクリル酸グリシジル(Q値:0.96)、メタクリル酸2-ヒドロキシプロピル(Q値:4.38)等が挙げられる。
脂肪酸ビニルエステルとしては、ラウリン酸ビニル(Q値:0.011)等が挙げられる。
機械強度を高める観点からは、ビニル基を有する反応助剤は、Q値が0.54~5.00である反応助剤であることが好ましい。
機械強度を高める観点からは、ビニル基を有する反応助剤は、スチレン化合物、又は(メタ)アクリル酸エステル化合物であることが好ましい。
【0027】
アルコキシシラン変性ポリプロピレン樹脂におけるビニル基を有する反応助剤のグラフト化率は、0.1~20質量%であることが好ましく、1~5質量%であることがより好ましい。ビニル基を有する反応助剤のグラフト化率は、熱キシレン中で加熱溶解させたアルコキシシラン変性ポリプロピレン樹脂を、アセトン中に滴下し再沈殿することで未反応のモノマー成分を除去し、FT-IRを測定すると、ポリプロピレン樹脂にグラフトした、ビニル基を有する反応助剤のモノマー量を質量%換算で算出することができる。
【0028】
グラフト反応においてビニル基を有する反応助剤を共存させたアルコキシシラン変性ポリプロピレン樹脂においては、樹脂が安定化したり、シランカップリング剤のグラフト反応が効率化したりすると考えられる。その理由は定かではないが、アルコキシシラン変性ポリプロピレン樹脂の調製時において、これらの反応助剤がポリプロピレン樹脂にグラフトすると、ポリプロピレン樹脂に生じたポリマーラジカルを共鳴安定化しグラフト反応の副反応であるポリプロピレン樹脂の鎖切断を抑制したり、(メタ)アクリルシラン化合物との共重合反応によりシランカップリング剤の導入効率が高められたりすることが一因と考えられる。
【0029】
(セルロース繊維)
本発明で使用するセルロース繊維の由来は特に限定されず、例えば、木材、竹、麻、ジュート、ケナフ、農作物残廃物(例えば、麦や稲などの藁、とうもろこし、綿花などの茎、サトウキビ)、布、再生パルプ、古紙などを原料として得られるセルロース繊維が挙げられる。パルプは、紙の原料ともなるもので、植物から抽出される仮道管を主成分とする。化学的に見ると、主成分は多糖類であり、その主成分はセルロースである。本発明に用いるセルロース繊維としては、木材由来のセルロース繊維が特に好ましい。
また、上記セルロース繊維としては、特に制限なく、任意の製造方法により得られたセルロース繊維を使用することができる。例えば、物理的な力で粉砕処理を行う機械処理や、クラフトパルプ法、サルファイドパルプ法、アルカリパルプ法等の化学処理、これらの処理の併用により得られるセルロース繊維が挙げられる。上記化学処理では、木材等の植物原料から、苛性ソーダなどの薬品を用いることによって、リグニン及びヘミセルロース等を除去し、純粋に近いセルロース繊維を取り出すことができる。このようにして得られるセルロース繊維を、パルプ繊維とも称す。
【0030】
本発明に用いるセルロース繊維としては、機械特性を向上させる点から、化学処理により調製されたセルロース繊維が好ましく、クラフトパルプ法により調製されたセルロース繊維がより好ましい。本発明の樹脂複合体中に含まれるセルロース繊維は、1種であってもよく、2種以上であってもよい。
【0031】
本発明で使用するセルロース繊維の断面の直径は1~30μmが好ましく、1~25μmがより好ましく、5~20μmがさらに好ましい。また長さ(繊維長)は10~2200μmが好ましく、50~1000μmがより好ましい。なお、セルロース繊維のサイズが少なくとも上記範囲内であれば、当該サイズは、後述する溶融混合を経て得られる樹脂複合体において、セルロース繊維の凝集体の総面積には実質的に影響しない。
【0032】
本発明の樹脂複合体に含まれるセルロース繊維の上記直径の測定は、走査型電子顕微鏡(SEM)や繊維分析計により行うことができる。セルロース繊維の繊維長の測定もSEM観察により行うことができる。繊維長のSEM観察による測定においては、本発明の樹脂複合体中の樹脂成分を熱キシレンを用いて溶出させた残渣をステージの上にのせ、蒸着などの処理を行った上でSEM観察を行うことにより、繊維長を測定することができる。
【0033】
本発明で原料として使用するセルロース繊維は、未変性のセルロース繊維であることが好ましい。ここで「未変性のセルロース繊維」とは、セルロース繊維に対してシランカップリング剤、TEMPO(2,2,6,6-テトラメチルピペリジン1-オキシル)、酢酸、アルケニル無水コハク酸などを用いた変性処理を行っていないものをいう。ただし、変性のセルロース繊維が、溶融混合工程において、未反応のセルロース繊維が反応して変性状態となっている形態は、本発明の樹脂複合体に包含されるものである。
【0034】
(各成分の含有量)
本発明の樹脂複合体において、セルロース繊維の含有量は、熱可塑性樹脂100質量部に対して101~400質量部であり、101~300質量部が好ましく、101~240質量部がより好ましく、103~240質量部がさらに好ましく、110~235質量部が特に好ましく、120~235質量部が最も好ましい。他の成分の含有量にもよるが、セルロース繊維の含有量を高めると機械強度は高くなる傾向である。一方で、セルロース繊維の含有量を高めると凝集体が形成されやすい傾向である。セルロース繊維の凝集物の総面積をより小さくする観点からは、セルロース繊維の含有量は、熱可塑性樹脂100質量部に対して103~160質量部とすることも好ましく、103~130質量部とすることも好ましく、103~120質量部とすることも好ましい。
本発明の樹脂複合体中のセルロース繊維の含有量は、樹脂複合体中において50.2~80.0質量%(上記101~400質量部に対応する質量%)ということもできる。
本発明の樹脂複合体中の熱可塑性樹脂の含有量は、20.0~49.8質量%が好ましく、29.0~49質量%がより好ましい。
本発明の樹脂複合体中のポリオレフィン樹脂Aの含有量は、20~49質量%であることが好ましく、25~48質量%であることがより好ましく、29~40質量%であることがより好ましく、29~36質量%であることがさらに好ましい。
樹脂複合体中のアルコキシシラン変性ポリプロピレン樹脂の含有量は、0.1~25質量%であることが好ましく、0.1~20質量%であることがより好ましく、0.5~20質量%であることがさらに好ましく、2.0~20質量%であることがさらに好ましく、4.5~20質量%であることがさらに好ましく、12~20質量%であることがさらに好ましい。なお、樹脂複合体中のアルコキシシラン変性ポリプロピレン樹脂の含有量とは、セルロース繊維と脱水縮合物を形成している形態のアルコキシシラン変性ポリプロピレン樹脂と、セルロース繊維と脱水縮合物を形成していないアルコキシシラン変性ポリプロピレン樹脂との合計量である。他の成分の含有量にもよるが、アルコキシシラン変性ポリプロピレン樹脂の含有量を高めると機械強度は高くなる傾向である。
また、アルコキシシラン変性ポリプロピレン樹脂の含有量に対するセルロース繊維の含有量の比の値(質量比)は、[セルロース繊維の含有量]/[アルコキシシラン変性ポリプロピレン樹脂の含有量]=2~55が好ましく、[セルロース繊維の含有量]/[アルコキシシラン変性ポリプロピレン樹脂の含有量]=2~30がより好ましく、[セルロース繊維の含有量]/[アルコキシシラン変性ポリプロピレン樹脂の含有量]=2~15がさらに好ましい。
【0035】
セルロース繊維の含有量とセルロース繊維の凝集体の総面積との好ましい関係を示すと、セルロース繊維の含有量が熱可塑性樹脂100質量部に対して101質量部以上110質量部未満、110質量部以上130質量部未満、又は130質量部以上150質量部未満の場合、セルロース繊維の凝集体の総面積は、好ましくは0.15~0.80mm/cm、より好ましくは0.20~0.80mm/cm、さらに好ましくは0.25~0.80mm/cm、さらに好ましくは0.30~0.80mm/cm、さらに好ましくは0.30~0.75mm/cmである。この場合において、上記の[セルロース繊維の含有量]/[アルコキシシラン変性ポリプロピレン樹脂の含有量]は5~55とすることができ、7~50とすることもでき、8~40とすることもでき、8~30とすることもでき、8~20とすることもできる。つまり、本発明の好ましい一実施形態では、セルロース繊維を多量に含む場合でも、セルロース繊維に対し、アルコキシシラン変性ポリプロピレン樹脂の使用量をある程度抑えても、セルロース繊維の凝集体の総面積が目的のレベルに抑えられている。
また、セルロース繊維の含有量が熱可塑性樹脂100質量部に対して150質量部以上200質量部未満の場合、又は、200質量部以上280質量部未満(好ましくは250質量部未満)の場合、セルロース繊維の凝集体の総面積は、好ましくは0.20~1.00mm/cm、より好ましくは0.30~1.00mm/cm、さらに好ましくは0.40~0.98mm/cm、さらに好ましくは0.50~0.98mm/cm、さらに好ましくは0.60~0.98mm/cm、さらに好ましくは0.60~0.95mm/cmである。この場合において、上記の[セルロース繊維の含有量]/[アルコキシシラン変性ポリプロピレン樹脂の含有量]は6~20とすることができ、7~18とすることもでき、8~17とすることもでき、9~16とすることもできる。このように、本発明の好ましい一実施形態では、セルロース繊維をかなり多量に含む場合でも、セルロース繊維に対し、アルコキシシラン変性ポリプロピレン樹脂の使用量をある程度抑えたうえで、セルロース繊維の凝集体の総面積が目的のレベルに抑えられている。
本発明の樹脂複合体における上記のセルロース繊維の含有量とセルロース繊維の凝集体の総面積との好ましい関係は、後述する水の存在下の溶融混合によって、適宜に水の量を制御して実現することができる。
【0036】
(その他の成分)
本発明の樹脂複合体は、上述したポリオレフィン樹脂A、アルコキシシラン変性ポリプロピレン樹脂、及びセルロース繊維からなる構成でもよく、また、本発明の効果を損なわない範囲で下記成分等を含んでもよい。
例えば、エチレン-αオレフィン共重合体等のエラストマーを追加配合して、樹脂複合体の物性を改質してもよい。
また、本発明の樹脂複合体は、酸化防止剤、光安定剤、ラジカル捕捉剤、紫外線吸収剤、着色剤(染料、有機顔料、無機顔料)、充填剤、滑剤、可塑剤、アクリル加工助剤等の加工助剤、発泡剤、パラフィンワックス等の潤滑剤、表面処理剤、結晶核剤、離型剤、加水分解防止剤、アンチブロッキング剤、帯電防止剤、防曇剤、防徽剤、イオントラップ剤、難燃剤、難燃助剤等を、上記目的を損なわない範囲で適宜含有することができる。
また、本発明の樹脂複合体は、水等の親水性化合物を含んでいてもよく、含んでいなくてもよい。
【0037】
(セルロース繊維を含有していることの有無の確認決定方法)
本発明の樹脂複合体中のセルロース繊維の含有の有無は、以下のようにして確認することができる。
セルロース繊維のセルロースはI型やII型といった種々の結晶構造を採ることが知られている。天然のセルロースは、Iα型(三斜晶)及びIβ型(単斜晶)の結晶構造を有し、植物由来のセルロースは一般的にIβ型結晶を多く含む。
本発明の樹脂複合体は、広角X線回折測定において、散乱ベクトルsが3.86±0.1nm-1の位置に回折ピークを有する。この回折ピークは、セルロースのIβ型結晶の(004)面に由来する。すなわち、本発明の樹脂複合体において、セルロース繊維のセルロースの少なくとも一部が結晶構造を有し、その内の少なくとも一部がIβ型結晶である。セルロースの結晶構造中に占めるIβ型結晶以外の結晶構造については特に限定されない。以下、セルロース繊維を「散乱ベクトルsが3.86±0.1nm-1の位置に回折ピークを有する成分」ということがある。
セルロース繊維を含有していることは種々の方法から確認することができる。例えば、X線を用いてセルロース繊維中のセルロース結晶由来の回折ピークを観測することで確認することができる。用いるX線の波長により回折ピーク位置が異なるため注意が必要であるが、CuKα線(λ=0.15418nm)を用いた場合には、散乱ベクトルsが3.86nm-1(2θ=34.6°)付近にセルロースのIβ型結晶の(004)面由来の回折ピークが観測できる。(004)面の回折をとらえるためには、サンプルをθ分回転させてX線を入射する必要がある。つまり、CuKα線を用いる場合にはサンプルステージをθ=17.3°回転させることになる。セルロース結晶由来の回折ピークとしては(004)面よりも内側にそのほかの回折ピークを観測することができるが、ポリプロピレン由来の回折ピークと回折位置がかぶってしまい、明確な回折ピークと判断できないことがある。このため、本明細書においては、セルロース繊維の有無はセルロースのIβ型結晶の(004)面の回折ピークを用いて判断する。
【0038】
本発明の樹脂複合体は、後述するセルロース繊維強化樹脂成形体の材料として好ましく用いることができる。本発明の樹脂複合体は、セルロース繊維を高含有量で含有するマスターバッチとして、他の樹脂と混合して、セルロース繊維強化樹脂成形体の製造に用いることもできる。
【0039】
〔セルロース繊維強化樹脂成形体〕
本発明のセルロース繊維強化樹脂成形体(以下、本発明の樹脂成形体ともいう)は、上記樹脂複合体を用いた成形体である。すなわち、本発明の樹脂成形体は、ポリオレフィン樹脂とアルコキシシラン変性ポリプロピレン樹脂とを含有する熱可塑性樹脂100質量部に対してセルロース繊維を101~204質量部含有し、平面視観察において、セルロース繊維の凝集体の総面積が1.00mm/cm以下である、セルロース繊維強化樹脂複合体を用いた成形体である。
本発明の樹脂成形体は、所望の形状に成形されていること以外は、上述の複合体と同じである。本発明の樹脂複合体についての説明は、本発明の樹脂成形体にもそのまま適用される。つまり、本発明の樹脂成形体におけるセルロース繊維の凝集体の状態は、本発明の樹脂複合体におけるセルロース繊維の凝集体の状態と同じであり、本発明の樹脂成形体を構成する樹脂複合体においてセルロース繊維の凝集体の総面積は平面視観察において1.00mm/cm以下である。
【0040】
〔セルロース繊維強化樹脂複合体の製造方法及びセルロース繊維強化樹脂成形体の製造方法〕
本発明の樹脂複合体は、例えば、少なくとも、ポリオレフィン樹脂Aとアルコキシシラン変性ポリプロピレン樹脂とを含有する熱可塑性樹脂の特定量と、セルロース繊維の特定量とを、水の存在下で溶融混合することにより得ることができる。
また、本発明の樹脂成形体は、得られた溶融混合物(セルロース繊維強化樹脂複合体)を成形することにより得ることができる。
すなわち、本発明の樹脂複合体の製造方法は、ポリオレフィン樹脂Aとアルコキシシラン変性ポリプロピレン樹脂とを含有する熱可塑性樹脂、及びセルロース繊維の各特定量を、水の存在下で溶融混合する工程を含む。また、本発明の樹脂成形体の製造方法は、ポリオレフィン樹脂Aとアルコキシシラン変性ポリプロピレン樹脂とを含有する熱可塑性樹脂、及びセルロース繊維の各特定量を、水の存在下で溶融混合し、成形する工程を含む。水の存在下で溶融混合することにより、アルコキシシラン変性ポリプロピレン樹脂が有するアルコキシシリル基がセルロース繊維の水酸基と脱アルコール縮合反応する、及び/又は、アルコキシシラン変性ポリプロピレン樹脂のアルコキシシリル基の加水分解により生じるシラノール基とセルロース繊維の水酸基等が脱水縮合する。これらの縮合反応により、アルコキシシラン変性ポリプロピレン樹脂とセルロース繊維との密着性(一体性)が高まり、ポリオレフィン樹脂A中へのセルロース繊維の分散性とセルロース繊維の強化作用とを効果的に高めることができる。ポリオレフィン樹脂複合体の製造において、上記熱可塑性樹脂と、セルロースと、水とを溶融混合する順序は特に制限されない。上記熱可塑性樹脂と、セルロースとを先に溶融混合した後、水を加え、さらに溶融混合してもよく、上記熱可塑性樹脂と、セルロースと、水とを全て加工機内に投入した後に溶融混合してもよい。また、セルロースと水とを混合した後、上記熱可塑性樹脂を加え、さらに溶融混練してもよい。これらの溶融混合は、押出し、射出などにより加工、成形する段階で、加工機内で行うことが好ましい。
水は、分離や回収、環境負荷が少なく残留してもセルロースへの悪影響が少ないため好ましい。
また、上記セルロース繊維の強化作用を効率的に高めるために、上記縮合を促進する触媒を使用しても良い。
【0041】
溶融混合の際の、ポリオレフィン樹脂A、アルコキシシラン変性ポリプロピレン樹脂、及びセルロース繊維の各配合量は、上述した樹脂複合体ないし成形体中の含有量となる配合量とする。
溶融混合時に用いる水の添加量は、特に制限されないが、セルロース繊維100質量部(乾燥質量)に対して通常は5質量部以上150質量部未満であり、この添加量の範囲とすることにより、樹脂中にセルロース繊維の凝集体の形成が低減された樹脂複合体を製造しやすい。溶融混合の際に用いる水の量は、セルロース繊維100質量部に対して、より好ましくは5~120質量部であり、さらに好ましくは5~100質量部であり、さらに好ましくは5~80質量部であり、特に好ましくは10~25質量部であり、最も好ましくは13~23質量部である。
上記溶融混合の温度は、樹脂の融点以上の温度であれば特に限定されない。例えば、160~230℃とすることができ、170~210℃がより好ましい。
上記溶融混合温度は、セルロース繊維の熱分解を低減する観点から、250℃以下が好ましく、230℃以下がより好ましく、200℃以下がさらに好ましい。
上記溶融混合工程を高温で行う際には、例えば、熱劣化や酸化劣化を抑制する目的で、酸化防止剤等を添加して溶融混合してもよい。
上記溶融混合時間は特に制限されず、適宜設定することができる。
上記溶融混合に用いられる装置としては、樹脂成分の融点以上で溶融混合が可能なものであれば特に限定されず、例えば、ブレンダー、ニーダー、ミキシングロール、バンバリーミキサー、一軸もしくは二軸の押出機などが挙げられ、二軸押出機が好ましい。
水は、混合装置(例えば、押出機)中に添加して、ベントにより回収することができる。
続く成形工程における取扱性の観点から、得られた溶融混合物は、ペレット状に加工(以降、得られたペレットを、単に「ペレット」とも称す。)することが好ましい。ペレット加工の条件は特に制限されず、常法により行うことができる。例えば、溶融混合物を水冷後、スランドカッター等を用いてペレット状に加工する方法が挙げられる。
なお、溶融混合に先立って、各成分を、ドライブレンド(予め混合)してもよい。ドライブレンドは、特に制限されず、常法に従い行うことができる。
【0042】
上記溶融混合する際にベース樹脂中のセルロースの分散状態を良化させるために、溶融混合前にアルコキシシラン変性ポリプロピレン樹脂とセルロース繊維とをアルコキシシラン変性ポリプロピレン樹脂の融点未満の温度で前混合してもよい。
【0043】
上記溶融混合物を成形する方法は、上記溶融混合物を所望の形状に成形できる方法であれば、特に制限されない。例えば、溶融混合物を溶融圧縮成形する方法、射出成形する方法等が挙げられる。溶融混合物をペレット状に加工してから所望の形状に成形してもよい。本発明においては、溶融混合物をペレット状に加工した後に射出成形して成形体を得ることが好ましい。
成形は、溶融混合と同時に又は連続して行うことができる。すなわち、溶融成形の際、例えば射出成形の際に、又はその直前に、各成分を溶融混合する態様が挙げられる。例えば、これらの成分を成形装置内で溶融混合し、次いで、射出して、所望の形状に成形する一連の工程を採用できる。
【0044】
上記射出成形において、射出温度は、ポリオレフィン樹脂の融点以上の温度であれば特に限定されず、例えば、ポリプロピレン樹脂を用いる場合、160~230℃とすることができ、170~210℃が好ましい。
上記射出温度は、セルロース繊維の熱分解を低減する観点から、250℃以下が好ましく、230℃以下がより好ましく、200℃以下がさらに好ましい。
上記射出成形における射出速度、金型温度、保圧、保圧時間等の条件は、目的に応じて適宜調整することができる。
【0045】
上記溶融圧縮成形において、溶融圧縮温度は、ポリオレフィン樹脂の融点以上の温度であれば特に限定されず、例えば、ポリプロピレン樹脂を用いる場合、160~230℃とすることができ、170~210℃が好ましい。
上記溶融圧縮温度は、セルロース繊維の熱分解を低減する観点から、250℃以下が好ましく、230℃以下がより好ましく、200℃以下がさらに好ましい。
上記溶融圧縮成形における予熱時間、加圧時間、圧力等の条件は、目的に応じて適宜調整することができる。
上記溶融圧縮成形に用いられる装置としては、特に制限されず、例えば、プレス機があげられる。ほかにもシート成形用の押出機を用いたシーティングなどを用いてもよい。
上記シートの形状は特に制限されないが、例えば、ダンベル状に加工することもできる。また、前述の延伸が行いやすい、幅、長さ、厚さ等に適宜調節することができる。例えば、上記シートの厚さは2mm以下が好ましく、1mm以下がより好ましい。
【0046】
アルコキシシラン変性ポリプロピレン樹脂の調製は、有機過酸化物の分解により生じたラジカルの存在下で、ポリプロピレン樹脂にシランカップリング剤をグラフト化反応させることにより行うことができる。すなわち、ポリプロピレン樹脂とシランカップリング剤とを、有機過酸化物の存在下で、有機過酸化物の分解温度以上の温度で溶融混合することにより調製できる。
この調製に用いる原料(ポリオレフィン樹脂、シランカップリング剤、及び有機過酸化物)については上述したとおりである。
上記各成分を溶融混合する温度は、有機過酸化物の分解温度以上、好ましくは[有機過酸化物の分解温度+25℃]~[有機過酸化物の分解温度+110℃]の温度である。上記混合温度であれば、上記成分が溶融し、有機過酸化物が分解してラジカルを生じ、必要なグラフト化反応が十分に進行する。使用する原料にもよるが、溶融混合温度は、160~300℃とすることができ、170~250℃とすることもでき、180~210℃とすることもできる。その他の条件、例えば混合時間は、効率、目的を考慮して適宜設定することができる。
混合に用いる混合装置としては、一軸押出機、二軸押出機、ロール、バンバリーミキサー又は各種のニーダー等が用いられる。
アルコキシシラン変性ポリプロピレン樹脂の調製において、原料とするポリプロピレン樹脂100質量部に対するシランカップリング剤の混合量は、0.1~20質量部が好ましく、1~10質量部がより好ましく、2~8質量部がより好ましく、2~6質量部がさらに好ましい。
アルコキシシラン変性ポリプロピレン樹脂の調製において、原料とするポリプロピレン樹脂100質量部に対する有機過酸化物の添加量は、0.001~10質量部が好ましく、0.01~5質量部がより好ましく、0.05~5質量部がさらに好ましく、0.05~3質量部がさらに好ましく、0.1~2質量部とすることも好ましい。
【0047】
アルコキシシラン変性ポリプロピレン樹脂の調製は、シランカップリング剤として(メタ)アクリルシラン化合物を用いる場合には、ビニル基を有する反応助剤の存在下で行うこともできる。ビニル基を有する反応助剤の存在下で調製することにより、(メタ)アクリルシラン化合物の反応効率を向上することができる。具体的には、ポリプロピレン樹脂と(メタ)アクリルシラン化合物とを有機過酸化物の存在下で、有機過酸化物の分解温度以上の温度で溶融混合する際に、ビニル基を有する反応助剤を混合する。アルコキシシラン変性ポリプロピレン樹脂の調製において、原料とするポリプロピレン樹脂100質量部に対するビニル基を有する反応助剤の添加量は、0.1~20質量部が好ましく、0.5~10質量部がより好ましく、1~7質量部がさらに好ましく、1.5~5質量部が特に好ましい。
【0048】
アルコキシシラン変性ポリプロピレン樹脂の調製は、上記のポリオレフィン樹脂A、セルロース繊維との溶融混合と同時に行うこともできる。すなわち、ポリオレフィン樹脂Aとしてポリプロピレン樹脂を用いて、その一部をアルコキシシラン変性させながら、セルロース繊維との脱アルコール/脱水縮合反応も生じながら、溶融混合して、本発明の樹脂複合体を得ることができる。
【0049】
本発明の樹脂複合体の製造方法においては、アルコキシシラン変性ポリプロピレン樹脂の調製に引き続いて、上記のポリオレフィン樹脂A、セルロース繊維との溶融混合を行うこともできる。
本発明の樹脂複合体の製造方法の好ましい形態は、以下のとおりである。
ポリオレフィン樹脂とアルコキシシラン変性ポリプロピレン樹脂とを含有する熱可塑性樹脂100質量部に対してセルロース繊維を101~400質量部含有し、平面視観察において、前記セルロース繊維の凝集体の総面積が1.00mm/cm以下であるセルロース繊維強化樹脂複合体の製造方法であって、下記工程(a)及び(b)を有するセルロース繊維強化樹脂複合体の製造方法。
(a)ポリプロピレン樹脂及びシランカップリング剤を、有機過酸化物の存在下で有機過酸化物の分解温度以上で混合し、前記ポリオレフィン樹脂に対して前記シランカップリング剤をグラフト化反応させてアルコキシシラン変性ポリプロピレン樹脂を調製する工程
(b)前記アルコキシシラン変性ポリプロピレン樹脂とポリオレフィン樹脂とセルロース繊維とを、水の存在下で溶融混合する工程。
上記アルコキシシラン変性ポリプロピレン樹脂の調製は、シランカップリング剤として(メタ)アクリルシラン化合物を使用する場合(第二態様)は、上述の通り、ビニル基を有する反応助剤の存在下で行うことがより好ましく、スチレン化合物の存在下で行うことがさらに好ましい。
【0050】
〔用途〕
本発明の樹脂成形体は、機械強度及び優れた外観が求められる、以下の製品、部品及び/又は部材等として用いることができる。例えば、輸送機器(自動車、二輪車、列車、及び航空機など)、ロボットアームの構造部材、アミューズメント用ロボット部品、義肢部材、家電材料、OA機器筐体、情報処理機器、携帯端末、建材、ハウス用フィルム、排水設備、トイレタリー製品材料、各種タンク、コンテナー、シート、包装材、玩具、文具、食品容器、ボビン、チューブ、家具材料(壁材、手すりなど)、靴、パレット、家具、かご及びスポーツ用品などが挙げられる。
【0051】
輸送機器用材料として車両用材料が挙げられる。車両用材料としては、例えば、ダッシュボードトリム、ドアートリム、ピラートリム等のトリム類、メーターパネル、メーターハウジング、グローブボックス、パッケージトレイ、ルーフヘッドライニング、コンソール、インストルメントパネル、アームレスト、シート、シートバック、トランクリッド、トランクリッドロアー、ドアーインナーパネル、ピラー、スペアタイヤカバー、ドアノブ、ライトハウジング、バックトレー等の内装部品、バンパー、ボンネット、スポイラー、ラジエーターグリル、フェンダー、フェンダーライナー、ロッカーパネル、サイドステップ、ドア・アウターパネル、サイドドア、バックドア、ルーフ、ルーフキャリア、ホイールキャップ・カバー、ドアミラーカバー、アンダーカバー等の外装部品、その他、バッテリーケース、エンジンカバー、燃料タンク、燃料チューブ、給油口ボックス、エアインテークダクト、エアクリーナーハウジング、エアコンハウジング、クーラントリザーブタンク、ラジエターリザーブタンク、ウインドウ・ウオッシャータンク、インテークマニホールド、ファン及びプーリーなどの回転部材、ワイヤーハーネスプロテクター等の部品、接続箱または又はコネクタ、また、フロントエンドモジュール、フロント・エンドパネル等の一体成形部品等が挙げられる。
【実施例
【0052】
本発明を実施例に基づいてさらに詳細に説明するが、本発明は本発明で規定すること以外は、これらの実施例に限定されるものではない。
下記実施例及び比較例において、「部」は特に断らない限り、「質量部」を意味する。
【0053】
-使用材料-
以下に、使用した材料を示す。
(1)ポリプロピレン樹脂(A1)
J106MG、プライムポリマー社製、プロピレン単独重合体、MFR(230℃/2.16kg)=15g/10min
(2)ポリプロピレン樹脂(A2)
J108M、プライムポリマー社製、プロピレン単独重合体、MFR(230℃/2.16kg)=45g/10min
(3)セルロース繊維
ARBOCEL B400(商品名)、RETTENMAIER社製
(4)水
蒸留水
(5)樹脂変性用モノマー
メタクリル酸3-(トリメトキシシリル)プロピル(SiMA)、東京化成工業株式会社製
メタクリル酸グリシジル(GMA)、東京化成工業株式会社製
(6)ビニル基を有する反応助剤
スチレン、純正化学株式会社製
(7)有機過酸化物
ジクミルパーオキサイド:パークミルD(商品名)、日本油脂株式会社製、1分間半減期温度175.2℃
(8)アルコキシシラン変性ポリエチレン(PE)樹脂
リンクロン(商品名)、三菱ケミカル社製
【0054】
熱可塑性樹脂として、ポリプロピレン樹脂及びアルコキシシラン変性ポリプロピレン樹脂を用い、溶融混合時に水を加えて作製した実施例1~10の樹脂複合体、溶融混合時に水を加えずに作製した比較例1の樹脂複合体、アルコキシシラン変性ポリプロピレン樹脂を用いずに作製した比較例2~4の樹脂複合体、アルコキシシラン変性ポリプロピレン樹脂以外の変性樹脂を用いて作製した比較例5及び6、ポリプロピレン樹脂のみを用いて作製した参考例1について以下に説明する。
【0055】
(実施例1)
-アルコキシシラン変性ポリプロピレン樹脂の調製-
ポリプロピレン樹脂(A1)を、シランカップリング剤としてメタクリル酸3-(トリメトキシシリル)プロピルを、反応助剤としてスチレンをそれぞれ用いて、アルコキシシラン変性ポリプロピレン樹脂(変性樹脂)を下記のようにして調製した。
スクリュー径15mm、L/D=45の同方向二軸スクリュー押出機(商品名:KZW15TW-45MG-NH、株式会社テクノベル製)にポリプロピレン樹脂(A1)を投入し、バレル途中に設けられている液添用ベント部より、メタクリル酸3-(トリメトキシシリル)プロピル(SiMA)、スチレン及びジクミルパーオキサイドの混合溶液を、比率が一定になるようにシリンジで滴下しながら混合し、ストランドダイ190℃の設定にてストランド状に押出した。上記混合は、ポリプロピレン樹脂100質量部に対して、メタクリル酸3-(トリメトキシシリル)プロピル(SiMA)5質量部、スチレン3.75質量部及びジクミルパーオキサイド0.2質量部が混合されるように調整して行った。冷却およびカッティングを経て、ペレット状の、メタクリル酸3-(トリメトキシシリル)プロピルで変性したポリプロピレン樹脂(SiMA-PP)を得た。

-溶融混合及び成形-
ポリプロピレン樹脂(PP)(A2)、SiMA-PP、セルロース繊維、及び水を、それぞれ時間当たり供給質量で制御したフィーダー又は液添ポンプにより、スクリュー径25mm、L/D=70の二軸押出機〔日本製鋼所製〕に投入しながら、溶融混合した。各原料は、ポリプロピレン樹脂(A2)90質量部とSiMA-PP10質量部を含む熱可塑性樹脂100質量部に対して、セルロース繊維104質量部、水20質量部となるように調整して投入した。二軸押出機のバレル温度は180℃に設定し、スクリュー回転速度は250rpmとして十分に均質に溶融混合を行い、樹脂複合体(セルロース繊維強化樹脂複合体)を得た後、水冷してストランドカッターを用いてペレット状に加工した。
前記で得られたペレットを80℃で24時間乾燥し、次いで射出成形機〔ファナック社製、商品名:ロボットショット α-S30iA〕に供し、JIS-5号ダンベル試験片(樹脂成形体)及びJIS K7139:2009・B1の短冊形試験片(樹脂成形体)を得た。
【0056】
(実施例2)
水の配合量20質量部を5質量部に変更した以外は、実施例1と同様にして樹脂複合体及び2つの樹脂成形体を得た。
【0057】
(実施例3)
水の配合量20質量部を100質量部に変更した以外は、実施例1と同様にして樹脂複合体及び2つの樹脂成形体を得た。
【0058】
(実施例4)
ポリプロピレン樹脂(A2)の配合量90質量部を87質量部に変更し、SiMA-PPの配合量10質量部を13質量部に変更し、セルロース繊維の配合量104質量部を150質量部に変更した以外は、実施例1と同様にして樹脂複合体及び2つの樹脂成形体を得た。
【0059】
(実施例5)
ポリプロピレン樹脂(A2)の配合量90質量部を83質量部に変更し、SiMA-PPの配合量10質量部を17質量部に変更し、セルロース繊維の配合量104質量部を240質量部に変更した以外は、実施例1と同様にして樹脂複合体及び2つの樹脂成形体を得た。
【0060】
(実施例6)
ポリプロピレン樹脂(A2)の配合量90質量部を98質量部に変更し、SiMA-PPの配合量10質量部を2質量部に変更した以外は、実施例1と同様にして樹脂複合体及び2つの樹脂成形体を得た。
【0061】
(実施例7)
ポリプロピレン樹脂(A2)の配合量90質量部を95質量部に変更し、SiMA-PPの配合量10質量部を5量部に変更した以外は、実施例1と同様にして樹脂複合体及び2つの樹脂成形体を得た。
【0062】
(実施例8)
ポリプロピレン樹脂(A2)の配合量90質量部を80質量部に変更し、SiMA-PPの配合量10質量部を20量部に変更した以外は、実施例1と同様にして樹脂複合体及び2つの樹脂成形体を得た。
【0063】
(実施例9)
ポリプロピレン樹脂(A2)の配合量90質量部を70質量部に変更し、SiMA-PPの配合量10質量部を30量部に変更した以外は、実施例1と同様にして樹脂複合体及び2つの樹脂成形体を得た。
【0064】
(実施例10)
ポリプロピレン樹脂(A2)の配合量90質量部を60質量部に変更し、SiMA-PPの配合量10質量部を40量部に変更した以外は、実施例1と同様にして樹脂複合体及び2つの樹脂成形体を得た。
【0065】
(比較例1)
溶融混合時に水を用いない以外は、実施例1と同様にして樹脂複合体及び2つの樹脂成形体を得た。
【0066】
(比較例2)
SiMA-PPを配合せず、溶融混合時に水を用いない以外は、実施例1と同様にして樹脂複合体及び2つの樹脂成形体を得た。
【0067】
(比較例3)
SiMA-PPを配合しない以外は、実施例1と同様にして樹脂複合体及び2つの樹脂成形体を得た。
【0068】
(比較例4)
セルロース繊維51質量%、SiMA2.5質量%の水分散液を作製し、2時間室温で撹拌処理した。処理後の水分散液をろ過し、ろ物として残ったセルロース繊維を水で2回ろ過することで未反応シランカップリング剤を洗い流した。洗浄後に回収したセルロース繊維は、恒温槽内にて120℃で終夜乾燥させた。このようにしてシランカップリング剤で表面処理したセルロース繊維を得た。
実施例1において、「溶融混合及び成形」において変性樹脂(SiMA-PP)を添加せず、セルロース繊維104質量部を上記のシランカップリング剤で表面処理したセルロース繊維104質量部に変更した以外は、実施例1と同様にして樹脂複合体及び2つの樹脂成形体を得た。
【0069】
(比較例5)
実施例1の「アルコキシシラン変性ポリプロピレン樹脂の調製」において、シランカップリング剤をメタクリル酸グリシジル(GMA)に変更した以外は、実施例1と同様にして、メタクリル酸グリシジル変性ポリオレフィン樹脂(GMA-PP)を得た。
実施例1において、SiMA-PP10質量部に代えてGMA-PP10質量部を用いた以外は、実施例1と同様にして樹脂複合体及び2つの樹脂成形体を得た。
【0070】
(比較例6)
実施例1において、SiMA-PP10質量部に代えてアルコキシシラン変性ポリエチレン(PE)樹脂10質量部を用いた以外は、実施例1と同様にして樹脂複合体及び2つの樹脂成形体を得た。
【0071】
(参考例1)
実施例1において、セルロース繊維及びSiMA-PPを配合せず、水を用いない以外は、実施例1と同様にして樹脂複合体及び2つの樹脂成形体を得た。参考例1の樹脂複合体及び樹脂成形体は、実施例1~10、比較例1~6の各樹脂複合体を構成するポリオレフィン樹脂(ポリプロピレン樹脂)の単体である。
【0072】
得られた樹脂複合体及び樹脂成形体について、下記試験を行い、その結果を表1に示した。
【0073】
[引張強度試験]
機械強度の指標として、引張強度を評価した。
上記で得られたダンベル試験片に対して、JIS規格K7161(2014)に基づき、オートグラフ精密万能試験機(株式会社島津製作所製)を用いて引張試験を行い、引張強度(MPa)を測定した。試験条件は、室温(25℃)で、チャック間距離60mm、引張速度50mm/分とした。参考例1の引張強度より高い引張強度を示せば合格である。
【0074】
[曲げ強度試験]
機械強度の別の指標として、曲げ強度を評価した。
上記で得られた短冊形試験片に対して、JIS規格K7171(2022)に基づき、オートグラフ精密万能試験機(株式会社島津製作所製)を用いて曲げ試験を行い、曲げ強度(MPa)を測定した。試験条件は、室温(25℃)で、支点間距離64mm、速度2mm/分にて荷重の負荷を行った。参考例1の引張強度より高い曲げ強度を示せば合格である。
【0075】
[外観評価]
樹脂複合体を用いた成形体の外観を、セルロース繊維の凝集体の総面積により評価した。
得られた樹脂複合体のペレットを用いて、厚み0.1mmの測定用シートを作製した。具体的には、樹脂複合体のペレットを約2g用意し、100mm×100mm×0.1mmのプレスモールドに入れて、プレス装置を用いて190℃で5分間予熱後、さらに190℃で20MPaの圧力下で5分間加圧して測定用シートを作製した。作製した100mm×100mm×0.1mmのシートを物差しとともに、照度2700Lxのライトボードに置いて、デジタルカメラにより平面視観察し、この観察面を撮影した。得られた撮影画像の60mm×60mmの範囲について、ニコン社製「NISElemenets D(商品名)」を用いて、下記画像処理条件により輝度のヒストグラムを得た。このヒストグラムの平坦部と重なる直線(ベースライン)と、ヒストグラムの平坦部からヒストグラムのピークトップに向けて、当該平坦部から高輝度側に向けて立ち上がる傾斜部に対する接線のうち最も傾きが大きい接線との交点を、輝度のしきい値として二値化した。図1は、この「輝度のしきい値」の一例を示す説明図である。暗色部としてカウントされた部分(セルロース凝集体)の各々の面積を計測し、総面積を算出した。また、上記で計測された各面積から、各セルロース凝集体(各暗色部)の円相当径(同じ面積の真円の直径)を算出し、得られた各円相当径の算術平均(平均円相当径)を算出した。上記で得られたセルロース繊維の凝集体の総面積を60mm×60mm=36cmで除することにより、1cm当たりの総面積が1.00mm/cm以下である場合を合格とした。この範囲であれば、セルロース繊維凝集体を認識しにくく、製品とした際に優れた外観が得られる。
-画像処理条件-
・スムーズ off
オブジェクトの端の形状に作用して、形状を滑らかにする機能。
・クリーン off
小さなオブジェクトが見えなくなる機能。小さなオブジェクトが消えるだけで、その他の画像は影響を受けない。
・閉領域を埋める off
オブジェクト内の閉領域を埋める機能。
・分割 off
結合された単一のオブジェクトを検出し、分離する機能。
【0076】
【表1】
【0077】
表1に示す結果から明らかなように、本発明で規定する組成を満たさない比較例の樹脂複合体は、機械強度と外観の両立を高いレベルで実現した樹脂成形体を得ることができない。
比較例1に示した、水を用いずに溶融混合して得られた樹脂複合体は、引張強度及び曲げ強度は参考例1に対して向上しているものの、凝集体の総面積が1.00mm/cmより大きく、外観に劣るものであった。
比較例2に示した、アルコキシシラン変性ポリプロピレン樹脂を含有せず、水を用いずに溶融混合して得られた樹脂複合体は、機械強度が参考例1よりも劣る結果となった。さらに、凝集体の総面積も1.00mm/cmより大きく、外観に劣る結果となった。
比較例3に示した、アルコキシシラン変性ポリプロピレン樹脂を配合しなかった樹脂複合体は、水を用いて溶融混合しても、機械強度が参考例1よりも劣る結果となった。
比較例4に示した、アルコキシシラン変性ポリプロピレン樹脂に代えてシランカップリング剤で表面処理したセルロース繊維を用いた樹脂複合体は、機械強度が参考例1よりも劣る結果となった。
比較例5及び6に示した、アルコキシシラン変性ポリプロピレン樹脂に代えて、別の変性樹脂を用いて得られた樹脂複合体は、機械強度が参考例1よりも劣る結果となった。
上記の通り、比較例2~6の、アルコキシシラン変性ポリプロピレン樹脂を用いなかった樹脂複合体はいずれも、ポリプロピレン樹脂単体を用いた参考例1よりも機械強度に劣るものとなった。
これに対し、実施例1~10の樹脂複合体は、引張強度、曲げ強度、及び外観特性に優れ、機械強度及び外観特性の両立を高いレベルで実現した樹脂成形体を得ることができた。
ここで、水を用いずに溶融混合して得られた比較例1の樹脂複合体に対し、セルロース繊維を同量で含む実施例1の樹脂複合体では、セルロース繊維の凝集体の総面積が半分以下に抑えられている。さらに、比較例1の樹脂複合体に対してアルコキシシラン変性ポリプロピレン樹脂の含有量を1/2にした実施例7、1/5にした実施例6の樹脂複合体でも、セルロース繊維の凝集体の総面積は十分に低く抑えられている。また、比較例1の樹脂複合体に対し、セルロース繊維を多量(1.5~2.3倍程度)に配合した実施例4及び5においても、セルロース繊維の凝集体の総面積は比較例1の樹脂複合体よりも抑えられている。しかも、これらの実施例の樹脂複合体はいずれも機械強度も効果的に高められている。これらの結果は、ポリオレフィン樹脂とアルコキシシラン変性ポリプロピレン樹脂とを組合せて含有する熱可塑性樹脂と、多量のセルロース繊維とを、水の存在下で溶融混練することの格別の効果を端的に示すものである。
【0078】
本発明をその実施態様とともに説明したが、我々は特に指定しない限り我々の発明を説明のどの細部においても限定しようとするものではなく、添付の請求の範囲に示した発明の精神と範囲に反することなく幅広く解釈されるべきであると考える。
【0079】
本願は、2022年3月29日に日本国で特許出願された特願2022-054017に基づく優先権を主張するものであり、これはここに参照してその内容を本明細書の記載の一部として取り込む。
【要約】
ポリオレフィン樹脂とアルコキシシラン変性ポリプロピレン樹脂とを含有する熱可塑性樹脂100質量部に対してセルロース繊維を101~400質量部含有し、
平面視観察において、前記セルロース繊維の凝集体の総面積が1.00mm/cm以下である、セルロース繊維強化樹脂複合体、このセルロース繊維強化樹脂複合体の製造方法、及びセルロース繊維強化樹脂成形体。
図1