(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-23
(45)【発行日】2023-10-31
(54)【発明の名称】ニッケル複合水酸化物の製造方法
(51)【国際特許分類】
C01G 53/00 20060101AFI20231024BHJP
H01M 4/505 20100101ALI20231024BHJP
H01M 4/525 20100101ALI20231024BHJP
【FI】
C01G53/00 A
H01M4/505
H01M4/525
(21)【出願番号】P 2019103018
(22)【出願日】2019-05-31
【審査請求日】2022-01-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】猿渡 元彬
【審査官】青木 千歌子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/113541(WO,A1)
【文献】特開2001-106534(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01G 53/00
H01M 4/505
H01M 4/525
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ニッケル塩を含む混合水溶液と、アルカリ水溶液と、錯化剤と、を反応槽に供給し
て反応水溶液を形成し、連続晶析法によりニッケル複合水酸化物を得る晶析工程を有し、
前記晶析工程では、前記反応水溶液のpH値を25℃基準で10以上13以下、アンモニア濃度を3g/L以上25g/L以下に制御し、
前記混合水溶液中の金属の濃度をC(mol/L)、
前記反応槽へ供給する前記混合水溶液の供給流量をQ(L/min)とした場合に、以下の式(1)を充足するニッケル複合水酸化物の製造方法。
0.8≦Q×C
2<1.2・・・(1)
【請求項2】
前記ニッケル複合水酸化物が、
一般式:Ni
1-x-yCo
xAl
y(OH)
2+α(0≦x≦0.3、0.005≦y≦0.15、0≦α≦0.5)で表されるニッケルコバルトアルミニウム複合水酸化物であるか、
一般式:Ni
aCo
bMn
cM
d(OH)
2+β(a+b+c+d=1、0.1≦a≦0.7、0.1≦b≦0.5、0.1≦c≦0.8、0≦d≦0.02、0≦β≦0.5、Mは、Ti、V、Cr、Zr、Nb、Mo、Hf、Ta、およびWから選択される1種以上の添加元素)で表されるニッケルコバルトマンガン複合水酸化物である請求項1に記載のニッケル複合水酸化物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ニッケル複合水酸化物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話、ノート型パーソナルコンピュータなどの携帯電子機器の普及に伴い、高いエネルギー密度を有する小型で軽量な二次電池の開発が要求されている。また、ハイブリット自動車を始めとする電気自動車用の電池として、高出力の二次電池の開発も要求されている。このような要求を満たす非水系電解質二次電池として、リチウムイオン二次電池がある。
【0003】
リチウムイオン二次電池は、負極、正極、電解質などで構成され、負極および正極の活物質には、リチウムを脱離および挿入することが可能な材料が用いられている。
【0004】
リチウム複合酸化物、特に合成が比較的容易なリチウムコバルト複合酸化物を正極材料に用いたリチウムイオン二次電池は、4V級の高い電圧が得られるため、高エネルギー密度を有する電池として期待され、実用化が進んでいる。リチウムコバルト複合酸化物を用いた電池では、優れた初期容量特性やサイクル特性を得るための開発がこれまで数多く行われてきており、すでにさまざまな成果が得られている。
【0005】
しかしながら、リチウムコバルト複合酸化物は、原料に高価なコバルト化合物を用いるため、このリチウムコバルト複合酸化物を用いる電池の容量あたりの単価は、ニッケル水素電池より大幅に高くなり、適用可能な用途はかなり限定されている。
【0006】
リチウムイオン二次電池用活物質の新たなる材料としては、コバルトよりも安価なニッケルを用いたリチウムニッケル複合酸化物を挙げることができる。このリチウムニッケル複合酸化物は、リチウムコバルト複合酸化物よりも低い電気化学ポテンシャルを示すため、電解質の酸化による分解が問題になりにくく、より高容量が期待でき、コバルト系と同様に高い電池電圧を示すことから、開発が盛んに行われている。
【0007】
しかし、純粋にニッケルのみで合成したリチウムニッケル複合酸化物を正極材料としてリチウムイオン二次電池を作製した場合、コバルト系に比ベてサイクル特性が劣り、また高温環境下での使用や保存により、比較的電池性能を損ないやすいという欠点を有している。このため、ニッケルの一部をコバルトやアルミニウムで置換したリチウムニッケル複合酸化物が一般的に知られている。
【0008】
リチウムニッケル複合酸化物等の製造方法として例えば特許文献1には、Ni塩とM塩の混合水溶液にアルカリ溶液を加えて、NiとMの水酸化物を共沈させ、得られた沈殿物を濾過、水洗、乾燥して、ニッケル複合水酸化物:NixM1-x(OH)2を得る晶析工程と、
得られたニッケル複合水酸化物:NixM1-x(OH)2とリチウム化合物とを、NiとMとの合計に対するLiのモル比:Li/(Ni+M)が1.00~1.15となるように混合し、さらに該混合物を、700℃以上1000℃以下の温度で焼成して、前記リチウムニッケル複合酸化物を得る焼成工程と、
得られたリチウムニッケル複合酸化物を水洗処理する水洗工程と、を有することを特徴とする非水系電解質二次電池用正極活物質の製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ところで、近年ではリチウムイオン二次電池について更なる高容量化、およびサイクル特性の向上が求められており、これに対応するため、上述のリチウムニッケル複合酸化物や、その前駆体となるニッケル複合水酸化物については大粒径化と、粒度分布の拡がりを抑制することが求められている。
【0011】
そこで上記従来技術が有する問題に鑑み、本発明の一側面では、大粒径で、かつ粒度分布の拡がりを抑制したニッケル複合水酸化物の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するため本発明の一態様によれば、
ニッケル塩を含む混合水溶液と、アルカリ水溶液と、錯化剤と、を反応槽に供給して反応水溶液を形成し、連続晶析法によりニッケル複合水酸化物を得る晶析工程を有し、
前記晶析工程では、前記反応水溶液のpH値を25℃基準で10以上13以下、アンモニア濃度を3g/L以上25g/L以下に制御し、
前記混合水溶液中の金属の濃度をC(mol/L)、
前記反応槽へ供給する前記混合水溶液の供給流量をQ(L/min)とした場合に、以下の式(1)を充足するニッケル複合水酸化物の製造方法を提供する。
【0013】
0.8≦Q×C2
<1.2・・・(1)
【発明の効果】
【0014】
本発明の一態様によれば、大粒径で、かつ粒度分布の拡がりを抑制したニッケル複合水酸化物の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】実施例1、2、比較例1、2で得られたニッケル複合水酸化物の粒度分布である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を実施するための形態について説明するが、本発明は、下記の実施形態に制限されることはなく、本発明の範囲を逸脱することなく、下記の実施形態に種々の変形および置換を加えることができる。
[ニッケル複合水酸化物の製造方法]
本実施形態のニッケル複合水酸化物の製造方法は、ニッケル塩を含む混合水溶液と、アルカリ水溶液とを反応槽に供給し、連続晶析法によりニッケル複合水酸化物を得る晶析工程を有することができる。
【0017】
そして、混合水溶液中の金属の濃度をC(mol/L)、反応槽へ供給する混合水溶液の供給流量をQ(L/min)とした場合に、以下の式(1)を充足することが好ましい。
【0018】
0.8≦Q×C2≦1.2・・・(1)
既述の様に、近年ではリチウムイオン二次電池について更なる高容量化、およびサイクル特性の向上が求められている。そして、リチウムイオン二次電池の正極材料として用いるリチウムニッケル複合酸化物を大粒径化することで、高容量化を図ることができる。また、粒度分布の拡がりを抑制することで、サイクル特性を高めることができる。これは相対的に粒子径の小さい粒子が混ざると、繰り返し充放電を行った際に該粒子径の小さい粒子に負荷がかかり充放電容量が低下する恐れがあるが、粒度分布の拡がりを抑制することで、係る現象が生じることを抑制できるからである。
【0019】
そして、リチウムニッケル複合酸化物は、前駆体となるニッケル複合水酸化物の粉体特性の影響を受けるため、リチウムニッケル複合酸化物と、その前駆体であるニッケル複合水酸化物について、大粒径で、かつ粒度分布の拡がりを抑制することが求められていた。
【0020】
そこで、本発明の発明者は、大粒径で、かつ粒度分布の拡がりを抑制できるニッケル複合水酸化物の製造方法について鋭意検討を行った。
【0021】
ニッケル複合水酸化物の製造方法は、生産性を高める観点から、反応槽に、原料となるニッケル塩を含む混合水溶液と、アルカリ水溶液とを連続的に供給し、オーバーフローで析出した粒子を回収し、生産する連続晶析法を用いることが好ましい。連続晶析法によりニッケル複合水酸化物を生産した場合、バッチ式の晶析法と比較して大きな粒径の粒子が得やすいものの、粒度分布が拡がり易いという問題があった。
【0022】
そこで、得られるニッケル複合水酸化物の粒径を大きく維持したまま、粒度分布を抑制することについて検討を行った。
【0023】
晶析により粒子を成長させる場合、反応槽内に滞留した時間が長いほど粒子は大粒径に育つ。連続晶析法の場合、オーバーフローで粒子を取り出すため、粒子がどれだけ槽内に滞留するかは確率論的に滞留時間分布として算出することができる。そして、滞留時間分布の拡がりを抑制することで、得られるニッケル複合水酸化物の粒度分布の拡がりを抑制することができる。
【0024】
反応槽内に存在する粒子の数である存在粒子数Nは、ニッケル複合水酸化物の金属成分を供給する、ニッケル塩を含む混合水溶液の槽内での局所的な過飽和度に依存する核発生率R(個/min)と平均滞留時間T(min)との積によって決まる。なお、核発生率Rは、単位時間あたりに発生する核の個数を意味する。核発生率Rは供給流量Q(L/min)の二乗と、該混合水溶液中の金属の濃度C(mol/L)の二乗との積に比例することが実験的に確かめられている。このことから存在粒子数Nは以下の式(A)の関係を満たす。
【0025】
N∝RT∝Q2C2T・・・(A)
また、平均滞留時間Tは、混合水溶液の供給流量Qに反比例する。すなわち以下の式(B)の関係を満たす。
【0026】
Q∝1/T・・・(B)
上記式(A)、式(B)より、以下の式(C)が導かれる。
【0027】
N∝QC2・・・(C)
そして、反応槽内の粒子の数である存在粒子数Nを所定の範囲内に保持することで、反応槽内の粒子の滞留時間分布を抑制し、得られるニッケル複合水酸化物の粒度分布を抑制することができる。このため、本実施形態のニッケル複合水酸化物の製造方法の晶析工程では、上記式(C)のQC2を所定の範囲に保つように、混合水溶液中の金属の濃度C(mol/L)、および反応槽へ供給する混合水溶液の供給流量Q(L/min)を設定することができる。
【0028】
本発明の発明者の検討によれば、QC2を0.8以上とすることで、反応槽内の粒子の数の変動を抑制でき、反応槽内の粒子の滞留時間分布の拡がりを抑制できる。このため、得られるニッケル複合水酸化物の粒度分布の拡がりを抑制できる。また、QC2を1.2以下とすることで、反応槽内の粒子の数が過剰に多くなることを抑制し、反応槽内の粒子の成長を促進できる。このため、十分な大きさに成長した大粒径のニッケル複合水酸化物を得ることができる。
【0029】
上記QC2は、上述のように0.8以上1.2以下であることが好ましく、0.9以上1.1以下であることがより好ましく、0.95以上1.05以下であることがさらに好ましい。
【0030】
晶析工程においては、上述のようにニッケル塩を含む混合水溶液と、アルカリ水溶液とを反応槽に供給し、連続晶析法によりニッケル複合水酸化物を得ることができる。
【0031】
具体的には例えば以下の手順により実施することが好ましい。
【0032】
まず、反応槽内に水を入れて所定の雰囲気、温度に制御する。なお、晶析工程の間、反応槽内の雰囲気は特に限定されないが、例えば窒素雰囲気等の不活性雰囲気とすることができる。また、不活性ガスに加えて、空気等の酸素を含有する気体をあわせて供給し、反応槽内の溶液の溶存酸素濃度を調整することもできる。反応槽内には水に加えて、後述するアルカリ水溶液や、錯化剤をさらに加えて初期水溶液とすることもできる。
【0033】
次いで、反応槽内に、混合水溶液と、アルカリ水溶液とを加えて反応水溶液とする。そして、反応水溶液を一定速度にて撹拌してpHを制御することにより、反応槽内にニッケル複合水酸化物の粒子を共沈殿させ晶析させることができる
混合水溶液は、ニッケル塩と、ニッケル複合水酸化物に添加するニッケル以外の金属の塩とを含むことができる。例えば、ニッケル複合水酸化物として、ニッケルコバルトアルミニウム複合水酸化物を製造する場合、混合水溶液は、ニッケル塩と、コバルト塩と、アルミニウム塩とを含有することができる。また、ニッケル複合水酸化物として、ニッケルコバルトマンガン複合水酸化物を製造する場合、混合水溶液は、ニッケル塩と、コバルト塩と、マンガン塩とを含むことができる。なお、いずれの場合であってもさらに任意の添加元素等を含む場合には、混合水溶液は添加元素の塩をさらに含むこともできる。
【0034】
製造するニッケル複合水酸化物が含有する金属元素の塩の全てを1つの混合水溶液に添加せず、一部の金属塩を含む混合水溶液と、残部の金属塩を含む水溶液とを供給しても良い。また、各金属塩の水溶液を別々に調製し、各金属塩を含有する水溶液を反応槽に供給しても良い。この様に複数の溶液により金属塩を分けて反応槽に供給する場合、該複数の溶液全体での金属の濃度を、既述の混合水溶液中の金属の濃度Cとすることができる。
【0035】
混合水溶液は、溶媒である水に対して、各金属の塩を添加することで調製することができる。塩の種類は特に限定されず、例えば、硫酸塩、硝酸塩、塩化物等から選択された1種類以上の塩を用いることができる。なお、各金属の塩の種類は異なっていても良いが、不純物の混入を防ぐ観点から、同じ種類の塩とすることが好ましい。
【0036】
アルカリ水溶液は、溶媒である水にアルカリ成分を添加することで調製できる。アルカリ成分の種類は特に限定されないが、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム等から選択された1種類以上を用いることができる。
【0037】
混合水溶液に含まれる金属元素の組成と、得られるニッケル複合水酸化物に含まれる金属元素の組成はほぼ一致する。したがって、目的とするニッケル複合水酸化物の金属元素の組成と同じになるように混合水溶液の金属元素の組成を調整することが好ましい。
【0038】
晶析工程では、上記混合水溶液とアルカリ水溶液以外にも任意の成分を混合水溶液に添加することができる。
【0039】
例えば、アルカリ水溶液と併せて、錯化剤を反応水溶液に添加することもできる。
【0040】
錯化剤は、特に限定されず、水溶液中でニッケルイオンやその他金属イオンと結合して錯体を形成可能なものであればよい。錯化剤としては例えば、アンモニウムイオン供給体が挙げられる。アンモニウムイオン供給体としては、特に限定されないが、例えば、アンモニア、硫酸アンモニウム、塩化アンモニウム、炭酸アンモニウム、フッ化アンモニウム等から選択された1種類以上を使用することができる。
【0041】
晶析工程における反応水溶液の温度や、pHは特に限定されないが、例えば錯化剤を使用しない場合、反応水溶液の温度を、60℃を超えて80℃以下の範囲とすることが好ましく、かつ、反応水溶液の温度でのpHが10以上12以下(25℃基準)であることが好ましい。
【0042】
晶析工程において、錯化剤を使用しない場合、反応水溶液のpHを12以下とすることで、ニッケル複合水酸化物の粒子が細かい粒子となることを防ぎ、濾過性を高めることができる。
【0043】
また、反応水溶液のpHを10以上とすることで、ニッケル複合水酸化物の粒子の生成速度を速め、例えばNi等の一部の成分がろ液中に残留等することを防ぐことができる。このため、目的組成のニッケル複合水酸化物の粒子を、より確実に得ることができる。
【0044】
晶析工程において、錯化剤を使用しない場合、反応水溶液の温度を60℃超とすることで、Niの溶解度が上がるため、Niの沈殿量が目的組成からずれ、共沈にならない現象をより確実に回避できる。
【0045】
また、反応水溶液の温度を80℃以下とすることで、水の蒸発量を抑制できるため、スラリー濃度が高くなることを防ぐことができる。スラリー濃度が高くなることを防ぐことで、例えば反応水溶液内に硫酸ナトリウム等の意図しない結晶が析出し、不純物濃度が高くなることを抑制できる。
【0046】
一方、アンモニアなどのアンモニウムイオン供給体を錯化剤として使用する場合、Niの溶解度が上昇するため、晶析工程における反応水溶液のpHは10以上13以下(25℃基準)であることが好ましい。また、この場合、反応水溶液の温度が30℃以上60℃以下であることが好ましい。
【0047】
反応水溶液に錯化剤としてアンモニウムイオン供給体を添加する場合、反応槽内において、反応水溶液中のアンモニア濃度は、3g/L以上25g/L以下で一定の範囲に保持することが好ましい。
【0048】
反応水溶液中のアンモニア濃度を3g/L以上とすることで、金属イオンの溶解度を特に一定に保持することができるため、形状や、粒径の整ったニッケル複合水酸化物の一次粒子を形成することができる。
【0049】
反応水溶液中のアンモニア濃度を25g/L以下とすることで、金属イオンの溶解度が過度に大きくなることを防ぎ、反応水溶液中に残存する金属イオン量を抑制できるため、より確実に目的組成のニッケル複合水酸化物の粒子を得ることができる。
【0050】
また、アンモニア濃度が変動すると、金属イオンの溶解度が変動し、組成が均一な水酸化物が形成されない恐れがあるため、一定の範囲に保持することが好ましい。例えば、晶析工程の間、アンモニア濃度は、上限と下限の幅を5g/L程度以内として所望の濃度に保持することが好ましい。
【0051】
そして、混合水溶液とアルカリ水溶液、場合によってはさらにアンモニウムイオン供給体を含む水溶液を反応槽に連続的に供給して、反応槽からオーバーフローさせて沈殿物を採取し、濾過、水洗してニッケル複合水酸化物を得ることができる。
【0052】
本実施形態のニッケル複合水酸化物の製造方法により製造するニッケル複合水酸化物の組成は特に限定されず、製造するリチウムイオン二次電池用正極活物質の組成にあわせて選択することができる。例えば、本実施形態のニッケル複合水酸化物の製造方法により製造するニッケル複合水酸化物は、一般式:Ni1-x-yCoxAly(OH)2+α(0≦x≦0.3、0.005≦y≦0.15、0≦α≦0.5)で表されるニッケルコバルトアルミニウム複合水酸化物であるか、一般式:NiaCobMncMd(OH)2+β(a+b+c+d=1、0.1≦a≦0.7、0.1≦b≦0.5、0.1≦c≦0.8、0≦d≦0.02、0≦β≦0.5、Mは、Ti、V、Cr、Zr、Nb、Mo、Hf、Ta、およびWから選択される1種以上の添加元素)で表されるニッケルコバルトマンガン複合水酸化物とすることができる。
[リチウムイオン二次電池用正極活物質の製造方法]
既述のニッケル複合水酸化物は、リチウムイオン二次電池用正極活物質の前駆体として用いることができる。
【0053】
そこで次に、本実施形態のリチウムイオン二次電池用正極活物質の製造方法(以下、「正極活物質の製造方法」と記載する。)の構成例について説明する。
【0054】
本実施形態の正極活物質の製造方法は以下の工程を有することができる。
【0055】
既述のニッケル複合水酸化物と、リチウム化合物とを混合して、原料混合物を調製する混合工程。
原料混合物を、酸素含有雰囲気下で焼成する焼成工程。
【0056】
以下、各工程について説明する。
(混合工程)
混合工程では、既述のニッケル複合水酸化物の製造方法により製造したニッケル複合水酸化物と、リチウム化合物とを混合して、原料混合物を得ることができる。
【0057】
ニッケル複合水酸化物は既に説明したため、ここでは説明を省略する。
【0058】
リチウム化合物としては特に限定されないが、例えば炭酸リチウムや、水酸化リチウム等から選択された1種類以上を用いることができる。なお、水酸化リチウムは水和水を有する場合があり、水和水を有するまま用いることもできるが、予め焙焼し、水和水を低減しておくことが好ましい。
【0059】
ニッケル複合水酸化物とリチウム化合物との混合には、一般的な混合機を使用することができ、例えばシェーカーミキサーやレーディゲミキサー、ジュリアミキサー、Vブレンダー等から選択された1種類以上を用いることができる。混合工程における混合条件は特に限定されないが、ニッケル複合水酸化物等の原料の粒子等の形骸が破壊されない程度で、原料となる成分が十分に混合されるように条件を選択することが好ましい。
【0060】
原料混合物は、焼成工程に供する前に、混合工程で十分混合しておくことが好ましい。混合が十分でない場合には、個々の粒子間でLi/Meがばらつき、十分な電池特性が得られない等の問題が生じる可能性がある。なお、Li/Meは、原料混合物に含まれる、リチウム(Li)と、リチウム以外の金属(Me)との原子数の比を意味する。
【0061】
そして、原料混合物と、焼成工程後に得られるリチウムニッケル複合酸化物とで、含有する各金属の割合はほとんど変化しない。このため、混合工程では、原料混合物における各金属の含有割合が、本実施形態の正極活物質の製造方法により得られる正極活物質の目的とする各金属の含有割合と同じになるように混合することが好ましい。
(焼成工程)
焼成工程では、混合工程で得た原料混合物を酸素含有雰囲気下、焼成し、リチウムニッケル複合酸化物を得ることができる。
【0062】
焼成工程において原料混合物を焼成すると、ニッケル複合水酸化物の粒子にリチウム化合物中のリチウムが拡散するので、多結晶構造の粒子からなるリチウムニッケル複合酸化物が形成される。
【0063】
原料混合物の焼成温度は特に限定されないが、例えば650℃以上900℃以下とすることが好ましく、650℃以上850℃以下とすることがより好ましい。焼成温度を650℃以上とすることで、ニッケル複合水酸化物中にリチウムを十分に拡散することができ、余剰のリチウムや、未反応のニッケル複合水酸化物が残存することを抑制できる。また、得られるリチウムニッケル複合酸化物の結晶性を高めることができるため好ましい。
【0064】
また、焼成温度を900℃以下とすることで、リチウムニッケル複合酸化物の粒子間が激しく焼結したり、異常粒成長が引き起こされることを抑制し、不定形な粗大粒子の発生を抑制できる。
【0065】
また、焼成工程中、リチウム化合物の融点付近の温度で一旦昇温を止め、保持することが好ましく、この場合1時間以上5時間以下保持することが好ましく、2時間以上5時間以下保持することがより好ましい。リチウム化合物の融点付近の温度で一旦昇温を止め、保持することで、ニッケル複合水酸化物とリチウム化合物とを、より均一に反応させることができる。
【0066】
上述した焼成温度での保持時間についても特に限定されないが、例えば2時間以上とすることが好ましく、4時間以上とすることがより好ましい。焼成温度での保持時間を2時間以上とすることで、ニッケル複合水酸化物中にリチウムを十分に拡散させ、余剰のリチウムや未反応のニッケル複合水酸化物が残存することを抑制できる。また、得られるリチウムニッケル複合酸化物の結晶性を高めることができるため好ましい。
【0067】
なお、焼成時間の上限値は特に限定されないが、生産性の観点から48時間以下であることが好ましい。
【0068】
焼成時の雰囲気は、酸化性雰囲気とすることが好ましく、酸素濃度が18容量%以上100容量%以下の雰囲気とすることがより好ましい。これは酸素濃度を18容量%以上とすることで、得られるリチウムニッケル複合酸化物の結晶性を特に高めることができるからである。なお、酸素以外の残部は特に限定されないが、例えば窒素や、希ガス等の不活性ガスとすることができる。また、係る酸素以外の残部には二酸化炭素や、水蒸気等が含まれていても良い。焼成は、例えば大気ないしは酸素気流中で行うことがさらに好ましい。
【0069】
なお、本実施形態の正極活物質の製造方法は、上記工程に限定されず、さらに任意の工程を有することもできる。
【0070】
例えば、混合工程に供するニッケル複合水酸化物を酸化焙焼する酸化焙焼工程を有することもできる。
【0071】
酸化焙焼工程を実施する場合、混合工程では、酸化焙焼を行ったニッケル複合水酸化物と、リチウム化合物とを混合して原料混合物とすることができる。
(酸化焙焼工程)
酸化焙焼工程を実施する場合、晶析工程で得られたニッケル複合水酸化物を酸素含有雰囲気中で焼成し、その後室温まで冷却することで、ニッケル複合酸化物を得ることができる。なお、酸化焙焼工程では、ニッケル複合水酸化物を焼成することで、水分を低減し、その少なくとも一部を上述のようにニッケル複合酸化物とすることができる。ただし、酸化焙焼工程において、ニッケル複合水酸化物を完全にニッケル複合酸化物に変換する必要はなく、ここでいうニッケル複合酸化物は、例えばニッケル複合水酸化物や、その中間体を含有していても良い。
【0072】
酸化焙焼工程における焙焼条件は特に限定されないが、酸素含有雰囲気中、例えば空気雰囲気中、350℃以上1000℃以下の温度で、5時間以上24時間以下焼成することが好ましい。
【0073】
これは、焼成温度を350℃以上とすることで、得られるニッケル複合酸化物の比表面積が過度に大きくなることを抑制でき好ましいからである。また、焼成温度を1000℃以下とすることで、ニッケル複合酸化物の比表面積が過度に小さくなることを抑制でき好ましいからである。
【0074】
焼成時間を5時間以上とすることで、焼成容器内の温度を特に均一にすることができ、反応を均一に進行させることができ、好ましい。また、24時間よりも長い時間焼成を行っても、得られるニッケル複合酸化物に大きな変化は見られないため、エネルギー効率の観点から、焼成時間は24時間以下とすることが好ましい。
【0075】
熱処理の際の酸素含有雰囲気中の酸素濃度は特に限定されないが、例えば酸素濃度が20容量%以上であることが好ましい。酸素雰囲気とすることもできるため、酸素含有雰囲気の酸素濃度の上限値は100容量%とすることができる。
【0076】
以上に説明した本実施形態の正極活物質の製造方法では、既述のニッケル複合水酸化物の製造方法により製造した、大粒径で、かつ粒度分布の拡がりを抑制したニッケル複合水酸化物を原料として用いている。このため、本実施形態の正極活物質の製造方法によれば、大粒径で、かつ粒度分布の拡がりを抑制した正極活物質を得ることができる。従って、該正極活物質をリチウムイオン二次電池の正極材料として用いた場合に、充放電容量、およびサイクル特性に優れたリチウムイオン二次電池とすることができる。
【実施例】
【0077】
以下、実施例を参照しながら本発明をより具体的に説明する。但し、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
[実施例1]
内部が円筒形状を有する反応槽(撹拌槽)を備えた晶析装置を用意した。
【0078】
反応槽内には、撹拌翼が設置されており、反応槽内の初期水溶液もしくは反応水溶液を、撹拌翼により撹拌できるように構成されている。また、反応槽にはオーバーフロー口が備えられており、連続的にオーバーフローさせて生成したニッケル複合水酸化物を回収できるように構成されている。
【0079】
はじめに、反応槽(60L)内に、水を半分の量まで入れて撹拌しながら、槽内温度を45℃に設定した。晶析工程の間、初期水溶液、および反応水溶液は槽内温度と同じ温度に保たれることになる。また、反応槽内に、窒素ガス(N2)と大気(Air)を供給して反応槽液中の溶存酸素濃度が1.5mg/L以上2.5mg/L以下となるようにN2/Air流量を調整した。
【0080】
この反応槽内の水に、アルカリ水溶液である25質量%水酸化ナトリウム水溶液と、錯化剤である25質量%アンモニア水とを適量加えて、pH値が液温25℃基準で11.6に、アンモニア濃度が12g/Lとなるように初期水溶液を調製した。
【0081】
同時に、硫酸ニッケルと、硫酸コバルトと、アルミン酸ナトリウムとを、ニッケルとコバルトとアルミニウムとの物質量の比が、Ni:Co:Al=80:15:5となるように純水に溶解して、金属の濃度が0.71mol/Lの混合水溶液を調製した。
【0082】
この混合水溶液を、反応槽の初期水溶液に対して2L/minの供給流量(供給速度)で滴下し、反応水溶液とした。この際、アルカリ水溶液である25質量%水酸化ナトリウム水溶液、および錯化剤である25質量%アンモニア水も一定速度で初期水溶液に滴下し、反応水溶液のpH値が、液温25℃基準で11.6に、アンモニア濃度が12g/Lに維持されるように制御した。係る操作により、ニッケル複合水酸化物粒子を晶析させた(晶析ステップ)。
【0083】
その後、反応槽に設けられたオーバーフロー口より回収されたニッケル複合水酸化物粒子を含むスラリーをろ過し、イオン交換水で水溶性の不純物を洗浄除去したのち、乾燥させた。これにより、Ni0.80Co0.15Al0.05(OH)2で表されるニッケル複合水酸化物を得た。
【0084】
得られた、ニッケル複合水酸化物の粒度分布をレーザー回折散乱式粒度分布測定装置(日機装株式会社製、マイクロトラックHRA)を用いて測定した。
【0085】
そして、得られた粒度分布から、平均粒径、および粒度分布の拡がりである[(D90-D10)/平均粒径]を算出した。
【0086】
なお、平均粒径は、レーザー回折・散乱法によって求めた粒度分布における積算値50%での粒径(D50)を意味する。
【0087】
また、D90は、レーザー回折・散乱法によって求めた粒度分布おける体積積算値90%での粒径を意味する。
【0088】
D10は、レーザー回折・散乱法によって求めた粒度分布における体積積算値10%での粒径を意味する。
【0089】
そして、粒度分布の拡がりである[(D90-D10)/平均粒径]が小さいほど、粒度分布の拡がりが小さいことを意味する。
【0090】
結果を表1に示す。また、得られたニッケル複合水酸化物の粒度分布を
図1に示す。
[実施例2]
晶析工程において、混合水溶液の金属濃度を0.5mol/L、混合水溶液の供給流量を4L/minとした点以外は、実施例1と同様にしてニッケル複合水酸化物を調製し、評価を行った。結果を表1に示す。また、得られたニッケル複合水酸化物の粒度分布を
図1に示す。
[比較例1]
晶析工程において、混合水溶液の金属濃度を0.71mol/L、混合水溶液の供給流量を1L/minとした点以外は、実施例1と同様にしてニッケル複合水酸化物を調製し、評価を行った。結果を表1に示す。また、得られたニッケル複合水酸化物の粒度分布を
図1に示す。
[比較例2]
晶析工程において、混合水溶液の金属濃度を1mol/L、混合水溶液の供給流量を2L/minとした点以外は、実施例1と同様にしてニッケル複合水酸化物を調製し、評価を行った。結果を表1に示す。また、得られたニッケル複合水酸化物の粒度分布を
図1に示す。
【0091】
【表1】
表1に示した結果によるとQ×C
2が0.8以上1.2以下の範囲にある実施例1、2においては、得られたニッケル複合水酸化物の粒度分布の拡がりである[(D90-D10)/平均粒径]が1以下と十分に低くなることを確認できた。
【0092】
比較例1においては、粒度分布の拡がりである[(D90-D10)/平均粒径]が1を超え粒度分布のばらつきが大きくなることを確認できた。
【0093】
一方、比較例2においては粒度分布の拡がりである[(D90-D10)/平均粒径]が1以下であるものの、粒度分布のピーク位置は6.97μmと、実施例1、2、比較例1と比較して、大幅に小さくなることが確認できた。