(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-23
(45)【発行日】2023-10-31
(54)【発明の名称】放電加工用電極線の製造方法
(51)【国際特許分類】
B23H 7/08 20060101AFI20231024BHJP
B23H 7/22 20060101ALI20231024BHJP
【FI】
B23H7/08
B23H7/22 C
(21)【出願番号】P 2020024185
(22)【出願日】2020-02-17
【審査請求日】2022-07-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000005083
【氏名又は名称】株式会社プロテリアル
(74)【代理人】
【識別番号】110002066
【氏名又は名称】弁理士法人筒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】木村 孝光
【審査官】黒石 孝志
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-094922(JP,A)
【文献】特開2001-322035(JP,A)
【文献】特開2003-326420(JP,A)
【文献】特開2014-181386(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23H 1/00 - 11/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属線の表面を被覆する被覆層を有し、前記被覆層が潤滑剤で構成される絶縁材料からなり、前記被覆層の厚さが0.01μm以上0.15μm以下である放電加工用電極線の製造方法において、
伸線加工によって所定の線径を有する伸線材を得る伸線加工工程と、
前記伸線材に熱処理を施してアニール材を得るアニール工程と、
前記アニール工程で用いたアニール装置の冷却部に設けられた冷却槽内の冷却液に、前記潤滑剤の成分を混入させることにより、前記アニール材の表面に50cm
2
/秒以下の動粘度を有する前記潤滑剤をコーティングする被覆層コーティング工程と、
前記被覆層コーティング工程の後に、前記アニール材の周囲に付着した余分な前記潤滑剤を送風によって除去する送風工程を、
を含む、放電加工用電極線の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放電加工用電極線に関する。
【背景技術】
【0002】
金属ワイヤ(以下、単にワイヤと呼ぶ)を電極として用い、電極と被加工物(以下、ワークと呼ぶ)との間に放電を発生させながら走行させることにより、ワークを溶断加工する技術(放電加工技術)がある。ワイヤとして、例えば、特許文献1(特開平11-320267号公報)には、表面に潤滑剤としての流動パラフィンが塗布された放電加工用電極線が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
放電加工では、加工時のワイヤの位置精度を向上させることが重要なので、ワイヤの位置をガイドにより制御する。この場合、ワイヤとガイドとが擦れてワイヤに由来する微細な金属粉が発生する場合がある。この金属粉の発生を抑制する方法として、ワイヤの表面を潤滑剤で覆い、ワイヤとガイドとの擦れを低減する方法がある。ところが、ワイヤの表面が潤滑剤に覆われている場合、絶縁材料である潤滑剤に起因して放電不良が発生する場合がある。
【0005】
近年、ガイドの加工精度を向上させて、ワイヤに接するガイド面の平坦度を向上させることにより、ワイヤとガイド面とが接触した場合でも、金属粉が発生し難い放電加工装置もある。ただし、金属粉が発生し難い放電加工装置、すなわち、ワイヤの表面に潤滑剤を必要としない放電加工装置(以下、潤滑剤が不要な放電加工装置と記載する場合がある)に対して、表面に潤滑剤が厚く(例えば、0.3μm以上)塗布されたワイヤを用いた場合、潤滑剤に起因する放電不良の発生頻度が増大する。一方、金属粉が発生し易い放電加工装置、すなわち、ワイヤの表面に潤滑剤を必要とする放電加工装置(以下、潤滑剤が必要な放電加工装置と記載する場合がある)に潤滑剤が塗布されていないワイヤを用いた場合、金属粉の発生頻度が増大する。
【0006】
このため、潤滑剤が不要な放電加工装置と、潤滑剤が必要な放電加工装置が共存している場合、加工装置毎に専用のワイヤを準備しておく必要が生じ、ワイヤの在庫管理が煩雑である。このような在庫管理の煩雑さを改善するためには、潤滑剤が不要な放電加工装置と、潤滑剤が必要な放電加工装置のいずれでも利用可能なワイヤが必要になる。
【0007】
本発明の目的は、潤滑剤が不要な放電加工装置と、潤滑剤が必要な放電加工装置のいずれでも利用可能な放電加工用電極線を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
一実施の形態である放電加工用電極線は、金属線と、前記金属線の表面を被覆する被覆層と、を有し、前記被覆層は、潤滑剤からなり、前記被覆層の厚さは、0.15μm以下である。
【0009】
例えば、前記被覆層は、前記潤滑剤が50cm2/秒以下の動粘度を有する。
【0010】
例えば、前記被覆層の厚さの平均値を基準として、前記被覆層の厚さのバラつきは、±15%以内である。
【発明の効果】
【0011】
本発明の代表的な実施の形態による放電加工用電極線は、潤滑剤が不要な放電加工装置と、潤滑剤が必要な放電加工装置のいずれでも利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】一実施の形態である金属線の斜視断面図である。
【
図2】
図1に示すワイヤを適用した放電加工装置の構成例を示す説明図である。
【
図3】
図2に示す上部ガイドおよびワイヤの断面図である。
【
図4】
図1に示すワイヤの製造装置の概要を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に、本発明の実施の形態について、図面を参照しつつ説明する。以下の説明では、放電加工用電極線であるワイヤを、放電加工用電極線、ワイヤ、あるいは電極線と呼ぶ。
【0014】
<放電加工用電極線>
図1は、本実施の形態の金属線の斜視断面図である。
図1に示すワイヤ(放電加工用電極線)10は、金属線11と、金属線11の表面を被覆する被覆層12と、を有する。被覆層12の厚さ12Tは、0.15μm以下である。より好ましくは、0.01μm以上、0.10μm以下である。
【0015】
金属線11は、例えば、真鍮などからなる。金属線11の線径11D(延在方向に直交する断面の直径)は、例えば、0.2mm以上、0.3mm以下である。金属線11の表面(被覆層12で被覆される面)は、積極的に凹凸が形成されていない一様な面からなることが好ましい。
【0016】
被覆層12は、いわゆる流動パラフィンなどの潤滑剤で構成される絶縁材料からなる。ワイヤ10は、上記の通り、被覆層12の厚さ12Tを0.15μm以下に薄くすることにより、ワークを放電加工する際、ワークとワイヤ10の金属線11との間で発生する放電(アーク放電)が被覆層12を介してワークまで到達しやすくなる。このため、ワイヤ10は、潤滑剤が不要な放電加工装置と潤滑剤が必要な放電加工装置とのいずれにおいても、絶縁性の被覆層12に起因する放電不良の発生を抑制できる。また、ワイヤ10は、金属線10の表面に被覆層12を備えているので、放電加工時に、放電加工装置に設けられたガイドとワイヤ10との摩擦による金属粉の発生を抑制できる。以下、本実施の形態のワイヤ10を適用した放電加工方法を詳細に説明する。
【0017】
図2は、
図1に示すワイヤを適用した放電加工装置の構成例を示す説明図である。
図2に示す放電加工装置20は、放電加工用電極線であるワイヤ10と、ワイヤ10を供給する供給部21と、ワイヤ10を回収する回収部22と、ワーク30を経由して回収部22にワイヤ10を送る複数のローラ23と、を有する。また、放電加工装置20は、ワーク30を固定するテーブル31を有する。放電加工を行う際には、ワイヤ10はワーク30との間で繰り返し放電を発生させる。このため、放電のダメージにより、ワイヤ10が損傷して放電不良が生じることを防止するため、放電加工時には、ワイヤ10が供給部21から回収部22に向かって、順次送られる。
【0018】
また、放電加工装置20は、ワーク30に近接する領域におけるワイヤ10の位置を制御する上部ガイド24および下部ガイド25を有する。上部ガイド24および下部ガイド25は、ワーク30を挟むように配置される。放電加工装置20は、金型の製造など、複雑な形状の構造物の製造に用いられる。したがって、ワーク30を固定するテーブル31、上部ガイド24、および下部ガイド25のうち、少なくとも一つ以上は、X-Y平面に沿って移動可能な状態で放電加工装置20に取り付けられている。例えば、上部ガイド24およびテーブル31が、X-Y平面に沿って互いに独立して移動可能になっており、下部ガイド25は固定されている。なお、変形例として、下部ガイド25がX-Y平面に沿って上部ガイド24およびテーブル31とは独立して移動可能になっている場合もある。
【0019】
また、放電加工装置20は、ワイヤ10とワーク30との間に放電を生じさせるための電圧を印加する電源部40を有する。電源部40は、一方の電極が給電子41に接続され、他方の電極がワーク30に直接、あるいはテーブル31を介して接続されている。放電加工を行う際には、電源部40から給電子41を介してワイヤ10に第1電位が供給され、電源部からワーク30に第2電位が供給される。この第1電位と第2電位の電位差が大きくなると、ワイヤ10とワーク30の間の領域で絶縁破壊が生じ、放電(アーク放電)が発生する。この放電を繰り返し発生させることにより、ワーク30が溶断される。また、ワーク30の溶断時に生じるスラッジはスラッジ形成後に生じる放電により周囲に飛ばされる。一方、ワイヤ10は、上記したように、供給部21から順次供給されるため、繰り返しの放電のダメージによる放電不良を抑制する。ワイヤ10を用いた放電加工では、このように放電を繰り返すことにより、所定の形状に成形される。
【0020】
図3は、
図2に示す上部ガイドおよびワイヤの断面図である。放電加工装置20は、上部ガイド24および下部ガイド25により、ワイヤ10の位置を制御するので、上部ガイド24および下部ガイド25では、ワイヤ10とガイドとが接触する。例えば、
図3に示すように、上部ガイド24は、貫通孔が形成されたワイヤガイドホルダ24Aと、ワイヤガイドホルダ24Aに保持されるワイヤガイド24Bと、を備える。ワイヤガイド24Bは、例えばサファイア、ダイアモンド、あるいはセラミックスなどの材料から成り、ワイヤ10と対向するガイド面24sは微細な凹凸がある。放電加工を行う際には、ワイヤ10は、ガイド面24sと接触する。
【0021】
ここで、
図3に対する検討例として、被覆層12が存在せず、例えば真鍮などの金属材料から成る金属線11が露出している場合、金属線11とガイド面24sとが接触する。このため、金属線11とガイド面24sとの接触界面での摺動の程度によっては、金属線11の表面が削られて金属粉が生じる。
図2に示すように、上部ガイド24は、ワーク30の上方に配置されるので、金属粉が生じた場合、金属粉がワーク30に付着する可能性がある。
【0022】
本実施の形態のワイヤ10の場合、上記したように、金属線11の周囲が被覆層12に覆われ、被覆層12の厚さ12T(
図1参照)は0.15μ以下(好ましくは0.01μm以上、0.1μm以下)である。このため、ワイヤ10の被覆層12とガイド面24sとが接触したとしても、金属線11は被覆層12に保護されるので、金属粉の発生を抑制できる。
【0023】
ところで、被覆層12を構成する材料は、例えば流動パラフィンなどの潤滑剤で構成される絶縁材料である。上記のように、金属線11を保護する目的で利用される被覆層12は、金属線11の表面全体を覆っていることが重要である。金属線11の表面全体を覆うためには、被覆層12の厚さ12T(
図1参照)を厚くする傾向がある。例えば、検討例のワイヤとして、厚さのバラつきを考慮して、薄い部分でも0.3μm~0.5μm程度、厚い部分では数μm~10数μm程度の厚さの被覆層により金属線が覆われている場合が考えられる。
【0024】
この検討例のワイヤの場合、放電加工を行う際に放電不良が発生する場合がある。例えば、
図2に示す給電子41から電界を供給する際に、ワイヤは、厚い被覆層により絶縁されているため、給電不良が発生する場合がある。この場合、検討例のワイヤに対して電位が供給されないタイミングが生じるため、放電不良の原因になる。あるいは、被覆層の厚さが厚いことにより、検討例のワイヤとワーク30との間で絶縁破壊を生じさせることができず、放電が生じない場合がある。このように、絶縁材料から成る被覆層は、安定的な放電を阻害する原因になる。
【0025】
上記したように近年、
図3に示すワイヤガイド24Bの加工精度を向上させて、ガイド面24sの平坦度を向上させることにより、金属線11とガイド面24sとが接触した場合でも、金属粉が発生し難い放電加工装置(潤滑剤が不要な放電加工装置)もある。ただし、上記したように潤滑剤が必要な放電加工装置と、潤滑剤が不要な放電加工装置が共存している場合、加工装置毎に専用のワイヤを準備しておく必要が生じ、ワイヤの在庫管理が煩雑である。したがって、金属粉が発生し易い放電加工装置と、発生し難い放電加工装置のいずれでも利用可能な放電加工用電極線が要求される。また、
図2に示す給電子41は、ワイヤ10に電位を供給する際にワイヤ10に接触する場合がある。この場合に、給電子41の摩耗による損傷を低減する観点からは、
図1に示すワイヤ10のように、金属線11が被覆層12に覆われていることが好ましい。
【0026】
本願発明者は、
図1に示すように被覆層12の厚さが薄ければ、放電不良が発生し難いという知見に基づき、被覆層12の好ましい厚さについて検討を行った。この結果、
図1に示す被覆層12の厚さ12Tが0.01μm以上あれば、金属粉の発生頻度は実質的に問題が生じない程度まで低減できることが判った。また、被覆層12の厚さ12Tが0.15μm以下の場合には、放電不良の発生頻度は実質的に問題が生じない程度まで低減できることが判った。
【0027】
本願発明者は、ワイヤ10の製造工程において、金属線11の周囲に、被覆層12を0.15μm以下の厚さで薄く、均一にコーティングする方法を見出した。詳しくは後述する。なお、後述するコーティング方法は、一例であって、上記したワイヤ10が得られる方法であれば後述する製造方法には限定されない。
【0028】
ワイヤ10の厚さ12Tが上記した条件の範囲内であれば、金属粉の発生頻度、および放電不良の発生頻度を低減できるが、安定的に放電を生じさせる観点からは、厚さ12Tのバラつきを低減することがより好ましい。後述するワイヤ10の製造方法によれば、被覆層12の厚さ12Tのバラつきを低減できることが判った。詳しくは、被覆層12の厚さ12Tの平均値を基準として、被覆層12の厚さ12Tのバラつきは、±15%以内である。なお、厚さ12Tの平均値とは、例えばワイヤ10の1つの横断面における任意の5点で各々の厚さを、光学電子顕微鏡を用いて測定した結果の平均値である。また、厚さ12Tの算出方法は、ワイヤ10の線径および金属線11の線径11Dを計測し、その差の半分の値を厚さ12Tとすることができる。本実施の形態によれば、被覆層12の厚さ12Tのバラつきを低減することにより、放電の状態を安定化させることができる。放電の状態が安定すれば、放電加工されたワーク30(
図2参照)の加工精度(溶断表面の状態なども含む)を向上させることができる。
【0029】
また、金属線11の表面に、0.15μm以下の厚さで薄く、均一に被覆層12をコーティングするためには、被覆層12を構成する潤滑剤(絶縁材料)の粘度(動粘度)が低いことが好ましい。詳しくは、
図1に示すワイヤ10の被覆層12は、50cm
2/秒以下の動粘度からなる潤滑剤で構成されることが好ましい。また、ワイヤ10の被覆層12は、動粘度が50cm
2/秒以下の潤滑剤からなることにより、被覆層12の厚さ12Tを0.15μm以下に薄くすることに有効である。このため、ワイヤ10は、潤滑剤が不要な放電加工装置と潤滑剤が必要な放電加工装置とのいずれにおいても、放電を安定的に生じさせることができる。
【0030】
なお、絶縁材料の絶縁破壊電圧は、絶縁材料の動粘度に比例して低下させることができる。例えば、被覆層12として用いた流動パラフィン等の潤滑剤からなる絶縁材料の動粘度が100cm2/秒の場合と50cm2/秒の場合とを比較すると、絶縁破壊電圧を65%に低減させることができる。すなわち、本実施の形態によれば、被覆層12が50cm2/秒以下の動粘度からなる潤滑剤で構成されることにより、放電加工の際の絶縁破壊電圧を低減できるので、放電不良の発生を抑制できる。また、厚さ12Tのバラつきを低減できるので、放電の状態を安定化させることができる。なお、動粘度は、例えば、毛細管粘度計法によって求められる。
【0031】
<放電加工用電極線の製造方法>
次に、
図1に示すワイヤ10の製造方法について説明する。
図4は、
図1に示すワイヤの製造装置の概要を示す説明図である。なお、ワイヤ10の製造方法には、
図4に示す線材15を製造する工程が含まれる。ただし、
図4では線材15の製造工程は図示を省略し、線材15を加工してワイヤ10を取得するまでの工程を示す。
図4に示す放電加工用電極線の製造装置50は、伸線装置60、アニール装置70、噴霧装置80、送風装置90、およびワイヤ巻取装置51を有する。
【0032】
まず、線材準備工程として、
図4に示す線材15を準備する。線材15は金属線11の原料となる金属線材である。線材15の線径は、例えば、1.2mm程度である。線材15は、例えば真鍮から成る。
【0033】
次に、伸線加工工程として、線材15の線径が所定の線径(例えば0.2~0.3mm)になるまで線材15を引き伸ばし、仕掛り品である伸線材16を得る。伸線装置60において線材15は引き伸ばされ、所定の線径の伸線材16になる。伸線加工直後の伸線材16は内部に歪が生じた状態である。
【0034】
次に、アニール工程として、伸線材16に熱処理を施し、伸線材16の内部の歪を緩和させる。アニール装置70は、熱処理部71および冷却部72を備える。伸線材16は、熱処理部71で加熱された後、冷却部72で急激に冷却される。このアニール工程により伸線材16の内部の歪は緩和され、ワイヤ10の金属線11として使用されるアニール材17が得られる。
【0035】
次に、被覆層コーティング工程を行う。被覆層コーティング工程は、噴霧装置80によりアニール材17に流動パラフィン等の潤滑剤12Lを噴霧する噴霧工程、および噴霧工程の後、送風装置90によりアニール材17および潤滑剤12Lに風を送り、余剰な潤滑剤12Lを除去する送風工程を有する。上記したように、潤滑剤12Lの動粘度は、例えば50cm
2/秒以下と低粘度なので、噴霧装置80から霧状にしてアニール材17に吹き付けることができる。また、潤滑剤12Lの噴霧後にアニール材17に風を当てることにより、アニール材17の周囲に付着した潤滑剤12Lの層厚(
図1に示す厚さ12T)のバラつきを低減することができる。以上より、被覆層12がアニール材に被覆されることになる。
【0036】
図4に示すように、噴霧装置80からの潤滑剤12Lの噴霧、および送風工程の後、ワイヤ巻取装置51によりワイヤ10が巻き取られる。噴霧装置80からの潤滑剤12Lの噴霧および送風工程は、アニール装置70とワイヤ巻取装置51との間で、アニール材17が緊張した状態で実施される。また、アニール材17の進行速度は、ワイヤ巻取装置51の巻取速度により制御可能である。このため、長尺のワイヤ10であっても、金属線11の周囲に、0.15μm以下の厚さの薄い被覆層12を安定的にコーティングすることができる。
【0037】
なお、本実施の形態に係るワイヤ10では、金属線11を構成する金属材料の一例として真鍮を挙げ、被覆層12を構成する潤滑剤として流動パラフィンを挙げた。ただし、金属材料の種類や潤滑剤の種類には種々の変形例がある。例えば、金属線11の材料としては、真鍮の他、タングステン、モリブデンなどを用いることができる。また、潤滑剤として、流動パラフィンの他、潤滑性を備えるグリス、あるいは窒素化合物などを用いることができる。また、金属線11の線径11D(
図1参照)を0.2~0.3mmとして説明したが、線径にも種々の変形例がある。例えば細いものでは20~30μm程度の放電加工用電極線があり、太いものでは、0.3mmより太いものもある。さらに、被覆層12のコーティング方法として、本実施の形態では、アニール工程の後、噴霧装置80から潤滑剤12Lを噴霧する方法を説明したが、例えば、アニール装置70の冷却部72に設けられた図示しない冷却槽内の冷却液に、潤滑剤12Lの成分(例えば上記した窒素化合物)を混入させる方法もある。この場合、
図4に示す噴霧装置80からの潤滑剤12Lの噴霧は省略可能であり、送風工程のみを行うことで、被覆層12が形成される。
【0038】
本発明は、前記実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能である。
【符号の説明】
【0039】
10 ワイヤ(放電加工用電極線)
11 金属線
11D 線径
12 被覆層
12L 潤滑剤
12T 厚さ
15 線材
16 伸線材
17 アニール材
20 放電加工装置
21 供給部
22 回収部
23 ローラ
24 上部ガイド
24A ワイヤガイドホルダ
24B ワイヤガイド
24s ガイド面
25 下部ガイド
30 ワーク
31 テーブル
40 電源部
41 給電子
50 製造装置
51 ワイヤ巻取装置
60 伸線装置
70 アニール装置
71 熱処理部
72 冷却部
80 噴霧装置
90 送風装置