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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-23
(45)【発行日】2023-10-31
(54)【発明の名称】ジルコニア焼結体及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C04B 35/488 20060101AFI20231024BHJP
   A44C 27/00 20060101ALI20231024BHJP
【FI】
C04B35/488 500
A44C27/00
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2019145096
(22)【出願日】2019-08-07
(65)【公開番号】P2020029395
(43)【公開日】2020-02-27
【審査請求日】2022-07-14
(31)【優先権主張番号】P 2018153790
(32)【優先日】2018-08-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003300
【氏名又は名称】東ソー株式会社
(72)【発明者】
【氏名】土屋 聡
(72)【発明者】
【氏名】藤崎 浩之
(72)【発明者】
【氏名】永山 仁士
【審査官】小川 武
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-075086(JP,A)
【文献】特開2018-080064(JP,A)
【文献】特開2017-105689(JP,A)
【文献】特開2016-216289(JP,A)
【文献】特開2017-160108(JP,A)
【文献】特開2017-160110(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0194076(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 35/00-35/84
A44C 27/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
CeO換算で0.5mol%以上4mol%未満のセリウム酸化物、2mol%以上6mol%未満のイットリア、及び0.1質量%以上2質量%未満のアルミニウム酸化物を含有し、残部がジルコニアであり、該セリウム酸化物が三価セリウムを含み、ジルコニアの結晶構造が正方晶を含むジルコニア焼結体からなり、なおかつ、色調がL 表色系において、明度L が20以上、色相a が30以上、及び、色相b に対する色相a の比が0.9≦a /b である層と、
2.0質量%以上10.0質量%以下のアルミニウム酸化物を含有し、残部が2mol%以上6mol%未満のイットリアを含むジルコニアであるジルコニア質焼結体からなる層、若しくは、2mol%以上6mol%未満のイットリア、及び着色剤を含有し、残部がジルコニアであり、L表色系における明度Lが10以上75以下、色相aが-3以下又は3以上、色相bが-3以下又は3以上、なおかつ、彩度C以上30以下であるジルコニア質焼結体からなる層、の少なくともいずれかと、
が積層し、前記着色剤が、マンガン(Mn)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、銅(Cu)、チタン(Ti)、亜鉛(Zn)、アルミニウム(Al)、ランタン(La)、プラセオジム(Pr)、ネオジム(Nd)、ユーロピウム(Eu)、ガドリウム(Gd)、テルビウム(Tb)、ジスプロジウム(Dy)、ホルミウム(Ho)、エルビウム(Er)及びイッテルビウム(Yb)の群から選ばれる1以上の元素であり、なおかつ、
前記ジルコニア焼結体からなる層の厚みに対する、前記ジルコニア質焼結体の厚みの比が0.5以上10.0以下であることを特徴とする複合焼結体。
【請求項2】
CeO換算で0.5mol%以上4mol%未満のセリウム酸化物、2mol%以上6mol%未満のイットリア、及び0.1質量%以上2質量%未満のアルミニウム酸化物を含有し、残部がジルコニアであり、該セリウム酸化物が三価セリウムを含み、なおかつ、該ジルコニアの結晶構造が正方晶を含むジルコニア焼結体からなる層と、
2.0質量%以上20.0質量%以下のアルミニウム酸化物を含有し、残部が2mol%以上6mol%未満のイットリアを含むジルコニアであるジルコニア質焼結体からなる層と、
が積層していることを特徴とする請求項1に記載の複合焼結体。
【請求項3】
前記ジルコニア質焼結体が2.0質量%以上20.0質量%未満のアルミニウム酸化物を含有する請求項1又は2に記載の複合焼結体。
【請求項4】
前記ジルコニア質焼結体は、試料厚み2.5mm、測定波長650nmおける反射率が50%以上である請求項1乃至3のいずれか一項に記載の複合焼結体。
【請求項5】
前記ジルコニア質焼結体の色調が、L表色系における明度Lが70以上100以下、色相aが-3を超え3未満、かつ、色相bが-3を超え3未満である請求項1乃至4のいずれか一項に記載の複合焼結体。
【請求項6】
CeO換算で0.5mol%以上4mol%未満のセリウム酸化物、2mol%以上6mol%未満のイットリア、及び0.1質量%以上2質量%未満のアルミニウム酸化物を含有し、残部がジルコニアであり、該セリウム酸化物が三価セリウムを含み、なおかつ、該ジルコニアの結晶構造が正方晶を含むジルコニア焼結体からなる層と、
2mol%以上6mol%未満のイットリア、及び着色剤を含有し、残部がジルコニアであり、L表色系における明度Lが10以上75以下、色相aが-3以下又は3以上、かつ、色相bが-3以下又は3以上であり、なおかつ、彩度Cが1以上30以下であるジルコニア質焼結体からなる層と、が積層していることを特徴とする請求項1に記載の複合焼結体。
【請求項7】
前記ジルコニア質焼結体は、試料厚み0.3mm、測定波長650nmにおける反射率に対する測定波長580nmにおける反射率の割合が0.7以上2.5以下である請求項6に記載の複合焼結体。
【請求項8】
前記着色剤の含有量が、0.01質量%以上30質量%以下である請求項6又は7に記載の複合焼結体。
【請求項9】
前記ジルコニア焼結体におけるジルコニアの結晶粒子の平均結晶粒径が2μm以下である請求項1乃至のいずれか一項に記載の複合焼結体。
【請求項10】
前記ジルコニア焼結体からなる層の色調が、20≦L≦60、30≦a≦60及び0.9≦a/bである請求項1乃至のいずれか一項に記載の複合焼結体。
【請求項11】
前記ジルコニア焼結体からなる層におけるアルミニウム酸化物が、スピネル、ランタンアルミネート及び酸化アルミニウムの群から選ばれる1以上である請求項1乃至10のいずれか一項に記載の複合焼結体。
【請求項12】
2mol%以上6mol%未満のイットリア、CeO換算で0.5mol%以上4mol%未満のセリウム酸化物、及び0.1質量%以上2質量%未満のアルミニウム酸化物を含み、残部がジルコニアである層と、
2mol%以上6mol%未満のイットリア、及び、2.0質量%以上20.0質量%以下のアルミニウム酸化物を含有し、残部がジルコニアである層、若しくは、2mol%以上6mol%未満のイットリア、及び着色剤を含有し、残部がジルコニアである層、の少なくともいずれか、
を含む成形体を還元雰囲気中で焼結する焼結工程、を有することを特徴とする請求項1乃至11のいずれか一項に記載の複合焼結体の製造方法。
【請求項13】
前記焼結工程が、成形体を酸化雰囲気で常圧焼結して一次焼結体を得る一次焼結工程、及び、一次焼結体を還元雰囲気で常圧焼結する二次焼結工程からなる請求項12に記載の複合焼結体の製造方法。
【請求項14】
請求項1乃至11のいずれか一項に記載の複合焼結体を含む部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は酸化セリウムを含有し、赤色を呈するジルコニア焼結体に関する。特に、装飾部材等の外装部材として適した強度を有し、なおかつ、鮮やかな赤色を呈するジルコニア焼結体に関する。
【背景技術】
【0002】
装飾部材や電子機器材料の外装部品への使用のため、着色剤を含むジルコニア焼結体、いわゆる着色ジルコニア焼結体、が求められている。これまで、着色ジルコニア焼結体として、赤色系統の色調を呈するジルコニア焼結体が検討されており、着色剤として酸化セリウム(CeO)が注目されている。
【0003】
例えば、着色剤として0.5mol%以上のCeOを含み、セリウムを還元させて得られた正方晶ジルコニアからなるジルコニア焼結体が報告されている(特許文献1)。これらの焼結体の色調は橙色、茶色、暗赤色など茶色に近い色調であった。
【0004】
また、イットリアやセリア等の安定化剤を3~20質量%、ガラス相を形成するための粉末を0.1~5質量%、及び酸化銅を0.01~10質量%を含むジルコニア粉末を焼成するオレンジ色/赤色ジルコニアの製造方法が報告されている(特許文献2)。特許文献2の焼結体は銅のナノ粒子による着色を主とするものであった。
【0005】
さらに、純粋な赤色としての審美性を有し、なおかつ、焼結体厚みによる色調の変化が著しく小さい焼結体として、三価セリウムを含むセリウム酸化物、イットリア及びアルミニウム酸化物を含むジルコニア焼結体が報告されている(特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開昭62-83366号公報
【文献】特開平11-322418号公報
【文献】特開2017-75086号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
純粋な赤色の審美性を有していない特許文献1及び2のジルコニア焼結体に対し、特許文献3のジルコニア焼結体は酸化セリウムの発色を利用した純粋な赤色を呈するジルコニア焼結体である。その反面、特許文献3の焼結体は厚みを変えても色調の変化がほとんどない。そのため、焼結体の組成を完全に同一にしたまま、色調を変化させることが難しい。
【0008】
これらの課題に鑑み、本開示は、酸化セリウムの発色を利用し鮮やかな赤色を呈するジルコニア焼結体において、組成を変えることなく、視認される表面の色調を変化させることができる構成を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、酸化セリウムを着色剤として赤色を呈色するジルコニア焼結体について検討した。その結果、酸化セリウムを着色剤とする赤色ジルコニア焼結体を複合焼結体とすることで、赤色ジルコニア焼結体自体の組成を変えることなく、視認される表面の色調が変化することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本開示の要旨は以下のとおりである。
[1] CeO換算で0.5mol%以上4mol%未満のセリウム酸化物、2mol%以上6mol%未満のイットリア、及び0.1質量%以上2質量%未満のアルミニウム酸化物を含有し、残部がジルコニアであり、該セリウム酸化物が三価セリウムを含み、なおかつ、該ジルコニアの結晶構造が正方晶を含むジルコニア焼結体からなる層と、
2.0質量%以上20.0質量%以下のアルミニウム酸化物を含有し、残部が2mol%以上6mol%未満のイットリアを含むジルコニアであるジルコニア質焼結体からなる層、若しくは、2mol%以上6mol%未満のイットリア、及び着色剤を含有し、残部がジルコニアであり、L表色系における明度Lが10以上75以下、色相aが-3以下又は3以上、色相bが-3以下又は3以上、なおかつ、彩度Cが1以上30以下であるジルコニア質焼結体からなる層、の少なくともいずれかと、
が積層していることを特徴とする複合焼結体。
[2] CeO換算で0.5mol%以上4mol%未満のセリウム酸化物、2mol%以上6mol%未満のイットリア、及び0.1質量%以上2質量%未満のアルミニウム酸化物を含有し、残部がジルコニアであり、該セリウム酸化物が三価セリウムを含み、なおかつ、該ジルコニアの結晶構造が正方晶を含むジルコニア焼結体からなる層と、
2.0質量%以上20.0質量%以下のアルミニウム酸化物を含有し、残部が2mol%以上6mol%未満のイットリアを含むジルコニアであるジルコニア質焼結体からなる層と、が積層していることを特徴とする上記[1]に記載の複合焼結体。
[3] 前記ジルコニア質焼結体が2.0質量%以上20.0質量%未満のアルミニウム酸化物を含有する上記[1]又は[2]に記載の複合焼結体。
[4] 前記ジルコニア質焼結体は、試料厚み2.5mm、測定波長650nmおける反射率が50%以上である上記[1]乃至[3]のいずれかひとつに記載の複合焼結体。
[5] 前記ジルコニア質焼結体の色調が、L表色系における明度Lが70以上100以下、色相aが-3を超え3未満、かつ、色相bが-3を超え3未満である上記[1]乃至[4]のいずれひとつに記載の複合焼結体。
[6] CeO換算で0.5mol%以上4mol%未満のセリウム酸化物、2mol%以上6mol%未満のイットリア、及び0.1質量%以上2質量%未満のアルミニウム酸化物を含有し、残部がジルコニアであり、該セリウム酸化物が三価セリウムを含み、なおかつ、該ジルコニアの結晶構造が正方晶を含むジルコニア焼結体からなる層と、
2mol%以上6mol%未満のイットリア、及び着色剤を含有し、残部がジルコニアであり、L表色系における明度Lが10以上75以下、色相aが-3以下又は3以上、かつ、色相bが-3以下又は3以上であり、なおかつ、彩度Cが1以上30以下であるジルコニア質焼結体からなる層と、が積層していることを特徴とする上記[1]に記載の複合焼結体。
[7] 前記ジルコニア質焼結体は、試料厚み0.3mm、測定波長650nmにおける反射率に対する測定波長580nmにおける反射率の割合が0.7以上2.5以下である上記[6]に記載の複合焼結体。
[8] 前記着色剤が、マンガン(Mn)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、銅(Cu)、チタン(Ti)、亜鉛(Zn)、アルミニウム(Al)、ランタン(La)、プラセオジム(Pr)、ネオジム(Nd)、ユーロピウム(Eu)、ガドリウム(Gd)、テルビウム(Tb)、ジスプロジウム(Dy)、ホルミウム(Ho)、エルビウム(Er)及びイッテルビウム(Yb)の群から選ばれる1以上の元素である上記[6]又は[7]に記載の複合焼結体。
[9] 前記着色剤の含有量が、0.01質量%以上30質量%以下である上記[6]乃至[8]のいずれかひとつに記載の複合焼結体。
[10] 前記ジルコニア焼結体におけるジルコニアの結晶粒子の平均結晶粒径が2μm以下である上記[1]乃至[9]のいずれかひとつに記載の複合焼結体。
[11] 前記ジルコニア焼結体からなる層の色調が、20≦L≦60、30≦a≦60及び0.9≦a/bである上記[1]乃至[10]のいずれかひとつに記載の複合焼結体。
[12] 前記ジルコニア焼結体からなる層におけるアルミニウム酸化物が、スピネル、ランタンアルミネート及び酸化アルミニウムの群から選ばれる1以上である上記[1]乃至[11]のいずれかひとつに記載の複合焼結体。
[13] 前記ジルコニア焼結体からなる層の厚みに対する、前記ジルコニア質焼結体の厚みの比が0.5以上10.0以下である上記[1]乃至[11]のいずれかひとつに記載の複合焼結体。
[14] 2mol%以上6mol%未満のイットリア、CeO換算で0.5mol%以上4mol%未満のセリウム酸化物、及び0.1質量%以上2質量%未満のアルミニウム酸化物を含み、残部がジルコニアである層と、
2mol%以上6mol%未満のイットリア、及び、2.0質量%以上20.0質量%以下のアルミニウム酸化物を含有し、残部がジルコニアである層、若しくは、2mol%以上6mol%未満のイットリア、及び着色剤を含有し、残部がジルコニアである層、の少なくともいずれか、
を含む成形体を還元雰囲気中で焼結する焼結工程、を有することを特徴とする上記[1]乃至[13]のいずれかひとつに記載の複合焼結体の製造方法。
[15] 前記焼結工程が、成形体を酸化雰囲気で常圧焼結して一次焼結体を得る一次焼結工程、及び、一次焼結体を還元雰囲気で常圧焼結する二次焼結工程からなる上記[14]に記載の複合焼結体の製造方法。
[16] 上記[1]乃至[13]のいずれかひとつに記載の複合焼結体を含む部材。
【発明の効果】
【0011】
本開示により、酸化セリウムの発色を利用し鮮やかな赤色を呈するジルコニア焼結体において、組成を変えることなく、視認される表面の色調を変化させることができる構成を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本開示の複合焼結体の実施態様について、一例を示して説明する。
【0013】
本実施形態は、CeO換算で0.5mol%以上4mol%未満のセリウム酸化物、2mol%以上6mol%未満のイットリア、及び0.1質量%以上2質量%未満のアルミニウム酸化物を含有し、残部がジルコニアであり、該セリウム酸化物が三価セリウムを含み、なおかつ、該ジルコニアの結晶構造が正方晶を含むジルコニア焼結体からなる層(以下、「表面層」ともいう。)と、
2.0質量%以上20.0質量%以下のアルミニウム酸化物を含有し、残部が2mol%以上6mol%未満のイットリアを含むジルコニアであるジルコニア質焼結体からなる層、若しくは、2mol%以上6mol%未満のイットリア、及び着色剤を含有し、残部がジルコニアであり、L表色系における明度Lが10以上75以下、色相aが-3以下又は3以上、かつ、色相bが-3以下又は3以上であり、なおかつ、彩度Cが1以上30以下であるジルコニア質焼結体からなる層、の少なくともいずれか(以下、「基材層」ともいう。)と、
が積層していることを特徴とする複合焼結体、に係る。
【0014】
このような構成により、焼結体の組成自体を変えることなく、視認した場合における表面層の色調を変化させることができる。これにより、焼結体、すなわち焼結後の部材加工等の後処理の段階において、視認される赤色色調の微調整がし易くなる。
【0015】
本実施形態において、複合焼結体は、組成の異なる2以上の焼結体が積層した構造を有する焼結体である。各種部材へと加工する際の取扱いが容易になるため、複合焼結体は、組成の異なる2以上の焼結体が焼結して積層した構造を有する焼結体であることが好ましい。焼結体同士が焼結して積層した構造を有する複合焼結体は、例えば、2以上の層が積層した構造を有する成形体を焼結することで得られる。
【0016】
本実施形態の複合焼結体は、表面層と基材層が積層しており、好ましくは、表面層と基材層とが互いに焼結により積層している。すなわち、本実施形態における複合焼結体は、表面層と基材層が積層した構造を有する焼結体であり、焼結体からなる層が積層し、なおかつ、当該層同士が焼結した構造を有する焼結体であることが好ましい。表面層と基材層とが積層することによって、焼結後の焼結体の表面層を加工することによって、視認される表面層の色調の微調整ができる。本実施形態の複合焼結体は、表面層と基材層以外の層を含んでいてもよく、焼結体からなる層が3層以上積層した構造を有していてもよい。
【0017】
本実施形態の複合焼結体は、目的とする用途に応じた形状やサイズを有していればよい。例えば、各種部材として使用される場合、本実施形態の複合焼結体の厚みは0.1mm以上10.0mm以下であることが挙げられ、0.5mm以上8.0mm以下であることが好ましく、1.0mm以上5.0mm以下であることがより好ましく、2.0mm以上4.0mm以下であることが更に好ましい。
【0018】
表面層及び基材層の厚みは任意であるが、表面層の厚みに対する基材層の厚みの比が0.5以上10.0以下であることが好ましく、3.5以上9.0以下であることがより好ましく、4.0以上8.0以下であることが好ましい。
【0019】
本開示の実施形態は、CeO換算で0.5mol%以上4mol%未満のセリウム酸化物、2mol%以上6mol%未満のイットリア、及び0.1質量%以上2質量%未満のアルミニウム酸化物を含有し、残部がジルコニアであり、該セリウム酸化物が三価セリウムを含み、なおかつ、該ジルコニアの結晶構造が正方晶を含むジルコニア焼結体からなる層(表面層)と、
2.0質量%以上20.0質量%以下のアルミニウム酸化物を含有し、残部が2mol%以上6mol%未満のイットリアを含むジルコニアであるジルコニア質焼結体からなる層(基材層;以下、当該基材層を「無彩色層」ともいう。)、とが積層していることを特徴とする複合焼結体、に係る。このような構成により、表面層の厚みを調整するだけで、焼結体の組成自体を変えることなく、目視した場合における表面層の色調を変化させることができ、焼結後における表面層の赤色色調の微調整がし易くなる。
【0020】
表面層は、CeO換算で0.5mol%以上4mol%未満のセリウム酸化物、2mol%以上6mol%未満のイットリア、及び0.1質量%以上2質量%未満のアルミニウム酸化物を含有し、残部がジルコニアであり、該セリウム酸化物が三価セリウムを含み、なおかつ、該ジルコニアの結晶構造が正方晶を含むジルコニア焼結体(以下、「赤色焼結体」ともいう。)からなる。
【0021】
赤色焼結体は、イットリアを含有する。イットリウムはジルコニアを着色することなく安定化剤として機能する。イットリアの含有量は、2mol%以上6mol%未満であり、2mol%以上5mol%以下、更には2mol%以上4mol%以下であることが好ましい。イットリア含有量は2.5mol%以上3.5mol%以下であってもよい。
【0022】
赤色焼結体におけるイットリアの含有量(mol%)は、赤色焼結体中のジルコニア及びイットリアの合計に対する、イットリアのモル割合である。
【0023】
赤色焼結体は、ジルコニアを着色することなく安定化剤として機能する化合物、例えば、カルシア及びマグネシアの少なくともいずれかを含んでいてもよい。
【0024】
赤色焼結体は、セリウム酸化物を含有する。セリウムはジルコニアの安定化剤として機能し、なおかつ、ジルコニア中でセリウムが三価セリウム(Ce3+)となることで赤系統の呈色を示す。赤色焼結体のセリウム酸化物の含有量は、CeO換算で0.5mol%以上4mol%未満、更には0.5mol%以上3mol%以下、更には0.5mol%以上2.5mol%以下である。特に好ましいセリウム酸化物の含有量として0.6mol%以上1.6mol%以下、更には0.6mol%以上1.2mol%以下を挙げることができる。
【0025】
赤色焼結体中のセリウム酸化物の含有量(mol%)は、赤色焼結体中のジルコニア、イットリア、CeO換算したセリウム酸化物及びAl換算したアルミニウム酸化物の合計に対する、CeO換算したセリウム酸化物のモル割合(CeO/(ZrO+Y+CeO+Al))で求められる。
【0026】
赤色焼結体は三価セリウム(Ce3+)含む。三価セリウムが多いほど、ジルコニア焼結体はより赤色に近い色調となる。そのため、赤色焼結体に含まれるセリウム酸化物は、三価セリウムを多く含むことが好ましく、セリウム酸化物中の全セリウムに対する三価セリウムのモル割合が50%以上、更には60%以上、また更には70%以上、また更には80%以上であることが好ましい。三価セリウムのモル割合は100%以下である。
【0027】
赤色焼結体を800℃以上の酸化雰囲気下で焼成することにより、以下の式で示す反応が生じ、酸化雰囲気の焼成により三価セリウムが酸化される。
【0028】
1/2Ce+ 1/4O → CeO
このように、焼成前後の焼結体質量の増加分を、赤色焼結体に含まれる三価セリウムの量とみなすことができる。そのため、本実施形態において、三価セリウムのモル割合は以下の式から求めることができる。
【0029】
Ce3+(mol%) = [{(W-W)/W}×4]/MCe×100
上記式においてWは赤色焼結体の質量(g)、Wは酸化雰囲気下で焼成後の焼結体の質量(g)、Wは酸素の物質量(32.0g/mol)、及び、MCeは焼結体のセリウム含有量(mol)である。なお、Wを求める際の酸化雰囲気下での焼成の条件は、Wの質量増加が平衡に達する条件であればよい。好ましい焼成条件として、大気中、1050℃以上1400℃以下、1時間以上10時間以下の常圧焼結を挙げることができる。焼結体中のセリウム含有量は、例えばICP測定等の組成分析により求めることができる。
【0030】
赤色焼結体はアルミニウム酸化物を含有する。アルミニウム酸化物はジルコニアとは別の結晶粒子として存在する。赤色焼結体において、ジルコニアの結晶粒子と、アルミニウム酸化物の結晶粒子とが共存することで、アルミニウム酸化物の結晶粒子が、ジルコニアの結晶粒子中の三価セリウムの発色を適度に反射することができる。アルミニウム酸化物の結晶粒子は焼結体中で凝集せず、さらには不規則に分散した状態で存在することが好ましい。アルミニウム酸化物の結晶粒子が不規則に分散することで、三価セリウムの呈色が複雑に反射される。これにより赤色焼結体全体が均一で鮮やかな赤色を呈する。アルミニウム酸化物の結晶粒子は分散していることが好ましいため、赤色焼結体において、アルミニウム酸化物の結晶粒子同士が粒界を形成していないこと、又は、アルミニウム酸化物の結晶粒子同士の粒界が少ないこと、が挙げられる。
【0031】
赤色焼結体が含有するアルミニウム酸化物は、結晶粒径が0.5μm以上3μm以下であることが好ましい。
【0032】
アルミニウム酸化物の含有量は、赤色焼結体質量に対し、アルミニウム酸化物を酸化アルミニウム(Al)と換算した質量の割合が0.1質量%以上2質量%未満、更には0.2質量%以上1.2質量%以下である。アルミニウム酸化物の含有量が0.1質量%未満であると、アルミニウム酸化物が赤色焼結体中に十分に分散できなくなり、赤色焼結体の表面、内部で色調が異なり易くなる。一方、アルミニウム酸化物が2質量%以上では、赤色焼結体中のアルミニウム酸化物の結晶粒子が多くなりすぎる。これにより、過剰な反射が生じ、赤色焼結体の色調が赤色以外、例えば、橙色から黄色の色調となる。好ましいアルミニウム酸化物の含有量として0.2質量%以上1質量%以下、更には0.21質量%以上0.8質量%以下、また更には0.21質量%以上0.6質量%以下が挙げられる。
【0033】
アルミニウム酸化物はアルミニウムを含む酸化物であり、酸化アルミニウム(アルミナ:Al)と同様な色調を有するものであればよい。赤色焼結体が含有するアルミニウム酸化物として、アルミニウムを含む複合酸化物及び酸化アルミニウム(Al)の少なくともいずれか、更にはスピネル(MgAl)、ランタンアルミネート(LaAl1119)及び酸化アルミニウムの群から選ばれる1以上、また更には酸化アルミニウムが挙げられる。
【0034】
赤色焼結体は色調に影響を与えない程度の不純物を含んでいてもよい。しかしながら、赤色焼結体はシリカ及びチタニアの含有量が、それぞれ、赤色焼結体質量に対して0.1質量%未満、更には0.05質量%以下、また更にはシリカ及びチタニアを含まないこと(0質量%)が好ましい。組成分析による誤差を考慮すると、赤色焼結体は、それぞれ、シリカ及びチタニアの含有量が0.001質量%以下であることが好ましく、0質量%以上0.05質量%以下、更には0質量%以上0.001質量%以下であることが挙げられる。シリカは焼結体中で粗大粒を形成しやすい。焼結体中に形成されたシリカの粗大粒は、目視で観察できる大きさの白色斑点となる。シリカの粗大粒が含まれる場合、均一な赤色の色調を有するジルコニア焼結体が得られなくなる。また、チタニアは還元雰囲気で焼結することで黒色が生じる。チタニアを含有すると黒味を帯びた色調となるため、鮮やかな赤色を呈するジルコニア焼結体が得られない。なお、チタニアの黒色化を解消するために焼結体を再酸化することが知られている。しかしながら、赤色焼結体においては、再酸化により、三価セリウムが酸化される。これにより、焼結体が橙色等の赤色とは異なる色調となる。また、赤色焼結体は、ガラス相を含まないことが好ましい。
【0035】
赤色焼結体の結晶構造は正方晶を含み、結晶構造の主相が正方晶であることが好ましい。また、赤色焼結体の結晶構造は、正方晶及び立方晶の混晶であってもよい。正方晶は光学的に異方性を有する結晶構造である。正方晶を含むことにより、光が反射されやすくなるため、赤色焼結体の色調が透明感を有さず、明確な赤色を呈する。さらに、結晶構造の主相が正方晶であることによって、赤色焼結体が高い強度を有する。
【0036】
結晶構造はXRDパターンにより確認すればよい。XRDパターンは、一般的なX線回折装置(例えば、UltimaIIV、リガク社製)を使用し、以下の条件で測定することが例示できる。
【0037】
線源 : CuKα線(λ=0.15418nm)
測定モード : 連続スキャン
スキャンスピード : 4°/分
ステップ幅 : 0.02°
測定範囲 : 2θ=26°~33°
XRDパターンにおいて、正方晶、立方晶又は単斜晶のいずれかの結晶構造を有するジルコニアに相当するXRDピークの中で、最もピーク強度が高いものを主相とした。なお、正方晶及び立方晶ジルコニアのXRDピークは、2θ=30±0.5°にピークトップを有するXRDピークとして確認される。本実施形態においては、当該ピークの存在をもって、少なくとも結晶構造が正方晶を含むとみなせばよく、更には正方晶及び立方晶の混晶とみなしてもよい。
【0038】
赤色焼結体の、ジルコニアの結晶粒子の平均結晶粒径は2μm以下、更には1μm以下であることが好ましい。ジルコニアの結晶粒子の平均結晶粒径が2μm以下であることで、装飾品等の部材として使用するのに十分な強度となる。平均結晶粒径は0.4μm以上、更には0.6μm以上であることが挙げられる。
【0039】
本実施形態において、ジルコニアの平均結晶粒径は、焼結体の走査型顕微鏡(以下、「SEM」とする。)観察図で観察される200個以上、好ましくは225±25個、のジルコニアの結晶粒子の結晶径をインターセプト法で求め、これを平均することにより求めることができる。ジルコニアの平均結晶粒径の測定は、測定試料として鏡面研磨した後に熱エッチングした焼結体を使用し、SEM観察図として当該焼結体の表面層を倍率20,000倍で得られるSEM観察図を使用し、当該SEM観察図からインターセプト法(k=1.78)により各ジルコニアの結晶粒径を求め、得られた結晶粒径の合計値を結晶粒子数で除すこと、が例示できる。
【0040】
赤色焼結体は、ジルコニアの結晶粒子とアルミニウム酸化物の結晶粒子とからなるが、SEM観察図において、不定形状のアルミニウム酸化物の結晶粒子と、マトリックス(母相)であるジルコニアの結晶粒子とは色調が異なるため、両者を明確に区別することができる。
【0041】
表面層の色調はL表色系において、明度Lが20以上、色相aが30以上、及び、色相bに対する色相aの比(以下、「a/b」ともいう。)が0.9≦a/bであることが挙げられる。
【0042】
表面層は、上記の明度L、色相a又はa/bのいずれかを満たすものではなく、上記の明度L、色相a及びa/bを満たすことで、その呈色が赤に近い色調ではなく、赤色の色調となる。
【0043】
表面層の好ましい色調として、20≦L≦60、30≦a≦60及び0.9≦a/b、更には20≦L≦40、30≦a≦50及び0.9≦a/b≦1.4、また更には20≦L≦35、35≦a≦45及び0.9≦a/b≦1.2であることが挙げられる。特に好ましい色調として、21≦L≦30、36≦a≦45及び0.9≦a/b≦1.1、若しくは、20≦L≦40、35≦a≦60及び0.9≦a/b≦1.2、を挙げることができる。
【0044】
本実施形態において、色調及び反射率はJIS Z8722の方法に準じた方法により測定することができる。色調及び反射率は、正反射光を除去し、拡散反射光を測定するSCE方式で求めることで、より目視に近い状態で色調及び反射率を評価することができる。色調の測定条件として以下の条件が例示できる。
【0045】
色差計 : CM-700d(コニカミノルタ製)
光源 : D65光源
視野角 : 10°
測定方式 : SCE方式
基準試料 :白色校正キャップ(製品名:CM-A177、コニカミノルタ社製)
本実施形態において、表面層の厚さは3mm以下であることが例示でき、0.5mm以下であることが好ましい。表面層の厚さとして0.1mm以上1.0mm以下、好ましくは0.2mm以上0.4mm以下が例示できる。
【0046】
また、反射率は、入射光の光束に対する拡散反射光の光束の割合(%)である。
【0047】
基材層(無彩色層)は、2mol%以上6mol%未満のイットリア、及び2.0質量%以上20.0質量%以下のアルミニウム酸化物を含有し、残部がジルコニアである焼結体(以下、「無彩色焼結体」ともいう。)からなる。このような無彩色焼結体と表面層とが積層することにより、表面層の厚みを調整するだけで、焼結体の組成自体を変えることなく、目視した場合における表面層の色調を変化させることができる。
【0048】
無彩色焼結体は、イットリアを含有する。イットリウムはジルコニアを着色することなく安定化剤として機能する。イットリアの含有量は、2mol%以上6mol%未満であり、2mol%以上4mol%以下であることが好ましい。
【0049】
無彩色焼結体におけるイットリアの含有量(mol%)は、基材焼結体中のジルコニア及びイットリアの合計に対する、イットリアのモル割合である。
【0050】
無彩色焼結体は、ジルコニアを着色することなく安定化剤として機能する化合物、例えば、カルシア及びマグネシアの少なくともいずれかを含んでいてもよい。
【0051】
無彩色焼結体が含有するアルミニウム酸化物は、結晶粒径が0.5μm以上3μm以下であることが好ましい。
【0052】
アルミニウム酸化物の含有量は、焼結体質量に対し、アルミニウム酸化物を酸化アルミニウム(Al)と換算した質量の割合が2.0質量%以上20.0質量%以下であり、2.0質量%以上20.0質量%未満であることが好ましく、5.0質量%以上10.0質量%以下であることがより好ましく、5.5質量%以上10.0質量%以下であることが更に好ましい。
【0053】
アルミニウム酸化物はアルミニウムを含む酸化物であり、酸化アルミニウム(アルミナ:Al)と同様な色調を有するものであればよい。無彩色焼結体が含有するアルミニウム酸化物として、アルミニウムを含む複合酸化物及び酸化アルミニウム(Al)の少なくともいずれか、更にはスピネル(MgAl)、ランタンアルミネート(LaAl1119)及び酸化アルミニウムの群から選ばれる1以上、また更には酸化アルミニウムが挙げられる。
【0054】
無彩色焼結体は色調に影響を与えない程度の不純物を含んでいてもよい。しかしながら、無彩色焼結体はチタニアの含有量が、無彩色焼結体の質量に対して0.1質量%未満、更には0.05質量%以下、また更にはチタニアを含まないこと(0質量%)が好ましい。組成分析による誤差を考慮すると、無彩色焼結体は、チタニアの含有量が0質量%以上0.001質量%以下であることが好ましい。
【0055】
無彩色焼結体の結晶構造は正方晶を含み、結晶構造の主相が正方晶であることが好ましい。また、基材焼結体の結晶構造は、正方晶及び立方晶の混晶であってもよい。正方晶は光学的に異方性を有する結晶構造である。
【0056】
無彩色焼結体の、ジルコニアの結晶粒子の平均結晶粒径は2μm以下、更には1μm以下であることが好ましい。ジルコニアの結晶粒子の平均結晶粒径は0.5μm以上であることが例示できる。
【0057】
無彩色焼結体は、試料厚み2.5mm、測定波長650nmにおける反射率(以下、「反射率(650)」ともいう。)が50%以上であることが好ましく、70%以上であることがより好ましい。反射率(650)は高いほど好ましいが、その上限として100%以下、更に90%以下であることが例示できる。
【0058】
無彩色焼結体の色調は、L表色系における明度Lが70以上100以下、色相aが-3を超え3未満、かつ、色相bが-3を超え3未満であることが好ましく、明度Lが80以上100以下、色相aが-1以上1以下、かつ、色相bが-1以上1以下であることがより好ましい。
【0059】
本開示の別の実施形態は、CeO換算で0.5mol%以上4mol%未満のセリウム酸化物、2mol%以上6mol%未満のイットリア、及び0.1質量%以上2質量%未満のアルミニウム酸化物を含有し、残部がジルコニアであり、該セリウム酸化物が三価セリウムを含み、なおかつ、該ジルコニアの結晶構造が正方晶を含むジルコニア焼結体からなる層(表面層)と、
2mol%以上6mol%未満のイットリア、及び着色剤を含有し、残部がジルコニアであり、L表色系における明度Lが10以上75以下、色相aが-3以下又は3以上、かつ、色相bが-3以下又は3以上であり、なおかつ、彩度Cが1以上30以下であるジルコニア質焼結体からなる層(基材層;以下、当該基材層を「有彩色層」ともいう。)と、
が積層していることを特徴とする複合焼結体、に係る。表面層と有彩色層とが積層した構造を有する複合焼結体により、表面層の厚みを調整するだけで、焼結体の組成自体を変えることなく、目視した場合における表面層の色調を変化させることができることに加え、表面層がより赤みの強い色調として視認され得る。これにより、焼結後に赤色色調の微調整が可能となることに加え、加工によって薄い部材とした場合にであっても、単独の赤色焼結体である場合と比べ、表面層の赤みが強い色調を呈しやすくなる。
【0060】
本実施形態における基材層(有彩色層)は、2mol%以上6mol%未満のイットリア、及び着色剤を含有し、残部がジルコニアであり、L表色系における明度Lが10以上75以下、色相aが-3以下又は3以上、色相bが-3以下又は3以上であり、なおかつ、彩度Cが1以上30以下であるジルコニア質焼結体(以下、「有彩色焼結体」ともいう。)からなる。
【0061】
有彩色焼結体は、L表色系における明度Lが10以上75以下、色相aが-3以下又は3以上、色相bが-3以下又は3以上であり、なおかつ、彩度Cが1以上30以下ある。彩度Cは以下の式から求められる。
【0062】
彩度C = {(色相a + (色相b1/2
有彩色焼結体の好ましい色調として、以下のL及びCが例示できる。
【0063】
明度L:15以上75以下、
好ましくは30以上75以下、
より好ましくは60以上75以下、
色相a:-20以上-3以下又は3以上20以下、
好ましくは-18以上-10以下又は3以上15以下、
色相b:-30以上-3以下又は3以上40以下、
好ましくは-30以上-3以下又は10以上20以下、
より好ましくは-30以上-5以下、なおかつ
彩度C:3以上30以下、
好ましくは4以上25以下、
より好ましくは10以上23以下
なお、本実施形態の複合焼結体においては、有彩色焼結体は、明度L、色相a、色相b及び彩度Cの少なくともいずれかが赤色焼結体と異なることが挙げられる。
【0064】
このような色調を呈する有彩色焼結体と、表面層と、が積層する構造を有することで、赤色焼結体が単独である場合と比べて、赤色焼結体の色調における補色の低減のみならず、黄色みも低減される傾向があり、視認した場合の表面層の色調の赤みがより強調されやすくなる。一方、このような色調を満たさない基材層と、表面層とを積層した場合、表面層の赤みは単独の赤色焼結体と同程度になりやすく、更には、視認した場合における表面層の赤みが弱くなる場合もある。
【0065】
本実施形態において、赤みの指標のひとつとして色相aと色相bとの差(以下、「(a-b)」ともいう。)が挙げられ、この値が大きくなるほど表面層を視認した場合における赤みが強くなる傾向がある。本実施形態の複合焼結体の構成とすることで、赤色焼結体が単独である場合(例えば、有彩色層と積層していない状態の赤色焼結体)の(a-b)の値に対する、表面層の(a-b)の値の差(以下、「△(a-b)」ともいう。)が1.7以上5.0以下、更には1.9以上4.5以下、また更には2.0以上4.0以下、高くなることが好ましい。
【0066】
一方、表面層の(a-b)は、複合焼結体に含まれる各赤色焼結体の元々の色調に依存するため、表面層毎に異なるが、例えば、0.3以上2.5以下、更には0.5以上2.0以下、また更には0.6以上1.9以下が挙げられる。
【0067】
有彩色焼結体は、試料厚み0.3mm、測定波長650nmにおける反射率に対する測定波長580nmにおける反射率の割合(以下、「反射率比」ともいう。)が0.7以上2.5以下であることが好ましく、0.9以上2.0以下であることがより好ましい。このような反射率比を有する有彩色焼結体からなる層と、表面層と、が積層した構造により、表面層の色調が、より赤みの強調された色調として視認されやすくなる。
【0068】
有彩色焼結体は、イットリアを含有する。イットリウムはジルコニアを着色することなく安定化剤として機能する。イットリアの含有量は、2mol%以上6mol%未満であり、2mol%以上4mol%以下であることが好ましい。
【0069】
有彩色焼結体におけるイットリアの含有量(mol%)は、有彩色焼結体中のジルコニア及びイットリアの合計に対する、イットリアのモル割合で求められる。
【0070】
有彩色焼結体は、ジルコニアを安定化剤として機能する化合物、例えば、カルシア又はマグネシアの少なくともいずれかを含んでいてもよい。
【0071】
有彩色焼結体は、着色剤を含有する。着色剤はジルコニア質焼結体を着色する機能を有する元素であり、有彩色焼結体が上述の色調を有する焼結体となれば、着色剤の種類及び含有量は任意である。着色剤として、遷移金属、典型金属及びランタノイド系希土類元素の群から選ばれる1以上の元素が例示でき、マンガン(Mn)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、銅(Cu)、チタン(Ti)、亜鉛(Zn)、アルミニウム(Al)、ランタン(La)、プラセオジム(Pr)、ネオジム(Nd)、ユーロピウム(Eu)、ガドリウム(Gd)、テルビウム(Tb)、ジスプロジウム(Dy)、ホルミウム(Ho)、エルビウム(Er)及びイッテルビウム(Yb)の群から選ばれる1以上の元素であることが好ましく、鉄、コバルト、ニッケル、チタン、アルミニウム、ネオジム、ガドリウム及びエルビウムの群から選ばれる1以上の元素であることがより好ましく、鉄、コバルト、ニッケル、チタン、アルミニウム及びネオジムの群から選ばれる1以上の元素であることがより好ましい。
【0072】
有彩色焼結体における着色剤の存在状態は任意であり、例えば、ジルコニアに固溶した状態及び酸化物の状態の少なくともいずれかが例示でき、該酸化物は2以上の着色剤を含む複合酸化物であってもよい。
【0073】
着色剤の含有量は、0.01質量%以上30質量%以下、好ましくは0.01質量%以上10質量%以下、より好ましくは0.1質量%以上8質量%以下、更に好ましくは0.3質量%以上5質量%以下であることが挙げられる。着色剤の含有量は、有彩色焼結体の質量に対する、各元素を酸化物換算した合計質量の割合(質量%)である。
【0074】
各元素を酸化物換算する場合、当該酸化物として酸化マンガン(Mn)、酸化鉄(Fe)、酸化コバルト(Co)、酸化ニッケル(NiO)、酸化銅(CuO)、酸化チタン(TiO)、酸化亜鉛(ZnO)、酸化アルミニウム(Al)、酸化ランタン(La)、酸化プラセオジム(Pr11)、酸化ネオジム(Nd)、酸化ユーロピウム(Eu)、酸化ガドリニウム(Gd)、酸化テルビウム(Tb)、酸化ジスプロジウム(Dy)、酸化ホルミウム(Ho)、酸化エルビウム(Er)又は酸化イッテルビウム(Yb)が、それぞれ挙げられる。
【0075】
有彩色焼結体の、ジルコニアの結晶粒子の平均結晶粒径は2μm以下、更には1μm以下であることが好ましい。ジルコニアの結晶粒子の平均結晶粒径は0.5μm以上であることが例示できる。
【0076】
本実施形態における複合焼結体は、基材層を有彩色層とする構成等、上述した構成以外は、表面層と、無彩色層と、が積層していることを特徴する複合焼結体と同様であればよい。
【0077】
本実施形態の複合焼結体は、これを含む部材として使用することができ、傷のつかない高級感のある宝飾品、装飾部材等の部材、例えば、時計部品、携帯用電子機器の外装部品等の様々な部材へ利用することができる。
【0078】
本実施形態の複合焼結体を含む部材は、少なくとも表面層(赤色焼結体)が視認され得るように本実施形態の複合焼結体を含んでいればよく、表面層及び基材層が視認され得る形態で本実施形態の複合焼結体を含んでいてもよい。
【0079】
次に、本実施形態の複合焼結体の製造方法について説明する。
【0080】
本実施形態の複合焼結体は、任意の方法で、表面層と基材層とを積層させることで得られる。表面層と基材層とが焼結して積層した構造を有する複合焼結体は、2mol%以上6mol%未満のイットリア、CeO換算で0.5mol%以上4mol%未満のセリウム酸化物、及び0.1質量%以上2質量%未満のアルミニウム酸化物を含み、残部がジルコニアである層(以下、「赤色組成物層」ともいう。)と、
2mol%以上6mol%未満のイットリア、及び2.0質量%以上20.0質量%以下のアルミニウム酸化物を含有し、残部がジルコニアである層、若しくは、2mol%以上6mol%未満のイットリア、及び着色剤を含有し、残部がジルコニアである層、の少なくともいずれか(以下、「基材組成物層」ともいう。)と、
を含む成形体を還元雰囲気中で焼結する焼結工程、を有することを特徴とする複合焼結体の製造方法、により製造することが好ましい。
【0081】
赤色組成物層及び基材組成物層の組成は、それぞれ、上記の赤色焼結体及び基材焼結体の組成範囲と同様な組成であれば、任意の組成であればよい。
【0082】
好ましい赤色組成物層の組成として、2mol%以上4mol%以下のイットリア、CeO換算で0.5mol%以上1.5mol%以下のセリウム酸化物、及び0.1質量%以上1質量%以下のアルミニウム酸化物、残部がジルコニアであることが挙げられる。
【0083】
2mol%以上6mol%未満のイットリア、及び2.0質量%以上20.0質量%以下のアルミニウム酸化物を含有し、残部がジルコニアである層からなる基材組成物層(以下、当該基材組成物層を「無彩色組成物層」ともいう。)の組成は、2mol%以上4mol%以下のイットリア、及び5.5質量%以上20質量%未満のアルミニウム酸化物、残部がジルコニアであることが好ましく、2mol%以上4mol%以下のイットリア、及び5.5質量%以上10質量%以下のアルミニウム酸化物、残部がジルコニアであることが特に好ましい。
【0084】
2mol%以上6mol%未満のイットリア、及び着色剤を含有し、残部がジルコニアである層からなる基材組成物層(以下、当該基材組成物層を「有彩色組成物層」ともいう。)の組成は、2mol%以上4mol%以下のイットリア、並びに、酸化物換算で0.1質量%以上30質量%以下のマンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、チタン、亜鉛、アルミニウム、ランタン、プラセオジム、ネオジム、ユーロピウム、ガドリウム、テルビウム、ジスプロジウム、ホルミウム、エルビウム及びイッテルビウムの群から選ばれる1以上の元素を含む化合物(以下、「着色原料」ともいう。)を含有し、残部がジルコニアであることが好ましく、2mol%以上4mol%以下のイットリア、並びに、酸化物換算で0.1質量%以上30質量%以下の鉄、コバルト、ニッケル、チタン、アルミニウム及びネオジムの群から選ばれる1以上の元素を含む化合物を含有し、残部がジルコニアであることがより好ましい。
【0085】
成形体の形状は任意であり、円板状、柱状、板状、球状及び略球状の群から選ばれる少なくとも1種が例示できる。
【0086】
赤色組成物層は、イットリア、セリウム酸化物、アルミニウム酸化物及びジルコニアを、一方、基材組成物層は、イットリア、アルミニウム酸化物等及びジルコニアを、それぞれ、上記の組成で含む原料粉末を任意の方法で混合及び成形して得られる。
【0087】
ジルコニアの原料粉末は、易焼結性の粉末であることが好ましい。好ましいジルコニアの原料粉末の物性として、2mol%以上6mol%未満のイットリアを含有すること、BET比表面積が5m/g以上20m/g以下、更には5m/g以上17m/g以下であること、及び、純度が99.6%以上、更には99.8%以上であることが挙げられる。
【0088】
セリウム酸化物の原料粉末は平均粒子径が3μm以下、更には2μm以下、また更には1μm以下であることが好ましい。特に好ましいセリウム酸化物の原料粉末として、酸化セリウム粉末、更には純度99%以上の酸化セリウム粉末、また更には純度99.9%以上の酸化セリウム粉末が挙げられる。
【0089】
アルミニウム酸化物の原料粉末は、形状が略球状又は板状の少なくともいずれかの粉末であることが好ましい。アルミニウム酸化物の原料粉末がこの様な形状をすることで、赤色組成物層中で凝集せず、なおかつ、不規則に分散しやすくなる。アルミニウム酸化物の原料粉末が略球状である場合、平均粒子径は1μm以下、更には0.5μm以下であることが好ましい。また、アルミニウム酸化物の原料粉末が板状の場合、厚みは0.5μm以下、更には0.3μm以下であり、なおかつ、長径に対する厚み(厚み/長径)が0.1以下、更には0.06以下であることが好ましい。板状のアルミニウム酸化物の原料粉末として、長径が1μm以上3μm以下、及び、厚みが0.05μm以上0.2μm以下の酸化アルミニウム粉末が例示できる。
【0090】
着色原料は、少なくとも1つの着色剤を含有する化合物であればよく、少なくとも1つの着色剤を含有する酸化物、オキシ水酸化物、水酸化物、硫酸塩、酢酸塩、硝酸塩、ハロゲン化物及びアルコキシドの群から選ばれる1以上が例示でき、少なくとも1つの着色剤を含有する酸化物、オキシ水酸化物及び水酸化物の群から選ばれる1以上であることが好ましい。別の実施形態において、着色原料は鉄、コバルト、ニッケル、アルミニウム、ネオジム、ガドリウム及びエルビウムの群から選ばれる1以上の元素を含有する酸化物、オキシ水酸化物及び酸化物の群から選ばれる1以上であることが好ましく、鉄、コバルト、ニッケル、アルミニウム及びネオジムの群から選ばれる1以上の元素を含有する酸化物、オキシ水酸化物及び酸化物の群から選ばれる1以上であることより好ましい。
【0091】
焼結工程に供する成形体は、これらの原料粉末を混合して得られた赤色組成物層及び基材組成物層、それぞれの混合粉末を積層させて成形したものであることが好ましい。
【0092】
赤色組成物層及び基材組成物層、それぞれの原料粉末の混合方法は、原料粉末が十分に混合され、混合粉末が得られる方法であればよい。好ましい混合方法として、湿式混合、更にはボールミル及び攪拌ミルの少なくともいずれかによる混合方法が挙げられ、水又はアルコールと、原料粉末とを混合したスラリーを粉砕混合する方法がより好ましい。
【0093】
混合粉末の成形方法は、赤色組成物層及び基材組成物層が形成される方法であればよく、金型プレス、冷間静水圧プレス、スリップキャスティング及びインジェクションモールディングの群から選ばれる1以上を挙げることができ、金型プレス及び冷間静水圧プレスの少なくともいずれかであることが好ましい。
【0094】
成形方法として、成形型に、赤色組成物層又は基材組成物層のいずれかの混合粉末を充填した後に、他方の混合粉末を充填して成形する方法や、赤色組成物層又は基材組成物層のいずれかの混合粉末を充填して成形して成形体とした後に、当該成形体上に他方の混合粉末を充填及び成形する方法が挙げられる。成形型に充填した混合粉末の表面を平滑するため、粉末充填後、成形前にタッピング等の振動を与えてもよい。
【0095】
焼結工程では、成形体を還元雰囲気中で焼結する。還元雰囲気中での焼結により、赤色組成物層に含まれるセリウム酸化物が還元されると共に、赤色組成物層と基材組成物層との焼結が進行し、複合焼結体の緻密化が進行する。これにより、鮮やかな赤色を呈するジルコニア焼結体を含む複合焼結体が得られる。
【0096】
焼結は、セリウム酸化物中に三価セリウムの生成が進行し、なおかつ、赤色組成物層と基材組成物層とが焼結が進行する条件で行えばよい。このような焼結として、還元雰囲気中、1400℃以上1600℃以下で焼結することが挙げられる。
【0097】
焼結工程は、成形体を常圧焼結して一次焼結体を得る一次焼結工程、及び当該一次焼結体を還元雰囲気で焼結する二次焼結工程を有する焼結工程(以下、「二段焼結法」ともいう。)であることが好ましい。三価セリウムの生成に先立って緻密化させることで、生産性高く複合焼結体を製造することができる。
【0098】
ひとつの実施形態として、焼結工程に供する成形体は、2mol%以上6mol%未満のイットリア、CeO換算で0.5mol%以上4mol%未満のセリウム酸化物、及び0.1質量%以上2質量%未満のアルミニウム酸化物を含み、残部がジルコニアである層と、
2mol%以上6mol%未満のイットリア、及び2.0質量%以上20.0質量%以下のアルミニウム酸化物を含有し、残部がジルコニアである層と、
を含む成形体、である。
【0099】
他の実施形態として、焼結工程に供する成形体は、2mol%以上6mol%未満のイットリア、CeO換算で0.5mol%以上4mol%未満のセリウム酸化物、及び0.1質量%以上2質量%未満のアルミニウム酸化物を含み、残部がジルコニアである層と、
2mol%以上6mol%未満のイットリア、及び着色剤を含有し、残部がジルコニアである層と、
を含む成形体、である。
【0100】
二次焼結工程における焼結はHIP処理であってもよいが、好ましい二段焼結法として、成形体を酸化雰囲気で常圧焼結して一次焼結体を得る一次焼結工程、及び、一次焼結体を還元雰囲気で常圧焼結する二次焼結工程を有する焼結工程(以下、「常圧還元法」ともいう。)、を挙げることができる。
【0101】
常圧還元法では、一次焼結工程で焼結体を緻密化し、二次焼結工程で三価セリウムの生成を行うことが好ましい。本実施形態において、常圧焼結とは焼結時に外的な力を付与することなく焼結する方法である。
【0102】
常圧還元法は、より簡易な設備で本実施形態の焼結体を製造することができるため、工業的な適用に適している。常圧還元法においては、HIP処理を使用しないことが好ましい。
【0103】
常圧還元法における一次焼結工程では、成形体を酸化雰囲気で常圧焼結する。これにより、還元雰囲気での常圧焼結(以下、「還元常圧焼結」ともいう。)に供する一次焼結体を得る。
【0104】
一次焼結工程は、得られる一次焼結体の相対密度が97%以上であり、かつ、赤色組成物層のジルコニアの結晶粒子の平均結晶粒径が2μm以下となる条件で成形体を焼結することが好ましい。このような一次焼結体とすることで、次いで行う還元常圧焼結により三価セリウムの生成が促進されやすくなる。
【0105】
一次焼結体は、相対密度が高いほど好ましく、相対密度が97%以上、更には99%以上、また更には99.5%以上であることが好ましい。なお、一次焼結体の相対密度は100%以下であればよい。また、一次焼結体に含まれる赤色焼結体のジルコニアの結晶粒子の平均結晶粒径は2μm以下、更には1.5μm以下、また更には1μm以下であることが好ましい。
【0106】
還元常圧焼結に供する一次焼結体を得るための一次焼結工程の条件として以下の条件を挙げることができる。
【0107】
一次焼結温度:1425℃以上1650℃以下、
更には1450℃以上1600℃以下
焼結雰囲気 :酸化雰囲気、更には大気雰囲気
一次焼結時間は、一次焼結温度に依存するが、1時間以上10時間以下であれば、二次焼結工程に供するのに適した一次焼結体が得られる。
【0108】
さらに、一次焼結は、1000℃から一次焼結温度までの昇温速度を250℃/h以下、更には200℃/h以下とすることが好ましい。1000℃以上の昇温速度を250℃/h以下とすることで、赤色組成物層内部の気孔が排除されやすくなる。より好ましい昇温速度として100℃/h以下、更には50℃/h以下を挙げることができる。
【0109】
さらに、一次焼結温度で保持した後、一次焼結温度から1000℃までの降温速度は50℃/h以上、更には100℃/h以上であることが好ましい。1000℃までの降温速度がこの範囲であることで、一次焼結工程で余熱による焼結の進行が生じにくくなる。これにより結晶粒径が均一になりやすくなる。
【0110】
常圧還元法における二次焼結工程では、一次焼結体の三価セリウムの生成が進行する条件で焼結(常圧還元焼結)すればよい。
【0111】
焼結温度は1350℃以上、更には1400℃以上であることが好ましい。1350℃以上とすることでは三価セリウムが生成しやすくなる。一方、焼結温度は1600℃以下、更には1550℃以下であれば、過度な粒成長を伴うことなく、三価セリウムの還元が十分に進行する。専ら、三価セリウムの生成を行うため、還元常圧法において、二次焼結工程の焼結(還元常圧焼結)の温度は一次焼結の温度以下であってもよい。
【0112】
二次焼結工程の焼結の時間は、三価セリウムが生成する時間であればよく、例えば、1時間以上10時間以下が挙げられる。
【0113】
常圧還元法における二次焼結工程の焼結は還元雰囲気で行う。これにより三価セリウムが生成する。還元雰囲気は、水素含有雰囲気、一酸化炭素含有雰囲気を挙げることができ、好ましくは水素及び一酸化炭素の少なくともいずれかを含有する窒素雰囲気、若しくは、水素及び一酸化炭素の少なくともいずれかを含有するアルゴン雰囲気であり、水素含有窒素雰囲気及び水素含有アルゴン雰囲気のいずれかであることがより好ましい。これら好ましい還元雰囲気における水素又は一酸化炭素の含有量は、三価セリウムの生成が進行する還元雰囲気となる量であればよく、1体積%以上10体積%以下を挙げることができる。
【0114】
本実施形態の製造方法においては、焼結工程後に酸化雰囲気下で複合焼結体を熱処理する工程、を有さないことが好ましい。本実施形態の製造方法では、還元雰囲気で焼結することにより、三価セリウムを生成させる。還元雰囲気下でのジルコニア焼結体の焼結では、ジルコニアの還元により、赤色焼結体が黒味を帯びる場合がある。通常、還元雰囲気での焼結後に酸化雰囲気で焼結すること、いわゆるアニール処理をすることにより、当該黒味は取り除かれる。しかしながら、本実施形態の製造方法で得られる複合焼結体は三価セリウムにより赤色焼結体が鮮やかな赤色を呈する。アニール処理した場合、ジルコニアと併せて三価セリウムが酸化される。これにより、三価セリウムが四価セリウムとなり、アニール処理後の焼結体が鮮やかな赤色を呈色することができなくなる。
【0115】
複合焼結体を所望の色調とするため、本実施形態の製造方法は、赤色焼結体を加工する工程を有していてもよい。
【実施例
【0116】
以下、実施例により本実施形態を具体的に説明する。しかしながら、本実施形態はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0117】
本実施形態の焼結体及び粉末の特性測定方法を以下に説明する。
【0118】
(色調及び反射率の測定)
JIS Z8722に準じた方法により、焼結体試料の色調を測定した。測定には、一般的な色差計(装置名:CM-700d、コニカミノルタ社製)を用い、当該色差計の試料面開口部に焼結体試料を設置し、以下の測定条件で測定した。測定方法は正反射光を除去し、拡散反射光を測定するSCE方式として色調及び反射率を求めた。
【0119】
光源 : D65光源
視野角 : 10°
基準試料 :白色校正キャップ(製品名:CM-A177、コニカミノルタ社製)
焼結体試料には両面鏡面研磨し、表面粗さRa=0.02μm以下とした焼結体を用いた。
【0120】
また、波長580nm又は650nmにおける、入射光の光束に対する、拡散反射光の光束の割合から反射率及び反射率比を求めた。
【0121】
(結晶構造)
焼結体試料の結晶構造は、XRDパターンにより確認した。XRDパターンは、一般的なX線回折装置(装置名:UltimaIIV、リガク社製)を使用し、粉末試料のXRDパターンを得た。XRD測定の条件は以下のとおりである。
【0122】
線源 : CuKα線(λ=0.15418nm)
測定モード : 連続スキャン
スキャンスピード : 4°/分
ステップ幅 : 0.02°
測定範囲 : 2θ=26°~33°
得られたXRDパターンより、焼結体試料の結晶構造を同定した。
【0123】
(平均結晶粒径)
表面層の赤色焼結体におけるジルコニアの結晶粒子の平均結晶粒径はインターセプト法により測定した。鏡面研磨した後の焼結体試料を熱エッチングし、その表面層を走査型顕微鏡にて20,000倍で観察した。得られたSEM観察図からインターセプト法(k=1.78)によりジルコニアの結晶粒子の平均粒子径を測定した。測定したジルコニアの結晶粒子の粒子数は200個以上(225±25個)とした。
【0124】
合成例1
3mol%イットリア含有ジルコニア粉末193.8g、平均粒子径0.8μmの酸化セリウム粉末6.0g、及び、平均粒子径0.3μmの略球状の酸化アルミニウム粉末0.2gと、純水とを混合してスラリーとした。当該スラリーを直径10mmのジルコニア製ボールを用いたボールミルにより24時間混合粉砕し、混合粉末を得た。
【0125】
混合粉末を大気中、110℃で乾燥した後、篩分けにより凝集径180μm以下の粉末を得、これを赤色粉末とした。
【0126】
一方、3mol%イットリア含有ジルコニア粉末186.0g及び平均粒子径0.3μmの略球状の酸化アルミニウム粉末14.0gと、純水とを混合してスラリーとした。当該スラリーを直径10mmのジルコニア製ボールを用いたボールミルにより24時間混合粉砕し、混合粉末を得た。
【0127】
混合粉末を大気中、110℃で乾燥した後、篩分けにより凝集径180μm以下の粉末を得、これを基材粉末とした。
【0128】
基材粉末を直径25mmの金型に充填した後、圧力100MPaで一軸加圧成形して円板状成形体を得た後、当該成形体上に赤色粉末を充填し、圧力100MPaで一軸加圧成形することで、基材粉末からなる層と、赤色粉末からなる層と、からなる直径25mm及び厚さ5.0mmの円板状成形体を得た。当該成形体を厚さ方向に観察したころ、基材粉末からなる層及び赤色粉末からなる層の間に界面が確認できた。当該界面から、基材粉末からなる層及び赤色粉末からなる層、それぞれの厚みをデジタルマイクロスコープ(装置名:VHX-5000、キーエンス社製)で測定したこところ、いずれも2.5mmであった(基材層の厚み/表面層の厚み=1.0)。
【0129】
得られた成形体は、大気雰囲気中、1550℃、2時間の常圧焼結によって一次焼結して一次焼結体を得た。一次焼結において、昇温速度を100℃/hとし、降温速度を200℃/hとした。
【0130】
得られた一次焼結体は、5%水素含有アルゴン雰囲気中、1480℃、1時間の常圧焼結によって焼結し、CeO換算で2.2mol%のセリア、3mol%のイットリア、及び0.1質量%のアルミナを含有し、残部がジルコニアであり、セリアが三価セリウムを含むジルコニア焼結体からなる層と、7.0質量%のアルミナを含有し、残部が3mol%のイットリアを含むジルコニアであるジルコニア質焼結体からなる層と、が積層し、直径20mm及び厚さ4.0mmの円板状の複合焼結体を得た。焼結体の厚さ方向を観察した場合に、表面層と基材層との間に界面があることが確認できた。この様な界面が形成された理由のひとつとして、基材組成物層を成形体とした後に、赤色の混合粉末を充填して成形する方法で得られた成形体を焼結したことが考えられるが、基材組成物層を成形せずに赤色組成物層の混合粉末を充填した後に成形してもこのような界面が得られると考えられる。複合焼結体の赤色焼結体と基材焼結体との界面には隙間がなく、目視での色滲みは観察されなかった。表面層の赤色焼結体におけるジルコニアの結晶粒子の平均結晶粒径は0.65μmであった。表面層及び基材層の結晶構造は、いずれも、正方晶及び立方晶の混晶であった。
【0131】
なお、基材粉末のみを使用したこと以外は同様な方法で、7.0質量%のアルミナを含有し、残部が3mol%のイットリアを含むジルコニアであるジルコニア質焼結体を得た。当該ジルコニア質焼結体の反射率(650)は84.8%であった。また、基材焼結体の色調は、明度Lが93.5、色相aが-0.2、及び色相bが1.0であった。
【0132】
比較合成例1
3mol%イットリア含有ジルコニア粉末193.8g、平均粒子径0.8μmの酸化セリウム粉末6.0g、及び、平均粒子径0.3μmの略球状の酸化アルミニウム粉末0.2gと、純水とを混合してスラリーとした。当該スラリーを直径10mmのジルコニア製ボールを用いたボールミルにより24時間混合粉砕し、混合粉末を得た。
【0133】
混合粉末を大気中、110℃で乾燥した後、篩分けにより凝集径180μm以下の粉末を得、これを赤色粉末とした。
【0134】
赤色粉末を直径25mmの金型に充填した後、圧力100MPaで一軸加圧成形し、直径25mm及び厚さ2.5mmの円板状成形体を得た。
【0135】
得られた成形体は、大気雰囲気中、1550℃、2時間の常圧焼結によって一次焼結して一次焼結体を得た。一次焼結において、昇温速度を100℃/hとし、降温速度を200℃/hとした。
【0136】
得られた一次焼結体は、5%水素含有アルゴン雰囲気中、1480℃、1時間の常圧焼結によって焼結し、CeO換算で2.2mol%のセリウム酸化物、3mol%のイットリア、及び0.1質量%のアルミナを含有し、残部がジルコニアであり、該セリウム酸化物が三価セリウムを含むジルコニア焼結体からなる赤色焼結体を得た。得られた赤色焼結体の反射率(650)は42.8%であった。
【0137】
実施例1
合成例1で得られた複合焼結体の表面層(赤色焼結体)を研削機(装置名:テクノラップステップオートMG-335、マルトー社製)で研削した。これにより、表面層の厚みが0.3mm及び基材層の厚みが2.0mmである複合焼結体を得た(基材層の厚み/表面層の厚み=6.7)。
【0138】
実施例2
複合焼結体中の赤色焼結体からなる層の厚みを0.4mmとしたこと以外は実施例1と同様な方法で複合焼結体を得た。これにより、表面層の厚みが0.4mm及び基材層の厚みが2.0mmである複合焼結体を得た(基材層の厚み/表面層の厚み=5.0)。
【0139】
比較例1
比較合成例1で得られた赤色焼結体を使用したこと、及び、赤色焼結体の厚みが0.2mmとなるように研削したこと以外は実施例1と同様な方法で本比較例の焼結体を得た。
【0140】
比較例2
赤色焼結体の厚みが0.4mmとなるように研削したこと以外は比較例1と同様な方法で本比較例の焼結体を得た。
【0141】
これらの実施例及び比較例の結果を下表に示す。
【0142】
【表1】
【0143】
実施例1と実施例2とは、いずれも鮮明な赤色を呈していたが、0.1mm程度の焼結体の厚みの違いで、色調が変化することが確認できた。実施例1と実施例2との色調差△E(=(△L*2+△a*2+△b*20.5)は9.8であり、視認でも違いが認識できる程度に焼結体の赤色色調が微調整できている。また、表面層の厚みに対する基材層の厚みの比が小さくなることで、L、a及びbの値が小さくなり、鮮やかさが抑制される方向に色調が調整されていることが分かる。一方、比較例1と比較例2は、いずれも鮮明な赤色が呈するものの、0.2mmの焼結体の厚みの違いでは視認される色調がほとんど変化しないことが確認できた。比較例1と比較例2との色調差△Eは4.5であった。これにより、複合焼結体とすることにより、表面層(赤色焼結体)の厚みを変化させるだけで、組成を変化させることなく、鮮明な赤色を呈したまま色調を変化させることができること、すなわち、焼結後に視認される表面層の色調が微調整できることが分かる。
【0144】
実施例3
(赤色焼結体の作製)
3mol%イットリア含有ジルコニア粉末196.8g、平均粒子径0.8μmの酸化セリウム粉末2.0g、及び、平均粒子径0.3μmの略球状の酸化アルミニウム粉末1.2gと、純水とを混合して得られたスラリーを使用したこと以外は合成例1と同様な方法で赤色粉末を得た。
【0145】
赤色粉末を直径25mmの金型に充填した後、圧力100MPaで一軸加圧成形し、直径25mm及び厚さ2.5mmの円板状成形体を得た。
【0146】
得られた成形体は、大気雰囲気中、1550℃、2時間の常圧焼結によって一次焼結して一次焼結体を得た。一次焼結において、昇温速度を100℃/hとし、降温速度を200℃/hとした。
【0147】
得られた一次焼結体は、5%水素含有アルゴン雰囲気中、1400℃、1時間の常圧焼結によって焼結し、CeO換算で0.7mol%のセリウム酸化物、3mol%のイットリア、及び0.6質量%のアルミナを含有し、残部がジルコニアであり、該セリウム酸化物が三価セリウムを含むジルコニア焼結体からなる赤色焼結体を得た。赤色焼結体の結晶構造は正方晶及び立方晶の混晶であった。
(無彩色焼結体の作製)
3mol%イットリア含有ジルコニア粉末180.0g及び平均粒子径0.3μmの略球状の酸化アルミニウム粉末20.0gと、純水とを混合して得られたスラリーを使用したこと以外は合成例1と同様な方法で基材粉末を得た。
【0148】
基材粉末を直径25mmの金型に充填した後、圧力100MPaで一軸加圧成形し、直径25mm及び厚さ2.5mmの円板状成形体を得た。
【0149】
得られた成形体は、大気雰囲気中、1550℃、2時間の常圧焼結によって焼結して無彩色焼結体を得た。焼結において、昇温速度を100℃/hとし、降温速度を200℃/hとした。無彩色焼結体の結晶構造は正方晶及び立方晶の混晶であった。
(複合焼結体の作製)
得られた赤色焼結体及び無彩色焼結体を積層させ、CeO換算で0.7mol%のセリア、3mol%のイットリア、及び0.6質量%のアルミナを含有し、残部がジルコニアであり、セリアが三価セリウムを含むジルコニア焼結体からなる層と、10.0質量%のアルミナを含有し、残部が3mol%のイットリアを含むジルコニアであるジルコニア質焼結体からなる層と、が積層し、直径20mm及び厚さ4.0mmの円板状の複合焼結体を得た。
【0150】
得られた複合焼結体の表面層を研削機で研削し、表面層の厚みが0.2mm及び基材層の厚みが2.5mmである複合焼結体を得た(基材層の厚み/表面層の厚み=5.0)。
【0151】
実施例4
実施例3と同様な方法により複合焼結体を得、その表面層を研削して、表面層の厚みが0.4mm及び基材層の厚みが2.5mmである複合焼結体を得た(基材層の厚み/表面層の厚み=6.3)。
【0152】
結果を下表に示す。
【0153】
【表2】
【0154】
実施例3と実施例4とは0.2mmの厚みの差により色調差△Eが14.4であり、表面層の厚さを変えることで、視認される赤色色調の微調整ができることが確認できた。
【0155】
実施例5
(赤色焼結体の作製)
3mol%イットリア含有ジルコニア粉末196.8g、平均粒子径0.8μmの酸化セリウム粉末2.0g、及び、平均粒子径0.3μmの略球状の酸化アルミニウム粉末1.2gと、純水とを混合して得られたスラリーを使用したこと以外は合成例1と同様な方法で赤色粉末を得た。
【0156】
赤色粉末を直径25mmの金型に充填した後、圧力100MPaで一軸加圧成形し、直径25mm及び厚さ2.5mmの円板状成形体を得た。
【0157】
得られた成形体は、大気雰囲気中、1550℃、2時間の常圧焼結によって一次焼結して一次焼結体を得た。一次焼結において、昇温速度を100℃/hとし、降温速度を200℃/hとした。
【0158】
得られた一次焼結体は、5%水素含有アルゴン雰囲気中、1400℃、1時間の常圧焼結によって焼結し、CeO換算で0.7mol%のセリウム酸化物、3mol%のイットリア、及び0.1質量%のアルミナを含有し、残部がジルコニアであり、該セリウム酸化物が三価セリウムを含むジルコニア焼結体からなる赤色焼結体を得た。得られた赤色焼結体の平均結晶粒径は0.64μmであり、結晶構造は正方晶及び立方晶の混晶であった。
(有彩色焼結体の作製)
3mol%イットリア含有ジルコニア粉末188.9g及び酸化コバルト粉末0.6g及び酸化チタン粉末10g及び酸化アルミニウム粉末0.5gと、純水とを混合して得られたスラリーを使用したこと以外は合成例1と同様な方法で基材粉末を得た。
【0159】
基材粉末を直径25mmの金型に充填した後、圧力100MPaで一軸加圧成形し、直径25mm及び厚さ2.5mmの円板状成形体を得た。
【0160】
得られた成形体は、大気雰囲気中、1550℃、2時間の常圧焼結によって焼結して有彩色焼結体を得た。焼結において、昇温速度を100℃/hとし、降温速度を200℃/hとした。有彩色焼結体の結晶構造は正方晶及び立方晶の混晶であった。
(複合焼結体の作製)
得られた赤色焼結体及び有彩色焼結体を積層させ、CeO換算で0.7mol%のセリア、3mol%のイットリア、及び0.6質量%のアルミナを含有し、残部がジルコニアであり、セリアが三価セリウムを含むジルコニア焼結体からなる層と、0.3質量%のコバルト及び5.0量%のチタニア及び0.25質量%のアルミナを含有し、残部が3mol%のイットリアを含むジルコニアであるジルコニア質焼結体からなる層と、が積層し、直径20mm及び厚さ4.0mmの円板状の複合焼結体を得た。基材層の反射率比は1.23であった。
【0161】
得られた複合焼結体の表面層を研削機で研削し、表面層の厚みが0.3mm及び基材層の厚みが2.5mmである複合焼結体を得た(基材層の厚み/表面層の厚み=8.3)。
【0162】
実施例6
(赤色焼結体の作製)
実施例5と同様の方法で赤色焼結体を得た。
(有彩色焼結体の作製)
3mol%イットリア含有ジルコニア粉末158.9g及び酸化ニッケル粉末1.0g及びコバルトアルミネート粉末0.1g及び酸化アルミニウム粉末40gと、純水とを混合して得られたスラリーを使用したこと以外は合成例1と同様な方法で基材粉末を得た。
【0163】
基材粉末を直径25mmの金型に充填した後、圧力100MPaで一軸加圧成形し、直径25mm及び厚さ2.5mmの円板状成形体を得た。
【0164】
得られた成形体は、実施例5と同様な方法で焼結して有彩色焼結体を得た。有彩色焼結体の結晶構造は正方晶及び立方晶の混晶であった。
(複合焼結体の作製)
得られた赤色焼結体及び有彩色焼結体を積層させ、CeO換算で0.7mol%のセリア、3mol%のイットリア、及び0.6質量%のアルミナを含有し、残部がジルコニアであり、セリアが三価セリウムを含むジルコニア焼結体からなる層と、0.5質量%のニッケル及びコバルト含有量として6.7質量%のコバルトアルミネート及び20質量%のアルミナを含有し、残部が3mol%のイットリアを含むジルコニアであるジルコニア質焼結体からなる層と、が積層し、直径20mm及び厚さ4.0mmの円板状の複合焼結体を得た。基材層の反射率比は0.98であった。
【0165】
得られた複合焼結体の表面層を研削機で研削し、表面層の厚みが0.3mm及び基材層の厚みが2.5mmである複合焼結体を得た(基材層の厚み/表面層の厚み=8.3)。
【0166】
実施例7
(赤色焼結体の作製)
実施例5と同様の方法で赤色焼結体を得た。
(有彩色焼結体の作製)
3mol%イットリア含有ジルコニア粉末192.0g及び酸化ネオジム粉末4.0g及び酸化アルミニウム粉末4.0gと、純水とを混合して得られたスラリーを使用したこと以外は合成例1と同様な方法で基材粉末を得た。
【0167】
基材粉末を直径25mmの金型に充填した後、圧力100MPaで一軸加圧成形し、直径25mm及び厚さ2.5mmの円板状成形体を得た。
【0168】
得られた成形体は、実施例5と同様な条件で焼結して焼結体を得た。有彩色焼結体の結晶構造は正方晶及び立方晶の混晶であった。
(複合焼結体の作製)
得られた赤色焼結体及び有彩色焼結体を積層させ、CeO換算で0.7mol%のセリア、3mol%のイットリア、及び0.6質量%のアルミナを含有し、残部がジルコニアであり、セリアが三価セリウムを含むジルコニア焼結体からなる層と、2.0質量%のネオジム及び2質量%のアルミナを含有し、残部が3mol%のイットリアを含むジルコニアであるジルコニア質焼結体からなる層と、が積層し、直径20mm及び厚さ4.0mmの円板状の複合焼結体を得た。基材層の反射率比は1.98であった。
【0169】
得られた複合焼結体の表面層を研削機で研削し、表面層の厚みが0.3mm及び基材層の厚みが2.5mmである複合焼結体を得た(基材層の厚み/表面層の厚み=8.3)。
【0170】
実施例8
(赤色焼結体の作製)
実施例5と同様の方法で赤色焼結体を得た。
(有彩色焼結体の作製)
3mol%イットリア含有ジルコニア粉末185.0g及び酸化鉄粉末5.0g及びマンガン粉末0.02g及び酸化アルミニウム粉末10gと、純水とを混合して得られたスラリーを使用したこと以外は合成例1と同様な方法で基材粉末を得た。
【0171】
基材粉末を直径25mmの金型に充填した後、圧力100MPaで一軸加圧成形し、直径25mm及び厚さ2.5mmの円板状成形体を得た。
【0172】
得られた成形体は、大気雰囲気中、1550℃、2時間の常圧焼結によって一次焼結して一次焼結体を得た。一次焼結において、昇温速度を100℃/hとし、降温速度を200℃/hとした。
(複合焼結体の作製)
得られた赤色焼結体及び有彩色焼結体を積層させ、CeO換算で0.7mol%のセリア、3mol%のイットリア、及び0.6質量%のアルミナを含有し、残部がジルコニアであり、セリアが三価セリウムを含むジルコニア焼結体からなる層と、2.5質量%の鉄及び0.01質量%のマンガン及び5質量%のアルミナを含有し、残部が3mol%のイットリアを含むジルコニアであるジルコニア質焼結体からなる層と、が積層し、直径20mm及び厚さ4.0mmの円板状の複合焼結体を得た。基材層の反射率比は1.28であった。
【0173】
得られた複合焼結体の表面層を研削機で研削し、表面層の厚みが0.3mm及び基材層の厚みが2.5mmである複合焼結体を得た(基材層の厚み/表面層の厚み=8.3)。
【0174】
実施例9
(赤色焼結体の作製)
実施例5と同様の方法で赤色焼結体を得た。
(有彩色焼結体の作製)
3mol%イットリア含有ジルコニア粉末186.0g及び酸化ニッケル粉末14.0gと、純水とを混合して得られたスラリーを使用したこと以外は合成例1と同様な方法で基材粉末を得た。
【0175】
基材粉末を直径25mmの金型に充填した後、圧力100MPaで一軸加圧成形し、直径25mm及び厚さ2.5mmの円板状成形体を得た。
【0176】
得られた成形体は、実施例5と同様な方法で焼結して有彩色焼結体を得た。有彩色焼結体の結晶構造は正方晶及び立方晶の混晶であった。
(複合焼結体の作製)
得られた赤色焼結体及び有彩色焼結体を積層させ、CeO換算で0.7mol%のセリア、3mol%のイットリア、及び0.6質量%のアルミナを含有し、残部がジルコニアであり、セリアが三価セリウムを含むジルコニア焼結体からなる層と、7.0質量%のニッケルを含有し、残部が3mol%のイットリアを含むジルコニアであるジルコニア質焼結体からなる層と、が積層し、直径20mm及び厚さ4.0mmの円板状の複合焼結体を得た。基材層の反射率比は0.82であった。
【0177】
得られた複合焼結体の表面層を研削機で研削し、表面層の厚みが0.3mm及び基材層の厚みが2.5mmである複合焼結体を得た(基材層の厚み/表面層の厚み=8.3)。
【0178】
比較例3
(赤色焼結体の作製)
実施例5と同様の方法で赤色焼結体を得た。
(有彩色焼結体の作製)
3mol%イットリア含有ジルコニア粉末197.5g及び酸化プラセオジム粉末2.0g及び酸化アルミニウム粉末0.5gと、純水とを混合して得られたスラリーを使用したこと以外は合成例1と同様な方法で基材粉末を得た。
【0179】
基材粉末を直径25mmの金型に充填した後、圧力100MPaで一軸加圧成形し、直径25mm及び厚さ2.5mmの円板状成形体を得た。
【0180】
得られた成形体は、実施例5と同様な方法で焼結して有彩色焼結体を得た。
(複合焼結体の作製)
得られた赤色焼結体及び有彩色焼結体を積層させ、CeO換算で0.7mol%のセリア、3mol%のイットリア、及び0.6質量%のアルミナを含有し、残部がジルコニアであり、セリアが三価セリウムを含むジルコニア焼結体からなる層と、1.0質量%のプラセオジム及び0.25質量%のアルミナを含有し、残部が3mol%のイットリアを含むジルコニアであるジルコニア質焼結体からなる層と、が積層し、直径20mm及び厚さ4.0mmの円板状の複合焼結体を得た。
【0181】
得られた複合焼結体の表面層を研削機で研削し、表面層の厚みが0.3mm及び基材層の厚みが2.5mmである複合焼結体を得た(基材層の厚み/表面層の厚み=8.3)。
【0182】
比較例4
(赤色焼結体の作製)
実施例5と同様の方法で赤色焼結体を得た。
(無彩色焼結体の作製)
3mol%イットリア含有ジルコニア粉末199.5g及び酸化アルミニウム粉末0.5gと、純水とを混合して得られたスラリーを使用したこと以外は合成例1と同様な方法で基材粉末を得た。
【0183】
基材粉末を直径25mmの金型に充填した後、圧力100MPaで一軸加圧成形し、直径25mm及び厚さ2.5mmの円板状成形体を得た。
【0184】
得られた成形体は、実施例5と同様な方法で焼結して焼結体を得た。
(複合焼結体の作製)
得られた赤色焼結体及び有彩色焼結体を積層させ、CeO換算で0.7mol%のセリア、3mol%のイットリア、及び0.6質量%のアルミナを含有し、残部がジルコニアであり、セリアが三価セリウムを含むジルコニア焼結体からなる層と、0.25質量%のアルミナを含有し、残部が3mol%のイットリアを含むジルコニアであるジルコニア質焼結体からなる層と、が積層し、直径20mm及び厚さ4.0mmの円板状の複合焼結体を得た。
【0185】
得られた複合焼結体の表面層を研削機で研削し、表面層の厚みが0.3mm及び基材層の厚みが2.5mmである複合焼結体を得た(基材層の厚み/表面層の厚み=8.3)。
【0186】
比較例5
(赤色焼結体の作製)
実施例5と同様の方法で赤色焼結体を得た。
(有彩色焼結体の作製)
3mol%イットリア含有ジルコニア粉末159.4g及びコバルトアルミネート粉末0.6g及び酸化アルミニウム粉末40gと、純水とを混合して得られたスラリーを使用したこと以外は合成例1と同様な方法で基材粉末を得た。
【0187】
基材粉末を直径25mmの金型に充填した後、圧力100MPaで一軸加圧成形し、直径25mm及び厚さ2.5mmの円板状成形体を得た。
【0188】
得られた成形体は、実施例5と同様な方法で焼結して焼結体を得た。
(複合焼結体の作製)
得られた赤色焼結体及び有彩色焼結体を積層させ、CeO換算で0.7mol%のセリア、3mol%のイットリア、及び0.6質量%のアルミナを含有し、残部がジルコニアであり、セリアが三価セリウムを含むジルコニア焼結体からなる層と、0.05質量%のコバルトアルミネート及びアルミナを含有し、コバルト含有量が0.01質量%、アルミナ含有量が20.01質量%であり、残部が3mol%のイットリアを含むジルコニアであるジルコニア質焼結体からなる層と、が積層し、直径20mm及び厚さ4.0mmの円板状の複合焼結体を得た。
【0189】
得られた複合焼結体の表面層を研削機で研削し、表面層の厚みが0.3mm及び基材層の厚みが2.5mmである複合焼結体を得た(基材層の厚み/表面層の厚み=8.3)。
【0190】
上記の実施例及び比較例の結果を下表に示す。
【0191】
【表3】
【0192】
本比較例の複合焼結体の表面層の色調と比べ、実施例の複合焼結体の表面層の色調は、より赤みの強い色調として視認された。また、実施例の(a-b)は0.6以上であったのに対し、比較例の(a-b)は0.2以下であり、比較例と比べ、実施例は色相の差が大きくなっていた。さらに、単独の赤色焼結体の(a-b)は-1.4であったことから、実施例の△(a-b)は2.0以上3.3以下であった。また、実施例6及び7は△(a-b)が2.9以上3.3以下であり、表面層は、単独の赤色焼結体と比べ、特に赤みが強い色調として視認された。
【0193】
実施例10
3mol%イットリア含有ジルコニア粉末196.8g、平均粒子径0.8μmの酸化セリウム粉末2.0g、及び、平均粒子径0.3μmの略球状の酸化アルミニウム粉末1.2gと、純水とを混合して得られたスラリーを使用したこと以外は合成例1と同様な方法で赤色粉末を得た。
【0194】
一方、3mol%イットリア含有ジルコニア粉末192.0g及び酸化ネオジム粉末4.0g及び酸化アルミニウム粉末4.0gと、純水とを混合して得られたスラリーを使用したこと以外は合成例1と同様な方法で基材粉末を得た。
【0195】
基材粉末を直径25mmの金型に充填した後、圧力100MPaで一軸加圧成形して円板状成形体を得た後、当該成形体上に赤色粉末を充填し、圧力100MPaで一軸加圧成形することで、基材粉末からなる層と、赤色粉末からなる層と、からなる直径25mm及び厚さ5.0mmの円板状成形体を得た。当該成形体を厚さ方向に観察したころ、基材粉末からなる層及び赤色粉末からなる層の間に界面が確認できた。当該界面から、基材粉末からなる層及び赤色粉末からなる層、それぞれの厚みをデジタルマイクロスコープ(装置名:VHX-5000、キーエンス社製)で測定したこところ、いずれも2.5mmであった(基材層の厚み/表面層の厚み=1.0)。
【0196】
得られた成形体は、大気雰囲気中、1550℃、2時間の常圧焼結によって一次焼結して一次焼結体を得た。一次焼結において、昇温速度を100℃/hとし、降温速度を200℃/hとした。
【0197】
得られた一次焼結体は、5%水素含有アルゴン雰囲気中、1400℃、1時間の常圧焼結によって焼結し、CeO換算で2.2mol%のセリア、3mol%のイットリア、及び0.1質量%のアルミナを含有し、残部がジルコニアであり、セリアが三価セリウムを含むジルコニア焼結体からなる層と、2.0質量%のネオジム及び2質量%のアルミナを含有し、残部が3mol%のイットリアを含むジルコニアであるジルコニア質焼結体からなる層と、が積層し、直径20mm及び厚さ4.0mmの円板状の複合焼結体を得た。
【0198】
結果を下表に示す
【0199】
【表4】
【0200】
赤色焼結体と有彩色焼結体とを積層させた実施例7と、赤色焼結体と有彩色焼結体とが焼結により積層した実施例10とは、表面層の色調差△Eが0.3、及び、有彩色層の色調差△Eが0.1であり、いずれも同様な値を示した。これより、いずれの方法により得られた複合焼結体であっても、表面層と有彩色層が積層した構造を有することで、視認される色調に対する効果が同様であると考えられる。また、実施例7と実施例10の対比により、赤色焼結体と有彩色焼結体とが焼結により積層した構造とすることによって、a-bが大きくなることが確認できる。