(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-23
(45)【発行日】2023-10-31
(54)【発明の名称】全固体二次電池用スラリー組成物、固体電解質含有層および全固体二次電池
(51)【国際特許分類】
H01M 10/052 20100101AFI20231024BHJP
H01M 4/13 20100101ALI20231024BHJP
H01M 4/139 20100101ALI20231024BHJP
H01M 4/62 20060101ALI20231024BHJP
H01B 1/06 20060101ALI20231024BHJP
【FI】
H01M10/052
H01M4/13
H01M4/139
H01M4/62 Z
H01B1/06 A
(21)【出願番号】P 2020539428
(86)(22)【出願日】2019-08-23
(86)【国際出願番号】 JP2019033144
(87)【国際公開番号】W WO2020045306
(87)【国際公開日】2020-03-05
【審査請求日】2022-07-04
(31)【優先権主張番号】P 2018163661
(32)【優先日】2018-08-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000229117
【氏名又は名称】日本ゼオン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100150360
【氏名又は名称】寺嶋 勇太
(72)【発明者】
【氏名】松村 卓
【審査官】井上 能宏
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-135094(JP,A)
【文献】特開2013-058376(JP,A)
【文献】特開2012-178256(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M、H01B
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
無機固体電解質と、バインダーと、塩基性官能基含有化合物と、溶媒とを含み、
前記塩基性官能基含有化合物は、分子量が1000以下の化合物であり、
前記塩基性官能基含有化合物の含有量が、前記無機固体電解質100質量部当たり、0.005質量部以上
2質量部以下である、全固体二次電池用スラリー組成物。
【請求項2】
前記塩基性官能基含有化合物の塩基性官能基が、不対電子を有する窒素原子を含む、請求項1に記載の全固体二次電池用スラリー組成物。
【請求項3】
前記塩基性官能基含有化合物が、炭素数3以上の炭化水素基を有する、請求項1または2に記載の全固体二次電池用スラリー組成物。
【請求項4】
前記塩基性官能基含有化合物が、アミン類およびニトリル類からなる群より選択される少なくとも一種の化合物を含む、請求項1~3の何れかに記載の全固体二次電池用スラリー組成物。
【請求項5】
前記塩基性官能基含有化合物が非環式化合物である、請求項1~4の何れかに記載の全固体二次電池用スラリー組成物。
【請求項6】
前記塩基性官能基含有化合物が1級アミンまたは2級アミンである、請求項1~5の何れかに記載の全固体二次電池用スラリー組成物。
【請求項7】
前記溶媒が、ヘキサン、ジイソブチルケトン、酪酸ブチルおよびキシレンからなる群より選択される少なくとも一種である、請求項1~6の何れかに記載の全固体二次電池用スラリー組成物。
【請求項8】
前記無機固体電解質が硫化物系無機固体電解質を含む、請求項1~7の何れかに記載の全固体二次電池用スラリー組成物。
【請求項9】
電極活物質を更に含む、請求項1~8の何れかに記載の全固体二次電池用スラリー組成物。
【請求項10】
導電材を更に含む、請求項9に記載の全固体二次電池用スラリー組成物。
【請求項11】
請求項1~10の何れかに記載の全固体二次電池用スラリー組成物を用いて形成した、固体電解質含有層。
【請求項12】
請求項11に記載の固体電解質含有層を備える、全固体二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、全固体二次電池用スラリー組成物、固体電解質含有層および全固体二次電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、リチウムイオン二次電池等の二次電池は、携帯情報端末や携帯電子機器などの携帯端末に加えて、家庭用小型電力貯蔵装置、自動二輪車、電気自動車、ハイブリッド電気自動車など、様々な用途での需要が増加している。そして、用途の広がりに伴い、二次電池には安全性の更なる向上が要求されている。
【0003】
そこで、安全性の高い二次電池として、引火性が高くて漏洩時の発火危険性が高い有機溶媒電解質に替えて無機固体電解質を用いた全固体二次電池が注目されている。
【0004】
ここで、全固体二次電池は、正極、負極、および、正極と負極との間に位置する固体電解質層を有している。そして、全固体二次電池の電極(正極、負極)は、例えば、電極活物質(正極活物質、負極活物質)と、バインダーと、無機固体電解質とを含むスラリー組成物を集電体上に塗布し、塗布したスラリー組成物を乾燥させて集電体上に電極合材層(正極合材層、負極合材層)を設けることにより形成されている。また、全固体二次電池の固体電解質層は、例えば、バインダーと、無機固体電解質とを含むスラリー組成物を電極または離型基材の上に塗布し、塗布したスラリー組成物を乾燥させることにより形成されている。
【0005】
そして、例えば特許文献1には、実用性のある全固体二次電池用スラリー組成物として、主溶媒としてのヘプタンおよび副溶媒としてのトリブチルアミンと、バインダーとしての水添ブタジエンゴムと、電極活物質と、硫化物固体電解質とを含む電極合材層形成用スラリーが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、上記従来の全固体二次電池用スラリー組成物には、流動性を高めて塗工時のレベリング性を向上させると共に、スラリー組成物を用いて形成した固体電解質層や電極合材層等の固体電解質を含有する層(以下、「固体電解質含有層」と称する。)のイオン伝導性を高めるという点において改善の余地があった。
【0008】
そこで、本発明は、流動性が高くて塗工時のレベリング性に優れており、且つ、イオン伝導性に優れる固体電解質含有層を形成可能な全固体二次電池用スラリー組成物を提供することを目的とする。
また、本発明は、イオン伝導性に優れる固体電解質含有層およびイオン伝導性に優れる固体電解質含有層を備える全固体二次電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記課題を解決することを目的として鋭意検討を行った。そして、本発明者は、無機固体電解質と、バインダーと、所定量の塩基性官能基含有化合物と、溶媒とを含むスラリー組成物が、流動性が高くて塗工時のレベリング性に優れていると共に、イオン伝導性に優れる固体電解質含有層を形成可能であることを新たに見出し、本発明を完成させた。
【0010】
即ち、この発明は、上記課題を有利に解決することを目的とするものであり、本発明の全固体二次電池用スラリー組成物は、無機固体電解質と、バインダーと、塩基性官能基含有化合物と、溶媒とを含み、前記塩基性官能基含有化合物の含有量が、前記無機固体電解質100質量部当たり、0.005質量部以上5質量部以下であることを特徴とする。このように、塩基性官能基含有化合物を上述した割合で含有させれば、スラリー組成物の流動性を高めて塗工時のレベリング性を向上させることができると共に、スラリー組成物を用いて形成される固体電解質含有層に良好なイオン伝導性を発揮させることができる。
【0011】
ここで、本発明の全固体二次電池用スラリー組成物は、前記塩基性官能基含有化合物の塩基性官能基が、不対電子を有する窒素原子を含むことが好ましい。塩基性官能基含有化合物の塩基性官能基が不対電子を有する窒素原子を含んでいれば、スラリー組成物の塗工時のレベリング性と、固体電解質含有層のイオン伝導性とを高いレベルで両立させることができる。
【0012】
また、本発明の全固体二次電池用スラリー組成物は、前記塩基性官能基含有化合物が、炭素数3以上の炭化水素基を有することが好ましい。炭素数3以上の炭化水素基を有する塩基性官能基含有化合物を使用すれば、スラリー組成物の塗工時のレベリング性と、固体電解質含有層のイオン伝導性とを高いレベルで両立させることができる。
【0013】
更に、本発明の全固体二次電池用スラリー組成物は、前記塩基性官能基含有化合物が、アミン類およびニトリル類からなる群より選択される少なくとも一種の化合物を含むことが好ましい。アミン類および/またはニトリル類を使用すれば、スラリー組成物の塗工時のレベリング性と、固体電解質含有層のイオン伝導性とを高いレベルで両立させることができる。
【0014】
また、本発明の全固体二次電池用スラリー組成物は、前記塩基性官能基含有化合物が非環式化合物であることが好ましい。塩基性官能基含有化合物が非環式化合物であれば、スラリー組成物の流動性を更に高め、塗工時のレベリング性を更に向上させることができる。
【0015】
更に、本発明の全固体二次電池用スラリー組成物は、前記塩基性官能基含有化合物が1級アミンまたは2級アミンであることが好ましい。塩基性官能基含有化合物が1級アミンまたは2級アミンであれば、スラリー組成物の流動性を更に高め、塗工時のレベリング性を更に向上させることができる。
【0016】
また、本発明の全固体二次電池用スラリー組成物は、前記溶媒が、ヘキサン、ジイソブチルケトン、酪酸ブチルおよびキシレンからなる群より選択される少なくとも一種であることが好ましい。溶媒がヘキサン、ジイソブチルケトン、酪酸ブチルおよびキシレンからなる群より選択される一種または二種以上の混合物であれば、スラリー組成物を用いて形成される固体電解質含有層のイオン伝導性を更に高めることができる。
【0017】
更に、本発明の全固体二次電池用スラリー組成物は、前記無機固体電解質が硫化物系無機固体電解質を含むことが好ましい。硫化物系無機固体電解質を含む無機固体電解質を使用すれば、イオン伝導性に更に優れる固体電解質含有層を形成することができる。
【0018】
また、本発明の全固体二次電池用スラリー組成物は、電極活物質を更に含むことが好ましい。電極活物質を含有する全固体二次電池用スラリー組成物を使用すれば、電極合材層を良好に形成することができる。
【0019】
そして、本発明の全固体二次電池用スラリー組成物は、導電材を更に含むことが好ましい。電極活物質を含有する全固体二次電池用スラリー組成物に導電材を更に含有させれば、スラリー組成物を用いて形成される電極合材層の電気抵抗を良好に低減することができる。
【0020】
また、この発明は、上記課題を有利に解決することを目的とするものであり、本発明の固体電解質含有層は、上述した全固体二次電池用スラリー組成物の何れかを用いて形成したものであることを特徴とする。上述した全固体二次電池用スラリー組成物を用いて形成した固体電解質含有層は、優れたイオン伝導性を発揮し得る。
【0021】
更に、この発明は、上記課題を有利に解決することを目的とするものであり、本発明の全固体二次電池は、上述した固体電解質含有層を備えることを特徴とする。上述した固体電解質層を使用すれば、優れた電池性能を発揮し得る全固体二次電池が得られる。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、流動性が高くて塗工時のレベリング性に優れており、且つ、イオン伝導性に優れる固体電解質含有層を形成可能な全固体二次電池用スラリー組成物を提供することができる。
また、本発明によれば、イオン伝導性に優れる固体電解質含有層およびイオン伝導性に優れる固体電解質含有層を備える全固体二次電池が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
ここで、本発明の全固体二次電池用スラリー組成物は、全固体リチウムイオン二次電池等の全固体二次電池において用いられる電極合材層や固体電解質層などの固体電解質含有層を形成する際に用いられる。そして、本発明の全固体二次電池は、正極の正極合材層、負極の負極合材層および固体電解質層からなる群より選択される少なくとも一層が本発明の全固体二次電池用スラリー組成物を用いて形成された本発明の固体電解質含有層よりなる。
【0024】
(全固体二次電池用スラリー組成物)
本発明の全固体二次電池用スラリー組成物は、無機固体電解質と、バインダーと、塩基性官能基含有化合物と、溶媒とを含み、任意に、電極活物質、導電材およびその他の成分からなる群より選択される少なくとも一種を更に含有し得る。また、本発明の全固体二次電池用スラリー組成物は、塩基性官能基含有化合物の含有量が、無機固体電解質100質量部当たり、0.005質量部以上5質量部以下であることを必要とする。
【0025】
そして、本発明の全固体二次電池用スラリー組成物は、無機固体電解質と、バインダーとを含んでいるので、電極合材層や固体電解質層などの固体電解質含有層の形成に用いることができる。また、本発明の全固体二次電池用スラリー組成物は、塩基性官能基含有化合物の含有量が上記下限値以上であるので、スラリー組成物の流動性を高めて塗工時のレベリング性を向上させることができる。更に、本発明の全固体二次電池用スラリー組成物は、塩基性官能基含有化合物の含有量が上記上限値以下であるので、スラリー組成物を用いて形成される固体電解質含有層に良好なイオン伝導性を発揮させることができる。
なお、塩基性官能基含有化合物を上記下限値以上の割合で含有させることでスラリー組成物の塗工時のレベリング性を向上させることができる理由は、明らかではないが、塩基性官能基含有化合物が無機固体電解質の表面に吸着して無機固体電解質の分散性を高めるためであると推察される。また、塩基性官能基含有化合物を上記上限値以下の割合で含有させることで固体電解質含有層に良好なイオン伝導性を発揮させることができる理由は、明らかではないが、過剰な塩基性官能基含有化合物によって無機固体電解質等の固体電解質含有層に含まれている成分が劣化するのを防止することができるためであると推察される。
【0026】
なお、本発明の全固体二次電池用スラリー組成物は、電極合材層の形成に用いられる場合(即ち、全固体二次電池電極用スラリー組成物である場合)には、通常、無機固体電解質と、バインダーと、塩基性官能基含有化合物と、溶媒と、電極活物質とを含み、任意に、導電材およびその他の成分からなる群より選択される少なくとも一種を更に含有する。
また、本発明の全固体二次電池用スラリー組成物は、固体電解質層の形成に用いられる場合(即ち、全固体二次電池電解質層用スラリー組成物である場合)には、通常、電極活物質および導電材を含有せず、無機固体電解質と、バインダーと、塩基性官能基含有化合物と、溶媒とを含み、任意に、その他の成分を更に含有する。
【0027】
<無機固体電解質>
無機固体電解質としては、特に限定されることなく、結晶性の無機イオン伝導体、非晶性の無機イオン伝導体またはそれらの混合物を用いることができる。そして、例えば全固体二次電池が全固体リチウムイオン二次電池の場合には、無機固体電解質としては、通常は、結晶性の無機リチウムイオン伝導体、非晶性の無機リチウムイオン伝導体またはそれらの混合物を用いることができる。中でも、イオン伝導性に優れる固体電解質含有層を形成する観点からは、無機固体電解質は、硫化物系無機固体電解質を含むことが好ましい。
なお、以下では、一例として全固体二次電池用スラリー組成物が全固体リチウムイオン二次電池用スラリー組成物である場合について説明するが、本発明は下記の一例に限定されるものではない。
【0028】
そして、結晶性の無機リチウムイオン伝導体としては、Li3N、LISICON(Li14Zn(GeO4)4)、ペロブスカイト型Li0.5La0.5TiO3、ガーネット型Li7La3Zr2O10、LIPON(Li3+yPO4-xNx)、Thio-LISICON(Li3.25Ge0.25P0.75S4)などが挙げられる。
上述した結晶性の無機リチウムイオン伝導体は、単独で、或いは、2種以上を混合して用いることができる。
【0029】
また、非晶性の無機リチウムイオン伝導体としては、硫黄原子を含有し、かつ、イオン伝導性を有するものであれば特に限定されず、ガラスLi-Si-S-O、Li-P-S、および、Li2Sと周期表第13族~第15族の元素の硫化物とを含有する原料組成物を用いてなるもの、などが挙げられる。
ここで、上記第13族~第15族の元素としては、例えばAl、Si、Ge、P、As、Sb等を挙げることができる。また、第13族~第15族の元素の硫化物としては、具体的には、Al2S3、SiS2、GeS2、P2S3、P2S5、As2S3、Sb2S3等を挙げることができる。更に、原料組成物を用いて非晶性の無機リチウムイオン伝導体を合成する方法としては、例えば、メカニカルミリング法や溶融急冷法などの非晶質化法を挙げることができる。そして、Li2Sと周期表第13族~第15族の元素の硫化物とを含有する原料組成物を用いてなる非晶性の無機リチウムイオン伝導体としては、Li2S-P2S5、Li2S-SiS2、Li2S-GeS2またはLi2S-Al2S3が好ましく、Li2S-P2S5がより好ましい。
上述した非晶性の無機リチウムイオン伝導体は、単独で、或いは、2種以上を混合して用いることができる。
【0030】
上述した中でも、全固体リチウムイオン二次電池用の無機固体電解質としては、イオン伝導性に優れる固体電解質含有層を形成する観点から、非晶性の無機リチウムイオン伝導体が好ましく、LiおよびPを含む非晶性の硫化物がより好ましい。LiおよびPを含む非晶性の硫化物は、リチウムイオン伝導性が高いため、無機固体電解質として用いることで電池の内部抵抗を低下させることができると共に、出力特性を向上させることができる。
【0031】
なお、LiおよびPを含む非晶性の硫化物は、電池の内部抵抗低下および出力特性向上という観点から、Li2SとP2S5とからなる硫化物ガラスであることがより好ましく、Li2S:P2S5のモル比が65:35~85:15であるLi2SとP2S5との混合原料から製造された硫化物ガラスであることが特に好ましい。また、LiおよびPを含む非晶性の硫化物は、Li2S:P2S5のモル比が65:35~85:15のLi2SとP2S5との混合原料をメカノケミカル法によって反応させて得られる硫化物ガラスセラミックスであることが好ましい。なお、リチウムイオン伝導度を高い状態で維持する観点からは、混合原料は、Li2S:P2S5のモル比が68:32~80:20であることが好ましい。
【0032】
なお、無機固体電解質は、イオン伝導性を低下させない程度において、上記Li2S、P2S5の他に出発原料としてAl2S3、B2S3およびSiS2からなる群より選ばれる少なくとも1種の硫化物を含んでいてもよい。かかる硫化物を加えると、無機固体電解質中のガラス成分を安定化させることができる。
同様に、無機固体電解質は、Li2SおよびP2S5に加え、Li3PO4、Li4SiO4、Li4GeO4、Li3BO3およびLi3AlO3からなる群より選ばれる少なくとも1種のオルトオキソ酸リチウムを含んでいてもよい。かかるオルトオキソ酸リチウムを含ませると、無機固体電解質中のガラス成分を安定化させることができる。
【0033】
<バインダー>
バインダーとしては、特に限定されることなく、例えば、アクリル系重合体、フッ素系重合体、ジエン系重合体、ニトリル系重合体等の高分子化合物を用いることができる。これらの高分子化合物は、一種単独で、或いは、複数種併せて用いることができる。
なお、スラリー組成物中において、バインダーは、溶媒中に溶解していてもよいし、溶媒には溶解せずに例えば粒子状などの形状で分散していてもよい。
【0034】
ここで、フッ素系重合体、ジエン系重合体およびニトリル系重合体としては、例えば、特開2012-243476号公報に記載されているフッ素系重合体、ジエン系重合体およびニトリル系重合体などを用いることができる。
また、アクリル系重合体としては、例えば、国際公開第2016/152262号に記載されているアクリレート系ポリマーなどを用いることができる。
【0035】
そして、バインダーとしては、上述したアクリル系重合体が好ましい。アクリル系重合体は、アクリレートまたはメタクリレート(以降、「(メタ)アクリレート」と略記することがある)およびこれらの誘導体を重合して得られる繰り返し単位(重合単位)を含むポリマーであり、具体的には、(メタ)アクリレートのホモポリマー、(メタ)アクリレートのコポリマー、並びに、(メタ)アクリレートと該(メタ)アクリレートと共重合可能な他の単量体とのコポリマーが挙げられる。
【0036】
ここで、上記(メタ)アクリレートとしては、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n-プロピル、アクリル酸イソプロピル、アクリル酸n-ブチル、アクリル酸t-ブチル、アクリル酸-2-エチルヘキシルなどのアクリル酸アルキルエステル;アクリル酸-2-メトキシエチル、アクリル酸-2-エトキシエチルなどのアクリル酸アルコキシアルキルエステル;アクリル酸2-(パーフルオロブチル)エチル、アクリル酸2-(パーフルオロペンチル)エチルなどのアクリル酸2-(パーフルオロアルキル)エチル;メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸n-プロピル、メタクリル酸イソプロピル、メタクリル酸n-ブチル、メタクリル酸t-ブチル、メタクリル酸-2-エチルヘキシル、メタクリル酸ラウリル、メタクリル酸トリデシル、メタクリル酸ステアリルなどのメタクリル酸アルキルエステル;メタクリル酸2-(パーフルオロブチル)エチル、メタクリル酸2-(パーフルオロペンチル)エチルなどのメタクリル酸2-(パーフルオロアルキル)エチル;が挙げられる。これらの中でも、無機固体電解質との密着性の高さからアクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n-プロピル、アクリル酸イソプロピル、アクリル酸n-ブチル、アクリル酸t-ブチル、アクリル酸-2-エチルヘキシルなどのアクリル酸アルキルエステル;アクリル酸-2-メトキシエチル、アクリル酸-2-エトキシエチルなどのアクリル酸アルコキシアルキルエステルが好ましい。
【0037】
そして、アクリル系重合体における(メタ)アクリレートから導かれる重合単位の含有割合は、通常40質量%以上、好ましくは50質量%以上、より好ましくは60質量%以上である。なお、アクリル系重合体における(メタ)アクリレートから導かれる重合単位の含有割合の上限は、通常100質量%以下、好ましくは95質量%以下である。
【0038】
また、前記(メタ)アクリレートと共重合可能なモノマーとしては、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、フマル酸などの不飽和カルボン酸類;エチレングリコールジメタクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレートなどの2つ以上の炭素-炭素二重結合を有するカルボン酸エステル類;スチレン、ビニルトルエン、t-ブチルスチレン、ビニル安息香酸、ビニル安息香酸メチル、ビニルナフタレン、ヒドロキシメチルスチレン、α-メチルスチレン、ジビニルベンゼン等のスチレン系単量体;アクリルアミド、メタクリルアミド、N-メチロールアクリルアミド、アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸などのアミド系単量体;アクリロニトリル、メタクリロニトリルなどのα,β-不飽和ニトリル化合物;エチレン、プロピレン等のオレフィン類;ブタジエン、イソプレン等のジエン系単量体;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、安息香酸ビニル等のビニルエステル類;メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、ブチルビニルエーテル等のビニルエーテル類;メチルビニルケトン、エチルビニルケトン、ブチルビニルケトン、ヘキシルビニルケトン、イソプロペニルビニルケトン等のビニルケトン類;N-ビニルピロリドン、ビニルピリジン、ビニルイミダゾール等の複素環含有ビニル化合物が挙げられる。その中でも、スチレン系単量体、アミド系単量体、α,β-不飽和ニトリル化合物が好ましい。アクリル系重合体における、前記共重合可能なモノマーから導かれる重合単位の含有割合は、通常40質量%以下、好ましくは30質量%以下、より好ましくは20質量%以下である。
【0039】
なお、全固体二次電池用スラリー組成物に含まれるバインダーの量は、特に限定されることなく、無機固体電解質100質量部当たり、0.05質量部以上であることが好ましく、0.1質量部以上であることがより好ましく、0.2質量部以上であることが更に好ましく、5質量部以下であることが好ましく、3質量部以下であることがより好ましく、2質量部以下であることが更に好ましい。バインダーの量が上記下限値以上であれば、固体電解質含有層を良好に形成することができる。また、バインダーの量が上記上限値以下であれば、固体電解質含有層のイオン伝導性が低下するのを抑制することができる。
【0040】
<塩基性官能基含有化合物>
塩基性官能基含有化合物としては、塩基性官能基を有する任意の化合物を用いることができる。中でも、塩基性官能基含有化合物は、塩基性官能基を有する低分子化合物であることが好ましく、塩基性官能基を有する、分子量が5000以下の化合物であることがより好ましく、塩基性官能基を有する、分子量が1000以下の化合物であることが更に好ましい。
なお、塩基性官能基含有化合物は、スラリー組成物中において、溶媒中に溶解していることが好ましい。
そして、塩基性官能基含有化合物は、単独で、或いは、2種以上を混合して用いることができる。
【0041】
[塩基性官能基]
ここで、塩基性官能基含有化合物が有する塩基性官能基としては、例えば、-NH2、-NHR1、-NR1R2(式中、R1およびR2は、それぞれ独立して、任意の置換基を表し、アルキル基であることが好ましく、炭素数1~6のアルキル基であることがより好ましい。)等の置換されていてもよいアミノ基;イミノ基(=NH);オキサゾリン基;ニトリル基;などの窒素含有塩基性官能基が挙げられる。中でも、スラリー組成物の塗工時のレベリング性と、固体電解質含有層のイオン伝導性とを高いレベルで両立させる観点からは、塩基性官能基としては、不対電子を有する窒素原子を含有する塩基性官能基が好ましく、置換されていてもよいアミノ基およびニトリル基がより好ましく、非置換のアミノ基(-NH2)が更に好ましい。
【0042】
[構造]
また、塩基性官能基含有化合物は、上述した塩基性官能基を有していれば、環式化合物であってもよいし、非環式化合物であってもよいが、スラリー組成物の流動性を更に高め、塗工時のレベリング性を更に向上させる観点からは、非環式化合物であることが好ましい。
【0043】
そして、塩基性官能基含有化合物としては、特に限定されることなく、例えば、メチルアミン、エチルアミン、n-プロピルアミン、イソプロピルアミン、ジメチルアミン、ジエチルアミン、メチルエチルアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、イミダゾール、4-メチルイミダゾール等のアミン類;メタンイミン、エタンイミン等のイミン類;2-エチル-2-オキサゾリン等のオキサゾリン類;および、アセトニトリル、プロピオニトリル、イソブチロニトリル等のニトリル類;などが挙げられ、イソプロピルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、イソブチロニトリル、4-メチルイミダゾールが好ましく、イソプロピルアミン、ジメチルアミン、イソブチロニトリルがより好ましく、イソプロピルアミンが更に好ましい。
【0044】
上述した中でも、塩基性官能基含有化合物は、アミン類およびニトリル類からなる群より選択される少なくとも一種の化合物を含むことが好ましく、1級アミンおよび/または2級アミンであることがより好ましく、1級アミンであることが更に好ましい。塩基性官能基含有化合物が上述した化合物を含んでいれば、スラリー組成物の塗工時のレベリング性と、固体電解質含有層のイオン伝導性とを高いレベルで両立させることができる。
【0045】
また、スラリー組成物の塗工時のレベリング性と、固体電解質含有層のイオン伝導性とを高いレベルで両立させる観点からは、塩基性官能基含有化合物としては、炭化水素基を有する化合物が好ましく、炭素数3以上の炭化水素基を有する化合物がより好ましい。
なお、炭化水素基は、アルキル基であることが好ましい。また、炭化水素基は、塩基性官能基と結合していることが好ましい(換言すれば、塩基性官能基含有化合物は、炭化水素化合物が有する水素の少なくとも一つを塩基性官能基で置換した化合物であることが好ましい)。
【0046】
そして、炭化水素基を有する塩基性官能基含有化合物は、アルキルアミンおよび/またはアルキルニトリルであることが好ましく、アルキルアミンであることがより好ましく、1級アルキルアミンおよび/または2級アルキルアミンであることが更に好ましく、1級アルキルアミンであることが特に好ましい。
【0047】
[含有量]
なお、スラリー組成物中における塩基性官能基含有化合物の含有量は、無機固体電解質100質量部当たり、0.005質量部以上5質量部以下であることを必要とし、0.05質量部以上であることが好ましく、0.1質量部以上であることがより好ましく、2質量部以下であることが好ましく、1質量部以下であることがより好ましい。塩基性官能基含有化合物の含有量が上記下限値以上であれば、無機固体電解質の分散性を高め、スラリー組成物の塗工時のレベリング性を向上させることができる。また、塩基性官能基含有化合物の含有量が上記上限値以下であれば、固体電解質含有層に含まれている成分が劣化するのを抑制し、固体電解質含有層に良好なイオン伝導性を発揮させることができる。
【0048】
<溶媒>
溶媒としては、特に限定されることなく、例えば、ヘキサンなどの鎖状脂肪族炭化水素類;シクロペンタン、シクロヘキサンなどの環状脂肪族炭化水素類;トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素類;エチルメチルケトン、ジイソブチルケトン、シクロヘキサノンなどのケトン類;酢酸エチル、酢酸ブチル、酪酸ブチル、γ-ブチロラクトン、ε-カプロラクトンなどのエステル類;アセトニトリル、プロピオニトリルなどのアシロニトリル類;テトラヒドロフラン、エチレングリコールジエチルエーテル、n-ブチルエーテルなどのエーテル類:メタノール、エタノール、イソプロパノール、エチレングリコール、エチレングリコールモノメチルエーテルなどのアルコール類;N-メチルピロリドン、N,N-ジメチルホルムアミドなどのアミド類が挙げられる。
中でも、無機固体電解質の劣化を抑制し、イオン伝導性に優れる固体電解質含有層を得る観点からは、溶媒としては、ヘキサン、ジイソブチルケトン、酪酸ブチルまたはキシレンを用いることが好ましい。
上述した溶媒は、単独で、或いは、2種以上を混合して用いることができる。
【0049】
<電極活物質>
ここで、電極活物質は、全固体二次電池の電極において電子の受け渡しをする物質である。そして、例えば全固体二次電池が全固体リチウムイオン二次電池の場合には、電極活物質としては、通常は、リチウムを吸蔵および放出し得る物質を用いる。
なお、以下では、一例として全固体二次電池用スラリー組成物が全固体リチウムイオン二次電池用スラリー組成物である場合について説明するが、本発明は下記の一例に限定されるものではない。
【0050】
そして、全固体リチウムイオン二次電池用の正極活物質としては、特に限定されることなく、無機化合物からなる正極活物質と、有機化合物からなる正極活物質とが挙げられる。なお、正極活物質は、無機化合物と有機化合物との混合物であってもよい。
【0051】
無機化合物からなる正極活物質としては、例えば、遷移金属酸化物、リチウムと遷移金属との複合酸化物(リチウム含有複合金属酸化物)、遷移金属硫化物などが挙げられる。上記の遷移金属としては、Fe、Co、Ni、Mn等が使用される。正極活物質に使用される無機化合物の具体例としては、LiCoO2(コバルト酸リチウム)、LiNiO2、LiMnO2、LiMn2O4、LiFePO4、LiFeVO4等のリチウム含有複合金属酸化物;TiS2、TiS3、非晶質MoS2等の遷移金属硫化物;Cu2V2O3、非晶質V2O-P2O5、MoO3、V2O5、V6O13等の遷移金属酸化物;などが挙げられる。これらの化合物は、部分的に元素置換したものであってもよい。
上述した無機化合物からなる正極活物質は、単独で、或いは、2種以上を混合して用いることができる。
【0052】
有機化合物からなる正極活物質としては、例えば、ポリアニリン、ポリピロール、ポリアセン、ジスルフィド系化合物、ポリスルフィド系化合物、N-フルオロピリジニウム塩などが挙げられる。
上述した有機化合物からなる正極活物質は、単独で、或いは、2種以上を混合して用いることができる。
【0053】
また、全固体リチウムイオン二次電池用の負極活物質としては、グラファイトやコークス等の炭素の同素体が挙げられる。なお、炭素の同素体からなる負極活物質は、金属、金属塩、酸化物などとの混合体や被覆体の形態で利用することもできる。また、負極活物質としては、ケイ素、錫、亜鉛、マンガン、鉄、ニッケル等の酸化物または硫酸塩;金属リチウム;Li-Al、Li-Bi-Cd、Li-Sn-Cd等のリチウム合金;リチウム遷移金属窒化物;シリコーン;なども使用できる。
上述した負極活物質は、単独で、或いは、2種以上を混合して用いることができる。
【0054】
<導電材>
導電材は、全固体二次電池用スラリー組成物(全固体二次電池電極用スラリー組成物)を用いて形成した電極合材層中において電極活物質同士の電気的接触を確保するためのものである。そして、導電材としては、カーボンブラック(例えば、アセチレンブラック、ケッチェンブラック(登録商標)、ファーネスブラックなど)、単層または多層のカーボンナノチューブ(多層カーボンナノチューブにはカップスタック型が含まれる)、カーボンナノホーン、気相成長炭素繊維、ポリマー繊維を焼成後に破砕して得られるミルドカーボン繊維、単層または多層のグラフェン、ポリマー繊維からなる不織布を焼成して得られるカーボン不織布シートなどの導電性炭素材料;各種金属のファイバーまたは箔などを用いることができる。
これらは一種単独で、または、2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0055】
なお、全固体二次電池用スラリー組成物中の導電材の含有割合は、電極活物質100質量部当たり、0.1質量部以上であることが好ましく、0.5質量部以上であることがより好ましく、5質量部以下であることが好ましく、3質量部以下であることがより好ましい。導電材の量が上記範囲内であれば、電極活物質同士の電気的接触を十分に確保して、全固体二次電池に優れた電池特性(出力特性など)を発揮させることができる。
【0056】
<その他の成分>
また、全固体二次電池用スラリー組成物が任意に含有し得るその他の成分としては、分散剤、レベリング剤、消泡剤および補強材などが挙げられる。更に、例えば全固体二次電池が全固体リチウムイオン二次電池の場合には、その他の成分としては、リチウム塩も挙げられる。これらのその他の成分は、電池反応に影響を及ぼさないものであれば、特に制限されない。
【0057】
そして、リチウム塩、分散剤、レベリング剤、消泡剤および補強材などのその他の成分としては、特に限定されることなく、例えば特開2012-243476号公報に記載されているものを用いることができる。また、それらの配合量も、特に限定されることなく、例えば特開2012-243476号公報に記載されている量とすることができる。
【0058】
<スラリー組成物の調製>
そして、上述した全固体二次電池用スラリー組成物は、特に限定されることなく、例えば任意の混合方法を用いて上述した成分を溶媒中で分散または溶解することにより得ることができる。
【0059】
(固体電解質含有層)
本発明の固体電解質含有層は、無機固体電解質を含有する層であり、固体電解質含有層としては、例えば、電気化学反応を介して電子の授受を行う電極合材層(正極合材層、負極合材層)や、互いに対向する正極合材層と負極合材層との間に設けられる固体電解質層等が挙げられる。
そして、本発明の固体電解質含有層は、上述した全固体二次電池用スラリー組成物を用いて形成されたものであり、例えば、上述したスラリー組成物を適切な基材の表面に塗布して塗膜を形成した後、形成した塗膜を乾燥することにより、形成することができる。即ち、本発明の固体電解質含有層は、上述したスラリー組成物の乾燥物よりなり、通常、無機固体電解質と、バインダーと、塩基性官能基含有化合物とを含み、任意に、電極活物質、導電材およびその他の成分からなる群より選択される少なくとも一種を更に含有し得る。なお、固体電解質含有層に含まれている各成分は、上記スラリー組成物中に含まれていたものであり、それらの成分の含有比率は、通常、上記スラリー組成物中における含有比率と等しい。
【0060】
そして、本発明の固体電解質含有層は、本発明の全固体二次電池用スラリー組成物から形成されているので、優れたイオン伝導性を発揮し得る。
【0061】
<基材>
ここで、スラリー組成物を塗布する基材に制限は無く、例えば、離型基材の表面にスラリー組成物の塗膜を形成し、その塗膜を乾燥して固体電解質含有層を形成し、固体電解質含有層から離型基材を剥がすようにしてもよい。このように、離型基材から剥がされた固体電解質含有層を、自立膜として全固体二次電池の電池部材(例えば、電極や固体電解質層など)の形成に用いることもできる。
しかし、固体電解質含有層を剥がす工程を省略して電池部材の製造効率を高める観点からは、基材として、集電体または電極を用いることが好ましい。具体的には、電極合材層の調製の際には、スラリー組成物を、基材としての集電体上に塗布することが好ましい。また、固体電解質層を調製する際には、スラリー組成物を電極(正極または負極)上に塗布することが好ましい。
【0062】
[集電体]
集電体としては、電気導電性を有し、かつ、電気化学的に耐久性のある材料が用いられる。具体的には、集電体としては、例えば、鉄、銅、アルミニウム、ニッケル、ステンレス鋼、チタン、タンタル、金、白金などからなる集電体を用い得る。中でも、負極に用いる集電体としては銅箔が特に好ましい。また、正極に用いる集電体としては、アルミニウム箔が特に好ましい。なお、前記の材料は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0063】
[電極]
電極(正極および負極)としては、特に限定されないが、上述した集電体上に、電極活物質、無機固体電解質および結着材を含む電極合材層が形成された電極が挙げられる。
電極中の電極合材層に含まれる電極活物質、無機固体電解質および結着材としては、特に限定されず、既知のものを用いることができる。なお、電極中の電極合材層は、本発明の固体電解質含有層に該当するものであってもよい。
【0064】
<固体電解質含有層の形成方法>
上述した集電体、電極などの基材上に固体電解質含有層を形成する方法としては、以下の方法が挙げられる。
1)本発明のスラリー組成物を基材の表面(電極の場合は電極合材層側の表面、以下同じ)に塗布し、次いで乾燥する方法;
2)本発明のスラリー組成物に基材を浸漬後、これを乾燥する方法;および
3)本発明のスラリー組成物を離型基材上に塗布し、乾燥して固体電解質含有層を製造し、得られた固体電解質含有層を電極等の表面に転写する方法。
これらの中でも、前記1)の方法が、固体電解質含有層の層厚制御をしやすいことから特に好ましい。前記1)の方法は、詳細には、スラリー組成物を基材上に塗布する工程(塗布工程)と、基材上に塗布されたスラリー組成物を乾燥させて固体電解質含有層を形成する工程(固体電解質含有層形成工程)を含む。
【0065】
[塗布工程]
そして、塗布工程において、スラリー組成物を基材上に塗布する方法としては、特に制限は無く、例えば、ドクターブレード法、リバースロール法、ダイレクトロール法、グラビア法、エクストルージョン法、ハケ塗り法などの方法が挙げられる。
【0066】
[固体電解質含有層形成工程]
また、固体電解質含有層形成工程において、基材上のスラリー組成物を乾燥する方法としては、特に限定されず公知の方法を用いることができる。乾燥法としては、例えば、温風、熱風、低湿風による乾燥法、真空乾燥法、赤外線や電子線などの照射による乾燥法が挙げられる。
なお、固体電解質含有層が電極合材層である場合、乾燥後に、ロールプレス等を用いてプレス処理を行うことが好ましい。プレス処理を行うことで、得られる電極合材層をより一層高密度化することができる。
【0067】
(電極)
そして、本発明の全固体二次電池用スラリー組成物を用いて集電体上に電極合材層を形成してなる電極は、無機固体電解質と、バインダーと、塩基性官能基含有化合物と、電極活物質とを含み、任意に、導電材およびその他の成分からなる群より選択される少なくとも一種を更に含有する電極合材層を備えており、優れたイオン伝導性を発揮し得る。
【0068】
(固体電解質層)
また、本発明の全固体二次電池用スラリー組成物を用いて形成した固体電解質層は、無機固体電解質と、バインダーと、塩基性官能基含有化合物とを含み、任意に、その他の成分を更に含有しており、優れたイオン伝導性を発揮し得る。
【0069】
(全固体二次電池)
本発明の全固体二次電池は、通常、正極、固体電解質層および負極を有しており、正極の正極合材層、負極の負極合材層および固体電解質層の少なくとも一つが本発明の固体電解質含有層であることを特徴とする。即ち、本発明の全固体二次電池は、本発明の全固体二次電池用スラリー組成物としての全固体二次電池正極用スラリー組成物を用いて形成した正極合材層を備える正極、本発明の全固体二次電池用スラリー組成物としての全固体二次電池負極用スラリー組成物を用いて形成した負極合材層を備える負極、および、本発明の全固体二次電池用スラリー組成物としての全固体二次電池電解質層用スラリー組成物を用いて形成した固体電解質層の少なくとも一つを備えている。
そして、本発明の全固体二次電池は、本発明の固体電解質含有層を備えているので、出力特性等の電池性能に優れている。
【0070】
ここで、本発明の全固体二次電池に使用し得る、本発明の固体電解質含有層に該当しない電極合材層を備える全固体二次電池用電極としては、本発明の固体電解質含有層に該当しない電極合材層を有するものであれば特に限定されることなく、任意の全固体二次電池用電極を用いることができる。
【0071】
また、本発明の全固体二次電池に使用し得る、本発明の固体電解質含有層に該当しない固体電解質層としては、特に限定されることなく、例えば、特開2012-243476号公報、特開2013-143299号公報および特開2016-143614号公報などに記載されている固体電解質層などの任意の固体電解質層を用いることができる。
【0072】
そして、本発明の全固体二次電池は、正極と負極とを、正極の正極合材層と負極の負極合材層とが固体電解質層を介して対向するように積層し、任意に加圧して積層体を得た後、電池形状に応じて、そのままの状態で、または、巻く、折るなどして電池容器に入れ、封口することにより得ることができる。なお、必要に応じて、エキスパンドメタルや、ヒューズ、PTC素子などの過電流防止素子、リード板などを電池容器に入れ、電池内部の圧力上昇、過充放電の防止をする事もできる。電池の形状は、コイン型、ボタン型、シート型、円筒型、角形、扁平型など何れであってもよい。
【実施例】
【0073】
以下、本発明について実施例に基づき具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。なお、以下の説明において、量を表す「%」および「部」は、特に断らない限り、質量基準である。
そして、実施例および比較例において、スラリー組成物のレベリング性および固体電解質含有層のイオン伝導性は、以下の方法で評価した。
【0074】
<レベリング性>
内径30mm、高さ120mmの平底円筒型透明ガラス管を用意し、管底から測定した高さが55mm及び85mmの位置に2本の標線(以下、高さ55mmの位置の標線を「A線」と称し、高さ85mmの位置の標線を「B線」と称する。)を付した。
次に、調製したスラリー組成物を、前記ガラス管のA線まで充填し、ゴム栓をした後、25℃環境下で10分間直立状態のまま放置した。
その後、ガラス管を水平状態に倒してからスラリー組成物の液面の先端がB線を通過するまでの時間tを測定し、以下の基準でレベリング性を評価した。B線を通過するまでの時間tが短いほど、スラリー組成物の流動性が高く、塗工時のレベリング性に優れていることを示す。
A:時間tが1秒未満
B:時間tが1秒以上5秒未満
C:時間tが5秒以上10秒未満
D:時間tが10秒以上
<イオン伝導性>
調製したスラリー組成物を、10日間、アルゴン雰囲気下のグローブボックスに静置した。その後、スラリー組成物を130℃のホットプレートで乾燥させ、得られた粉体0.1gを、直径11.28mm、高さ0.5mmの円筒状に成形圧250MPaで圧粉成形し、測定サンプルを得た。
そして、得られた測定サンプルについて、常温(25℃)下、交流インピーダンス法によるLiイオン伝導度の測定を行った。なお、測定にはソーラトロン1260を用い、測定条件は、印加電圧:10mV、測定周波数域:0.01MHz~30MHzとした。
無機固体電解質を単独で圧粉成形した時のLiイオン伝導度を100%として、測定サンプルのLiイオン伝導度の大きさを下記の基準で判断した。この値が大きいほど、スラリー組成物を用いて調製した固体電解質含有層が優れたイオン伝導性を発揮し得ることを示す。
A:Liイオン伝導度が30%以上
B:Liイオン伝導度が20%以上30%未満
C:Liイオン伝導度が10%以上20%未満
D:Liイオン伝導度が10%未満
【0075】
(実施例1)
<バインダーの製造>
攪拌機付き5MPa耐圧容器に、エチルアクリレート30部、ブチルアクリレート70部、架橋剤としてのエチレングリコールジメタクリレート1部、乳化剤としてのドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム1部、イオン交換水150部、および、重合開始剤としての過硫酸カリウム0.5部を添加し、十分に攪拌した後、70℃に加温して重合を開始した。重合転化率が96%になった時点で冷却を開始し、反応を停止して、アクリル系重合体の水分散液を得た。なお、水分散液中に含まれている粒子状のアクリル系重合体の平均粒子径は、0.24μmであった。
そして、得られた水分散液に濃度10%の水酸化ナトリウム水溶液を添加し、pHを7に調整して固形分濃度が38%の水分散液を得た。
得られた水分散液100部に、キシレンを500部添加し、ロータリーエバポレーターを使用してウォーターバスの温度80℃で減圧し、溶媒交換および脱水を行った。
脱水操作により、バインダーとして粒子状のアクリル系重合体を含む、水分濃度38ppm、固形分濃度7.5%の有機溶媒分散液を得た。
<全固体二次電池用スラリー組成物の調製>
無機固体電解質としてLi2SとP2S5とからなる硫化物ガラス(Li2S/P2S5=70mol%/30mol%、個数平均粒子径:1.2μm、累積90%の粒子径:2.1μm)100部と、上記アクリル系重合体のキシレン分散液を固形分相当で1部と、塩基性官能基含有化合物としてのイソプロピルアミン0.2部とを混合した。得られた混合物に溶媒としてキシレンを加えて固形分濃度を30%に調整した後、プラネタリーミキサーで混合して、全固体二次電池用スラリー組成物を調製した。
そして、レベリング性およびイオン伝導性の評価を行った。結果を表1に示す。
【0076】
(実施例2~4)
全固体二次電池用スラリー組成物の調製時に、イソプロピルアミンの量を、それぞれ、1.5部(実施例2)、0.07部(実施例3)および4部(実施例4)に変更した以外は実施例1と同様にして、全固体二次電池用スラリー組成物を調製した。
そして、実施例1と同様にして各種評価を行った。結果を表1に示す。
【0077】
(実施例5~8)
全固体二次電池用スラリー組成物の調製時に、イソプロピルアミンに替えて、それぞれ、イソブチロニトリル(実施例5)、4-メチルイミダゾール(実施例6)、ジメチルアミン(実施例7)およびトリメチルアミン(実施例8)を用いた以外は実施例1と同様にして、全固体二次電池用スラリー組成物を調製した。
そして、実施例1と同様にして各種評価を行った。結果を表1に示す。
【0078】
(実施例9~11)
バインダーの製造時および全固体二次電池用スラリー組成物の調製時に、キシレンに替えて、それぞれ、ヘキサン(実施例9)、ジイソブチルケトン(実施例10)、n-ブチルエーテル(実施例11)を用いた以外は実施例1と同様にして、全固体二次電池用スラリー組成物を調製した。
そして、実施例1と同様にして各種評価を行った。結果を表1に示す。
【0079】
(比較例1)
全固体二次電池用スラリー組成物の調製時に、イソプロピルアミンを使用しなかった以外は実施例1と同様にして、全固体二次電池用スラリー組成物を調製した。
そして、実施例1と同様にして各種評価を行った。結果を表1に示す。
【0080】
(比較例2)
全固体二次電池用スラリー組成物の調製時に、イソプロピルアミンの量を8部に変更した以外は実施例1と同様にして、全固体二次電池用スラリー組成物を調製した。
そして、実施例1と同様にして各種評価を行った。結果を表1に示す。
【0081】
【0082】
表1より、実施例1~11の全固体二次電池用スラリー組成物は、流動性が高くて塗工時のレベリング性に優れており、且つ、イオン伝導性に優れる固体電解質含有層を形成可能であることが分かる。
一方、表1より、塩基性官能基含有化合物を含まない比較例1の全固体二次電池用スラリー組成物は、流動性が低く、塗工時のレベリング性に劣ることが分かる。また、表1より、塩基性官能基含有化合物の含有量が多い比較例2の全固体二次電池用スラリー組成物では、形成される固体電解質含有層のイオン伝導性が低下してしまうことが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0083】
本発明によれば、流動性が高くて塗工時のレベリング性に優れており、且つ、イオン伝導性に優れる固体電解質含有層を形成可能な全固体二次電池用スラリー組成物を提供することができる。
また、本発明によれば、イオン伝導性に優れる固体電解質含有層およびイオン伝導性に優れる固体電解質含有層を備える全固体二次電池が得られる。