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特許7371630非水系二次電池機能層用組成物およびその製造方法、非水系二次電池用機能層、非水系二次電池部材、並びに非水系二次電池
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-23
(45)【発行日】2023-10-31
(54)【発明の名称】非水系二次電池機能層用組成物およびその製造方法、非水系二次電池用機能層、非水系二次電池部材、並びに非水系二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 50/403 20210101AFI20231024BHJP
   H01M 4/13 20100101ALI20231024BHJP
   H01M 50/443 20210101ALI20231024BHJP
   H01M 50/414 20210101ALI20231024BHJP
   H01M 50/489 20210101ALI20231024BHJP
   H01M 50/46 20210101ALI20231024BHJP
   H01M 50/449 20210101ALI20231024BHJP
【FI】
H01M50/403 D
H01M4/13
H01M50/443 C
H01M50/414
H01M50/489
H01M50/46
H01M50/449
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2020535685
(86)(22)【出願日】2019-07-30
(86)【国際出願番号】 JP2019029868
(87)【国際公開番号】W WO2020031791
(87)【国際公開日】2020-02-13
【審査請求日】2022-06-03
(31)【優先権主張番号】P 2018148839
(32)【優先日】2018-08-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000229117
【氏名又は名称】日本ゼオン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100150360
【弁理士】
【氏名又は名称】寺嶋 勇太
(74)【代理人】
【識別番号】100209679
【弁理士】
【氏名又は名称】廣 昇
(72)【発明者】
【氏名】田口 裕之
【審査官】石井 徹
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/115647(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第105355824(CN,A)
【文献】国際公開第2015/156410(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/156412(WO,A1)
【文献】特開2015-005526(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M4/00-4/62
H01M50/40-50/497
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機粒子Aを含む非水系二次電池機能層用組成物であり、
前記有機粒子Aは、芳香族ビニル単量体単位を20質量%以上の割合で含む重合体Xと、融点が95℃未満であるワックスとを含有し、
前記重合体Xは、酸基含有単量体単位を含有し、
前記ワックスがエステルワックスである、非水系二次電池機能層用組成物。
【請求項2】
前記ワックスの融点が40℃以上である、請求項に記載の非水系二次電池機能層用組成物。
【請求項3】
前記有機粒子Aのガラス転移温度が30℃以上80℃以下である、請求項1または2に記載の非水系二次電池機能層用組成物。
【請求項4】
前記有機粒子Aが、前記重合体Xと前記ワックスとを含有する粒子状のコア部と、前記コア部の少なくとも一部を覆うシェル部とを備えるコアシェル構造を有する、請求項1~のいずれかに記載の非水系二次電池機能層用組成物。
【請求項5】
有機粒子Aを含む非水系二次電池機能層用組成物の製造方法であって、
重合体Xと、融点が95℃未満であるワックスとを含有する有機粒子Aを調製する工程Aを含み、
前記重合体Xは、酸基含有単量体単位を含有し、
前記ワックスがエステルワックスであり、
前記工程Aは、水中で、前記ワックスの存在下、芳香族ビニル単量体を20質量%以上の割合で含有し、且つ、酸基含有単量体を含有する単量体を懸濁重合して、前記重合体Xを調製する工程a1を含む、非水系二次電池機能層用組成物の製造方法。
【請求項6】
前記工程a1における前記ワックスの使用量が前記単量体100質量部に対して1質量部以上30質量部以下である、請求項に記載の非水系二次電池機能層用組成物の製造方法。
【請求項7】
請求項1~のいずれかに記載の非水系二次電池機能層用組成物を用いて形成された、非水系二次電池用機能層。
【請求項8】
基材と、前記基材上に形成された機能層とを備え、
前記機能層は、請求項に記載の非水系二次電池用機能層である、非水系二次電池部材。
【請求項9】
前記基材がセパレータ基材である、請求項に記載の非水系二次電池部材。
【請求項10】
請求項8または9に記載の非水系二次電池部材を備える、非水系二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水系二次電池機能層用組成物およびその製造方法、非水系二次電池用機能層、非水系二次電池部材、並びに非水系二次電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池などの非水系二次電池(以下、単に「二次電池」と略記する場合がある。)は、小型で軽量、且つエネルギー密度が高く、更に繰り返し充放電が可能という特性があり、幅広い用途に使用されている。そして、非水系二次電池は、一般に、正極、負極、および、正極と負極とを隔離するセパレータなどの電池部材を備えている。
【0003】
ここで、セパレータは、二次電池の正極と負極との電気的短絡を防ぐ重要な機能を担っている。そして、通常、二次電池のセパレータとしては、例えばポリオレフィン系樹脂からなる微多孔膜が使用されている。そして、セパレータは通常、電池内部の温度が例えば130℃付近の高温になった場合に、溶融して微多孔を塞ぐことでイオンの移動を防ぎ、電流を遮断させるシャットダウン機能を発揮することにより、二次電池の安全性を保持する役割も担っている。
【0004】
また、二次電池においては、耐熱性や強度の向上を目的とした多孔膜層や、電池部材間の接着性の向上を目的とした接着層などの機能層を備える電池部材が使用されている。
具体的には、集電体上に電極合材層を設けてなる電極基材上にさらに機能層を形成してなる電極や、セパレータ基材上に機能層を形成してなるセパレータが電池部材として使用されている。そして、この機能層は、通常、結着材成分と、水などの分散媒とを含有するスラリー状の非水系二次電池機能層用組成物(以下、「機能層用組成物」と略記する場合がある)を、電極基材またはセパレータ基材などの適切な基材上に供給し、乾燥することで形成される。
【0005】
そして、近年、上述したセパレータのシャットダウン機能を更に高め得る機能層として、異常過熱時に溶融して二次電池の内部抵抗を上昇させ得る成分を含む機能層の開発が盛んに行なわれている。
例えば、特許文献1では、第1の成分からなる粒子の外側に第2の成分が実質部分的に位置してなる粒子を含み、且つ、60℃および150℃における貯蔵弾性率がそれぞれ所定の範囲にある組成物を用いて形成された感熱層が、機能層として開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】国際公開第2017/115647号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、二次電池に上記従来技術の機能層を使用した場合であっても、セパレータによるシャットダウン機能には依然として改善の余地があった。
【0008】
そこで、本発明は、セパレータに優れたシャットダウン機能を発揮させ得る機能層を形成可能な非水系二次電池機能層用組成物を提供することを目的とする。
また、本発明は、セパレータに優れたシャットダウン機能を発揮させ得る非水系二次電池用機能層、および当該非水系二次電池用機能層を備える非水系二次電池部材を提供することを目的とする。
さらに、本発明は、当該非水系二次電池部材を備える非水系二次電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記課題を解決することを目的として鋭意検討を行った。そして、本発明者は、芳香族ビニル単量体単位を所定以上の割合で含む重合体と、融点が所定未満であるワックスとを含有する有機粒子を含む機能層用組成物を用いれば、セパレータに優れたシャットダウン機能を発揮させ得る機能層を形成可能であることを見出し、本発明を完成させた。
【0010】
即ち、この発明は、上記課題を有利に解決することを目的とするものであり、本発明の非水系二次電池機能層用組成物は、有機粒子Aを含む非水系二次電池機能層用組成物であり、前記有機粒子Aは、芳香族ビニル単量体単位を20質量%以上の割合で含む重合体Xと、融点が95℃未満であるワックスとを含有することを特徴とする。このように、芳香族ビニル単量体単位を上記所定以上の割合で含む重合体と、融点が上記所定未満であるワックスとを含有する有機粒子Aを含有する非水系二次電池機能層用組成物を用いれば、セパレータに優れたシャットダウン機能を発揮させ得る機能層を形成することができる。
なお、本発明において、ワックスの「融点」は、示差走査熱量分析機(DSC)を用いて、100℃/分で昇温する条件で測定を行い、得られたDSC曲線の極大値を取ることにより求めることができる。
【0011】
ここで、本発明の非水系二次電池機能層用組成物は、前記ワックスがエステルワックスであることが好ましい。前記ワックスがエステルワックスであれば、得られる機能層はセパレータに更に優れたシャットダウン機能を発揮させることができる。
【0012】
また、本発明の非水系二次電池機能層用組成物は、前記ワックスの融点が40℃以上であることが好ましい。前記ワックスの融点が上記所定以上であれば、機能層を備える電池部材は巻き重ねられた場合でもブロッキング(機能層を介した電池部材同士の膠着)の発生を良好に抑制することができる。
【0013】
さらに、本発明の非水系二次電池機能層用組成物は、前記有機粒子Aのガラス転移温度が30℃以上80℃以下であることが好ましい。前記有機粒子Aのガラス転移温度が上記所定の範囲内であれば、機能層用組成物中における有機粒子Aの粒子安定性を高め得ると共に、得られる機能層はセパレータに更に優れたシャットダウン機能を発揮させることができる。また、前記有機粒子Aのガラス転移温度が上記所定の範囲内であれば、機能層を備える電池部材は巻き重ねられた場合でもブロッキングの発生を良好に抑制することができる。
なお、本発明において、「ガラス転移温度」は、本明細書の実施例に記載の方法により測定することができる。
【0014】
さらに、本発明の非水系二次電池機能層用組成物は、前記有機粒子Aが、前記重合体Xと前記ワックスとを含有する粒子状のコア部と、前記コア部の少なくとも一部を覆うシェル部とを備えるコアシェル構造を有することが好ましい。前記有機粒子Aを、前記重合体Xと前記ワックスとを含有する粒子状のコア部と、前記コア部の少なくとも一部を覆うシェル部とを備えるコアシェル構造とすれば、機能層用組成物中における有機粒子Aの粒子安定性を高めることができる。
【0015】
また、この発明は、上記課題を有利に解決することを目的とするものであり、本発明の非水系二次電池機能層用組成物の製造方法は、有機粒子Aを含む非水系二次電池機能層用組成物の製造方法であって、重合体Xと、融点が95℃未満であるワックスとを含有する有機粒子Aを調製する工程Aを含み、前記工程Aは、水中で、前記ワックスの存在下、芳香族ビニル単量体を20質量%以上の割合で含有する単量体を懸濁重合して、前記重合体Xを調製する工程a1を含むことを特徴とする。このように、水中で、融点が上記所定未満であるワックスの存在下、芳香族ビニル単量体を上記所定以上の割合で含有する単量体を懸濁重合して、重合体を調製することで、当該重合体およびワックスを含有する有機粒子を調製すれば、セパレータに優れたシャットダウン機能を発揮させ得る機能層を形成可能な非水系二次電池機能層用組成物を製造することができる。
【0016】
ここで、本発明の非水系二次電池機能層用組成物の製造方法は、前記工程a1における前記ワックスの使用量が前記単量体100質量部に対して1質量部以上30質量部以下であることが好ましい。前記工程a1における前記ワックスの使用量が上記所定の範囲内であれば、得られる機能層用組成物中における有機粒子Aの粒子安定性を高め得ると共に、当該機能層用組成物を用いて形成された機能層はセパレータに更に優れたシャットダウン機能を発揮させることができる。また、前記工程a1における前記ワックスの使用量が上記所定の範囲内であれば、機能層を備える電池部材は巻き重ねられた場合でもブロッキングの発生を良好に抑制することができる。
【0017】
さらに、この発明は、上記課題を有利に解決することを目的とするものであり、本発明の非水系二次電池用機能層は、上述したいずれかの非水系二次電池機能層用組成物を用いて形成されたことを特徴とする。このように、上述したいずれかの非水系二次電池機能層用組成物を用いて形成された非水系二次電池用機能層は、セパレータに優れたシャットダウン機能を発揮させることができる。
【0018】
また、この発明は、上記課題を有利に解決することを目的とするものであり、本発明の非水系二次電池部材は、基材と、前記基材上に形成された機能層とを備え、前記機能層は、上述した非水系二次電池用機能層であることを特徴とする。このような非水系二次電池部材は、セパレータに優れたシャットダウン機能を発揮させ得る機能層を備えている。
【0019】
なお、本発明の非水系二次電池部材は、前記基材がセパレータ基材であることが好ましい。
【0020】
また、この発明は、上記課題を有利に解決することを目的とするものであり、本発明の非水系二次電池は、上述したいずれかの非水系二次電池部材を備えることを特徴とする。このような非水系二次電池は、上述したいずれかの非水系二次電池部材を備えるため、セパレータによる優れたシャットダウン機能を有し、安全性に優れている。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、セパレータに優れたシャットダウン機能を発揮させ得る機能層を形成可能な非水系二次電池機能層用組成物を提供することができる。
また、本発明によれば、セパレータに優れたシャットダウン機能を発揮させ得る非水系二次電池用機能層、および当該非水系二次電池用機能層を備える非水系二次電池部材を提供することができる。
さらに、本発明によれば、当該非水系二次電池部材を備える非水系二次電池を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
ここで、本発明の非水系二次電池機能層用組成物は、本発明の非水系二次電池用機能層を調製する際の材料として用いられる。なお、本発明の非水系二次電池機能層用組成物は、本発明の非水系二次電池機能層用組成物の製造方法により、製造することができる。そして、本発明の非水系二次電池用機能層は、本発明の非水系二次電池機能層用組成物を用いて形成される。また、本発明の非水系二次電池部材は、本発明の非水系二次電池用機能層を備えるものである。さらに、本発明の非水系二次電池は、少なくとも本発明の非水系二次電池部材を備えるものである。
【0023】
(非水系二次電池機能層用組成物)
本発明の非水系二次電池機能層用組成物は、有機粒子Aを含有し、任意に、結着材および添加剤などをさらに含有する、水を分散媒としたスラリー組成物である。そして、本発明の非水系二次電池機能層用組成物は、有機粒子Aが、芳香族ビニル単量体単位を所定以上の割合で含む重合体Xと、融点が所定未満であるワックスとを含有することを特徴とする。
【0024】
そして、本発明の非水系二次電池機能層用組成物は、有機粒子Aが、芳香族ビニル単量体単位を所定以上の割合で含む重合体Xと、融点が所定未満であるワックスとを含有するので、当該機能層用組成物を用いて形成された機能層は、二次電池中においてセパレータに優れたシャットダウン機能を発揮させることができる。
ここで、上記有機粒子Aを含む非水系二次電池機能層用組成物を用いて形成された機能層を二次電池に使用することで、セパレータに優れたシャットダウン機能を発揮させることができる理由は、以下の通りであると推察される。即ち、芳香族ビニル単量体単位を所定以上の割合で含む重合体Xと、融点が所定未満であるワックスとを含有する有機粒子Aは、重合体Xのみを含む粒子と比較して、異常過熱時に急激に溶融して、セパレータの微多孔を迅速に塞ぐため、セパレータに優れたシャットダウン機能を発揮させることができると考えられる。
【0025】
<有機粒子A>
有機粒子Aは、芳香族ビニル単量体単位を所定以上の割合で含む重合体Xと、融点が所定未満であるワックスとを含有し、任意にその他の成分を含有する。そして、本発明の非水系二次電池機能層用組成物は上記有機粒子Aを含んでいるため、かかる機能層用組成物を用いて形成される機能層は、セパレータに優れたシャットダウン機能を発揮させることができる。
【0026】
<<重合体X>>
重合体Xは、ワックスと共に有機粒子Aを構成する成分である。
そして、重合体X中の芳香族ビニル単量体単位の含有割合は、20質量%以上であることが必要であり、30質量%以上であることが好ましく、40質量%以上であることがより好ましく、50質量%以上であることが更に好ましく、100質量%以下であることが好ましく、84質量%以下であることがより好ましく、68質量%以下であることが更に好ましく、64質量%以下であることが一層好ましい。重合体Xが芳香族ビニル単量体単位を上記下限以上の割合で含めば、機能層用組成物中における有機粒子Aの粒子安定性を十分に高く確保することができる。一方、重合体Xが芳香族ビニル単量体単位を上記上限以下の割合で含めば、得られる機能層はセパレータに更に優れたシャットダウン機能を発揮させることができる。
なお、本発明において、「単量体単位を含む」とは、「その単量体を用いて得た重合体中に単量体由来の繰り返し単位が含まれている」ことを意味する。
【0027】
ここで、芳香族ビニル単量体単位を形成し得る芳香族ビニル単量体としては、特に限定されることなく、スチレン、α-メチルスチレン、ビニルトルエン、ジビニルベンゼン等が挙げられる。そして、機能層用組成物中における有機粒子Aの粒子安定性を高める観点から、芳香族ビニル単量体としては、スチレンを用いることが好ましい。なお、芳香族ビニル単量体は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0028】
また、重合体Xは、上述した芳香族ビニル単量体単位以外の単量体単位(以下、「その他の単量体単位」と称することがある。)を含有していてもよい。ここで、その他の単量体単位としては、特に限定されることはなく、例えば、(メタ)アクリル酸エステル単量体単位、ニトリル基含有単量体単位、および酸基含有単量体単位などが挙げられる。なお、上記各単量体単位を形成し得る単量体としては、既知の単量体を用いることができる。そして、重合体X中の芳香族ビニル単量体単位以外の上記各単量体単位の含有割合は、本発明の所望の効果が得られる範囲で任意に設定することができる。
なお、本明細書において「(メタ)アクリル」とは、アクリルまたはメタクリルを意味する。
【0029】
<<ワックス>>
ワックスは、重合体Xと共に有機粒子Aを構成する成分である。そして、有機粒子Aに含まれるワックスは、上述した重合体Xと併存することで、異常過熱時に、有機粒子Aを急激に溶融させることができる。したがって、有機粒子Aを含む機能層用組成物から形成された機能層は、セパレータに優れたシャットダウン機能を発揮させることができる。
なお、通常、有機粒子A中において、ワックスの少なくとも一部は結晶構造を有しているものとする。
【0030】
そして、ワックスの融点は、95℃未満であることが必要であり、90℃以下であることが好ましく、81℃以下であることがより好ましく、70℃以下であることが更に好ましく、60℃以下であることが一層好ましく、40℃以上であることが好ましく、44℃以上であることがより好ましい。ワックスの融点が上記上限未満であれば、得られる機能層はセパレータに優れたシャットダウン機能を発揮させることができる。一方、ワックスの融点が上記下限以上であれば、機能層用組成物中における有機粒子Aの粒子安定性を高め得ると共に、機能層を備える電池部材は巻き重ねられた場合でもブロッキングの発生を良好に抑制することができる。
【0031】
有機粒子Aに含まれるワックスとしては、融点が上述した上限未満である限り、特に限定されることはなく、植物系ワックス、動物系ワックス、石油系ワックス、合成ワックス、およびそれらの変性物等を用いることができる。
【0032】
植物系ワックスの具体例としては、キャンデリラワックス、カルナウバワックス、ライスワックス、木ロウ、ホホバオイル等などが挙げられる。
動物系ワックスの具体例としては、ミツロウ等が挙げられる。
石油系ワックスの具体例としては、パラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス、ペトロラタムワックス等が挙げられる。
合成ワックスは、フィッシャートロプシュワックス、ポリオレフィンワックス、エステルワックス等に分類することができる。
ポリオレフィンワックスの具体例としては、ポリエチレンワックス、ポリプロピレンワックス、ポリブチレンワックス等が挙げられる。
エステルワックスとしては、1価アルコール脂肪酸エステルおよび多価アルコール脂肪酸エステルのいずれも用いることができる。ここで、1価アルコール脂肪酸エステルの具体例としては、ステアリン酸べへニルなどが挙げられる。また、多価アルコール脂肪酸エステルの具体例としては、ペンタエリスリトールテトラミリステート、ペンタエリスリトールテトラパルミテート、ペンタエリスリトールテトラステアレート、ペンタエリスリトールテトララウレート、ペンタエリスリトールテトラベヘネート等のペンタエリスリトールエステル;ジペンタエリスリトールヘキサミリステート、ジペンタエリスリトールヘキサパルミテート、ジペンタエリスリトールヘキサラウレート等のジペンタエリスリトールエステル;等を挙げられる。
なお、これらのワックスは1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0033】
有機粒子A中のワックスの含有量は、重合体X100質量部に対して1質量部以上であることが好ましく、2質量部以上であることがより好ましく、5質量部以上であることが更に好ましく、6質量部以上であることが一層好ましく、30質量部以下であることが好ましく、23質量部以下であることがより好ましく、15質量部以下であることが更に好ましく、12質量部以下であることが一層好ましく、10質量部以下であることがより一層好ましい。有機粒子A中のワックスの含有量が上記下限以上であれば、得られる機能層はセパレータに更に優れたシャットダウン機能を発揮させることができる。一方、有機粒子A中のワックスの含有量が上記上限以下であれば、機能層用組成物中における有機粒子Aの粒子安定性を高め得ると共に、機能層を備える電池部材は巻き重ねられた場合でもブロッキングの発生を良好に抑制することができる。
【0034】
<<その他の成分>>
有機粒子Aは、本発明の所望の効果が得られる範囲内で、上述した重合体Xおよびワックス以外のその成分を含有していてもよい。
その他の成分の具体例は特に限定されないが、例えば、上述したワックスとしてエステルワックスを使用する場合、その他の成分として飽和脂肪酸亜鉛塩を用いることが好ましい。なお、飽和脂肪酸亜鉛塩は、上述したワックスとは異なる成分である。
【0035】
ここで、飽和脂肪酸亜鉛塩は、例えば、エステルワックスを含むワックス組成物を調製する際に使用する。即ち、エステルワックスと飽和脂肪酸亜鉛塩とを加熱溶融して均一に混合した後、冷却固化して、粉砕または造粒することによりワックス組成物を調製する。得られたワックス組成物は、本発明の機能層用組成物の製造における有機粒子Aの作製に使用することができる。そして、機能層用組成物から形成された機能層において、上記ワックス組成物を用いて作製された有機粒子Aは、異常過熱時に更に急激に溶融して、セパレータの微多孔を更に迅速に塞ぐため、セパレータは更に優れたシャットダウン機能を発揮することができる。
【0036】
ここで、飽和脂肪酸亜鉛塩は、1価の直鎖飽和脂肪酸の亜鉛塩であることが好ましい。飽和脂肪酸亜鉛塩が1価の直鎖飽和脂肪酸の亜鉛塩であれば、得られる機能層はセパレータに一層優れたシャットダウン機能を発揮させることができる。そして、1価の直鎖飽和脂肪酸の炭素数は、14以上であることが好ましく、16以上であることがより好ましく、18以上であることが更に好ましく、24以下であることが好ましい。1価の直鎖飽和脂肪酸の炭素数が上記下限以上であれば、得られる機能層はセパレータにより一層優れたシャットダウン機能を発揮させることができる。
1価の直鎖飽和脂肪酸の具体例としては、ミリスチン酸(炭素数:14)、パルミチン酸(炭素数:16)、ステアリン酸(炭素数:18)、アラキジン酸(炭素数:20)、ベヘニン酸(炭素数:22)、リグノセリン酸(炭素数:24)などが挙げられる。
なお、これらの1価の直鎖飽和脂肪酸の亜鉛塩は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0037】
<<有機粒子Aの構造>>
有機粒子Aの構造は、上述した重合体Xとワックスとを含有していれば、特に限定されないが、通常、有機粒子Aの少なくとも一部において、重合体Xとワックスとが混ざり合った状態で存在する。ただし、重合体Xとワックスとはいずれも有機粒子A中に均一に存在する必要はない。また、通常、有機粒子A中では、重合体Xおよびワックスの各々の少なくとも一部同士が相溶しているものとする。
そして、有機粒子Aは、重合体Xとワックスとを含有する粒子状のコア部と、当該コア部の少なくとも一部を覆うシェル部とを備えるコアシェル構造を有していてもよい。ここで、有機粒子Aのシェル部は、コア部の外表面の一部を覆っていてもよいし、コア部の外表面の全体を覆っていてもよい。そして、有機粒子Aが上記コアシェル構造を有していれば、機能層用組成物中における有機粒子Aの粒子安定性を高めることができる。
【0038】
[シェル部]
有機粒子Aがコアシェル構造を有する場合における有機粒子Aのシェル部は、特に限定されることはないが、通常は重合体(以下、「重合体Y」と称することがある。)によって構成されている。なお、通常、有機粒子Aのシェル部を構成する重合体Yは、上述した重合体Xとは異なるものである。
ここで、有機粒子Aのシェル部を構成する重合体Yは、特に限定されることはなく、既知の単量体単位を含むことができる。このような既知の単量体単位としては、例えば、(メタ)アクリル酸エステル単量体単位および酸基含有単量体単位などが挙げられる。また、重合体Y中の各単量体単位の含有割合は、本発明の所望の効果が得られる範囲で調整することができる。
【0039】
有機粒子A中の重合体Xの含有量に対する重合体Yの含有量の質量比(重合体Y/重合体X)は、1/20以上であることが好ましく、1/9以上であることがより好ましく、1/2以下であることが好ましい。有機粒子A中の重合体Xの含有量に対する重合体Yの含有量の質量比(重合体Y/重合体X)が上記下限以上であれば、機能層用組成物中における有機粒子Aの粒子安定性を更に高めることができる。一方、有機粒子A中の重合体Xの含有量に対する重合体Yの含有量の質量比(重合体Y/重合体X)が上記上限以下であれば、得られる機能層はセパレータに十分に優れたシャットダウン機能を発揮させることができる。
【0040】
<<有機粒子Aの体積平均粒子径>>
有機粒子Aの体積平均粒子径は、0.1μm以上であることが好ましく、0.15μm以上であることがより好ましく、0.2μm以上であることが更に好ましく、10μm以下であることが好ましく、5μm以下であることがより好ましく、2μm以下であることが更に好ましく、1.5μm以下であることが一層好ましい。有機粒子Aの体積平均粒子径が上記下限以上であれば、得られる機能層の内部抵抗を低く抑え、二次電池の低温出力特性を向上させることができる。一方、有機粒子Aの体積平均粒子径が上記上限以下であれば、電解液中での有機粒子Aの接着性を高め、二次電池の高温サイクル特性を向上させることができる。
なお、本発明において、「体積平均粒子径」とは、レーザー回折法にて測定した粒子径分布(体積基準)において、小径側から計算した累積体積が50%となる粒子径(D50)を指す。
【0041】
<<有機粒子Aのガラス転移温度>>
有機粒子Aのガラス転移温度は、30℃以上であることが好ましく、35℃以上であることがより好ましく、38℃以上であることが更に好ましく、40℃以上であることが一層好ましく、80℃以下であることが好ましく、70℃以下であることがより好ましく、60℃以下であることが更に好ましく、53℃以下であることが一層好ましく、46℃以下であることがより一層好ましい。有機粒子Aのガラス転移温度が上記下限以上であれば、機能層用組成物中における有機粒子Aの粒子安定性を高め得ると共に、機能層を備える電池部材は巻き重ねられた場合でもブロッキングの発生を良好に抑制することができる。一方、有機粒子Aのガラス転移温度が上記上限以下であれば、得られる機能層はセパレータに更に優れたシャットダウン機能を発揮させることができる。
【0042】
<結着材>
本発明の非水系二次電池機能層用組成物は、結着材を更に含んでいてもよい。
結着材は、本発明の機能層用組成物を用いて形成された機能層中において有機粒子A等の成分同士を結着すると共に、当該機能層と基材(セパレータ基材または電極基材)とを良好に接着させる成分として機能し得る。
そして、本発明の機能層用組成物に用い得る結着材としては、既知の結着材を用いることができる。なお、結着材は、上述した有機粒子Aとは異なる成分である。
結着材としては、例えば、機能層の配設位置に応じて、アクリル系重合体((メタ)アクリル酸エステル単量体単位を主として含む重合体);ポリビニリデンフルオライド(PVdF)等のフッ素系重合体(フッ素含有単量体単位を主として含む重合体);スチレン-ブタジエン共重合体(SBR)等の脂肪族共役ジエン/芳香族ビニル系共重合体(脂肪族共役ジエン単量体単位および芳香族ビニル単量体単位を主として含む重合体)およびその水素化物;ブタジエン-アクリロニトリル共重合体(NBR)等の脂肪族共役ジエン/アクリロニトリル系共重合体およびその水素化物;ならびにポリビニルアルコール(PVA)等のポリビニルアルコール系重合体などを用いることができる。
ここで、上記各種単量体単位を形成し得る各種単量体としては、既知のものを使用することができる。なお、本発明において、1種または複数種の単量体単位を「主として含む」とは、「重合体に含有される全単量体単位の量を100質量%とした場合に、当該1種の単量体単位の含有割合、または当該複数種の単量体単位の含有割合の合計が50質量%を超える」ことを意味する。
【0043】
<<結着材の調製>>
結着材の調製方法としては、特に限定されることはないが、例えば、各種単量体単位を形成し得る単量体を含む単量体組成物を重合することにより調製される。重合様式としては、特に限定はされず、例えば、溶液重合法、懸濁重合法、塊状重合法、乳化重合法などのいずれの方法を用いてもよい。重合反応としては、イオン重合、ラジカル重合、リビングラジカル重合などの付加重合を用いることができる。そして、重合に使用される乳化剤、分散剤、重合開始剤、重合助剤などは、一般に用いられるものを使用することができ、その使用量も、一般に使用される量とする。
【0044】
<<結着材のガラス転移温度>>
結着材のガラス転移温度は-75℃以上であることが好ましく、-55℃以上であることがより好ましく、-35℃以上であることが更に好ましく、-20℃以上であることが一層好ましく、5℃以下であることが好ましく、0℃以下であることがより好ましく、-5℃以下であることが更に好ましい。結着材のガラス転移温度が上述した値の範囲内であれば、得られる機能層の結着性などの特性が好適に保たれる。
【0045】
<<結着材の形態>>
結着材の形態は、特に限定されず、機能層用組成物中において、粒子状であっても、非粒子状であってもよいが、機能層内に細孔を設けて電池内部におけるイオン拡散性を高くする観点から、粒子状であることが好ましい。
そして、結着材が粒子状である場合、結着材の分散性を高める観点から、当該結着材の体積平均粒子径は、0.1μm以上であることが好ましく、0.2μm以上であることがより好ましく、0.5μm以下であることが好ましく、0.45μm以下であることがより好ましく、0.4μm以下であることが更に好ましい。
【0046】
<<結着材の添加量>>
本発明の機能層用組成物における結着材の添加量は、特に限定されることはないが、有機粒子A100質量部に対して0.1質量部以上であることが好ましく、0.2質量部以上であることがより好ましく、50質量部以下であることが好ましく、40質量部以下であることがより好ましく、30質量部以下であることが更に好ましい。結着材の添加量が上記下限以上であれば、得られる機能層の強度を高めることができる。一方、結着材の添加量が上記上限以下であれば、機能層を備える二次電池内部におけるイオン拡散性を十分に促進することができる。
【0047】
<添加剤>
非水系二次電池機能層用組成物は、上述した成分以外にも、任意のその他の成分を含んでいてもよい。前記その他の成分としては、本発明の所望の効果が得られる範囲であれば、特に限定されず、例えば、非導電性粒子、表面張力調整剤、分散剤、粘度調整剤、補強材、電解液添加剤などが挙げられる。そして、これらの成分としては、公知のもの、例えば、特開2015-041606号公報に記載の非導電性粒子、国際公開第2012/115096号に記載の表面張力調整剤、分散剤、粘度調整剤、補強材、電解液添加剤等の成分を使用することができる。
なお、これらのその他の成分は、1種類を単独で使用してもよいし、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0048】
(非水系二次電池機能層用組成物の製造方法)
本発明の非水系二次電池機能層用組成物の製造方法は、有機粒子Aを含む非水系二次電池機能層用組成物の製造方法であって、重合体Xと、融点が所定未満であるワックスとを含有する有機粒子Aを調製する工程Aを含み、任意にその他の工程を含む。本発明の非水系二次電池機能層用組成物の製造方法によれば、セパレータに優れたシャットダウン機能を発揮させ得る機能層を形成可能な非水系二次電池機能層用組成物を製造することができる。
そして、本発明の非水系二次電池機能層用組成物の製造方法は、上述した本発明の非水系二次電池機能層用組成物を調製する際に用いることができる。
【0049】
<工程A>
工程Aでは、重合体Xと、融点が所定未満であるワックスとを含有する有機粒子Aを調製する。そして、工程Aは、水中で、上記ワックスの存在下、芳香族ビニル単量体を所定以上の割合で含有する単量体を懸濁重合して、上記重合体Xを調製する工程a1を含み、任意にその他の工程を含む。
【0050】
<<工程a1>>
工程a1では、水中で、融点が所定未満であるワックスの存在下、芳香族ビニル単量体を所定以上の割合で含有する単量体を懸濁重合して、上記重合体Xを調製する。水中で、上記ワックスの存在下、単量体を懸濁重合すれば、ワックスと単量体とを含む液滴が形成された後に、当該液滴中の単量体が重合して重合体Xが形成されるため、重合体Xとワックスとを含む有機粒子Aを効率良く取得することができる。
【0051】
そして、工程a1で懸濁重合する単量体に含まれる芳香族ビニル単量体の割合は、20質量%以上であることが必要であり、30質量%以上であることが好ましく、40質量%以上であることがより好ましく、50質量%以上であることが更に好ましく、100質量%以下であることが好ましく、84質量%以下であることがより好ましく、68質量%以下であることが更に好ましく、64質量%以下であることが一層好ましい。当該単量体に含まれる芳香族ビニル単量体の割合が上記下限以上であれば、得られる機能層用組成物を用いて形成された機能層は、セパレータに優れたシャットダウン機能を発揮させることができる。一方、当該単量体に含まれる芳香族ビニル単量体の割合が上記上限以下であれば、得られる機能層用組成物を用いて形成された機能層は、セパレータに更に優れたシャットダウン機能を発揮させることができる。
【0052】
なお、工程a1で懸濁重合する単量体に含まれる芳香族ビニル単量体以外の単量体としては、特に限定されることはなく、例えば、「非水系二次電池機能層用組成物」の項で上述したその他の単量体単位を形成し得る単量体を用いることができる。そして、単量体に含まれる芳香族ビニル単量体以外の各単量体の割合は、本発明の所望の効果が得られる範囲で任意に調整することができる。
【0053】
さらに、工程a1で使用するワックスとしては、融点が95℃未満であるワックスを使用することができ、より具体的には、「非水系二次電池機能層用組成物」の項で上述したワックスを用いることができる。
【0054】
ここで、工程a1におけるワックスの使用量は、工程a1で使用する単量体100質量部に対して1質量部以上であることが好ましく、2質量部以上であることがより好ましく、5質量部以上であることが更に好ましく、6質量部以上であることが一層好ましく、30質量部以下であることが好ましく、23質量部以下であることがより好ましく、15質量部以下であることが更に好ましく、12質量部以下であることが一層好ましく、10質量部以下であることがより一層好ましい。工程a1におけるワックスの使用量が上記下限以上であれば、得られる機能層はセパレータに更に優れたシャットダウン機能を発揮させることができる。一方、工程a1におけるワックスの使用量が上記上限以下であれば、機能層用組成物中における有機粒子Aの粒子安定性を高め得ると共に、機能層を備える電池部材は巻き重ねられた場合でもブロッキングの発生を良好に抑制することができる。
【0055】
なお、工程a1では、上述した単量体およびワックス以外のその他の成分を更に使用してもよい。その他の成分としては、「非水系二次電池機能層用組成物」の項で上述した有機粒子Aに含まれ得る重合体Xおよびワックス以外のその成分(例えば、飽和脂肪酸亜鉛塩など)を使用することができる。
また、工程a1では、分散安定剤および重合開始剤、重合助剤などの添加剤を使用することもできる。分散安定剤、重合開始剤、および重合助剤としては、一般に用いられるものを使用することができ、これらの使用量も、一般に使用される量とすることができる。
【0056】
懸濁重合において、得られる有機粒子Aの粒子径分布を均一にする観点から、上述した成分を含む混合液に対して、せん断力を与える方法が好ましく、インライン型乳化分散機を用いてせん断力を与える方法がより好ましい。
【0057】
なお、懸濁重合における温度および時間等の条件は、特に限定されることはなく、本発明の所望の効果が得られる範囲で適宜設定することができる。
【0058】
<<その他の工程>>
工程Aは、上述した工程a1以外にも、任意にその他の工程を含んでいてもよい。このようなその他の工程としては、例えば、有機粒子Aのシェル部を形成する工程a2などを実施することができる。
【0059】
[工程a2]
工程a2では、有機粒子Aのシェル部を形成する。具体的に、工程a2では、工程a1における懸濁重合後に、シェル部形成用単量体を添加して、重合体Yを調製する。これにより、重合体Xと、上述したワックスとを含有する粒子状のコア部と、コア部の少なくとも一部を覆う重合体Yからなるシェル部とを備えるコアシェル構造を有する有機粒子Aが得られる。
【0060】
ここで、シェル部形成用単量体に含まれる単量体としては、既知の単量体を用いることができ、より具体的には、「非水系二次電池機能層用組成物」の項で上述したシェル部を構成する重合体Yに含まれる単量体単位を形成し得る単量体を用いることができる。また、シェル部形成用単量体に含まれる各単量体の含有割合は、本発明の所望の効果が得られる範囲で任意に調整することができる。
【0061】
また、工程a2においては、重合開始剤および重合助剤などの添加剤を使用することもできる。重合開始剤および重合助剤としては、一般に用いられるものを使用することができ、これらの使用量も、一般に使用される量とすることができる。
なお、工程a2における重合反応の温度および時間等の条件は、特に限定されることはなく、本発明の所望の効果が得られる範囲で適宜設定することができる。
【0062】
<その他の工程>
本発明の非水系二次電池機能層用組成物の製造方法は、上述した工程a1および工程a2等を含む工程A以外にも、その他の工程を更に含んでいてもよい。
その他の工程としては、例えば、混合工程などを実施することができる。
【0063】
<<混合工程>>
混合工程では、上述した工程Aで得られた有機粒子Aと、任意の結着材および添加剤等とを、分散媒としての水の存在下で混合して、機能層用組成物を調製する。
そして、通常は、有機粒子Aの分散液と、結着材の分散液とを混合した後、得られた混合液を分散媒としての水により希釈して、固形分濃度を適宜調整することにより、機能層用組成物を調製する。
上述した成分の混合方法としては、特に限定されることはなく、既知の混合方法を用いることができる。
また、結着材および添加剤としては、特に限定されることはなく、例えば、「非水系二次電池機能層用組成物」の項で上述した結着材および添加剤を用いることができる。
【0064】
(非水系二次電池用機能層)
本発明の非水系二次電池用機能層は、上述した非水系二次電池機能層用組成物から形成されたものであり、例えば、上述した機能層用組成物を適切な基材の表面に塗布して塗膜を形成した後、形成した塗膜を乾燥することにより、形成することができる。即ち、本発明の非水系二次電池用機能層は、上述した非水系二次電池機能層用組成物の乾燥物よりなり、通常、芳香族ビニル単量体単位を所定以上の割合で含む重合体X、および融点が所定未満であるワックスを含有する有機粒子Aを含有する。
そして、本発明の非水系二次電池用機能層は、上述した非水系二次電池機能層用組成物を用いて形成されているので、セパレータに優れたシャットダウン機能を発揮させることができる。
なお、本発明の非水系二次電池用機能層は、特に限定されることなく、例えば、非導電性粒子を含まない接着層として使用してもよいし、非導電性粒子を含む多孔膜層として使用してもよい。
【0065】
<基材>
ここで、機能層用組成物を塗布する基材に制限は無く、例えば離型基材の表面に機能層用組成物の塗膜を形成し、その塗膜を乾燥して機能層を形成し、機能層から離型基材を剥がすようにしてもよい。このように、離型基材から剥がされた機能層を自立膜として二次電池の電池部材の形成に用いることもできる。具体的には、離型基材から剥がした機能層をセパレータ基材の上に積層して機能層を備えるセパレータを形成してもよいし、離型基材から剥がした機能層を電極基材の上に積層して機能層を備える電極を形成してもよい。
しかし、機能層を剥がす工程を省略して電池部材の製造効率を高める観点からは、基材としてセパレータ基材または電極基材を用いることが好ましい。セパレータ基材および電極基材上に設けられた機能層は、セパレータおよび電極の耐熱性や強度などを向上させる保護層として好適に使用することができる。
【0066】
<<セパレータ基材>>
セパレータ基材としては、特に限定されないが、有機セパレータ基材などの既知のセパレータ基材が挙げられる。有機セパレータ基材は、有機材料からなる多孔性部材であり、有機セパレータ基材の例を挙げると、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン樹脂、芳香族ポリアミド樹脂などを含む微多孔膜または不織布などが挙げられ、強度に優れることからポリエチレン製の微多孔膜や不織布が好ましい。なお、セパレータ基材の厚さは、任意の厚さとすることができ、好ましくは5μm以上30μm以下であり、より好ましくは5μm以上20μm以下であり、更に好ましくは5μm以上18μm以下である。セパレータ基材の厚さが5μm以上であれば、十分な安全性が得られる。また、セパレータ基材の厚さが30μm以下であれば、イオン伝導性が低下するのを抑制し、二次電池の出力特性が低下するのを抑制することができると共に、セパレータ基材の熱収縮力が大きくなるのを抑制して耐熱性を向上させることができる。
【0067】
<<電極基材>>
電極基材(正極基材および負極基材)としては、特に限定されないが、集電体上に電極合材層が形成された電極基材が挙げられる。
ここで、集電体、電極合材層中の電極活物質(正極活物質、負極活物質)および電極合材層用結着材(正極合材層用結着材、負極合材層用結着材)、並びに、集電体上への電極合材層の形成方法としては、既知のものを用いることができ、例えば特開2013-145763号公報に記載のものを用いることができる。
【0068】
<非水系二次電池用機能層の形成方法>
上述したセパレータ基材、電極基材などの基材上に機能層を形成する方法としては、以下の方法が挙げられる。
1)本発明の非水系二次電池機能層用組成物をセパレータ基材または電極基材の表面(電極基材の場合は電極合材層側の表面、以下同じ)に塗布し、次いで乾燥する方法;
2)本発明の非水系二次電池機能層用組成物にセパレータ基材または電極基材を浸漬後、これを乾燥する方法;
3)本発明の非水系二次電池機能層用組成物を離型基材上に塗布し、乾燥して機能層を製造し、得られた機能層をセパレータ基材または電極基材の表面に転写する方法;
これらの中でも、前記1)の方法が、機能層の層厚制御をしやすいことから特に好ましい。前記1)の方法は、詳細には、機能層用組成物を基材上に塗布する工程(塗布工程)と、基材上に塗布された機能層用組成物を乾燥させて機能層を形成する工程(機能層形成工程)を含む。
【0069】
[塗布工程]
そして、塗布工程において、機能層用組成物を基材上に塗布する方法としては、特に制限は無く、例えば、ドクターブレード法、リバースロール法、ダイレクトロール法、グラビア法、エクストルージョン法、ハケ塗り法などの方法が挙げられる。
【0070】
[機能層形成工程]
また、機能層形成工程において、基材上の機能層用組成物を乾燥する方法としては、特に限定されず公知の方法を用いることができ、例えば温風、熱風、低湿風による乾燥、真空乾燥、赤外線や電子線などの照射による乾燥法が挙げられる。乾燥条件は特に限定されないが、乾燥温度は好ましくは50~150℃で、乾燥時間は好ましくは3~30分である。
なお、乾燥後に得られた機能層の目付量は、0.1g/m2以上であることが好ましく、0.15g/m2以上であることがより好ましく、0.2g/m2以上であることが更に好ましく、1.0g/m2以下であることが好ましく、0.8g/m2以下であることがより好ましく、0.6g/m2以下であることが更に好ましい。乾燥後に得られた機能層の目付量が上記下限以上であれば、得られる機能層はセパレータに更に優れたシャットダウン機能を発揮させることができる。一方、乾燥後に得られた機能層の目付量が上記上限以下であれば、得られる機能層の内部抵抗を低く抑え、二次電池の低温出力特性を向上させることができる。
【0071】
(非水系二次電池部材)
本発明の非水系二次電池部材は、基材と、前記基材上に形成された機能層とを備え、前記機能層は、上述した本発明の非水系二次電池用機能層であることを特徴とする。
したがって、本発明の非水系二次電池部材は、セパレータに優れたシャットダウン機能を発揮させ得る機能層を備えている。
ここで、基材としては、「非水系二次電池用機能層」の項で上述した基材を用いることができる。そして、本発明の非水系二次電池部材に用いる基材としては、セパレータ基材を用いることが好ましい。
【0072】
本発明の非水系二次電池部材は、本発明の効果を著しく損なわない限り、基材(セパレータ基材または電極基材)と、本発明の機能層との他に、上述した機能層以外の構成要素を備えていてもよい。
【0073】
ここで、本発明の機能層以外の構成要素としては、本発明の機能層に該当しないものであれば特に限定されることなく、本発明の機能層上に設けられて電池部材同士の接着に用いられる接着層などが挙げられる。
【0074】
ただし、本発明の非水系二次電池部材に用いられる基材がセパレータ基材である場合、セパレータ基材と上述した機能層とは直接接触し、両者間には他の構成要素が存在しないことが好ましい。セパレータ基材と上述した機能層とが直接接触していれば、高温により溶融した有機粒子Aが、セパレータ基材の微多孔を容易かつ迅速に塞ぐことができるため、セパレータは更に優れたシャットダウン機能を発揮することができる。
【0075】
また、本発明の非水系二次電池部材に用いられる基材が電極基材である場合、上述した機能層は本発明の非水系二次電池部材の最外層を構成していることが好ましい。上述した機能層が本発明の非水系二次電池部材の最外層を構成していれば、本発明の電池部材を用いて二次電池を作製した場合に、上述した機能層がセパレータと直接接触し得る。この場合、高温により溶融した有機粒子Aが、セパレータ基材の微多孔を容易かつ迅速に塞ぐことができるため、セパレータは更に優れたシャットダウン機能を発揮することができる。
【0076】
(非水系二次電池)
本発明の非水系二次電池は、上述した本発明の非水系二次電池部材を備えることを特徴とする。より具体的には、本発明の非水系二次電池は、正極、負極、セパレータ、および電解液を備え、正極、負極およびセパレータの少なくとも一つが本発明の非水系二次電池部材である。本発明の非水系二次電池は、上述した本発明の非水系二次電池部材を備えるため、セパレータによる優れたシャットダウン機能を有し、安全性に優れている。なお、本発明の非水系二次電池においては、セパレータが本発明の非水系二次電池部材であることが好ましい。
ここで、本発明の非水系二次電池は本発明の非水系二次電池部材を備えているため、上述した本発明の機能層も備えている。そして、本発明の非水系二次電池においては、本発明の機能層とセパレータ基材とが直接接触にしていることが好ましい。本発明の非水系二次電池において、本発明の機能層とセパレータ基材とが直接接触していれば、高温により溶融した有機粒子Aが、セパレータ基材の微多孔を容易かつ迅速に塞ぐことができるため、セパレータは更に優れたシャットダウン機能を発揮することができる。
【0077】
<正極、負極およびセパレータ>
本発明の二次電池に用いる正極、負極およびセパレータは、少なくとも一つが上述した本発明の非水系二次電池部材である。
なお、本発明の非水系二次電池部材ではない正極、負極およびセパレータとしては、特に限定されることはなく、「非水系二次電池用機能層」の項で上述した電極基材よりなる電極およびセパレータ基材よりなるセパレータを用いることができる。
【0078】
<電解液>
電解液としては、通常、有機溶媒に支持電解質を溶解した有機電解液が用いられる。支持電解質としては、例えば、リチウムイオン二次電池においてはリチウム塩が用いられる。リチウム塩としては、例えば、LiPF6、LiAsF6、LiBF4、LiSbF6、LiAlCl4、LiClO4、CF3SO3Li、C49SO3Li、CF3COOLi、(CF3CO)2NLi、(CF3SO22NLi、(C25SO2)NLiなどが挙げられる。なかでも、溶媒に溶けやすく高い解離度を示すので、LiPF6、LiClO4、CF3SO3Liが好ましい。なお、電解質は1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。通常は、解離度の高い支持電解質を用いるほどリチウムイオン伝導度が高くなる傾向があるので、支持電解質の種類によりリチウムイオン伝導度を調節することができる。
【0079】
電解液に使用する有機溶媒としては、支持電解質を溶解できるものであれば特に限定されないが、例えばリチウムイオン二次電池においては、ジメチルカーボネート(DMC)、エチレンカーボネート(EC)、ジエチルカーボネート(DEC)、プロピレンカーボネート(PC)、ブチレンカーボネート(BC)、メチルエチルカーボネート(MEC)、ビニレンカーボネート(VC)等のカーボネート類;γ-ブチロラクトン、ギ酸メチル等のエステル類;1,2-ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン等のエーテル類;スルホラン、ジメチルスルホキシド等の含硫黄化合物類;などが好適に用いられる。また、これらの溶媒の混合液を用いてもよい。中でも、誘電率が高く、安定な電位領域が広いので、カーボネート類が好ましい。通常、用いる溶媒の粘度が低いほどリチウムイオン伝導度が高くなる傾向があるので、溶媒の種類によりリチウムイオン伝導度を調節することができる。
なお、電解液中の電解質の濃度は適宜調整することができる。また、電解液には、既知の添加剤を添加してもよい。
【0080】
(非水系二次電池の製造方法)
本発明の非水系二次電池は、例えば、正極と負極とをセパレータを介して重ね合わせ、これを必要に応じて、巻く、折るなどして電池容器に入れ、電池容器に電解液を注入して封口することで製造することができる。なお、正極、負極、セパレータのうち、少なくとも一つの電池部材を上述した本発明の非水系二次電池部材とする。また、電池容器には、必要に応じてエキスパンドメタルや、ヒューズ、PTC素子などの過電流防止素子、リード板などを入れ、電池内部の圧力上昇、過充放電の防止をしてもよい。電池の形状は、例えば、コイン型、ボタン型、シート型、円筒型、角形、扁平型など、何れであってもよい。
【実施例
【0081】
以下、本発明について実施例に基づき具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、以下の説明において、量を表す「%」および「部」は、特に断らない限り、質量基準である。
また、複数種類の単量体を共重合して製造される重合体において、ある単量体を重合して形成される単量体単位の前記重合体における割合は、別に断らない限り、通常は、その重合体の重合に用いる全単量体に占める当該ある単量体の比率(仕込み比)と一致する。
実施例および比較例において、結着材および有機粒子Aのガラス転移温度および体積平均粒子径D50、有機粒子Aの粒子安定性、セパレータの耐ブロッキング性およびシャットダウン性は下記の方法で測定および評価した。
【0082】
<ガラス転移温度>
実施例および比較例にて製造した結着材および有機粒子Aを、それぞれ、測定試料とした。測定試料10mgをアルミパンに計量し、示差熱分析測定装置(エスアイアイ・ナノテクノロジー社製「EXSTAR DSC6220」)にて、リファレンスとして空のアルミパンを用い、測定温度範囲-100℃~500℃の間で、昇温速度10℃/分で、JIS Z 8703に規定された条件下で測定を実施し、示差走査熱量分析(DSC)曲線を得た。この昇温過程で、微分信号(DDSC)が0.05mW/分/mg以上となるDSC曲線の吸熱ピークが出る直前のベースラインと、吸熱ピーク後に最初に現れる変曲点でのDSC曲線の接線との交点を、ガラス転移温度(℃)として求めた。
【0083】
<体積平均粒子径D50>
実施例および比較例にて製造した結着材および有機粒子Aについて、固形分濃度0.1質量%に調整した水分散溶液の、レーザー回折式粒子径分布測定装置(ベックマン・コールター社製、製品名「LS-230」)により測定された粒度分布(体積基準)において、小径側から計算した累積体積が50%となる粒子径(μm)として求め、体積平均粒子径D50とした。
【0084】
<有機粒子Aの粒子安定性>
実施例、比較例にて製造した機能層用組成物を固形分相当で質量W0だけ200メッシュに通した。その後、メッシュ上の残渣について、乾燥後の質量W1を測定した。そして、下記の式により、メッシュ残渣量(ppm)を算出した。
メッシュ残渣量(ppm)=(W1/W0)×1000000
算出されたメッシュ残渣量について、以下の基準により評価を行なった。メッシュ残渣量の値が小さいほど、有機粒子Aが機能層用組成物中において粒子安定性に優れることを示す。
A:メッシュ残渣量が500ppm未満
B:メッシュ残渣量が500ppm以上1000ppm未満
C:メッシュ残渣量が1000ppm以上2000ppm未満
D:メッシュ残渣量が2000ppm以上5000ppm未満
E:メッシュ残渣量が5000ppm以上
【0085】
<セパレータの耐ブロッキング性>
実施例および比較例にて製造したセパレータを幅4cm×長さ4cmのサイズに2枚切り出して試験片とした。そして、当該2枚の試験片の機能層を有する面同士を重ね合わせ、温度:40℃、圧力:5MPa、時間:2分間の条件にてプレスした後、重ね合わせられた試験片同士を鉛直上方に引張り速度50mm/分で引っ張って剥がしたときの応力(ブロッキング強度)を測定した。得られたブロッキング強度を以下の基準により評価した。ブロッキング強度が小さいほど、機能層を備えるセパレータはブロッキングの発生を良好に抑制できることを示す。
A:4N/m未満
B:4N/m以上6N/m未満
C:6N/m以上8N/m未満
D:8N/m以上10N/m未満
E:10N/m以上
【0086】
<セパレータのシャットダウン性>
実施例および比較例で製造したセパレータについて、ガーレー測定器(熊谷理機工業製「SMOOTH&POROSITY METER(測定径:φ2.9cm))を用いて、加熱前のガーレー値G1(sec/100cc)を測定した。その後、各セパレータを、130℃に加熱したホットプレート上で、機能層を備える面を上にして30秒間加熱した。そして、加熱後のガーレー値G2(sec/100cc)を上記と同様に測定した。加熱前後でのガーレー値の増加率(%)を以下の式により算出した。
ガーレー値の増加率(%)={(G2-G1)/G1}×100
そして、得られたガーレー値の増加率を下記の基準により評価した。加熱前後でのガーレー値の増加率が大きいほど、セパレータは、高温時に透過性が短時間で良好に低下し、優れたシャットダウン機能を発揮し得ることを示す。
A:ガーレー値の増加率が、500%以上
B:ガーレー値の増加率が、400%以上500%未満
C:ガーレー値の増加率が、300%以上400%未満
D:ガーレー値の増加率が、200%以上300%未満
E:ガーレー値の増加率が、100%以上200%未満
【0087】
(製造例1:ワックス組成物1の作製)
<エステルワックスの調製>
窒素導入管、攪拌羽、および冷却管を取り付けた0.5L容の4つ口フラスコに、ペンタエリスリトール18g(0.13mol)、およびラウリン酸104g(0.52mol)を加え、窒素気流下、生成水を留去しながら、220℃で10時間反応を行なった。トルエン46.5gおよび2-プロパノール32g、酸価の2.0倍当量の水酸化カリウムを含む10%水酸化カリウム水溶液19gを加え、70℃で30分間攪拌し、30分間静置後、水層部を除去して、粗生成物を得た。
粗生成物100質量部に対して40質量部のイオン交換水を用い、70℃で水洗を4回行い、pHを7とした。得られた精製物から加熱および減圧条件下で溶媒を留去し、ろ過、固化、および粉砕を経て、エステルワックス1としてのペンタエリスリトールテトララウレート(融点:44℃)を140g得た。
<飽和脂肪酸亜鉛塩の調製>
攪拌羽を取り付けた3L容のセパラブルフラスコに、1価の直鎖飽和脂肪酸としてのベヘニン酸306g(0.90mol)、および水2500gを加え、90℃まで昇温した。次いで、48%水酸化ナトリウム水溶液75g(0.90mol)を加え、90℃にて1時間攪拌した。その後、25%硫酸亜鉛水溶液291g(0.45mol)を1時間かけて滴下した。滴下終了後、さらに1時間攪拌した。
得られたスラリーに水1500gを加え、65℃まで冷却した。その後、吸引ろ過し、1000gの水で2回水洗し、送風乾燥機を用いて65℃にて48時間乾燥して、飽和脂肪酸亜鉛塩としてのベヘニン酸亜鉛を得た。
<ワックス組成物1の調製>
攪拌羽、窒素導入管を取り付けた0.3L容のセパラブルフラスコに、エステルワックス1を199.0g、ベヘニン酸亜鉛を1.0g加え、窒素気流下、150℃で1時間攪拌した。その後、冷却、固化、粉砕を経て、ワックス組成物1を得た。
【0088】
(製造例2:ワックス組成物2の作製)
エステルワックスの調製時に、ラウリン酸に代えてベヘニン酸を用いた以外は、製造例1と同様にして、エステルワックス2としてのペンタエリスリトールテトラベヘネート(融点:81℃)とベヘニン酸亜鉛とを含むワックス組成物2を得た。
【0089】
(実施例1)
<結着材の作製>
攪拌機を備えた反応器に、イオン交換水70部、乳化剤としてポリオキシエチレンラウリルエーテル(花王ケミカル社製、「エマルゲン(登録商標)120」)0.15部、および過流酸アンモニウム0.5部を、それぞれ供給し、気相部を窒素ガスで置換し、60℃に昇温した。
一方、別の容器でイオン交換水50部、乳化剤としてポリオキシエチレンラウリルエーテル(花王ケミカル社製、「エマルゲン(登録商標)120」)0.5部、そして、(メタ)アクリル酸エステル単量体としての2-エチルヘキシルアクリレート(2-EHA)70部、芳香族ビニル単量体としてスチレン(ST)25部、架橋性単量体としてのアリルグリシジルエーテル(AGE:親水性架橋剤)1.7部、架橋性単量体としてのアリルメタクリレート(AMA:疎水性架橋剤)0.3部、および酸性基含有単量体としてのアクリル酸(AA)3部を混合して単量体組成物を得た。この単量体組成物を4時間かけて前記反応器に連続的に添加して重合を行った。添加中は、70℃で反応を行った。添加終了後、さらに80℃で3時間攪拌して反応を終了し、結着材として、粒子状のアクリル系重合体を含む水分散液を製造した。
得られた結着材のガラス転移温度を測定したところ、観測されるガラス転移温度は一点のみ(-20℃)であり、結着材を構成する粒子状のアクリル系重合体がランダム共重合体であることを確認した。また、得られた結着材の体積平均粒子径D50は0.2μmであった。
<有機粒子Aの作製>
芳香族ビニル単量体としてのスチレン64部、(メタ)アクリル酸エステル単量体としての2-エチルヘキシルアクリレート33部、および酸基含有単量体としてのメタクリル酸3部を混合した。さらに、製造例1で得られたワックス組成物1を10部(エステルワックス1相当量で9.95部)混合して、溶解させて、混合物を得た。
攪拌機を備えた反応器に、イオン交換水400部、および分散安定剤としてのドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム0.5部を供給後、攪拌しながら上記混合物を投入した後、重合開始剤としてのt-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート(日油社製、商品名:パーブチルO)を2部投入後、インライン型乳化分散機(太平洋機工社製、商品名:マイルダー)を用いて、15000rpmの回転数にて、10分間高せん断攪拌し、液滴形成を行なった。
そして、得られた液滴の分散液を反応器に入れ、90℃に昇温して5時間重合反応を行ない、有機粒子Aを取得した。
得られた有機粒子Aについて、ガラス転移温度および体積平均粒子径D50の測定を行なった。結果を表1に示す。
<機能層用組成物の調製>
上記で得られた有機粒子A110部に対して、結着材を11部混合し、得られた混合物をイオン交換水で希釈して、スラリー状の機能層用組成物(固形分濃度:10%)を得た。得られた機能層用組成物を用いて、有機粒子Aの粒子安定性の評価を行なった。結果を表1に示す。
<セパレータの作製>
ポリエチレン製の微多孔膜(厚み:12μm、ガーレー値:100s/100cc)をセパレータ基材として用意した。用意したセパレータ基材の片面に、上述で得られた機能層用組成物をバーコーター法により、乾燥後の目付量が0.5g/m2となるように塗布した。次に、機能層用組成物が塗布されたセパレータを、50℃で1分間乾燥させることにより、片面に機能層を備えるセパレータを得た。
得られたセパレータを用いて、耐ブロッキング性およびシャットダウン性の評価を行なった。結果を表1に示す。
【0090】
(実施例2~4)
有機粒子A作製時におけるワックス組成物1の添加量を10部(エステルワックス1相当量で9.95部)から、5部(エステルワックス1相当量で4.975部)、15部(エステルワックス1相当量で14.925部)、20部(エステルワックス1相当量で19.9部)にそれぞれ変更したこと以外は、実施例1と同様にして、各種操作、測定、および評価を行なった。結果を表1に示す。
【0091】
(実施例5)
以下のようにして作製した有機粒子Aを用いたこと以外は、実施例1と同様にして、各種操作、測定、および評価を行なった。結果を表1に示す。
<有機粒子Aの作製>
芳香族ビニル単量体としてスチレン57.6部、(メタ)アクリル酸エステル単量体としての2-エチルヘキシルアクリレート29.7部、酸基含有単量体としてのメタクリル酸2.7部を混合した。さらに、ワックス組成物1を20部(エステルワックス1相当量で19.9部)混合し、溶解させて、混合物を得た。
攪拌機を備えた反応器に、イオン交換水400部、および分散安定剤としてのドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム0.5部を供給後、攪拌しながら上記混合物を投入した後、重合開始剤としてのt-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート(日油社製、商品名:パーブチルO)を2部投入後、インライン型乳化分散機(太平洋機工社製、商品名:マイルダー)を用いて、15000rpmの回転数にて、10分間高せん断攪拌し、液滴形成を行なった。
そして、得られた液滴の分散液を反応器に入れ、90℃に昇温して反応転化率が99%に達した時点で、(メタ)アクリル酸エステル単量体としてのメチルメタクリレート9.9部、および酸基含有単量体としてのメタクリル酸0.1部を含むシェル部形成用単量体、並びにイオン交換水10部に溶解したシェル部形成用重合開始剤である2,2’-アゾビス(2-メチル-N-(2-ヒドロキシエチル)-プロピオンアミド)(和光純薬社製、商品名:VA-086、水溶性)0.1部を添加し、90℃で4時間反応を継続して、有機粒子Aを得た。なお、得られた有機粒子Aは、コア部と、コア部の外表面の一部を覆う重合体Yからなるシェル部とを備えるコアシェル構造を有していた。
【0092】
(実施例6、7)
有機粒子A作製時に、ワックス組成物1に代えて、ステアリン酸べへニル(融点:70℃)、および製造例2で得られたワックス組成物2をそれぞれ使用したこと以外は、実施例1と同様にして、各種操作、測定、および評価を行なった。結果を表1に示す。
【0093】
(実施例8~12)
有機粒子A作製時に使用した単量体の組成を表1に示す通りに変更したこと以外は、実施例1と同様にして、各種操作、測定、および評価を行なった。結果を表1に示す
【0094】
(実施例13)
有機粒子A作製時に、ワックス組成物1を10部混合することに代えて、融点が68℃であるパラフィンワックス(日本精蝋社製、商品名:HNP-11)を5部混合したこと以外は、実施例1と同様にして、各種操作、測定、および評価を行なった。結果を表1に示す。
【0095】
(比較例1)
有機粒子A作製時に、ワックス組成物1を添加しなかったこと以外は、実施例1と同様にして、各種操作、測定、および評価を行なった。結果を表1に示す。
【0096】
(比較例2)
比較例1の機能層用組成物の調製時において、得られた有機粒子A100部に対して、結着材を10部混合する際に、ワックス組成物1を10部別途添加したこと以外は、実施例1と同様にして、各種操作、測定、および評価を行なった。結果を表1に示す。
【0097】
(比較例3)
以下のようにして作製した有機粒子Aを用いたこと以外は、実施例1と同様にして、各種操作、測定、および評価を行なった。結果を表1に示す。
<有機粒子Aの作製>
重合缶Aにイオン交換水100部、およびワックスとしてのポリエチレンワックス(融点95℃、数平均分子量7,300)の30%水性エマルションを固形分相当で100部加え、更に重合開始剤として過硫酸アンモニウム0.2部、およびイオン交換水10部を加え、70℃に加温した。また、別の重合缶Bに、イオン交換水30部、(メタ)アクリル酸エステル単量体としての2-エチルヘキシルアクリレート17部、芳香族ビニル単量体としてのスチレン31部、および酸基含有単量体としてのメタクリル酸2部を加え、さらに、分散安定剤としてのポリオキシアルキレンアルケニルエーテル硫酸アンモニウムの20%水溶液を固形分相当で2部加えて、十分に攪拌した後、重合缶Aに120分かけて連続的に添加した。更に、70℃に維持しながら重合転化率が98%に達するまで重合反応を継続した。冷却して反応を停止し、有機粒子Aの水分散液を得た。得られた有機粒子Aでは、ワックスからなる粒子の外側に重合体が実質部分的に配置されていた。
【0098】
なお、表中、
「ST」はスチレンを、
「2-EHA」は2-エチルヘキシルアクリレートを、
「BA」はブチルアクリレートを、
「MMA」はメチルメタクリレートを、
「AN」はアクリロニトリルを、
「MAA」はメタクリル酸を示す。
【0099】
【表1】
【0100】
表1より、芳香族ビニル単量体単位を所定以上の割合で含む重合体、および融点が所定値未満であるワックスを含有する有機粒子を含む機能層用組成物を用いた実施例1~13では、セパレータに優れたシャットダウン機能を発揮させ得る機能層を形成できることがわかる。
一方、融点が所定値未満であるワックスを含有しない有機粒子を使用した比較例1の機能層用組成物を用いた場合、得られる機能層を備えるセパレータは、シャットダウン機能に劣ることがわかる。
そして、比較例2から、上述した比較例1の機能層用組成物に、融点が所定値未満であるワックスを別途添加したとしても、セパレータに優れたシャットダウン機能を発揮させ得る機能層を形成できないことがわかる。
さらに、融点が所定値以上であるワックスを使用した比較例3の機能層用組成物も、セパレータに優れたシャットダウン機能を発揮させ得る機能層を形成できないことがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0101】
本発明によれば、セパレータに優れたシャットダウン機能を発揮させ得る機能層を形成可能な非水系二次電池機能層用組成物を提供することができる。
また、本発明によれば、セパレータに優れたシャットダウン機能を発揮させ得る非水系二次電池用機能層、および当該非水系二次電池用機能層を備える非水系二次電池部材を提供することができる。
さらに、本発明によれば、当該非水系二次電池部材を備える非水系二次電池を提供することができる。